博士人材の民間企業における活躍促進に向けた検討会(第5回) 議事録

1.日時

令和6年12月18日(水曜日)10時00分~11時30分

2.場所

オンライン

3.出席者

委員

(◎委員長)
◎川端 和重  国立大学法人 新潟大学 理事・副学長
 井原 薫 株式会社島津製作所 執行役員 人事部長
 大河原 久治 株式会社日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 タレントアクイジション部 部長
 酒向 里枝 一般社団法人日本経済団体連合会 教育・自然保護本部長
 佐々木ひとみ  学校法人東京家政学院 理事・特任教授
         元早稲田大学常任理事(職員人事・キャリア支援担当)
 髙田 雄介 中外製薬株式会社 人事部長
 松井 利之 大阪公立大学 副学長 国際基幹教育機構 高度人材育成推進センター長
 山田 諒 株式会社アカリク 代表取締役社長
 吉原 拓也  北海道大学 大学院教育推進機構 副機構長
 鷲田 学 株式会社サイバーエージェント AI事業本部 人事室長

事例紹介

 伊藤 毅 Beyond Next Ventures 株式会社 CEO

関係省庁

 森友 浩史 文部科学省 大臣官房 審議官(高等教育局担当)
 髙見 英樹 文部科学省 高等教育局 高等教育企画課 高等教育政策室長
 先﨑 卓歩 文部科学省 科学技術・学術政策局 科学技術・学術総括官
 髙見 暁子 文部科学省 科学技術・学術政策局 人材政策課 人材政策推進室長
 今村 亘 経済産業省 大臣官房 審議官(イノベーション・環境局担当)
 川上 悟史  経済産業省 イノベーション・環境局 大学連携推進室長

4.議事要旨

1.開会
○川端委員長:
本日は事例紹介としてBeyond Next Ventures 株式会社伊藤毅様にご参加いただいている。

〇文部科学省大臣官房 森友審議官(高等教育局担当):
お忙しい中出席をいただき感謝申し上げる。前回の検討会で手引き・ガイドブックの骨子について委員から意見をいただいた。今回はいただいたご意見をできるだけ反映してたたき台を作成した。このたたき台について本日はご意見をいただきたい。また、特に議論いただきたい点について整理し資料2として配布している。より実用的になるように率直なご意見をいただきたい。

2.議事
(1)「博士人材の民間企業における活躍促進に向けた手引き・ガイドブック(仮称)」たたき台について
○経済産業省イノベーション・環境局 川上大学連携推進室長:
 前回、第4回検討会では骨子案を事務局より提示してご議論いただいた。今回は本検討会での最終的なアウトプットとなる手引き・ガイドブックのたたき台としてお示ししている。
本日はこの中身についてご議論いただきたい。
 資料1がたたき台である。前回は骨子として章立てと主な項目をお示しした。今回、章立てはほぼ踏襲しているが、表紙、はじめに、企業への手引き、大学への手引き、学生の皆さんへ、事例集という構成である。
「はじめに」、次に「手引き・ガイドブックの狙い」としている。企業への手引きでは最初に考え方、全体の流れ、経営戦略での検討からプラクティスへの落とし込み、入社後の活躍迄含めてまとめている。例示として考え方・具体的取組、参考となるものはできるだけ具体的に示すようにした。現在1ページにおさまっているが、見開き2ページで柔軟なものとしたい。レイアウトも完成形に近いものになっている。全体的な中身や見せ方に関してご議論いただきたい。
 資料2は、今回、具体的に議論いただきたい論点について参考までに事務局がまとめた。
1点目が全体的な記載内容についてだが、これまで取組を行ったことがない企業や大学も含めて記載すべきこと、2ポツ目、取組をさらに一歩進めるために国が方針を決めることで社内・学内でも意思決定しやすい等の観点でお答えいただけるとありがたい。2点目の個別の項目に関しては、これまでの事例等も交えながらご意見をうかがいたい。また、全般として、レイアウト、みやすさ、文章が多いのではないか、等、現場担当向けに骨格を固めて肉づけをしていきたい。個別にうかがうこともあるが、本会議終了後でも構わないのでご意見をいただけるとありがたい。来年の次回検討会に向けて今回肉付けしたものを提示できればと考えている。年末年始の多忙な時期に事務局からも問い合わせをすることもあるかと思うが、ぜひご協力いただきたい。

○川端委員長:
 事前に文部科学省担当者と話したが、巻末に全国で実施されているマッチングイベントの問い合わせ先リストを掲載してはどうか。イメージとしては旅行ガイドブックのように、どこからみても楽しそうで、思わず、問合せしたくなるようなものになると良い。

○山田委員:
 全体を見させていただいた上での意見として数点お伝えしたい。
 まず1点目、博士課程学生の就活スケジュールを可視化すると企業側も学生側も動きやすいであろう。理想的には博士課程の学生の就活スケジュール感も可視化すると良いと思う。アカリクは博士課程学生向けキャリア支援をしているが、当社サービスへの学生の登録のピークがある。活動検討のタイミングとしては、博士課程1年への進学、2年目への進級、博士2年の年明けの大手企業による選考開始、博士3年目後半のアカデミアや学振PD 申請のタイミング等、恐らく2回であろう。そのスケジュールをお互い把握すると動きやすいと思う。
 2点目は参考までであるが、最近、当社でキャリア支援を行う印象として、キャリア採用枠での検討が加速しているように思われる。新卒学生の採用にはそれほど困ってなくとも、キャリア採用や中途採用で苦戦しているところで、専門性やトランスファラブルスキルで判断して新卒博士をキャリア採用枠で検討される企業もかなり増えてきた。ここを踏み込んでいくと今後は幅が広がっていくと思われる。
 3点目、Q&A 集があると、未だ始めてない・検討中の人にとって親切な手引書になると思われる。

○川端委員長:
 今の話はぜひ加えさせていただきたい。博士課程学生の就活スケジュール上で、意思決定の動向で特定のタイミングだと反応が良い等があるとのことだが、ただのスケジュールではないということか。

