令和6年9月26日(木曜日)14時00分~15時30分
オンライン
(◎委員長)
◎川端 和重 国立大学法人 新潟大学 理事・副学長
井原 薫 株式会社島津製作所 執行役員 人事部長
大河原 久治 株式会社日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 タレントアクイジション部 部長
酒向 里枝 一般社団法人日本経済団体連合会 教育・自然保護本部長
佐々木ひとみ 学校法人東京家政学院 理事
元早稲田大学常任理事(職員人事・キャリア支援担当)
髙田 雄介 中外製薬株式会社 人事部長
徳田 昭雄 学校法人立命館 理事・副総長(立命館大学副学長)
松井 利之 大阪公立大学 副学長 国際基幹教育機構 高度人材育成推進センター長
山田 諒 株式会社アカリク 代表取締役社長
吉原 拓也 北海道大学 大学院教育推進機構 副機構長
鷲田 学 株式会社サイバーエージェント AI 事業本部 人事室長
大平 将一 富士通株式会社 Employee Success 本部 人材採用センター長
森友 浩史 文部科学省 大臣官房 審議官(高等教育局担当)
髙見 英樹 文部科学省 高等教育局 高等教育企画課 高等教育政策室長
澤田 和宏 文部科学省 大臣官房人事課 人事企画官(併)学生支援課
先﨑 卓歩 文部科学省 科学技術・学術政策局 科学技術・学術総括官
今村 亘 経済産業省 大臣官房 審議官(イノベーション・環境局担当)
川上 悟史 経済産業省 イノベーション・環境局 大学連携推進室長
1.開会
○経済産業省大臣官房 今村審議官(イノベーション・環境局担当):
本日は各企業の事例ということで、株式会社日立製作所、中外製薬株式会社、富士通株式会社から各事例について御紹介いただく。各企業の事例を共有しながら、検討を深め、我が国のモデルとして、広く均てんしていきたい。また、さらに深堀、改善していくために、みなさまの闊達な議論をお願いしたい。
2.議事
(1)ジョブ型研究インターンシップについて
○文部科学省大臣官房人事課 澤田人事企画官:
資料2について、文部科学省から制度の概要を説明し、その後、取り組み状況について山田委員から説明する。
まず、ジョブ型研究インターンシップの背景について説明する。総合科学政策・イノベーション会議による「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」(2020年1月)において、「研究力強化の鍵は、競争力ある研究者の活躍」であること、達成目標「2025年に産業界による理工系博士号取得者の採用者数を約1000名(約65%)増加」が示されている。その具体的な方策として、令和3年度から博士課程学生の長期有給インターンシップを推進。
経団連は、「Society5.0に向けた大学教育と採用に関する考え方」において、「大学院生(修士・博士)を対象とした新たなジョブ型採用につながるインターンシップの試行を推進する」ことを提言している。
こういった背景を踏まえ、経団連と大学の有識者からなる産学協議会によって、今後拡大が見込まれるジョブ型採用を見据えて、産学連携の上で、大学院教育の一環として研究インターンシップが提言された。
ジョブ型研究インターンシップの目的は3つ。1点目は、「安心して博士課程への進学を選択できる環境をつくる」、2点目は「今後拡大が見込まれるジョブ型採用を見据えて産業界と大学が連携して大学院教育を実施する」、3点目は「国際競争に耐え得る競争力に裏打ちされた実践力の養成」である。
実施体制については、文部科学省と経団連が共同設置しているジョブ型研究インターシップ推進委員会が事業の方針を策定し、ジョブ型研究インターシップ推進協議会に大学や企業が参画し、事業を推進。2024年9月現在で参画している大学は98校、企業は60社。事務局として株式会社アカリクが参画。
ジョブ型研究インターンシップの6つの要件を定義し、産業界と大学が連携し、実施することになっている。
要件のうちポイント1は、長期・有給・ジョブ型。「原則2か月以上」とするが、その長さが企業・大学の双方にとってハードルとなっていたため、今年度からは内容に応じて短くすることも可能とした。
ポイント2は、「正規の教育課程の単位科目として実施」し、大学側が単位認定することとした。
ポイント3は、「インターンシップ評価を採用選考に活用可能」。
ジョブ型研究インターンシップは、企業が学生と雇用契約を結ぶ直接雇用型と、企業が大学と共同研究を結ぶ共同研究型がある。
「研究インターンシップ」は、博士学生の専門分野を活かすだけでなく、博士人材の持つトランスファラブルスキルを生かした、専門分野に捉われず、高度な研究活動により培われた課題設定・解決力を活かすものとして捉える。
