平成8年12月12日
学術国際局 研究助成課 研究協力室
( 要旨は「文部省ニュース」に掲載しています。 ) 目 次 1 産学の連携・協力についての基本的考え方について (1)近年における産学の連携・協力の進展 (2)産学の連携・協力の意義 (3)大学の今日的使命と産学の連携・協力 2 産学の連携・協力の今日的課題と改革の基本的方向について (1)産学間の対話の促進 ○ 産学双方の意識改革と対話のための努力 (2)研究者交流の ○ 企業における研究者交流の導入 ○ 各種制度等の改善の在り方 ○ 企業における研究活動への大学教員の関わり方 (3)地域における産学の連携・協力の推進 ○ 地域における大学の研究機能の重視 ○ 地域との交流拠点の整備の進展 (4)研究成果の活用 ○ 多様な形態による技術移転の促進 ○ 大学教員の発明に係る特許の現状 3 新たな産学の連携・協力推進のための当面の具体的方策について (1)大学からの産業界への働きかけ ○ 大学の主体的な取組 ○ 企業への積極的な対応 ○ 学内体制等の整備・充実 (2)企業に対する研究協力の拡充 ○ 多様な研究協力の要請に対応した諸制度の改善・整備 ○ 共同研究等の場の企業への拡大 ○ 兼業の範囲の拡大 ○ 透明性の確保等 (3)共同研究センター等の拠点施設の充実 ○ 共同研究センターの整備・充実 ○ 共同研究センターの機能強化と中小企業への協力 ○ ネットワークの整備と地域振興プロジェクトへの参加 (4)研究成果活用の円滑化 ○ 情報発信の強化 ○ 研究成果の公表に当たっての留意点等 ○ 共同研究等に伴う特許の優先的実施期間の延長 ○ ケーススタディの促進 ○ 教育面での産学の連携・協力 (5)産学の連携・協力促進のための環境整備等 ○ 公立大学及び地方公共団体における取組の強化 ○ 私立大学に対する支援等の充実 ○ 高等専門学校における取組の強化 ○ 産学の連携・協力促進のための税制の整備 別 紙 今後引き続き検討すべき課題 1 技術移転促進のための方策について ○ 大学における知的所有権の保護 ○ 発明委員会の運営の改善等 ○ 技術移転を支援するリエゾン機能の整備方策 ○ 特許取得に向けてのインセンティヴと支援方策 2 産学の連携・協力のための推進体制の整備等について ○ ベンチャー企業等への協力の場の整備 ○ 学外における支援組織の整備 ○ 第三セクターとの連携 ○ 研究コーディネーターの育成等 ○ 評価システムの整備 ○ 総合的な推進体制の整備等 (参考資料) ○ 学術国際局長裁定・平成8年2月8日 ○ 産学の連携・協力の在り方に関する調査研究協力者会議の検討状況 ○ 産学の連携・協力の在り方に関する調査研究協力者会議協力者名簿 1 産学の連携・協力についての基本的考え方について (1)近年における産学の連携・協力の進展 戦後50年を経過し,我が国は,高度成長を経て先進成熟国の一つとなり,科学技術の面でも基礎研究においても世界のフロントランナーとなって,人類の知的共有財産の蓄積や人口,エネルギー,資源,食糧等地球規模の諸問題の対処においても,積極的に貢献していくことが求められている。 また,国際的な経済競争が激化し,国内産業の空洞化が懸念されている中で,天然資源に乏しく,人口の高齢化が急速に進展している我が国において,より豊かな社会を構築していくため,独自に開発した新技術に基づく,知識集約型の新産業を創出していくことの必要性が,各方面から指摘されている。 こうした中で,大学における学術研究に関し,産業界との連携・協力の振興を要請する声がこれまでになく強まっており,例えば国立大学における「民間等との共同研究」(注1)の件数は,制度創設時の昭和58年度から平成7年度の間に約30倍に増加している。 本年7月閣議決定された「科学技術基本計画」(注2)においても,産学の連携・協力は一つの柱とされ,種々の振興方策が規定されている。大学自体においても,産学の連携・協力に積極的な雰囲気が生まれており,大学における学術研究が,産業界等,社会の要請により積極的に対応し,豊かな成果を生み出していくことができるよう,所要の施策を具体的に講じていくことが求められる。 (2)産学の連携・協力の意義 大学も産業界も,それぞれの立場から国民全体に対し,その社会的責任を有している。大学は,あらゆる分野において,研究者の自由な発想に基づいて,基礎から応用にわたる幅広い研究を行うことにより,諸々の事象に関し長期的な視点や理論体系等を提供するとともに,高度の教育を受けた人材を提供することを通じて社会の将来に寄与するものとして,社会の信託を受けている。また,産業界は,現実の経済競争の中で,自ら研究開発を行いつつ,社会に必要な財とサービスを提供するとともに,雇用と富を創出することにより,国民の生活を支えこれをより豊かなものにする機能を果たしてる。 両者はこのように相異なった役割を有するが,その連携・協力は両者それぞれの固有の目的にとって,また,共通に有している社会的な責務を果たす上でも有益であると考えられる。 基礎研究のうち自由な発想に基づき新しい体系化を目指すような高度な研究は主として大学の役割である。産業界にとっては,研究において大学と連携・協力を進めることにより,事業の中核的部分に資源を集中し,経営効率を向上することが可能である。産業界にとって協力の相手方である大学は,広範な分野における科学・技術の世界的動向を把握する窓口となる。産業界における研究開発は,我が国の研究開発の大きな部分を占めるが,大学との協力により,全く未知の領域の研究などリスクの大きな研究や,リスクは小さくとも経済的な成果を生むに至るまで長期を要する基礎的な研究も,実現することが可能となる。