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先端計測分析技術・機器開発に関する検討会

2003年9月29日
第6回先端計測分析技術・機器開発に関する検討会   議事概要

第6回先端計測分析技術・機器開発に関する検討会   議事概要

 

1. 日   時   平成15年9月29日(月)   17:00〜19:45
2. 場   所   文部科学省別館第5、6会議室
3. 出席者
(委   員) 二瓶、青野、石田、小島、小原、志水、原口各委員、吉田氏(田中委員代理)
(有識者) (株)堀場製作所   代表取締役社長   堀場   厚氏
  日本電信電話(株)NTT物性科学基礎研究所
                          主幹研究員・グループリーダー   本間芳和氏
  理学電機(株)   顧問   原田仁平氏
  ナノフォトン(株)   代表取締役社長   大出孝博氏
  (株)バイオフロンティアパートナーズ   代表取締役社長   大滝義博氏
(事務局) 丸山研究振興局審議官、田中研究環境・産業連携課長、川上基礎基盤研究課長、杉江研究環境・産業連携課専門官
(その他) 科学技術振興事業団   専務理事   北澤宏一氏
4. 議   題
   
(◎:主査、○:委員等、△:事務局の発言)
   
(1) 先端計測分析技術・機器開発に関する今後の検討について

   今後の検討について、事務局から検討事項を整理した資料を説明いただきたい。
   
   このプロジェクトについては、平成16年度からスタートさせたいと考えている。プロジェクトの具体的な推進のために検討が必要な事項については、今年中に検討し、中長期的な視点から検討が必要な事項については、平成16年度前半を目途に検討を進めていただきたいと考えている。
     開発実施体制については、研究リーダーの役割、中小企業・ベンチャー企業の参画を含めた提案チームの要件、産学連携による推進のあり方を検討していただきたい。
     プロジェクト全体の運営について、プログラム全体の運営をどこが管理し、推進体制をどう考えていくのか、公募における選定の視点、採択案件の評価の方法・視点、開発現場の状況をどのように把握していくのかについて検討していただきたい。
     その他、契約のあり方、知的財産の取り扱い方、第2段階でプロトタイプをどのように具体的に製作し、調達の形態をどのように考えていくのか、産業界において機器を生産するときの技術移転の考え方、試薬、データ処理、標準物質等の周辺的な技術開発をどのように考えていくのかを併せて検討いただきたい。
     中長期的な視点から検討していただきたい事項として、人材育成をどうするのか、この分野に係わる研究者、技術者の評価のあり方、産業界が先端計測分析技術機器開発に取り組むための促進策などを検討していただきたい。
 
   御意見ございますでしょうか。
   
  (意見無し)



(2) 先端計測分析技術・機器開発における産学官連携のあり方について
(3) 先端計測分析技術・機器開発における中小企業・ベンチャー企業の参加のあり方について

   本日は、先端計測分析技術・機器開発を適切に進めて行くにあたって産学官の連携のあり方、中小企業、ベンチャー企業の参加のあり方などについて御意見を伺うことになっている。最初に、堀場製作所社長の堀場先生お願いいたします。
   
   当社の場合、基本的には、光学センサーなどのコア技術が中心にあり、それに対して気体や固体などを測定する適用の階層がある。そしてその外にエンジン計測、環境・分析などのマーケットがある。マーケットは時代時代によって展開して行くが、コア技術の維持あるいは継続した開発というのが大切で、競争力の原点になっている。
     当社が最も強い自動車エンジンの排気ガス測定装置を例に取ると、ポイントとしては、要素技術は自社開発して競争力を維持するということである。そして、周辺技術については海外のベンチャー、あるいはM&Aによって獲得し、要素技術を生かしていくという展開が非常に大事である。そして、州あるいは連邦政府への直接的なアプローチなどビジネスに成功するためにいくつかのポイントを押さえなければ最終的にグローバルスタンダードとはならない。
     米国における先端技術の開発の特徴は、1研究者、ベンチャー企業、機器メーカーの役割分担が明確で、その連携がうまくできている。2研究者のリーダーシップが非常に強力である。3公的支援体制が充実しており、先端技術の開発だけではなく実用化、商品化にも支援している。4計測方法・標準物質開発体制の充実。ということが挙げられる。
     日本における先端機器開発のポイントとしては、1開発製品化のリーダーシップという面で研究者のリーダーシップに期待するだけでなく、企業あるいは工業会他のトータルな情報を集めて対応し、また、大学などの知的財産センターの協力機能を強化していくことが大事ではないかと考える。2開発、実用化から製品化の狭間である「死の谷」への対応が重要と思う。3ベンチャー企業の育成の基盤の遅れ、つまり、日本の場合、失敗してしまうと社会的生命の保証までなくなってしまうことの改善。4大学における分析化学系の講座が衰退している。分析技術そのものが学問として非常に重要であるという位置づけが必要。
     先端計測分析機器開発の進め方への提案としては、1国策的に重要な分析・計測については、しっかりした対応が必要。2先端分析技術開発戦略会議を横断的に内閣府に設置し、文部科学省がリーダーシップを取って先端科学、計測機器開発の総合戦略を提案、国益という断面で人材あるいは技術を育成していく対応が必要ではないかと考える。3先端技術の意味づけについて、先端技術は実用化あるいは一般的な産業において育っていくものだと考えるので、産業的、実用的に有用な先端技術テーマも対応していくことが大切と考える。4競争原理の強化が必要。公正、厳正なテーマ評価、審査が必要であると考える。また、最初に多くの技術提案を受け入れて、その中からセレクションしていくということがいいと考える。5開発された機器の購入先を確保していくことが非常に重要である。公的機関を先行需要先として産業界需要の呼び水とする。このような面で大学、研究所の位置づけは重要。6契約あるいは大学と企業の役割の明確化あるいは開発技術の開示発信、というような機能がプロジェクトを成功させていく中で大切であり、大学の知財本部の活用が大切だと考える。7標準物質・計測方法の開発体制の強化。8分析化学というような学科の設立。9大企業、中堅企業、中小企業、ベンチャー企業の連携、資金・技術・財務・知財関係の支援といったチームワークを作るために、企業間のネットワークシステムの構築が大切だと考える。
   