今後に向けた課題として、1つ目に学生の応募者数を増やす必要があるということ。SPRING事業によって、学生の登録者数は増えたが、実際に応募する学生を今後増やしていくことが必要。
2つ目の課題は企業からのジョブディスクリプションをより多く登録していただくような工夫が必要であるということ。一部の企業が多くのジョブディスクリプションを登録いただいている一方で、まだジョブディスクリプションを登録いただいていない企業も多いことから引き続き登録のお願いをするとともに、新規の企業の参画、開拓も図りたい。
〇山田委員:
2021年度から2023年度の実績報告であるが、2023年度末時点で、84大学、59企業が会員として参画。2023年度末で、学生の登録者数2109名、応募件数累計247件。一方、企業からの募集257件に対して、マッチング成立は62件。
2024年9月時点で、登録数は6000人を突破。この爆発的な増加は、SPRING事業との連携による効果である。
実施状況の年度推移をみると、登録数の伸び率には及ばないものの、募集人員、応募件数は増加傾向にある。一方、成立件数は伸び悩んでいる。
年度別の実施状況を詳細化。応募件数と成立件数が伸びていない背景としては、募集されているジョブのバリエーションが狭いことがある。学生への応募サポートにも改善の余地がある。コーディネーター含めて学生が応募しやすい体制を組んでいく必要がある。
2024年度実績よりマッチング事例を抜粋。大きく2つの分け方で提示しており、まず主力事業と直結する専門分野でのマッチングについて。機械系メーカーと情報工学・ロボティクスの学生とのマッチング、IT企業のウェブ・アプリ系ジョブでの応用情報学の学生とのマッチングなど、主力事業と直結する専門分野でのマッチング事例がある。
一方で、大企業中心に積極的に出している多角的事業・新領域やトランスファブルスキルでのマッチング事例として、文部科学省のジョブでの宇宙物理学の学生とのマッチング、機械系メーカーで代数学・幾何学の学生とのマッチングなどがある。
参加学生のアンケートでは、87%が期待を上回る良い経験だったと回答。大学の研究との違いが体験できたなどのコメントが多くみられた。
参加学生の声では、アカデミアの研究と産業界の研究の違いを知ることができた、自分の長所と短所を外部から評価してもらえた、博士課程での要請される能力は研究に留まらず卒業後のキャリアにおいても重要な意味をもつことが理解できたなど、ポジティブな声をいただいた。
受け入れ先企業のアンケートでは、受け入れた博士学生の95%以上が期待通り以上、21%は大きく上回る活躍だったと回答で非常に満足度の高い結果であった。また、インターンシップ終了直後の時点で、55%の博士学生に採用案内を行う意向。博士1年目の実施が多いことを加味すると採用案内を過半数が行うということは企業の採用意欲が高いと捉えている。
受け入れ先企業からは、高いレベルの学生との接点がもてる可能性、能力が高い学生の採用につながることへの期待、現場からの評価は高かった、通常の新卒採用選考では出会いにくいタイプの学生と出会えたなど、ポジティブな回答をもらった。
登録学生の研究分野を最大3つまで選択したものを集計。生物学が最多、次いで、機械電気・土木建築等、情報科学が多く、博士学生全体の分野の分布と概ね一致している。
ジョブディスクリプションの研究分野を最大3つまで設定したものを集計。機械系メーカーや製薬企業でのデジタル化が進んでいる点も反映されていると感じるが、圧倒的に情報科学が多い。
参考としてマッチング事例を紹介する。沖電気工業の光学系研究開発に物理工学分野の学生がマッチングした事例、日立製作所の脱炭素ソリューションに環境学分野の学生がマッチングした事例、エア・リキード・ラボラトリーズの脱炭素素材の研究開発に博士学生がマッチングした事例。他に、公開可能な事例を参考資料に掲載している。
(2)企業での取組事例について
○大河原委員:
日立製作所の概要、ジョブ型人財マネジメントとジョブ型採用、博士人財の採用に関する取り組みの順にご紹介したい。
日立製作所は、データとテクノロジーでサステナブルな社会を実現して人々の幸せを支えることを社会イノベーション事業と呼び、事業展開を行っている。
2009年の経営危機を踏まえ、国内中心の製品・システム提供から、データを活用したサービス事業を加えた社会イノベーション事業をグローバルに展開していくことに転換を図ってきた。
社会イノベーション事業は3つのセクターの体制で事業展開を行っている。デジタルシステム&サービスは、幅広くデジタルソリューションを展開。グリーンエナジー&モビリティは、脱炭素に向けたエネルギー転換と安全、快適でクリーンな移動を提供。コネクティブインダストリーズは、レジリエントなサプライチェーンを提供し産業と都市を革新。
