令和6年11月21日(木曜日)14時00分~15時45分
オンライン
(◎委員長)
◎川端 和重 国立大学法人 新潟大学 理事・副学長
井原 薫 株式会社島津製作所 執行役員 人事部長
大河原 久治 株式会社日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 タレントアクイジション部 部長
酒向 里枝 一般社団法人日本経済団体連合会 教育・自然保護本部長
佐々木ひとみ 学校法人東京家政学院 理事・特任教授
元早稲田大学常任理事(職員人事・キャリア支援担当)
髙田 雄介 中外製薬株式会社 人事部長
松井 利之 大阪公立大学 副学長 国際基幹教育機構 高度人材育成推進センター長
山田 諒 株式会社アカリク 代表取締役社長
吉原 拓也 北海道大学 大学院教育推進機構 副機構長
鷲田 学 株式会社サイバーエージェント AI事業本部 人事室長
伊東 幸子 東京科学大学 副学長(学生支援担当) 学生支援センター長
守島 利子 東京科学大学 学生支援センター 未来人材育成支援室 マネジメント教授、キャリアアドバイザー
和泉 章 東京科学大学 アントプレナーシップ教育機構 キャリア教育実施室 特任教授
前村 好士 一般社団法人蔵前工業会 事務局長
青柳 宏 一般社団法人蔵前工業会 会員部会副部会長
森友 浩史 文部科学省 大臣官房 審議官(高等教育局担当)
髙見 英樹 文部科学省 高等教育局 高等教育企画課 高等教育政策室長
髙見 暁子 文部科学省 科学技術・学術政策局 人材政策課 人材政策推進室長
今村 亘 経済産業省 大臣官房 審議官(イノベーション・環境局担当)
川上 悟史 経済産業省 イノベーション・環境局 大学連携推進室長
1.開会
○川端委員長:
本日は、東京科学大学、一般社団法人蔵前工業会よりご参加いただき、事例紹介をお願いしている。
2.議事
(1)企業、大学での取組事例について
○井原委員:
当社は創業1875年の企業で、来年150周年を迎える。従業員数は単体で約4,000人弱、グループ全体で14,000人の会社で、京都に本社を置く精密機器メーカーである。社是「科学技術で社会に貢献する」を肝に銘じ、事業を行っている。
ヘルスケア分野、グリーン分野、マテリアル分野、インダストリー分野の4つの事業分野に取り組んでおり、多種多様な製品を開発している。最先端の分析計測技術で、医薬、ライフサイエンス、環境など様々な分野での研究開発・品質管理に貢献している。代表的な製品として、ヘルスケアでは病気の早期発見などに役に立つ製品を開発している。グリーン分野では、エネルギー分野の不純物分析、品質管理などの分野で活躍している。最後はマテリアルで、自動車の各種材料の強度評価の製品開発をしている。次に医療機器について、当社は日本初の医療X線装置を開発したメーカーで、X線画像診断のパイオニアとして様々なタイプの医療機器を販売している。X線にこだわらず、認知症・乳がんの診断を支える事業も開始している。続いて産業機器について、半導体製造に必要なターボ分子ポンプなどを開発している。続いて航空機器について、航空機器の各コンポーネントなどを製造している。
多種多様な製品を製造・販売しているため、それぞれの分野で高度な専門知識を持つ方が過去から在籍している。中期経営計画では、各職場だけではなく会社全体で把握し、さらに育成していこうということで、「島津人の育成」という形で中期経営計画の基本計画の7つの中に組み込んで進めている。人財戦略の一つの柱として「人財の成長を促す」ということで、「ビジネスリーダー人財の育成」「高度専門人財の育成」を掲げており、この中で博士人財の育成について取り組んでいる。
高度専門人財(博士人財)について、社内制度、社外派遣、インターンシップの3つの取組を行っている。社内制度は、共同研究を通じた博士号取得者が一定数おり、一時奨励金で奨励していたが、さらに後押しする取組としてSPARK(博士号取得のための学費補助制度)を今年度新設した。社外派遣は、大阪大学と設立した共同研究ラボに従業員を派遣して博士号取得を目指すREACHプロジェクトである。インターンシップについても、ジョブ型インターンシップや技術系インターンシップを通して、博士課程の学生とのマッチングを図っている。
社内制度のSPARK(従業員の博士号取得のための学費助成制度)について、派遣先は事業戦略上の領域・研究内容に基づいたものとなっており、社内審査を通過した従業員に対して、受験料・入学料、授業料を会社が全額負担し派遣している。この制度を利用し、現在数名が博士号取得を目指している。フレックス勤務体系を利用して必要な研究を行うことが可能な支援制度となっている。
