博士人材の民間企業における活躍促進に向けた検討会(第6回) 議事録

1.日時

令和7年1月27日(月曜日)13時00分~15時00分

2.場所

オンライン

3.出席者

委員

(◎委員長)
◎川端 和重  国立大学法人 新潟大学 理事・副学長
 井原 薫 株式会社島津製作所 執行役員 人事部長
 大河原 久治 株式会社日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 タレントアクイジション部 部長
 酒向 里枝 一般社団法人日本経済団体連合会 教育・自然保護本部長
 佐々木ひとみ  学校法人東京家政学院 理事・特任教授
         元早稲田大学常任理事(職員人事・キャリア支援担当)
 髙田 雄介 中外製薬株式会社 人事部長
 徳田 昭雄 学校法人立命館 理事・副学長(立命館大学副学長)
 松井 利之 大阪公立大学 副学長 国際基幹教育機構 高度人材育成推進センター長
 山田 諒 株式会社アカリク 代表取締役社長
 吉原 拓也  北海道大学 大学院教育推進機構 副機構長
 鷲田 学 株式会社サイバーエージェント AI事業本部 人事室長

オブザーバー

 伊藤 洋 一般社団法人新経済連盟 政策部 副部長 

関係省庁

 森友 浩史 文部科学省 大臣官房 審議官(高等教育局担当)
 先﨑 卓歩 文部科学省 科学技術・学術政策局 科学技術・学術総括官
 金井 学 文部科学省 高等教育局 高等教育企画課 高等教育政策室大学院 振興専門官 
 髙橋 佑也 文部科学省 科学技術・学術政策局 人材政策課長補佐
 今村 亘 経済産業省 大臣官房 審議官(イノベーション・環境局担当)
 川上 悟史  経済産業省 イノベーション・環境局 大学連携推進室長

4.議事要旨

1.開会
○川端委員長:
今回は博士人材ロールモデルの事例集とガイドブックについて具体的に説明いただく。
 

2.議事
(1)企業で活躍する博士人材ロールモデル事例集(仮)について
○文部科学省科学技術・学術政策局 髙橋課長補佐:
 資料1の1ページは昨年の委員会においてロールモデル事例集について説明したものである。博士人材の多様なキャリアパスの開拓を推進するためには、博士課程の学生が多様なキャリアパスの存在を知ることが重要であると考え、本ロールモデル事例集を作成している。
 「1.企業に対する事前調査」の中で、5つの例を記載している。例えば、博士人材が深い専門知識を活かして新規事業開発や収益向上をもたらした例、博士人材が課題発見解決能力などの汎用的能力を活かして研究開発以外の業務で活躍している例等、多様なキャリアパスがあることをロールモデル事例集で示したいと考えている。昨年末より、経団連をはじめ、様々な経済団体や企業の方々に協力いただき、インタビューに回答いただける企業の募集を行った。そして、多様なキャリアパスを示すため、業界、業種、その方が担っている業務、博士号取得時の専門等、様々な要素についてバランスよくインタビューを行った。
 2ページ以降に、一例として島津製作所と塩野義製薬の作成中の事例を示した。どういった類型で活躍しているかを上の部分に示している。その下の部分に、「博士×実行力」「博士×視野の広さ」といったように、キーワードを示すことによって、専門性だけでなく、ある特定の強み、能力を活かして活躍されていることを示したいと考えている。例えば多様性という観点で、社会人ドクターの例(左側のピンクで表示している例)を示している。研究開発だけでなく、入社後に新規事業の立ち上げやマーケティングなどの様々な部署を経て、現在プロジェクトマネージャーとして活躍されている例である。右側の緑で示している例は、入社5年目の若手の方の例で、博士課程で培った課題解決能力や分野の隔たりなく取り入れられる汎用的思考力を活かし、現在営業と連携して顧客開拓を行っており、研究以外の業務で活躍している例である。
 4ページの現在事業開発部長の方の例(塩野義製薬)は、研究以外の業務で、仮説をたてアクションを起こすといった、博士時代に培った能力を活かした業務を行っている例である。最終的に20社程度のインタビューを行い、今後事例集の内容を充実させていく予定である。インタビューからわかった傾向として、元々の専門を活かして入社した後に会社の事情や本人のキャリアパス等の様々な事情により、幅広い業務に携わっている方が多いという印象を持った。

 
〇川端委員長:
 採用時には博士の専門性がいつも話題になるが、実際は企業の中では専門性だけでなく、もっと広い観点で活躍していたり、5年や10年経てば違う次元の職に就いていたりすることが資料から見えてくると面白いかと思う。
 
