ここからサイトの主なメニューです

参考資料2

SPring-8におけるトライアルユース及びコーディネータ活動等について

平成17年6月
文部科学省量子放射線研究推進室

 今後の量子ビーム利用促進のための効果的方策の先行事例として、優れた産業利用開拓の実績を有するSPring-8のコーディネータ(産業界出身)より、当該施設におけるトライアルユース制度及びコーディネータの活動のあり方等についてのヒアリングを行った。

(1)トライアルユースについて(企業側の意識と利用者拡大戦略)

利用者(メーカー)は、実際の解析データを目にするまでは、施設利用に関しては「様子見」の姿勢が強い。立上げ時には、相手の興味を引くデータを出すことと、有用性を実感してもらう入り口の施策が最も重要である。

座学的な研修会を開いても、実際に施設を利用してもらえるのは全体の10パーセント程度。これに対し、トライアルユースなど実体験をしてもらってからの場合は、従来機器とのデータの違いをよく認識してもらえ、その後の施設利用率は格段にアップする。

このため、最初の立ち上げ時には、施設側が「業界ごとに1例ずつ」有用な解析データを出すという目標を掲げ、各業界に働きかけるとのアプローチが有効かもしれない。スタート時が大切であり、有用性が見えてきたら次に広げていくというやり方により、利用者が一定のクリティカル・マスを超えれば、あとは施設側から特段の働きを行わなくても自律的に利用者が拡大する「ポジティブ・ループ」の状態になるはず(SPring-8はこの段階に入りつつあると言える)。

但し、個人的意見として、産業利用では全申し込み件数に対する採択率が60パーセントを切ることは避けるべきと考えている。これが50パーセント以下になると、2回連続で不採用になるケースが出てくる。こうなると利用者側の意欲は大きく減退し、長期的な利用者の確保に悪影響を生ずることが懸念される。

トライアルユースの際に、企業側の意識として、
  • 目標期間の取り方が「今の問題か」、「1年先を目指したものであるか」、「3〜5年先を目指したものであるか」、
  • トライアルユース後は「企業自らが専門家を育てて全部やるか」、「測定・分析の部分は施設側に任せるか」、「全部を委託しようとしているか」、
という点に留意した方がよい。特に、後者については、これに応じて企業側への利用支援サービスの提供、共同研究、受託研究等のパートナーシップの組み方を使い分けることが必要。但し、中性子線の場合は一部のパワーユーザーを除き企業側の体制が手薄で、施設側が結果の解析まで含めほぼ全てを代行する必要があろう。

SPring-8のトライアルユース参加の1〜2回利用者と5〜6回利用者とに分けて、要望アンケートを取った結果、「必要な経費を払ってでも、解析までを含めて測定・分析を施設側でやってほしい」という意見が双方から多数寄せられた。以前は「これを測定してほしい」という要望が多く寄せられたが、最近は「この問題を解決するには何を測定したらよいか」という相談が多く寄せられるようになった。

手法が確立し、分析サービス等ルーチン測定を考える場合、二つの対応がある。粉末X線回折では、試料形態が同じで、測定条件もほとんど同じことから、装置の自動化で対応できる。一方、XAFS(X線吸収微細構造)では、粉末、薄膜など様々な試料形態で、かつ透過法、蛍光収量法など複数の測定手法があることから、テクニシャンを養成して対応する方が効果的である。

ものを創る「製造技術」としてのビーム利用を考える場合、必ず競合する他技術が存在し、「出来るか出来ないか」の二者択一となる(例えば、放射光によるリソグラフィーは、レーザーとの競合により、実用化が阻まれた)。これに対し、ものを観る「分析技術」としてのビーム利用の場合は、各々の分析技術が唯一の方法ではなく、相補的な関係となることが多い。どちらの利用技術かを十分意識する必要がある。

(2)コーディネータ活動について(期待される資質、企業との接触のあり方)

