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研究開発成果の取扱いに関する検討会

2002/03/04議事録

研究開発成果の取扱いに関する検討会(第3回)議事録


研究開発成果の取扱いに関する検討会(第3回)議事録


1. 日  時  平成14年3月4日(月)    17:00〜19:00
2. 場 所  文部科学省別館大会議室
3. 出席者
 
(メンバー) 小原、牧野、井邊、斎藤、隅藏、長井、羽鳥、馬場、平井、藤川、森下、山地、各メンバー
(事務局) 遠藤研究振興局長、山元科学技術・学術政策局長、井上科学技術・学術政策局次長、坂田研究振興局審議官、磯田政策課長、田中ライフサイエンス課長、加藤研究環境・産業連携課長、磯谷技術移転推進室長
4. 議  題
 
(1) 検討会メンバー等による研究開発成果の取扱いに関するプレゼンテーション
    
  以下の検討会メンバー等から研究開発成果の取扱いに関するプレゼンテーションが行われ、その後自由討議を行った。
   
 
・レックスウェル法律特許事務所      平井弁護士・弁理士
・独立行政法人物質・材料研究機構   植田研究業務部長
・国立遺伝学研究所   城石教授
・科学ジャーナリスト   馬場委員
   
            自由討議の内容は以下のとおり。
   
  (○・・・メンバー、△・・・事務局の発言)
   
 
  法律的な解釈を教えていただきたい。いわゆる海外からのMTAや企業から研究試料をもらった場合、それによって出てきた研究成果は相手側に帰属するとMTAに書いてある。その場合に、それを用いて職務上発明した研究の成果物について、今後、大学の帰属になるとした場合に、大学に対しての我々の義務と、相手方からMTAで縛られている義務と2つ出てくる。この場合、どちらが優先されるのか。

  まず、例えば外国の大学の所有物であるマテリアルを国内の大学の研究者が譲り受けた場合、これを仮にXという物体、物品だとすると、このXの物品の所有権というのは紛れもなく外国の大学のものとなる。したがって、この段階では国内の大学には所有権は帰属しないと思われる。そういうふうに通常、MTAにも書いてある。ここから先はいろいろなバリエーションがあると思うが、例えば、Xを使ってYというものをつくった場合。研究の一環として、Xと全く関係ないYという物品を創り出したケースであれば、Yについては当該大学なり独法のルールが当てはまる。そこでこうしたマテリアルについては機関有だという規定があれば、当然、Yの所有権は機関帰属となる。あるいは教官有となると書いてあれば、教官有になる。
  問題は、例えばX’というのができて、Xのデリバティブ、若干の改変を加えたような場合にどうなるかというと、まず、これは外国の大学の当該MTAにどう書いてあるかがまず問題となる。よくあるのは、その物については所有権を主張するけれども、それから先つくられたものについては、うちは関与しませんというのが割と多い。ただ、第三者に勝手に譲渡しないとか、商業目的に使う場合にはライセンスの申し出をするというようなことはよく書いてある。だが、改変自体を禁ずるとか、改変したものについて特許権を行使するというのは割と少ない。だから、そこでおそらく改変物質のX’について、外国の大学の権利、主張というのは切れるケースが多いと思う。それでは切れた後で、そのX’についてどこが所有権を主張するかとなると、これはそのX’を創出した機関、例えば日本の大学のルールによるところとなる。通常はおそらく機関帰属になると思うので、日本の大学がX’についても所有権を取得するということが多いのではないか。

  物質の場合はそれでわかるのだが、我々がよく関わっているのは、いわゆる用途特許が多い。例えば、あるXという遺伝子の機能は既に特許が取得されており、それに対して別の機能を見い出した場合、例えばその遺伝子の治療法とかを特許に出していくが、この場合に遺伝子を提供した方は、提供遺伝子を利用した治療法の特許は自分たちのものだと思っている。特に最近は企業が遺伝子をつくっているケースが多いので、企業サイドからすると、自分たちのものだと考えているケースが非常に多いと思う。こうしたケースで、果たしてこちら側の判断で処分できるのかどうかというのが問題となる。今までは教官個人の発明は、企業を通じて出願するケースが多い。大学等の機関帰属になった場合、そこからTLOを経由して、別の企業にライセンスされるケースも想定される。そうした場合、企業サイドとしては元の遺伝子を提出しない方向も出てくるのでは。遺伝子の場合、いろいろな特許がこれから取得されていく。また、一般の物質と違ってX’というのがかなり元のXと密接に関連したX’だと思う。その辺の法律的な判断はどうなるのか。

