平成22年3月15日(月曜日)13時30分~15時30分
文部科学省16F特別会議室
後藤主査、相原委員、安達委員、尾家委員、下條委員、長谷川委員、村山委員
舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長、その他関係官
(1)後藤主査より今回の検討会の審議事項について、また、飯澤学術基盤整備室長より本検討会の配付資料について説明があった。
(2)山田国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系教授による資料1「ノード機関の役割」、及び資料2「上位レイヤ機能の実現に向けた取り組み状況について」についての説明があった後、質疑応答が行われた。
【山田教授】 資料1の「ノード機関の役割」についてご説明します。SINET4への移行により、ネットワーク構成も含めてこれまでとは様々な面で変化があると思いますので、再度、その役割についてご説明しますとともにご議論いただければと思います。
まず、現在のノード校としての役割をSINET4でも引き続き担っていただくことになると考えているものは、ノードの機器設置に関連する役割です。具体的には、ノード機器の設置場所の提供管理、これに伴う光熱水料等の負担、さらに機器の運用管理に必要な人的負担があげられます。
また、ノード校は、地域や研究コミュニティの中心的な機関としての役割を果たしています。具体的には、学術情報ネットワーク運営・連携本部や地域におけるネットワーク運営組織等への協力、各地域における研修会やセミナー等の開催、さらには地域や研究コミュニティにおける要望や回線状況の把握等などを通じて、地域の加入機関のとりまとめの役割を担っていただいているところです。
今後、ノードのデータセンターへの移行に伴い、ノード校として、ノード機器の設置等の役割は徐々になくなることになりますが、SINET4においても、地域や研究コミュニティの中心機関としての役割は継続されていくものと思われます。今後、学術情報基盤オープンフォーラム等における地域連絡会の活動が盛んになると想定されますので、現ノード校には地域や研究コミュニティにおけるニーズ等のとりまとめ、ワークショップ等の開催における中心的な役割を担っていただくものと考えています。その上で、今後、ノード校の経費負担等の在り方についても検討していきたいと考えています。
次に、資料2の「上位レイヤ機能の実現に向けた取り組み状況」についてご説明します。第3回の本検討会において、上位レイヤの概念や方向性についてご説明し、先生方からご意見をいただき、それを踏まえて再度整理をしたものです。
現在、国立情報学研究所では、最先端学術情報基盤(CSI)の構築の推進に向け、上位レイヤ機能と呼ばれる、学術情報ネットワークの高度な利用やコンピュータリソースの活用、新たなアプリケーション実現のための機能を強化していくために、情報基盤センター、大学共同利用機関等と連携・協力し、我が国の学術研究・教育活動に必要なリソースを共有する環境を構築することが大変重要であると考えています。
このような活動を推進するためには、高速の学術情報ネットワークの基盤を整備することはもちろん重要ですが、それを支えるセキュリティも含めた機能の強化が必要だと考えています。
資料2、2頁の左図にあるとおり、ネットワークレイヤ、セキュリティレイヤの基盤を構築した上で、各種研究のためのニーズを踏まえた計算資源等の学術リソース基盤を用意し、それらが最終的に学術サービスや連携レイヤを支えるものとなります。
このような上位レイヤ機能を国立情報学研究所のみがすべて用意することはもちろんできません。情報基盤センター等と役割分担をしつつ、学術研究や教育活動上のニーズの高いもので、かつ民間サービスで提供されないものについて、学術情報基盤オープンフォーラムや学術情報ネットワーク運営・連携本部の企画作業部会などの場で大学等と連携しつつ議論を進め取り組んでいきたいと思っています。
同頁の右表の学術研究や教育活動上のニーズと必要な学術リソースの対応表についてですが、これは必要なすべてのリソースを記載したものではなく、国立情報学研究所が提供でき得る学術リソースレイヤから見た一例です。例えば、研究コミュニティや実験装置間で、必要なときに必要な拠点間でのセキュアなデータ転送を行いたいというニーズがありますので、その対応として、レイヤ2VPNのオンデマンド化という取組みを新たに進めていきたいと考えています。
また、電子ジャーナル等を学外からスムーズに利用したいという要望があり、これに必要な学術リソースとして、UPKIを中心とする学術認証基盤の構築を推進することによって、このようなニーズにこたえることができるだろうと考えています。
