平成23年1月20日
X線自由電子レーザー利用推進協議会
独立行政法人理化学研究所(以下「理研」という。)が、平成22年度完成を目指して整備を進めているX線自由電子レーザー(X-ray Free Electron Laser。以下「XFEL」という。)は、ライフサイエンス分野やナノテクノロジー・材料分野をはじめとする幅広い科学技術分野において、基礎研究から産業や国民生活の向上に役立つ応用開発まで、革新的な成果を創出し、我が国の発展、国際競争力の強化に資することが強く期待される研究基盤である。第三期科学技術基本計画において「国家基幹技術」に位置づけられ、国が主導する一貫した推進体制の下、世界をリードする人材育成にも資する長期的かつ大規模なプロジェクトとして進められてきたものである。
XFELが発振するX線レーザーは、これまで人類が経験したことのない極めて高品質かつ強力な光であることから、その完成後、直ちに本格的な利用研究を開始するため、文部科学省に設置された「X線自由電子レーザー利用推進協議会」により平成18年に「利用推進方針」が定められ、 「X線自由電子レーザー利用推進研究課題(委託事業)」(以下「利用推進課題」という。)により、利用実験装置の整備に向けて、試験加速器や大型放射光施設SPring-8を用いた予備的研究が進められてきたところである。
一方、世界では、 平成21年より米国LCLS(Linac Coherent Light Source)が軟X線領域での試験的な利用運転を開始し、22年10月からは硬X線領域の研究開発が進められている。また、欧州で整備が進められているEuropean XFELは、平成26年の稼働開始を目指して現在建設中である。このように、海外では、光科学研究の世界的な拠点を目指すべく利用環境の集中的な強化がなされている。
激しい国際競争の中で、日本のXFELが独創的・革新的な成果を創出していくためには、利用の初期段階において利用推進課題で開発された装置を十二分に活用するとともに、新しい手法開拓と装置開発・整備を継続的かつ組織的に行っていく必要がある。また、多様な分野の研究者等の利用を促進するとともに、国民の理解、支持及び信頼を継続して得られるよう努めていくことも重要である。
このため、平成24年3月の供用開始を目指すXFELについて、まず、主に23年度に行うべきことについて、また、供用開始以降の取組に円滑につなげるための方向性について、新たにこの「利用推進方針」を策定する。
XFELがもたらす光は、今まで誰も経験したことのない強さと干渉性を兼ね備えているため、その利用方法に向けては、経験蓄積型の開発過程を経ることが避け難い。この状況は、20年以上の放射光利用経験の蓄積の上に立つSPring-8の研究利用とは全く異なるものである。したがって、利用の初期段階においては、まず、XFELの光源性能評価、利用実験装置の設置・調整手順、実験及び実験データ解析手法などについて、XFELならではの利用とその効率化を指向しながら、基礎情報を経験的に蓄積してゆくことが重要である。また、その過程で得られる情報を有機的に共有・展開することが、将来の利用の礎になると考えられる。
そのため、国内外の状況等も踏まえながら、当面は、装置・手法を提案する装置開発研究者、施設設置者(以下「設置者」という。)及び利用支援業務を実施する登録機関(※)を中核とするグループが、多くの潜在的利用者を積極的に巻き込みながら利用方法を確立し、成果を創出・共有する展開が望まれる。また、個々のグループの利用研究の習熟度に応じて、漸次、一般利用中心の利用形態に移行するための筋道を示すことが必要であろう。
(※)特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律に基づく登録施設利用促進機関
習熟期間は2~3年程度と想定されるが、その間は、利用に関するエキスパートを養成しながら、将来、利用者のサポートができるような体制の構築が望まれる。そのためには、登録機関が行う利用支援に加えて、設置者自身も積極的に協力して利用環境整備を進めていく必要がある。
XFELが安定的に利用され、世界最先端の成果を創出し続けるためには、国内において、XFELの利用・維持・高度化に関する人材及び技術・知識基盤を有し、その裾野を拡大することが重要である。そのためには、供用開始後も、国内の利用者が中心となって中核的技術・装置・手法の開発整備を行い、最先端の技術開発とその蓄積を図っていくことが望まれる。
XFELは当面世界に2つしか存在せず、海外からも高く注目されているため、諸装置の完成後は、世界に広く門戸を開いて国際的なイニシアチブを発揮していくことが必要であろう。その際、国際頭脳循環の核となる研究拠点の一つとして、競争と協調のバランスを取りつつ、国内外の機関と連携を図りながら、独創的・革新的な成果の創出に注力することが重要である。
ユーザー、設置者、登録機関の3者が一体となって新しい利用方法の開拓を進めうる体制の構築が望まれ、ユーザー間の協力・連携と、ユーザー自身による意志・ 判断の表明が必要となってくる。
供用開始に当たっては、まずは利用推進課題等で開発された既存の装置を活用して、 「速やかに成果を得る」という所期の目的を達成することが求められる。
このため、供用開始前の立ち上げ期間(調整運転期間:平成23年4月~24年2月)を利用して、利用推進課題等で開発・整備された装置の調整運転を行うとともに、供用開始後の利用課題の検討と潜在的利用者の掘り起こしに資するべく、当該装置により実施の可能性がある実験手法などについて事前実験・研究のための「調整運転提案」(仮称)を新たに募集する。その際には、既存装置に別の付属装置(アタッチメントなど)を付加して、これまでに想定されていなかった事象への対応も含めながら、それら装置の適用範囲拡大についても検討されるべきである。また、募集に際しては、利用推進課題研究者の間で、より一層相互に理解を深めること及び潜在的利用候補者に対して、これまでの成果を周知徹底することが肝要である。