  そこは特許法の問題。つまり、最初のXというのが物質特許であって、これに存在する新たな機能、有用性を発見した、用途を発見したということになれば、これは用途特許として別途特許の取得が可能だが、ただ、物質特許そのものを押さえている場合、あるケースでは利用関係みたいなものが物質特許の範囲に入ってくる場合もある。だから、双方の特許をよく見ないと、その辺の関係については何とも言えない。ただ、例えば最初のアメリカとか外国の大学の特許がAという用途に関する特許で、それを使って日本でBという用途の特許を見つけた。これは完全に別なので、Bという用途を自由に使える。だから、そこはもう特許法の世界で、最初の特許がどうなっているのか、次の特許はどうなっているのか、利用関係にあるのかないのかというところが問題になると考えられる。

  この資料で「知的財産に関するものであり物品ではない、という前提が満たされる必要があるであろう。動産としての価値が限りなく低く、知的財産としてみることが相当であるような場合」と言われているこの知的財産というのは、発明とかそういうものというふうに理解していいか。

  そのとおり。ここは、文部省通達がカバーするところの発明と考えている。

  大学等でMTAを交わしている例はほとんどないとのことだが、前回やったシンプル・レター・アグリーメントに若干の変更を加えたようなものであれば、あとの発表の際にも話しがあると思うが、結構交わしていると思う。第三者に渡すな、商業化の際は相談しろ、発表の際は出所を明らかにしろとか、その程度のことはきっとMTAに書いていると思うが、こうしたMTAのとり交わし状況でどういう問題が生じるのか。

  ここでほとんどないといったのは、大学の事務局が大学の名前でサインした研究者の有する動産に関するトランスファーについてだ。このポリシーの最大のポイントは、要するに事務方に負担をかけないためにどうしたらいいかというところ。つまり、MTAというのは、機関が関与したらば、年間1,000件、2,000件発生するかもしれない。これに1つ1つ事務方の方が関与していたら、事務方はパンクする。事務方がパンクせず、かつ、管理は記録上わかるというような線をどうやって探すかというのが趣旨だ。

  大学において、今、研究成果物をどう扱っているかというのを関係部局とも相談しながら確認したところ、二、三の大学に聞いたところでは、物品、あるいは消耗品として扱っているということで、事務局としては、先生方が自由に交換することを前提に、事務的にタッチしていないという回答だった。
  それから、物品、あるいは消耗品をどういうふうに区別しているかというのについては、各大学ごとの事務方で、ある程度の判断で決めている。例えば、ある大学では3万円以上のものについては物品にして、それ以下は消耗品というような判断をしている。具体的にはマウスは消耗品扱いとか、牛のようなものは物品として帳簿に登録して扱っている。こうした大学の事務局の扱いは部分的にはわかっているが、事務局のほうでももう少し調査してみたいと思っている。

  サインする人、契約書に名前を書く方はだれでもいいのか。それとも機関の長とか、研究ユニットの長とか定まっているのか。

  特にサイン、署名者の規定はないので、おそらく運用としては、所長の許可を得て担当の研究者が署名をしていたと思う。

  研究試料で、有償で対価を得て相手に提供するケースがあるが、その場合にそこで発生した特許について、我が方が権利を主張できるかということに関して、我が方はケース・バイ・ケースで、特に評価系についてはおそらく主張しない、これに対して生成系については主張することがあるなと思っており、ケース・バイ・ケースで対応することとなると考えている。この辺りのところはどうか。

  まだ、その段階まで検討はしていない。従来、試料を提供し、相手側が論文を書く場合には共著論文にする。共著論文にすれば特許権も主張できるだろうということで、特に成果の帰属をケースごとに定めるところまで考えていなかったようだ。

