博士人材の民間企業における活躍促進に向けた検討会(第1回) 議事録

1.日時

令和6年8月26日(月曜日)14時00分~15時30分

2.場所

経済産業省本館 17F 第一特別会議室/オンライン

3.出席者

委員

(◎委員長)
◎川端 和重 国立大学法人 新潟大学 理事・副学長
   酒向 里枝 一般社団法人日本経済団体連合会 教育・自然保護本部長
   佐々木ひとみ 学校法人東京家政学院 理事
   髙田 雄介 中外製薬株式会社 人事部長
   松井 利之 大阪公立大学 国際基幹教育機構 高度人材育成推進センター長
   山田 諒 株式会社アカリク 代表取締役社長
   吉原 拓也 北海道大学 大学院教育推進機構 副機構長
   鷲田 学 株式会社サイバーエージェント AI 事業本部 人事室長
   奥 寛幸 株式会社島津製作所 人事部(井原委員代理)

関係省庁

   藤吉 尚之 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 審議官
   白井 俊 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 参事官
   伊藤 学司 文部科学省 高等教育局長
   髙見 英樹 文部科学省 高等教育局 高等教育企画課 高等教育政策室長
   先﨑 卓歩 文部科学省 科学技術・学術政策局 科学技術・学術総括官
   髙見 暁子 文部科学省 科学技術・学術政策局 人材政策課 人材政策推進室長
   菊川 人吾 経済産業省 イノベーション・環境局長
   今村 亘 経済産業省 大臣官房 審議官(イノベーション・環境局担当)
   川上 悟史 経済産業省 イノベーション・環境局 大学連携推進室長

4.議事要旨

1.開会

○川端委員長:
自己紹介を兼ねて少し話したい。15年前に科学技術立国、ポスドク1万人計画等、博士人材をどう活用していくかについての会議等で委員を務めた。大学でもキャリアパスを開拓するため、2つの大学で組織の立ち上げ、卓越大学院、ジョブ型インターンシップ等にもかかわるなど、様々な大学で様々な取組をしてきた。また、15年、博士人材がどう変わってきたかも見てきた。
15年経過しても、民間企業での博士人材の活躍は数の上ではあまり大きな成果は出ていないように思う。一方で、大学のカリキュラム、博士人材のキャラクター、企業における博士活用、国としての研究生活支援等、大きく変わってきている。
その上で、この委員会は「ラスト·ワンマイル」の委員会と考えている。学部卒や修士卒の人間に博士後期課程の魅力をどう伝えるか、企業の方に博士人材の能力をどう伝えるかを考えていきたい。委員の皆様の知恵をいただき、まとめていきたい。
 
○経済産業省イノベーション·環境局 菊川局長:
本検討会の背景等を事務局の立場よりご説明したい。
人材をどのように輩出するかということについて、教育機関の役割を考えることや、人材に活躍の場を与える産業界の役割が重要である。「本検討会では(産業界での博士人材活躍のための)ラスト·ワンマイルを考えたい」という委員長のご発言があった。自分は、1月の能登震災で、物資を避難所へ届ける事業を担当してきたが、被災された方の手元に届けるまでの「ラスト·ワンマイル」は非常に大変であった。労力がかかり、個別対応が必要であった。今回の検討会も、文部科学省と経済産業省が連携するだけでなく、内閣府、政府全体でこの「ラスト·ワンマイル」に取り組む必要があると認識している。
人的資本への評価は注目が高まっている。人材の採用や育成は企業価値に直結するという認識で日本経済にとっても大きな課題である。
本検討会の皆様のお知恵を借りて取り組んでいきたいと考えている。
 
