今後の産学連携の在り方に関する調査研究協力者会議(第3回)議事要旨 |
今後の産学連携の在り方に関する調査研究協力者会議(第3回)
議事要旨
日 時: | 平成12年9月22日(金)14:00〜16:30 |
場 所: | 文部省別館 特別会議室(202,203) |
出席者: | 阿部座長、井口、今田、大滝、川合、菊本、清水(勇)、清水(啓)、末松、宮島、紋谷、の各協力者、溝上学術調査官 |
丸島(株)キャノン顧問 | |
井上学術国際局担当審議官、河村研究助成課長、吉尾国際学術課長、磯谷研究協力室長、柴田研究協力専門官、中西科学技術庁研究基盤課長、谷通商産業省産業技術課長、他関係官 |
1. | 産学共同プロジェクトにおける特許権の取扱いと技術移転について |
<ヒアリング> | |
丸島氏より、企業から見た大学の研究成果の活用について説明。 | |
<質疑> | |
(○:協力者、□:説明者、△:事務局、▲:オブザーバー) | |
【国有特許の問題】 | |
○ | 国の特許は使いにくいので、大学で管理することが望ましいと言われたが、国の特許の不便な点はどこか。 |
□ | 企業から見た場合、共同研究など研究成果について国が関係した場合、企業側の単独の権利というのはあり得ず、国との共有となる。企業の自由な財産にはならない。 |
専用実施権の設定を受ければ、当該企業しか実施できないので、実施という面から見れば十分であるが、一つの特許だけで事業は行えず、実際には、様々な技術が集積されて初めて一つの製品が出来る。 | |
また、実施という観点からの活用だけでなくて、その特許権を財産として自由に他者にサブライセンスをしたり、場合によってはクロスライセンスをする材料にも使える。そうした財産としての活用により、企業が事業を行う際に有利になる。 | |
○ | 大学が処分をする権利を持てることを明確にし、自由に企業へ譲渡することなどが可能になれば便利であるということか。 |
□ | そのとおりである。 |
○ | 事務局に伺うが、国の特許の運用で今言ったことは可能であるか。 |
△ | 専用実施権等を権利として実施させるということ自体は可能であるが、そのためには競争入札をしなければならない。また、国有財産の処分の原則の問題から、大学が特許権を譲渡する時も競争入札を欠いてはいけないということになる。可能ではあるが、手続の問題がある。 |
□ | そういう手続を踏むのであれば、企業の意欲がなくなる。 |
現在の国有特許の問題よりも、将来、共同研究の成果に関する特許の帰属を契約時にあらかじめ大学側が参加企業と自由に取り決められるようにするということが重要である。成果が出て特許権を取得してから、所有をどうするかでは対応が遅い。 | |
○ | 自由にサブライセンスとかクロスライセンスをするというような問題だと、サブライセンス付きの制度の実施権というようなものが認められれば可能ではあるが、権利自体を所有することが望ましいのか。 |
□ | サブライセンスが与えられれば相当な活用が可能である。ただ、ベンチャーの立場で考えた場合、サブライセンスだけではなくて財産として持つことによって別の活用方法がある。例えば、特許を基にして資金を得ることがある。この点で、専用実施権を持っていることと特許権を持っていることの意味が違ってくる。 |
国との共有になった場合に一番障害になるのは、サブライセンスを出す時に条件を自分で自由に決められないことである。国といろいろと協議しなくてはならないので非常に活用しにくい。 | |
○ | サブライセンスが自由にできるような専用実施権の設定の仕方を認める、あるいは、期限付き移転というようなものが国有財産について可能なのかどうかはわからないが、そのような活用も考えられるであろう。 |
○ | 今、議論していることは、大学が法人化されても実施が困難に思われる。法人化された後に別な法的整備をする必要があるのではないか。 |
△ | 大学が法人化された時の制度設計については、現在検討中である。仮に国の資金により大学で生じた研究成果の処分を、大学で決められるということになれば、一般的な財産処分の問題となり、実行は可能であると思われる。 |
○ | 仮に、その大学が所有することになっても、競争入札みたいなことをせずに処分が出来るようにするためには、何らかの法整備が必要ではないのか。 |
△ | 財産の処分は、国有財産でなければ国有財産法の原則から外れると考えられる。ただ、その取扱いについて国の方でルールを決めてしまうと、独立行政法人に対して、そのルールに準じて行うよう規制することになる。 |
○ | 他省庁では、その問題について議論しているのか。 |
▲ | 現在、検討中であるが、独法化される国研については、国有財産の処分ということでは、現行法でも、一定のルールで行うことは可能である。今後生じるものについては、今回の独法化において基本的に国有財産でない扱いにし、柔軟に対応していく方向である。 |
○ | 今の権利の処分について、どういう形になるのか不明であるが、元来特許法の規定によると、研究が職務であればその成果は、全部職務発明となるため、国有になるはずである。 |
しかし、学術審議会答申で応用開発に属するものだけを国有とすると定めたため、現在、応用開発に属する研究成果だけが国有という形で扱われているのが実状である。この点をどのように考えていくかによって、取扱いを変えることが可能ではないか。 | |
