大学における教育情報の活用支援と公表の促進に関する協力者会議(第1回) 議事録

1.日時

平成23年6月17日(金曜日)15時00分~17時00分

2.場所

学術総合センター11階 1112会議室

3.出席者

委員

(委員)
井上洋,岡本和夫,鈴木典比古,関根秀和,髙倉翔,早田幸政,福原美三,水上貴央,宗像敏夫,渡辺善子
(特別委員)
浅田尚紀,圓月勝博,小田一幸,佐久間勝彦,村上哲也

国立大学協会野上智行専務理事(山田委員代理)
同志社大学山田礼子教授(意見発表者)

文部科学省

磯田高等教育局長,小松高等教育局審議官,榎本高等教育政策室長,氷見谷国際交流室長,西川高等教育政策室室長補佐,石橋大学振興課課長補佐

4.議事録

(1)座長の選任について
冒頭、非公開で開催し、委員の互選により鈴木委員が座長に選任された。
副座長については、鈴木座長から岡本委員が指名され、委員から了承された。

(2)その後、公開で開催し、大学における教育情報の活用支援と公表の促進に関する協力者会議開催にあたり、文部科学省から以下の通り、挨拶があった。

【磯田高等教育局長】  文部科学省を代表しまして一言ごあいさつを申し述べたいと思います。本日はご多忙の中、ご出席いただきましてまことにありがとうございます。
 ご案内のとおり、大学改革につきましては、関係者はもとより、経済界あるいは政界等々からさまざまな課題の提起がございます。現在の中央教育審議会大学分科会におきまして、3つの柱を中心にして検討を進めております。1点は教育の質の保証・向上の推進方策、2点目は大学の機能別の分化、連携に関する推進方策、3点目は大学の組織・経営基盤の強化であります。これらの観点につきましては、同時に国立大学協会あるいは私立大学団体連合におかれましても、それぞれ自主的な検討を進めていただいておりますし、また、それぞれ各国・公・私立の大学におきましても、それぞれの大学の歴史あるいは大学を取り巻く環境を踏まえながら改革について検討を進め、実施に移していただいていると思っておりますが、私どもといたしましては、その議論の中で教育情報の公開を進めることが、大きな課題であるということを認識しまして、昨年、学校教育法施行規則を改正し、この4月から施行されているところでございます。
 教育情報の公開を進めるということにつきましては、国民に分かりやすく大学の活動を紹介すると、ある意味での説明責任の問題とともに、社会からのニーズを把握し、社会からの評価を受けながら大学改革を進めていく、そして教育研究の質の向上につなげていくと、このような観点からも極めて重要なツールであると考えているところでございます。とりわけ、教育情報を大学の質の改善にどのように生かしていくのか、あるいは、社会との対話をどのように深めていくのか、その中でそれぞれの大学の特色を分かりやすく発信し、結果的には機能分化に結びつけていく、そのような点が非常に大事であろうと思っております。
 また、情報収集のためにも必要なコストがあるわけでございますが、このコストにつきまして様々な関係組織の情報収集に重複があるのではないか、あるいは、効率という観点でまだ課題があるというようなご指摘を、現場のほうからも受けておりますし、また、社会のほうからも、それぞれご提示している情報というものが、ほんとうに効果的な情報提供、説明責任を果たすという観点で、まだまだ改善の余地があるというようなお話も伺っているところでございまして、このコストあるいは効率という観点からも、我々として改善をする必要があろうと考えているところでございます。
 どうか、さまざまな課題がございますが、各委員におかれましては忌憚のないご意見をいただきまして、我が国の高等教育の振興にご支援いただければと思います。どうぞよろしくお願いします。

(3)続いて、鈴木座長から、以下の通り挨拶があった。

【鈴木座長】  教育をめぐる情報というものは膨大なものでありまして、なかなか詳細なところまでは、公開といいますか、知るということができない面がございます。教育という事業自体、国としましても将来にわたって、本当に国の根幹にかかわる営為事業でございますけれども、それに関する全体像といいますか、それがいわゆる広い意味のステークホルダーズの皆さんに、共有されるということは非常に重要なことであります。もちろん国の教育、初等・中等・高等教育すべてにわたって、ステークホルダーズの人たちが支援をしてくれているわけで、それに高等教育機関、初等・中等教育ということを申し上げましたけれども、教育機関はこたえる必要がある。しかもそのこたえ方というのは、自信を持ってこたえる必要がある。日本の教育制度というのはそれだけの自信を持っていいんだと私個人は思っております。その自信を高らかに公開するんだということが必要だと、またその時期が来たというふうに思います。
 もちろん教育機関をいろいろな側面から見ますと、情報といってもすべて公開にするということはなかなか難しい面もありますけれども、そういうことにも十分留意しながらも、基本的にはやはり公開という方向に沿って、我々が進んでいかなければいけないと思っている次第であります。また、この動きというのは1つ日本の国の中でのみならず、海外に目を向けますとやはり先ほど申し上げましたステークホルダーズに対する公開の説明責任ということと同時に、各国の同様な教育機関が自信を持って、また誇りを持って公開をしているという姿がございます。ですから、日本もそういう世界の流れの中で、自信を持って情報の公開を行っていくということ、それに伍していくということが必要だと、そして我々にとってはそれができると私は思っております。
 そういう状況に至っているということを基本的な認識といたしまして、この会を成果のあるものにしていきたいと思っておりますので、何とぞご協力をお願いいたしたいと思います。

(4)引き続き、大学における教育情報の活用支援と公表の促進について、以下の通り意見交換が行われた。

【鈴木座長】  大学の教育情報につきましては、本年4月から学校教育法施行規則の改正が施行されておりまして、各大学が公表すべき項目が明確化されております。そうした経緯も踏まえ、協力者会議では教育情報の活用支援と公表の促進について審議を行うこととなっております。本日は第1回の会議でもございますので、いろいろな論点を把握したいと思いますので、海外の事情なども伺いながら審議を行いたいと考えております。
 本日は同志社大学の山田礼子教授にお越しいただいておりまして、アメリカにおける大学の情報公表につきましてご説明いただき、議論を進めたいと思います。