○文部科学省高等教育局 伊藤局長:
博士人材は素晴らしい能力を持ち、努力を重ね、ポテンシャルを持っているので、あらゆる分野で活躍できる社会を作っていかなければならない。文部科学大臣の下で博士人材活躍プランを作成したが、大学が何をすべきか、学生自身がどう取り組むかに加え、産業界に活躍のチャンスをいただき、博士人材を活用しきっていただきたいという観点から取りまとめた。文部科学省が作成したプランだが、「経済産業省との連携による、博士人材と民間企業との接続に当たって民間企業、大学等が取り組むことが奨励されるような内容についての手引き·ガイドラインの作成とそのための両省合同検討会の設置·開催」という記述を入れている。縦割りを超えていかなければ日本の未来はないと思っている。
先ほど、「ラスト·ワンマイル」という話もあったが、大学で手塩にかけて育てた学生に企業の中で活躍していただく、ここが最後の溝になってはいけないと強く思っている。民間企業にお願いするだけでなく、大学も大いに変わらなければならない。そして政府でも活躍してもらわなければならない。「0から1を生み出す」ため、1名の博士人材を採用し、効果を実感してさらに採用をする、というようなスパイラルが生み出されるとよい。検討会でよい手引きを作り、「0から1」を進め、100と進めていきたいので、忌憚のない意見を求む。
 

2.議事

(1)本検討会開催趣旨について

○経済産業省イノベーション·環境局 川上大学連携推進室長:
傍聴について、オンラインで270名超の申し込みがあった。関心の高さと検討会の役割の重さを痛感している。趣旨は菊川から説明したが、事務局から改めて資料2に基づいてご説明する。
博士人材は民間企業における活躍においても、特許出願と論文の被引用件数の状況をみると、修士ほかと比べて圧倒的に成果を出している。
博士人材の国際比較について、課題は博士人材の数が増えていないという点にある。2000年はアメリカや韓国と同水準だったが、その後アメリカは3割超、韓国は3.5倍増えているが日本は増えていない。
日米の企業研究者の比較について、業種ごとに様相は異なるが、全産業でアメリカは10.6%、日本は4.2%が博士人材である。日本において博士人材の登用が比較的進んでいる医薬品製造業においても、アメリカの方が日本と比べて博士号取得率が高い。
大学発ベンチャーにおける博士人材の割合について、一般企業の研究職における博士人材の割合が4%であるのに比して、大学発ベンチャーでは博士人材の割合が19%。大学発ベンチャーの活躍を促進していくことが、博士人材の活躍の場を増やしていくことになる。
経済産業省では昨年、「博士人材の産業界への入職経路の多様化に関する勉強会」を開催。日本経済団体連合会においても、博士人材に関する初めての提言を2月に取りまとめた。文部科学省も博士人材活躍プランを取りまとめ。大学支援フォーラムPEAKSにおいても取りまとめている。産官学の機運が非常に高まっており、博士人材の民間での活躍が非常に望まれている。
課題は、博士人材を採用していない企業が全体で76.6%であるのに対して、そのうち採用したくてもできていない企業が35.6%に上っていることである。博士人材への必要性は高まっているが、採用できていない、現場での採用ニーズが満たされていない状況と認識。       なぜ採用できていないかの理由のうち5割を超えるのが、マッチングがうまくいかないという課題。
大学側の課題としては、博士人材の就職経路について、全体では民間の就職サイトや学校(のキャリアセンター)経由が多いのに対して、博士人材は研究室経由の就職や指導教員や先輩からの紹介によるものが多い。民間の就職サイトも2割程度と少なく、大学のキャリアセンターでは博士人材支援を取り扱っていない点が課題。研究室経由の就職は博士人材の就職の重要なチャネルではあるが、就職の絶対数を増やすのであれば、こうした現状で就職者数が少ないルートをどう増やしていくかが課題と理解。
博士人材のキャリアパスについて、p.9は博士人材のキャリアパス、人材の流れの規模感を示したもの。学卒者が年間100万人と言われている中、博士人材は1万5,831人ということで、規模としては少ない。現状は民間に行きたいという学生は、特に理系では75%が修士修了で民間企業に就職し、1割が博士に進学している。その進学者のうち、約4割が民間企業に就職している。今回の検討会ではこの4割の部分を増やしていきたい。右の将来像のところで博士課程修了者の就職者数の増加を促進していくことを示した。それと併せて文部科学省が博士人材活躍プランで博士の数を3倍にするということで、出口もしっかりと確保した上で博士人材を増やしていくことがより健全な姿であると思い、あえてこちらの将来像を事務局から示した。
この検討会の進め方について、企業と大学において、実務的にどういうことをやっていけばよいかをご議論いただきたい。ターゲットとして採用意欲のある企業を考えている。博士人材の活躍が特に必要ないところはターゲットに入れず、採用意欲はあるが採用できていない企業に向けて、効果的な採用を実施するために取り組むべき事項、博士課程を持つ大学において就職活動を支援するための取組について、地に足のついた議論をして検討を進めていきたい。第1回はキックオフということで、ハイブリッド開催、第2回以降は原則オンラインということで回を重ね、年度末に手引き·ガイドブックという形でまとめて発信していきたい。
 
