東北メディカル・メガバンク計画検討会(第2回) 議事録

1.日時

平成24年4月16日(月曜日) 18時00分~19時40分

2.場所

文部科学省 16階 16F特別会議室

3.議題

  1. 東北メディカル・メガバンク計画案について
  2. その他

4.出席者

委員

豊島主査、赤林委員、岡部委員、春日委員、門脇委員、金岡委員、桐野委員、久保委員、河野委員、高井委員、高木委員、成宮委員、中釜委員、松本委員

文部科学省

吉田研究振興局長、田中総括審議官、菱山振興企画課長、板倉ライフサイエンス課長、岡村研究振興戦略官、岩本情報課長、鈴木先端医科学研究企画官、根津ライフサイエンス課係長

オブザーバー

東北大学:山本東北MM機構長、八重樫副病院長、五十嵐教授
岩手医科大学:祖父江副学長、人見リエゾンセンター長
宮城県医師会:桜井副会長

5.議事録

東北メディカル・メガバンク計画検討会(第2回)

平成24年4月16日

 

【豊島主査】  それでは、定刻となりましたので、ただいまより第2回東北メディカル・メガバンク計画検討会を開会したいと存じます。
 本日はご多忙のところお集まりいただいて、どうもありがとうございます。まだもうすぐ到着という委員もおられますけれども、ほとんど全部、今日の出席の方は集まりましたので、このまま始めさせていただきたいと思います。
 本日は清原委員、小原委員、末松委員、祖父江委員からご欠席とのご連絡をいただいております。また、嘉数委員からは、急なことでご欠席といただいておりますが、宮城県医師会より桜井副会長にオブザーバーとしてご出席いただいております。よろしゅうございますでしょうか。
 それでは、本日の議事を進めるに当たり、議事及び配付資料の確認をお願いいたします。事務局からよろしく。

【根津ライフサイエンス課係長】  事務局でございます。本日の議事につきましては、配付させていただいております議事次第にありますとおり、東北メディカル・メガバンク計画案について、その他でございます。
 本日の資料につきましては、こちらも議事次第にありますとおり、資料の1から4、参考資料1から4、合わせて8つの資料を配付させていただいております。もし過不足等ございましたら、事務局にお申しつけください。
 以上でございます。

【豊島主査】  よろしゅうございますでしょうか。
 それでは、議事に入らせていただきます。議題1で、東北メディカル・メガバンク計画案につきまして、本日は、第1回でもお話ししましたように、東北大学実施計画骨子案のゲノム情報、診療情報等の集約、解析研究について主に議論したいと考えております。
 その前に、第1回東北メディカル・メガバンク計画検討委員会におきまして議論のありました、東北大学内の体制と人材育成に関する取り組みの概要につきまして、東北大学から簡単に補足説明をお願いしたいと存じます。
 先生、どうぞよろしくお願いします。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  本日、ご多忙のところ、お時間をいただき、まことにありがとうございます。どうぞよろしくお願いします。私は東北大学の山本です。
 座って説明をさせていただきます。お手元の資料2をごらんいただけませんでしょうか。前回、おおよそ4点のご質問をいただき、資料を準備してまいりますというお話をさせていただきました。それで、最初は東北大学の中で、学内でどんな組織ができているのかというご質問をいただきました。ここにお示ししますように、東北大学では総長の下に機構長、これを私が務めさせていただいていますけれども、その下に運営委員会を置き、ガバナンス委員会を置き、6部門を研究部門として、さらに事務管理・広報部門を設けて、このような形のメディカル・メガバンク機構が本年の2月1日付で発足しております。
 各部門の役割ということで、横に少し書かせていただきましたけれども、地域医療支援部門は、地域医療の充実を通じて本事業への理解と関心をはぐくむのが目的です。予防医療・疫学部門は、三世代と被災地住民をそれぞれ対象としたゲノムコホートを確立するのが仕事です。バイオバンク部門では、コホートで得られる血液や尿等のサンプルを一括保管し、さらに解析情報とリンクさせてデータベース化をするところが仕事になります。さらに、公平なガバナンスに基づいて分配をするところも担当いたします。ゲノム解析部門では、ゲノムやオミックスの解析をいたします。それから医療情報ICT化部門では、安心安全でシームレスな医療福祉の提供のために、医療情報ICTと地域医療連携基盤の形成を支援することが仕事になっています。これは、この基盤を利用することによってコホート参加者の効率的な追跡とデータ管理ができる。ここに活用したいと考えています。人材育成部門については、この後ご説明させていただきます。前回もご指摘いただきましたように、本事業を推進するためには新しいタイプの医療人の養成が急務であると考えております。事務管理・広報部門、広報について、特に積極的な広報が重要であるというご指摘をいただきました。その体制について、資料を持ってまいりました。
 これらの研究部門をさらに進めていくために、今私どもは、左下に示しますようなワーキンググループを立ち上げて検討を進めています。このようなグループは、今は学内を中心にやっておりますけれども、今後は外部有識者の方を積極的にお招きして、我が国の科学の英知を集めてご支援をいただこう、充実させていこうと考えております。具体的には地域医療支援ワーキンググループ、倫理・法令ワーキンググループ、連携・広報ワーキンググループ、電子情報統合ワーキンググループ、ゲノム・オミックス解析戦略ワーキンググループ、ここまでは今、私どもの機構の中で動いております。さらに今後は、先行するゲノムコホートの方たちと連携を推進していくためのワーキンググループを準備し、さらにバイオインフォマティクス検討ワーキンググループを立ち上げていきたいと考えております。
 次のページをごらんいただけませんでしょうか。私どもの人材育成のロードマップを簡単にお示しさせていただきたいと思います。まず、このプロジェクトをやるためには、多くの臨床研究支援者を必要といたします。臨床研究支援者として具体的にどんな人たちを考えているかというと、中段から下のほうにありますように、ゲノム・メディカルリサーチコーディネーター(GMRC)、看護師・保健師・介護士等の資格を持っている方が望ましいわけですけれども、それからデータマネジャー、メディカルクラーク。これらの臨床研究支援者は、比較的短期の研修で資格が修得できますので、本プロジェクトを通じて積極的に養成し、できれば調査をする現地の人たちの雇用につなげていきたいと考えています。
 ただ、これらの方だけでは、例えばメガバンク支援事務所をつくったときに、いわゆる現地事務所に当たる支援センターをつくったときに、中核となる人たちが足りません。それから、高度の専門性を持った人が足りませんので、その上のほうに示したように、高度専門人育成計画を立てております。この方たちは、高度臨床研究支援者という形で中核になる方です。さらに、ほんとうに専門性の高い遺伝カウンセラー、サイエンスコミュニケーター、バイオインフォマティシャンという方たちを、大学院教育を通じて育てていきたいと考えています。それで、キャリアパスですけれども、こういう方たち、特にバイオインフォマティシャンの方のキャリアパスというのは、今後似たようなゲノムコホートや疾患コホートがたくさん立ち上がってくるのではないか、さらに、いろいろなゲノム関係の研究所に就職がある、キャリアパスが形成されるだろうと考えています。それから、臨床研究支援者と大学院の教育をつなぐような形でオープン教育センターをつくって、科目履修制度等を活用して生涯教育を実施していきたいと考えています。
 3点目です。広報体制ですけれども、私どものメディカル・メガバンク本部の広報体制として、准教授、助教、スタッフの体制をつくり、そこにありますような広報戦略やマーケティング、国内外のメディア対応という形で、積極的な広報を行っていきたい。さらに、このような広報部門とメガバンク地域支援センター、いわゆる現地事務所に当たる部分での広報事務について、風通しのよい連携をつくる形を通して、積極的な広報を行い、ゲノム医療が新しい次世代の医療につながっていくのだということを訴えていきたいと考えています。
 資料はここまでですけれども、もう一つ、観察研究と介入についていかがかというご質問をいただき、その際に私どもは、コホート調査のような観察研究に行われる介入に関しては、幾つかの手法を取り込むことによって、その影響を最小化できるということを前回申し上げました。実際には、幾つかの手法としては、例えば介入したことそのものを暴露として評価する、もしくは定期的に実施する健康調査によって暴露を再評価する。さらに、解析の際にポピュレーション・アット・リスクのもののみに限定して解析をしていく。もう一つ、対象コホートを設けることによって統合解析を行うというような手法。そういうことを行うことによって、影響を最小化できるのではないか。それは先行するコホートでも行われていることだと考えています。
 私のご説明は以上です。