さらに、自機関だけで機関リポジトリの構築を進めることが困難な大学等を対象としたリポジトリの構築への支援の要望があり、これに対しては、リポジトリを共用する仕組みを整備することにより、経済的かつ効率的なリポジトリの充実が考えらます。
現時点では、具体的にどのような機能を強化していくのかをはっきりと申し上げることはできませんが、学術情報ネットワーク運営・連携本部のもとに設置された企画作業部会において議論を進めています。
説明は以上です。
【下條委員】 学術情報ネットワーク運営・連携本部においては、CSIの構築実現に向けて、学術情報基盤整備に関する検討が行われ、中心的な人材も育ちつつあるので、ノード校の役割をうまく連携させつつ、コミュニティの中でしっかり役割を果たすということを主張するべきではないかと思います。
【山田教授】 SINET3においては、ノード校である大学に設置されたエッジ・ノードまでが国立情報学研究所の整備範囲でしたが、SINET4においては、非ノード校のアクセス回線の共同調達についても支援を行うことになるので、コミュニティとより密着し、ネットワークづくりを進めなければならないと思います。国立情報学研究所自体もSINET4以降の役割は大きく変化すると思いますので、地域や研究プロジェクトのコミュニティの意向をより反映できるよう、体制も含めて検討していきたいと思っています。
【下條委員】 経費負担の話も今後検討されるものと思いますが、もう少し地域におけるノード校の役割として果たすべき責任をより明確にして推進する体制が必要ではないかと思います。
【村山委員】 以前も申し上げましたが、最近ではネットワークの基礎を全く理解していない学生が多いので、各大学におけるそれぞれの取組みよりも国立情報学研究所などが調整し、例えば夏期セミナーなど教育のための標準プログラムを整備してもらうことができれば、大学等における情報通信分野の人材育成にもつながるのではないかと思います。
【山田教授】 現時点での具体的な地域コミュニティとの関わりについては、例えば京都のNCA5や宮崎のMAIS、東北地区のTOPICなどの様々なコミュニティの会合に定期的に参加し、SINET3に関する技術やサービスに関する情報を提供しています。その中でも、人材育成に重点を置いた要望もありますので、オープンフォーラムの場を通じて、今後、このような取組みの実現可能性について検討していくことになるのではないかと思います。
【安達委員】 学術情報ネットワークは、これまで、非常に信頼できる情報基盤として、365日間停止することなく、安定的に大学のために稼働させるという運用面での責任を持って取組んできました。一方、運用に関わる人材に関しては、どの会議に出ても人材が足りないという話題が出ますが、割ける人材が限られている中で最適配分を考えざるを得ないと思っています。
その中で、研究所等からは、ネットワークに関わって仕事をしたい人が少なくなってきたとよく聞きますし、また、ネットワーク関連業務のポジションを確保することがなかなか難しいという現状で、どのように対応していくか、学術情報ネットワークの運用とどのように結びつけていくのかということが課題だと思っています。
また、センサーや観測機器とネットワークを繋げて実験していく場合には高度な知識を共有していく必要があります。普通の民間のプロバイダでやろうとするととても手間がかかることを効率的にしていくという側面をどのようにしていくかが課題だと思っています。
上位レイヤについても、典型的なのはメールサービスであり、グーグルなどに委託する大学も見受けられ、広範囲の教職員・学生のメールを持続的に提供することが経費的な面も含めて難しくなってきています。それを国立情報学研究所の上位レイヤ機能として提供してほしいという要望が非常に多いのですが、大学独自に持てなくなった機能を国立情報学研究所に持ってきても、うまくいくはずがないというのが現時点での結論です。このような問題にどのように対応していくかも課題だと思っています。
【後藤主査】 人材育成に関しては大学等に限らず、民間通信事業者等でも非常に重要な課題であり、いろいろな工夫をしながら取り組んでいる事例もあると思いますので、そのような情報を共有するべきではないかと思います。
米国では、そのような情報通信関係で活躍している研究者・技術者等が中心になって、コミュニティを結成しています。日本もそのような方向に向けて検討していくべき時期にきているのではないでしょうか。電気通信業界における後継者の育成も含め、我が国全体の情報通信に関わる人材をうまく循環させるためには、少し工夫が必要だと感じています。
