審議会情報へ

先端計測分析技術・機器開発に関する検討会

2003年10月27日
第7回先端計測分析技術・機器開発に関する検討会   議事概要

第7回先端計測分析技術・機器開発に関する検討会   議事概要

 

1. 日   時   平成15年10月27日(月)   17:00〜19:00
2. 場   所   文部科学省別館特別会議室
3. 出席者
(委   員) 二瓶、青野、小島、志水、原口各委員、吉田氏(田中委員代理)
(有識者) 横河アナリティカルシステムズ(株)   代表取締役社長   菅野   隆二氏
  (株)システムバイオティックス         代表取締役         桐栄   純一氏
  (株)日立製作所   知的財産権本部   IP開発本部   特許第3部第2グループ
グループリーダー・主任技師   佐藤   達哉氏
(事務局) 丸山研究振興局審議官、田中研究環境・産業連携課長、川上基礎基盤研究課長、杉江研究環境・産業連携課専門官
(その他) (独)科学技術振興機構   理事   北澤宏一氏

4. 議   事

(◎:主査   ○:委員等   △:事務局の発言)

(1) 先端計測分析技術・機器開発の進め方について

   先端計測分析技術・機器開発の実際の進め方について、特に留意すべき点としての産学連携の進め方、並びに知的財産の取り扱いなど、外国の例も含めてご紹介いただき議論していただきたい。
     初めに横河アナリティカルシステムズ(株)社長の菅野先生、お願いいたします。
   
