次期学術情報ネットワークに関する検討会(第3回) 議事録

1.日時

平成21年5月15日(金曜日)13時~15時

2.場所

文部科学省16F特別会議室

3.出席者

委員

後藤主査、相原委員、安達委員、尾家委員、小林委員、佐々木委員、下條委員、長谷川委員、松岡委員

発表者

山田国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系教授

文部科学省

舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長   その他関係官

4. 議事録

(1) 山田国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系教授より、資料1「学術情報ネットワークにおける先端的学術基盤空白県の解消について」、資料2「上位レイヤ機能の実現」及び資料3「民間プロバイダとの相違点」に基づき説明が行われた。

 

【山田教授】

  今回は、前回までの議論や質問を踏まえて、事項毎に総括的に説明する資料を用意しました。1点目として、資料1「学術情報ネットワークにおける先端的学術基盤空白県の解消」について、前回に引き続き説明します。
  前回、地方のネットワークの現状や要望を聞く機会の必要性など、特に空白県における実情について調査をしたほうがよいのではないかとの意見がありました。
  現在、13の先端学術基盤の空白県においては、接続速度が100Mbpsで提供されているものがほとんどであり、最大使用率は80%を超え、100%に達している県も見受けられます。このため、ネットワークサービス利用等のニーズに基づく利用拡大に対応するため、経済的に増速が可能な環境を整備することで、空白県を解消することが喫緊の課題であると考えます。
  例えば、具体的な実情として、A大学においてはファイル転送に時間がかかり過ぎる、他大学との遠隔医療プロジェクトがHDTVを使用するために帯域不足で参加ができなかった、さらには、クラウドコンピューティングの実験に参加できなかったというような実例があります。また、B大学においては、遠隔授業やTV会議を行おうとしても安定的に行えないことや、研究利用のためのシステムソフトのアーカイブ取得に時間がかかり過ぎるというような実例もあります。
  2頁には具体的な要請として、2つの観点からまとめていますが、ネットワークの増速に関しては、地域連携による遠隔授業を安定的に実現したいという要望が一番多いということがアンケートから分かりました。
  ネットワークサービスの利用については、学術情報ネットワークが提供するVPN、QoS、L1オンデマンド等の利用を実現したいという要望がありました。
  3頁に空白県の実情を踏まえた整備の在り方についてまとめていますが、現在、非ノード機関におけるエッジノードへの接続のほとんどが100Mbps以下の接続になっており、増速を考える場合には経済的な負担や地域のネットワークの事情等により高速化を図ることが難しいという状態です。そのため、他大学との研究データの送受信や遠隔講義における映像通信においてネットワーク利用の要望に応えられないような状況にあります。
  また、エッジノードへの接続は、そのほとんどの機関が隣県のエッジノードに接続されているので、現状でも経済的負担が大きく、増速が非常に困難な状況にあります。さらに、これからの有望な技術として、波長多重可変速光アクセス回線が次世代のアクセス回線として期待されていますが、県間を跨るサービスが行われていないことから、エッジノードの未設置県ではこの技術の利用が困難な状況です。
  このため、国立情報学研究所における整備の在り方として、空白県にエッジノードを配置することによって、県間を越えるアクセス回線の距離を県内のエッジノードまでの距離に短縮することを可能にしたいと思います。その上で、波長多重可変速光アクセス回線を利用した経済的かつ高速な1Gbps以上のアクセス回線の確保を可能とし、現在、空白県の接続機関が抱えている課題を総合的に解決したいと考えています。以上のような整備計画により、空白県を解消し、接続環境の向上とサービス利用の拡大に努めたいと考えています。
  次に、資料2「上位レイヤ機能の実現」についてですが、この資料は、ネットワーク整備における上位レイヤ機能実現のための基本的な考え方に関わる面と、上位レイヤ機能を実現する上での国立情報学研究所の役割という面で、その考え方をまとめたものです。
  ネットワーク整備における上位レイヤ機能実現のための基本的な考え方についてですが、前回の検討会において、『大学側の多様なリソースを共有していくような仕組みが必要ではないか』という意見があり、また、『その場合に国立情報学研究所は何をどこまで実現しようとしているか』という役割についての意見がありました。さらに、『上位レイヤ機能の実現においては、国立情報学研究所の一事業という観点ではなく、オールジャパンで考えていくべきではないか』という指摘もありました。1頁に「次世代最先端学術情報基盤の在り方」を示していますが、基本的にはCSI(Cyber Science Infrastructure:最先端学術情報基盤)を実現するための基盤を重層的に形成し、これらを組み合わせ、総合的にCSIを実現するためには、学術コンテンツ基盤などを含む学術リソースレイヤ、サービス連携レイヤという学術クラウド型サービスが必要です。この図にある重層構造の部分を国立情報学研究所がすべて手がけるということではなく、この中で国立情報学研究所としての役割を考え、大学、関連機関と連携し総合的に推進していくものと考えています。