   ありがとうございました。質問御意見を伺います。
   
   非分散型赤外検出器に非常に苦労された話を聞いており、それが排ガス技術の基礎となって世界に羽ばたいているというのは大変喜ばしいことだと思う。
     大学における分析化学系の講座の衰退という点について、私は医学部、農学部、工学部の3学部の分析化学講座を回っていて、そのことは痛切に感じている。私の若い頃は分析化学というのは非常に元気があったが、考えてみると、お話のあった貿易摩擦時の輸入政策で、大型機器を買う大きな資金が応用分野に回って、基礎開発する我々のところに回ってこなかった。日本は製品開発のような応用分野にあまりに目が向かいすぎて、分析化学をはじめとして機器開発、改良に結び付く分野に資金が回らず、そのあたりに日本における大きな転換期があって今日のような状況が生まれたのだと感じている。
   
   ありがとうございました。堀場社長のお話には、非常に的を射た的確な御指摘がいくつもございました。
     続きましてNTT物性科学基礎研究所の本間先生お願いします。
   
   計測分析技術・機器開発における産学官連携の望ましいあり方に絞ってお話しさせていただく。
     私は企業においていろいろな計測機器の開発に携わるような研究を行ってきた。質量分析、電子顕微鏡、これら計測機器、計測技術、分析技術の開発を行ってきた。
     質量分析機に関してはフランス、ドイツ、英国の機器をベースにして日本のメーカーと組んで開発し、電子顕微鏡については日本のメーカーと組んで開発した。つまりそれぞれの機器の分野について当時から既に欧州勢が強い分野と、依然として日本が強い分野というのがこの基本装置の中に現れていると思う。
     特に力を入れてきた結晶成長その場観察用超高真空走査電子顕微鏡について簡単にご説明し、開発の過程でどのような困難に遭遇したかをお話したい。
     SEMは非常に簡便な観察、分析手段であるが、これを超高真空で使うと非常に広い可能性が見えてきた。このようなメーカーとの共同開発における困難な点、問題点というものを整理した。
     大幅な設計変更は機器メーカーの協力を得なければならないが、時間、予算の制約の中で非常に困難を伴う。メーカーの人的資源のやり繰りに限界がある。
     経験として、メーカーが好況な時期は非常に忙しくて、大幅な設計変更はなかなかつきあってくれない。
     技術を持っている中小企業との連携で開発を行うが、いろいろな装置の組み合わせ、装置の周辺技術の開発には非常に有効であった。しかし、装置本体に関するいろいろなノウハウ、技術力という面ではやはり大手メーカーと比べたときの限界がある。
     うまくいかなかった例を紹介すると、超高真空のSEMを使うと表面原子層の構造に対する非常に高い敏感性を持つことを発見し、当時日本で開発されたセミインレンズタイプのSEMの超高真空化を考えた。この開発には材質、設計を根本的に変更しなければならず、資金も時間もかかる話でメーカーの協力が得られず断念することになった。ところが、ヨーロッパでは別の方式でこれに近い形の静電界磁界複合型レンズ方式による装置が開発された。この装置は超高真空化され、非常に低加速で非常に面白い像を生み出している。このような低速SEMという分野が本来は日本から生まれる素地があったにも係わらず、日本で生まれずに海外に先を越されたというのは非常に残念であったと思っている。
     このような経験をふまえて計測分析技術・機器開発における産学官連携の望ましいあり方というものを考えると、何を開発するのか明確な目的を持つことが非常に重要だと考えている。つまり、今の技術でできる開発、総花的な目標よりも実際に何を計測したいか、これを明確にすることが非常に大切だと思っている。物性・材料・医療関係の研究者との強い連携のもとに何が見たいのか、そのために何を開発すればいいのかという目標を持つことが非常に重要だと思っている。
     そして、如何にである。メーカーには開発リスクが伴うので、これをきちんと補償するシステム作りが必要である。実用化には越えなければいけないギャップ、死の谷がある。この死の谷を越える仕組みとして産学官連携をうまく使うことが必要だと思っている。また、分析技術計測装置自体は必ずしも成果がすぐに見えるものではないので、成果の評価にはある程度時間をかけることが必要だと考えている。
   
   ありがとうございました。質問、コメントをお願いします。
   
   1995年であったと思うが、「ジャーナル・オブ・エレクトロマイクロスコピー」に世界中のSTM、AFM、電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、光学顕微鏡の最先端の成果のレビューがあり、その中で本間先生のこの仕事が日本から1件選ばれたというのは非常に鮮烈な印象があり、外国でこれだけ評価されているのに、どうして日本での評価が低いのかということと、どうして製品につながらなかったかということに、大変悔しい思いをした。
     本間先生ご提案のインレンズタイプの超高真空化というのは、提案しても予算がつかなかったのか、あるいは、予算はついてもメーカーの了解が得られなかったためであったのかどうか。
   
