スーパーコンピュータ「京」事後評価委員会(第2回) 議事録

1.日時

平成25年2月18日(月曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省 3階 3F1特別会議室

3.出席者

委員

有川主査,浅田委員,宇川委員,大峯委員,笠原委員,熊谷委員,辻委員,土居委員,土井委員,西島委員,平木委員

文部科学省

森本審議官,下間情報課長,林計算科学技術推進室長,村松計算科学技術推進室長補佐

4.議事録

議題に入る前に,前回(第1回)に委員から指摘のあった事項等について林計算科学技術推進室長より資料1から資料3に基づき説明。質疑応答は以下のとおり。

【西島委員】  資料3の最後のまとめのところで,共用開始を前倒しにしたので2か月短縮というふうに書いてあるが,普通に考えると,円滑な共用開始のためには十分にソフトをやって,フルでどれぐらい使えるかということをやった方が共用には好ましいと思うが,あえて2か月短縮して共用開始を前倒ししなければいけなかったという事情は何かあるのか。
【林計算科学技術推進室長】  これはもともと「京」のシステム完成が6月ということで,その間いろいろ事情を考慮して運用開始を11月というふうにしていたが,決算行政監視委員会の議論の中で,システムが完成しているのであれば,もう少し早く共用した方がいいのではないかという議論があった。そこで内容をいろいろ検討して,システムが完成したといっても,共用するまでにシステムの最終チェックや課題の選定など,そういう手続はあるけれども,なるべく前倒しをするということで2か月短縮した,こういった経緯がある。
【西島委員】  共用開始が望まれて2か月短縮したというわけではないということか。
【林計算科学技術推進室長】  共用開始が望まれて2か月短縮したということだと考える。
【西島委員】  要するに,この資料3の最後のシートにおけるソフトの「ただし」という部分について,その段階でも見切り発車した方がいいという判断をなされたということか。
【林計算科学技術推進室長】  もともと,このグランドチャレンジのアプリケーションは共用するまでの間,試験利用という形で使ってもらうということになっていた。共用開始後は,いいプログラムであれば,公募の審査を通ってやってください,そういう整理をして踏み切ったということである。
【西島委員】  了解した。
【笠原委員】  グランドチャレンジのアプリケーション性能について,今の御説明だと,全システムとして使えたのは,UT-Heartがまず全システムとして評価できた。そのときの性能値はどのぐらいまで出るのか。また,ノードを全部使えたというのはわかったが,性能自身としてどの程度までベストなアプリケーションで行っているのか。
 加えて,ナノテクノロジーの方はまだそういう性能値は出ていないのか。
【林計算科学技術推進室長】  資料3の21ページ目に性能測定結果というのが出ており,UT-Heartは27.7%で,この程度の性能が出ているということだと思う。
【笠原委員】  この性能は,パラメータ算出をして複数のプログラムを同時に動かしているわけではなくて,並列処理性能としてここまで行っていると思えばよろしいか。
【林計算科学技術推進室長】  8万2,944ノードということだと思うが,確認をさせていただく。