その他の社内制度として、オープンバッジの導入がある。当社には博士だけでなく、多種多様な高度専門人財が在籍しており、それらを見える化するための活動を進めている。技術士、弁理士等の社外認定取得者について、オープンバッジの制度を利用してバッジを渡し、取得した資格を見える化している。現在、DX人財の社内教育を進めており、それらについても社内認定・登録により高度専門人財を増やす取組を行っている。
社外連携のREACHプロジェクトについて。長年に渡って大阪大学と産学連携を進めてきた。2015年に共同研究をしやすくするために共同研究講座「大阪大学島津分析イノベーション共同研究講座」を大阪大学大学院工学研究科に設置し、2019年に「大阪大学島津分析イノベーション協同研究所」に発展した。研究所は、「幸せな健康長寿の実現」という社会課題解決に資することを目的として、多様な分析技術を用いて共同研究を積極的に推進してきた。取組を人財育成に活用したいと考え、大阪大学と連携して2021年より社員を博士後期課程に派遣するREACHプロジェクトを開始した。当社が事業を伸ばしたい分野の研究者の下、博士後期課程の学生として社員を派遣し、共同研究に取り組むものである。社員が復社後は共同研究成果の社会実装のリーダーとして活躍している。さらに2023年に締結した包括連携により、プロジェクトをさらに拡大している。対象とするテーマを理系のテーマだけでなく、文理融合分野や人文社会系へも拡大している。派遣する対象は、当初は社員だけであったが、博士進学を希望している学生についても当社に就職していただく形でプロジェクトに参加する取組を開始した。このように対象に合わせて2種類のプロジェクトを推進している(入社後数年から10数年の社員を派遣する「REACHプロジェクトキャリア」と、修士課程修了時に採用し、そのまま博士後期課程に進学する「REACHプロジェクトストレート」)。
参加者の声として、社員側のメリットは、「研究者として深い議論ができること」「大学の知見と社内のリソースを活用して効率的な研究の実現できた」等が挙げられている。また、指導教授(大学側)からの声として、「社会人が活躍することで年齢や背景の多様性が生まれ、生徒への良い刺激となった」等の声をいただいている。これらの取組により、博士人財の活躍や裾野が広がる運動に貢献できればと考えている。
○鷲田委員:
当社における仲間集め、採用等の側面に絞った取組について紹介したい。博士人材が当社に入社するようになったのは10年程前からである。
当社は、創業1998年で、25年ほどの会社であり、元々はインターネットの広告事業から始まった。現在はメディア事業、広告事業、ゲーム事業の3本柱の事業を行っている。当初は営業しかいない状態からスタートしたが、それぞれの事業が伸びて技術力、運用力が競争力となっていき、経済的な価値だけでなく、社会的な価値を打ち出せるフェーズになってきた。
本日は博士人材が多く活躍しているAI事業本部について話したい。従業員500名程度の事業部で、その7割が技術職(エンジニア、研究者職)のメンバーで成り立っている。広告取引で培ったAI技術を様々なプロダクトに提案している。AIを活かしたプロダクトや、最近はDXの領域について注力しており、大手企業と協業のビジネスも始めている。開発組織は、デベロップメントを行っているメンバーによる「AI Tech studio」、データサイエンティストが多く在籍する「Data Science Center」、「AI Lab」の3つの座組で構成されている。
博士人材の大半は研究職として活躍している。その中でも9年前に設立した研究組織AI Labの事例について紹介する。設立時は博士人材がいない状況からのスタートであった。現在は、5つの領域(経済学、グラフィックス、クリエイティブ、接客対話(ロボット含む)、行動理解)に特化した研究者に集まってもらっており、それぞれのチームを構成している。また、知財戦略室にも博士人材が在籍している。このチームは研究論文や特許を活かした事業戦略に関わっており、研究から飛躍したミッションを持ち始めている。強化しているところであり、新しい伸びしろの部分と考えている。
AI Labは2016年に設立しており、2019年からの正社員数の推移を図に示している。2024年現在で、正社員全体が87名(11月現在では100名超)、そのうち博士号を取得している正社員が63名(72%)である。研究者だけでなくリサーチエンジニアが複数所属していることもあってこのような割合となっている。2024年度のAI Labの新卒については、88%が博士人材となっている。