   海外における産学官共同による分析機器開発の具体例ということをご紹介させていただく。
     分析機器開発の流れを見ると、まずニーズの調査があり、それから、開発要求がある。開発要求を基に基本設計がデザインされるが、ここでポイントは開発要求と我々自身の会社が持っているシーズとが簡単にリンクできればあまり問題ないけれども、実際にはなかなかそうもいかない。それを求めるために自社以外のところにキーのテクノロジーがないかということを探していく。もしくは我々自身がそれをつくり出していくということから始まる。
     その時に大きいのはアメリカの大学、国の機関、ベンチャーで、すでに要素技術がいろいろな形で開発されている。そういったものを我々自身が何らかの形で知ることができれば、それを基本設計の段階からうまく組み込む。また、それを育てていくことを通じて我々自身の一つのリソースとして使うことができる。
     往々にして要素技術が先にあって、それで何かマーケットが探せないかという形で開発したケースはほとんど失敗している。開発要件が先にあって、それをどのように実現するかというときに基本設計の中にいわゆる重要なキーテクノロジーがある。これをいかにつくり上げていくかということが1つのポイントで、逆にここにブレークスルーがないと製品としての競争力がなかなか保てない。従って、ここに非常に大きな時間をかけていくし、それをいかに要素技術として育てていくかという観点で、かなり早い段階からシーズを持っているところとタイアップしながら開発してきた。
     次に我々がラボプロットと言っている実験試作という段階があり、その次に製造試作がある。製造試作の段階になると、装置がある程度見えてくるので、数台つくって、それを大学あるいは国の機関に預けてアプリケーション開発を一緒にするとか装置評価をしている。
     我々は日本のメーカーなので日本でラボプロットをつくって、これを持ち込みたいが、残念ながら日本ではなかなか持ち込めない。したがって製造試作の段階で、アメリカに持ち込んで評価、開発したというのが現状である。
     もし日本にラボプロットを持ち込める機関ができれば、我々としては非常に仕事がやりやすくなると思う。ぜひ今回のプロジェクトの中で実現できることを期待している。
     最終的に商品化するときには安全規格とか、パテントの実際的な問題を解決し、それからかなりクリアなアプリケーション開発をして、お客様にソリューションとして提供できるような形にする。このときにはいわゆるソフトウェアの商品化とか、試薬とかを全部まとめて1つのソリューションとして提供できるような商品化を目指している。
     こうした中で我々自身がいつも感じているのは大学の先生あるいは国家機関が持っている学術的な独創性とビジネスの両立をいかに図るかということである。
     アメリカにおける産学官の関わりについてみると、まず、官が直接民の分析計開発に資金援助することがある。もう一つは一番大きな例だと思うが、官から学への研究費の支援があり、いろいろな研究機関から大学に予算が流れてくる。
     学から民への研究成果の売り込みということについては、アメリカの先生方はセールスマン一歩手前というぐらいの売り込みを行い、学から民にいろいろな成果が売り込まれている。
     民から学への研究費支援、共同研究がある。これはアメリカのスタンフォードなどでおこなわれている日本で言う寄付講座のようなもので、民間企業が資金を出して一緒に研究し、成果を分かち合う。
     次に、我々が実際に海外で連携しながら感じたことを、日本との差異という切り口で見てみたいと思う。
     海外では分析機器の要素技術開発をしている大学、研究機関はたくさんある。日本も今から25年ぐらい前は大学にたくさんあったが、今は少なくなってきた。
     機器開発に関する資金援助は非常に多い。これは国だけでなく民間会社から資金援助が来て、先生方がある1つの要素技術を持っていると、それに対して投資がいろいろなところから来る。特に今はライフサイエンス系のものが圧倒的に多く、10年ぐらい前は環境分析にかかわるいろいろな援助があった。
     資金援助は申請の段階からメーカーと連携する。つまり資金援助を得るためにはメーカーのサポートがないとなかなか得られない。ただ単にサイエンティフィックな研究だけではなかなか予算が回ってこない。メーカーと何らかの形でタイアップして、メーカーがサポートして、その技術をメーカーとして買うというようなことがあると、実際には資金援助の予算が取りやすい。
     IP(知的財産権)を非常に大事にしていて、持っている。いかに技術を売り込み、いかにその技術をベースにして装置をつくって会社をつくるかというような形が回っている。
     エレキ・メカのショップが大学の中にほとんどある。したがって、大学の中でアイデアだけではなくて、自前で試作品を製作することもできるというところが大きい。
     マルチタレントの学生が非常に多い。分析計というのは化学、物理、エレクトロニクス、機械工学、コンピュータ技術を融合したものである。アメリカにいる、特に分析系のデパートメントにいる学生は、化学をベースにしてコンピュータ、機械工学に詳しいというようなマルチタレントの人たちが育っているというところも一つ大きな特徴である。したがって、我々が連携したときにそのままその学生を採用するという例もたくさんある。
     試作機を持ち込んでも機密性が維持できる。試作機を持ち込んで、実際に共同研究なりアプリケーション開発をしてもらうが、競合の面をかなり意識し、機密をいかに守るかが重要になる。そのときにアメリカとかイギリスの例で見ると、閉鎖できる施設が用意でき、そのような場所が提供されるというのが1つの大きな要素になる。日本の場合はもちろんこういう施設が用意できるところもあるが、やはり非常に少ない。
     海外にはビジネス感覚のある先生が非常に多い。メーカーのニーズを理解して、メーカーへの売り込みが非常にうまい。自ら会社を経営する場合ももちろんある。こういったことから我々自身が要素技術を積極的に探していかなくても、先生方から売り込まれて、比較的見つけやすい。どこにどういうシーズが存在しているかをわりと簡単に見つけられるということも1つの要素と思う。
     試作機を国の機関でも容易に購入できる。日本では非常に難しいが、アメリカの場合は、国の機関であってもほとんど研究室で自由に試作機を購入できる。
     進め方への提案として短期的には、5年から10年後のニーズを考慮したということが1つのポイントではないかと感じている。ニーズを把握して装置をつくろうとすると、装置ができたころにはニーズがもう変わっているというのが一般的で、いかに先を読むかということが重要である。
     産業的な価値もぜひ評価の中に入れてほしい。1台しか世界にないという機械ではなく、ある程度普及できるような装置、分析機器に対する評価をぜひしていただきたい。また、要素技術そのものについても大きなテーマとして取り上げてほしい。5年から10年というスパンで見たとき、要素技術そのものがキーになるのでそれ自身でも1つのテーマとして取り上げられるものがあってもいいのではないかと思う。
     長期的に大きいのは人材開発であると思うので、分析科学を理解するマルチタレント育成ということが非常に重要であると思う。
     もう1つは分析科学者のモチベーションの向上。例えば分析科学大賞みたいなものをつくって、モチベーションを向上させるようなことも必要なのではないかと思う。
     大学におけるインフラの整備ということで、共同研究のスペースを充実するということも1つの重要なファクターである。それからショップをつくり、中小企業との連携だとか、熟練工の採用とか、そういったことで大学自身が持たなくても、何らかの形でタイアップできるようなことが必要なのかと考える。こういったことも整備できていくと、分析技術のいわゆる基礎をつくることができると思う。
   
   ありがとうございました。大変すばらしいご講演で、いろいろな問題点が一望できたという感想を抱きました。何かご質問はございますか。
   
   学術的創造性とビジネスの両立という御意見で、これはこの委員会でも一つのバックボーンになっている。技術的シーズがあって、それを基に製品を開発した場合はことごとく失敗したというご説明について、具体的な例を紹介いただきたい。
   
