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先端計測分析技術・機器開発に関する検討会

2003年6月27日
第2回先端計測分析技術・機器開発に関する検討会   議事概要

第2回先端計測分析技術・機器開発に関する検討会   議事概要

 

1. 日   時   平成15年6月27日(金)   10:00〜12:00
2. 場   所   文部科学省別館第5・第6会議室
3. 出席者
(委   員) 二瓶、石田、小島、小原、志水、田中、原口、廣川各委員
(有識者) 慶應義塾大学   医学部・生理学教室   教授   岡野栄之氏
(株)日立製作所   中央研究所   ライフサイエンス研究センタ長   坂入実氏
大阪大学大学院   生命機能研究科   教授   難波啓一氏
理化学研究所脳科学総合研究センター   チームリーダー   宮脇敦史氏
(事務局) 丸山研究振興局審議官、坂田大臣官房審議官、川上基礎基盤研究課長、戸谷ライフサイエンス課長、田中研究環境・産業連携課長、杉江研究環境・産業連携課専門官
4. 議   題
(1) 第1回検討会において出された意見の整理
    資料2に基づき、事務局より説明。

(2) ライフサイエンス分野における今後の研究課題と先端計測分析技術・機器開発に関するニーズについてのプレゼンテーション

(◎:主査、○:委員等、△:事務局の発言)

   プレゼンテーション及び議事内容
   ライフサイエンス分野は海外に先端機器で完全にリードされているが、国産技術を確立するために、力を入れる最も重要な分野である。その理由としては、この成果が今後、人々の生活に直接的に大きく関わってくる点にある。さらに、医療、診断、創薬、健康、食品、エネルギー、材料、環境というような多くの産業に直接的、間接的に関わってくる重要な分野である。
       ライフサイエンスにおける研究分野と分析対象を整理すると、ゲノムに始まり、プロテオーム、グライコーム、メタボロームと進んでいく。
       ゲノム解析では、生物学的解釈に向けて更なるゲノム解析、そのための研究開発が必要である。プロテオーム解析を行う上でも、ボトムになるゲノムデータの充実が必要である。
       日本の強みの一つに糖鎖研究がある。糖鎖の解析に関して、日本が世界の半分を占めているといわれており、研究の中身、人材、データ、試薬の豊富さは世界をリードしている。しかし、糖鎖の解析技術はまだ十分整っておらず、ようやく日本の様々な拠点で取り組み始めているところである。この分野では、日本の技術を世界のデファクトスタンダードとすべく研究を進める必要がある。
       プロテオーム解析では、サンプルの前処理、分析機器、データ解析、さらに試薬、消耗品の開発などが必要になる。ハードウェアのみに注力するのでなく、アプリケーションを含めてシステム全体にわたって開発していく必要がある。
       装置の開発とともに、分析手法、解析手法の開発も必要である。例えばタンパク質の配列を決定するエドガー反応、DNAを増やすPCR法のような分析手法、解析手法の開発は必要である。
       アプリケーションの開発は非常に大切である。機器メーカーは研究者と一緒になって、いろいろな可能性をさらに追求する必要がある。
       質量分析装置についても、現在の装置はまだまだ改良する必要がある。高感度、高精度、高分解能が求められている。薬局に置けるような小型で低価格な装置が必要になると考えている。
       診断のための有用なマーカーの開発も必要である。
       先端機器開発の進め方については、未完成の時から研究者とメーカーが一緒になって製品を作り上げていくことが必要になる。チームワークを発揮して、研究に必要な装置を作り上げていくことで、新たな原理に基づく分析装置あるいは世界に先駆けた研究開発が出ると考えている。
       開発スピードを上げるということは重要である。開発途中の製品であっても、ユーザーのところに持ち込んで、秘密保持契約を結び、使用してもらう。ユーザーも研究に関する秘密を持っており、それをお互い出し合って、開発スピードを上げる。それがお互いを信頼することにもつながっている。
       具体的な中身としては、その製品がユーザーの目的の達成に役立つかどうか。その使い勝手が満足できるかを評価し、気づいた点をメーカーに提案するということである。
   使い物になるまで、研究者とメーカーが一緒になって取り組む。それが欠けていたらいつまでたっても日本の技術は世界を凌駕するものとならない。産学官の連携がこれまで以上に重要となると考えられる。
       新しいものを開発し、役立つものにしていくためとして、次の3つのキーワードを挙げる。
       1ゼロを1にする発見。(全く新しいことを生み出す力をつける)
       21を100、1000にする努力。(誰もが使えるように実用化する)
       3チームワーク。(日本のお家芸であるチームワークは非常に有効に働くはず)
 