   会社の予算であるから、1台のSEMを買うための予算はつく。しかし、普通のSEMを買う値段でメーカーにかなり大幅な改造をしてくれという要求をすることになる。何か新しいアイデアを実現するときには、メーカーにいろいろなリスクを負っていただくことになり、それをどのように保証し、クリアしていくかは非常に難しい。
   
   予算における開発費の部分のプラスアルファが大変貴重である。そのような予算のつけ方ができないのか。そして、単年度の予算であるので、2〜3年かかる装置開発の継続経費が続かない。この点について、お考えはどうか。
   
   まさにそのとおりで、我々の企業も単年度予算になっており、装置開発のときに非常に大きな制約になっていて、この点を考えていくのは非常に重要であると思っている。
   
   ありがとうございました。次に理学電機の原田先生、お願いいたします。
   
   私の認識している企業というものはどういうものであるか。大学研究者の問題点。産学官連携の望ましいあり方。計測分析技術・機器開発に関しては中小企業の立場から私の考えをお話させていただく。
     企業は商品の製造とその販売で食べている。よい商品を作り出せば売れて、資本家、従業員がそれで潤う。よい商品を作るにはアイデアが必要で、その提供者がいないとできない。ところが現在はアイデア提供者の存在を軽視している。個人の知的財産の保護策が非常に大事だということを感じている。
     ある商品を作り出すには、先ず商品のイメージがあって、それに対するマーケティングを十分に行い、次に自社の独創的アイディア、固有の新技術が導入できて、他社を差別化できるか否か、を検討し、更に素早く低コストで製造が可能かどうか、これらを検討した上で投資の価値判断がなされ、商品ができ上がる。商品が分析機器の場合は、たくさんの要素技術のアセンブリーであるところに特徴がある。そして顧客は大学、官庁、民間の第一線で働く研究者である。その人達のニーズが良く分からないとマーケティングができない。しかし、市場の大きさというのは比較的測りやすいが、必ずしも大きくなく、そこに問題がある。多品種少量生産となるためである。
     分析機器である商品ができても、維持して行かなくてはいけない。そのために顧客との共同研究、学会活動をしないといけない。その場合に秘密保持契約という問題も出てくる。
     分析機器製造販売業の利益を考えると、部品の製造販売が一番利益をもたらす。もう一つ利益が上がるのはサービス業、依頼分析である。ところが、システム化して分析機器として研究者に届けるというところだけを受け持っている事業と言うのは利益が少ない。以前は部品も製造販売しながらシステム化をしていたのだが、海外の小規模の部品メーカーが進出し、それらが高精度で高機能であるために日本のメーカーは対抗が困難になってきたというのが現状のようである。また、データ収集、解析のソフトウェアも海外の個人研究者が独立して提供するようになり、進出されている。サービスの分野では国内は容易であるが、海外になると語学力とか、経費が割高になるということで問題がある。
     中小企業は全ての要素技術を育てることができず、外国依存になりつつある。この傾向を変えねばならないと思うが、社会の仕組みを変える必要があり、行政的な支援をしないといけないのではないかと感じる。しかし、企業の中にも問題がある。中堅技術者は過去の栄光で権限を行使していて、現在の分析機器の要素がどんどん変わってきているにもかかわらず勉強不足である。さらに、若者、後継者の教育をしていないということがあるので、将来に不安を感ずる。
     大学の研究者の問題は、企業の持つ技術を一般に過信して、問題解決に具体的に指示・寄与しないようになった点である。装置の仕様さえ与えれば企業がすべてやってくれると思うようになった。要素技術開発では大学の先生は評価されないからであろう。これは性能の良い分析機器は海外から導入できる余裕ができたためとも言える。1983-4年だったと思うが、海外製品を買うことに国家予算が出るようになり、それがきっかけで日本の分析技術は右下がりになっていったと思う。海外の製品を導入していたのでは二番煎じであって、オリジナルな研究とは言えない。そのことは認識されているが、現状では成果を急ぐため、やりようが無く、買いやすい装置でことをすますというような状況が起こっているように思う。
     昔は、オリジナルの研究をしているか、良い後継者を育てているかというようなことを、所属学会のリーダーが評価していた。現在は国際的に評価の高い雑誌に掲載している論文数で業績を評価するとか、取得した研究予算の額とか、国際会議での賞の取得、役職というようなことで評価するようになってきている。従って、研究予算が雪だるま式にある所に溜まる。
     大事なこととして、研究者でありながら教育者であることの認識が無くなってきているのではないか。ものづくりを尊重する研究・教育環境が失われて来ていて、且つ実験より計算重視になってきている。それは計算機の普及が、ソフトとハードの必要性のバランスを欠く結果を導いている。それから、大学の技官のポストがどんどん減ってきており、工作室の職が消え、代わりに教官数が増えている逆ピラミッド型人事組織である。大学の教官はこのような状況を阻止できないでいる。これは大学教官のビジョンのなさでもある。この辺りに相当力をロングレンジで入れないと日本が直面している、此処で取り上げているような問題は解決しないのではないかと思う。
     産学官の連携のあり方であるが、結論から述べると、産対学・官の双方から見て魅力が無ければ連携は成立しないであろう。
     産が魅力を感じるのは、個人が持つアイデアが企業の利益を生む場合のみである。そうでないとやっかいな特注品になり、これを受けると赤字になる。この中に宝があるかもわからないが、一般には受注は難しい。一方、学・官の研究者の感ずる魅力というのは、個人の研究が企業によって支援されること、そして、その成果が学問的に評価されるような時に連携したいと考える。したがって、双方が魅力を感ずる連携とは、報告書にもあるように、オリジナルな研究を見つけて支援しないといけないだろう。企業が受注しないものの中にもいいものがあるかもわからない。そういうところを良く見極めて支援する必要がある。
     私は、要素技術を育てること、知的財産権を尊重する環境を育てることが大事だと考えている。大企業に所属して経営者になるのも一つの尊敬に値する能力であるが、商品に価値を与える個人のアイデアも対等な能力である。双方ともに尊重され、それに相応しい配当が得られるような社会が必要ではないかと思う。
     最後にもう一度強調すると、大学でも企業でも要素技術を重視しなければ分析機器は魅力あるものにならないし、分析機器企業も好成績は得られないと断言したい。また、大企業だけでなく要素技術を専門とする微小規模のベンチャー企業でも評価の対象になるような社会、要するに、優秀な人材がそのようなところにも流れるような社会にしないと、海外品以上のいい分析機器はなかなか生まれてこないと考える。
   