(1)開発主体(理化学研究所)からのヒアリング

理化学研究所より,資料4から資料5に基づき説明。質疑応答は以下のとおり。

【有川主査】
 それでは,非常に分量も多いため,幾つかの区分に分けながら議論をしていきたいと思う。まず,1の課題の概要,そして2の研究開発目標,それから3の課題の達成状況,4の研究開発の成果等,そして5の今後の展望,こういうふうに五つに大きく分けられる。それぞれについて議論していただき,その後で全般的なことについて御質問等頂きたいと思う。
【西島委員】  Linpackで10ペタというのは非常にわかりやすくて,達成されて大変よかったと思うが,HPCチャレンジの28項目の中でこの4項目が重要というのは誰が決めているのか。
【渡辺統括役】  アメリカのDARPAのHPCSというプロジェクトの中に,このプロジェクトの評価をする委員会があり,そこで4項目が重要として決められている。
【西島委員】  要するに28項目の中で4項目が特に重要であるということを機関そのものが決めているということか。
【渡辺統括役】  そうである。
【平木委員】  補足すると,当初の28項目中過半数と言ったが,全体の項目というのは,Linpack,ストリーム,配置転換,ネットワーク性能,FFTとなっているが,実は今言った大項目の中で項目数というのは大項目ごとに違っていて,過半数の項目がネットワーク関係である。要するにネットワークでとれると過半数とれてしまうので,余り代表的ではないということで4項目に収束したというふうに記憶している。
【西島委員】  了解した。
【西島委員】  資料4の10ページの概念設計のところでスカラ部の下の方に,10ペタフロップスというのがあって,ベクトル部のところに3ペタフロップスというのがあったが,こういったスカラ最大10ペタとか,ベクトル最大3ペタというのは,当初の段階からこういう数字が開示されていたのか。
 これを見ると,最大までスカラとベクトルが頑張れば13ペタフロップスもあり得るというふうになっているのか,そういうことが共通認識としてあったのか教えてほしい。
【渡辺統括役】  いろいろな競合等があったため,当初は開示していない。この10や3という数字は大体ピーク性能でこのぐらいということで,合わせて13であるが,Linpackで合わせて10ペタ達成しようということでやっているものである。
【西島委員】  というのは,アメリカと競争があるため細かいことが全然開示されなかったと思うが,例えば,トップの中でこういう話はあったのか。極端な話,ベクトルがなくてもスカラだけで10ペタフロップスはあり得るという認識はあったかどうかを聞きたい。
【渡辺統括役】  詳細設計を進める中で最終的な性能は,実装などいろいろなことが関係してくる。そのため,大体このぐらいということで,もちろん10ペタを達成する可能性もあった。これはピーク性能なので効率を考えると,実際は8ペタや9ペタ程度である。
【西島委員】  そうすると,11ページに総合科学技術会議で「複合システムには有効性が認められる」と出ている一方で,13ページの中間評価のところに「複合システムの将来的な可能性は認めるものの,一定の見直しが必要」と出ているが,この「一定の見直し」というのは具体的にどういう内容だったのか。
【渡辺統括役】  中間評価で指摘された「複合システムとしての性能は十分ではなく」というところは,両方をつなぐネットワークの性能が十分出ていないということと,もう一つは,実際の複合システムを有効に使うアプリケーションソフトで十分な評価ができていないという内容であった。
【西島委員】  お聞きしたかったのは,13ページの下のNECが不参加を表明しているということについて,不参加というものを加速したというか,それを認めるような要因がなかったのかということである。
【渡辺統括役】  この中間評価の途中の段階については,NECには知らされていないので,そういうこととは全く無関係である。
【西島委員】  「一定の見直しが必要」や「複合システムの将来的な可能性は認めるものの」という,この中間評価の結果はNECの上層部には伝わっていたのか。
【渡辺統括役】  伝わっていたかどうかは定かではないが,5月13日に突然この日にやめたということではなく,これより前にNECから大変なので何とかしてくれないかという話はあった。しかし,こちらからこの結果をNECに伝えたかどうかは,定かではない。
