資料3-1 看護学基礎カリキュラムの解説資料(案)

看護学基礎カリキュラムの解説資料(案)

 

◆看護学基礎カリキュラムを大学に周知する際に添付する解説文

骨子案

 

  • 大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会において、「看護学基礎カリキュラム(以後、基礎カリ)」が策定されたため周知する。
  • 今回提示する基礎カリは、学士課程で養成する看護専門職者の能力と教育のコアとなる内容を示すものである。
  • 基礎カリを示す目的は、学士課程で養成される看護専門職者に関する大学関係者の合意形成を通じて、大学教育の質及び卒業生の能力を保証し、大学教育に関する社会への説明力の向上を目指すことである。
  • 基礎カリは学士課程教育すべてを網羅するものではなく、学士課程における看護系人材養成のコアとなる、最小限の内容を示すものである。各大学は、基礎カリを参照しつつ、その教育理念や養成する人材像にあわせて必要な教育内容を改めて検討し、独自の教育課程を編成されたい。
  • 基礎カリは、保健師・助産師・看護師に共通する看護学の基礎と学士課程で養成される看護師に必要な教育内容をカバーしているが、国家試験受験資格を直接担保する基準ではない。教育課程編成のおりには、各大学が取得可能とする資格取得に必要な教育内容が充足されるよう、留意願いたい。

 

◆看護実践能力の説明

1. ヒューマンケアの基本に関する実践能力 

 「ヒューマンケアの基本に関する実践能力」とは、人々の多様な生活背景による様々な価値観・世界観を尊重し、看護の対象の尊厳と権利を擁護する看護を提供すること、実施するケアの根拠や必要性について、情報を提供し、実施するケアに対して十分に説明して、選択の基に同意を得ること、さらに看護の対象との援助関係を形成し、意思決定を支えつつ、人間的な配慮ある看護を提供することにかかわる実践能力のことである。

1)看護の対象の尊厳と権利を擁護する能力

 「看護の対象の尊厳と権利を擁護する能力」とは、人間の尊厳について深い洞察力をもち、人間の権利、患者の権利を理解するとともに、その人の文化的背景・価値観・信条を尊重して、その人の立場に立ってケアを提供する能力や、看護の対象の意思決定を支え、擁護に向けた行動をとることができる能力のことである。

2)実施する看護について説明し同意を得る能力

 「実施する看護について説明し同意を得る能力」とは、看護の対象に実施する看護の根拠と実施方法について情報を提供し、説明するとともに、看護の対象がそのことを理解し同意をするプロセス、すなわち意思決定を支える看護を展開する能力のことである。

3)援助関係を形成する能力

 「援助関係を形成する能力」とは、看護の対象と援助的なコミュニケーションをとることができるようになり、援助関係を築いていく能力のことである。看護を提供するためには、まずは対象との援助関係・信頼関係の形成が第一歩であり、この能力は看護の対象である個人のみならず、家族、集団、地域との援助関係・信頼関係の形成、協働的な関係を築くものでもある。

 

2. 根拠に基づき看護を計画的に展開する実践能力

 「根拠に基づき看護を計画的に展開する実践能力」とは、多様な対象の特性や状態を理解した上で、エビデンスのある最新の知識・技術を用いて、必要とされる看護を判断し、計画的に展開する実践能力のことである。看護の対象と協働した実践を展開する、個人を全人的に把握し看護を展開する、個人と家族の生活を把握した上で看護を展開する、地域の全体像を把握した上で看護を展開するなど、キュアとケアの統合体としての看護の考え方に基づき、必要な看護援助技術を組み合わせて実施、応用することにかかわる実践能力のことである。

4)根拠に基づいた看護を提供する能力

 「根拠に基づいた看護を提供する能力」とは、理論的知識や研究成果、看護実践における課題や疑問の解決に向けた、情報システムを活用した最新情報を用いることによって、安全で効果的なケアのための科学的な根拠の探索を行い、そして、批判的思考を活用した信頼できる臨床判断と意思決定によって、根拠に基づいた看護を提供する能力のことである。