   ガストロマトグラフの前処理装置というのはいろいろな形でロボットというのをつくったけれども、結果的にほとんど売れなかった。我々が持っていたシーズがあって、この技術を使えばそれが開発できるということからスタートして、将来ニーズはこうなるはずだという、逆にマーケティングの人間はそれをあとからつくり込むことをした。そうすると、すごくもっともらしい案ができたが、実際には世の中そう簡単に変わっていかないということが1つ大きな要因であった。
     シーズというと例えば社内の研究所の中でいろいろな研究がされている。それを使って何か製品ができないかというところからスタートするわけであるが、実際にはそこからスタートしたものというのはなかなか難しい。1つの要素として使うのはいいけれど、そこをすべてと考えるとうまくいかない場合が多い。やはりニーズが先行して、ニーズに対して我々自身が持っているものだったらすぐできるけれど、持っていないものだったら育てるというところからやらないと実際できないし、この技術を買ってくるということを行っていく必要があるのではないかと考える。
     ニーズ先行型、言葉では非常に簡単だけれども、そのニーズも先のニーズなのでなかなか難しいところである。
   
   このプロジェクトで例えば公募すると、私はこんないいシーズを持っているんだ。こういう応用ができそうだという提案がいくつも出てくると思うが、それをどのように考えたらいいかお聞かせいただきたい。
   
   マーケティングということに対してどのように考えていくのかというのがかなり大きなテーマなのかと思う。細かい意味ではなくて、大きな流れとしてテクノロジーの変化だとか、ユーザーの変化だとか、例えば半導体のようにロードマップがかなりクリアの場合には比較的読みやすくて、何年後にどれだけの小さなレベルになるかということもわかるし、ライフサイエンス系では今ちょうどプロテオミクスのところに来て、次はメタボロームだと言われているが、ある程度見えてくる。そういったものが見えている場合には比較的いいと思うが、大きなトレンドという意味でマーケティング的な観点から何か見れるような、または見ていくようなディスカッションがあるといいのかと思う。
     逆に言うと民間企業だとそれが一つの大きな財産で、それをどう読むかというのがポイントでもある。今回の分析機器開発においても、もう少し共通のものとしてロードマップのようなものを持って、日本の国家戦略として、みんなで取り組んでいくんだということがあれば、世界トップの技術が開発できるのではないかと思う。従って、ニーズとはどういうものかということについて、もう少しこの検討会の中で検討があれば、さらにいいのではないかと思う。
   
   確かに個々にニーズ探索をしても、今おっしゃったように当たり外れというようなことがある。今、私も気がついたけれど、半導体分野のロードマップというのは、実はニーズ創出のシステマティックな目論見ではないかという見方もできる。あのような議論をすることによって関係する人たちのニーズを1本にまとめて見せると、みんながなるほどと思うことによってニーズが定着する。だから、みんなそれに向けて努力しても必ず報われるし、でき上がったものを使ってさらに展開しようという事業化が出てくる。そういういい循環ができるような気がする。
     ご指摘のように、こういうニーズがあるということを少しシステマティックに形にしてみせるということは非常に大事かもしれない。それがある意味では日本の国家戦略という位置づけでできれば、これはまさにこの検討会がねらっている一番大事なポイントの1つだと思う。
     次はバイオベンチャーのお立場からシステムバイオティックス社長の桐栄先生、お願いします。
   