○経済産業省イノベーション·環境局 菊川局長:
2点補足したい。当局ではスタートアップ政策を担当している。「スタートアップ育成5か年計画」が2年経過したところ。大学発ベンチャーが増えてきている。大学発スタートアップを表彰する制度もあり、スタートアップを支える大学の研究室も一緒に表彰しているが、スタートアップのところをどう考えるかは一つの論点。
また、三位一体の労働市場改革が進んでおり、ジョブ型人事についても指針が出る。博士人材の活用は、人事施策の中でどう位置付けていくかも考えていく必要がある。
 

(2)博士人材関連の提言等について

○文部科学省高等教育局高等教育企画課 髙見高等教育政策室長:
文部科学大臣のもと、博士人材活躍プランを3月に取りまとめたところ。概要を説明する。P.3、博士人材は、深い専門知識と、汎用的能力に基づき、社会全体の成長·発展をけん引することができる重要な存在と認識。「博士=研究者」というイメージが一般的であるが、我が国では、「博士の学位が専門分野にとどまらず複雑な課題への解決策を提示できる者に与えられる国際的な能力証明であり、社会の課題発見·解決に挑む際のスタートラインである」という世界的な考え方が、社会、大学及び学生に共有されていない。社会がより高度化かつ複雑化する中、博士人材の増加を図ることが必要。
目指す姿としては、博士人材がアカデミアのみならず多様なフィールドで活躍できる社会の実現がある。博士人材が国際機関、起業家、公的機関等で活躍できる社会の実現を目指す。
解決すべき課題としては、諸外国と比べて人口100万人当たりの博士号取得者数の減少傾向が続いていること、博士後期課程への進学者が減少していることなどが挙げられる。
取組の方針としては、次の4つの柱を立てた。「産業界等と連携し、博士人材の幅広いキャリアパス開拓を推進」、「教育の質保証や国際化の推進などにより大学院教育を充実」、「博士課程学生が安心して研究に打ち込める環境を実現」、「初等中等教育から高等教育段階まで、博士課程進学へのモチベーションを高める取組を切れ目なく実施」。
具体的取組についても記載している。特にp.8には今回の経済産業省と合同で開催する検討会も記載。
指標も掲げている。これらの取組を通じて「2040年における人口100万人当たりの博士号取得者数を世界トップレベルに引き上げる」、2020年度比で約3倍に引き上げることを目指す。
最後に、プランの発表と併せて産業界への協力のお願いもしている。採用拡大·処遇改善や、従業員の博士号取得支援への協力等について、約1,300の経済団体·業界団体の長宛てに文部科学大臣名の通知を発出。文部科学省としては今後、本プランに掲げている内容について必要な制度改正、あるいは予算措置、今回の検討会で御議論いただく手引き、これらを総合的に進めていきたい。
 
○内閣府科学技術·イノベーション推進事務局 白井参事官
大学支援フォーラムPEAKSのアクションプランを説明する。PEAKSは企業約20社、大学約40大学が参加している、産学官の議論の場。PEAKSは個別の企業や大学が具体的にアクションを起こしていくことを重視。大学としては4大学、日本経済団体連合会所属の大企業6企業で議論し、取り組むアクションを決定。これをPEAKS全体、日本全体に広げていく先駆けとしての役割を担っていただく。
p.2に目指す姿を掲載。博士人材がしっかりとしたスキルを身に付け、流動的に動ける社会を作っていきたい。アクションプランについては本体をご覧いただきたい。
企業においては、経営層と現場、人事部門と他の事業部門との間で博士人材の活用を議論、それを人事戦略や採用戦略に反映、場合によっては経営層を含めたポストへの登用を推進する。
ジョブ·ディスクリプションを作成·公表して、博士人材に期待する職務内容やスキルについて大学·学生に情報発信する。
優れた博士人材の給与や昇進スピードなどの処遇を見直す、などのアクションプランを掲げた。
大学では、アカデミックオリエンテッドな3つのポリシーを見直し、産業界とも対話して、産業界に行っても通用するような学位、カリキュラムをつくっていくことを約束いただいた。授業の内容についても専門分野以外の授業を受けたり、プロジェクト型の学習をもっと増やしていく、必修化していく。特に人文社会系では博士号の学位取得に時間がかかっているのが現状だが、人文社会系を含む全ての博士課程プログラムにおいて、最低でも3割の学生が標準修業年限内に学位を取得できるようにする。
ほかに産学協働で対話の場を設ける、より多くの社会人が博士課程で学べるようにし、通年で博士号の授与と博士人材の採用を行う、などのアクションプランを掲げた。
政府における検討課題としては、初等中等教育も含めて博士号につながるよう国全体の教育のグランドデザインがどうあるべきかの検討、外国人で博士号を取得した人材が日本企業で受け入れられるようにするための検討などを挙げた。
詳細は資料4-2を参照いただきたい。
 