○山田委員:
 その通りである。様々な学生がいるなかで、動きやすいのはこの4つのピークという意味である。

○吉原委員:
 今回のガイドブックはかなり網羅的に書かれている。その中で、ポイントとして、少しボリュームを割いたほうが良いのはマッチングであろう。博士課程学生は1つのペルソナではなく、そこから外れた、多様な博士がいる。山田委員のご指摘のあったスケジュール感も、専門領域によってもかなり異なっている。製薬業界は圧倒的に早い時期から就職活動がスタートし、一般的な認識では乗り遅れてしまう。多様なことは学生も企業も双方であるが、多様な方法があることを示したほうが良い。また、委員長が冒頭におっしゃっていたように、このようなガイドブックで基礎として学んでいただき、その上で様々な分野でどのようになっているかと見ていただくことが重要である。その際に、やはり博士の場合はマッチングが非常に重要となる。博士は研究をやりたい学生もいれば、開発志望もいるし、コンサルを希望する例もある。その実態を知るためにマッチングの場に実際に参加して実際に学生と意見交換をしていただきたい。世間には博士の一般的な情報はあるが、博士の本音は公には語られていない。就職に関しては博士の本音を理解していないと良いマッチングができない。大学で実施しているイベントに企業も参加し、博士当人を理解したうえで次のステップに進むなどについても解説すると良いと思う。

○川端委員長:
 表面的な理由にふりまわされているということか。本音は違うところにある、ということか。

○吉原委員:
 博士課程学生の採用とは、実際は中途採用にかなり近い。学士や修士の新卒とは異なり、個人的な事情を抱えていることも多い。そのあたりを見ていただきたい。

○髙田委員:
 手引き・ガイドブックのたたき台を拝見し、このように形にして作り上げることの重要性を再認識した。これまで博士人材の採用意向があまりなかった企業に対して、最初に見て採用を検討する視点を提供できる良い冊子になっている。次のステップとして、修士ではなく博士を採用する理由や、博士人材を採用するメリットについて更に掘り下げることを提案する。また、博士人材に対する興味を喚起するコンテンツがあると良い。例えば、文部科学省のロールモデル集との連動なども検討すると良いのではないか。また、読みやすさを向上させるため、冒頭にチャートや主要論点の要約を追加し、本文中に具体的な事例を挿入するなど工夫してはどうか。全体的に文字量を調整し、視覚的な要素を増やすことで、読み手がより内容に入りやすくなると考える。この手引き・ガイドブックは、今後もアップデートされると思うが、初回のたたき台としては非常によく体系化されていると思った。

○川端委員長:
 アップデートはあるとして、まずは第一段階である。博士の魅力、また、もう一歩踏み込んでどう考えたら前に進むか。企業の人事部が博士の採用を検討するのか、事業部門や研究所が意思決定するのか、企業の中でも多様である。そこを大学側ではどうしていいのかわからない。その観点での発信のさせかたもあるかもしれない。

○井原委員:
 とても体系的にまとまって読みごたえのある中身になっていると自分も感じた。もう少し別の視点でコメントしたい。吉原委員がご指摘していたが、企業としてもマッチングは重要視している。しかし、非常に難しく苦労している。企業と学生がお互いにステレオタイプのイメージを持っているので、この学部の専門では当社に合わない等、企業側にも学生側、大学側にもある。そこに一歩踏み込んで、そこから更に踏み出せるように記載をすると良い。当社でも意外な学部からの採用例もある。関連して、大学への手引きの項目での博士人材ロールモデルの掲載予定であるのであれば、例えば、こういう学部がこういう会社で活躍、という当たり前のところ以外に、ステレオタイプを外れたような活躍例があると、企業としても発見がある。大学だけではなく企業側にもメリットがあろう。また、この研究会に参加したことで各大学の取組を知り、とても勉強になったということもあり、企業と大学が交流の場について手引き内に掲載すると企業側にはとても参考になると感じた。

○川端委員長:
 所謂、王道での分野での王道の採用だけではなく、多少外れた採用例を掲載すべきというご指摘。この場合はできるだけ具体的に記載しないと単なる特異点(偶発的な事例)にしかみえない。なぜ、そのような人材を上手く採用できたのか。そのような事例はあるか。

○井原委員:
 当社の場合、学生がイベントに参加して社員と直接話をした中で当社に関心をもっていただいた。その点でも企業と大学をつなぐイベントは有効に機能している。出会いのきっかけのエピソードとして掲載するととても参考になろう。

○川端委員長:
 そのようなストーリー建てが重要である。どこで出会ってどのように発展したか。

○大河原委員:
 全体として、前回の骨子案からこのように文章化されて形になると非常に体系的でわかりやすくなったと、率直に感じた。非常に良い形になっている。その上で、3点ほど感じた点をコメントする。「トランスファラブルスキル」について、いくつかの箇所に言及してそれぞれ注釈もついているが、その中の1か所で構わないので図をつかうなどして、トランスファラブルスキルをわかりやすく説明してはどうか。その中で、博士人材とは全部に秀でているのではなく、博士人材とは相対的にどこに強みがあるのか、もう少し可視化できると良いであろう。それにより博士人材の採用が進んでいない企業でも採用を検討しやすくなるのではないか。
 2点目、採用活動のスケジュールについて、記載の枠は既にガイドライン中に確保されているのでこれから何か記載されるのであろうが、既にご指摘あったようにスケジュールは通年採用の形式で、個々の学生に応じた個別対応が必要で、むしろキャリア採用に近い形式になっていくと思われる。それがこの枠の中で示されると良い。井原委員のコメントにもあったが、どういう形で博士課程学生と接点が持てるのか、スケジュールでどのような段取りで進むのかが見やすくなろう。
 3点目、基本的には企業と大学向けの手引きという前提は理解しているが、学生へのメッセージにもう少し厚みがあっても良いのではないか。例えば、インターンシップを通じてどのようなことが学べるか等をもう少し記載する。キャリアを検討する学生が一歩更に踏み出せるような仕掛けになる。キャリアを考える点で学生の背中を押すような形に仕向けられると良い。

○川端委員長:
 ご指摘の最後の点、現在は企業向けと大学向けのガイドラインに注力しているので、学生向けに関しては今のような話を掲載するのであろう。キャリア採用は学生自身がよく理解していない。そのまま放って任せておくと学生は一括採用に申し込む。キャリア採用とは何か、学生へのメッセージをいれると良い。インターンシップも義務的なものではなく、インターンシップの魅力があることを伝えられると良い。海外留学には時間がかかるがインターンシップへの参加も同様に時間がかかる、という中で、どちらが魅力的にみえるかが伝わ
るといい。