【西島委員】  システム評価としてアプリケーション部会で21本動いていた。それと先ほどの重点アプリケーション6本とは関係ないのか。
【渡辺統括役】  関係がある。21本の中から6本を選んだということである。
【西島委員】  了解した。
【平木委員】  まずは今の複合型のことに関連するが,理研はベクトル型なしでも目標が達成できるということは中間評価時にはわかっていたわけだが,いつ頃それがわかったのか。その後,それを余り公表せずに,複合型のまま開発を続けたのはなぜか。
【渡辺統括役】  これは詳細設計をずっと進める中で,最大構成どのぐらいできるかと。要は,ピーク性能というのはきょう体の数や実装,そういうところと関係するのと,それからコストやこのお金の中でできるのかということがあるので,詳細設計のほぼ終了ぐらいのところ,製造移行前評価というのが理研の中であったが,その時点で検討したと思う。
 最終的に目標性能を達成するためにどうしたらいいかということを理研の中で検討し,かつ富士通とも話して,大体このぐらいできそうだという話は中間評価のときもしたと思うが,そういう経緯がある。
【平木委員】  私が理解できないのは,資料3の10ページにある概念設計結果を見たときに,スカラ部とベクトル部が共有ファイルを介して結合するというふうに書いてあって,それは実は中間評価のときに出てきた比較的弱いネットワークで結合するという状態そのものだというふうに,この図を見たときに,概念評価の結果を見たときに私は思ったのだが,それならば当初から,実はLinpackを二つかけてやるということはなかなか困難であるということは容易にわかると思うが,最初は両方ともすごく太いネットワークがあってLinpackをやる予定が,途中でそのネットワークをおやめになったというような経緯なのか。
【渡辺統括役】  御承知のとおり,Linpackでネットワークの性能は次元が一つ下であり,それほど全体の性能には余り影響はないというふうに我々としては評価していた。
【平木委員】  ただ,中間評価のときにはそのことに関して質問したときに,正直言って弱いネットワークだったので,ベクトルとスカラを両方一緒にしてLinpackをやることは想定していないという話があったわけだが,その辺はいかがか。
【渡辺統括役】  そうではなくて,開発時期,それから平成23年6月ということを考えたときに,複合システムでLinpackを測定するのは時期的に難しいということで,早期にスカラの単独でやろうということが一番大きい理由である。
【平木委員】  了解した。
 話題を変えると,現在の理研のつくった資料に実はお金の話が1行も載っていないので,予算の使用効率がどうだったかということもやはり評価視点には含めたいと思う。
 特に気になっているのが,全体の予算約1,000億円のうち,大体マシンの値段が500億円ということは,残りの500億円はほかのことに使われたわけで,それが果たして予算効率としてどうだったか,これが第1点の質問である。
 もう一つは,聞くところによると,諸外国のシステムに比べて「京」は大体単価が数倍は高い。どうして日本の政府はそういう高いシステムを買うのだという批判は随分多くの方から聞いているわけだが,単価が高くなったということをどう考えるか,この2点についてお伺いしたい。
【渡辺統括役】  予算については前回の委員会で文部科学省から御説明されているが,理研の立場から言うと,このプロジェクトは,この予算の枠の中で10ペタをやれという構図である。
【平木委員】  なるほど。
【渡辺統括役】  なので,それから年度ごとに研究開発費はこれだけということを言われているので,その範囲の中でメーカーと交渉して,この研究費で開発できるかということで,特に開発費でいえば,メーカーはとてもこれはカバーできないが,メーカーとしては将来の製品化もあるため,負担してやろうということでやってきたものである。
 それからもう一つ,外国の場合は多くのプロジェクトは調達であり,研究開発は別予算である。御承知かと思うが,イリノイ大のブルーウォーターズプロジェクト,あれはDARPAのその前の段階,HPCSプロジェクトというもので開発された成果をIBMが製品化して,イリノイ大に納める,そういうシステムとなっており,開発と製造は別である。
 そういうものを全部含めた形でこのプロジェクトについて,多い,少ないという評価をすべきだと思う。
【平木委員】  第1点については了解した。これはむしろ文部科学省に尋ねたいことである。
