|
[「◇:主査」、「◆:委員」、「○:説明者」、「●:事務局」]
|
1) |
各分野からの量子ビーム技術への期待・課題について <資料2−1に基づき郷名誉教授から説明>
|
: |
中性子解析は水素が見られるという点では重要。将来的には新薬開発に役立ってくるものだと思う。ただ、結晶が大きくないと解析できないということが問題である。放射光を利用する現在において、対象のサンプルは「小さくとも高品質な結晶」を目指している。大きな結晶を中性子解析用に別に作製することは非現実的である。標的タンパク質が大きな結晶を得るのは難しい。また、タンパク質と低分子化合物のリガンドスクリーニングによるリード化合物の探索では、X線構造解析レベルの構造で十分な場合が多い。従って、合理的創薬の関わる標的タンパク質というよりも、むしろ生命現象の解明に関わる重要なタンパク質が中性子解析のターゲットになると考える。当然、その重要なタンパク質の詳細な構造情報が将来の創薬に貢献することは十分期待できる。
|
: |
X線でもある程度は水素の位置がわかるが、合理的創薬に堪え得る精度ではない。スクリーニングではX線を用いて、ファインスクリーニングでは中性子線を利用するといった役割分担が有効である。現状では強度との関係などから中性子線が利用されていないことから、そのような認識が一般的である。
|
: |
中性子線の強度が足りないということについて、中性子ミラーを使って強度を強めるといったことは考えられないのか。
|
: |
中性子光学素子の開発は、日本ではここ数年進んでおり、磁場を使って100倍強度あがっているが、タンパク質の構造解析にどこまで使えるかといったところである。J-PARCでは、現状の中性子線の数百倍の強度が得られるので、結晶サイズでいえば1〜3 が数100 程度まで小さいものでも解析できるようになる。X線では数 程度の小さな結晶で解析できるので、それまでいかないが、かなり小さい結晶でも解析できるようになる。
|
: |
磁場によるフォーカシングはどのくらいの磁場が必要か。
|
: |
6テスラ〜10テスラ(第3回検討会にて正しくは3テスラである旨修正の発言有り)くらいで、上向きスピンをフォーカスして、下向きスピンのものをディフォーカスすることができ、磁場で偏極と同時に収束もできる。この技術は、理研や原研での振興調整費による成果である。
|
: |
日本独自の技術であるか。
|
: |
そうである。プロトタイプを作り、原研の原子炉で実験を行っている。
|
: |
全反射は有効でないのか。
|
: |
有効である。ただし、X線と同様に屈折率が1より僅かに小さいので、1〜2オングストロームと波長の短い熱中性子では難しく、6〜10オングストロームと波長が長い冷中性子では曲げ易い。
|
: |
まとめると、現状ではX線解析の方が結晶のサイズが小さくて良いメリットがあり、中性子解析では水素の位置がきちんと決められるというメリットがある。また、中性子解析では、測定技術の進歩が進んでおり期待されるところもある。
|
|
<資料2−2に基づき竹市研究員から説明>
|
: |
放射光施設の利用は60日 年、ミューオン施設は50日 年であり、利用は増えている。必要があれば海外の施設も利用しており、例えばJ-PARCなど国内の施設が優れており、海外の施設に行くまでもないということを示してほしい。現状の海外の施設で時間分解能30 、空間分解能50 で既に見えているので、時間分解能10 、空間分解能10 で見えるようになるのであれば使いたいということになる。また、X線や中性子線などの特長を示してほしい。例えば、研究所の解析グループと原研のグループとで中性子線の特長について議論したが明確な回答が得られなかった。中性子線でないと見られないのか、中性子線であればより明確に見えるのか、無理をすればX線でも見られるのかなど特長を分かるように示してほしい。
|
: |
中性子線における特長として、水素以外にもう1点、X線だと隣接した原子同士の区別が分かり難いところがあるが、中性子線だと区別がよくできるという点がある。
|
: |
補足であるが、X線でもアブソーブションエッジを使えば、隣接した原子同士でも区別ができる。
|
: |
先ほど、空間分解能、時間分解能の話が出たが、何を見たいのか。
|
: |
燃料電池の水の動きである。
|
: |