   日本では前処理試薬の開発に評価が低いのが問題であると考えてきたが、この点を今後どう改善していけばよいだろうかと考えている。ターゲットとゴールを設定して研究開発を進めるということが必要ではないかと考えている。
 
   技術者が自ら発言することによって、自分のモチベーションも高めて、さらによいものを開発していく。自分が一体何を考えているかを人に説明していくということを訓練する必要があるのではないかと考えている。
       試薬については、ユーザーが何を求めているのか、自分から聞きに行くことが大事で、単に技術的に新しいアイデアがあったから開発したというものでは、いいものが生まれても結局使えないということになる。
 
   細胞が移植されたインビボでどんな振る舞いをするか、それを完全にコントロールできない限り、再生医療は安全な技術にならない。従って、いろいろな計測がリアルタイムでできることが非常に重要になる。
       蛍光タンパク質とセルソータという機械により、幹細胞を可視化し、生きたまま採取することができるようになったが、このセルソータという機械について国内メーカーが参入していない。複数の波長のレーザーと複数のマーカーを同時に使い、いろいろなパラメータを同時に計測できる装置の開発が期待される。
       1つ1つの幹細胞の振る舞いをどのように知るか、しかもリアルタイムで知るかということがニーズとしてある。幹細胞が未分化な状態で維持されるために、どのようなシグナル系が活性化することが必要か大分わかってきた。今後の幹細胞医療の一番の弱点はいかに腫瘍化と闘うかということにあり、個体レベルでこのシグナル系がどの程度、定量的にどこで活性化しているかということを分析する技術の開発が非常に重要だと考えている。
       生きた状態でのシグナルを可視化するレポーターの開発に成功し、それによる個体レベルの解析を進めている。今後、別のレポーター分子とそれに応じたレーザーの開発をハードウェアの開発とリンクさせながら進めていく必要があると考えている。
       個体レベルの可視化技術も非常に必要になる。移植された細胞がどこに分布して、どうなっているか。しかもリアルタイムで、しかも患者に対して低侵襲で測る技術は、今後臨床的にも重要になる。
       蛍光で可視化するナノビーズを取り込んだ細胞を移植し、MRIでどこまで分布したかということを、動物が生きた状態で計測できるようになりつつある。今後、テスラ数を上げて、さらに高感度に脳内で幹細胞がどこまで分布しているかということを明らかにしていきたい。ここで使用する動物用のMRIは日本のメーカーは作っていない。日本で作って、一緒に開発していきたいと考えている。
       幹細胞のシグナル系について、個体レベルで、動物丸ごと見たいという要望がある。
 
   蛍光タンパクという自分で発色団を形成して、蛍光を発するというタンパクを中心に技術開発を進めている。この蛍光タンパクと遺伝子工学的な手法を使うことによって、細胞内のいろいろな現象を可視化するための機能プログラムが作成でき、ポストゲノムの解析が非常に期待されている。
       350から400nmの紫外光でスペクトルが緑色から赤色に変化する蛍光タンパクを発見した。これを神経回路の研究に利用して、お互いに絡み合っている神経細胞の片方だけに照射して変色させることで、2つの細胞がどのように絡み合っているか見ることができる。
       顕微鏡の視野内の狙ったところの細胞の色を変えるために、自由自在なパターンで照明したいという要求が出てくる。そこで、マイクロミラーの素子を利用し、顕微鏡の照明光学系に入れてコンピュータで制御できるようにした。さらに、縞投影法という技術を組み合わせ、レーザー光を使わなくても細胞の断層像が取れる顕微鏡を開発した。
       ライフサイエンス分野の計測分析技術として提案したいことは、シングルセルレベルでの解析技術、つまり1個1個の細胞で勝負するということである。顕微鏡の視野内で、狙った細胞に遺伝子を導入したり、狙った細胞をイメージングすることである。さらに、解析した細胞を無傷で回収する技術、タンパク質を構造的にラベルする技術の開発が期待される。
 