【林計算科学技術推進室長】  前回の資料3の3ページについて,概略だけ御説明すると,全体で1,100億円のプロジェクトであり,そのうち建屋が193億円。それとグランドチャレンジのアプリケーションについて126億円ということで,それを差し引くと,コンピュータのハードに関するものは793億円ということになっている。そして,その中から「京」の製造費は490億円なので,790から490を引くと,約300億円分が開発費ということになっている。
【平木委員】  予算の配分については大体理解した。
 それで,2点目の高いということについて,外国はほかの開発費が入っていないのに対して日本は入っていると聞いたが,今の予算の配分を見ると,わりと明確に研究開発の部分と実際の製造の部分というのが分かれていて,製造の部分について400億円であり,残りが研究開発であるという御説明,それは合理的だと思うが,その値段で考えても高いと私は考えている。
【平尾機構長】  例えばアメリカでは毎年2,000億ぐらいを情報科学やコンピュータの開発などのHPC関係に使っている。そしてそのうちの半分の約1,000億がHPC関係に使っている。毎年1,000億で,日本は7年間で1,000億。実際のハードの開発で700億とか,そういう状況である。
 そういうものをつくるときの費用としては,アメリカに比べると若干高いところはあるかもしれない。しかし,国としてこういう技術を守り育てていくという観点からすると,ある程度費用がかかるということはやむを得ないのではないかと思う。
【土居委員】  ささいなことで恐縮だが,今の平尾先生の発言の数字を訂正させていただくと,当時の円ドル換算で,クリントン政権のときは大体2,200から2,300億円,それのざっと半分,1,100億円がスーパーコンピューティング。そして,それからどんどん増えていって,ざっと3,000億ぐらいまでいった。それはスーパーコンピューティングとソフトウェア関係のことが主な増え方だったのだが,そのうちの23年度がスーパーコンピューティングというか,ハイエンドコンピューティングに1,100億円ぐらいいっていたと。それが毎年ある。
 さらには,先ほどの高いとおっしゃっているのが,私が理解しているところによると,米国は主としてDOEで開発をし,その大半が要するにIBMであって,ラインはできており,調達でやってくるわけで,基本的なところができているという部分がある。我が国はそれがゼロからだったということで,ありとあらゆる点でそういうようなことが効いてきている可能性があるので,多少割高になってもやむを得ない面があるかと思う。
【辻委員】  事業仕分に関連してお尋ねしたい。事業仕分でいろいろ議論があり,結局,事業仕分の結果を受けて,開発者視点から利用者視点にという変更が行われたわけであるが,事業仕分というものがなければ,こういう利用者視点への転換というのはなかったのか。
 要するに,事業仕分というのは当初から全く想定されていなかったもので,総合科学技術会議なり,いろいろな評価のプロセスには入っていないものなので,それがもしなかった場合はどうなったのか。
【林計算科学技術推進室長】  これは資料1のプロジェクトの目標のところにもあるように,もともとハードだけの目標ではなくて,ハードをつくり,それを動かすアプリケーションもつくる。また,ハードを中核としたCOEをつくっていく。そういうことで,必ずしもハードだけの目標ではなく,それをきちんと使って,成果を出していくという目標でやっていたわけなので,事業仕分がなかったらそうならなかったのかということではなく,もともと利用者視点というのを入れ込んだプロジェクトだったというふうに理解をしていただきたい。
 ただ,やっていく中で,その当時,まずハードをつくるということが当然あったわけで,その時点でハードをつくるということが前面に出過ぎたということだと思う。事業仕分の議論の中で指摘を受けて,作るからには最高性能を目指さないといけないというのはありつつも,もう少しユーザー寄りの視点も入れて,改革をしたということだと思う。なければ利用者視点がなかったのかということに関しては,そうではないということである。
【土居委員】  前回申し上げたが,当初から関わっている人間として申し上げると,資料1の下側の枠の中,プロジェクト目標の経緯の平成17年8月にワーキンググループを走らせている。
