令和7年3月26日(水曜日)15時00分~17時00分
オンライン
(◎委員長)
◎川端 和重 国立大学法人 新潟大学 理事・副学長
井原 薫 株式会社島津製作所 執行役員 人事部長
酒向 里枝 一般社団法人日本経済団体連合会 教育・自然保護本部長
佐々木ひとみ 学校法人東京家政学院 理事
徳田 昭雄 学校法人立命館 理事・副学長(立命館大学副学長)
山田 諒 株式会社アカリク 代表取締役社長
吉原 拓也 北海道大学 大学院教育推進機構 副機構長
鷲田 学 株式会社サイバーエージェント AI事業本部 人事室長
田中 耕一 株式会社島津製作所 エグゼクティブ・リサーチフェロー
藤田 拓秀 株式会社ビズリーチ 執行役員 新卒事業部 事業部長
藤木 将平 株式会社リクルート HRエージェントDivision ソリューション統括部 HRソリューション部 グループマネージャー
小安 重夫 文部科学大臣科学技術顧問
伊藤 学司 文部科学省 高等教育局長
森友 浩史 文部科学省 大臣官房 審議官(高等教育局担当)
髙見 英樹 文部科学省 高等教育局 高等教育企画課 高等教育政策室長
井上 諭一 文部科学省 科学技術・学術政策局長
先﨑 卓歩 文部科学省 科学技術・学術政策局 科学技術・学術総括官
髙見 暁子 文部科学省 科学技術・学術政策局 人材政策課 人材政策推進室長
白井 俊 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 参事官
大野 英男 経済産業省 特別顧問(科学技術担当)
菊川 人吾 経済産業省 イノベーション・環境局長
今村 亘 経済産業省 大臣官房 審議官(イノベーション・環境局担当)
川上 悟史 経済産業省 イノベーション・環境局 大学連携推進室長
1.開会
○川端委員長:
今回は株式会社リクルートの藤木氏、株式会社ビズリーチの藤田氏より事例提供をいただく。最後に、株式会社島津製作所の田中氏にご講演いただく。
○文部科学省科学技術・学術政策局 井上科学技術・学術政策局長:
川端委員長をはじめ委員の皆様には、本検討会への御貢献をいただき感謝申し上げる。本日は最後の検討会として、ガイドブック、ロールモデル事例集、ファクトブックを取りまとめることができ、大変嬉しく思う。
世界的には高度専門人材の獲得競争が起き、博士人材は引く手あまたの状況である。一方、日本は大学院教育の課題や、博士人材と民間企業のニーズのミスマッチなども指摘され、世界の潮流から取り残された状況にあると認識している。しかし、近年では大学院教育においてトランスファラブルスキルの獲得の取組など、多様な形で取り入れており、大きく進展している。また、民間企業においても博士人材を積極的に活用することを検討する企業も出てきており、博士を巡る日本のエコシステムが大きく転換する兆しを感じている。今回、この検討会の成果であるガイドブック等はその転換を促す、または強力に後押ししていくツールになると考えている。これから経済産業省と一緒に文部科学省もこれを幅広く普及していきたい。
文部科学省は、官公庁の中では博士人材を活用している組織であり、現在、総合職の行政官の採用の約10%が博士人材である。そして技術系のバックグラウンド、理工系のバックグラウンドを持つ人材に限れば、行政官として約30%を博士から採用している。数年前に関係省庁とともに人事院と協議し、2023年から博士号取得者は初任給を上げた。こうした取組を通じて、博士の行政官を増やす努力をしている。
今回の検討会の成果により、民間企業においても博士の活躍が進んでいくことを大いに期待している。
〇経済産業省 菊川イノベーション・環境局長:
私は日々、企業の経営トップと議論させて頂いているが、博士を採用したいという声が多数出てきていると感じている。しかしながら、採用の現場に行くと温度感が異なることもあり、博士人材をどのように活用するのかについて十分検討がなされていない可能性があるのではないかと感じる。このガイドブックを委員の皆さんに活用いただき、インフルエンサーとして影響を及ぼしていただくことを期待したい。
私は年明け、韓国とシンガポールを訪問したが、大学と産業界が一体となって連携している。韓国は企業が、自企業の学科を大学内に設置している。研究の中身によって役割分担もあると思うが、産学一体となって進めていきたい。
井上局長は文部科学省における博士人材の活用事例に言及したが、経済産業省でもイノベーション・環境局に新たに配属された人材は博士人材である。研究開発の政策、また量子コンピューターの政策に従事しており、ロールモデルをつくっていきたい。今年から経済産業省はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、そして産業技術総合研究所と三者一体となり、採用活動を行うという新しい取組を開始している。
2.事務局報告
○経済産業省 イノベーション・環境局 川上大学連携推進室長:
資料1ガイドブックから説明する。前回の会議やその後いただいた意見を参考として、委員長へ御相談し、資料1のとおり取りまとめた。
大きな変更点は3点ある。1つ目、冒頭、「はじめに」として、委員長、経済産業省、文部科学省のメッセージを追加した。2つ目に、9ページ、10ページについて、「大学の手引き」に掲載していた大学のマッチングイベントに係る資料を「企業の手引き」にも追加した。3つ目、37、38ページについて、委員の皆様から多数の御意見を頂戴し、学生へのメッセージを手厚くした。その他、細部の修正、構成順番の変更などを行った。
企業、大学の皆様に御協力いただき、事例も多数取り入れた。ぜひお読みいただきたい。皆様の御尽力のおかげで非常によいガイドブックができたと思っている。改めて感謝申し上げる。
次に資料3について、今回初めて資料として提示するが、ファクトブックを作成した。実際にどこの企業で博士が活躍しているのか、どの程度の数が採用されているか、関係者に対して正しいデータを提供するという形でまとめた。特にご覧いただきたいのは7ページ、各企業の博士人材の採用者数を一覧で掲載したものである。これは東洋経済新報社が発行する「就職四季報」に掲載されているデータを基に経済産業省で編集・作成した。全数のデータではないが、採用を進めている企業があるということを可視化した。