【相原委員】 今後の学術情報ネットワークにおいて、ノード校における役割が軽減される方向に向かっていった場合に、地方の大学に新たな役割を期待されても、人材不足の面もあり、なかなか期待に応えられなくなる可能性があるのではないかと懸念しています。
このため、今後、オープンフォーラムの地域連絡会がどのような役割を担い活性化させるのかということも明確化する必要があると思います。現在のノード校のすべてが何らかの役割を担うのは無理があり、上位レイヤ機能での連携を期待する場合には、どのような機能が必要なのかが少し具体的になってきたところで、各地域等を代表する大学等が役割を果たす、または、必要な機能開発を共同で行うべきだと思います。今後は、共同研究等の要素もあると思いますので、そのような面でも連携するなど、総合的に考えていく必要があると思います。
【山田教授】 SINET4においては、当面、ノード校には、資料1、2頁のような役割が位置づけられると思いますが、SINET5に向け、さらにノード校の役割を明確に整理したほうがよいだろうと考えています。その場合、ノード校における回線料の経費負担の問題が大きく絡んでおり、上位レイヤ機能の強化における連携も含めて、SINET5以降の役割を総合的に検討するための議論を行っていきたいと考えています。
【尾家委員】 学術情報ネットワークは全国へ展開しており、これがSINET5へと進化していく中で、ユーザーの利用形態等の情報を汲み上げるためにも、現ノード校の役割は重要になるのではないかと思っています。
特に、国立大学の場合、法人化後は個性や競争など、どちらかというと縦割りのようになってしまっているので、情報通信分野においては横軸の大学間連携による展開が必要であり、ノード校の役割は益々重要だと思いますので、ノード校としての役割を残すというよりも、新たな役割を考え、うまく利用する発想であってほしいと思います。
例えば、セキュリティに関して各大学でいろいろな事象が起きていると思いますが、ある大学においてセキュリティホールがあるということが、当該組織は知らなかったということも場合によってはあります。そこで、大学等関係者の集まりがあれば、「たまたま見ていたら、ある大学にこんなセキュリティホールがある」と、情報共有による素早い対応が可能になると思います。また、先ほど人材育成の話もありましたが、せっかく学術情報ネットワークという大学間ネットワークがあるのですから、これ活用して、次世代の人材を育成する観点からもうまく連携していけるのではないかと思います。
組織をつくれば進展するというものではないことも承知しており、推進する仕掛けについては別途議論が必要だと考えています。
【後藤主査】 教育は国にとっての重要なインフラです。セキュリティを攻撃する側はネットワークを駆使した情報共有や仲間を募集するなどの面である意味連携しています。一方、攻撃される側は連携していませんから、到底かなうわけがありません。攻撃される側も連携することはセキュリティにおいても非常に重要なことであり、大学のように、お互いに信頼関係にあるもの同士が情報共有することは大変意味があることだと思います。
早稲田大学では、セカンドメールについては、ヤフーにお願いしていますが、ファーストメールは、非常に厳しい状況の中で大学が管理しています。大学においては、すべて任せてしまうわけにはいかないところがあり、どの程度を大学で管理し、どの程度を誰に任せるべきかを判断しなければいけないことが多くなってきたと思います。そのような中で、国立情報学研究所に期待するところもあり、今回の資料2の中に出てきた具体的な事例について整理していただいたものと思います。上位レイヤは非常に幅が広いので、ご意見がたくさんあると思います。
【長谷川委員】 SINET4が本格運用されるようになった際、上位レイヤとして何が提供されるのか分からないので、各大学において何をどのように取り組んでよいかわからないという声を様々な大学から伺います。先ほどの説明だけでは、どのような機能が提供されるのかが明確ではありません。
【山田教授】 今回の資料2中のニーズとリソースとの対応表は、現時点で我々がある程度中心となって提供できそうなものを記載しています。それ以外の機能を大学と連携しつつ、どこまでをどのように提供していくかがこれからの課題です。現時点でははっきりしたことは申し上げられませんが、大学等のニーズは把握していますので、その上で議論し、取組み方や方向性を出していければと思っています。
【安達委員】 これまで、国立情報学研究所においては、下位のレイヤに関する取組みを中心に行ってきました。5年ほど前から、グリッドや認証というものをプロジェクトとして研究開発してきました。今後、クラウドコンピューティングのような新たなネットワーク利用もあり、ますます上位レイヤに関心が移っていくものと思います。そのような中、どのような上位レイヤの機能を国立情報学研究所が提供するべきなのかも含めて検討しているところです。アンケートなどによるニーズ把握ではメールに対する要望が多いのですが、それはどう考えてもやりにくいという現実があります。