具体的な採用施策は、良い研究をする上での仲間集めが重要と考えており、リサーチインターン、日本学術振興会の特別研究員、クロスアポイントの制度の活用を行っている。
リサーチインターンシップについて。2018年からスタートしている。夏と冬の年2回、フルタイムで2か月間ほぼ社員と同様のミッションを持っていただくインターンを行っており、給与も月額50万お支払いして研究に取り組んでいただいている。インターンのゴールとして、参加いただいた博士の方々とすり合わせをして、国際学会を始めとした大きな学会での論文の採択を目指して活動いただいている。6年間で通算25本以上の採択実績があり、インターンの成果が出ていると考えている。インターン期間の2か月以降は雇用形態を変え、空いた時間にメンバーと一緒に研究してもらう取組(任意)を行っており、当社データを活用して博士論文の作成を行っている方もいる。サポート体制としては、宿泊場所の提供や学会への渡航費の負担を行っている。インターン募集にあたって、採用のリファラルの動きも増えているが、国内の学会を含め、学会に足を運んで博士人材とコミュニケーションを取り、当社の宣伝・PRを行っている。ある程度、学会で顔見知った上で学生に参加いただいているため、マッチングの精度高く研究に取り組んでもらえている。
日本学術振興会の特別研究員について。特別研究員の身分を持って、契約社員として3年間AI Labで研究業務が可能となっている。研究の業界において、さらに認知度を高めていきたいと考え、日本学術振興会に登録させていただき、研究していく仲間を集めている。
クロスアポイントメントについては、数年前から実施しており、JST Boostにもエントリーし、結果待ちの状態である。クロスアポイントで一緒に研究していただいている人もここ数年で増えてきている。いわゆる直接雇用の採用に限らない形で一緒に良い研究をする可能性を増やしたいと考え、クロスアポイントに注力している。
その他の施策としては、共同研究に関して、5つの領域において親和性の高い研究室に声がけをして、共同研究を強化している。現状44件の連携先がある(共同研究23件、クロスアポイント3件、業務委託18件)。また、科学研究費助成事業研究機関に指定されている。まだ歴史の浅い研究所であり、認知度を上げるための様々な取組を行っている。
○伊東幸子 東京科学大学 副学長(学生支援担当)学生支援センター長:
博士後期課程学生に対するキャリア支援を同窓会と大学が協力して行っている点、同窓会による支援の詳細、博士後期課程学生にキャリア教育が必修化されている点の3点にフォーカスして説明する。
キャリア支援・キャリア教育の体制については、共通教育組織であるアントレプレナーシップ教育機構が大学院生全員に必修のキャリア科目を統括し、共通支援組織である学生支援センターが全学学生へのキャリア支援、キャリア相談、キャリアガイダンスを提供している。学内の2つの組織と、理工学系の同窓会である一般社団法人蔵前工業会が密接に連携していることが本学の取組の大きな特徴となっている。
博士後期課程学生の在籍状況は、2024年5月1日段階で合計1,655名である。進路状況はアカデミア(任期あり、なし)が25%、企業への就職が26%、復職が13%、その他が32%となっている。昨年より10ポイントほどその他が多いが、これはこの年から学生への進路調査の方法が変わった関係で正確な進路の捕捉率が若干悪くなって、その他が増えたためである。
キャリア支援の特徴は、教員とキャリアアドバイザーにより内製化している点である。大学キャリアアドバイザーによるキャリア相談は主に修士からの相談となっており、博士後期課程学生の相談は全体の5%程度(年間150件程度)となっている。
同窓会によるキャリア支援について。仕事の第一線を卒業した同窓生から現役学生に対して、様々な就職支援の活動を通して、長くキャリアを歩んだ先輩ならではの理工系職業キャリアの知恵を伝授していただく活動である。同窓生は、後輩と直接接する機会や、母校への貢献の機会をモチベーションとして献身的に活動を担っている。この関係を支えるための日常的な関係づくりの仕組みとして、具体的には、歴代学長・教職員が同窓会のイベントに積極的に参加する、キャリア支援、学生支援の様々な場面で大学から同窓会に協力をお願いする、これらの協業を支える卒業生人材プールの組成、双方の会議への参加による情報交換等が行われている。
○前村好士 一般社団法人蔵前工業会 事務局長:
同窓会の活動に対して積極的に大学がサポートしている。蔵前工業会が就職支援活動を始めた経緯は、従来は学科別に大学と企業を結ぶ就職イベント活動があったが、大学と協議して全学に対象を広げようということで、2013年に第1回蔵前就職情報交換の集い(K-meet)を開催した。その後、大学・企業のニーズに合わせて、大学との共催で、博士後期課程学生のための蔵前就職情報交換の集い(Dr’s K-meet)、蔵前企業研究会(K-find)、インターンシップ企業研究会(K-seek)等、支援活動の幅を広げている。就職支援活動は10年以上にわたって行っており、登録いただいている企業は750社以上となっている。個別の活動をより活発化するポイントとして、企業情報をいかに学生に伝えるか(企業の紹介ページの活用)、学生の希望・疑問をいかに企業に伝えるか(企業コンタクトシステムの活用)、企業の興味をいかに学生に伝えるか(学生コンタクトシステム)が重要である。
就職支援活動のスケジュールの一例を示しているが、2026年3月に卒業する学生に対して、2024年春のインターンシップ企業研究会を皮切りに支援が始まっており、2年間にわたって学生をサポートしていることを示している。
蔵前工業会「くらまえアドバイザー」によるキャリア相談について。OB、OGによって形成されるアドバイザー(30名)が大学と分担して相談を受けている。相談件数をみると、今年度は早期化して1-2月にピークがあった。アドバイザーの活動のうち、博士後期課程の学生が占める割合は6.5%程度であった。
9月25、26日に開催した博士後期課程学生のための蔵前就職情報交換の集い(Dr’s K-meet)について。2009年より大学が単独で開催していたドクターズキャリアフォーラムを引き継ぐ形で2018年から蔵前工業会が主催している。今年で第7回を数える。今年度は対面で開催し、多くの企業、学生に参加いただいた(事前登録の学生291名、参加企業は83社)。このイベントの特徴は、約半分が留学生であること、他大学にもオープンにしていること(約20%が他大学の学生)である。またこのイベントの前半部分では学生とのポスターセッションを行っており、協賛している大学が主導し、企画している。
○和泉章 東京科学大学 アントプレナーシップ教育機構 キャリア教育実施室 特任教授:
博士後期課程学生によるポスターセッションについて。博士学生が自己PRポスターを作成し、企業の皆様の前で説明し質疑応答する。今年度は22名の博士後期課程学生が参加した。事前に発表練習を行い、練習は蔵前工業会に協力いただいている。学生には、研究の着眼点、解決に向けた工夫、リーダーシップ等、何が自分の強みなのか、企業でどういった活躍がしたいのかについて自分自身で考えてもらっている。企業に行った後、直接研究開発できそうなテーマの研究をしている学生には研究内容に重点を置いた説明を、一方で、基礎研究を行っている学生には研究を通じて培った課題発見力や解決力、コミュニケーション力等の企業で活躍できる潜在能力に重点を置いて説明するよう指導している。参加学生からは、「専門分野以外の企業での活躍の可能性がわかった」「就職のアプローチを学んだ」等の声が寄せられた。このイベントをきっかけに本格的に就職活動に取り組む学生もいる。
キャリア教育について。旧東京工業大学のキャリア教育は2008年度に文部科学省事業により、博士後期課程学生・ポスドクのうち数十名を対象に企業と協力した実践的な教育の取組から始まった。2014年度からは全博士後期課程学生を対象にキャリア科目履修(4単位)を必修化した。2016年度には修士課程学生にも拡大した。このことで、キャリア教育は、専門教育、教養教育と共に、大学院教育の3本柱の一つになった。2024年度にはキャリア教育をアントプレナシーシップ教育に発展した。
キャリア教育の内容について。目的は、卒業後に社会で直ちに役立つ知識、スキル、ロールモデルの3つを柱にしている。スキルについては、トランスファラブルスキルを中心にしている。本学の特徴として知識にも重点を置いている。特に理工系の学生は専門分野だけでなく、実社会で活躍するための知識の習得が重要ではないかと考えている。例えば、企業や大学におけるお金の流れ、財務諸表の簡単な見方、法律等についての知識を含む内容となっており、学生が自分事として捉えられるような内容としている。ロールモデルについては、社会で活躍している方から実体験を伝えていただく内容の授業となっている。卒業後、研究開発をすると思い込んでいる博士学生もいるが、実際には社会で活躍できる可能性が広いことを理解してもらうことを目的としている。講師は蔵前工業会から本学出身者を推薦していただくこともある。