(2)「博士人材の民間企業における活躍促進に向けたガイドブック」取りまとめ(案)について
○経済産業省 イノベーション・環境局 川上大学連携推進室長:
 ガイドブックに対して、検討会の場、またその後にも多数の意見をいただけたこと、感謝申し上げる。今回が最終回とお伝えしていたが、出来上がった時点でもう一度ご意見をいただきたいこと、普及に向けて皆様にご協力いただきたいと考え、検討の上、第7回を開催させていただき、次回を最終回とさせていただくこととした。ガイドブックへの修正の意見は、検討会の場での議論は本日が最後とご理解いただきたい。
 ガイドブックの編集方針について。このガイドブックはまとめることが目的ではなく、実際に広めていく、手に取って使っていただく、現場の方が博士を採用し、博士の採用を支援しようと動いていただくことが最終的なゴールと考えている。全体的に文字数を減らす、一行の文字数を減らす等、読みやすくするための工夫を行っている。また、グラフや事例を多く取り入れる、コラムとして情報を補足する等、読み進めやすいよう意識している。また、はじめて読む人が、まず何をしたら良いのかを、簡潔にわかりやすくするために各項目にポイントを示している。
 「はじめに」では、2ページ、3ページで、企業の人事部門の方が社内や経営者に対してなぜ今博士が必要なのかについて説明しやすいように簡潔にまとめている。4ページ、5ページは、企業の人事担当者、事業担当者向けに記載しており、かつての博士のイメージと変わってきていること、博士の実態についてまとめている。
 「企業への手引き」について、新卒一括採用での採用より、キャリア採用、通年・中途採用の方が望ましい可能性があることをコラム(10ページ)として掲載している。11ページは、スケジュールの一例を示している。12ページ、13ページは、企業から採用していくにあたってPRの方法をまとめている。実態より少し踏み込んだ形で、今後取り組んでいただきたいこととして、学会の活用、企業の方も学会に出席いただく、博士の研究現場に行っていただくことを提案している。博士の方が企業に来てインターンシップに参加することも重要だが、例えば共同研究等に博士が参加し、企業の方に見ていただき、博士と出会っていただくことも含めて、PR手法としてまとめている。19ページでは国による博士人材採用の支援施策を示している。研究開発税制のオープンイノベーション型は、企業が博士人材を雇用したときにその人件費の一部を法人税から控除できる制度である。官民による若手研究者発掘支援事業は、若手社員を博士後期課程に派遣させる場合に支援する制度(通称「若サポ」事業)である。その下段に、企業で博士を採用するメリットを示している。
 次に「大学への手引き」について説明する。23ページは、多くの委員の皆様からトランスファラブルスキルについて改めて整理したほうが良いという意見をいただき、経団連が素晴らしいまとめを作成されていたものをベースに整理した。大学の皆様に、企業が求める能力として見ていただき、こういったスキルを育成・具備されれば、企業で採用しやすいことを理解いただきたいと考えている。
 24ページは、大学の組織として、博士人材の民間企業向けの就職支援を行う大学の役職者の配置や、キャリアセンター組織体制の見直し、専門部署の設置等、大学が組織をあげて博士の就職支援をしていただきたい内容を記載している。29ページは、大学が開催している様々なマッチングイベントを一覧で示している。企業の方に見ていただいても良いが、大学の皆様にもマッチングイベントを一覧で表示し、参考にしていただくために網羅的に一覧をつける。
 33ページでは、博士が教員のみならず大学職員として活躍しているといった流れをさらに加速できないかとコラムで示している。中央の部分に、メッセージとして2行だけ示しているが、採用、育成、処遇の人事システムの確立や、安定的なポストづくりについても必要であること、博士人材に大学で活躍していただくといったメッセージをまとめている。
 多くの委員から「学生へのメッセージ」を充実すべきというメッセージをいただいた点について、文字が多くなりすぎないよう、内容を絞り、見開き2ページにまとめている。就職活動のSTEP1-3を時系列で示し、このように進めたらどうかという考え方について整理している。分量を含めて意見をいただきたい。
 また、後ろの章に、各社の事例(各社事例、文科省でまとめたロールモデルの事例)を掲載する。次回検討会までに提示する予定。

3.意見交換
○高田委員:
 全般的にわかりやすくまとまっている。図表や文字のバランスなど、見やすくなっている。
 「はじめに」で、ガイドブックの読み手を考えると、博士人材の活躍の必要性の部分は、採用する人事側が博士を採用したらこのようないいことがあるといったことや、学生側が活躍してみたいなと思わせることが充実すると良い。
 5ページの5つ目のポイントについて、パフォーマンスが良いことを客観的に見せられると良い。ある程度客観的に博士人材の働き方を示す意味でロールモデルを入れていると思うが、実際に採用してみて活躍する人がいて、さらにその人が次の人を呼ぶという循環ができてくると良いと思い、最初のきっかけをどのようにつくれるかを考えていた。また、博士人材採用のメリット(こういったところで活躍できるといったコンセプチュアルスキルやトランスファラブルスキル、課題解決能力が高い)について、一人一人というよりも群として良いことをどうフォーカスして伝えられるかを考えていた。背景や時代の流れが変わってきていることと、読むと採用していきたいと思わせたり、時代が博士を採用することを求めているというトーンを示すと良いと思った。
 
○川端委員長:
 企業の人事方々が受け取りやすい単語、社内で響く単語を活用できると良い。どのような単語を入れるべきか。
 
〇高田委員:
 単語はすでに入っている。データで示すとわかりやすくて良いが、何で測るかが難しい。人事担当としてパフォーマンスが高いと実感したといったデータは出ているが、こういうことを並べるのだろうか。人材のばらつきはあるものの、全体でみると非常に優秀であることをどう示すか。文字というより、話してもらったりする動画的な要素について考えていた。
 
〇井原委員:
 「はじめに」において、3ページにこれだけ多くの人たちが議論してこのガイドブックが作られていること、思いみたいなものを伝えてはどうか。力強いメッセージを伝えるためには、トップメッセージとして、前の部分に、なぜこのガイドブックを作ろうと思ったのか背景などを記載すると良いのではないか。よくまとまっていると思うので、より力強いメッセージにするため、そうしたところがポイントになると考えている。
 博士も変わってきているという箇所について、ポイント1と、ポイント2から5にギャップがあるように感じる。ポイント1はガイドブックを作った人のメッセージであって、博士が変わってきているポイントではない。このメッセージは必要だが、他のポイントとのレイヤー感が少し異なる。
 
〇大河原委員:
 非常に中身が濃くなってきて、良いガイドブックになってきている。こういうことがあればなお良いという観点で、2ページの博士人材の必要性の部分において、どういう社会、どういう世の中を目指しているのかといった世界観が表されると、なぜ今、日本国として博士人材の取組を強化しているのかがわかりやすくなるのではないか。大学や企業にとって大事という話とは別に、日本社会としてなぜ博士人財が有用なのか、どこを目指すのかが示されると良くなるのではないか。
 細かい点について、企業のパートの19ページで、企業が博士を採用するメリットを示しているが、少し抽象的に見えるので、博士人材が研究活動を通して培っている具体的な能力との対比で記載すると、博士人材は日頃からこういうこと行っているからこういった活躍ができるということがもう少しリアルにイメージしやすくなるのではないか。その部分の記載を工夫していただくと良いと考えた。トランスファラブルスキルの部分は重要と考えており、非常によくまとめていただいている。
 