   これはアメリカにおける分析の機器の開発の流れを簡単に示したものである。分析というのはわりと一本筋で、主に大学からいい技術は出てくる。学問的に古いものであるため、ベンチャーフェーズというのはそう大きくはなく、最終的には大企業に行く。
     日本の流れというのはわりとクローズドで、グラントならグラント、基本的には大企業がこういうものをやるということになると下請けに行き、大学の先生にアプリケーションを出してもらう。
     バイオの機器は少し話が変わり、まず、アメリカのほうの流れであるが、基本的にはベンチャーが一番大きなフェーズである。なぜかというと、ここにいわゆるグラントも来るしキャピタルも来るからである。そういうことなので、大学の中である程度の志を持った教授の方というのは、当然自分でベンチャーをつくる。
     具体例を出すと、スタンフォードの有名なH先生の場合には、最終的にはベンチャーをつくらならなかったけれども、お金をグラントから引っ張ってきて、さらに企業から何十億円という金を引っ張ってきた。とにかく研究室の中にソフトウェアの人、ハードウェアの人、アプリケーションの人、みんな抱えている。スタンフォードみたいに大きな大学だと、ここで4、5年装置の開発をやるというのはいいキャリアになるのでコアの人が来る。そういういい流れがグルグル回っているので、お金というのはここにたまってきては出ていくという流れができる。
     従って、バイオの機器はどんどんよいものに仕上がっていき、非常によいコラボレーションである。この先生はお金の収集に才覚のある方で、ベンチャーからも大企業からも取ってくる。やはりお金ができて初めて自分のやりたいことができるというのがアメリカの開発の流れである。
     そういうのが大体アメリカのパターンで、常にベンチャーというのはマーケットを見ているし、大企業もマーケットを見ている。リスクとしてはベンチャーが一番高いけれども、最終的に売れるようになると大企業がちゃんと買ってくれる。こういうちゃんとしたシステムがあって、グラントもキャピタルもお金が流れるシステムがアメリカには存在する。
     ベンチャーに取り組んでいるアメリカの先生は、我々にもいろいろ提案してくるが、実際にしっかりした図面を出してくる。つまりしっかりした図面などが出てこないと評価の対象にならないので、アメリカの大学の先生方はいろいろなキャリアを積んでおり、自分で図面を書いて出すところまでできる。
     日本はそこまでは行っておらず、私のような下請けが存在するからグラントは大企業に行くというパターンが多くなる。ところが、グラントをとったテーマで大企業から装置が出てくるということはほとんどない。もっともキャピタルも正確にはあまりないので、日本ではベンチャーというのはある意味孤立した存在になっている。将来的には、何とかグラントをベンチャーに持って来るシステム、あるいはキャピタルをベンチャーに持ってくるシステム、そういうものがないとフェーズとして難しいだろう。
     我々は試作機でも展示会に出すけれど、大企業はそういうことは絶対にできないので、マーケットのニーズを把握する、あるいはユーザーの意見を把握するという意味でも、少し何かうまい工夫が要るのではないかと思う。
     ただ、グラントがいつつぶれるかわからないような私どものベンチャーに直接にお金を出すというのはさすがに度胸のいる話なので、実際には何かいい仕組みがいるだろうと思っている。1つのやり方としては、私が属している地方公共団体に例えば持っていく。つまり、地方公共団体が地方のバイオ産業の振興ということで受けるというようなやり方も1つあるのではないかと思っている。
     計測あるいはバイオの機器について、システムとして取り込むのが必要ではないかと思う。前処理とか、反応とかデータ処理とか、そういったものに対して単発ではマーケットとしては少なくなるから、全部をそろえていかないとやはりだめではないかと思う。そういうことになるとコラボレーションというか、いろいろな専門分野の人が集まって1つのものをつくっていくということが非常に重要なことではないかと思っている。
     バイオというのはユーザーとメーカーで相当距離があり、機器をつくった人は実際に使わないわけである。日本というのはどちらかというとハードが得意であるから、メーカーの側から組み立てていこうという話になる。ところが、アメリカというのは逆で、ユーザーの側から組み立てていこうという話になる。最終的にどっちが勝つかというと、勝負は明らかで、ユーザー側の人が得てしまう。だから、日本もちょっとやり方を変えてアメリカ方式で、もっとユーザー寄りのものをつくっていかなければいけないのではないかという気がしている。
     私がベンチャーを始めた理由は、現在のバイオ機器マーケットに欠点があるためで、その第1は大企業中心主義である。初年度100台1億円という、これが大企業でものがつくれる最低基準である。これをクリアしない限り、企画で落ちる。ところが、バイオみたいに移り変わりの激しい世界では初年度100台、1億円というのはかなり厳しい数字で、試作機からしてなかなかつくれなくなってくる。
     2番目はカタログ至上主義というのが日本にあり、カタログがよければいいだろう、例えば精度がよければいいというものがあまりにも強すぎる。いい精度のものをつくったけれど、ユーザーが使ってくれないということがままある。
     また、コラボレーションが不得手というか、全部自分の会社内で処理しようという発想があまりにも強い。そして、商品寿命がバイオの機器の場合は短いので、早く出して、早く変えていかなければいけないのに、なかなかそれを出さないということがある。アメリカの場合では、展示会にモックアップというのが出てくる。これは、日本で言うと一次試作機に近いようなもので、なぜ出てくるかというと、買う人がいるからである。つまり見かけでも何でもなくて、ものさえよければ使いましょうという人がいるわけである。日本というのはデザインあり、カタログあり、そもそもネジが見えたらだめだとか、かなりうるさいことを言うため、なかなかモックアップで展示するというのはない。そうするとユーザーの意見は入ってこない。そのうちマーケットがなくなり、消えていくというのが、多くのパターンかと思う。
     ベンチャーというのは売れないものはつくれない。いくらスーパーなものであろうと売れないものはつくれないし、そういうプロジェクトには参加しない。売れるということがまず最初にある。従って、将来的に大きなマーケットになるだろうという予想の下に我々は自分の技術を応用していこうと思っている。
     装置というのは、いかにハードウェア、ソフトウェア、アプリケーションというのをうまく評価するかということが大切だと思う。評価ラボがないとせっかくのいいハードウェアも生きないのではないかというのが私の考え方である。
     我が社の戦略であるが、1番目にバイオ産業に自動化技術で確固たる地位を築くことである。BA、バイオ・オートメーションという、ここが一番マーケットが大きいだろうという考え方である。バイオというのは非常にマーケットが細分化されている。だから、ユーザーにカスタマイズするようなもののつくり方をしようと考えている。
     我々は先端的な機器開発をしているので、評価というのはよくないとだめで、産学共同のラボにおいて高いレベルで開発する。基本的にバイオというのは多品種少量生産であるから、大企業には向かないと思う。多品種少量の開発でもあり、製造でもあり、販売でもあり、メンテである。こういう全部の体制をとっていかないとバイオの機器で生き残れるのは難しいのではないかというのが私のマーケットについての考え方である。
     最後に、なぜ産学でやっているかということであるが、大学の研究室にいれば機器というのはどんどんブラッシュアップできる。大学には最先端の情報が来るし、高度なユーティリティが非常にたくさんある。そこで産学共同のラボというのを私たちは持っており、そこで装置開発をしている。
     実際に産学共同でうまくやるやり方というのは、きれいにテクノロジーとサイエンスを分けることがよいと思う。我々はとにかくテクノロジーを上げることに取り組み、先生は機器を使って、どんどんいいデータを出してサイエンスを上げていくという分担を明確にすることがよいと思っている。
   
