○ |
利用者(メーカー)は、実際の解析データを目にするまでは、施設利用に関しては「様子見」の姿勢が強い。立上げ時には、相手の興味を引くデータを出すことと、有用性を実感してもらう入り口の施策が最も重要である。
|
○ |
座学的な研修会を開いても、実際に施設を利用してもらえるのは全体の10パーセント程度。これに対し、トライアルユースなど実体験をしてもらってからの場合は、従来機器とのデータの違いをよく認識してもらえ、その後の施設利用率は格段にアップする。
|
○ |
このため、最初の立ち上げ時には、施設側が「業界ごとに1例ずつ」有用な解析データを出すという目標を掲げ、各業界に働きかけるとのアプローチが有効かもしれない。スタート時が大切であり、有用性が見えてきたら次に広げていくというやり方により、利用者が一定のクリティカル・マスを超えれば、あとは施設側から特段の働きを行わなくても自律的に利用者が拡大する「ポジティブ・ループ」の状態になるはず(SPring-8はこの段階に入りつつあると言える)。
|
○ |
但し、個人的意見として、産業利用では全申し込み件数に対する採択率が60パーセントを切ることは避けるべきと考えている。これが50パーセント以下になると、2回連続で不採用になるケースが出てくる。こうなると利用者側の意欲は大きく減退し、長期的な利用者の確保に悪影響を生ずることが懸念される。
|
○ |
トライアルユースの際に、企業側の意識として、
- 目標期間の取り方が「今の問題か」、「1年先を目指したものであるか」、「3〜5年先を目指したものであるか」、
- トライアルユース後は「企業自らが専門家を育てて全部やるか」、「測定・分析の部分は施設側に任せるか」、「全部を委託しようとしているか」、
という点に留意した方がよい。特に、後者については、これに応じて企業側への利用支援サービスの提供、共同研究、受託研究等のパートナーシップの組み方を使い分けることが必要。但し、中性子線の場合は一部のパワーユーザーを除き企業側の体制が手薄で、施設側が結果の解析まで含めほぼ全てを代行する必要があろう。
|
○ |
SPring-8のトライアルユース参加の1〜2回利用者と5〜6回利用者とに分けて、要望アンケートを取った結果、「必要な経費を払ってでも、解析までを含めて測定・分析を施設側でやってほしい」という意見が双方から多数寄せられた。以前は「これを測定してほしい」という要望が多く寄せられたが、最近は「この問題を解決するには何を測定したらよいか」という相談が多く寄せられるようになった。
|
○ |
手法が確立し、分析サービス等ルーチン測定を考える場合、二つの対応がある。粉末X線回折では、試料形態が同じで、測定条件もほとんど同じことから、装置の自動化で対応できる。一方、XAFS(X線吸収微細構造)では、粉末、薄膜など様々な試料形態で、かつ透過法、蛍光収量法など複数の測定手法があることから、テクニシャンを養成して対応する方が効果的である。
|
○ |
ものを創る「製造技術」としてのビーム利用を考える場合、必ず競合する他技術が存在し、「出来るか出来ないか」の二者択一となる(例えば、放射光によるリソグラフィーは、レーザーとの競合により、実用化が阻まれた)。これに対し、ものを観る「分析技術」としてのビーム利用の場合は、各々の分析技術が唯一の方法ではなく、相補的な関係となることが多い。どちらの利用技術かを十分意識する必要がある。
|
○ |
コーディネータを単独で設置するのでなく、現場スタッフとの組合せで設置していくことが重要。SPring-8ではコーディネータ4名(うち民間出身は当初2名、現在3名)の他に、現場スタッフ4〜6名(理学系と工学系が半々、生物系はなし)が置かれている。さらに、ビームライン(ビームタイム)の運用に自由度を持たせることが必要である。
|
○ |
業界ごとの性格の違いは大きく、コーディネータの人数もそれなりに必要。エレクトロニクス等は「共通の技術開発を各社が共同で検討し、後で個別の利用に移行する」という形態が取れるが、製薬分野では入り口から各社別々でないと難しい傾向にある。
|
○ |
製薬分野のように業界内での統合を図ることが難しい場合には、必ずしも単一のコーディネータを置くのではなく、大学の医学部や薬学部の専門家3〜5名を非常勤のアドバイザーとして置くことが有効かもしれない。
|
○ |
コーディネータの仕事としては、放射光の分析ツールと業界やユーザの課題をつなげることであり、新規ユーザや分野の開拓には「技術営業」的な役割が要求される。そのため、
1)利用施設の知識・使用経験のある人
2)各分野(業界)での課題を把握している人
が求められる。但し、中性子線の場合は、業界に1)を満たす人材は少ないと思われるが、2)が満たされていれば、1)に関しては、従来の研究スタッフが補うことが可能であろう。
|
○ |
施設利用について、企業を実際に訪問し、プレゼンを行うことが重要。施設側が講習会(座学)を開催すると、参加者の多くは企業の分析部署のスタッフであるが、あまり利用は進まない。企業を訪問し、技術系・デバイス系部署に対して個別に説明を行うのが有効。その際、特に新製品(開発プログラム)の中で、材料開発のウェイトが高い企業を回ることが有効。
|
○ |
以前はコーディネータが企業や業界団体に働きかけたり、スタッフが応用系の学会に発表したり、SPring-8の有効性につき「技術営業」を行っていたが、最近は企業側からの相談が増えてきた。現在では、講習会などでの企業ユーザの発表内容をホームページに掲載し、企業側にホームページを見てもらう形を取っている。
|
○ |
施設側としては、「分析」業務ではあっても、企業の機密部分にまで踏み込んで情報を得ておいた方が良い結果に繋がることが多い。その際はきちんと秘密保持契約を結ぶ必要があり、この点をコーディネータ・企業の両者が理解していないとスムーズな利用は難しい。民間出身のコーディネータは知財・ノウハウのマネージメントに係る知識・経験が豊富で、この点の対応が容易。
|