資料8 事前ヒアリング概要

 本資料は、今後のワーキンググループの議論の参考とするため、事務局が各委員への事前ヒアリングを行い作成したものです。各委員の意見を整理して記載したものであり、ワーキンググループとしての意見を取りまとめたものではありません。

1.国内外の動向

1-1 利用の動向

  • 浮動小数点演算が速いマシンもサイエンスでは必要だが、最近ではビッグデータといわれる膨大なデータを処理する技術が必要になってきている。
  • シミュレーションでも、これからは人が一人一人どういう動きをするか、といったマルチエージェントシミュレーションが必要になってくる。これは浮動小数点演算が速いだけでは計算できない。
  • 統計学は欧米ではきわめて重視されているのに、日本では社会的に軽視されてきた分野である。スパコンの利用はシミュレーションだけではなく、データ分析との両輪が必要である。
  • 今後の計算科学はスパコン1台で高速計算、大量処理をすべて行うという方向ではなく、ネットワークを活用し、お互いにリソースを共有できる共通インフラを作り、皆で使えるようにするという方向だと思う。

1-2 技術動向

  •  ヨーロッパでもエクサに向けてCPUを自前で作ろうとしている。ただし、設計は行うが製造は別になると思う。
  • 10年後に現在のPCやプロセッサがどうなっているかわからない。半導体の製造はお金がかかるが、目的を絞って作ることができれば、2010年代はいままでに比べてやりやすいと思う。ハードウエアの開発という意味ではある意味チャンスもあると思う。
  • 従来はスパコンの開発からのスピンアウトした技術で全体の技術力がアップするという方向であり、トップをとることによりHPCIの裾野を広げることができた。しかしこれからは、携帯電話のようなマーケットの大きい分野で開発した素子が、スパコンにスピンインしてきて、HPCIもそれを活用していくというような傾向が強くなるのではないか。
  • 少し前ならば、外国のCPUを買ってきてクラスタシステムを作るのが良いと言えたが、今は不透明である。
  • 最近では、大量のデータを高速で処理できるインメモリコンピューティングがフォーカスされている。これも視野に入れる必要がある。
  • ビッグデータも大きな課題。IOT(Internet of Things)のように、あらゆる物がネットワークに接続され、物自体が情報を発信するようになってきている。この大量データをリアルタイムに、動的に処理するニーズがでてきており、またそれを処理できる技術も出始めている。
  • 非構造化のビッグデータをどう取り扱うかが重要であるが、この部分はソフトウエアの力が重要であり、米国で徐々に標準化されつつある。開発グループに日本も入り、日本の意見を反映する必要がある。

1-3 その他、計算科学技術に係る状況等

  • 米国や韓国にはHPC法があり、国として継続してHPCの研究開発をするシステムになっている。
  • スパコンセンターは産業的にはまだ市場が小さくペイしない。もっと裾野が広がり、計算を受託で行うようなサービスがあれば産業界でも使えるかもしれない。
  • ベンダは自分たちのビジネス戦略の一環として、将来の技術シーズ及びユーザーニーズに関するいろいろな情報をもっているはずである。ワーキンググループメンバーに入っていないハードウエアベンダからも情報を集めて、それをベースに議論したほうが良いと思う。

2.計算科学技術の意義・必要性

2-1 総論

  • 計算科学、計算機科学というカテゴリだけで議論するのではなく、工学や科学が何を目指しているのか、その中で計算科学のコントリビューションは何かということを、全体的視点に立って考えることが必要である。
  • 計算科学は科学全体を包含しており、国の施策としては、HPCによって大きく発展させられる分野に力をいれていくという考え方もある。
  • ペタからエクサは、単に量の増加ではなく質の変化を期待している。今まで出来なかった新しいシミュレーションを提案できるといい。