○酒向委員:
「博士人材と女性理工系人材の育成·活躍に向けた提言」は、日本経済団体連合会の教育·大学改革推進委員会で、産学の議論を通じて取りまとめた提言である。これまでの説明と重複する部分もあるが、説明する。
資料5-1をご覧いただきたい。p.1、企業はかなり危機感をもって人材の獲得に向き合っている。そうした背景から今回初めて博士人材の提言を取りまとめた。p.2は博士人材の育成·活躍を推進する意義を述べている。資源の乏しい日本は「先端技術立国」、「無形資産立国」を目指すべきであり、高度専門人材の重要性が増している。特に大学院で鍛えられた、高い専門性のほか、高度な総合知や汎用的能力を身につけた人は企業での活躍やスタートアップで活躍できる可能性があることを述べているが、現状、博士人材の活用は低水準にとどまっている。p.3は産学官が連携·協働して取り組む必要があることを述べている。大学においては社会のニーズを見据えた改革、企業においては博士の活躍、採用手法などの整理に、政府では産学が連携して取り組む大学院改革の支援、博士課程学生への経済的支援等に取り組む必要がある。
アンケートに基づく現状把握も実施した。資料5-2にアンケート結果がある。日本企業の概況として、博士号取得者は従業員の1%未満、博士人材が多い業種は医薬品や化学等に限られていることがわかった。博士人材には専門性以外に、課題設定·解決能力、探究力等を期待している。博士人材の採用に際してインターンシップを実施している企業は5割程度、キャリアパスを発信しているとの回答は13%であり、改善の余地がある。5年程度先を見据えて理系博士を増やす意向がある企業は2割弱。従業員に大学院進学や学位の取得を促すため社内制度を設置している企業は3~4割。支援施策として経済的支援や有休による大学院派遣が多いが、時間的な支援は低調である。最も重要なのは時間的支援である。資料5-2のp.40以降、先進事例を記載している。今回御参加いただいている日立製作所様、中外製薬様、島津製作所様などの好事例を掲載している。採用面でも、一緒に共同研究しながら育てる、あるいは修士の段階から支援するなど、様々な形で博士人材を積極的に活用する意欲のある、先進的な企業が頑張っていることを紹介している。
資料5-1のp.5には博士人材の育成·活躍に向けた具体的施策を掲載している。求める人材像の明確化、多様なキャリアパスの提示、企業とアカデミアを行き来する環境整備の推進、インターンシップの充実等などの課題を記載した。文部科学省や内閣府がまとめた内容と合致しており、類似の問題意識を持っていることがわかる。大学·政府への期待も書かせていただいているが、既に大学院教育の改革や博士課程学生への経済的支援、ジョブ型研究インターンシップの推進等、問題意識は共有されており、すでに着手されているという認識を持っている。
日本経済団体連合会では、博士人材の育成·活躍の観点のフォローアップの観点から、今年度も会合を開催していく考えである。
 
○川端委員長:
各省庁、日本経済団体連合会からのご説明で様々な取組に言及されていた。自身がかかわってきたこの15年間、これだけ産官学の関係者が同じ方向を向いているのは初めてである。以前は対立点の方が印象に残っている。それぞれ数値目標やKPIも掲げている。それだけこのテーマが非常に重要だと感じる。
 