【豊島主査】  どうも山本先生、ありがとうございました。
 今のご説明に関して、何かご質問、ご意見ございますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。
 1つだけ、ちょっとお願いしたいのですけれども、広報・コミュニケーションに関して、これは非常によくやられるという計画でいいのですが、聞きに来られる方というのは、皆さんが聞きに来られるのではなくて、限られた方のリピーターが多いんですね。それで、できるだけ教育のときに、現場に行かれる皆さんを教育して、現場のいろいろな質問に対して答えられるように、できるだけ教育のときにその点もよろしくお願いしたいと思います。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  ご指摘ありがとうございます。まず、説明する側の私たちや、私たちのいわゆる臨床研究支援者の方が十分理解していくことが、よい理解につながると思いますので、そこの広報も力を入れたいと思います。さらに、先生のお話のとおりで、こちらから広報するというのとあわせて、どんな不安を持っておられるのかとか、どんなご希望を持っておられるかというのを積極的に、参加する住民の方のご希望を積極的につかまえに行くのも広報の仕事だと考えています。ご指摘ありがとうございます。

【豊島主査】  どうもありがとうございます。
 それでは、本日の主な論点でありますゲノム情報、診療情報等の集約、解析研究の箇所を中心に議論していきたいと存じます。
 まずは東北大学より、実施計画骨子案のゲノム情報、診療情報等の集約、解析研究について、再度ご説明をお願いいたします。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  ありがとうございます。
 まず、ゲノム情報、診療情報等の集約について、この骨子案に沿って簡単に説明をさせていただきたいと思います。骨子案の15ページをごらんいただけますでしょうか。15ページに3という項目で、ゲノム情報と診療情報等の集約、解析、それらのデータの共有化という項目がございます。概要と目的のところですけれども、15万人の生体試料とそれに付随する健康情報、診療情報等を基盤として、さらに先行する国内の他のコホート事業等と連携して、大規模なバイオバンクを構築する。これが本プロジェクトの大きな目的です。
 この集めたバンクについては、国内外への公平な分配とガバナンスの確保された大規模共同研究へと発展させたいと考えております。生体試料からゲノムやオミックス情報を取得し、健康情報・診療情報と集約した網羅的な基盤情報を創出して、国内外と共有するシステムを構築したいと考えております。東北大では、被災地で増加する疾患等の分子機能解析研究などを進めることで、個別化予防、個別化医療等の次世代の医療を実現して、被災地の住民に提供したいと考えています。特に、疾患に関連する遺伝子や環境要因、薬物動態に関連する遺伝子等についての同定を試みて、十分に信頼性の高い結果が得られた場合には、患者や東北地区の住民の方にフィードバックすることも将来的に検討していきたいと考えています。
 網羅的な解析の必要性ということについて、少し申し上げたいと思います。(2)です。ゲノム解析手法の発展は非常に早くて、すばらしい発展を遂げているわけですけれども、そういう基盤に立ってみると、ゲノムコホート研究では、個人のゲノムを詳細に決定し、健康・疾患との相関性について議論することが求められている時代であると考えています。個人ゲノムの解析が進むにつれて、個々人の間にはゲノム全体で数百万カ所の塩基配列が異なることも判明しています。この塩基配列の相違が、頻度の高い疾患、common diseaseの発症にかかわっていることはある程度証明されていますが、その病気への寄与が比較的小さいこと、またこのようなデータが欧米人の解析結果によっている場合が多くて、日本人とは遺伝的に異なっていることもあわせて知られています。
 これまでのような解析法による遺伝的素因と疾患発症の関連を想定した臨床研究を、より精度の高いものにするためには、高頻度の遺伝子変異、common variantに加えて、病気への寄与が比較的大きいのですけれども頻度がそれほど高くない、低頻度の遺伝子変異、これを私たちはrare variantと呼んでいますけれども、rare variantの解析を行うことが重要であると考えています。遺伝子情報・オミックス情報と健康情報・診療情報を集約することで、疾患の予防や診療精度の向上、治療効果の向上を目指した個別化医療の実現を目指すことが可能になるものと考えております。
 Rare variantの解析には、まず日本人及び宮城・岩手の県民の標準的な塩基配列とvariant頻度を決定することが必須であると考えています。私どもがこのようなrare variantの解析が必要だと考えるのは、そこにありますように、1)から4)までのようなデータが知られてきているからです。経験的な遺伝子のデータから病因となる変異は希少である、比較的まれである。まれな遺伝子変異が、幾つかの精神疾患と関連しているということもわかってまいりました。全エクソン解析から、rare variantが大きな効果を持っていることも示されてきています。さらに、同じ連鎖不平衡領域にあるrare variantが、common variantの効果を説明できる場合もあるということが知られてきています。
 このような遺伝子解析を行い、目的を達成するために、具体的には、以下AからDまでの4項目を実施したいと考えています。大体5年を目途に行いたい。それで、Aですけれども、日本人の標準ゲノムセットを作成したいというふうに書いています。これの目的では、他のゲノムコホート、バイオバンクとの連携が非常に重要であると考えています。そこでは、やはり疾患と遺伝的な要因を検討する際に地域差があると。遺伝的背景の地域差が重要であり、これを考慮しないと、遺伝要因解析において偽陽性や偽陰性を見誤る可能性があるということがわかってきているからです。
 それで、日本人の中でも地域差を示す遺伝子多型リストをつくる必要がある、保有する必要があるので、これまでの先行する全国のゲノムコホート、バイオバンクの検体、それから私どもの集める地域住民コホート検体について、GWASのデータや全ゲノムのデータを比較し、さらに先行するバイオバンクジャパンや他のコホート事業との連携を行って、現在ゲノム解析を必要とする検体の解析をなるべく早く実施することによって、このような標準的なゲノムというもの、それからゲノムの地域差というものを明らかにしていきたいと考えています。
 それで、具体的にですけれども、2年間で平成26年の3月までに、全ゲノムを3,000人読みたいと。それで、各染色体座位における日本人のアリル頻度を、variant頻度0.5%程度まで決定したいと考えています。この場合には、1人についてのゲノム塩基は10回ほど読む、Depth x10ということで考えています。これまで、日本人のゲノムが欧米人と相当程度異なることは報告されていましたけれども、数千人規模で全ゲノム配列が決定されるということはないので、日本人にどのような頻度で、どのようなバリエーションが存在するかを確定し、疾患関連遺伝子の抽出に対する対照配列として活用できると考えています。
 今後、次世代シークエンサーの精度向上とコストの低減等が期待されますので、なるべく最新鋭の技術を使うことによって、コホート参加者のゲノムについても、可能な限り全ゲノムを読む。それから、全ゲノムを読むと同時に、GWAS解析と同様の候補遺伝子座の絞り込みにも取り組んでいきたい。スクリーニング検査も実施し、解析も実施していきたいと考えています。
 ページをめくっていただきまして、17ページの疾患関連のアレルをどう探していくかということですけれども、これについては、今後被災地で増加することが懸念されている、発生頻度の高いPTSD・うつ病等の精神疾患や感染症、それから子どもへの健康評価が大きくて発生頻度の高い障害であるアトピー性皮膚炎やADHD、ぜんそく、自閉症などのサンプルについて、解析を行いたいと思います。それで、シークエンサーの読み取り能力が大きく向上すると期待して、平成26年の4月から平成28年の3月までに約8,000人の全ゲノムを30回読む、Depth x30で解析したいと考えています。これについて、疾患を発症したサンプルに特徴的に見られる変異を、先ほどAで申し上げました標準のシークエンスのvariant頻度と比較することによって、疾患に特徴的なvariantの同定を行いたいと思います。さらに、variantを持つサンプル内での健康情報と発症との相関を調査することで、環境要因の発症への寄与度を調べていきたい、決定したいと考えています。
 ゲノムシークエンスによって得られるデータと、これと連結する環境要因のデータ、診療データなどから膨大な情報群が形成されると思いますが、ここから医学的に意味のある要素を抽出することは、相当な困難を伴うと考えています。そこで、ここについてもバイオインフォマティクスを駆使した解析手法を開発していくというような、技術的な開発をあわせて行っていきたいと考えています。この目的で、新たな臨床検査法の開発や新たな技術開発のために、民間企業等とも積極的に連携を行っていきたいと考えています。
