今後のがん研究のあり方に関する有識者会議(第1回) 議事録

1.日時

平成13年8月3日(金)12:30~14:30

2.場所

厚生労働省  省議室(中央合同庁舎5号館  本館9階)

3.出席者

(委員)

井村委員、北島委員、佐々木委員、菅野座長代理、高久委員、坪井委員、寺田委員、富永委員、豊島委員、二村委員、藤野委員

(説明者)

国立がんセンター廣橋研究所長、東京大学鶴尾分子細胞生物学研究所長放射線医学総合研究所辻井病院長

(厚生労働省)

坂口厚生労働大臣、下田技術総括審議官、佐栁厚生科学課長  他

(文部科学省)

青山文部科学副大臣、遠藤研究振興局長、坂田大臣官房審議官(研究振興局担当)  他

4.議事

  1. 開会
  2. 厚生労働省、文部科学省あいさつ
  3. 委員紹介
  4. 有識者会議の開催の目的等について
  5. がん研究への取り組みについて
  6. がん研究の展望について
  7. その他
  8. 閉会

5.配付資料

  1. 今後のがん研究のあり方に関する有識者会議の開催について
  2. がんに関連する主な研究の現状(平成13年度)
  3. これまでの対がん戦略の概略
  4. 対がん10カ年総合戦略等の成果について
  5. 「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」作業班における検討について(案)
  6. がん克服新10か年戦略研究事業プロジェクト研究とがん研究助成金
    (国立がんセンター  廣橋研究所長  資料)
  7. 文部科学省のがん研究
    (東京大学  鶴尾分子細胞生物学研究所長  資料)
  8. 重粒子線によるがん治療研究(2分冊)
    がん治療の期待を担って
    重イオン線治療プロトコールにおける適応疾患について
    (放射線医学総合研究所  辻井病院長  資料)
  9. がん研究の展望
    (国立がんセンター  寺田総長  資料)
    • 参考資料  「がんの統計’99」  財団法人がん研究振興財団 編
    • 参考資料 がん-厚生科学の挑戦
    • 参考資料 国立がんセンター  疾病ゲノムセンター

【厚生科学課長】

  それでは定刻でございますので、ただいまから第1回今後のがん研究のあり方に関する有識者会議を開かせていただきたいと思います。私、厚生労働省の大臣官房厚生科学課長の佐栁でございます。よろしくお願い申し上げます。委員の皆様方には、本日大変に御多忙の中お集まりいただきましてありがとうございます。
  初めに、文部科学省青山副大臣からごあいさつをお願い申し上げます。

【青山文部科学副大臣】

  文部科学副大臣の青山でございます。一言ごあいさつを申し上げます。
  昭和56年、日本人の死因の第1位になったがんについて総合的、計画的かつ重点的な対策が必要であるという認識の下に、当時の文部省、厚生省、科学技術庁が連携をいたしまして、昭和59年度から平成5年度にかけて対がん10か年戦略を策定してがんの本体解明を中心とする研究に取り組んでまいりました。更に平成6年度からがん克服新10か年戦略を開始しまして、がんの本体解明からがん克服へと研究を進め、着実にその成果を上げているところであります。この間、がん研究の成果をがん治療や予防に応用することにより、一部のがんについては生存率の向上など、極めて優れた結果を得ているものもありますが、最近のゲノム科学研究の進展により、がんの発生機構についての科学的知見も蓄積されております。
  しかしながら、いまだがんについては未解明の分野が多いのも事実であり、がん撲滅のための研究に関しては国民の大きな期待が寄せられております。現在のがん克服新10か年戦略も、平成15年度の終了まであと残すところ2年余りとなりました。この期に、この有識者会議でこれまでの研究成果を総括していただくとともに、残された問題についても整理していただきたいと考えております。国民すべてが待ち望んでいるがん克服の日が一日も早く実現できますように、今後のがん研究の在り方に関して先生方から貴重な御助言を賜りますようお願い申し上げましてごあいさつにさせていただきます。ありがとうございます。

【厚生科学課長】

  ありがとうございます。坂口厚生労働大臣におかれましては若干遅れるという予定でございますので、お着きになられた段階でごあいさつを賜ろうと思っております。よろしくお願い申し上げます。
  では、引き続きまして各委員の御紹介をさせていただきたいと思います。お名前は五十音順ということで御紹介させていただきます。初回でもございますので各委員の方々、一言ずつごあいさついただければと思っております。総合科学技術会議議員井村先生。

【井村委員】

  井村でございます。専門はもともとは内科学でありまして、特にがんにつきましてはがんとホルモンの関係を研究してまいりましたが、現在は専門を離れて科学技術全般の政策の問題をやっております。そういうわけで、どれだけお役に立てるかわかりませんが、どうぞよろしくお願いいたします。

【厚生科学課長】

  慶応義塾大学医学部長北島政樹先生。

【北島委員】

  北島でございます。私は専門は消化器外科をやっておりますが、特にがんに対する内視鏡下治療縮小化の問題、およびセンチネルリンパ節マッピングを用いたがん治療手術の個別化という研究課題に取り組んでおります。どうぞよろしくお願いいたします。

【厚生科学課長】

  放射線医学総合研究所理事長佐々木康人様。

【佐々木委員】

  佐々木でございます。私は放射線科医でございまして、狭い意味では核医学を専門としております。放射線医学総合研究所は御承知かと思いますけれども、重粒子を使ったがんの放射線治療の臨床試験を過去7年余りにわたって行ってきております。後ほどその御紹介もここでいたす予定になっていると思います。どうぞよろしくお願いをいたします。

【厚生科学課長】

  財団法人がん研究会名誉研究所長であられます菅野晴夫先生。菅野先生には座長代理ということでお願い申し上げております。

【菅野座長代理】

  菅野でございます。長くがんの病理学に携わってまいりました。また、文部省のがん特別研究の代表をさせていただいたこともありまして、ただいまはがん研のがん化学療法センターの所長をやらせていただいております。どうぞよろしくお願いいたします。

【厚生科学課長】

  次は五十音順でいきますと杉村隆先生でございますが、杉村先生は本日健康上の都合ということで急きょ御出席ができないということがございまして、本有識者会議では座長をお願いしてございます。

  次に、自治医科大学学長高久史麿先生です。

【高久委員】

  高久です。私は井村先生と同じ様に内科をやっていました。その中で血液を専門としていた関係上、血液系の腫瘍、造血器腫瘍のことを勉強してまいりました。ここしばらくは現場から離れていますが、何らかのお役に立てればと考えています。よろしくお願いいたします。

【厚生科学課長】

  日本医師会長であられます坪井栄孝先生です。

【坪井委員】

  坪井でございます。よろしくお願いいたします。なるべく邪魔をしないように御協力申し上げたいと思っておりますが、先生方が御専門をおっしゃるので私も申し上げなければいけないかと思いますが、申し上げるほどの業績もございませんが、肺がんの勉強をしておりましたのでこの会でまた更に勉強させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

【厚生科学課長】

  国立がんセンター総長寺田雅昭先生です。

【寺田委員】

  寺田でございます。専門はがんの分子生物学でございますが、2年ほど前まで厚生省のがん克服の代表と、それから対がん10か年のときの後半と、いろいろなことで政府のがん研究のお世話になってまいりました。それで、是非この会議で更に国民が望んでおりますがんの克服に向けて次の世代の若い人たちがやれるように、また国民が納得していただけるようなことができましたらありがたいと思っております。以上です。

【厚生科学課長】

  愛知がんセンター総長であられます富永祐民先生です。

【富永委員】

  愛知がんセンターの富永と申します。私の専門はがんの疫学予防でございます。全国的に疫学予防の研究者は非常に少ないのですが、大変今後重要な領域になると思っています。よろしくお願いします。

【厚生科学課長】

  住友病院長でおられます豊島久真男先生です。

【豊島委員】

  豊島でございます。私の専門はがん遺伝子の研究でございましたが、その後、がん抑制遺伝子の研究もさせていただいております。対がん10か年の第1期の文部省の総括班長を務めさせていただきました。それから、現在は病院長をやっております関係で臨床の方に非常に興味が進んでおりますので、これからもその方面でいろいろ発言させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

【厚生科学課長】

  名古屋大学大学院医学研究科教授の二村雄次先生です。

【二村委員】

  名古屋大学の二村と申します。専門は消化器外科をやっておりますが、その中で先ほどの北島先生と少し領域が違いまして、肝胆膵領域の外科をやっております。特にこの領域は難治がんが勢ぞろいしておりますので大変苦労をしております。日本の外科手術療法というのが世界でも大変よろしいかとは思っておりますが、科学的にそれをいかに評価するかということが今、重大な問題になっておりますので、そちらの方面の臨床の現場の第一線の情報を、特に手術療法ですが、その辺の情報提供ができるかなと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

【厚生科学課長】

  武田薬品工業代表取締役会長藤野政彦先生です。

【藤野委員】

  武田薬品の藤野でございます。私は今はマネージメントをする立場にあるんですが、マネージメント6割で4割はまだ研究に足を突っ込んでいるような状態でありますが、個人的に言いますと私はリュープリンという前立腺がんの薬を創製したということで、武田の唯一の今のところがんの薬でございますが、これからは先生方の成果をきっちりと見極めて立派な治療薬をつくっていくように心がけようと思っておりますので、ひとつよろしくお願いいたします。