  資料の中で定義として、「必要限度「特定づけ」され」と書いてあるが、この「特定づけ」というところをご説明いただきたい。

  「特定づけ」について、どういう意味であるのかというのは詳しく承知していない。いろいろなセラミックの新しい材料であれば、新しい特性とか、物性を持ったものがある。今までの試料とは違う、明白な特性、物性を持った材料として従来の試料と区分される、という意味かと思う。詳細は承知していないので確かなことは言えない。

  資料の最後の許可の部分で、外国の場合は所内会議の許可を得るというのは、これはすごく物々しい感じがする。外国を分けるというのはどういう理屈なのか。

  詳しく承知していない。

  サインする人が個人ではないということを強調されていたような気がするが、それは帰属が組織のところにあるというように理解してよいのか。

  基本的に、アメリカとかヨーロッパのMTAのフォーマットのことを主に話をした。その背景にはやはり、アメリカとかヨーロッパでは、要するに所有権、こういう研究成果物に関する所有権というのは基本的には機関に帰属させるというのが習慣になっている点があげられる。そのほうが、実際にライセンシングして、世の中に広めて自由に使おうというときには、むしろ機関帰属のほうがフリーに使えるというような意識がかなり固まっているということと思う。基本的にはそういうバックグラウンドがあることによって、署名者、つまり、契約当事者というのはRepresentative of Organizationとなっている。それもオーソライズされたRepresentative of Organizationだ。これはおそらく当面は、もう動かないことと思う。

  この点に関して、今のところ大学はオーガニゼーションとしての独立した法人格がない。我々は、そういうシステムがないので、個人でしかサインできないと返答すると、それでは、個人でもいいということで先方はTLOと相談して、また別の契約書を送ってくる。米国のMTAは基本的にはバイ・ドール法のもとで機能している。だから、必ずしも個人ではだめというわけではなくて、個人で正式にサインができるのであれば、それでもいいというのが一応米国のスタンスのようだ。大学の場合は、今はAuthorized Representativeは、ほとんど学長になるから、それはもらえないので、我々個人でやるしか手がない。それでも構わないかというと、大体アメリカの場合、それで通用する。ただし、その場合は、契約書としてはオーガニゼーション代表じゃなくて、個人の研究者の名前で取り交わす。その際は、個人名でいいかというのを向こうで一度相談してからまた送り返すというケースが多い。

  ただ、そのときにバイオレーションが起こったときの対処がきついのでは。

  訴えられる立場としては公務員として訴えられますから、プレジデントであろうが、一アソシエートであろうと、それは一緒では。

  私のコメントですが、最後に話があったように、アメリカは画一的なやり方ではなくて、今いろいろ複雑な動きをしているというところ、これは非常に大事だと思う。確かに機関有とか、UBMTAを使うとか、そういうのは確かにある。今の段階のレベルで言うと、例えばある大学はもう機関有ではなくて一部特許、あるいはマテリアルについても研究者に開放しようとする動きがある。つまり、大学がハンドリングできる、例えば10%なら10%は大学がハンドリングするが、90%は研究者が自由に使ってくださいというような開放的な政策をとっているところもあるし、同時に契約書も、ご指摘があったようなUBMTAは、あれはもう厚くて使えないので、実際やめようとする動きもある。また、使えるんだったら、Simple Letter Agreementだけにしようという動きもある。だから、決して厚い契約書を使うことを推奨しているわけでもないし、ガチガチの権利保護を推進しているわけでもないと思う。
  片や民間はどうしているかというと、民間はUBMTAの何倍も詳しい契約を使っているので、ライセンスやらテイスティングやら全部絡めて、非常に分厚い、20ページから30ページの契約書を使っている。結論として何を言いたいかというと、つまり、アメリカは機関有だから日本は機関有にしなければとか、アメリカはこういう詳細な契約を使っているから日本も同様にしなければとか、そういうあまり画一的な思考パターンはなるべく使わないで、なるべく現実を見極めた非常にフレキシブルな思考パターンを使ったほうがいいのではと思う。