3.意見交換

○山田委員:
株式会社アカリクの代表取締役を務めている。当社は創業時から、ポスドク研究者のキャリア支援を実施し、大学院生と企業とのマッチングプラットフォームを運営している。直近では、文部科学省のジョブ型研究インターンシップの事務局も担っている。課題と取組について説明したい。
課題については3点ある。1点目は博士人材に係る共通認識がバラバラであること。「博士=研究人材」というイメージをどうしても持たれてしまっている。2点目は事業と直結していない専門の博士人材の活躍が見えにくいこと。研究テーマ、研究の専門性と業務を直結しないと採用に結びつかないところがあり、ここを改善していきたい。3点目は博士人材の採用意欲がある企業がまだ少ないこと。
アカリクでは博士人材をもっと広く知ってもらうための活動を展開している。企業に対してはPBL形式で博士課程学生に取組んでいただく課題や新規事業立案や経営課題解決等のテーマをいただきその成果を体感してもらう。大学·学生に対しては全国的な採用動向や就活動向の紹介、他の大学の取組事例の紹介、個別の情報交換、セミナーの提供を行っている。弊社は博士卒、元ポスドクの社員が非常に多いので、そうした知見を生かして、彼らの後輩たちにセミナー等を通してキャリア支援、キャリアサポートを提供している。
次に事例を2点紹介する。左はPBL形式のイベント「イノベーションサミット」である。毎回、新規事業や研究開発の事例などについて複数日間にわたりオンラインや対面形式で実施している。実際に目にしてもらうことで博士の実態を企業側に理解いただく。もう1つはこれまでの採用事例を紹介し、企業側に理解いただいたものである。
 
○吉原委員:
北海道大学で博士人材のキャリア支援を担当している。北海道大学と13大学で人材育成コンソーシアムを形成しており共同で博士人材の育成を実施している。このコンソーシアム内でもこの問題は話している。博士人材が企業に求められて、博士人材を育成することで初めて数値目標が達成できると思われ、その点でこの検討会に期待する。
「博士人材」とひとくくりとされるが、その背景にはペルソナとして博士に対する暗黙の共通認識があるのではないか。「日本人、理系、27才前後、3月修了、独身、アカデミアもしくは研究職志向」というようなペルソナが暗黙のうちに想定されている。しかしながら実際の博士人材は、日本人だけでなく外国人留学生も多い。来日前後の言語環境が多様であるため、英語力も多様である。理系だから、文系だからと一括りにできない多様性があり、同じ「理系」「文系」でも専門により環境が大きく異なる。博士の早期修了や秋入学も増えている。パートナーや子供もいるケースもある。社会人経験の有無もある。研究以外を志望する学生も増えている。また、トランスファラブルのスキルも、まず個性や個人の特徴があって、環境がかなり異なる。共同研究がたくさんあってトランスファラブルスキルが自然に身についていく研究室、ひとりでじっくり考える研究室など、多様。早期修了の博士人材は、優秀であるにもかかわらず、画一的な採用スケジュールだと就活スケジュールに載ることができず不利となる。多種多様な博士人材が、各々活躍できるようなキャリアに進むためのマッチングシステムが必要。
課題としては、学生は現在の研究の延長線上の企業や業務を望みがちであること、学生は会社の「イメージ」で選びがちであること、特にコロナ禍以降、就活のオンライン化が進み、著名企業に学生が集中するようになったこと、新規参入分野や異分野融合分野のマッチングが困難であること。これは学生が企業をイメージで選びがちであることの裏返しである。
企業側も、博士が欲しい企業、人手不足ゆえに博士「でも」いいから欲しい企業が混在。研究·開発·ジョブ型·メンバーシップ型などの入社後のキャリアパスが曖昧な場合がある。
博士後期課程の3年間にわたって就活が長期化すること、「第一志望を受けられない問題」、つまり、本当に希望する就職先から内定が出るかがわからないので先に内定を出す二番手·三番手の就職先の内定を承諾してしまうことなどがある。
企業における博士人材マネジメントが重要だと考える。ひとりの博士が全ての能力·スキルをもっているわけではない。高い専門性もダイバーシティのひとつと考えてほしい。文系博士の活躍領域を増やす必要がある。英語採用、留学生採用を拡大してもらいたい。博士採用活動の初期が重要。博士が全部のスキルをもっていると考えて、専門性を評価せずに「博士は使えない」と言われてしまうことも起きている
こうしたミスマッチが発生しなくなるよう、本検討会で作成される手引きに期待している。
大学としても、トランスファラブルスキルの涵養は必要であり、涵養することが必要。多種多様な博士人材に合わせた機会の提供、キャリア支援の提供が必要である。規模の小さい大学では全ての支援ができないため、大学間連携によってキャリア支援の多様化·効率化を図ることが重要。全ての大学が同じ支援をせず、効率化をすることが重要。民間企業、アカデミア、官との連携で博士の活躍を支援する必要がある。
 