社会イノベーション事業をグローバルに展開していく中で、従来のメンバーシップ型マネジメントでは、多様な人材の活躍や外国人と一体化した働き方を進める上での課題が顕在化。グローバルスタンダートになっているジョブ型人財マネジメントに転換を図ってきた。ジョブ型は仕事に人をアサインすることになるので、自分のキャリアは自分でつくっていくことを重視し、ジョブ型人財マネジメントを推進。職務の見える化と人財の見える化を行い、マッチングで適所適財を実現し、組織と個人との双方の成長をめざしている。
採用についてもジョブ型への転換を図っている。2000年から技術系新卒採用に対してはジョブマッチングで職種別採用を開始し、現在も150程度のジョブを開示。キャリア採用や事務系にも拡大してジョブ型採用を取り入れている。
更に2021年からは個々のキャリアニーズとジョブとのマッチングを重視したパーソナライズ採用を実施し、その核となる施策としてジョブ型インターンとジョブリクルーターを強化している。それにより、採用段階における適所適財の実現をめざしてきた。
採用活動においては、博士人材に限らず求めるアビリティを学生に提示し、専門性に加えて社会課題解決のために必要なリベラルアーツやダイバーシティを受容するマインドも重視している。
社会課題解決に向けて、博士人材の採用を強化してきた。多角的な観点から、革新的な技術を創生し、社会への実装をリードする能力を期待。ベースとなる高度の専門性に加えて、課題設定力や周囲を巻き込む発信力を求めてきた。博士人材獲得の強化に活用したのが、先ほどご紹介のあったジョブ型研究インターンシップである。
弊社では通常のジョブ型インターンシップで930名程度/年で受け入れている。この特徴に加えて、長期間、有給、雇用とすることで、幅広い責任範囲を経験するジョブ型研究インターンシップを、「フルスペック」でのインターンシッププログラムと称して博士課程学生に対して提供している。
ジョブ型研究インターンシップは、2021年から受入開始。ジョブの内容や求めるスキルを通常のジョブ型インターンシップと同じように公開し、学生さんに興味を持っていただけるように取り組んでいる。
受入実績は、公募テーマ件数と応募人数は一定数増加している。採用にも一定程度つながっているのでマッチング効果は発揮できている。一方、しかし、受け入れ人数・採用人数は、公募テーマ件数の増加と比べると大きく伸ばせている状況ではない。
ジョブ型研究インターンシップの利点としては、長期間を実施することで精度の高いマッチングを実現。学生も長期間のインターンシップ実施により取組み成果や研究姿勢をPRできるスキームとなっている。また、会社と学生双方が研究内容を成果として活用できていることが大きな利点である。
課題としては、エントリー数の拡大、トランスファラブルスキルの不足でマッチングの不成立が多いことが挙げられる。この辺りの博士人財に対する能力強化が必要と考えている。以上が当社でのジョブ型研究インターンシップの活用の紹介となる。
他に、2020年からAI・デジタル領域に「Superジョブ型採用」を導入。トップカンファレンスでの発表等、即戦力と評価できる実績があれば初任給によらずに高い報酬を提示する。2024年に非管理職の処遇制度を職務給に移行したことを踏まえ、今後の活用の活性化を図っていきたい。
○髙田委員:
前半は、中外製薬のビジネスモデルをご紹介し、後半に、博士の採用と活躍事例について紹介する。
中外製薬は、来年100周年を迎える。社員数は約7600名、売上約1.1兆円、時価総額約11.4兆円。近年、DJSI World選出、DXプラチナ企業をいただいている。
事業のコアは革新的な新薬。2002年からスイスのロシュとのアライアンスのもと、独自のサイエンス力と技術力を核として、ヘルスケア産業の世界のトップイノベーターを目指している。
新薬の開発コストは非常に巨額。新薬1つを生み出すために10年以上、3500億円強の投資が必要。人における臨床試験となるフェーズ1に入った薬剤が新薬として発売される成功率は12%程度といわれている。
中外製薬はロシュと提携することで自社創薬に特化。グローバル後期開発の共同実施のみならず、販売フェーズも大きな投資が必要なため、ロシュの販売網を活用してグローバル市場での売上拡大が加速。一方で、ロシュの新薬の日本での販売は、中外製薬が独占的に行えるアライアンスを組んでいる。
2002年にロシュとの戦略的アライアンス後に、中外製薬として革新的な創薬への集中投資を行った結果、大型の薬を市場に出すことができ、ここ数年の業績は好調に推移しているが、特筆したいのが海外での売上。中外製薬で創薬したものが、ロシュの流通やマーケティングに乗って売上が拡大。