ガイドブックは作って終わりではなく、普及が重要である。経済産業省も、各企業、特に博士を採用したいけれども採用できていない企業を回って、ガイドブックを活用いただけるようにしたいと考えている。その際は委員の皆様の御協力が不可欠となるので、引き続き御相談させていただきたい。
〇文部科学省 科学技術・学術政策局 髙見人材政策推進室長:
文部科学省から資料2「企業で活躍する博士人材ロールモデル事例集」について説明する。これは、10月に開催された第3回検討会において構想を示したものである。その後、ロールモデルを探すための調査を実施し、インタビューを行い、1名につき2ページの分量として本事例集の形で取りまとめた。
事例集の2ページにもある通り、全20社、25名の方にインタビューした。ページの下にあるように、博士人材の活躍5分類として1専門的知見を生かして活躍されている例のみならず、2課題発見・解決能力などの汎用的な能力を生かして研究開発以外の業務で活躍されている例、5人文社会の専門知識を身につけて活躍されている例など、博士人材の多様な活躍ぶりが伝わるような分類をして示している。
また各事例を、例えば博士×「レジリエンスの高さ」のように、ロールモデルの特色を一言で示したキーワードとともに示している。
3ページ目、4ページ目について、ロールモデルの方の人柄や経歴、学生へのメッセージなどとともに、会社情報として博士人材の処遇やアピールポイントについても記載した。
本事例集は、博士学生はもちろんのこと、修士や学部の学生、高校生、あるいは博士人材の採用に関心がある企業の皆様、そして博士学生の就職を支援いただいている大学の皆様にも御覧いただきたい。広く経済団体を通じた企業への周知や大学等への周知を今後しっかりと図ってまいりたい。
本事例集の作成に当っては、43ページに謝辞として多くの企業、経済団体の名前を掲載している。この場をお借りして心より御礼申し上げる。
○川端委員長:
ここに掲載された方以外にも非常に多くの方が候補として挙げられたと聞いている。
この後は、これらの資料を普及していく必要があるが、さらに幾つかの事例紹介をお願いしたい。
3.事例紹介
○藤木 将平 株式会社リクルート HRエージェントDivision ソリューション統括部 HRソリューション部 グループマネージャー:
私からは「博士人材の活躍促進に向けた事例共有」についてお話申し上げる。
大きく3つお話申し上げたい。事例紹介、事例から見えた博士人材採用のポイント、そして取組から得られた示唆についてである。今回紹介する事例は、企業との取組や複数の大学との協働を通じて見えてきた事例の紹介となる。
まずは製造業A社における博士人材の採用決定人数の推移のグラフを示す。昨対比で今年度の決定数が3倍になっており、今年1年間で18名の博士学生を採用している。
採用決定者の内訳について、情報学の専攻が約44%と一番多くなっている。採用理由は大きく3つあり、まず理論化していないものを模索する姿勢、2つ目が課題設定・仮説立て・リーディング能力、つまり研究開発を牽引する能力、3つ目が、共同研究先拡大への期待である。こういった理由で博士の方を採用している。
この事例から見えた博士人材採用のポイントは大きく2つある。まず採用区分について。2つ目は、博士人材向けの職務内容を明確化しているところについてである。
まず採用区分について、博士課程在籍期間の研究実績を職務経験として捉え、新卒採用ではなく中途採用と位置づけた。あくまでもこれは事例から見えたポイントであり、捉え方の一つではあるが、こうした見方ができると考える。
2つ目は、任せる業務内容を明確化するということについて。例えば、バッテリーの研究業務がある。この業務を分解していくと細かい業務に分かれる。その上で、この業務に関しては博士人材と相性がいいのではないかということで、しっかりとジョブを分解して職務内容を抽出し、求人化を行っていく。9ページの例でいうと、右側2つの業務が理論的にまとめ上げる能力や新たな着眼点からの研究力が求められるという点から、博士人材が即戦力として活躍できるジョブとして成立するのではないか。
これらの取組から得られた示唆について。博士人材の博士課程での経験を職務経験とみなし、採用区分は時期・配属を踏まえて解像度が高く、相互理解が成立する中途採用が望ましいのではないか。新卒採用で、博士向けの待遇を別途設けている場合はその限りではないが、そういったケースが多いとも限らないため、中途採用としての処遇が適切ではないか。2つ目は、博士人材向けの職務内容を研究領域の業務において明確化・求人化することによって、民間企業・博士人材双方にWin-Winのマッチングを行うことが可能ではないか。
○藤田 拓秀 株式会社ビズリーチ 執行役員 新卒事業部 事業部長:
この検討会の議事は毎回勉強させていただき、第1回で川端委員長、菊川局長が言っていた、博士人材の活躍を促進するラスト・ワンマイルを考えたいという言葉とその背景に共感し、我々なりにできることは何かということで、本日の話題を提供したい。
ビズリーチキャンパスについて。「社会の力を集約し、期待と覚悟をもってキャリアを選択し続けられる文化を創る」というミッションの下、活動している。学生のキャリア選択に当たって必要な情報を提供しているが、特徴的なのはOB/OG訪問のネットワークを築いているところである。現在、29万を超える学生に登録いただいており、学生のキャリア相談に乗る形で協力いただいているOB/OGが1万1,000名程度登録している。特徴的なのはOB/OGを探す、OB/OGに訪問依頼する、そして面談するところまでオンラインで完結するところである。2つ目に、安心・安全に学生さんに使ってもらうための施策に注力している。3つ目は、学年を問わず、通年で利用できるところがサービスの特徴となっている。