米国・NISTは、燃料電池のセパレータの水を見るために、空間分解能10 をターゲットしており、燃料電池の開発拠点に指定され、米国政府が力を入れている。水素で水の流れを見るときに、中性子線が必要であり、さらに空間分解能は50 では足りなく10 が必要ということで、日本でも同様のレベルのステーションを作りたいと思う。
|
: |
強度を上げて時間分解能を上げるだけでなく、空間分解能も上げることが大切である。
|
: |
燃料電池の中の水の排出機構を見るには空間分解能が大切である。
|
: |
水素以外で中性子線でないと見られないというのは、一般的ないい方は難いところである。資料でMgH2の電荷分布の例があるが、SPring-8で水素が見えるようになったといわれているが、これは位置が見られるというのではなく、電荷密度が見られるということである。水素の位置は簡単に中性子線で見ることができ、電荷分布はX線で見ることができ、重要なのは両者が相補的であるということである。目的によってどう使い分けるかという点が重要と考える。一般的に中性子線のことは知られていないので、十分に知って適宜使ってほしい。
|
|
<資料2−3に基づき佐藤助教授から説明>
|
: |
機械などの残留応力解析の測定では産業用の高エネルギーX線CTを利用しているが、透過力が弱いため、中性子線で原子炉や火力発電所関連の大物を解析するということについて非常に期待がある。こういったものは、信頼性、安全性が第一であるからコストがかかっても解析したいと考える。また、ハードディスクの分野では、現在、ハードディスクの容量を上げるために、読み取りヘッドの高感度化が必要であり、GMR方式からTMR方式に変わろうとしている。この際に多層の薄膜がどう出来ていて、磁気構造どうなっているかが信頼性や歩留まりに関係して重要である。今は薄膜の構造は、PFのX線の反射の干渉を使ってみているが、磁気的な情報を捉えるのが難しい。相補的にX線と中性子線を組み合わせて、ヘッドの高感度化と信頼性の向上を図ることに大きな期待をもっている。また、リチウムイオンバッテリーのエネルギー密度を如何に上げるかという点については、産業界にとっては緊急の課題であり、軽元素のリチウムの動態や静的な分布の様子を見たいという要望があり期待するところである。また、ユーザとしての要望は、メーカの場合、成果非公開の時の扱いで課金をどう決めるかということがあるが、SPring-8や地球シミュレータ等とも絡み、使い易い形にしてほしい。
|
: |
材料分野では中性子線とX線とで同じサンプルで済むのか。
|
: |
例示したものは違うものであるが、基本的には同じサンプルである。反射率は中性子でもかなり感度が高いので同じもので済む。
|
: |
X線等とは相補的ということだが、専門が少し離れると分かり難くなる。これまで中性子線やX線など「観る」といったことが話されてきたが、量子ビーム全体からすると、イオンビームなど「作る」といったものもあり、それぞれ得意なところをアピールする必要がある。異分野や産業応用やテクノロジー展開するのには、ビーム全体の相補性について情報提供する場が必要である。どこかで連携のための仕組みを作っておかないと、セクターごとの主張で終わり、量子ビーム全体ではうまくいかない。また、量子ビームの利用促進には、この他に経済性や国際競争力といった観点も重要であり、こうした面からの「全体構想」の提示が望まれる。
|
: |
量子ビーム全体をコーディネートすることが必要であり、専門外からするとそれぞれのビームの特長や相補性というのが分からないので、それを示す必要があるという重要なご指摘である。
|
: |
今のご指摘は大切である。これまでの中性子線施設での経験においては、加速器と原子炉のどちらが目的の実験に適したものであるかということをユーザに助言してきた。放射光と中性子線の間についても、どちらのビームが実験の目的に適しているか審査員が助言した方が研究者にとってもありがたいと思う。これをシスティマティックに量子ビーム全体について、目的に合ったビームをコーディネートする組織があれば、それぞれの施設も生きると思われる。
|
: |
放射光施設などいくつかある同じ量子ビーム施設の間でもコーディネートすることは大切である。日本には色々な量子ビーム施設があるので、量子ビームの間をコーディネートするソフト・組織があるとよいというご意見であった。
|
: |
