大学における教育情報の活用・公表に関する中間まとめ

平成23年8月5日
大学における教育情報の活用支援と公表の促進に関する協力者会議

大学における教育情報の活用支援と公表の促進に関する協力者会議において、「大学における教育情報の活用・公表に関する中間まとめ」がとりまとめられましたので、公表いたします。

 大学における教育情報の活用・公表に関する中間まとめ【概要】

1.大学の教育情報に関する現状等

○ この10年間の段階的な取組を通じ,各大学による情報の公表が着実に進展。大学団体による支援も活発化しつつある。
○ そうした基盤の上で,学術の中心である大学の特性や多様性を十分に踏まえながら,教育情報を,自らの活動の把握・分析に活用し,また,教育活動を国内外に分かりやすく公表することが課題。

2.教育情報の公表・活用の促進方策

(1) 各大学の自主的・自律的な取組

  • 各大学が,自らの使命・教育活動の状況を分かりやすく示す工夫を促進
  • 国際競争力の強化のため,海外への積極的な情報発信

(2) 大学団体等による支援

  • ガイドライン作成
  • 優れた大学改革の取組などの収集と発信

(3) 大学の負担の軽減

  • 学校基本調査等の基礎的な情報の共有・公表の仕組みを構築
  • 文部科学省の調査等について,項目の削減や調査頻度を見直し

(4) 教育情報の活用と公表を進めるための場の整備

  → データベースを用いた教育情報の活用・公表のための共通的な仕組みを構築

【趣旨】

○ 大学が,教育情報を,自らの活動状況を把握・分析することに活用。
○ 大学の多様な教育活動の状況を,大学教育に関係・関心を持つ国内外の様々な者に分かりやすく発信。
○ 基礎的な情報について共通的な公表の仕組みを構築し,大学の業務負担軽減。

【運営】

○ 大学と大学団体の参画により,大学コミュニティが自主的・自律的に運営する。

  • 高等学校関係者や企業関係者等の意見も適切に反映されるようにする。

【内容】

○ 我が国の大学の歴史的経緯や多様性を踏まえ,情報の内容や表示方法を工夫する。

  • 公表が義務化された教育情報,学校基本調査の基礎的な情報のほか,小規模大学や地方大学を含む各大学の特色・強みを表す。
  • 画一的なランキングを助長しないようにしながら,分野などに着目し一定の範囲で比較可能なものにする。
  • グローバルな教育活動を重視する大学の海外発信に活用できるようにする。

大学における教育情報の活用・公表に関する中間まとめ

平成23年8月5日
大学における教育情報の活用支援と公表の促進に関する協力者会議

1.協力者会議の検討の目的

  (検討の目的)

 国内の急速な少子高齢化,国際化・情報化の進展など大学を取り巻く環境が大きく変化している中で,各大学では,教育の質の保証・向上と,社会への説明責任の観点から,教育情報の公表が着実に進展している。とりわけ,本年4月より,学校教育法施行規則第172条の2第1項に規定された教育研究活動等の情報の公表が義務付けられたことを契機として,各大学や大学団体等において更なる展開も見られる(この施行規則では,公表すべき情報として,分野ごとの教育研究目的,教員組織や学生数,教育課程や学生支援の概要,キャンパスの状況などを概括的に挙げており,以下ではこれらをまとめて「教育情報」と表記する)。
 そうした状況を踏まえ,大学における教育情報の活用支援と公表の促進に関する協力者会議(以下「協力者会議」)では,今後の大学の教育情報の活用支援と公表の在り方について検討を行い,これまでの検討状況を「中間まとめ」として取りまとめた。

 (中央教育審議会大学分科会における審議)

中央教育審議会大学分科会では,大学改革に関し,
 ○ 教育の質の保証・向上の推進方策,
 ○ 大学の機能別の分化や連携に関する推進方策,
 ○ 大学の組織・経営基盤の強化,
の3つの観点から検討が行われている。その中でも,大学の機能別の分化が進展していく中で,各大学が自らの使命を明確化しながら,教育の質の向上に取り組むことが重視されており,その支援方策が課題となっている。
 協力者会議では,そうした問題意識も念頭に置いて検討を行った。