○酒向委員:
 今回、体系的に示していただいたので、非常にイメージが湧いた。細かい点として、ガイドブックという位置づけにも拘らず、「取り組むべき」という表現が複数の箇所にあるが、これは「取り組みが奨励される」という意味と理解している。企業の経営戦略に基づいて人材戦略が策定されるが、博士人材の採用を人材戦略に位置付ける前段階の企業もある。既に他の委員も指摘されているが、なぜ博士人材なのか、学士・修士と博士人材は違うことが共通認識となることが重要である。多くの企業は、6ページ目の前の段階であろう。企業において大卒以上の採用者のうち博士人材は未だ3%程度でしかないことが我々の調査でわかっている。多くの企業にとって博士人材の採用はまだ遠い存在である。今回のガイドブックを活かすためには、さらに仕掛けが必要であろう。
 8ページ目は、企業の求人情報を含むPR 内容を記載しているが、PR 内容に企業がどのような人材を求めているかが、記載されていないのはなぜかと素朴に感じた。ジョブ・ディスクリプションに含まれるため、ここには記載しないということなのか、確認したい。PR 内容は非常に外形的なので、「博士人材の活躍状況」の中で企業が求める人材像を示してはどうか。
また、24 ページに、外国人留学生には日本語能力が必要とされる可能性があると記載しているが、就職にあたり英語でも良いのか否か等は8ページにも記載する必要があろう。細かい点は後程指摘するが、論点の中にある、「企業や大学が行動を起こしやすくなるように追記すべき内容」として、冒頭で委員長からコメントがあった通り、コンソーシアムでの事例なども記載してはどうか。企業は関心を持つと思う。非常に興味深い取組を実施しているので、是非PR すると良いであろう。
 論点の中にある、「国が取り組むべきこと」として、若手研究者支援を今後も継続して取り組む点を、若手研究者向けに、予見可能な形で示すことが必須であろう。今は、若手支援がかなり注目されているが、一過性ではないことを国としてしっかり示したほうが良い。予見可能性を高めるべきである。

○川端委員長:
 最後のご指摘は章立てするよりは、メッセージとしてうまく伝えることが重要であろう。
国の支援の取組を知っている学生もいれば、知らない学生もいる。細かい言い回しが全体のトーンを決めるので、重要。強制ではなく、旅行ガイドブックのように読んで楽しくなるようなものになる。

○鷲田委員:
 これまでの4回迄の議論を通じて、また周辺企業の人事とも話したが、博士人材の解像度があがらないと言われている。企業側はあくまでも研究者採用としての営業活動で学生とコミュニケーションをしてきた。しかし、研究者以外での博士人材の活躍事例もあることをしっかり事例としてこれから博士人材を採用する企業には伝えていくべきであり、自分も伝えていきたいと思う。
 一方、学生と大学に対して用意されたコミュニケーションの機会において、先入観から研究開発志望と思っていたが、実はより社会実装寄りの関心を持っていることもある。当社の例ではプロダクトマネジメントに興味を持つ学生もかなりいると感じた。両方の解像度がお互いに足りないのでイベントの生の声も含めた情報提供には取り組んでいきたい。
 また、ガイドブックとは異なるが、今後、企業側への営業活動をどのように行うのか、あらためて危機感を感じたところである。

○川端委員長:
 マッチングに関して、どこから営業活動が開始されたのか。大学でコンソーシアムを結成した頃から営業活動が開始したのだと思う。以前は事務の担当者が情報をまとめて学生が見たければどうぞというだけであったが、大学側でマッチングイベントが始まり、コンソーシアムを立ち上げたあたりから、各大学で営業をはじめた。吉原委員などのような方が活動的に動かれて、日本中にかなりの人数になった。相談する相手先として最後にリストで掲載すると良い。

○佐々木委員:
 指摘のなかったところで、大学部分をメインで拝見した。おそらくかなり苦労したのかと推察するが、企業向けと大学向けのトーンが書き手により異なり、雰囲気が違う。大学側の書きぶりは、ここが重要である、考えられる、という記載が多く、どの点から注力すべきかが具体的ではない印象を受けた。その意味で、先ほどの若手研究者の話のように、研究者の支援や博士課程学生の増加に関しては国としての方針が見えると大学側は比較的動きやすいであろう。
 2点目、学生へのメッセージに関しては、いきなりキャリアデザインの検討となっている。前回の検討会でも指摘したが、企業に入ってから研究を続ける、企業での面白さを学生向けメッセージに入れたほうが良いと思う。例えば、研究を社会実装に活かし、社会の改革に直接的に関与できる、ダイナミックに社会に研究を活かすという面白さがある点を学生のメッセージのどこかにいれたほうが良いであろう。このガイドラインを学生がどのように利用するか、ジョブ型研究インターンシップもだが、研究室や大学から離れて1人で就職活動に悩むような場合に、先ほど活動リストをつけるという話もあったが、具体的にこうしたらいい、こういうところがあるという情報提供をしてもらいたい。
 もう一点、学生を考えると、トランスファラブルスキルの話もあったが、企業に入ってからどう活躍できるのか、具体的にどのような能力が必要でどう活躍するのか等がわかりにくい。もっと具体的な事例があるとわかりやすいし、大学としてもそのような人材をどう育成するのか、未だ着手できていない大学でもわかりやすくなり、教育プログラムをつくっていこうと考えられるのではないか。
 最後に、図式やマッチングに関しては、重要になるのは修士や学部生にあるようなとりあえず採用する、採用してどうするか考える、能力に関係なくどのポジションでも良いという採用ではなく、できあがった人材としてどう考えていくかといったときに、まずはお試しができるインターンシップのような機会やなにかの機会があり、お互い知りあって、試した上での採用となったほうが企業にとっても学生にとっても安心感がある。その点では、学生側のスケジュールだけではなく、情報収集があり、出会いがあり、企業・大学・学生という三方からの参加がわかるような図式が1つあるとわかりやすくなる。

