(資料1-1)東北メディカル・メガバンク全体計画骨子案(東北大学)

東北メディカル・メガバンク全体計画骨子案(東北大学)

平成24年4月16日

1.概要

(1)本計画の実施に当たっての前提と本事業の目的
(2)事業計画全体の要点
(3)東北大学の推進体制

2.コホート調査の実施と地域医療支援

(1)概要と目的
(2)目的を達成するための具体的な実施内容
 A.リクルートの方法
 B.東北大からの医療関係人材の派遣
 C.健康情報、診療情報等の追跡
 D.対象地域における広報
 E.地域医療情報基盤との連携
 F.コホート調査の対象地域
 G.リクルート数の設計H.年次計画
(3)他の医療復興事業との関連

3.ゲノム情報、診療情報等の集約、解析とそれらのデータの共有化

(1) 概要と目的
(2)網羅的解析の必要性
(3)目的を達成するための具体的な実施内容
 A.日本人標準ゲノムセット作成:他のバイオバンクとの連携
 B.疾病関連アレルの探索
 C.生命情報科学的解析
 D.オミックス解析
 E.技術開発と産業との連携
(4)生体試料、データ、成果の共有と公開
 A.生体試料・データのオンラインカタログと集団として解析した結果
 B.バイオバンクに保管された個別データ
 C.遺伝子解析の結果得られたデータ
(5) 対象とする疾患例
 A.地域住民コホート・三世代コホート(父母・祖父母)
 B.地域子どもコホート・三世代コホート(新生児)

4.実施に必要な環境整備

(1)概要と目的
(2)目的を達成するための具体的な実施内容
 A.人材の確保
 B.倫理的課題の検討

5.年次計画(別紙)

 

1.概要

(1)本計画の実施に当たっての前提と本計画の目的

 本計画は、復興を目的とした平成23年度3次補正予算及び平成24年度復興予算案で措置されており、被災地における医療の再生と医療機関の復興に併せ、被災地を中心とした大規模ゲノムコホート研究を行うことにより、地域医療の復興に貢献するとともに、創薬研究や個別化医療等の次世代医療体制の構築を目指すことを主たる目的としている。

 

(2)事業計画全体の要点

 本計画は大きく以下の2段階に分けられる。

  • 被災地を中心とした地域住民の健康調査を実施する。また、医療関係人材を被災地に派遣し、地域医療の復興に貢献する。それと併せて、地域医療情報基盤と連携しつつ、被災地を主な対象にしてゲノム情報を含む地域住民コホートと三世代コホートを形成する。さらに全国のゲノムコホート/バイオバンク研究機関と連携しながらバイオバンクを構築しつつゲノム情報等を解析する(第1段階)。
     
  • 次に数年後(5年を目途に)、わが国で実施されている他のコホート事業と連携して住民コホート・患者コホートを組み合わせた成熟したバイオバンクを完成し、国内外機関への公平な分配とガバナンスの確保された大規模共同研究へと発展させる。それによりゲノム情報を含めた生体情報や健康情報等の網羅的な基盤情報を創出・共有する。これを用いて東北大学では被災地住民を対象とした解析研究などを進めることで、個別化医療等の次世代医療を被災地の住民に提供する(第2段階)。

 第1段階については、2.以下に記載するような方法で推進していくが、第2段階は今後の議論を踏まえ、推進方策を決定していく。

 これらを推進することにより、被災地への医療関係人材派遣や詳細な健康診断の実施等による健康増進等を通じた地域医療の復興、東北発の予防医療・個別化医療等の次世代医療の実現と創薬等の新たな産業の創出を目指す。

(3)東北大学の推進体制

 東北大学内に東北メディカル・メガバンク機構を立ち上げ、事業全体の運営を行う。また、事業に関するアクションプラン(基本計画)を作成するとともに、本事業を推進する段階において、論点ごとに有識者を集めたワーキンググループ(WG)等を立ち上げて推進方策を検討する。

2.地域医療支援とコホート調査の実施

(1)概要と目的

A.背景

 東日本大震災の被災地において住民の健康障害が懸念されている。2004年12月のインドネシア・スマトラ島を襲った津波災害に関する疫学調査から、感染症の増加のみならず精神衛生上の問題、特に小児においてはPTSD(post-traumatic stress disorder)と抑うつが、成人においては、PTSD、不安障害、抑うつ、自殺が増加し1,2)、中長期的には循環器疾患などの生活習慣病が増加していると報告されている3)。すなわち、今回の大震災後の健康被害についても、急性期のみならず長期にわたる調査が今後必要である。

 一方、激甚災害後の健康被害に関して、先進国はほとんど経験を持たない。東日本大震災後の被災地における健康被害とその改善に関しては、スマトラの例を参照しつつも、先進国の事情を考慮に入れた対策が必要である。被災地の新聞社が仙台市、石巻市で実施したアンケート調査によると、住民が震災後に感じる不安(複数回答)は、「健康・病気」が44%と最も多かった(次いで「就職や仕事」の37%、「生活費・生活物資の確保」の28%;河北新報 2011/11/12)。こうした不安を解消するためにも、子どもから成人まですべての年齢層を対象とした大規模な健康調査を行うことが求められている。

 一方、被災地域の人的医療資源は、行政や医育機関、関連する保健医療機関等の長年にわたる格段の努力にもかかわらず、厳しい状況にあり、その状況は大震災によりさらに悪化することが懸念されている。被災地の地域医療復興には従前通りの方策のみならず、医療人を被災地に引き付けるための何らかの特別な方策が必要である。

 本事業では、地域医療復興と次世代医療を実現する目的と併せ、被災地域を中心とした対象地域において、7万人規模の三世代コホート、8万人規模の地域住民コホートを実施する。