<選定基準(案)>
先行する米国の状況等も踏まえながら、我が国の独自性・革新性を十分に活かした新しい柱を中・長期的に構築していくことも重要であり、今までの利用推進課題で は必ずしも想定されていなかった新たな科学の展開を目指す「新規実験装置提案」 (仮称)を募集していく必要がある。
<選定基準(案)>
これらの採択には、設置者、登録機関に加えて、個別分野の利益代表ではなく幅広い意見を代表する外部委員から構成される「利用装置検討委員会」(仮称)を設置し、公開性・透明性を確保しながらの課題選定が必要である。また、国の方向性を踏まえ、提案課題による開発装置の利用の進め方や利用方法の開拓に向けた研究課題の統合に関しても、具体的に検討することが望まれる。
供用開始後当面の間(2~3年)は、利用研究課題及び新規実験装置提案課題に より整備される装置並びに設置者が独自に整備する装置については、ユーザー、設置者と登録機関が三位一体となって装置の立ち上げ・調整運転を行うことが必要である。
また、本格的な利用研究に向けては、X線自由電子レーザー利用推進戦略会議(仮称)において検討し、「XFEL利用推進計画(仮称)」(以下「推進計画」という。)を策定することが望まれる。供用開始後の利用研究課題の具体的な選定基準等については、X線自由電子レーザー利用推進戦略会議(仮称)において検討することとするが、研究黎明期での利用研究課題の在り方と、ある程度進捗した段階での在り方については、各分野における利用研究の推移とその将来発展を見据えながらの検討が必要であろう。なお、X線自由電子レーザー利用推進戦略会議(仮称)の構成員については、XFELが開発から利用フェーズへと移行することを鑑みるとともに、国内外の状況等を考慮しながら柔軟に対応していくことが重要である。(3.推進体制参照)
一般利用者が応募する利用研究課題の選定、利用者支援は登録機関が実施する。
※利用研究課題の選定の考え方(参考)
本協議会は発展的に解消し、国、設置者、登録機関、ユーザーなど関係者からなるX線自由電子レーザー利用推進戦略会議(仮称)に、その機能を引き継ぐ。当該X線自由電子レーザー利用推進戦略会議(仮称)においては、限られた利用時間の配分や優先課題・分野等の在り方などについて検討し、「推進計画」を定め、登録機関の実施する利用研究課題の選定や利用者支援、施設の運営等に反映することとする。また、X線自由電子レーザー利用推進戦略会議(仮称)は、供用開始後の事業の実施状況やその成果の評価・情報共有とともに、国際動向等についての情報交換の場としても活用していくことが望ましい。
X線自由電子レーザー利用推進戦略会議(仮称)を核としながら、SPring-8も含めたXFELユーザーコミュニティーを組織化し、関係者間の情報共有や合意形成等を図るとともに、両施設の相補的利用あるいは相互利用等についても積極的に検討することが必要である。その際、利用技術開発の進捗も踏まえつつ、産業利用の推進についても検討することが必要である。
当面は、本方針及び推進計画等に基づき、設置者と装置提案者、登録機関の三者が一体となり、利用研究課題の実施者や一般利用者を巻き込みながら利用研究推進を牽引する。その際、課題の優先順位や重点分野を考慮しつつ、ハード・ソフトの両面から実験手法を完成させて行くとともに、利用経験を積んだ実験者や若手研究者を養成していくことが必要である。
利用研究の進捗や成果の状況、SPring-8との連携などについて検証・評価するとともに、海外施設との技術協力や共同研究の在り方を検討することも必要である。
なお、既存光源で実施可能な課題や予備実験については、必要に応じて、SPring-8ビームライン(BL19LXU及びBL29XU)やプロトタイプFEL機さらには国内の他施設との協力に基づく利用についても考慮すべきである。
XFELは、LCLSやEuropean XFEL、理研の各研究所、国内外の研究者やユーザーとの連携を通して、装置性能の向上や成果創出の促進に努めることが重要であり、XFELの可能性を最大限発揮した最先端の利用研究を進めることが必要である。
また、XFELは、SPring-8と隣接し、X線レーザーと放射光を同時に利用できる相互利用実験施設(現在整備中)は他の拠点には無い強みであり、このメリットを活かした成果の創出も重要であり、今後大いに期待するものである。
さらに、次世代スーパーコンピュータ(京速コンピュータ「京」)との連携による、情報量が多い実験等での新たな展開や、大強度陽子加速器施設(J-PARC)など他の量子ビーム施設等との相互利用研究なども積極的に推進すべきである。
XFELは、国家的な大規模プロジェクトであり、整備・運用に巨額な国費が必要であることから、国、設置者、登録機関、ユーザーは、各々の役割を認識し、積極的な広報・普及啓発に努め、十分な説明責任を果たしていくことが重要である。
具体的には、広報対象の当該研究分野に対する認知度や関心度合いに応じて、広報内容を柔軟に工夫したシンポジウムやセミナー、講演会等の開催、専用HPや機関誌、刊行物による充実した情報提供やPR等が望まれる。特に、利用研究の成果を広く国民へ分かりやすく発信することが重要である。
産業利用は、その成果が目に見えて分かりやすい面があるため、その推進に向け、設置者や登録機関が主導して企業研究者に呼びかけ潜在的需要を掘り起こすことが望まれる。このための勉強会等を実施することも重要であり、様々な研究実施事例の紹介と今後の可能性について理解を促すことが求められる。
これらを通じて、XFELの認知度の向上や理解増進に努めていくこととする。
電話番号:03-5253-4111 (内線4336)