令和6年10月22日(火曜日)10時00分~11時30分
オンライン
(◎委員長)
◎川端 和重 国立大学法人 新潟大学 理事・副学長
井原 薫 株式会社島津製作所 執行役員 人事部長
大河原 久治 株式会社日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 タレントアクイジション部 部長
酒向 里枝 一般社団法人日本経済団体連合会 教育・自然保護本部長
佐々木ひとみ 学校法人東京家政学院 理事
元早稲田大学常任理事(職員人事・キャリア支援担当)
徳田 昭雄 学校法人立命館 理事・副総長(立命館大学副学長)
松井 利之 大阪公立大学 副学長 国際基幹教育機構 高度人材育成推進センター長
山田 諒 株式会社アカリク 代表取締役社長
吉原 拓也 北海道大学 大学院教育推進機構 副機構長
鷲田 学 株式会社サイバーエージェント AI 事業本部 人事室長
永田 亮介 中外製薬株式会社(髙田委員代理)
森友 浩史 文部科学省 大臣官房 審議官(高等教育局担当)
髙見 英樹 文部科学省 高等教育局 高等教育企画課 高等教育政策室長
先﨑 卓歩 文部科学省 科学技術・学術政策局 科学技術・学術総括官
髙見 暁子 文部科学省 科学技術・学術政策局 人材政策課 人材政策推進室長
白石 航暉 文部科学省 科学技術・学術政策局 人材政策課 人材政策推進室ジ ョブ型研究インターンシップ生
今村 亘 経済産業省 大臣官房 審議官(イノベーション・環境局担当)
川上 悟史 経済産業省 イノベーション・環境局 大学連携推進室長
1.開会
○川端委員長:
本日は、文部科学省の卓越大学院プログラムの紹介を大阪大学大学院 情報科学研究科 産学連携教授、日本電気株式会社 上席技術主幹の加納敏行氏にご依頼している。
〇文部科学省大臣官房 森友審議官(高等教育局担当):
前回の検討会では博士人材の採用、活躍について企業側から見た現状と課題を率直にお聞かせいただいた。本日の検討会では、アカリク社、北海道大学、大阪公立大学、卓越大学院プログラムの取組をそれぞれご発表いただく。大学における博士人材と企業をうまくつなげるような取組、あるいは産業界で活躍できる人材を育成する取組について、さらに議論を深めていただきたい。
2.議事
(1)企業で活躍する博士人材ロールモデル事例集(仮)について
○文部科学省科学技術・学術政策局人材政策課 髙見人材政策推進室長:
文部科学省において、3月にとりまとめた「博士人材活躍プラン」に盛り込んだ「企業で活躍する博士人材ロールモデル事例集(仮)」の作成を開始する。本事例集の案が整い次第、委員にご覧いただき、「手引き・ガイドブック(仮称)」と合わせて大学や企業に向けて発信予定である。
○文部科学省科学技術・学術政策局人材政策課人材政策推進室 白石ジョブ型研究インターンシップ生:
博士人材の多様なキャリアパスの開拓を推進するためには、産業界の多様なキャリアパスがあることをまず博士学生に知ってもらうことが重要である。現状、採用情報等は簡単にインターネットから入手、あるいは、研究室の先輩から話を聞くことができる。一方で、知ることのできるキャリアパスの事例の数が限られており、同じ研究室の出身者は類似のキャリアを歩む傾向があるため、産業界を含め、多様な選択肢が存在することを認識しづらい。また、企業に入って部署が変わり、長期的にどのように働き、活躍の場をつくるのかといったキャリアパスについて聞く機会は少ない。理工系以外の博士の活躍に関する情報を得る機会も少ない。そこで企業で活躍する多様な人材のロールモデルが現在の職務、立場に至るまでにどのような仕事をしてきたか、その裏でどのような考えを持っていたかを集めた「事例集(仮)」を作成する。「事例集(仮)」をホームページで公開するとともに、大学に送付することで、博士学生の産業界における多様なキャリアパスを知ることができ、産業界に興味を持つことが期待できる。「事例集(仮)」には採用情報も掲載することで企業PRにつながるようにしたいと考えている。
「事例集(仮)」作成の流れについては、まず企業に対する事前調査を行う。企業にアンケートを発出し、博士人材が在籍している企業に対してはロールモデルを募集し、博士人材が所属しない企業には活用の可能性について聞く。企業負担を極力減らすため、関西経済連合会からご助言をいただきながら作成しており、事務局内で最終調整段階にある。次のステップとして、ロールモデルとなる方に30分~1時間のインタビューを行う。それを元に資料2左下のような「職務経歴書」を作成することを想定している。ロールモデルとなる方になぜ活躍できたのかを伺い、企業でも生きるトランスファラブルスキルについて言語化したい。最後に、作成した職務経歴書、「事例集(仮)」を企業に確認いただくとともに、PRや採用情報の収集も合わせて行う。委員にはどのようなロールモデルを収集すべきか、「事例集(仮)」に掲載すべき内容について意見をいただきたい。さらに、インタビューへの協力もぜひお願いしたい。
○川端委員長:
一般企業で活躍している博士人材は少ないとはいえ、数万人という規模があるのではないか。新卒以外、執行役員になられているシニアの方も含め、様々な方がいらっしゃると思われる。そのような方も含め、どのように活躍しているか。ロールモデルの事例は期待できる。「手引き・ガイドブック(仮称)」にも取り込んでいきたい。
(2)企業・大学での取組事例について
○山田委員:
アカリクの取組についてご説明したい。アカリクの設立は2006年で、大学院生にフォーカスしたキャリア支援事業を行っている。コーポレートミッションは「知恵の流通の最適化」に貢献していくことを目指している。
当社の事業領域について、基本的には学生と企業をマッチングする支援事業を行っている。それ以外にも大学向けにキャリア教育の支援事業や、文部科学省とジョブ型研究インターンシップの運営事務局を務めている。産業界における博士のキャリアパス拡大の取組としては、就職・転職エージェントによるマッチング創出を行っている。年間2,500名以上の大学院生との1on1のキャリア面談を実施している。年数回の博士と企業を集めたマッチングイベントの開催、大学への就職ガイダンスやPBL教育等の提供を行っている。また、キャリアパス事例の発信を、メディアを通して発信している。現在はジョブ型研修インターンシップ事業を実施しており、2022年度にはJGRAD運営業務を受託していた。「イノベーションサミット」や「アカリクギルド」は、学生がアイデアソンやワークショップを通じて企業の課題解決を行う取組である。大学院生の持つ知恵や研究を通じて得たスキル経験を企業課題解決に役立てていただくもので、実際に(企業から)金銭的対価をいただき、学生にチャレンジしていただいている。それ以外に「キャリア研究室」を最近リリースし、論文作成や科研費申請など大学院生活に活かせるノウハウから、大学院生の就職活動まで網羅的に学べるサービスを提供している。
