令和7年7月28日(月曜日)13時30分~15時30分
ハイブリッド(対面・Web)開催 ※傍聴はWebのみ
(座長)小路明善座長
(座長代理)平子裕志座長代理
(委員)阿部守一、石川正俊、伊藤公平、大野博之、大森昭生、角田雄彦、田村秀、鶴衛、中村和彦、日色保、福原紀彦、村瀬幸雄、両角亜希子の各委員
小林私学部長、三木私学行政課長、田畑私学助成課長、錦参事官(学校法人担当)、菅谷私学行政課長補佐
(意見発表者)栗本名古屋商科大学学長、大澤金沢工業大学学長
(関係省庁)高木経済産業省産業人材課未来人材戦略室長
【小路座長】 それでは定刻となりましたので,ただいまより第4回「2040年を見据えて社会とともに歩む私立大学の在り方検討会議」を開催いたします。
私は引き続き座長を務めさせていただきます小路と申します。よろしくお願いいたします。
本日の検討会議も対面・オンラインの併用によりまして,公開で開催させていただきます。
開会に先立ちまして,事務局に人事異動がございましたので,小林私学部長より一言御挨拶をお願いいたします。
【小林私学部長】 本日は,本当にお忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。15日付で私学部長を拝命いたしました小林と申します。今までは文化庁で同じ法人の担当ではあったんですけれども,宗教法人ということでかなり違う分野でございましたので,必死に早くキャッチアップをさせていただきたいと思います。
今回異動に先立ちまして,いろいろな方とお話ししていますと,この時期,私学は大変だねというお声をよく頂きますし,実際いろいろ少子化ですとか,シュリンクしていく方向のお話を多く,心配だねというようなコメントを頂くんですけれども,一方で,国際競争力の強化ですとか,本当に人口減の中で地方で唯一と言うとちょっと言い過ぎですが,若者を抱える機関であったりとか,リスキリングですとか,やはりいろいろ重要性もむしろ増しているというふうに思っておりますので,しっかりと私のほうも,今日は中間まとめをお取りまとめいただくと伺っておりますけれども,しっかり取り組んでいきたいと思いますので,どうぞよろしく御指導いただきますようお願いいたします。
【小路座長】 小林私学部長,ありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。
それでは,本日の議事等につきまして,事務局から御説明をお願いいたします。
【菅谷私学行政課課長補佐】 本日の議事及び配付資料は次第のとおりとなっております。過不足等あれば事務局までお申しつけください。
なお,本日はヒアリングの関係で,栗本博行名古屋商科大学学長及び大澤敏金沢工業大学学長の2名にも御参加いただいております。
【小路座長】 ありがとうございました。
それでは,早速議事に入ります。まず,議題1の「中間まとめ(案)について」でございます。これまで地域の人材育成に向けた私立大学の役割や,急激な少子化を見据えた大学経営の在り方,また,国際競争力の強化に向けた私立大学の役割等について議論を頂きました。いまだ議論すべき内容は多く残っているものの,政府におきまして今後概算要求等への反映をしていただくためにも,これまでの議論を一度まとめさせていただきたいというふうに思います。
それでは,事務局より中間まとめの案について作成をしていただいておりますので,御説明をお願いいたします。
【三木私学行政課長】 それでは,資料1が中間まとめの本体でございます。資料2,資料3と概要の詳細版と簡略版を用意してございます。
資料1の中間まとめ本文を,私のほうから簡単に御説明をいたします。日本の高等教育進学者が右肩上がりの時代が終わりを告げようとし,逆に減少傾向に向かう,言わば歴史的転換点において,「社会とともに歩む私立大学の変革への支援強化パッケージ」と題しまして,本検討会議の中間まとめ案について本日は御議論いただきたいと思います。
念のため申し上げますけれども,本会議は,さきの中央教育審議会の答申,いわゆる「知の総和」答申をベースに,私立大学関係について御議論いただいております。このため,社会や大学の現状分析や課題,施策の方向性につきましても,中央教育審議会との重複を避け,ポイントを絞ったものとなっておりますことを御承知おきください。その上で資料1につきまして御説明いたします。
めくっていただきまして,「はじめに」を飛ばしまして,4ページを御覧いただきたいと思います。「社会の変化・直面する課題」でございます。大きな社会の変化について2点取り上げてございます。
1点目は,日本の産業構造・労働需要の変化です。科学技術の進歩による産業構造の変化が急激に進んでおり,第3回の議論では経産省様から産業構造の変化につきまして御提示を頂いたところでございます。大学の輩出する人材が将来において職種間や学歴間においてミスマッチ,とりわけ大卒文系人材の余剰の可能性が指摘されているところでございます。
社会の変化の2点目は,日本社会の人口減少でございます。とりわけ地方の人口の大幅な減少が見込まれ,地方の活性化のために各地域において地域の担い手の育成確保が必要不可欠となっております。
このような社会の変化に対応し,4ページ目の一番下の部分から5ページ目にかけて,私立大学を取り巻く環境につきましてポイントを3つ整理してございます。
5ページ目ですけれども,1つ目は,大学進学者数はこの15年間で30%近く減少し,現在の高等教育の規模の維持が困難であり,相当数の法人が縮小や撤退を余儀なくされる見通しでございます。
2点目は,大学の分布についてでございます。現在地方に立地する大学は全国の35%ございまして,これらほぼ全てが小規模な大学です。大学経営が小規模な大学は厳しい状況に置かれており,地方の小規模私立大学から撤退していく可能性がございます。
3点目は,私立大学の分野別学生比率の偏りでございます。OECD平均や諸外国よりも理工系の入学者は日本は大幅に低い状況でございまして,今後の就業構造の変化や労働需要等も踏まえて,学生目線に立った文理のバランスある構造転換が求められているところでございます。
6ページを御覧ください。第1回に御議論いただきました,私立大学の役割の変遷について記載してございます。歴史的な経緯として,日本においては国立大学が世界最高水準の研究・教育の実施や,全国的な機会均等など主要な役割を期待され,私立大学は実態上それを補完するという状況の下で,政府の資源配分など制度が構築・運用されてきたところでございます。
しかし,現状を見てみますと,学部生の8割は私学の学生であり,地域を支える人材をむしろ私立大学がより多く輩出し,国立と並ぶ研究力ある私立大学も多く存在するという状況になっている一方で,国の財政支出は国立大学に比して私学の水準はかなり低い状況でございます。
7ページからは,今後の私立大学の振興の基本的な考え方を整理してございます。8ページ中段でございますけれども,私学助成につきまして,一律の配分から,5つの観点に応じためり張り・重点化を図っていくというふうに記載してございます。中段のところ,(1)から(5)がございますけれども,地域経済の担い手,エッセンシャルワーカーの養成,国際競争力の強化,分厚い理工農系分野の人材育成,教育研究の質の向上につながる取組という5つの観点を挙げてございます。
9ページからを御覧いただきたいと思います。ここからは,「私立大学振興のための3つの施策の方向性の転換」と題しまして,3つのことにつきまして,それぞれ課題,現状,目指すべき姿,施策の具体的方向性を記載してございます。
1つ目が,「地域から必要とされる人材育成を担う地方大学の重点支援への転換」でございます。10ページ,目指すべき姿といたしまして,各地域で大学,地方公共団体,産業界が地域の人材需要を踏まえた高等教育の将来像を構築し,認識を共有する。その将来像を踏まえて,大学が構造転換や大学間連携,資源の集中等を推進するという姿を描いてございます。また,地域で関係者が連携した人材育成,人材輩出をすることや,大学間の連携を一層進める姿も記載してございます。
11ページ,枠囲みの中に具体的施策の方向性を記載してございます。自治体や産業界との地域における連携を推進するために,プラットフォームの構築への支援,そして,まずは地方大学への私学助成の重点支援を行い,次のステップとして,プラットフォームでの議論,連携が充実した後は,地域の高等教育の将来像に基づいた教育を行う私立大学には一層の私学助成の重点化を行うこと。また,大学間の連携推進に向けて,国の支援の充実などについて記載をしてございます。
13ページを御覧ください。2つ目の柱といたしまして,「日本の競争力を高める教育研究を担う大学の重点支援への転換」を記載してございます。文理問わず目指すべき姿といたしまして,設置者別ではなく,大学が切磋琢磨し,世界を牽引するイノベーションを創出すること。幅と厚みを持たせる研究基盤を強化し,産学融合の教育研究を実施していくというようなことを目指すべき姿として挙げてございます。
どんどん飛んで恐縮ですけれども,16ページ,施策の方向性といたしまして,研究力の高い私立大学が競い合える拠点となるよう,絞った大学に基盤的経費を一体的かつ集中的に支援する枠組みの構築でありますとか,修士課程をはじめとして学部から大学院へ定員増を行い,機能強化に向けた取組に対して国の支援を充実していくことでありますとか,高額給与に係る私学助成の減額の現行の仕組みの見直しなどを挙げております。
17ページを御覧ください。2つ目のもう一つの論点としまして,「日本の産業を支える理工農系の人材育成」を掲げております。目指すべき姿として,文理のバランスある構造転換を図り,産業ニーズや就業構造の変化に適切に対応した教育を行うこと。理系の支出が比較的高いことを踏まえた理系への重点支援,産学共同の教育研究の実施を挙げてございます。
このための施策の方向性としましては,19ページでございますけれども,理工農系学部の教育研究環境の充実に向けた産官による重点的な支援,これらの分野への施設整備支援の充実,教育研究の質の向上のために,ST比の改善充実に着目した私学助成の効果的な配分強化でありますとか,企業等からの寄附税制の促進などを記載してございます。
最後の20ページを御覧ください。最後の3つ目の柱といたしまして,「再編・統合等による規模の適正化に向けた私立大学の経営改革強化への転換」が3つ目の柱でございます。
目指すべき姿といたしまして,21ページでございますが,学生数の減を念頭に,各大学が短期,中長期の改革を今から計画的に着手するといった姿や,そのため,国による指導や支援を体系的に整備することを挙げてございます。
23ページ,具体的な施策でございますけれども,国による経営指導の強化をし,経営悪化の言わば初期段階から適切な対応が図られるようにすることでありますとか,学校法人間の連携や,統合・合併が円滑に進むように,既存の制度のボトルネックになっている部分の解消でありますとか,撤退を御判断された学校法人に対する伴走支援の実施でありますとか,撤退された後に学生の不利益が最小限になるように学籍簿管理等を行うことでありますとか,25ページに入っておりますけれども,新たな学部等の新設の審査につきまして,スクラップ・アンド・ビルドを前提として,経営面などの基準を強化,ハードルを高くしつつ,審査体制は充実した体制で審査すること等を盛り込んでございます。
最後のページは今後のことが書いてございますけれども,第5回以降,さらなる検討事項としては,教育研究の質向上に関する様々な論点につきまして,次回はトピックによっては私立に限られない幅広いことも含めて御議論を頂く予定にしてございます。
