資料3-1 産業利用アプリケーション検討サブワーキンググループ報告書(案)要約

第1章 スーパーコンピュータの産業利用の位置付け

  • 国全体として産業利用を推進する理由は,国際的な産業競争力の強化,スーパーコンピューティング技術の競争力の強化,将来的な課題の明確を通した大学等における研究のさらなる進展,が期待されること。
  • 産業界では,基本的にその時代の世界トップの計算機の能力の1/10から1/100程度の能力(リソース)を用いた計算に対する実証研究が行われ,実証研究が成功した場合には,数年後の実用化を目指した実用化研究が実施される。

第2章 スーパーコンピュータの産業利用の現状と将来展望

  • 現在,産業界では市販ソフトウェアが最も多く利用されており,64コア程度の並列計算によるバルクジョブ的な利用が多い。今後,並列規模は大きくなるが,この傾向は将来的にも続くものと思われる。一方で,実証研究のためには,アカデミアの協力の下で,国プロ開発アプリケーションやオープンソース・ソフトウェアを利用している。
  • エクサスケール時代(2020年頃)には,設計最適解を探索するためのバルクジョブ的な利用が進展すること,大規模並列計算により高精度計算や高速化された計算が実行されること,マルチフィジックス・マルチスケール現象を解析するような高度なシミュレーションが実用化あるいは実証研究フェーズにあることが予想される。

第3章 産業界で利用されるアプリケーションの将来展望

3.1 技術的な課題と将来動向

  • エクサスケール時代のスーパーコンピュータは大規模並列化とともに,ノード(CPU)のメニーコア化が進み,相対的にメモリ性能は悪化すると考えられるため,向き・不向きの観点から,アプリケーションごとにある程度の選択が行われていくことになる。また,大規模並列化シミュレーションの実行のためには,アカデミアのサポートが必要である。
  • エクサスケール時代のアプリケーションには,高度なシミュレーション,プリ・ポスト処理機能,ユーザインタフェース,大規模データの可視化機能の整備への要望が更に強まるものと予想される。

3.2 市販ソフトウェアの将来展望

  • エクサスケール時代には中規模並列計算(数百~数千コア)までをカバーすると予想されるが,大規模並列化の問題やライセンスの問題,ソフトウェアの提供方法の問題を解決する必要がある。ユーザのニーズに応えて上記問題が解決されることも期待されるが,そのスピードを上げるための取組が必要となる。

3.3 国プロ開発アプリケーションの将来展望

  • 市販ソフトウェアと差別化しつつ先導するべく,市販ソフトウェアにはない画期的な機能,先導的な機能(例えば大規模並列化)を優先的に研究開発し,独自性をもたせることが必須となるが,乗換えコストの問題で容易には乗り換えないとの声もある。
  • その時代のリーディングマシンへの移植には,ハードウェアに詳しい専門的な技術者のサポートが必要となる。また,ソフトウェアを使うユーザの技術向上のためのサポートも必要となる。

3.4 オープンソース・ソフトウェアの将来展望

  • 目的に合わせたカスタマイズが自由であり,多くの場合無償で利用可能なので,市販ソフトウェアの代替としての利用が期待されているが,サポート不足,堅ろう性の低さ,乗換えコスト等の問題で,まだ容易に乗り換えることができるものとはなっていない。
  • 開発者や有志による自由なカスタマイズが特徴であることから,その開発や普及を国が主導することは難しいことに留意が必要である。

第4章 アプリケーションの観点からのスーパーコンピュータ利用の推進

4.1 市販ソフトウェアと国プロアプリ等との関係

  • 市販ソフトウェアは直近の産業界のニーズ(実用フェーズのニーズ)を重視して開発を進めるため,実用フェーズ(中規模並列計算)は市販ソフトウェアがカバーし,実証研究フェーズ(大規模並列計算・連成解析)は国プロアプリ等がカバーするという役割分担を踏まえ,国プロ開発アプリケーションは,その時代のトップレベルのスーパーコンピュータを利用した実証研究に資する,画期的・先導的なアプリケーションとするべきである。

4.2 市販ソフトウェアに対する支援

  • 国やハードウェアベンダは,テストベッド(アプリケーションの性能測定や移植ができる環境)を設け,希望するアプリケーション開発者やそのアプリケーションを利用するユーザがそれを利用できる環境を整える必要がある。また,アプリケーションの高度化を目指して移植を希望する者に対しては,国やベンダが協力した技術的支援体制も必要である。
  • 技術的に産業利用アプリケーションの大規模並列化が進展したとしても,それに対応したライセンス形態が定着している状況とはいえず,リーディングマシンによる大規模並列化された実証計算では,ばく大なライセンス料が必要になると懸念されるが,開発コストを軽減することや大規模並列化アプリケーションの市場を拡大することにより,中長期的にライセンス料の問題は解決されることが期待される。

4.3 国プロアプリ等の普及促進

  • 国プロ開発アプリケーションについて,画期的・先導的な機能を重視して計画的な開発を行うとともに,使いやすくするための機能の導入,ユーザサポート体制の構築,継続的な維持・管理等の利用支援で,その普及を加速する必要がある。その際,国プロ開発アプリケーションの商用化も含めて考えていく必要がある。
  • オープンソース・ソフトウェアについても,画期的・先導的な機能を有するものに対しては,国やユーザ等が国プロ開発アプリケーションと同様の支援を検討する必要がある。
  • 産業利用の更なる促進のためには,例えば開発者を主体として,ユーザを含めたコミュニティ(ユーザと開発者が情報共有できる場,ユーザ同士が情報交換できる場)を形成し,両者が一体となって利用しているアプリケーションの充実を図ることが重要である。また,その支援方策を検討する必要がある。

4.4 産業利用アプリケーションの中長期的高度化

  • 国は,その時代の世界トップの計算機を活用して,次世代の実証研究に利用されるアプリケーションに資する基礎基盤的な研究開発を推進し,その成果を普及するとともに,画期的・先導的な機能を持続的に生み出すため,アプリケーションの基礎となる理論(モデル,解法)を精緻化する研究や人材育成を支援していく必要がある。

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