平成24年9月11日(火曜日)17時~19時
文化庁 特別会議室(旧文部省庁舎5階)
小柳主査、秋山委員、天野委員、石川委員、小林委員、善甫委員、常行委員、中村委員、平尾委員、牧野委員、松尾委員、松岡委員、村上委員、室井委員、渡邉委員
森本審議官、下間情報課長、林計算科学技術推進室長、村松計算科学技術推進室長補佐
議事に先立ち、林計算科学技術推進室長より、参考資料1に基づき決算行政監視委員会の決議について説明。
林計算科学技術推進室長より、資料1に基づき説明。
また、石川委員、小林委員、常行委員、渡邉委員より、それぞれ資料2-1、資料2-2、資料2-3、資料2-4に基づき説明。内容は以下のとおり。
【小柳主査】 本日は4人の委員に各センターの状況等を説明いただくようお願いしている。その後引き続いて、基盤センター等の役割、配置の在り方、リーディングマシン及びシステムの在り方の議論をしたい。はじめに石川委員からお願いします。
【石川委員】 東大の情報基盤センターでは、この4月に富士通のFX10、「京」コンピュータの商用化版が入った。日立のSR16000は昨年から稼働しており、この2つは日立のSR11000のリプレースとして導入された。情報基盤センターは2系統のスパコンがあり、もう1系統は2008年からT2Kマシンが稼働している。2014年から2015年にかけてリプレースを考えており、トータルのメモリバンド幅として5PB/secぐらいのマシンを設置したい。設置場所は柏キャンパスの2階の計算機室の1,000平米のスペースに、最大3MW程度のものを入れるように考えている。機関連携先端HPC基盤開発・運転組織構想は、筑波大学と一緒にT2Kの次のマシンを開発し、設置、運用していこうというもの。その背景には、スパコンの設置が電力容量と設置面積に依存しているという状況があり、大規模スパコンを単独で設置運転することが困難になりつつある。
最先端スパコンの導入は、設置機関と企業の共同開発が必要になってくる。特にコモディティベースのものを調達する場合には、企業と一緒にやっていかないと最先端のものが入ってこないとように感じている。筑波大との共同開発については、コモディティ部品に基づいたハードウエア設計、システムソフトを一緒にやることを考えている。それを柏に共同で設置し、全体運転を可能にする。議論のポイントで、ネットワークを活用すれば設置場所にこだわる必要がないのではないか、という考え方もあるが、それでは全体運転はできないと考えている。
同じ場所に共同設置することにより、ネットワークとしてインターコネクトがきちんとつながり全体運転が可能になる。これにより一組織では得られない、より大きな計算資源を使ったアプリケーションが実行できるようになる。これはインターネットで接続されたマシン群とは異なる。調達したシステムは、それぞれの組織のポリシーで運用していくことになるが、その中でも全体で運用することも調整しながらやっていこうと思っている。
【小柳主査】 議論は後でまとめて行うので、引き続き小林委員から発表をお願いします。
【小林委員】 東北大学の基盤センターでは、大学に附置されている共同利用型の計算センターとして、様々なレベルの計算ニーズに対応すべく、システムの整備、運用をしてきた。全国7基盤センターでは、それぞれが競争と協調をしながら基盤の維持、高度化に取り組んできている。特徴的なのは、負担金を払えばいつでも使えるというように、研究者にとって負担の少ない利用形態をとっていることであり、特に萌芽的な研究なども積極的に掘り起こしてきたという役割もあったと思っている。また、システムを整備しながら高度利用に向けたR&Dを研究者と行い、その知見を次に生かして新しいシステムの導入に結びつけていくことで、技術の発展と人材育成にも取り組んできた。
東北大では、これまでベクトル型のSXを導入しており、ほぼ5年ごとにシステム更新をしている。計算ニーズのグラフにあるように、新しいシステムが入るとそれに見合った計算がされており、あるだけの計算資源を使っているという状況である。利用分野の内訳は、ほとんどが理学、工学系であるが、複合領域として社会システム工学、自然災害科学、エネルギー、環境分野、医療関係など幅広い分野で活用されている。また、ビッグユーザとしては、ベクトル型ということでメモリバンド幅を必要とするようなアプリケーション分野である航空、地震、大気、海洋、デバイス設計といった分野で活用されている。
ユーザ支援についても、97年ぐらいからセンタースタッフで支援体制をつくり、技術系職員と教員、ベンダの技術者等が利用者と一体になって支援してきた。ただ、スタッフの人員的な不足と、プログラムを書ける人が少なくなってきたことから、そういったところを今後は強化していく必要があると思う。もちろん大学に設置されていることを生かして、最新の環境を学生に使ってもらえるよう研究科等と連携してカリキュラム等を整備し、人材育成にもコミットすべきと考えている。センターのスタッフに対しても、教員も含めて、キャリアパスを考えて、人が集まるような仕組みが必要であるとも考えている。