  国立情報学研究所としては、上位レイヤ機能を実現していく上で、学術情報基盤オープンフォーラムにおける活動を含めて大学における情報基盤センター、共同利用機関等と連携・協力し、我が国の学術研究・教育活動に必要なリソースをネットワークを介して共有、共同利用するような学術リソースレイヤを中心に構築していきたいと考えています。また、学術情報ネットワーク上でリソースを安全・安心に利用できるような基盤として学術閉域網基盤(VPN)の整備に努めるとともに、大学等と協力して大学間電子認証基盤(UPKI)の環境を構築していきたいと考えています。
  学術リソースレイヤ環境の形成においては、取組の特色や状況によって国立情報学研究所が主として取組むもの、情報基盤センター等と協力して取組むもの、情報基盤センター等が主として取組むものがあると思います。
  具体的には、国立情報学研究所が主として取組むものとしては、学術コンテンツ基盤を拡充し、クラウド型リポジトリに進展させていく取組、また、情報基盤センター等と協力して取り組むものとしては、スーパーコンピュータのグリッド活用による計算資源共有の取組、さらに、情報基盤センター等が主として取組むものとして、実験装置の共有やストレージ基盤の環境構築に向けた取組などが例として挙げられるのではないかと思います。
  次に、資料3「民間プロバイダとの相違点」について、前回『学術情報ネットワークと民間プロバイダとの違いを明確にする必要がある』との意見がありましたが、民間プロバイダと一番大きく異なる点は、1ニーズから課題を設定、2設定された課題を研究として推進、3その成果を生かしたネットワーク構築、4SINET利用推進室における運用支援を含めた最先端ネットワークサービスの提供といった一連の流れを循環させることで常に最先端研究を支える基盤を整備するということであり特徴だと思います。
  特にSINET3におけるレイヤ1オンデマンドサービスは、国立情報学研究所が独自に研究開発、実用化した世界初のサービスであり、一例として、現在、国立天文台の各地の電波望遠鏡を用いる光結合VLBIの観測に利用されています。従来は非常に高額な専用線が利用されていましたが、このサービスの実現によって費用対効果、リソースの有効活用を図ることができ、非常に大きな効果を上げていると思います。
  次に、国立情報学研究所が提案した次期学術情報ネットワークの構成について、『今後の需要も見越した上での構成であるか、また新たな需要に柔軟に対応できる構成であるか』との意見がこれまでの検討会においてありましたので、机上資料2に沿って説明したいと思います。
  1頁の左図は、横軸に月毎の時間経過を示しており、縦軸が1ヶ月毎の転送したトラフィック量を示しています。赤で標記した部分と青で標記した部分がありますが、赤は旧SINETノード、青が旧Super-SINETノードのトラフィックを示しています。全てが先端研究ではありませんが、この旧Super-SINETノードに接続されている加入機関に、非常に大きな先端的研究プロジェクトを行っている場合が多いことから、ここでは大まかな捉え方として、旧Super-SINETノードのトラフィックが先端研究のトラフィックとして示しています。それに対して、赤は旧SINETノードであり、大まかな捉え方として、一般の教育研究に使われているトラフィックとして示しています。両方とも平均で年間約1.4倍の増加を示していますが、互いのトラフィックを比べた場合、先端研究と捉えた旧Super-SINETノードのトラフィックが一般の教育研究と捉えた旧SINETノードのトラフィックに比べて約2.7倍になっています。数的には少ない先端研究プロジェクトでも、トラフィック的には大きな部分を占めているということが示されていると思います。
  このようなトラフィックの傾向を考慮し、また、今後想定される利用ニーズを踏まえた上でも現在考えている構成で十分対応できるのではないかと考えています。以上です。

(2)次いで、事務局より、資料4「次期学術情報ネットワークに関する検討における論点(たたき台)」について説明が行われ、その後、意見交換が行われた。

 

【後藤主査】

  それでは、意見を交換していきたいと思いますが、資料4については、説明にもありましたように、3.及び4.の事項については次回以降に具体的に審議されることになりますので、主たる議論については、1.次期学術情報ネットワークの整備における基本的考え方と2.次期学術情報ネットワークに求められる構成を中心に議論したいと思います。