2.大学の教育情報の活用・公表に関する経緯と現状

(1) 教育情報の公表等に関する制度改正の経緯と現状

(ア) 教育情報の公表は,過去10年程度の間に,大学や大学団体等において着実に進展しているということができる。
 平成10年の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」では,大学が,広く国民に対し,教育研究目標・計画などの情報を分かりやすく公表することを制度的に位置付けるよう提言された。そこで,平成11年には,大学設置基準に,教育研究活動について積極的に情報を提供することが規定された。
 その後,大学の設置趣旨や特色,評価の結果,学生の卒業後の進路などを公表すべき情報として例示するなど,段階的な整備が進められた。
 さらに,平成19年には,学校教育法が改正され,大学の教育研究活動の公表について規定されたことも踏まえ,大学分科会において,教育情報の公表が改めて議論され,平成22年に関連法令の改正について答申がなされた。
 これを受け,学校教育法施行規則が改正され,本年4月から,全ての大学がこの規則に掲げられた情報を公表することとなった。
 このような制度的な対応を受けて,各大学では,ウェブサイトや各種刊行物を通じた多様な取組が見られる。

(教育情報の公表方法の状況)

 上記の学校教育法施行規則では,刊行物への掲載やインターネットの利用を通じて公表を進めることが規定されているものの,その詳細は定められていない。各大学では,ウェブサイトに各種の情報を掲載しており,その際,「情報公表」のページを開設し,そこにまとめて掲載していることも多い。
 また,授業内容を積極的に公表する大学も多い。例えば,オープンキャンパスを通じて,実際に大学教育を経験できる機会を設けたり,いわゆる「オープンコースウェア」のように,インターネットを通じて授業内容を発信したりするなど様々な活動が行われている。

(イ) こうした各大学の取組に関し,国公私立の設置形態ごとの大学団体では,それぞれの大学の機能強化や発展を図る方策の一環として,積極的に情報を公表していく重要性を示している。

(国立大学協会)

 国立大学の機能強化の方策の一環として,厳格な自己評価と大学情報の積極的開示,ステークホルダーに対する説明責任を果たす観点から,大学情報の国内外への発信体制の整備,複数大学共同による海外での情報発信体制の構築,ステークホルダーの特性に応じた大学情報発信体制の充実を進めることを明らかにしている。(「国立大学の機能強化-国民への約束-【中間まとめ】」平成23年6月)

(公立大学協会)

 公立大学のプレゼンスの向上のため,教育,研究,地域貢献等の活動について情報発信を積極的に進める必要性と,情報発信の作業を通じて公立大学の教育情報の戦略的活用を促進させる意義を明らかにしている。(平成21年度公立大学協会第1委員会報告)

(日本私立大学団体連合会)

 私立大学の質保証の観点から,教育の質向上に向けた取組をはじめとする教育方針・内容の公表を通じて,その透明性の向上と説明責任を果たす必要性を述べるとともに,情報の公開が広く社会に自らの存在意義を証明するものであることを強調している。(「21世紀社会の持続的発展を支える私立大学-「教育立国」日本の再構築のために-」平成23年6月)

(全国公立短期大学協会)

 地域に貢献する有為な人材の育成と地域の教育研究・文化を牽引する高等教育機関としての役割を果たすため,各校における教育情報の公開は自明のこととして,その取組がなされており,中央教育審議会の審議等を契機として,より適切な教育情報の提供と活用に向けて,各種研修会,情報交換などを通した取組が進められている。(全国公立短期大学協会からの報告)

(日本私立短期大学協会)

 大学団体の能力を活用して,短期大学に関する社会全般への有効な情報発信,教育政策立案のための情報集約など,短期大学に関する情報提供の充実を図ることの重要性を指摘している。(「短期大学教育の再構築を目指して-新時代の短期大学の役割と機能-」平成21年1月)