   ありがとうございました。続きましてナノフォトン株式会社社長、また阪大フロンティア研究機構の特任教授をされている大出先生、お願いいたします。
   
   私が大阪大学に来てナノフォトンという会社をつくり1号機を売り上げて、今どういう状態にあるかという経緯をお話し、大学からベンチャーをスタートさせるときにどういった問題点があるか。こういうことがあればもっといいのになということをお話ししたい。
     阪大の河田先生との話題で2000年を越えてからは、日本の産業と科学はなぜか元気がない。最先端の理化学機器を買おうとしても国内のメーカーが全然ない。買おうと思ったら輸入品しかなくなってしまう。という話題ばかりで、これは何とかしないといけないなという気が2人ともしていた。製品だけではなくて、国際学会等で発表しても元気のあるのは外国の研究者と外国のメーカーばかりで日本の研究者は今はあまり元気がなくなってきている。英語が大変だという壁もあるが、それ以外にも何かがあるのではないだろうかと考えた。
     その理由として、日本の研究者に独創性がないとか、あるいは日本の企業は大量生産でいっぱい流れるものしかつくらないということがよく言われているが、よく考えるとちょっと疑わしいのではないかと思う。
     日本の企業は大量生産で、もうかるものしかつくらないということをよく言われるけれども、全然そんなことはなくて、日本の会社は意地でも企業理念に沿ったフラッグシップマシーンみたいなものを全然儲からないのにずっとつくり続けているところが結構ある。それがうまくいかないのは、優良企業が自社技術にこだわりすぎているということが一つ言えるのではないかと思う。
     それと、日本の研究者に独創性がないというのは研究評価体制の問題ではないかという気が傍目にもする。
     一般的に企業のサイドで新しいものをつくろうとすると、自社技術だけで解決するのは難しく、最初に国内市場だけで製品を出してみるということをよくやるが、それでは絶対にペイしない。最初から海外展開しないと企業の間接費が賄えないということで、新製品を展開しようとするときに障害になるのではないかと思う。それに対してある種の技術シーズがある大学から企業をスタートさせて、受注生産のやり方で事業展開すれば、比較的リスクは少なくて最先端の科学機器にチャレンジできるのではないかというふうに考えた。
     会社の運営について、今はコンピュータがずいぶん発達いるので、1人がコンピュータ操作することで相当なことができるようになってきている。したがって、最初からその辺の間接人員なしで会社をスタートさせれば、比較的少人数で企業が運営できるのではないかと考えた。
     先端のことをやるのに一番大きな問題は研究開発費だが、この部分が大学にいればかなり節約できるというのは大学からベンチャーをスタートさせるときのよさではないかと思う。さらに、大学からスタートすると何がいいかというと、優秀な人がたくさんいて、そこで優秀な人のディスカッションの場が当たり前にあるところが一番重要だと思う。これは大学の人はなかなか気づいていないが、企業から見るとかなりすごいなという気がして、それを今活用しているわけである。
     日本の研究者は優秀であり、最先端の科学機器をしっかりと提供できれば確実な需要があるだろう。大学の技術を導入することで少人数の企業でも最先端の機器にチャレンジできるだろう。世界に通用する装置を日本から発信したいというのが我々の願いでもあり、できたら主要部品に日本製をどんどん使い、日本を元気にしたいというのも我々の創業の理念である。
     今は幸か不幸かあまり景気がよくないから、アウトソーシング先は全然困らないわけで、そういう意味ではかえって今のほうが会社をつくるのは得かもしれない。
     我々は最先端の科学機器を使って世の中の役に立ちたいと思い、企業理念の文章があるが、まず覚えてもらえないだろうということで、「ユーザーからノーベル賞をとってもらえるような優れた製品をつくりたい」を我々の創業理念を表す言葉としている。
     比較的早い時期に1号機、光第2高調波顕微鏡を理化学研究所から受注することができた。この光第2高調波顕微鏡というのは、一口でいうと分子がきれいに並んでいるかどうかを見極める顕微鏡というふうに言える。
     これを企画した段階ではナノフォトンはまだ会社になっておらず、専門の商社を通して受注した。商社に多少のマージンは行くが、専門商社だから顕微鏡などを同じ商社を通して買うことができて、材料費の多くを相殺決算することができて、結果的に資金運営面で非常に楽であった。
     我々は運良くそういった商社があったが、もしなかったらそういうところも探さないといけない。つなぎ資金みたいなものも何か公的なものがあれば初期の段階のベンチャーに非常に助かるかもしれないと思う。
     大学の中で全部1から10までつくるわけにはいかないので、外注を図ることになる。4か月の納期で材料費が資本金の4倍ほどかかってしまい、そういったものに耐えられるような外注先が必要になる。また、骨のある設計者と喧々諤々しながらものをつくらないといけない。100%大学からスタートするとなると、そういった関係のあるところを見つけていくのはなかなか難しい。いい協力関係の得られるような会社を斡旋というか、紹介できるようなシステムがあれば、大学からベンチャーがスタートするのがもっとやりやすくなるのではないかと思う。
     国産品を使っていきたいと思っていたのであるが、結局、国産品を使用できたのは顕微鏡、レンズ、スキャナー、イメージインテンシファイア、モニタ、筐体、除振体、制御部。顕微鏡とかインテンシファイア、スキャナーあたりはいいが、あとはローテクなものが多かった。輸入部品を使用したというか、使用せざるを得なかったものはフェムト秒レーザーと高感度高速度CCDカメラ、それからそのカメラ制御のコンピュータで、いずれも選択の余地がなかった。結局、光学部品で輸入品の比率が高いというのは一朝一夕には変わらないなというのが1台目をつくり上げた感想である。ただ、我々のような会社がこれから増えていけば、この辺の比率は徐々に変わってくるのではないかという気はしている。
     大学発ベンチャー企業の課題ということで、感じるのは、旧来の国立大学の運営システムというのは非常によくできていて、カチッとしたものなのだが、往々にそれがカチッとしすぎていて、民間の時間との勝負のピッチに合わないということがときどきあった。
     人件費、特許の費用、広告宣伝費などは企業を始めると最初のうちはどんどん出ていって、最初の資金を回収するまで負担になるということがあり、多くの会社はこれで苦しんでいるのではないか。公的なりあるいは民間の製造業でいいパートナーシップを組めればこの辺の問題も解決するのではないかという気がする。
     それから、少人数でやっているので1台受注するとそっちばかりにかかってしまって、次の受注に向けての作業がなかなかできない。この辺もいいパートナーがいたら変わってくるのではないかという気がする。
   