 3番目に生命情報科学解析ですけれども、実際にDNAのシークエンスが決まった後で、そこから1塩基多型を探していくというのは、そこにありますように5つのステップに分かれるのではないかと考えています。最初は、シークエンサー由来の画像データから配列データへの変換をスムーズに行うというベースコール。それで、そこにありますような変異部分を決めるというので、最後の(5)としては変異の意味を解釈する相関解析に進むと考えています。
 私どももこの(5)を調べていきますと、それぞれのステップが一通りできる基本的なソフトは利用可能ですけれども、その組み合わせによっては結果が大きく影響を受ける可能性がありますので、このデータ解析戦略としては、まずパイロット解析をやり、そして、その解析とキャピラリーシークエンスでしっかりとシークエンスを決めたものとを合わせることによって、精度の高い解析パイプラインの構築を行いたいと考えています。並行して大規模ゲノム解析を行うわけですので、特に最初のデータをとるところ、データの移送する部分について、ステップ1のところですけれども、ここについてはハイスループット化を行い、効率のいいデータ処理を打ち立てていきたいと考えています。
 後半の相関解析のところでは、標準的なパスウェイ解析に加えて転写開始点のデータベースを見るとか、それから遺伝子共発現のデータベースをつくるとか、私どものところでデータを蓄積してきた技術等も生かして進めていきたいと考えています。この項目の最後のところはセキュリティーということで、後ほどご説明させていただきたいと思います。
 最後にDとして、オミックス解析ですけれども、私どもは三世代コホートをやる、小児疾患をやるということを申し上げています。小児疾患の遺伝学的な素因の解析には、ゲノムだけではなくてエピゲノムやトランスクリプトーム、プロテオーム等の生体機能分子の網羅的解析を多角的・統合的に実施すること、これを私どもはオミックス解析と呼んでいますが、これが重要であると考えています。こういうことを通して診断マーカーを特定するようなことができれば、将来の予防法の確立、治療標的の検索に役立つのではないかと考えています。
 それで、オミックス解析ですけれども、これをすべてにわたって行うことは物理的に無理ですので、全ゲノムを解析した症例をもとに、ランダムに200家系、1,500例程度を抽出して、血液タンパク質を対象にしたプロテオーム、また、代謝物を対象としたメタボローム、リンパ球を解析対象としたトランスクリプトーム、さらに質量分析計による血清タンパク質スペクトル解析等を実施してみたいと考えています。特に学童期には40%程度の子どもが鼻炎など何らかのアレルギー性疾患に罹患すると考えられますので、両親や祖父母もあわせてアレルギー体質が存在するものを、年齢と相関する遺伝子発現の変化を解析して、年齢とともに症状の変化の予測アルゴリズムの設計を目指したいと考えています。あわせて血清タンパク質スペクトルによる早期診断の可能性も追求していきたいと考えています。
 さて、次に生体試料、データ、成果の共有ということですけれども、ここについては、Aのところにありますように解析結果は、あらゆるチャネルを通して研究者コミュニティーに原則として広く公開したいと考えています。一方、バイオバンクに保管された個別の生体試料とその関連遺伝子の情報については、試料分配審査委員会において審査して、合理性が担保されているものについては匿名化等の適切な処置をした上で原則として提供していきたいと考えて、民間や国外へも広く分配するものとしますが、そのときには個人情報保護等のセキュリティーを十分勘案して審査していきたいと考えています。
 さらにCで、遺伝子解析の結果得られたデータですけれども、これについては公開の方向で、JSTのナショナルバイオサイエンスデータベースセンター等と協力して、広く公開を検討していきたいと考えています。
 さて、このコホート事業によってどんな疾患がまな板の上に乗ってくるかということで、予想される疾患ですけれども、もちろん前向きコホートですので、どういう疾患が出てくるか、出てきたものを解析するのが基本になりますけれども、予想される疾患としては、地域住民コホートや、それから三世代コホートのうちの父母・祖父母の世代では、被災地で今後増加することが予想され、国民全体への影響が大きく、発生頻度の高い精神疾患、感染症、脳血管障害、高血圧性疾患、虚血性心疾患などを主な解析対象としていきたいと考えています。がんについても検討対象にしようと考えているのですけれども、なかなかがんは難しいので、準備がよく整った、およそ5年後の第2段階から本格的な検討対象にしていこうと考えております。
 一方、地域子どもコホートや三世代コホートのうちの子どものところですけれども、これは子どもの病気になりますので、主な解析対象の疾患としては、発生頻度の高いPTSD、うつ病、精神疾患、及びアトピー性皮膚炎、ADHD、ぜんそく、自閉症などと考えています。解析対象や手法の詳細については、先行コホートの知見やパイロット調査の結果等を踏まえつつ、今後も引き続き検討していきたいと考えていますが、子どもの病気については、この解析期間内にある程度の結果が出て、それで社会に還元できる成果を上げることが可能ではないかと考えています。
 地域子どもコホートのスクリーニングによって早期に同定されてくる各種疾患症例においては、全ゲノム解析によって個人に適切な治療法選択を実施できるゲノム医療を早期に実現し、次いでエクソーム、全ゲノム解析等によって疾患の原因解明を行って治療の分子標的を明らかにし、より有効な新たな治療法の解析を試みていきたいと思います。中長期的に見ると、三世代コホートで集まる出生児の健康情報を追跡することで収集される症例については、前向きデザインによる検証と、より有効な治療法の開発が可能になると期待されています。
 それから、先ほどのBで発見された発症にかかわるvariantに関する高い精度を持った大規模スクリーニング法の開発を行いたい。特に、ある特定のvariantを持つ場合には、発症に強く関与する環境要因の存在が特定されれば、当該variantを発症前にスクリーニングし、環境要因を制御することにより発症が予防できると考えています。
 22ページをごらんください。実施に必要な環境整備で、ここでは概要と目的として、主に人材面、それから倫理と法令面について触れてあります。人材については、先ほどのパワーポイントでご説明いたしました。それから倫理や法令面については、これは非常に大切で、これがこのプロジェクトを進める上では重要部分であると思います。それで、先ほど申し上げましたようにワーキンググループを立ち上げて、全国の方々の英知をいただいて、それで進めていきたいと思います。具体的には、先行コホートの事例等を参考にしてインフォームド・コンセントの内容を固める、それから共通化を進めていくというようなことをやりたいと考えております。
 (2)で具体的な実施ということですけれども、ここにありますのは先ほどの教育コースのことなのですが、一言だけ述べさせていただきますと、東北大で育てていく部分と、広く全国からこのプロジェクトに参加していただく公募をするという部分とを重ね合わせていきたいと考えています。
 23ページには、具体的にここで必要な医師、それから医療系スタッフ、特に臨床研究支援者としてGMRC、データマネジャー、それからメディカルクラーク等を積算した結果がお示ししてあります。これらの方々と一緒にこの事業を進めていきたいと考えています。
 最後に、倫理的な課題の検討というところですけれども、24ページにございます。この24ページについては、インフォームド・コンセントを非常に包括的な同意取得、個別化医療、産業利用の目的も含めるようなゲノム情報等の利用に関する同意取得ということで、この点を考えていきたい。それから医療情報ネットワークを通じた診療情報の収集に関する同意取得の考え方についても、現在、国立がん研究センターで実施されているゲノムコホートfeasibility study(FS)等の先行コホートの事例を踏まえて、早急に暫定版を作成し、パイロットスタディーを実施したいと考えています。また、その結果を踏まえ、本格調査に使用するインフォームド・コンセントのあり方を検討し、関係機関と統一的な方針のもとで確定したいと考えています。個人情報・生体試料の保存方法、対応表の管理、遺伝情報の開示、得られた知財の帰属等については、ゲノム指針の改正内容等を踏まえつつ、先行コホート事業の例も参考にしながら具体化していきたいと考えています。長浜コホートのように、必要に応じて条例の制定等も検討していきたいと思います。
 それで、診療所のこと、ICT化のことについては、前回詳しくご説明いたしましたので、この骨子案の前のほうのところをごらんいただければと思います。
 私の説明は以上です。