製薬企業では、中性子線は敷居が高い。X線装置はインハウスで実験装置があり、大きな結晶が作れないものや同じ実験でも放射光施設を使うともっと良くなるという自然な流れがあった。それでもSPring-8を作ったときには、そのことがなかなか理解されず、SPring-8の関係者や兵庫県の方が製薬業界に説明に回った際にはかなり苦労されていた。J-PARCの関係者は、こういった点においてまだ努力が足りないのではないかと思われる。生命科学分野ではまだ何のために中性子線を使う必要があるのかが分かっていない状況である。材料分野とは異なり生命科学分野ではサンプルが大きくないといけない点や、さらに身軽に使える中性子源がないという敷居の高さがあるが、中性子解析が必要であるという実例を踏まえながら説明の努力をしてほしく、生命科学の1つの柱として、中性子線利用を推進することに協力したい。
|
: |
先ほどの施設間でどこを使えばよいかという話で、例えば、エンジンの解析でガソリンを入れて実験が出来るか、安全性に問題はないか、何CCのエンジンまでは大丈夫であるかといったところまで今から検討してほしい。
|
: |
現在安全の規則内で、原研組織の内部でもそういったことができるような方向で検討したいと話している。どこまでができなくて、どうして出来ないかを明確にして、可能な限り出来るように、その辺りは積極的に対応したい。
|
: |
産業界に中性子線をアピールするには粉末で解析を出来るという点を強調するといい。リチウム電池関係で中性子線を利用していたが、X線と同じ粉末で解析ができる。最近は医薬関係でも粉末で未知構造を決める試みがされており、「中性子線であれば今まで分からなかったこういった点が分かる」というようなアピールができると思う。
|
|
<資料2−4に基づき藤井センター長から説明>
|
: |
産業界からは、中性子利用はまだこれからの分野といった感がある。残留応力や磁性体の解析などではニーズが高いとは考えられる。また、タービン翼の検査や元素分析なども利用が期待される分野である。こういった技術普及のためには、大学と産業界の間で技術成果の情報交換やそういった場が必要。また、産業界が測定などをする際には、測定の精度・信頼性に対する標準なども必要になる。利用を考えた場合には、産業界側にはビーム利用の専門家が非常に少ないことから、施設側の支援体制が必要であり、SPring-8のような事例を参考に、産業界が利用し易い仕組みを検討頂きたい。これに当たっては電機工業会としても協力したい。量子ビームのような先端技術は国の産業競争力にも大きな影響を与えることから、例えばJ-PARCが完成した際には、直ぐに中性子ビーム利用ができるようにビームラインを整備し、産学幅広く利用できるようなプロジェクトのようなものが必要である。このプロジェクトは例えば公募的なものであったり、また産業界からの資金投入ということも考えられる。またビーム利用では、コストパフォーマンスも重要で、利用コストも国際競争力を持つようにしてほしい。原研のJRR-3は逆に少し安すぎる感もあるが、海外の方が安ければ、日本以外の施設を使うということにもなってしまう。また、利用目的によっては小型化されたものが必要であり、大型施設での成果を小型化や低コスト化するという技術開発も必要である。
|
: |
量子ビーム技術への期待という点で、汎用性のある小型化の技術開発ということも有用であり、これが広く使われることによって量子ビーム分野全体の発展にも繋がるものである。小型化のビーム開発では、利用者がどのくらいのスペックを必要とするかの情報提供が重要である。現状では利用グループと開発グループの間で情報の交換が出来ていない。例えば、将来ハイパワーレーザーが普及した際に、それを利用した中性子源の開発ということも考えられるが、この際どのくらいのフラックスが必要かなどの情報が開発をする上で必須である。
|
: |
ニーズをどのように表明するかというルートが現状ではなく、ニーズ情報がビーム開発側に来ないという1つの課題である。
|
: |
放射光の場合、もともと実験室レベル、リージョナルセンター、ナショナルセンターというようになっていた。他の量子ビームの場合、例えば、中性子線では実験室レベルでということは難しいが、地域ごとのリージョナルセンターが必要である。
|
2) |
研究開発・利用推進に当たっての当面の課題について <資料3−1〜4に基づきそれぞれ原室長、今瀬室長、斎藤室長、室谷企画官から説明>
|
: |
法人化により利用料金を取らなくてはいけないという傾向があるが、経費を回収する際には、その意味合いが重要。例えば、課金したものをトライアルユースに利用するなど、皆が納得するような目的をもった課金とする必要がある。また、量子ビームコミュニティーを作る必要があるかもしれない。この取掛りとして、量子ビームハンドブックを作るということも考えられる。