創薬戦略の特徴としては、多くの企業が実践している疾患領域を定めて病気に対する薬を作っていくアプローチではなく、中外製薬はバイオに特化した技術ドリブンの創薬アプローチを実施。低分子では達することのできない細胞外の特定のたんぱく質に結合し、副作用がなるべくない薬を開発して市場に出している。この創薬技術が確立したのちには、いろいろな標的分子と疾患の関連を見て、優先順位を決めながら開発していること特徴。
後半の博士の採用と活躍事例について触れたい。博士人財の活躍として、採用から社内で育成、活躍していくというようなところで、少し定性的となるが公表している博士人財への社内インタビュー内容を公表。若いうちから裁量をもって自由に研究できる環境、主体性が奨励される文化によって成長を実感、新しいプロジェクトを託される、病気で困っている方のニーズをしっかりとすくい上げて創薬に貢献する、入社3年間で新規抗体技術の特許を次々出願、将来は経営的観点からより多くの患者さんへ尽力したいなどについてのコメントがある。早いうちから博士人財にこのような経験を積んでもらうことが大切。
博士人財への期待は明確に本人に伝えることも重要。多様性をまとめ上げ新たな変革を創出するリーダーシップ、高度な専門性と俯瞰力、深い探求心・発想力、高い研究・実験計画立案・実行力とデータ解釈力、研究室内外の活動経験で培ったコミュニケーション能力の4点を挙げている。特に、さまざまな人の専門性をつなぎあわせ新しいものを作っていくリーダーシップ、コミュニケーション力が非常に大切。人財が育っていくことで次の人財を呼び寄せ、イノベーションがイノベーションを呼ぶループを狙っている。
統合報告書等でも示しているが、個々の力をしっかりつけていくことで、個人のやりたいことを描き、自分自身磨いて、会社としては個が輝く環境を提供していく。まさにイノベーションがイノベーションを呼んでいくというループをつくっている。
博士人財の新卒採用チャネルは、インターンシップ、通常の採用、通年採用、ジョブ型研究インターンシップ。一部博士人財を含めた修士・学士に関してはインターンシップ、本選考を行っている。2023年、2024年に博士取得者は40名ずつ入社。処遇は博士人財に対する月給について、新卒者の金額を掲載。研究に従事する社員の勤務形態は、新卒入社2年目の7月以降より裁量労働制を適用し、裁量労働手当月6万円を設定。
博士人財の多様なキャリアパスが重要。研究開発職では自身の専門性をどんどん極めていくプロフェッショナルポジション、人を束ねるマネジメントの素養があってそちらに興味があれば、研究職のマネジメントで意思決定を行っていくマネジメントポジション。本人の適性と希望によって、研究職以外のポジション、医薬品のプロジェクトや、製品を作っていく開発段階のライフサイクルチームというものがあり、そのチームのリーダーを担うプロジェクトポジションも選択可能であり、研究開発、生産、知財、経営、事業開発等に広くかかわる経験を得ることもできる。外部へ出向するキャリアパスもある。
専門性を鍛えていくプロフェッショナルポジションを作り、評価している。戦略に基づき必要な専門性として設定したプロファイルの点数を8項目で評価し、合計点で処遇を決める。特に重要な専門性のウェイトを高くし、処遇していく。
博士人財の採用に向けた課題としては、採用活動の早期化・長期化、グローバルの高度専門人財の発掘・採用・処遇、多様なバックグラウンドを持つ人財の獲得に向けた環境整備がある。更なる活躍に向けて、マネジメントポジション以外の複線的なキャリアパスの設計、データ利活用を通した採用後の活躍分析、日本における博士人財の活躍度向上のための社内・業界を超えたネットワークづくりなどを課題と考える。
○大平将一 富士通株式会社 Employee Success本部 人材採用センター長:
富士通でのジョブ型人材マネジメントについて説明したい。富士通では「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」というパーパスを掲げ、パーパスドリブンに基づく経営を進めている。このパーパスを実現するためにHRビジョンを定め、「社内外の多才な人材が俊敏に集い、社会の至るところでイノベーションを創出する企業へ」ということを掲げている。
このビジョンを実現するために、全ての社員が魅力的な仕事に挑戦し、多様・多才な人材がグローバルに協働し、全ての社員が常に学び成長し続ける状態を目指したい。ここで言う「全ての社員」というのは学歴を問わず、博士人材を含めた全ての社員という意味合いになる。
今のありたい姿を実現するために、2020年、まずは管理職から、資料に記載したような多岐にわたる施策をジョブ型人材マネジメントへフルモデルチェンジし、様々な人事基盤の改革を進めてきた。