 この親委員会の情報科学技術委員会の委員長が私で,このときのワーキンググループは矢川先生だった記憶があるが,ここは,要するにアプリケーション主体で世の中考えていったときにどうなるかということを踏まえて,10ペタフロップス超級というのが全体の結論として出てきている。先ほどの理研の説明にもあったが,当時の東京大学に在籍していた平尾先生のもとで多数のアプリケーションプログラムから典型的なものとして21本出していただき,それをもとに常にハードウェアのアーキテクチャ等々の評価をしてきたという経緯がある。したがって,当時の委員長の立場から申し上げるに,ハードをやみくもに開発し,そしてユーザーを置いてきぼりにしたということでは一切ない。
【林計算科学技術推進室長】  今,土居先生が御説明していただいた資料は,机上配付資料である参考資料集の参考資料4という形で入っている。
 これはもともと「京」プロジェクトを立ち上げたときのワーキンググループの中間報告ということになっており,ざっと見ていただければ,最初にアプリケーションを検討して,そこから10ペタフロップスというのを引き出してきたということは御理解いただけるのではないかと思う。
【有川主査】  もう一つ大事なこととして,HPCIはコンソーシアムを組んで,大学等にあるスパコン等も位置づけた格好で捉え直すということをやったということである。そういう意味で,ユーザー視点というものが明確に出てきたということもあるのだと思う。
【宇川委員】   今の点で,事業仕分のときにやはりハードの話や世界一が非常にフォーカスされてしまったと思うが,コミュニティ側からすると非常に違和感があった。当然,ユーザー側の視点というか,これをどう扱っていくのかということについては,コミュニティ側からも参加をして,いろいろな議論をしていたわけで,その点が全く事業仕分のときには認識されていなかった。そういうこともあって,コミュニティ側から事業仕分の結果に対しては非常に批判が出たのだと思う。
 ただ一方で,もともとの施策の中に,コミュニティ側が参加しつついろいろなことを決めていくということが施策として明瞭に見えていたかというと,そこは少し弱いところがあったかもしれず,それがHPCIという形で明確に施策として入ってきたというところは非常によかったのではないかと思う。
 以上から,ユーザー視点がなかったという言い方は明らかな間違いだと思う。
【辻委員】  そうすると,こういう資料が出てくると,やはり仕分の結果こういうふうに変わったというふうにこの資料は読めるわけで,もう少し誤解を招かないためにも,やっぱり事業仕分というのは何だったのか整理しておく必要があると思う。これまで普通に決まっているのとは違う別の視点を入れることの意味というのはあって,もしかすると加速した,新しい組織をつくるのに非常に一押しになったという面があったなど,そのあたりを整理しておくということは,今後の進め方を考える上でも重要なのではないかと思う。
 コミュニティから事業仕分に対して非常に反発があったということはよく知られており,言っていることが必ずしも妥当ではないということは,それもまた明らかであるが,一定の役割を果たした,一応こういうふうにしましたということで結果を出したと思うが,そのあたりは今後のためにも整理しておいた方が良いと思う。
【有川主査】  事業仕分はこのプロジェクトのみに対してなされたわけではなく,実に様々な施策に対してなされている。我々は事後評価を通じて事業仕分そのものに対しての仕分のようなことをやるのかということもあろうかと思うが,事業仕分のことについて言及されていて,その前後での変化というのもあって,全体としてはよりいいものに持っていく努力をしてきたということにはなっていると思う。しかし,余り事業仕分そのものについて大上段に振りかざした議論を,我々のこの「京」の事後評価委員会でやるべきものなのだろうか。これは当時の国の政権が行ったことであって,その枠の中で我々はやってきていたわけで,おのずから限界があると思う。
 そういう意味で言うと,あの時期に事業仕分というのが国のプロジェクトレベルに関しても行われていたが,それが一体どういう意味,あるいは意義があったのかということは,別のところで別の視点から評価なりがされるべきと思う。事後評価では技術的なところにとどめておいてもいいのではないかと思う。
【熊谷委員】  関連して,先ほどから複合システムの採用ということが議論になっているが,複合システムからスカラだけの単体になったということは,当然,最初の複合システムで目指すべきものと,実際に到達したものとの間には差があるはずだと思うが,その辺はどういうふうに整理されているのか。