リーディングマシンについては、それを下方展開していくようなことが言われるが、ハイエンドなターゲットでシステムをつくって下方展開すると使いにくいという状況もある。超並列的マシンを研究の初期段階のものに使わせることを考えたとき、その支援体制は非常に難しいものがある。中間層の支援をどうするかが基盤センターには重要な課題となっている。いろいろなセグメントに向けて使いやすいシステムを重層的に積み上げ、最終的にハイエンドにつながっていく。あるいは中間レベルのシステムで解決するような環境をつくっていければと思っている。
【小柳主査】 続いて、東大物性研の常行委員からお願いします。
【常行委員】 物性研究所は設立当初から、物性科学研究の共同利用を目指す研究所であり、大型実験装置の利用など、共同利用が研究所の大事な目的になっている。スーパーコンピュータは1995年に導入されたが、センターの設立については、当時計算物性科学分野が世界的に見て立ちおくれているという危機感があり、そのためのスパコンを中心とした学問分野の形成が重要な目的になっている。また、計算機資源を多くの物性研究者に無償で配分し、しかも、緊急性や重要度の高い研究課題は重点化するという二律背反するような2つの目的を目指している。これは設立当初から今に至るまで変わっていない。
システムはおよそ5年ごとに更新され、そのたびにメーカや内容が変わっている。例えば2005年ごろは研究室のPCクラスタで開発した計算プログラムをそのまま物性研で利用できるようにしてほしいという要望が多く、それに対応したシステムを入れてきている。年代とともに比重は変わってきているが、ベクトルとスカラーについても両システムが導入されており、計算手法により使い分けされている。
スパコンの運用については、できるだけたくさんの研究者に無償で使わせたいということと、緊急性や重要度の高い研究課題を重点化したいという2つの背反する目的がある。そのために課題クラスを分けることと、前期と後期のようになるべく申請頻度を増やすようにしている。更に、小規模でテスト用の課題クラスや緊急課題用のクラスについては随時申請を受け付けており、自由度の高い運用をしている。
課題の審査については、課題審査委員会と共同利用委員会という2段階になっており、50名程度の審査委員がメールベースで審査をしており、ピアレビューという科研費と同じような運営となっている。その採点結果をもとに、完全に公平な形で共同利用委員会の中で審査、配点、採点して、実際の計算機資源を配分する。このように透明性を確保した運営をしているので、コミュニティーから見ると非常にわかりやすく、不満も出ていない。
まとめると、物性科学という1つの分野を形成するための中心としてスパコンが役に立っている。またユーザ側に立って、ユーザが欲しいシステムを入れるというスタンスで進めているのが物性研の特徴となっている。
【小柳主査】 引き続いて海洋機構の渡邉委員よりお願いします。
【渡邉委員】 地球シミュレータの運用枠は大きくは3つあり、1つは一般公募枠で全資源量の40%を割り当てている。一般公募枠の課題は外部委員が審査をしている。2011年度の一般公募プロジェクトは29件、そのうち地球科学は18件、先進・創出分野が11件である。先進・創出分野はエネルギーやナノ、あるいは医療分野が入っている。特定プロジェクト枠30%は国等からの委託により進めるプロジェクトで、2011年度は21世紀気候変動予測革新プログラムなどが使っている。また、産業連携課のもとで行っている産業利用も含まれる。機構戦略枠の30%は機構独自のプロジェクトや国内外の共同研究などがある。産業界からの利用プロジェクト、有償利用も機構戦略枠に入っている。
地球シミュレータの利用分野については、83%が地球科学分野、先進・創出が13%、産業利用は4%となっている。次年度以降については、HPCIができたので先進・創出の公募をやめ、地球科学だけに特化するという方向性も検討している。
2011年度の運用状況については、計算している部分が95%くらい、入出力で使っている部分も入れると100%近く稼働している状況である。グラフの黄色は節電で停止した部分で、全160ノードのうち28ノードを停止しており、様子を見ながら少しずつ増やして、何とか15%の節電を達成している。この節電で年間のリソース換算で3.64%減となっている。
【小柳主査】 以上4人の委員から発表いただいたが、発表の質問等も含めて自由に議論をしていきたい。まず私から1つ。各センターの運営方針等は伺ったが、成果の創出についてはどのように進めているのか、その考え方を教えてほしい。