〇鷲田委員:
 全体的には理解しやすい内容となっている。処遇とキャリアパスの部分で、キャリアパスの充実度が少し不足しているように感じた。共同研究をする、研究のインターンをするといったように、研究寄りの内容が多くなっているため、キャリアパスとして研究以外の内容のボリュームを増やし、イメージが湧かせられるように解像度が上げられると良い。
 
〇川端委員長:
 研究以外でも総合的な力を活かす、入社して何年か経って違う分野で活躍することの方が多いのかもしれない。企業は博士の採用時にそういったことをイメージしているのか。
 
〇鷲田委員:
 博士人材の多くは研究職として採用し、最初から研究に携わってもらっているケースが多いが、学会に赴いて学生と会話していると、研究より、例えばデータサイエンティストやプロダクトマネージャーとしてのキャリアをイメージしている方が少なからずおられ、当社は研究者ありきでない採用を最初から行っている。まだ少ないという実感はあるものの、先々を考えるとそういう事例やキャリアパスを書いておくことは博士課程の学生にとっても良いのではないか。
 
〇川端委員長:
 入社後、専門以外の分野や経営に異動する等はあると思うが、企業は採用のプロセス時に様々なキャリアパスがあることを表に出しているか。
 
〇井原委員:
 採用プロセスでは、例えば早期のインターンシップを実施し、ある程度そこで配属を想定する形で博士の学生を採用するケースもあるが、一般的な集団の一括採用の中で獲得する博士人材もいるため、その場合は本人の適性を見ながらしかるべきところに配属している。したがって、専門性を生かすためのインターンシップによる採用もあれば、トランスファラブルスキルを多く見て採用するケースもある。研究以外のところで活躍しているかという点については、博士人材は様々なところで活躍している。例えばドクターを持っていることによって社外に出向し活躍することができるなど。当社では研究だけにこだわらない活躍をしている。
 
〇高田委員:
 採用の過程では、博士専門のインターンシップと、修士も対象のインターンシップに参加することもできる。そのインターンで入った後は、新入社員として入社したときには一緒に扱われ、処遇は博士卒で分けているが、配属については同じに行う。
 
〇大河原委員:
 前提としてインターンシップを経由するにしろしないにしろ、ジョブごとに内々定や内定を出しているため、それぞれのジョブに対して学生が応募する形になっている。その際、専門性を生かした形で内定になることもあれば、専門と異なるが研究活動の中で培われた汎用的なスキルを評価して内定となる場合もある。
 
〇酒向委員:
 経団連「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に向けた提言」を基に、「企業が博士人材に求める能力・資質(例)」を作成いただき、感謝申しあげる。このトランスファラブルスキルは、会員企業へのアンケートや御意見をもとに取りまとめたため、実態に則した内容と考える。
 これまでの意見等をふまえ、「はじめに」の内容(1~5ページ)が充実した。博士人材の採用を考えている企業ばかりではないため、こうした導入部分の充実は極めて重要である。また、学生へのメッセージは温かさを感じる内容となった。
 会員企業から、「価値創造力が今後非常に求められていく中で、仮説を立てて検証しながら新しい価値を生み出すことができる人が必要となる。博士人材は研究活動を通じて、新しい価値を生み出すためのトレーニングをしてきている。そのため、企業は博士人材が必要」との声が上がっている。「はじめに」の中で、なぜ企業が博士人材を必要とするのかについて記載すると良いのではと感じた。
 採用に当たって、博士人材の専門性をどの程度見ているかは、企業によって様々であると考えている。
 
〇山田委員:
 12ページの右下にPBLといった記載があるが、PBL形式のイベントを通じて応募が増えた例について、ぜひ追記してもらいたい。PBL形式のイベントは、学生は参加時点では応募を迷ったり、応募数が少なかったりするが、イベント実施後に企業への応募の意思をきくと4倍の方が応募したいと回答することがある。企業の課題や業務内容を理解し、各メンバーで議論し、アウトプットを出し、最後にフィードバックをいただくPBLのプロセスを通じて、企業の課題や業務内容を知り、応募したいとなるケースが多い。こういった情報を掲載するとPBLの意味が深まっていき、かつ企業の採用にもつながるのではないか。
 35ページは、簡潔でわかりやすいが、STEP4の就職活動スタートの部分に、「研究の内容や実績だけでなく、研究から得られた資質・能力もPRすることが効果的です」といった記載があるが、具体的な例を挙げてもいい。学生と話しているとデータ分析能力や、簡単な自動化ツールを作成し、そのプログラミングを学び実行できる、文系であれば、フィールドワークを通じた顧客折衝ができるといった項目について、企業から評価されると思わなかったといった学生が多い。
 
〇川端委員長:
 PBLは基本的に少人数の開催にならざるをえないと思うが、誰が開催することを想定しているか。
 
〇山田委員:
 大学と提携しての開催も、企業主催のPBLも開催可能である。説明したのは、企業主催のPBLの例である。当社が集客し、企業側のテーマで、例えば事業課題に対する課題解決の提案、新規事業の立案がテーマ設定としてある。
 
〇川端委員長:
 例えばある企業がPBL形式で行いたいと思ったときに次のステップとして何を知ればそのイベントに参加できるか。
 
〇山田委員:
 自社でイベントを設定した場合、集客が肝になるため、当社のような会社に依頼いただくことも考えられる。人材情報サイトにイベント情報を掲載して集客することも可能である。関連業者を活用することが早いのではないか。また、大学とのタイアップが集客としては良いのではないか。
 