○川端委員長:
 まさに旅行のガイドブックのようなものであろう。ゴールに向かって道があり、イベントがあるようなもの。学生が自分で歩けるようになるための目線、ガイドブックはそれぞれ3つの異なる目線で構成されている。

○徳田委員:
 非常に体系的でかつ網羅的になっている。非常にわかりやすくアクションリストをアクターごとにまとめていただいている。大学向けとして5章の事例集で企業に採用実態が掲載し、手引きを参照することで理解できる。大学内のキャリアパス推進室の担当チームと早速情報共有してディスカッションしていきたいと思っている。
 その上で2点コメントだが、1点目、ガイドブックはその点で優れているが、よりユーザーを考えた際に、誰に何をと考えて「誰に」の観点が必要であろう。先ほどの吉原委員のご指摘にあった、博士人材も多様であれば受け入れる側も多様である。その中で、今回のガイドブックはストレートの理系の博士人材を想定しているのであろう。全体の多様な博士人材の中で、今回はストレート理系としていること、また、受入先も民間企業をターゲットとしている。海外事例では活躍先には公務員、起業もあるが、その全体像の中で今回は企業であることを見せれば、担当者が見た場合に今回はここにフォーカスされているとわかりやすい。
 2点目、レイアウトに関して、髙田委員からのコメントにもあったが、冒頭に図や写真が入ると良いであろう。章立てとして、5章で事例集も掲載されるが、一部やエッセンス「はじめに」や「企業への手引き」の間にいれて、写真入りで(男女バランスよく)活躍類型を示していただきたい。
 「はじめに」でイノベーションには博士人材が重要である、「企業への手引き」で「経営戦略と求める人材の検討」と記載することはもっともであるが、イノベーションと紐づいて博士号をもつ社員がどのように活躍しているかは、わからない企業が多数であろう。その企業に対して、戦略的に位置づけた博士人材のケイパビリティをそろえて、各部門横断的に事前にそうしたことを理解している必要がありますよと上段から説かれると非常にハードルが高くなる。例えば、A 社の○さんは博士号を有して成果があがっているとコラム形式で掲載するとか、B さんは博士にメリットを感じたので進学しているなど、導入部分で入れていただくとさらに読みやすく、親しみやすくなると思う。

○川端委員長:
 表現として、大上段からの要望ではなく、もう少し親しみやすい形にできればと思う。個人的な意見だが、トランスファラブルスキルや博士の魅力に関して、吉原委員と以前話したときに、博士の魅力には能力と性格があるという話になった。研究者を目指す人間の共通性、1つ目限りなく好奇心が強い、ひたすら探究する。2つ目、土日をいとわない情熱、3つ目は大きい意味での体系化、自分の博士論文は学問の中での位置づけと意味を徹底的に議論させられる。これは決してトレーニングで身に付けたものではなく、博士課程の選抜段階から有しており、そのうえに専門があると思っている。博士課程での3年間で何を見に付けたといった議論はよくあるが、博士とは、その道に進むための共通項があり、裏返しとしては視野が狭い、協調性がないとなるかもしれないが、そうしたキャラクターを有する集合体であり、そこに博士の特徴や魅力はあるかもしれないと捉えていただきたい。異論はあるかもしれない。

○吉原委員:
 ガイドブックに記載されていることから「はみでていくこと」を推奨していただきたい。今回は入り口として様々な方法としている。コンソーシアムのマッチング等を掲載しているが、コンソーシアムも発展していくし、大学のDX 化、企業もAI 面接などを実施している。今後、博士の採用やキャリアについても変わっていくことを記載していただけるとありがたい。

○川端委員長:
 これを出発点に今後アップデートされていくこと皆で共有できるような何かブログのようなものがあるとよい。

○吉原委員:
本学も新たな取組を取り入れるようにしているが、新たなことは、やってみると想定とは異なることも多い。しかし、新しいことを取り入れていかないと、ある程度のレベルまでは達するが、そこで止まってしまう。日本が今後世界で活躍するためには自分たちも変わっていくことが必要である、という点を記載いただきたい。