【山田教授】  本日お時間をいただきまして、「米国における大学の情報公表、データベースを中心に」ということでお話をさせていただきたいと思います。お手元には資料3ということで、かなり大部でございますので、省略しながら後半部分を中心としてお話をさせていただきたいと思います。本日、最初に「情報公開とIR」という見出しをつけさせていただいている部分がございますが、これはIR、いわゆる大学の機関研究でございまして、いわゆる情報を公表していく際に、そうした中身を分析していくセクションということで、IRというように定義させていただいております。
 6ページをご覧ください。前の中教審で決定した情報公開の義務づけについて、実は多く大学にとってはそんなに簡単なものではないということであります。したがって、そうした情報を公表していく上で、IRと呼ばれる機関研究をする部門が進捗することによって、実は標準データベースもつくれる可能性ということにもなってまいりますし、そうした入試状況や財務状況、学生の学習成果などもわかりやすい手法で提示するということは、このIRというセクションが行う部分というのが、非常に大きなものになっているということでございます。それは米国におきましても、情報公表をしていく上で、このIRと呼ばれるセクションが非常に重要な役割を果たしております。
 それでは、「米国における大学情報をめぐる議論」というところに入らせていただきます。日本の状況と同じように、アメリカでも情報公表はいち早くされてはいますが、情報公表における議論の中で大事なものは、8ページにあります2006年9月のレポートであります。A Test of Leadership : Charting the Future of U.S. higher Educationというところで、アクセス、アフォーダビリティ、アカウンタビリティという3つのキーワードが確認されて、その中で高等教育システムの改革の推進ということが全米で確認されたことになります。そのレポートの内容といたしましては、アクセスは高等教育機会の拡大、アフォーダビリティは高等教育のコストに関係した概念、アカウンタビリティは情報公開と拡大する高等教育予算に対して学生の学習成果の提示ということでございました。それに加えて1つ重要なことはTransparencyという言葉が提示されております。これは透明性で、情報の公表においてだれもがわかる内容で提示するということが大切であるということになります。
 学習成果の測定をめぐる議論といたしましては、今申し上げたようにラーニング・アウトカムを何らかの形で提示することが、この2006年以降重要になってきております。それまでは卒業率、リテンション率、あるいは大学院・プロフェッショナル・スクールなどへの進学率などが標準的な基準でありましたが、2006年以降は、機関によっての提示方法については独自性を尊重するという一方で、標準試験の結果、あるいは学生調査の結果、卒業生調査の結果、あるいはルーブリック、ポートフォリオなどの結果というものを、提示するということが求められるようになってきております。
 11ページでは、アクレディテーションが求める教育情報の実際ということで、さまざまなアクレディテーションの基準協会が6つございますが、その中でも学士課程教育で改善すべき具体的事項なども踏まえまして、何らかの形で学習成果の提示をすることが求められています。
 12ページをご覧ください。アメリカには基本的なデータベースが現在2つございます。そのうちの1つは、これは従来からあるもので、いわゆるIPEDSと呼ばれるもので、Integrated Postsecondary Education Date Systemで、全米の高等教育機関を対象とした包括的なデータベースシステムであります。こちらは、基本的な組織の情報、財務情報、入学状況、卒業率、在籍状況、教職員の給与、職員の情報、職員数など、そして奨学金情報などから構成されているものであります。これは連邦による奨学金プログラムを受給する資格のある、あるいは資格を得る機関から集積するデータが基本となっておりますので、これが結局のところ機関として奨学金プログラムを受給するということが、アメリカの機関にとっては非常に重要でございますので、結果的にはほぼ100%近い機関がIPEDSに情報を提供しているということになるかと思われます。
 15ページをご覧ください。IPEDSのデータをだれが使用するのかということになっておりますけれども、この大きな枠の中で一番外側で学生、両親、メディアあるいは高校の進学に関するカウンセラー、あるいはビジネスやその他ということが一番外側の枠になっております。実際にこのIPEDSをだれが利用するかというと、実はこうした外側の枠に入っている人たちから見ると、IPEDSは非常に専門的で使いにくいということがございますので、どちらかといいますと、各大学のIRセクションがこのIPEDSを使って情報をつくり上げていく、あるいは、そこに提供するというような使われ方をしております。それが16ページになります。
 IPEDSの構成要素ということは、簡単に17ページから全部入っておりますけれども、基本的には10の要素から組み合わされている一連のデータでございます。機関の特性、あるいは、22ページに行きますと12ヶ月間の登録者数、あるいは、人的資源などがありまして、詳しくは質疑でお答えいたします。
 IPEDSは非常に長い伝統を持っているデータベースでございますし、奨学金の受給プログラムを得るためには必要でございますので、すべてのといってもいいぐらいのアメリカの高等教育機関が、IPEDSにデータを提出しております。しかしこれは非常に使いにくい、そして難しいというようなことがありましたので、2006年の先ほどのアメリカ・スペリングス委員会の報告により、一気に共通データベースが進捗しております。こちらは主にアメリカのランドグラント大学の協会が開発したデータベースでありまして、これからは何がわかるかというと、例えば志願者数、入試競争の倍率、SAT及びACTと呼ばれる大学入学のための適性試験でございますが、こうしたものの平均点、そして、後でご説明いたしますけれども、CLA(Collegiate Learning Assessment)あるいはMAAP、そしてCAAPと呼ばれる、これは標準的な一般的な一般教育の成果を測定するアメリカで開発されてきた標準試験であります。
 MAAPやCAAPは比較的昔から使われているものでございますが、2006年以降に開発されたものが、このCLAと呼ばれるCollegiate Learning Assessmentという標準的なテストでございます。標準的なテストといっても、多項選択式ではなくて記述式というような内容で構成されているのがこの新しいテストでございます。それに加えまして、そうした直接的に学習成果をはかる標準試験とは違って、標準試験の結果に至るまでの学習の学びのプロセスや、あるいは、大学生活への適応などを測定する学生調査でありますCIRPとかNESSEなどの学生満足度など、あるいはエンゲージメントと呼ばれるものを使って、その結果が公開されています。
 このデータベースは、先ほど申し上げたようなランドグラント大学を中心とする、あるいは公立大学を中心とする協会・団体がつくったものでありまして、その一連のプログラムがVoluntary System of Accountabilityというプログラムになります。公立の4年生大学が参加していること。共通のフォーマットによるウェブ上のレポート、学士課程教育段階の基本的で比較可能なデータを、学生、高校生、保護者を含む社会全般に提供するために開発されたものであります。これはAmerican Association of State Colleges and Universities(米国州立大学協議会)と、米国州立大学・土地付与大学協議会の学長、学部長など関係者が、このデータベースの開発と構築に参加して運営しているものでございます。それができ上がったものがThe College Portraitという呼び名で呼ばれているデータベースでございます。
 40ページでございますが、The College Portraitの機能としては、高校生がとにかく大学選択をしやすいというようなツールになっている特徴があります。そして、また大学間を透明性のある比較可能で理解しやすい情報を提供することによって、比較ができるようになっているということ。当然、公共へのアカウンタビリティに対応しているということ。効果的な教育実践を把握し、高めるための教育成果を測定しているというようなことであります。参加校数でございますが、実際のところまだまだこれは開発されて、走り出してまだ時間がそれほどたっていないわけでございますので、AASCUとAPLUの加盟校数約500ございますが、現時点では約300校が参加しているということになります。
 提示される教育情報を主に分けてみますと3分類になります。まず第1に学生や保護者にとっての基本的な情報、在学生の情報、卒業率やリテンション率、授業料や奨学金の情報、入試情報、取得学位、学位プログラム、生活コストや生活環境、キャンパスの安全状況、卒業後の進路、これはアメリカのカーネギー分類と呼ばれる機能別分化の指標でございますが、そうした分類を使っての機関がどこに相当するかといった機関情報であります。2番目には、先ほどCIRPやNESSEということを申し上げましたけれども、学生の経験の状況調査や満足度など意識調査の結果であります。3番目が、学生の学習成果に関しての情報で、The College Portrait参加大学はCLAを採用しているとここでは書かせていただきましたが、MAAPやCAAPを使っている大学も多くございます。
 CLAに関しましては、多項選択式ではないので何が特徴かというと、クリティカル・シンキングであるとか、分析的理由づけ、問題解決、文章表現を包摂した包括的な能力を測定することを目的として開発されています。したがって、これを1年生のときに受けて、上級学年時に受けることによって、そこの伸びたものを測定するというValue added方式で測定するというようなことになっています。
 The College Portraitの課題と今後の動向ということでございますが、先ほど申し上げましたように、2007年に開発されていますので、まだ開発されて4年弱であります。私立大学や威信度の高い州立研究大学は、あまりこのデータベースには参加していないというようなことが現時点ではある。また、参加していても威信度の高い州立研究大学などは、CLAに代表されるような標準試験を学習成果の測定ツールとして、それほど利用していないということもございます。しかし一方で、これはランドグラント大学や州立大学が中心としてなって自らつくったこういうデータベースでございますので、カーネギーの先ほど申し上げた機能別の大学分類に基づいて、大学の種別化が進んでいるわけでございますが、そうした中でかつ種別ごとに工夫された学習成果の測定が開発されて、それぞれの機関に合うようなデータベースも、構築されていく可能性もあるということが言われております。
 最後、2つでございますが、こうしたデータベースなどがつくられていると同時に、こうしたデータベースはなかなか簡単に使えないし、またIRなどの専門家が必要となっております。そうしたところで重要なのが学協会の役割になります。AIR(Association for Institutional Research)と呼ばれる学協会でございますが、こちらには会員が4,000人以上、大学のIR担当者や研究者、そして、大学そのものがこの機関会員になっております。この予算は非常に大きなものがありますが、その中で何に使われているかというと、こうしたデータベースを分析する、あるいは、そこにデータを提供するようなIRに関する人材育成をしております。
 最後に、日本への示唆ということで、このアカウンタビリティへの対応というのは、実は世界の共通点でありまして、今ある学校基本調査をIPEDSのようなデータベースに構築することも可能ではないかということがありますし、そうした既存のデータベースをどう利用するのか、あるいは、そうした中でわかりやすいデータベース構築が求められているわけで、将来的には種別化した機関間でのデータベースの構築ということもあり得る。最後に蛇足でございますが、私どもは同志社大学が代表校となりまして、北海道大学、大阪府立大学、甲南大学という設置の機関を超えて、お互いが教育改善に生かすようなデータベースを、現在、3年間かけて構築してきている次第でございます。

【鈴木座長】  ただいまの山田教授のご説明につきまして、特段のご質問がございましたら、どなたからでもお願いいたします。

【髙倉委員】  38ページにランドグラント大学でデータの開発というものに取り組んだということを、興味深く聞かせていただきましたけれども、なぜランドグラント大学がデータベースの開発に取り組んだのか、その背景、理由というものを簡潔にお教えいただけますでしょうか。

【山田教授】  これは基本的にランドグラント大学と州立大学というのを、一体して考えればよろしいかと思いますが、こうした大学へのやはり公的資金援助に対して、アカウンタブルでなければいけないというようなスペリングス委員会の報告がございました。もちろんランドグラント大学以外にも研究大学である公立大学もございますし、私立大学もたくさんございます。しかしランドグラント大学はいち早くこうしたスペリングス委員会のレポートに対して対応して、自らがそうしたデータベースを開発するということに、着手したというようなことであると思います。もちろんその際にルミナファウンデーションとか、そういうところからの開発のための財政的なグラントがあったということもありますので、それをもとに最初につくられたというのが、このThe College Portraitをつくっているプログラム、VSAということになるかと思います。

【榎本高等教育政策室長】  山田先生、よろしければこのランドグラント大学については、十分わからない方もいらっしゃるかもしれないので、少し補足をお願いできればと思います。