○松井委員:
大阪公立大学は統合されてできた大学。自身は府立大学側で、どちらかといえば理工系を中心とした大学15年ほど博士人材の支援をしてきた。15年前はポスドク問題の解決を最重要課題として、文部科学省の助成事業等を受託して取り組んできた。大学としては当時から、博士後期課程に学生が進学しない、このままでは大学の研究活動が成立しないことに危機感をもってきた。博士のキャリアパスをつくっていくことで大学をどう活性化させるかが課題だった。その改善に向けて、民間企業に大学の教育現場に参入してもらう、新しい風を吹かせてもらうことを目指した。トランスファラブルスキルを育成するプログラムを開発し、民間とのマッチング等のイベントを工夫して実施してきた。現在は大学院共通科目としてトランスファラブルスキルが全学の学生にカリキュラムとして提供できるようになり、中長期のインターンシップも単位化が可能となった。経験者も200名近くになった。一方で、川端委員長のいうとおり、新しい時代になったかというと、そうではないという認識。大学の改革は一定成果をあげつつも、学生の博士課程進学に対する意識は大きく変わっていないのが現状。大学の博士人材だけに対策を打っても社会は変わらないため、博士前期課程や学士課程学生に対しても、補助金事業を活用し産学連携教育に取り組んできた。その結果として、学士課程で卒業する学生がスタートアップを目指すなどキャリアの多様化ができてきた。多様なアントレプレナーシップ教育、あるいはスタートアップで博士課程学生が果たすべき役割などをしっかり捉え、海外の大学とも連携しながらキャリアの多様化を進めることが肝要。
博士学生の採用の問題は大きな課題だと考える。最近では、改善されているともいえるが、見方によっては改悪されているとの認識もある。博士人材も新卒一括採用されるようになったが、学部生や修士生と同様に採用するようになってしまったことで、逆に博士人材の活躍の場をせばめている可能性もある。採用を含めた一体的な改革を、経済産業省主導で進めていくことが重要。あわせてスタートアップでどのような人材が活躍するか、キャリア像を提示することも重要。
 
○佐々木委員:
一昨年まで東京の大規模な私立大学に所属。他の委員とは異なり、組織として大学全体、学部から大学院までの採用活動をみてきた。留学生、障害学生、LGBTQ学生等もみてきている。現在は文系修士のキャリア授業や、研究者養成系の大学のキャリアセンターの担当者でつくる勉強会団体の運営など、インターンシップやキャリア教育推進にたずさわっている。
これまで他の委員から多くの意見や問題意識は既にでているが、本検討会では優先順位をつけて深堀していくことが重要ではないかと考える。自分の課題意識は、学生、企業、大学間の意識のずれがある。委員長からの指摘であった、「今がチャンス」というのはまさにその通り。人材確保の観点でいえば、今後、少子化により、優秀な人材であり、かつ若者を採用する機会が今後急速に減少してくる。優秀であることがはっきりしている博士人材を採用しないでいることが不可能となる。
グローバル化の観点からいっても、ジョブ型はすすんできているが、海外は産官学どこでも経営層に博士人材がいるのに日本企業の経営層にだけ博士人材がいないことで、日本が下にみられてしまう。その意味でもグローバル展開をする企業で博士をとらないわけにはいかないだろう。人材の流動化の流れも博士人材を採用しやすくなっている。
学生のマインドセットの問題も大きいのではないか。(アカデミア志向の)学生にトランスファラブルスキルの話をしても、即座に民間就職へと考えはむかないであろう。今後大学の統合等もありアカデミックポジションが減少する中で、違う選択肢の提供ができるよう、社会で制度を作るべき。今の大学の、アカデミック志向の中で、多少トランスファラブルスキルプログラムを入れる程度で企業で活躍できるかというと難しい。大学は、どのように制度を設計するか。思いきって(アカデミアとは異なるキャリアを志向する)既存とは異なる、社会の現場で戦える力をつけてあげるコース等を検討してはどうか。
 