【豊島主査】  どうもありがとうございました。
 この後は、ただいま東北大学からご説明がありましたゲノム情報、診療情報等の集約、解析研究に関する議論を進めていきたいと存じます。議論の参考にしていただくために、第1回に各委員からいただいた主な意見につきまして、事務局でまとめたものを資料3として配付しておりますので、そちらもご参考にしていただければ幸いです。
 それでは、何かご意見のある方からお願いいたします。
 どうぞ。

【金岡委員】  知財についてコメントさせていただきたいんですけれども、こういうプロジェクトから将来的には創薬とか、あるいは診断といったことについて事業化ができればいいなと思うんですが、そういう事業化というようなことを考えたときには、知財というのは非常に重要なファクターになるかと思うんですね。実際このプロジェクトの中でも、例えばオミックス解析等で創薬の種になるもの、あるいは診断マーカーといった成果、知財化可能なそういう成果が出てくるかなと思うんですが、今回この骨子案、あるいは先ほどの組織図を見ましても、知財のことについてほとんど全く触れられていないんですけれども、ぜひ知財の確保といいますか扱いについて、どういう方針で臨むかという方針を定められて、それからそれに沿った、例えば特許出願等の戦略的な進め方、その前に知財に精通した人の人材確保というのもあるのかもしれませんけれども、ぜひそういった知財の扱いについてもしっかり考えていかれることをお勧めしたいと思います。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  ご指摘ありがとうございます。ほんとうにご指摘のとおりで、そのとおりだと考えています。
 本日少しだけ触れて、あまり詳しく説明いたしませんでしたけれども、まずこれに対しては金岡先生のお話のように、私たちはやはりこれを企業、民間に対しても、このバンクの利用を積極的に開いていきたいと考えています。それで、ぜひ使っていただきたいと考えています。
 では、使うときの知財をどうするかということですけれども、1つはやはりバイオバンクの事業を進めていく上で、今後長い、生まれた子どもについては生涯見守るくらいのつもりで、これをやりたいわけですので、できれば少しでも財政的なところを安定させるという意味では、知財をしっかりやっていきたい。今、少し内部で検討しているのは、知財についてのワーキンググループをつくって、それで人材をリクルートしてということを考えてはいるのですけれども、それは今ほかにもたくさんのことがあるので、今回は申し上げられませんでしたけれども、問題意識を共有させていただきたいと思います。

【豊島主査】  どうぞ。

【成宮委員】  まず、そもそもこの東北メディカル・メガバンク計画というのは、被災地の医療復興を一番の目的としているというふうに理解しております。診療情報とゲノム情報あるいはその他の情報の連関と申しましても、診療情報がきちっとしているかどうかということが一番大事です。一体今の被災地での医療の現状はどうであって、それをどう復興して、このようなバンク構想に結びつけるのか。そこをまずお伺いしたいと思います。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  成宮先生、ありがとうございます。
 私から少しお話しした後で、もっとよくわかる人にお願いしたいと思うのですけれども、被災地は、宮城県の医療復興計画というので、公的病院だけでも6病院、それから診療所等を入れるとほんとうに数十という、100に近いような診療所が流されていますので、そういうところを実際に復興していくということで、地域医療再生基金等の支援を得ながら、ようやく復興が足についてきました。一方で、今まで全国の方たちから支援をいただいていたのですけれども、そこが何とか落ちついてきて、地元の診療所をやっていた方の医療機関の方たちが仕事も始まってきています。けれども、まだまだそこのところはもとに戻ったかというと、とてもそんな状況ではないのですが、それについてはさらに詳しくご説明を、岡部部長、お願いできますでしょうか。

【岡部委員】  県内の医療関係の状況でございますけれども、全体として病院・診療所等につきましては、全県下では97%ぐらいまで回復はしているんですが、被害の大きかった石巻で86.8%、それから気仙沼では72%ということで、やはり地域的にまだ再開されていないところもあるという状況でございます。ただ、それにつきましては、居住地がほとんど津波をかぶっておりますので、それを再生していくということになりますと、高台移転とか、そういった町づくりに大変時間がかかるという状況もありまして、そういった面についてはかなり時間がかかるということにはなっておりますけれども、そういったことも含めて現在、後方支援病院とか、内陸部のほうでそういったものを補っている状況にはなっているところでございます。
 先ほど機構長からもお話がありましたけれども、厚生労働省からも支援をいただきまして、長期的にいろいろな復興・復旧、あるいは人材確保のための財源的な手当てをしていただいておりますので、関係の医療界全体で復興の方向性を定めて、それを着々と進めていくという状況にはなってございます。

【成宮委員】  これは前向きコホートなので、住民が安定してそこにおられるということが前提になっているわけです。医療が不安定ではこういう前向きコホートでこれから5年、10年にわたって追跡できないと考えられます。ですから、とりあえず、とにかく医療を安定化する、住民の方に安心をもたらすということがあってこそのコホート事業だと考えます。この点に十分ご留意いただいて、実際にそれが今できる状況なのかどうなのか。もちろん、この間説明があったと聞きましたけれども、エレクトリックヘルスレコードを整備するとか、そういうこともあると思いますが、そもそもは日常医療、患者さんが信頼して医療機関にかかれている状況なのか、医療機関が患者さんをすべて把握できる状況なのか。これらが非常に気になっているところでございます。ぜひお考えいただきたいと思います。

【岡部委員】  ちょっと補足させていただきます。
 ご心配の向きは当然かと思います。あれだけの1,000年に1度という被災でございますので。ただ、通常の医療機関の復旧だけではなくて、さまざまな健康調査といった面につきましても国のほうで手当てをしていただいておりますので、それから仮設の診療所につきましても被災地につきましては設置をさせていただいてということでやらせていただいております。もともと特定健診といったところは全国的にも1、2位という県でございますし、がん検診をはじめ、ほんとうに全国的に健診につきましては意識の高いところでございますので、そういったところも含めていろいろ関連性を持たせていくということでございますので、そういったところにつきましては、やはり地域の方々に十分理解をしていただくような説明を十分やっていただくということで、何とか補っていくということになるのかなと思っております。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  それでもう一つ、やはり宮城県の医療の復興を担っておられる宮城県医師会の桜井副会長がお見えですので、桜井先生からもご発言をいただけませんでしょうか。

【桜井宮城県医師会副会長】  私はもっと赤裸々でございますので。やはり一番うまく残ったのは気仙沼市立病院と、それから石巻の日赤病院です。そのほかのところでまともに残ったところはほとんどありません。今は仮設診療所のスタイルで動いています。ですから、土台は松の木で、その上にプレハブが乗っかっているという感じですね。
 まず、今のところはまだ住民が戻っていませんので、そこに大きな施設を建ててもお客さんがいないという感じです。ですから、まず基盤整備ができ上がって、その上に住民が戻って、そして患者さんが出てきてというのですから、順序がある。まだ住民が水をかぶっているような状況ですからね。まだそこに産業が、まず回復させないと、なかなか人は戻ってこないんじゃないでしょうかね。
 ですから、今のところはちょっと小康状態で、大学と、それからあとは結構、全国の先生方の支援がありますので、まあ、患者さんが少ないというのも1つはありますけれども、バランスがとれた医療が行われています。これからだんだん産業が復興してくるとともに人が集まってきて、やっと今度は本格的な復興ができてくるんじゃないでしょうかね。この間の委員会でもゆっくり、ゆっくりという意見が出ていましたけれども、やはりある程度時間をかけないと、人がいない。人がいないというのか、対象がいないというのか、そんな感じはしないでもないですね。
 ただ、何しろそういう意味では、大学と医師会との関係は緊密ですから、話し合いのもとに、そのときに応じて対応すると。先ほどから県の局長さんも心配していましたけれども、その辺は、このゲノムの研究の位置づけということはそれなりにされています。これは先ほど先生がおっしゃったように大きなものの中の一部ですから、大きなものがちゃんとしないと、この研究は進まないということになるでしょうね。そういう印象を受けています。

【豊島主査】  ほかにご質問、いかがでしょうか。
 今のご意見も入れまして、全体として、やはりスタートに十分時間をかけて、十分環境を整備して、それでスタートしてくださいということですよね、基本的にはね。

【桜井宮城県医師会副会長】  はい。

【豊島主査】  だから、その間におそらく、ワーキングと先生がおっしゃっていた、ああいうものが十分に計画を練れる時間が、むしろあるということを前向きにとらえて、非常にそういう意味では組織立った、うまくやれる形で、しかも住民ともコミュニケーションを十分とれるような状況をつくってやっていくということだと思います。
 ほかにいろいろご意見あるかと思います。いかがでございましょうか。

【成宮委員】  よろしいですか。
 構想の中に、山本先生がおっしゃっているrare variantを重視するということがあります。rare variantはもちろん、出てくれば非常に大きな意味があると思いますが、これはこのような前向きコホートの中で、8万人規模で、どれくらいrare variantが見つかることが期待されているるのか。むしろ疾患コホートで関連解析したほうがrare variantが見つかるんじゃないか。この点、メガバンクでrare variantを重視してやられるというのはどうなのかなと考えます。この点はいかがですか。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  貴重なご指摘、ありがとうございました。このrare variantを探しに行こうと考えたのは、今までも例えばGWASというような手法を使ったりして、疾患と遺伝子変異の関係がしっかりと解けてきていて、成果も上がっているというのは十分に私どもも理解しています。それも大切なことだと考えているのですけれども、とにかく今から重要なのは前向きコホートと考えています。単一の遺伝子変異で、影響がものすごく深刻なものは先天代謝病ということで、先天異常ということで見つかる。一方、GWASで見つかってきた、比較的たくさん見つかるcommon variantですけれども、1つ1つの変異の影響は軽いというものもたくさん見つかってきている。ちょうどその間で、よくわかっていない、これまでよく調べ切れていない、ある程度影響も深刻だし、それから単一ではなくて、ある程度の数は見つかっているというrare variantを、私どもはやる必要があるのではないかと考えています。
 それで、サンプルサイズとか検体数とかいろいろなことを考えて、これについては少し私どももfeasibility studyをして、おそらくこの結果で見つかるのではないかと考えたのですけれども、そのあたりはゲノムの解析を担当しています私どもの五十嵐教授から、少し補足していただければと思います。