資料で昨年度のキャリア教育の科目を示しており、科目は基礎と発展に分けられる。英語で書かれている科目は英語で開講している科目、赤字は年間の履修学生数を示している。基礎科目は包括的に大枠で理解する科目となっており、その上でさらに学生自身がやりたいことについて絞って、発展科目で履修する。各講義において、様々なイベントを紹介し、学生支援の体制について説明することで学生のイベント参加を促している。昨年度は、修士・博士の合計約5,500名に対して4人の教員で担当していた。キャリアアドバイザー、学内の産学連携等の先生にも協力いただいている。外部の非常勤講師にも話をいただいた。
学生の声としては、「もっと早い段階で履修すればよかった」「自分のキャリアについて新しい発見があった」「知財の重要性を認識した」「お金と経済の仕組みの勉強は必要だ」「企業で事業部門も経験することは重要だ」「将来に向けて視野が広がった」等の声が寄せられた。そのため、キャリア教育は一定の効果を上げていると認識している。
今年度より、さらにアントレプレナーシップ教育へ発展している。本学ではアントレプレナーシップを広く捉え、企業やアカデミアで自分が大学で培った知識や経験を活かしてどのように活躍していくのかを主体的に考え、未来社会の創造を主導する人材を育成することを目指している。教育内容は従来のキャリア教育だけでなく、国際性、リーダーシップ、価値創造等にさらに広げている。アントレプレナーシップ教育を全学的に展開し、キャリア教育実施室に加え、国際やリーダーシップの部門と一体的に取り組んでいる。
参考として博士学生の就職状況の調査結果を添付している。
3.意見交換
【事例紹介を受けてのご意見・ご質問】
○川端委員長:
井原委員から紹介いただいた島津製作所の取組で、修士修了学生を中心の採用から、あるタイミングを契機に博士修了学生に着目したとのこと。その方針に至ることになったバックグラウンドを話していただきたい。
○井原委員:
もともと当社は国内市場をメインターゲットとする事業展開であった。しかし、市場がグローバル化する中、世界市場においては博士号を所有していることが求められることで、従来は事業部単位で実施していた制度を全社展開した。
○川端委員長:
サイバーエージェント社で採用している経済学の博士号取得者はどのように採用しているのか。
○鷲田委員:
情報学系と同じ採用パターンであり、基本的に変わらない。経済学会に参加する、著名な経済論の研究者とのコネクションづくりや共同研究をしている。経済学がどのように生きるかを実績として示しているので、理解いただいていると思う。
○川端委員長:
東京科学大学のDr’s K-meetについて、他大学からはどのようなチャネルがあれば参加可能なのか。企業のセレクションやマッチングに関してもお聞きしたい。
○前村好士 一般社団法人蔵前工業会 事務局長:
企業のセレクションに関して言えば、蔵前工業会委員会メンバー内でリクエストのあった企業の可否を決定している。長年実績があるので750社に到達した。
○青柳宏 一般社団法人蔵前工業会 会員部会副部会長:
他大学の学生の参加に関しては大学が主体となり判断をする。大学間で連携組織を組成している。
○和泉章 東京科学大学 アントプレナーシップ教育機構 キャリア教育実施室 特任教授:
大学間連携組織で様々なイベントを通じた交流があり、ノウハウや教育等に関する意見交換を行っている。そうした大学には声をかけて学内で募集いただいている。
○守島利子 東京科学大学 学生支援センター 未来人材育成支援室 マネジメント教授:
国公立大学のキャリア支援部会がある。各大学のキャリア支援担当者名簿を作成している。特に関東地方の大学とはDr’s K-meetの取組以前から繋がりがある。
【「博士人材の民間企業における活躍促進に向けた手引き・ガイドブック(仮称)」骨子(案)について】
○川端委員長:
骨子案の構造は、企業への処方箋、大学への処方箋、学生への処方箋となっている。このガイドブック自体は制度的な話やグッドプラクティスが中心となっている。様々な企業で取組が実施されているがその横展開ができていない現状である。伝わらないところがラストワンマイルの問題で、そこに対する処方箋を事務局で考えて作成した。企業への処方箋の論点(1)(2)について、いい人がいれば採用するという例の話で、結局結論がでていない。論点(3)~(6)、これは本当に良い人が採用できないかもしれないという不安や何か良い採用方法はあるのか。論点(7)(8)は採用したくとも応募がない状況について。
大学への処方箋の論点(1)(2)は、大学が対策を実施しても学生が知らない・学内で伝わってない状況である。論点(3)~(6)は大学の規模による違いである。4ページ目の論点(7)(8)に関してはDC制度の問題で、博士離れが起きている中で大学として何ができるか。
最後の学生へのメッセージは、博士課程学生が社会で活躍するイメージが見えていない。