冒頭,座長からもお話がありましたように,次年度の予算案への反映など,速やかに着手すべきことを御提言いただくためにも,本日はこの中間まとめ案について御議論を頂ければというふうに思っております。
簡単でざっと駆け足でしたけれども,事務局からの説明は以上でございます。御議論よろしくお願い申し上げます。
【小路座長】 ありがとうございました。
それでは意見交換ということで,およそ1時間今日は時間を取らせていただきましたので,御質問も含めまして御意見のある方は挙手をお願いして進めていきたいというふうに思います。
なお,皆様からいろいろ御意見が出されると思いますけれども,反映できるものは反映しつつ,新たな論点となるような御意見等につきましては,最終まとめに向けて,この場でできたら議論をさせていただきますし,できなければまた場を改めてということにさせていただきたいというふうに思います。
26ページということで,かなり膨大な中間まとめを作っていただきまして,できれば大きく2つに区切りたいと思います。さらなる検討を要する事項,26ページですけれども,これ以前の部分について,今まで議論いただいたことについて文科省の事務局のほうでまとめていただきましたので,今後の検討事項以前の25ページまでについて,皆さんから御質問なり,また御意見がありましたら承りたいと思います。
早速ですけれども,まず阿部委員から御発言がございますので,阿部委員からお願いいたします。
【阿部委員】 長野県知事の阿部でございます。ちょっと私は途中で抜けさせていただきますので,冒頭先に発言をさせていただくことをお許しいただければと思います。
まず,今回の中間取りまとめは,私がこれまで発言をさせてきていただいております都市部と地方の大学間の連携推進,あるいは学校法人間の連携,合併に向けた支援,さらには地方における理工農系学部の施設整備支援など,こうした内容を取り入れていただいておりますことをまずは心から感謝申し上げたいと思います。こうした点について一層掘り下げていっていただければと考えております。
これまでの議論あるいはこれからの議論につながるという観点で,地方公共団体の立場から3点ほど申し上げたいと思います。まず,5ページに記載されておりました,「大学分布の偏在」という問題であります。これは人口減少下の中である意味見えやすくなってはいましたが,人口減少がなくても非常に大学分布が偏在しているというのは私どもの大きな問題意識であります。長野県の場合も,あるいは多くの地方の都道府県も,高校までは一生懸命育てて教育費を投入しても,大学,高等教育の段階から県外に行かざるを得なくて,そしてそのまま就職してしまうというパターンが非常に多くなっています。
ぜひこうしたことを考えれば,日本全体のこれからの発展を考えたときには,大都市部に高等教育機関,特に私立大学が集中しているという,この課題については,ここの記載が私からすると少々物足りないなと思っています。そこの問題意識が共有されないと,多分これから具体的に何をすればいいかというところが明確になってこないと思っております。
この大学の偏在の部分,しっかり皆さんと問題意識を共有していただければありがたいと思いますし,そのためには抜本的な大学の配置の在り方,東京の大学の収容定員の抑制にとどまらず,そもそも立地の在り方をどうするのかというところまでこれから検討していくことが必要ではないかと思っております。これが1点目であります。
それから2点目としては,やはり今ある大学の機能をある意味転換していくことが必要ではないかと思っております。長野県の私立大学あるいは短期大学は,福祉系,医療系あるいは幼児教育系,こうした部分のウエートが高くなっています。もとより地域の人材育成という観点では非常に大きな役割を果たしてきていただいているわけでありますけれども,しかしながら,今,申し上げたようなもの以外を学ぼうとすると,どうしても地元では学ぶ場がないということで,県外に出ていかざるを得ないという状況になっています。
ぜひこうした大学の偏在のみならず学部の偏在,もっと地方の大学が,例えば長野県であれば製造業が非常に盛んな地域でもありますし,そうした地域のニーズに合った教育が行えるように,学部あるいは学科がもっとしっかり転換していきやすいような仕組みを考えていただくということが必要ではないかと思います。
また,私ども県内の大学から意見として出されているのは,例えばミネソタ州の共通教養教育課程のようなものをもっと参考にできないかと。コミュニティーカレッジで2年間学んで,そしてその後は4年制の大学への編入ができるような,大胆なシステム変革ができないかというような御意見もいただいています。海外の事例等も参考にして,もうこれまでの延長線上の取組では人口減少下の大学の新しい在り方を描くというのはなかなか難しいと思いますので,新しい仕組み,新しいシステム,こうしたものをぜひ文科省の皆さんにはしっかり海外の事例等も含めて研究して取り組んでいただければありがたいと思っております。これが2点目であります。
それから3点目は,やはり大学の経営基盤をどう強化するかということが大変重要だと思います。長野県は大学に限らずいろいろな組織の経営基盤を強化するための合併だったり連携だったり,こうしたものを進めていかなきゃいけないと考えておりますが,ぜひこれから私立大学が安定して経営できるような国としての支援,そしてそれぞれの組織がより安定的な経営ができるような形をどうつくっていくのか,こうした方向性もぜひ今後の議論の論点としてはしっかり続けていただきたいと。今回もそうした方向性は出されているわけでありますけれども,より具体的な方向づけをしていっていただきたいと思っております。
私からは以上でございます。どうぞよろしくお願いします。
【小路座長】 ありがとうございました。3点御指摘,御意見を頂戴しまして,特に繰り返しはしませんけれども,まずこの3点について,できますれば文科省のほうから何かお考えがありましたら出していただいて,少し時間もありますので,皆さんで議論,非常に重要なことを御指摘いただいたと思いますので,議論をできたらなと思いますが,いかがでしょうか。
【三木私学行政課長】 事務局から少しコメントをさせていただきます。今後の議論もまた深めていただきたいような,根本的な深いことを知事から教えていただいているなというふうに思っております。
1つ目は偏在についてどのようなことを考えるのかということですけれども,現行あります23区の規制につきましては,10年の3月末で期限が切られますので,主管されている内閣府のほうでその少し前にその取扱いについて議論される予定だというふうに認識をしております。
そして,都市部に学生がたくさん通っているという部分につきましては,今回も入れておりますけれども,やはり教育の質を高める観点でどういうふうに個々の大学が立地していくことが重要かという辺りをしっかりと考えていかないといけないのではないかと思います。その観点からも,ST比の話でありますとか,博士課程への転換への支援なども入れておりますので,そういったいろいろなことを組合せしていく必要があるのではないかなというふうに思っております。
それから2つ目ですけれども,地域の学部,大学の地域のニーズに応じた転換の必要性についても御指摘を頂きました。それはまさに必要だと思っておりまして,これもまた議論を深めていただきたいと思っておりますけれども,中教審の答申,それからこの中間まとめで書いてあるところで,自治体や産業界,大学がやはりしっかりと地域のニーズに応じた人材育成をできるように,プラットフォームというのが答申で言われておりますけれども,そこでしっかり議論をしていただく,それに基づいた人材需要をベースにして,それぞれの地域の大学が自分たちの強みをどういうふうにしていくのかといった辺りでそれぞれの大学が構造変革をしていく,そういった大学を私学助成でしっかり応援していくというようなことを御提言いただいておりますので,まさに知事が今おっしゃっていただいた問題意識を,自治体もそうですし,産業界もそうですし,大学も同じテーブルに立ってしっかりと一緒に認識をつくっていくということが重要だろうと思っておりまして,それが進むように文科省もしっかり応援したいと思います。
あと,諸外国の例についても御説明いただきまして,これからオンラインとか様々な教育ツールがあると思いますので,そういった最先端の教育研究の実践についてはしっかりと文科省のほうでも研究をしていきたいと思います。
3番目の経営基盤の強化につきましても,ここでもいろいろ書いてございますけれども,やはり地方の大学で行った場合に,特に地方の大学の経営が厳しいときに,先ほど申し上げました地域のプラットフォームでしっかり議論をし,国もしっかりと下支えはするけれども,大学,産業界,自治体,皆さんが知恵を出し,協力できる部分は協力していくということによって経営基盤を強化していくということが重要ではないかと思っておりますし,もちろんベースとして国がそういった地方大学に特に重点的に支援をする,転換しようとしているということが今回の中間まとめでも書いてありますし,さらに議論を深めていただきたいというふうに思っております。
ちょっと長かったですけれども,補足でございます。
【小路座長】 ありがとうございます。
それでは,伊藤委員,大森委員の順で挙手いただいていますので,御発言をお願いします。では,伊藤さん,お願いいたします。
【伊藤委員】 では,私も3つほど。まず1番目は,6ページの2つ目の丸なんですけれども,「歴史的には」で始まるところで,大学は,大正7年の大学令制定までは官立の帝国大学に限られ,その後,私立大学が誕生していったというものですけれども,これは実は1890年には慶應義塾は大学部をつくっていて, 1890年が慶應の大学部,多分1902年ぐらいには早稲田の大学部,中央大学もたしか日露戦争の頃には中央大学という名前になっていて,要は文部省が認めるか認めないかの話だったので。これは私立大学の会議ですから,ここは私立大学が存在しなかったわけではなくて,私立大学は私立大学としてしっかりと大学をつくっていこうということをしていたのになかなか認めてくれなかったというほうが恐らく正しいので,もう少し私立大学を中心とした書き方に変えていただければと思うところでございます。これは最初の名大の伊藤先生の講義をそのまま参考にしていただければそうなっておりますので,よろしくお願いいたします。
それからもう一つは,2番目ですけれども,今,第7期科学技術基本法に向けて大詰めの議論が行われているところでありますけれども,その中で,国立大学の在り方部会というのは,もう今,最終取りまとめがほぼ終わるところでしたか,国立大学のほうが先に進んでいて,私立大学は今回,前浅野私学部長を中心として,私立大学の在り方の議論ができているので,今回ぎりぎり中間取りまとめもしっかりとそれに反映できるような形に間に合っていると思います。あと,経済産業省も相当な勢いで大学との連携ということで人材育成もそこにしっかりと反映させようとしているところですので,ぜひこの2番目のところ,いわゆる日本の競争力を高める国際競争力の向上に向けた私立大学の研究力強化の部分は,そちらのほうにも,第7期科学技術基本計画に反映できるように,文部科学省の中で調整して,提案を私立の部分も含めていっていただきたいというのは私のからの依頼でございます。