【山田教授】ランドグラント大学はアメリカの公立、4年生大学とは限らないかもしれませんけれども、4年生大学を基本として、政府から設置に当たって土地を与えられて、土地が付与されてつくり上げられた大学でございます。ですから、州立大学の多くはランドグラント大学という前提、最初はランドグラント大学から出発したところが多く、当然ランドグラント大学であれば、その州の州民のために貢献するというアカウンタブルな責任というものを、当初から設置されたときから持っていたということがございます。

【髙倉委員】  学生の収容数が非常に抜きんじて多いというような背景も当然あるんでしょうか。

【山田教授】  収容数などは必ずしも日本のように定員をというようには決まっておりませんけれども、基本的に日本と大きな違いといいますと、州立大学であればその州の住民の学生さんたちは多く進学しますので、当然、学生数は多いということはあるかと思います。

【圓月委員】  The College Portraitの話はおもしろく聞かせていただきました。43ページあたりのところで、ただし私立大学や威信度の高い州立研究大学は、このデータベースには参加していないというご報告ありましたけれども、そのあたりの事情に関しましてもう少し補足説明していただければと思います。

【山田教授】  The College Portraitはランドグラント大学の協会がもともと開発のための資金を得てつくり上げてきたものであります。ただし、それ以外にも私立大学のいろんな連合もございます。例えば今ちょうどこの期間にフィラデルフィアで開かれている私立大学のリベラーズカレッジを中心としたコンソーシアムがございます。ヘッズというような団体がございまして、これなどもよく似たものをつくっていて、お互いに教育改善のためにデータをシェアしながら図っていくということがあります。
 ただし、このヘッズというのはやはり公立大学のように政府から資金援助があるという、それほど多いというわけではないので、その会員機関の中でデータをシェアをして、必ずしも外に出しているということではありません。しかしやはりそうしたものがございますし、例えば研究大学の州立大学ではUCなどが典型的だと思いますけれども、UCシステムの中でもお互いがシェアするようなデータベースも持っておりますし、あとはアイビー・リーグの、これは外に開かないのでなかなか私たちはその全容を知れないんですけれども、アイビー・リーグの中で行っているお互いの教育情報の公開みたいなものはございます。

【鈴木座長】  続きまして、諸外国における教育情報の発信は多様な展開を見せておりますけれども、この会議での議論を広めるために、そうした事例の1つとして、インターネットを活用した国際的な教育情報の発信について、福原委員にご説明をいただきたいと思います。