【小林委員】 基本的には申請ベースでスパコンを提供しているが、使いたいときに使ってもらうというモデルと、課題をセンター側で公募して、それに対して高速化支援や、あるいは負担金の低減をおこなっているものもある。成果という意味では、共同研究枠でやっているものについては十分精査し、評価もやっているが、一般利用に関しては、成果として論文公表したものを後で報告してもらう形になっている。
【石川委員】 東大は若手研究者向けに別途枠をつくって、講習会や負担金の免除といった措置をしている。これは多分、ほかのセンターでもやっていることだと思う。また、旧7帝大のセンターに東工大を加えた8センターで共同利用・共同研究拠点を3年前からやっており、そこにではセンターの教員とユーザとが一緒に共同研究をするという取組をしている。以前は、基本的に基盤センター群は、単にマシンリソースをサービスするという立場だったと思うが、この数年はそれを改革していっている状況だと認識している。
【常行委員】 物性研の資料の最後のページに過去の運用実績をまとめてある。物性研のシステムは150~200弱ぐらいのプロジェクト数、人数にすると毎年500名ぐらいの登録者がいて、関連論文は毎年500前後になる。報告書は毎年英文でまとめていて、その中で、主にサイエンティフィックな物性科学分野の成果になるが、新しい方法論、世界初というのもその中から出てきている。
【渡邉委員】 一般公募枠に関しては、論文を投稿した場合にそれを登録してもらうようにしている。また、利用報告会や英文のアニュアルレポートもつくっている。特定プロジェクトについては、文部科学省の事業なので、文部科学省に報告する義務を負っている。機構戦略枠のうち有償利用は報告の必要はないが、そのほかのプロジェクトに関しては、通常、1回の機構のプロジェクトに対しては3年間利用を認めており、1年半で中間報告、3年目で最終報告をし、更に継続するかどうかを審査する仕組みにしている。
【松岡委員】 東工大でも、基本的に石川先生、小林先生のおっしゃったようなことは実施しており、また、ほかのセンターでもやられていることですが、我々がグランドチャレンジ制と呼んでいる大規模利用枠についても、申請ベースでできるようになっている。それが例えば、去年、ゴードンベル賞をとったりしている。
企業利用に関してもサポートするだけではなく、多くの場合は報告義務等を課しており、例えば9月20日には企業利用のシンポジウムを行う予定となっている。それ以外にも企業や学会と一緒にワークショップ、シンポジウム等を開催することにより、スパコンで得られる成果を学内外に広めることをしている。また、センター独自のジャーナルを年3、4回出しており、最新の成果をわかりやすく掲載している。
【平尾委員】 人材育成が重要だと思う。特に研究の方はトップダウン的な研究とボトムアップ的な研究がある。あるいは産業利用のように、企業の利益を追求するための研究もあると思う。ボトムアップ的な研究は大学で多くの研究者がやっているし、トップダウン的な研究、あるいは社会としてどうしても解決しないといけない課題に対しては、国や独立行政法人などが担っているのが現状と思う。
ところが、人材育成をやっているのは大学しかなく、情報基盤センターにとっても人材育成は重要なミッションだと思う。とはいえ、これまでのように個々のセンターでやってきた努力では追いつかなくなってきているのが現状ではないかという気がしており、全国的なネットワークで新しいプログラムをするなど、真剣に考えないといけないと思っている。もちろん神戸の理化学研究所でも、積極的に貢献したいと思っている。
【牧野委員】 少し違う観点で、ここに集まっている委員は一番若い人でも30年近く計算機を使っているが、その30年間に大計センターの意義は大きく変わったと思う。私が学部4年生のときの卒業研究の計算は大計センターを使ってやったが、そのころの使い方と今の使い方は全く違う。それをそのまま延長していいのかどうかは、ちゃんと考える必要があると思う。
それは物性研の計算センターをつくった経緯みたいなものもあり、大計で計算ができなくなったから、各研究所が計算機を持たざるを得なくなったという面がある。それは天文台でもそうですし、KEKは、もともと大計でできるような計算より大規模な計算をしたかったということもある。つまり、40年ぐらい前に大計をつくったときの意義は、日本のアカデミアな計算需要を大計でサポートするということだと思うが、その機能はもう失われており、それを前提に機能を考え直さないといけないと思う。それを明確にしないまま、大計の在り方について議論しているような気がする。基本的には、アカデミアの大半の計算需要は、もう大計ではないところで行われている。
【小柳主査】 昔は計算機といえば大計センターしかなかった。現在はパソコンから部門のサーバまでいろいろある。環境が変わり、そういう意味でセンターの役割が変わっている。先ほど石川さんの話もあったように、単に応募ベースでやるというだけではないというのも、それに対応する動きかと思う。