【厚生科学課長】

  以上、12名の先生方でございます。杉村先生はそういうことで今日御欠席なさってございます。
  次に、文部科学省と厚生労働省の御紹介をさせていただきます。
  文部科学省研究振興局長遠藤昭雄様です。
  文部科学省大臣官房審議官研究振興局担当坂田東一様です。
  厚生労働省大臣官房技術総括審議官下田智久様です。
  それでは、会議に先立ちまして会議資料の確認をさせていただきたいと思います。
  お手元の議事次第の下に配付資料ということで1番から9番までの資料がございます。それに沿ってそれぞれ机の上に置いてございますが、御確認いただきたいと思います。
  まず資料1は「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議の開催について」ということでございます。
  資料の2が「がんに関連する主な研究の現状(平成13年度)」でございます。
  資料の3、「これまでの対がん戦略の概略」でございます。
  資料の4、「対がん10カ年総合戦略等の成果について」でございます。
  資料の5、『「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」作業班における検討について(案)』でございます。
  資料の6は横書きになってございますが、「がん克服新10か年戦略研究事業プロジェクト研究」ということでまとめております。
  資料7が「文部科学省のがん研究」ということで、鶴尾先生の資料になってございます。資料の8は「重粒子線によるがん治療研究」ということで放医研の辻井先生の資料でございまして、これはつづりとして2つございます。そして、その後パンフレットが付いております。「がん治療の期待を担って」というパンフレットと、新しい放射線治療というパンフレットがあろうかと思います。
  最後が資料9でございまして、死亡率の推移ということでグラフが書かれている資料があろうかと思います。そして、その後、冊子で「がんの統計´99」という冊子と「がん-厚生科学の挑戦」というパンフレット、そして最後に「国立がんセンター疾病ゲノムセンター」のパンフレットが置かれていると思います。もし欠落などがございましたらお申し付けいただきたいと思います。よろしゅうございますでしょうか。
  それではこれから議事の進行ということでございますけれども、座長は先ほど来お話をさせていただいていますが、杉村先生が今日御欠席ということでございますので、菅野先生に座長代理ということで進行をお願い申し上げたいと思います。
  なお、文部科学省の青山副大臣と遠藤局長は公務のため途中で退席させていただくということでございます。
  それでは、副座長の方でよろしくお進めください。

【菅野座長代理】

  菅野でございます。杉村座長がよんどころのないことで急にピンチヒッターをということでございますので、やらせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
  議事の4にこれから入りたいと思うのでございますが、「有識者会議の開会の目的等について」でございます。本日は第1回の会合でございますので、まず初めに本会議の検討範囲、その進め方等について事務局より御説明をお願いいたします。

【厚生科学課長】

  それでは、資料の1から5にわたりまして御説明させていただきたいと思います。
  資料の1『「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」の開催について』、ここで当有識者会議にお願い申し上げます趣旨あるいは検討事項についてまとめてございますが、御承知のとおり昭和59年に対がん10か年総合戦略が開始されまして、その後、第2次がん戦略として平成6年からがん克服新10か年総合戦略が進められて、各省横断的に総合的かつ戦略的に進められているわけであります。その成果たるものは相当大きなものがあるわけでありますが、一方まだまだがんについては残されている課題も多いという認識ではないかと思います。こういうことから、文部科学省研究振興局長と厚生労働省大臣官房技術総括審議官の合同の私的な懇談会といたしまして当有識者会議を設置させていただいているわけでありまして、この有識者会議におきましてこれまでのがん研究の成果を総括していただきますとともに、今後のがん研究のあり方について検討していただくということでございます。
  検討事項は、まず1点としては国内外のがん研究の成果と現状についてどこまで成果が上がっているのか、あるいは何がこれから期待されるのか。こういうことについて検討いただく。その上で、今後のがん研究のあり方について御検討いただくということかと考えてございます。その予定としまして、本年度末を目途に中間報告をいただければと願っております。中間報告は今までのがん研究の成果あるいはその現状のまとめをしていただいて、できますれば専門的な内容あるいは一般国民向けの内容という二面的な観点から今までのがん研究の成果と現状というものをおまとめいただくと非常にわかりやすくなるのかなと思ってございます。ちなみに、この有識者会議は文部省と厚生省が連携協力しまして当たっていく予定でございます。
  次に、資料2をごらんいただきたいと思います。資料の2に「がんに関連する主な研究の現状」という形で、ここに1から10までまとめてございます。1から4が特にがんに関わる研究所における研究という形で国立がんセンター、理化学研究所、放射線医学総合研究所、そして日本原子力研究所、それぞれ平成13年度はそこに書いてございますような研究費の総額でございます。
  5番から10番が研究費ということでございまして、厚生科学研究費の中にがん克服研究という形で、これは平成6年からスタートしてございます。それと7番目にがん研究助成金、これは国立病院特別会計で運用しているものでございますが、これも一体になってがん克服研究を進めていくということでございます。また、10番目には文部科学省の関係の科学研究費補助金の中で特定領域(C)ということでがんに6領域を設けてございます。こういうものが一体になってがん克服を進めているわけでありますが、6番目に厚生科学研究で21世紀型医療開拓研究というのを今年度からスタートしてございます。また、8番目にはミレニアムプロジェクト関係ということで、これは平成12年、昨年からミレニアムプロジェクトという中で、がんもこの中の大きな主要な要点でございますが、スタートしてございます。そのほか、保健医療分野における基礎研究という形でもスタートしていますし、非常に多岐にわたってがんの研究を推進しているということでございます。それ以降には、それぞれの研究費について詳細なことが書いてございますが、それは省略させていただきます。
  それで、資料3を見ていただきたいと思います。資料1、資料2につきまして現状におけるがんの研究状況についてお話させていただいたんですが、大きくまとめますとここに非常に大きく書いてございますが、昭和58年から平成5年という形で対がん10か年総合戦略が進められた。そして、平成6年からは今度はがんの克服という形で10か年が始まって、平成15年までの予定で進められているということでありまして、今後平成15年以降のがん研究のあり方、これを今この段階で十分に検討しておく必要がある段階にきているということでございます。
  そして、当有識者会議にお願いしたい役割は、実を申しますと今までの10か年計画を2回経由したものがその次の2ページ以降に仕組みが書いてございます。2ページにまず対がん10か年総合戦略の内容を書いてございますが、丸の2つ目にがん対策閣僚会議が設けられた。それで、丸の3つ目にはその閣僚会議の下部組織でがん対策専門家会議で検討結果を受けて対がん10か年総合戦略が決定したということが書かれております。このように、こういう組織でもってこの10か年戦略は進められたわけでありまして、当時のがん対策専門家会議は議長は山村先生、副議長は杉村隆先生ということであります。
  同様の形で4ページをお開きいただきたいと思いますが、がん克服10か年戦略、これについてもやはり推進体制としてがん対策専門家会議で案をつくられて、そして開始されたわけであります。今回のこの有識者会議に私どもが御期待申し上げたいのは、このがん対策専門家会議に相当する役割ということでございます。
  なお、従前からありましたこのがん対策専門家会議というのは平成5年の8月に廃止されてございます。当時、閣僚会議などの統廃合という形で行われた時代でございまして、その際にこの専門家会議もなくなったという経緯がございますけれども、今回これからどうするかということを御検討いただくのはやはりこういう役割ではないかと私ども思っているわけでございます。
  次は資料4でございますが、これは対がん10か年戦略などでの成果についてまとめた資料でございます。これは、後ほどもっと詳しい内容をそれぞれ各先生方からお話いただける内容だと思いますので省略させていただきます。
  資料5をお願い申し上げます。こういう形で有識者会議で御検討いただくわけでございますけれども、その有識者会議の審議をできるだけ円滑に進めるために作業班を設けてはいかがかということでこの資料5をつくらせていただいております。特に今までのがん研究についての成果及びその評価をするに当たって、資料の収集だとか、そういうことが必要になりますし、また今後のがん研究のあり方についても論点整理を十分行って進める必要があろうかと思います。そういうことを、この作業班で担っていただこうという考えでございます。
  そこに構成案ということで、非常に多うございますが18名の方々が列挙されてございます。各有識者の方々に今回の会議についてお話をさせていただく過程で、それぞれその道で今、最先端でやっておられる方々を御紹介いただいたりした方々でございまして、相当な数にわたっておりますが、それぞれの分野を網羅しているということでございます。この作業班で作業をしていただいて、これを有識者会議に報告をいただいて、それを基にまたこの有識者会議で検討していただくということを考えております。以上でございます。

【菅野座長代理】

  ありがとうございました。ただいま資料の5までの御説明をいただいたわけですけれども、何か御質問等がございましたら御発言をお願いいたします。

(坂口厚生労働大臣入室)

【菅野座長代理】

  ただいま坂口厚生労働大臣が御到着になりましたので、大臣より一言ごあいさつをお願い申し上げます。

【坂口厚生労働大臣】

  ただいま御紹介をいただきました坂口でございます。せっかく先生方に早くからお集まりをいただいて御議論をいただいておりますのに、私が遅れてまいりましてお許しをいただきたいと存じます。
  今回のこの委員会におきましては、委員の皆さん方には本当にお忙しいお立場の皆様方ばかりであるにもかかわりませず、快くお引き受けをいただきまして心からお礼を申し上げたいと存じます。
  がん研究につきましては、昭和59年の対がん総合戦略10か年計画がスタートいたしまして、そして平成6年にまた新10か年戦略がスタートしたわけでございます。平成15年にはその終焉と申しますか、そのまとめをしていただく時期にきているわけでございますが、今年からまたこれは総合的な先端科学でございますけれども、メディカルフロンティア戦略がスタートをしたところでございます。
  こういう状況の中でございますが、いろいろの御研究をいただいて今日を迎えているわけでございますけれども、依然として30万ぐらいのがんによる死亡者があり、そしてまた死因の第1位を占め続けていることも事実でございます。新しいこの新10か年戦略が終わります15年に向けて、今までの研究の総合的な評価や、あるいはまた残された課題についていよいよおまとめを少しいただきながら、新しい研究もまたお願いを申し上げるというような時期に今なっているのではないかという気がいたします。
  そんな中で、このメディカルフロンティア戦略が新しくまたスタートするわけでございますが、今までの成果をどのように評価され、そしてまた今後の課題として何が残されているかということを御議論いただくことによりまして、今後の歩み方も違ってくるのではないかという気もいたします。
  いずれにいたしましても、先生方にひとつ大所高所からの御議論をいただきまして、そして今後のがん対策に対する課題、戦略、そうしたものについてもひとつ御議論をいただくことができればと思う次第でございます。
  そんな意味で、大変お忙しい先生方でございますけれども、ひとつ御協力をいただきますようお願いを申し上げまして、簡単でございますがごあいさつに代えさせていただきたいと存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