2-2 科学界の利用状況とニーズ

  • 基礎的な科学で計算科学を使わないところはない。実験だけではわからない部分を計算で補うことで、極限的な環境の研究が可能となる。この分野の論文は理論計算と組みになっており、計算科学的手法が必要である。
  • 計算科学は科学全体を包含したものになっている。そのなかでも計算の比重が高いのが素粒子や宇宙分野。また、ESを使うことで気象などの分野でも計算機の比重が高まってきたと思う。
  • 気象分野では約3分の1がシミュレーションを使った論文であり、今後さらに増えることが予想される。気候変動研究などはシミュレーションでしかできない研究であり、計算機がないことは想定されていない。スパコンのない気象研究はありえないと思う。
  • 基礎科学の分野では、これまで研究が進むにつれて分野や階層で細分化してきたが、シミュレーションを活用することにより、それらを統合・融合するという動きになってきており、今の研究の進展には計算科学が不可欠。
  • ゲノム分野では計算機は必須になってきている。これまではサイエンスとしてのゲノム解析であったが、大量にゲノム解析ができるようになってきているので、その解析のためにもスパコンが必要となる。
  • 気象のシミュレーションでも、解像度をあげると支配する物理法則が分かっていない部分があるので、単純にはできない。地震シミュレーションにしても、地殻情報が高精度であるわけではないので、現状ではそれほど大きな計算機はいらない可能性もある。
  • 気象分野では、マシンやそれに適したアプリケーションの方向性は10年単位で考えなければならない。マシンが変わってプログラムを書き換えても、すぐに高い性能を出すことはできず、これを試行錯誤するのに10年くらいかかるのが普通である。10年後を見通すという意味で、ワーキンググループの取り組みは重要である。
  • 気象のシミュレーションは、単一のシミュレーションの問題サイズを大きくする方向と、複数のシミュレーションを活用してアンサンブルでやっていくという2つの方向がある。
  • シミュレーションによる地震津波の被害想定は、現状では大雑把なものでしかない。より現実的に精緻にシミュレーションを行うことにより、効果的な災害対策が可能となる。
  • 医療分野での利用はこれからだと思う。カルテの電子化が進んできているが、データ量が膨大であり、このデータをうまく利用することにより、病態の因果関係など医療や創薬での実用化が実現されよう。
  • 津波被害については、実際に被害が大きなところでは情報がでてこないため、初動体制がとれないということがある。事前にある程度シミュレーションを行うことにより、被害予想にもとづく初動体制がとれるようになる。
  • ワーキンググループの議論はスパコンを使っている人ばかりなので、使わない人がいることをわかっていないと思う。旧帝大以外の大学の研究者が、HPCIをどう使っているのかを聞くことも必要だと思う。
  • スパコンの性能がすごいことを知ってしまうと、遅いマシンには後戻りできないと思う。ただし、その経験をするには、そこにたどり着くまでが大変である。簡単に使える環境、サポート、ジョブの待ち時間など、問題も多い。

2-3 産業界の状況とニーズ

  • 産業界でも、より現実に近い状態での解析など、「京」でも計算パワーが足りないような大規模計算へのニーズがある。「京」以降のシステム開発のニーズはあると思う。
  • ものづくりで実際に試作品を作ると、製造誤差があるため設計どおりのもので試験できない。コンピュータ上であれば設計どおりに作ればどうなるかが見えてくるので、コンピュータシミュレーションは有効なツールである。
  • トップマシンの十分の一のマシンでは維持費がかかりすぎるため、多くの企業は千分の一くらいを使うことになる。産業界ではコスト競争力が重要であるので、トップマシンを使うより小さなマシンでまわしたほうがいい。
  • 産業利用でスクリーニングを行う場合、1ヶ月かけて高精度な計算をするよりも、1,2日の計算でおおよその感触をつかみ、数をこなしたほうがいい。分野により計算機に求めるものが異なることに注意が必要である。
  • 例えば、十万並列のマシンがあったら、すべてを使って考えるのが大学の先生であるが、産業界では十万並列の必要はなく、いろいろなパラメータで計算するという考え方になる。
  • 産業利用では、分野により立ち上げから製品化までの時間に大きな幅がある。どの部分を考えるかにより計算機の利用パターンが変わってくる。
  • 産業界をひとくくりにして議論してきたが、産業界でも業種によりスパコンの利用状況はかなり違う。また、ユーザとベンダでも立場が異なる。
  • 産業界ユーザの本音は、最高速のマシンを安く使いたいのであり、極論すれば国産でなくてもいい。高度な利用をするにはハードウエアがわからないとできないが、産業利用ではそこまで求めていない場合が多いと思う。
  • 企業はサービスを提供したいのであって、ソフトウエアの開発が目的ではない。製品開発で使ったCPU時間に対し、製品価値にどこまで付与できるかが重要となる。
  • 大学では産業界で必要とされるような、使い勝手に配慮したソフトウエアが作られていない場合が多い。いずれ改善されていく方向だと思うが、産業利用よりも学術的な成果に重点を置いているからだと思う。