当社における博士採用の状況について、社員(86名)+内定者 (6名) のうち18.5% が博士課程経験者であり、研究分野を問わず博士人材を評価し採用している。人文社会系の割合は約30%で、文理を問わず積極的に採用している。博士は新卒採用をメインに行っており、採用者の50%以上が博士学生となっている。博士を優先的に採用しているというよりは、応募いただき、最終的に内定を出した方のうち博士の割合が多かったということであり、博士であることを優遇して採用しているわけではない。
待遇面でも博士人材を評価しており、研究分野を問わず新卒の博士課程経験者は初任給で月給31万円である。対象には博士課程の修了者だけでなく、満期退学/単位取得退学の方も含んでいる。また、博士手当の制度があり、博士の学位取得者には給与に加えて毎月30,000円を支給している。就業しながらの研究活動もサポートしており、学会や研究会休暇制度、フレックスタイムやハイブリッドワークなどにより、就業しながら学位取得のための研究活動、論文執筆、学会発表も歓迎している。また、副業や兼業も認めているため、大学や研究所で非常勤講師や客員研究員などの身分を持つ者もいる。
アカリクで活躍する博士人材が身につけている素養としてあげられるものは、難易度の高い課題に向き合い続ける覚悟、リスクや危険性を客観的に数字で提示できること、キャッチアップスピードが本当に速いこと、自ら課題設定して進めるなど自走力があること、実行にもスピード感があり試行錯誤が速いことなどが挙げられる。
取組から見えてきた課題について、「博士人材」の共通認識がうまく形成されていないこと、事業と直結しない専門の博士人材の活躍が見えにくいこと、博士人材の採用意欲がある企業がまだまだ少ないことなどが課題として挙げられる。アカリクとしては、「博士人材を深く知ってもらう活動」を積極的に展開している。博士・ポスドク限定イベントを年数回開催しており、参加企業数も参加学生も右肩上がりに増えている。多様な企業に参加いただいている。
博士人材の同僚からの評価に関するアンケートを実施したところ、同僚から見て43.2%が博士人材を高く評価(非常に評価している)しており、「やや評価している」と合わせると95%以上であった。また、今後も博士人材と仕事をしていきたいか聞いたところ、「非常にそう思う」が36.9%、「ややそう思う」と合わせると90%以上となっていた。同僚からみた専門性だけではない魅力については、情報収集するとき、タスクに対応しているとき、雑談を通じてなど、直接のやりとりで魅力を感じるシーンが多いことがわかった。今後期待していることについては、組織や成果への貢献を期待されていた。
産業界の悩みとして、「技術革新とともに事業課題が高度化し続けている」「答えのない問いに向き合い続けられるような知的な粘り強さのある人材が欲しい」等をよく聞くが、当社は事業課題・組織課題も博士の力を最大限活用して解決できるのではないかと考えている。そのためには、企業と博士人材にもっと体験してもらい、そして、大学にはそうした活動に力を貸していただきたいと考えている。当社は、「知恵の流通の最適化」を理念に、高度化する経営課題に、博士とともに挑んでいきたいと考えている。
○吉原委員:
北海道大学のキャリア支援体制について、キャリアセンター(学部から修士)と先端人材育成センター(修士から博士)の2つセンターが連携することで、学部から博士まで連続的に一貫したキャリア教育、キャリア支援を行っている。学部、修士、博士では、支援の対象人数、支援内容、支援員に求められるスキル、就職先等が異なるが、2つのセンターがそれらに合わせた支援を提供している。また、必修科目やガイダンス、就職担当教員との意見交換を通じて、早い段階から博士に関する正確な情報を提供し、博士進学が選択肢に入るような活動をしている。また、今年度は一貫したキャリア教育・支援に関するシンポジウムを開催予定である。
先端人材育成センターのキャリア教育、支援について、まずはキャリアに関する基礎的なことを学ぶ意識改革型のプログラムと、それを応用して演習を行う実践参加型のプログラムから構成されている。例えば、キャリアパスの考え方は、キャリアマネジメントセミナーという大学院共通授業科目が入口になっており、アカデミアと企業の違いを学ぶもので、毎年500名程が受講している。その他にも博士(理系、文系)のロールモデルの授業や、博士と企業の交流会(赤い糸会)、企業サイトビジットの開催を行っている。最も力を入れているのは、個別面談になる。これは特に新SPRING新規採択学生に対して全員面談を実施している。一部外部委託しているが、博士を理解し、なおかつキャリア面談ができる人材が不足していることが課題と考えている。キャリアマネジメントセミナーの参考資料も添付している。
赤い糸会(年オンライン2回、対面1回)は、博士と企業の交流会であり、参加学生は事前にガイダンスおよびプレゼン演習が必須になっている。当日は企業から研究内容の紹介、博士のポスター発表でのディスカッション、企業ブースでのグループディスカッション、懇親会という流れで実施している。平成18年に博士と企業の交流を目的に開始した。参加企業については学生のニーズや、博士の採用実績、受け入れる環境があるかを考慮して決定している。近年は前年からの予約が増えている状況である。参加学生の変化としては、従来の理学・化学、工学等に加え、文系や純粋数学など多様な分野の博士が参加するようになっている。学生のアンケートによると、専門分野にこだわらず、博士の能力を活かしたいと考える博士が増えている。参加企業の変化としては、情報、電気、機械、化学、素材、医薬等の企業に加えて、定期的に博士人材を採用する他分野の企業が参加するようになってきている。採用の早期化を反映し、実施回ごとに医薬が多い回、化学が多い回、情報機械系が多い回の流れができてきている。3回実施のうち、対面で実施される札幌の回の人気が高い。役員が参加したい、見学したいという企業の要望が増えてきている。終了後、インターンシップに学生が行く、研究所見学につながるようなケースが増えている。全体のアンケート結果では、思いがけない出会いがあったというものが多い。