〇吉原委員:
 これまでの議論がよく反映されている。
 一つ目は、「はじめに」で、他の国と比べて劣っているということから入るよりは、ここを目指しているということを示す入り方に変えた方が良い。現時点の示し方では、他の国に勝つことを目指していると感じてしまう。
 二つ目は、企業パートについて、コラムの記載となると思うが、一人一人マッチングを見る、博士の一人一人の個性を生かすといった記述があると良い。企業のエントリーシートの“ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)”という項目について、博士の学生が「アルバイトをしたことがない、サークル活動で部長をつとめたことがないが、大丈夫か」と相談に来る。博士だから研究がすごくできるというだけで大丈夫であると言うが、学生も影響を受けている。また、博士人材のエージェントもこうやって書くと良いといった指導をするため、博士が本当は伸ばさないといけないところがずれてきてしまう。一人一人の個性を適切に伸ばし、それで活躍していくことを企業が見ているということを書いていただきたい。
 三つ目は、トランスファラブルスキルは、研究の中で学ぶことが重要であり、本来は研究の中で様々な企業とやりとりしたり、社会と関わったりする中で身に着けるのが望ましい。プラスアルファで補うものとして、そういった機会のない学生に対して大学が学ぶ機会を与えるようにするといった位置付けにすると良いのではないか。トランスファラブルスキルに時間をかけすぎて、研究がおろそかにならないか心配したところ。
 
〇松井委員:
 最初の部分で、本来は将来(5年後、10年後、20年後)の姿を示し、そこからバックキャストして、博士の採用、博士学生も含めた意識改革が必要ということ、その記述がこのガイドブックのインパクトが一番強くなる。例えば科学技術の社会実装の重要な担い手となるのが博士人材であり、企業としても多様性を持って解決していくといった記述が必要ではないか。
 細かい点になるが、22ページについて、博士人材の多様なキャリアの開拓を実施しようとすると、研究指導教員との対話が非常に重要になる。そのため、大学参画の意味、また、博士人材がそういった活躍を支えるというのが大学の役割だということを、理解してもらえるようなことができたらいいのではないか。
 24ページのキャリアセンター等の組織的な支援体制の整備について、記載している内容はその通りだが、もう一歩メンターの役割について踏み込んだ方がいい。単純なキャリアコンサルタント的なメンターでなく、博士人材に的確にキャリア形成を指導できるメンターが、日常的に博士学生に対応できる環境を作ることが重要と考えている。そのあたりを産学連携も含めて、もう一歩踏み込んで記載していただけると、大学としてルートがつけやすいのではないか。
 
〇川端委員長:
 メンターについて、学生それぞれに指導教員以外にメンターがついているが、それとは別に企業との相談窓口が必要といった意見か。
 
〇松井委員:
 指導教員がキャリアについて一定程度指導することは本来の姿ではあるが、第三者的視点で、企業経験のある方、あるいは博士人材の育成に企業内で携わったことのある方、実際に研究開発をされた方等の実際の体験を元に話していただく機会を作るということで、そういった方がメンターになっていくことが重要と考える。
 
〇川端委員長:
 どこに相談に行けばいいかを明確にすることが重要である。学生だけでなく、企業の方が大学に相談したいときのコンタクト先を明確にできると良い。
 
〇徳田委員:
 「はじめに」について、他の委員の皆様がおっしゃるように、ありたい姿、あるべき姿を描くことが重要である(ヨーロッパであれば、SDGsやカーボンニュートラル等。日本であれば、ソサイエティ5.0、ウェルビーイング等)。そういったTo-Beを描き、As-Isがあって、そのギャップを埋めるのは何かといったときに、イノベーション人材の育成を打ち出す等、あるべき姿の実現に向けて、産官学、市民と共創していく、あるいはそれによって技術的な新しいフロンティアだけでなく、制度も変えていく必要がある。または、社会受容性や行動変容を促すような仕組みづくりにはやはり総合知が必要であることを示す。そういったことを最初に大きく打ち出した上でイノベーション人材が必要と初めにあると良い。
 前回、経営戦略という言葉には腰がひけてしまう企業も出てくるのではないかと話した。様々な機能別戦略や事業戦略、様々なレイヤーの戦略の総体を経営戦略といっている。この冊子ではイノベーション戦略と人材戦略の連動や、戦略といわずに、イノベーションと高度人材活用の連動といった記載で良いのではないか。このように記載を少し柔らかくしていただきたい。
 19ページ、32ページで示されている、民間企業で働いている従業員を大学に派遣する形での博士人材育成について、経営戦略と人材戦略の中で非常に重要な項目で、アクティビティと感じているが記載がない。後段で取り上げている博士人材の育成のパターン・型をこの部分に入れ込んでおくことが非常に重要と考える。
 23ページはまとめていただき、わかりやすくなった。この表を見て活用してみたいと思っていただくためには、ここに挙げられた様々な能力が、具体的にどういった資格等と連動しているのかが示されていると、企業だけでなく、学生にとっても、どういう能力を身につければいいのかが一目瞭然でわかるようになるのではないか(例えばデータ分析能力を測る指標は、業界団体ではITスキル標準、国家資格として情報処理安全確保支援士等)。
 
○佐々木委員:
 大学と学生に関してコメントしたい。特に「はじめに」や企業向けのページでは、冒頭にガイドブックに対する目的について記載されている。しかし、大学向けのページを見ると冒頭で「民間での活躍」から開始されている。そもそも論が抜けてしまうと単なるノウハウ本のように思われてしまうことは残念である。大学向けのページに、アカデミックの人材育成だけではなく社会に向けて活躍する人材を輩出していくことも大学の使命であると記載したほうが良い。
 マッチングのイベントの記載が、ほぼ国立大学の取組例になっている。多くは掲載できないと思うが、私学の取組例を載せたほうが良いのではないか。例えば、早稲田大学と慶應義塾大学とで博士課程の大学院生向けのキャリア支援でマッチングイベントを実施しており、企業から20社程度参加している。
 また、学生向けのページについて、ここからページの作り方が突然異なっている。学生向けがQ&A方式で始まるのは唐突な印象を受ける。学生に対して何が期待されていて、アカデミック以外でも十分に活躍できるという一言が具体的にあっても良いのではないか。
 もう1点、学生はアカデミックや研究等の専門性に関して自信はあるが、本当に産業界で活躍できるのか、企業からは何を求められて、どのような能力が必要なのか。そこが学生にとって不安なところである。先ほどのトランスファラブルスキルの話もだが、研究で十分にその能力を活かして伸ばすことで、民間の就職先でも活かすことができる、といったことが学生への安心感にもつながる。民間に行ってみたいと思わせるような一言、二言があっても良いかもしれない。
 