【福原委員】  資料の最初の9ページ分、論文の形でまとめさせていただいて、またポイントのところをマーキングをさせていただきました。ここを中心にお話をします。資料につきましては、その後ろの部分は前の論文に含まれるデータも含めて、詳細な情報を参考資料として付けさせていただきましたので、後ほど何か質疑の中でもご質問があれば、それを使ってご紹介したいと思います。一番後ろに付いておりますのは、昨年の10月に日経新聞社さんに私の投稿の形で、この流れをまとめさせていただいたものを付けさせていただきましたので、ご参考にということでございます。
 では、資料に沿いまして紹介をさせていただきますが、これお話しする立場としては、今、明治大学の教員をしておりますが、このオープンコースウェアという活動を日本で始めたときに、大学を中心とするコンソーシアム、日本オープンコースウェアコンソーシアムというのをつくりまして、その設立のときからずっと取りまとめ役をさせていただいております。また、2006年、正式には2008年にNPOになった国際コンソーシアムがございます。オープンコースウェアコンソーシアム、米国マサチューセッツに本部を置くものですが、2008年からそのボードメンバーもずっと務めておりますので、そういう観点でお話をさせていただきたいと思います。この教育情報の公開というのはいろんなカテゴリーがあるということで、資料に文部科学省さんのご説明ありましたけれども、この9つのカテゴリーの中で5「授業科目、授業の方法及び内容並びに年間の授業の計画に関すること」、この部分の公開ということについてのお話ということでご理解いただければと思います。では、資料に沿いまして説明をさせていただきます。 オープンコースウェアということに関して、これは2001年に米国のマサチューセツ工科大学(略称MIT)が提唱した活動であるということで、2001年に公開スタートしたときに、MITが持っているすべての講義に関して、インターネット上で無償公開するということを発表したわけです。そのときに目標として2007年に全部を公開するんだということをうたったわけですが、実際に2007年にすべてのコース、大体1,900コースでございますが、完了しております。2008年には独立した非営利団体として、OCWコンソーシアムと書きましたが、オープンコースウェアコンソーシアム、日本ですと少々混乱を招くので通称で「国際コンソーシアム」という言い方をしておりますが、OCWコンソーシアムが発足をしております。今250機関以上加盟しております。日本では2005年に最初の活動をスタートさせましたが、現在では42機関が参加する規模になっております。実際の講義の情報、スタートした当初はテキストを中心、いわゆる先生が配布する講義ノート中心でしたが、最近は講義ビデオの公開も比重を多くしているというのが全体像でございます。
 詳細を2ページから、歴史も含めて及び歴史の背景も含めてご紹介したいと思います。最初に基本コンセプトも含めたOCW、最初にMITが公開したことを中心にご紹介したいと思います。まず第1にオープンコースウェアというのが、大学で正規に提供された講義の実態を提供していますということでございます。これは背景として、大きな目的の1つにこのコンテンツを高等教育の機会に恵まれない地域、特に世界中を意味しておりますが、発展途上国等を含めた人々の教育機会の提供手段として、正式に活用できるものでなくてはいけないということで、講義の実態であるということが基本コンセプトに入っております。
 それから、非営利及び教育目的に限定しての無償での公開であるということと同時に、この利用・複製、それから、再配信、さらに翻訳を含む変更、これも認めておるのが基本コンセプトです。この背景は1とも重なりますが、例えば発展途上国の先生が、この講義を自分の講義の中の一部として組み込んで活用するということをどんどんしてください、それを奨励しますという趣旨ですので、これは一切変更も部分利用も許可しないというような立場ではなく、どんどん活用してください、どんどんご自身の講義の中に組み込んでくださいという趣旨で提供するということで、そういうコンセプトになっているということでございます。ただし、これは時々誤解を招くのですが、著作者の権利を完全に放棄して、もうこれはどんどん使っていいし、私の著作物ではありませんというような意味で公開してくださいということでは全くありません。これは当然、今、国際的にも共通化されつつありますが、フリーなコンテンツのライセンスで、共通的にはクリエイティブ・コモンズライセンスというものが付与されておりまして、著作者名の表示、それから、非営利の利用であること、それから、著作条件の継承、つまり変更したものについても、前の条件と同様の活用をしてくださいということが明示されております。
 それから、MITも含め、この講義のコンテンツの利用に関して、大学としては質問や問い合わせには一切応じないということを明示しています。これも誤解を招く部分でありますが、特にMIT全部の講義の公開を大前提としていますので、教員の積極的な協力がなくてはこれを実現できません。その場合に何か問い合わせがあったら「できる範囲でいいからよろしくお願いします」と言った途端に、教員は一切協力しないという立場に当然なりますので、基本的には教員に対してはこの公開に関して、新たな負担はありませんよということを大前提としているという趣旨でございます。ただし、もちろんこれはステップとしては、大学という機関が一切教員に新たな負担を負わせないという趣旨であって、一方で利用者から見たときに、ただ公開されているだけではなかなか自主学習には難しいと、これは当然のことでございまして、そういうものをどうしていくか、今後支援していくかというのは、今、国際コンソーシアムの中でも非常に重要な課題として、議論のテーマになっている部分であることは言うまでもございません。
 それから、4番ですがOCW―オープンコースウェアの構成要素でございますけれども、「シラバス」、「カレンダー」、これは一般的にも公開されていますが、「講義ノート」が一番重要な構成要素になっています。これは先ほどもお話ししました講義の事実を伝えることができて、かつ教育目的に供し得る情報でなければならないということでございます。繰り返しですが、そのまま公開するということが骨子になっておりまして、講義内容を忠実に表現したものであるということでございます。
 少し補足ですが、その次にMITがこれを公開するに至った背景を紹介をしておきたいと思います。2001年に彼らは「やるぞ」というふうに宣言したわけですけれども、この時期を振り返ってみますとちょうどインターネットの隆盛期、いわゆる.comバブルと言われるようなものが急速に拡大する、まさにその最中だったわけです。米国でも多くの大学がビジネスとしてのeラーニングを展開し始めていた。このときにMITはなぜこの方策をとったかというのは、ある意味でこれは結果論ですけれども、MITも最初はeラーニングをビジネスとして展開するということを想定して、少し検討しようということを始めたそうです。学長配下の全学的な検討委員会を設けて、非常に膨大な労力をかけて、外部のコンサルタント等も入れて徹底的に検証した。特に卒業生とか、積極的にeラーニングを提供している教員、これらの意見もじっくり聞いたところ、eラーニングビジネスの参入というのは、MITにとってはもう既に時期を逸している、いわゆるスタートダッシュはこういうインターネットビジネスで重要ですが、それにはもうもはや手遅れだと。
 また、もう一つの観点は将来MITがどういうふうに世の中から見られるかというような観点から見たときも、望ましくはないのではないかというようなことで、むしろ全部無償で公開するというほうが非常にインパクトがあるというような答申がなされて、これをぜひやろうということで、当時の学長が積極的にファンドレイジングに動いて、米国の大手のウィリアムアンドフローラヒューレット財団とアンドリュー・W・メロン財団、これは二大支援財団になっておりますが、今までに大体50ミリオンドルを拠出をしてスタートしたと、こういう背景でございます。
 日本でございますけれども、MITがこれをスタートしたときに2つの目標をMITもセットしました。1つは標準的なワークフローを確立して、これを定着させると。もう一つの目的はこの定着したモデルを、一般化して世界に普及展開することだということで、2004年に日本の各大学もこの話をぜひ聞いてくれというようなプロモーションがございまして、主要大学を集めたワークショップを開催したところ、その中大阪大学、京都大学、慶応義塾大学、東京工業大学、東京大学、早稲田大学、この6大学で意識がありまして、これはすぐにやろうということになり、2005年の5月にこの各大学の全学長の同席の共同記者会見を行い、日本でスタートということになったという経緯でございます。
 そのときに1つのガイドラインとして、さすがにMITは全講義を公開するとうたったわけですが、この6大学が学長が並んでいる記者会見で、我々も全講義を全部公開するぞと残念ながら言えなかったわけです。これは勇気がないということではなくて、当然資金もありませんし、もう一方で、MITは2,000コースだったわけですけれども、例えば私が以前までおりました慶応義塾大学にしても5,000とか6,000とか、数えたことがないのでわからないという方が多い。これも教育情報の公開との絡みでございますが、少なくともMITの数倍、下手すれば10倍のコースがあると。これを全部公開するというのは、これは現実的ではないということもあって、とはいっても1つのガイドラインが必要だろうということで、皆さんにどんどん参加していただくということも含めて、最初のガイドラインは10課目ということを想定しようではないかということでスタートしました。実はこれは国際コンソーシアムの加盟条件にもなっていまして、今250大学が加盟していると申し上げましたが、皆さん10課目をインターネットで公開するということを同意してくださいということで、同意書の提出を求めて、国際コンソーシアムへの加盟条件としているところでございます。
 これは6大学でスタートした後、すぐ1年後にもっと広げようということで、2006年4月に正式なコンソーシアムとしてJOCWという形で発足をしております。図1に会員の拡大の様子を書いてございます。さらに詳細な機関名は16ページ下に加盟年度ごとに掲載しておきましたのでご覧いただければと思います。事実としては現在大学23、非営利団体が4、企業にも参加していただいておりまして、グラフと数字が少々異なっておりますが、今16という数字になっております。
 公開コースが、これも大きなグラフが15ページの下にございますが、昨年末現在でトータル1,800科目、日本から公開をされています。ただ、ここで常に議論になるところですが、増加率は会員数も含めて非常にリニアに拡大をしているところですけれども、リニアはリニアなんですが、日本語コースと英語コースというのを見ますと、非常に日本語コースは順調に伸びているんですが、英語のコースの公開がなかなか伸びていないというのが、1つの事実でございます。国際的な活動として国際コンソーシアムを通じて各国とも協力・協調していく流れの中で言うと、日本語のコースを公開することが国際的にも意味がないということでは全くないので、それは世界中で例えばブラジル、中国など、色々なところから日本語コースに対してのアクセスは実にございますけれども、ただ、もう少し国際的な観点からいうと英語のコースの拡大、ないしは日本語コースの翻訳等が必要だろうという議論はございます。
 利用に関しましては5ページの上のほうにグラフをつけてございます。これも後ろの17ページに同じグラフがございますが、グラフが途中で欠落して谷の形になっているのは、実はこれはアクセスがなかったわけではなく、サーバーの都合でデータがとれなかったということだけでございます。概略大体見ていきますと、ほぼリニアには伸びています。毎月の延べ利用者数と、日本全体でオープンコースウェアにアクセスをしている延べ利用者数というふうに理解いただければと思いますが、月間で現在約50万人がアクセスをしているという状況でございます。ちなみにMITは月間で200万人という規模でございますので、なかなか日本語のコースということの国際性ということも、言語の壁もあって数値は若干差がございます。
 一方、海外、MIT以外どんどん拡大をしていまして、組織的な取り組みとして最初から積極的にスタートしたのは、実はスペインと中国ですけれども、スペインが特に熱心にこの活動を推進していまして、Open Course Ware Universiaという名前のコンソーシアムを中心にスペイン語圏、活用ユーザー層でいわゆる中南米のスペイン語文化圏に対して講義の公開をしております。このスペイン語文化圏をどんどん拡大するということで、スポンサーにサンタンデール銀行が非常に積極的バックアップをしているという背景がございます。現在、きのう数えてみましたら参加大学95ということで、非常に大きく拡大をしています。95というのはスペインだけではなく、中南米も含んだ数でございます。それから、中国はCORE(China Open Resources for Education)というコンソーシアムを通じて、積極的にコンテンツの発信及び利用を推進しているという状況にございます。
 国際コンソーシアムの国別の参加数については、グラフにつけて下に表につけましたが、先ほどの95というのは実はこの表を書いた後ではかったので少々ずれておりますが、スペインは実は41ではなくて95です。これは1年間でそれだけ伸びているというふうに、実はよくわかったということですけれども、ちなみに6ページになりますが、今、トータルには1万8,000コースですが、韓国、台湾、ベトナム等アジアの国々も地域コンソーシアムをつくっていまして、特に日本、韓国、台湾の間では2年前からコラボレーションで、このオープンコースウェアのアジアにかかわる国際会議を毎年開催をしております。今年は11月に日本で開催する予定にしております。
 最後に、7ページのところで、実は日本のコンソーシアムで2007年から毎年大学のオープン化、特に教育情報、このオープンコースウェアを中心とした講義情報を公開するという部分について、世の中の人たちがどういう理解あるいは意識を持っているかを、インターネットリサーチの形で世論調査をしております。毎年大体1,200人ぐらい、最初は1,000人だったんですけれども、今1,200人で35問の質問に答えていただいています。詳細は後ろのグラフにしてまとめておりますが、ポイントのみご紹介をします。
 利用ニーズ、潜在ニーズで見ますと8割という数字が出ています。もし自分の学習用に使うとしたら使いたいですかということに対して「使いたい」というニーズが8割ございます。ところが、実際に使っているかということに関しては、つい最近の今年の4月のアンケートでもまだ5.9%ということで、なかなか実際に使っている人は少ない。ただ、今後使いたいという人は63.7%で、これを合わせると実際7割に上っております。実際に見るときは講義の紹介だとか、利用者のコメント等があれば望ましいという意見が多く出てございます。
 それから、8ページのところで(4)でございますけれども、もしもご自分の住んでいる近くの大学が公開講座を実施していて、もし実施していたらそれを受講したいかという質問に対して「受講したい」と答えた方が8割以上あります。これは地域の各大学から見ても、こういう情報をどんどん公開することが、地域の住民にとっても望まれていることなんだとご理解いただけるんじゃないかと思います。さらにそれをインターネットでもし公開されていたら見たいですかという質問に対しても、8割の方がやはりインターネットでも見てみたいというふうに答えたということで、うまくリアルな公開とインターネットでの公開ということを組み合わせていくことが、今までの調査の中で言うと潜在ニーズにこたえることになるのではないかということでございます。

【鈴木座長】  福原先生の非常に幅広い、かつこういう世界が今広がっているという情報をいただきました。福原委員のご説明のご質問も含めまして、意見交換に入りたいと思います。先ほどの山田先生のご報告も含めまして、どなたからでもご質問をいただきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

【佐久間委員】  興味深くお聞きしたのですが、インターネットで大学の講義授業を公開するということですけれども、いわゆる講義ですよね。教員がずっと90分しゃべりっ放しの教員だけが映っているとか、あるいは、板書が映っているとか、これはこれでいいのでしょうが、私はあまりそういうのは見たいとは思わなくて、学生がどのようにそういう教員のほうからの問いかけだとか、投げかけに答えながら、どういうふうに知的な追求をしているのかというものであれば、私は見たいと思っておるわけですけれども、いわゆる今はもう個人情報の時代でありまして、私も小学校で授業やったものをビデオに撮って、それを他大学の先生が授業の中で使いながらいろいろとやっていると。その時に、やはり子どもの顔とか映るのはまずいということでみんなぼかして、発言ややりとりはしっかりと分ると、でも、そういう中で授業の指導法だとか、教育方法について考えるということで、毎年、その先生に使われているということを聞いておりますけれども、公表すればそれは確かにシラバスを見るよりはそれはいいのでしょうけれども、そういう問題というのは起こり得ないものなのか、何でも学生とやっているそういう授業を、どういう人が見るかわからないところにこうやって流すということの問題性はないのかと、それが気になったのですけれども。