要望等は、情報系センター協議会等で集めているものもありますし、国立情報学研究所でもアンケート調査を行っています。そのようにして生の声を集めて、方針づくりに反映していけるよう取り組んでいるということを紹介しておきたいと思います。
【後藤主査】 具体的な要望については、どこにコンタクトをとればよいのでしょうか。
【山田教授】 学術情報ネットワークについては、オープンフォーラムが役目を担っています。学術情報ネットワーク運営・連携本部企画作業部会のメンバーの先生を経由しても結構ですし、国立情報学研究所の利用推進室の窓口でも結構です。
【相原委員】 上位レイヤについては、過去の学術情報ネットワークの整備においてはあまり議論されてこなかったと思うのですが、他でも議論されていなかったのかと言えば必ずしもそうではないと思います。
本日の資料中に出ている例でも、研究コミュニティの実験装置間でセキュアなデータ転送を行うということは、見方をかえれば、ストレージであり、これをどのように提供するかということは、情報基盤センター等でも検討されている内容です。電子ジャーナルやリポジトリも図書館等が中心に検討しているものだと思います。
このため、学術リソースのところを切り分けて、これまで図書館では検討されてこなかった学術認証基盤等に着目し、すみ分けをしようということはあると思いますが、本日の資料を見ると、例えば図書館や情報基盤センターが行うべき機能を取り込むなどといった見方ができ、それは二重投資という指摘にもなりかねません。
すみ分けの整理は、ある程度目途を立てた上で議論を進めないと、単に要望を集めていけばよいというものではないと思います。また、別の機関が取組むべき内容ではないのかという発想が出てくるものと思います。この検討会で議論すべき上位レイヤはどこまでなのかということを、ある程度決めておかないといけないのではないでしょうか。
【後藤主査】 相原先生からご意見があったように、従来の枠組み等を変えていくという可能性がある場合、どこが、何に取り組むのかということも意識しておく必要があり、それに対応できるような推進体制や企画立案が求められているのではないかと思います。
【下條委員】 本検討会や文部科学省がしっかりとしたグランドビジョンを描いて、どの機関に何を行わせるのかということを示しながら全体の底上げをしていかないと、国立情報学研究所だけでは進まない話だと思います。一方で、情報基盤センター群のネットワーク連携もありますから、それらも踏まえて取り組んでいくことが理想的だと思います。
スパコンや情報基盤も個別の話ならそれぞれでできるのですが、全体をどのようにするかという話については、文部科学省が率先してグランドビジョンを示すべきだと思います。
【安達委員】 私は少し違った見方をしています。情報基盤センターなどは全国共同利用としての機能に関心があり、学内サービス等についてはあまりコミットしていないように思います。一方、情報系センターは、学内の様々な情報に関する課題を引き受けており、大学によって事情は異なっています。
また、アメリカと比較すると、アメリカではEDUCAUSEというような組織があって、eラーニングや学習用のコンテンツも含めてディスカッションするコンソーシアムが機能しています。このため、今まで議論されてきた上位レイヤ等についても、文部科学省が主導して検討するということもあるかもしれませんが、制度や歴史的経緯が異なる国公私立大学全体をカバーするコンソーシアムで議論し、その上で、国に対する要求、要望を示すことが一番よいのではないかと思います。そのような場で、国立情報学研究所がまとめてここまで実施するべきであるということや、ここは大学等に任せるという仕切りを議論するということが一番理想的ではないかと思っています。
【下條委員】 日本では、ボトムアップではまとまらないことが多いと思います。
【後藤主査】 確かに、ボトムアップではなかなかまとまらないのかもしれません。日本では、大学のみならず産業界もそのような傾向があります。日本で行われてきた大きなプロジェクトで、本当に民間主導として参考になる例は、インターネットの発展だと思います。特に、初期の時代には政府の関与は非常に少なかったと思います。
このため、安達先生が期待するボトムアップというものがあっても、国立情報学研究所が有する情報などを専門の教員等を通じて提供していただくとともに、下條先生が発言されたように大学も安閑とはしていられないので、フォーラムのような場を積極的に活用していかなくてはならないと思います。国からの支援が得られないまでも、仲間が広がるというようなことが期待できるのではないかと思います。