【菅野座長代理】

  どうもありがとうございました。
  それでは、引き続き議事を進めさせていただきます。ただいまは4の「開催の目的について」が終わったところでございまして、次は議事の5の「がん研究への取り組みについて」というところに移りたいと存じます。最初に国立がんセンター廣橋研究所長から御報告をちょうだいしたいと思います。お願いいたします。

【廣橋研究所長】

  国立がんセンター研究所の廣橋です。厚生労働省のがん克服新10か年戦略プロジェクト研究の総括班座長を務めております。厚生労働省のがん研究の成果、トピックスについて御紹介させていただきます。

(スライド)

  現在、がん克服新10か年戦略31課題、がん研究助成金約100の研究課題で研究を進めております。

(スライド)

  がん克服新10か年戦略の研究分野は7分野に分かれておりまして、発がん、転移・浸潤、がん体質と免疫、がん予防、新しい診断技術の開発、新しい治療法の開発、それからQOLに関する研究であります。これらの分野の最先端の研究を進めてブレイクスルーをつかもうというのがこのがん克服の研究であります。

  研究分野の1から6までは後ほど紹介のある文部科学省の特定研究の中の先端がんの分野と対応し、研究の情報交換をするなど協力して研究を進めているという状況でございます。これに対しましてがん研究助成金の研究課題は個々の臓器がんの特性・診断・治療、がん治療技術の改良・評価・普及、診断技術も同様、がん登録・疫学・予防介入研究、そしてこれらと密接に関連した基礎研究というふうに臨床や公衆衛生に近いところで研究を進めるというものでございます。

(スライド)

  これからトピックスを紹介いたします。白血病の病因遺伝子の同定について大きな成果を上げました。白血病は染色体の転座を伴うことが多いいのですが、8;21転座のブレイクポイントのところにゲノムの地図の情報をつくることに基づいてAML1という遺伝子を同定いたしました。その後の研究でこのAML1は白血球の細胞分化に関わる転写因子であるということがわかりました。その転写因子は1つの蛋白で働くのではなくてほかの幾つかの蛋白とコンプレックスをつくっておりまして、それらの中にはこの細胞分化に関わるヒストンのアセチル化に関わる酵素があるということがわかってきております。しかも、もともと発見されたAML1ばかりではなくて、それ以外のほかの蛋白質もやはり染色体転座のブレイクポイントになっておりまして、これらが白血病化の非常に重要な標的であるということが解明されました。

(スライド)

  浸潤、転移の分野にすすみます。がん細胞というのは細胞同士の接着がルースになる。それで離れて、動き回って浸潤し、離れた臓器に転移するわけであります。この細胞同士を結び付けているカドヘリンという接着分子がどのように不活化されるかという仕組みについての研究が進みまして、初めてこのカドヘリンの遺伝子突然変異が見つかり、それがスキルス胃がんの要因になっていることなどが解明されました。

(スライド)

  次に、こういう変化と、それから発がんを起こす要因との関連についての研究に入ってまいります。発がん物質、放射線などは細胞の中で酸素ラジカル、物質を酸化する働きをする酸素ラジカルをつくるということが最終的にDNAに修飾を与えて突然変異につながる仕組みであります。それで、この酸素ラジカルがDNAに働いてグアニンにOHを付け、8ハイドロキシグアニンというものをつくるということがわかりました。しかも、その8ハイドロキシグアニンを修復する酵素をヒトで同定したのですが、この酵素、OGG1というものを詳しく調べますとヒトとヒトの間に小さな違いがある、遺伝子多型があるということがわかりました。この326番目がセリンになるようなタイプの人はこの酵素の働きが強いけれども、これがシステインに変わっている人は酵素の働きが弱くて肺の偏平上皮がんへの罹患性が3倍ぐらい高くなっているということがわかりました。このような遺伝子多型の研究は今後更に進められ、がんになりやすさというものの同定につながっていくものと考えられます。

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  これまで加熱食品中のヘテロサイクリックアミン等々、DNAに傷を付ける分子の同定に成果を上げてまいりました。この環境中には、例えばこれは京都の桂川ですけれども、工芸品の染色をする染料をつくる工場などのところではこのような汚水が出ます。その中を調べましたところ新たな変異原物質、DNAの突然変異を起こす物質の同定がされました。こういうものをいかに分解して除くかという研究に取り組んでおります。

(スライド)

  今度は逆に環境中、あるいは食品中にはがんになるのを抑える物質もあるだろうということで発がん抑制物質についての研究も進めております。抗酸化剤なども研究しておりますが、最近になりまして初乳に多く含まれるラクトフェリン、これはもともと抗菌作用、細菌に対する作用があるということで知られていた物質ですが、これががんの発生の抑制や、あるいはC型肝炎ウイルスの増殖の抑制などにも効果があるということがわかりまして実際に臨床試験へと今、進んでおります。C型肝炎の患者さんに投与をいたしますと、ごらんのように血清のGOT、GPTの値が下がり、またウイルス量が減る。やめるとまた上がる。また与えると下がるというような効果を示す例も見つかっております。こちらは発がん物質で大腸にがんをつくる実験ですが、同時にウシラクトフェリンを与えるとそれが強く抑えられるということで実際の臨床治験へ進もうとしているところであります。

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  また、がんの発生というものは細菌あるいはウイルスの感染とも非常に関係しております。日本人に多い胃がんはヘリコバクターピロリという細菌の感染と関連があるという疫学的な研究がありまして、これをコホートの研究として本当に除菌が胃炎の発生を抑えるかどうか。そして、それが胃がんの発生の指標になるかどうかという研究も進めております。これは動物実験、スナネズミでそのモデルをつくりまして研究しておりましたところ、単にヘリコバクターピロリが感染するばかりではなくて、与えるえさの中に魚粉が入っていると非常に強い慢性萎縮性胃炎を起こすということがわかりました。その中の成分が何かというのを調べてまいりますと、小さな骨の断片であるということであります。これは非常に重要な発見で、その仕組みを今、研究しているところであります。

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  ヘリコバクターピロリの感染はがんばかりではなくて胃の悪性リンパ腫の発生にも関与するということがわかりまして、除菌で胃の悪性リンパ腫、MALTと言われるリンパ腫ですが、これが寛解に誘導できる、治療ができることがあるという報告がされました。これを導入いたしまして51例の患者さんに実施したところ、73%で実際に奏効して胃の悪性リンパ腫がヘリコバクターピロリの除菌で治すことができるということを確認いたしました。(スライド)

  一方、コンピュータの進歩に基づいて画像診断において大きな成果をあげました。CTをらせん状に回転させながら撮影するヘリカルCTの開発に企業と協力して成功したという実績がありますが、更にそこからマルチスライスのヘリカルCTで高精細画像を得るということ、あるいは立体画像による診断、それから画像解析による自動診断へと研究を展開しております。

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  一方では、これを検診に応用するための車載機をつくり実際に検診に応用いたしましたところ、ヘリカルCT導入前に発見された肺がんのステージに比べてはるかにステージ1、初期のがん、治せるがんの発見率が高くなっておりまして、生存率もヘリカルCTで発見された患者さんは非常によいという成果を得ております。

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  今度は、治療の分野におけるトピックスを御紹介いたします。これは免疫療法の一種であります。ミニ移植、非骨髄破壊的移植療法です。骨髄移植は骨髄を徹底的にたたいて、がんもたたいて、それでアロ(同種)の骨髄細胞を入れるというものでありますが、それほど強くはない軽い抗がん剤とか免疫抑制剤で処理した後にアロの幹細胞を入れるということによりまして、移入されたリンパ球がGVHよりもむしろGVT、患者さんの腫瘍に対して特に攻撃するということで非特異的な強い免疫効果をねらったものであります。これで造血器腫瘍に応用いたしましたところ非常にいい成果が出まして、ほかの方法では寛解に誘導できなかった症例のうち27例中20例で完全寛解ができたということです。固形がんでも試行中ですが、腎がんでは3例中1例で中ぐらいの程度のレスポンスがあったということで大変希望を持っております。

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  がん治療におけるQOLということで縮小手術というのは非常に大事なことであると考えています。これは国立がんセンターにおける早期胃がんの中で内視鏡的手術による割合の変化を示してる図ですが、ごらんのように非常に多くの例が内視鏡的手術で治療されるようになってまいりました。ワイヤーループをでかけて切除する方法では粘膜でのひろがりが2センチぐらいまでの早期がんしか切除できなかったんですが、この新しいナイフ、ITナイフは先端が絶縁体になっていて胃壁を突き破らないように工夫したナイフですが、これを開発いたしまして切りますとそれよりも大きくても完全に切除することができるということで内視鏡的治療の適応が増してきたということであります。

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  このようなQOLを目指した治療というのは頭頸部がんの領域でも進められておりまして、ごらんのようにこれは中咽頭がんの例ですけれども、腹直筋の皮弁というもので修復するということによりまして鼻咽腔閉鎖の機能や会話の機能などを非常に良好に保った手術的な再建もできるというふうになってまいっております。

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  このような先端的な研究を進めておりますが、これを光ファイバー等々で結んだ多地点のテレビカンファレンスで全国の拠点病院と結びましてテレビ会議で情報を交換し、研究や医療を推進するのに役立てておりますし、インターネットでの専門家あるいは国民一般に向けての情報提供も行っております。

(スライド)