同時に,研究協力を通じ,企業内研究者の高度な研修も可能となる。更には,応用研究や開発研究においても,大学の協力を得て,内部だけでは得られない成果を得ることも考えられる。 他方,大学にとっても,社会における問題状況を把握し,これを踏まえて,その基盤となる研究テーマを設定し,その成果を社会に還元し,社会から不断に評価を受けることにより,研究の活性化・高度化を図ることが期待される。大学とは異なった産業界の文化に触れることも有益である。同時に,こうした研究の一端を担い,その成果に触れ,あるいはこれに触発された講義等を受けることにより,学部学生や大学院生も,より社会のニーズに則した教育を受けることが期待され,高度な専門的職業能力を持つ創造的な人材や,ベンチャービジネスを起こすような起業家精神にあふれた人材の育成に資することも期待される。また,産業界の研究者の協力により,新たなテーマを開拓し,その研究環境を活用して効率的に成果を上げるとともに,貴重な外部資金を獲得することも可能となる。更に,大学が社会に果たしている役割について,社会の理解を深めることともなる。 こうした連携・協力は,種々の発見を通じて,人類の知的共有財産の蓄積に貢献するとともに,その商品化,富と雇用の創出を通じて,国民経済や地域の発展に貢献するものであり,社会にとっても有益であるものと考えられる。 (3)大学の今日的使命と産学の連携・協力 今日,大学は,社会の要請に積極的に応え,教育,研究の両面において,社会に貢献していくことが求められている。特に,我が国が「科学技術創造立国」を目指す上で,学術研究を通じて将来の我が国の社会経済の活力を支え得る独創的先端的な新技術開発に積極的に貢献することが,喫緊の課題となっている。産学の連携・協力は,これに不可欠の前提であるとともに,大学と産業界とが相互に刺激し合い各々の研究水準を高めていく仕組みの一つとして,また,大学の研究面における社会貢献の一形態として,大きな意義を有する。 大学における学術研究は,研究者の自由闊達な発想と研究意欲,高度な研究能力を源泉として展開されることによって初めて優れた成果を期待できるものである。今後,産学の連携・協力を推進するに際しては,研究テーマの設定,研究の実施等において,大学の主体性を確保しつつ進めていく必要がある。また,大学のすべての研究者にこれを求めるのではなく,産学の連携・協力を行おうとする研究者がそれを円滑に実施できるシステムを構築することにより,これを推進することが求められる。 また,そのための施策の実施に当たっては,公私立大学についても十分配慮するとともに,今日,地球環境や高齢化等の問題解決に人文・社会科学の貢献が不可欠となっている状況にかんがみ,自然科学のみならず人文・社会科学における産学連携の推進に留意する必要がある。 グローバル化が進む現在において,国内外を問わず,最も優れた研究者との協力を産業界が望むことは当然である。したがって,我が国の学術研究の水準の一層の向上を図ることは,産学の連携・協力を進める観点からも重要である。 2 産学の連携・協力の今日的課題と改革の基本的方向について (1)産学間の対話の促進 ○産学双方の意識改革と対話のための努力 近年の産学の連携・協力に対する社会の期待とその実績の増大にもかかわらず,依然として産学双方の一部にお互いに対する無関心,理解の不足がみられるとの指摘がなされている。 このような状況を改善し,前章で示された産学の連携・協力の新たなる発展を期するには,産学双方の意識改革と相互理解が必要であるが,その最初のステップとして産学間の対話の促進に向けて双方の努力が不可欠である。このため,大学においては産業界の要請に積極的に対応し,産業界においては技術シーズの掘りおこしを進めるなど,産学双方の研究現場からトップに至るまで各レべルにおいて,日常的に多様なコミュニケーションの形成と相互の信頼感の醸成を培うことが重要である。 このための有効な方法の一つが各層の研究者の交流である。例えば,日本学術振興会では,昭和8年から学会と産業界の研究者を構成員とする主題別の「産学協力委員会」を設け,産学間の研究交流の場を提供してきている。また,学会の場を通じた研究者交流も産学間の対話の促進にとって効果的である。今後,本年10月に大学審議会が答申した大学教員の「選択的任期制」(注3)の導入や,「ポストドクター等1万人支援計画」(注4)の進展による,期間を限って研究を行う研究者の増加に伴い,若手研究者を中心として,研究者の流動性が高まることが予想されるが,このことは,産学間の交流の促進や理解の増進に貢献するものと考えられる。 また,産業界においても,大学教員の任期制の活用を含めて,研究者の流動性を高めるための多様な取組がより一層推進されることが期待される。 (2)研究者交流の新しい方向性 ○企業における研究者交流の導入 従来,産学間における研究者の交流は,企業の研究者が大学を訪れるのが中心であり,研究者交流の場は大学を中心に展開されてきた。この研究者交流の場を企業にも広げることは,大学教員が自ら産業界の実態に触れ,その状況を把握することにより,大学における教育・研究の活性化,高度化に資するとともに,より多くの企業の研究者が大学の教員と相互に学び合うことが可能となる。 このため,これまで大学において主に行われてきた研究協力活動を企業においても積極的に実施できるようにするなど,大学教員が企業において研究,指導等の活動に円滑に従事することができるような諸制度及びその運用の改善を図ることが必要である。 ○各種制度等の改善の在り方 産学間の人的交流を推進するための制度面での整備に当たっては,企業との連携・協力による研究活動が大学における知的創造活動を活性化し,ひいては学問の創造が推進される仕組みを構築する必要がある。 意欲ある研究者が,研究能力を遺憾なく発揮し,その研究成果を社会が活用できるよう,また,研究活動の様々な形態について研究者による選択の自由を拡大するため,人的な交流を妨げるおそれのある規制は必要最小限にとどめることが求められる。 また,企業との連携・協力が国民経済や地域の発展に貢献するものとして,社会的にも,研究者の業績としても,積極的に認知・評価されることを促す方向で諸制度の改善を図っていくことが重要である。 また,いわゆる営業秘密を含む知的財産(注5)の取扱いや,研究成果等の公表時期など企業において大学の教員が研究活動等を行う場合に予想される様々な課題についてあらかじめ適切なルールが明示されていることが,人的交流を促進し,双方の円滑な連携・協力関係を構築するために必要であると考えられる。 ○企業における研究活動への大学教員の関わり方 公務員たる国公立大学の教員は,全体の奉仕者として,公共の利益のために勤務する義務があることとされているが,今日において,企業との研究協力活動は,大学教育の改善に資するとともに,新技術・新産業の創出をもたらし,我が国経済の活性化と国民生活の向上に資するという意味において,国民全体に奉仕し,公共の利益に資するものであると考えられる。 こうした研究協力活動が社会的な疑惑を招くことなく,公正に行われるよう,明確な基準の設定と関係者へのその周知徹底を図るとともに,大学教員の研究活動について学内外へ進んで情報発信を図るなど,透明性の高い制度・運用とすることが求められる。 (3)地域における産学の連携・協力の推進 ○地域における大学の研究機能の重視 企業活動のグローバル化・ボーダレス化が飛躍的に進展する現在の経済環境の中で,産業の空洞化,とりわけ「ものづくり」を支える地域の産業集積の空洞化が地域経済に打撃を与えつつあることが指摘されており,地域における研究開発力の向上により,地域経済の活性化と住民の生活の質の向上に資するため,大学に大きな期待が寄せられている。 科学技術基本法及び科学技術基本計画においては,地域における科学技術振興策が地域活性化の原動力であるとされ,地方においても研究開発事業施策の重要性が高まりつつあり,「東北インテリジェント・コスモス」や「高度情報基地ぎふ」などの様々な振興策や構想が具体化されている。これらの計画においては,大学が,それぞれの地域の基礎的・先端的な研究開発機能が集積された中での知的インフラの中核であるとともに,技術開発を担う人材育成の拠点として重要な位置付けがなされている。 特に,21世紀を担う知識集約的で高付加価値な新産業の創造に当たっては,大学の有する人文・社会科学を含む高度かつ総合的な研究開発機能の活性化,及びその研究活動成果の地域社会への還元の仕組みの構築が求められており,このため大学が地域の研究開発活動をリードし,地域産業との有機的な連携を一層深めていく必要がある。 ○地域との交流拠点の整備の進展 文部省においては,地域を中心とした民間企業等との研究協力の全学的な推進と流動的な共同研究の要請に機動的に対応できる研究体制の整備を図るため,地域に開かれた大学の拠点として,理工系学部を有する大学を中心に,専任教官,客員教官,汎用的な研究設備等を備えた「共同研究センター」を平成8年度までに全国47大学に計画的に設置してきた。更に筑波大学には先端学際領域研究センターを,また北陸先端科学技術大学院大学及び奈良先端科学技術大学院大学には先端科学技術研究調査センターを設置し,ハイテク分野における新技術開発と地域経済の活性化に貢献している。また,平成8年度には,国際標準となり得る次世代の自主技術開発を目指し,大規模かつ戦略的な研究を推進する大型の共同研究センターとして東京大学に国際・産学共同研究センターが設けられた。 これらの共同研究センター等においては,地域における「民間等との共同研究」,「受託研究」(注6)の実施,民間企業等の技術者・研究者に対する技術研修の実施,研究開発に関する技術相談等への対応,技術フォーラムの開催などの交流事業等が実施されてきた。 また,私立大学においても,龍谷大学の「エクステンションセンター」や立命館大学の「リエゾンオフィス」等の設置により,企業に先端的な実験施設や共同研究の場を提供するなど地域の頭脳交流の拠点となっている。 今後,これらの共同研究センター等を中核として,地域を中心とした産学の連携・協力の一層の推進を図ることが期待されている。 (4)研究成果の活用 ○多様な形態による技術移転の促進 大学教員の有する知的所有権の利用は,大学から産業界への技術移転の諸形態のうち,内容が特定でき,最も象徴的な形態として重要である。しかし,特許などの知的所有権の利用による技術移転は,大学から産業界への技術移転の一部に過ぎない。実際には,研究者の交流や研究協力による日常的な接触,大学による受託研究や技術研修会,セミナーの実施,研究生や受託研究員としての企業研究者の受入れ,論文博士号取得のための研究指導,大学院修了者の就職など,様々な機会を通じて,技術移転は既に相当程度行われており,特に人の異動による技術移転が大きな役割を果たしている。従来,我が国では,教員や学生のスピンオフの例は少ないが,今後はこれを含め,ここに挙げた種々の形態による技術移転の一層の促進が求められる。 ○大学教員の発明に係る特許の現状 学術研究の過程で蓄積された知識・技術や,その成果が広く社会において活用されることは極めて有意義なことであり,科学技術基本計画においても研究成果の流通の円滑化をその公共性に配慮しつつ促進すべきである旨指摘されている。 