  • 宮城県、岩手県全体で15万人
    ※岩手県の人数は、今後岩手県、岩手医科大学と調整予定

 1) Lancet 2005; 365:876-8; N Engl J Med 2007; 356:754-6
 2) JAMA 2006; 296:549-59;JAMA 2006; 296:537-48
 3) Lancet 2011; 77:529-32

B.地域住民コホート

 8万人規模の地域住民コホートを形成し、得られた健康情報、診療情報、生体試料等を解析することによって、ありふれた疾患である高血圧・糖尿病・高脂血症に関連する遺伝的要因等の同定が下表のように可能となる。仮説検証を行う遺伝子のアレル頻度が遺伝子個々により異なるため下表のような計算とした。高血圧(10年間の累積発症率10%)、糖尿病・高脂血症(同5%)、心筋梗塞・脳卒中(同1%)を想定しており、発症が稀な疾患について(累積発症率0.1%)であっても出現頻度が1%程度の比較的一般的な遺伝子多型であれば10倍程度の相対危険度を持つ遺伝的要因を同定可能である。

表1.累積発症率・アレル頻度から計算される8万人で検出可能な相対危険度

 

 多重比較補正を行った場合 P=10の‐10乗

 

 

10年間の累積発症率

 

 

10%

5%

1%

0.10%

アリル頻度

1%

1.9

2.3

4.1

13

0.10%

3.8

5.2

12

46

0.05%

4.9

7

17

70

0.01%

9

15

40

200

 

 それらの疾患に関連する要因を同定するため、生活習慣調査、血液検査、尿検査、メンタルヘルス、家庭血圧(一部住民)、MRI検査(一部住民)等を実施する。これらの解析には、後述の三世代コホートにおける父親、祖父母世代のデータも併せて活用する。また、被災地で今後増加することが懸念される疾患を予防するための手法を確立し、住民にその成果を還元するという観点から、うつ病等の精神疾患、感染症、高血圧等循環器疾患の発症に関連する要因とその防止法等の分析を行う。さらに、被災地域の健康増進に貢献するため、これらの健診結果は協力者に対して迅速にフィードバックし、栄養教室、運動教室、こころのケア、受診勧奨といった介入を併せて実施する。

 なお、被災地の住民に対する迅速な成果還元を実現するために、被災地域を中心とした健康診断を平成24年度から先行して実施し、結果を回付することとする。この際、市町村との協力関係を構築することを最優先し、疲弊している市町村に過度の負担がかからないように配慮する。具体的には、市町村が主催する特定健康診査への相乗りによる健康調査が現実的な対応と考えている。特定健康診査対象外の若年者・高齢者に対する健康診断も可及的速やかに実施を予定するが、詳細は各市町村との協議により決定する。ゲノム試料の提供に伴う同意取得等は、平成25年度以降に改めて実施する。その際には、被災地域の住民を対象として県や東北大、その他の機関がすでに実施している健診や調査と連携して実施する。その他にも、メンタルストレス、家庭血圧測定等の住民への短期的な成果還元を行う。

 生体試料の収集については、平成24年度から数千人規模で着手し、平成25年度中には本格実施に移行する。ゲノム情報の解読等については、平成25年度以降に実施するゲノム試料の提供検体が収集され次第実施する。

 なお、調査項目等のコホート調査実施の詳細については、先行コホートの知見やパイロット調査の結果を踏まえつつ、今後も引き続き検討していく。また、生活習慣、診療情報を質高く長期的に追跡する仕組みや全国で共有するための共通フォーマットなどについても、先行コホートの知見やパイロット調査の結果を踏まえつつ、今後も引き続き検討していく。

B’地域子どもコホート

 地域住民コホートの一つとして、「地域子どもコホート」も形成する。必ずしも医療機関を受診しない小児期のPTSDや広汎性発達障害、アレルギー疾患等について、学校保健等と連携してスクリーニングし、必要な介入を実施する。現時点で介入の必要がないと判断される子どもについては学校保健記録により、また介入の必要な子どもについては、医療機関等での診療情報を収集することによりコホートを形成する。学校を通して一次質問票を各家庭に配布し、学校を通して回収する。疾患を持つ疑いのある子どもには学校保健で実施される精密検査ラインで疾患の診断と必要な治療を実施する。さらに疾患を持つ子どもの父母、祖父母に調査参加の勧誘を実施する。陽性疾患の感受性遺伝子について、患児とその祖父母からなる三世代解析や、兄弟姉妹例でのシブ・ペア解析などを実施する。地域子どもコホートによって疾患感受性遺伝子群を同定し、三世代コホートによってこれを検証して、病因の解明、有効な診断・治療法の開発を目指す。宮城県では一学年当たりの子どもの数は約2万人である。5歳~12歳まで8学年で16万人をスクリーニングし、対象疾患群の有病率を1%と仮定すると、当該疾患に関する介入とその後のフォローアップを必要とする子どもは約1,600人と算出される。

C.三世代コホート

 7万人規模の三世代コホートを実施し、得られた健康情報、診療情報、生体試料等を解析する。震災の影響により増加が懸念されるPTSDや抑うつ、震災の影響により悪化が懸念され、遺伝的素因の関与が示唆されているアトピー性皮膚炎、注意欠陥多動症(ADHD)、喘息、自閉症などを対象疾患と考えている。胎児期のコンディションが出生後のメタボリック症候群へのかかりやすさなどに影響するというDOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)学説などの見地から、自閉症等のみならず、心疾患やメタボリックシンドロームなども対象疾患として検討する予定である。