【石川委員】 いまでも東大は多くの大規模ユーザを抱えており、役割を果たしていると思っている。ただ単に、それだけでは足りないということだと思う。もちろん、同じような規模のものを基盤センターが提供してもしようがないと思っており、これが東大と筑波大との話につながっている。
【松岡委員】 今は大計センターでなく、情報基盤センターになっているのが1つのポイントで、大計センターはある意味でエクスクルーシブな感じがした。例えば東工大のTSUBAMEは学部生から全員アカウントを与えている。これは、普通のパソコンではできないような大規模並列計算を使いこなす人材を、学部生のときから育成していくという意味がある。もう一つは、例えばプログラミングコンテストのように、様々な学部生や高校生に大規模環境に慣れ親しんでもらうような教育活動も行っている。このような活動は大計センターであまりなかったことで、教育的な役割についても様々な活動をやってきている。
平尾先生の指摘でもあったように、どうしてそれが不足しているかというと、そのようなファンドがない。例えば東大、筑波大、東工大でやっているプログラミングコンテストも、ほとんど手弁当でやっている。きちんとしたプログラムにならないと、我々がやっているだけでは限界があると思う。
【小柳主査】 では、センターにおける資源配分の問題についての意見はどうか。
【松岡委員】 議論のポイントに、電力、スペースの制限から運用するスパコンが小粒になっているという指摘があるが、それは全く違うと思う。これはどういう定量的なメトリックで出てきたのか。電力でコンストレインされているのは全くそのとおりだが、歴史的な経緯を見ても、我々の基盤センターが運用しているスパコンが、例えばナショナルフラッグシップマシンと比べて、相対的に小粒になっているという事実はない。
東工大だけではなく、例えば最初のフラッグシップマシンであるNWTの計算総量に全国のマシンが追いつくのは1年半後だった。NWTを超えるマシンが出たのは3年半後。また、地球シミュレータの総量にほかの基盤センター等のケイパビリティが増したのは2年後で、地球シミュレータを抜くマシンができたのはTSUBAME1で、これは4年後だった。「京」のケイパビリティは大体10ペタで、現在基盤センターを合わせると7ペタぐらい、九大か東工大がアップグレードすると、大体マッチするのは2年後になる。筑波、東大のプロジェクト、東工大のTSUBAME3が「京」より速くなるのはおそらく2015年で、やはり4年後になる。
【石川委員】 小粒という意味も、言い方が少し違うかもしれないが、私の資料に書いたように、予算よりも電力容量や設置面積の方に依存してしまっている。単にマシンの購入という意味で電力容量や設置面積を考えなければもっと大規模なマシンが入れられるが、制限は予算ではなくなっているということを言っている。その結果として、世界的に見たときに提供しているマシンが相対的に低くなっているということを言っているのだと思う。
【松岡委員】 それは全く賛成で、指摘したいのは定量的なデータを持って言わないと、基盤センターが開発、設置、運用しているマシンがフラッグシップに対して相対的に能力がどんどん低くなっているように思われてしまうのを危惧している。
【牧野委員】 これはナショナルフラッグシップセンターに対しては書いていない。むしろ、世界情勢に比較してという観点で理解したほうがいいのではないか。そうだとすると、「京」で若干ましになったが、ここ10年ぐらいの間の地盤沈下はかなり大きくある。日本の大計及びフラッグシップセンターを含むセンターの国際的な沈滞化というのはあり、その原因は電力やスペースの制限ではない。
【松岡委員】 全くそのとおりで、相対的な地位低下があったが、それは電力ではなく、単にストラテジーが間違っていただけだと思う。
【小柳主査】 これは地球シミュレータ以降大学等センターのコンピュータの地位が低下したという話と、電力や設置面積が制限になっているという2つの話が混在しているので、問題点を明確にするように書き直したいと思う。
【松岡委員】 このような意見があったとすれば、定量的にメトリックを持って言わないと危険なので、具体的なデータで議論することが必要だと思う。
【小林委員】 粒のはかり方がどういう尺度なのか、そこははっきりしてほしい。例えばLinpackの性能ベースで比較しているのか、サイエンスの中での実効性能を見て大粒、小粒を議論しているのか。
【村上委員】 今の議論はセンターの役割をどう定義するかが変わってきていると思う。牧野先生がご指摘のとおり、昔はセンターでプログラムの開発からシミュレーション、解析まで全部やっていたが、今はそれぞれの仕事のワークフローの中で、それぞれのタスクに適したマシンを配置し、それらがネットワークでつながって使うような状況になっている。センターのマシンは、そのワークフローのどこに位置すべきかでミッションが変わってくると思う。そこがセンターで全てやっていた時代とは違ってきている。