   ありがとうございました。特にユーザーからノーベル賞をというのは実はこのプロジェクトにそのまま使えるのではないかと思う。引き続きましてバイオフロンティアパートナーズ社長の大滝先生、お願いいたします。
   
   私自身はこの15年間、特にバイオで、いい技術を持っているベンチャーを育てるということをやってきた。その中で近年、ベンチャーだけではなくて中小企業も含めて日本の中にいい技術を持っている会社があり、これを何とか生かせないのかということで動いている。その観点から今日お話したいと思う。
     世界中をこの十数年間歩いてきて、おそらく総額数百億円、50社に投資したんですが、もう少し日本は何とかならないのかということを考えるようになった。世界中のバイオベンチャーはとんでもないお金を使って、そして大学も巻き込んですごい勢いで研究開発を行っている。だから、同じことを日本が一生懸命にやってみても実際には世界中の競争相手を打ち負かすというのはかなり難しいのだけれども、バイオの中で日本が勝てるのは一体どんなところなんだろうかということを世界中歩きながら考えてきた。
     結論としては、日本が有する従来の技術的強みを生かすべきである。全く同じベースに立って喧嘩しても、実際には勝つのは非常に難しい。情報の流れもそうであるし、語学的なハンデもあり情報が日本の場合残念ながら遅れる。研究の開発にタイムラグがあるのがこの十数年間見てきた実態である。このような中で日本の技術的強みを生かして、その分野でバイオの新産業をつくることが一番重要なのではないかと考えるように至ったわけである。
     日本はバイオを研究するにしても、周辺技術と融合するような分野が日本の強みではないかと考える。日本はエレクトロニクスとかメカトロニクス、ナノテクノロジーの分野で世界のトップを走るような技術をたくさん持っている。このような分野の方々は自分たちの技術がバイオに使えることを明確に考えていなかった。このことが日本が要素技術で基本特許などを持っていても実際にはビジネスに生かせなかった原因ではないかと考える。このような異分野の技術を融合させる分野に取り組み、トップを走ればいいのではないかと考えている。
     日本の機械はソフト的に使い勝手が悪い、もしくは情報の蓄積がなく研究者からみて非常に物足りないソフトだということをよく聞く。こういう分野もすべてクリアした機械を実際につくっていかないと世界には出られないようなものになる。
     大きな機械を中小企業が全部本体までつくるというのは非常に難しいかもしれないが、バイオの分野の中には中小企業、ベンチャー企業が参入可能な分野が十分存在する。ただし、実際には要素技術を持っていても、情報が少ないゆえに自分の技術がバイオに使えることに気づいていない中小企業がいっぱいいるということである。
     DNAだけではなくてたんぱく質に関してもいろいろな新しい技術が今世界中でできている。世界でまさにこれだというような標準の装置がないので、これから新しい要素技術を組み合わせて、今後いろいろな装置ができてくると思う。このような状況で中小企業が持っている技術もしくはベンチャー企業が持っている技術というのはばかにならないので、要素技術をいろいろ持っている企業を結集して装置の研究開発ができないだろうかということを考えるようになったわけである。
     理化学研究所から理研にある技術を何とか産業化できないかという相談があり、横浜市からは横浜市にある9,000件の中小企業の持つ非常にいい技術を見て欲しいという相談が我々に来た。今始まったばかりで、私もまだ10社しか行っていないが中小企業の中にも本当にいい技術を持っているところがあり、全くバイオと関係のない技術だけれども、これはバイオに使えるよというような技術がこの10件を見ただけでもある。
     日本に非常にいい要素技術があるにもかかわらず、その技術があることが知らなかったりする。これらを選び出して世界で初めての機械づくりに生かせないだろうかということを今私自身も歩きながら一生懸命考えているという状況である。
     このような中で、先端計測技術・機器を開発する制度ができるというのは非常にいいことであって、もちろん大企業とも提携しながら一緒にやっていかなければいけないと思う。日本の中からどれだけいいものを世界に発信できるかという観点から見たときに、意地の張り合いをしても仕方がないのでみんなで要素技術を出し合って機会、ビジネスチャンスをつくっていくことも重要ではないかと考えている。
   