   無傷で細胞を回収する技術について非常に期待している。
 
   医療を含め研究用のレーザーを搭載した機器は外国製である。ほとんどがガスレーザーで海外製品であるが、良品のレーザーが日本に入ってこないため研究現場で大きな障害がでている。
       日本は半導体レーザーで強い。しかし、実現しているレーザーは波長が630nmからいきなり405nmまで飛んでしまい、その間の部分の可視光半導体レーザーが抜けている状態であり、この部分の開発を期待している。
 
   個体の非常に高次な機能を支えているのは、タンパク質、DNA、RNAというような分子が原子1個1個を部品として、オングストロームレベルでスイッチ機能、信号伝達機能、エネルギー変換機能を実現しており、これらが集まって超分子となり、細胞小器官となり、細胞となり個体として働いている。基本的にいろいろな階層の中で全ての立体構造を時間を追って解析しないといけない。
       例えば細胞の中で数万種のタンパク質がいろいろな形で存在しながら信号伝達、エネルギー変換をする。それがただどこに何があるかというだけでなく、分子レベルで立体構造を見ながら、1分子の動きやその1分子の動きがどのような力を出しているかということを解析すること、そして、非常に高分解能で分子の形、分子の形の変化までを見ることが重要である。
       光を使ったイメージングにより、タンパク質1分子レベルの反応を細胞内で観察できるようになってきた。これを研究の現場あるいは医療の現場で役立つような装置にしていくことが大事になってきた。
       生体内では、タンパク質が相互作用しながら組み合わさり複雑な機械装置を作っている。DNA情報からできあがったタンパク質が自分で相手を見つけて自動的に組み上がっていく自己組織化という能力がある。タンパク質の自己組織化能力というのは非常に確立された立体構造形成の能力であるため、これを使って将来のナノデバイスの構築が可能になるかも知れないという夢を抱かされる。
       細胞の微細構造の素過程を見る計測機として、現状は時間分解能1ミリ秒、空間分解能1nm位あるが、もう1桁くらい高い分解能が欲しい。このときに必要となるものは、明るく寿命の長い蛍光プローブ、明るい照明、波長の可変なレーザー、そして工学系の工夫である。
       超分子の構造解析は、結晶化が難しいため現在でもかなり困難である。結晶化しにくい部分を除きタンパク質を結晶化してX線等で分析することができるが、全体構造を見ることができない。電子顕微鏡技術を用いることにより、結晶化せずに立体構造の解析がかなりできるようになった。電子顕微鏡の分解能は元々非常に高く、原子1個1個を見ることができるが、コントラストとS/N比が悪いためにうまく解析できなかった。たくさんの画像を集めることにより、電子顕微鏡でタンパク質中のアミノ酸の主鎖や側鎖が見えるところまできた。
       電子顕微鏡の良いのは、タンパク質が働いている現場で、タンパク質がどのように配置して、どのように働き、どのように構造変化するかということが原理的には見えるということである。トモグラフィーという方法論の分解能も上がってきたので、電子顕微鏡装置あるいはその解析法の工夫を進めれば、複雑系の立体構造が原子レベルで解析できるようになると考えられる。
       現在最も困っているのは、電子線に対する二次元ディテクタがないことである。高分解能の仕事はフィルムで1枚1枚撮っているため効率が悪い。画素サイズ5μm、1億画素を5秒程度でデータ取り込みができるCCDが欲しい。
       機器開発においては、ユーザーと装置メーカーが一緒になって開発しなければいけない。ハードウェアとしてどれだけ優れた装置ができても、ユーザーが本当に必要な部分の工夫がうまく取り込めていなければ使い物にならない。
       予算措置の柔軟性は必要である。プロジェクトに応じた予算措置をして欲しい。
 