(2)企業での取組事例について
○伊藤 毅 Beyond Next Ventures 株式会社 CEO:
 簡単な会社紹介と、弊社の博士人材の採用、現場での活躍状況についてシェアさせていただきたい。
 まず自身の自己紹介について。もともとベンチャーキャピタルのジャフコに入社し、2008年から大学発ベンチャーの投資業務をしている。そこで大学とベンチャーへの投資の経験を積み、10 年前に独立し、現在は投資家の方々から約480 億円の資金をお預かりし、主に大学の研究者が開発した研究成果を事業化するスタートアップにフォーカスしたベンチャーキャピタルファンドを運用している。最近、note で、「研究者がもっと輝く社会を創りたい」というメッセージを発信したところ、いろいろな方々に関心を持っていただき、研究者からも応援のメッセージをいただいた。
 次に当社について。我々の会社の経営理念は「社会課題の解決」、「科学技術の発展」、「幸福の追求」の3つである。ディープテックのスタートアップに投資をするベンチャーキャピタルであり、我々としては投資先を通じて社会課題の解決を行っている。投資の段階もシードというかなり初期の段階であり、我々の投資したお金が科学技術の発展に寄与するということで、この経営理念を掲げている。「幸福の追求」という経営理念は、当社メンバーはじめエコシステムに関わる皆様の、仕事を通じた満足度、幸福度が上がるような意思決定をしていこうと掲げている。
 ミッションは「卓越した挑戦者たちと、その先の社会を創る」である。卓越した挑戦者の中には研究者、科学者、起業家が含まれており、その方々の、こういった社会にしていきたいという想いに対し我々が伴走し、それを一緒に実現していき、その先の社会を創るということを行っている。加えて我々自身も投資だけでなくエコシステムづくりなど、その先の社会を創るということで、このようなミッションを掲げて活動している。
 現在は日本で3つのファンドと、また日本だけでなくインドでも投資活動を手がけている。現在、日本と国外合わせて30 名のメンバー、投資先は82社となっている。ディープテックにフォーカスしているファンドでみると、10年かけてディープテックに特化したベンチャーキャピタルの中でトップティアの一角を担えるようになっている(3号ファンドが257 億円規模)。
 我々の事業はお金を出す(Investment)だけでなく、シーズのインキュベーション、経営人材の育成などに地道に取り組んでおり、これらを両輪として回していることも特徴と考えている。
 現在はディープテック全般ということで、もともと強みとしていた医療・ヘルスケア、創薬・バイオ、アグリ・フードに加え、最近では宇宙、量子コンピューティング、AI、クライメートテック、エネルギー全般に対して3号ファンドから投資をしている。1社への累積投資額を最大20 億として、これらのディープテックに投資ができるファンドを運用している。ディープテック/研究シーズの事業化支援「BRAVE」という研究者の事業化支援をするプログラムを2016 年から提供しており、博士人材がインターンシップのような体験の場として参加するのも良いと考えている。大学の現場では、研究者が商業化したいと思っても、なかなか事業化の適切なアドバイスを受けられない時代が長く続いていたため、我々がそういった経験を持っている方、専門家を集めて一堂に会して、事業化したい研究者向けのプログラムを長年行って来た。研究者だけでなく経営者人材をマッチングした上でディープテックスタートアップの創業準備チームをつくり、そこに対してメンタリングをしながら最初のシード調達ができるようなプランを2か月かけて作り込んでいくプログラムとなっている。最近は各大学や大学系のベンチャーキャピタル等において、似たプログラムも実施されるようになり、少しずつ経営人材とシーズ育成のインフラが日本にも整いつつあると実感している。資料の10 ページに過去の実績を示しており、経営人材育成も過去500名の方に参加いただいて、そのうち10%の50名の方がCEO になられたり、CXO として転職されたりと、本プログラムを通じて経営人材を輩出している。
 当社の博士人材の採用状況について。2022年に新卒採用を開始し、新卒採用した3名全員が博士であった。当時、たまたまそうなったというのが実態ではあるが、採用してみて、博士人材の能力の高さを実感している。新卒の博士人材の1人であるインド国籍のメンバーは、インド工科大学ハイデラバード校を卒業し、修士・博士と東大のPh.D.を取得し、現在バンガロールで勤務している。専攻はインパクト投資で、3号ファンドはインパクトファンドであるため、彼の知見が直接活かせており、また、インド現地での投資活動にも彼の知識を活かすことができている。他2人については日本人で医療系のバックグラウンドを持っており、1人は医療機器・メディカル領域もう1人はバイオテック、創薬・バイオを中心に投資をしている。彼らの専門性も活かしつつ、博士として培ってきたトランスファラブルスキルの両方を我々の会社で活かすことができているという実感がある。
 具体的には、14 ページに博士人材の専門スキルや強みを示している。我々の事業では研究者の方と多くの接点をつくる必要があり、また研究者のことも理解しないといけない。研究自体も、100%でなくても技術的な部分、サイエンスの部分もある程度理解が必要になってくるため、博士人材の理解する能力、自身の専門以外のところも含めて技術的なところをある程度理解できる能力を、当社博士人材は活かすことができていると考えている。右側に示したトランスファラブルスキルについては、自ら課題を設定して仮説を立ててそれを検証する、これを繰り返しやってきた経験があるため、自走していく力もあり、思考体力も非常に鍛えられているという実感がある。また、何よりもやり抜く力について、徹底的に調べ上げる、書類もきっちり作る、物事もきっちり進めていくところは共通したトランスファラブルスキルと考えている。論理的・客観的に物事を分析する力、行動を改善していく力、あらゆる業務について理解・学習が早い、こういったところが博士人材の新卒の特徴と実感している。
 ディープテックスタートアップにおける博士人材の活躍について。博士人材が活躍する場として、今後ディープテックスタートアップがかなり有望であると考えている。現在国を挙げてディープテックスタートアップを支援する流れがある中で、ここ10 年で一気に質の高いディープテックスタートアップが生まれてきている。また、そういった企業に投資をするファンドは、我々以外にもたくさん出てきているため、ディープテックスタートアップが悪くない報酬で人材を採用できる状況にますます進むと考えている。
 我々の出資先のディープテック(80社を超える)のスタートアップの中で6社(16 ページの右下に企業名を記載)をピックアップし、ヒアリングを実施した。採用対象は全体感として中途採用が多いが、一部新卒の採用を進めている会社も存在した。採用経路については、もともと大学発ベンチャーであり、所属していた研究室の博士を採用するところが非常に多いことが確認できた。一方で、専門知識以外のスキルを評価している企業もあり、博士だったら積極採用したいと考え専門領域以外の博士を採用している企業も多数存在した。採用職種については、主には研究開発部門であった。ディープテックスタートアップの初期の段階は特にR&D が大切であり、メインは研究開発の部門での採用であったが、一部専門知識外のトランスファラブルスキルを活用し、ビジネス側の職種で活躍している事例も投資先では見られた。数はそれほど多くはないが、今後増やしていける余地があると考えている。
 採用フローは、多くのケースでインターンを実施しているようである。採用プロセスの中でレポートを提出し、その評価を行うといったフローで進めている。評価ポイントとしては、知的好奇心が非常に高い、キャッチアップ能力が速い、理解度が高いといった点が共通している。自身の専門領域以外にも、非常に高い学習意欲がある、インプットがうまく先行文献等から必要な情報を入手して成果につなげる能力が高いといった声が投資先の6社から挙げられた。
 最後に、まとめと提言について。弊社Beyond Next Ventures は、博士人材は今よりもっと社会で活躍する可能性が高いと信じている。日本社会で科学者や研究者を、若者が憧れる存在にしたいと思い、我々は事業を行っている。加えて、我々は海外で事業を行っており多様なビジネスマンに会う機会が多いが、ビジネスの世界でもリーダークラスの方の多くはPh.D.を持っている。したがって、世界的なスタンダードでいえば、世界の社会のリーダーが博士、Ph.D.を持った人たちが多いことを考えると、国家戦略として、日本は博士人材を未来の社会のリーダーとして育成・輩出すべきではないかと個人的に感じている。日本にとって博士人材はそのようなポテンシャルがある人たちであり、育成・輩出していくためには適切に意図的に取り組んでいく必要があるのではないかと考える。そのための養成、トレーニング、特にコミュニケーションやリーダーシップ、マネジメント等、社会に出たときにリーダーとなれるようなスキルを大学内または大学が外部の企業に依頼し、しっかり行う必要があるのではないか。博士人材が社会で活躍するために、専門以外のスキルにも目を向ける必要がある、またそこを伸ばしていく必要もあると考えている。また我々ディープテックベンチャーキャピタルや投資先のディープテックスタートアップにおいて、博士人材の専門性と専門性以外のスキルが評価され、即戦力として現に活躍していることもあり、今後もディープテックVC・スタートアップは博士の有望な就職先になるのではないか。
 個人的に、もっと博士が若者にとって憧れる存在になって欲しいという思いがある。博士人材はかっこいい、給料が良いといった世界観を実現していきたいと思っている。かつ、社会からもとても優遇されている、特別扱いされているという世界観を実現していき、研究者を日本に増やしていきたい。今回は出口の方をまず増やすということからこの議論が始まっているため、もう少し先の話かもしれないが、並行して、例えば今の博士人材が研究者になろうとしたときに将来が不安、給料が低い等の研究者に進むネックを取り除いていくべきだと考えている。概算ではあるが、毎年1.4 万人の博士進学者に対して、300 万(授業料や生活費を含む)×3年間を支給すると約1,300 億円かかり、これは国家予算のたった0.00114%である。日本は資源がない国で、科学技術立国を目指さないといけない中でここに投資せず、どこに投資するのだろうと個人的に考えている。国としてご検討いただけるとありがたい。最後に、我々も博士人材の報酬水準をもっと見直していく必要があると考えており、博士になると給料が高い、だから博士をまず目指そうといったようなモチベーションで研究者を増やしていき、そういった方々がもっと活躍する社会を実現していきたい。