  また、これらの研究のは、このがん克服に先立つ対がんで初めてできたポストドクトラルフェロー制度であるリサーチレジデントという制度を使いまして若い研究者の育成、活用をしたり、あるいは国際協力などが研究支援事業として行われるということで推進されております。
  それでは、資料の一番下のところに置いてあります2つのパンフレットをごらんいただけますでしょうか。「がん-厚生科学の挑戦」というのは若干古いんですけれども、今、御紹介したがん克服と助成金の研究の成果をまとめたものですので、お時間があるときにごらんいただければありがたいと思います。
  最後のところに「国立がんセンター疾病ゲノムセンター」というパンフレットがございます。これは、昨年から始まったミレニアムゲノムプロジェクトによって今がんについて取り組んでいることの紹介をしたパンフレットでございます。パンフレットを開いていただきますと、下の写真にたくさんの機械が並んでいるところがございますが、こういう機器の導入によりまして大量のシークエンス、それから個人間の違いのSNP、その大量のタイピングができる。また、非常に多くの遺伝子についての遺伝子の発現の解析ができるという体制が整いました。これによりまして、このパンフレットの左のところに書いてありますが、がんになりやすさ、それから抗がん剤の副作用が起こるかどうか、そういったものの予知の情報を集める。それから、個々の患者さんのがんの特性についての遺伝子発現あるいは突然変異の解析による情報を集めるという研究を進めておりまして、個々の患者さんに合ったがん治療あるいは個々のリスクを背負った方に合わせたがん予防というものを目指して研究しているという状況であります。以上です。

【菅野座長代理】

  ありがとうございました。御質問は後ほど一緒にちょうだいいたしたいと思います。それでは、続いて文科省関係の代表としまして東京大学分子細胞生物学研究所の鶴尾所長お願いします。

【鶴尾研究所長】

  東大の鶴尾でございます。どうぞよろしくお願いします。
  文部科学省のがん研究、正確には科学研究費によるがん研究ということですが、報告させていただきます。今日までいろいろな成果がありますが、今まで挙げられました主な5つの成果、それから私どもが最近行っており、実際に動いておりますがん研究の中で分子標的治療委員会とがんゲノム委員会の研究及びその成果について発表させていただきます。

(スライド)

  まず第1の成果ですが、1つは大腸がんのがん抑制遺伝子APCの発見とその機能の解析がなされたということです。御存じのとおり、がんは幾つかの遺伝子変化によって生じるということが知られております。いわゆる多段階発がんですが、それによって悪性化します。大腸がん発症に重要な遺伝子、APCを発見し、その機能を明らかにした研究で東京大学医科研の中村先生中心の研究です。すなわち、大腸がんの多段階発がんでAPCの不活性化とかrasの活性化、その他いろいろな遺伝子変化でがんが発生するわけです。特に大腸がんではAPCの変異が80%あると言われておりますが、中村先生は家族性大腸ポリポーシスからAPCの遺伝子をクローニングしました。
  がん研の野田先生はこのAPC遺伝子をノックアウトしますと確かにがんができる。抑制遺伝子をノックアウトするからがんができるわけですが、確かにがんができるということを見出しました。それから東大分子細胞生物学研究所の秋山先生は、このAPCの正常な機能として細胞が増殖する、悪性化する機能を持っておりますし、浸潤とか転移にも関係するということを発見しております。

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  次の成果は成人T細胞白血病、ATLですが、この原因ウイルスを解明したということです。このウイルスを明らかにするとともに感染あるいはその予防に成功しております。ATLは御存じのとおり、主に日本に特殊な白血病でして、日本における研究成果はウイルスを発見したということ、そのウイルスを分離したということ、それから基礎的には東大の吉田先生の仕事ですが、発症のメカニズムを解明した、特にtaxというがん原遺伝子がありますが、taxの多くの機能を解明しまして、ATLが発症する分子メカニズムを解明しました。
  それから、もう一つ特質すべき成果は母乳を飲ませることによって赤ちゃんにこのウイルスが感染するということがわかりました。あるいは、輸血によって感染するということも解りました。したがいまして、母乳を絶つあるいは輸血、血液検査をするということで、特に新生児に対する感染は現在90%の効率で予防ができるという成果を得てます。これは予防、治療ということでも非常にすばらしい成果だと思っております。

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  それから3番目の成果に、アポトーシスの研究があります。アポトーシスは、細胞が自分で死んでしまうというメカニズムです。このアポトーシスは、近年生物学の領域では非常に注目されている研究です。このアポトーシス、細胞死の異常は発がん、あるいは私どもの領域では抗がん剤が効かないということと直接関係いたします。アポトーシスは非常にがんに深い関連を持った研究です。
  阪大の長田先生たちはこのアポトーシスに伴って起こります遺伝子が壊れる、DNAが壊れる、その分子機構を世界に先駆けて明らかにしました。アポトーシスの情報が入りますと、あるたん白分解酵素が活性化するということがわかっております。それからDNAが壊れるということがわかっておりまして、恐らくDNA分解酵素が作用するのであろうということが予想されていたわけです。しかし、その細かいメカニズムはわからなかったわけです。たん白分解酵素が直接もちろんDNAを壊すわけがないわけでして、長田先生はこのDNA分解酵素がある阻害たん白質と一緒になっている、たん白分解酵素は阻害たん白を壊すことによってDNA分解酵素を活性化してDNAを壊すことを見出しました。コロンブスの卵といいますか、逆転的な発想でこのアポトーシスのメカニズムを世界に先駆けて解明したということで非常に評価されています。この研究に始まりましてアポトーシスの研究は、基礎、それから治療領域で日本ではいろいろな研究が進展しております。

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  それからもう一つの研究、これは細胞間接着の分子機能とその異常です。京都大学の月田先生を中心とするものです。細胞が接着するということは細胞が社会、集団をつくる、それによりまして正常な人体を形成するのに非常に重要なプロセスです。この接着が異常になりますと、はみ出したアウトローの性質をもった細胞が出てきまして、それががん細胞になりますし、あるいは増幅し、転移をするわけです。この意味では、接着というのはがん化あるいは悪性化に非常に重要な現象です。
  月田先生たちはこの接着に関与しますオクルーディンあるいはクローディンという分子を明らかにしたということです。タイトジャンクションにありますオクルーディンあるいはクローディンといった分子腫を明らかにした訳ですが、これは何をしているかといいますと、お互いに接した細胞の膜に存在し、膜の外に出た部分で非常にタイトな接着をするというメカニズムを解明したわけです。このメカニズムはおそらくがん化、更には転移の研究に役立つと考えられております。

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  それからもう一つの研究は転移です。東大の清木教授は細胞膜に結合しました組織破壊酵素、MT-MMPと名付けておりますが、これを世界に先駆けて発見いたしました。転移というのはいろいろなステップを経て起こります。あるがん細胞が血管にくっ付いた、そこから臓器に受入していくわけですが、そのときこのMT-MMPはドリルの役をするわけです。組織に穴を空けまして、がん細胞が受入していくというメカニズムを明らかにしたということです。この成果は、先ず診断、すなわち悪性のがん細胞の検出の指標として利用されようとしておりますし、さらに阻害剤の研究が国際的に進んでおりま。MT-MMP阻害剤の開発は現在国際的な競争になっております。

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  次に現在私どもが行っておりますがんの研究組織の話をさせていただきます。現在文部科学省では特定領域研究(C)という形でがん研究が進んでおります。ここには6つの領域がありまして、総合がん、発がん、がん生物、がん治療、がん疫学、それと先端がんです。先端がんは先ほど廣橋先生の御紹介にありましたように厚生労働省のがん研究組織と対応している組織でございます。

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  5つの領域、すなわち発がんから先端がんではいわゆるがんの基礎研究、基礎治療研究を行っているわけですが、総合がんは全体のがんの研究調整、企画等を行っております。総合がんには幾つかの組織がありますが、特徴的な組織は研究推進委員会で、新しい国際的に注目されている研究を推進しようということで進めております。今日はこのがんゲノム推進委員会と分子標的治療研究推進委員会の2つについて説明をさせていただきます。

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  まず分子標的治療研究推進委員会です。分子標的、すなわちがんの本体がわかるにつれてはっきりしました標的を目がけた薬が開発できないかということが考えられています。これは一つの例で、私どもの研究ですが、この研究はもちろん長い歴史がありまして、豊島先生のバイオがんの時代からやっていた研究ですが、いわゆる抗がん剤が効かない耐性細胞、その細胞にはある特殊なたん白質が発現しているということを見出しました。それはP-糖たん白というたん白質ですが、このたん白が何をしているかといいますと、細胞の中に入ってきた抗がん剤をくみ出してしまうポンプの役割をしております。それによって薬が効かなくなる訳です。このP-糖たん白質は正常な機能も持っており、薬物輸送に関与していますし、特に有名なのでは血液脳幹門に関与します。脳は薬が到達しない薬の聖域ですが、脳血管細胞にこのたん白質が発現して薬の排除に機能しているということがわかりました。この研究でオリジナリティのある成果といいますのは、このP-糖たん白を阻害する物質を見つけたということです。現在このP-糖たん白を阻害することによって耐性克服ができるということで研究が進んでおります。いわゆる耐性克服薬剤が日本におきまして初めて見つかったということで国際的にも注目されています。

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  もう一つ、分子標的研究の成果をお話致します。それはレチノイド療法でして、細胞毒素によらない新しいがんの分子標的化学療法ということを目指しています。レチノイドはビタミンAで代表される化合物ですが、これは核内の受容体に働きまして、くっ付くということで作用のスイッチがオンになり、いろいろな反応が起こります。東大分子細胞生物研究所の橋本教授らは、このレチノイドに似たいろいろな化合物を合成しております。1つはAm80、もう一つはTAC101という化合物です。Am80は現在日本で臨床第Ⅱ相研究の状況でして、APL治療のオーファンドラッグとして開発が進んでいます。ATRAで治療した後に、再発の患者さんに対してもまた有効に反応する、6割ぐらい反応するということで注目されています。Am80は近々薬になるのではないかと思っております。  それからもう一つのTAC101、これは日本では臨床研究ができませんで、現在アメリカで臨床第Ⅱ相研究をしております。固形がんに効くということで注目されている薬です。