(ウ) 各大学は,ウェブサイト等を通じて教育情報を公表しているが,公表に当たっての考え方,公表の内容・方法などその状況は多様である。

 そうした中で,複数の大学団体が,学校教育法施行規則で定められた情報公表の内容が概括的であることも踏まえ,大学のための参考指針を作成し,公表に当たっての留意点などを示している。

(公立大学協会)

 各大学において情報公表が適切に行われるだけでなく,できるだけ分かりやすい公表となるよう工夫することや,公立大学間でなるべく共通のフォーマットで情報が参照できることが重要との認識から「教育情報公表ガイドライン」を策定している。(平成22年11月)

(日本私立大学連盟)

 学位授与の方針,教育課程編成・実施の方針,入学者受入れの方針について,常に誰もがアクセスできるように整備することが重要との考えから,「大学の情報公表義務化と三つの方針」において,それらをどのように策定・公表すべきか提言している。(平成23年3月)
 また,日本私立大学団体連合会と日本私立短期大学協会により,教育情報の公表に関する考え方や公開の方法を含めた指針が策定されている。(平成22年7月)

(2) 教育情報の取扱いに関する負担の現状

  (ア) 多くの大学で,本年4月の学校教育法施行規則の改正を契機として,ウェブサイトなどを通じた教育情報の公表の取組の一層の促進が見られる。そうした取組の準備として,学内の各部署で収集していた情報を,公表担当部署に集約するなどの作業がなされている。

 そうした対応に加え,各方面から調査などへの対応が求められ,その場合に類似の情報が繰り返し問われることも多いため,これが大学の事務負担となっていると指摘されている。

(大学に対する情報提供依頼の状況(例))

 広島市立大学において,外部から提供を求められる調査の現状について調べたところ,定期的に実施されるものだけで,152件あると報告されている。
【調査主体別の内訳】

  • 出版社・進学情報事業者 64件
  • 官公庁 53件
  • 大学団体等 15件
  • マスコミ 12件
  • 予備校 8件

(イ) このほか,認証評価では,評価機関が,評価の実施に当たり,大学の基礎的な情報を収集しており,これらの情報には,各種の調査と共通する項目も含まれている。

(3) 諸外国の状況

 諸外国では,教育研究活動の状況の公表や,質の向上を目的としたデータベースやウェブサイトを通じた情報発信が近年急速に進んでいる。
 ただし,こうした事業は,大学制度やこれまでの経緯など,各国の諸事情を背景として実施されており,今後,我が国において同様のものを検討する際には,そうしたことへの十分な考慮が必要である。

(米国の例)

 全米の高等教育機関を対象とする包括的なデータベース(IPEDS)が整備されているのに加えて,2007年から,州立大学を中心に,カレッジ・ポートレート(College Portrait)が運用されている。
 カレッジ・ポートレートの目的は,高校生が大学選択をしやすくすること,透明性があり比較可能で理解しやすい形で情報を公表すること,公共への説明責任を果たすこと,効果的な教育実践を把握し,一層の向上のために成果を測定し公表することなどである。

(英国の例)

 高等教育統計局が,大学統計を収集・整理し,公表しているのに加えて,2007年から,大学への公財政配分団体(HEFCE, Higher Education Funding Council for England)と大学入学手続を担う団体(UCAS, Universities and Colleges Admission Service)が,Unistatsというウェブサイトを運用している。 
 Unistatsは,各大学が提供する教育コースごとに,学生の入学時の情報や,満足度,学位取得と進級の状況,卒業後の就職状況などの情報を発信している。

(欧州の例)

 学生や産業界への情報提供の観点から,各大学の活動を可視化する手法の開発が求められており,2005年から「欧州高等教育分類」の検討が進展している。
 また,各大学の学生の構成や,どのような活動に重点を置いているかレーダーチャート等の形式で表示し,大学間の比較を可能にするU-Mapのプロジェクトが進んでいる。

(韓国の例)