ソルバー部分、要するにFlopsがセンターの重要な役割であれば性能を高める。九大のセンター長とも議論しているのは、「京」が運用をはじめ、ここで議論されているように全国的な配置が今後どうなっていくかを考えたときに、例えばビジュアライゼーションや、シミュレーション結果に対するビッグデータ的なアプローチでのアナリシス、あるいはモデリングといった、よりユーザに近いところにお金とセンターのリソースを充てるといったように、センターのミッションを変えていくのがいいのではないかという話をしている。今後の全国的な状況を見ながら、それぞれのセンターとしてどのように自分たちのミッションを提起するか、そのような時代になってきていると思う。
【平尾委員】 これまでは情報基盤センターが我が国のHPCをリードしてきており、そのミッションがずっと引き継がれてきたが、全体的に見ると計算資源が足りなくなってきている。これはどの分野を見ても同じであり、そのため、研究所や独法が独自のスパコンを導入している。今は、情報基盤センターのミッションがソルバーでやるのか、あるいはもっと多くのユーザのためにこたえるのかということが、個々のセンターで必ずしも明確になっていないのではないかと思う。我が国として計算資源がどれだけ必要なのかを割り出し、役割分担をして国全体でこの分野を振興させるといったことが問われていると思う。
【村上委員】 例えば私がセンター長だった8年ぐらい前にやったことですが、近隣大学で持てなくなったファンクションを九大で受け持つことをやった。それぞれの近隣大学は、ソルバー的なミッションを持たず、九大はお金をもらって、それらの大学に計算パワーを提供した。今度は全国レベルでそのような話が起こってくるかもしれない。
平尾先生のおっしゃっているとおりで、それぞれのセンターがいろいろと模索しながら独自のミッションを立てており、全体的なグランドデザインがないところで、外から見るとばらばらに見える気がする。
【小柳主査】 東北大学ではベクトルマシンを使って、特徴のあるユーザ層をサポートしている。その意味で、センターごとに少し性格の違うマシンを設置するというようなことも考えられるのではないか。ネットワークもある程度発展していると思うが、それについてはどうか。
【小林委員】 現状でも、各センターはそれぞれ特徴を生かしたシステムを導入しており、7センターが協調しながら、しかも競争しながら順次更新することで、どこかは最新のものが使えるような、非常にいい形になっていると思う。東北大の場合は、更に渡邉先生と連携して、我々のジョブを地球シミュレータで受けるような形にも取り組んでいる。現時点でもそれぞれ特徴を生かし、ネットワーク型拠点という形で活動している。
【石川委員】 東大の基盤センターはMPP路線であり、全てをFX10にすることはできなかったが、今後もMPPに転換していく予定でいる。また、大規模のジョブを動かすユーザを中心に考えているが、一方で、それなりに小さいジョブを動かしたいというユーザもいるので、結局のところ、両方をサポートするようにならざるを得ない。
また、次のポストペタ、あるいはエクサに向けて、ユーザにリソースを提供していくことも必要だと思っている。筑波大との連携も、より大きなマシンを運用できるような体制をつくるということで考えている。
【小柳主査】 先ほど石川さんから、スパコンを2大学で共同設置するという話があったが、センターを特徴づけるとか、地理的なバランスなどについての意見はどうか。
【石川委員】 議論のポイントの11ページの2つ目について、ここに書いてあることと私が酌み取ったのは少し違っている。つまり、10ペタを1つではなく、1ペタを10台という考えは否定するということになる。そのロジックで言うと筑波大は筑波大、東大は東大でマシンを置いて使えばいいということになるが、そうではなく、同じところに置いて全体を運用できるようなシステムとして構築した上で、あるときはそれぞれが運用し、また協調しても運用できるようにするということである。
【秋山委員】 先ほどの1ペタが10台という議論は、人によって前提が違う。私は1ペタが10台の方が好きだが、それは1カ所に置くべきだと思っている。歴史的な背景もあるので、7センターがそれぞれ独自性を出すのはよいと思うが、昨今のHPC技術は非常に複雑になっており、下の世代へのバトンタッチも完全に理想的と言える状況ではないと思う。その意味では、ばらばらに拠点ができるよりは、東大と筑波大のような機関連携の形で1カ所に集まるような場所ができるのはよい形だと思う。
【松岡委員】 今の秋山先生の話を補足すると、現在、世界一はセコイアですが、セコイアの本来の目的は1ペタ掛ける25台のマシンであり、これはリバモアが公言している。全系計算はできるが、全系計算をやるマシンではない。
大計センターの役割及びコンソリデーションという意味では、海外でもそうなっていて、Oak