 調査の結果から父母や祖父母の健康向上に資する項目は、参加者にフィードバックする。また、妊婦の葉酸摂取量や父親・母親等の喫煙・飲酒など、子どもの健康向上に貢献する項目についても、情報を迅速にフィードバックする。また、子どもの健康状態を詳細に追跡することで、必要となった際に時期を失せず介入することを可能とする。

 疾患に関連する遺伝的要因と環境要因の影響を明らかにするために、出生コホートの側面を活用して、生活習慣調査や血液検査、尿検査等を実施する。なお、PTSDや抑うつ、アレルギー性疾患等は遺伝要因のオッズ比が相対的に高くないことも想定されるため、環境要因を重視した解析も実施する。3万人の新生児を出生後3年間追跡することで、アトピー性皮膚炎は1,114人(3.8%)、ADHDは900人(3.0%)、喘息は720人(2.4%)、自閉症は300人(1.0%)程度の罹患が予想され、全体的にある要因に25%程度の人が晒されて、疾病罹患の危険性が50%程度上昇すると仮定すると、これらの疾患と関連する要因を80%ほどの検出率で解明可能である。なお、三世代コホートの出生児については、可能な限り長期に健康追跡調査を実施し、最終的にその人の一生を見守る「生涯コホート」の形成を検討する。

(2)目的を達成するための具体的な実施内容

A.リクルートの方法

 大規模に参加者を収集するためには、地方自治体や保健所との緊密な連携が必要不可欠である。そのため、対象地域の保健所と連携し、特定健診・妊婦健診と連動した形でリクルートの依頼、詳細な健診、健康イベントや健康相談会等を実施する。

 特定健診の対象者以外の住民に対しては、対象地域の地域医療機関、保健所、メガバンク地域支援センター等で、東北大から派遣された医師やゲノム・メディカルリサーチコーディネーター(GMRC)等と現地のメディカルスタッフが連携し、詳細な健診を実施する。

 三世代コホートについては、対象地域の産科医療機関を受診した妊婦に対してリクルートを実施し、妊婦健診を活用して採血、採尿、母体及び胎児の健康情報等の収集を行う。また、父親、祖父母については、産科医療機関を訪問した際にリクルートや採血を行い、詳細な健診については対象地域のメガバンク地域支援センターにおいて別途実施し、電子データを連結する。父親、祖父母が対象地域外に居住している場合には、採血等の協力は依頼するが、追跡調査の対象外とする。

 なお、健診の結果、疾患が偶然発見された場合には、協力者にその旨を連絡するとともに、疾患の治療に向けた取組を必ず行うことで、地域住民の健康増進に貢献し、信頼関係を築く。

  • 特定健診でのリクルート数  4万人(現在精査中)
  • メガバンク地域支援センターでのリクルート数  4万人(現在精査中)
  • 協力産科医療機関でのリクルート数  7万人

(注)具体的な数字等は予算の状況を踏まえて変更される可能性がある。

 B.東北大からの医療関係人材の派遣

 現地でリクルート活動を行う拠点としては、1.メガバンク地域支援センター、2.保健所、3.産科医療機関が挙げられる。これらの拠点には、東北大から医師(丸1及び丸2のみ)、看護師、GMRC等をチームで派遣し、現地の看護師、保健師等のメディカルスタッフと協力して、リクルートに関する同意取得、健診、予防医学推進イベント支援等の活動を行い、現地でのコホート調査に関する調整の中心的役割は東北大から派遣されている医師が担う。また、それ以外の時間においては、地域医療現場での診療、往診、健康相談会を行うなど、地域医療の支援も行う。また、地域医療機関や保健所の医師、医療系スタッフにも、リクルート推進を依頼し、地域住民の医療ニーズのアップデートを行うという役割分担の元、連携して実施する。

 東北大から派遣される医師は、1年のうち4ヶ月は対象地域でリクルート活動を行うとともに専従医療者として地域医療機関を支援し、残りの8ヶ月を東北大で研究や教育を行うとともに、コホート調査に関する健康増進イベントの支援や地域住民への健診結果の説明会を実施する(循環型医師派遣制度)。さらに、医師の資格を持つ大学院生等にも別の仕組みで参加を募る。循環型の医師派遣では、地域医療ニーズを知りそれに適した専門性を持つ医師を発見することが重要と考える。そこで、アンケート調査を沿岸部の医療機関に行い、地域のニーズを把握する。一方で、東北大学病院各診療科にもアンケートを取り、必要な人材確保を行うとともに、医療機関からのニーズに基づいて支援スタッフを適材適所に配する体制の確立に向けた取り組みを行う。

  • メガバンク地域支援センター数
    7ヶ所以上(気仙沼市、石巻市等、宮城県内他地域(調整中))
  • 協力医療機関数
    9ヶ所以上(石巻市2ヶ所、気仙沼市2ヶ所等、宮城県内他地域(調整中))
    産科医療機関については今後協力を依頼。最大で宮城県内98医療機関

  • 必要な医師数
    3人×1ヶ所/年 10か所(10年間)  計300人(延べ数)

  • 必要なGMRC数
    メガバンク地域支援センター・保健所等(6人×12か所) 72人
    産科医療機関(2人×60か所)                120人
                                     計192人

注1 岩手県内の協力医療機関等は、今後岩手県や岩手医科大と調整予定
注2 医師数とGMRC数の内訳は、後述の「4.実施に必要な環境整備」参照
注3 具体的な数字等は予算の状況を踏まえて変更される可能性がある。