【尾家委員】 先ほどEDUCAUSEの話がありましたけれども、日本においてもそのような組織によるオープンフォーラムの場をうまく機能させることによって、各大学の情報システム、情報教育等の現状、ニーズをシェアし、それが国立情報学研究所にフィードバックされていけばよいと思います。
【後藤主査】 まさにそのような話への関心や、問題意識を持つ人が多いと思いますので、よくご存じの先生方からの情報共有は非常に重要ではないかと思います。
議論において様々な意見等による変化があるかもしれませんが、体制としてどう進めるか、また、下條先生からのご発言にありましたように、このまま放置しておくことはよくないと思いますので、そういう点は十分注意して進めていきたいと思います。
(3)飯澤学術基盤整備室長より資料3「学術情報ネットワーク整備に関する今後検討を要すると思われる事項」について説明があった後、質疑応答が行われた。
【村山委員】 人材育成については今後の検討課題として記載していただいていますが、もう一つ重要だと考えていることは、インターネットやコンピュータ技術は、アメリカから始まったわけですが、1978年頃から日本でもそれに連動して様々なネットワークに関する研究や開発が行われたと思います。現在、その時に活躍された方々が退職される時期にきていますので、是非、我が国のコンピュータ・ネットワークの歴史をアーカイブ化していただきたいと思います。アーカイブは、教育に利用できます。「どうしてそのような研究開発が行われたのか。現在、このようになっているのは、過去にこのような経緯があるから。」など、過去の研究開発に携われた先生に執筆いただき、アーカイブ化を行い、共有サイトを構築いただければ、上位サービスにもつながるのではないでしょうか。早速始めなければいけないことは案外そういうことではないかと思っておりますので検討いただきたいと思います。
【後藤主査】 米国では記録が蓄積されており、例えば、ARPANETなどは、検索すると昔の図表などが出てきます。今のうちに記録すれば残っていくものは相当あると思います。私も個人的には心がけているところではありますが、結集したほうがよいのではないかと思います。
コンピュータミュージアムも、情報処理学会で作成し、ウェブ上でかなり昔のコンピュータの写真や図版の記録を残していますが、ネットワークのほうがもう少し大変で写真では済まないようなところがあるかと思います。今後のためにも是非考えたほうがよいのではないかということは大変貴重なご指摘だと思います。
【相原委員】 人材育成に関係することですが、情報関係の人材を育成しようと思っても、目指そうとする人材がいない。仕事としてはあまり面白みがない、楽ではないということが定着しているように思います。大学自らが情報系の学生の募集等に工夫をする必要は当然あるのですが、一方で、せっかく全国の大学の情報インフラを支える国立情報学研究所という組織があるにも関わらず、大学の後ろに隠れて見えてきません。もう少し表に出るといいますか、予算をとるということではなく、非常に世の中の役に立っているところを見せて人材を集められるという意味で、もう少しうまく広報していただけるとよいのではないかと思います。
また、先程の歴史のアーカイブ化もその一部かもしれません。歴史がうまくまとめられていて、過去から今日につながっていること、これから先どのようになるのか、誰にでもわかるように見せるということも非常に重要だと思います。とにかくネットワークというものは陰にかくれてよくわからないということが世の中の一般的な見方ですので、もう少しクローズアップするような広報の在り方も重要ではないかと思います。
【後藤主査】 他の分野がいつでもどんどん伸びているかというと、そうではなくて、一度苦しい時代を経た分野のほうが、大学と産業界との連携のさらなる工夫や、夏休みにおけるイベント開催など様々な工夫の上で伸びてきているのではないかと思います。そのような意味で、情報通信分野は、ずっと右肩上がりでこれまできたところがあり、ここしばらく大変苦しいところではありますが、少し工夫をするという機運を盛り上げていく必要があるのかもしれないと思います。
今まで議論のありました人材育成や歴史については、項目としては大きな項目に含まれるものの、そういった観点を意識しつつ、すべてが国立情報学研究所の役割ではないと思いますが、様々な機関における活動について適切な分担をするとしても、抜けがあってはいけないということになると思いますので、連携体制も含めて、今後、検討が進めばよいと思います。