Ridgeなどでは、省庁が違っても同じ場所にマシンをホスティングしている。これ以外でもいろいろなマシンを大きいなデータセンターの中に置き、場合によってはつないで、データ転送が楽だったり、全系計算ができるとかフレキシビリティーをもたせることが行われている。欧州でも同様である。人の地域性はあるが、マシンの地域性にこだわるのは、今のネットワーク時代ではあまり意味がないのではないかと思う。
【平尾委員】 私自身はナショナルリーダーシップシステムは、複数台持つべきだと思っている。現在、神戸に1台あるが、地球シミュレータから考えると10年たってやっと更新された感じになる。この間、いろいろなストラテジーの問題があって遅れたということはあるが、今の技術革新からいくと4、5年で更新していくことが必要で、開発まで考えると、神戸の他にもう1カ所、少しフェーズをずらして、同じような機能を持つようなセンターがあると、日本全体として有効に使うことができると思う。
【小柳主査】 集約という話とある程度地域的に分散するという話の両方があるが、この点に関してどうか。
【渡邉委員】 ネットワークがあるから設置場所にこだわる必要がないという意見については、実際に大規模なシミュレーションをすると、出てくるデータが膨大であり、それを処理するのにネットワーク越しでは無理がある。地球シミュレータの利用者もデバッグはリモートでできるが、実際のジョブで大量のデータが出始めると、とてもじゃないけどデータは転送できない。現実問題として数十ギガバイトのデータを送るのが限界である。
【小柳主査】 データの転送は重要な問題ですが、では、どの程度近くに分散して置くかはなかなか難しい問題がある。
【牧野委員】 現状でネットワーク越しにデータを運べないのは、確かにそのとおりで、実際にファイル転送をかけると10MB/sくらいしか出ないのが現状だろう。ただし、ダークファイバを2,3本張って、まともなソフトウエアを動かせば10GB/sぐらいは出るはずなので、実際上は10GB/sで遠距離転送するというのは技術的にできないことではない。
【石川委員】 実際にダークファイバを東京から関西までひくと、その費用をどこから捻出するか。結局、そういったところに行き着く。確かに原理的にできるのは、だれでもわかっているが、そこに予算をつけられないのが問題なんだと思う。
【松岡委員】 だから、なるべく近くに複数のマシンを置いたほうがいいということになる。地球シミュレータセンターのフロアでハウジングしてもらえるなら、そこにほかの機関のマシンを置かせてもらえばいい。そのようなストラテジーをOak Ridgeはやっているわけで、1カ所で1台のマシンに集中してしまうと、平尾先生がご指摘のようにエボリューションがなくなるが、数カ所に大きなマシンをおけばいい。ヨーロッパでもいわゆるPRACEのTier-0センターは全部で4カ所、5カ所ある。ファシリティーとしての置き場所と、マシンとしての置き場所、それをストラテジックに考えたほうがいいと思う。
【村上委員】 物理的なマシンの配置と混同して議論されるのはオペレーションとしての集中化、統合化であり、プロジェクトの選定もマシンのオペレーションと密接に関係している。マシンの物理的な配置の集中化と、それ以外のソフト的なところは切り離して話したほうがいい。東大と筑波大についても、物理的には1カ所でも、オペレーションは別々であり、必要に応じて連携するというのは、1つのやり方としてはあると思う。全国的に何カ所かに集中配置したとしても、オペレーションに関してはユーザコミュニティーの意見を反映するようなことがソフト的には必要だと思う。
【牧野委員】 話が大計の資源に偏っているが、ユーザから見える資源としては、利用負担金がない国研や大学の附置研のマシンの方が圧倒的に多い。例えば、私の共同研究者が大きな計算をしようと思ったら、ただで使えるところを探すことになる。そうすると、まずは国立天文台、次は、筑波や物性研を使わせてもらうのは天文学の分野では難しいので、KEKなどに応募することになると思う。ユーザから見てどのマシンをみんなが使っているかという実態を把握して話さないと、現実とギャップが大きくなるような気がする。
【小柳主査】 資料11ページの最後の丸にある、ネットワークで分散した1つの計算機については、現実的ではないという話のようだがその理解でよいか。むしろ、ある程度の集中したほうが将来のビジョンとして現実的であるという意見が多いと思う。
【松岡委員】 物理的な集中、分散と利用環境としての統合性がよく混同される。例えば現実のインターネットを見ても、端末は分散しているが、どんどんクラウドデータセンターに集約化されている。今の基盤センターの使い勝手はばらばらであり、そういうところはより統合化していく必要があると思う。HPCIでは使い方、アカウントのとり方など、なるべく共通化しようとしており、将来的なビジョンとしては、同じ場所にマシンを置けばサポートまで共通できるとか、マシンのメンテナンスもある程度共通化できるとか、そのような共通の集約化はできていくと思う。HPCIは、それに初めて先鞭をつけたと思う。