3つ目は,もう先ほどの長野県知事のお話もそのとおりなんですけれども,どうやって地方の活性化,地域の活性化を行うかというときに,私立大学がしっかりとその中に入っていくというのは何よりも大切だというのは,私たちは「知の総和」答申のときにも議論したことでありますので,そこのところはしっかりと,中村委員もいらっしゃいますし,大森委員もいらっしゃいますし,大野委員もいらっしゃいますので,そこら辺のところは私としてもぜひしっかりと反映させていきたいと願っているところでございます。
以上でございます。
【小路座長】 ありがとうございます。
それでは,大森さん,どうぞ。
【大森委員】 ありがとうございました。大森でございます。まず,しっかりとおまとめいただきまして本当にありがとうございます。私からは細かなところ,5点か6点かなんですが,短くいきたいと思います。
まず,ページでいくと5ページ目の大学分布のお話,阿部知事からもお話がありました。それで,これは戦略としてどういうものがいいのかという話でもあるんですけれども,大学数で約35%というのが,政令指定都市も除いてということになっていくと思うんですけれども,実感としてはもっと地方大学はあるなという,数の上では。ただ,これは抑えておいたほうが今後いろいろやりやすいということであればなんですけれども,ただ,政令指定都市の地方の大学さんでもいろいろ苦労しながら頑張っているとこもあるというようなこともあったり,それから,35%程度かというふうに受け取られたくはないなと。かなりのボリュームが地方には大学があるんだなというふうに受け取ってもらいたいなという思いもあって,この数の出し方というのは少し慎重に検討してもいいのかなと思ったところです。
次に11ページですけれども,11ページの具体的施策の中で,3つ目の丸,私学助成のお話です。これはこのとおりというふうに思っておりますけれども,プラットフォームなどで議論をしていくのは私学のみならず国立や公立も一緒になってやっていきます。その結果を私学助成に反映していただくというのはすごくありがたいなと思いつつも,私学のためのプラットフォームにならないような,つまり国立や公立にとってもプラスになるようなことをお考えいただきたい。最初プラットフォームができ始めの頃,結構私学が主導していたのは改革総合支援事業でプラットフォームが入ってきてというところがあるんですけれども,国立大学さんとか,中村先生のところは別にしても,入ってもそんなにメリットがあるわけでもみたいなところもなくはなかったんじゃないかと思って,地方の大学みんなにとってというふうになるような仕掛けが必要かなと思いました。
それから,めくっていただいて12ページなんですけれども,これも似たような話で,地方創生2.0の中で,大学や教育機関と連携しながら地方の施策を打っていくといいよねということを出していただいたんですが,実際この交付税を大学と連携して出せた地方自治体というのはそんなにないんじゃないかなというふうに理解をしています。やはり自治体の中の優先順位であるとか,あるいはタイムスケジュールとかがあって,大学と組んでいる場合じゃないみたいなところもあったかなと思います。前から言っているんですけれども,大学と連携しないと出せないような,ちょっと縛りのあるようなものがあってもいいのかなというふうに感じたところです。
それから,22ページなんですけれども,設置のところで,設置を厳格化というのは理解をしています。22ページの丸です。私学の場合は2つあって,学校法人分科会で審査を受け,そして大学設置審議会で審査を受けという手順だと思うんですけれども,学校法人分科会のほうはやはり経営をしっかり見なきゃいけないのである程度厳しくというのは理解をした上で,地方の非常に目まぐるしく変わる産業ニーズみたいなものに対応していくときに,設置審のディシプリンベースの審査みたいなものとか,それから,社会人教員を入れ,実務家教員を入れていこうとしたときにもペーパー重視の審査の在り方とか,こういったものがかなり阻害をしているというふうに認識をしていまして,学校法人分科会の在り方と設置審の在り方というのは分けて,一様に厳しくするというふうにじゃなくて,そこら辺は考えたほうがいいかなと思いました。
それから,最後です。25ページのところなんですけれども,下から2つ目の丸,ここはちょっと思い入れがあることを言いますけれども,定員の一時的な引下げの制度というのはこれから具体的な検討が始まると思うんですが,これは必ずしもスクラップ・アンド・ビルドとか,スクラップとか再編・統合のためだけではなくて,やはり一番は適正規模ということなんだろうと思っていて,まず適正規模にして教育の質を上げていくんだというためにこれがあるということをまずうたうべきだと思います。これをやると,撤退に向かうのかとか,縮小とか,何かそういうふうな話ではなくて,まず質向上なんだということが明確に打ち出されて,より多くの大学さんがこれを活用できるようなことになるといいなと思っています。
それから,2行目の「また」以降のところですけれども,一時的定員減の話とその下の話は分けたほうがいいという,もう一つ丸を作っていただいていい内容じゃないかと。一緒にしないということです。それで,定員充足率の基準については,学部等を廃止,つまり7割以下の場合のときにその学部を廃止するならというだけじゃなくて,学部を適正規模に変えて,残った定員というかそういうことも含めて,廃止しないと次をつくれないとするのか,適正規模にすればつくれるとするのか,これは誤解のないように,丸を2つに分けて,上と下は別物としつつも,しっかりと誤解のない書き方にしていただくといいのかなと思いました。
細かいことばかりで恐縮です。以上です。
【小路座長】 今,大森さんがおっしゃった3点目については,検討で聞きおいておくということでよろしいですか。
【大森委員】 はい,全て検討していただければということです。
【小路座長】 じゃあ,田村さん,どうぞ。
【田村委員】 少し重なるかもしれませんが,私からも3点指摘をしたいと思います。
製造業のニーズとかそういう話もありまして,まさに理工系を進めていくというのは非常に大きな方向性として当然だと思いますし,この中間まとめの方向性はそのとおりだと思っています。そういう中で,一方で,人文・社会科学の関係者は戦々恐々としているようなところもないとは言えない。ですが,やはりソフトランディングになるような,ハードランディングにそういうところがなってしまうとまた反発もありますので,その辺の仕組みといいますか,仕掛けといいますか,そういうものも必要じゃないかと思っております。それが1点目でございます。
2点目も今までも出ていますけれども,地方の私立大学の在り方,やはりエッセンシャルワーカーを出しておりますし,非常に地域にとって大事なものであります。そういう中で,やはり先ほどもありましたが,地方創生の観点から地方の私立大学をどのように生かしていくのか。まさに消滅可能性自治体にならないようにするためにもというところがこれからもう少し深掘りが必要かなと思っています。
そういう中で,3点目が一番私は重要だと思っているんですが,やはり自治体が自分ごとになっているんだろうかと。私も地方自治の関係者としてそれはすごく気になるところであります。それは具体的に言いますと,ある程度都道府県ぐらいだとかなり考えていると思うんですが,大学の所在の市町村においてはそこまで考えているのか。もちろん財政的な事情等もあると思うんですが,プラットフォームとか自治体連携ということを言う際に,やはりもっと強く文部科学省のほうで働きかけといいますか,もともと教育委員会に対しては働きかけを非常によくやられていると思うんですが,基本的には知事部局とか市長部局ということになります。ほかの省庁との連携もあると思いますが,やはり自治体がこれをしっかり取り組んでいかないと地域がまずいんだと。大学とか産業界と一緒になって地域の在り方を考えるようになるようないろいろな働きかけ,特にトップとかを含めてだと思うんですが,そういうことをぜひやっていただきたいというふうに思っています。
以上であります。
【小路座長】 ありがとうございました。これも検討としておくということでよろしいですか。
【田村委員】 はい。
【小路座長】 それでは,福原さん,お願いいたします。
【福原委員】 ありがとうございます。議論をよくおまとめいただきましたことに,まず感謝申し上げます。それと同時に,今日この後もさらに具体的な議論が深まっていくことかと思いますので,総論的な観点で二,三述べさせていただきたいと思います。
やはり「社会とともに歩む」という,私がこの委員になってくれと言われたときに一番魅力を感じたのはこのタイトルでありまして,このことで社会と共に歩む私学という方向性を全体に打ち出しているということであるならば,やはり私学が歴史的に開発し蓄積してきたリソースというものを,今こういった少子化の下でどのように再活用していくのかというような観点で,私学の歴史的な意味をもう一度考え直してみようという,こういう議論の方向になっているんだというふうに思っております。この点,議論が進み過ぎたがゆえに,具体的な事柄が書き込まれていますけれども,もし行間が伸びることをお許しいただけるならば,そういった趣旨もどこかで,総論で述べていただきたいなと思いました。
それは先ほど伊藤塾長がおっしゃったように,大学という言葉が,これが日本の国家の制度としての大学という意味と,人類史的に見たときの世界中にある,そういう意味での「大学」というものとがあって,やはりネーミングが違っていても,日本には「大学」というものがあったわけですし,今日では国が認可しているという上に成り立っていますけれども,「大学」というものを先導してきたのは私学の自主性であり多様性であるということをやはりしっかり述べることが必要であり,これからの私学の関係者を励まし,また,私学の良さを発揮する意味では必要ではないかというふうに思います。
もう一つ,あとそれぞれの論点で言えることですが,管理したり経営する立場だけじゃなくて,やはり学生の立場から考えると,私学には,そこで学ぶ学生が,学術研究に従事するほかに,文化,芸術,スポーツ,ボランティア等の諸活動を活発に展開して,心身共に豊かな人間性がそこで育まれているという現実的な機能があります。また,そこの卒業生がアルムナイを構成して,様々な交流や社会貢献をしています。また,通信制というものを併設したり,また,夜間の制度もあえて設けるなどして,こういったリカレントの役割もやはりしっかりと果たしてきたのです。そういう意味では,総論で私学の役割を述べていただいておりますけれども,それがどうも国立の補完というようなところにトーンダウンしてしまったり,また,その独自性が地域人材の育成というところに,それも大事なんです,大事だけれども,そういったところに集中され過ぎているのではないかというふうに思いました。
また一方,教職員のほうからいたしますと,これはもちろん大学で教育や研究に活動していますけれども,地域に貢献して,やはりそれぞれの地域のシンクタンクの機能を有しております。例えば最近ではGIGAスクール構想を実施していく上で,各自治体に必要なIT,ICTの技術を,それぞれの地域にある私学のITセンターなどが提供しているという事実もあるのです。また,今日もこの会議の前の会議で議論があったとお聞きしましたけれども,小中高の部活動の社会移行,地域移行ということにあたっても,その指導者や施設,こういったものの多くを全国の私学が提供しているということもあります。こういう私学の役割,こういったような機能をやはりシュリンクさせない,何か共同しても残していくことが大切です。教育や研究はもちろんですけれども,私学がこれまで歴史的に果たしてきた役割というものをもう一回見直して,そういったリソースを大事にしていこうじゃないかという発信をぜひこの報告書に盛り込んでいただきたいなと思います。私学事業団の理事長らしい発言をさせていただきたいと思いますが,どうぞお許しいただきたい。総論ということで以上です。どうもありがとうございます。