【五十嵐教授】  ゲノム解析部門を担当しております五十嵐です。ご質問の点に幾つか補足させていただきたいと思います。
 現状、いわゆる5%以上の頻度の数が大体10の7乗ぐらい登録されているかと思います。これよりも頻度の低い、いわゆるrare variantがどれくらいあるかというのは、まだ現在世界中で探索が始まったところですので、明確な数字はまだわかりませんけれども、おおよそ一般的に言われているのが、この1/10程度はあるだろうと。5%以下、1%以下のrare variantです。
 機構長が今触れましたように、そういったrare variantというのはGWASで見つかってきました頻度が高くて寄与度の低いような多型と、それから家系を形成するような寄与度が非常に高くて、でも頻度が低いような変異の中間というふうに思われます。で、統計遺伝学的に検討しますと、そういったものがないということは絶対ないだろうということです。ですから、やれば必ず見つかってくるだろうと思います。
 その規模ですけれども、私たちはrare variantの頻度で0.5%、あるいは0.1%の頻度まで含めてどの程度サンプル数が必要かとシミュレーションしています。そうしますと、おおよそここに書かせていただきましたように2,000から3,000人の人をシークエンスして、シークエンスの深度としては10倍。これは10倍といってもゲノム全体でいくと多分4倍から8倍ぐらいの平均なのかと思いますけれども、それぐらいの深度でやると、その集団の中から2人以上にある多型は0.9ぐらいの捕捉率で見つかってくるのかなという、そういったシミュレーションをしているところです。
 以上です。

【豊島主査】  いいですか。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  この場合、今、成宮先生のお話しになられたように、ケースとコントロールのスタディーもすごく大切だと思うのですけれども、何と言ってもこれは前向きコホートでやりますので、例えば死亡とか、ほかの病気への罹患とか、それからいろいろな環境の要因の変化というものが、イベントが蓄積した形で、この遺伝子変異と重ねて解析できるということでは、前向きコホートの利点と思います。それからrare variantだとシークエンスを決めて、初めて見えてくるという点を含めて、GWASももちろん大切でやるのですけれども、今回はやはり、シークエンスに挑んでいく時期と考え、このプロジェクトではシークエンスをやってみたいとご提案したいと考えています。

【成宮委員】  Rare variantがリダクションできるかどうかは、この8万人規模の候補の中で、どの病気が何人ぐらい芽生えるかとか、そういうことによると思います。rare variantが見つかれば大きなインパクトがあるので、もちろんそれを目指していただきたい、国費を投入するからには目指していただきたいと思います。しかし、それと同時に、やはりこのコホートは震災で、先ほど桜井副会長が言われましたけれども、非常に身体的あるいは精神的にものすごいダメージを受けた人々がそこにおられるわけです。ですから身体的な、あるいは精神的なダメージという環境因子が、遺伝因子と相まって何を起こすかというのが一番大事な解析点だと思います。山本先生が言われたPTSDとかうつとかは、非常に大きなことが出てくるんじゃないかと思って期待はしています。その場合に、やはりそういう環境因子のアセスをしなくちゃいけないので、その環境因子のアセスメントのために対象コホートを並行して立ち上げて、同じようなcommon variantがあったとしても、高度な精神的・身体的ストレスのない状態では発症しないとか、そういうことをきちっと確認していかないと、コホートで結論をだすのは難しいんじゃないかと思います。この点は十分お考えくださるようお願いしたいと思います。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  今のご説明、よく理解いたしました。

【豊島主査】  今のポイントに関しては、この前も少し話がありましたけれども、東北ではやり切れないところがあるので、これは全国レベルで、ある程度別のプロジェクトを組んでいただかないと仕方がない面がある。ただ、やはり今の東北の置かれた状況というのは、普通にある状況ではないから、ぜひこの点できっちりとした基礎を築いておいていただきたいと。そうしたらほかと比べられるチャンスが出てくるということで、やはり考えていかないと仕方がない面がかなりあるだろうと思って、それは政府側にもお願いしたいところなんですが。
 何か。

【桐野委員】  少し変わるかもしれませんけれども、今、既にコホートがある程度うまくいくようになって、一定のサンプルが解析できるようになって、どういうことをするというお話だったんですが、私個人は最初からこの計画は相当な難事業なので、コホートが実際に動き始めて一定の数が集まるところまでが相当大変なんだろうなと思っておりまして、今先生方がご説明されたような解析を行うためには、かなりの数のゲノムサンプルが必要であろうというところは私にもわかるんですけれども、そうすると25ページ、一番最後のところに、第1段階の大体の目安が書いてございますけれども、これも相当頑張ったプランではないかと思います。地域住民コホートだけで4年間で8万人ということですので、1年間に2万人ずつ、1年250日この作業を行っても1日80人ずつやっていかないといけないというので、これ自身もかなり頑張った計画だと思いますが、もし5年間、先生方が一生懸命おやりになったときに、どれぐらいこの目標が達成できれば、今先生が言われたような解析にかかるんでしょうか。つまり、これを全部集め切らないと意味のあるデータは出ないようなものなのか、それとも大体半分、3分の1ぐらいでも何とか実施可能なレベルに行くかなという、その辺の先生の見通しというか心づもりみたいなものがあれば、聞かせていただければありがたいと思います。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  桐野先生、ご指摘ありがとうございます。
 まず、ここにお約束の数字を出したので、これをなるべく達成したいというか、超過達成するぐらいにやりたいと考えています。ここはやりたいのですけれども、数が足りなかったときにどうかというご質問ですが、一応ゲノムは先ほど3,000人という話をし、さらに8,000人というお話を申し上げました。それは平成26年から平成28年までで、さらにゲノムを解析したいので、大体最終的には2万人ぐらいのゲノムを解析したいと考えています。
 ということを考えると、全部を解析するわけにはいかないので、実際にはこれの例えば6万人が集まる、もしくは一番少なくても4万人集まれば、その中から半分をランダムセレクションできるわけですから、できるとは思うのですけれども、最初からそんな弱気なことはなかなか申し上げられないので、今ご質問に答える形ということで、できればこの目標をきちっと達成してお約束を果たしたいと考えています。
 私からだけではなくて、疫学を担当している栗山教授、お願いします。

【栗山教授】  ご指摘ありがとうございます。
 こういった場合、前向きコホート研究ですので、例えば8万人とお約束しているところを6万人であったら何ができるかというようなことは、既に国立がん研究センターの皆様が、同様のものを6万人の20年分の追跡のデータをお持ちで、それを検討されておられます。もし6万人であれば、そちらから学ばせていただいて、何ができるか。それがまた5万人であれ、4万人になれば何ができるかというようなことを、逐一検討していきたいと思っております。要はその中でできる範囲のこと、ただ最終的にはもちろん8万人を目指しているということです。

【高井委員】  ゲノム研究のほうは、シークエンスすれば結果が出てきますよね。オミックス研究のほうなんですが、エピゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボ、たくさん書いてありますけれども、なかなか実際はデータが出てくるのが複雑だし、メソドロジーも現在、世界的にまだ開発されている最中で、何がいいかわかりませんよね。これを例えばコホート研究に使うとすれば、かなり細心にマニュアル化して比較できるようにしないといけないですよね。何例かの疾患が書いてありますけれども、すべてのオミックスをやっていくのか、何かの疾患にフォーカスして、そのフォーカスした疾患だけはかなりの成果を上げるとか、その辺はどのように考えておられるのでしょうか。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  ありがとうございます。ほんとうにお話のとおりだと思います。ここはフォーカスしていかなくてはいけなくて、特にオミックスの場合は全部をやるのは絶対無理なので、先ほども申し上げましたように、全ゲノムを決めた中からランダマイズして、ある数を選んできて、包括的なある家系を選んできて、包括的なオミックス解析をやりたいと思います。
 それで先生ご質問の、対象の疾患として何を考えるかなんですけれども、私ども今回は三世代コホートということで、子どもが出てきます。それで、子どものアトピーや自閉症というようなものが出てくるので、特に子どもの解析、子どもの病気で早目にあらわれる病気の解析を、ぜひこのオミックスの解析の上にのせていきたいと考えています。それは早期の診断マーカーにつながれば、うまく予防ができるかもしれないので、特に子どもの場合にいいと思うのです。 五十嵐先生は何か、よろしいですか。

【五十嵐教授】  あとそれから、対象の分子の絞り方というか、集中する点ですけれども、東北大学はタンパク質の絶対定量で独自の技術を開発しておりますので、プロテオミクスは非常に特色を出せると思っています。あと、例えばRNAのトランスクリプトームなどに関してはほかの施設で非常に先駆的な研究をされているところがありますので、そういったところもしっかり連携をとりながら、ということを考えております。