国立大学における教官の発明に係る特許の取扱いについては,昭和52年6月の学術審議会の答申を受けた「国立大学等の教官等の発明に係る特許等の取扱いについて」により運用されている。この取扱いにおいては,特別の場合にのみ国に権利が帰属し,原則として教員個人に特許を受ける権利が帰属して,教員個人が出願手続きなどを行うこととされている。 このような大学教員の発明やその社会的貢献について業績として評価する仕組みや教員個人の出願手続きをサポートする体制の在り方について,今後の検討が望まれるとともに,企業による利用料収入などの果実の一部を大学及び当該教員の研究活動に再びフィードバックする循環システムの確立が期待される。 3 新たな産学の連携・協力推進のための当面の具体的方策について (1)大学からの産業界への働きかけ ○大学の主体的な取組 前章で示されたような方向で大学と産業界との研究協力を一層充実するためには,まず大学が従来の受け身の姿勢から脱却し,現在進行している大学改革の基本的方向に沿って,種々の形態による社会人の受入れを始めとして,大学の社会貢献を強化する姿勢を積極的に産業界に対し訴えかけることが重要である。とりわけ,学長及び部局長等によるリーダーシップの発揮が期待される。 ○企業への積極的な対応 このため,大学においては,産業界の情報収集に資するため,企業に対し積極的な対応を図ることが求められる。例えば,日常的な交流の場の企画・運営を行い,研究情報の人的ネットワーク網を構築することや,インターネット上に大学のホームページを開設するなど情報ネットワークを活用し,研究活動の広報を展開すること。また,大学教員OB等による企業への巡回相談等積極的な取組による研究のニーズとシーズの組合わせの発掘を実施することや,社会的ニーズにも対応した企業にとって魅力ある研究テーマを設定して,研究推進のための最適な研究チームを編成し,具体的な研究計画を提示できる体制を整備することなどがある。こうした様々な工夫による積極的な取組が求められる。 ○学内体制等の整備・充実 また,企業との研究協力に係る事務に当たっては,相手側企業に対し定期的に成果を伝える機会を組織化する等,教員が研究進捗管理を適切に実施できるよう,研究協力活動に携わる教員を支援する体制を大学内に整備するとともに,企業からの委託研究や奨学寄附金の受入れの協議,審査等事務手続の簡素化,迅速化を図る検討が必要である。 国立大学においては,複雑多様化する各方面からの大学に対する諸要請に組織的に対応し,これらに係る諸業務を迅速かつ的確に処理する事務体制を全国的に早急に確立するため,今後とも引き続き各大学における研究協力部・研究協力課等の事務機構の整備を推進するとともに,事務職員に対する研修を徹底する必要がある。 (2)企業に対する研究協力の拡充 ○多様な研究協力の要請に対応した諸制度の改善・整備 国立大学において,これまで民間企業から研究設備・研究費や研究員を大学に受け入れて展開してきた共同研究や受託研究等については,科学技術基本計画の指摘を踏まえ,これら諸制度の一層の普及・充実を図ることが必要である。 また,研究を大学と企業が分担して各々の場所と経費で行う分担型の共同研究,製品の試作等研究成果の実用化・商品化に直結する研究開発,ベンチャーを含む中小企業への研究協力・技術移転,企業における若手研究者の養成等,企業側の様々な要望に機動的に対応し得る多様な研究協力の実現を図るため,休職制度の活用や兼業の範囲の拡大等,企業における研究者交流・共同研究等に係る諸制度等の改善・整備を早急に行う必要がある。 その際,各大学の判断で教員の任期制を導入し得る選択的任期制を利用して,共同研究等のために休職する教員の職に企業等から研究者を招へいするなどにより,大学教員の流動性を促進し,大学における教育研究の活性化を図ることも考えられる。また,労働者派遣事業の対象として「研究開発」の業務が追加されることに伴い,大学に外部からの研究者や研究支援者の積極的な受入れを行うことも考えられる。 更に,複数企業と複数大学による共同研究,国立研究所・公立研究所・外国企業等の多種多様な研究機関が参加するコンソーシアム型の国際的又は地域的な大規模の共同研究,国から委託を受けたり公的資金が拠出されている技術研究組合等への参加等新しいタイプの共同研究への参加要請に大学教員が積極的に対応できるよう,共同研究契約の在り方を含む新たな共同研究等の仕組みを検討する必要がある。 ○共同研究等の場の企業への拡大 大学教員が,企業においてより積極的に共同研究を実施できるよう,その機会を大幅に拡大するため,昭和58年に制度化された現行の「民間等との共同研究制度」を適切に見直すとともに,大学教員が企業との共同研究や国から企業への委託研究に長期間専念するため休職した場合に,退職手当算定上の不利益を被らないよう,所要の措置を講ずる必要がある。 ○兼業の範囲の拡大 現在,国立大学教員に認められている企業への関与は,企業付設の診療所等の非常勤医師,国有特許の実施企業への技術指導,従業員教育のための研修会講師等に限られており,コンサルティング等企業への研究協力に係る活動はほとんどの場合認められていない。 しかしながら,企業への研究協力に係る活動は,我が国科学技術の振興に資するとともに,研究者自らの研究能力を函養し,発揮する機会となり,大学における教育研究の活性化にもつながることから,勤務時間外における企業での研究,指導等への従事に係る兼業の許可については,当該大学教員と兼業先との間に許認可等の特別の利害関係やその発生のおそれがなく,かつ,職務の遂行に支障がない場合には,一律的に時間数等を制限することなく,原則として認められるようにする措置を講ずることが必要である。 ○透明性の確保等 なお,企業との研究協力に当たっては,職務との関係について社会的な疑惑や不信を招くことのないよう,教員が企業活動に関連する場合については,勤務時間の厳正な管理に留意しつつ,学内に審査会を設ける等適切な手続きを経るとともに,大学として,共同研究のテーマ,研究協力先,外部資金受入状況,研究成果の公表等共同研究等の実態を個人情報の保護等に配慮しつつ開示する等,透明性を確保する工夫が必要である。 特に大学の教育・研究の経費に充てられる産業界等外部からの資金については,公費として取扱うなど適正を期することがことが重要であり,国立大学にあっては,歳入・歳出予算を経由して経理する必要がある。 また,新たな仕組みによる研究協力に伴う特許等の知的所有権の取扱いについては,引き続き検討を要する。 (3)共同研究センター等の拠点施設の充実 ○共同研究センターの整備・充実 大学においては,地域経済圏の研究開発基盤拠点としての役割を果たすことが求められており,こうした役割を果たす上での開かれた窓口として,組織体制・人材の充実を図ることとし,引き続き共同研究センターの整備・拡充を計画的に推進する必要がある。 更に,共同研究の大型化に伴い,大規模な研究グループによる共同研究を実施するため,学内外の関係研究者が一定期間集中して研究利用できる流動的な研究スペースの整備を行う必要がある。 ○共同研究センターの機能強化と中小企業への協力 その際,共同研究センターのコーディネート機能をより充実するために,研究開発管理のデータベース化,共同研究の成功例・失敗例等のケーススタディ,技術指導実例等のノウハウ等を集積し,技術相談サービス体制を整え,産学の連携・協力に対する全学的な取組を強化するとともに,中小企業の独自技術開発及び情報発信への協力を進めることにより地元経済界の信頼を得,地域企業・経済団体や地方公共団体の援助による共同研究センター支援組織の設立を促進することが重要である。 ○ネットワークの整備と地域振興プロジェクトへの参加 共同研究センターは,地域における産学共同の拠点として,産学シンポジウム,交流会の開催等地域企業との関係構築にイニシアチブを発揮するとともに,地方公共団体,地域経済団体,地域シンクタンク等による各種研究開発機構や連絡協議機関の活動に積極的に参加し,産学の連携・協力の地域的なネットワークを構築していく必要がある。また,国公私立大学の各共同研究センター間同士のフォーラムの結成による情報交換を推進するとともに,リサーチパーク等への進出,大学の研究シーズを活用した技術開発計画の実施,研究学園都市構想への参加等,地方公共団体や関係省庁が実施する地域の研究交流・研究開発プロジェクトに主体的に関わっていくことが望まれる。 (4)研究成果活用の円滑化 ○情報発信の強化 産学の連携・協力の進まない理由の一つとして,大学の研究成果が外部からは,わかりにくいことによるとの指摘がある。このため,大学の研究成果・技術シーズ(論文,特許,資料・データ,ノウハウ等)を自ら情報発信するとともに,研究協力に係るデータベースの構築等,学術情報センターにおける情報検索サービス(NACSIS−IR)のデータベースを充実し,産業界に対し大学における研究活動に係る基本的な全国情報サービスを充実・拡大する必要がある。更に,中小企業にとって,とかく敷居が高いとされる大学へのアクセスを容易にするため,各大学において研究シーズ集の作成・配布等独自の研究情報サービスや科学技術相談会・見学会等を開催するなどの工夫により,大学からの情報発信を拡大することが必要である。 また,このため大学における,研究情報利用のニーズに応じたデータベースの整備とその民間へのネットワークサービスを図ることが必要であり,学術情報ネットワークの高度化・高速化,国際接続の拡充,学内LANの整備等大学自身の情報基盤の充実を図ることが重要である。 ○研究成果の公表に当たっての留意点等 大学における学術研究の成果については,広く公表し,社会共通の財産とするとともに,その評価を問うことが原則である。産学の連携・協力による場合も,この公表の原則は当然適用されなければならない。しかし,連携・協力の相手方である企業の利害に配慮することなくこの原則を適用し,当該企業に大きな不利益をもたらすことがないよう,留意する必要がある。 特に,相手側企業がもともと有していたノウハウなど,大学の教員の研究の成果によらない企業側の知的財産については,これを公表することは当該企業に大きな実損をもたらすおそれがあり,事前に確認する必要がある。 また,我が国の特許法では,出願時点において公知となっている発明については,特許は賦与されないことにかんがみ,成果の公表の時期と特許出願の時期の調整に関しては,研究着手時に十分相談し,合意に達しておく必要がある。 ○共同研究等に伴う特許の優先的実施期間の延長 現在,国立大学における民間等との共同研究及び受託研究の取扱いにおいては,共同して研究を行った企業や研究を委託した企業に,その研究の結果生じた発明により国に帰属した特許を,共同研究等が完了した日から7年を越えない範囲内において優先的に実施させることができるとしているが,この期間を延長することにより,企業等が国立大学と共同研究等を実施することに対するインセンティブを高める必要がある。 ○ケーススタディの促進 大学における研究成果の実用化推進のための体制の整備に関しては,検討を要する点が少なくない。