  逆に言うと、アメリカ自体が一枚岩じゃなくて、いろいろフォーマットをつくっている。日本がそれをつくるという場合には、選択肢が非常に広がっているということなのかもしれない。それでは、そのときに何をベースに考えるかということは、すごく戦略的に考えていいと思う。日本という国が豊かになって、それが自分たちの研究費にもフィードバックするというようなシステムをつくるために何がベストかというのをかなり戦略的に考えるという状況だと思う。

  最後の、もしフリーに分け与えた場合、日本としてむしろ、これが精鋭化したときに対応策を講じていくというのは、具体的にどういうことか。例えばゲノム情報なんかも、欧米は24時間以内にリリースしろという動きがある。それ自体はいいんだけれども、逆に言えば、あれは彼らの自信のあらわれで、中国とかアジアでどんどんやっていくのもリリースしろということの裏返しかなというように思うが、そういう意味か。

  対抗措置というか、そのことをどう考えるかということは、研究開発力というか、解析力を研究者自身が高いレベルまで持っていくという以外に方法はないと思う。だから、中国やアジアの研究者にやめなさいというわけにいかないわけだから、日本研究者自身の研究能力を高める以外には、多分、最終的な解答はないと思う。ただ、それは簡単にはできない。

  最後のマウスの寄託事業とか、そういうことに関しては、今まさに文科省を中心に始めておりますので、これは状況としてはかなりよくなると思っている。これまでは先生が話されたように確かに寄託について困難な点があったが。

  実は私自身生活習慣病が本職なので、SHRという高血圧のネズミや先ほどの糖尿病のマウス、どちらもかなり研究している。一番最初に、ヒトゲノムの前にラットのゲノムとかマウスゲノムをやろうという話があった。そのときにアメリカで市場に出ている高血圧自然発症ネズミと最初に発見した日本の研究者のところで飼っているネズミが、既に遺伝的にかなり異なってきていた。一体どれが世界のスタンダードかというところでかなりの問題となった。それを確立するのに5年ぐらいかかり、最終的にはそれぞれが別々に確立した系統で、今、いろいろなラットのゲノムの中の高血圧の系統遺伝子を調べているが、依然として、ほんとうの高血圧の遺伝子というのは限定できていない。どうしてもネズミの系統がばらばらになってしまった関係で、本来の数よりも多い結果となっている。
  そういう意味でいけば、これはどうやって管理するかというのが非常に重要で、結局、アメリカの場合、NIHが全部持っているので、どうしてもそこがゴールデン・スタンダードになりやすい。もう一つ、実はMTAに名前を入れる入れないに絡むことだが、NIHから商業化でC社とか、O社に出ているものを買った場合は、当然、名前を入れなくてもいいわけだし、したがって、論文発表の際に、もとの研究者についても引用しないということになる。そのかわり、NIHが当然ライセンスのお金をもらっていると思う。研究者からすると実はこうしたケースのほうが使いやすい。特定の研究者からいただくと、自分で育てなきゃいけないので、大学にとっては負担が大きい。実験に入るまでに半年とか1年の期間がどうしてもかかってしまう。
  公的な機関とか、会社が販売しているものは使いやすいということで、そちらへ飛びつくと、結局、もとをだれが開発したかだれもわからなくなってしまった。NIHが出したというのはわかっているが、そのもとが日本から来ているということが忘失されている。逆に、日本で提供していれば、日本がオリジナルであるということがはっきりしたんじゃないかと思う。
  ただ、私が研究を始めたころには既に古典的な動物モデルで、今さらオリジナル、ほとんど若手の研究者は見たこともないぐらい偉い先生について、そこまでさかのぼって、リスペクトして論文に名前を入れ続けるというのは実はさらに難しいだろうと思う。特許と同じように20年ぐらいというふうに考えれば比較的いいと思うが、動物実験の場合、特許というのがない状態でMTAだけを50年も60年もと言われても、それは恐らく難しい。

  実はこういうケースはほとんど無数にあるのだろうと思う。幾つか私もほかにも聞いているが、今後こういうものをきちっと総括をした上で二度と失敗しないようにということが必要だと思う。