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  それからもう一つ、この総合がんの研究推進委員会にゲノム研究推進委員会があります。この委員会と分子標的委員会の共同のプロジェクトとして疾患遺伝子プロジェクトがあります。内閣の内政審議室主導のミレニアムプロジェクトの一環です。このプロジェクトの目的は薬剤反応性をゲノムレベルで研究しようということ、さらにそれから将来有効ながん薬物療法を確立しようという2つの目的があります。そして将来応用的なアレイをつくろうということと、全国の大学に遺伝子が解析できる拠点をつくろうということで研究を進めております。  実際に何をやるか、対象は新薬です。なぜ新薬に興味を持っているかといいますと、新薬の場合にはいわゆる有効性のデータの管理がきちんとしているということ、それからこういった研究で薬が2つ以上入ってきますとデータの解析が非常に難しいが、新薬の場合は単剤でデータが出ますので明確な対応が得られるだろうということで興味をもっております。ただ、これはいわゆる臨床の治験ではありませんで、治験と並行した臨床医の自主研究ということで進めております。臨床医の研究の興味ということのみではなくて、がん患者さんの遺伝子をいただきまして、それを解析する。あくまで将来のがん患者さんのために研究をするという立場で取り組んでいます。  研究は2つありまして、1つはSNPの解析です。もう一つは遺伝子発現解析で、後で少し詳しく述べます。1、2年で終了させる予定で、将来もう少し現場で簡単に使えますアレイをつくろうということを計画しております。構成員は大学教官を中心としました臨床医です。

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  それで、何をするかですが、1つはがん患者への有効な薬剤の提供ということです。逆に言いますと、無効な薬剤を排除する。この無効な薬剤を排除するということも非常に重要な意味があり、特に経済的な負担を軽くするということでは非常に大きい意味がございます。それで何をするか。がん組織での遺伝子発現パターンを解析することによって目でみれる遺伝子発現のパターンが出てくるわけですが、この情報に基づいて、ある患者さんに効くであろうという薬剤を推定できるということです。同時に、先ほど言いましたように無効な薬を使わないようにするということもできます。

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  それからもう一つは副作用です。ここではがんの組織ではなく、患者さんの正常組織を使いまして患者さんの体の細胞の遺伝子の情報を知ることで、副作用を起こす可能性のある薬を使わないようにしようということです。いわゆるSNP解析ということをやりまして、例えばこの患者さんにこの薬は副作用が出ますよという情報を得ようとしております。前に述べました発現解析とこのSNP解析によりましていわゆるオーダーメイド治療を目指す。2枚のスライドで示しますと簡単ですし、あるいは言葉で言いますと簡単ですが、必ずしもオーダーメイド治療というのはそれほど簡単だとは思っておりませんが、私どもは将来オーダーメイド治療を目指したいということで研究を進めます。

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  これは最後です。他省庁、他の研究領域あるいは社会との接点ということですが、1つは先ほど廣橋先生のお話にございましたように厚生労働省のがん組織との連携です。主に先端がんがその責務があるということで、シンポジウムを通した交流あるいは総括班の班員相互で情報交換しております。
  それから、もう一つは文部科学省の中の話ですが、文部科学省のミレニアムプロジェクトのゲノム研究及び脳研究と密接な関係を持っております。また私どもは社会に対しては発表会を年に2回、それからこのミレニアムプロジェクト合同でやはり毎年発表会を行っております。それから、私どもの情報はホームページで公開されております。さらに、昨今問題になっております遺伝子解析ということではガイドラインに従って対応しております。加えて、今後の研究では若手は非常に必要でございますが、若手支援ということで、若手研究者の独創性に富む研究を支援する体制をとっております。
  現在のがん研究の目標は「がんの本体解明から克服へ」というキャッチフレーズで進められていますが、私ども文部科学省のがん研究では本体解明につきましていろいろな成果が得られております。また、分子指標的治療あるいはゲノム研究をベースにしまして、克服に向けても着々と研究が進んでおります。以上でございます。

【菅野座長代理】

  ありがとうございました。それでは、次は前の科学技術庁の放射線医学総合研究所、新しく文部科学省になりましたわけでございますが、その放射線医学総合研究所の辻井病院長よりお願いいたします。

【辻井病院長】

  私、放医研の辻井でございますが、「重粒子線によるがん治療研究」ということで研究成果の一端をお話させていただきます。最初に成果を述べて、その後で重粒子線とはどういったものかを簡単にお話ししたいと思います。

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  放医研の重粒子治療プロジェクトは1984年に対がん10か年総合戦略の一環としてスタートし、5年をかけて建設、完成しております。平成6年に最初の患者さんの治療を開始して、現在第1/2層又は第2層試験を行っているところです。

(スライド)

  加速器はハイマックと言われていますが、いろいろな粒子を加速する能力を有しております。治療用にはどういった粒子を使うかということが大変問題になりました。これについては後でお話ししたいと思いますが、第一に線量分布、それから生物効果の2点を考慮し、なかでも一番バランスがとれているという判定の下、カーボンイオンを使うことに決めました。

(スライド)

  これがハイマック重粒子線治療装置の全容です。これがイオン源、これは線状加速器で、これが主リングです。最終的に光の80%ぐらいまでに加速された粒子はビームラインを通って、A、B、Cという3つの治療室まで導かれます。我々の装置は治療以外にもこちらの方に物理ビームラインと生物ビームラインがある総合的な共同利用施設として運営されています。

(スライド)

  これが加速器の一部で、これが高周波加速器、偏向マグネット、およびビームを平坦にするための磁石などです。さらに粒子線治療では初めて多葉コリメータ多用というものも開発いたしました。

(スライド)

  これが治療室で、手前にコントロール室があります。

(スライド)

  臨床試験を倫理的かつ科学的に行うためには体制作りが重要であるということで、ネットワーク会議、これは国立がんセンターの前総長の阿部先生にお願いし、現在は東病院の海老原先生にお願いしております。プロトコールは計画部会でつくります。プロトコール作成は評価部会、倫理委員会を経まして、個々の患者さんは必ず倫理委員会で承認の下に治療を行うことにしています。治療結果が評価部会にいく前には臨床研究班、これも外部委員から構成されておりますが、そこで評価をしてまとめるということになっています。

(スライド)

  プロトコールはこれまで30ぐらいつくられております。それぞれの疾患につきましては方針を立てていますが、青色のものが第1/2相試験で、主に副作用を見る。第1/2相試験で、ある程度安全性がみられ、推奨線量が決められたものはこのピンク色の第2相試験にいくということでございます。多くの疾患は2つ位の第1/2相を経て第2相に移っておりますが、骨・軟部のようにひとつの第1/2相を行ってからすぐ第2相に移ったものもあります。

(スライド)

  これが経時的な患者さんの蓄積状況でございます。最初は頭頸部、それから脳、肺をスタートさせ、翌年、肝臓、前立腺、子宮、骨・軟部、それから最近は膵臓がん、これは術前照射として行いますが、こういったものを行っております。

(スライド)

  多くの試験が主に副作用を見る第1/2相試験で、これは副作用の発現をまとめたものです。多くの場合、急性期を過ぎますと治りますが、問題になるのは遅発反応です。これまでに1,000例ぐらい治療しておるんですが、初期の頃は、一番高い線量のところで、16例、比較的重篤な副作用が出ております。2人が食道がんで、最終的には再発で亡くなったんですが、それ以外は幸いなことにがんはコントロールされていずれも元気で外来に通院しています。こういったデータを詳細に分析した結果、最近は同じような副作用はほとんど出なくなっています。

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  これは各疾患について制御率、奏効率、生存率をまとめたものです。これは放医研のウェブ上でインターネットで公開しているデータです。

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  これは局所制御率の表です。多くの第1/2相試験は、生存率は第1のエンドポイントではないのですが、それも計算してみました。いずれも数は少ないんですが、従来の方法と遜色がないか、非常に良好という評価を受けております。

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  これは、他施設から報告されている2年生存率と比較したデータですが、一つの参考としてこういったものもできるだけ示すようにしております。

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  症例を何例かお見せします。これは比較的小さな肺がんです。CT検診でこれ位の早期がんが見つかった場合は重粒子線治療の適用になるのではなかろうかと思います。この例は重粒子線2門で治療したもので、飛跡に沿って線維化がはっきり認められました。この方は下から1門、横から1門で照射しましたが、それぞれ病巣のところでぴたりと止まっているということがこういう線維化のでき方でわかります。
  4方向からこういった肺がんを治療しますと、治療後は病巣及びその周辺のところに限局した線維化でとどまるということで、もちろん患者さんは全く症状はございません。

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  これは副鼻腔から出た大きな悪性黒色腫ですが、治療前と治療後の写真です。

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  これは仙骨の骨肉腫で、治療後には病巣部に石灰化がきております。もう1例は仙骨脊索腫の治療前、治療後です。

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  この表は従来の方法と、放医研の成績の間で、何が違うかというのを見たものであります。放医研の成績は第1/2相試験でも結果は非常によろしい成績であるということが分かります。

(スライド)

  これは脊索腫の治療結果であります。

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  これが今までのデータのまとめですが、特に扁平上皮がん以外の悪性黒色腫、骨肉腫の成績が良好で、肺がん、肝臓がんに対しては特に短期の2回から4回ぐらいの治療法が効果的でした。食道がん、消化管原発のもの、あるいは消化管のごく近傍のものは問題があるので適用外にすべきであるという結果であります。

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  ついで、重粒子線の特徴について簡単に申し上げたいと思います。空間的線量分布、つまり病巣への選択性と、生物効果の2つが放射線治療の特徴と言われておりますが、重粒子線というのはこの両方を兼ね備えているということです。

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  何よりも魅力的なのは、粒子が体内に入りますと深くなるに従って生物効果が高くなるということです。したがいまして、手前のプラトーと深部のピークのところの線量比を取ると、炭素イオン線が一番高いという結果でした。これがいろいろな粒子の中で炭素線を選んだ理由です。

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  重粒子線の特徴をまとめますと、線量集中性が良好であり、細胞致死効果が大きいの2点です。特にピーク部分はX線や陽子線の2倍から4倍の強さであります。それから、酸素濃度が低くなりますと腫瘍が効きにくいが、そういったものも効いてくれます。また、細胞周期のどの位相にある腫瘍に対しても有効で、また細胞が損傷を受けてもその回復が少ないという特徴があります。

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  では、重粒子線がどのような患者に適用できるのであろうか。現在がん死亡数が約30万人、年間罹患率が約50万と言われておりますが、一方で、治癒率45%、再発55%です。がん死亡の約3分の1、全体の18%が局所が治らないために亡くなっているというデータでございまして、これが重粒子に限らず局所療法がこれから相手にしなくてはならない対象であると考えられます。つまり約10万人の患者さんが、こういった新しい局所療法の対象になるのではなかろうかということであります。