 2008年から各大学に対して情報の公表が義務付けられ,韓国大学教育協議会 (KCUE)が情報公示ウェブサイトを運用している。これは,学生・保護者・企業等に対し,大学の情報を積極的に提供することを目的としている。

3.検討に当たっての基本的な考え方

(検討の方向性)

 教育情報の公表の目的や公表すべき情報の範囲については,既に,中央教育審議会大学分科会において考え方が取りまとめられ,必要な制度改正が行われている。協力者会議では,その内容と範囲を前提とし,教育情報の公表を通じ,各大学の使命やどのような教育を行っているか分かりやすく示す方法を検討することとした。
 その際,教育情報については,各大学が自主的・自律的にその活用・公表に取り組むことが基本とされるべきである。その上で,各大学の取組を支援し,あるいは補完するための大学団体等の活動が重要であり,さらに,大学団体等の自主的な連携を通じて,教育情報の活用・公表のための共通の基盤の整備を進めることが求められる。    

(検討に際しての留意点)

 大学は,学術の中心として,人材養成,文化の継承と発展,地域の社会・産業への貢献など,国内外の様々なニーズや分野の特性等に応じた活動を展開している。大学の教育情報    の活用や公表について検討する際には,そうした大学の特性や多様性を踏まえながら    ,以下のようなことに留意することが求められる。

    (ア) 学校基本調査で収集されるような大学の基礎的な情報は,一般的に大学に関心を有する者から高等教育の研究者まで,幅広い関係者にとって必要とされる情報であるとともに,その範囲や収集方法も明確であり,各大学の合意を経て公表を進め,共有していくことができると考えられること。

    (イ) 公的な教育機関である大学に関心を有する者には,在学者や入学希望者,卒業生,その保護者,高等学校関係者,企業関係者,さらには海外の入学希望者や大学関係者など,幅広いことが想定され,そうした者のことを踏まえて,教育情報の公表の在り方を検討すべきであること。その場合,情報の公表に関する内容や方法も,短期大学,大学(学士課程),大学院などの学位の段階や,学問分野によって異なること。

    (ウ) 大学内で,教育研究や経営の方向性を検討するために用いる情報と,学外の多様な関係者の理解を目的として公表する情報について,分けて検討すべきこと。

    (エ) 大学の規模によっては,教育情報の公表などの事務を担う体制を十分整備することが困難な場合があるため,その事務負担について検討する必要があること。

 協力者会議では,こうしたことを踏まえて,大学の情報の活用・公表を一層促進させるため,各大学の自主的・自律的な取組をどのように支援していくか,また,どのような配慮が必要かという観点を重視して検討を行った。

(大学改革の進展への対応)  

 これまでの中央教育審議会の諸答申で,大学教育の質の改善・充実の必要性が指摘されてきた。

(近年の中央教育審議会の答申)

 中央教育審議会の答申「我が国の高等教育の将来像」(平成17年)は,教育の質保証をはじめとする高等教育のあるべき姿や方向性の全体像を示している。
 これを受けて,大学院教育では,「新時代の大学院教育」(平成17年)と「グローバル化社会の大学院教育」(平成23年)が,教育の実質化に関する具体的な方向性を提起している。
 学士課程では,「学士課程教育の構築に向けて」(平成20年)が,学位授与・教育課程編成・入学者受入れの三つの方針の確立を提起している。

 多くの大学では,こうした提起も踏まえつつ様々な改革に着手し,既に多くの成果を上げているものの,今後,質の高い大学教育を実施するという観点から,大学関係者による共通理解の形成と一層の努力が期待される。
 このような大学改革の定着と更なる進展に対応しながら,教育情報の活用や公表に関する検討が進んでいくことが求められる。

4.教育情報の活用・公表の促進方策

(1) 各大学の自主的・自律的な取組

(各大学による情報発信の工夫)