  これはマテリアルを扱うときに非常に難しい問題点だと思うが、特許で保護すべき発明とマテリアル・トランスファーの対象になるマテリアルはどう違うかということをきちんとしたほうがいいと思う。発明という段階に至れば、これは特許の対象になるので、アメリカ流に言えば、人の手を経たもの、太陽のもと人の手になるものというのは特許の可能性がある。日本法でも特許第2条に発明の定義がありますから、2条の定義に合致すれば、すべて一応発明として、もちろん特許要件はあるが、特許の取得は可能となる。
  ここに、今紹介があった例の中で、かなりの部分というのは実は特許で保護されるのではないかと思う。そうすると、恐らくこういった問題は皆さんに特許というものを非常に啓蒙して、特にアカデミアの先生方に特許というものを十分啓蒙して、発明が生まれたら必ず機関とか、あるいはTLOに届ける、皆さんでこれを特許化しようというような流れをつくっていくしか手はない。それでは、マテリアルの世界はどういう世界かというと、もちろん特許になったものも、これは実はマテリアルと十分言えるが、基本的に大事なのは、特許に至る前の世界、つまり、研究の過程でお互いに交換して研究を発展させることが非常に重要である。しかし、科学的に価値があるものについて、時には物品であり、時には情報であったりするが、そういったマテリアルというのをどういうように保護しようかというのは、これはまた発明に対するポリシーとはちょっと違った部分が出てくると思う。
  正直言って、そこはオーバーラップがある。オーバーラップがあるのだが、ただ、本拠地は違うということが言えるので、マテリアルの特性に則した議論をする必要があるのかなという気がする。ただ、もちろん特許の重要性というのは、私は否定する気は全くない。

  実際に私も取材をしていて感じるのは、先生が今話されたように、今日ここで紹介したものというのは、本来、大体特許の対象になるものと考える。今だからそういうことが言えるということもあるが、特許なのかマテリアルなのかというのは、あまり峻別して論議しないほうがいいだろうと私は思う。特に知的財産権というような大きな枠組みの中で、研究現場で常に考えるということが必要なのではないか。特に研究現場では、例えば特許の出願者と発明者というのはどういう権利を持つ人で、どういう位置づけだというのをよくわからないという研究者も大勢いるわけで、そういう人たちに広く教育する、認識させるというようなことが非常に重要ではないかということを感想として持った。

  現実的なことを考えたときに、特許を出して、それが実施されるかどうかというところを見極めるのはなかなか難しい。すべてのものに特許を出せれば、それは多分いいのだと思うが、そんなことをしていたら、多分、出願の費用と維持費でパンクしてしまう。そうすると、何が一番有効な手段かということも考えなくてはいけない。MTAは基本的にお金がかからない。ただし、問題は、MTAが法的にどこまで強いかという問題がはっきりわからない。だから、今日は実はその辺のところをお聞きしたいと思う。MTAがどこまで本当に頑張れるかという、金のかからないMTAでどこまで頑張れるかというところに関して、すべて特許で押さえるということは、これは現実的に不可能だと思う。それから、それがライセンシングされるかどうかを研究者のサイドで、そこをきちっと見通すことができるかどうかということ、これはかなり難しいと思う。MTAの強さというところが1つの焦点になってくると思う。

  今の質問だが、MTAというのは、これは契約なので、これにサインすれば、サインした当事者は100%責任を負う。そういう意味では、非常に強い効力を持っている。特許と違うのは、特許というのは対世効と言っていいのかについては議論があるが、要するに独占権として例えば日本国なら日本国内ですべてに効力が及ぶこととなる。ところが、契約というのは契約者当事者間、つまり、提供者と受領者との間での効力でしかないので、そういう意味では限定的ではある。ただ、その当事者間では、それは法的な約束だから、それに違反したならば損害賠償請求もあるし、場合によっては差し止めという問題も起こるかもしれない、非常に強い効力があるものである。
  だから、大事なことは、どんな1枚紙でもいい。大事なことが書いてあって、大事なことというのは4つか5つしかないので、それと受領者のサインが必ずあること。それがあれば、仮に提供者のサインがなくても、提供者の名前さえ書いてあって、受領者のサインがあればかなり強いことは言えるので、そういったものを常にトランスファーの場合には交わすということは、これは可能だし、かなりの力を持てる。