コーディネータを単独で設置するのでなく、現場スタッフとの組合せで設置していくことが重要。SPring-8ではコーディネータ4名(うち民間出身は当初2名、現在3名)の他に、現場スタッフ4〜6名(理学系と工学系が半々、生物系はなし)が置かれている。さらに、ビームライン(ビームタイム)の運用に自由度を持たせることが必要である。

業界ごとの性格の違いは大きく、コーディネータの人数もそれなりに必要。エレクトロニクス等は「共通の技術開発を各社が共同で検討し、後で個別の利用に移行する」という形態が取れるが、製薬分野では入り口から各社別々でないと難しい傾向にある。

製薬分野のように業界内での統合を図ることが難しい場合には、必ずしも単一のコーディネータを置くのではなく、大学の医学部や薬学部の専門家3〜5名を非常勤のアドバイザーとして置くことが有効かもしれない。

コーディネータの仕事としては、放射光の分析ツールと業界やユーザの課題をつなげることであり、新規ユーザや分野の開拓には「技術営業」的な役割が要求される。そのため、
 1)利用施設の知識・使用経験のある人
 2)各分野(業界)での課題を把握している人
が求められる。但し、中性子線の場合は、業界に1)を満たす人材は少ないと思われるが、2)が満たされていれば、1)に関しては、従来の研究スタッフが補うことが可能であろう。

施設利用について、企業を実際に訪問し、プレゼンを行うことが重要。施設側が講習会(座学)を開催すると、参加者の多くは企業の分析部署のスタッフであるが、あまり利用は進まない。企業を訪問し、技術系・デバイス系部署に対して個別に説明を行うのが有効。その際、特に新製品(開発プログラム)の中で、材料開発のウェイトが高い企業を回ることが有効。

以前はコーディネータが企業や業界団体に働きかけたり、スタッフが応用系の学会に発表したり、SPring-8の有効性につき「技術営業」を行っていたが、最近は企業側からの相談が増えてきた。現在では、講習会などでの企業ユーザの発表内容をホームページに掲載し、企業側にホームページを見てもらう形を取っている。

施設側としては、「分析」業務ではあっても、企業の機密部分にまで踏み込んで情報を得ておいた方が良い結果に繋がることが多い。その際はきちんと秘密保持契約を結ぶ必要があり、この点をコーディネータ・企業の両者が理解していないとスムーズな利用は難しい。民間出身のコーディネータは知財・ノウハウのマネージメントに係る知識・経験が豊富で、この点の対応が容易。

(3)その他(成果の評価、ビームライン整備のあり方等)

「制度」と「文化」の違いを良く考えなければいけない。制度は明日からでも変えられるが、文化は一朝一夕には変えられない。SPring-8では高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光研究施設(PF)(大学共同利用施設)以来の伝統として、「ユーザは自ら測定し、自ら解析するものである」という文化がある。中性子線の場合、中小企業でなくとも、測定解析ができる人はほとんどいないであろうから、産業利用を促進するには施設側で測定解析のサービスをやるくらいの「文化」が必要であろう。

共用施設側が原研や理研のような研究機関の場合、「利用者に良い成果を出させる」ことと、「自分達が良い成果を挙げる」こととのトレードオフが生じる点が問題となりうる。共用施設としては、ユーザに対する支援が重要な業務であるが、支援業務がきちんと評価されることが重要である。

注意すべき点として「施設の利用成果の評価体系」を早期に確立する必要がある。これを決めずに時間が経過すると、往々にして「論文発表」が基準になってしまい、産業利用分野が評価され難い。産業界利用者の評価基準は、事業成果への寄与度、知財の確保、対外的成果発表の順であろう。

ビームライン整備について、企業が自ら整備するよりは、施設側で整備して企業がコンソーシアム方式で利用権を買い取る方式も有効であろう。通常、企業側では数年で測定したいものが変わり、それに伴い測定方法も変化するので、企業が自前で作ってしまうと後々でラインを変更するのが難しく、利用が滞る結果が起こりえる。

産業利用ビームラインの設計・整備には長いリードタイムを要する。SPring-8でのエレクトロニクス系13社コンソーシアムの場合、研究会で議論を開始してから計画が動き出すまでに約2年かかった。


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