C.健康情報、診療情報等の追跡

 コホート調査の協力者に対しては、質の高い健康情報、診療情報等を定期的に収集することが重要となる。地域住民コホート参加者については、半年~1年毎に協力者に質問票を送付するとともに、4年に1回程度、保健所やメガバンク地域支援センターにおいて、協力者に対して詳細な健診を実施する。その際、地方自治体で実施する特定健診等と連携して実施する(目標:追跡率80%)。三世代コホートの子どもについては、半年毎に協力者に発達の状況や疾患罹患を聞くための質問票を送付するとともに、1歳6ヶ月児健診・3歳児健診、学校保健健診時に詳細な健診を追加実施する。

 次々項にて詳述するが、医療情報ICT化によって得られるデータとのリンケージによって、疾病を発症した協力者の診療情報の追跡を行う。

 転居や死亡、死因については、住民基本台帳、人口動態統計等の閲覧を行う。

D.対象地域における広報

 コホート調査においては、対象地域の住民に理解、支持を得ることが極めて重要であるが、特に本事業では被災地を対象とするため、特にこの点に留意する必要がある。また、次世代医療体制を我が国全体に展開することを考えると、広く国民にこの事業の意義を周知する必要がある。

 本事業の目的、意義、成果等を地域住民に幅広く理解頂くため、サイエンスコミュニケーション能力を持つ人材を活用して、対象地域において広報活動を重点的に実施する。逆に住民からの声や意見をメガバンク事業に反映させていくこともこのような人材の重要な役割となる。具体的には、シンポジウム・説明会等の実施、各種印刷物の発行・頒布、映像の製作・供覧、ウェブサイトの構築と運用、マスメディア・地元メディアと協力した周知活動、展示会等への出展、各種ソーシャルメディアの運用等を行う。地方自治体や地域医療機関、保健所、学校等と緊密に連携し、それらの機関で行うイベントへの相乗りや出展、それら機関の広報誌等への記事等の提供など、一体的な活動を行う。

E.地域医療情報基盤との連携

 コホートの信頼性を高め、かつ効率的な情報収集を可能とするため、平成24年度から気仙沼医療圏、石巻医療圏で先行的に構築される予定の地域医療福祉情報連携基盤と連携して、質の高い診療情報を収集する。

 具体的には、全県域を3層に分けた階層型の地域医療福祉情報連携基盤を通じて、各地域の医療機関や福祉機関等から集約されてくる診療情報を収集する。宮城県医師会に設置する予定の全県域データを集約したサーバーから、サマリーされたデータを連結可能匿名化した上で抜き出し、東北大メディカル・メガバンク機構内に保存する。このサマリーデータは、コホート対象患者のみを対象として、あらかじめコホートおよびバイオバンク事業で設計されている必要データ項目から緊急時に必要となる最低限のデータ項目を抜き出した臨床データである。

 なお、平時において、データ参照は、一方向のみ(東北大メディカル・メガバンク機構から宮城県サーバーのデータを参照するのみ)とし、医師会側のサーバーからはメディカル・メガバンクのデータは参照できない。ただし、緊急時は、匿名を復号することで、最終的な災害時医療情報バックアップの役割も果たす。

 なお、文章で記載されているカルテ情報をコホート調査で活用できるデジタル情報に正しく変換することが質の高いバイオバンクを構築する上で必要不可欠である。そのため東北大から協力医療機関にデータマネージャー(DM)を派遣し、データ取得やデータ登録を支援する。医療情報ネットワークが構築されるまでは、東北大から協力医療機関にGMRCまたはメディカルクラーク(MC)(看護師、介護福祉士などの資格を持つことが望ましい)を派遣し、ノートパソコンなどを用いた診療記録補助を中心とした業務支援を行うことによって診療情報を収集する。

  • 必要なデータマネージャー(DM)数
      1人×83ヶ所、2人×15ヶ所 … 計113人
  • 必要なメディカルクラーク(MC)数
      1人×83ヶ所、2人×15ヶ所 … 計113人

※ <東北大からの医療関係人材の派遣>の項で記したGMRCが、一部業務を兼務する。

注1 DM数はMC数の内訳は、後述の「4.実施に必要な環境整備」参照
注2 具体的な数字等は予算の状況を踏まえて変更される可能性がある。

F.コホート調査の対象地域

 三世代コホートは宮城県全域、地域住民コホートは、沿岸部(気仙沼、石巻)等(宮城県内他地域調整中)である。特に、地域住民コホートは被災地である気仙沼、石巻などを中心に実施する。岩手県内の対象地域については、岩手医科大や岩手県と調整の上で決定する。

G.リクルート数の設計

○ 地域住民コホート
   震災や津波の影響を受けている地区で8万人のリクルート人数になるように設定

   特定健診対象者の同意率目標値: 60%
   メガバンク地域支援センターの参加率目標値: 10%

※ 気仙沼医療圏 約7万人、石巻医療圏  約17万人
   県央、県南を加えた対象地域人口  約100万人
※ リクルート数の年次計画
  (宮城県国保連合会の特定健診受診状況の再確認が必要、現在問合わせ中)
※ 地域住民コホートの一つとして、以下の地域子どもコホートも形成する。
   学校保健等で5歳~12歳まで8学年16万人の健康状態を学校保健記録により追跡。スクリーニングによって医療情報の追跡を行う子どもの数は、対象疾患群の有病率を1%と仮定し研究参加予定約1,600人と算出。

○ 三世代コホート

  調査対象地区の年間出生数  2.0万児/年
  新生児のリクルート予定数  3.0万児/3年
  エコチル調査では8割が同意したが、ゲノム解析の明確な同意取得のため、同意率は低くなることを想定し、5割が同意と仮定

   兄弟姉妹例  1.8万家系/3年(4割が同意と想定)
   母親       1.8万人/3年
   父親       1.1万人/3年(父親は母親の6割同意と想定)
   祖父母     2.2万人/3年(3割同意と想定) 
          合計8.1万人