【小柳主査】 先ほどからいろいろ議論のある、いわゆるヨーロッパで言うTier-0クラスのマシンというのは、例えば日本という規模を考えたときにどのくらいのことを考えられると思うか。
【石川委員】 現在、理研の計算科学研究機構の計算機室がスペースも、供給できる電力容量も一番大きい。今の経済状況からすると、同じようなものをもう1つ作るのは厳しいと思う。一方、リプレースを考えると2つ置くというのは確かに必要だと思う。
理想としては、同じようなものをどこかに設置して、うまくたすきで運用していくのが麗しい姿だと思う。ただ、予算を確保できるかどうかが一番大きな問題だと思う。結局、需要といっても、その予算を工面できるかというと現実的にはすごく厳しく、理想と現実の乖離が大きいと思う。
【松岡委員】 そうすると、現有設備を再利用できるかということと、例えば商用センターにハウジングしてもらうかということになる。現有設備でどのくらいキャパシティーがあって、スペース、電源にどのくらい空きがあるのか。国として設備をどのくらい持っているかを把握する必要がある。それが足りなければ、つくるか借りるしかない。
【石川委員】 震災の後に調べたところ、基本的に商用センターでハウジングというのはペイせず、長期的に見たときにはつくったほうがいいという話になった。
【松岡委員】 それを含めて定量化する必要があると思う。世界のスパコンセンターでも、実際、商用データセンターでハウジングしているところは、まだほとんどないので、それはなぜかということを含めて、ストラテジーを検討する必要がある。
【平尾委員】 方針として複数台のナショナルリーダーシップシステムを置くということになれば、それがどういう形が一番いいのかというのは、その後検討すればいい。方針を出すことが重要で、あとはいろいろ調査をして、どういう形が我が国としてできるのか、あるいは一番理想的なのかということを考えていったらいいと思う。
【中村委員】 日本全体の戦略という意味では、各情報基盤センターや大学に任せておいてはだめだと思う。何らかの形で日本全体の戦略をつくる場所がなければいけない。それは、具体的にもうどういうところがやるかを考えるべきではないか。
【小柳主査】 HPCIは、そういう機能も持っていると理解している。
【村上委員】 今のセンターのやり方というシナリオでだめかどうかはまだわからないので、両方シミュレーションしてみる必要があると思う。一つは現有設備、組織を使って、国全体としてのインフラをどうつくっていくかというシナリオ。それとは別に、神戸や柏といったクラスの大規模な、ハウジング可能なスペースを別途用意して、そこに集約する、センターの役割を変えていくというようなシナリオ。それぞれのシナリオについて、コストと効果を定量的にシミュレーションして議論する必要かあると思う。もちろん、第3のシナリオもあるかもしれない。
【小柳主査】 今まで出た意見を、事務局を中心にまとめてみたい。前回はリーディングマシンについての議論をしたが、それについて意見があれば議論したいと思う。
【松岡委員】 直接これらの項目ではないが、ビッグデータについては、先ほども話にあったように、エクサマシン等の大きいマシンをつくるときには、データが近くにないと意味がないという話もあり、逆にエクサバイト以上のデータ処理はスパコン並みの能力がないと処理できない。
このような知見のもとに、DOEもヨーロッパもビッグデータ、特にサイエンティフィックビッグデータをどう扱うのか、そのために次世代スパコンが必要になるということが前面にでてきている。データドリブンなサイエンスに関して、こういうマシンが必要とか、そのときアーキテクチャがどうなるかということが、大規模マシンをつくるときの1つの目標設定としてあるべきだと思う。
【小柳主査】 ビッグデータの話は重要であり、ここでも言及すべきポイントだと思う。あわせて、次のシステムの在り方についても議論をしたい。前回は専用、汎用という言葉はあまり適切でないという議論があった。
【牧野委員】 電力という観点からすると、倍精度演算は単精度に比べて約5倍電気を消費する。Linpackは倍精度でやることが規定としてあるが、実際の問題としては単精度で済むのなら、それだけ大きな計算ができる。Linpackが目標となると、そういうことに資源を投入しづらくなる。単精度よりも更に落とすのもあり得て、QCDでも反復の最初の方は1/4精度を使いたいという話が出ている。その意味で、Linpack倍精度でピークというのは、マシンの開発の方向をゆがめる可能性があるので、明確にLinpack倍精度だけじゃないということは書いてほしいと思う。
【小柳主査】 逆に、倍精度では足りないという分野もある。
【牧野委員】 もちろんです。だから、柔軟に4倍精度もできるアーキテクチャになっていなければならない。