3.将来の我が国における計算科学技術システムのあり方

3-1 スパコン配置のあり方

  • スパコンは基盤という見方だけでなく、最先端研究のための装置という観点も必要であり、特に成果創出という点から配置と体制を見直すべき。
  • 日本全体では多くのスパコンがある。各基盤センターで役割分担をして、これを核にある程度集約することも考えられるのではないか。
  • 計算機構という継続的な拠点ができたのはいいが、一極ピークでいいのかという不安もある。分野により必要なシステムは異なり、一つですべてをカバーすることはできない。ヨーロッパも米国も拠点が複数あり、このようなバリエーションが必要である。
  • これからのHPCを計算機構だけで引っ張っていくのは無理があるため、もうひとつくらい拠点があるといい。何年かに1度トップマシンが開発されてもユーザは使いづらいため、継続的な開発が必要である。
  • 基盤センターでも、ベクトル的なマシンやPCクラスタのようなマシン、データ分析マシンなど色々な特徴を出して整備し、それらを共用するのが良いと思う。
  • 一台のスパコンのピーク性能ではなく、20か所程度スパコンをHPCI網として、その合計Linpackスコアを考えるべきである。全体の最大化を目指すと、おのずとピークも高くなる。マシンが一極集中になるのは良くない。大きなマシンが2台くらい、その下に中くらいのマシンがあり、その下に小さなマシンというように、全体の計算資源を増やすことが重要。
  • マシンの規模としては、トップマシンが日本にあり、その十分の一くらいが基盤センター、さらに大きな会社であれば百分の一くらいを持っているかもしれない。産業的にはトップマシンが1台あるよりも、十分の一のマシンが10台あったほうが使いやすい場合が多い。
  • 性能を飛躍的にあげるためには、汎用ではなく専用のアーキテクチャを持つ専用機になっていく。そうすると1台ではなく複数台必要となり、国内に分散して配置することになる。これを中核として、地域ごとに発展してく可能性もあるのではないか。
  • 現在はネットワーク全体がコンピュータ的になってきており、仮想化を徹底的に進めることにより、ユーザが意識することなくネットワークのどこかでデータを処理し、ストレージして、演算するようなことが実現されていくと利用が進むようになると思う。ネットワークに分散化したような次世代マシンという考え方もあるのではないか。
  • システムが1つしか無ければ、特性の合わないアプリケーションではなかなか性能を出すことができなくなる。このような場合でも、プログラムの効率化が悪いように見られがちであり、必要以上にプログラムの開発に労力をとられて、本来の研究が停滞してしまわないかが心配。

3-2 基盤センター、大学附置研、独法におけるスパコンの役割

  • 基盤センターでは、様々な制約から比較的小さなシステムとなってしまった。成果創出という観点から、日本全体であり方を検討する必要がある。
  • 附置研はその分野での幅広い利用を支え、独法はミッションオリエンテッドな使い方となる。また基盤と最先端のバランスが大切であり、基盤として使えるスパコンも必要である。
  • 基盤センターについては、今後9大学で同じようなマシンを持つ必要はなく、そのあり方について検討が必要である。ただし、それぞれのセンターで運用のポリシーが異なるので、ひとつではなく複数のセンターが必要になると思う。
  • 大学は教育機関として、計算科学や情報科学用の基盤的なシステムは持っておく必要がある。大学にトップマシンは必ずしも必要なく、各大学で機能を分担し、特徴を生かしたものにすればいい。ただし、基盤センターのマシンは時期によっては混雑しているので、研究室でも小回りのきくPCクラスタなどを持っていたほうがいいということもある。
  • ある程度の規模のセンターを全国に2,3か所つくり、従来の基盤センターはもっとユーザよりのサービスにしてはどうか。また、センター間のクラウド化のような感じで、7センターが同じようなタイプのマシンを置く必要はなくなっている。
  • 大きなマシンが1つあるのではなく、その下に大学の基盤センターがあり、そこでは重点課題を中心にするとか、萌芽的な課題に重点をおくなど、システムごとに特徴が異なってもいいと思う。
  • 大学は多様な研究をしており、基盤センターはいろいろな分野に広く開放しておきたい。ユーザの裾野を広げる意味でも、プログラム最適化などのユーザ支援も基盤センターの役割として重要になっていく。
  • 基盤センター、附置研については、既存のユーザを相手にしていればいい、という考えになっている部分がある。これを覆すには目標とインセンティブを与えてトップダウンでやるしかない。
  • 人材育成は基盤センターの重要な役割であり、人や技術を提供できるようになればいいと思う。
  • 基盤センターは基盤としての利用や、新しいユーザの開拓をやるべきと思う。そこでは分野内での評価が低くても、芽としてやっておくべき研究も進められるようにしたい。
  • 大学の基盤センターは、いままでとは違う方向性が必要と思う。ユーザサービスも必要だが、研究とサービスの両方ができる人材をそろえる必要がある。基盤センターの中にアプリ側の研究している人がいれば、そこで各センターの特徴を出すこともできるし、良い意味で活性化すると思う。
  • 基盤センターの役割も変わってきている。大学内でもマシンの集約が進む方向であり、さらに大学間での利用の方向性もある。
  • 基盤センターのスパコンは研究費から負担金を出せば、誰でも相当適度の大きな計算ができるものであり、そうしたシステムも絶対に必要。
  • 企業が基盤センターのマシンを使う場合、大学の先生との共同研究の一環でマシンを使う場合が多い。このような利用は重要であり、たとえば地域ごとに基盤センターのマシンがあり、そこの大学の先生と共同研究をして、地場産業が発展していくような方向性も理想としてある。