赤い糸会のポイントはプレゼン演習と捉えている。普段から慣れている学会等でのポスター発表、プレゼンテーション等とは異なる、企業への説明では何が重要かを知ることが大事と考えている。企業は研究内容の説明を通して博士の能力を見ている。発想した経緯や工夫を通して学生の能力が伝わる。また、社会的、学術的な貢献を具体的に説明することが大事といったことを演習で伝えており、改善して合格レベルに達成するまで終わらない構成にしている。専門外の研究者や人事部門向けの説明に重きをおいている。それによって専門的な説明とわかりやすい説明をその場で調整できるように練習している。非言語コミュニケーションについても練習している。赤い糸会は単なる交流会ではなく、トランスファラブルスキルを試し、伸ばす場でもある。これが長く継続し、企業から参加を希望してもらえるポイントと考えている。
博士人材育成コンソーシアムについて、13大学が連携して博士人材を育成している。主な活動は、博士人材育成プログラム、動画等を共有している(年間100プログラム以上)。各大学のプログラムに他大学の学生が参加するような多数の相互参加が起きている。また、博士人材育成ノウハウを共有するために年5回の専門委員会等を開催しており、連携して合同イベントを実施している(合同企業説明会、企業との意見交換)。コンソーシアムの効果としては、「博士人材へのチャンスの拡大(学会で自大学イベントに参加できなくても、他大学イベントに参加可能)」、「多様な博士人材への多様な支援(理系、文系、留学生、企業就職、アカデミア志望等)」、「規模を活かした合同イベント、情報発信」、「連携大学の博士人材支援のレベルアップ」、「環境変化への対応をスピードアップ」、「博士人材育成人材の育成」が挙げられる。単独では提供できない規模での博士人材支援を実現できている。現在は量から質への転換を模索中である。
大学のキャリア担当教員の思いについて、博士は出る杭になれる人材と考えている。出る杭を活かす企業が増えて欲しいと考えており、そういった「手引き・ガイドブック(仮称)」ができるとありがたい。博士は専門性が高いので、博士人材と企業には特にマッチングが重要と考えている。グローバル化やイノベーションへの期待、半導体の活況によって博士の就職環境も変化している。時代にあわせた大学、企業等が多様に相互交流する仕組み作りが重要と考えている。現状では、早期修了したり海外で研究したりする優秀な博士が日本の就活スケジュールに乗れずに不利になる状況がある。秋入学、論文のスケジュールで3か月遅れなど様々なので、少なくとも博士採用は通年採用を取り入れていただきたい。
○松井委員:
大阪公立大学による高度研究人材育成の取組は、2008年に事業を開始した。取組のきっかけは、大学院博士後期課程進学者の減少に対して、大学の研究力を維持しなければならないという危機感からであった。当時、「アカデミアを目指す人材ではなく、産業界を目指す人材育成に的を絞る。博士学位取得者を大学だけで育てるという発想を転換」といったキャッチフレーズを掲げ、事業を開始した。博士学位取得者の産業界への進出については、ロールモデルを提示すること、産業界で活躍するための素養を養うカリキュラムの整備することを目標として掲げた。そして、部局横断型・産学協同博士人材育成を行う組織として、高度人材育成推進センターの前身となる組織を設置した。企業幹部経験者を大学として多数雇用し、メンタリングやダイアログに力を入れており、これが大きな役割を果たしていると認識している。
高度研究人材育成プログラムは、文部科学省の補助金事業等を活用し、アップデートしながら事業を進めてきた。2008年から2023年まで、博士(後期)課程学生、ポスドクの中・長期研究インターンシップ実績として171名の学生を送り出している。今年の3月には大学等における学生のキャリア形成支援活動表彰において我々のプログラムの1つが選考委員会特別賞を受賞した。
高度人材育成推進センターの目的について、イノベーション人材に求められる素養について考えたところ、卓越した専門知識、研究遂行能力に加え、独創性、自由な発想力、チャレンジ精神、人を惹きつけるリーダーシップ、対話力、異文化理解力(グルーバル的素養)等を備えた、まさにアントレプレナーシップ、起業家精神を備えた人材を育成したい。卓越した専門知識、研究遂行能力については、各研究科で鍛えられるものと考え、当センターでは体系的に獲得できるもの、経験を通して学べることを提供していきたいと考え、博士等に対して様々なプログラム、カリキュラムを提供している。プログラム開発の際に、2008年当時はブラウン大学のPRIMEというプログラムを目標にプログラム設計した。その後、ニューメキシコ大学とも交流しながら、プログラムのアップデートを行ってきている。今でもブラウン大学の研修プログラムやニューメキシコ大学研修プログラムを行い、博士人材を送り込んでいる。
できあがったプログラムがTECカリキュラム(イノベーション創出型研究者養成カリキュラム)である。大学院共通教育カリキュラムとして全学学生に開講しており、各種トラスファラブルスキルを講義・演習形式で学ぶものである。長期インターンシップを単位化している。TECプログラムのうち、TEC1(ビジネス企画特別演習)は、研究シーズについて、ビジネス企画書作成から、ビジネス企画プレゼンテーションまで持っていくカリキュラムである。企業研究者によるマンツーマンの指導を行いながらほぼ15コマにわたってビジネス企画をブラッシュアップし、発表を行うことで、自分の持つ科学技術がどのような形で世の中にどう実装できるかを知る。TEC3は、イノベーション創出型研究者養成で、中長期の研究インターンシップを単位化したもの。企業における研究の在り方、技術経営の必要性と重要性を体得すると共に、社会人としての素養を習得し、専門外へのキャリアパスの可能性について考える機会を得ることができるプログラムである。C-ENGINEやジョブ型研究インターンシップも活用しているが、基本的にはダイアログという、メンターが学生と対話しながら、企業との間に入ってインターシップの派遣選抜を行うことが特徴である。派遣前講座を行い、インターン中も学生本人とダイアログしながら、最終的にフォローアップ面談を行い、インターンシップ報告会につなげる。実績は170数名とお伝えしたが、ポスドクを除く約99名の博士学生について、約85%が就職している(在学中進路把握できないものを除く。残りはアカデミアに進む)。TEC4(研究リーダー養成特別演習)は、先ほどの文部科学省のインターンシップ表彰を受賞したカリキュラムである。博士人材を研究チームのリーダーとして配置し、修士学生や学部4年生をチームメンバとして加え、研究チームをマネジメントする。企業からいただいた研究テーマを基に企業管理職、企業研究者から随時指導を受け、コーディネーターが支援する。また、博士はヒト・モノ・カネのマネジメントを考えてもらい、運用する。大学にいながらにして企業の研究価値を学ぶことができる新しい形のインターンシップの取組である。年に数件実施しており、博士人材が研究費もマネジメントする。