【小路座長】 ありがとうございます。福原さんの御意見として,今後のまとめのときに参考にさせていただければということでよろしゅうございますでしょうか。
それでは,26ページの検討を要する事項も含めまして,ちょっと幅を広げて皆さんから引き続き御意見を頂ければと思いますけれども。石川さん,どうぞ。
【石川委員】 26ページ以降の話を1つと,その前の私学の立場についてのお話,伊藤委員や福原委員がおっしゃったことにつなげてなんですが,6ページの,福原委員がおっしゃったように,「私立大学は実態上それを補完するという状況の下で」という言葉は非常によくないのではないか。これだと,私立大学出身者はこの中にもいらっしゃると思うんですが,その出身者が受けた高等教育というものは補完される教育を受けたんだということで,全国の私立大学出身者を敵に回す文章ではないかというふうに思って。この面がないわけではないので,この面があるのは確かなんですが,これが全てだという記述はぜひともやめていただきたい。
伊藤委員がおっしゃったように,明治時代まで遡ると,日本の理工学は特にそうなんですが,日本の教育をリードしていたのは私学だったという事実がございます。理科大もそうなんですけれども,多くの国立大学に教員を輩出していたのは理科大でありまして,それが補完をするという状況の下でという話になりますと,ちょっと私は大学に帰れませんので。これは両面あると思うんですよね。両面あるので,両面があるという記述にしていただかないとまずいのではないかなというふうに思います。それから,その下の流れとしては,私立大学は補完でなく主要な役割を果たしているということが書いてあるので,ここへつなげる意味としては,両面がある中で主要な役割を担うんだという記述にしていただきたいなと,これが1つ。
今度は全体的な総論の話なんですけれども,2つほど指摘させていただきたいんですが,1つは国立大学との比較という面で,国立大学は今,収益事業ができるようになってきました。そういうことは国立大学も私立大学と同様の立場になりつつある。そうすると,私立大学が収益事業をするがためにいろいろな制約や規則があったんですが,そういったものは国立大学が収益事業をやるということで本当は国立大学にも適用されるべきではあるんですが,そうしますと大学全体が停滞しますので,むしろ国立大学の状況の中で私立大学を同じにしてほしい。これは公平性という意味で同じにしていただきたい。
その中の幾つか,例えば寄附の手続の問題だとか,高額教員のときに補助金が下がるという問題はここで取り上げていただいたんですが,それ以外にも多々ありますので,これは国立大学が収益事業を行う現状においては,同じ立場,同じ土俵にのせていただきたいというのがあります。
それともう1点は,国の高等教育全体のシステムをどうするか。阿部委員も地方をベースにお話ししていたんですが,あれを拡大解釈させていただきますと,高等教育全体のシステムをどうするかという話だと思うんです。産業界がどれだけのことを望んで,それに対して大学,国立大学,私立大学がどれだけの資質を持った学生を輩出するかのバランスが取れていないと国は破綻するわけです。このバランスの問題に焦点を置いて議論するということがなかなかない。側面的な断片的な議論,これが足りないからこれをやりましょうといった議論では,システムとしての議論にはなってないというふうに思っていまして,一部プラットフォームという考え方が出ているんですが,プラットフォームというのは場を設定するだけであって,システムをコントロールできてないということになる。システムというのは,最終的には全体のバランスをうまく取るほうにコントロールファクターを持っていくということで,そういった視点が少し欠けているような気がする。
これはどこに記入すればいいかよく分からない発言なんですが,そういった視点を持った大学,高等教育の運営をしていただきたいな,私立大学がその中でどうすればいいかというのは,どこかには記述していただきたいなというふうに思っております。
以上でございます。
【小路座長】 分かりました。1点目の両面あるという御指摘については全く同感だと思いますし,そういった表現を加えるということで,皆さんも御了解いただけるのではないかと思いますけれども,よろしゅうございますでしょうか。
それから,2点目,3点目については,今後の検討課題として御意見を頂くということにさせていただければと思いますけれども,石川さん,それでよろしいでしょうか。
【石川委員】 はい。
【小路座長】 承知しました。
では,引き続きまして,平子さん,お願いいたします。
【平子座長代理】 ありがとうございます。中間まとめということで,非常に具体的なところまで踏み込んでいただきましてありがとうございます。
8ページに論点を5点ほど挙げていただいていますが,これは非常に参考になるまとめ方だと思っています。特にこれまでの報告のように,論点(2)の教師・保育士・看護師などエッセンシャルな仕事に携わる人材を育み供出してきた役割は本当に大きいと思います。今後は地方ほど人口が減少する事態に鑑みて,しかもAIではなかなか代替できない業種であることからも,このような社会インフラを支える人材を輩出している大学は国が抽出をして,将来性を考慮しながら持続的に存続させる方策が必要ではないでしょうか。
同時に,こういったエッセンシャルなサービスは日本人だけでは不足することから,外国人という考え方も出てくるわけで,外国人留学生をここにどういう形で増やしていくのかという観点も必要ではないかと考えます。
論点の(1)(4)(5)は,実は国立大学のミッションとも重なるところがあります。特に理工農の人材は一朝一夕に育成できるわけではありませんので,まずは教学部門とか事務部門において国立大学と連携ができるのではないでしょうか。。
仮にこのような人材を地方で育成したとしても,そこに定住・定着してもらうという観点から,その地域での産業が必要になってきます。産業の振興と,企業・組織における人材の活用の仕方,特に女性は非正規雇用の多いことが地方では特徴的ですので,処遇・給与面での待遇向上させる産業の在り方,企業の在り方は,産業界の今後大きな課題ですが、このような問題を地域の中,産官学が一緒になって考えていくということが必要なのではないかなと思います。
文理融合教育はもう叫ばれて久しいのですが,なかなかこれは実現していません。その傍らAIは急速に発達しており,来たるAI時代に文系学生が取り残されないためには,少なくともAIやプログラミングなど,少なくともデジタルに関するリテラシーに慣れておくべきだと思います。文系学生といえどもそのような素養は大学に入って教育を通して身につける必要があります。入学試験で理数系科目はないかもしれませんが,リメディアル教育等々によって補える部分はありますので,まずはAIリテラシーを高めていくようなことを全学部にわたってやるのが急務です。
また,「知の総和」の向上という観点からすると,特に人口減少の激しい地方においては,1人が複数の組織で働くことも今後出てくる可能性があります。北欧などの外国ではそのようなことが実際に行われており,キャリアパスのマルチ化との観点からも,ダブルメジャーとかメジャーマイナーなど,こういった大学の教育のあり方も推奨されるべきことなのではないかと思います。
最後に,国際競争力の強化を唱える論点(3)ですが,これに該当する私立大学は数としてそれほど多くはないと思いますが,そのような大学は国立の指定国と肩を並べる実力があります。その観点で,国立の指定国に遜色のない環境を与えるべきで,指定私学のような考え方があってもいいのかなと考えます。
以上です。
【小路座長】 ありがとうございました。御意見として承っておきます。
それでは,ほかにございますでしょうか。大野さん,どうぞ。
【大野委員】 ありがとうございます。23ページの具体的な施策の一番下のところに経営力強化というのがありますので,これについてお話ししたいと思います。文末を拝見しますと,「財源の多様化」の前に「資産運用など」というふうに書かれていますけれども,昔の時代ですが,学校法人が資産運用に失敗して,億も3桁の穴を開けたということでメディアをにぎわせたことがありました。決して文科省がそういういうふうにリードしたわけではないんですけれども,当時の風潮でそうなったということを考えると,経営力強化でもちろん資産運用は大事なんですけれども,ややもすると資産運用に引っ張られてしまうとミスリードになるのではないかと思い,意見でございます。
関連で,アメリカのコミュニティーカレッジの話も出ましたが,私が前に聞いたハワイ州のコミュニティーカレッジの話ですが,州からの予算が大幅に削減されて,大学関係者はそれまで来た学生を教育していればよかったんですけれども,収入の多元化というか,それを求めるために,御用聞きではないですけれども,地域に出ていって必要な課題を聞いて回って,自分たちができることでプログラムを開発していくということを実際にやりました。それで危機を乗り切ったということですが。
やはりそれぞれの学校法人がそういう努力をするということは非常に大切だというふうに思っています。他方,例えば1つのケースですけれども,国の委託訓練制度というのがあって,エッセンシャルワーカーにもその制度があります。この委託訓練制度は収入というか学費が5,000万円を超えるとすぐ消費税がかかってきます。そうすると,普通の教育事業ではかかりませんけれども,委託訓練制度を活用した瞬間に一定水準以上は消費税かかるということで,小さな私学にとってはその1割の財源というのは教育研究を高度化するとか充実化させるためにとても必要だと思います。こういった制度を見直すようなこともしていただけると私学は助かるということで,申し添えさせていただきました。
以上です。
【小路座長】 ありがとうございます。貴重な御意見として承ることにさせていただければと思います。
では,ほかにございますでしょうか。よろしいでしょうか。
私も皆さんの御意見を承って,私自身もこの中間まとめについては多少参画をさせて意見も入れさせていただいていますので,少し皆さんにお伝えというかな,共有をさせていただければなと思うのは,国公私立は別にして,日本の大学の存在の今後の予見というものを我々はやはりしっかりと見ておかなきゃいけないんじゃないかなと。例えば,資料にもありますように,進学率がどう見積もっても60%ぐらいが頭打ちということで考えると,62万人から47万人と,これを1つの予見としてしっかり押さえておかなきゃいけないんじゃないかなと。結果として,今35%対65%という比率が,じゃあそれが逆になるかどうかということも,この進学者の減少に伴って考えておくと。
それから,この1点目と関連して,御存じかと思いますけれども,2040年問題というのが日本はクローズアップされて,本もたくさん出ておりまして,いわゆる1,700強ある市区町村のほぼ50%が,今の経済,産業,社会情勢だと消滅可能性が現実化しているというふうに言われていまして,七百四,五十の市区町村が,大学の存在価値がどうかは別にして,産業が非常に厳しくなって,人口が大幅に減って,社会インフラ,それからインフラを担う人材が急激にいなくなって生活ができなくなると。こういった消滅可能性都市が2040年に向けて50%あると,これを2つ目の予見としてよく見て大学の在り方というのを考えていかなきゃいけないんじゃないかなと。