3-3 リーディングマシンの必要性

  •  日本にトップクラスのリーディングマシンは必要。それによりサイエンスの課題解決、技術の蓄積・維持ができ、研究者にも活力を与えることができる。毎年トップを維持するのは難しいが、何年かに1度は日本にトップのマシンがあるのは良い。
  • トップマシンはあったほうがいい。コスト面があるので、すべて国産にする必要はなく、海外パートナーと組み合わせてデザインするのもいい。
  • リーディングマシンの必要性という意味では、開発者の意気込みが違ってくるのであったほうがいい。それも、マーケットでも使えるような技術が重要。日本が作れなくなってしまうのはまずい。アメリカと中国以外はハードウエアを作らなくなってしまい、我々が欲しいマシンが手に入らなくなる。
  • トップマシンは必要と思うが、継続的な技術開発とマシンのリプレースを考えると、1台ではなくフェーズをずらして複数台必要である。
  •  トップマシンは必要だが、汎用として広く利用するものと、国の戦略としてある分野の利用に特化したものと複数必要。何でもできる設計にすると、結局はどの分野からも不満がでるので、専用に設計したものも必要。
  • リーディングマシンとして「京」が1台あっても、ジョブを走らせるのに1年待たなければならないようでは意味がない。ピークのマシン1台で1ヶ月しか使えないよりは、十分の一のマシンを1年間使えた方が良い。計算機科学の論文以外では、10ペタで出来て1ペタで出来ないことはないと思う。
  • トップマシンが2台あるほうがいいという意見がある一方、その十分の一程度のマシンを10台20台展開したほうが効率いいという議論もある。計算科学としてアウトプットを求めるなら、短期的にはこのほうが効率はいいが、最先端を目指さなければいずれ限界が来ると思う。
  • ユーザからみると、スパコンは1番でなくても使い勝手が良いもの(簡単な手続きでアカウント登録ができて、すぐジョブを走らせられるようなマシン環境)があればいい。順番待ちでジョブが走らないようなリーディングマシンであれば、自由に使える普通のマシンのほうがいい。
  • 計算機のリソースが限られているなかで、一番成果につながりやすいのは中規模ジョブである。しかし、ナショナルフラッグシップマシンを活用するという意味では、全系を使う大規模アプリケーションを考えないと意味がない。
  • リーディングマシンについては、純粋にサイエンスとしての成果を求めるマシンと、社会に成果を還元しやすいシミュレーションを行うマシンという2つあるように感じる。
  • いまのリーディングマシンやHPCIは、トップレベルの人だけのもののように見える。もっと広く、学生も企業も使えるような日本全体のHPCI環境を整えないと、社会の理解が得られない。
  • リーディングマシンは国際的な注目が違う。国際的なリーダーシップ、国際協力をするうえでの武器にもなる。世界最先端を持っていることは、広い意味での日本のプレゼンスに貢献している。
  • 国際競争力の強化の一環としてブラント戦略は極めて重要であり、産業利用におけるリーディングマシン利用による価値の創造は計り知れない。単なる利用効果だけではない。
  • ワーキンググループでは最初に言葉の定義が必要かもしれない。リーディングマシンの定義も、計算科学と計算機科学では違ってくる。Linpackの性能だけではなく、計算機科学として新しいものがないと、リーディングマシンにはならない。
  • 世界一をとった「京」は外国でも評価されていて、「京」を作った富士通ということで、他の富士通製品にも価値がうまれている。このようなトップマシンの開発が何百億ですむのであれば、是非やるべき。
  • 地震、津波の被害想定が70兆円、80兆円と言われているが、シミュレーションによりこの額を少しでも減らせるのであれば、リーディングマシンの開発もそんなに高いということではないのではないか。
  • ユーザからすると、どの国の製品であっても使えるスパコンがあればいい。したがって日本で開発するのであれば、その大義名分を明確にしておかなければならない(計算科学が重要というだけでは理由にはならない)。ただし、外国の製品は、日本のアプリの特徴をとらえて作られているわけではないので、使いづらいところもある。
  • 日本のマシンの一部は超並列化やLinux等の世界のアプリの動向についてきておらず、外国製の世界の主流アプリの実行が遅かったり動かなかったりする場合もある。
  •  リーディングマシンを開発する場合に、計画の段階からこのような成果が出ます、という説明が必要になる。一方、基礎科学の成果は様々な研究をしてみて得られるものであり、はじめから結果がわかってものではないので、利用にあたってはその両者のバランスが大切。