(ア) 教育情報の活用・公表については,後に述べるとおり大学団体等にも重要な役割が期待されるものの,基本的な考え方として,まずは,各大学が自主的・自律的に取り組むことが重視されるべきである。
 各大学には,学生・社会の多様なニーズに応えつつ,教育の質を保証・向上させていくため,それぞれの人材養成目的等を明確化し,その実現にふさわしい教育課程,学生支援,学内の各種の組織,学修    環境を整備することが課題となっている。
 その際,各大学が,教育情報の収集と分析を通じて,自らの活動の課題を把握し,それを更なる改善に生かしていくことが重要である。あわせて,学校教育法施行規則の規定により,公表が義務付けられた情報について,その公表を着実に行うとともに,修得すべき知識・能力や,その達成に向けた教育活動における特色や強みを社会に分かりやすく示すための一層の努力と工夫が求められる。    

(イ) 教育情報の公表に当たっては,情報を受け取る者のことを想定し,その受け手にとって,大学を選択する際や,複数の大学の状況を比較する際に,必要な情報が分かりやすく公表されていることが重要である。
 例えば,高校生の視点からは,大学でどのような教育が行われ,どのような経験ができるのか,また,大学の特色や強みが具体的な根拠とともに示されていることが望まれると指摘されている。また,企業からは,成績評価に関する厳格な基準が整備され,それが明らかにされることが望まれるとも指摘されている。

(ウ) また,授業内容そのものを積極的に発信することも重要になると考えられる。先に述べたオープンキャンパスなどを通じて大学教育を経験できる機会や,インターネットを活用して授業内容を発信する取組が多く見られるが,現時点では,その時期や対象となる授業が限られている場合もあり,今後,一層の積極的な活動が進むことが期待される。

(国際的な情報発信)

 国際的な大学間の連携や,学生・教員の国際的な流動性の高まりなど大学教育のグローバル化が進展する中で,我が国の大学の状況が,海外に十分発信されていないと指摘されている。
 国際的な教育研究活動や学生交流に特色を発揮する大学については,国際的な視点で評価を受けながら教育を改善し,その国際競争力を向上させていく観点から,海外に積極的に情報発信することが求められる。その際,個々の大学による取組だけでなく,複数の大学が連携して行うことも想定される。
 あわせて,各大学による国際的な活動が円滑に進むようにするために,我が国の大学制度やその質保証の仕組みをはじめとする情報が十分に発信されることも重要である。

(国際的な情報発信の工夫の例)

 中央教育審議会大学分科会では,諸外国との組織的・継続的な教育連携の促進や大学教育の国際競争力の向上のため「国際的な情報発信の観点から想定される情報の例」を公表している。
 例えば,教育活動の内容等に着目して,計画的な履修方針に基づいた授業科目とその体系(ナンバリング)に関する情報や,学生の経済的負担に関する情報(例えば,授業料や生活費のほか,経済的支援の枠組み)など,日本への留学希望者や,海外の大学や企業の関係者に分かりやすい方法で発信する工夫が挙げられている。

(学生の学修状況に関する情報)

 教育の質の向上を図っていく上で,学生の学修状況に関する情報を収集・分析することも重要である。例えば,学生の教育課程の履修状況や学修時間,学修に関する満足度などが考えられる。
 こうした取組は,既にいくつかの大学で実施されており,また,複数の大学が連携して学生へのアンケート調査を実施し,その分析を行う例も見られる。これらの先行的な取組とも連携し,あるいは参考にしつつ,学生の学修状況の情報の収集・分析に関し,取組が進んでいくことが求められる。

(2) 大学団体等による支援

(大学団体による指針の作成)

 先に述べたとおり,大学団体により,情報公表に関する参考指針を作成する取組が見られる。そうした活動を通じて,教育情報の定義や収集・分析すべき教育情報の内容等に関し,大学関係者の理解が深まり,より分かりやすい情報の公表につながっていくことが期待される。これは,各大学の自己点検・評価の充実や,教育情報を第三者に提供する際の大学の負担の軽減にも資すると考えられる。
 各大学団体に参加・加盟している大学の状況は様々であり,大学団体の判断において,こうした各大学への情報提供が進むことが期待される。

(大学団体等による教育情報の収集・発信)