【河野委員】  前回もちょっと似たことを申し上げたんですが、ここでターゲットになっている疾患というのは環境要因が非常に深く関与しているものですので、もしその予防ということを考えた場合には、遺伝子解析だけではなく環境因子も、これは最後のほうの20ページあたりにも書いてありますが、解析が必要であろうと。その場合には、遺伝子解析のアプローチと全く違ったアプローチが必要で、環境因子の分析ですね。それについての体制というのは、どのようなお考えなんでしょうか。

【八重樫東北メディカル・メガバンク副機構長】  現在、環境省のエコチル調査というのが走っておりまして、まさにそれを解析している。その手法をそのままそっくり、いろいろな意味でこちらに利用させていただきたいと考えております。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  少しだけ補足させていただきますと、ほんとうに前回先生がお話しのとおりで、体外での環境因子への曝露等が生まれてきたとの表現型になると。それで、それはよくわからないけれどもエピゲノムじゃないかとか、いろいろなことが言われているんですけれども、そういうことに対して、この研究では環境要因も、私どもは前向きコホートですのでつかまえられるわけですので、そういうところに成果を出していきたいと考えています。

【河野委員】  環境要因の場合、エコチルなんかもそうなんですが、生物学的な解析ですとか、環境要因の具体的な検証システムがあまりできていないですよね。ですから、単に観察研究だけでは、その環境要因の生物学的意義づけというのはなかなか難しいのが現状なわけです。この遺伝子のところも、そのコホート研究において、やはりそのような検証も必要じゃないかと思うんですが、そういった観察研究と疫学研究以外の生物学的な解析システムというものは、別で構築されるご予定なんでしょうか。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  先ほど八重樫教授からのお話もありましたけれども、エコチル研究では臍帯血等で保存しておいて、後で発症したときに、どんな化学物質に曝露していたかという解析を行う研究なのですけれども、エコチル研究では、あまりゲノムのことをエンファサイズされていないので、私たちは曝露系についてはそちらで、臍帯血があればどんな化学物質に曝露されたのか、ダイオキシンだったのか何なのかというようなことを含めて、さらにその子の遺伝子情報もミックスして解析に向かっていきたいと考えています。発症する前からの解析というか、前向きコホートの最初のところで非常に微妙な解析というのは、やはりそのように難しさがあるというふうに考えています。

【豊島主査】  いかがでしょうか。

【成宮委員】  先ほどオミックス解析の話が出ましたが、高井先生が言われたように、オミックス解析、特にメタボロミクスは技術も発展途上と思います。文科省にも要望したいんですけれども、日本では、様々なオミックスがばらばらに発展してきているんですね。東北大学のスキームで見ますと、すべて自前でやりたいという様子ですが、ほんとうに自前でいけるんだろうかと思います。
 これまでいろいろなところで発展してきている技術を利用しない手はないと考えます。オールジャパンと言ったときに、オールジャパンをすべて東北大学に注ぎ込むんじゃなしに、トランスクリプトームは理研が優れた技術を持っておられるので、いろいろなところで拠点があるわけですから、これらをいかにメガバンクで生かしていくかとお考え願いたいと思います。そうでないと、各個ばらばらだと日本は全体として力は発揮し得ないんじゃないかと思います。ライフサイエンス課もそういうことを十分考えて、メガバンク構想も日本全体の基礎技術、技術基盤の発展に生かすという見方でやっていただきたいと要望しておきます。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  ほんとうにお話のとおりだと思います。私もそういうご質問が出たら、今のようにお答えしたいと考えていました。

【豊島主査】  いかがでしょうか。

【久保委員】  少し違うことをお話ししますけれども、ゲノムシークエンスをやっていって日本人の標準ゲノムのセットをつくる。これはまだ日本人のデータがないので、非常に大事なところだと思うんですけれども、書かれている内容が、今のシークエンスの機械を使った1塩基SNPを中心とした解析のことが中心に書かれてあります。けれども、短期間の間におそらくシークエンサーの技術も向上しますし、我々が既にやっている全ゲノムシークエンスでは、SNP以外の多型もかなり高頻度で存在することがわかっておりますので、そのあたりも含めていろいろなバリエーションがあるということを考慮しながら、あと機器の進展も考慮しながら、この研究計画をもう少し練り直していただくのがいいかなと思います。
 もう1点、また全然別の話になりますけれども、我々はオーダーメイド医療実現化プロジェクトというのをやっていますが、その組織図で言いますと、今日出された資料2の組織図とはかなり様相が違います。今日の組織図は東北大学の中のお話をされているということだと思うんですけれども、これは国の事業で、ビッグプロジェクトですので、おそらく東北大学だけの組織図ではなく、メガバンクとしての組織図がもう1つ別に存在するんだろうと思います。オーダーメイドプロジェクトでも、トップに外部の先生方から構成される推進委員会がありますし、その横には倫理問題を検討するELSI委員会、これも外部の組織で存在しますし、また試料配付に関しても、今のこの図ではメガバンクの機構の下のほうに入っているように見えるんですけれども、外部への試料配付も別組織として、オーダーメイドプロジェクトではさせていただいています。国のプロジェクトとして公平性を保ち、組織としての透明性、やっていることの透明性を確保する上では、この東北大学の中の絵だけではおそらく済まないと思いますので、そのあたりの組織図も考えていただけるといいかなと思います。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  よろしいでしょうか。
 ご指摘どうもありがとうございます。久保先生が最初の質問でおっしゃっていることは、私どもが、いい用語がないので標準ゲノムと言っているので、少し誤解を招いているところがあると思うのです。たくさんの方のゲノムを決めて、どのサイトにはどのくらいの変異があるのかということを決めていく。こういう標準ゲノムを持った人がいるというわけではなくて、変異の可能性、大体どのサイトにどれくらいの変異の可能性があるというカタログをつくることが、将来いろいろな疾患ゲノムに、日本人を使った疾患ゲノムを挑む人たちに対してお役に立てるのではないかということで、それを1つ申し上げました。
 それから、2つ目の組織図の点は、これは前回のご質問が、東北大学の中の組織図はどうなっているかというご質問だったので、東北大学の中のものを持ってきました。もちろん先生がお話しになられているように、この上に、東北大学の外に、これをスーパーバイズしていただくような組織ができていくものだと、もしくはつくらなければいけないものだと考えています。
 それで最後に、バイオバンクとしてこれを配るということをどうするのかというお話ですけれども、一応私どもの今の計画としては、試料分配委員会を東北大の中に置いて、外から外部の有識者の人たちにどんどん参加していただいて、公平性を担保するような形でできないものかなというふうに考えています。まだ集まっていないのでそこは検討中ですけれども、今準備しているのは、そんなイメージで準備を進めています。私どもだけがやるのではなくて、東北大の中に組織があっても、外部の方たちにたくさん入っていただいて、公平性を担保するというのはどうかと考えています。

【豊島主査】  いかがでございましょうか。

【高井委員】  研究環境の整備のところで、いろいろな人材育成をされるとか、実際、医師の先生が研究をしたりローテーションをするという話なんですが、教授の先生方の中で、このようなプロジェクトができる前からこのようなラインで研究された先生にとっては、その延長上でこういうことをされたらいいと思うのですが、必ずしも全員がそうではないわけですよね。そのときに、やはり東北大学の教員全員がこのプロジェクトのみをするわけにはいかないので、このプロジェクトに対するエフォートはどうするのでしょうか。あるいは、新たにそういう教授やリーダーをリクルートするとか、それはどういう計画になっているのでしょうか。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  ありがとうございます。前回、私の説明が少し錯綜していて、この点、誤解を招いて申しわけございませんでした。
 まず、循環型の医師派遣制度をつくるというときに、被災地の病院、診療所に行っている場合には、その人のお給料はそちらからもらってくださいというふうに考えています。その場合には、やはり支援の中心ですし、それからリクルート業務に関しても協力していただきたいと考えています。大学のほうには、何通りもあると思うのですが、大きく分けて2通りの人がいて、このメガバンク事業に協力したい、それで大学に戻ってきている間は研究をしたり、データをさらに解析したりというようなことをしている人はメガバンクで雇用し、それで被災地のリクルート、健康診断、巡回ということにも協力してほしいと思っています。それから、被災地の病院に支援には行きたいのだけれども、大学に帰ってきたら大学病院で高度先端医療のほうを自分はやりたいという方は、やはり大学で雇用する形です。メガバンクにも一定のご支援してくれるという形で広い意味ではメガバンクの所属にはなるかもしれないですけれども、給料は大学から出るというような形でやっていこうと考えています。
 それで、こういうことをやるための仕組みですね。どこの地域の病院ではどういう人が必要とか、どこの医局には協力してくれる人がいるとかというような、コーディネーションをするのがメガバンクの地域医療支援の一番の仕事じゃないかと思います。その目的で、もう何人もの地域医療支援の教授をリクルートしてきて、現実にニーズを調べていただいたりしています。やはり私たちは仕組みをつくり、運営していくところに一番の注力をして、実際に働いてくれる人たちは、その人たちの興味に応じてこのシステムに参加する。しかし私たちは大学として、その人たちのキャリアパスを応援するという意味で、循環型の医師派遣制度という言葉を使わせていただきたいと考えています。ほんとうにご質問ありがとうございます。