○川端委員長:
 最後の話は自分も少し気になっていた。トランスファラブルスキルのリストが23ページに掲載されているが、これをどのように定量的に評価できるか、経団連や内科府のPEAKSでも少し前に議論しているが、可視化した場合にスケールは何かという話になると思う。
 同時に、個人的に思うのは、同じウェイトではないような気がしており、学術面、能力面、資質面と1つのグラフ上に載せた場合、これらは実行力と等しいウェイトかと思われてしまう。スーパーマンではないため、博士課程の3年間でどの程度が身に付くのか、実践とは修羅場の経験であろうが、大学の中では本当の実践のところでの修羅場はなかなか無いので、企業に入った方が凄い経験にはなる。その分、学術面での修羅場の経験はあるが、そこをどう可視化や表現するのか。
 
○大河原委員:
 トランスファラブルスキルの可視化に関しては、指標としての数値化等、可視化できる場合もあろうが、おそらく難しいのではないかと感じる。例えば、当社での採用選考活動では専門性だけではなく、専門以外の観点で資質を評価することを明確化した上で、選考を実施している。評価指標に基づき、研究や研究以外の活動も含めて、行動の中にそうしたところがどう見えるのか、再現可能かというと、望ましいのは1回1時間の面談を何回か行うのではなく、インターンシップ等を通じて見ることができると評価がしやすいかもしれない。
 
○川端委員長:
 おそらく、ある資格を取得したという点だけで判断するのではなく、まだそのレベルには達してないものの経験を積んでいるということに関して、先ほど指摘があった面談等を通じて抽出し指標化するようなレベルか。
 
○大河原委員:
 大学を卒業して就職し、会社の中での環境や状況を踏まえて同じことができるのかどうかを、面談や会話を通じて本人の資質や本質を見極めていくことが基本なのではないかと思っている。何らかの指標だけで評価するようなものではないと考える。
 
○川端委員長:
 その場合の可視化とは誰が行うのか。学生自身による自分に対する自己評価なのか、それとも、大学の単位のように大学側で行うのか、企業での面接結果での可視化なのか。ただ、このような指標があるという点は学生に伝えるべきと考える。
 
○山田委員:
 自社の宣伝ではないが、当社は「アカリク診断」を学生に提供して可視化を実施している。アカデミックキャリアとビジネスキャリアとそれぞれ項目があり、例えば、研究成果であれば社会的な貢献や還元を常に意識しているか、海外の知見、また、自分の研究等の考えを専門外でも伝えることができるか、等、それらの項目を学生に診断してもらい最終的にデータ(スコア)として学生に渡している。当社はエージェントとして活用はするものの外部へ公表はしないが、学生に対しては他の選考者や他の学生と比較してどこが高い・低いという点は可視化して渡している。
 

○酒向委員:
 経団連の中ではトランスファラブルスキルの指標化の議論をしていない。それぞれの企業の尺度で判断されるものであるため、一律に指標化して比較可能にするという議論ではなく、大学では、このような点を踏まえつつ、教育カリキュラムを検討いただきたいというメッセージとして受け取ってもらいたい。
 先ほど川端委員長が「博士課程学生はスーパーマンではない」と話されていたが、「企業が博士人材に求める能力・資質(例)」の項目全てを身に付けることを博士課程学生に求めているのではなく、企業で何を重視するかは凸凹している。「企業が博士人材に求める能力・資質(例)」の項目は、企業の意見をまとめた結果として紹介したものである。
 
○川端委員長:
 大学は指標といわれるとレーダーチャートをつくりたくなるが、やりすぎない方がよいだろう
 
○伊藤 洋 一般社団法人新経済連盟 政策部副部長:
 今回の検討会ではガイドブックの話が中心であるが、過去5回の検討会を振り返っての当連盟としての意見としてコメントしたい。
 博士号を取得した博士人材の環境が変わってきていることを実感している。いずれも修士課程だが、私自身日本と英国の大学院を出ている。日本の大学院には教授を中心とする村社会的な雰囲気があったが、過去の説明でこれが改善されつつあると実感しており、それは非常に良いことと思う。英国で学んだのは、アカデミックの本分はクリティシズムにあるということ。アカデミックと社会の接点が増えていく中で、本質を追求する能力を持った人たちが実用的なスキルを持つことにより社会に適応する人材へ変化してきているとの説明は納得のいくところである。
 その一方で、採用においては博士号取得者と学部新卒者とを同列に扱うことはできないと思っている。採用では何をPRするかがポイントとなるが、博士号の学位取得者は専門分野や経験で判断するのが自然であろう。まずは専門性で勝負するものと考える。極端な話だが、博士号取得までは5年程度かかるところ、5年間訓練を重ねた社会人と同等の存在とみなすパラダイムシフトがあってもよいのではないか。また、博士号取得者も全て同列ではなく、技術系を中心に実務との親和性がある学問領域もあるが、そうではない学問領域では、博士号を取得してもこれを活かすことができないのであれば、何のためにこれを取得したのか、となり得る点も危惧している。
 一方で、企業に関しても、我々も何社かと話をしているが、各社それぞれではあるものの、採用窓口となる人事部と事業部門、特に技術系の部門とでは求める人材が異なることがあり、後者には博士号取得者へのニーズがあることもわかってきている。しかし、一括採用となると人事部が窓口となりそちらに偏ってくる。事業部門の人材ニーズは中途採用などで補っている部分もあるが、経済界としては博士号取得者へのニーズをもっと表に出していく必要があるものと感じている。
 また、先ほどメンターの話があったが、博士課程に進学する際、研究計画もさることながら、学位取得後のビジョンを明確に持ってもらうことも重要であろう。進むべき道を具体的に描くことができれば、客観的視点を有する大学院生ならば何をすべきか必要なアプローチを模索して実践できると思う。その中で、インターンシップの必要があれば、これを引き受けるのも経済界の役割であろう。
 博士課程とは専門性を学術的観点から高めていくためのプロセスと考えるが、海外では実務経験を積んだ社会人が自らキャリアのステップアップの道として大学院を活用している印象もある。欧米では多くの人材が博士号を取得して活躍している。社会の中で揉まれて、必要性を感じた際に博士課程への進学を判断し、学位を取得してさらに次のステップへ駆けあがる道を、日本でももっと見出していくべきではないかと思う。
 日本と海外との違いの背景として、日本は長らくメンバーシップ型の雇用制度が主流となっており、海外では所謂ジョブ型雇用が一般的である点があるだろう。例えば一昨年に政府(新しい資本主義実現会議)がまとめた「三位一体の労働市場改革の指針」においても、ジョブ型人事、自らの選択による労働移動の円滑化といった事項が盛り込まれ、今回のガイドブックの中にもジョブ型雇用が一例として掲載されている。雇用の国際化が進む中で、博士号取得者の見方、博士課程の在り方や捉え方そのものが変わっていくことに期待したい。
 現在は必ずしも博士号取得者を積極的に採用せずとも残念ながら企業の運営に支障はないところではあるが、その中でこのガイドブックがとりまとめられたことの意義は大きいし、非常に画期的であった。それと並行して、何か根本的な構造転換を図っていく必要があるのではないかと感じている。先ほど例示した政府の指針等が着実に実行されることを期待したいし、経済界として果たすべき役割を見出して担っていければと思っている。
 