それから3つ目は,国が6月に,日本国内の8つの国が支援を強化していくべき戦略産業というもの出しました。AIとか,バイオだとか,量子だとか,それから農林水産を含めて,ここに重点的に国も支援し,産業界もこの8つの産業については産業界としてもある程度力を入れていこうと。やはりこの国が出す8つの戦略産業というものと高等教育というものをどうリンクさせていくかということも,全てじゃないですけれども,ある程度考えていかなきゃいけないんじゃないかなというふうに思います。
それから4つ目というのかな,日本の国の2040年に向けてあるべき姿はどういう国のあるべき姿なのかということ,これはあまりオープンに語られていないんですけれども,私は経済界とか産業界にいる人間なので,ある経済団体でまとめたのは,日本のあるべき姿というのは,今申し上げた予見を踏まえると,1つは物的資源のない国として,科学技術立国,最先端科学技術立国に日本というのはやはりきちんとなっていかなきゃいけないと。常に最先端技術を持っていないとグローバルの中で生き残れないと。経済,産業のみならず,社会も生活もということが1つと。
それから,やはりちょっと貿易は赤黒厳しい状況になってきて,どんどん貿易額が減ってはきているんですけれども,投資立国としてのいわゆる民間企業の海外投資というのは非常に活発化してきております。そうすると,日本の経済,産業界としては,2つ目は投資立国という日本のあるべき姿をしっかりしていかないと。この投資立国の投資になるためには,ある程度の高度専門人材が投資戦略について考えていかなきゃいけないということが言えまして,そういった投資に関わる人材をどう増やしていくかということ。
それから,先ほどの先端技術については,AIを含めてIT人材が大幅に不足してくるというようなところに対して,大学と院でどうしていくのかと。
それから,同じように無形資産立国,やはり国際特許を含めた無形資産というものをたくさん持って,それをビジネスなり事業なり産業化していくと,しかもそれをグローバルにと,国際特許も含めて,そういった無形資産立国たらねばならないと,そんなのが経済界とか産業界でも日本のあるべき姿としてまとめているんで,そういうものとのリンクを大学教育でどうやってしていくのかということも考えていかなければいけないんじゃないかな。
それから,もう言うまでもなくグローバル化ということですね。極端な話をすると,トランプ関税で15%相互関税,関税が引き上げられたということになって,米中の貿易取引からグローバルサウス,特にASEANを中心にして,ASEANとの取引額をどう増やして,そこに技術とか人材を逆にどう日本から投入していくのかと。端的に言ったら,米中の取引を維持しつつも,日本がリーダーシップを取って,第三極のような経済圏,自由経済圏をどうつくっていくのかと,そんな動きも今,少しずつ顕在化してきております。
例えばこういうような動きと,大学が知の拠点としてどうリンクしていくのかと。まだ少しあるんですけれども,こんなのは一つ日本の今後の国,経済,社会,それから一部国民生活の予見ではないのかなというふうに思いますので,この予見は若干見方によっては違いますけれども,ほぼ今後未来に向けて動いていく事実というふうに見ていただいて,考えていく必要があるのではないのかなというふうにます。
それと,やはり私立大学の意見が皆さんから出まして,特徴というのは,個性であり,自主性であり,多様性であり,高度専門人材から幅広い個性を持った人間,人材育成と人間育成というところまで,非常にある意味では国公立より幅広い分野にわたって人材というか人間をつくっていくということが私立大学の持った特徴ではないのかなと。そういった部分をどう生かしていくのかということも考えていかなければいけないんではないのかなということを申し上げたいと思います。
それから,細かいことで申し上げると,先ほどの資産運用に注意しなきゃ,もう全く同感で,これはかつて歴史的に失敗した,大きな損失を被ったところがあります。それはもちろん自己責任のみならず,政府としてもよく見ていかなきゃいけないし,一定の学問の場合の規制というのも場合によっては必要なのかもしれません。
一方では,あえて欧米と比べると大学の収入の多様化という部分が,ある部分では非常に遅れているのではないのかなと。先ほどの資産で言うと,これはあまり比較する必要はないんですけれども,スタンフォードだとか等と比べると,大学ファンドを日本円であそこら辺は10兆円ファンドを持って,その4%利回りでも4,000億円ぐらいに出てきてしまいますので,それだけでも日本のトップ大学の助成金を含めた収入から比べると全然違うので。ファンドを持つのはそれは多様性の一つでありますけれども,それから,寄附講座だとか,共同開発研究だとか,スタートアップ,インキュベーションをどうするかとか,様々な収入の多様化と,ファンドも含めてあろうかと思いますので,一方では大学収入の多様化ということを,特に米国に比べたら多様化が非常に遅れていると。学生の授業料,それから大学の試験料を含めて65%ぐらいですかね,日本の場合は。助成金が4割ぐらいですか,今。
【三木私学行政課長】 私学助成ですか。
【小路座長】 私学助成が。
【三木私学行政課長】 私学は10%。
【小路座長】 ごめんなさい,10%ですね。
【三木私学行政課長】 そうなんです。
【小路座長】 ですから,やはり私学助成の比率が10%前後ということを考えると,大学自らが収入の多様化ということを考えていかないと非常に厳しくなるなと,受験生が減っていくわけですし。
それから,博士人材なんかは,さっき言った8戦略分野だとか,産業との連携を特に取っていかないと,今OECDなんかでも日本だけが博士人材が万年横ばいの状態と,いわゆる高度専門人材が横ばいと。これは国公だけの問題ではなくて,私学でもやはり高度専門人材ということは考えていかなきゃいけない。
特にアメリカの場合は博士課程の65%が産業界に入っていると。博士課程の高度専門人材に企業がやはりキャリアプランをしっかり示していると。日本の場合はまだまだ学士の4年,5年プラスした給与ぐらいしか提示していないと。高度専門人材は博士課程を卒業しても,じゃあ企業に入っても自分のキャリアプランを描くことができないと。それだけ企業がキャリアプランを高度専門人材に示していないということがあるんで。これは産業界の問題が非常に大きいなとあるところで申し上げたんですけれども,産業界のそういったキャリアプランを高度専門人材にどう示すかということを求めつつも,産官学の連携を取っていかなきゃいけないんじゃないかなというふうに思うのと。
それから,非常に細かい話なんだけれども,今,高専の生徒が非常に増えてきて,高専の大学編入というものをどう私学としても考えていくか。たしか48校ですかね,49校かな,高専が,今あるのが,ほぼ各県にありますよね。この間,神山まるごと高専という有名なところに行って私も見て,先生の話を聞いてきましたけれども。大学への編入率が3割を超えてきたということで,高専生がやはり大学にという思いを強く持っている人たちがどんどん増えてきているので,そういった専門領域の非常に高い知識を持った生徒を私学としても,これはたしか48校ぐらいあって,各県にたしかあると思いますので,地方私学はどうそういった人材を受け入れていくかということも考えていかなきゃいけないんじゃないかなと,そんなようなことを感じたところでございます。
非常に総論的な予見から細かい話になりましたけれども,私自身はそのようなことを感じてこの中間報告というものを見させてさせていただきましたというか,まとめさせていただいた一人でございます。
それでは,ほかにございますでしょうか。中村さん,手を挙げておりますので,中村委員,どうぞ。
【中村委員】 山梨大学の中村でございます。恐らく「知の総和」の答申が出て,この検討委員会も始まり,地域の中で,かなり,これらのことが浸透してきたなというのはすごく感じています。1つは,大学連携は今までお誘いしたり,いろいろお話ししてきたりしましたが,具体的に一緒にやりたいという大学がだんだん増えているのではないかなと思っています。これはとてもいいことです。
そのときに,先ほどから出ているエッセンシャルワーカーの話ですけれども,これは本当に,主には自治体だと思いますが,自治体と大学が連携したときに,一緒になって具体的な数値を明らかにしないとかなり厳しいと思います。どの大学が撤退するからどうのこうのという話よりも,これだけのものがいなくなれば,養成できなくなれば,本当に地域が消滅していくんだみたいなところまで来ています。エッセンシャルワーカーの育成は,十分にこれからのことを予想しながら,かつ人口予想もしながら考えていくことが必要なのかなと思っています。そのためには,大学連携と同時に,さらに地域の中の大学のシステムをきちんとつくっていくことも大事なのかなと最近すごく思っています。
もう一方で,地域連携プラットフォームなんですけれども,先ほど石川委員もおっしゃいましたが,やはり前から発言しているように,年に数回会議をやってもあまり意味がなくて,きちんとした機構をつくっていく必要があるだろうと思っています。ただ,その機構をつくったとしても,何をやるのかなという話になるんです。多分地方で言うと,1つは、観光価値の創出みたいなものが絶対出てくると思います。そして,自治体との強い関係の中で,今後高校の無償化もありますので,高大連携というのは非常に大きいと思っています。
それ以外は,各地域の持っている特徴的な産業ですね。山梨の場合は脱炭素・で水素燃料電池に関して,自治体がかなり力を入れているので,特徴的な産業として大きいんですけれども,これは,各地域によって違うんです。先週,信州大学を訪問したんですが,信州大学は水でかなりいろいろな企業と一緒にして行っていると。特徴的な産学は,地域によって違っていくので,そういったことを明らかにしていく。つまり,地域連携プラットフォームとか,地域連携機構をつくったときに何をやるのかなというところが具体的に見えないと動けないと考えます。もうその段階に来ているのかなと思っていますので,そういったことをぜひこれからも地域の大学として取り組んでいけたらと思っています。
以上です。
【小路座長】 ありがとうございました。貴重な意見でございます。承るということでよろしゅうございますか。
【中村委員】 ありがとうございます。
【小路座長】 ありがとうございました。
それでは,お時間がそろそろ議題1については来ましたので,先ほども申し上げましたように,皆様から頂いた御意見につきましては,今回の中間まとめを発表していくものでございますけれども,に反映できるものについては,ほとんど皆さんに頂いたのは特に否定的な御意見はなかったと受け取りましたので,可能な限り反映をさせていただくというふうにさせていただきまして,さらに議論が必要なものについては最終まとめに向けて引き続き議論いただく場を設けたいというふうに思います。
中間まとめを含めて反映させる部分につきましては,大変僭越ですけれども,私,座長と事務局のほうに一任を頂けるということで,皆さんの御意見を頂きたいと思いますけれども,よろしゅうございますでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【小路座長】 ありがとうございます。では,そうさせていただきます。よろしくお願いいたします。