【豊島主査】  どうぞ。

【春日委員】  1つは、前にも申し上げたんですけれども、いろいろな今回得られた試料とか、あるいはDNA情報を、企業の方にも使っていただけるような形でのインフォームド・コンセントとか、その辺のとり方についてぜひ検討して、そういう形にしていただきたいなと思うのと、それから先ほどお話があった、やはり胎児の環境の影響を調べるという意味では、臍帯血は非常に重要だと思うんですね。その臍帯血はほとんどが胎児由来の血球成分ということですので、その血球成分を使ってエピジェネティックな変化も調べられたら、非常にいろいろおもしろいデータがとれるんじゃないかなと思います。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  ありがとうございます。ほんとうにお話のとおりで、やはりこれはインフォームド・コンセントをとる、包括同意をとるところで、将来に向かってこれは日本の臨床研究のための、ほんとうに日本全体の財産にするような気持ちで、包括同意のとり方を工夫していきたいと考えています。
 それから、先生もお話しのように臍帯血を、移植用にとるというと大量にとらなければいけないので、それは大変ですけれども、この調査のためにとるということであればそれほどの量ではないので、産院の協力が得られると思います。基本的には三世代コホートで子どもをリクルートしたときには臍帯血をいただこうというふうに計画をしています。ご指摘ほんとうにありがとうございます。

【中釜委員】  先ほどバイオバンクに関して、全体の研究計画、審査の透明性という点において、試料分配審査委員会の重要性を示されていましたが、広く有識者から委員を募るというのは重要と思います。同時に、実際に全ゲノム解析をすると、潜在的に非常に重篤な疾患が見つかってくる可能性もある。そういうインシデンタルファインディングに対する対応などを考えると、さまざまな疾患領域から専門的な意見をくみ上げるようなシステムを持つということも非常に重要と思いますので、ぜひそのあたりも考慮していただければと思います。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  ありがとうございます。基本的には、遺伝子解析の情報は戻さない方向で行こうと思うのですけれども、ただ先生がお話しのように、ほんとうに予防につながる有意義な情報というのは、限定的な形でお出しするようなことも考えなければいけないと考えています。その場合には、ここの人材育成というところでも出ていました遺伝カウンセラー、ほんとうの意味で高度の教育を受けた遺伝カウンセラーも必要だと思いますし、ほんとうに先生がおっしゃるとおりで、そこは私たちも今後、設計に取り組んでいきたいと考えています。

【門脇委員】  最初のご説明で東北メディカル・メガバンク機構の組織図を示していただいて、ありがとうございます。今日出た意見の中で、私がやはり非常に重要だと思うのは、オールジャパンのさまざまな英知を結集して、これを必ず成功させなくてはいけないということを、具体的にオールジャパンの体制をつくるというのはどういうことなのかということを、言葉だけではなくて具体的な全体計画の骨子案の中に、具体的に示していただく必要があるのではないかなと思うんですね。前回いろいろな意見が出ましたけれども、また今日もいろいろ意見が出ていますが、それをぜひ全体計画の骨子案の中に反映させていただきたい。
 例えば4ページの東北大学の推進体制のところで、本事業を推進する段階において、論点ごとに有識者を集めたワーキンググループ等を立ち上げるということで、それは前回の意見の集約の中にも書いていただきましたけれども、先行コホート研究や解析研究の実施者が計画段階から加わることが重要ではないかということで、実際に機構長のほうからは、計画段階からゲノム解析部門などに外部有識者を招くというふうにおっしゃっていただいたのは、非常に安心したのですけれども、実際にだれが見ても日本の英知を結集したというような形で、計画段階から今のサイエンティフィックな最先端のクオリティーで計画をつくることが重要ではないかというのが、概括的に私が感じたことです。
 2つ目に、各論的に言いますと、一般的にゲノム研究やコホート研究の今や常識は、コホートには大きく言って2つあって、それは地域住民コホートと、それから疾患コホートがあると。1つの中でそれを両方行うということは、いろいろな意味で極めてリソースの浪費になるということがわかっているのではないかと思います。すなわち、まず遺伝子を明らかにする疾患コホートは、今、世界の常識では数万人レベルのケースとコントロールがなくてはいけないということになりますと、このような地域住民コホートに疾患のさまざまな遺伝子を同定する役割をプライマリーに期待することは、そもそも科学的には不適切であると思います。
 従って、あくまでも、疾患の遺伝子についてはケースとコントロールが数万あるようなバイオバンクなどが、これまで相当数の遺伝子を日本人の中で明らかにしているわけですから、その遺伝子をもとにして、しかしながら、バイオバンクには生活習慣の情報がほとんどないんですね。ですから、オッズ比としては比較的小さいところにとどまるわけですけれども、それぞれの遺伝子がある生活習慣のもとではオッズ比が高まるということが、多因子病の基本的な理解ですから、そのようなGWASなどで明らかになった遺伝子を、詳細な環境因子・生活習慣情報をこの中で取得しながら検証をしていくという、このコホートは基本的には遺伝子を見つけるコホートではなくて、検証をするコホートとしてプライマリーに有意義なのではないかと思います。
 そうしますと、これは東北大学のメディカル・メガバンク機構に対するお話というよりは、もう少し文科省に考えていただきたいのは、是非オールジャパンで、例えば全ゲノムのシークエンスなど、これまでGWASでは見つからなかったようなrare variantの意義というのは十分に期待されますので、そういった研究についても是非サポートを引き続きしていただいて、そこで、疾患の遺伝子を同定して、しかし、それは生活習慣などが詳細に調査されるこの東北のコホートなど、日本に幾つかある、立ち上がるべき東北のコホートをはじめとする住民コホートで検証すると。そういった大きなグランドデザインで臨むべきではないかと私は思います。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  まず、最初の点の、オールジャパンで皆さんの英知でいいものをつくり上げていくという、全くおっしゃるとおりで、そのように努めていきたいと思います。
 それから2点目に、疾患コホートと前向きコホートの違いということで、門脇先生のお話しになるように、これは設計が前向きコホートですので、基本的には出てきた病気を解析するのですけれども、ただ、ある程度の仮説をもって前向きコホートをやるというのは、どうも前向きコホート疫学の方法論のようですので、少し疾患のことも申し上げました。ただ、私は先生と意見が全く同じなのは、これは力があるのは、疾患コホートのほうはケース・コントロールをやって病気の原因の遺伝子を見つけるのが疾患コホートの仕事、これは生活習慣等の非常に詳細な情報がついて追いかけていくわけですので、見つかってきた遺伝子の検証にも力を発揮できるものだということについてはおっしゃるとおりで、ただこれについても、この中から見つかってくる病気についてもそれなりの解析をしながら、両方でやっていくということかと考えています。

【門脇委員】  今の先生の意見に私は大賛成で、この規模の中で、かつ、このような大震災の後にその影響を受けて起こってくるような、多発してくるような病気については、原因遺伝子を調べるようなコホートになると思うんですけれども、むしろ一般的な生活習慣病であるとか、がんであるとかの遺伝子をこの中で見つけようというのは、やはり筋が違うんではないかと。逆に言いますと、文科省にぜひお願いしたいのは、このコホートの中で原因が見つかってくるべき病気の原因遺伝子の解明と、必ずしもそうではないさまざまな疾患の原因遺伝子の解明というのは、この中に全部集約するのではなくて、もともとこれは復興予算ですから、文科省の基本的なライフサイエンス予算は別にあるはずですから、その中できちんとそういう疾患の遺伝子などを、さらに全ゲノムのシークエンスなどを通じて推進するような体制をつくっていただきたいと。そのような形が車の両輪として、日本の未来型医療をつくっていくのではないかなと思います。