○川端委員長:
 強い期待や、国際化の中のジョブ型雇用の等の動きがある中でのコメントであった。残りの時間では、ガイドブックのさらに細かい修正点や、今後、読んでいただいて実際に活用してもらうための方策等アイデアあればお聞かせいただきたい。
 
○髙田委員:
 ガイドブックに関する主な指摘は十分に反映いただいていると思うので、情報発信に関する内容についてお伝えしたい。今後の展開として、イベントの実施、ガイドブックの配布、ウェブサイトへの掲載等が考えられるが、ガイドブックの内容を基にした短い動画(15秒、1分、5分など)を制作し、SNSやYouTube等で配信することを提案する。これらの動画では、ガイドブックの主要ポイントを簡潔に紹介し、視聴者の興味を喚起するとともに、ガイドブック本体の閲覧へ誘導するような仕掛けがあると良い。ガイドブックの内容に興味を持った人々がより詳細な情報を求めて実際にガイドブックを読むきっかけとなり、また、他のユーザーとも容易に共有できるため、効果的な宣伝ツールとなる。口コミを喚起するまでは難しいかもしれないが、人事担当者のコミュニティやSNS上での交流の場を活用し、ガイドブックの内容を簡潔に紹介してもらうことで、口コミによる情報拡散を促進できるのではないか。例えば、15秒で伝えられるキーメッセージを用意し、それを共有してもらうことで、より多くの人々にガイドブックの存在と価値を認知してもらうことができるかもしれない。
 
○川端委員長:
 知的財産(というテーマ)であれば企業を超えた横断的な繋がりがある。人事系ではどうか。
 
○髙田委員:
 人事分野においても、企業を超えた横断的なつながりが存在する。特に同業界内では、競合関係にある部分を除いて、人事担当者間のネットワークが形成されている。その他、イベントやセミナーへの参加を通じて構築されている。
 
○井原委員:
 29ページにマッチングイベントがまとめられている。過去の検討会でも発言したが、各大学では様々な取組をしているが、それをなかなか企業側でキャッチできていない。このようなマッチングイベントに関しては、大学への手引きの項目内に入れてしまうともったいないと感じる。大学と企業を分けるのではなく、インターンシップに関する記載は双方にあるので、ここは工夫していただくと良いと思う。
 また、途中に指摘があったが、学生へのメッセージも確かに唐突感がある。博士課程修了後に企業に就職できるのか、という入り方ではなく、もう少し別の入口があると良いであろう。
 
○大河原委員:
 先ほど、トランスファラブルスキルに関して議論となったが、酒向委員からのコメントにもあったように、各企業はスーパーマンを求めているわけではない。ここに記載されたトランスファラブルスキルの全てを満たす必要はなく、各個人の特性がある中で、このようなトランスファラブルスキルもその個人の特徴として選考でアピールしてくれると評価しやすい。企業は必ずしも全てを満たす人を求めるのではないので、そのように見える可能性があるのであれば、気をつけた表現ができると良い。
 また、専門性とトランスファラブルスキルが対立した概念のように見られる点も違うと考えている。研究活動のなかで培われてくるトランスファラブルスキルもあるので、対立構造ではないように見えると良い。
 このガイドブックをどのように周知・展開するかという点があった。個々の大学や企業側でそれぞれできる中での展開は考えられる。例えば、当社であればウェブサイトにリンクができるが、各社のできる範囲での対応となる。しかし、もう少し、世の中全体へ訴えかけるような仕掛けができるといい。
 先ほど、委員長から企業間の業界内での人事の繋がりに関する話があったが、電気業界、IT業界等でのつながりはある。ただ、その中でPRするというのは、本会は当社しか参加していないため、もう少し業界団体のような形でPRできると良いのではと個人的には思う。
 
○鷲田委員:
 トランスファラブルスキルの話があったが、大河原委員の指摘と全く同じで、何か新しいことに期待するのではなく、現在取り組んでいる研究の中において発揮されているのではないかと感じている。研究室に入って、学年が上がって博士課程になれば研究室内で自分より若手のメンバーをとりまとめるリーダーシップや主体性、インターシップや通常の就職の選考過程の中で、学生本人の自己アピールで確認できる部分もある。研究で忙しい中で新しく始めるのではなく、とにかく研究に没頭し、専門領域にかけあわせたトランスファラブルスキルを持ってほしいと思う。博士課程への進学時でも修士の在学時でも良いが、社会に出たら企業に求められることについてのオリエンテーションを行うなど、しかるべきタイミングでインストールできれば良いのではないか。
 マッチングイベントに関しては、確かに企業側には情報があまり入ってこない。エージェントと付き合いがあれば情報はわかりやすく入手可能だが、大学主催のイベントは自分たちのキャッチアップの感度を磨いてないと情報が入ってこない。強くプッシュしていただきたい。
 また、企業側の最初の参加のハードルをどう下げるかはもう少し検討すべきと思う。例えば費用や、何度も参加する企業には何かインセンティブを付けるなど、マッチングイベントに何度か参加してもらうような状況を作ることができると良いであろう。
 業界内のコミュニティに関しては、業種や業態が似ている企業との繋がりはあるので宣伝はできるかもしれないが、強い意志をもって引っ張ってくる場合は、相当懇意にならないと難しい。どこまでできるかは想像しながら意見を聞いていた。
 