3.意見交換
○川端委員長:
 博士といろいろ話す機会があった際にベンチャー等への就職が話題として出てくる。彼らから見たら、大手企業への就職と並行して、新しいことが何かできそう等の様々な魅力を感じているようである。Beyond Next Ventures やベンチャー系の方々にとって、学生との接点はどうやって生まれたのか。

○伊藤 毅 Beyond Next Ventures 株式会社 CEO:
 小さな会社ということもあり、自分たちから優秀な研究者を自社で募集し、リクルーティングしている。また、例えばX(旧Twitter)で研究者がつぶやいているのを見て直接声をかけてインターンシップにエントリーいただく等により接点を持つこともある。普段の企業活動の中で、学生や研究者向けの起業支援などを大学の現場で行っているため、そういったところから接点ができることもある。採用目的でない活動の中での研究者との接点は、仕事柄、普段から持ちやすいところがある。接点ができたら、まずインターンシップとして受け入れ、一緒に働き、その方が実際にメンバーとして適切かどうかを見極めている。

○鷲田委員:
 興味深く話を聞かせていただいた。日本国内でも先端系の大学に訪問し、教授の方や博士課程の方と話をしていると、経営の方に入っていきたいというキャリア志向の方々も増えてきている印象がある。自社を含めビジネス寄りにも興味を持っていただけるような推進ができているのだろうと感じた。

○徳田委員:
 最近宇宙系で一緒に取り組んでいる東京大学のある研究室では、100社以上のスタートアップが出ており、大手重工業系への就職が減っていると聞いている。ディープテックのスタートアップにおける博士人材の活躍には非常に期待を持っているのだが、具体的に日本の博士人材でどういった分野の研究者が合っているのか。アメリカではSBIR(Small Business Innovation Research)という資金で、数学や物理、心理、情報等の純粋科学分野の博士の方がスタートアップに相当数就職している中で、日本ではそうなっているのか、まだ開拓されていないのか、開拓する余地があるのか、期待が持てるのか、まだ隠されたマーケットがあって活躍できそうだけど手がつけられていない人材がたまっているのか、その辺りを教えていただきたい。

○伊藤 毅 Beyond Next Ventures 株式会社 CEO:
 直接的にすぐにビジネスにつながらないようなバックグラウンドの博士の領域でも、まだまだポテンシャルはあると思っている。ただし、それが顕在化していない一番の大きな問題はコミュニケーションにある。これは研究者の方、博士の方が、自ら発信していく、企業の方にそう思ってもらえるようなコミュニケーションの部分が少し不得手であるという傾向はどうしても否めない。あることに集中して、どっぷり突き詰めていく力が強みであり良さであるが、一方で人との接点が薄らいで、限られた人としか付き合わない、ないしは共通言語でしか話さなくなる。結果的に、社会に出ると企業の方からきちんとコミュニケーションが取れない人と捉えられてしまう傾向があり、もったいない点である。そのため、大学時代にコミュニケーションの部分は何かしらの手を打って教育をしていただけたらと考えている。ただ、私が研究室にいた20年前と比較すると、博士の方はオープンになって、コミュニケーションを取れる方々が相対的に増えているという実感がある。時代とともに変わってきているため、そこをもっとプッシュしていくと、社会でもっと活躍できる可能性があるのではないかと期待も含めて考えている。

○徳田委員:
 ベンチャーキャピタルとそういったピュアサイエンスをやっている方はギャップが非常に大きい。アメリカでは(そうしたギャップを)拾えているのに対して、日本は拾えていない。このプロジェクトは文部科学省と経済産業省が一緒に取り組んでおられるので非常に我々も期待を持っており、そういったギャップをどう埋めていくかについてもいろいろ勉強させていただきたい。

〇伊藤 毅 Beyond Next Ventures 株式会社 CEO:
 その点に関して、これは深刻な状況で、まず日本に研究者をとにかく増やさないとまずい状況である。高校生へのあるアンケート結果によると、博士まで行きたい人は、アメリカは15%、中国は19%、韓国でも6%に対して日本ではたったの2%であった。この状況が続くと、研究者が今は横ばい、もしくは増えず、どんどん国の力が落ちていく一方である。我々の仕事として、博士を増やす、研究者を増やすことは、本業のエコシステムとして今取り組まなければならない重要な課題になっている。20 年後、30 年後、我々の仕事がなくなるのではないかという危機感すらある。博士の所得を上げて憧れの存在にし、若者が研究者を目指す、こういう世界に何とか日本を近づけるべく、皆さんの御協力も得たいと考えている。

○徳田委員:
 なぜ欧米ではインドも含めて博士が評価され、活躍しているのが当たり前なのに、日本では博士が評価されないのか。相対的なところもあると思うが、調査・分析もぜひ国に行っていただきたい。