【渡辺統括役】  最終的に我々がスカラ型単一にしたときに中間評価の委員の先生方からも御指摘を受け,特にベクトル型を想定していたアプリケーションが単一システムでも有効に動くのかどうかという御指摘を受けたが,影響は限定的であると。ただし,そういったアプリケーションに対してスカラ型が十分に動くような支援をすることという御指摘を頂いた。
 それに基づき,成果報告票にも記載しているが,特に地震津波のSeism3DやNICAMといったアプリケーションに対して新しいアーキテクチャで十分性能を出せるように支援し,実際そういう成果が出ている。
【熊谷委員】  視点を移すと,技術力,国際競争,そういう側面を考えたときに,ベクトル型をやらなかったために今後どういうことが想定されるのか。
 それからもう一つ,ベクトルとスカラの二つを一緒にやることでの波及効果というのが書いてあるが,その一方だけやったために,今後どういう影響を受けてくるのか。
【渡辺統括役】  特にベクトル型はNECを主体として担当しており,そこで特に設計段階で得られたいろいろな成果物がある。それは理研としても特許を含めて使う権利を持っており,その成果を将来に向けたシステムの検討に使っていくことで,特にベクトル型を伝統的に使っているのは東北大のセンターと連携しながら,将来に向けて有効活用できるか,できないかということを含めて,共同研究協約を結んで進めているところである。
【有川主査】  議論の境目が余りはっきりしなくなってきているものの,関連しているため,研究開発の成果あるいは今後の展望なども含めて議論していただきたいと思う。
 ただいまのことは前回からも指摘をされていたわけであるが,複合型でやろうとしていて,スカラで初期の目標を達成し,いろいろ成果も上がっている。一方で,複合型という初期に提案して取り組んできたものがあるわけで,これをスカラ型が一応成功したという状況で,改めてその中で再度位置づけるということも考えられると思うが,そのあたりはいかがか。
【渡辺統括役】  これは技術のトレンドというのをどういうふうに見ていくかということであるが,今回のスカラ型でも,ある種のベクトルの機能も実は入っていて,特にコンパイラや演算機の構成なども多少のベクトルの機能は入っている。
 それから,最近,GPUという,特にベクトルではなくてグラフィクスの専用チップとして開発されていたものがあり,それも科学技術計算に使っていく,そういうシステムがどんどん出てきている。その基本的なものは,ベクトルの技術がベースとなっていて,そういう多数の演算機を並べて効率よくやっていこうということがこの分野のトレンドというふうに想定されている。
 我々が「京」を開発したことによって,スカラにもそういう機能があり,「京」で開発された経験,単純にベクトル型をやめたからそういうものができなくなったというものではないと思っており,この「京」の開発経験が将来のそういう技術開発のベースとして大きな一助になると思っている。
【笠原委員】  今のスカラだけになったところの経緯について,私も委員をしていたが,この参考資料集の参考資料8の中にこの辺の経緯がある程度書かれている。
 我々が説明を受けたのは,概念設計のときから接続系が弱い,そこのシステムをつくらなければ実際の統合システム,複合システムにならない,ここはすごく指摘したところである。実際に中間評価委員会で,参考資料8のスカラ部,ベクトル部の記述にも若干あらわれているが,当初考えていたような性能がベクトル部では出ない,開発が若干遅れている,そういうことも踏まえた上で,スカラ部で一本化するのはやむを得ないだろうという結論に至ったわけである。
 そのときにやはりベクトル部というのは非常に日本として大事な技術なので,そこは継続していくべきソフトウェアもハードウェアも,今後とも別な観点から研究開発は行ってほしいというのが委員会の意見だったわけである。
【横川運用技術部門長】  今,笠原先生がおっしゃったベクトル部の性能が出ないというのは確かではなくて,ベクトル部とスカラ部を合わせた統合システムとしての性能が出ない。それから,それらをつなぐコネクト部の性能が弱い,かつその上でのアプリケーションの評価も不十分だ,そういう評価だったと思っていて,かつ,Linpackで1位をとるときのタイミングという観点で資金を集中させた方がよいのではないか,そういう議論になったと思っていた。ベクトル部の性能が設計目標どおりに出なかったという評価はなかったように記憶している。