カリキュラム外の事例として「インタラクティブマッチング」を年数回実施している。博士学生らが自らの研究を、産業応用的視点を含めて専門領域が異なる人(企業人)向けに説明し、同時に研究人材としての自分自身のPRを行う。学会の発表とは全く異なるスタイルで、自分自身のプレゼンテーションや研究分野の魅力を伝えてもらうというイベントである。いきなりマッチングの場で学生が登壇するのではなく、事前に、メンターが随時寄り添いながらプレゼンテーション内容を仕上げていく。異分野の人材とのコミュニケーション能力の養成の場となり、企業でのインターンシップや、企業の研究所訪問や共同研究等につながる。
多様性が重要ということで、TECカリキュラムを学士課程、修士の学生、社会人に対しても開講している。博士学生については単位になる。
最後に、顧客価値共創プログラムを紹介したい。学士から博士が対象であるが、企業の課題を学生の発想で解決しようというもので、企業価値をどう創っていくかについて、コンサルタントや教員の指導をもとにビジネスアイデアとして発表する。
このように15年以上にわたり、様々な取組を通して博士学生に対しての支援を行ってきた。その中で産業界出身のメンターが学生に寄り添う体制を構築することで視野を広げることに大きい影響を与えることができていると感じている。
○川端委員長:
本日の取組紹介を聞いていただき、大学において、専門を超えたところで、アントレプレナーシップ、トランスファラブルスキル、リーダーシップに関するリアルな教育がなされていることを理解いただいたと思う。このような情報が企業に伝わればと思う。
このようなプログラムを昇格させると学位プログラムとなる。専門領域を超えて、大学の中でトランスファラブルスキルも入れた1つの学位としてまとめようという話がある。文部科学省の事業で、そうした取組を卓越大学院プログラムの中で進めており、全国でものべ30プログラムが動いている。
○加納敏行 大阪大学大学院情報科学研究科 産学連携教授、日本電気株式会社 上席技術主幹:
本日は大きく4点申し上げたい。まず現状の課題認識について、それから、特に卓越大学院プログラムで進めている高度な知のプロフェッショナルの育成強化、さらには具体的な卓越大学院プログラムにおける産学連携の取組、そして最後は今後の課題と産・官・学への期待ということで話題提供する。
すでにご存知のとおり、労働力人口の減少、AI等の技術革新に伴う高度人材要求の急増で、人材の高度化、高度な知のプロフェッショナルの育成が重要になっている。今後は量の議論、つまり人口という議論から質への転換が必要になってくる。大学の進学者数の絶対数は2020年に62.4万人。これは比率にすると、進学率は全世界で52位という非常に低いレベルだが、絶対数からすると世界トップ3に入っている。つまり、学部生62.4万人の中からどれほどが博士課程に進学していくかが重要。まさに知の生産年齢となるわけだが、ここでは「新世代産業革命」と書いており、これを推進する知のプロフェッショナルの育成がまさに高度な人材の育成になってくる。つまり、既存の生産年齢人口に依存しない成長と発展を可能とする産業モデルへの転換、サステナブルな強さを有する産官学を支える人材基盤の形成が必要。
2050年に80歳、後期高齢者の方々が現在はどういうポジションにいるかというと、役職定年世代、豊富な経験と知識と判断力を持っておられる方。65歳、高齢者に入られる方は現在40歳になっておられて、現役の最前線にいらっしゃる方。まさにリカレント教育や学び直し、社会人博士課程の最後のチャンスになっている。50歳、2050年で現役の最先端を走る方々は、今ちょうど25歳で修士課程を修了した方々。こうした方々が2050年に向けていかに企業の中で、あるいは官公庁の中で活躍していくかといったところは大きなポイントとなる。キャパシティの面でもインセンティブの面でもキャリアパスの充実が重要なポイントである。一方で高校生に目を向けてみると、2050年に40歳になって前線で働く現役の社会人は来年高校1年生となる。実は大学に入ってから博士課程をどうするかと考えていたのでは遅いのかもしれない。高校時代から進学やキャリアパスに対して興味を持ち、自分たちのキャリアパスを考えていく世代が若年化する必要がある。そのためのサポートも重要になってくる。2050年に25歳、ちょうど博士課程を修了する学生は来年生まれる方々。2050年に博士後期課程を修了する。今の状況だけではなく、2050年を見たときに、若い世代からそれなりの現役の社会人の方々まで含め、いろいろな形で社会参画して社会貢献ができる、そういう視野、視点が必要になってくる。
ここからは知のプロフェッショナルの育成強化のための大学院改革への取組ということで、卓越大学院プログラムを紹介する。新たな知の創造と活用を主導し、時代を牽引する価値を創造するとともに、社会的課題の解決に挑戦して、社会にイノベーションをもたらすことができる博士人材、「高度な知のプロフェッショナル」と呼んでいるが、こういった人材を育成することを目的として卓越大学院プログラムが設立された。このプログラムでは、学長の責任の下、大学本部全体が主体的に関わる体制を構築し、大学院全体の改革を実現していく。あくまでもこの卓越大学院プログラムは、それぞれの大学の中で進める大学院改革のパイロットプログラムという位置づけ。当然ながら、このプログラム以外にもそれぞれ自主的に各大学が大学院改革を行い、未来の知のプロフェッショナルを育成していくプログラムをつくっていくところが大きな目的になっている。