【下條委員】 学術情報基盤は、今後も継続的に審議すべきものであり、長期的な戦略と持続可能な整備方策をどこかで考えておく必要があると思います。単に、概算要求の時期なので集まって議論するというものではないと思います。学術情報基盤は、常設の委員会などによる位置付けが必要ではないかと思います。
【飯澤学術基盤整備室長】 本検討会は、SINET3からSINET4への移行について中心議題として扱っていただきましたが、科学技術・学術審議会のもとに学術情報基盤作業部会があり、この作業部会において学術情報ネットワークをどのようにしていくのかという議論をいただき、さらに具体的な整備方策について検討いただくために本検討会を設置し議論いただいたという経緯があります。学術情報基盤作業部会においては、ネットワークを含めて情報基盤全体の議論を継続的に行っていただいております。
また、国立情報学研究所においても、学術情報ネットワーク運営・連携本部で常に議論をしていただいておりますので、相互に情報交換しながら、必要に応じて対応していきたいと思っています。
【下條委員】 そういった全体的な位置付けが、とりまとめのイントロなりで説明されるということですね。
【後藤主査】 学術情報基盤作業部会には有川先生や三宅先生などが委員として入っておられ、これまでも様々なご意見をいただいてきたところです。体制としてもきちんと持続するようにしないといけないということは大変重要だと思いますので、とりまとめにおいては、特記しておくことも必要ではないかと思います。
【安達委員】 昨年来、国の方針決定が変わったと感じでおり、私自身、ネットワークに責任を持つ仕事をしていますが、正直、5年先が全く読めないと思っています。審議会で一生懸命議論していただいたので、そのとおり進むかと思えばそうでもなく、基盤整備に対する関心がないことが一番の懸念です。審議会では別途、大型設備等を利用した大型研究プロジェクトの今後の在り方について検討されており、相変わらず各研究分野の研究者は次の望遠鏡、次の加速器の必要性などを議論している中で、我々はそのようなプロジェクトに比べて経費がかかっていないにも関わらず、情報基盤の在り方を今後どのように位置付けるのかということについては議論すらされていない。従来どおり、各研究分野がそれぞれ欲しいものを欲しいと言っているだけで、第三者的に見てこれでよいとは思えません。
国立情報学研究所内での議論では、大学ができることは大学で責任を持って担っていただき、全体として実施しなければならないことを国立情報学研究所が担うという考えでいかなければいけないと考えています。そのような考えの中で、人材育成はとても大事ですが、大学においてそのような人材が必要であれば、それは大学において対応するべきという整理の仕方が今の流れだと思います。来年度におけるSINET4への移行実施計画は何とかできそうですが、5年先はどのようになっているのか分からないというのが正直な感想です。
【後藤主査】 安達先生のご意見は本質的なものだと思います。実は、社会における合意形成のプロセスがあまり成熟しておらず、話が止まってしまうようなところがあります。これはなかなか難しい課題で、そう簡単に決着はつかないのですが、単に一般的な、常識的なことを訴えかけるだけではなかなか説得力がないので、様々な人にわかりやすく説明できなければならないと思います。大学の中でも共通的な部門というのは非常に弱い立場で、サポーターがいないことがあげられます。重要なことは間違いないのですが、少なくともこれまで何とか凌いできたので、今後も心配ないと思われているのではないでしょうか。学術情報基盤作業部会でも、大学の中ではサポートが弱いので、情報基盤における課題を学術研究全体の課題として捉え、各大学における責任も明確にしていきたいという意図もあって、議論を進めてきた背景があると理解しています。
そのような意味で、縁の下になっている情報基盤を今後どのように整備していくべきか。これが動かなくなれば教育研究活動全般に相当支障をきたすことになるのですが、今まで問題なくきていたがために、あまり注目されず、むしろ理解されないところがあるということは非常に皮肉な結果です。