   ありがとうございました。何かご質問はないでしょうか。
   
   理研には科学技術庁の時代から研究費はいくら投資されているのかわからない。しかし、理研からノーベル賞も出ていないし、技術もなかなか出てこない。これは非常に大きな問題だと思うが、それをどのようにお考えか。
   
   御指摘のように技術を出さなければいけないということで、和田先生ともお会いし、今、全所内を見させていただいている。そういう中から私のほうは産業化の観点から使える技術を見ており、その中で大企業との提携もすでに一部始まっている。それとは別に中小企業もそのような流れをつくろうと取り組んでおり、もう少ししたら姿が現れてくると思う。
   
   研究拠点の分散化とそれをどのように生かすかというマネージメント、アドミニストレーションのシステムが必要で、日本は産学官の中で先生のような方がもっと増えてこないと、結局技術は生かしきれないし、次の創成というところに行かず、日本と外国の違いはそこにあるのではないかと考えている。
   
   あとは戦略の立て方である。アメリカの場合はワシントンで完全に戦略を立てている。アメリカの場合は拠点拠点は離れているが、有機的に動いていおり、すべてをコントロールしている。その点が日本の場合少し弱い。もう一つ上の司令塔がしっかりとしなければいけないわけで、全部を上から眺めて動かす人がいないといけない。だから、分散したらもっとおかしくなってしまうかもしれない。集中しても分散してもだめであって、フィロソフィーをしっかりと持った人間が見てコントロールしていかないと動かないと思う。
   
   アメリカで我々の近い分野では、ナショナル・サイエンス・ファンデーションに大学の相当実績のある先生たちが、3、4年行き、NSFの研究計画を立てて予算配分も考えてマネージメントしている。アメリカは、その仕事をして大学に戻ってまた別の立場で研究を始めるというシステムができているが、日本は外に出ると研究室がなくなって自分の先のことが心配である。このようなシステムも多分影響しているのではないかと考える。
   
   アメリカの場合は例えばエネルギー省のゲノムの一番の責任者は今U・C・サンディエゴの教授に戻っており、そういう意味では両方が行ったり来たりしているから、御指摘の点はある。
   
   ありがとうございました。
     産学官連携あるいは中小企業・ベンチャーの活用では、パートナーをどうやって見つけるのかということが、広く現実的、具体的であるが、実はやはり一番大事な部分である。これはかなりシステム化しないといけないことだと思う。特に今回のプロジェクト全体を成功に導くうえではパートナー探しというのは非常に大事ではないかと思う。
   
   十数年前には大学とか国立研究所に工作部があり、いろいろな新しいアイデアからプロトタイプにしていくときに非常に有効に利用できた。それがそういうものは必要ないということでこの十数年の間にほとんど完全になくなってしまったという事実がある。計測分析機器に限って話をしているわけだが、プロトタイプにしようとすると今や企業と組むほかないという状況である。
     企業に話を持っていくと、企業の側でもそのアイデアが非常に面白いということはよく理解され、私たちがパートナーを探すことはそれほど苦労はしないが、企業の側はなかなか動いてくれない。その理由としては市場が読めない、うまくいったときにどれだけ売れるかということが読めないということが1つにある。
     それから、数人の人材を充当しなければならないけれどもそれがなかなかできない。さらに、いろいろな開発費用もかかるということで、問題は公的機関が企業に積極的にその他の資金援助ができるかというところも一つのポイントではないかと思っている。これが法的にどういうふうになるのかわからないのだけれども、官で持っている予算を企業にある程度渡して、それをヘルプするということができれば非常に物事がうまく進むのではないかということを感じている。
     人材育成とも関係があるが、日本には非常にいい技術があるけれども、例えばそれがバイオに非常に有効に利用できるが、そこになかなか気がつかないというようなことが多々あると思う。これは一つは日本の教育システムとも関係があり、日本の教育というのは非常に縦割りになっており、学生の教育内容は非常に狭いということがある。例えば材料はわかるけれどデバイスはわからない。デバイスはわかるけれどもシステムみたいなことはよくわからない。物理もわからない。物理はわかるけれどもデバイスがわからない。そういう学生を育てているような感じがする。このプロジェクトも人材育成ということを掲げているのでもう少し幅の広い教育をこれからしていかないといけないのではないかと思う。
     大学の先生が教育をしなくなったということをいわれている。大学の先生というのは研究に一生懸命であるけれども教育というのはなかなかできないということがある。その原因の1つは先生方に時間がないという現実的な問題がある。これはユニットをどんどん小さくしていったことによって、若い人の能力を大いに発揮させるという面はもちろんあるのだが、ユニットが小さくなってしまったために余裕がなくなっているということがある。
     装置開発というのは人材育成と似たところがあり、ゼロから時間をかけて育てていくということが大事なのだけれども、そういう余裕がなくなって目先の技術だけで論文を書いて成果を上げるというようなことが大学の中に蔓延している。これは評価とも関係があると思うので、今回のプロジェクトでも評価のときには気をつけたほうがいいのではないかということを思っている。
   