では,特に文科省を含めて,政府におきましては中間まとめを踏まえまして,地域の人材育成を担う地域大学,あるいは,日本の競争力を高める教育研究を担う大学への重点支援,また,私立大学の経営改革強化につきまして,従来の支援制度の枠組みを転換いたしまして,新たな財政支援や制度改正の検討を一層深めていただきたいというふうに思いますのでよろしくお願いいたします。
また,委員の皆様にも引き続きでございますけれども,大学や自治体また産業界に対してそれぞれのお立場でお考えを御発言,また,共有いただければと思いますので,よろしくお願いいたします。
それでは,次に移りたいと思います。次回の第5回検討会議におきましては,「私立大学における教育研究の質の向上」ということで議論を頂ければというふうに思っております。本日の残りの時間で有識者からのヒアリングを実施させていただきたいというふうに思います。本日のヒアリングについては,実際の議論については第5回会議で行っていただきます。
まず,栗本名古屋商科大学学長より御発表いただきます。栗本学長,よろしくお願いいたします。
【栗本学長】 名古屋商科大学の栗本でございます。このような場を頂きましたこと,誠にありがとうございます。
それでは,僭越ながら,「国際認証を通じた教育研究の質向上」につきまして,御報告させていただきたいと思います。
まず,この映像を御覧ください。これは海外の大学の授業ではございません。名古屋商科大学のMBA教育の日常的な姿です。ケースメソッドと呼ばれる教授法が全ての授業において採用されており,参加者は主人公の立場で発言し,ジレンマを伴う意思決定を通じて自らのリーダーシップの在り方を考える,そのような教育を行っています。いわゆる従来のマスプロ型授業とは逆のスタイルになります。
そして,参加者の国際性も御覧いただきたいと思います。教室の背後に国旗が幾つか並んでいるのが御覧いただけると思います。現在75か国から学生が来ておりまして,特定の地域もしくは国に偏った構成ではありません。
現在,世界には経営教育を提供する高等教育機関は1万6,000校を超えると言われており,英国に拠点を持つQSやフィナンシャル・タイムズは,毎年MBAランキングを発行しています。そして,ビジネススクール同士,このランキングの中で互いに切磋琢磨し合いながら向上しているのです。
この世界ランキングには参加条件があります。AACSB,AMBA,もしくはEQUISと呼ばれる国際認証のいずれかを取得することがこの土俵に上がるための条件です。この国際認証とは,学位の国際通用性を保証するための枠組みであり,米国,英国そして欧州に1つずつ拠点があります。最も歴史が深いのはAACSB,創設は今から110年以上前です。国内に私立大が数校,国立大が4校しか存在しなかった時代です。その時代から世界では国際認証が始まっていたわけです。
名古屋商科大学はこの3つの国際認証を全て取得した国内では唯一の大学で,アジアに現在15校,世界全体でも120校弱ですので,全体の約1%の存在です。
それぞれの認証が審査するポイントは,少しずつ角度が異なりますが,共通する部分が多くございますので,本日はその共通する視点に対して私たちがどのようにアプローチして実績を出してきたのか,簡単に御報告させていただきます。
まず,審査結果は適合・不適合ではなく,適合だとしても数段階に分かれます。1年・3年・5年と,その審査状況に応じて段階的な期間の認証が与えられます。名商大は戦略的に組織を変革するためのガバナンスドライバーとして国際認証を活用しています。そうでなければ何十年たっても学内の環境というのは変わらないものだと思います。
そういった意味で,ガバナンスドライバーとして,研究,教育,社会,この3つの視点が国際認証に共通いたしますので,順を追って御説明いたします。
まず,研究の質向上に対する私たちの取組です。多くの認証は大学の教員を4つに分類します。1つ目の軸は博士号を持っていますか?という視点です。2つ目は今でも論文を書いていますか?という視点です。この2つに合致する教員はScholarly Academics,SA教員として認定を受けます。大学全体で最低4割,学部・研究科単位でも4割,学問領域単位で見ても4割を確保しなければならない,これはかなり厳しい要件です。
さらに厳しい条件として,論文は過去5年間の研究業績しか評価対象となりません。したがって,教員は採用後も継続的に論文を執筆することが求められ,大学側も,研究費や研究日といった研究リソースの配分,実績に応じて担当科目の減免を行う等の措置を,米国のスタンダードを参考に導入しています。
このようにして,世界のビジネススクールで教育を受けた研究者を採用することに成功し,数多くの論文を執筆しながら教育を行っております。
論文も単純に書けば良いというものではなく,通常の査読論文以外に海外査読誌,さらにはQ1と呼ばれる高品質論文の数が求められます。
こうした研究KPIを設定して,この23年間にわたり研究の質向上に努めてまいりました。画面中央列の査読論文数/専任教員数となる値は認証が始まる前と比較しますと4倍以上になっています。年成長率でいきますと,23年ですから年6%以上増加している状況になります。この数字は国際的にも誇れる成果だと考えています。
加えて,大学のミッションに関連した論文もおよそ全体の半分ぐらいの割合で出ており,大学の歩む道に沿った研究活動が行われております。
認証においては国立や私立の区別はありません。大規模や中規模,もしくは,地方も都市部も区別はありません。同じ基準の下で限られたリソースで切磋琢磨し合う考えが研究の視点にあります。このようにして研究の質向上を実現してきました。
次は,教育の質向上の視点です。名商大は現在12種類の学位を提供しており,その3分の1に相当する4種類が英語のみで卒業可能な学士もしくは修士課程です。スライドの左下を御覧いただけますでしょうか。学位課程ごとに大学ミッションとの関係性でLearning Goalsと呼ぶ学習到達目標を5つほど設定いたします。例えば,国際的な視点が養われたか,もしくは,論理的思考力が身についているか等の視点で,教員が科目もしくは卒業論文で学生を直接評価します。それを学部単位で集計して,特定領域がKPI値に達していなければ,次年度に向けてカリキュラムを再検討する,もしくは教員を再配置する取組を通じて学修の質保証を実行に移します。
このように,誰が教えるか,もしくは何を教えるかという質保証に加えて,どのように教えるかという教授法の視点も重要になります。冒頭に申し上げましたように,本学はケースメソッド教育をハーバード・ビジネス・スクールの協力を得ながら,大学院でも学部でも,日本語でも英語でも提供できる体制を整えています。この教授法の最大の魅力は,意思決定の追体験を通じて,感情と理性の双方を刺激しながら実践的に議論し,行動に結びつく力を鍛えられる点にあります。成績もおよそ7割が授業中の発言を基に評価されますので,教員が事前に課題を提示して,学生は予習を行います。そして,教員の問いかけに対して,学生が発言して,教員がそれを板書する。そのような営みが教育の質向上を担っております。
この教授法による質向上の取組がリカレント教育において大きな価値を生みます。仮に40代の社会人が本学のMBAに参加したとしましょう。そうすると,卒業して定年まで23年間,定年までに追加的なキャッシュフローは約7,000万円得られます。これは本学修了生の実績値に基づく平均値です。現在価値に割り引いて,イニシャルコスト等を勘案しますと3,800万円,これが本学の教育の価値です。仮に渡米してMBAを取得すると,今は様々な事情がございますので現在価値は3,000万円弱です。どちらの教育の価値が高いか一目瞭然です。
授業料そのものの議論より大事なのは,どのような教育を行えば自分たちの卒業生が労働市場で,高く評価してもらえるか,そこに焦点を当てたカリキュラムや教授法の検討です。ここはとても重要なポイントだと考えています。
以上が研究教育の質向上に対する視点であり,最後は社会に与えるインパクトの視点です。国際認証は社会的インパクトを重視する点に特徴があります。ビジネススクールが担うリカレント教育に,より多くの社会人の方々が御参加いただけるよう,平日でも夜間でもなく,週末のみでMBAを取得可能なプログラムを23年間続けてきました。そして,名古屋のメインキャンパスに加えて東京駅前と,大阪梅田駅前に社会人専用のサテライトキャンパス設置し,大学院生の約9割が社会人です。7割が管理職で3割は女性です。平均年齢は30代後半で,勤務先も世界を代表する企業や組織の方々です。参加者数は徐々にではありますが増加傾向で大学全体の在学生数の15%が社会人です。
そして,学部教育においては国際社会と連携した教育活動を行っており,国内で数少ない英語のみで卒業可能な経営学部を設置しています。また,キャンパス内に複数の国際寮を設定して,現在75を超える国や地域の方々が学ぶ多文化共生キャンパスを目指しています。現在525名の国際学生が学んでおりまして,先ほどの社会人も15%でしたが,国際学生も全体の在学生数の15%を占めています。教員も約4割が国際教員でして,学内のカフェテリアで食事をしていると,海外の空港にいるかのように感じられるほど国際性豊かです。
以上のような形で18歳人口の減少とは異なる市場から学生を確保しております。いずれも国際認証を通じた質向上を背景としたものであり,私たちの少子化時代における「知の総和」を通じた生き残り戦略です。
以上で私の御報告を終えたいと思います。御清聴いただきましてありがとうございました。
【小路座長】 栗本学長,大変御丁寧な説明ありがとうございました。
では,今の栗本さんの御説明に関しまして,何か皆さんから御質問がありましたらお願いいたします。どうぞ。
【角田委員】 ありがとうございます。どうもありがとうございました。認証は基本的にMBAプログラムに対するものとしてお取りになっている部分があると思うんですが,学部教育に対する評価,また,その影響の部分についてももう少し具体的に伺えたらありがたく思います。
【栗本学長】 分かりました。国際認証の対象はMBAのみではございません。今,画面に出ておりますAACSBは機関認証になりますので対象は大学全体です。経営教育を提供する学部と大学院そして,非学位教育も含まれます。非学位教育とは企業に対する研修教育です。そして,中央のAMBAの認証対象はMBAポートフォリオでして,MBAの名称を冠するプログラム全てが対象になります。そして,右側のEQUISは自らがビジネススクールと呼んでいる組織体を認証します。
そうはいっても,御質問にありましたMBAが中心的な存在というのは事実です。そこでの高度化をいかに学部教育等に反映していくかが大事な視点です。
【小路座長】 ほかにございますでしょうか。
【福原委員】 よろしいですか。
【小路座長】 どうぞ。
【福原委員】 栗本学長,どうもありがとうございました。私も御縁があって,少し前に丸の内のキャンパスを拝見させていただく機会に恵まれました。その後,あそこをさらに拡大されて,多くの外国人その他をお迎えになっていると聞きますが,特に昨今このような国際情勢の下で,昨年,今年という意味ではいかがでしょうか。学生の,海外からの学生,特にここでたくさんいらした外国人学生ですが,それはもう既に日本に就労機会があってさらにここで学んでおられるのか,あるいは,外国から学びのために日本へ来て学んでおられるのか。そういった傾向がここ一,二年,大変アメリカのトランプ政権における様々な留学生政策規制というのもあったこともあるかと思いますけれども,どうですか。先生のところの外国人学生の変化というものはありますでしょうか。