〇伊藤 毅 Beyond Next Ventures 株式会社 CEO:
 海外に留学している日本人の研究者の方に話を伺うと、現地のPh.D.の人の就職先は、アカデミア以外ではGAFA や、トップクラスの人材だとOpenAI 等のスタートアップ企業である。報酬も新卒で1,500 万、2,000 万規模となっており、日本の優秀な研究者が留学するとそういった企業に就職したくなり、日本に戻ってこなくなる。このような差を早く埋めないとまずいことになると考えている。

○川端委員長:
 共感する。具体的に、よりリアルにということは様々な観点で取り組まなければならない。

○山田委員:
 アカリクも、博士の専門性の知識以外のスキルも評価しており、実際に専門分野以外のビジネス職などで活躍している社員が多く存在し、積極的に採用を行っている。この博士の専門性以外のスキルを高く評価していらっしゃるということだが、どういう形でBeyond NextVentures の皆さんが知ったのかについて知りたい。企業へ博士採用の提案をする際にいつも考えているのは、実際に博士を採用している各社はこういう専門性・スキルをどう知って採用しようとなったのかということと、これを他の様々な会社にも知ってもらいたいと考えており、知ってもらうためにどのようなアクションがいいのか教えていただきたい。

〇伊藤 毅 Beyond Next Ventures 株式会社 CEO:
 まず我々はインターンシップのプログラムを通じて専門性以外のスキルを見極めている。
 一方で、博士の方は研究で非常に忙しいため、学業の時間外や土日を含め週1日ぐらいは確保できる学生を受け入れ、業務に入って見極めているのが実態である。ただ、研究領域によってはその時間が捻出できない方もいたり、時期によっても波があるため、その代わりに、大学内でインターンシップに近いプログラムも考えても良いのではないか。例えば企業がプログラムに何かしらスポンサードし、大学内でインターンシップ体験的なことを博士の学生に提供する。そうすれば、一応学業内の時間の中で行うことができ、例えば大学としてはそれを必須にし、大学内でインターンシップ体験を得られるようになる。

○山田委員:
 アカリクも博士を採用したことで良さが分かり、もっと採用したいという希望が増えているが、最初のきっかけとスキルをどう理解してもらうかが大事と考えている。インターンが非常に有効的だと思いつつ、大学の中でこういうカリキュラムや、企業からの寄附講座ないしは学内でのインターンシップ、そういったところで接点を持ち、博士人材の能力の高さを理解していただくことが重要と理解した。

(3)「博士人材の民間企業における活躍促進に向けた手引き・ガイドブック(仮称)」についての追加意見
〇伊藤 毅 Beyond Next Ventures 株式会社 CEO:
 非常に整理されていると感じた。企業向け、学生向け、大学向けと読み手によって中身を少し変えたものをそれぞれに伝えていくことは必要と考える。ただし、このようなガイドブックを行政が発行しても読まれないことがある。政府が出しているレポートはもったいないと思うことがある。もう少しプロモーションしていくことを国に期待したい。大変失礼ながら行政はプロモーションや周知が比較的得意ではないと考えており、適切な座組をつくり、学生や大学に周知していくことの方が大事ではないか。書いてあることは答えとして既に分かっている話もあり、浸透の方をうまく工夫して実行していただきたい。

○川端委員長:
 まさにこれ自体がラストワンマイルである。制度自体はみんな知っていて、様々なものがあって作り込まれてもいるが、実際に使おうというときに次の一手が分からないことが多い。ガイドブックのプロモーションについて、そういったイベント等が重要な意味を持つのだろうと考える。そのため、ラストワンマイルは一番コストと手間がかかる。それまでの制度よりも最後のところが最も大変であり、腹を括って取り組む必要がある。

〇伊藤 毅 Beyond Next Ventures 株式会社 CEO:
 また、もう少し文化形成も考えるべきかと思った。日本全体で研究者を増やさないといけない、博士人材がもっと活躍する社会にしないといけないということを、世の中に共通認識してもらえるような文化形成が必要である。具体的な手段でこうやります、というのとは別に、そういった機運を高めていくことも重要である。

○川端委員長:
 文部科学省も内閣府も経団連も皆同じような意識をお持ちで動かれていると感じるが、もう一歩という感じがある。

○酒向委員:
 学生に対する愛、配慮がもう少しあってもいいと考えている。企業で働くとどんなメリットがあるのか、学生が安心するようなメッセージがもう少し書かれてもいいと感じた。追って具体的な意見を提出したい。

○吉原委員:
 先ほど伊藤氏のおっしゃったことは非常に重要と考える。ガイドブックを公開しただけでは読まれないと思っている。ガイドブックを作ることで、コンテンツを作ることは大事だと思うが、それをガイドブックの形そのままで配っても、多くの方々に読んでもらうのは少し難しいのではないか。今の人たちが読む、要はこれを届けたい人たちが読む形に変えていくことが大事。ただ読んでもらうだけではなくて、そこに関して議論してもらう等が効果的なのではないか。

○川端委員長:
 誰にどう届けるかについて、作成の出発点から議論があった。ターゲット等を明確にした上で今回はここといった作り込みになっていったほうが読まれるのではないか。

○大河原委員:
 伊藤氏の話を聞いて非常に刺激を受け、日本国民の一人として非常に危機感を持ち、共感した。博士課程の学生の強みが企業側に伝わらないのはどういうことか考えたときに、コミュニケーション力や発信力等の弱さが、企業側に博士人材の良さがなかなか伝わらない一つの要因になっていると感じたため、育成の中で強化していく必要性が高いと考えた。

○髙田委員:
 現状では、各種イベント、情報交換およびアンケートなどが、各企業と各大学の個別のやり取りに留まっているケースが多いため、前回のコンソーシアムの議論を踏まえ、啓発活動と並行して、様々な取り組みを一元化し、マッチングを促進するような仕組みがあると良いと考える。