これらの論点について、ラストワンマイルの観点で何があればもう一歩先に進むのか。それを踏まえた議論ができればと考えている。その先の(1)(2)(3)は方法論の話となる。今回、論点という観点で意見をいただきたい。
○吉原委員:
今まで博士を受け入れていなかった企業が博士を受け入れるという考えに至ることがなかなか難しい。そもそも博士があまり在籍していない企業では、博士を活かす・マネジメントする環境がない。学生にもそこが見えてしまう。入社した博士人材自身にそういう環境を構築せよというのは難しいだろう。博士をまず採用するのではなく、採用した博士をマネジメントするための環境づくりから開始してはどうか。
○髙田委員:
論点に関して、3点程申し上げたい。1点目、「博士人材を採用する意義・メリット」の具体的なイメージを持てる記載は重要であるため、「はじめに」に掲載すると良いかもしれない。
2点目、大学で行われている教育内容(キャリア教育等)を把握した上で企業側が環境整備を実施することが重要であることを「企業への処方箋 論点(7)博士人材の強みを引き出すための環境整備」に追加してはどうか。
最後に、「学生へのメッセージ」に、インターンシップへの参加による企業の業務の理解に加えて、博士人材の自己理解も進む機会であると考えるため追加することをご提案したい。
○山田委員:
学生へのキャリアサポートと企業への採用支援の両軸で情報収集している立場から補足する。個人的に課題に感じているのは、学生に対して、どのタイミングでキャリア教育や企業との接点を作っていくべきか。D1段階で情報収集している学生もいれば、D3段階で焦りからの駆け込みもある。企業インターシップの情報を学生に提供しても、学生側でのキャッチアップにも差が生じている。うまく均一化して、全員が一度キャリアを考えるきっかけをつくる場が生まれると良い。
○松井委員:
これまでの経験だが、学生がそれなりにいる研究室では博士人材輩出も上手くいっている。企業側についても同様に、博士人材の採用経験がある企業は上手くいっている。つまり、博士人材の採用経験のない企業が今回のラストワンマイルであろう。企業の若手研究者と博士学生や若手教員の人の交流・交換が増えていくのが望ましいかもしれない。
一方、昨今は知財や利益相反の問題で人の交流があまり積極的に推奨されていないが、それが一つの障害となりつつあると感じている。したがって、教育機会等を通じて、さまざまな交流の機会をつくることが解決の1つになろう。例えば大学が開講する様々な博士人材の教育プログラムに対して、企業の方は若手社員を積極的に受け入れる環境をつくっていく、そうした人の交流からそれぞれの意思疎通が図れていくところを目指していけばいいのではないか。最初の企業側の論点(3)~(6)の一つの解決策になっていくのではないか。教育プログラムを通した交流、それが一つは教育系のインターンシップにも通じてくるのではないか。
○酒向委員:
企業、大学への処方箋と学生へのメッセージとが挙がっている中で、若干の違和感として、国としては何をするのかと思った。ラストワンマイルに取り組む中で、国の施策がないことに違和感を覚えた。博士課程人材の育成・採用に積極的な企業や大学のためだけでなく、文部科学省は広めにとらえたいとのことだった。その場合、この骨子案の構成だけで良いのか疑問に感じた。
島津製作所のREACHプロジェクトの事例を伺ったが、たしか富士通も類似の取組を導入している。修士の段階で、企業・学生双方が合意し、博士課程における学びと研究を支援する試みだが、例えばこれをもう少し推進するのであれば、国として何か支援してはどうか。海外ではIndustrial PhDという、博士課程学生を応援する企業を国が応援する国もあると聞いた。博士課程学生への応援体制として企業、大学、学生だけなのかは疑問である。
○吉原委員:
今の観点ならば、ラストワンマイルとして、理系は大学入試時点で修士で修了という先入観がある。そして、保護者もそのように人生設計(大学院まで子どもが進学すれば保護者としての役割が終わる)をしている。文系ならば学部卒という先入観がある。最新データをとろうとしているが、以前の調査では、博士人材の経済支援策(SPRINGや日本学術振興会実施支援制度等)については保護者の10%程度しかその存在を知らないというデータもある。博士課程への進学が視野に入っていないのは、それ以前の高校段階(進路指導)に理由があるかもしれない。そうしたところにもラストワンマイルが進まない理由があるのかもしれない。
○大河原委員:
企業への処方箋に関し、企業の経営戦略と求める人材のところでは、いきなり方法論となっている。それよりももっと重要なのは、自社の経営方針に対して博士人材が有用かどうかを各社で検討することが必要であるということであろう。博士人材の特徴を踏まえたうえで、自社の経営戦略にどのように取り込むのか。博士人材の特徴が、企業の戦略に生かされているという事例があると、企業で博士人材の活用を考える契機・スタートになる。また、(3)(4)につながるが、そうしたポイントを博士だけでなく、修士、学士、高校生の学生に対してどのようにPRするかを各社で考えないといけない。
2点目、大学の処方箋について、学生のロールモデルを作成して公表という記載がある。大学で公表して終了、ではなく、学生の教育にしっかり活用していくことが必要であり、活用事例を入れるべきである。
3点目、当社の考え方ではジョブ型研究インターンシップが有用と考えているが、インターンシップを通じて何を得てもらいたいのかをもっと明確にして事例として示す。それを契機に各社が考えていくべきかと思う。
○佐々木委員:
第一印象としてHow toの印象を受ける。言葉の中にも「母集団の形成」のような言葉がいきなり出てくることについては少し検討が必要ではないか。
既に各委員からの指摘にもあったが、企業への処方箋のところで、例えば経営戦略として考えていく、さらに博士人材活用の意義・目的のようなものが必要ではないかという御意見があった。企業の処方箋として経営戦略、自分の会社にとってどのようなことが必要なのかという話から入ることはいいと思ったが、逆に大学や学生の部分でそれがない。大学にとって博士を企業に出していく、あるいはもっと幅広くアカデミア以外のところに出していくことにはメリットがある、それは必要なことだということが書かれていたらいいだろう。学生に対しても、どうやったら就職ができるかという話だけではなく、その前に多様なキャリアが期待されていて、あなたたちの能力をそこに展開することが自分の将来にとっても、今後にとってもすごく重要なことだ、その意義があるからぜひそれも考えてほしい、というところを入れていただきたい。
もう一つは、それぞれの就職のノウハウについては現状を中心にいろいろ展開されている。趣旨は少し違うが、例えば大学のところでも、民間企業に一部業務委託をしたほうがいいという記載は書きすぎのように思ったが、大学の規模や学生が多様で、1社で頑張る、1大学で頑張る、1人で頑張るではなくて、コンソーシアムのように、もっと一緒になってグループやグループの活動を活用していくことも重要だという視点もぜひ入れていただけるとありがたい。
○井原委員:
全体を通して、企業にとって経営戦略的にも博士人材は重要である。一方で、企業としては博士人材だからといって特別扱いをしているわけではない。確かに優秀ではあるが、博士が特別な人材ととらわれかねない点に若干危惧している。
また、企業とアカデミアと何が違うか。企業の研究開発はより社会実装に近いところはある。同じ研究でも目的がより社会実装に近いところが企業である。企業で働くことの目的が学生向けのメッセージにあると良いかもしれない。
博士人材と企業とのマッチングに関しては、現状の一括採用では難しい。その中で今回ご紹介した共同研究を通じた人材の獲得に取り組んでいる。双方にとってよい状態で就職や活躍につなげていくために、大学への処方箋の8項目目に書いてあるが、共同研究は良い解決方策になっていることを伝えたい。
○鷲田委員:
なぜ博士人材を採用するのか、という点に関して理解していない会社が多いのではないか。博士人材も、専門の研究実績がある人をシンプルに採用するのであればよいが、専門性と異なる・違う能力を単純に見てとれるわけではない。そこをしっかりと見極めないと自社の経営戦略上に必要な博士人材とはならない。当社の場合、元々、研究所設立目的で博士人材に最初に目をつけた。最近のインターネット系他社の採用を見る限りでは、研究職目的で人材獲得をしようとしていないので、動かないのではないか。
また、大学側のキャリア教育に関して言えば、博士課程の3年間を通じてどのような能力を磨くのか、博士の修了段階で社会に出た3年分に相当するので、D1時点でインストールすべきではないか。全てにおいて完璧を求めるのではなく、自分の特性と適性を見極めたうえで研究力以外のどこを伸ばすのかを、D1のタイミングで取り組んでもらうと、企業側としても組みやすいかもしれない。
○佐々木委員:
キャリアの話をどこでするか。早ければ早いほうがいいという指摘もあるが、博士課程に入る前に、研究職でいくのか、それとも民間で研究を続けていきたいのかをある程度見定めてから博士課程に進学した方が博士課程の期間を有効に使えるだろう。今、いろいろな大学が既に取組をしているが、研究と両方やりながら進路に迷っているとどちらも中途半端になってしまう。今後、大学のコースの作り方について、アカデミアの研究者養成コースとは別に、研究を生かして民間の力を使ってダイナミックに社会変革していく、社会実装していくのは面白いよと伝えるコースも必要ではないか。後者のコースであれば、東京科学大学のプログラムのような財務諸表の読み方や博士課程で多様な経験をしておくことが企業に入社してから役立つということが実感として持てるのではないか。博士課程に入る前、学部・修士のときに、博士課程に行くことの意義と活かし方を考えて進学するという道筋が今後必要ではないか。
○山田委員:
企業側の処方箋の8について、学生の採用支援で、博士課程学生は民間への就職を選択しても、やはりアカデミアが第一志望にあり、実際に民間への就職を辞退することが一定数ある。学生ファースト視点となって申し訳ないが、柔軟性を制度として認めてもらえればと思う。採用計画がずれてしまうので採用する企業はやりづらいかもしれないが、優秀な研究者を確保するために、数年後にまた会社に戻る等の制度があると良いであろう。
○大河原委員:
博士課程学生に限らず企業では採用計画をたてている。その点において、博士・修士関係なく、企業がどのような人材を何人ほしいということがまず計画としてあって、それに対して採用活動が行われて充足できるかどうかとなる。アカデミアへのパスが開けた学生に関しては、優秀な学生であれば継続的にコミュニケーションをとり、年度で採用計画は変わっても、日立にとって有用な学生であれば採用を行っていくという動き方は、多くの会社で可能ではないか。引き続きコミュニケーションを継続する仕組みを企業と学生で構築できれば、うまくワークすると思われる。
○川端委員長:
通年的な採用や、一括採用終了後もコミュニケーションをとってあるタイミングで入社してもらうという点での自由度について髙田委員はどのようなお考えか。
○髙田委員:
可能性はある。
弊社の博士採用に関しては、インターンシップ・通常採用(インターンシップなし)・通年採用とマルチチャネルとなっており、年間を通じて博士採用を継続している。仕組みの中ではある程度ルールがありタイミングを決めなければならないが、期間を柔軟にして採用することはできると考える。
○川端委員長:
博士人材については、そうしたことが重要となるか。それとも、計画的に採用し、それ以外の例外が存在するという形か。
○髙田委員:
両方のアプローチが重要であると考える。計画的な採用を基本としながらも、優秀な学生に対しても柔軟に対応できる体制を整えることも重要ではないか。
○川端委員長:
採用の仕方で、失敗しない採用はあるか。博士人材の採用で良い経験がない企業にとっては、採用はどうやると一番うまくいくのかと悩んでいるのではないか。そうした人へのアドバイスはあるか。
○井原委員:
当社の場合、基本的には一括採用、全社の採用計画に則って実施する日本の伝統的な採用の仕方である。一方で、少し別枠を作り、良い人材がいれば確保する形で、期の途中で入社する学生もいる。博士に関してはこれまで経験ないが、各事業部からの人数枠でマッチングさせる一括採用と、良い人材が見つかったときに人事部から事業部へ紹介するタイプの二種類で実施している。
○川端委員長:
東京科学大学や北海道大学のマッチングの取組を活用しているのか。
○井原委員:
北海道大学の赤い糸会を活用している。北海道大学のサイトビジットも受け入れている。
○川端委員長:
ヘッドハントがやれる機会を活用しているということか。
○井原委員:
一括採用で入ってくる博士の学生と個別にコンタクトした博士学生、2つのパターンが当社の場合は存在している。
4.閉会
〇経済産業省大臣官房 今村審議官(イノベーション・環境局担当):
いただいた事例等、非常に参考になるものが多々あった。ガイドブックについては、委員長からも発言があったように皆様の意見を反映し良いものをつくっていきたい。なぜ企業で博士人材を獲る必要があるのか、根本理念、大学が博士人材を産業界へ輩出することのメリットなどが伝わるようにしないと、腹落ちいただけず、博士人材活用の仕組みが上手く回っていかないのではないか。個別のツールやこれまでの事例発表であった中で様々な取組は出てきているが、ラストワンマイルのところでなぜ上手く伝わっていないのか、それを伝えるためにはどうしたらいいのかという観点からも、このガイドブックや周知の仕方が重要。ガイドブックを出すだけではうまく回るものではないと考えている。周辺の施策、国としても知恵を出して取り組んでいきたい。この点もご知見をたまわりたい。次回に向けて準備して議論をすすめていきたい。
(閉会)
高等教育局高等教育企画課、科学技術・学術政策局人材政策課