【栗本学長】 大学院と学部に分けて御説明いたします。
大学院教育は社会人が主体ですので,外国人のうち既に日本で就労している方々は約半数で,海外からは実務経験の必要ないMaster of Scienceに直接進学しています。国際認証の世界で知ったのですが,中心的な存在だと思っていたMBA教育よりもMaster of Science in Managementと呼ばれるマネジメント教育のほうが5倍も大きな市場なのです。そのMScに数多く海外から直接お越しいただいています。
学部教育におきましては,左下のスライドにございますように,英語による学位課程の在籍者数が年々増加しております。今年度は1学年120人で,過去最多の国際学生が1年間で海外から直接お越しいただきました。トランプ政権の影響というよりも円安があるのではないかと考えております。為替の影響は大きいと思います。
【小路座長】 よろしいですか。
【福原委員】 ありがとうございました。
【小路座長】 ほかは御質問ございますでしょうか。
私からじゃあいいですか,一,二点。
【栗本学長】 お願いします。
【小路座長】 非常にお話伺って,国際性豊かなカリキュラムをうまく組まれてやっておられるなと。1つは海外大学との単位認定制度,ジョイントとかダブル・ディグリー,こういったものみたいなものは,さっき認証制度というのはたくさん1,000拠点とかありましたけれども,それとはちょっと違うと思うんですが,この辺は今後どういうふうに。
【栗本学長】 今,画面に出ておりますのは海外提携校です。現在189校ございまして,認証取得前は20校程度でしたので約10倍に増加しました。なぜかと申し上げますと,お互いが同じ基準に基づいた学位を提供している認識に立てるのです。例えば,フランスにおいて学部教育というのは3年間で,修士課程は1年間です。したがって,日本人の大学4年生が交換留学でフランスに行く際,修士1年なのかそれも学士最終学年なのか迷うことがあります。
こうした互いの単位認定の考え方や教育制度は国ごとに異なります。アメリカであれば州ごとに変わります。そういったギャップを国際通用性という形で橋渡しできるのが認証でして,国際認証習得があって海外提携校が飛躍的に増えました。今,お示ししています国際学生数は本学に学籍を置く本科生で,その他にも在籍する多数の交換留学生がキャンパスの国際性をさらに高めています。
【小路座長】 ということは,単位認定は海外大学の特定のところと提携したところの単位を取れば,名古屋商科大学の単位として認められると。
【栗本学長】 その通りです。
【小路座長】 それは今,何校くらいやっておられますか。
【栗本学長】 それが189校です。
【小路座長】 それが189校ですか。
【栗本学長】 あと,この中の20校ほどとダブル・ディグリーでの交換留学を行っております。
【小路座長】 分かりました。
【栗本学長】 互いに同じ認証を持っている学校が手を結び合う構図です。
【小路座長】 それと,もしかしたらお話を聞き漏らしたかもしれませんけれども,海外大学に名古屋商科大学の教室を設けたり,名古屋商科大学に海外大学の教室を設けると,こんなようなことというのはどんな状況でしょうか。教室というのはちょっと。
【栗本学長】 物理的な教室の海外展開よりも,ダブル・ディグリー教育が主体になるのではないでしょうか。お互いの学位が等価だと認め合うわけです。先ほどのご質問の単位認定は,お互いの単位が科目単位で等価との認識に基づきます。さらにその上にジョイント・ディグリーが存在します。一緒に学位をつくりあげるのでハードルが高く,私たちもまだ実施したことはございません。したがって物理的な海外キャンパスに関しては具体的に検討したことはないと思います。
【小路座長】 すみません,私の質問。ほかの方,どうぞ。
【大森委員】 御発言ありがとうございました。前からすばらしいのは知っていたんですけれども,改めて確認しました。
その上で,学長が最後のほうでちょっとおっしゃった,18歳人口減にあらがうというか,そういう方策としての一つとしても位置づいているというようにおっしゃったようにお聞きをしたんですけれども。今,貴学だと4学部をお持ちですか,その中で言うと,いわゆるMBA教育じゃない学部も,国際とかもあったりとかして,名古屋でもだんだん各大学,貴学がということじゃなくて,各大学が少し学部生の募集が厳しくなり始めている状況の中で,学部は少し,ここでは言えないかもしれないけれども,今後の戦略として,少し圧縮しながらも,こっちのほうを海外と含めてという戦略という意味で,18歳減に対してこっちをという,そういうニュアンスの御発言なんでしょうか。
【栗本学長】 デリケートな話題になりますが,学内で議論を繰り返してきたのは,出生率は1.2から更に低下するという危機意識です。どう考えても,愛知県の地元だけで学生を集めていては限界が来て,サステナビリティが確保できません。定員を減らして規模を縮小する,もしくは国際化して海外から魅力的な学生を招く,あるいは社会人教育という未開拓市場に参入する。変革か消滅か,そういう瀬戸際の議論を2000年の頃のから後行っていました。
そこで得た私たちの考えは,立地は不利な方が良いという,少し変わった発想です。立地が不利であれば知恵が生まれ新しいことに挑戦できるのです。例えば,名古屋は東京に比べアクセス面で不利です。大学の拠点があるのは名古屋駅から少し時間のかかる場所です。それなら住めるキャンパスにしよう,キャンパス内にレジデンスを作ろうとなりました。海外の大学に行けばキャンパス内に学生が住める寮が多数ありますが,顧客は自らキャンパスに住みたいとは言わないものです不利な条件でも何ができるかを真剣に考え尽くすのです。
同様に社会人教育も無視できません。海外の優れた大学を参考に,なぜ,社会人教育なのか?なぜMBA教育なのか?を考え,名商大はそこに活路があると信じたのです。当然ながら,社会人教育を始めた当初ははどの教員も大学生を教えた経験しかありません。どのようなリアクションが社会人から来るのか不安だったと思います。
しかしながら実際に行ってみると,「これは面白い教育だ」はとの理解が広まりました。冒頭に申し上げたケースメソッド教育は,教員自身の学びにもなりますし,学んでいる社会人も楽しんでいます。次第にこの教授法は互いにとって有益だとの理解が広まり,世界中から徐々に研究者が集まって来たのです。徐々に日本語のみならず英語でも,大学院から学部にも拡大することになりました。。
不利な要素は多いものです。それでも可能なことに挑戦していく姿勢で国際認証まで辿り着きました。国際認証がなければ国際提携は困難だったと思います。実際,誰もが知るよ総合大学でなくとも,私の名刺を見て3大国際認証を取得していることを知り,INSEADの教員が訪問して共同プロジェクトに繋がっています。全学的に取り組んでいいることがきっかけでハーバード・ビジネス・スクールとも様々な交流が生まれています。大学運営をしていてこれほど幸せな事はありません。こういった一個一個の積み重ねで,状況を変えていこうという取り組みです。
【小路座長】 ありがとうございました。まだもしかしたらおありになろうかと思いますけれども,もう一方にお話しいただきたいと思いますので,大澤金沢工業大学の学長から御発表をお願いしたいと思います。大澤学長,よろしくお願いいたします。
【大澤学長】 それでは,ご説明いたします。名古屋よりもさらに立地条件が厳しい金沢にある本学の取り組みが,皆さまのご参考になればと思います。
それでは,1枚目に記載されている内容についてご説明いたします。そこには「人間形成・技術革新・産学協同」と記されていますが,これが本学の建学の精神です。この中でも「産学協同」は,65年前に掲げた当初はアカデミアからは批判もございましたが,産学協同による社会実装を重ねる中で,右上に記載されている「文理を超えた取り組み」の必要性が明らかになってきました。科学技術者だけでは社会実装は成し得ないため,本学はこの考え方に基づいて教育・研究展開してきた大学としてご紹介したいと思います。
次のページをご覧ください。人口分布は「地方はどうなってゆくのか」という観点から,石川県の状況についてご説明いたします。ご覧の図にあるように,青い四角で囲まれた部分は,これまで大学が主に対象としてきた年齢の人口層を示しています。しかし,これからは人口減少の中での「知の総和」の向上が不可欠であるという視点から,初等・中等教育との連携,さらに社会全体とも連携していかなければなりません。18歳人口の減少はもちろんですが,生産年齢人口の推移を見ると,石川県では今後かなりの減少が予測されています。10年後,すなわち2040年には,深刻な影響が出ると見込まれます。この課題に対しては,生産性の向上を図る以外に手立てはありません。先ほどの議論でもAIやロボットの活用が取り上げられていましたが,これらを地方でフル活用しなければ,もはや持続可能な地方社会の存続は難しいという認識です。したがって,本学ではAIやロボットを積極的に導入・活用し,「知の総和」の拡充を図っていこうと考えています。現在,DXハイスクールの取り組みが全国で急速に進んでおり,このままでは大学だけが取り残される可能性もあります。そのため本学では,教職員を含めて,DX教育およびAI活用に全学的に取り組んでいるところです。
また,ウェルビーイングの向上も「知の総和」に深く関わる要素だと考えています。具体的には,生産年齢人口より上の高齢者層に対して,ロボット・介護・医療・健康・社会参画といった領域での取り組みが必要です。これらも,やはり文理を超えた協働と共創の中で充実を図っていくことが求められており,その知見が高齢化社会の中での「知の総和」の向上につながっていくと考えています。次に,下部のグラフに関してですが,東京都に注目してみると,18歳以下の人口は少ないにもかかわらず,それ以上の年齢の人口は,急激に増加しているように見える部分があります。これは,若者の地方からの流入によるものです。しかし今後10年,あるいはそれ以上経過すると,地方の衰退に伴ってこの流入人口も減少していくと予想されます。そうなると,都市部と地方の連携はこれまで以上に重要になります。
特に北陸地方では人口減少が顕著になると見込まれており,この地域をどう維持・活性化していくかが大きな課題です。ここでも鍵となるのは,AIやデータサイエンスの積極的な活用です。
次ページは大学のフレームワークであり数字で示した部分をいかに説明します。
次のページをご覧ください。これは,現在多くの大学で取り組まれていることですが,文部科学省にはデータサイエンス教育に関する認定制度があります。その中でも「応用基礎レベル」については,すべての大学が取得すべきだと考えています。というのも,このレベルの教育では「実社会の生データを扱うこと」が条件とされており,各学部が実データを用いて教育を行うことが求められているからです。したがって,全学的に生のデータを扱う教育体制を整えることが重要です。一方,「リテラシーレベル」については,高校段階で修得すべき内容と考えており,大学教育の中で重点的に扱うべきものではないと思っています。また,リカレント教育においても,企業の実フィールド――たとえば工場やオフィスなどの現場――において,AIやIoTを活用しながら学ぶという取り組みが必要です。高校の先生方にもご参加いただきながら,実践的な教育を行っています。