【石川委員】 前回出ていないのでよくわからないが、FSでは次のリーディングマシンをどうするかという話をしている。アプリチームではサイエンスドリブンでということでロードマップをつくり、ベンチマークも提供するという話だと理解しているが、なぜここでLinpackの話がこんなに大きくでてきているのか。この話はもう結論が出たと思っていた。
【小柳主査】 Linpackを薄めようと議論したので、たくさん出ている。Linpackは相対化しなければいけないけども、無視はできないだろうというのが前回の議論である。
【石川委員】 実際のところ、サイエンスドリブンといっても分野も多岐にわたっており、必要とする性能も違っているのでとても難しい。それをどうまとめていくかを議論しないといけないと思う。
【平尾委員】 Linpackももちろん1つのベンチマークであるが、ベンチマークは幾つかあるわけで、1つにこだわることはない。現在FSでアプリチームが検討しているので、その結論を待ってもいいのではないかと思う。
【小柳主査】 Linpackで世界一が唯一の目標ではないというのはそのとおりであり、Linpackをどう位置付けるべきかという議論をしたということである。
【常行委員】 リーディングマシンを開発する意味について、リーディングマシンは新しいシステムを開発することを重要な目標としているが、一方、情報基盤センターはそれだけでいいのか、それとももう少し違う目的があるのか。その辺を考えたほうがいいと思う。
【小柳主査】 つまり、研究開発が必要なマシンと、サービス的な要素の強いマシンをどう位置付けるかということで、これも重要な問題だと思う。例えばTSUBAMEなどは、それをある程度両立させたというように理解している。
【松岡委員】 もっと大所高所から見ると、我々の全ての基盤というのは、どのような国民の期待を得るかということが一番大きいと思う。情報基盤センターも税金でサポートされている以上、マシンを買ってきて置けばいいという議論はあり得ないと思う。もし単なるサービスだったら民間に任せればいい。情報基盤センターのミッションは、リーディングエッジをナショナルフラッグシップとは別な形で実現していくということにあると思う。例えばT2K、TSUBAME、PACSも、サービスだけやればいいというのは、情報基盤センターの役割ではないと思う。
【小林委員】 そのような視点で我々は活動しており、運用しながら新しい技術をベンダと一緒に開発し、リーディングマシンの要素技術になるような仕組みを次に生かすというのは、今も昔も基盤センターの役割として重要だと思っている。大学と国産メーカがくっついていると言われてしまうところもあるが、技術の発展と継承という意味では、重要な役割を担っていると思う。
【松岡委員】 技術というのは、ハードウエアだけではなくソフトウエアも含めてである。アーキテクチャに合った新しいアルゴリズムやソルバーなどは、情報基盤センターでかなりアグレッシブにやっていると認識している。
【小林委員】 昔は、そこで予算増とか展開があったが、最近は現状維持、あるいは1%削減になり、発展のしようがないという状況がある。そういった仕組みを、ぜひ文科省で強化していただくよう期待したい。
【松岡委員】 例えば石川先生も小林先生も私も、研究者としての帽子もかぶっていて、情報基盤センターで競争的資金をとっているケースが昔と比べて圧倒的に増えているのではないかと思う。調査しないとわからないが、大計センターがいろいろな競争的資金をとって、次世代スパコンのソフトウエア、ハードウエアを開発していくということは、昔はそんなにはなかったと思う。そういう意味で、競争的資金で研究の部分は補えていても、基盤のお金が減るといいマシンが入らない、ということになるのが現実ではないかと思う。
【小柳主査】 まだ議論は尽きないかと思うが、次回は、次の調査項目である計算科学技術に係る研究開発の方向性について議論を深めていきたいと思う。
最後に日米協力の話について、石川委員から報告をお願いします。
【石川委員】 7月にワシントンD.C.で日米科学技術の実務者レベル会議があり、林室長と私でHPCI関係の話をしてきた。システムソフトウエアの国際協力で合意し、その具体的なアクションとしてSC12のBOFをやろうということで先週末にアクセプトされた。そこでは国際協力としてコラボレーションの仕方だとか、標準化も視野に入れて、コミュニティーの人たちと議論していくことになっている。また、来年6月のISCでワークショップをやりたいという話をしている。
林計算科学技術推進室長より、参考資料2、参考資料3、及び参考資料4に基づき説明。
村松計算科学技術推進室長補佐より、次回の日程(10月10日水曜日、17時から19時)を報告。
小柳主査より閉会発言
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