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  これが日本の粒子線治療の現状です。放医研は臨床、生物、物理の専門家が三位一体という恵まれた環境にありますので、他の施設等の研究開発にこれからも尽力していきたいと思っております。

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  これは粒子線治療の世界の状況でありますが、稼働中のものが放医研を含めて今3施設であります。最近になってハイデルベルグ大学とストックホルム大学が予算が付いたということで、それ以外にも調査費が付いているところが2施設あり、重粒子線治療はカーボンイオンを中心に世界的に広がっているということであります。

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  放医研の重粒子線治療は、今後は高度先進医療としての認可を目指したいと考えています。しかし、まだまだ解明しなくてはならないものについては研究を続けたいと思っています。それから、これまでの蓄積されたデータを解析して生物効果について研究を続けたい。それから、前の演者によるオーダーメイドという話もありましたが、こういったぎりぎりの局所療法をいたしますとこういったデータを有効に使うことができると思います。それから、全国での本治療法の普及に向けて小型加速器を開発したい。そういったところが今後の展開です。以上でございます。

【菅野座長代理】

  ありがとうございました。ここで御質問をちょうだいするべきでありますが、大分時間が過ぎておりますので、御質問の方は個々にまたお願いをいたしたいと思っております。只今の3先生の御説明のように極めて大きな成果が上がっているところでありまして、御努力大変ありがとうございます。
  それでは次の議題に進ませていただきまして、がん研究の展望について国立がんセンター総長の寺田総長より御説明をお願いいたします。

【寺田委員】

  がんセンターの寺田でございます。展望というのは大変おこがましい話で恐縮なんですが、一般的にこれから検討していただくがん研究に関しての議論をプライオリティを付けずに全体的なお話をまずさせていただきたいと思います。
  これは皆さんよく御存じのことで、やはりがんが随分増えておりまして、残念ながら3人に1人の方が亡くなっているということでございます。

(スライド)

  がんと言いましてもいろいろながんがございまして、胃がんの方は年々死亡率が減り始めておりますが、一番難治がんの膵臓がんはどんどん増えております。それから肺がんもそうですし、女性も肺がんは増えております。だから、がんと言いましてもいろいろながんがあって、がんという全体を総括して言えるわけではないわけであります。

(スライド)

  がんの治癒率、例えばがんセンターの場合には胃がんなどは、これは全体のミックスチャーでございますけれども70%ぐらいの5年生存率ですが、肺がんとか食道がんというのはまだ下です。膵臓がんはここには書いてございませんが、もっと下ということであります。

(スライド)

  私の考えでは、がんの研究の目的といいますのは非常に単純化していいますとがんの死亡率を減らすことである。そのための研究である。それは当然、正常な社会生活への復帰ということを考慮したがん死亡率の低下で、がん死亡率の低下を来すためにはがんの発生を抑えるか、あるいはがんの治癒率を上げるか、どちらかを対象にした研究になります。それからもう一つは残念ながらがんの患者さんの50%ぐらいの方が亡くなられるわけですから、その亡くなられる方に対してケアをどういうふうにするかというための研究ということがあるかと思います。

(スライド)

  過去30年、1960年の後半からの分子生物学を中心にしておりますが、生命科学の発達とコンピュータサイエンスのこの2つの学問が技術的にはがん研究の主たる促進力になってきているのではないかと考えます。それで生命科学の方はがんの発生機構、それから予防と今後いろいろ医療の現場に入ってくると思いますし、一方コンピュータサイエンスを基にしましたIT、それからナノテクノロジーなど医用工学、情報解析が現実の医療の現場で使われその傾向は益々進むと考えます。例えばこの分野は画像診断、体腔内あるいは内視鏡の手術ということに発展してきております。大きな問題のQOLというのはこれとは別個の問題で紫式部の時代、もっと前からの時代のヒトの心の問題などが含まれております。

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  がんの発生を抑えるという一次予防ということに関しまして実際の方策といたしましては環境の発がん物質を除去する、生活習慣の改善があります。それからがんの中で肝がんに関与するC型肝炎だとか子宮頸部がんに関与するパピローマウイルス、それから胃がん発生に関与する可能性のあるヘリコバクターなど、がんに関連するウイルス、細菌を除くということ、それに対するワクチンとか、さらに遺伝的な高発危険群を把握して個別化した予防に対する研究が大切です。またそれからがんの化学予防剤、保健機能食品とかの投与ということが一次予防の研究の中に入ります。一次予防の研究といたしましては当然のことながらこれまで3人の先生方が話された中で発がん要因の同定とか抑制要因の同定、生活習慣の改善法など研究があてはまります。生活習慣をどうするかという行動科学は今までやっていなかったことですが、これから大事になってくる研究分野だと私は認識しております。
  それから分子生物学とか細菌学、そういう手法を用いて新しいがん関連ウイルス、細菌の同定はこれから当然やっていくことでございますし、がんに対する易罹患性、抵抗性、これも当然やっていくことだろうと思います。予防剤の有効性、安全性の評価は薬でも難しいのに健康な人に与えるわけですから大変評価は難しいと思いますが、こういう易罹患性という話が出てきますと、必ずこれは何らかの方法でやっていかなくてはいけないと考えます。「あなたはがんになりやすいですよ、ではさようなら」では済まないことは当然です。

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  診断方法といたしましては当然ですが、こちらで現実に行われていることで、問診や触診などは非常に大事でございますが、生体材料を用いた診断のための腫瘍マーカー、遺伝子診断の話があります。がんの場合、遺伝子診断には2種類あります。第一は発症前で、生殖系列の細胞の遺伝子をしらべて、がんになりやすい、なりにくい、あるいは薬剤反応性をしらべる目的での遺伝子診断があります。第二は発症後、がんの場合は体細胞の遺伝子の変化で起きるわけですから、がん細胞の遺伝子変化をしらべて、がんを遺伝子のレベルで確定診断する、あるいは予後の判断をする、あるいはがんに関しての薬剤の反応性を把握していくということがはじめられており、今後、急速に発展すると考えます。それから現実に臨床の場で盛んに用いられております画像診断の有用性は、CT、MRI、超音波などがんの診断に欠かすことが出来ず、自働診断を含めて益々発展すると考えます。
  これに、研究といたしましてはこれも当然のことでございますけれども、遺伝子のみならず、有用な抗体の研究があります。それから腫瘍マーカーの研究が大変重要となります。スクリーニングの場合に高危険群を狭めるために必要だと考えられます腫瘍マーカーの研究などはこれから当然やっていくべきことだろうと思います。画像の研究も大部分が医用工学をやっている方、あるいは企業の方との密接な協力の下にこういう研究が促進されるものと考えます。私の頭で考えられる診断に関する内容はこのぐらいのことでございます。特にがんの場合は画像ということが大変重要です。全体のがん医療のレベルの向上のために病理の診断あるいは画像診断を遠隔でやるということを、自働診断などが10年先のスコープの中で考えると重要になります。

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  それから、がんの治療法について話します。がん治療法は何と言ってもやはり手術ですし、機能温存手術、いろいろな縮小手術とか、体腔鏡とか、こういういろいろな手術法の開発・改善が行われています。ナノテクノロジーなどを用いたこういう手術とかロボット手術がどこまでがんの領域に使われるかわかりませんが、非常に繊細な手術などに有用だろうと考えております。場合によっては人工臓器も含め移植が大切になります。
  それから、画像などは医療機器のところは先ほど辻井先生がおっしゃいましたけれども、放射線療法を行う場合にも大変大事だろうと思います。生命科学のゲノムあるいはたん白質、ポストシークエンスゲノム時代のたん白質科学でがん細胞の特異的な分子あるいは情報伝達系の把握による分子標的治療とかDDS、ドラッグ・デリバリー・システムがこれから当然のことでございますけれども重要で、製薬企業などと一緒にアカデミアが協力してやっていかなくてはいけない分野であります。新しい分野といたしましては免疫学、がんに対する免疫の話、遺伝子治療、あるいは細胞治療、要はこういうことを含めまして集学的治療が進んでいくんだろうと考えますし、そのための各分野の研究の発展が高まると期待されます。

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  今のはずっと一次予防、二次予防あるいは診断、治療という立場から話を致しましたけれども、別の切り口から重要な研究、事業、インフラストラクチャーの整備などという点から見ます。やはり我国全体のがんの実態を把握するということで研究というよりも事業としてのがん登録、地域がん登録をきちんとしたことを事業とすることがどうしてもやはり必要です。今やっているがんの研究あるいはがんの治療方法が本当にがんの死亡率を下げているのかどうかというようなことも、全体を知るためにがん登録は是非必要です。日本ががん研究、がん医療のいろいろなところで進んでいますが、地域がん登録がきちんと先進国の中ではできていないということは大変私は恥ずべきことだと考えています。個々の研究者が研究費の範囲で一生懸命頑張ってがん登録をしてメンテナンスしてくださっていますが、やはり国家の事業としてよりきちっとした形で行うことが必要だと思います。
  次に臨床研究の推進について述べます。企業が主導する治験は近年整備されてきました。しかし、研究者が主導する治験、薬の併用の仕方とか手術技法とか、そういうことに対する国の研究費のサポートは大変少なく、インフラストラクチャーも整備されていません。がんの先端医療の研究と同時に国民が同じスタンダードのがん医療を受けるためにはがん医療の均てん化ということがどうしても大事ですし、一方また標準的な診療の方法をまず確立することと、それをどういう形で普及するかということが大切になります。また別問題でございますけれども、がん情報を正しく伝えるため私ども国立がんセンターが今やっていますホームページでやること以外に、パンフレットとか講演会だとか展覧会だとか、あらゆる機会をつくって国民と専門家の情報交換と専門家同士の情報交換と研修を通じての均てん化が大切です。それからこれからはますますがんの研究の国際化が大事になってくると思います。がんは今や先進国の病気ではありません。タイではがんがたしかナンバー3の死因になっているということですし、今や先進国の病気から全世界国々にとって大問題の病気になっておりますので国際化、いろいろなところと協力して研究をしていく必要があります。
  それから、21世紀は当然でございますが、がんの研究といいますのは国民、患者の視点の重視がより重要となります。それからこれは研究じゃないんですが、がんの医療としては医療へのアクセス、医療制度を少なくとも今の状態のまま維持することは大変大事です。御存じのように日本はGDPの8%、アメリカは14%を医療費に使って、しかも世界中で一番の長寿であり、健康寿命が長いわけです。日本のこういう環境の中でがん臨床研究や基礎研究をどういうふうにやっていくか。日本の中でのオリジナルな仕事を生み出すようにすると共に、日本にあったやり方を考えなくてはいけないというふうに考えています。