   ありがとうございました。ご質問ないしはコメントをお願いします。
   
   なぜアメリカでは産学共同に対して非常に熱心なのか。それから学生も役に立ち、マルチタレントが多いのか。
     日本ではマルチタレントは少ないと言われたが、日本の学生というのは授業料を払って学生をやっているので、大学の教官はよかったら働いていただけませんかという面がある。アメリカは給料を払っているから学生も解雇の対象である。だから、責任を持ったことができるということがあるし、日本の民間企業はアメリカの大学だったらお金を払う。日本の大学の知識はただでとってくるというところがあると思うが、その辺に関してどうか。
   
   大企業に所属していたときは、大学の先生よりも先を進んでいるのではないかという実感があった。1人になってみると、実は逆で、先生のほうがある意味物持ちだし、そうなってくると人間は知恵をお互いに出してくるわけで、立場によって私は考え方が変わったという感じがある。特に工作室がないという話は結構重要なのだけれど、先生が何かやろうとしたときに、なかなか工作室の人も動きが悪いというか、先生がやろうとすることを理解できない。
     我が社はどうやっているかというと、先生がアイデアを出して、夜、私が図面書いて、大田区とか川崎の中小企業にファックスを流すと2日したらできてくる。少なくともそういうツールというか、メカニズムがないとこれからの大学もしんどいのではないかという気がしている。
   
   多分これからはいいと思うけれども、日本の大学の先生が独自に事業を起こせるかといったときに、かつて制限があったと思う。アメリカはそういうのがなくて、独自に会社も持っているし、大学の教授もやっているということが両立できているということが1つの背景ではないかと思う。
     もう1つは、やはり大学の分析研究そのものがどんどん変わってきて、価値が認められなくなってきているというのも現実なのかと思う。今でもアメリカではアナリティカルデパートメントという学部が存在しているということだし、そこの学生も自分で自らベンチャーをつくり出していく。
     メーカーのサポートが変わってきているということもあるかもしれないが、もっと構造的なところに起因している問題があるのかと私自身は感じている。
   
   日本方式はハードウェアからで、アメリカ方式はアプリケーションからというお話があったけれども、この検討会の最初から言っているが、全部を含めて高度にならないと目的は達しないのではないか。
   
   そういう意味である。ハードは日本は特筆すべきものがあるので、基本的に分析機器は日本製ならどこでも売れるし、技術的には高いものがある。
   
   そのレベルが低いからもうちょっと上げていこうというようなこと。田中氏のレーザー脱離イオン化法そのものは先生がおっしゃられたアプリケーションのところだが、ああいう大発見も、やはりハードウェアがないと発見できなかった。私はますますハードとアプリケーションと全体を一緒にやっていかないと最先端までいかないのではないかと思うが、その辺はいかがか。
   
   ハードウェアというのは基本的にはかなりいい線までどこも来ていると思う。それを1桁上げるというのはなかなか難しい話で、こちらで1桁上げようと思っても、向こうでも1桁上げようというプロジェクトがある。
     最終的に買う買わないというのは、実は同じような性能だと使い勝手がいいか悪いか、あるいは、アプリケーションがそろっているかそろっていないか。特に、アメリカには取説学という学問があるぐらい実に立派な読みやすい取説がある。日本は、あまりにもハードに偏重なので、少しソフトあるいはアプリケーションにも、正直言うといいデザイナーを1人入れるとか、全体のプロジェクトにそういう少し専門の変わった人を入れる。そういうことも1つ試されたらいいのではないですかということである。
   