5)計画的に看護を展開する能力

 「計画的に看護を展開する能力」とは、物事や状況への批判的思考・臨床的理由に基づき看護の方向性を決定し、問題解決法による計画と実施、さらに看護実践を評価、改善し、そのことを記録できる能力のことである。

6)健康レベルを成長発達に応じてアセスメントする能力

 「健康レベルを成長発達に応じてアセスメントする能力」とは、看護の対象の身体的な健康状態、認知や感情、心理的な健康状態、対象の置かれた環境をアセスメントし、身体状態との関係が説明でき、さらに、成長発達段階に応じた身体的変化、認知・感情、心理社会的変化を理解したうえで、看護の対象の健康状態との関連をアセスメントできる能力のことである。

7)個人と家族の生活をアセスメントする能力

 「個人と家族の生活をアセスメントする能力」とは、個人や家族員のセルフケア能力の査定、生活と疾患との関わりなどを把握した上で、個人や家族の生活が個人や家族員の健康状態とどのような関連があるか、その関連をアセスメントできる能力のことである。

8)地域の特性と健康課題をアセスメントする能力

 「地域の特性と健康課題をアセスメントする能力」とは、地域特性、社会資源、地域の健康課題、地域を基盤にした健康生活支援課題(学校生活に生じやすい健康課題、労働環境や労働生活に生じやすい健康課題)を把握する方法について説明できる能力のことである。

9)看護援助技術を適切に実施する能力

 「看護援助技術を適切に実施する能力」とは、看護の対象への身体回復のための働きかけ、看護の対象への情動・認知・行動への働きかけ、人的・物理的環境へ働きかける方法を理解し、指導のもとに実施できる能力のことである。

 

3. 特定の健康課題に対応する実践能力

 「特定の健康課題に対応する実践能力」では、特定の健康課題として、人々の健康生活の保持増進と健康障害の予防、急激な健康破綻と回復、慢性病および慢性的な健康問題、終末期に焦点をあて、それらの状況・状態にある看護の対象への援助に必要な能力を取り上げた。この能力は、人が誕生してから高齢期を迎え、死に至る間の全ライフステージ、あらゆる健康レベル、あらゆる状況における健康問題にかかわっている。特定の健康問題には、地域住民や患者、利用者などが健康課題を自ら達成・克服していく必要のあるものから、問題解決に専ら専門的援助を必要とするものまで多岐にわたる。従って求められる能力も多様である。そのため、焦点となる問題の特性を十分に理解し、各々の援助能力を確実に育成することが必要である。

10)健康の保持増進と疾病を予防する能力

 「健康の保持増進と疾病を予防する能力」とは、あらゆる年代、あらゆる状況において、人々の健康の保持増進と疾病予防のために必要な方法を説明できる能力のことである。個人や地域共同体、政策、保健活動の仕組みについての理解を深め、個人のセルフケア支援から小集団による健康学習支援、さらには地域共同体(学校、職場を含む)への効果的な援助方法を説明できる能力のことである。

11)急激な健康破綻と回復過程にある看護の対象を援助する能力

 「急激な健康破綻と回復過程にある看護の対象を援助する能力」とは、急激な健康破綻によって医学的治療を受け、健康回復を図る必要がある看護の対象の病態や疾患・治療を理解し、生命維持に向けた看護援助方法を説明できる能力のことである。さらに、精神状態のアセスメントも含め、回復に向けての援助方法を説明できる能力も求められる。

12)慢性疾患及び慢性的な健康課題を有する看護の対象を援助する能力

 「慢性疾患及び慢性的な健康課題を有する看護の対象を援助する能力」とは、慢性疾患による健康課題の出現と日常生活の維持との関係を理解し、当事者が生涯に渡って、疾患管理、悪化・進行を予防した療養生活が送れるように援助する方法を説明できる能力であり、家族への支援や社会資源の有効活用についての能力も含まれる 。

13)終末期にある看護の対象を援助する能力

 「終末期にある看護の対象を援助する能力」とは、人間の生理的機能が不可逆的な状態に陥る疾病や病態の終末像の全人的な理解、人の死と死に逝く人を愛する人の心の理解、看取りをする家族への援助方法を説明できる能力である。終末期の全人的苦痛を軽減・緩和し、死にゆく人の意思を支え、その人らしくあることを援助する方法を説明できる能力も含まれる。