【赤林委員】  倫理の話をしてよろしいですか。そろそろ倫理のことを一言申し上げる時間かなと思いまして。
 外に見える部分の倫理的な問題については、全く問題がないと思います。ゲノム指針もありますし、疫学の指針もございますので、それにのっとって淡々と粛々と倫理委員会等を通すなりして進めていただければ、国内的にも対外的にも問題ないと思います。ただ、逆にもう一つの側面として、見えない部分の倫理というのがございまして、対象者にインフォームド・コンセントをとる際などに強制力が働かないようにしてほしいとか、説明がいいかげんになるようなことというのは、見えない倫理違反なんですね。ですから、ぜひそういうことがないようにしていただきたい。そのためにはインフォームド・コンセントをとる者の、あるいは遺伝カウンセラーの教育などが必要になりますので、ぜひ見えない部分の倫理違反がないように。そのためにも、前回も申し上げましたけれども、対象者の人たちとの信頼関係の構築が大前提になるということが重要だと申し上げました。
 倫理のほうからは以上です。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  貴重なアドバイス、どうもありがとうございます。胸に刻んで進めていきたいと思います。

【成宮委員】  今の点に関連してですが、ゲノムコホートを実施するときには地域住民とのコンセンサスがないとうまくいかないんですよね。私どもが長浜コホートを立ち上げた際には、一番最初は二百数十人から始まって、4年かかって1万人にしたわけですが、そのときに地域自治体とのコンセンサスで協定書もつくり、市議会でも議論していただき住民のコンセンサスを形成していただきました。そういうことなしにいきなりやるよと言って、末端のお医者さんがインフォームド・コンセントをとりますといっても、できないと思います。地域住民全体のコンセンサスとしてやろうと言わないとできないですし、先ほど桜井先生が言われたように、住民が離散していないときにそういうコンセンサスはほんとうにとれるのかということを非常に懸念しています。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  成宮先生のお話のとおりで、私たちも長浜のシステムをしっかり勉強させていただいて、市条例をつくり、それから京都大学と長浜市の間で協定を結ぶような形で進めているというのは、非常にすばらしいと思っています。私も地域の方にご理解いただこうと思って、多くの自治体を訪問して市長さん、町長さんにご理解を得るようなことを今、続けています。それから、場合によっては長浜方式の条例を結ぶような形で、ただ調べるだけではなくてゲノム以外の結果を返すようなときに、やはり条例があったほうがやりやすいだろうということで、調べさせていただいています。
 それで一言だけ、私どもは山形コホートでコホートを立ち上げ、非常にそれも勉強させていただいて、ほんとうの実務担当者だった人を東北大に来ていただいて、リクルートして、その方にも設計のところを随分手伝っていただいています。ほんとうに成宮先生のおっしゃるとおりで、これは地域の方に理解されていなかったら何もできないので、しっかり歩いてご理解いただくように努力していこうと考えています。

【門脇委員】  よろしいですか、関連して。
 このプロジェクトは東北という今回被災をした地域が、そういう点ではいろいろなハンディキャップを背負ったわけですけれども、この地域にいたからこそ、このプロジェクトの中で、日本のどの地域よりも最大限健康寿命を享受できるということにすることが、このプロジェクトの目標だと思うんですね。そのことを理解していただくためのさまざまな方策というのは、やはりある程度時間をかけてやっていって、住民の皆さんがみんなそのことを納得してもらうということが、まず大事だと思うんですね。
 じゃ、どうやったら最大限の健康寿命を享受する体制ができるかというと、一般的な環境因子や生活習慣に対する介入やストレス対策だけではなくて、全世界的にあるいはオールジャパン的に明らかになってきたいろいろな体質を考慮に入れて、そしていろいろな生活習慣に対するアドバイスをすることが最大の健康寿命につながるということを、ほんとうに東北のこのコホートの人たちにわかってもらえれば、遺伝子のインフォームド・コンセントも100%の夢ではないと思うんですね。逆に言うと、インフォームド・コンセントの歩どまりを計算してほしくなくて、全住民にそういうことが理解できるところまでいろいろな方面からぜひ努力を続けていただいて、そのような形で山本先生自身が住民に返すということをおっしゃって、そのことは非常に大事で、遺伝子を調べることが住民の最大幸福につながるというようなことを理解していただくという形で、このインフォームド・コンセントというものをとらえていくべきではないかなと思います。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  門脇先生、ありがとうございます。まさに先生のおっしゃるとおりだと思います。
 1つだけ、健康寿命という言葉が、実は東北大学の公衆衛生で発明された言葉で、この言葉を発明した辻教授も、このプロジェクトの有力なメンバーとして参加していただいています。

【門脇委員】  そうですね。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  ですから、健康寿命、ぜひ延ばしていく方向で頑張りたいと思います。

【門脇委員】  もう1つよろしいですか。
 そして、東北地方でそのようにして得られた成果が、今度は日本人全体の最大の健康寿命につながるという、そういう二重の意味がこの東北のコホートのいろいろな遺伝子検査にはあって、そのことをほんとうに心の底から理解していただけるような状況になるプロジェクトではないかと思うので、ぜひそういった形で進めていただければと思います。

【豊島主査】  いかがでございましょう。
 どうぞ。

【高木委員】  今日、ゲノム情報あるいは診療情報等の集約、解析ということが議論の対象だと思うんですが、そういう観点で何カ所か、他のコホート事業、ゲノムコホートと連携するというお話があるんですけれども、もう少し具体的に情報の共有であるとか、そのあたりはどこまでお考えなのか、少しお聞かせいただければと思います。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  高木先生のお話、そのとおりで、違う方式で集めた診療情報、もしくは違う方式で集めた検査解析情報をどうやって統合するのかというのは、すごく難しい問題だと思います。それについて、私どもも問題意識を持って、今日はそこのあたりを少し検討していただいている中谷教授に一緒に来てもらっていますので、中谷教授、少しお願いできますか。

【中谷教授】  メディカル・メガバンク機構で医療情報ICT部門を担当しております中谷と申します。座ってお話をさせていただきます。
 今のご質問、ありがとうございます。他のバイオバンクとの連携でございますが、情報構造が異なっておりますので、その情報構造をすり合わせるために、情報要素とその関係に分けて、データ要素とデータ関係を分離することで、バイオバンクごとに大きく異なる情報構造にかかわらず、柔軟に連結できる方式とする予定です。これにより、いろいろなバンクとの情報連携を果たそうと考えております。
 以上でございます。

【山本東北メディカル・メガバンク機構長】  今ご説明がありましたように、最新鋭の情報学を駆使して、なるべくコンセンサスの形でまとめ上げるような努力をしていきたい、情報学の人たちにご支援をいただきたいと考えています。

【豊島主査】  よろしゅうございますでしょうか。
 今日のいろいろのお話を聞いていて、やはり住民の信頼を得て、あんまり慌てずにしっかりやってくださいというのが基本的な流れだと思うんですけれども。それで、将来のあらゆる医療に役立つということを考えたときに、オープンにしなきゃいけないので、長い間、これは住民コホートの場合に、平たく言えば限りなくフォローしなきゃいけないところが出てきますよね。続けるほど価値が上がってくるということは間違いないと思うんです。だから、そこのところでどうやってうまく連結可能匿名化ができるかということも、それから、それの持続ということも十分ご検討いただきながら、計画を進めていただきたいなと思いますけれども。
 一応その辺をお願いして、大体このあたりでよろしゅうございますか。もう少し何かご質問あるいは。よろしゅうございますか。
 それでは、一応の議論はこのあたりにしまして、続きましてこれからの推移、どのように進めていくかということに関して、事務局からご説明をお願いしたいと思います。

【板倉ライフサイエンス課長】  それでは、資料4をごらんいただければと思います。本日第2回目のご議論ということで、この東北大学の骨子案の後半部分をご議論いただきました。それで、現在予定しておりますのは第3回、4月25日に、このメディカル・メガバンクの提言に向けて盛り込む事項につきまして、私どもと豊島主査のほうで相談をさせていただきまして、まずこの目次を提示させていただければと思います。
 そのほか、第3回では今日ご指摘いただいた点、あるいは前回のご指摘いただいた点も含めて、また追加で説明する補足がございましたら第3回の折にご説明をさせていただければと思います。その後、今の予定では第4回、第5回で、提言案につきましてご審議をいただければと考えておりますので、よろしくお願いいたします。

【豊島主査】  ご質問、ございますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。
 できましたらそのうちに、ワーキンググループをどのように進めているかなんてことをお聞かせいただけたら、皆さん非常に安心するのではないかと思いますね。できたらその辺を網羅していただければと思います。
 本日はどうも皆様、お忙しいところをありがとうございました。それでは一応、少し時間前でございますが、これで終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。



―― 了 ――
 

お問合せ先

研究振興局ライフサイエンス課

根津、泉、中村
電話番号:03-5253-4111(内線4377,4378)
ファクシミリ番号:03-6734-4109
メールアドレス:life@mext.go.jp

(研究振興局ライフサイエンス課)