  今の問題に絡んでもう一つ。万が一、何か権利が出てきて、それで例えばほんとうに損害賠償を要求しようというときに、相手が、アメリカとかヨーロッパだと機関帰属という形が多いので、その点はいいが、受取人が個人だとすると、今の問題はすごく難しい問題が出てくる。個人が幾らでもお金を払えればいいが、通常はそのような余裕はないので損害賠償に応えられない。
  それからもう一つ、MTAが強いということで非常に心を強くしたが、先ほど話に出てきたように、アメリカなどはかなり、両方の見方もある。コミュニティの中でのある種の倫理の問題と公共性の問題と権利の保護という問題のバランスをどこまで持っていくか。もっと端的に言ってしまうと、マテリアルとしてのモディフィケーション(改変物質)が創出されたときにどこの範囲までそれは他人のものとするのか、あるいはどのラインまでだったら、リーチスルー・ライトを確保するのかというところの技術論的な問題をかなり詰めておくということは必要かなという気がする。かなり悩ましい問題だと思う。

  今ご指摘があったことは非常に難しいところ。損害賠償ということは、割とMTAを交わしている当事者は最初は考えない。つまり、これは違反されてもわからないなということは、ある意味感じつつ、しかし、強力な抑止力の1つとしてMTAを交わす。しかも、MTAに論文発表の際は出所を明らかにするとの条件を付与すれば、論文にもし出ることがあれば出所の証拠は担保される。仮にその論文にアクノリジメント(謝辞)がなければ、これは契約違反だということが明らかになる。また、承諾を得ないで商業的に使われている製品があれば、契約に違反があったこととなる。そういう意味で、損害賠償ももちろん大事だが、法的な抑止力を働かせるという意味で、まずMTAは非常に効果があるのではないか。アクノリジメントを入れるのは大事だと思う。
  それから、2番目にあったリーチスルーの話とか、モディフィケーションの話は、これは極めて難しくて、実は特許権の効力の範囲がどこまで及ぶかという議論に関係する。つまり、例えばスクリーニング方法とか、リサーチツールのようなクレームがあった場合、そうしたクレームが、それを使って得られた成果物について権利の効力が及ぶのかとか、といったことが大分議論された。結論から言うと、つい最近、日米欧の3局の特許庁のレポートが出ており、一応はリーチスルーのクレームは認めない方向で結論を得た。つまり、そういったスクリーニング方法みたいな特許を使用して得た成果物まで手を伸ばすことはやめる、というのが一応特許法のレベルではコンセンサスが出てきて、ところが、裁判所のレベルで言うとこれが若干おくれていて、日本ではまだリーチスルーに関する、そういった効力に関する判例はないと思う。アメリカで若干出たという話も聞いているが、おそらく基本的にはコントリビューション(貢献度)をどのぐらい認められるかなのだが、判定は難しいものがある。
  このように特許庁とか裁判所のレベルでもリーチスルーをどう扱うかというのは非常に難しく議論されているので、このような数ページのMTAでそこをがっちりガードするワーディングで、こういう場合のモディフィケーションには特許権が及んで、別のケースでは及ばないということを文言で定義するのは、これはほとんど神業に近いことになり、かなり難しいことだ。
  以上から、NIHのシンプルレターの例のように、ある程度の改変については提供人の権利から解放されると解釈するといった、比較的簡単なワーディングに現実にはならざるを得ない。そういう意味ではきちんとした答えを出すのは難しいが、結論的には、なるべくわかりやすい文言で書いて、ただ、きちんとそういうポリシーを明らかにしておく、つまり、オリジナルは黙って第三者に渡すなとか、もし商業的に使う場合には必ず事前に連絡する、協議の上ライセンスを付与するとか、そういう基本的なポリシーをまず押さえることが大事という気がする。