   この検討会の目指すところは全体をカバーする、要するに全体を有機的に連携をとる。そういう開発をやろうということを目指しているので、ご指摘もよく理解できる。
     それから、民間のやり方、特にベンチャーの立場がまるで違うというのは大変よく理解でき、そういう部分もこの検討会で政府調達のお金の動きも少し手をつけ、改善していくことも視野に入っている。いろいろな意味でご指摘を生かしていこうという姿勢でいる。ありがとうございました。
     次に知的財産について日立製作所の佐藤先生、お願いいたします。
   
   企業の立場から見た場合、特許を含む知的財産権は、企業活動を進めるに当たって他社との競争においてより優位な立場を得るための、非常に重要なエンジンと考えている。
     その例が3点あり、第1例としては自社が有する特許でカバーした技術を他社が使用している場合、他社から特許料を得るということで技術料収益への貢献を図ること。
     次に、クロスライセンスへの戦略的活用である。各企業とも、他社の特許に触れないよう事前に他社の特許を調査し評価する活動を行っているが、1つの製品に対して各社が特許を数多く持っているわけで、製品化する上では相互に相手の特許をどうしても使わざるを得ない状況も起こり得る。その場合に、両社が保有している特許を相互に実施許諾することで、その両社が市場に参入できるという状況をつくれる。この意味で、各社ともに製品設計の自由度の確保のためにもこの戦略が必要になる。
     最後に、特許権というのは独占排他的な権利であって、ある特許を持っていた場合には他社がその特許でカバーする技術を使うことを許さないといった権利である。従って、企業としては特許を保有した上で他社に先駆けて新たな製品を市場に投入することにより先行者のメリットを確保するという戦略もある。
     産学連携における知的財産権の取り扱いということでは、まず大前提として、産学連携は産業界へのリターン、企業への収益の拡大と、大学へのリターン、研究費の増大をもたらさなければいけない。つまり両者にとってWIN−WINの関係を構築する必要がある。ここで産業界の立場として一言申し上げておくと、連携開始前後における権利の取り扱いを明確にして戴きたいと考える。
     具体的には、連携が開始される前の特許については企業に帰属させ、企業の裁量による特許権の活用が可能であること。連携が実際にスタートした後に生じる特許については、その帰属は連携の形態によるものであること。
     次に連携の形態を共同研究の場合を例に企業側の事情を申し上げる。共同研究の場合、例え企業が共有権利者であっても、その権利を実施する場合には大学側への実施料の支払い義務が存在する点である。これが一般的には不実施補償と言われるものである。この実施料の支払いが企業にとって製品コストに反映してしまう。
     2003年の改訂後の共同研究契約書(様式参考例)について、産業界からの要望の一つとして、登録となるまでは、実施料の支払い義務はないとの変更ができればと希望している。その理由としては、出願中の段階では対象となる権利が未確定である。つまり、権利範囲がまだ確定していないという点と、出願しただけでは例えば残念ながら公知例があって、審査の結果権利化されずに終わるという場合もあるので、登録となるまで実施料の支払義務をなくせないかということがある。
     次に、第三者の実施による実施料の支払いに関し、権利共有者が支払う場合の実施料と、第三者による実施料において条件面での区別が現状では明確にされていない。産業界の意見として、条件面での区別の明確化を希望している。その一例としては権利共有者である企業からの実施料というのは、第三者からの実施料よりも低額化とする。この第三者というのは産学官の連携に全く関与していない企業である。一方、共有権利者である企業というのは大学側と密接な関係で連携を図って権利化したものであるから、その部分において多少の区別をつけないと、企業にとっては共同研究のメリット自体に対して疑問視する声も上がる可能性がある。したがって、金額を算定するに当たって、第三者からの実施料よりは低額にすることを要望したい。
     これは私見であるが、共有権利者が実施料を支払うに当たって、トータルの金額の上限をある程度設定できないかということがある。企業としては、企業経営を図りつつ、大学側にも研究費として還元させるという両方の折り合いをとっていく上ではぜひともそういう検討も必要かと考えている。
     最後に、第20条の第2項は知的財産権に係る持ち分の譲渡ということで、大学側の持ち分を企業側に譲渡する場合の規程である。現状では譲渡に際して必要となる事項について別途協議ということであるが、可能であればこの譲渡の条件面の明確化ということを希望したい。その例として、譲渡に際して持ち分を譲り受ける側、つまり企業側が、譲渡に係る手続費用のみを負担した上で持分譲渡対価または過去の費用負担の還付等は行わない。すなわち将来における疑義を生じさせないという意味ではこの点も考慮していただきたいと考えている。
     誤解を招かないように申しておくが、企業側としても大学側に対して実施料を支払う。共有の権利者であっても支払うというスタンスをとった上で、お互いにWIN−WINの関係を築き上げなければいけない。その際に第三者の実施料と比較してみた場合、今後、積極的に連携を進めるに当たってはやはり何がしかの区別を設ける必要性があるのではないかと考えている。
     今回は共同研究についてだけ言及したが、受託研究については、大学側が権利の一部を企業に譲渡できるという規程と、さらには共有権利で大学側が一部持っているその持ち分を企業側に譲渡できるという規程もあり、それが適用されると最終的には企業がすべての権利を持つという形態もありえる。そこが共同研究場合と違うところであるが、それ以外のものについては基本的には共同研究の場合と同様である。
   