 個々の大学の教育情報の公表に加えて,  大学団体が,その専門的な知見を生かして,教育情報を収集・分析し,各大学の特色ある活動を発信することにより,多くの大学が,そうした情報を参考にし,それぞれの大学の特色に基づいて活用していくことで,教育の質の保証・向上を一層促すことが期待される。

(優れた大学改革事例の提供)

 例えば,これまでの国公私立大学を通じた教育改革支援施策(GP事業やCOE事業等)など,優れた教育に関する事例を収集・整理し,その成果を幅広く提供していくことが考えられる。

 また,認証評価では,各大学の活動の状況が幅広く公表されており,その中には,優れた取組や課題に関する情報や,評価団体の専門性を生かした有益な指摘なども含まれている。こうした情報を取りまとめて発信していくことも有益と考えられる。

(人材育成への支援)

 各大学で,教育情報の公表を進めるとともに,教育の質の向上や大学運営の改善を進めるためには,専門性の高い教職員の確保とその能力向上が重要である。
 これまでも,FD(ファカルティ・ディベロップメント)やSD(スタッフ・ディベロップメント)を通じた教職員の職能開発については,大学ごとの取組に加えて,大学コンソーシアムや共同利用拠点による活動,さらに,大学団体や評価団体によるものなど様々な展開が見られる。そうした一環として,大学団体等により,各大学に関する情報を分析・活用する方法の研究や,そのための人材育成を支援していくことが期待される。

(3) 大学の負担の軽減

 上記で述べたとおり,大学において,専門性の高い教職員により,教育情報の活用・公表に積極的に取り組むことが期待される。一方で,大学には,教育情報に関し,ウェブサイト等での公表や各種調査への対応,外部評価のための準備などが求められており,特に小規模な大学において,そのための事務体制を十分に整備することが困難な場合もあることから,大学の負担を軽減することが重要な課題となっている。
 このため,学校基本調査などの統計調査の際に,各大学が作成・収集する情報を,各大学の合意を経て公表を進めることにより,各種の調査での項目の重複を排除するとともに,定義の統一などを進めることが適当である。
 また,大学の基礎的な情報について共通的な公表の仕組みを構築し,広く一般に公表することにより,外部から大学への調査の負担を減らすことが必要である。

(学校基本調査の際に入力・作成する情報の活用)

 学校基本調査は,統計法に基づく基幹統計として,大学の基礎的な情報を収集する基盤的な調査の一つであり,現在,多くの大学ではオンラインシステムによる入力・報告を行っている。
 各大学には,文部科学省に報告した情報のバックアップのためのデータファイルが残るため,大学の判断により,これを活用して,データベースに情報を登録し,公表することで,情報の収集や登録の負担を軽減することが見込まれる。

(国が行う調査の見直し)

 (4)で述べるデータベースの構築・公表に際し,文部科学省などが例年実施する各種の調査について,データベースにより公表される項目や時代の進展によって不要になった項目を廃止するとともに,調査頻度を見直すなど,具体的な大学の負担軽減を図ることが必要である。

 認証評価においても,大学の基礎的な情報を公表する共通的な仕組みを活用することで,評価の際の情報の収集などに関する大学の負担を軽減することにつながるものと考えられる。その際には,認証評価機関が連携して,認証評価の際に収集する情報を一定程度共通化することも課題となると思われる。

(4) 教育情報の活用と公表を進めるための場の整備

(教育情報の活用・公表のための共通的な仕組みの構築)

教育情報の活用と公表を進める観点から,課題と方向性を改めて整理すると,

    ○ 各大学の使命とそれに基づく教育研究活動の状況を分かりやすく示し,教育の質の向上に資する教育情報の分析を促進すること,
    ○ 大学進学希望者,自治体,産業界など,国内外の大学教育に関係・関心を有する者に分かりやすく情報を提供すること,
    ○ 大学への各種調査などの負担を軽減すること,

が必要である。
 こうした考え方に基づき,大学が,公的な教育機関としての説明責任と教育の質の保証・向上という責務を果たすため,その支援方策として,データベースなどを用いて教育情報の活用・公表のための共通的な仕組みを構築することが求められる。