フルモデルチェンジの施策の中で、社内のポスティングを大幅に拡大。キャリアオーナーシップをベースとしたオープンでチャレンジングな風土醸成がかなり進み、例えば年間で3,000人以上の社員がこうした制度を使って仕事を変えている。
ここまでが博士人材を含む全ての社員が活躍するためのベース、前提条件となる。
博士人材は富士通グループ合計で約440名、R&D、研究職以外にも様々な職種で活躍し、例えばセールス・マーケティングやコーポレートを含めて様々な職種で活躍。約4割はキャリア採用で入社経路も多様化している。博士人材は、新卒では年10名、キャリア15名程度をコンスタントに採用している。職種としては、新卒はこれまで研究職が多い一方、キャリア採用は様々な職種を含んでいる。
育成に関しては、博士号取得支援制度として、富士通研究所の研究員の自律的なキャリア形成の一環として、希望する大学院博士課程に派遣している。各大学とのリレーションを強化しつつ、当社事業ともアラインした研究を通して博士号を取得してもらう。これは古くからの取組で、98年開始、年7名程度、これまで約180名の実績がある。
卓越社会人博士制度は、大学院修士課程在籍の学生の希望者と面談をし、博士後期課程への進学と同時に富士通の社員として大学に在籍する。博士に進むかどうか悩む学生が抱える経済的な問題や、博士課程修了後のキャリアへの不安を解消できる取組ではないかということで、大学と当社が協力し、博士人材の減少や研究開発力の低下を食い止めようという新しい形の産学連携、そして就職への在り方ということで、大学・学生・企業の3者がウィン・ウィンになるという観点で、日本初の制度。大きな意義があるのではないか。
他にも、入社前の学生に対する機会提供として、北海道大学の大学院生を対象にしたプログラムに去年から取り組んでいる。SPRINGにも指定された。当社は博士人材のロールモデルが豊富であることで文系博士学生のサイトビジットを行った。そこに当社の博士人材として、デジタル技術と人文・社会科学の融合技術を研究するコンバージングテクノロジー研究所から、AIによるビッグデータ分析と行動経済学の知見を融合した「デジタルリハーサル技術」の研究に携わるAIと行動経済学の専門家の博士人材に登壇してもらい、好評を博した。ビジネスパーソンと研究者双方のキャリアを知っている我々企業人事の視点から、キャリアデザインやキャリアオーナーシップについて学び考える機会を提供していくべく、新たに取り組んでいる。
続いて採用について。まずは博士人材に期待することを改めて整理。高度な専門性を武器に協働によるイノベーション創出、社会課題解決に貢献いただきたい。
これまで研究職を対象に、博士人材を招聘研究員という形で、有償での長期インターンシップを積極的に受入れ。実際にマッチ度の高い採用につながっている。博士インターンシップは資料に書いた事例以外にも多くあり、博士・修士問わずやっているものも多いが、博士に絞ったインターンシップの事例を取り上げている。資料記載の入社実績の人数は累計である。
取組の紹介について。当社の研究員が国内外の大学に常駐・長期滞在して様々な分野の先生や学生と産学連携を行う、富士通スモールリサーチラボという研究拠点を国内外の大学に展開。こうした産学連携活動も十分に生かしながら、よりマッチ度高く相乗効果のある採用につなげていきたい。
最後に、今年の6月にプレスリリースを発表。新卒採用においてもジョブ型人材マネジメントの考え方を拡大・徹底していく。新卒であっても学歴別の初任給ではなく、ジョブや職責の高さに基づいて処遇、インターンシップを拡大・活用して即戦力人材の獲得を強化したい。これは様々な大学から、専門性が高い博士人材との親和性が高いと言われている。博士人材についてはもともとジョブ型として、仕事に応じた給与設定はしていたが、博士人材に限らず新卒採用全体をジョブ型にすれば、博士人材にはそのアプローチがますます使える、ますますフィットしていく。富士通の中で活躍の幅を広げてもらう契機にしたい。
今後の採用施策について。インターンシップや入社時期のフレキシビリティの拡大を含めて、資料に記載したような施策を通して博士人材の専門性を最大限に発揮できる機会、環境を整えていきたい。
3.意見交換
○徳田委員:
貴重な現状の報告に感謝申し上げる。立命館大学では新SPRING事業採択後、T型博士人材育成として、ソーシャルインパクトメーカーを輩出するということで、様々なプログラムを展開している。先ほどご発表いただいた日立製作所の取組について大河原委員に質問したい。専門性を持ちつつ、リベラルアーツ等の総合的な能力が必要な中で、応募者がいながらトランスファラブルスキル不足から採用に至ってないとのことだが、今後の我々の取組への示唆として、トランスファラブルスキルを身に付けるためには、具体的に、博士後期課程でどのようにすべきか。中外製薬や富士通のそれぞれの発表からも様々な情報をいただいいたが、少し解像度高くしたい。