【個人所有の問題】 | |
○ | 権利が立証されるためには、発明者が中身をよく見ないで判を押すようなことをしてはいけないとの話であるが、国立大学では、発明は発明者個人有になることが原則となっており、TLOと契約を交わすのは教官個人である。その際に発明者個人が注意すべきことはどのようなことか。 |
□ | 発明者として権利を取るまでの手続について、日本やドイツにおいては、発明者がその明細書の内容をどこまで認識していたかを重要な要件にしてないが、アメリカの場合は、発明者が正確にその内容を認識した上で弁理士が書いた明細書にサインをしたことが重要な要件となっている。 |
日本の発明者はこのことについて認識不足であるため、アメリカの弁護士は、訴訟の際には、権利を取る過程で発明者が本当に内容を認識してサインしたかという点を突いてくる。その時に、「いや見てませんでした。」と言ったら、それで権利行使が無効になってしまうことがある。 | |
よって、アメリカなどの手続について心得ていないと、せっかく良い発明で権利を取っても権利行使ができなくなることになる。 | |
発明者個人が権利を取ってからTLOと契約する際の心得としては、発明者の意図するところ次第で、契約の仕方が変わってくるという点である。契約を結ぶ際に発明者が要望を全て提示すれば良い。ただ、TLOと教官との駆け引きは技術移転の効率を悪くする。TLOを大学の一機関とみなして、TLOだけではやりにくいことを教官等がバックアップし、TLOは逆に教官等が不足しているところを援助して良い権利を取るとか、あるいは良い企業を紹介するとか、そういう機能を果たすべきである。企業で言えば、知的財産部門が、事業とか研究所と独立して行動しても何も出来ない。大学内においては、TLO、教官等及び大学の管理する部門にそれがあてはまる。そうなると三者が一体になって動くようなことを考えていかないとうまくいかない。教官等発明者とTLOが相対するようになったら絶対うまくいかないと思われる。 | |
○ | 共同研究による研究成果が譲渡できるようになった際に一番問題になるのは、一般競争入札だと、共同研究を行った企業がその権利を取れない可能性があるという点である。 |
□ | 一つのテーマで複数の企業が参加した場合、あるいは同じ研究室に別のテーマで複数の企業が入ったような場合、一番大事になってくるのは機密保持契約である。アメリカは機密保持契約が厳格である。また、特許権ではない技術的成果について、全て企業へ持って行かれるような契約を結んだりすると、それまでの研究成果を使っての研究が続けられなくなることがあり得る。特許権は売っても、技術そのものの継続性を保つことは研究機関の使命であるので、契約の内容を十分に確認することが絶対必要である。 |
さらに複数の企業と共同研究を行う場合、成果物の取扱いを最初に決める必要がある。 | |
今後、大学の中でも産学連携が盛んになって、しかも外国の企業も入ってくるようになると、そういった機密保持の問題が厳格になってくる。例えば、使用目的を限定して技術情報をお互いに交換しあう内容の契約が結ばれた場合、大学の先生方が、これまでいろいろな目的で情報交換し合ってお互いの研究に活用してきたことが一切出来なくなることがあり得る。 | |
【技術移転の専門的人材の育成・確保】 | |
○ | 日本の大学が置かれている文化では、機密保持には全く対応できない。本格的な産学連携をやろうとすると、その点を研究者に理解してもらえるような環境作りが非常に大事だと思われる。そのためには、専門的な人材が必要になってくるが、そうした人材は、日本にどれくらいいるのか。 |
□ | 機密保持の問題については、現実に企業で対応できているため、不可能ではないと思う。ただ、注意すべきは、大学が自ら管理できる範囲を十分承知して契約しなくてはいけないということである。そのためには、契約にたけた、しかも内部事情に詳しい人材を養成・配置する必要がある。 |
【特許等の機関管理】 | |
○ | 大学が組織として対応するためには、ガイドラインなどにより発明の帰属を組織帰属に近い形にする必要がある。積極的に大学の技術移転を進めている国は、ほとんどが機関帰属の方向に向かっている。 |
□ | 大学内のルールにより、所有とライセンスする権限を分け、所有そのものは研究者個人にしても、ライセンスの窓口とライセンスの権限はTLOが持つとすれば、TLOも活動しやすいのではないか。 |
【サブライセンス付き専用実施権】 | |
○ | 国有特許のサブライセンス付きの専用実施権の許諾というものが可能となった場合有償であれ無償であれ、企業は活用するか。 |
□ | 先ほど説明したサブライセンス付きの専用実施権については、サブライセンスの条件は企業が自由に決められるというのが前提である。サブライセンスの権利は持っていても、条件を決める時に国の了解を得なくてはいけないとか、サブライセンスから得た収益を一部国に戻すということになると、サブライセンスする形態は限られたものになる。 |
国の権利についてだけ取引しているのであれば明快であるが、企業は特許の集積としての技術単位で取引を行うことが多い。技術の移転により収入があった場合、その技術を構成するどの特許でいくらもらったかは全然区別がつかない。ゆえに、国有の特許でいくら入って、自分の特許でいくら入ったという区別は実際不可能である。 | |