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  これは余分ですが生命科学と健康科学の差を述べます。先程述べましたとおり、生命科学が随分発達しました。しかし生命科学は健康科学の一部にすぎません。しかも健康科学が国民の健康・福祉に役立つにあたり企業あるいは医療機関を通じて、現場で開発あるいは検証され、パブリックのドメインを通した安全性、有効性の審査というものが必要であります。そこで初めて国民の手元に研究成果が医療・福祉として入るのです。がん研究は生命科学としての研究、医用工学、経済学、倫理学を含め、また当然医療機関における診療・予防法の開発や企業における薬の開発や国の規制科学までを含めた多くの分野を包括した健康科学の研究であると考えます。

(スライド)

  ここにいらっしゃる方にこんな当然なことを言って申し訳ありませんが、今日のがんの予防とか診療は、これまで日本だけではなくて世界中のいろいろな方々が行った昨日までのがんの研究の結果を基にしているわけですし、21世紀の明日のがんの克服につながる予防、診療をやるためには今日のがんの研究が非常に大事であるということです。わかり切ったことですがこの有識者会議の重要性を強調するため出しました。

(スライド)

  がんの研究は、先ほどお聞きになりましたようにこれまでの旧厚生省、文部省、科学技術庁と3省庁非常に仲よく、しかも研究者同士でも省庁レベルでもお互いの溝は全くなく情報の交換を非常によくやってきました。文部省と科学技術庁は文部科学省として一つになりましたけれども、厚生労働省とそれぞれの特色を生かしてがん克服に向かってオールジャパンでやっていますし、これからもそのような体制で患者のための研究をやっていくのが非常に大事であろうと思っております。以上です。

【菅野座長代理】

  寺田先生、どうもありがとうございました。がんの研究、診断、治療を中心にされて、更に国民の生活、医療という立場からも述べていただきました。ここで先生に何か御質問等がございましたら1、2お受けしたいと思います。あるいは、先ほどの3先生への御質問も含めて結構でございますが、何かございましょうか。ございましたら、簡単に短く質問をしていただいて、また短くお答えいただくということをお願いしたいのですが。

【坪井委員】

  非常に簡単なというよりも、初歩的なことになるのかもしれませんが、新10か年計画の成果というのを今日私はまとめて聞かせていただいてすばらしい成果が得られているなというのが正直な気持ちなんですが、お互いに専門の先生方はまだまだと思っておられるんだと思いますけれども、世界のがんの研究の中で日本のがんに対する研究のレベルというのはどのぐらいと考えたらいいですか。

【寺田委員】

  大変難しゅうございまして、基礎の研究のところはいいところをいっているという感じがします。それは自己満足・礼賛じゃなくて大変いいところにいっていると思います。臨床の方は専門の先生方は委員にたくさんいらっしゃいますので、そこのところは二村先生とか高久先生とか、そういう先生にお答えしていただいた方がいいかもしれません。

【菅野座長代理】

  それでは北島先生お願いします。

【北島委員】

  我々外科においては特に欧米に比べて遜色するところは全くありませんで、むしろ先ほどいろいろ治療方針で出てまいりましたいわゆる縮小化、低侵襲化手術に対してはセンチネンリンパ節ナビゲーションを導入したがん手術等は日本が主導的立場にあると私は確信しております。

【菅野座長代理】

  ありがとうございました。二村先生、いがかでしょうか。

【二村委員】

  私は先ほど寺田先生からの御紹介にありました膵臓がんとか胆道がんとかの特に難治がんをやっておりますが、手術療法の技術的なものでは世界の最高峰にあるんじゃないかと思います。
ただ、手術療法の結果を評価する方法が国際的に見まして日本はどうしてもクラシックな方法をとっておりますので、これを国際的に堪え得る評価をするために外科医の意識改革の初歩段階に入ったところだと思っております。ですから、いい技術を持っている日本の外科治療成績をどうやって評価するかということが今、最大の問題かなと思っております。

【菅野座長代理】

  ありがとうございます。それでは、先生方の研究の方からお一方ずつ簡単にお願いします。

【廣橋研究所長】

  今のお話のように基礎では、幾つかの分野では日本がはるかに優れた研究をしているところもあるし、決して負けないだけの研究をしていると思います。臨床は今おっしゃられたとおりだと思いますが、基礎で得られた研究成果を臨床につなげるというところで弱かったかなということを反省して、これからのがん研究に基礎研究の成果を臨床に応用できる仕組みを是非つくっていかなければいけないと思っています。

【鶴尾研究所長】

  私が本日示しました研究成果は世界で初めて見つかったというものが多いということでは研究成果は世界に誇れるものだと思っています。文部科学省の場合はどちらかというと基礎研究に重点がございますが、治療ということでも、最後に申し上げました分子指標的治療、これは国際的にも進んでおりますが、我々も頑張っております。こういった領域から新しい薬が出ることを期待しています。それから、ゲノム研究もゲノム全体では世界と比べ少し遅れているんでしょうけれども、疾患遺伝子研究で、ゲノムを解析するということではゲノム委員会と分子標的治療委員会を中心に頑張っております。

【辻井病院長】

  私は放射線腫瘍学という立場から申し上げます。日本と欧米とではいわゆる先端医療に関して、特に重粒子線とかX線の容積度照射法に関しては技術的にはほとんど同じです。しかし、平均的な実力を比較すると日本はかなり落ちているのかなと思います。それから箱物といいますか、建物や診療装置はいいんのですが、それを支える、例えば放射線治療をやるのに臨床医はある程度いても、それを支える物理学者とか生物学者とか、そういった全体的な組織はやはり差があると思っております。

【菅野座長代理】

  そのようなことでございますが、よろしゅうございますか。

【坪井委員】

  ありがとうございました。

【菅野座長代理】

  では、井村先生どうぞお願いします。

【井村委員】

  科学技術会議では、科学技術基本計画に基づいて5年間で研究費を17兆円投入したわけですね。これは結果としてそうなったわけで、計画的にそれだけのお金を使ったわけではないのですけれども、それの評価をやっているときに感じたことは基礎的研究、これはがんに限らず全体ですけれども、過去数年間非常に伸びてきております。それは外国人もそう評価してくれています。
  ところが臨床研究、先ほどからちょっと話題になったように、それはその間にはほとんど改善されていないんじゃないかという心配を私はしております。その理由は先ほどからお話があったとおりで、1つは基礎研究を臨床に生かす、トランスレーショナル・リサーチが日本ではシステマティックに行われていない。そういう研究機関なり、そういうものがないということが1つと、もう一つ臨床研究をきっちりしたデザインでやって、そして統計学をきちんと使って評価するということが弱いんじゃないかと感じております。
  したがって、私として質問したいことは、これから特にこのトランスレーショナル・リサーチをどのようにしてやっていったらいいのか。それについてがん研究の分野でどんな取り組みがなされているのかということを伺いたいと思います。

【寺田委員】

  がん研究は今まで厚労省のがん研究助成金の中でJCOGという組織がございまして、そこがデータセンターとしての機能もしておりオールジャパンで研究者がイニシエートした臨床試験をやっています。これは国際的にも認められる水準の高いものになっています。
  ただ、データマネージャーもすべてアルバイトを雇ったり、本当にとてもじゃないですが信じがたいような状態で皆の必死の努力でやっているわけで、その規模も大きくありません。ですから、今後先ほど出ましたメディカルフロンティアプロジェクトとかというところで臨床研究に国のお金を出してくださるということなので、がんの研究におきましてもRCTなどもきちんとデータマネージャーなどをいれて企画をもっと多くの場できちんとやる機会がでてきました。先ほど申し上げましたが、国民全部が健康保険に入っているという日本は、アメリカとちょっと違う事情の中で何とか工夫をして、患者さんを大切にした臨床研究でやっていく必要があると思います。様々な改善が進んでいますが、治験以外にもおっしゃいましたように今までは臨床研究の症例の数で、要するに論文を送ってもNew.Engl.J.Medicine、LancetとかJAMAとか採用されにくいです。基礎研究はCellとかNatureとかは通るんですけれども、臨床研究がほとんど日本から通らないというのは井村先生のいわれる通りでそのとおりだと思います。インフラの問題が大きいと思います。

【菅野座長代理】

  鶴尾先生、いかがですか。

【鶴尾研究所長】

  トランスレーショナル・リサーチはちょうど私ども文部科学省のがんの組織が中心ですが、昨日、一昨日と北海道でシンポジウムをやりました。そこで臨床医の先生方を含めていろいろな要求が出てまいりました。
  1つは、トランスレーショナル・リサーチの科学的な基盤、何をもってトランスレーショナル・リサーチに移れるかという判断基準を考えたい。これは研究者に向けられた課題です。
  次は、だれがやるのかです。これは、大学で言いますとTLOとかいろいろな組織がありますが、日本においてはやはりベンチャーが育っていないというのが非常に弱いことだろうというのが一つの結論です。
  それから最後に3点目は基盤整備。トランスレーショナル・リサーチをやるための基盤整備が日本では非常に貧弱であるという議論もなされました。そこで特に2番目と3番目の点をどうやって解決していくか。今回は初めて私どもがんの研究会でやったシンポジウムでしたが、日本の弱いところをどうやって解決していくか、解決のためにどこに向けてお願いをしていくのかということを今後考えたいということです。是非有識者会議でもそういった方向の支援をお考えいただければ私ども非常に助かります。よろしくお願いします。