(検討の方向性)

 このような教育情報の活用・公表のための共通的な仕組みは,大学や大学団体等の共通の情報発信の基盤として整備されるとともに,その運営は,情報の収集・共有に関する透明性が十分確保される観点から,大学や大学団体等の参画により,いわば大学コミュニティによる自主的・自律的なものとしてなされるべきである。
 こうした仕組みの検討に当たっては,諸外国の事例も参照しつつも,我が国の大学の歴史的経緯や多様性の現状を踏まえることが求められ,また,我が国の大学や大学団体等による研究と活動の蓄積も十分に生かし,厳しい行財政状況の中で,可能な限り早期かつ効率的・効果的に整備していくことが期待される。
 また,以下のようなことに留意しながら,更に実務的な検討を深めることが求められる。

    (ア) 収集する情報の範囲について:学校教育法施行規則で定められた教育情報や学校基本調査で用いられる        ような基礎的な情報とともに,        例えば,規模の小さな大学や地方の大学などが,地域に根ざした特色ある教育を行い,その地域の人材に対するニーズに応えている事例や,少人数によるきめ細かな指導や手厚い学生支援・就職支援を通じて学生の就業力の向上に成果を上げている事例など,大学の特色や強みを表わす情報(GP事業等の国公私立大学を通じた教育改革の優れた取組を含む)。

    (イ) 情報の収集の方法について:各大学で,学校基本調査のために作成されるデータファイルを活用するなど,大学の負担の少ない方法によること。そのほか,各大学の特色や強みを表わすデータを活用すること。

    (ウ) 情報の表示の方法について:画一的なランキングを助長するものにならないように,各大学の多様な経緯や背景に配慮しながら,(ア)に掲げたような,それぞれの大学の特色や強みを具体的に表すような活動が示されること。その上で,例えば,学部・研究科などの分野に着目するなど,一定の範囲で比較可能なものとすること                (その際,地域や規模の違いにも留意すること)。また,高校生など大学進学希望者の視点を重視し,そうした者が進路選択のために求める情報が十分提供されるようにすること。国際的な教育研究活動や学生交流に特色を発揮する大学のために,海外への情報発信に活用できるものとすること。

 こうしたデータベース等の構築に当たっては,高等学校関係者や企業関係者等の意見も適切に反映されるようにするとともに,幅広い関係者のニーズを踏まえながら段階的に整備し,かつ柔軟に改善することが適当である。

(関連する課題)

(ア) 大学の全体像は,統計やデータだけで分かるわけではない。実際に大学のキャンパスを訪ねると,教育活動や学生の状況,ハード・ソフト両面での学修環境など,多様な活動を知ることができる。多くの者が,大学を訪問して,現状を知ることは,大学が社会に開かれた存在となるために有益であり,大学も,その教育活動の取組を多くの者に直接に見てもらえるよう努めることが肝要である。
 また,各大学でどのような教育を受けられるか積極的に情報発信することで,学生が他大学で学修することが一層容易になるなど,学生の流動性の向上を通じた教育の内容・方法の豊富化が進むことも期待される。

(イ) 大学に対する社会的な関心の高まりにより,マスコミなどでも大学の教育情報を収集・分析・公表する機会が増えている。その際にも,画一的なランキングではなく,多様な大学の特色が分かるようにするとともに,大学の負担軽減への配慮を強く求めたい。なお,上記のデータベースの整備など,大学による情報公表が進展することで,マスコミなどへの個別対応が減少し,ひいては大学の負担軽減につながると考えられる。

 以上が,これまでの協力者会議における議論の状況である。大学関係者をはじめ関係諸機関において,これらを踏まえつつ,教育情報の活用・公表を促進する方策について一層の検討が進んで行くことを期待したい。協力者会議としても,その状況を把握・検証していくこととしたい。

お問合せ先

高等教育局高等教育企画課

電話番号:03-5253-4111(内線3681)