※ リクルート数の年次計画
  新生児H25・1千人、H26・1万人、H27・1万人、H28・9千人

H.年次計画

○ 平成24年度

  • 被災地住民を対象とした特定健診への参加(コホート調査への協力同意取得、生体試料収集は別途実施することも検討)
  • 地域住民コホートのパイロット事業開始(石巻、気仙沼、計5,000人)検体保管庫の整備が必要。
  • 地域子どもコホートのパイロット事業開始(1,000人程度)
  • 三世代コホートのパイロット事業開始(1,000家系3,900人)

○ 平成25年度 

  • 地域住民コホート標準プロトコール策定、本調査開始
  • 地域子どもコホート標準プロトコール策定、本調査開始
  • 三世代コホートの標準プロトコール策定

○ 平成26年度

  • 三世代コホートの最終プロトコールの確定、本調査開始
  • 地域子どもコホート16万人の登録完了 

○ 平成28年度

  • 地域住民コホート8万人の登録完了
  • 三世代コホート7万人の登録完了
  • 以降、健康調査を1~2年毎に実施

(注1) 今後コホート調査の可能な限りの前倒しを検討。
(注2) 具体的な数字等は予算の状況を踏まえて変更される可能性がある。

(3)他の医療復興事業との関連

 本事業は平成24年2月に宮城県から出された宮城県地域医療再生計画(平成23年度―平成25年度)と宮城県地域医療復興計画(平成24年度―平成27年度)と密接に連携しながら実施するものである。特に、地域医療のインフラ整備については、厚生労働省から宮城県に交付された地域医療再生臨時特例交付金等を受けて宮城県が創設した「地域医療再生臨時特例基金」、総務省から宮城県に交付される情報通信技術利活用事業費補助金等を財源として実施する「医療の復興計画」の中で実施されるものである。東北メディカル・メガバンク事業は宮城県の上記計画が掲げる取組(医療機関等復旧支援事業、地域医療連携推進事業、医療従事者育成事業)と密接に連携しながら進める予定である。

3.ゲノム情報、診療情報等の集約、解析とそれらのデータの共有化

(1) 概要と目的

 2.で収集された15万人の生体試料とそれに付随する健康情報、診療情報等を基盤とし、先行する他のコホート事業等と連携して大規模バイオバンクを構築する。国内外機関への公平な分配とガバナンスの確保された大規模共同研究へと発展させる。生体試料からゲノムやオミックス情報を取得し、健康情報・診療情報と集約した網羅的な基盤情報を創出し、国内外と共有するシステムを構築する。東北大では被災地で増加する疾患等の分子機能解析研究などを進めることで、予防医療、個別化医療等の次世代医療を実現して、被災地の住民に提供する。

 特に疾患に関連する遺伝子や環境要因、薬物動態に関連する遺伝子等についての同定を試み、十分に信頼性の高い結果が得られた場合には、患者や東北地区の住民にフィードバックすることも将来的に検討する。

(2)網羅的解析の必要性

 遺伝子情報の取得が飛躍的に容易になった現在、ゲノムコホート研究では個人のゲノムを詳細に決定し、健康・疾患との相関性について議論することが求められている。個人ゲノムの解析が進むにつれて、個々人の間にはゲノム全体で数百万ヶ所の塩基配列が異なることが判明している。この塩基配列の相違が頻度の高い疾患(common disease)の発症に関わっていることはある程度証明されてはいるが、その病気への寄与が比較的小さいこと、また、このようなデータが欧米人の解析結果に依っている場合が多く日本人とは遺伝的に異なっていることも知られている。これまでのような解析法による遺伝的素因と疾患発症との関連を想定した臨床研究をより精度高いものにするためには、高頻度の遺伝子変異(common variant)に加えて、病気への寄与が大きい低頻度の遺伝子変異(rare variant)の解析を行うことが重要である。遺伝子情報・オミックス情報と健康情報・診療情報とを集約することで、疾患の予防や診断精度の向上、治療効果の向上を目指した個別化医療の実現を目指すことが可能となるものと期待される。

 Rare variantの解析には、まず日本人及び宮城(・岩手)県民の標準的な塩基配列とvariant頻度を決定することが必須である。なお、以下のようにrare variants解析の必要性はこれまでも強く支持されてきた。

1) 経験的な遺伝子のデータからは病因となる変異は希少である。
2) 稀な遺伝子数変化が幾つかの精神疾患と関連している。
3) 全エクソン解析からrare variant が大きい効果を持っていることが示されている。
4) 同じ連鎖不平衡領域にあるrare variantがcommon variantの効果を説明できる。

(3)目的を達成するための具体的な実施内容

 以下は平成24年度から平成28年度(5年間を目途)のものである。

A.日本人標準ゲノムセット作成:他のゲノムコホート・バイオバンクとの連携

 疾患と遺伝的要因を検討する際に留意すべきことは「地域差」の存在である。一般的に日本人は均一性が高いと言われるが、我が国は南北に長く、また、文化や生活習慣も地域間で大きく異なる。そこで、遺伝的背景の地域差がやはり問題となる。これを考慮しない場合には、遺伝要因解析において偽陽性や偽陰性を見誤る可能性がある。したがって、日本人のなかでも地域差を示す遺伝子多型リストを保有する必要があり、地域住民コホート検体及び全国のゲノムコホート/バイオバンク検体について、GWAS(Genome Wide Association Study)データや全ゲノムデータの比較を行う。さらに、バイオバンクジャパンとの連携や他の先行コホート事業との連携を行い、現在ゲノム解析を必要としている検体の解析を、時期を失することなく実施し、わが国の持てるゲノム医科学のポテンシャルを最大限活用できるようにすると同時に、被災地の住民により早く次世代医療を提供するための礎とする。