   一分子研究が先に進んだときに、世の中にどういうように役立ち、世の中がどのように変わるのか。
 
   細胞内の1分子1分子は重要な役割を果たしており、1分子1分子がどのタイミングで、どの分子と相互作用しているかというようなことを解析することで、細胞をシステムとして構築することができるようになる。これを計算機でシミュレーションして、どういうことが起これば何が起こるか、この薬を投与すればこの分子がどのようにして信号を伝え、どのように作用するかということの情報を得ることができるようになる。
       遺伝子1個が壊れて起こる病気というのは本当は少ない。複合的な原因で起こる病気がたくさんある。このようなものはタンパク質間の相互作用をしっかり把握しないと分からない。治療する薬もそのような知識をベースにしていないとできない。
 
   生命科学の進歩にともない、究極的には生きた状態の細胞の中で1個1個の分子レベルのインターラクションがどうなっているかという理解が必要である。
       応用ということはもちろん大事であるが、応用ということを全面に出しすぎると、非常に大きなブレークスルーはなかなか生まれてこない。
 
   昭和40年から50年代は線形モデルというもので機器開発をしてきた。当時はそれで開発が十分間に合った時代であった。
       現在は連鎖モデルで開発が行われている。これは、研究科学の知識というものを外に求めながら連携し、いろいろなところにフィードバックをかけながら開発を進める。いろいろな意味で連携、フィードバックが続き開発が複雑化している。
       オープンMRI開発の例では、非常に重要であったことはマーケティングであった。マーケティングをきちんとして、どのようなトレンドが出てくるかを明確に察知した上で開発に取り組む必要がある。
       蛍光物質のような基盤は非常に重要で、国内のいくつかの研究機関で養い続けていくことが重要である。
       差別化アプリケーションという面では日本は大変弱いと思う。通常の使い方しか想定せずにその装置の性能評価をしている。同じ装置を使って全く別の差別化するようなアプリケーション開発を実践していくことは非常に重要である。
 
   MRIで撮影しながら細胞移植ができるシステムは非常に大事であるし、トレーサーと組み合わせたようなオープンMRIの開発について、本当に期待している。
 
   研究現場のニーズから開発すべき対象を定めていくことが基本とありましたが、もう少し逆のアプローチもあって良いのではないかと思う。日本のいろいろな企業を眺めると、すごくおもしろい要素技術はたくさんあるので、それをいかに生かしていくかという逆の方向からのシステムがあればもっと良くなるであろう。
       3〜5年で実用化ということも、もう少し長くとって10年、20年というものもあって良いのではないかと考えた。
 
   計測分析技術・機器の進むべき方向は分解能、すなわち空間分解能、時間分解能の向上であり、しかも生きている状態で、細胞の中、あるいは個体のそれぞれのレベルで測定し、細胞がどういう機能をして、我々が生きているのかということを明らかにしていくことである。
       タンパク質以外の素材で、つまりナノテク関係の素材で蛍光マーカーとして使えるものの開発が期待される。検出器は光学顕微鏡を使わざるを得ないけれど、その時間分解と空間分解能をどのレベルまで上げられるかということが課題である。
       細胞レベルで1分子を見ることは、近接場光でかなりターゲットに入ってきている。
       脳の高次機能の分野では、生きた状態で脳の中の神経細胞1個1個を見たいと思う。空間分解能をあげて、どこの細胞が活動しているかをビジュアライズする。深さがあるので、光が通過しなければならず、ツーフォトンとの組み合わせなどがターゲットになるであろう。
       個体レベルの解析では、実験動物レベルの解析装置が必要である。マウスが解析できればかなり人間に直結でき、世界的にも最先端になりうると考える。
       企業と大学の間で、秘密保持などの契約がしっかりできるシステムを作らなくてはいけない。


(研究振興局 研究環境・産業連携課)

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