|
: |
SPring-8では、現在、成果を公開する場合、成果非専有利用課題を含めて利用方法の見直しを行っているが、そこでは経費の回収としてビーム利用料を取るということではなく、利用者が使った消耗品について実費のみを頂くという方向で検討している。
|
3) |
広範な科学技術分野との連携による利用促進及び利用者コミュニティ拡大方策について <資料4−1に基づき若槻教授、資料4−2に基づき田島所長から説明>
|
: |
HIMACの成果をさらにより多くの人が恩恵を受けるためには小型化が必要である。これをどのように取り組むか、どのように段階を経るかが重要である。
|
: |
産業界から見ると、ビーム利用は少し遠い感がある。大型施設の場合、コミュニティ形成が必要であろう。タンパク質では水が見える点で有用であり、冷凍食品の品質保持検査など食品の品質・安全性の観点からも有用と思われる。学問的に高度な利用は別として、使いたい人がどのように使うのかコミュニケーションを取れるコミュニティを作る議論が必要であろう。
|
: |
一般の目からすると多くの加速器があり、また加速器を作るのかと映る。素粒子研究など文化的に受け入れられていたときは良いが、今は如何に国民の役に立つかということが問われる。食品検査やがん治療など、J-PARCなどがどう国民生活に繋がるかの絵を描かないといけない。
|
: |
原研では法人化に合わせ、関西研や中性子施設など横の繋がりの量子ビーム部門というものを作る予定である。量子ビーム全体の効果的利用、新しい研究分野の開拓が可能となる。
|
: |
大型施設はニッチである。
|
: |
J-PARCの茨城県ビームラインは、SPring-8の兵庫県ビームラインに参加する企業にヒアリングを行い、不満などの意見を聞くべきである。最低でも同等でないといけない。
|
: |
今年度ヒアリングしようとしているところである。
|
: |
量子ビームを国民に理解してもらうには、医学利用というのはアピールできるものである。例えば、放医研のHIMACの整備に際しては、理研のビームラインで必要な基礎データを得た。またさらに、RIBFでのビーム利用でさらなる発展に繋がることが期待される。
|
: |
一般国民からすると、環境に役立つということもアピールできる点である。環境への貢献には二通りあり、環境計測と環境保全である。量子ビームは、有害重金属の分析などの環境計測に有効であるのは従来から良く知られている。20世紀は科学技術の進歩により、豊かな物質文明が築かれた反面、 問題、環境汚染など負の遺産も多い。21世紀はその反省をもとに、環境持続可能な科学技術の発達がもとめられており、環境負荷の少ない材料やクリーンエネルギーの開発などが課題となりグリーンケミストリーと呼ばれている。量子ビームが環境にやさしいナノマテリアルの開発や人々の健康を守る医薬品の開発などグリーンケミストリーに役立つことは間違いない。一方、宇宙からのサンプルリターン計画の宇宙物質の分析にも量子ビームは役立つ。量子ビームがこのような環境保全や宇宙科学にも役立つことをアピールすれば、国民にもその意義がわかりやすく、理解が得られるのではないかと思う。
|
: |
利用という点では、基礎科学と応用とは分けて考える必要がある。基礎科学では、大学共同利用が大きな役割を果たしてきた。基礎応用それぞれにマッチした形での利用推進が不可欠ある。どういう分野が国際的競争力があるかということも踏まえる必要がある。ビーム利用では、水道の蛇口をひねるだけのような利用もあれば、蛇口から作っていくというような利用もある。特に、最高の性能をもつビームや測定器を開発し量子ビームの利用をその基本的なところから支えることができる人を長い目で見てどのように育てるかが大切である。
|
: |
量子ビームは宣伝が足りないことが分かった。昨年の秋に日本中性子科学会で、中性子が国民にどう役に立つか調べ、然るべき委員の人達に宣伝してきた。環境や国民の安全・安心、健康という点で調査したが、今日の議論を聞くとまだ宣伝が足りないようである。説明資料は既にあるので、さらに努力したい。
|
4) |
その他 事務局から、これまでの発表や意見等を踏まえ、次回までに中間取りまとめ案を作成すること、第3回は7月4日(月曜日)10時〜12時の開催予定であることを周知した。
閉会
|