【福原委員】  私も例えば90分間先生が教壇に立って講義をしているだけの映像でしたら見たいと思わないですね。そういうものがあるかというと、ほとんどはそういうものではありません。まず1つは、利用者の観点から見たときに使いやすくなければいけない、かつ最近の状況でモバイル系、iPodやiPad、スマートフォンなど、そういうものも活用して電車の中でも見たいというニーズもございますので、実際には15分ぐらいで区切り、15分単位ぐらいの情報が出ています。それから、先生がただ立っている情報だけが出ているわけではなくて、例えばパワーポイントを使われている先生はパワーポイントの情報と先生のをうまく組み合わせた形で授業をするという、いわゆるeラーニング型の講義として提供しているということがございます。
 さらに、ただ先生の講義だけが出ているのではおもしろくない、これも当然ですね。幾つかの例で、これはすべてじゃないですが、何とかこれをもっと活用してもらう方向でプラスアルファの情報が出せないかと、こんな観点からいろんな取り組みがあります。その1つは、学生がとった講義ノートを一緒につけるという取り組みです。これは先生が書いたものより学生がつけたものの方がむしろ分かりやりすいということもあるのですね。これにつては、韓国でもやっていますし、日本でも幾つかの事例がございます。
 それから、先ほどの学生の顔ついては、これも個人情報としての重要な情報ですので、例えば映像を撮るときは必ず公開をする旨、また、大学生、成人の場合、自分の顔が映るのが嫌な方は画面の外に出ること、サイドは映らないこと、基本は先生を撮影するが万が一中央にいれば映ることがある、といったことは事前に周知をします。
 それから、もう一つ、これは中学生に、中大連携という言葉があるかどうかわかりませんが、大学の講義を中学生にわかりやすく解説しましょうというものがあります。これは実は慶応義塾大学などでトライをしたことがあるのですが、脳科学のようなものを大学の准教授が相手は中学生だと、中学生にわかる講義をしようと、こういう意味で講義をしたものです。これ実はオープンコースウェアで公開しているのですが、そのときに少しコラボレーティブな講義ですから生徒の顔が映ります。その場合はその生徒さんの保護者にすべて確認をとり、了解をとりました。もし不同意の場合は見えないようにします、マスクしますという確認をとったのですけれども、これは幸か不幸かですけど、そのクラスは2クラスあったのですが、すべて全員の保護者が全部「構いません、どうぞ使ってください、公開してください」というふうな了解の回答を出されました。そこだけだったらよかったんですが、蛇足ですけれども、ぜひそれは家でも見たいのでDVDに焼いてくださいと皆さんから言われて、100枚DVDを焼いてお配りしたというケースがございますが、当然、無制限にやっているわけではなく、それは了解をとった上でやっていますが、積極的な保護者さんですとか、先生はそういう方法をやっています。
 ただ、当然ですけれども、全部の教員が積極的に参加していただけているわけではもちろんなく、これは現実解としてどういうアプローチをしているかというと、MITのようにすべてということにはなっていませんので、積極的に公開したい先生がおられたら、まず手を挙げていただきたいということで手を挙げていただいた先生を口説いています。その先生から同僚の先生でいい講義をしている先生いませんか。もう一つは、大学院生あたりをちょっと引っ張ってきて、実際におもしろい講義を行っている先生はだれですか、こういうのを聞くのですね。その先生にぜひおもしろいと、大学院生、学生の評判が高いので皆さんに公開しましょうよと言うと、6割ぐらいの先生はそういうことだったらいいよとお答えになる先生がいます。
 もちろん組織論的な話ですけれども、2割・6割・2割の原則と私は言っていますが、2割ぐらいはすごく積極的な人がいる。2割ぐらい非常に消極的であったり、あるいは極めてネガティブな人がいる。真ん中の6割はどっちつかずの人がいる。上の2割が口説けて真ん中の6割に対してどう影響力を与えるかというふうにすると、MITのような流れができるかなと、これは経験則でございますが感じているところでございます。

【圓月委員】  興味深いご報告ありがとうございました。基本的な質問ですけれども、オープンコースウェアの目的というのは何なのでしょうか。具体的に言いますと、利用者というのはどういうのを想定なさっているか。福原先生のお話では「はじめに」のところで、継続学習社会の基盤整備ということになると、私としては生涯教育等で高等教育の機会の拡大というのを行うというところが、目的だというふうに理解していいのでしょうか。

【福原委員】  これに参加する大学はやはりさまざまな目的があります。当然1つではない。ただし、当初、MITがスタートしたときにはかなり強く意識したのは、諸外国ないし、今、大学に来ていない人たちに対して提供するというところから始めましたが、最近はほかの大学もそうですけれども、非常に強く思っているのが、特にMITは明確ですけど、MITのケースをまず先に申し上げてしまうと、世界中から優秀な高校生を1人でも多くMITに引きつけたい、こういう目的をかなり強く位置づけていますので、ハイライトハイスクールというプロジェクトを立ち上げています。
 日本の中でもやはり少しデータ見てみますと、受験生が結構見ています。これはもう実際に自分が行く大学の講義の中身そのものが見られますから、それでぜひ選んでくれたらもちろん言うことはないので、オープンキャンパスではなく日常の講義ですので、これはやっぱり私も慶応で収録したときは意識したのですが、先生の音声をマイクから撮るのではなくて、周辺ノイズも含めて撮る。いわゆる臨場感ですね、教室で実際に聞いてもらうような雰囲気をつくろうじゃないか。これはOCWの例ではないですけれども、早稲田のeスクールなどもそういう意識をしてやられているという話を聞きました。かつ、大学に来てもらう人というのは18歳年齢以外にも拡大をしていますし、社会人も広げていますし、さらにそれを今後のマーケットとしても広がってくるだろう。そういうことをかなり意識をしたターゲットですね、これは置いているというのは間違いないと思います。

【水上委員】  特に今回の大学に関する情報の公開の促進という観点で考えたときに、アメリカのこの仕組みのターゲット設定は、どちらかというと、納税者へのアカウンタビリティの話なのか、それとも高校生の選択機会の確保という話なのか、そこはどちらに軸足が置かれて進んでいる議論なのでしょうか。

【山田教授】  私が今まで研究してきた限りでは、アカウンタビリティということがまず来ていたと思います。しかし、これは少々余談になってしまうかもしれませんけれども、スペリングス委員会の議長、マーガレット・スペリングスさんが実はデータベースを触っていたときに、ちょうどたまたま自分のお嬢さんが高校生で、大学受験を考えている時期だったんです。そうすると、大学の情報というのは全くわかりにくいというところから出発しているのもありますので、当然、高校生や、親が大学進学を選択をする際にわかりやすいということが、それ以前のアカウンタビリティという問題設定に加えて来た。だから、Transparencyという言葉、透明性、それがわかりやすいということに移ってきているといいますか、付加されたというようにお考えいただければいいかなと思います。

【水上委員】  その関係でいわゆるIPEDSとその先のもう少し加工性の高いデータベースがあったときに、お伺いしながらイメージとしては、どっちかというとIPEDSというのは非常に基本的なデータで、高校生が使うというのは少々加工性が低過ぎるのかなと。一方、その先に出てきたいろいろなものについては、非常に高校生が見て例えば大学で1年生~4年生までどれぐらい学力が伸びるのかとか、そういうことも含めて大分わかってくるという議論なのかなと。そうすると、時代の流れの中で最低限基本的な情報をアカウンタビリティとして公開しましょうというところがまずあって、その先にさらにそこができれば、次は高校生もちゃんと見れるようにしましょうよというような、発展的段階があるのかなというような想像をしたのですがけれども、そのあたりはいかがですか。

【山田教授】  ご指摘のとおりだと思います。IPEDSは随分長い歴史を持っていますので、それは基本的な情報、例えば日本でも学校基本調査というのがございますけれども、それはデータベースになっているかどうかは別として、そういう情報というものが基本となっていたのがIPEDSだったと思います。ただ、IPEDSをそれこそ高校生が使うということは、ほとんどないと考えていただいていいと思いますので、その次の段階としてより使いやすい、より指標としてわかりやすいという段階に入ってきて開発されたのが、The College Portraitというようにお考えいただいていいかと思います。

【水上委員】  なるほど、ぜひそれを踏まえてご見解を教えていただければと思うんですけれども、日本でこれを考えるときに、まず軸足としてIPEDSみたいなものが必要だという議論なのか、それともその先にできた高校生の選択の機会を与えるような、新データベースみたいなものがより必要だという議論なのか、それともそれは段階論なのか、それともアメリカでは段階論だったけど、日本はアメリカを知っているんだからいきなり一遍にできるんじゃないかとか、そのあたりは発展段階のイメージというのは、何か仮説とかお持ちでしたら教えていただきたいと思います。