【高久委員】

  臨床の方に関係したものとして、今までの皆さん方の御意見に私は全く賛成です。先ほど鶴尾先生から薬剤耐性に対する新しい薬の話がありましたが、日本から発信される非常にユニークながんの治療薬がどうも欧米に比べて少し少ないという印象を持っています。最近世界的に話題になっているがんの薬のほとんどが欧米の製薬企業から開発された薬である。日本のがんの臨床研究にとって日本発の良い薬の開発という事を真剣に考える必要があるのではないかということを申し上げたいと思います。

【菅野座長代理】

  これに関して鶴尾さん、何かありますか。

【鶴尾研究所長】

  おっしゃっている点は常々考えさせられています。
  ただ、日本は薬がないかと言ったらそうではございませんで、例えば一昨年のアメリカ国立がん研究所で臨床に入った薬の半分以上が日本の薬なんですね。日本で臨床治験がやれないということで日本の薬が外国へ逃げているのが現状です。高久先生のおっしゃった分子指標的治療薬ということでは今イレッサとかSTIとかすばらしい薬があります。それはやはり基礎成果に基づいてトランスレーショナル・リサーチ的なものを経て薬になったわけです。私どももこれは言い訳ではございませんが、薬が開発できるというのはバイチャンスの面もあります。バイチャンスというのは研究費に依存しているという側面がございます。文部科学省のがんの研究費は基礎研究を含め全体で54億ですが、これは欧米の研究費に比べましたらはるかに少ないというのが実情だと思います。薬の開発はバイチャンスであるということも御理解いただきたいと思います。
  ただ、私どもは努力はしておりますし、先ほど言いました耐性抗克服剤あるいはレチノイドといったものは日本発の、日本の研究者発の薬です。それ以外に日本の会社発の薬というのは外国で評価されております。

【豊島委員】

  今、日本発の薬は少ないということと、それから昔から言われておりました日本では効かない薬を発売しているというアメリカからの非難がありましたね。
  でも、実際によく考えて実験してみますと、アメリカが非難している日本で発売している効かない薬というのは必ずしも効かないんじゃなくて、使い方が悪いとか判定法が悪いとか、そういうことがまだ山ほど隠れていると思うんです。
  それから、この対がん10か年が始まりますときに日本でプロポーズされて作用機序のわからなかった結核菌DNAのワクチン、ワクチンではなくてこれは抗がん作用とか、それからちょうどそのとき座長をなさった山村先生が開発されたが採用されなかったBCG-CWSとか、ああいうものに対するレセプターがどうなっているかというのが今わかってきました。わかってきたら、これは多分現時点では世界の研究の最先端の先天免疫に効くもののはずなんですが、これは幸か不幸か日本では実用化されない方向で、外国ではDNAに関してもダブルスランドDNAで今、ワクチン化の検討が始まっています。それで、これをどういうふうに我々としては対処していくかという問題が次に我々にも課されている問題だと思います。それで、その中のレセプターを決めたのは両方とも日本人のグループであるということもここで明記をしておきたいと思います。

【藤野委員】

  薬のことを言われると非常にあれなんですが、確かに日本発の薬というのは決して少なくないと思うんです。外国で使われている状況を見ていますと、がんの薬でもそうで、いいものが多いと思います。
  ところが、日本では非常にそういう薬の評価が低い。また売上げも小さい。そういうようなことは確かにあると思うんです。だけど、これからは随分変わってくるんじゃないかと思います。先ほどからお話のように、日本の基礎研究というのは随分進んできましたので、そういう成果が随分我々も目に入ってきますから、デザインその他が非常にしやすくなってきていることも確かですので、これから楽しみにしておいていただきたいと思っております。

【北島委員】

  先ほど鶴尾先生が述べられましたように、日本での薬の研究というのは非常にいい薬剤があるんですが、いろいろ御意見をいただきましたように日本での治験がシステミックにできないのが現状です。
  そこで、我々日本癌治療学会においてもそれを非常に危惧いたしまして、この空洞化を何とかしようということで、その一環として臨床腫瘍登録医制度を確立し、治験に関わる組織の充実を目指しております。この登録医制度をさらに発展させ、その空洞化を何とか早急に対応しませんと、ますますいい薬剤の治験が外国でやられてしまうというのが現状だと思います。

【富永委員】

  もちろんがん対策としてがんの治療は非常に大事ですが、これからは予防がますます大事になると思います。予防分野で2、3是非御理解いただきたいと思うのは、先ほど寺田先生が展望のところでもちょっと触れられましたが、地域がん登録は地味な研究と言っていいのか、事業と言っていいのかわからないんですが、非常に大事です。これは是非今後もきちんとした形で継続できるように対応していただきたいと思います。
  それから、がんの疫学研究で特に重要なのは10万人あるいはもっと多数の人を対象にして5年、10年と観察するコホート研究というのがありますけれども、このような研究は非常に金がかかりまして、国家プロジェクトのような形で今後新しいコホート研究を推進する必要があります。新しいというのは、これまでの過去のコホート研究はどちらかというと生活習慣などを中心にして、一部血液の検査もやっておりますけれども、今後はやはり遺伝子も考慮した研究が必要であるということです。
  それから、研究と言っていいのか、制度と言っていいのかわからないんですけれども、治療に対しては保険制度がありまして治療行為、医療行為に対する給付が行われておりますが、予防はまだそういう形になっていないです。ですから、将来は化学予防などを皮切りに、今までの医療給付だけではなくて予防給付もやるというふうに制度を改めませんと予防が推進しないと思います。化学予防などをやろうとする場合はメーカーにとってもメリットがないといけませんので、そういった研究以外の分野でも是非予防が推進しやすいように御配慮いただきたいと思います。

【佐々木委員】

  2点申し上げたいと思います。1つは既にお話がありましたようにエビデンスに基づいた個別化したがんの治療が今後の大きな課題になってくると思いますが、そのエビデンスを得るための体制が臨床の現場に必ずしも定着していないように思います。また、診療の面でも一人の患者さんの治療に当たって専門家が最初から集まってどういう治療をどういう方法でやるかということを話し合った上でプロトコールに従って治療し、またその結果をフォローすることが今の医療現場ではやりにくい、あるいはやるべきであってもやられていないのが現状であると思います。そういうシステムをつくる努力がエビデンスを得、診療の質を高めるという両面で今後非常に大事になってくると思います。
  第2は辻井病院長が既にお話になりましたけれども、医療の現場でいわゆる医療従事者以外の専門家の方々、理工系の方もそうですし、化学あるいは薬学の専門の方、あるいはコンピュータ科学の専門の方、場合によっては企業の方々も含めて医療の現場で各分野の専門の方が医師及び医療従事者と一緒になって研究開発をできる体制づくりは今の日本には欠けているのではないかと思います。そういう点についても体制づくりが必要であると思います。

【二村委員】

  今ちょうど佐々木先生からエビデンスに基づいた、あるいはオーダーメイドの治療という言葉がありまして、これは大変大切なことだと思うんですが、多くは臨床の最先端で治療を行っている方から発せられる言葉ではなくて、研究者の方から発せられる言葉であるように承っております。臨床の現場で仕事をしている人間にいかにこの思想が到達するかということが大変重要な問題だなと思います。
  3、4年前でしたか、杉村先生の御講演を一度伺ったときに忘れられないことがございます。大変多くのがんの治療が外科手術で行われている。大部分だというような言い方をされましたが、一方でがんの研究に支払われる研究費のうち外科治療の研究に支払われるのはほんのわずかである。外科治療学の研究が採用されるのはほんのわずかであるので、これは何とかならないものか。外科治療をもうちょっと科学的にやるように現場の人をエンカレッジするように誘導することが必要ではないかと思います。何とかそういう方向へ向くといいなということを外科の代表者として申し上げたいと思います。

【菅野座長代理】

  ありがとうございます。まだまだ御議論、御意見は尽きないんだと思いますが、時間でございますのでこの辺でやめさせていただきますが、今、御指摘がありましたようなトランスレーショナル・リサーチ、それから治験といったようなものを非常にちゃんとやっていく必要があるということに関しましてはどなたも御異存がないと思いますし、それにはいろいろな体制づくりが重要であるということで、単に研究というのとは違った広い広がりが必要になってくるということであろうかと思います。
  それにいたしましても、山高ければ裾野も広い。こんこんときれいな水もわいてくるというわけですから、一方には山を高くする努力も非常に必要なのではないかと思っておるところでございます。
  大臣、今日は最後までありがとうございました。何か御印象でもどうぞ。

【坂口厚生労働大臣】

  ありがとうございました。研究費が国としては少ない予算の中ですからそう多くは出せないということはわかっておりますが、それにしても研究費、取り分け基礎研究のところはなかなか十分でなかったと思っております。
  しかし、その十分でない研究費の中で世界最高峰の研究をしていただいているということは誠にありがたいことでありますし、先生方に感謝申し上げる以外にないわけでございますが、やはりそれだけに甘んじていてもいけないわけでございますし、それからいわゆる幾つかの日本の研究あるいは臨床の中でネックになっている点というのを先ほど来先生方から御指摘をいただいたわけでございますが、そのネックになっているところで役所の方がまたネックになっているというのでは具合が悪いわけでございますから、先生方もそこまではおっしゃいませんでしたけれども、大体わかっておりますので、我々も先生方からごらんになってネックになっているところで我々がネックになっていてはいけないということを感じながら聞かせていただいておりました。
  そんなこともひとつ十分に考えながらこれから私たちもやっていきたいと思っております。誠にありがとうございます。

【菅野座長代理】

  どうもありがとうございました。それでは、何か事務局から最後にございますか。

【事務局】

  次回会合につきましては、本日提案させていただきました作業班の検討状況を踏まえまして座長及び座長代理と御相談し、改めて日程調整させていただきますのでよろしく御協力方、お願い申し上げます。

【菅野座長代理】

  それでは、これでこの会を終わらせていただきます。本日は活発なる御意見を誠にありがとうございました。

-了-

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