【佐々木委員】

  限られた予算でサービスを提供するわけですから、どのようなトラフィックを優先すべきなのかのプライオリティー付けが大事だと思います。学術情報ネットワークには様々なトラフィックが流れており、例えば学生が学習を目的としたインターネット利用のトラフィックもあれば、研究用データの送受信に係るトラフィックなど様々なものが流れています。次期学術情報ネットワークでは、どのようなネットワーク利用をプライオリティーが高いと位置付けるのか、それぞれの立場で見方が変わると思いますが、どういったものが大事なトラフィックなのかという議論なしに話を進めていくのは難しいのではないかと思います。もし、ある程度そのコンセンサスができるのであれば、議論しやすいのではないかと思います。

【山田教授】

  従来のSINET 、Super-SINETという2つのネットワークを統合してSINET3になり、先端研究トラフィックも一般教育研究トラフィックも混在するようになったため、そのような意見が出てきているのだと思います。
  国立情報学研究所としては、両方のユーザーがいることを意識して、理論的にはなかなか難しいのですが、両方とも満足していただけるよう整備していきたいと考えています。その場合、ネットワーク需要のバランスを考慮し、各ユーザーと国立情報学研究所との間でどのように経費負担をしていくか整理していかなければならないと思っています。

【佐々木委員】

  資料3に民間プロバイダとの相違点についてまとめられていますが、主要な研究機関間の連携をサポートする基盤として国立情報学研究所の役割は重要であり、民間プロバイダでは先端研究を支援する枠組みはないわけです。そのような意味でSINET3は、先端研究を進めるための大事な基盤になっていると思います。全体のトラフィックの中には民間プロバイダに任せてもいいようなトラフィックもあるのではないかと思います。

【山田教授】

  部分的に見ると確かに民間プロバイダに任せられる部分はあると思います。しかし、国立情報学研究所においては、1つの特徴として、利用推進室を設置しており、ネットワークにおける性能が出ない場合やトラブルなどが発生した際、現場まで実際に測定器を持ち込んでの相談や、ネットワークの増速に当たって様々な技術的相談に応じたり、パフォーマンス向上のための技術的なコンサルティングを行うなど、ユーザーに密着したきめ細かいサービスを実施しています。民間プロバイダにもユーザーに対するサポートはあるかと思いますが、研究開発を行い、開発したサービスを運用面でもサポートをしているという面で、国立情報学研究所にしかできないことだと思っています。

【後藤主査】

  佐々木先生が指摘された点は、経費負担の関係も含めて国立情報学研究所が先端研究、一般の教育研究等のプライオリティー付けをどのように考えるのか、また、そのプライオリティーが付けられるとした場合、民間に振り分けられるものはあるのかどうなのかということだと思います。一方、利用機関側も、自身の機関における学術情報ネットワークの利用上のプライオリティー付けや、民間プロバイダ等との使い分けなどいろいろと考えているのではないかと思いますので、統一的な見解は難しいとしても、何か良い考えがあれば、示していただくとお互いに参考になるのではないかと思います。

【安達委員】

  この問題は、現在、国際回線として北米に10Gbps回線が2本あり、この計20Gbpsの中に例えばYouTubeのトラフィックと国立天文台や高エネルギー加速器研究機構などのトラフィックがある場合、どちらが大事かと考えるのかということかと思います。YouTubeのトラフィックを高価な日米回線でやらなければいけないのか。今後のITERプロジェクトの回線需要に対して、国立情報学研究所としては回線経費を確保してほしいという強い要望を言っているわけですが、仮にITERプロジェクトにより日本とヨーロッパのための国際回線が提供されたとした場合、そのトラフィックはITERプロジェクトが優先されるべきであり、それ以外の一般のトラフィックはプライオリティーを下げるというような考え方もあると思います。
  またYouTubeのようなトラフィックは学術情報ネットワークには乗せないように制御できるかどうかという技術的課題と、先端研究に係る要望のプライオリティーをどうするのかという二つの問題があわさっていると思います。現時点では全ての需要に対応できているので特に強い苦情もなく済んでいますが、これが実際に逼迫してくると、一体どちらを優先するのかという議論が顕在化してくると思います。
  そういう意味で、技術的に何ができるという話と、国の経費でカバーしたネットワークがどのようなトラフィックを運ぶべきかというところは少し整理しておかないと、今のままではどんどんこの予算が足りなくなり、厳しい状況になると思います。