○鷲田委員:
当社のAI事業部門の人事担当をしている。13、4年前に研究チームを作るために、人材採用の一環で様々な大学にご挨拶に伺った。当時はまだほとんど博士人材がおらず、大学からは門前払い、というような印象を受けた。そのため、こうした検討会の場に招へいされたことが感慨深い。
当社は7,000人程度の企業で、そのうち80名程度が博士人材である。1%を超えた。自身は事業部付の人事で、博士人材のうち70名くらいがAI事業部に所属している。新卒の博士人材を採用するというよりも、事業部として博士人材を採用している。こうした検討会の議論を通じて、全社的に博士人材を採用するように動けるとよいと考えている。当社としては、「波が来た」という認識。産官学でより密なコミュニケーションがとれるようになるとよい。
約70名の博士人材の研究員に加え約50名の博士課程のインターン生がいる。インターンから入社のことも多く、採用戦略の肝だと考えている。大学との共同研究も、30研究室と実施しており、そこからも入社いただくケースが増えている。
博士人材が活躍できるようになるためには、まず、手をかけて育成することよりも、環境づくりを意識している。未来ある博士人材が入社した後は、裁量をもって研究や事業ができる、やりたいことにトライできる環境づくりを意識している。
次に、科研費の研究機関にしてもらった。このことで、一人前の研究チームがつくれるようになった。
3点目、博士人材についても、研究者に限定されないキャリアがみえてきた。スタートアップの立ち上げなど、研究者が事業サイドでいかに活躍できるかも重要。
産業界の中で博士人材の活躍促進を実現できるよう、意識していきたい。
 
○奥代理委員:
委員が都合悪く代理出席である。島津製作所として中期計画に人材育成をとりいれている。社内制度で資格取得一時金奨励制度があったが、博士号を取得すると一時金を支給するなどの取組を実施してきた。
現在、博士号取得者が142名おり、そのうち入社後の取得は40名である。REACHプロジェクト、8月20日にプレスリリースしたが、新人事制度の「SPARK」制度などがある。REACHプロジェクトは大学と連携協定を締結し、大学の協働研究所に社員を派遣し、博士号を取得していくというプロジェクト。修士修了者を社員として採用し、博士後期課程で共同研究を行い、博士号を取得する取組を2021年からスタートしたが、現在は7名を共同研究先に派遣、今年は3名派遣した。修士修了者の共同研究は今年度1名、2025年度は3名を計画している。
先日プレスリリースした「SPARK」制度は、2024年度から実施、事業戦略からマッチしたものを共同研究、学費等を補助する。これは大学との包括連携協定とは関係なく、社内の特別なプロジェクトや、その社内のプロジェクトと大学の研究がマッチした場合、審査の上、共同研究を実施し、社員に学位を取得させるもの。
課題として感じているのは、今年度から島津製作所ではマネジメント系列とプロフェッショナル系列の2種類の系列で、ある一定の職群以上にどちらを専攻するか定めてもらうようにしている。博士号の方に関してはプロフェッショナル系列になるが、プロフェッショナル系列が進むキャリアパスなど、まだはっきりと見えていない部分が出てきていることが課題。今後それらを見える化して社員のやる気を引き出したい。
 
○髙田委員:
民間企業として本検討会で貢献できることを最大限尽くしたい。当社は従業員数7000~8000名で、その約15%が博士号、その倍以上が修士号を取得している。イノベーションを連続的に創出するためには高度専門人材の獲得と定着が重要であり、人材が社内で切磋琢磨しながら、相互主体的に取り組むことが新たな医薬品の開発には必要不可欠である。
直近では、特に研究開発を中心に各部門で高度専門人材の獲得を進めているが、インターンシップを通じた採用が大きな割合を占めている。その他、アルムナイ、リファラル、又はグループの採用を実施している。希少な専門性を有する人材を採用したい場合は、特定の学会に出席して採用に繋げる活動を行うなどの地道な活動をしている。
社内での処遇やキャリアパスとしては、高度な専門性の発揮を通じて難易度が高い事業課題の解決に貢献するポジションとそのポジションを経験した後にマネジメントの能力を有している人材を同定してマネジャーとしてのポジションに育成していくケースがある。次回の事例発表では、当社の取組を紹介したい。
 