   日本の企業と一緒に開発しているときちっとしたものをつくろうとするためか、なかなかプロトタイプが出てこない。その点について、企業としてどの辺りでプロトタイプを出すのか、あるいは、あまり変なプロトタイプを出すことはできないというような、そのあたりのカルチャーというようなものがあれば、できたら聞かせていただきたい。
   
   今のご質問に直接お答えしていないのではないかと思うけれども、関連して言える経験を少し話させていただこうと思う。
     あるアイデアである装置をつくった時に、原型は企業に作ってもらい、それをもとに自分の大学の工作室でいくつか細かいところは直接改良して、データを出した。そのようなデータが出てくると、今度はユーザーが目をつけて、その後、その装置が数十台売れているという状況になったということがある。
     私はこの経験から大学に工作室、そういうものは残さないといけないのではないかと言う発言をさせていただいた。
     私どもの先輩がそういう方式でいろいろ、例えば電子顕微鏡など、日本の地位を築き上げてきたのではないかと思う。やはりこのような仕組みをもう一度考えていただきたい。
   
   プロトタイプを持って行った場合にどこがどういうふうに最終的な責任、リスクを負うのかという問題がある。大学の先生と企業の信頼関係があれば成り立つことだが、どこまで信頼関係が成り立つかというところがプロトタイプをなかなか出せないという原因の1つにある。
     リスクも2つあって開発のときのリスクはその仕様が出るか出ないかということなのだが、実際に市場に出すときにはむしろ仕様が出るか出ないかよりも、安定に稼働するかということと安定に供給できるか、この2つのリスクが大きい。その2つを満たそうとするとプロトタイプから装置を供給をするまでの溝というか、そこに非常に時間がかかるというか、慎重になるというような形になると思う。
     安定供給という面では、例えばレーザーや高周波のパルス電源というような技術については日本は弱い。それを使おうとすると、海外のものを使わなければならず安定供給は非常に難しい。
     あとの稼働の話は、今装置に暗黙のうちに皆が認めているということはいつも動くということである。昔だと装置が動かなければ直す、あるいはある程度稼働しなくても何とかするというところがあったが、現在は、そこが許されない。その辺のところが前との違いである。
     大学と一緒につくれるのかという点については、できる可能性はあると思う。しかし、実際につくった経験が先生方のほうにもある程度ないと、コミュニケーションなどの点で、一緒にやるということがなかなか成り立たないように思う。
   
   バイオ系で報告書に書いてある機器はかなりレーザーを使うのが多かったのではないかと思うのだが、以前の検討会で、日本に入ってくるレーザーはほとんどだめなやつが入ってくるという話があった。日本の弱い面をどうしたらいいのか、このプロジェクトを進めていくうえでどういう提案を採択するか、多分その辺で問題になってくると思う。
     産学のうまい組み合わせ、信頼関係が一番重要であって、大学の先生と企業が本当に信頼し合わないとろくなことにならない。
     ヨーロッパに私はいたが、必ず研究所の下には工作室があって本当に何でもつくってくれた。それ以前に私も学生のころは自分でものをつくらないとだめだった。今は全部キット化されていてボタンを押すだけということだから、そういう人が機械をつくるためには結局仲介の人が必要であり、そのような人をしっかりそろえたチームを見ないといけないということになるだろう。
   
   今の若い人たちは、ある意味でブラックボックスの機械を使って、中身もどんな原理で計測しているかもわからないまま使っている。そうすると相手の組んだソフトでしか結果は出てこないわけだから、相手を越えるような研究ができるはずがない。
     工作室に入って自分で機械づくりをしていた人間がいる間に、工作室を戻すことをするべきだと考えている。もし大学の中にできないのであれば、各大学は独立行政法人化するのだから、中小企業の中でそういうことができる企業を抱えるようなことをしてもよいと思う。
   
   貴重な機会なので、特に外国のベンチャーに造詣の深い先生に私の理解が正しいかどうかということをお聞きしたい。
     外国の場合に公募というのは日本の公募と異なり、しかるべき機関が大きい目標を立て、それに対して公募が出る。その時に、受けた企業の資本金がある程度以上であれば資本金がこれ以下のいわゆるベンチャー、中堅・中小企業はたしか2割か3割だと思うが、それを必ず入れて総合的な実施計画を出させる。
     日本の公募の悪い点は戦略がなくて、皆さんにいい案を出しなさいというようにすると、自分の分野だけの小さな提案となる。こうではなくもっとスケールの大きな戦略を立てていただきたい。それが立てられると、先ほどのように中堅・中小企業も入って、要素技術を担当しながら展開することもできるだろう。
     私が知っている限りでは、クリス・アンダーセンがSIMSをつくったとき、アポロ計画の資金を受けて彼は2台つくっている。1台は国の研究機関に行き、クリス・アンダーセンのところにはまだ1台ある。それで委託研究を受けながら、その装置を改良しながら結局ベストセラーに持っていった。
     2度目も同じことで、ドリュー・エバンスというのが1978年にTOF/SIMSというのをつくり、1台は国防省に入っているはずで、もう1台はエバンスアソシエイト社でちゃんと働いている。それを改良しながら装置を立ち上げて、製品にしている。
     田中耕一さんのお話を聞くとタイムオブフライトのアイデアは日本が最初に出している。ドリュー・エバンスのところで出たのはそれから後である。そうすると、何が欠けていたかというと国家戦略が欠けていたことである。
     日本では、ベンチャーをやれやれと言っているが、自分たちのリスクでベンチャーをつくり、失敗したら社会生命まで絶たれてしまう場合もある。アメリカでは投資組合がちゃんとそれに投資するから、それに責任を持つ。そういう制度も全然なくて、まして国家戦略もない。公的資金で仕事をして、1台は例えば理研か遺伝研に入れ、もう1台は自分の手元において、それを改良しながら次のところに売り込みながら技術を出していくようにしてはどうか。
     また、日本には司令塔がない。ベンチャーにこんなすばらしい技術があって、こういう目標に対してこういう人とこういう人が組んでやったらすばらしい仕事ができるということを導く名伯楽がいないから、新しい技術が出てこないと私は認識している。
   