【相原委員】

  二つあるのですが、一つは、机上資料2で説明のあった青字の旧Super-SINETノードの方が先端研究であり、赤字の旧SINETノードは教育が中心であると説明されましたが、それがどの程度正しいかもう少し丁寧に見ていくべきと思います。
  例えばSuper-SINETノードというのは大規模な大学に置かれており、その大学における一般の教育研究のトラフィックは何%なのかということが非常に重要であり、半分以上のトラフィックが実は一般の教育研究のトラフィックだとすれば、このグラフは全然意味の無いデータになる可能性があるので、分けられるところは分けた方がよいと思います。その延長線上の話として、先ほどトラフィックの種類や使い方でプライオリティーをつけるとの指摘がありました。可能かもしれませんが、それは技術的に非常に難しいと思われ、それにかけるコストがプライオリティーをつける以上にかかるのであれば何ら意味のないことになるのではないかと思います。
  もう一つは、机上資料1の空白県にある主な国立大学の要望をまとめた一覧に地域ネットワーク参加数という欄と、SINET接続機関数という欄があるのですが、これは、純粋にSINETに直接接続している機関がそれぞれの県に幾つあるかを示しているのか、それともこの中の1つの大学を経由して接続しているのか不明なので、解説いただきたい。また、1つの空白県ごとに非常に多くの学術機関が存在しているということを説明するためにこの資料が出されているのだと思うのですが、ノードがないということはその県にとっては非常に大きな問題であると認識されていると思うので、それぞれ意見を吸収する場をつくらなければいけないという話は非常に重要な課題であり、そのような場の提供について配慮してほしいと思います。

【山田教授】

  一つ目のトラフィックの分け方の質問についてですが、指摘のあったとおりであり、この大きく分けた分類でどの程度正しいかというのは非常に細かいIPアドレスレベルで確認していかないと正確には分からないところです。今回は1つの参考という位置付けで分けましたが、もう少し我々も精密に見る必要があると思います。
  二つ目の質問にあった地域ネットワーク参加数欄とSINET接続機関数欄については、例えば東北地方ですと地域ネットワーク経由でSINETに接続されていますので、地域ネットワーク参加数欄に加入機関として接続されている機関数を記載しています。その他の県はエッジから直接つながっていますのでSINET接続機関数欄にその機関数を記載しています。

【長谷川委員】

  「先端研究」という言葉が先ほどから出ているのですが、その先端とは何であるかをきちんと定義し、今後のそのようなニーズに対して、どこで線引きするか明確にしておく必要があるのではないかと思います。

【下條委員】

  予算確保方策の観点を考えた場合、先端研究のトラフィックのほうが一般の教育研究のトラフィックより伸びているので、その点を強調することは重要だと思いますが、現在のSINETなど日本のネットワークは、先端研究もあり一般研究もあるということで予算が確保され、やっと様々なニーズに対応できる環境になってきたものと思います。利用の使途に係るそれぞれの言い分だけではなく、技術的な調整、政策的な調整を含めて皆が満足するネットワークを構築していくことが非常に重要であると思います。
  一方、今後も学術情報ネットワークを国立情報学研究所だけで構築していくことが果たして良いことなのか大きな課題であり、欧米諸国のように研究開発をしながら調達技術を磨きつつ、ベンダーなどへ技術を展開していく必要があるのではないかと思います。様々な研究開発が大学等で生まれても、一向にそれが外へ展開しないという1つの根本的な原因が我が国の技術的な弱さにつながっているのではないかと思います。

【後藤主査】

  国立情報学研究所から、既にSINET3の構築においてもベンダーに対し非常に良い影響を与えた部分があったとも伺っています。下條先生の意見は、今後の人材育成に対する議論などにも関連があるようですのでその中でまた議論をしていければと思います。

【松岡委員】

  資料4「次期学術情報ネットワークに関する検討における論点(たたき台)」に「情報基盤センター等を含めた我が国の学術情報ネットワーク全体の整備構想」という事項があり、特に情報基盤センター等が有する資源との連携についての論点が記述されているのですが、上位のサービスレイヤ等を含めて国立情報学研究所が情報基盤センター等との今後の連携の全体像をどのように考えているのか。現時点における連携は、情報基盤センター等がほぼボランティア的に行っているところであり、どうすれば上位レイヤ機能の実現に向けた連携体制を構築できるのか、その枠組みも全く示されていません。
  もう一つは、限られた予算で最大の効果をどのように発揮していくかが非常に重要であり、この資料には様々なサービスが記述されていますが、これらはボランティアでできることではなく、お金も連携を得るための体制も必要であり、連携に対する投資がなければこのようにたくさんのサービスは成り立たず、絵にかいた餅にしかならないと思います。現時点での内容では具体的な在り方が全く見えず、根本的な連携体制の在り方をもっとしっかり考えていかなくてはならないのではないかと思います。