3-4 汎用システムと専用システムを含めどのようなシステムが必要か

  • 様々なユーザが使えるという意味でも、汎用システムは必要と思う。また、アプリケーションに特化したマシンも色々な可能性があるため、どちらか一方に絞らないほうがいい。
  • 基盤センターなど共通で利用するマシンは汎用にならざるを得ない。専用マシンは附置研や独法など分野が明確なところで導入して、共同利用するという可能性もある。
  • 汎用と専用の両方が必要と思う。専用機で十分できることもあるし、両方を睨んで開発を行うことが必要であり、どちらが良いかという判断は難しい。
  • 専用機だけではその先の応用が限定されるため、汎用機も並行して作るべき。汎用機を作らないとCPU技術など様々な技術が維持できない。
  • すべての分野をカバーする汎用システムは作れないので、汎用+アクセラレータが現実的なところではないか。
  • あまり特殊なマシンを作ると、特定の分野でしか使えないものになり、計算科学全般の底上げという観点からは弱い。一方「京」はターゲットを広げすぎており、次のシステムでは汎用性のある計算手法にもう少しターゲットを絞って開発すべき。
  • 専用機はユーザが限られるため、ベンダが十分にメンテナンスに注力できず、また次の開発にもつなげられないのが今までの状況。計算機科学の分野では論文も書けるし性能がでて良いが、その他の計算科学の立場では意味がないと思う。
  • 特定の分野でしか利用できないような専用システムは、他の分野では使えないので、必要な機関が研究費を使って開発すればいい。このような意味で、国として開発するのは汎用システムになると思う。
  • 専用マシンの議論があるが、本来専用マシンは計算手法に対するものであり、分野に対するものではない。今の議論は少しずれているように思う。
  • 特定のアプリケーション分野に対して専用システムを作っても、そこで分野を変える程のコストパフォーマンスのアドバンテージがないとマーケットがない。逆にAntonはそれを達成した良い例である。
  • 専用マシンはアプリケーションの制約を受けるので、コミュニティ全体でやらないとユーザが限られてしまうのではないか。
  • FFTはいままでのスパコンが苦手としている分野である。研究者のニーズはあるので、FFTを高速で計算できるマシンができれば多くのHPCユーザにメリットがある。
  • リアルタイム津波予測は、計算の準備だけで時間がかかってしまい警報に間に合わない。リアルタイムで予測をするならば、地震データをあらかじめ入れてスタンバイしておく、という意味での専用マシンが必要になる。
  • 分野によっては「京」のような汎用機ではなく、多くの専用機を作ってネットワークで共用するほうがいい、という考え方もある。
  • すべての計算を「京」で行うのは非効率であり、小さな計算は小さなマシンで行うほうが良い。その意味で、専用マシンは手元に持ってこられない(買えない)ので難しい。「京」と同じコンパイラで、同じソフトウエアが動くマシンが手元にあると使いやすいと思う。
  • 汎用か専用かの議論より、何をターゲットにするかを決めて開発しないとうまくいかない。本当に使いたいユーザを絞り込み、アプリケーションの人とハードウエアの人が一緒に考えて作ることが大切。それが日本で開発する意味にもなると思う。いろいろな分野が大事、ということで広い分野を含めるのは、開発フェーズではマイナスになる。
  • これからは分野ごとに適したシステムがあってもいいと思う。その中でバイオ分野は大きなターゲットであり、HPCIの1つとしてゲノム解析に特化したスパコンがあってもいいのではないか。
  • アプリケーションからみれば、スカラでもベクトルでも成果が出せればどちらでもいい。どこまでコストをかけるかであり、ベクトル機で高効率のシステムでも、汎用機で効率が低いものでも、電力やコスト次第である。
  • 極端なことをいえば、ユーザは計算が速くて使い勝手がよければ、どんなマシンでもいい。計算機を作る人はそうではないと思うが、一緒に議論しても言葉が通じない。