具体的には、既存の研究科や機関の枠を超えるところが重要。当然、文理融合も含む。社会科学や理学、人文科学といった領域も含めて研究テーマを設定し、イノベーションを創出し、社会に貢献できる人材を育てるための仕組みづくりを行う。2つ目は連携先、外部の研究機関や大学の内部の連携先について、全ての部局、機関において教育理念等の共通の理解に基づいて進めていく。3つ目は、プログラムを通じて授与される学位について質の保証がされること。学位を持っているかどうかだけではなく、その学位がきちんと質の保証がされているかどうか、ここは今後、民間企業も注目していくべき部分ではないか。当然ながら、優秀な社会人でも博士学位取得をどんどん促進するところも重要なポイントとなる。一方で、学生、企業という観点で見ると、双方向の人材の派遣を行う。大学からは企業人、社会人として教員を企業側に派遣する、あるいは学生を派遣するというフェーズもある。一方で、企業人等が大学の教員として自ら教壇に立つ、あるいはメンターとして学生をサポートする、そういう双方の役割も新しい取組になっている。産学共同研究の場について、従来、産学共同研究というと研究職員が中心に進められてきた。そこに積極的に博士課程の学生を投入していくこともポイントとなる。産によって学生へ実社会課題や問題を提供していくことも非常に重要なポイントとなる。最後に産学共同による学生のキャリアパス相談について、産学共同というところが大きなポイントで、学生のキャリアパスに対して、社会人として、あるいは企業人として学生にサポートしていくことも非常に重要。現在、17大学30プログラムが採択されている。この1から15番までの15プログラムが今年度最終年度を完了し、来年度から自走を始める段階に来ている。その後、1年ごとに11プログラム、4プログラムが自走を開始するという年代がやってくる。
若干私見が入るが、大学院改革の狙いは、卓越大学院プログラムが終われば終了ではなく、あくまでもこのプログラムをパイロットプログラムとして全学の大学院を改革し、修了生の質と量を向上させるところが大きな狙いとなっている。
新たな産学連携の在り方も模索され始めている。従来は研究課題とその研究の成果のつながりが主に産学連携、産官学連携の在り方だった。一方で、これからは卓越大学院プログラムを通じた、人材育成を含めた包括的なつながりに産学連携の在り方が変わってくるだろう。産官学連携で求める人材像や人材ビジョンを策定していくこと、さらに人材像や人材ビジョンを実現するための方法論の策定やカリキュラムへの実装、そしてその執行までを産官学連携で進めていく。あるいは施策効果の計測も非常に重要で、その効果の計測と大学院システムへフィードバックが必要である。これら全てを大学の中だけで閉じるのではなく、連携する産官とともに推進することが大きなポイント。最後は当然、パイロットプログラムであるこの事例を全学に展開する。全学だけではなく、大学が日本全体の大学院に展開していくことも重要な取組かと考えている。
新しい新産官学連携の取組について。単純に研究テーマだけではなく、人材育成を含めて産官学連携を推進すること。幾つかの事例を掲載した。トピックだけを抜き出して記載しているので後ほど御覧いただきたい。具体的には、PBLを中心とした産学連携による学生と教員が企業に入って企業の課題を解決するプログラム、それをさらに有償で進めて、プログラムを推進するための資金として活用している事例、こういったものも多数存在。こういったところが新しい大学院の取組になると思う。
15の2018年度採択プログラムが今年終了する。リーディング大学院を含めて、大学院における高度人材育成に関しては社会側の当事者意識の改革が課題になってくる。諸外国に劣らない博士課程修了人材の、特に処遇の整備と周知が今後必要になってくると考えている。
3.意見交換
○井原委員:
本日は様々な取組を紹介いただいた。当社も北海道大学の赤い糸会へ、サイトビジットで当社イノベーションセンターに訪問いただき、その後入社した実績もある。このような大学の取組みを積極的に活用することにより、博士課程学生にとっては企業の中で働くイメージをもつことになる。良い取組であろう。大阪公立大の取組については、当社と地理的に近い大学であるが、内容を詳細に存じあげなかった。大変申し訳ない。こうした取組を大学が積極的にやっているということが企業側でも把握できるとよい。当社の勉強不足かもしれないが、企業ももっと積極的に利用すべきと思った。
○大河原委員:
2点ほどコメントしたい。文部科学省のロールモデルの「事例集(仮)」作成は非常に良い取組と感じた。これを博士課程学生のみならず、修士・学部生にもひろくイメージをもってもらえるように展開できると良いであろう。修士課程、学部生も含めて、博士に進んだ後にどういったキャリアがあるのか、広くイメージを持っていただける展開の仕方をお願いしたい。
もう1点は、大阪公立大学の取組について。興味深かった。企業とのインターンシップを人材育成の一環として取り組んでいることは、企業側としても非常に良いと感じる。企業と一緒に、産業界に対してどういった人材を送り出していけるか、しっかり取り組んでいただいている。インターンシップの企業派遣についても、同大学では学生に対して手厚く対応しているのが良い。先ほどの井原委員と同様、大学の取組を知らなかったというのが正直なところであった。非常に勉強になった。
○永田代理委員:
文部科学省のロールモデルの「事例集(仮)」について、企業に対する事前調査のところで既に書かれているが、学生の視点でどのような分類か分かりやすく示されていると、読み手として理解しやすい。事業、リスキル、海外経験等が整理されて示されるとよい。また、インタビューは具体的でよかった。自分たちの会社でもそのような整理が必要と感じた。
人材育成については、企業側でも採用後に定着して活躍してもらうために、企業の人材育成は重要なポイントだと考える。現在、学生がどのように大学で育成をされているかを知ることが必要であろう。近年、学生の質が大きく向上しており、それをマネジメントする側の中高年世代とはかなりギャップがある。自分たちが学んできたことと全く違うことを学んでいる人たちに対してどのように育成していくかを考える際には、学校で何を学んでいるかを把握することが重要である。その意味で、大阪公立大学の説明であったように、我々自身も人材育成という観点で大学側と情報交換を行っていく必要があると感じた。
○川端委員長:
育成に関してはこれまでも様々な議論はあったが、それをもう少し広げて、例えば、この会議自体も、民間企業の博士人材の採用を拡大し、これまで採用されたことがない企業まで広げるためには、どのような発信をすることがそうした大学の取組を知ることにつながりそうだと感じるか。例えば、コンソーシアムを設立して話し合う等の話もあるかもしれないし、パンフレットを作成して広めることもあるかもしれない。
○永田代理委員:
当社の来年度からの人材育成については、各種メディアにも既に公表されているが、自分のキャリアを自分で決定するポスティング制度を一般職にも導入する予定である。社員自身が自分の人生を描くキャリア自律を目指す中で自分の現状を把握し、何を学ぶべきかを考える。当社ではそうしたロジックで人材育成をとらえている。アカリクおよび各大学の発表でもあったが、大学と企業で実施しているキャリア開発は良い意味で重複しても良いが、うまく連携して不必要な重複とならないようにすることが重要と感じた。
○川端委員長:
その観点では企業の中でのキャリアコンサルタントや人事部担当と大学と育成デザイン担当との交流の場の構築が効果はありそうか。
○永田代理委員:
最後に指摘されていたように、単なるキャリア開発のみではなく人材育成も含めて企業と大学が包括的な繋がりを持つことが必要である。そのための1つの手段として相互の情報交換が必要であろうと考える。
○鷲田委員:
マッチングのタイミングに関して、アカリクのイベントや大学のイベント等は参加できていないものも含めてよく知っているが、もっと広く知られても良いのではないか、と、感じながら聞いていた。博士人材の活躍のためには、既に採用している企業ではなく、それ以外の企業へも広げていく必要がある。そのために、先ほどの話にもあったが、専門性を活かすだけではない人材の育成が重要であろう。サーバーエージェントも博士人材はほぼ研究者であり1割に満たず、データサイエンティストやプロジェクトマネージャーなども1割程度なので、もう少し幅を広げる必要があると思う。
山田委員が話されていた人文学分野の博士の活躍についてである。そこの実態が自分たちには残念ながら見えてこない。それが見えないので、学部卒の人材を育てたほうが良いとなる。自分は少なくともそのように思っていたし、このままではそのような会社が増えるので、専門性以外の人材がどう活躍しているのか、企業も大学もOBOGの活躍をもっと積極的に知らせることで、もっと企業側が獲得に行くスタンスになるのではないか。自分たちの企業努力も相当足りないと反省した。
アントレプレナーシップ講座の実施、プレゼン力の育成、吉原委員の対話重視という点等、失礼ながら想像している以上に実施されていることをきちんと理解できてなかったと感じた。うまく情報共有するなかで、専門性以外の能力を活かした採用ができるのではないか。また、周辺の研究所を持っていない企業にも情報共有できるのではないかと感じた。
○川端委員長:
今回、委員の企業の近隣の企業に宣伝して採用してもらうというのはこの検討会の1つの目的にもなっている。具体的にどのようなパンフにするかは次回以降検討していきたい。もう1点、OBOG、人文系博士の実態についてわかっていない。
○文部科学省科学技術・学術政策局人材政策課 髙見人材政策推進室長:
資料2の企業への事前調査での質問例で、ロールモデルのイメージを5つの類型として示している。コメントいただいた、専門性以外の部分であれば、上から2つ目の課題発見・解決能力等の汎用的能力を活かした研究開発以外での活躍例を集めていきたい。また、人文社会系等の理工系以外の博士の活躍例も積極的に取り上げることで、未だ採用が進んでいない企業等に対して新規の採用につなげていけるような例示ができればと考えている。
○酒向委員:
紹介いただいた大学の取組は興味深かった。今後策定する「手引き・ガイドライン(仮称)」において、今回の「ロールモデル事例集(仮)」では企業にアンケート調査をするとのことだが、同様に、大学の取組についても何か示すことはできないか。非常に良い活動なので、もっと知ってもらうと良い。
吉原委員が説明された北大の取組事例は以前に経団連の会合でご説明をいただいたことがある。その中でコンソーシアムへの参加を希望する大学があっても、運営面での担い手の確保が難しいので今の規模が妥当というご説明であった。量的に既に満たされているので、今後は質を高める方針とのことだが、この場合の量とはどのようなイメージか。人材育成関連のコンソーシアムは関西方面でも個別に活動しているし、今後広がっていくと良いが、そこで受入を限定、量より質を重要視することとなった背景を聞かせていただきたい。
また、通年採用を取り入れる点に関しては、企業は既に通年採用を実施している。現場の学生の認識と齟齬があるのであれば教えていただきたい。
大阪公立大学の取組で、メンタリングやダイアログとして経営層が参加し、企業との連携により、課題を企業側から出すとのことだが、具体的にどのような形で連携をしているのか。マッチングは非常に手間がかかるが重要である。運営面での進め方等について、大学から情報発信しているとのことだが詳しくご説明いただきたい。
○吉原委員:
量的な話について、コンソーシアム内で既に100以上のプログラムを共有している。例えば、トランスファラブルスキル等の汎用スキル関係プラグラムは2~3日に1件のペースでメールでの募集案内があり、学生側には「ありがたい」一方で「多くて見ることができない」の声が聞かれている。マッチングイベントも年間10回以上と量的なチャンスは広がったが、今後は数を増やすよりも質をもっと高めたい。学生の半数は標準年限である3年で博士を取得できていない。プログラムに出ている学生に尋ねると、寝る間も惜しんで研究している。プログラムの質を高め、学生を土日には休ませてあげたいと思う。また、マッチングイベントが増加したことで、大規模大学に企業は興味を示すが、中規模大学の申し出は断られてしまう。イベントが多すぎて企業もすべてには行けなくなっているため、中規模大学の学生も、どの大学の学生であっても参加が可能となる調整が必要と思う。
通年採用に対しては、博士の場合、企業は締め切っても採用は受け付けると言うが、採用自体には定員があり、定員が満たされると企業側の採用活動は次年度へ移行するため、実質的に採用は終了している。学生からみると、まだ通年採用の企業が多いとは言えない。企業側の効率的観点から一括採用はやめられないにしても、本当にその会社にマッチする学生がいたときにはいつでも門戸は開いている、という状況をつくっていただきたい。
○酒向委員:
博士人材育成コンソーシアムに新たに参画することを希望する大学がいたとしても、参画する大学数は現状のままとし、マッチングの質を高めることが優先されると理解した。これは自走の観点だが、マッチングイベントに参加される企業にスポンサーになってもらうことを検討してはどうか。
企業の通年採用について、人事のマンパワーに限界があるため、どこかのタイミングで打ち切らざるを得ないということはある。
○吉原委員:
企業スポンサーはこれからの検討事項と考えている。イベントの参加については企業側から参加費形式で既に支援いただいているものもあり、その意味ではすでにご支援いただいている。
コンソーシアムの大学の数を増やせない問題は、学生を取り巻く環境の変化に伴い、運営方法も変化しているが、メンバーを増やすと意思決定が遅くなる。例えば、参加大学をメイングループ、サブグループの2段階構成とする、又は、コンソーシアムのノウハウをコピーして他で実施していただく、などは可能と思う。しかし、現状の自走の方式で単に大学の数を増やすと、学生へのサービスや支援の質の低下が懸念されるので、新たな形を模索している。
○川端委員長:
北海道大学のコンソーシアムしかないわけではなく、もっと日本中に広がると良い。西日本や関西等様々なところで既に行われている。質や方法は異なるかもしれないが、そこも含めて今後もっと拡大していくものと思っている。これで終わりではなくそれぞれの中で質が高まっていく。
1人の学生の負担の話に対して、常にトランスファラブルスキルと専門性のトレードオフがある。どこまでやるべきいか、という問題はあるが、1人が何度もマッチングイベントに参加する必要はなく、様々な人が様々なところで参加するようになると良い。これで終わりというのではなく、日本中に拡大する、ということと思う。
○吉原委員:
格差があると思う。トランスファラブルスキルと専門性の両立がきちんとできている、よく知っている学生と、そこに届いていない学生、双方への支援の調整が必要な段階にあると思う。
○徳田委員:
吉原委員、松井委員、加納先生の発表でそれぞれ体系化されたプログラムやカリキュラムに圧倒された。立命館大学で取り組んでいるT型博士育成、インパクトメーカー育成のプログラムは、一周遅れだと感じた。特にコンソーシアムへ参加しているが、他大学の取組の情報を収集できていなかったことが衝撃であった。
松井委員にご報告いただいた中で、研究リーダー養成特別演習が非常に良いと感じた。企業が大学の中に入って産学連携をしつつ、学生は研究者になるかもしれないし、産業界へ行くかもしれない。自分はドイツのアーヘン工科大学の博士後期課程に在籍した経験があるが、フラウンホーファーと連携しているようなプログラムを更に博士用に実施している点に刺激をうけた。立命館は博士人材を毎年130人程度輩出しており、西日本の私学の中でも学位が多い。特に人文・社会科学系の博士が65%と多いところが特徴的である。今回の「ロールモデル事例集(仮)」でも人文社会科学系のケースを例示いただけるとのことで感謝したい。
しかし、個々の企業のケースで、人文社会科学系の博士を雇用している事例を追うことにどの程度意味があるのか。企業のSDGs対応やESG対応をするコンサルティング業界等、文系博士にニーズがある業界があるのではないか。企業での個別採用ではなく、文系の博士人材が活躍する業界を扱ってはどうか。企業でSDGsやESG対応の場合、コンサルに投げているがコンサルへ投げた先に人文・社会科学系の博士という仕組みがあるので、業界を探っていただきたい。山田委員の発表では、2割の博士人材がおり、そのうちの3割が人文社会科学系とのことだったが、企業レベルでの活躍だけでなく、業界としてどのように文系博士が蓄積されているのかを知りたいと思った。
鷲田委員のコメントで、専門以外で博士人材がどう活躍しているかの見える化について、今回の事例集で実施するのかと思うが、それをエビデンスレベルで見せることが重要と感じた。日本企業は長年効率的に一括採用を進めて優秀な人材を採用していきた。その一方、博士人材への無関心や博士人材のデメリットが強調されすぎているのではないか。最近になって新卒一括採用のデメリット、早期退職やジョブホッピング等がでてきたことで、博士人材を採用するメリットについて相対的に魅力を感じるところがでてきたのであろう。台湾の企業が、日本人は想定よりも働かないが博士人材は働くはずなので受入を広くしたい、と言っていた。その背景には、安い賃金で高度人材を雇用したいという思いがあるのではないか。そうではなく、適切な待遇で高度人材を処遇することが企業のメリットにつながる、ということをエビデンスベースで示すことが求められるのではないか。
○佐々木委員:
文部科学省のインターシップの表彰委員会のとりまとめに関与していたため、大阪公立大学の取組は知っていた。あらためて素晴らしいと感じた。卓越大学院の取組について、加納先生から話があったが、大学と企業の産学連携の新しい在り方を今後作っていくべきというのは常日頃から思っていた。新しい産学連携フェーズになると期待している。学生は一生かけて人生をキャリアアップ、リスキリングしていく。大学も1人の人生に伴走するようなフェーズの中で、企業と一緒に人材育成、成長を考えていくことになるのではないか。
その中で検討項目だと感じたのは、大学はこのような立派なプログラムをもっており素晴らしい、反面、学生が本当に忙しいと思う。就職活動の学部生、修士学生の中で問題となっているのは就職活動が忙しすぎて修士の研究を阻害している点である。その結果、現在の修士は学部プラス1年程度の力しかないと感じる。同様に博士が就職活動で忙しくなってしまうと、博士の研究力はどうなっていくのか今後懸念される。博士の採用活動等は今の学部・修士生対象の採用とは異なる形で実施されるべき。単純に通年採用すればよいということではなく、採用数が増えれば企業の負担も大きくなるので、博士ならではの採用活動を、また量的にも対応できるようパターン化できると良い。
○加納敏行 大阪大学大学院情報科学研究科 産学連携教授、日本電気株式会社 上席技術主幹:
NECは通年で博士人材の採用を進めている。給与体系など含めて可視化することが重要で、学生自身に博士、修士、学部の入社での違いを示すことが重要。学生はSNSで企業の中のことをよく知っている。学生は想像以上に企業の情報を入手している。特に卓越大学院の学生は企業の方が大学側に入ってきているので、単に授業やカリキュラムという以外に、カフェや談話室などでカジュアルなコミュニケーションをとる。その結果として企業の中の情報をどんどん入手している。
NECはそうしたことも意識し、大学に参画している。自分もそのうちの1人だが、大学側に入って学生とコミュニケーションを取る、あるいは教員とコミュニケーションを取りながら、企業はこういう人材が欲しい、大学側ではこういう人材の育成を目指しているなどについて意見交換ができる。フォーマルではなくインフォーマルな意見交換ができる場が、企業人が大学に入っていくことで成り立つ。