このサービスは9年前に発足したが、きっかけとなったのが、当時、ビズリーチに登録いただいている即戦力の方々に、就職活動時のキャリアの方向性を決めるに当たっての有効な情報源についてアンケートを取ったところ、OB/OG訪問が有効だったという回答を得られたこと、同時にその方々から、後輩からのキャリア相談であれば協力するというお声をいただいたところからサービスを開始した。
こうしたサービスを運営する中で、学生、大学、企業から意見をいただいている。本日は博士人材にフォーカスして話題を共有したい。
学生が民間のキャリアを築くという文脈では、博士課程への進学をしても求人が見当たらず、進学してもロールモデルが不足している。現在、現役の博士の方々の情報を取得しようとしても、本人が大学での活躍を志向していることから、なかなか民間で活躍するという文脈での情報が得にくい構造になっている。
続いて、大学からも声があるが、博士課程に進むという観点での情報の提供が難しく、情報の一つとしてロールモデルの収集やデータベース構築が難しい、そしてそれを支援する体制がつくれないという相談をいただいている。
我々に相談いただく企業は、既に博士課程学生の採用に取り組んでいる企業が多い。課題として、そもそも博士課程学生に会えない、専門性が高いと同時に個別性が高いため新卒採用のようなマス向けのフォロー施策が寄与しにくい、相互理解に貢献しにくいという構図になっている、体制構築が難しいという課題がある。
この課題に対して我々としてどのような貢献ができるかを検討し、短期的・中期的な支援という観点からまとめた。現時点で博士課程に進学している学生に対して、既に社会で活躍されている博士課程のロールモデルを提示することが学生への短期的な支援の一つとなりうる。大学としても、一大学で用意できるロールモデルには限りがあるという意味においては、大学同士で連携できる仕組みをつくることができる。企業も採用にかける体制構築にはリソースの課題があると聞いているので、ロールモデルとなる社員の可視化や、継続、更新を構築していくのが短期的な支援の方向性だと理解している。
一方で、現在博士課程にいる学生は、基本的にアカデミアでのキャリアを検討しているので、大学1年生や修士に進学するタイミングでも、キャリアという文脈では、博士課程に進んでから民間のキャリアも同様に検討できるような体制をつくっていくことが重要。大学、企業は、短期的な視点で共有したものの延長線上の取組であると捉えていただきたい。
今説明した観点から、ビズリーチで貢献できるところはどこかを考えて提案をお持ちしたが、既に本検討会で議論されていることかと考える。企業、大学と連携し、学生のロールモデルとなる博士号取得者と接点を持つ機会を継続的に創出していく。これによって、博士課程の進学者と博士課程を修了し民間に就職する人たちの数を同時に増やしていくという世界を一緒に目指したい。
学士から修士の方に関しては、博士課程を修了した後のキャリアもあるという全体像を、ロールモデルを通じて提供していきたい。そして更新性や拡大性がポイントだと考えている。
続いて博士課程に進学した方について。この方々にとっては、中途採用に近いが、解像度の高い情報を提供していくことと、この方々が実際に社会に出たときに、自身が学生の支援に回るという形の仕組みをつくれたらどうかと考えている。今回のロールモデル事例集はこの着想に似ており、この動きを促進するという意味においても、この仕組みを使って拡大していく、更新していく力になれたらと考えている。
4.意見交換
○井原委員:
当社は、新卒採用における博士課程修了者の割合が多いわけではないが、入社後も専門人材を育成するというスタンスをとっており、その中で多様な取組をしている。本検討会ではそうした取組を発表させていただいたが、それらの取組や姿勢を評価いただいたように思う。この検討会を通じて大学や他の企業の取組も知ることができて、とても学びの多い検討会となった。
御発表いただいたビズリーチがおっしゃられた、資料19ページ、学士、修士、そこから博士、社会人に対してもう少し解像度を高めるための接点を増やしたい、というところはまさにそのとおりだと共感。博士として現在の研究分野にこだわって社会人になるのも重要な選択肢ではあるが、そうではない異分野での活躍もあるのではないか。当社は、総合職の新卒採用の中に博士人材がいる会社なので、異分野での活躍をしている事例も多数あるということをここで付言させていただきたい。
○酒向委員:
非常に学びの多い検討会であった。大学のさまざまな取組も知ることができた。ガイドブックに経団連の提言を一部引用いただいたことにも感謝申し上げる。これから我々の委員会の中で、このガイドブックの周知に協力したい。
リクルートとビズリーチの御発表は大変興味深くうかがった。ポイントを突いて活動をされておられると感じた。
ビズリーチに質問したいが、企業が公認した社員に登録いただけるように、企業にも営業活動をされていると理解した。我々の問題意識として、博士課程の学生を採用することに既に前向きな企業とそうではない企業がいるが、企業に営業活動されるときに、そういった意識の違いを感じることがあるかどうか質問したい。今何社ぐらいの企業が登録しているのか。利用企業の数が1.5倍になっていると伺ったが、博士採用に対する企業の温度感の違いについて現場の感触をお聞かせいただきたい。
また、「ビズリーチ・キャンパス」について、例えば文部科学省が進めている「未来の博士フェス」や大学のコンソーシアムが提供している企業と学生の出会いの場との差別化を図っているのはどのような点か。気軽にOB/OGに会えるという点だろうか。強みとしてどのようなものを感じているか、教えていただきたい。
〇藤田 拓秀 株式会社ビズリーチ 執行役員 新卒事業部 事業部長:
前提として、OB/OGとして学生のキャリア相談に乗る方には2つ経路がある。一つは、企業経由で掲載される方々、もう一つはボランティア、有志の方々が個人としてビズリーチキャンパスにOB/OGとして登録するという経路である。これが前提となるサービスの仕様となる。