○酒向委員:
最初の経済産業省のプレゼンの中で、採用意欲のある企業をターゲットにするという話があった。資料2のp.6にあるとおり、採用したくても採用できていない企業をターゲットにするという考えである。我々のアンケート結果からみても、博士人材の採用に関心のある企業向けに取り組むことには意義がある。現実的なところから取り組むべきと考える。
国の施策として「国際競争力の観点から」とあるとおり、GXやDX、半導体、AI、バイオ、量子など、国が注力する分野と今回の議論を整合させた方が、何をしたいのかがはっきりするのではないか。中外製薬のように、人がすべてであり、企業としても危機意識があるから高度人材が必要であるという話の流れが自然である。
また、キャリアパスについては、学生がどう見ているのかが気になる。企業もホームページ等で発信しているのだが、そうした情報発信を学生はどう思っているのか。ホームページより、人事が直接語る方がいいのか。何が響いているのか、何を見ているのか、学生の視点があるとありがたい。また違うアプローチも見えてくるだろう。
 

4.閉会

○川端委員長:
活発なご議論に感謝。皆さんのおっしゃるところをしっかりと検討していきたい。本日のご意見を踏まえ、第二回ではさらに深い議論をしたい。
 
○文部科学省科学技術·学術政策局 先﨑科学技術·学術総括官:
委員の皆様に感謝申し上げる。13年前、リサーチユニバーシティに出向していた頃の議論と比べると隔世の感があることを再認識した。色々な論点が出された。マッチングは予想していた観点だが、非常に重要な点である。情報、認識の非対称性をどうするか。嬉しかったのは、トランスファラブルスキル、汎用性の話が大きく取り上げられたことである。13年前、博士の方と初めて一緒に仕事をした。科学技術を担当するファンディングエージェンシーでも博士の方々と仕事をして、現在、自身が所属する文部科学省科学技術·学術政策局政策課にも博士人材が4名いて、自身は博士人材と話をすることの方が多い。アカデミックな仕事ではないが、事務等の仕事においても博士人材は能力が高いと感じる。こう考えると、研究特化で人材を必要とされる企業、事業特化される企業、それらの横断等の色々な可能性があると思うが、ある程度の採用のハードルを越えたのであれば、裁量を与えれば驚くような高い能力を発揮する人材という意味では、博士人材は、いわゆるビジネスの世界で鍛えられた人材とは異なるアカデミックなユニークさがあるのではないかと思う。学生がどう捉えているかも重要なところ。今後とも勉強させていただきながら、経済産業省とともに検討会を支えたい。
 
○経済産業省大臣官房 今村審議官(イノベーション·環境局担当):
委員の皆様には深く感謝申し上げる。第1回ということで、現場の皆様から生の声をいただいた。まだまだ話足りないこともたくさんあると思うが、第2回以降、随時お話をお伺いしたい。自身は理系で、自分の大学時代のことを思い浮かべると、博士課程進学という選択肢はなかった。どうしてそう思ったのかというと、周りを見ても博士課程に行って就職するという人はおらず、助手や研究者として残られる方が多く、博士課程に進学するということはアカデミアで生きていくルートなのだと思った記憶がある。最近の若い方を見ていると、博士課程に進んでいる方がかなりいらっしゃる。時代が変わり、考え方も変わってきたのだなと思う。
海外にいた時、周りはPh.Dを持つ方が多く、それと比べると日本で博士号を持つ方はもっと増えてよいと思う。そういう中で、この場を設けて議論いただき、手引きを作っていく中で、議論の先にぜひ社会の中に実装して、博士人材として社会に貢献していきたいという方を輩出できるようなものを作っていきたい。委員におかれては現場の考え等、忌憚のない考えをいただき、よいものを作っていきたいのでご協力願いたい。
 
(閉会)
 

お問合せ先

高等教育局高等教育企画課、科学技術・学術政策局人材政策課

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