【村山委員】 ここで議論されている先生方は、ネットワークの専門家であり、主に運用の面で議論しています。しかし、日本のネットワークを考える上で一番大事なことは、日本発のネットワークの研究開発だと思っているのですが、わが国では、ネットワーク研究にお金をかけないこともあり、全く新たなアイデアが生まれる気風にはなっていません。米国などでは軍事費を利用して、積極的な研究がなされています。日本ではスパコンの研究開発には積極的に投資されていますが、単体のシステムによるコンピューティングはあり得ないので、ネットワークによるコンピューティング技術が必要となります。では、その際、ネットワーク技術をどのように考えるのか、それを担う日本の技術者のレベルをどうやって底上げするか、どのようにして日本が発信するネットワーク技術を先導していくのか。それにはもう研究予算を確保することが重要で、もう少し私たちよりも決定権のある先生方に考えていただかなくてはならないのではないでしょうか。本来、ネットワークにおけるTCP/IPが主流になった時点で、日本が先導的に考えなければいけなかったことだと思うのですが、ずっと考えず、米国の技術に頼るという流れで来てしまったのではないかと思います。それよりも、ネットワークは自分達が引っ張っていくのだから、5年後の見通しを持つことが必要で、削るところは削らなければいけないかもしれませんが、投資すべきところには投資するという考え方が必要だと思います。
【相原委員】 先ほど上位レイヤの議論にもありましたが、切り口の一つとして考えるべきは、必要とする機能の空洞化を避けるということがキーワードかと思います。これまでの議論においては、国立情報学研究所の上位レイヤ機能の強化に向けた検討をしているので、国立情報学研究所で実施するべきか、大学等で実施するべきかという議論になっていると思いますが、これまでの上位レイヤにおいても国立情報学研究所と大学等との連携があるように、どこでもよいので、必要な上位レイヤ機能を提供できるようにしておかないといけないと思います。メールサービスのように特定の企業に任せておけば安心だと思っていたら、国をまたいで様々な問題が起こるかもしれない。つまり、独自技術を持っているか、持っていないかというのは、いざというときに決定的な違いを生む可能性があります。このため、世界最高水準の技術を開発するということは非常に難しく、後から追いかけるのも難しいことですが、だからといってビジネスにすべてを任せてしまっては、本当に技術の空洞化につながり、後々経済的にも非常に打撃を与えられる可能性があると思います。
そのようなことからも、上位レイヤ機能の強化については、単純に国立情報学研究所が実施する、大学等が実施するということではなく、我が国全体の重要な課題として、とりまとめにはもう少し広い立場で意見を入れておいたほうがよいのではないかと思います。
【後藤主査】 ただいまご意見のあった上位レイヤ機能の強化における基本的な考え方は非常に重要であると思います。私立大学の動きを見ると、昔に比べると情報交換が盛んになっており、特に問題点やその実例を大学同士であれば共有できるようなところも出てきているので、連携するための機運が高まっているのではないかと思います。コンソーシアムの話もありましたし、このような厳しい状況の中で議論が深まっていけばよいのではないかと期待しているところです。
(4)飯澤学術基盤整備室長より資料4「次期学術情報ネットワークの整備について(意見の取りまとめ)【骨子案】」に関して説明があった後、質疑応答が行われた。
【下條委員】 先ほどからの議論にもありましたように、本検討会のみならず、様々な委員会の動きも踏まえて長期的な戦略を考えていく必要があるということと、研究開発及び人材育成について、国立情報学研究所が行うべきという整理ではなく大学等との連携により実施していくべきものとしてとりまとめたほうがよいと思います。
【尾家委員】 今後の検討課題においては、ネットワークの機能高度化のための研究開発の在り方も必要ですが、その実現のための組織や仕組みなどの体制の在り方も必要ではないかと思います。ただ単に研究開発が必要ですというだけではなく、どのような仕組みと、どのような組織があれば、持続的に可能なのか。そのようなことにも触れておく必要があると思います。
【後藤主査】 日本人というのは前に進むときには連携するのですが、後ろに引くときにはばらばらになるので弱いということがよく言われます。情報通信分野を取り巻く現状を見ると、今が本当に連携のチャンスなのだと思います。そのような意味でこの時期というのは、お金があればよいというものではなく、ファイバがあって、スーパーコンピュータがあれば立派なネットワークができるわけでもない。研究開発体制や人材育成も含めた戦略を立て、中長期的な展望を持って持続していかないといけないのではないかと思います。
事務局においては課題の整理が大変かと思いますが、貴重なご意見をいただきましたので、この後、取りまとめに向けての整理をお願いしたいと思います。
(5)飯澤学術基盤整備室長より、次回(第10回)以降の検討会開催についての説明、併せて、4月以降も引き続き取りまとめに向けた審議が続くことから、本検討会に引き続いてご参画いただきたい旨説明があり、本日の検討会を終了した。
── 了 ──
高橋、村上
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