4.計算科学技術に係る研究開発の方向性

4-1 総論

  •  現在は全体像がないままに、エクサに向かっているようにみえる。2018~2020年にスパコンがどうなっていて、アプリケーションはどのように開発するかの共通認識を持つべき。
  • 米国のように、どのようなシステムをどこに整備していくかのロードマップがこれから必要になる。これを共通認識として持つ必要がある。
  • 基本的にはオールジャパンで1つのシステムを作るほうがいいが、1台ですべての課題をカバーするのは難しく、国家プロジェクトとしてどの課題を選択するかは国としての政策判断が必要。ただし、選ばれなかったからといって、学術的に他の分野より劣っているわけではないだろう。国の政策として推進すべき課題、基礎研究、学術研究として進めるべき課題など、位置づけを明確にし、それに応じて予算面・推進体制面でのメリハリをつけて、それぞれに推進していく必要がある。
  • 「京」の次という意味では、アーキテクチャよりも計算科学や応用といった計算機を使った研究に投資し、次の次くらいでリーディングマシンを作る方が、日本全体にはいいように思う。この際、Linpack競争は「京」で勝ち逃げしてもいいのではないか。
  • 日本もHPCの研究開発を国として位置付け、長期的に開発していくことが必要。科学技術力で世界のトップを維持することが国家の安全保障を維持することにつながる。我が国独自の文化と感性に根ざした科学技術で、国際社会の中で存在感ある国として生きるべき。
  • 計算機が速いだけではなく、計算機の使い勝手を良くすることが重要であり、観測データを取り込めるように整理する等、計算機そのものではなく、周辺も含めた計算環境の整備が必要。
  • 計算科学と計算機科学、もっと言えば工学と理学の連携を進め、その間を埋めないといけない。工学と理学の壁があり、学部レベルからその意識を取り去る努力が必要。計算機構がこれらを融合しようといているのはいい方向だと思う。
  • トップマシンで大規模な計算をして、新しいシミュレーション手法を開発することは必要であるが、普及させるにはダウンサイズ、すなわちより小型のスパコンで計算できるようにならないといけない。トップマシンでしか動かないのであれば、利用が限られてしまう。
  • トップマシンでどのような成果を上げ、それをどのように普及させ、次につなげていくか。今後の政策の議論にあたっては、5年後10年後に成果が広がるよう、全体を見据えた議論が必要。

4-2 スパコンシステム開発に係る研究開発の方向性

  •  HPC技術は日本としても重要である。ハードウエアから開発しないとハードウエアに対する主導権がなくなり、ハードウエアとソフトウエアの両方をやっているところには勝てない。国の政策として、ハードウエアとソフトウエアの両面を開発すべきと思う。
  • ハードウエアを知らないとコンパイラの開発もできないため、外国から買ってくればいいというものではなく、要素技術研究の方向としてはハードウエアも含めて取り組んでいく必要がある。
  • HPC技術の主導権を持つためにはハードウエアから開発する必要があり、国の施策としてはソフトウエアとの両面が必要である。
  • 日本でマシンが作れなければ、自分たちが欲しいマシンが手に入らなくなるかもしれない。そのとき困るのは、設計など計算機を使った産業だと思う。コンパイラなども、インテルのようにハードウエアを作っているからこそ性能の良いものができる。
  • どの分野でも研究開発を進めるにあたりシミュレーションは重要であり、重要な部分が外国製になっているのは開発を進めていくにあたって厳しい。障害やなにか対策が必要になった時に優先的に取り組んでもらえなくなる。
  • 競争入札でも勝てるような国際競争力があるものを、トップマシンとして作らなければいけない。このような意味では、コモディティ技術+αが必要と考える。
  • 産業の裾野を広げるためにも、また、国威発揚という意味からもチップの開発技術は日本に残すべきと考える。アメリカと中国に挟まれているなかで、我が国もトップ集団でありつづける必要がある。人材育成という意味でも継続してやってほしい。
  • 「京」の成果を早く出し、どのような使い方が出来るかを示す必要がある。そのためには市販ソフトウエアが使えるものづくり分野が適している。結果をみてそれを見極めることが大切であり、それがないとその後の利用が見えてこない。
  • 開発の方向性は2つあり、一つは分子動力学(たんぱくMD)の演算に特化したマシンであり、他の計算もできるように多少汎用性を高めたもの。もう一つは「京」の後継のようなプロセッサであり、演算機能を強化するなどの要素技術開発も継続してやっていかないといけない。
  • 「京」はLinpackでも30時間近く故障なく動いている。品質が良いのも日本の技術であり、コモディティではこうはいかない。単純に買ってくればいいというものではない。
  • 計算よりも技術開発という意味で、エクサを開発することは大事だと思う。「京」のネックはネットワークにあると思うが、その部分は目立たないので企業も技術開発をやりたがらない。これこそ国が支援してやるべきと思う。
  • 海外から買ってくればいいという考えでは、情報分野・ものづくりの分野に優秀な学生が入ってこなくなり、我が国のIT分野全体の活力が失われる。ハードウエア開発もソフトウエア開発もバランスよく行う必要がある。
  • シミュレーションも重要だが、インフォマティクスをうまく使えるようにすることも重要。バイオ用のマシンを提案していくべきであり、高速性能という方向性もあるし、ビッグデータでバイオに役立つように持って行く方向性もあると思う。