   ありがとうございました。
     全体として大学側が不利なような印象を受ける。最近は大学側が全面的に負担をして権利を確保することもできる。以前は大学は金がないから企業に経費負担をお願いするのがほとんどであったけれども、これからは大学側が全部経費を負担して、自分の権利を確保することはできる。そういうことが念頭にあるかどうか。
   
   もちろん念頭にあり、実施料を産学連携に参加した企業が支払うということは当然だと考えている。産学連携をするに当たっては企業が一企業のメリットだけを追求していくと必ずしも成功しない。大学側に資金を還流していかなければいけない。また継続的な研究をしていただいて、より社会のニーズを吸い上げた研究成果を上げていただく。しかも特許化して、最終的には市場に製品を出すというところまで結びつけていくことが必要となる。ここで、先ほど申し上げたように連携に参加していない企業がその権利を使う場合と、もともと連携に投資して参加している企業が使う場合に、実施料にしかるべき差があってよいのではないかと考える。
   
   その点はご指摘のとおりだと思う。ただ、日本で実際に行われている受託、共同研究では、非常に企業側の支払い分が低いように思う。
   
   確かに過去の経緯を見ると、企業側が大学側に対して特許を使いたいという話が少なかったり、あるいは共同研究した成果の中で、実施している数量は比較的少ない。
     今回の産学連携の大きな趣旨として、国策としてやっていくわけで、しかもアメリカに勝つということであるので、基礎的な研究を進めるに当たって将来採用する技術はかなり多く出てくるものと産業界も期待している。そうなれば、先ほど危惧されているような、産業界の支払いが今後も低額のまま継続するとは、必ずしも言えないのではないかと私は認識している。
   
   私も事情はいろいろなケースでよく存じているが、日本の場合、今までがあまりに大学の特許を企業が使わなかった。なぜそういうことが起こるのか、大学側の特許の申請が下手で、いくらでも抜け道があるからかもしれないし、企業があまりに他者の権利、知的財産を使いたがらないという体質もあったと思う。そのあたりをトータルとして改善したいというのがおそらくこういう場でこういう話題を議論する目的だと思う。ぜひ専門的な知識を提供いただき、アドバイスいただきたいと思っている。
   
   5年ほど前にOECDが日本に代表団を派遣して産学連携のあり方を議論した事があった。そのときに日本側から産学連携の1つのあり方のモデルとしてシリコンバレーの成功例を出した。それは確かにすばらしい成功例だし、産学連携の新モデルであった。そのときのアメリカの代表団のコメントとして大変印象に残っているのは、サクセスストーリーに学ぼうとしないで、フェーラーストーリーに学ぶという姿勢がないといけないのではないかということであった。シリコンバレーの成功例の中には大学の学生が非常に成功した例がいくつもあるけれども、スタンフォードであれバークレーであれ、何人もの学生が先生のプロジェクトがつぶれたために学業半ばで去っていったという事例も数多くある。
     ベンチャービジネスの成功例をどう判断するかという価値判断の中に、学生を育てる、人材育成をするという視点が必要であり、広い視野で産学連携のあり方を議論すべきと考える。
     私は、学生の人材を育てるために先端機器は要ると思う。機器開発を通して学生が他の学問分野も要るということで、それを学びながら育っていくために、文科省の先端機器開発を位置づけなければいけないのではないかと思った。
     もう1点は市場調査が大事だと考えている。目利き人にすばらしい産業界の方々に入ってもらい、目利きの才能をぜひ反映してもらいたい。
   