他の取組との強みや差別化について、学生からすると自分のタイミングでアクセスできる、かつ自分のタイミングで相談の依頼ができるという点にある。また、OB/OGの方々が毎年蓄積されている構造になっているので更新性があり、こういったデータベースを構築しているということが強み、特徴的な部分かと考える。
(企業経由の場合)御相談をいただくケースは前向きな企業からご連絡いただくが、そうではない企業にアプローチする場合には、まだそれほどよい反応が返ってくるわけではない。新卒採用の文脈の中に入ってくれば選考するという反応の企業が多いというのが正直な感触である。
〇川端委員長:
リクルートでは、博士人材に関する企業の反応をどう見ているか。
〇藤木 将平 株式会社リクルート HRエージェントDivision ソリューション統括部 HRソリューション部 グループマネージャー:
反応は、あまり認知をしていないことが多いという印象である。博士人材について知ってはいるが、あまり認知はしていなかったという反応が多い。そのため、博士人材の特徴やスキルを説明すると、博士人材に対する考えが大きく変わる企業も一定数は存在しているという感覚である。
〇佐々木委員:
2社の意見をうかがって、博士のキャリアや就職を考えたときに専門性が高まるほど個別対応にならざるをえない点をどうクリアするかが一番の課題ではないかと感じた。現時点では、博士人材が自律的にキャリアを模索することが難しい。ここが民間企業への就職が広まらない要因のひとつなのだろうと理解した。マスで対応し切れない博士人材の個別性という課題について、リクルートでは企業側の業務プロセスを分解することによって、博士人材の仲介システムの構築が可能と見込んでおられ、ビズリーチでは、人と会い、モデルを見つける就活方法が博士人材にも有効とお考えと理解した。どちらにしても博士の専門性と個別性を生かさなければ博士人材の民間企業就職を広めることも難しく、また、学生あるいは企業側が自覚的にそれを理解し、個別性が高くても活用していけるようになる、そこが次のステップではないかと感じた。
〇徳田委員:
本検討会では大変刺激的な議論が展開された。研究担当副総長として本学における博士人材育成の新SPRING事業の統括をしているが、現在、T型博士インパクトメーカーを育てるという観点で、ありたい姿を実現するために異分野の研究者と総合知を生かしながら実践値を蓄積していただくというプログラムを運営している。今年、西日本で最大規模となる130名の博士号取得者を輩出したところである。本学はそのうち7割が人文社会科学系ということで、今回、ロールモデル事例集に人文社会科学系の研究者も入れていただいたことに感謝申し上げたいが、やはりメインは自然科学系の博士人材であったと思う。本学の130人のうち40名が自然科学系で、そのうち半分、20名程度が民間企業へ就職した。ただ、この20名がどういった形で民間企業に就職できたのかというと、非常に泥臭い就活をしたということである。学部・修士のリクルート活動に博士であることを隠しながら入っていくケースもあり、ガイドブック、ロールモデル事例集、ファクトブック等、こういった一式を活用して我々が企業を開拓しながら、今つらい思いをしている、民間企業に就職する際に苦労されている学生、あるいは、本当は民間企業に就職したかったがまだできていない学生が、この3点セットで報われるような形でしっかり活用していきたい。
今日お話しいただいた、博士課程在籍期間の研究実績を職務経験と捉えることで中途採用に位置づける、これは非常に面白い発想だと思った。そうであるならば、博士課程の学生の持っているスキルを可視化していくことによって、就職ではなくともクロスアポイントや業務委託的に共同研究を行うなど、就職させるリスクを負わずに院生の能力、ケイパビリティをモジュール化して活用していく、そういった活用の仕方もあるのではないかと感じた。
なぜそう思うかというと、この検討会では、トランスファラブルスキルが出てきた。これは専門知と対立するものではない、双方的なスキルであると言われているが、そうしたスキルをイギリスの事例のようにしっかり見える化し、マーケットに出していくことで、博士人材の持つケイパビリティを社会で活用し、政府と企業と大学がそれぞれ満足できる形で最適な活用を生み出していく方向になっていくのではないかと感じた。
〇山田委員:
アカリクは創業から一貫して博士のキャリア支援・採用支援を行っている会社である。博士の情報提供や博士支援はずっと取り組んでいるが、産学官の連携という形で今回まで皆様と議論を重ねてきて、我々も情報提供する中で多角的に、かつ、より強固な情報提供ができるようになった。
自社の採用でも同様だが、博士採用において、なぜ求められているのかというところの言語化が重要。求人内容や職務経歴の詳細を求人票に落とし込むことが重要だと改めて感じている。アカリクでも、博士の経験は自社のこういう業務でこのように生きている、このように活躍している、と詳細に書けば書くほどエントリー率が高まり、マッチングの精度も向上する。各社取り組むべきだと考えている。
1点質問したい。製造業のA社が昨年対比で3倍になったとのこと。この背景についてより詳細にうかがいたい。例えば我々の支援ケースでは、役員の方やCTO、技術責任者の方が博士出身の方に切り替わり、トップダウンで博士を採ろうと方針が変わったケースがある。博士で22年度、23年度に入った入社組の活躍が著しく、より採用しようという判断になったのか、その背景をうかがいたい。専攻の領域において情報系が最も多かったということで、AIや機械学習、そういった領域が求められているのかと推測したが、採用理由では特に言及されていなかった。情報系が多かったのは偶然だったのか、情報系のこのような専門性やスキルが企業に響いた、といった意見があればうかがいたい。
〇藤木 将平 株式会社リクルート HRエージェントDivision ソリューション統括部 HRソリューション部 グループマネージャー:
採用実績が非常に伸びたのは大きく2つの理由がある。技術系管理職の方々の、博士に対する評価が高まり、積極的に採用活動を展開していった。もう一つは、各大学を技術系の部門の方々と回って、セミナー等々をさせていただいた。その中でエンジニアと博士学生のマッチングの場、出会いの場を意図的に設けて、そこで交流が生まれたことが決定数増加の大きな要因と捉えている。
情報系が多かった背景は、博士の方々は基本的に研究系職種での採用を行っているが、研究系職種の中の大半が情報系のスキルを求めていたことが、情報系が多い要因だと捉えている。
〇吉原委員:
今回、博士に関するガイドブックということで、企業、大学、博士の方々に最新の情報を届けて、参考にしてもらうという非常にすばらしいものができたと思う。感想として、ここからさらに進まなければならないと強く感じた。そのヒントが先ほどの2つの講演にあると思っている。先ほど佐々木委員も指摘していたが、専門性と個別性について、今では、文系、理系、人文社会系という話があり、すぐ個別、個人にいってしまう。おそらくその中間段階の分類があり、先ほどリクルートが説明してくださった、「こういうものに当てはまる」というものが整理可能なのではないか。
ビズリーチキャンパスについて、OB/OGとつなぐという意味では非常に役に立つのだろうと思うが、JGRADという追跡する仕組みがあり、使用する側から見た場合、両方登録しなければならない。さらによい連携方策があるのではないか。そういった活動が進むと、数年後にまたガイドブックを作らなければいけないのではないかと感じた。
先ほどの2社の説明について、例えば博士の採用のスケジュールをまとめていただいたが、もっと研究して、伸び伸びやってもらって社会に出ていただきたい。現状のスケジュールが大きく変わるような活動が、このガイドブックを契機として起こればいいと感じた。
〇鷲田委員:
リクルートが、中途採用のスコープで採用している企業を支援されているということだが、当社も同様である。新卒採用の枠組みで採用すると、どうしても新卒の枠組みを想起させてしまい、自由度と裁量を伝え切れないところがある。そのため、独自に切り出して中途採用という枠組みで採用している。そのおかげで、少しずつ採用実績が厚みを増してきた。
先ほど徳田委員がコメントされていたが、当社が博士課程の在学時にアプローチしていたが、当社には就職しなかった方々が、アカデミアに残った上で、クロスアポイントメントや業務委託という形で一緒に研究しているケースも実績として増えつつある。博士とのつながりという意味ではステップアップできてきていると感じている。新興企業の当社がこういった状況なので、少しずつそういった会社も増えているのではないか。
一方で、ビズリーチの話題提供の中であったように、当社も研究所をつくると決めてから初めて博士と向き合う状況になってきたが、近くの企業の人事や責任者と話すと「博士=高度専門人材」だと捉えている。それは間違っていないが、そこでハードルを感じさせてしまっている。当社も研究者として採用することが多いが、ステップアップしてデータサイエンティストやプロダクトマネージャー、オーナーという形で活躍している人を認知させていくことで、少しでも博士にとっての可能性を伝えていければと考えている。
つい最近、長崎であった言語処理学会に行った際も、博士の方々と接点を持つと、研究者としての就職を考えている方がほぼ10割だった。当社としては博士人材のデータサイエンティストや事業を担っていくような人を探したいと思っていても、まだまだ幅広いロールを提示できていないのかなと力不足を痛感した。時間はかかるのかもしれないが、今回のような取組をきっかけに辛抱強く浸透させていきたい。
〇小安文部科学大臣科学技術顧問:
博士人材の活用に関して、非常に長期間関心を持ってきた。今回の取組は非常に素晴らしいと感じたが、現場の博士課程の学生に届いていない。博士課程に行く前からというお話が先ほどあったが、学部から修士辺りに、博士まで行って専門性を高める、あるいは課題解決能力を高めることによって、先にはこれだけ広い世界が広がっているということをどのように届けるかがとても重要ではないかと考える。
先ほど中途採用でというお話があったが、それは非常に理にかなっている。しかも博士課程の学生というのは必ずしも3月に修了するとは限らない。きちんと論文が仕上がった時点で学位を取得し、中途採用で企業に行ける、そういったことが普通に行われるようになると安心して研究にも打ち込み、さらにその先、また別の世界で活躍したいという意欲が湧いてくるのではないか。引き続きその辺りを産学官の間で議論を進めていただきたい。
〇経済産業省 大野特別顧問(科学技術担当):
私自身、国立大学協会の副会長として参画した就職問題懇談会や大学での議論などから3点ほど述べたい。
1点目は、博士人材は既に高い評価を得ているということである。学部や修士と比較して、給与水準あるいは生涯賃金の推計が既に高くなっている。これをぜひ可視化していただきたい。これは内閣府や独立行政法人経済産業研究所のレポートですでに述べられている。
2点目は、企業のトップと人事部の間の乖離である。これを埋めていっていただきたい。
3点目は、教員の意識改革という視点である。博士は研究室で過ごす時間が長いので、教員がつくる文化の中で過ごしている。教員には民間への視点を持ってもらい、学生の選択肢に入れていくことがある姿だと考える。
日本企業の競争力を上げるためには、既に評価の高い人材のコホート、この場合には博士人材だが、そこからさらに人を獲得することが必要。そのようなスキルを採用側が持つことが求められている。もちろん大学がやることもたくさんある。一括採用の枠からいかに出るかが喫緊の課題であり、これはジョブ型人事への移行に伴う課題でもある。
5.委員長挨拶
〇川端委員長:
最初にお話ししたように、博士が社会で活躍するということは15年前に大学院重点化などの辺りから始まった話で、その頃には「絶対零度」と言われるぐらい、企業も大学も博士も動かなかった。そこから15年たって、飛躍的に、企業も、大学も、学生も、国も変化した。企業では博士を積極的に採用したい、大学ではカリキュラム自体を根本的に変えなければならないし意識を変えなければならない、国でもSPRING事業も含めて生活費を支援している。学生も、大半は非常に明るくリーダーシップ型の人間に変わってきている。そういった大きな飛躍が、今回様々な方の話を通しても分かってきた。