4-3 ハードウエアの方向性

  • CPUの開発とソフトウエアの開発は密接に関係しており、CPU開発の見通しを持つことでミドルウエアやコンパイラ、アプリケーションの開発を先行して行うことができる。全体のリードタイムをかせぐためにはCPUの開発が必要である。
  • スパコンはソフトウエアも含めた総合技術なので、CPUだけにこだわる必要はないが、CPUを作らないでコンピュータを作ったと言えるのかは疑問。
  • どの要素技術を国内で展開するかは、その技術が商品レベルでどの程度水平展開できるかで決めるべきである。CPUはボトルネックではなくなってきており、よほどレバレッジがないと、自らCPUをつくる価値はない。
  • 要素技術開発については、スカラかベクトルかの2極の議論ではなく、これからはSIMDを増やしてベクトル化するというように、スカラでもコアの演算部分はベクトル的になってくる。最近注目を集めているGPUもベクトル的な処理を基本としている。今後、3次元積層技術と組み合わせることによりベクトル処理技術のさらなる発展が期待出来るため、これまで維持してきた関連技術における日本の優位性を失わないためにも、継続的な研究開発が必要である。
  • プロセッサの設計技術は日本が持っている必要がある。最新のプロセッサのコードは数百万行にもなり、この技術が途絶えてしまうと再生できない。
  • 外国のCPUを買ってきてシステムを作るのであれば、早い段階からCPUを製作する企業と共同研究をしていかないと良いマシンは作れないだろう。
  • チップのデザインさえ日本でできれば、製造は海外でもいい。インテルがCPUを供給できなくなったら終わりなので、CPUの技術も日本に残しておく必要がある。今後はメニーコアになっていくはずだが、真剣に考えている国内企業は少ない。
  • 要素技術として重要な課題は、B/F、インターコネクション、光変換素子といった技術を考えていかなければならない。

4-4 ミドルウエアの方向性

  • 分野が違っても、気象計算における大気の物理の部分はライブラリのように共通化したほうがいい。さまざまな研究に利用されるライブラリを作るのは5年では難しい。ライブラリを作ることも1つの成果であるが、それを使って成果を出すのはもっと時間がかかる。
  • コンパイラはプラットフォームに依存するので、コンパイラも国産技術として重要である。ただし、OS以上は国際標準でいくのがいい。
  • アプリケーションだけではなく、OS、ライブラリ、コンパイラにも十分に投資するような、思い切った予算が必要。

4-5 アプリケーションの方向性

  • 5年後のハードウエアであれば、現時点で作れるものは目途がたっている。設置面積や電力の問題から、結果としてメモリを小さくするしかない。メモリが数十分の一になったとき、そのシステムで動くアプリケーションをどう開発していくかが問題。
  • 今後のアプリケーション開発は、(1)将来ビジョンを明確化する、(2)分野毎に基盤となるアプリケーションを決める(分野で1つに絞る必要はない)、(3)解決策を明確化する、(4)それを実現するためのブレークスルーを決め要素技術を抽出する、という作業が必要。分野をまたいで考えると、アプリケーション開発に共通の要素技術が抽出できるのではないか。
  • アプリケーション作業部会の検討では、一部の流体計算を除いてあまり大きなメモリはいらないという結果になっている。流体計算の解法も変わってきており、数値解法から考えなければならないのではないか。
  • GUIや入出力インタフェースなど、プログラムを使いやすくする部分は研究にはならない。プログラムを良いものにするのは大切かもしれないが、業績にならないため学生にソフトウエア開発ばかりをやらせられないのが現状。ソフトウエア開発の部分が業績になるような、技術者の評価が必要である。
  • ペタくらいであれば研究者個人でソフトウエアを開発できるが、エクサでは個人で書けるレベルではなくなる。今から人材を育てていくか、もしくは共通で使える基盤ソフトウエアを開発することが必要。
  • ひとりで作れるアプリケーションの規模は限られるので、これからは共同で開発を行う必要がある。分野内での連携に加え、情報系の人とも連携が必要になる。
  • 世界で使われている日本発のソフトウエアがないのは問題。そのようなソフトウエアを作るというマインドで、質の高いものを作ることが重要。これから世界に追いつくには、グローバルなオープン開発のようなことも考える必要がある。
  • 日本の問題はソフトウエアの開発力が落ちていることだと思う。スパコンの開発でも、良いハードウエアを作ればいいという観点ではなく、良いソフトウエアを作っていくことが、今後はもっと重要である。

4-6 重点を置くべき分野

  •  要素技術として、不揮発性メモリや実装技術は日本に競争力がある、シリコンフォトニックも重要。
  • インフィニバンドの性能が頭打ちになっているが、インターコネクトは要素技術として重要。
  • 将来のシステムを考えると、システムソフトウエアの開発が重要。「京」の場合はこれまでの延長線上でよかったが、エクサ以上はシステムソフトウエアのブレークスルーがないと難しい。一方で、システムのイメージがないとシステムソフトウエアの開発は難しいし、日本には研究者も少ない。
  • プロセッサの設計技術とコンパイラも国産技術として重要。競争力のコアになる部分は国産技術として持っておく必要がある。 