【山田教授】  それは私としては別にこれは日本のものをここで提示したというわけではございませんので、それこそ議論の上で使いやすいものを最初からつくり上げていくのか、あるいは、やはり基本的なものとして使えるようなデータベースをまず構築していった上でというようなことではないかと思います。まだそういう教育情報の公表というものが義務化されてきて、どういうデータベースを使うかというような、つくり上げるというような議論にはまだなってないのではないかなというような印象を受けます。ですから、それはそれこそいろんな議論をした上で、いきなりそういうところに行くのか、あるいは、もう少し初段階としてというようなこともあるかと思いますけれども、コストということも関係してまいりますから、その辺も議論されればいいのではないかなと思います。

【早田委員】  少し関連する質問なのかもわかりませんけれども、このIPEDSのデータをだれが使用するのかという、これは15ページですが、おそらく時間の関係で省略されたのかもわかりませんけれども、このIPEDSのデータベースというのは、連邦による奨学金プログラムを受給する資格のある機関から集積するデータということで、どうやらアクレディテーションと何か親和性が高いような感じがするのですが、しかし、それにしても15ページを見ると、そこにアクレディテーション段階とかということが書かれていないようですけれども、このIPEDSのデータとアクレディテーションとの関係というのはどのようになっているのか。というのは、具体的にIPEDSの構成要素についてかなり詳しく書かれていますけれども、これがアクレディテーションの適格認定の構成要素と合致しているのであれば、それはアクレディテーションとIPEDSのデータというのは、親和性が高いといいましたが、連結していく可能性というのはあるようにも思うのですけれども、その両者の関係についてお教えいただきたいと思います。

【山田教授】  必ずしもアクレディテーション機関がこれを義務づけていたものを使っているということはないのではないかと思っています。利用することはすると思いますけれども、あくまでも奨学金の受給できるかどうかということは連邦の奨学金プログラムなんですね。ですから、それは連邦政府との関係性になってきて、アクレディテーション機関がそこにどう関連するかということは、この作成されたのはAIRの方ですけれども、Christopher Cooganという方がつくってくださったものをいただいてここで公表させていただいたんですが、そういうことまでアクレディテーションの要素になっているかどうかというのは、私にはわからないところがございます。

【早田委員】  私の基本的理解だと、連邦による奨学金プログラムを受給する資格のある機関というのは、これはアクレディテーションにおいて機関別認証をした大学のみが、受給資格があるというのがありますよね。それとの関係で連想したものですから、アクレディテーションとこのIPEDSというのは非常に親和性が高いというか、相互利用ではなくてアクレディテーション団体のほうでこれを利用する可能性、あるいは、実際に利用しているのかどうかと、あるいは、ここにあるIPEDSの構成要素というのは、アクレディテーションの基準の重要部分というのが網羅されているのかどうかというように思ったのでという主旨の質問です。

【渡辺委員】  山田先生にお尋ねしたいのですが、38ページでCLAのお話があり、1年・4年次の点数みたいな、こういうアイデアは非常におもしろいなというふうに私はお話を伺いながら聞いたわけですけれども、この学生がこの大学に行ったことによって、どれだけValue addしたかというのが、こういうところがあれば見えるわけですが、項目があっても実際にどの程度使われているのかとか、それを採用してない大学もあるでしょうし、かなり積極的に使っている、世の中でも使われているとか、その辺の状況はいかがでしょうか?

【山田教授】  まずCLAが開発されたのは非常に最近のことです。2007年以降だったかと思います。したがって、まだまだいわゆる専門的な用語で言うとvalidityというところの検証がずっと行われております。ですから、例えばCLA1年・4年というので上がるかどうかということを考えたときに、実はSATとかACTと呼ばれる進学適性試験との相関性が非常に高いわけですから、そうなってきますと、必ずしもCLAでなくてACTやSATで見て、そして4年生になったときにどれだけ伸びたかということまで調べなくてもというような議論もあります。
 もう一つは、CLAは非常にクリティカル・シンキングとか、理由づけということを想定してつくり上げられてきている記述式の問題であるのですけれども、そのときに実際受ける学生をどうサンプリングするかというのがまだ解決されていません。つまり卒業要件になっているかどうかということでもありませんので、大学側の非常に設計上でしっかりとしたサンプリングをしない限り、それを横で水平的に大学間比較ができるかというと、そこまでまだ行ってないわけです。ですから、もう四、五年、私はこれが標準化された横で比較できるようなテストとして成長していくには、時間がかかるかなとは思いますけれども、ただ、期待は非常に大きいものがあるということでございます。

【渡辺委員】  CLAを採用している大学でも、全学生に対してやるというわけではないのでしょうか。

【山田教授】  ランダムサンプリングで、1年生あるいは3年、4年ぐらいを100人程度とか、200人程度というふうになっているかと思います。

【早田委員】  先ほどのIPEDSとThe College Portraitの関係ですけれども、このThe College Portraitというのは、奨学金受給資格がある機関に限っているものではないのですか。最低、それは前提要件になっているのですか。

【山田教授】  いいえ、違います。IPEDSのほうは奨学金受給をしてもらう、受けるためにデータを提供しなければいけませんから、そういう条件になっておりますけれども、このThe College Portraitは基本的にランドグラント大学あるいは州立大学で使われているデータです。

【早田委員】  しかし州立大学はすべて適格認定というか、奨学金受給資格を得ているわけではなのですよね。そうなると、The College Portraitというのは少なくともIPEDSに参加できる、最低限度の大学が参加しているということではないというのはわかってきたのですけど、もう一つこれを、短時間でざっと見たところ、IPEDSというのは静的データといいますか、調べればわかるデータで、このThe College Portraitというのは高校生向けとか、それから、アカウンタビリティの観点ということから教育効果の部分がきっちり含まれていると。そこが多分特徴なのだろうと思うのですが、そうすると、教育効果とか教育成果を測定するということは、いわゆるほんとうにいい教育をやっているのだと、教育の質をアピールしたい大学にとっては、非常に魅力があると思うのですけれども、その一方で、先生のほうで書かれている私立大学や威信度の高い州立大学は、そんなに教育でみずからをアピールするという必然性というか、必要性もないということで、必ずしもThe College Portraitのこれに参加してないというか、それに積極的じゃないという、そういう側面もあるのですか。

【山田教授】  確かに関心のない大学もあることは間違いございません。ただ、ランドグラント大学といってもノースカロライナ大学チャペルヒル校とか、ウイスコンシン州立大学マジソン校は非常に著名な研究大学であると思いますが、このあたりは参加されています。参加した結果として、もしお帰りになってこのThe College Portraitのウイスコンシンとか、チャペルヒル校を見ていただければわかると思いますが、群を抜いてCLAやSATなどの点数は高いです。ですから、それがどういう意味を持つのかは私にもわかりませんけれども、学生にとって威信の高い大学の状況がわかる一方で、普通の入りやすい点数がわかるというような面もあって、高校生にとっては非常にわかりやすいし、親にとってもわかりやすいデータベースであることは間違いないかと思います。
 また、4年生での点数も載っておりますので、同じような州立大学でも教育効果があるというふうに見ることもできるかもしれないです。

【榎本高等教育政策室長】  1つご提案でございますが、よろしければあわせて資料2のほうもごらんいただきながら、ご意見いただいてはどうかと思っております。きょうは冒頭資料2の構成につきましてご紹介申し上げまして、過去、国内において教育情報の公表に向けた取り組みが段階的に進められ、この春から制度改正もあり、関連して幾つかの大学団体におきましてガイドライン等も作成されております。こういった日本の今の状況をどういうふうに見ていくか。それから、もう1枚めくりますと、情報をどう活用していくのかと、これに関しても国内でさまざま見られます。こういったものに関しても例えば設置者別の大学団体、あるいは、認証評価団体においてもさまざまな形で、大学を支援できるような論点があるのではないかと思っています。また、関連して3ページのほうで、こういった情報に関連する負担の軽減ということでも、課題もあるように思っておりまして、よろしければそういった観点の話もいただければと思っております。

【鈴木座長】  お二方の先生にご報告いただきまして、これはいずれもアメリカにおける例でございますけれども、我々の議論の出発点と最終点は、日本の情報公開をどうするのかというところにありますので、その観点からしてお二人の先生にご報告いただいたこの内容をどう受けとめるか、あるいは、例えば、今、資料2のところの最初のページ、1ページ目の現状のところで、大学の教育の質の向上にこの情報公開をどう役立てていくのかというところ、これも非常に重要なところですが、この辺のところからしお二人の先生のご報告、これをどう解釈できるであろうかというふうなことかと思いますが、なかなか難しいことではありますし、そんなに性急に結論を出す必要もないのですけれども、この辺のところで議論をもんでいただければと思います。