その上で、それにもかかわらず、企業での就職者数が飛躍的に伸びてこない。ここを変えるのがラスト・ワンマイルだと考え、次の一手は何かということで、人材像について検討するのではなく、皆がすぐに取り組めるガイドブックという形で、どこからでも始められるものを作ろうと考えた。ガイドブックを作っていることを様々な会議で話すと、大学や企業からのニーズが高かった。
この検討会において、企業への就職という話をさせていただいたが、博士の活躍は企業だけではなく社会のいろいろな分野で、特に人文社会系の博士を考えれば、国際機関やNPO、自治体など、多様な場所での活躍があるはずである。最初の一手を見るために企業というものにターゲットを徹底的に絞って、理系博士からかもしれないが、次の一手をはっきりさせようということで検討会を実施した。ここから一歩でも二歩でも進めば、人文社会系や多様なロールモデルに発展していくと期待している。
委員の皆様におかれては、本質的な議論をいただいた。経済産業省、文部科学省の担当者には汗を流して走り回っていただいた。それがいいものにつながってきたのではないか。関係者の方々に御礼申し上げる。
6.ご発表
〇川端委員長:
検討会の議論としてはここまでとし、本日は株式会社島津製作所から田中耕一エグゼクティブ・リサーチフェローに御参加いただいている。本日は田中フェローより、学生に伝えたいことについて御発表いただき、その後、意見交換をしたい。
〇田中 耕一 株式会社島津製作所 エグゼクティブ・リサーチフェロー:
今回は貴重な時間をいただき、本日は私自身が学ばせていただいた。現在の部下とどう付き合えば良いか、あるいは、これからの部下がどうなるかについて、こうしたガイドブックがあると非常にありがたい。
大学で博士の道を歩み、かつ、企業で活躍、についてお伝えしたい。
今日お伝えしたいことを3つにまとめた。1つ目は、大学までの知識・経験が企業の中で、別分野の研究開発にも貢献したということ。2つ目は、質量分析は異分野融合の場であること。さらに3つ目は、「イノベーション」とは「新たに結合する」ということ。
私が関わっていた開発プロジェクトは、2ページに模式図として表したが、様々な技術を持ち寄らないと完成しなかった。今日は、ノーベル賞を受賞した研究を紹介したい。それ以外の話も非常に重要であるので、資料にURL掲載しているところから参考にしていただきたい。質量分析については簡潔な説明も記載した。
3ページについて。記載した1から4まで、様々な分野の人間が集まらないと、この開発はできなかった。固体のものを気化させイオンを作る過程で、まず気相に脱離させなければならない。仮にABというものを壊さずに気化する場合、AとBに分解する場合を考え、自然対数に直すと直線で表されるようになり、図に表すと4ページのようになる。分解反応が多少勝っていたとしても、傾きがマイナスであるため、高温では気化のほうが勝ることがあり得ると予測ができる。
次に、固体のものをガス化するために、急速かつ高温に加熱できる金属超微粉末を使った。粉末冶金という物理の専門のはずのものを、化学に利用した。当時、日本でしか作れなかったために、Japanese Powderと言われていた、そういった日本の優れた技術を別分野に展開することができた。金属のかたまりにレーザーの光を当てたとしても、吸収されにくい。吸収されたとしても、すぐに分散してしまい、高熱になりにくい。それに対して金属超微粉末を使うと、何とかイオンを検出できるようになった。
ただ、たんぱく質までは残念ながら検出できなかった。そこからが私の失敗が生きたという話になる。7ページは当時の写真である。たんぱく質が測定できるようになったが、コバルト微粉末にグリセリンを加えている。なぜかというと、私がボトルの中にいろいろと候補のものを入れているうちに、金属超微粉末の入った懸濁液を作ろうとして、間違ってグリセリンを溶かしているアセトン溶液と混ぜてしまった。失敗したと思ったけれども、これも使ってみた。
発明につながる仮説について。私は大学でアンテナ工学を研究していた。9ページ、テレビの電波が高層ビルの表面に届いて跳ね返る電波と、金属の棒に一旦入って、それから跳ね返ってくる電波が合わさり、山と谷、谷と山が相互に打ち消し合う研究をしていた。イヤホンのノイズキャンセリングを想起いただきたい。私が企業で扱ったのは、レーザーという電磁波である。金属の粉末で、電磁波を吸収する。
左側は電気であり、右側は化学である。このようにモデル化すると共通性が見えてくる。間違って混ぜてしまったときに、これでもうまくいくのではないかと思った裏には、もしかすると頭の中に、卒業論文のときの経験を活かせたのではないか。これをさらに俗っぽく、模式図に置き換えるとわかりやすい。科学の簡略化した模式図は、発想がほかの分野の方々にも伝わりやすい、そういうメリットがある。日本文化にはそうした図、漫画で表現する文化がある。発想は自由に思いついてよく、それを世界に伝えるようにしてゆけばいいのではないか。
質量分析が実際にどう使われているかを示したのが11ページである。本当に幅広い分野で使われている。人間の体に限らず様々なものは分子や元素でできている。それを全て網羅的に測る、そのときの単位は物理量、重さで、それができる方法が質量分析である。
最後に、質量分析にどういう学術が関わっているか。最近では医学・薬学で質量分析が使われている。イオンを作り、検出することは、物理あるいは化学が関係している。数学ももちろん数式を解くために関係している。さらに、装置自身は電気回路がたくさん使われており、機械部品もある。