当面,技術移転のためのノウハウを蓄積するため,国際的知的所有権紛争,権利処理の在り方等について戦略的な研究を行い,標準モデルの開発を進めること,国際産学共同研究プロジェクトの実施により実際の大型国際事業の進行に併せ,知的所有権に係る国際的な対応について研究し実践的ノウハウを蓄積すること,地域産学共同プロジェクト等の実施による中小企業への技術移転について調査・分析し,実践的ノウハウを蓄積することや独占禁止法上の配慮等,それらに係るケーススタディの促進による具体的な取組が求められる。 ○教育面での産学の連携・協力 教育面における産学の連携・協力については,例えば,連携大学院(注7)では,連携先との研究者交流,共同研究のシーズ形成等産学の連携・協力の促進に大きな成果を挙げてきた。また,ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー(注8)においては,大学院生を中心とした若手研究者の柔軟な発想を生かした独創的な研究開発プロジェクトが進行中であり,特に産業界との連携による高度専門職業人の養成が期待されている。更に,職業人に対するリフレッシュ教育(注9)など様々な取組がなされている。 しかしながら,大学の理工系分野における創造的人材の育成のための産学懇談会による報告「創造的人材育成のために」(平成8年3月)が指摘しているように,人材育成面での産業界との連携・協力は研究面に比して未だ不十分であり,学生の企業実習の活性化や「先端技術者育成トラスト」等産業界からの大学教育への支援策の拡大が要請されている。また,日本学術会議の「転換期にある工学と産業の関わりについて−産業界の意識調査とその考察−」の報告において,大多数の企業が独創的な産業技術を創出し得る人材育成のためには産学が共同して産業技術教育に当たる必要があると指摘されているように,今後,教育面での産学の連携・協力を一層進展するための施策を充実する必要がある。 (5)産学の連携・協力促進のための環境整備等 ○公立大学及び地方公共団体における取組の強化 以上については,国立大学を主たる対象としているが,基本的には,公立大学教員についても公務員であるがゆえの様々な制約要因が存在しており,地域の企業等との連携・協力の円滑化,地域ニーズへの対応という観点から,公立大学自身の研究ポテンシャルをより高めるとともに,共同研究等の規程の整備,共同研究等に参画するための休職や兼業許可の運用,研究成果の取扱い等について,弾力的な運用が可能となるよう地方の実情に配慮しつつ国の措置に準じた諸条件の整備が求められる。 また,地域の研究開発能力の活性化に大学の果たす役割を活用するため,地方公共団体においては,大学への委託研究の実施,地元経済界と協力して大学への産学共同支援機構の設置や,大学と公立研究所,第三セクター等との役割分担を踏まえた協議機関の設置等,ネットワークの構築や関係機関との調整を進めるなど,産学の連携・協力活動に対する積極的な役割が期待される。 ○私立大学に対する支援等の充実 私立大学においても,共同研究センターやリエゾンオフィスの設置等により民間企業との連携,交流を積極的に推進することが重要である。また今後,国としても,私立大学が民間企業との連携,交流を推進し,多様で高度な研究を実施できるようにするため,私立大学の研究費,研究設備,研究装置施設等に対する支援を強化することが必要であり,このため,特に,最先端の研究開発プロジェクトの推進に必要な研究施設,装置等に対する補助としてのハイテク・リサーチ・センター整備事業の外,優れた研究実績をあげ,将来の研究発展が期待される卓越した研究組織について,民間企業を含む内外の研究機関との共同研究を推進するための共同研究推進センターの整備に必要な研究施設,装置等に対する補助を行う学術フロンティア推進事業など,私立大学の学術研究の高度化に係る事業等を推進することが重要である。 また,私立大学が企業等からの受託研究を実施する場合,その受託料収入を非課税とする措置を講じる等税制面での取組も重要である。 ○高等専門学校における取組の強化 以上については大学を主たる対象としているが,実践的技術者を育成する高等教育機関として,従来から地域の産業との連携・協力も含め,産業界から高い評価を得ている高等専門学校についても,大学と同様に諸条件の整備が求められるところである。 ○産学の連携・協力促進のための税制の整備 大学への民間資金の導入,共同研究による企業の研究開発力の強化,大学から企業への技術移転の促進等を一層推進するため,平成7年度の税制改正において認められた国公私立大学と民間企業との共同研究において,民間企業が大学を通じて支出した試験研究費の一部を税額控除する特別措置を延長するとともに,新たに,共同研究において民間企業が自社内で支出した試験研究費及び民間企業が大学に研究委託する経費についても同様の措置を講じることについて早急に検討する必要がある。 (注1)民間等との共同研究制度:国立大学等(大学共同利用機関等,高等専門学校を含む)において民間等外部の機関から研究者及び研究経費等を受け入れて,国立大学等の教官と民間等の研究者とが対等の立場で共通の課題について共同して研究を行う制度。 (注2)科学技術基本計画:科学技術基本法(平成7年11月)に規定された政府による科学技術の振興に関する基本的な計画。 (注3)選択的任期制:大学教員の流動性向上による教育研究の活性化と多様な経験を通じた若手教員の育成を図るため,各大学の判断により任期制を導入することができることとする制度。大学審議会答申「大学教員の任期制について」(平成8年10月29日)において提言された。 (注4)ポストドクター等1万人支援計画:若手研究者の養成,拡充等を図るため,文部省を始め関係省庁において,平成12年度までにポストドクター等を約1万人支援する計画(平成8年度は文部省等関係省庁で,約6,000人,約238億円)。 (注5)知的財産:経済的価値を有する情報。著作物,発明,実用新案,意匠,商標,商号,植物品種,半導体集積回路の回路配置(マスクワーク)など知的所有権として法律により保護の対象とされているものも多い。 (注6)受託研究制度:国立大学等において,外部からの委託を受けて委託者の負担する経費を使用して公務として研究し,その成果を委託者へ報告する制度。 (注7)連携大学院:国や企業の研究機関と大学が連携して教育研究を行う大学院。 (注8)ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー:国立大学の大学院において,ベンチャービジネスの萌芽ともなるべき創造的な研究開発を推進するとともに研究の専門的能力をもつ創造的人材を育成することを目的としたプログラム。 (注9)リフレッシュ教育:大学・大学院等の高等教育機関が職業人を対象として,職業上の知識,技術のリフレッシュや新たな修業のために行う教育。 別紙 今後引き続き検討すべき課題 産学の連携・協力の在り方に関しては,本文に記した外,次のような点について指摘があり,今後,更に検討を進めていく必要がある。 1 技術移転促進のための方策について ○大学における知的所有権の保護 研究成果の社会への移転を円滑に促進するための前提として,発明のみならず,著作物,実用新案,意匠,商標,商号,植物品種,半導体集積回路の回路配置,ノウハウ等に係る権利等,大学における教員による研究活動から生じる様々な知的所有権についての帰属と権利処理の手続及びこれらの保護の在り方等について検討することが 重要である。 また,その際これらの知的所有権が経済的価値を有する情報として社会的に尊重され,マーケットメカニズムが機能することが不可欠である。 また,休職や兼業先での発明等知的財産の取扱いについても検討を要する。 ○発明委員会の運営の改善等 学内における発明の取扱いについては,発明の発生に応じ機動的に発明委員会を開催する体制を整えて権利の帰属関係を迅速に明らかにし,特許の出願が速やかになされるよう,発明委員会や学内発明規程の在り方について検討する必要がある。また,国に特許権等が帰属した場合の出願等事務手続きは日本学術振興会が代行しているが,その手続き全般にわたる体制等についても改めて検討する必要がある。 ○技術移転を支援するリエゾン機能の整備方策 また,教員個人に特許の権利が継承される場合がほとんどである現状にかんがみ,特許,技術,法律,財務,マーケティング等の専門家による,大学教員からの発明相談に対する経済的評価,出願事務,維持管理,企業へのマーケティング,実施許諾交渉・契約,事業化コーディネート,ライセンス収入の管理など総合的な技術移転サービスの提供が可能なリエゾン機能の組織化が望まれる。なお,リエゾン機能の実施主体を大学(事務局または共同研究センター),国,財団,あるいはベンチャーキャピタルやシンクタンク等の民間企業のいずれで行うのが適切かは今後更なる検討を要する。 ○特許取得に向けてのインセンティヴと支援方策 特許取得に向けてのインセンティヴについては,大学教員の特許取得を評価の対象に位置付けること,特許権の持ち分の在り方等の検討を進める必要がある。また,特詐取得の便宜を図るため,特許庁の技術移転支援事業等との連携・協力により,大学への専門家派遣,共同研究センターへの特許情報端末の設置,公的な特許情報のオンラインサービスの活用等が望まれる。 米国においては,1980年のBayh-Dole Act制定を機に各大学から産業界に技術を移転していくという気運が一気に高まり,情報通信,バイオベンチャーなど多くの新たな産業を創出する今日の産学連携体制の基盤が構築された。このことにかんがみ,我が国においても,大学の事務局を含め,各大学に産学連携のインセンティブを付与するため,大学の特許から生まれたライセンス収入を大学の教育研究活動に還元する方策等について検討していく必要がある。 2 産学の連携・協力のための推進体制の整備等について ○ベンチャー企業等への協力の場の整備 大学での研究成果をベンチャー企業等による事業化につなげるため,研究設備や研究指導の研究開発機能,研究スペース,学内外の各種専門家とのネットワーク等事業化に必要なサービスを共同研究や研究指導の活動を通じて提供することにより,地域の新産業創出に貢献する活動の場を学内に整備することについても検討していく必要がある。 ○学外における支援組織の整備 当該大学に対する後援法人や研究助成法人,同窓会等に対し大学の行う産学の連携・協力活動に対する積極的な支援を働きかけるとともに,関係学会活動を通じた全国的なネットワークを活用する必要がある。特に,産業界からの寄附講座や寄附研究部門の設置などによる財政支援や,最近,各地域で設立の気運が盛り上がりつつあり,既にいくつか設立されている大学支援組織への協力等が期待される。 ○第三セクターとの連携 地域における第三セクターや財団形式による研究機関との連携・協力は,その研究員・施設の高い流動性や組織や業務の柔軟性を活かし,先端的分野の研究開発,研究交流の推進,成果の移転などについて,重要な役割を果たすことが期待される。特に,大学の研究ポテンシャルを最大限に発揮するため,これら第三セクター等の民間ならではの柔軟な研究支援等の面における活動を活用して,大学が共同研究センターを中核として地域の技術開発や産業育成に貢献することが期待される。 ○研究コーディネーターの育成等 産学の連携・協力をお互いの研究の単なる延長線上で進めることは困難であり,大学の研究シーズの部分と産業界の市場・技術ニーズとを融合させるコーディネート機能が働かない限り,産学の双方の活性化が期待できないおそれがある。このため,大学において企業から客員教授としてコーディネーターを登用したり,大学の若手研究者を企業に派遣したりして,コーディネート能力を有する研究者を育成・採用するとともに,関係機関における特定の研究分野のキーパーソンの確保と活用に努める必要がある。 また,近年,地方公共団体が大学に技術士等の専門家を派遣し,研究成果の評価と実用化の可能性調査を実施し,実用化のための共同研究を行う計画を推進しようとしている試みに積極的に対応することが望まれる。更に企業の研究者等が大学内の研究シーズに自由にアクセスし,共同研究等に導くことができるようにするため,これら外部の研究者等を大学に受け入れられるような仕組みについて検討する必要がある。 更に,大学・研究機関間の研究情報ネットワークの整備についても検討が必要である。 ○評価システムの整備 大学においては,産業界等外部からの資金の受入額や共同研究等の実施件数自体,大学に対する社会の一つの評価と言えるが,発明など社会的に貢献し得る知的財産を生み出す活動状況を研究者や大学の評価の対象にするとともに,研究課題についても計画段階,実施期間中,研究完了後等において意義,目的,目標,手法,資源配分等の妥当性と成果について,その評価を相手方企業が行うだけではなく,大学自らが行う必要がある。特に,産学の連携・協力に係る研究成果についての具体的な評価方法の開発等が必要である。 ○総合的な推進体制の整備等 今後一層の産学の連携・協力を推進していくためには,具体的な課題として国公立大学教員とベンチャー企業等の経営活動との関係,国立大学教員の退職後の企業への就職制限の在り方,複数年度にわたる共同研究等の契約の在り方,産業界等外部から受入れた研究費の歳出費目の在り方,企業等が国立大学との共同研究により学内スペースを活用して研究活動を展開する場合の在り方,国立研究所や地方公共団体と大学との連携を促進するための方策などについて検討する必要がある。更に,国として産学の連携・協力をより総合的に推進するため,関係各省庁にまたがる連絡協議の場を設けることについて検討を進める必要がある。 産学の連携・協力の在り方に関する調査研究協力者会議の実施について (平成8年2月8日,学術国際局長裁定) 1 趣 旨 我が国が潤いや活力に満ちた社会を形成し,国際社会においてその責務を果たしていくためには,学術研究を振興し,その成果を「知的資産」として蓄積し,これを新産業・新技術の創出や地球環境問題等地球規模の問題の解決に役立てていく必要がある。 このためには,大学が産業界等と積極的に連携・協力することが必要となっている。 そのため,大学と産業界との連携・協力の在り方を見直し,その連携・協力を一層推進する方策を検討するために本調査研究協力者会議を開催する。 2 検討事項 (1)産学の連携・協力に関する各種制度の改善・充実に関すること (2)共同研究センターにおける産業界や地域との連携・協力の推進に関すること (3)国立大学教員等の発明に関すること 3 実施方法 (1)別紙の協力者により,調査研究を行い,必要な提言を行う。 (2)必要に応じ,別紙以外の者にも協力を求めるほか,関係者の意見等を聞くことができるものとする。 4 実施期間 平成8年2月8日から平成9年3月31日までとする。 5 その他 この会議に関する庶務は,関係局課の協力を得て学術国際局研究助成課研究協力室において処理する。 産学の連携・協力の在り方に関する調査研究協力者会議の検討状況 1 全体会議での検討状況 第1回 平成8年2月28日(木):産学の連携・協力について 第2回 平成8年4月24日(水):産学の連携・協力の在り方の基本的な考え方について 第3回 平成8年5月29日(水):産学の各種研究協力関係制度について 第4回 平成8年6月28日(金):産学の各種研究協力関係制度及び共同研究センターについて 第5回 平成8年8月6日(火):地域との連携・協力について 第6回 平成8年9月2日(月):研究者の交流及び教員の発明の取扱いについて 第7回 平成8年10月1日(火):産学の連携・協力の推進方策について 第8回 平成8年11月18日(火):産学の連携・協力の推進方策の取りまとめについて 第9回 平成8年12月6日(金):産学の連携・協力の在り方に関する調査研究協力者会議(中間まとめ)について 2 ワーキンググループでの検討状況 第1回 平成8年7月30日(木):産学の連携・協力の推進方策について 第2回 平成8年8月29日(木):産学の連携・協力の推進方策について 第3回 平成8年9月12日(木):産学の連携・協力の推進方策について 第4回 平成8年10月30日(水):産学の連携・協力の推進方策の取りまとめについて 3 施設見学の実施 第4回会議 電気通信大学 共同研究センター 4 事例照会等でご協力いただいた方 第3回会議 松永 是(東京農工大学工学部教授) 荒川 泰彦(東京大学 生産技術研究所教授) 竹中 登一(山之内製薬(株)創薬研究本部取締役本部長) 第4回会議 山藤 和男(電気通信大学 共同研究センター長) 横井 秀俊(東京大学 生産技術研究所助教授) 産学の連携・協力の在り方に関する調査研究協力者会議協力者名簿
○はワーキンググループの構成員を,◎はワーキンググループの座長を示す。 ( 要旨は「文部省ニュース」に掲載しています。 ) |
-- 登録:平成21年以前 --