【関根委員】  こういうデータベースが整理されていくということと、それから、個々の大学が情報の公開を進めていく、今度の172条の2で規定されているようなもので言えば9つありますけれども、その中で一番大事なのはやっぱり1番と、それから、5番、6番、つまり「大学の教育研究上の目的に関する」こと、それから、「授業科目、授業の方法及び内容並びに年間の授業計画に関すること」、それから、「学習の成果に係る評価及び卒業又は修了に関すること」、これが一番の軸だと思います。
 1番の目的というのは、これはそれぞれの大学あるいはそれぞれの学部がこういう人を育てたいんだということで、最も高いレベルの目標を明確にしていると。ですが、あとの5番・6番のところになると、ここではベーシックラインとしての学習成果がどういうふうに保証されるのかということとの関連で、例えば学習計画なら学習計画が具体的に示されていると、そういう構造におそらくなるんだろうと思うのですが、そういう個々の大学がそういう作業をしていくということと、それから、こういう非常に精緻なデータベースがつくられていくこととの間の関連といいますか、データベースがつくられることがそういう本質的な大学の作業にとって、どういう影響とか意義を持つのかというところ辺を、もう一度教えていただけたらと思います。

【山田教授】  大変難しい質問でお答えできるかどうかわからないですが、アメリカだけに限定してよろしいでしょうか。

【関根委員】  はい。

【山田教授】  おそらく、今、関根先生がご指摘いただいたような学習計画、あるいは、機関のミッション等につきましては比較的以前から、ほぼ公表されてきていたかと思います。そのあたりはそれこそアクレディテーションの地域基準協会によって決められていたわけです。当然、そういう流れの中でこのスペリングスレポートというのは非常に大きな影響を与えたというような見方だろうと思います。スペリングスレポートによって、やはりアメリカの6つある基準協会によって温度差はあるのですけれども、それまでの計画あるいはミッションというところから、成果というようにシフトしてきたというのが1つあるかと思われます。
 それまでのミッションであるとか、計画であるというようなところを大事にしていったところから、成果というようなところへと軸足を移してきたという背景は否定できないかと思います。そういう流れの中でボランタリーに州立大学と土地付与大学の団体が、いち早くよりそういうアカウンタビリティや、そういう透明性を意識したデータベースをつくってきたというような関係性ではないかなと思っております。

【関根委員】  個々の大学はこのデータベースに関しては、自分のところの政策決定をしていくというようなことの関連では、どんな利用の仕方とか結びつきになるのですか。

【山田教授】  今のところ別に義務づけられているわけではないので、The College Portraitを運営しているVSAというプログラムによりますと、個々の大学がもっと、例えばランドグラント大学の中でもっと参加していただくようにというようになっておりますし、その中で先ほど早田先生からご指摘あったようなアクレディテーションも、もっとサポートをしてほしいというような働きかけはされています。ですから、連携しながら成長させていこうという段階に今あるとお考えになっていただければいいのではないかなと思います。

【福原委員】  今、議論から示唆がありました教育の質の向上にかかわるところで、データがございますのでご紹介します。MITが全部のコースを公開しているということで、MITの詳細なレポートがあります。そこが資料の中になくて恐縮ですけど、まず事実として幾つかの数値を申し上げます。MITに入ってきた新入学生にアンケートを全員に聞いたところ、その35%がオープンコースウェアを高校時代に見たことが、MITを選ぶことに非常に強く影響したと答えています。それから、MITの在学生の90%がオープンコースウェアの教材を使っています。それと卒業生案内、卒業生の50%がオープンコースウェアを使っています。
 それから、もう一つのデータは、実際に教員は全員出しているわけですが、出している教員の3割は自分の講義の情報を改善したそうです。ウェブで公開するということで恥ずかしくないようにしようとか、もう少し積極的に頑張っていい教材を出そうという動きがあったのが3割。それから、すべてのファカルティメンバーの84%が同僚の公開している講義を使っているそうです。自分の講義の中に活用するということで、同僚の講義を84%のファカルティメンバーが使っているそうです。それから、学生の7割は自分のとっているコースの講義を、オープンコースウェアの情報を自分が実際に履修しているものにかかわって見ているのですけど、46%は実際に履修のために見た。履修はしているれども、もう少し独立した学習として見たというのが4割ということで、学生から見ても学生が自分の勉強、クオリティーを高めるという意味でも、オープンコースウェアは使われているというのが、数値としてあらわれているということが、MITの調査からは出ております。

【村上委員】  山田先生にお聞きしますが、信頼されるデータベースというのは、データの信憑性、歯抜けがないこと。それから、日々更新されていること。それから、項目数の多いこと。それから、何より増して40ページの一番下にある「加盟校数500校のうち約300校」とありますが、300校が多いというのではなく、残りの200校が私は多いと思うのですけれども、そこの障害ですね。この200校がなぜ参加できないのか。高校生が大学を選ぶのに入り口になるように私は説明を聞きましたけれども、となれば大学にとっては加盟することのほうがずっとメリットがあるように思うのですが、なぜこの200校が入れないのか、その理由か何かあるのでしょうか。

【山田教授】  やはりThe College Portraitが開発されて、使われだしたのが2008年なので、2008年の段階から現時点、2011年になったぐらいで3年しかたっていないので、やはり200校はまだまだそこにいきなり行くというのが難しかったのかなと思います。というのは、実はそういうデータをつくって提供するにも準備が要りますし、データベースに参加するために学内にあるそういうデータを統合して、提供するというのに随分時間がかかると思います。そうしたときに、この200校が私はどんな200校があるかわかりませんけれども、先ほど冒頭で申し上げたIRというセクション、こういうセクションが機能していて初めてここに参加できるわけです。ですから、IRの担当者が不在なのかもしれませんし、IRの担当者が十分にそうしたデータを加工し、統合して提供できるような技術をまだ持っていないかもしれないです。ですから、AIRという学協会ですね、ここでの一番の予算の中での大きなものは人材育成ということを言っておられますけれども、そうしたIRの担当者をそういうAIRという学協会の中で育成する。それと連携してこのデータベースへの参加というのが進んでいくということも事実であります。

【宗像委員】  先ほどのデータベースがスタートしたということで、例えばまだ日が浅いということですが、実際に例えばそれによって学生、高校から大学へ入る学生の応募者の数であるとか、質であるとか、意欲であるとか、何かそういうもので変わったものがあるのかどうかというような情報はあるのでしょうか。

【山田教授】  そこはまだ調べておりませんで、2007、2008年ですから、それが高校生にどういうような影響をして、結果としてというようなデータはまだ上がっておりませんので、また調べておきたいと思います。

【宗像委員】  同じような質問ですが、やはり高校生の立場から福原先生のほうで、さっきのMITのほうはもうかなり高校生がそこを見て、たくさん集まってきたということですけど、日本でも公開され始めていますよね。この、今、公開されている大学に、入ってきている高校生はやはりこういうものを見て来ているのか。それとも、現在まだそこまでではないのでしょうか。

【福原委員】  残念ながら正確なデータとれていません、まず日本、まずこれは1つ事実です。ただ、高校生に対してということで積極的に各大学、高校生に対する、受験生に対する情報提供を意識したアプローチは幾つかやっています。例えば東京大学は東京大学を卒業した今の若手のビジネスマン、キャリアウーマンが、一体、大学のときにどんな講義を見ていたのかということを受験生に対して提供して、あなたの将来のパスはこんな可能性がありますよというのを幾つかの流れの中で見せて、その中で実際こんな勉強したというので、その講義のほうに誘導するということを例えばやっているとか、それから、名古屋大学はすべての教員に、3分間で自分の講義のPRみたいなものを撮って出しましょう、それはある意味でオープンキャンパスのプラスアルファみたいな情報で、その先生はどんな自分の講義を提供したいと、どういう気持ちで提供しているかみたいなものを出しているとかいうことがあるのですけど、では、入ってきた学生のほうの調査があるかというと、まだそこまではありません。

事実としては、今トータルで日本から1,800コースと言いましたけど、一番多いのは東京工業大学でもう数百になっているのですが、ほかの大学はやはり100ぐらいの情報なものですから、いわゆる影響が出るためにはクリティカル・マスというのはどのくらいかわかりませんが、これは1つの私見ですが、全体の2割とか、そのぐらいが出ていると1つのサンプルとしての意味が出てくるのだろうと思うのですけど、残念ながらまだそこまで到達している大学は極めて限られているという状況です。東京工業大学では実際に詳細なデータがとれているかどうか確認はしておりませんが、東京工業大学の担当の方にもぜひ聞いてみたいと思います。