 具体的には、平成26年3月までに、全ゲノムを3,000人読み、各染色体座位における日本人のアリル頻度をvariant頻度0.5%程度まで決定する。全シークエンスは、一人についてゲノム塩基の10倍程度読む(Depth x10)。これまで日本人のゲノムが欧米人と相当程度異なることは報告されているものの、数千人規模で全ゲノム配列が決定されたことはないので、日本人にどのような頻度でどのようなバリエーションが存在するのかを確定し、疾患関連遺伝子の抽出に対する対照配列として活用する。

 さらに、得られた多型情報を検証するために必要に応じて定量的PCR法、INVADER法、カスタムオリゴアレイなどによる解析、サンガー法による塩基配列決定などを実施する。今後、次世代シークエンサー(NGS)の精度向上とコストの低減、生命情報科学的な解析技術の開発を含む解析効率の大幅な上昇が期待されるため、最新技術を遅滞なく導入し、コホート参加者のゲノムについても可能な限り全ゲノム解析を実施するが、GWAS解析と同様に候補遺伝子座の絞り込みには時間とコストのかからないカスタムオリゴアレイやPCR法を利用したスクリーニング解析も実施する。

B.疾病関連アレルの探索

 被災地で今後増加することが懸念され、発生頻度の高いPTSD・うつ病等の精神疾患や感染症、子どもへの健康影響が大きく発生頻度の高い疾患/障害であるアトピー性皮膚炎、ADHD、喘息、自閉症の発症が確認されたサンプル(三世代の場合はその家族も含めて)の解析を行う。シークエンサーの読み取り能力が倍に向上すると想定し、平成26年4月から平成28年3月までに8,000人の全ゲノム(Depth x30)を解析する。疾患を発症したサンプルに特徴的に認められる変異をAで決定したvariant頻度と比較することにより、疾患に特徴的variantの同定を行う。さらに、variantを持つサンプル内での健康情報と発症との相関を調査することで、環境要因の発症への寄与度を決定する。

 ゲノムシークエンスによって得られるデータ及びこれと連結される環境要因データ、診療データなどから膨大な情報群が形成されるが、そこから医学的に意味のある要素を抽出することは相当な困難を伴うものと予想される。そこで、バイオインフォマティクスを活用した解析手法の重要性が注目されており、ハードとしてのスーパーコンピュータとこれを実際に活用するバイオインフォマティシャンを雇用して、データの解析にあたる。また、シークエンサーの開発や新たな臨床検査法の開発、新たな技術開発を行うために、民間企業と積極的に連携する。

C.生命情報科学的解析

 DNA一塩基多型(SNV)の解析は大きく5つのステップに分けることができる。すなわち、(1)シークエンサー由来画像データから配列データへの変換を行うベースコールから始まり、(2)短い塩基配列(リード)を参照ゲノムに対応づけるマッピング、(3)マッピング後のアライメント精密化(リアライメント)と(4)変異部分を同定するステップ(バリアントコール)を経て、(5)変異の意味を解釈する相関解析へと至る。

 現在、それぞれのステップが一通りできる基本的ソフトウェアは利用可能であるが、その組み合わせによって結果が大きく影響を受ける可能性がある。そこで、データ解析戦略として、プロジェクトの初期段階で数名のエクソーム解析を行い、参照ゲノム(1000人ゲノム、ヒトゲノム、日本人のゲノム)との変位箇所の違いや参照ゲノムへのマッピング法による違い、変位解析法の違いにより検出される変位部位の違いの解析等を行い、キャピラリーシークエンスでの確認と併せることで、精度の高い解析パイプラインの構築行う。

 並行して、プロジェクト中期での大規模ゲノム解析に備えて、ハイスループット化を行う。データ移送の仕組みを新たに構築し、ステップ1の高速化を行うと同時に、FPGA(プログラム可能なハードウェア)を利用して、高速なマッピング法の開発を行い、データの格納システムの効率化をはかる。

 後半の相関解析では、標準的に行われているパスウェイ解析などに加えて、転写開始点データベース(DataBase of Transcriptional Start Sites; DBTSS)や遺伝子共発現データベースなどこれまで我々が開発を行ってきたデータベースを利用して、あまり解析が進んでいないプロモーター部位の変異や変異の発現パターンへの影響の解析などを行っていく。

 ゲノム解析部門の解析で出てきたデータに関して、個人のゲノム配列に関わる部分は暗号化や物理的隔離など最高レベルのセキュリティで保護されるのは言うまでもないが、関連解析の結果など個人と切り離すことができる部分に関しては、統合データベースなどと連携して、速やかに情報開示を行い、国内外の関連研究の発展につながるように留意する。

D.オミックス解析

 小児に高頻度に認められるアトピー性皮膚炎や気管支ぜんそくなどは成長とともに症状が軽減することから、その影響を考慮した解析が必要である。成長に伴って各種の遺伝子発現などが変化していることを考慮すれば、小児疾患の遺伝学的素因の解析にはゲノムのみならず、エピゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームなど生体機能分子の網羅的解析(接尾辞-omeで示される)を多角的・統合的に実施すること(オミックス解析)が重要である。さらに、疾病関連遺伝子多型と環境との相互作用によって引き起こされる血清に分泌されるタンパク質の変化をゲノム・トランスクリプトームと合わせて探索することにより、診断マーカーを特定することが可能となる。また、アレルゲンの曝露と肺胞粘膜、皮膚などの生体防御機能との遺伝学的関連についても細胞生物学的検討なども、他施設との共同研究も含めて実施し、予防法の確立・治療標的の検索を目指す。