【安達委員】

  国立情報学研究所においては、法人化後ネットワーク運営・連携本部を設置し、ネットワークのリソース配分を状況に合わせて適正に行う組織として努力をしてきましたが、国立情報学研究所おいてもネットワークの予算が減っている状況です。
  学術情報ネットワークがノーベル賞をとることに貢献していると言ってもその重要性について理解されにくく、このような中で先端研究もサポートしなければいけない。対応方策として、空白県解消など様々なキーワードを出し、リソースや予算を確保したとしてもそれが減っていく。その中で配分のポリシーを国立情報学研究所が決めていくということには無理があります。そうなると、今、そういう全体のガバナンスがない形になっていますので、放っておくと松岡先生の言うように絵にかいた餅でじり貧になっていく予感もありながら、このような資料を作成しています。

【松岡委員】

  例えば東京工業大学が外部に資源を提供することをどうやって正当化してきたか、どのくらい苦労しているかということですが、学内リソースであるものを外部に提供することにより、どのようなコストメリットがあるのかということを説明し、最終的にはプラスになりますというストーリーを説明して、ようやく外部に提供できるわけです。
  やはり、先端研究プロジェクトなどにネットワークを供する際は、プロジェクトのファンドの経費をネットワークに充ててもらう。そういうモデルを構築し、ガバナンスの体制を築かなければいけない。ここが根本であると思います。

【長谷川委員】

  安達先生が国立情報学研究所でひしひしと感じておられることは、おそらく、法人化後の大学共同利用機関や、全国共同利用の施設が感じていることだと思います。運営費交付金については渡し切りになっている状態で、例えばスーパーコンピュータ借料は非常に高額なっているわけで、それは学内的に他の用途に使えると非常に有益で、おそらくそのような方向に移っている。なぜ外部にサービスをしなければいけないのだという雰囲気があって、情報基盤センターに限らず、全国共同利用の施設であったところは、法人化後、人員も予算もかなり厳しい状況ではないかという印象を受けています。

【尾家委員】

  国立情報学研究所の予算が減っていくと、その機能を縮小するなど今後拡大させるシナリオも見失うかもしれないという点で、非常に重要な時期だと感じています。
  ネットワークを流れるトラフィックへの取り扱いに関し、一部にプライオリティーをつけたほうがいいという意見に加え、民間プロバイダに任せられる部分は任せてしまうという選択もありえます。そこで、ここはプロバイダでもできると言い始めると、敢えてできないことはあまりないように思います。しかし一方では、例えば大学間がSINETでつながっているために、他大学とのグリッドコンピューティングや、大学間の遠隔講義がストレスなく実現するネットワークになっていますが、それぞれが別々のISPにつながった場合、それが可能かどうかはわかりません。本学の場合、例えば九州のISPにつながってしまうと、どういう経路でどこの大学につながるか非常に心もとないということになると思います。例えばグリッドコンピューティングなどは、ネットワークの性能が落ちてリソースがうまく使えないという可能性もあります。
  また、今後ネットワークの利用形態として、新たな利用形態が生み出される土壌がなくなる可能性があります。例えば昔はネットワーク環境がよくないし、機器もあまりよくなかったので、遠隔講義は行われてこなかったのですが、今ではネットワーク環境も向上し、遠隔講義が普及しています。つまり、こういうことをしたいから、インフラを整備するというよりは、やはり良好に整備されたインフラがあったから使い始めるということになるのだと思います。
  そして、大学や研究者間がつながっているというメリットとして、人材育成にも関連して、次のネットワークをつくり上げようという人たちを増やせる可能性も持っています。まさに人的ネットワークを構築しているのではないかと思いますので、それを活用し、できれば全体のボリュームを減らさないような方向で検討できればと思います。

【後藤主査】

  重要なご指摘をいただいていると思います。確かにネットワーク環境が期待ほどに高まらないと、ユーザーは既存のネットワークの枠内で頑張ろうという方向に動いてしまって、いろいろなところに悪い影響が出てくると思います。また、新しく計画を立てる人は、今後もネットワークがしっかり動いているだろうと思って、計画を立てるのでしょうから、安定したネットワークが存在しなければ、本来利用すべき研究者も使わないで我慢してしまうかもしれません。