【野上国立大学協会専務理事】  国立大学は国民の皆様から預かっている税金で運営していることからも、特にアカウンタビリティについては、責任を持たなければならないと考えています。その点について国立大学全体として、協議を重ねており、来週には我々の基本的な立場を具体的に明示する予定です。
 5月末から6月の初めにNAFSAという会合がカナダのバンクーバーでございました。これは世界中の大学の国際交流の責任者が集まる会議です。会議では、3月11日以降、日本の大学はどうなっているのかという問いに応えるために日本セッションが持たれました。そこでは、今回の震災、そして原発問題に関して全く情報がない。CNNなどの情報以外に入っていない。日本政府の情報も全くなく、大学から来る情報も極めてプライベートなルートによるものしかない。例えばフランスの保護者の方が、自分の子どもが日本で勉学を続けたいと言っているのだけれども、親としては大変心配で、どうしても連れ戻したい。しかし娘は絶対日本で頑張ると言っている。送り出した側のフランスの大学としては果たしてどういうアドバイスをし、どのように判断すればいいのか、どういう支援をすればいいのか大変困っている、という報告がありました。そして、国としてはもちろんのこと、大学組織としてもきちんと情報提供いただきたいという要請がございました。
 これは1つの例ですが、今、大学の学生は世界中から集まってくるのが当たり前の環境であれば、大学として日頃やっていることを説明することは、国際的にも不可欠なことです。大学情報の開示を日本全体としてどうするのか、共通のデータを開示する仕組みをつくって、それを国際的にも意味ある形にして、世界の大学と伍してやれるレベルにしていく必要があると強く感じた次第です。

【井上委員】  意見というよりも紹介ですが、昨日ある方が経団連のほうに見えまして、これは主に企業の人事の方の要請ということもあって、今、大学でどのような授業なり講義、あるいは、ゼミでのさまざまな学習が行われているのかということを何とか知りたいということで、ほんとうにこういうやり方がいいのかどうかわからないのですけれども、有名私立大学2校の出身学生を使って聞き取り調査をしていると。その中身はどういうことかと申しますと、企業の側から、人事の側から見ると一方的に受身的にただ授業を聞いてレポート出させたり、試験をしてそれで成績をつけるという授業ではなくて、やはり学生たちに考えさせるという授業を、いろいろな方法でやっている特徴のある先生はいないんだろうかということで、学生にいろいろと自分が受けてきた講義を振り返らせるということをやっているようです。
 ですから、もちろん映像も音声もございません。単なるこういう授業はこういうテーマで行われていたと。先生の名前も書いてあって、非常に厳しいものから非常に丁寧なものから、いろんな性格のものがあるのですが、総じて言えるのは、そういう授業の数が、あるいは、先生の数が非常に少ないということがわかったということなんです。要するに、大体、4年間大学に通ってどのくらいの数の講義・ゼミをとるのか、私も随分前に卒業したものでわからないのですが、大体、一生懸命考えさせて2つか3つしか出てこないというのが実態だと。ですが、その2つか3つは非常に印象深くて、今も例えば企業に入ってまだ二、三年目の若手の連中ですが、非常に役に立っていると。あのときに先生にいろいろと指導を受けた方法論というのが、非常に役に立っているということを必ず言うということなんですね。
 ですから、何を申し上げたいかというと、やはり確かに生のデータあるいは映像とか音声の入ったものを示していくことも重要ですが、学生側がどういうふうにそれを受け取ったかということもあわせて入れませんと、実際にほんとうにすばらしい講義・ゼミの運営というのが生きてこないんではないかと。やはりそれはまたもちろん評価というものの裏返しで必ず出てくるのですが、やはり一番企業の人事担当者から見れば問題なのは、確かに有名な大学を出て成績もいいけれども、就職活動、面接などもうまく乗り切ってめでたく会社へ入ったけど、どうもうまくいかないというところだと思うんですね。
 それはやはりそういう厳しい授業、工夫された講義、あるいは、ゼミの非常にインテンシブな集中的な密度の濃いゼミ、そういったものを経ているかどうかで随分違ってくるという感じがいたしまして、私も胸に当ててみるとそんな感じがしますが、明らかにそういうものの学生の評価も含め、それから、それを人事が求めている、あるいは、会社が求めている最近の人物像と重ね合わせて、何かうまく立体的に示していくことができるのかなと。それがひいては実は高校生の大学を選ぶ際の参考にもなっていくのではないかと。皆が研究者を目指すということは全くないわけですから、明らかに社会に出て自分がどういう仕事について、それをなるべく、いろいろ紆余曲折あるかもしれませんが、成功していくという1つのパスを見ていくわけですから、そういう流れのようなものを示していくというものを少し考えられないかなと。あまり聞き取り的な調査よりも、やはりある程度体系的に制度的にやったほうが私はいいのかなと思っております。

【浅田委員】  きょうはアメリカの先進的な事情を聞かせていただきまして大変勉強になりました。私、公立大学協会から出ている者ですが、日本の大学の事情としまして、特に公立大学、大きな大学もございますが、規模の小さな大学も多数ございます。そういう中で文部科学省といいますか、要するに日本の法律として学校教育法で公開を義務づけられたということの対応として、お手元の参考資料にございますようにガイドラインをつくりました。これは法律に書かれていることだけでは、なかなか各大学が理解がばらばらになったり、表現がばらばらになったりしたのでは困るということで、公立大学協会としてできるだけそろえようということで、具体的な例示もしながら公開をしていきましょう、積極的にしましょうと。
 ここのベースにあるのは、基本的には言われていますように質の向上と説明責任、これに対して各大学は当然だと思っております。質の向上に関して言いますと、ある意味でデータをどう使うか、これはいわゆる内部利用的なものと、自分たちのデータは当然把握していかなくてはいけないし、他大学のデータとの比較によって自分たちの状態もチェックできるという意味では、これは当然内部利用的なものだと思います。それから、もう一つ説明責任というのは外部利用だと思います。社会とかいろんなところでそれがどう利用されるか、先ほどから出ています受験生であるとか。特に公立大学にとって出ていましたステークホルダーという話でいきますと、自治体です、地域です。非常に近いところでその人たちに説明責任を持っているという、非常に距離感の近さということが、やはり公立大学の1つの意識の高さだと思います。結果としまして100%には、今、形式が整ってないので行っていませんが、非常に皆さん足並みそろえて公開に協力して、今、ホームページに出しております。
 問題はこれがどんどん使われて進んでいく中で、やはり大学のこういう積極的な情報発信というものが、うまくフィードバックされていく仕組みというものを、やはりこの会でご議論いただきたいし、方向性を出していただきたい。その1つは、いわゆる認証評価がありますね。あれも結構膨大な負荷がかかるものなので、それとうまく連結していってほしいですし、それから、情報がうまく集約されてそれがいろんな形で利用できるという、そこにはいわゆる分析もきちんと入らないと、単純なランキングの問題ではないんだということを、世間にもきちんと理解してもらうような努力が要ると思います。大学の中で先ほどから授業のお話も出たと思うんですけれども、それを大学側がみずから出すということを、例えば先生が授業アンケートはなかなか出さないでとかいう話があると思いますけれども、一方で、もう皆さんネット見られたらわかりますが、もうサイトがございますね。外部のところでもう学生たちがこの講義は単位がとりやすいとか、教科書はどうよとか、そういうことがいっぱい出ておりますので、ある意味でそれも情報公開されているんですね。
 問題はその品質なんです。信頼性。だから、やはりみずからきちんと信頼できるデータを出すという姿勢をつくっていくというのが、これは社会に出す説明責任の基本だと思っています。だから、そういう意味では、そういう方向に全体に動いていくと思います。ただ、先ほどから出ていますように、非常に情報の項目であったり内容であったりということが多様ですので、それを全部抱え込むと、多分、負荷が高くてなかなか動かないので、やはり現実的なところから段階的にという形に全体として動いてもらうと、私はうれしいと思っています。

【小田委員】  私はデザインと美術系の大学を設置しておりまして、美術とか、音楽とか、体育とか、そうした実技とか演習というのが教育の中で多くを占める場合の、これをどのようにして公表していけばいいのかなということ、これについては非常に悩ましい問題でございます。教育の公表・公開ということは、もう当然やらなくてはいけないことで、できるだけ皆さんに私どもの学校の教育活動の状況についての認識を、深めてもらいたいというふうにかねがね思っておりますが、たまたまこれは実例でございますけれども、やはりそうした授業の中身の公開もさることながら、私どもの教育成果として世に出した、輩出した人たちがいわゆる美術家として、デザイナーとして、どのような活動を今しているかということを皆さんにお見せすることが、一番いいのではないかなということで、去年の11月、約20日間、渋谷の文化村を借りまして、ここでもって卒業生の作品を集めて公開をして、そのことによって私どもの教育の中身を少しは理解していただければと、そういうようなことを考えてやってまいりました。ほんとうに今日もいろいろと勉強させていただいてありがたいと思いますが、またこれからもよろしくお願いいたします。

【鈴木座長】  本日は第1回の会議ということで、幅広いご意見をいただきました。本日の議論で言い足りなかった事項や、後日お気づきになりました点等がありましたら、事務局にその旨をご連絡をいただきたいと思います。それでは、事務局で論点を整理していただいて、次回以降、それを踏まえて議論を深めていきたいと思います。

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