   日本の企業がアメリカの大学に1億円寄付をしたというような話をよく聞く。一方、日本の大学へは100万円だけというような、バランスの問題がある。
     企業の方に聞くと、日本においては大学に対する寄付が税金対象になっている。ところが、アメリカは研究寄付は無税で、膨大な研究費、資金を調達できる。今後こういうことを進めるときの1つの問題だろうという気がする。
     私の所属大学では、1つの特許で1億数千万の特許料が入ってきているものがあり、それが若い研究者の研究資金に回わって大変助かっている。共同の特許は大変難しいと思うが、そういう意味でうまくやらなければいけない。
     大学にはTLO組織ができ、先端研究センターなどに知的財産の担当の教授ないしは会社から専門分野の方が来ていただいた。従って、個人の契約ではなくて、大学との契約ということになり、今後産業界の方とうまく連携できるという気がする。
     もう1点、マルチタレントの学生の話が出ているが、アメリカでは学生に給料を払い、契約で学生を集められる。日本は決まったレールの中であがってきた学生を集めるしかなく、また、授業料を払っている学生にやってもらうしかない。このシステムを何とか動かす流動型システムと学生に対する投資を考えていかないと、マルチタレントないしはダイナミックな研究戦略というのはなかなか難しいというのが私の印象である。
   
   このプロジェクトはユーザーとしての大学と、機器開発を行うメーカー、そこがうまくタイアップしていかないとソフトウェアもしっかりと開発できないし、アプリケーションも出てこないというようなことになり、そこをいかに結びつけるかということがおそらく一番重要な部分だと思う。
     どうやってユーザーとメーカーとのWIN−WINの関係をつくり上げるかということになる。例えば学生について考えると、学生とのWIN−WINの関係とは、アメリカではそれが実はでき上がっているが、学生が研究できるだけではなくて、お金ももらえるということである。日本の学生たちはそれができないから、研究費が入ってくるということで満足するわけだが、そうなるとアプリケーションソフトウェアを増やすとか、自分以外の人にも使えるようなソフトウェアにするとか、そういったことに関しては日本の学生は役に立たないことになってしまう。そこがとても重要だけれども、その学生たちにどうやってメーカーがそれを市場化していくことにまで協力させるのかというシステムが日本にはない。だから、そういうことも含めてこのプロジェクトを考えていかないと、機器メーカーと大学とのWIN−WINとの関係、あるいはギブ・アンド・テイクが成立する関係がつくりにくいかと思う。そこのところの工夫をいろいろ我々も考えていかないと、このプロジェクトを運営していくのが大変になると思う。
   
   私も、ユーザー代表は大学であると思うが、日本の場合は企業のユーザーも無視できない。
     ユーザーの中からノーベル賞が出てくるという仕組みを、どのようにユーザーサイドの研究者が考えるか、受け止めるかということが重要で、大学、企業を含めたユーザーサイドが高度なモチベーションを持つことが絶対に必要だと思う。
     そういうことを理解されていないユーザーはおそらくのってこない。的確にそういうことを理解したユーザーがのってくる仕組みを考えないといけない。要するに片思いに終わってしまうのではおそらく限界があると思う。
     総合科学技術会議のヒアリングでも議論があったが、トップレベルの研究者はみんなこのプロジェクトはものすごく大事だとおっしゃる。ところが、マジョリティは必ずしもそう思っていないというのが現実だという感じがする。その流れを変えるのがこのプロジェクトであると申し上げてきた。
     どうすればいいか、大変なことばかりだけれども、ユーザーがこういうプロジェクトのメリットを自分で受け止める。これは千載一遇のチャンスだというふうに受け止めるユーザーがどれほど出てこられるかというのが、このプロジェクトの成否を決めるポイントであると思う。
   
   企業にとってこの知的財産の取り扱いは非常に大きな問題であるが、来年度、公募が始まるまでにこれはできてオープンにされるのか。
   
   参考資料2そのものはすでにこの4月に作成、公表されており、一般的に産業界と大学の方々がやられている共同研究の1つのモデルとしてお使いいただきたいということになっている。
     ただ、今日ご指摘をいただいたこと、あるいは今後ご検討いただくことを踏まえて、4月からこのプログラムが実際的に始まる前に、公募の仕組みを整えるという過程で知的財産の取り扱いもお示ししたいと思っている。
   
   全員一律ではないと考える。共同研究するときに強い立場にある人は相手に余分に要求し、それで契約を結ぶと思う。
   
   結局は個別の契約になるが、その個別の契約になるときのバックグラウンドになる骨格みたいなものはなるべく共通化しておいたほうがいいのではないかという指摘が結構多いので、このプロジェクトとしてどんなものをバックボーンにするのか、それはなるべくはっきりした格好で決めていきたいと思っている。
   
   本日は以上で検討会を終わらせていただきます。ご協力ありがとうございました。


(研究振興局 研究環境・産業連携課)

ページの先頭へ