   国産の件について、例えばイニシャルの設備費が5億とか6億かかる時に、それに対してさし当たっての需要が10億しかないとすると、これを我々の企業サイズでやれるかどうか。償却分をカバーしていただければ、それに対する研究開発への対応というのは民間の我々でもできるが、この償却までを我々の規模でやるというのは、ほぼ不可能に近い。決してやる気がないのではなくて、この償却分を何とかしていただければ、我々としては国産の技術あるいは我々のグループ企業で世界で競争力のあるものを立ち上げていくことに対して躊躇しているわけではない。ただし、企業が危うくなるような投資をしてまで開発するということは許されないことだと考えている。
     私の父のころというのは大学と共同で研究されたものがほとんど製品化されて、その分日本は結構強かったと思う。その後、海外の大学と共同研究したことは私のときかなり多く、意外と日本がよくなかった。最近は共同研究が非常に多くなってきたが、ある時期、大学、研究機関において、民間とともにものを立ち上げていこうという意思が非常に欠けていた時期があって、それが今のハンディキャップになっているのではないかと思う。もう一度そういう面で日本の大学と対応していくことが大事だと思う。
   
   償却が税法上は6年ということになっていても、実際に最先端の分野だと全然6年ももたないということが多々ある。特に半導体関係などは、いいところ2、3年で償却しないといけないのに、実は6年間償却する。そういう意味で今の我々の置かれている税制の環境がちょっと違うというか、最先端のことをやるには不適当ではないかと思う。
   
   先ほどのクリス・アンダーセンやドリュー・エバンスの例ですけれが、どういう契約で研究費が渡り、かつ製品が納入されているのか。
   
   ドリュー・エバンスがエバンス・アソシエイトをつくったとき3年間のバジェットをとったので会社をつくるぞと言っていた。クリス・アンダーセンの場合もエアレールという小さな会社でアプライして予算をとってきて機械を作った。
     その後何をやったかというと国家プロジェクトの力を借りて、次の大きなステップアップを行っている。このような点を見ると、しっかりした戦略目標、21世紀を見据えて一体どんな先端機器が必要なのかということを英知を集めて考えなければいけないだろうと考える。
     従来の機器を改良するというのではなくて、最高の機器を開発してほしいということがあったが、何かそういう夢を一つ掲げて、それに対して中堅・中小企業の持っている力も大企業の技術もうまく融合した形でそれを掲げていく。そのときに公募という制度は非常にフェアで大事だろうと思うけれども、戦略目標のない公募のシステムというのは日本の一番いけないところだ。
     2台つくってほしいと私は思っている。1台は国研に入れて、メーカーに1台あればそれを改良して、国研で動かなければここをこうすればこんなデータが出るというようなサポートができる。そこら辺をアメリカから学ぶところは学び、それから日本のいい力を結集していくべきと考える。
   
   日本の研究資金の弾力的運用ということが必要である。日本の研究資金は、原価主義で機械だけでの値段しかつけない。開発資金がない。人にお金が使えない。アメリカでは外国からポスドクをいくらでも呼ぶことができる。
     例えばこの機械の製作だとおそらく1億円かかるだろうというところにプラスアルファで2倍つけるか3倍つけるか。例えば5億円ポンと出す。もちろん目標を決めて、そのぐらいのリスクコストといいうか、製作の開発コストをつけていかないとおそらく新しいものは出てこないだろうと思う。
   
   中小企業、ベンチャーの底力の活用ということに関してずいぶんいろいろな提案、質問があった。資金的な調達、契約、そういう問題がいろいろあるという話があって、これからがどうやって解決するかが問題であり、なかなか難しい面がたくさんあろうかと思う。
     産学協力に関してもプラスアルファの開発費をどうやって予算に乗せるかということ、これもお金の話だけれども、実際大きな効果というか、それがあるとないと大違いということはあると思う。
     いろいろなご経験をお持ちの方が委員の中におられ、どういうふうに形にすればいいかというのが問題点であるが、その枠組みを整理していかなければいけない。要するに産学協力の障害は何か、あるいは促進策は何かという問題。それから中小企業・ベンチャーの力を有効に生かすためにはどういう仕組みが必要か。どこにどういう技能の持ち主がいるかということをどうやって我々は知ることができるのか。単純な公募でそれがちゃんと上がってくるのか。そういういろいろな問題点があるかと思うが、委員会の中としてはもうひと頑張りして仕組みを形にしないといけないということがある。
     今日は貴重なマテリアルをたくさんいただいた。その中にいろいろなキーワードが含まれている。これをもう一度委員会として整理させていただき、例えば公募要領にどういう形で盛り込めば今日ゲストの委員の皆様方がご指摘のことが実現できるかというようなことを考えていかなければならない。
     いずれにしても今までのやり方ではなく、それを越えた新しいやり方を考えないといけないというのが皆さんの共通のご意見であるので、そういう方向に次回あるいはその次の会の議論に向けていきたいと考えている。
      本日はどうもありがとうございました。特に5人の先生方、本当にありがとうございました。心から御礼申し上げます。


(研究振興局 研究環境・産業連携課)

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