オミックス解析については、全ゲノムを解析した症例をもとにランダムに200家系1500例抽出し、血液を対象にタンパク質・代謝物解析、リンパ球を対象にトランスクリプトーム解析、質量分析計による血清蛋白質スペクトル解析などを実施する。学童期には40%程度が鼻炎など何らかのアレルギー性疾病に罹患(アトピー性皮膚炎はそのうちの2割程度)すると考えられる4)。さらに、両親、祖父母にもアレルギー体質が存在すると考えられるため、年齢と相関する遺伝子発現の変化を解析し、年齢とともに症状の変化の予測アルゴリズムの設計を目指す。合わせて血清蛋白質スペクトルによる早期診断の可能性を検討する。

4) Yura, A. et al. Pediatric Allergy and Immunology 22 (2011)

(4)生体試料、データ、成果の共有と公開

 生体試料、データ、成果を研究コミュニティで共有するために、以下の原則で公開と提供を行う。

A.生体試料・データのオンラインカタログと集団として解析した結果

 あらゆるチャネルを通し、研究コミュニティに限らず原則として広く公開する。

B.バイオバンクに保管された個別データ

 バイオバンクに保管された生体試料とその関連電子情報については、試料分配審査委員会において研究計画を審査し、合理性が担保されていると評価された機関には、匿名化等の適切な処理を経た上で、原則として提供する。試料分配審査委員会を東北大に設置し、東北大に限らず広く有識者からなるメンバーで構成する。配分に関する基本的考え方は、1)緊急性、2)科学的妥当性、3)実行可能性、4)被災地住民をはじめとした人類への貢献度、5)当該機関のセキュリティ等を考慮するものとする。民間、国内外へも広く分配するものとするが、特に個人情報保護等のセキュリティを十分勘案のうえ、審査するものとする。

C.遺伝子解析の結果得られたデータ

 遺伝子解析の結果得られたデータの一部はバイオバンクに収納・保管し、上記B. の方針に基づきバンク事業に供する。遺伝子解析の結果得られた全ゲノムの網羅的な基盤情報等については、公開に関するルールを策定した上で、科学技術振興機構(JST)のバイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)が開設しているポータルサイトを経た公開を検討する。情報の性質上、広く公開するのに適さないと考えられる情報についても本事業の主旨を踏まえて、出来る限り研究コミュニティにその成果を共有できるような方法を検討していく。

(5)対象とする疾患例

A.地域住民コホート・三世代コホート(父母・祖父母)

 被災地で今後増加することが懸念され、国民全体への影響が大きく、発生頻度の高いPTSD・うつ病等の精神疾患、感染症、脳血管性障害、高血圧性疾患、虚血性心疾患などを本事業での主な解析対象とする。

 心血管病の危険因子である糖尿病や高血圧などは、各々の病態を反映する連続量・QT指標(血圧値、空腹時血糖など)が存在し、地域住民コホートでも研究開始早期から評価可能である。また、血管障害指標(血管内皮機能、頸動脈内膜中膜複合体厚など)やMRI所見(無症候性脳梗塞など)を「中間形質」として住民コホートで測定し、分析に供することが可能である。

 がんについても検討対象とするが、がんはその病態を量的形質として扱うことが難しく症例対照研究が必要で、正確かつ詳細な医療情報を兼ね備えた患者コホートが必要であり、およそ5年後の第2段階から本格的に検討対象とする。特にがんは環境要因が大きくその発症に影響を及ぼすので、疾患マーカー、さらには環境変異原曝露のサロゲートマーカー探索の目的で、血清タンパク質や代謝産物のオミックス解析の実施を検討する。

B.地域子どもコホート・三世代コホート

 本事業で実施する7万人規模の三世代コホートのうちの新生児から小児の参加者、および地域子どもコホートについては、以下の疾患を対象にゲノムコホート研究を実施する。これらは2~5年の比較的早期に疾患の発生がみられるものであり、研究の第1段階において疾患の検討が可能である。

 主な解析対象疾患:被災地で今後増加することが懸念され、発生頻度の高いPTSD・うつ病等の精神疾患、感染症、および子どもへの健康影響が大きく、発生頻度の高い疾患/障害であるアトピー性皮膚炎、ADHD、喘息、自閉症など。なお、解析対象や手法の詳細については、先行コホートの知見やパイロット調査の結果を踏まえつつ、今後も引き続き検討していく。現在のところ、本プロジェクト期間内においては上記疾患等を主たる研究対象として、プロジェクト期間内に社会に還元できる成果を上げることを目標とする。

 地域子どもコホートのスクリーニングによって早期に同定される各種疾患症例において、全ゲノム解析により個人に適切な治療法選択を実施できるゲノム医療を早期に実現し、次いでエクソーム、全ゲノム解析によって疾患の原因解明を行って治療の分子標的を明らかとし、より有効な新たな治療法の開発を試みる。中長期的には三世代コホートで集まる出生児の健康情報を追跡することで収集される症例について、前向きデザインによる検証とより有効な治療法の開発が可能となると期待される。

 さらに、Bで発見された発症に関わるvariantに関する高い精度を持った大規模スクリーニング法の開発を行う。特に、ある特定のvariantを持つ場合に、発症に強く関与する環境要因の存在が決定されれば、当該variantを発症前にスクリーニングし、環境要因を制御することにより発症を予防することができる。