  細かい質問になるが、資料に「トレードシークレット」という言葉があるが、ここに書かれた趣旨をお伺いしたい。なぜかというと、去年起こった元理研の職員の例の事件で、あれは裁判がまだ行われているが、裁判の中での1つの論点は、盗まれたと称する物、あるいは物のつくり方といったものについて、一体何がトレードシークレットなのかというのが実は議論の対象となっている。ここで物質とか動物モデルはトレードシークレットに相当するものであると断定されているゆえんは何か。何か法的な意味合いがあるのか、国内法はどうか。

  ノウハウとかトレードシークレットという言葉の意味がまず必要だろうと思うが、ノウハウとかトレードシークレットについての意味というのは、書物を読んでもはっきりしたものは出てこない。ただし、特許などの知的財産権に相当して保護されるようなものとして、例えば企業内の秘密としてはよくある。よく引き合いに出されるのはコカ・コーラのつくり方だが、コカ・コーラのつくり方の手法は特許としては権利化されていない。あくまでコカ・コーラのつくり方はトレードシークレットとして確立されて持っているけれども、各国へ提供するのは原液としてそれを提供するだけであって、原液をつくるもの自体はトレードシークレットになっている。
  日本では不正競争防止法でトレードシークレット等、あるいは社員とかが外へ持ち出したりして広げた場合には、刑事罰の対象になるという法律がある。

  不正競争防止法の中で、物質とか動物モデルが現実にトレードシークレットであるというぐあいに定義づけられているというか、運用上、現実にそれはデファクトになっているという事実はあるのか。

  物質や動物モデルがトレードシークレットになるというのはないと思う。

  ほんとうにそういう法的に非常に重要な権利であるということになれば、ここで議論されている本当にMTAだけでいいのか、別途、それはもっと立派な法的な措置をとらないといけないのかという問題にかかわることから、質問した。

  物質でも、例えばタンパク質、酵素等でも、自分たちだけで持っている秘密に関わるものということになれば、トレードシークレットの対象になると思う。MTAはあくまでもこれは契約上の問題で、これに対して特許は国家権力として与えられている排他的独占権であるので、その基本的な違いはあると思うんですけれども、例えばこの新しい酵素、あるいはタンパク質をあるバクテリア、あるいは動物から発見した場合、それを特許として出願して権利をとるか、もしくはトレードシークレットとして自分たちだけがひそかに持っているかというのは、それぞれの当事者の判断の問題になろうかと思う。

  ただ、この問題で難しいのは、マテリアルということになり、しかも、それを研究のためには広く流通させるということとすると、どうしても外部に出る。いつまでも自分の手元の中でシークレットとして保持するというのは非常に難しいものだろうという気がする。そのとき一体どうするかという問題は、今の法体系ではなかなか保護しにくい。第三者がやった場合、どうするか。契約で縛れる相手ならいいけれども、そうでない場合どうするかという問題はかなり難しい問題だろうと思う。現行法で対応できるかなという感じが私はしている。

  いままでの議論にあったように、近々バイオリソースに関しては提供するという事業が進むので、そのときに一応体制をつくっておかないとということもあるし、当然、それ以前からの問題ということもあるので、この前の勉強をもとにして、1点何らかのフォームをつくって、それを検討するということに多分なると思う。何らかのひな型、あるいはたたき台のようなものをつくって示して使っていただくようなものをできたらつくりたいということだと思う。そういう理解でいいですね。

  平成14年度から、生物資源、マウス、それを公的な機関が保存し提供する。そういう事業を始めようと思っている。その際には、当然、MTA、方向をどうするのかというところが課題になりまして、ひな型というか、いろいろなところに使われるようなものをこれからつくっていかなければならない、そういう認識である。

  さらにはその機関が、恐らく国立大学が中心となりますが、国立大学も法人化になるという二段構えのことがあるので、本日のプレゼンテーションで大分議論は醸成したと思う。事務局で論点をまとめていただき、次回から、それをもとに議論を進め、なるべく早い機会に報告をとりまとめていきたいと思う。
   
5. 今後の日程
    次回は3月25日(月)午前10時半からここ文部科学省別館大会議室で開催することとしたい。
   
  (文責:研究振興局研究環境・産業連携課)



(研究振興局研究環境・産業連携課)

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