【松岡委員】

  これは深刻な問題で、基盤があって初めてできる研究は数多くあると思います。高エネルギー加速器研究機構などでは、ネットワーク基盤がないと研究できないわけです。例えば5年間の予算を申請するにしても、そういうものがあるという仮定で研究計画を立てて申請をするわけです。
  インフラストラクチャに依存する研究がどんどん増えているという認識があるのだったら、それに対する予算の保証がないと何にもできないわけです。
  来年なくなるかもしれないスーパーコンピュータ、ストレージやアーカイブは研究者にとって何の価値もないわけで、今どのような研究が世の中で行われているかを把握し、どのようなニーズがあるかを捉えて、それらの要求を満たせるインフラストラクチャの予算を獲得し、何年間は保障しますという形が重要だと思います。

【佐々木委員】

  高エネルギー加速器研究機構は、本当にネットワークが必要だったので、日本でどこよりも先にインターネットを接続しました。そして、我々自身でネットワークを維持していたわけです。
  次期学術情報ネットワークが頼りないのであれば、また以前のように戻らなければいけないわけですけれども、共通基盤とした方が少ない予算で運用できるのではないかと思います。また、研究機関が経費の一部を費用負担するというモデルについて、例えば高エネルギー加速器研究機構に措置された予算を、国立情報学研究所に回すというのは、やや非合理的な感じもします。政策として矛盾のないようにしていただくことが必要であると思います。

【下條委員】

  どうしても基盤系の予算の獲得は難しく、放っておくと右肩下がりに減っていくのが実情かと思います。一方で、今の傾向としては、例えば競争的資金が増えている。ところが、松岡先生がおっしゃったように、研究するためには情報基盤が必要であるにも関わらず、なぜ増加している競争的資金から情報基盤に経費を回せないのかということが不思議に思われます。研究を支えるインフラのための予算も増えないと、いびつな構造になってしまうのではないかと思います。

【佐々木委員】

  各大学等においては、競争的資金等における間接経費の一部をオーバーヘッドとして徴収していますが、大学等へ配分する前に情報基盤に必要な経費をオーバーヘッドとして徴収したほうが良いかもしれません。

【安達委員】

  制度的なことは実現可能性は別としてアイデアならいくつかあります。例えば高エネルギー加速器研究機構が大きいプロジェクトを行う際は、国立情報学研究所も連携してネットワーク経費を要求する。ただし、連携する機関が増えてきた場合、効率的に行うことは難しくなってくるとは思います。
  これまで学術情報ネットワークは、概ね大学が不満を抱かない環境を築けてきたと思います。しかし、これからは帯域の増強などネットワークに関する要望を調整する必要が出てくると思われ、大学共同利用機関としては十分期待に応えられないところがでてくるのではないかと思います。

【小林委員】

  やはり基盤なので、いつでも使えるような状況にしておかないといけないと思います。地方においても、基本的なサービスは保証してもらわないと、さらにその上の発展ということは見込めないわけであり、基盤としてまず等しいサービスを展開した上で、そこから派生する部分が出てくるべきと思っているところです。

【安達委員】

  一部の地方においては格差が生じていることを認識した上でスタートしなければいけないところであり、情報基盤整備をどこまでやるべきなのかということになります。我々としては、先端研究をサポートすることのみがポリシーだとされたら、そうせざるを得ないところがありますので、今回はかなり踏み込んでノード空白県解消というご提案を打ち出しています。

【後藤主査】

  海外の事情を紹介しますと、80年代当時にアメリカのARPANETというネットワークに、全ての大学が加入していたわけでもありませんし、企業も全然加入しておりませんでした。そのような時代でもCSNETというARPANETの一部分を引き受けたようなネットワークが登場し、これが後のNSFNETなどの基盤になりました。やがて民活路線ということになって、アメリカ政府はインターネットだけではなくて、宇宙開発や原子力分野に関してもかなり民間への移行が進み、95年4月30日にはNSFNETも全体としては止めるということで、大学がいわゆる地域ネットと当時呼ばれていたものに移行しています。実はその年に相当数の大学、研究機関が集まり、vBNSという5カ所のスパコンセンターだけをつなぐという事業を、100大学規模まで加入機関を広げるべく、ベンダー側からも協力するというようなことがあり、96年になって現在のインターネット2がスタートし、およそ200機関をカバーするようになっています。
  アメリカの歴史を見ても、一筋ではないのですが、まさに松岡先生が言われるボランティアではありませんし、アメリカの研究機関の風潮としては、資金を自ら取りに行く姿勢が見受けられますし、非常に危機感を持って多くの集会が開かれてきました。
  また、ヨーロッパについては、よく議論をして方針を決めて、それに従っていく。特にDANTEは汎ヨーロッパとして、公式なプロジェクトとしてネットワークを運用しており、堅実であるという印象を受けます。
  そのような意味から言うと、今後は安達先生や松岡先生が指摘するとおり、ボランティアではネットワークサービスができないというところが、はっきり出てきているのではないかと思います。