【笠原委員】  そのときの説明の仕方で委員が受けたニュアンスというのもあるのかもしれないが,この資料の中で,ベクトルで3ペタ達成可能であるならばつくる意味はある,3ペタが達成されないならば意義は低いと書いている。当初3ペタと言っていたのが,ここまで行かないという説明を受けた一部がこの議事録に残っているのではないか。
【渡辺統括役】  決してそんなことはなくて,それは何かの間違いではないかと思う。そのとき指摘されたのは,HPCチャレンジアワードでのネットワークだったと思うが,1番をとるにはこれが足りないということ。3ペタ達成できないから駄目である等,そういう話では決してなかったと思う。
【横川運用技術部門長】  それは中間評価の最終報告書か。
【笠原委員】  そうである。参考資料8の資料2の「システム構成にかかわる作業部会委員の意見の集約」の3枚目の冒頭部分に書いてある。
 私自身も委員会に出ていて,その印象を受けて,それを記憶している。接続部だけが弱いというのは委員の皆さんは理解していて,そこはもっと頑張ってほしいと委員会から意見が出ていた。そこに対して,ネットワークを設計したら弱い,そこまでお金をかけられないとか,そういうお話もあったとは思うが,ただそれだけではなくて,我々が受けたのは,NECさんの設計が十分開発が進んでいなくて,このままいってもつくれないのではないかという印象を受けたので,片方やめて,スカラに投資するのもやむを得ないだろうというふうに認識したと思う。
【横川運用技術部門長】  資料を確認したが,もしそうであれば我々のそのときの説明が不十分だったと思う。我々の説明資料を御覧いただくとわかると思うが,3ペタを達成するという話はしたつもりでいるので。
【林計算科学技術推進室長】  同じ中間評価の報告書,4ページにシステム開発の進捗状況というのがある。これが理研側の説明をまとめたものだと思うが,このベクトル部を見ていただくと,平成19年7月から詳細設計が開始されて,平成21年8月から試作評価に移行する予定とある。最後に,平成23年3月の一部稼働時に1ペタ,平成24年3月末には3ペタ,こういう見込みだというふうになっている。
 また,同じ報告書の7ページに,システム構成再検討の要請と書いてあり,まさに再検討の要請の理由が書いてある。複合システムを採用しているが,連携計算を実施する際のスカラ部,ベクトル部間の帯域が十分にないなど,複合システムとしての性能が十分でない点が認識されると。さらに,現実的に連携計算に必要な具体的なアプリケーションを見いだすことができていなく,その設計に反映されていない点も問題だと。
 一方,スカラ部については順調に開発を進捗しており,スカラ部のみでもシステム全体としての性能目標を達成する可能性があることが認められたということで,その理由の中でもベクトル部が遅れているということは書かれていない,こういう状況であった。
 恐らく理研からいろいろな説明を受けて,先生方の議論の中ではそういうことが出てきた,そういう印象を持った先生がいたということで,先生方の意見の整理の中にはそういう部分も少し指摘が入っている,そういうことではないかと思う。
【平木委員】  私は,3ペタが達成不可能という議論はなかったというふうに記憶している。これを書いたのはどなたかわからないが,これはむしろポジティブで,きっと達成されるだろうから,それならつくる意味があるというふうに私は受けとった。また,会議の議論の雰囲気もそのような感じであったと思う。
【笠原委員】  今のところで,初めからここが弱いのはわかっていて,概念設計のときに議論を随分したはずである。こういう弱いものをつないでも意味がないので,片方に投資をすべきじゃないか。そしてもっと,13ペタフロップスなどではなく,16ペタでも17ペタでもつくった方がいいのではないかという議論もして,最終的にはこの複合システムがいいという形で,ネットワークも頑張って,トータルの複合システムとして頑張るということで始まったと思う。
 結局,ここで書かれているのは,初めから問題が指摘されていて,駄目だと言われていることを追認したのでやめましたと読めてしまうが,それは議論としておかしい気がする。
要するに,ベクトルをやめたのが,ただネットワークの性能が高められなかった,お金がないから高められない,やり方はいろいろあると思うが,基本的には努力をしなかったからできないのか,お金がないからできないのか,そういう議論と全体のシステムとして連携をして,トータルのシステムとして見えるようなソフトウェアを開発するというのも目指したわけだったが,それもできないので,この時点でやめると。