○大河原委員:
我々の取組も実は中外製薬や富士通と大きく変わらない。当社の説明資料で示したような、博士人材には課題を自ら設定し、本質的な課題を自らとらえて解く能力や、社会イノベーション事業での社会課題解決にはその部門だけや1人で取り組むのではなく日立製作所全社として様々なリソースを活用する必要があるため、自分から技術を社内外に発信し、周りを巻き込んで社会課題解決をしていくことが求められる。これがなかなかできていない。高い要求に聞こえるかもしれないが、そうしたトランスファラブルスキルの基礎的な部分ができていないと思われる。学生の発表を聞いていると確かに自身の研究テーマについての専門性の高さはあると思うが、例えば、周辺領域も含めた専門性の高さ、社会実装をしていく上ではリベラルアーツも含めて幅広い関心となると、なかなかできていない状況である。
○徳田委員:
大学としても様々な取組を進めているところであるが、単にスキルだけではなく自分の専門性をいかして他者と協力しながらの環境づくりが必要と理解した。
○大河原委員:
我々も、トランスファラブルスキルは博士課程だけで育成するものではないととらえている。そもそもの人材育成全体の中で、そういった能力の強化をどう図っていくかという課題と捉えている。
○徳田委員:
ジョブ型研究インターンシップには課題があり、提示されるテーマが、日立でも数件程度、実際に取り組めるのはわずかの人材である。もう少し門戸を開いていただいて、企業とともに育てていければよいと思う。
○大河原委員:
募集したテーマの数だけ枠を設けているので、応募いただいた方に参加いただけるように取り組むことが重要と理解している。しかし、ジョブ型研究インターンシップ参加への選考段階を通過できない学生も一定数いる。ご指摘のように、ジョブ型研究インターンシップであろうが通常インターンシップであろうが、自分の専門性を社会に実装していくことができるかをインターンシップで学んでいただくことが重要。多くの学生が参加できるように大学と産業界とで連携して取り組んでいきたい。
○徳田委員:
企業でインターンシップを実施することは決してサービスではないことは理解しているが、人を育てることが日本の産業界の競争力向上に長期的に結びついていくので、寛容にぜひお願いしたい。
○吉原委員:
意見になってしまうが、まずは、具体的な数値をあげてご説明いただき感謝したい。博士課程在学の学生は博士号の学位を取得することが第一の目標である。その中でジョブ型研究インターンシップへの参加や、トランスファラブルスキルの取得は、いわば自分の研究時間とのトレードオフである。企業にヒアリングすると、トランスファラブルスキルはあると良いが専門性は極めてほしいという回答があった。これは学生、大学、企業側も一致している認識である。日本と米国と比較すると日本は博士号取得までの期間が短く、3年の標準年限の期間に博士号取得の目標がある中で長期インターンシップへの参加は難しい。参加者が少ない要因の1つであろう。参加した学生からは有意義であった等参加には意味があるものだが、一方で、研究時間とのトレードオフになるので、数としては伸び難いのであろう。また参加することでの知的財産の問題などもある。国が取り組むこととして非常に有効だとは思うが、数を伸ばそうとすると時間がかかると思う。
短期型と長期型とでチョイスできるような環境や選択肢があると良いように感じた。長期は研究時間が削られる。短期を組み合わせる等であれば、先ほど言ったような問題が起きにくいため取り組みやすい。長期は国がある程度時間をかけて取り組むことだと感じる。
○山田委員:
ご指摘のとおりである。自分の研究の時間を割いてまで長期インターンシップを選択するのかが1つの登竜門となる。我々も参加者の声や企業の声を伝えながら学生の背中を押してサポートしているが、一方で、研究に関するスケジュールでいえば、参加により貴重な研究時間を使うことへの葛藤を感じている。
トランスファラブルスキルに関しては、アカリクとしてサポートできるところはあると思う。学生自身が自分で気づいてないスキル等についてヒアリング等から引き出してマッチングする、ジョブコーディネーター等の役割として活用できると思われる。
○井原委員:
先ほどのアカリクの発表にもあったが、過去に一例、アカリクからの紹介でジョブ型研究インターンシップを実施した例がある。以降もジョブ型の受入は提示しているが、実際はなかなかマッチングしない。