【松岡委員】

  例えば、うちの機関のほうがネットワークをうまく構築、運用できるという機関が現れるかもしれませんし、そういった機関が国立情報学研究所と競争すればいい結果が得られるのではないかと思います。その競争の結果として、何年間予算が保証され、そのかわりにこれだけの義務があるのだということにする必要があるわけです。
  ヨーロッパのプロジェクトとして実施されているインフラ整備の状況をみると、きちんと評価が行われて、それに対して予算が措置されるとともに、最終評価まできちんと実施されます。
  国立情報学研究所が、今後、ネットワークやサービスに対してどういう方針をとるべきか、いろいろと議論の余地がありますが、ユーザーからの要求を満たすインフラを効率的に整備する方策として、他機関との競争ということも考えられると思います。

【後藤主査】

  かなり本質的で難しい話ですが、非常に重要なテーマであると思います。ガバナンスの構造からしても単純ではないと思うのは、例えばアメリカの場合、インターネット2は実態として、国のファンディングではないのですが、実際の資金の流れとして、それぞれNSFのプロジェクトがインターネット2を経由しています。しかし、国によって財政面や構造が同じではないので、ほかのところで試されてよいと思ったものでも他の国でうまくいくとは限らない。参考にはなるかもしれませんが、そのまま輸入してきてもだめだという感じあります。
  ネットワークの整備において、国立情報学研究所だけが苦労するというのもよくないわけですが、利用者側の意識が今まであまり強調されていなかったので、そのような点についても考慮する必要があると思います。

【安達委員】

  国立情報学研究所として検討会の場で議論をお願いしたいと考えていることは、学術情報基盤は国の教育研究活動にとって真に重要なものなので、そこへの投資を進めることが正しいことであると明確にしていただきたいということです。そして、その具体的な一歩として、ノード空白県解消を実現することで、全国の教育研究機関が教育研究の場で競争するときに、ある程度その土台となる情報基盤のレベルを合わせておけるようにしたいということです。
  そのような中で、国の重点的な施策もありますので、その点についてもきちんと進めていく。そのときには、国立情報学研究所で考えているような計画で、技術的にネットワークを構築する方法が、最も経済的かつ合理的であるという見通しがありますので、その方向で検討していきたい。次善の策として、例えば経費を各大学に分配して、それぞれ自己資金も含めて、自助努力でネットワークに接続するというモデルがあるかもしれませんけれども、我々の見解としては、とにかくバーゲニングパワーを大きくして、レベルの高いネットワークを共同調達することがよいのではないかと考えています。そういう方向についての議論をしていただきたいというのがお願いです。

【下條委員】

  共用法の適用というのは考えているのでしょうか。

【安達委員】

  ネットワークに関しても共用法の適用が可能か、詳細に検討を深めてはおりません。ただし、電気通信事業者法との関連では難しいかと思います。

【飯澤学術基盤整備室長】

  共用法は施設の運営主体と設置主体が異なることになるので、一体的にやっていることのメリットを考えたときに本当によいのかということで、今の大学共同利用機関においては、今のところはまだそういう議論はないと思います。独立行政法人においては、それを進めているところはありますけれども、大学共同利用機関ではそれはないということです。

【安達委員】

  現在はサービスの対象範囲を大学のような学術研究機関に限っているのですが、民間企業や初等中等教育機関にもネットワークをつなげてはどうかという声が高まったときに、どのように対応していくか。今、高等教育機関に限っていろいろ調整しているところがあるので、それ以外の一般的なサービスになると、難しい問題が出てくるのではないのかと考えています。

【下條委員】

  法律の問題は別としても、受益者負担をするということは、運用ポリシーがある程度独立して決められないといけないということがあって、この二つは同時に行うべきだと思います。極端なモデルとして、国立情報学研究所とは別に、ポリシー運用機関を設けると同時に、受益者負担を進めるというのが一つの方法ではないでしょうか。