次のページをご覧ください。
プロジェクト教育,いわゆるPBL(Project-Based Learning)は,本学では30年前から導入しています。これはアメリカから取り入れたもので,「問題の発見から解決まで」を重視する教育手法です。現在では,高校の「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の教科書にも取り上げられており,本学では1年生から4年生まで,全学生がPBLに取り組む体制をとっています。この中で特に重要なのは,日本の教育では同じ年代の学生のみで構成される学習環境が多いことです。そのため,PBLの中に社会人を加えることがどうしても必要です。場合によっては外国人も参加させ,多様な視点の中で学びを深めることが大切です。この取り組みでは,実際のデータやAIを活用しながら,課題の発見・解決,さらに社会実装に至るまでのプロセスを経験します。こうしたことは大学だけでは完結できないため,企業との連携が不可欠です。実際に,自治体から社会課題に関するテーマを提供していただき,それに基づいて学生が取り組む仕組みを構築しています。このような学びを通じて,学生が実践的なスキルを身につけていくことは,極めて重要です。
次のページをご覧ください。地方は学生募集において不利とされがちですが,実は多様なフィールドが存在しています。ご覧のとおり,日本は資源が乏しい国です。東京のような大都市にも,いわゆる「都市鉱山」と呼ばれるような再利用可能な資源はあるかもしれませんが,地方では自然資源の探索が可能です。また,昨今はお米の供給不足が話題となっていますが,そうした中で「スマート農業」のニーズも高まっています。さらに,再生可能エネルギーの地産地消,自動運転の実証実験,高齢化に対応した介護ロボットなど,地方ならではの課題と可能性が数多くあります。こうした多様なテーマに対し,企業と連携して150件程度のプロジェクトを安定的に推進し,その中でAI・データサイエンス教育を展開していくというのが本学の基本的な方針です。これらの取り組みは,GX(グリーントランスフォーメーション)をはじめ,DX(デジタルトランスフォーメーション),SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)にもつながるものと考えています。
もう一つ,本学の取り組みをさらに推進する上で重要なのが,「4番」と記載されているコーオプ教育です。次のスライドをご覧ください。コーオプ教育は近年非常に重要性が増しています。インターンシップとは異なり,大学と企業が連携し,企業側のニーズに基づいたテーマを設定して契約を結び,そのテーマに沿って学生を派遣するという仕組みです。この制度では,学生が必ず給与を受け取ることになります。企業側も給与を支払う以上,しっかりと学生に責任ある業務を任せることとなり,結果として非常に実効性の高いプログラムとなっています。特に大学院生については,この制度に必ず参加すべきだと考えています。
私立大学は,授業料が国立より高いという根本的な問題を抱えています。修士課程の学生であれば,コーオプに参加することで1年分の授業料相当の報酬を得ることも可能です。私立大学としては,自立した形で企業と実質的なウィン・ウィンの関係を築き,教育と収益の両立を目指す必要があります。つまり,学生自身が「稼ぎながら学ぶ」仕組みを構築していくことが重要です。このようなコーオプ教育は,アメリカではすでに100年以上の歴史を持っています。世界産学連携教育協会(WACE)という国際的なネットワークも存在し,その中でコーオプ教育は非常に高い経済効果を上げている実績があります。
次のページをご覧ください。地方の大学にとって重要なのは,「何か特徴がある」「強みがある」といった点です。本学の場合,そうした強みの一つが研究所への積極的な投資であり「産業界との強固な基盤を持っている」ということになります。次のページをご覧ください。現在,33の研究所を設置しています。従来の大学の研究所と産業界には「死の谷(Valley of Death)」と呼ばれる課題があります。すなわち,大学は主に基礎研究を行い,企業は実用研究・製品化を担ってきましたが,その中間領域が空白となっています。このギャップを埋めるための「実装研究」にも力をいれています。この分野に注力することこそ,地方大学にとっては大変重要な戦略であり,多くの企業がこの取り組みに参画しています。技術成熟度レベル(TRL)で言えば,レベル5~8の領域が主な対象です。とりわけこの範囲に注力して研究を進めることで,産学連携をより強固なものとしています。また,文理探究型の研究所の設置にも力を入れています。紫色で示されているのが文理探究型の研究所です。「感動デザイン工学」など,これまでの先端技術とは異なる視点からの研究――たとえば「どうすれば人は感動するのか」「どうすれば社会に広く受け入れられるデザインなのか(=バズるのか?)」といったテーマ――に取り組んでいます。このように,本学の研究所の約半数が文理融合・探究型として設計されており,技術と人文・社会のバランスをとりながら,より実践的で創造的な研究を展開しています。
これらの取り組みをさらに強化するために,次のスライドの「6」にも記載されているとおり,イノベーション教育を展開しています。「イノベーションはどのように起こるのか」。私自身も学生時代にそのような授業を受けたことはありませんでしたが,まさに今こそ,そうした教育が非常に重要だと考えています。本学では,教員の約半数が産業界出身で,残りの半数はアカデミア出身です。したがって,両者の知見を融合しながら,多くの教員がイノベーション教育に携わっており,今年度からは必修化しています。スライド下部には「NABC」というフレームワークが紹介されていますが,日本の研究においては,「ニーズ(Needs)」に焦点が当たりにくく,「アプローチ(Apprpach)」が肥大化している,という指摘がなされています。イノベーションを実現するためには,まず「ニーズ」が十分に大きく,明確であることが前提となります。特に,産業界は現場のリアルなニーズを把握しているため,産学連携のもとでこうした視点を教育に取り入れ,社会実装力を高める取り組みを推進しています。
以上のことを考えると,大学をどう変えなきゃいけないのかということになります。これからの情報化社会と共に歩む意味で,半分を情報系にしました。これはスクラップ・アンド・ビルドという言い方がいいのかどうか分かりませんが,大学・高専機能強化支援事業を頂きまして,情報デザイン学部とメディア情報学部を文理探究にしました。文系の大学の中で,理工系人材を増やしなさいといってもなかなか難しくて,むしろインフラの整っている工業大学のほうが文系人材を育てられるんじゃないかという考え方です。
文系志向の学生も入ってきてくださいということで,1,2,3に書いてありますように,メディア情報の中に心理を入れました。心理学的な要素というのは非常に大きくて,人間がどう感じるかが産業技術につながっていくという考え方です。情報デザイン学部はマネジメントと地域,データサイエンス,そして,情報理工学部ですが, AIとロボットを統合した学部です。情報3学部の知見を,基幹産業を担っているバイオ・化学部,工学部,建築学部と融合させていくという学部体制が令和7年度からスタートしています。その象徴的な取り組みが,次のページに示されているクロスデザインラボです。現在,本学の研究所の1つを,このクロスデザインラボという新たな施設へと改編しようとしています。
この施設では,「体験を通じた知識の定着」を重視し,未来社会を模擬的に体験しながら,あらゆる学部・学科の学生に加え,企業も「共創プロジェクト」として参加してもらう予定です。スライド右側にあるとおり,出口戦略として「この研究所ではこういうことをやります」と公募し,3年ごとに研究テーマを見直すというサイクルで運営していきます。こうした実践型のラボを新たに立ち上げる計画です。このラボの運営体制についても,新たな挑戦を試みます。人間の事務局長は1名のみとし,必要な「部下」5名分についてはAIを人材代替として活用する想定です。これは,人口減少社会における象徴的な取り組みであり,実装的・研究的にもフィージビリティ(実現可能性)を備えた新しい試みであると考えています。
また,これまでの実績として,石川県では内閣府の令和5年度「地方大学・地域産業交付金」を活用したプロジェクトを実施しています。知事も関与する中で,「アンダーワンルーフ」型の研究所に,約40社の企業が集結しています。地方の企業はすでにグローバル展開している実態があります。したがって,本学としても,産業を通じたグローバル化をさらに加速させ,こうしたフィールドの中で大学院生が活躍する機会を創出していく方針です。
次のページに移ります。特に石川県では機械産業や繊維産業が盛んであり,これらを活用した研究活動も行っています。その一環として,産業技術総合研究所(産総研)本学に出先機関を設置しているほか,ドイツのFraunhofer研究機構も本学内に拠点を開設しており,グローバル連携が着実に進展しています。2024年の取り組み成果については,スライドに記載のとおりです。
そして最後に強調したいのは,日本から真のイノベーションを起こすためには,学問そのものへの深い理解が不可欠であるということです。近年,学問が軽視されがちであることが懸念されますが,本学では,大学院教育において,ガリレオ,ニュートン,アインシュタインといった知の探求者たちが何を考え,何を成し遂げたのかを正しく理解するため,原著から本質を学ぶ教育も重視しています。こうした取り組みを通じて,本学は「地方創生に資する大学」としての使命を果たしてまいたいと思っています。
【小路座長】 ありがとうございました。時間が迫ってまいりまして,先ほど申し上げましたように,私立大学における教育研究の質の向上については次回御議論を頂きたいと思いますので,お一方ぐらい御質問ありましたらと思いますけれども,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
大澤学長,大変参考になりましてありがとうございました。次回の議論に生かさせていただきさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
それでは,時間となりましたので,本日はここで閉会とさせていただきたいと思います。最後に,事務局から今後の会議の予定について御説明のほうお願いいたします。
【菅谷私学行政課課長補佐】 本日もありがとうございました。
次回,第5回検討会議は,9月26日金曜日14時から16時にて開催させていただきたいと思いますので,予定の確保のほうよろしくお願いいたします。
また,すみません,不具合によりまして冒頭の15分程度YouTube配信ができておりませんでしたので,期間限定で,かつ事前の傍聴登録があった者のみに一応録画配信という形で対応させていただければというふうに考えております。
以上,よろしくお願いいたします。
【小路座長】 ありがとうございました。
それでは,大変お忙しいところと暑い中お越しいただきましてありがとうございました。第4回の会議を終了とさせていただきます。以上でございます。ありがとうございました。
―― 了 ――
高等教育局私学部私学行政課