資料3 調査・検討課題に対する議論の整理(案)

1.国内外の動向

【調査・検討課題】

○国内外における計算科学技術に係る状況、利用や技術の動向はどのようになってきているか。

【ポイント】

(1)スーパーコンピュータの活用が、科学技術面・経済面で国の将来に影響を及ぼすという認識が定着し、国際的にスーパーコンピュータの導入・開発がこれまで以上に積極的に進められているのではないか。

    ○導入のグローバル化(TOP500リストは2011年6月の28ケ国から2012年6月の30ケ国、1ペタFLOPS以上のマシンは、4カ国から7カ国へ)
    ○自主開発の拡大(中国ではプロセッサまで自主開発、フランスBull社はフランス原子力庁にTERA-100を納入、ロシアではT-Platforms社がモスクワ州立大学にLomonosovを納入、インドでもSAGA-220を開発、など)
    ○米国や欧州などのエクサスケールを目指した動き(米国:政府としてDOEを中心にエクサフロップスをサポート、欧州:EESIからEESI2への移行とFP7によるMontBlanc、DEEP、CRESTAの3つのプロジェクト)
    ○米国や韓国では、国家的投資によるスーパーコンピューティングの強化を図るためHPC法を制定(米国:High Performance Computing Act、韓国:National Supercomputing Promotion Act)

(2)国内においては、「京」の整備や革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築が進み、また、国内の総計算資源は本年6月に完成する「京」も含め、20ペタFLOPS超と推測されるなど、計算環境の整備は進んできているのではないか。(※今後のニーズについて、調査の結果等を踏まえ追加)

(文部科学省関係機関の総計算資源)

    ○国公私立大学合計 6,272テラFLOPS(平成23年5月現在、うち基盤センター(計5,590テラFLOPS)は平成24年5月現在)
    ○大学共同利用機関法人、及び文部科学省関係の独法等3,007テラFLOPS(平成24年5月現在)
     ※平成24年7月以降「京」(11.28ペタFLOPS)が追加 

(文部科学省以外の機関)

    ○2012年6月のTOP500においては、上記機関の他、研究機関として 1,701テラFLOPS、民間 1,659テラFLOPS、合計3,360テラFLOPS

(3)また、2.で述べるように、幅広い科学技術の分野でスーパーコンピュータは研究の発展に不可欠なものになってきているとともに、産業界でもスーパーコンピュータの利用が普及しつつあり、今後、その重要性は高まっていくのではないか。

(4)一方で、「京」及びHPCIで画期的な成果を創出し、その社会への還元が求められるとともに、今後の計算科学技術の推進にあたって、いくつかの課題が明らかになっており、これらの課題に適切に取り組んでいくことが必要ではないか。

    ○消費電力等の制約条件の中で各HPCIシステムの性能向上
    ○システムの超並列化に対応した耐故障性の向上、システムソフトウエアやアプリケーションの開発等

(5)また、スーパーコンピュータを巡る技術面・利用面で新しい動きが出てきており、これらの動きにも適切に対応していくことが必要ではないか。

 (技術面)

    ○コンピュータ関係企業の中心プレーヤの変化(IBM、Cray、SGIのようなシステムベンダから、Intel、NVIDIA、ARMなどのチップベンダへの変化)
    ○スピン・アウトからスピン・インへ(大型計算機の技術をコモディティに活かすスピン・アウトから、市場の大きなコモディティの技術をスパコンの技術に活用するスピン・インへの流れ)
    ○研究開発のグローバル化(欧州におけるエクサスケールに向けた国際連携。IESPによる米国、欧州、日本、中国の国際連携。ハードウエア、システムソフトウエアの共同開発への期待。)
    ○新しいシステム開発におけるハードウエアの研究者とアプリケーションの研究者の共同(Co-design)の重要性の高まり
    ○半導体製造の海外への委託増加

(利用面)

    ○大規模で多種多様なデータの効率的な処理・分析など、いわゆるビッグデータへの対応
    ○ストレージとHPCIを組み合わせたビジネスの台頭(GoogleやAmazon、Microsoftなど)
    ○自然科学以外の分野での利用(経済、金融などでのシミュレーションの利用)
    ○PRACEなど、複数のスーパーコンピュータを1つの基盤として運用(欧州各国で共同利用可能なハイエンドシステム(Tier-0)の充実など)

(6)国内のスーパーコンピュータ関係企業については、エクサスケールに向けてCPUも含め技術開発を継続する企業、高実行効率や高電力効率など使いやすさを追求する企業など、それぞれ今後の展開の方向性が異なりつつあるのではないか。