4.実施に必要な環境整備

(1)概要と目的

 地域医療の復興を成し遂げるためには、医療施設・設備の復興だけでは不十分であり、医療を担う人材が将来的に被災地に留まり続ける仕組みを構築するという観点が重要となる。1.から3.で述べたように、本事業を実施していくためには多くの医師、GMRC、バイオインフォマティシャン、データマネージャー(DM)等の人材が必要となるため、これらの人材について、本事業を通じて将来的なキャリアパスを確立し、育成・確保していくことにより、人材面からも地域医療の復興を成し遂げることができる。これらの人材については、東北大における育成と全国からの公募を2つの軸にして確保する。

 また、本事業では、ヒト由来の生体試料やゲノム情報、診療情報といった機微情報を大規模に収集、保存する。それらの情報の解析結果の公開、将来的には次世代医療として還元、創薬等への活用による産業創出を目指すが、その過程で様々な倫理的課題を含有している。これらの課題について、各種指針の内容を踏まえながら、先行コホートの事例を参考にして早急にインフォームド・コンセントの内容を固めてパイロットスタディーを実施し、その結果を踏まえた上で本格実施までに関係機関と統一的な方針の下に完成させる必要がある。

(2)目的を達成するための具体的な実施内容

A.人材の確保

 平成24年度より、東北大に「臨床研究支援者育成コース」を開設し、GMRC、DMの育成を実施する。将来的には公衆衛生大学院を開設し、遺伝カウンセラー、サイエンスコミュニケーター等の養成を行うことを目指す。さらに、「オープン教育センター」を開設し、外部に開放した形での短期間の教育・研修も実施することで、本計画で獲得された知識、技術を広く共有することを目指す。

 人的資源を東北大だけでまかなうのは困難を伴うので、大学間のネットワークを活用し、支援を受け入れるような体制を構築する。公募については、医師は平成24年度に全国規模で、GMRCは平成25年度に被災地を中心として、バイオインフォマティシャンは平成26年というスケジュールで実施していく。公募で採用した場合は、メガバンク雇用とする。

 各人材の確保の基本的考えを以下にまとめる。

○ 医師
  全国規模の公募で確保することを目指す。そのために、全国の国立大学、私立大学に対し、学会、学術団体、協議会等の様々なネットワークを通じて、支援を依頼する。

  • 必要な医師数                300人(10年間延べ数)
    うち すでに東北大にいる医師      150人
        東北大で育成する医師        50人
        公募で採用する医師          50人
        他機関から支援される医師      50人

 (これ以外に、1)若手医師をメガバンクCF(Clinical Fellow)として採用して派遣する。また、2)小児科、麻酔科、眼科、耳鼻科、精神科、その他の診療科は別の形態で派遣する)(いずれも年間延べ150名以上の規模。メガバンクCFは15人以上×1ヶ所/年 10か所(10年間) 計150人以上を想定)

○ 医療系スタッフ(看護師、GMRC等)
  看護師、GMRC等については、被災地域における雇用創出の観点から、主に被災地又はその付近の地域で採用する。採用後、必要な教育、研修を東北大で受け、地域医療の支援、コホート調査等に従事する。コホート調査の人数が多くなり、現地での採用でまかなえない段階になったら、全国規模の公募の実施を検討する。

  • 必要なGMRC
    メガバンク地域支援センター・保健所等72人(6人×12か所)、産科医療機関120人(2人×60か所) … 計192人
    うち すでに東北大にいるGMRC     20人
        東北大で育成するGMRC      60人(20人/年)
        公募で採用するGMRC               62人
        他機関から支援されるGMRC    50人
     
  • 必要なDM 1人×83ヶ所、2人×15ヶ所 … 計113人
    うち すでに東北大にいるDM       10人
    東北大で育成するがDM          43人
    公募で採用するDM             30人
    他機関から支援されるDM         30人
     
  • 必要なMC 1人×83ヶ所、2人×15ヶ所 … 計113人
    うち すでに東北大にいるMC       10人
    東北大で育成するがMC          43人
    公募で採用するMC             30人
    他機関から支援されるMC         30人

※ DM、MCに関しては、GMRCが一部業務を兼務する。

○ バイオインフォマティシャン
  バイオインフォマティシャンは大学以内常駐で解析に当たり、支援機関からの派遣、全国規模の公募、東北大による育成等を組み合わせて確保する。

  • 必要なバイオインフォマティシャン数            20人
    うち すでに東北大にいるバイオインフォマティシャン   7人
    東北大で育成するバイオインフォマティシャン       5人/年
    公募で採用するバイオインフォマティシャン        10人
    他機関から支援されるバイオインフォマティシャン     3人

(注) 具体的な数字等は予算の状況を踏まえて変更される可能性がある。

B.倫理的課題の検討

 インフォームド・コンセントについては、未確定な研究内容に対する包括的な同意取得、個別化医療、産業利用目的も含みうるゲノム情報等の利用に対する同意取得、医療情報ネットワークを通じた診療情報収集に対する同意取得等の考え方について、国立がん研究センターで実施されているゲノムコホートFS(feasibility study)等の先行コホートの事例を踏まえて早急に暫定版を作成し、パイロットスタディーを実施する。その結果を踏まえ、本格調査に使用するインフォームド・コンセントのあり方を検討し、関係機関との統一的方針の下、確定する。また、個人情報・生体試料の保存方法(セキュリティ)、対応表の管理、遺伝情報の開示、得られた知財の帰属等については、ゲノム指針の改正内容も踏まえつつ、先行コホート事業の例も参考にしながら具体化していく。長浜コホートのように、必要に応じて条例の制定も検討する。

5.年次計画(別紙)

お問合せ先

研究振興局ライフサイエンス課

根津、泉、中村
電話番号:03-5253-4111(内線4377,4378)
ファクシミリ番号:03-6734-4109
メールアドレス:life@mext.go.jp

(研究振興局ライフサイエンス課)