企業にとっての研究は長期的スパンである。その中でインターンシップの2か月間だけ実感を持って過ごしていただくために企業から提供できるジョブの切り取りが難しい。日立のように活用できればと思うがうまく切り取りができていない。そこの工夫をぜひ勉強させていただきたい。大学にお聞きしたいが、当社は2か月で成果と思っているが、学生を送り出す大学側としても2か月で成果を出すことを求めているのか、お伺いしたい。
○松井委員:
大阪公立大学でもジョブ型を含め、C-ENGINEなど、大学独自の中長期のインターンシップにはずっと取り組んできたが、研究インターンシップをベースに考えている。大学としては、我々が実施する以上、学生にとって成長に結びつく何かが得られることを前提として考えている。
ジョブ型研究インターンシップには登録しているが、応募者数が少ない点は我々も課題と思っている。マッチングに対しては、ジョブと自分の研究領域とのマッチングがどの程度まで求められているかに対して、学生もかなり神経質である。実際には大学のコーディネーターが企業側の要望を聞きつつ調整しているほうが、マッチングが成立している。ジョブ型研究インターンシップの良さは実感していてもなかなか進まない。
トランスファラブルスキルが不足してインターンシップの選考に落ちるというお話について。研究テーマと提示されるジョブのマッチングの整合性が、実際はかなりマッチング成立の妨げになっていることが多いと感じる。もっと広めに拡大解釈可能なジョブディスクリプションがあると互いに良い出会いに繋がるように思う。
○川端委員長:
長期型インターンシップをどのようにとらえるか。大学では育成、専門性から広い視野となるが、これまでの話を聞いているとジョブディスクリプションの作り方が二種類あるように思う。例えばジョブ型研究インターンシップ用のジョブディスクリプションでは、2か月で何か成果を出そうとすると限定的になり、ディスクリプションも「これができる人」という形になる。一方で、先ほど中外製薬の事例のように、挑戦的キャリアパスはその後も展開すると考えるとジョブディスクリプションはもっと広いものとなる。トランスファラブルスキルについて、抜本的に対応ができない人は除くとしても、スキルとして少しトレーニングすればどうにかなるという、広い目で見ると認識が少しずれて出ているのかもしれない。
○佐々木委員:
ジョブ型研究インターンシップの初期を見ていたときの印象が3点ある。まず、マッチング成立が少ない。応募者は概ねSPRING事業のもと全員登録することとなるので登録者数は増えるだろうが、大学や応募者ががっかりする程マッチングが少ない。今後発展させるには、何故採用に至ったか/至らなかったのか要因を明確に共有されると良いであろう。
また、私大が少なく、ほぼ国立の採用となっている。ジョブ型は博士を意識しているので、ジョブディスクリプションがかなり研究開発寄りとなって非常に細かく、応用性がない。ピンポイントすぎることで学生たちが応募しにくい。
3点目、応募する学生は、特に初期の頃は留学生が多かった。理系の博士就職にジョブ型研究インターンシップが活用できる点に引っ張られたところはあるかもしれない。ただ、制度趣旨への理解が十分ではなかったので、マッチングに至る学生は少なかった。
理系の研究室でメインの研究を行うような学生はジョブ型研究インターンシップを選択していないのではないか。研究室による独自の就職ルートが別途ある。ジョブ型研究インターンシップへ参加する学生は、今の研究室に就職のルートがない、自分の研究は研究室ルートに乗らないので自分で研究アピールすることで何か新しいものを見つけたい、という学生が多いのではないか。企業側からのジョブ型で提示される研究領域が必ずしもマッチしてない状況なので、数が増えないのではないか。
もう少し領域を拡大すると同時に、研究そのものから、ややマネジメント系の学生にもターゲットを広げることで多くの学生が応募しやすくなるのではないか、という点を1つの提案として申し上げたい。
○鷲田委員:
当社では、独自にジョブ型のインターンシップを実施している。70~80名程度の応募をいただき、30名程度がインターンシップに参加している。選考では、書類や実績、面談を実施。基本的には専門性でみている。それ以外の能力、トランスファラブルスキル等の専門以外の能力は実際に参加いただいた後に見ている。現在、30名程度が実施しているが、大半の方が期間を延長している。参加の際に、学会での論文採択をゴールとしていることが影響していると思う。場合によっては先輩の研究者と協働するので、その方に託して2か月で終了という方もいらっしゃるが、本人の意思も含めて判断している。入社オファーは30人中10人程度出している。実際に入社される方は少しそこから減る、という状況である。