コンソーシアムや交流会、意見交換会という場では出しにくい意見も、中に入ってしまえばいろいろな意見交換ができるようになるので、大学の教員も企業にもっと入っていくべき。企業人も社会人博士として大学に入るパターンと、教員として入るパターン、あるいは最近話題に上っているのはURAとして入るパターンなどがある。研究者ではない、通常の教員ではないがこうしたプログラムを企業の立場、あるいは大学の立場でサポートする。こうした人材も育てていかなければいけなくなってきていると感じた。
○大河原委員:
当社でも通年採用は既に取り組んでいる。指摘があったように、学生から見ると、ジョブ型採用なので、ジョブが埋まるとジョブ単位で採用がいったん終了してしまう。企業側の発信の工夫が必要だと感じた。
○松井委員:
本学の活動について知られていないというご指摘をいただいた。大学としては宣伝をしており、大手企業を含む200社以上が対象リストに入っている。とはいえ、まだまだ我々の努力は必要であると感じる。また、企業内で情報が一部の限られた部署にとどまっているようにも感じられる。
マッチングに関して、形態は様々である。基本的には企業からのアプローチと学生からのアプローチがあるが、いずれもメンター、コーディネーターがそこの間を取り持つこととしている。研究リーダー養成コースでは、企業から技術課題を提示していただき学生を探している。学生からアプローチがあったときには、企業に声掛けして可能性を探るケースもあり、多様である。
「ロールモデル事例集(仮)」について、非常に優れた取組になると期待している。一番感じるところは、博士の研究領域は最先端であるため、そこで完全なマッチングが取れるケースはほとんどないと言っても過言ではない。一方で、博士人材はその専門性に近い領域でも十分に活躍できている、そういったロールモデルを提示していくと、企業にとっても安心につながるし、学生にとっても、自分の研究領域と完全にマッチングしていなくとも、その周辺の部分で採用につながることが明示的に示されていくと、お互いによい効果が出ると思われる。そうした事例も多く掲載していただきたい。
○川端委員長:
本日は専門性の話はほとんど出てこず、それを生かす力やリーダーシップ、アントレプレナーの話題が出た。本当に生きるのはそうした専門性の上の能力ではないか。
○山田委員:
人文社会科学系博士人材の活躍の具体的事例について、アカリク内ではメインは営業職となり、キャリアアドバイザーと企業向けの採用コンサルティング事業の営業活動を行うポジションとなる。キャリアアドバイザーは課題の特定、深堀り、ヒアリング能力等、もともと博士人材であったことからの経験値からのキャリアサポートが可能。ヒアリングスキルや課題特定において能力を発揮している。
企業への営業活動でも同様で、特に学部生との違いは顕著。博士人材は早期に活躍する事例が多い。会社の教育の仕方にも左右されるが、自社の商材の説明だけではなく、課題特定に入り込んで提案が可能で、受注率にも反映されている。人文社会科学系が活躍する場は多く、待遇面でも年々引き上げている。
キャリア支援の面で人文社会科学系の博士学生をどのように支援しているかというと、専門外就職が多く、エンジニアやITコンサルタント、データサイエンティスト等、産業界でのニーズの高いポジションでポテンシャル採用での支援ケースもある。最近ではHR業界が非常に盛り上がっているので、サーベイや適性検査の開発等のキャリアへの支援事例もある。
〇川端委員長:
今お話しいただいたように、博士人材が採用された企業ではおおむねよい評価を受けているということだと理解した。大学での取組も、企業の方からも評価されうるものだと思う。
この委員会で最初にお話ししたように、いろいろなところでよい取組を多数実施している。博士人材の採用に至る最後のラストワンマイル、好事例をまだ博士人材を採用していない企業にどう伝えることができるか、そうした根本的な議論が本日も情報提供されたと思う。学生も、博士の間で院生同士の会がつくられている。昔のように博士学生は孤立しておらず、SNSも使って横の情報をかなり取ることができている。それにもかかわらず、情報に格差がでているというお話もあった。
今日はかなり活発に委員の皆さんのご議論いただいた。感謝申し上げたい。
4.閉会
〇文部科学省科学技術・学術政策局 先﨑科学技術・学術総括官:
今回は、専門分野ではないトランスファラブルスキルを軸とした事例発表だったと思う。委員それぞれのお立場からいろいろな御提言や御説明があり、企業の内情なども御説明いただいた。要は情報発信・交流をどのようにしていくか、非対称性をどのように崩していくかに尽きるのではないかと感じた。
今日は大学の委員から、博士人材向けのキャリア支援や大学の取組を御紹介いただいた。これは大学全体の取組状況からするとかなり最先端の取組で、大学全体では博士人材向けのキャリアセンターがない、こうした好事例が知られていないということもある。横展開ももちろん重要だが、学内でも博士学生に対するキャリア支援の取組が定着していない。そのため、大学として次の打ち手を真剣に考えようということになっていないのではないか。そして、産学がもっと入り乱れて取り組んでいかないと良い取組が出てこないのではないか。専門性から少し離れた博士人材の採用では、学生本人が自分の強みを理解しておらず、不安になっている事例があるのではないかと感じている。数年前まで研究開発系のファンディングエージェンシーで採用の担当をしていたが、組織内の極めて優秀な博士人材に質問すると、入職するまで大変不安だったとのことであった。自分は薬学が専門で、もちろん自分の研究とは一部関係はあるが、薬学ではない業務へ応募することとなり、自分の強みがわからず、とにかく博士人材が採用されるので採用の門戸を叩いてみたとのことだった。入職後は大活躍している。博士人材には、自分にどんな強みがあるのか、かみ砕いて伝えてあげることが、よりよい人材を企業が採用していく上で重要になるのではないか。研究から離れて採用される博士人材は、キャリアと非常に真剣に、深刻に向き合って入社するので、(そうした強みについて)どう伝えていくかということも(産学の)交流という中での課題だと感じた。
博士人材のロールモデルは文部科学省でも「企業で活躍する博士人材ロールモデル事例集(仮)」を作るが、今後もいろいろな御意見をいただいた。また、インタビュー調査への御協力をいただきたい。本日のご議論に感謝申し上げる。
(閉会)
高等教育局高等教育企画課、科学技術・学術政策局人材政策課