【松岡委員】

  そうすると、WIDEのような別のネットワークがあって、メーンはそちらに接続するという機関も出てくるかもしれない。

【下條委員】

  勿論、今でもその自由はあるはずで、使いたければそれは構わない。

【松岡委員】

  そして、それは一種の競争になる。どちらが安いか、どちらがよいサービスを提供できるか。競争を発生させるためには国立情報学研究所としても、ネットワークの運用に際して、もっと自由度がないといけないわけで、国の政策評議会などが方針を自由に設定できないとまずいわけです。競争相手は何でもできるとなると確実に負けてしまう。そのような形態で何らかの受益者負担を求めると、受益者側から様々な要求が上がってくるので、要求に対しては柔軟に対応し、ガバナンスとビジネスモデルを国立情報学研究所が構築するということになれば、ネットワーク予算削減に悩まずに済むのではないでしょうか。例えば一般的な教育研究トラフィックに対する受益者負担を先端研究プロジェクトに充てる、逆に先端研究プロジェクトの受益者負担分を一般的な教育研究トラフィックに充てることができるかもしれません。

【安達委員】

  我々としては、受益者負担を求める理由、例えば先端研究プロジェクトを推進する機関からの負担分を全体にある程度環流するというようなメカニズムを考えているのですが、大規模な研究機関などに非常にハイレベルな先端ネットワークの運営だけをやるということの方が話としては楽であり、空白県解消のようなことの方が非常に骨の折れることは確かです。

【相原委員】

  本会議は学術情報ネットワークに関する検討会なので、その枠をはみ出てはいけないのかなという気もしているのですが、例えばJGN等、他のネットワークとの関係、位置づけの明確化など広い範囲のネットワークインフラを検討すべきではないかと思います。それを何も検討しないで、次期学術情報ネットワークに関する検討だけについて考えるのは、視野が狭いような気がいたします。
  また、学術情報ネットワークについても、個人的には初等中等教育機関のサポートの役割が加わっても全然おかしくないと思います。

【後藤主査】

  少なくとも検討項目としてはあるべきではないかと思います。確かにカナダのCANARIEが運用しているネットワークの場合、州間ネットワークで初等中等教育機関もカバーされていたと思います。
  また、学術系ネットワークというのは、例えばシンガポールなどは1つなのですけれども、タイ、韓国、中国は2つという具合なので、日本ぐらいの国の大きさであれば、複数存在していてもそれほど不思議ではないと思います。相原先生が言われるように、幅広く検討した結果がどうであるということが示せた方がよろしいかと思います。

【佐々木委員】

  資料4「次期学術情報ネットワークに関する検討における論点(たたき台)」の「1.次期学術情報ネットワークの整備における基本的考え方」の「(3)情報基盤センター等を含めた我が国の学術情報ネットワーク全体の整備構想」ですが、「等」にはぜひ大学共同利用機関も含めて考えていただきたいと思っております。例として言いますと、高エネルギー加速器研究機構は、ノード空白県の大学でもある奈良女子大学のネットワークを支援していますし、その他の大学共同利用機関が関係機関をサポートしている例もあると思います。大学横断という意味で、ぜひ大学共同利用機関も含めて議論していただければと思います。

【長谷川委員】

  今の佐々木先生のご意見につけ加えます。大学共同利用機関が有しているインフラと共に、共同利用の位置づけが曖昧になっていて、我が国の学術情報ネットワーク全体の整備構想を検討する際に困難が生じてきているのではないかと思っています。

【後藤主査】

  検討における論点ということで整理をしていますので、大きい問題につきましては、必ずしも論点があるからといって結論が得られるとは限らない、あるいは合理的だと思われる方法があるけれども、制度的な障壁があるということもあろうかと思います。しかし、本検討会という場を設け先生方に集まっていただいていますので、ぜひ論点の整理ということに関しては、この場で情報共有があり、すぐには解決しないものであっても、検討した結果を十分に後に引き継いでいく必要があると思います。
  また、検討項目間のプライオリティーがあると思います。今回は論点の整理ということで、ご意見伺ったわけですが、本日も大変貴重なご指摘をいただきましたので、引き続き整理をし、またご意見を伺っていくことになろうかと思います。

【下條委員】

  検討における論点ではAUPについては事項として挙げられていないようですが、この点については必要ないのでしょうか。

【後藤主査】

  本日ご意見が出されたプライオリティーの件やどこまでをカバーするのかという相原先生のご指摘がそれに当たるかと思いますので、また論点整理をした上で、論点としてうまくカバーされていないということがありましたらご指摘をいただければと思います。

 

(3)事務局より、次回の開催は平成21年6月5日を予定している旨説明があり、本日の検討会を終了した。

―― 了 ――

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