2.計算科学技術の利用状況、今後の必要性

【調査・検討課題】

○科学技術分野で計算科学技術がどのように利用されてきているか。また今後の必要性はどうか。

【ポイント】

(1)工学や科学が目指すもの、その中で計算科学がどのように貢献するのかを考えることも必要ではないか。

    ○理論、実験に次ぐ「第3の科学」としての計算科学技術
    ○第4期科学技術基本計画における国家存立の基盤や、科学技術の共通基盤としての計算科学技術

(2)科学技術の分野では、実験だけではわからない、もしくは実験できないような部分を理論計算で補うことで、例えば極限環境の研究が可能になるなど、計算科学的な手法は不可欠なものとなっているのではないか。

    ○物質科学、地震・津波、気象・気候、素粒子・宇宙、医療・創薬分野におけるシミュレーションの利用
    ○物質科学において、実験の補完、新しい物質設計を目指すには、より信頼性の高い方法論で計算する必要があり、膨大な計算量が必要
    ○地震津波被害の減災のためにはシミュレーション研究が必要不可欠であり、より精緻な計算をするためには膨大な計算量が必要
    ○研究開発における、単一モデルによるシミュレーションサイズの拡大の方向性と、複数のモデルを用いたアンサンブル計算の2つの方向性
    ○細分化されてきた基礎科学の分野、階層などを統合、融合できる可能性

(3)ゲノムデータ処理に代表されるように、シミュレーションだけではなく、データ処理にスパコンが利用される側面も増えてきているのではないか。

    ○シークエンサの発展による膨大なゲノムデータの取得(次世代シークエンサにより、ゲノムが安価に高速に得られるようになってきた)

(4)一方、シミュレーションの解像度をあげることにより、計算で用いるモデルを新たに検討する必要もあり、単純に解像度をあげるだけではうまくいかない場合もあるのではないか。

    ○パラメタリゼーションと第一原理計算のバランス、新たな物理法則のモデル化
    ○地震シミュレーションにおける高精度な地殻情報の入手など、解像度に応じた観測データの必要性

(5)社会的ニーズに応える実際のシステムを考えた場合には、長期的視点に立ったシステムの整備計画と、観測データの取得からデータ入力、プリ・ポスト処理を含めた全体のシステム構築が必要になっているのではないか。

    ○システムを更新してもすぐには性能を引き出すプログラムはできないため、長期的な視点に立ったシステム整備が必要
    ○高精細な地震・津波シミュレーションに必要となる詳細な地形データ、建築物等のデータセットの整備が必要
    ○地震・津波のサブリアルタイム処理、避難シミュレーションのためのリアルタイム観測データの入力

(6)これまでの議論はスパコンを使っている人を想定しているが、実際にはスパコンを使ったことのない分野や研究者・技術者も多いのではないか。そのような分野にもスパコンの利用を進め、成果を創出できるようにしていく必要があるのではないか。

    ○利用環境の整備(簡単な手続きで使えるマシンや、ジョブ待ちでプログラムがなかなか実行されないなど)
    ○サポート体制、窓口の整備など

【調査・検討課題】

○自然科学以外の分野における利用の状況と今後の見通しはどうか。

  (本日の議論を踏まえて追加)

【調査・検討課題】

○計算科学技術の産業利用の状況や、今後の必要性はどうか。

【ポイント】

(1)産業界の利用は、より現実に近い状態での解析や、ものづくりにおける製品の設計など、大規模計算へのニーズはまだまだあるのではないか。

(2)一方、大規模、高度解析を活用できる企業はまだ少なく、実際のものづくりではシミュレーションが十分普及しているとはいえず、その裾野をひろげていく必要があるのではないか。

    ○解析技術、製品開発に結びつける知識の必要性(課題に対する適切な計算モデルの構築と解析結果の解釈、結果から得られた知見による改善や創造)
    ○シミュレーションができる人材の育成、技術やノウハウの継承
    ○使い勝手のよいソフトウエアの必要性(大学のソフトウエアでは、インタフェースにまで注力して開発することは難しい場合がある)

(3)産業界におけるスパコン利用の実情としては、維持費、コストなどによりトップマシンの100分の1から1000分の1規模のスパコンを利用するのが主流となっているなど、大学・研究機関と産業界ではスパコンのあり方が異なっているのではないか。

    ○パラメータサーベイなど(高精度で時間のかかる計算より、多くのパターンで計算したい場合がある)
    ○ソフトウエア開発が目的ではないため、利用したいソフトウエアがシステムにのるかどうかが問題
    ○長期の製品開発は共用のシステムを利用する場合もあるが、すぐに製品化に結びつくようなシミュレーションは、セキュリティ上社内のマシンで行うことになる

(4)業種によりスパコンの利用状況やスパコンに対する要求が異なるので、利用パターンに沿った議論が必要ではないか。

    ○業種による違いとともに、ユーザ企業とベンダ企業でも考え方が異なる(ユーザは安くて速ければベンダにはこだわらない場合がある、また中小の企業ではハードもソフトも人材もない)
    ○業種により、製品の企画段階から製品化までの時間が異なる(例えば材料分野や製薬などは製品化に時間を要する)
    ○同じ企業でも、研究開発部門で必要とされる用途と、ものづくりの現場とで求めるものが異なる

 

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