 

4. ケア環境とチーム体制整備に関する実践能力

 医療機関、保健機関、福祉機関の設置目的は異なり、また、機関の組織、入院および入所している対象者の心身の状況・病態像も異なる。機関別に看護供給体制と看護の機能・役割および看護の質評価を行う必要がある。「ケア環境とチーム体制整備に関する実践能力」とは、保健医療福祉専門職の多様化、専門化、機能化によって、役割分担と協働が推進されている中で、施設内および在宅ともに対象者の状況に合わせたチームを構築し、専門職として看護の機能を発揮するための方法を理解できる能力のことである。看護の専門性を発揮して看護の機能を充実させていくためには、わが国の疾病構造、保健医療福祉制度、保険制度を理解し、世界的な視点からこれらの制度を評価する能力も必要である。

14)保健医療福祉組織における看護機能と看護ケアを改善する能力

 「保健医療福祉組織における看護機能と看護ケアを改善する能力」とは、人間の多様な社会活動の理解を深め、保健医療福祉組織における看護の機能・看護活動のあり方について理解できる能力である。また、看護の質評価および費用対効果などへの取り組みを通して、看護ケアを改善する能力も含まれる。

15)地域ケアの構築と看護機能の充実を図る能力

 「地域ケアの構築と看護機能の充実を図る能力」とは、地域の人々や地区組織活動について理解し、地域の個人・グループ・機関との調整を行い、地域ケア体制づくり、ケアネットワーク作りのあり方について理解できる能力である。また、健康危機発生時の緊急対応など、健康危機管理について理解し、その対策に関わる看護職者としての責務を理解できる能力も含まれる。

16)安全なケア環境を提供する能力

 「安全なケア環境を提供する能力」とは、安全マネジメントとしての医療事故防止対策や安全環境管理、感染予防対策を理解し、そのために必要な行動をとることができる能力のことである。

17)保健医療福祉における協働と連携する能力

 「保健医療福祉における協働と連携する能力」とは、保健医療福祉チームの一員として、チーム医療における看護及び他職種の役割を理解し、保健医療福祉サービスの継続性を保証するために必要な、継続看護、在宅看護、地域保健・学校保健との連携などについて説明できる能力のことである。

18)社会の動向を踏まえて看護を創造するための基礎となる能力

 「社会の動向を踏まえて看護を創造するための基礎となる能力」とは、わが国の疾病構造の変遷や課題、医療対策の動向と疾病対策、医療保健福祉サービスについての経済的・政策的課題を含めた成り立ちについての理解を深め、さらには看護の国際的動向に関心を寄せて、看護の役割や課題について理解できる能力のことである。

 

5. 専門職者として研鑽し続ける基本能力

 看護職者としての専門能力を主体的かつ継続的に育成していくためには、まず専門職者としての自己の現状を客観的に振り返り、陥りやすい自らの傾向、充足・開発すべき能力について、自己評価できる能力が必要である。さらにその評価結果に基づいて、必要な学習内容とその探究方法を選択し、さらに新たに獲得した知識とそれに基づく判断、行動の結果とを統合して、専門職者としての価値観や専門性の理解を発展させていくことのできる能力が必要である。 

19)生涯にわたり専門性を発展させる能力

 「生涯にわたり専門性を発展させる能力」とは、生涯にわたり、自己の看護実践過程や方法を振り返り、自己の持つ課題、看護実践方法の改善課題を整理し、課題解決のために研究方法などを活用し、専門職として成長し続けるために継続的に自己評価と管理を行う重要性を説明できる能力のことである。

20)看護専門職としての価値と専門性を発展させる能力

 「看護専門職としての価値と専門性を発展させる能力」とは、看護学および看護専門職の発展過程についての理解、自らの専門職者としての価値観の形成、社会の変革のなかでの看護の役割・責務を自覚し、看護学の発展に参加し、追求していく姿勢の重要性を説明できる能力のことである。

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高等教育局医学教育課看護教育係

(高等教育局医学教育課看護教育係)