 当初から指摘されていたことをやってみたら,やっぱり言われたとおりできなかったので,ベクトルだけやめてスカラだけ残すという説明をされたとあのとき私は思わなかった。
【横川運用技術部門長】  今の御意見は少し違っていて,我々はあくまでも統合システムを目標に中間評価委員会にも説明し,確かにその時点で両方使うアプリケーションの評価が少なく,かつ,そこの性能の部分の評価が足りなかったのは事実である。
 しかし,そこがスカラ単独になった大きな理由ではなくて,見直しの指針が出された後,NEC撤退があったので,やむを得ず単独になったというのがあのときの説明だったと思っている。
【笠原委員】  今の前後関係で,先ほどの説明にもあったように,NECが撤退を表明する前の段階でベクトル部の問題点を指摘しているということで,それは我々も共通の認識で持っている。NECが撤退するからやめようという前に,その前にベクトル部はやめようという委員会での理解があって,そうしてNECが撤退を表明されたと思っている。
【渡辺統括役】  はっきりやめようという指摘は受けなかったと理解している。一定の見直しは必要であるということで,我々としてはベクトル部をできるだけ小さくして,スカラを大きくできないか等を検討した。また,ネットワークの両方をつなぐ性能については残念ながら十分な評価はできなかったので,それが十分であると思っていたが,先生方から御指摘されて実際のアプリケーションでどうなるのかということで,我々としてはやろうとして準備をしていたが,残念ながらそれができなかったので,反論ができなかったというのが真相である。
【土居委員】  今の中間評価報告書の7ページ,先ほど室長が説明されたところの7ページの下から2段目の最後,複合システムの在り方について,ベクトル部の縮小や廃止を含めて検討することが必要であるということは,こちらから申し渡してある。それを検討中にNECが撤退を表明したということである。
【渡辺統括役】  はい。だから,「スカラにすべき」という指摘は受けてはいないが・・・。
【土居委員】  「スカラにすべき」とは指摘していないが,要するに縮小や廃止を含めてということで,それを検討しなさいと。その主な理由は,要するに両方を使ってのアプリケーションがあるならばまだしも,それがないというのと,ネットワークが弱過ぎたというのが,この主原因であろうと思っている。
【渡辺統括役】  実際にこういう複合型システムというのは世の中にないので,実際のアプリケーションというのは当時もなかった。その中から実際2本選んで評価をしていて,そういう途中であったというのが事実である。
【土居委員】  世の中になかったからというより,ないことをちゃんと実現する,要するにあった方が,よりいろいろな点においてアプリケーションの開発あるいはプロダクションランにとって良いということになるだろう,ということで始まったのが複合システムだったわけである。
 それをずっと探索していただいていたが,キラーアプリというか,とにかく代表的なものとしてそういうものが出てこなかった。かつ,物理的にネットワークも弱いし,そういうこと等々を踏まえて,ベクトル部の縮小や廃止を含めて,この複合システムを検討すべしということをお願いしたわけである。
 渡辺さんがおっしゃるように,「スカラにすべき」ということは言っていない。
【有川主査】  この部分は事後評価をする上で極めて大事な部分だと思っており,様々な経緯関係をはっきりしなければいけない。そういう意味で非常に大事な議論ができたと思っているが,次回までに少し整理し,確認をして,進めていかなければならないと思う。今回,全て議論が尽くされたとは言えないため,次回にもう少し議論を続けることにしたいと思う。
【林計算科学技術推進室長】  今日の議論については,今,主査からまとめていただいたとおりであるが,もし次の会議で特にお聞きしたいこと,今日なかなか質問し切れなかったこと,今日の議論を踏まえた疑問点等があれば,今週中に事務局にお知らせいただければ資料を用意し,説明等を行いたいと思う。

(2)その他

事務局より,次回の日程(3月1日金曜日,16時から18時)を報告。
有川主査より閉会宣言

お問合せ先

研究振興局情報課計算科学技術推進室

電話番号:03-6734-4275
メールアドレス:jyohoka@mext.go.jp

(研究振興局情報課計算科学技術推進室)