5.利用体制のあり方

5-1 利用システム

  • 今後の方向性として、ハードウエアの開発ではなく、制度やシステムの問題を取り上げることも考えられると思う。「京」が出来たことにより、オールジャパンの観点からHPCIをいかに有効に使うか、という議論ができるのではないか。
  • 特定の機関だけでスパコンを管理運営すると、その機関の方針が優先されてしまうことがある。透明性、独立性をもった形で運営しないと、国民に納得してもらえない。
  • 運用については運用主体をはっきりして、責任を持って運用することが重要。これがはっきりしないと、利用のときにいろいろな人に頼みに行かなければならず、ユーザ側が面倒になる。

5-2 支援体制

  • 使い勝手のいいスパコン(簡単な申請手続き、ユーザサポート、ジョブの待ち時間が短い、など)があれば、大学でももっと使うようになると思う。使わないからスパコンの良さがわからない先生も多い。ただし、スパコンの良さが実感できるほど速くするためには、並列化などかなり手をいれなければならず、それを乗り越えるのが大変である。
  • ユーザ支援なども総合的に含めて計算機の能力である。アプリケーション側のユーザは最先端のアーキテクチャを最大限使いたいが、そのためには支援が必要である。マシンは速いが、実際のアプリケーションは効率的に動かない、ということでは意味がない。
  • コンパイラやライブラリがしっかり整備されていれば、あまり利用支援は必要なくなる。むしろそこに力をいれるべき。

5-3 産業利用の促進

  • 産業界の裾野にスパコン利用をひろげるためには、スパコンを使っているということを意識しないくらい簡単に、利用できるようにならなければならない。
  • スパコンを産業界に普及させるためには、計算機をどう使わせるかといったコンサルテーションを行える人材が必要である。
  • 大学のソフトウエアはメンテナンスがうまくできていないため、これが産業利用を妨げているという面もある。
  • 企業では、計算結果に責任がもてないということで、オープンソースを使うことに抵抗感があるようである。これがスパコンの産業利用を阻害している原因だと思う。
  • 性能が高いスパコンであっても、一般の商用ソフトウエアが使えないと企業の利用が増えない。
  • 産業界は「京」をトップとするピラミッドだとすると、その一番下を支えていることになる。産業界からの問題意識としては、大学の先生がやっているようなトップの部分の研究開発と、産業利用との間が無いことであり、この間を埋めないと産業界はついていくことができない。
  • 産業利用は限られた分野ではとてもよく使われているが、もっと裾野を広げなければいけない。「京」を使って成果を出していくことが、産業利用を推し進めることにつながる。

6.その他必要な施策

6-1 国際協力

  • 日本が強い分野は日本で行い、米国が強い分野は組んでやる。そもそも日本に開発力、技術力がないと組むこともできないので、技術ポテンシャルを有しておくことが重要。
  • 産業技術力としてのロードマップを考えたとき、人口が1億人しかいない国内だけにスパコンを配置するのではなく、アジアに広げて考えてもいいのではないか。

6-2 人材育成

  • アプリケーションが大規模になると、研究者が自分で書くことが難しくなるという議論があるが、サイエンスの観点からは分業化は必ずしも良くない。全体を見ることができる人が重要であり、そのような人を育てる必要がある。
  • 分野を越えて高度なアプリケーションが書ける人を育成する必要がある。ハードウエア側の研究者とも同じ言葉で議論ができ、効率的にアプリケーションを開発できる人が必要。
  • 現在は、若手がスパコンを使うまでの道が長い。若者に数千コアを使わせ、並列計算機で千倍速いというのはどういうことかを経験させるのも必要。それで研究がどうかわるかを体験させるのがいい。
  • 若い研究者を育てるという意味で、「京」の上でコンペのようなことをしてみてもいいのではないか。若い人にとっては「京」が使えるのはとても魅力的と思う。
  • スパコンを使いこなすにはある程度経験が必要で、いきなり会社に入ってモデルをやれと言われてもできないと思う。大学で下地ができている必要がある。
  • 現状では、情報理論の人は沢山いるが、アプリケーションよりの情報系の人が育っていないのが悩みである。戦略分野でも人を雇いたいが、人材がいない。
  • 学会でも、最近は小さな研究会のようなものが多くなってしまっているので、国がバックアップしてこれを盛り上げていくのも大切。これにより異分野の交流を活発化し、若い人にがんばってもらいたい。
  • 我が国では、アプリケーションの高度化等の研究支援をするエンジニアが育ちにくいシステムになっている。これを変えるには、研究支援をするシニアのエンジニアの給料を大幅にアップするべきと考える。

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