○佐々木委員:
 各大学のキャリアセンターの方たち、比較的トップスクールの方たちと一緒に検討する団体の活動を行っているが、その中でいくつかの理系の国立と私立のキャリアセンターの方たちが一緒に取り組もうとしている話がある。学生の参加については大学がその学生に声かけすればよいが、イベントを集約して企画するとなると、キャリア側の労力が非常に少ないことと、企業への声かけについて集客の方法等、具体的な労力として人的な労力がかかることが課題となっている。予算と人手がない中でどのように取り組むか。コンソーシアムの形成は、そうしないとできないのでやっていくしかないのも分かるのだが、具体的にどのように予算と人手を捻出するかが次の課題としてある。大学側でどのように動かしていくと、自分たちの学生にとっても、あるいは大学全体にとってもいいのかが見えづらい。このガイドブックの中でも、支援してくれる機関等にどのようなものがあるか(例えば商工会議所)等の情報が掲載されていると良い。

○川端委員長:
 熱意のある人たちで盛り上がっても大学内で人件費や費用の出どころ等の課題にぶつかってしまう。もう少し広い観点で、やれるところからやり始めてはいるのだが、それをどうしたら広げられるか。文科省事業なども含めて一緒に行うと良いのか。

○井原委員:
 情報共有という観点でコメントしたい。企業の中でも博士人材が欲しい部門とそうでない部門があり、人事としてこういう人はきっと輝けるのにと思いながらも、会社の中でのマッチングが人事の課題として考えている。博士を採ろうとなったときに、どこがどう動くのかが課題としてあるため、企業でも、大学と同じような課題があると思っている。
 このガイドブックをまず見ていただけるきっかけをどこかでつくらないといけないと考える。ただ配布して終わりではなく、このガイドブック自体の見やすさとあわせて、このガイドラインのプロモーションについても活動をお願いしたい。

○徳田委員:
 手引きを活かしていくという観点から、今後どういった政策を打っていくかを考えていただくために、国として検討材料がたくさん出てきたと思っている。博士人材の育成については日本全体で育てていこうというカルチャーが出ていると感じており、まさに文部科学省の一丁目一番地の施策になってくるのではないかと期待を寄せている。
 そういった中で、まさにこのような検討会の場を持っていただいていること自体に感謝申し上げたいが、まず実態の調査をしっかりやっていただきたい。なぜ欧米では博士が評価されるのに日本では評価されていないのかという基本的なことについての調査・分析や、マッチング市場の制度設計、あるいは整備もしていっていただきたい。よく大学発の研究開発の成果が社会実装されない、魔の川とか、死の谷とか、ダーウィンの海と言われるものがあるのと同じように、博士のサイエンティストを企業で雇うと、同じような谷、川がある。それをどう乗り越えていくかというこのギャップを埋めていくために、例えばトランスファラブルスキルの標準的な評価軸を整備していただくことで博士の能力の見える化をぜひ図っていただきたい。
 今は様々な指標があるが、例えば英語の能力についてCEFR(Common European Framework of Reference for Languages)という国際標準があり、世界的に共通でその能力に応じたカリキュラムが整備されているにも関わらず、日本は様々な英語のプログラムがばらばらに存在し進められているため、英語能力がどれだけあるのかすら標準的に測れない。そういった評価軸、標準の整備を行うことが政府の役割と思っている。トランスファラブルスキルの標準的な評価軸の整備や、カリキュラムづくり等を含めた政府の次の施策、来年度、再来年度に向けての取組等に、ぜひこのガイドブックを活かしていただきたい。

○川端委員長:
 同じ思いを持っている。人事評価や人材育成について企業の方々と話をする機会があった。成果が出るのに時間がかかることや、育成による成果、成果の評価等について話しした際に、本当の研究開発やドクターというものを測るのに、その土俵の上で測っていていいのかと考えた。能力として測る部分は、それはそれであっていいのかもしれないけれども、それとは違う部分があるように感じた。例えば海外だったらどのような指標で測られているのか。

○鷲田委員:
 どうやって浸透させていくかについて、国を挙げて博士人材の活躍をどのように目標を決め、誰が行うのかという、先ほど一丁目一番地というキーワードも出ていたが、そのプライオリティで大号令をかけないと浸透しないと考える。諦めているわけではなく、そこに企業側がどう関われるか、ヒントが見つかればと思いながら話を聞いていた。

○川端委員長:
 この委員会を経済産業省が核となり、文部科学省と一緒に設立し、いつになく大きな話題になっている。博士をどうするかといった話、企業側で博士という単語を聞くようになってきたように感じる。それがどうつながるかはこれから期待するところであるが、企業から前向きな話を声かけいただくことがあり、今までは全くなかった変化と感じている。せっかくの機運が生まれつつあり、経団連や内閣府等の様々な方々が動かれているところが順々に集まってもいいし、広がってさらに強くなってもいい。少なくともこういった機運が出ていることを嬉しく思う。

4. 閉会
〇文部科学省科学技術・学術政策局 先﨑科学技術・学術総括官:
 幾つもの大きな論点をいただいた。
 相手の本音が分からないといいマッチングができない、交流の場・マッチングイベントの具体例、あるいはインターンシップで何を学べるのか、学生の背中を押せるようなものはどういうものなのか。あるいは就職までのスケジュールについて、新卒であっても博士後期課程学生の場合、実際は個別採用、キャリア採用に近いが、学生はそれが分かっていないこと等についてどう伝えるかを考える必要がある。分野によっても採用のシーズが異なり、チャートやグラフで分かりやすく示すこと。トランスファラブルスキルの図示。トランスファラブルスキルや博士の特性とはどういうものなのかについて、好奇心や分析、やり抜く力、パッション、あるいは体系化するトレーニングを積んでいる、吸収力が高いということ。学生が1 人で歩けるようなチャートのようなものがあると良いといった指摘もあった。ロールモデルについて、ステレオタイプで誰もが考えつくような博士の活用だけではなくて、研究職以外にはどんなところに進出し、そのきっかけ・出会い、企業の中でどう成長していったかというストーリー性があると良い。あるいは学生向けに、スキルを社会に直接活かせる面白さみたいなものがあること、Q&A を作ったほうがいい等、様々なご指摘があった。これらの指摘をしっかりと成果物に反映させていく必要があると考えている。経済産業省ともども、私ども文部科学省も取り組んでいかないといけないという思いを新たにしたところである。

 

(閉会)

お問合せ先

高等教育局高等教育企画課、科学技術・学術政策局人材政策課

(高等教育局高等教育企画課、科学技術・学術政策局人材政策課)