○山田委員:
 ガイドブックをどのように周知するかは以前から考えていた。特に企業に関して言えば、自分たちも博士人材を支援する中で、経営層、人事、現場の3つをバランスよく押さえないと浸透が難しいと感じている。ガイドブックを通じて、様々な角度から問題点をとらえて発信をいただければと思う。
 例えば経営層であれば、経団連や経済団体から発信していただくことが重要であり、人事であれば業界内での繋がりのほか採用イベントでの発信の必要性を感じる。現場であれば、展示会や見本市等のブースでの出展等も発信の1つの手と思う。
 
○酒向委員:
 経団連では昨年12月に「FUTURE DESIGN 2040」というビジョンを出した。そのビジョンでは、日本の将来のあるべき姿からバックキャストして課題を示している。その中で、将来目指すべき姿として科学技術立国があり、博士人材が多様な場で活躍する社会を作っていこうという趣旨で記載している。この点を紹介させていただきたい。
 ガイドブックに関しての細かい指摘だが、14ページ目、インターンシップの「具体的な取組」の下から2つ目「企業、学生双方にとってインターンシップの効果を高めるため、実施内容を、学生と個別に調整することも効果的」と記載されているが、「実施内容」には実施期間を含めていると理解している。「実施内容」を「実施内容や実施期間」と記載すると、企業や学生にとって理解しやすい。
 トランスファラブルスキルに関しては様々な議論があるが、スーパーマンを求めているわけではなく、学生が就職活動において自分をアピールするための軸と位置付けると良いであろう。
 学生へのメッセージは、先ほど「丁寧になった」とコメントしたが、Q&Aから開始するのは、確かに唐突である。学生向けのメッセージとしては、「ドアを叩いてみませんか」「怖いところはない、楽しいこともあります」等のように、博士課程修了後に企業へ就職することを安心させる伝え方が良いのではないか。
 PRに関しては、経団連内での配布は可能である。しかし、ただ配るだけではなく、他に何ができるか考えたい。博士人材の採用に積極的な企業もあれば、全く視野にない企業もある中にあっては、単に配布だけでなく、もう一工夫が必要であろう。現在、具体的なアイデアがあるわけではないが、経団連の委員会でまずは周知できればと考える。
 
○吉原委員:
 どのように仕掛けたらガイドブックを読んでもらえるか、自分の周辺の学生、教員、企業等に少し聞いてみた。ガイドブックは読もうと思えばしっかりと読むが、そうでなければただ積むだけである。最初に話があったが、何のためなのか、何が新しいのか、何が変わったのか、これで何が得られるのかといった点を、読み手に伝えることが重要である。先ほど、対象者別にセグメント分けを行っては、といった話もあったが、対象者ごとにわかるように伝えていくことが重要である。その上でガイドブックを配っていくべきであろう。
 ハードルが高いという話もあったが、実際に自分のところに来る相談で多いのは、博士を採用したいがどのように採用したいのかわからない、博士を採用したほうがいいと聞いても社内での(人事)戦略の議論が進まない、という会社もある。そのような場合、自分たちは相談者の間に入って話し、イベントの紹介等を行う。このようなケースはガイドブックを読むことにつながるのではと思う。
 また、実際に博士の採用につながった例で多いが、OBOG活用がこのガイドブック中には記載されていない。やはり人と人の繋がりがあり、修士を採用していた企業が次は博士を採用するなどのつながりが、先程のハードルの観点でいえば低いかもしれない。他にも、担当者が以前に所属していた会社で博士を採用した経験があり、転職先の会社で博士の採用を促す活動につながったという動きがある。
 
○松井委員:
 トランスファラブルスキルの評価の話題があったが、C-ENGINE(産学協働イノベーション人材育成協議会)では英国VitaeのRDF(Researcher Development Framework)を参考にしたRISEという独自の主要評価指標を作っている。4つのカテゴリー内の3つの要素から成立し、計12の要素に関して学生自身が自分の経験を通して自分の強みと弱みを分析するツールである。評価しようと思えばそれぞれの要素に対してルーブリックで数値化は可能だが、それを敢えてせずに、基本的には学生が自分の能力の評価ツールとして活用している。
 半分個人的な考えではあるが、研究力といった大きな強みに対し、トランスファラブルスキルは係数として係るものと捉えている。抜群の研究力を有する人材について、1万点の研究力を有するのであればトランスファラブルスキルの係数が0.9、0.8、0.7と低いポイントであったとしても全く関係ない。しかし、研究力500点の人材であれば、自分で自分の強みを作る、自分の価値をどのように作り上げるかを学生自身が考えることが重要ではないか。大学としては吉原委員がおっしゃっているように研究時間を削がない、研究とリンクするトランスファラブルの教育プログラムをつくることが重要となると思う。
 展開に関しては、大学執行部の力が重要であり、執行部に対して行き渡らせるためには、やはり、文部科学省や経済産業省の補助金事業の公募要領に盛り込むことがよい。補助金に応募する大学は改革に意欲がある大学なので、執行部の力で大学に浸透させていくのが効果的ではないか。
 