質量分析はもともと元素の同位体を見分けることに使われたが、様々な分野における測定へのニーズをもとに、質量分析は学術によって育てられ、逆に質量分析がなければ新たな学術、研究開発は行われなかったと言える。そういったところで博士人材が深掘りし、知恵を授受することによって、新たな分野が開けるのではないか。よく海外で受けた質問は、「電気工学の出身で、化学の発明なんてできるはずがない」ということだった。質量分析に限らないが、現場というのは最初に学術がなければならないということではなく、新たに必要になってくる、そういう交流の場であることを考えると、製造業に限らず、今の日本の現場というのは様々な展開ができるだろうと思う。
経済学者のシュンペーターによって最初に定義されたイノベーションとは、新しく結合する、今までになかった分野に展開する、それによって0から1や100を生み出すだけでなく、1を別分野に展開し、その1を100にすることであると。そう考えると、私だけでなく、博士課程学生も含めて、やれること、自分が活躍できそうなところはたくさんあるのではないか。
7.意見交換
〇徳田委員:
2つ質問させていただきたい。一つは、応用化学と純粋化学に分けた場合に、現場という言葉を強調されたが、ある分野の応用化学が他の分野の応用化学と掛け算する、協働することによって、双方の共通点が見いだされたことにより上位互換され、それが純粋化学としての発見なりサイエンス的な発見としてノーベル賞として認められたと理解してよいか。そうであれば、現場を重視する日本のものづくりをベースとしたサイエンスで今後の方向性が見いだされるという希望を持つことができるのかどうか。
もう一つは、日本的なもの、特殊性や個別性をユニバーサルに欧米に伝えていく上で、モデリングが非常に重要で、そのモデリング言語はほぼ欧米のモデリングの手法になっている。自分が専門としている車載組み込みシステムのソフトウェアはそうである。そういったところに対して、モデリング手法の一つとして漫画というものがある。そういった意味で、日本の個別性を伝えるためのツールとしての漫画や伝えやすいツールが、今後、日本の個別性のユニバーサリティを広めていく上で非常に重要と考えられているのか。
〇田中 耕一 株式会社島津製作所 エグゼクティブ・リサーチフェロー:
モデリングの話をもっと俗っぽく表したのが私の例かと理解している。モデリングは海外の人にも伝わりやすい、それを日本だったら漫画文化を使ってあまり壁を感じることなく表せると思う。
日本の文化は今までエキゾチックと考えられていたが、ネット社会になり、例えば日本の1980年代の音楽が世界的に受け入れられている。今まで全部を表すことがサイエンスであり、そうでなければならなかったものが、ある部分だけ、例えば和歌も例に挙げられているが、余白をうまく取り込み、自分で想像するがために、逆に国や文化の枠を超えて受け入れられる。
私のプレゼンは、ヨーロッパでは全く受け入れてもらえない。それは文字のフォントサイズを、漢字は大きめに、平仮名は小さめにし、時には文字の色をも変えている。英語ではこうした表現はできない。そこに文化の違いがある。それを楽しいと思う人が海外にいてもよいし、海外の人が日本のおきて破りに馴染めるようになる可能性もある。
発想の道をつくるために、例えば漫画が参考になるのであれば、海外の人たちにも受け入れられる。漫画、アニメはどちらかというと文系に分類されるが、そういう才能がサイエンスにも関わっているのではないか。私たちも民間企業として博士号の人が欲しいが、企業の中で面白いことができたが、やはり自分は基礎研究がしたいので大学に戻るなど、様々なキャリアパスがあることを博士学生に紹介することがよいのではないか。
〇吉原委員:
イノベーションを生むときに異分野融合がとても大事というお話だが、各企業や研究所では、異分野の人が会うように廊下を工夫して、自分のセクションにこだわらずに、歩いているだけですれ違う場所をつくるなどの工夫がなされているが、そこが誰もいない場所になってしまうなど、うまくいかないことがよくあると思う。異分野融合が起こるようないい場所、コラボレーションを生む要素はどのようなものか。
〇田中 耕一 株式会社島津製作所 エグゼクティブ・リサーチフェロー:
今回、質量分析の場を紹介したが、あの装置はたんぱく質を代表とする大きな分子を壊さずにイオン化するだけでなく、それをきちんと分けて、それを電気信号に変えて、高速に到達する信号をきちんと処理しようという目的がしっかりとあった。そのために、多様な専門人材が集まった。
もちろん廊下ですれ違って、自分でさえ気づかないうちにほかの人のアイデアを取り入れることができたということはあると思うし、そのために会社でもいろいろ工夫はしていると思うが、その効果があったのかと振り返ること、評価することは難しい。目的があれば、その結果を出すためにどういう人が必要かもある程度分かるし、その目的のために集まっているところの横を通って、新たに加わることもできると思う。そういう方法がわかりやすいのではないか。
〇川端委員長:
物理、電気、化学、電子、機械の専門人材が集められた経緯は何だったのか。
〇田中 耕一 株式会社島津製作所 エグゼクティブ・リサーチフェロー:
1983年に入社した段階では、質量分析で表面分析、ある部分に局所的に集まっているものを測定するときに、高分子ではなくせいぜい元素程度のものをみる方法が中心だった。それをやっていたがうまくいかなかったために、それ以外に何か別の方法がないか探索した。イオン化の方法も、質量分離の部分も、今まで島津製作所が手がけていなかったものであり、実際に当時作られて販売されている製品とは違うものを、質量分析のノウハウなどを生かして開発しようとした。全く脈絡なく現れたわけではなく、小さい分子、元素を測るものを基に何か新しいところに挑戦しようという下地があった。
〇川端委員長:
それを企画された人や、それをデザインされた方はどんな方か。
〇田中 耕一 株式会社島津製作所 エグゼクティブ・リサーチフェロー:
当時、日本の製造業企業は、中央研究所をつくって、今の製品とは関係がないけれども何か挑戦しよう、10年先に製品になればいいと挑戦していた。自分自身ももともと目指していた半導体を作ることに再挑戦しようとしているが、自分のアイデアを話しても受け入れてもらえるのではないかと感じている。
〇川端委員長:
私自身も、企業の中央研究所の立ち上げで就職したという経緯があり、企業がみんな新しいことにチャレンジするという機運があった。
〇経済産業省 菊川イノベーション・環境局長:
かつて企業は中央研究所を国内につくって、国内で研究開発活動を行っていたが、企業の活動は非常にグローバル化されて、人材獲得も研究開発もグローバルに展開されている。他方、私は日本政府の一員なので、できるだけ日本の中でやってほしいという思いもある。日本がそうした拠点としてもっている強みは何か。
〇田中 耕一 株式会社島津製作所 エグゼクティブ・リサーチフェロー:
答えが難しいが、例えば当社はイギリスに研究所があり、私もそこに行き、そこにいたからできたこともある。日本ではやれないことをイギリスで開発して、また日本でも売れるようなものを作った。実際に現地では日本人が中心になっていた。日本というベースにとらわれず、逆に日本人が海外に行ったら活躍できる部分もある。例えば中国でも研究所があって、中国は中国でまたその市場に合った研究開発をし、実際に製品化することもあり、日本のやり方をある程度参考にしてやっている。
日本で日本人がやるということにこだわらなければ、ぜひとも日本に行きたいという海外の人にも来てもらうというように発想を転換すればよいのではないか。逆に日本企業が海外の研究所に関わっていることで、触発されて、日本でもやれるのではないかと発展するという相乗効果もあるのではないか。
〇経済産業省 大野特別顧問(科学技術担当):
専門知を深く突き詰めると、基礎・応用にかかわらず、社会に大きく広がる成果につながる一例を示していただいた。その専門知は、ここでいうと博士が身につけるべきものではあるが、それから先は専門知だけでは足りず、未来を見る視座、あるいは未来から見る視座が価値を持ってくると感じた。漫画やアニメというのは自由な視野を与えてくれる、我々が未来を見る方法論の一つ、文化の一つだと改めて認識した。
〇田中 耕一 株式会社島津製作所 エグゼクティブ・リサーチフェロー:
参考資料の1/8ページ、東北大学“広報誌”「まなびの杜」で、東北大学での経験を述べている。大学で学んだことがどう生きるかということのあくまで一例だが、わかりやすいかと思う。
〇小安文部科学大臣科学技術顧問:
広い視野を持つ、異分野の仲間と交流して、それを取り入れていくことが非常に重要だと感じた。その際、大学の教育の中で教育力というものが実は非常に大事ではないか。専門性といってそちらにばかりいくのではなく、広い視野を若いうちに学生としてどのように身につけるかが大事ではないか。その点についてもコメントをいただきたい。
〇田中 耕一 株式会社島津製作所 エグゼクティブ・リサーチフェロー:
50代以上の人が特に気をつけなければならないことだが、いかに若手の発展性を見抜けるか。例えば学会の場がよいリクルートの場になる。そこでは口頭発表よりポスター発表の方がよい。ポスター発表の場にやってきた異分野の人に、若手の人がうまくプレゼンできるか、説明できるか。そうした交流の場が重要。クロスアポイントメントをしようとすると、企業としてはコストがかかる。そんなにお金をかけなくても、学会では専門的なことを話すだけではなく、実際にはいろいろな人が来場しているので、異分野の人に分かりやすく話すスキルをつけられるようになると、異分野融合が起きる発端になるのではないか。
〇川端委員長:
そのとおりかと感じる。交流自体も、時間を刻まれた交流ではなく、ゆとりが必要。
8.閉会挨拶
〇経済産業省 菊川イノベーション・環境局長:
御議論に感謝申し上げたい。
短く3点申し上げたい。1つ目、政策のKPIをどのように設定するか。文部科学省とも議論したい。先ほど吉原委員からもあったが、数年後にガイドブックを改訂する際の指標が必要ではないか。
2点目、経済産業省のプログラムで、アントレプレナー、起業家を海外に送るプログラムをやっているが、高校生段階から行かせなければ駄目だとシンガポールで言われた。我々はどうしても大学ばかり考えるが、もう少し前の段階から全体のアカデミックな進路も含めたキャリアパスを見せていくか、高校へのアプローチを考えていく必要があるのではないか。
3点目、関係者の意識を変える必要があるのではないか。アカデミアと産業界にこのガイドブックを直接持って回ることとした。例えば経団連、同友会、新経連、日商等のトップ層と現場、大学側では国大協や私大連、私大協、国公立の大学協会等へまわりたい。引き続き皆様にもご協力をお願いしたい。
〇文部科学省 伊藤高等教育局長:
このガイドブックは分かりやすく具体性を持って書かれている。これから経済界と大学側にしっかり持って回って、博士人材が各民間企業においてイノベーションを起こしていく、それが日本の勝ち筋になっていくと伝えたい。そうしたきっかけになるガイドブックではないか。そういう意味では、このガイドブックができたところがゴールではなく、スタートであると認識し、産学の対話を深めることにつなげていきたい。
大学も相当変わってきているが、まだタコつぼ化の中で徒弟制度から必ずしも全ての研究室が脱却できているわけではないと考えているので、ガイドブック、ロールモデル集を持って、しっかりPRしていきたい。
あわせて、隗より始めよとして、企業の皆様にだけ博士採用を依頼するのではなく、官公庁も博士を積極的に採用し、その博士が政策形成においても重要な役割を果たしていくことが大変重要だと考えている。文部科学省も積極的に博士を採用するとともに、もちろん優秀な博士に限るが、入省年次で出世が決まるのではなく、本当に能力のある博士については入省年次を飛び越してでも積極的に上位のポストに登用していく。こういう形で霞が関からもロールモデルを発信していきたい。経済産業省とも連携しながら、内閣人事局等、他省庁にも働きかけをしていきたい。
ガイドブックの策定に向けての尽力に深く感謝申し上げるとともに、委員長をはじめ委員の皆様には引き続きご協力をお願いしたい。
〇川端委員長:
委員の皆様におかれては、長期間のご協力に感謝申し上げる。これにて本検討委員会を終了とする。
(以上)
高等教育局高等教育企画課、科学技術・学術政策局人材政策課