2か月のインターンシップ期間中でもトランスファラブルスキルは必要であろう。研究者の多くのゴールは社会実装であるため、プロダクトサイドのエンジニアやプロダクトオーナー等とのコミュニケーションやオーナーシップは必要となる。実際に当社で働くとしたらこういうことが必要だということをコミュニケーションの中でメッセージとして伝え、インターン中に育成しているという認識である。
マッチングに関しては、僭越な表現となるが、自分たちで学会に出向いて有望な学生にインターンへの参加の声がけを行う採用手法によって、望みに近い形のインターン採用はできていることをポジティブな情報として共有したい。
○川端委員長:
学会の活用方法について詳しく聞きたい。学会での様々な話の中でインターンシップをオファーするのか。
○鷲田委員:
学会のスポンサードを積極的に実施している。学会イベントでブースも出している。研究者が発表するために学会に行くだけでなく、人事メンバーにも研究に明るい社員が育成できている。研究者と対等に研究の話ができるような社員育成をしているので、博士後期課程の学生のポスター発表で対等に話が可能。学生に直接コミュニケーションをとり、興味がある学生をインターンシップに誘う。独自の手法ではあるが、この方法で年々独自のインターンに来る学生も増えており、リファラルも増えている。
○酒向委員:
応募件数とマッチング成立件数との乖離に関心を持っており、資料を拝見した。日立製作所のコメントにある通り、原因の1つとしてトランスファラブルスキルの不足がある。これは経団連の教育・大学改革推進委員会でも指摘があったところである。学生が未熟である点に一定の配慮をし、インターンシップを実施するかどうかは、個々の企業の判断によるのではないか。
もうひとつは、応募件数とマッチング成立件数が乖離している現状についてどのように受け止めているのか、懸念している。乖離についてはもう少し議論したほうが良い。
最初のアカリクからのご説明の中で、登録学生の研究分野とインターンシップの求人の研究分野が異なるという点について、登録する学生の研究分野の幅と求人募集の研究分野領域の幅が違うという指摘があった。学生が応募に躊躇したときにサポートすることは可能だと思うが、研究分野の乖離について、学生の研究分野は概ね大学における学生の構成比に、企業側の求人は企業ニーズに、それぞれ合致しているとすると、大学で育成されている人材と企業が求めている人材が基本的にかなりずれている可能性がある。この乖離について、企業側が大学側に合わせるのは難しいと思う。企業側が、インターンシップの求人募集分野に幅を持たせることについては、疑問を感じる。
○髙田委員:
博士人材の採用という入口としては専門性が必ず必要となる。専門性をみたうえで、コミュニケーションやリーダーシップ等をどこでも発揮できるソフト面の能力であるトランスファラブルスキルを見る。9割は専門性が求められ、それをクリアした上で、残りの1割でソフト面の能力を見ている。
重要なのは入社後、その人の目指すゴールや適性を周囲が見た上で、適性に合わせた方向性を示すことだろう。この人はマネジメントの適正を持っているから、そちらのキャリアパスや活躍する方向を見せながら、周りが目を配って、2年後にはマネジメントのほうに進んでもらう。このタレントの選抜・登用・育成を、個々の社員についてIDPというプランを作成して運用している。約7000名のうちの約300名を人事部でみており、その倍程度の数を各本部でみている。
入社した後にその人がやりたいことと、周囲からのスキルの評価をすり合わせながら、先ほどの多様なキャリアパスとして、専門性を研究だけで高めるのか、プロジェクトチームに入っていろいろな部署を回るのか、またはその後経営を目指していきたいという希望を持っているかを個々にみていって、経験して、活躍していく。そういう人が先輩にいると、また新しい人が入ってくる。そういったループを考え実践している。
入り口では専門性をメインで見るが、トランスファラブルスキルであるとよいと思うのはリベラルアーツの基礎。ただ、そこまで求めるのは難しいかもしれないと思っている。
○大平将一 富士通株式会社 Employee Success本部 人材採用センター長:
今回、議論がなかった点を1つだけ申し上げる。研究とインターンシップの両立は確かにトレードオフである。それを乗り越えるには、頻度や実施時期の工夫が必要。例えば週1日、又は半日で実施するなどのフレキシビリティや実施時期の工夫など。例えば何年生でも受け入れる、卒業後でも可能など、時期のフレキシビリティにチャンレジしたい。そういった工夫が有用なのか、当社だけでやっても影響範囲は小さいかもしれないが、やっていきたい。
4.閉会
○川端委員長:
最後のご指摘は、就活の時期は3年の中にあるべきなのか、もっといろいろな形があっていい、という議論であろう。この話もぜひ今後議論の中に入れていきたい。
(閉会)
高等教育局高等教育企画課、科学技術・学術政策局人材政策課