○徳田委員:
 トランスファラブルスキルに関して、先程の松井先生から係数であるとコメントがあったが、自分もそのようなものであろうと感じる。本学は新SPRING事業に採択されT型博士インパクトメーカーのTの横部分の議論で、松井委員からご紹介いただいたVitaeのRDF(Researcher Development Framework)を活用するほか、不足分は産総研デザインスクールから講師を招いてデザイン思考やアート思考を踏まえている。デザイン思考やアート思考も踏まえた指標と見ている。RDFに関しては、資金管理や創造性、協働する能力、専門家としての行動等、まさに研究で培えるものが多く、専門知と対立するものではない。
 これを生み出した英国では、10年前からIATという、政府資金によってそれぞれの能力を高めるための200のプログラムが準備され、各大学にて実践している。その効果に関してはまだ論文を読んでいないが、各大学や企業が試行錯誤して実施するのも良いが、やはり科学的知見に基づいてプログラムが体系的に開発されている先行例を見据えて、日本としても、政府として、文部科学省や経済産業省として進めていくのかを是非考えていただきたいと思っている。負担は現在全て現場にきている。
 ガイドラインの普及方法としては、大学が開拓する営業ツールの1つとして使っていくしかないし、使っていくのが最も効果的であろう。最近、本学ではかんぽ生命とアライアンスを締結し、人文社会科学系博士人材を初めてかんぽ生命のインターンシップで受け入れてくださった。背景としては、本学からの積極的な提案により、博士人材をDX、クオンツ、アクチュアリーの分野で高度専門人材としてインターンシップで受け入れても良いという判断をされたものの、どのような受入形態にして良いのかが課題となった。そのような状況の中、各社の状況、国内外の状況、博士人材採用のメリット、資金の有効活用などの話をしたことで、本学の強い想いが相手に刺さり、今回、2か月の人文社会科学系博士人材長期インターンシップが実現した。今後もこのような形で進めることができるコミュニケーション型の営業ツールとして展開することにより、産学の対話が深まるのは間違いないと思う。一気に、活用ツールとして広まるものではないが、確実に広めるためにも使って行くしかないと感じた。
 
○佐々木委員:
 以前にも話したが、大学キャリアセンターの現役担当者のグループがあり、約20~30大学が参加している。参加大学には博士学生が多く在籍しており、大学としても博士学生がもっと民間で活躍するためには何かやらないといけないという点を認識している。それでは博士学生のマッチングイベントを実施してはどうかという声があがるが、各大学が個別に実施することは時間的にも労力的にも大きく負担である。また、企業に1つずつ当たっていくことも負担が大きく、また、各大学からのアプローチ先が集中することにもなる。もっと博士の採用実績がある・採用したいと思う企業が簡単に把握できると良いと現場では感じている。例えば、業界団体等で採用希望企業一覧などあれば、もっと早く動けるのではないか。
 トランスファラブルスキルに関しては、ガイドブックの中にコラム的に掲載してはどうか。学生にはどのような能力が企業で求められるのか、研究力にプラスαとなるのかがわからない。例えば、企業と共同研究した経験、社会実装プロジェクトへの参加経験、社会調査などで多くの人を仕切った経験がある、などが企業で評価されるのであれば、研究を通じてこのような能力は有しているはずであり(それが評価されるということを)コラムで掲載すると良いかもしれない。
 また、ガイドブックの巻末等にイベント等の共通した情報はまとめて掲載し、関心を持った際の問い合わせ先等記載するとわかりやすいのではないか。企業は企業のところだけ、大学は大学のところだけに掲載するのではなく、読み手にとって相談先等がまとめて掲載されていると使いやすいと感じる。
 なお、大学編のコラムに大学職員について記載されており、確かにURAやUEAもあるが、気になったのは「安定的ポストとして用意すべき」と記載されている点である。元々URAなどの制度は大学改革の大きな流れの中で政策的に作られた制度であり、その方針を受けて各大学で雇用してきた経緯がある。大学が安定的ポストを用意すべきと、急に大学にのみ責を問うことに対しては指摘もあると思うので、表現は考えたほうが良いのではないか。
 
○川端委員長:
 今回の検討会での議論を踏まえた修正については委員長に一任いただき、後日、事務局から修正点を個別にご相談させていただきたい。そのような取扱とすることにご異議はないか。なければそのように進めていくこととする。
 
(意義なし)


4.閉会

○経済産業省大臣官房 今村 審議官(イノベーション・環境局担当)
 第6回検討会ではガイドブックと、その周知方法についてご意見をいただき感謝申し上げる。それぞれのご意見に共感し、かゆいところに手が届くようなご提案もあった。ガイドブックにはしっかりと反映したい。これまでも博士人材の活用に関しては検討を進めてきたが、なかなか実現まで結びつくことができなかった。しかしながら、社会的な機運も高まってきたこともあり、この機運を逃さずに変革のターニングポイント、潮目をしっかりと捉えていきたいと思っている。ガイドブックは年度末にむけて、もう一度、頂いたご意見等をとりまとめて反映しながら作業を進めていきたい。最後までもう少しお力添えいただきたく、何卒よろしくお願いしたい。
 
○文部科学省科学技術・学術政策局 先﨑 科学技術・学術総括官:
 この検討会も第6回目の開催となった。仕事柄、多くの会議に参加しているが、この会議は非常に楽しみにしていた会議の1つであった。特に最後の2回の会議、そのうち特に今回は、数多くの厳しいご意見をいただいた。そこはやはり我々が当初作成したものは役所の文書であったが、そこに皆様の知見や経験から魂をいれていただいたと感じている。現在のガイドブックの作成はミッションではあるが、それ以外にも皆様からいただいた意見を踏まえて文部科学省としては文部科学省の仕事を、今後も深めて広めていきたいという思いを新たにした。委員長に一任いただいたが、もしまだ足りないのであればもう少し時間はあるのでぜひご意見お寄せいただきたい。ありがとうございました。
 
○川端委員長:
 ありがとうございました。この後、文部科学省と経済産業省の担当者で修正作業を進めた上で、次回の検討会では、今後の周知・促進方法等に関してご議論いただきたい。改めて事務局より日程調整依頼をする。これにて本検討会は終了する。ご多用のところをどうもありがとうございました。
 
(閉会)
 

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