○ | サブライセンス付き専用実施権とサブライセンス無し専用実施権とでは、値段が変わってくる可能性がある。そうするとサブライセンス付きの専用実施権を取っておく方が企業としては得ではないか。 |
□ | 一般的にはその通りである。ただ、分野によっては通常実施権だけでもよいという場合がある。企業やその技術によって対応は異なる。ただ、事前にそういうことが取り決められるということが重要であり、成果が出た後で取り決めるのでは企業にとって不安である。 |
2. | 中小企業やベンチャーの立場から見た大学の技術移転における問題点 |
<ヒアリング> | |
大滝氏より、中小企業、ベンチャー企業の立場から見た大学の研究成果の活用について説明。 | |
<質疑> | |
(○:協力者、□:説明者、△:事務局) | |
【現時点及び今後の特許等の管理の在り方について】 | |
○ | 専用実施権の問題などについては、現行の制度でどこまで対応可能かを明確にすることがポイントであると思われるが、今の状況で可能か。 |
□ | 独立行政法人化前では、国立大学には法人格は無いため、国有財産の処分に関しては、これまでの条件と同じである。 |
○ | 法律的に非常に難しいとしても、運用により、例えば権利自身は個人が持ってても、まとめたり交渉する権限は一つの組織に帰属する方向に行けば大分使い易くなるのではないか。 |
□ | 国有財産をある機関にライセンスや委託をすることは可能ではないかと思われる。産学連携のための研究所を大学の中に作ってもいいのではないか。先生は大学と研究所において教育と研究の両方を行い、産学連携にも参加できるようにし、権利をその研究所に帰属させるというのも一つの手だと思われる。 |
□ | 国立大学の独法化が避けて通れないのであれば、今から考えておかないと時間的に間に合わない。独法化を想定し、一つ一つ比較しながら議論して決めた方がよい。 |
【特許等の機関管理の課題】 | |
○ | 独法化後について、二つ問題がある。一つは国有であったものを大学に移せるかという問題と、もう一つは、大学で非常にたくさんの特許を出せるかと言う問題である。後者については、大学がやろうとした時に、研究費からは特許出願費用が捻出できないというのが今の考え方であるが、それぞれの使っている研究費から弁理士費用を含めて出せれば、いちばん簡単に解決できる。 |
□ | オーバーヘッドをとって、その中に特許料も含めて、正当に大学に戻ってくるのならば、特許出願費用も捻出できるのではないか。 |
○ | 元来、個人有というのは特許法上からは問題ではないか。研究が職務なら、結果としての発明は職務発明である。職務発明ならばルールに基づき企業有ないし国有とすることができる。フランス、イギリスなどは、基本的には国有となる。国有にしてしまい、国に出願費用を出させて、それで活用すればよいのではないか。 |
○ | 自分の給料、研究所の経常費などは全部国から出ているのに、しかも研究成果は個人有でよいというのは、非常に違和感がある。 |
□ | 問題なのはTLOを持ってる大学と持ってない大学があることである。持っている大学はTLOに特許を全部集中させることができるが、持っていない大学はどう管理するかという問題がある。そこをJSTがカバーするという方法もある。 |
【国立大学教官の発明を活用したベンチャーの課題】 | |
○ | JSTと発明者との契約では、権利の帰属は明確になっており、発明者は何か行おうとしても権利は他の企業やJSTへ帰属しているため活用できない。そのルールだと、発明者である大学教官が同意しても、その発明を基にベンチャーを起こすことは不可能ではないか。 |
□ | だから、その特許を所有している企業に使わせてもらえるようお願いに行っている。 |
個人の負担で特許出願が困難なため企業に任せていたが、その特許が休眠特許となってしまい、全く活用されないことに不満を持っている教官はかなりいる。先生がベンチャーにその特許を製品化してもらおうとすると、権利は別の企業が持っているという例が多い。その際にスムーズに移転できないことが問題となる。 | |
【研究成果の移転の際の取引方法】 | |
△ | 企業と大学が共同して研究をする場合、研究の成果を企業に全部移転するとした際の対価の支払い方法としては、企業がロイヤリティ手数料あるいは実施料収入を上げた時に出世払い的な方法で支払えば良いではないかと提案されたが、その趣旨は、研究開発企業と特許を活用したい企業とが契約をする際の商慣習であるということなのか。 |
□ | 大学が実施許諾する際に、ランニングロイヤリティをもらうという方式以外に、権利を一時金で売ってしまうという選択肢もあっていいのではないかということである。企業間の取引でもそういうことがある。 |
権利を大学が所有し、企業に実施権を与えてロイヤリティを取るというスタイル以外に、権利を取得してから売るというスタイルもある。例えば、共同研究から生まれた成果について企業が出願費用を払い、その結果生じた権利を、発明者、大学、企業間でどう扱うか決めるというやり方で大学の出願費用を軽減する方法もあり得る。最初に、共同で研究を行う際にそういう取り決めを明確にしておけば、企業は参加しやすい。 | |
(文責:学術国際局研究助成課研究協力室) |
(研究振興局研究環境・産業連携課)