今後の医学教育の在り方に関する検討会(第7回)議事録

1.日時

令和6年2月14日(水曜日)10時30分~12時30分

2.場所

文部科学省(東京都千代田区霞が関3-2-2) ※対面・WEB会議の併用

3.議題

  1. 有識者ヒアリング
  2. 大学病院改革ガイドライン(案)について
  3. その他

4.出席者

委員

  永井座長、今村委員、大井川委員(代理:茨城県保健医療部 森川部長)、岡部委員、釜萢委員、北澤委員、熊ノ郷委員、田中(純)委員、田中(雄)委員、宮地委員、銘苅委員、諸岡委員、山口委員、横手委員、和田委員

文部科学省

  池田高等教育局長、西條審議官、俵医学教育課長、堀岡企画官、永田大学病院支援室長 他

オブザーバー

  厚生労働省医政局 林医事課長、文部科学省研究振興局 釜井ライフサイエンス課長

5.議事録

【永井座長】  では,時間になりましたので,ただいまから,第7回「今後の医学教育の在り方に関する検討会」を開催いたします。委員の皆様方には御多忙のところ御参集いただきまして,ありがとうございます。
 まず,事務局から委員の出欠状況,配付資料の確認,オンライン会議での発言方法について,お願いいたします。
【海老課長補佐】  事務局でございます。
 本日の委員の出欠状況でございますが,本日は小川委員,金井委員から,御欠席の連絡をいただいております。また,大井川委員に代わり,茨城県保健医療部,森川部長に代理出席をいただいております。なお,熊ノ郷委員,和田委員は遅れて御出席の予定でございます。
 次に,配付資料の確認をさせていただきます。配付資料は会議次第に記載のとおりですが,お手元にございますでしょうか。なお,資料につきましては,文部科学省のホームページでも公表しております。
 続きまして,オンラインによる会議の進行に当たってのお願いでございます。御発言される場合には,Zoomの挙手ボタンを押していただくよう,お願いいたします。その後,座長から順に発言者を御指名いただきますので,御発言いただく際は,マイクがミュートになっていないことを御確認の上,御発言をお願いいたします。
 以上でございます。
【永井座長】  ありがとうございます。
 では,次第に沿いまして,本日は,有識者ヒアリング,大学病院改革ガイドライン(案),その他で議論をいただきます。
 まず,資料1-1「医学教員の充実に向けた取組について」,事務局より説明をお願いいたします。
【堀岡企画官】  医学教育課企画官をしております堀岡と申します。資料1-1について,御説明させていただきます。
 これから,名古屋大学の錦織先生から医学教育についてのヒアリングをお願いしたいと思っておりますけれども,その前に事務局で論点案と,参考資料として1-1をまとめさせていただいております。本日は「医学教育の在り方に関する検討会第7回」ということで,医学教育そのものについて,充実に向けた取組について議論していただきたいと思っております。
 おめくりいただきまして,1ページでございます。中間取りまとめの抜粋で,医学教育を効率・効果的に進める取組について重要ではないかとか,実習する教員に対して,一層の理解を図ったり,実習の指導体制の優良事例などを調査することが必要ではないか。また,「臨床実習指導医(仮)」の称号を付与したりして,指導者としての教員,つまり,教えることの実績を適切に評価することが重要ではないか。また,大学における業績評価の方法について,事例の収集などを行うことが必要ではないかといった,取りまとめをいただいております。それに沿って論点案と参考資料をまとめさせていただいております。
 論点案は5つございます。1つ目,医学教育の内容を充実しつつ,効率的に教育を進めるためにオンデマンド授業の収録映像や汎用性のある授業用の資料などを共有して,効率的に,また,質を高めた形で教育することができるようなコンテンツを相互に活用できるような仕組みを検討してはどうか。
 2つ目といたしまして,教員の業務負担に配慮しながら,診療参加型臨床実習をさらに充実して,教育体制を整備していくためにどのような工夫が考えられるか。
 3つ目といたしまして,診療参加型臨床実習の充実について,患者の理解を得るため,また,医師側にも実習の趣旨や期待される医行為の内容など,一層の理解を図ることが重要ではないか。
 4つ目,中間取りまとめにもございましたが,臨床実習に関わる教員の実績を視覚化するなど,教育のエフォートを適切に評価する方策を検討することとしてはどうか。
 また,5つ目として,AR・VRなどの教育DXもより推進することとしてはどうかといった5つの論点を示させていただいております。
 といっても,なかなかイメージもわきづらいと思いますので,参考資料を用意しております。参考資料をおめくりいただきまして,論点の1つ目であります,効率・効果的に授業用の資料などをお互いに使えるような仕組みを構築してはどうかということで,我々のほうで数年間やっている,がんの予算事業についての御紹介をしております。がんはなかなかコンテンツの中で授業用資料としても教えにくいと,難しいところがあるといった声もございましたので,授業内容の中で各大学が用いている資料などを集めて,また別の資料,大学などで使いやすい取組をしております。
 1枚おめくりいただきまして,イメージでございます,マトリックス構造でございます。例えば,大学によっては75分から90分,または例えば,45分×2といった講義の在り方をしておりますけれども,細かく分解をして,章ごとに,コンテンツごとに短い時間などで使いやすく講義の内容や授業用資料などを紹介しております。例えば,参加大学から,御覧のとおり,資料では筑波大学,群馬大学,川崎医大,高知大学,千葉大学,埼玉医大,日本医大という,がんの予算授業に参加していただいている大学のうち,これら7大学がこの資料を使ったり,また,講義を提供したりしているという例でございまして,これを医学に関しては,例えば,モデル・コア・カリキュラムの項目ごとに,教えるのが難しかったり,効率的な授業が可能な分野についてまとめてはどうかというのが論点案の1つ目でございます。
 2枚おめくりいただきまして,臨床実習をさらに充実させる取組として,佐賀大学の取組を例にさせていただいております。大学だけではなくて,外の病院や診療所,介護施設などと連携して,この真ん中の「臨床実習コーディネーター医」というものもつくって,臨床実習を外でより推進するような取組を組織的にやっているという取組を御紹介しております。
 次のスライドからはモデル・コア・カリキュラムというものでございます。実は文科省の中で医学・歯学・薬学・看護,あとは獣医がございますけれども,それだけがモデル・コア・カリキュラムがありまして,その中でも医学と歯学は平成13年から作っておりまして,今回で5回目の改訂ということで,非常に歴史あるものでございます。これはその時々の時代の問題を踏まえた改訂をしておるのですが,次のページでございますけれども,今の改訂はまさに「総合的な診療能力を持つ医師のシームレスな養成」という考え方で改訂をしております。ちょっとごちゃごちゃした資料で恐縮でございますが,下の部分,基本的な診療能力を身に付けるために,「臨床研修」とございますが,臨床実習の充実や臨床研修での外科などの必修化などを通じて,基本的な診療能力をできるだけ早期,可能であれば診療参加型臨床実習の間で身に付けるという長期的な目標を立てて改訂しているものでございます。
 このモデル・コア・カリキュラムと, 10ページ,次のスライドでございます。医師法の改正と連動しておりまして,医師法は今までは明確に医行為ができることになっていたものは医師だけでございますけれども,今までの違法性阻却という考え方ではなくて,この右下の「改正の内容」というところで,「大学が行う臨床実習において,医師の指導監督の下,医療に関する知識及び技能を習得するための医業を行うことができることとする」と,真正面から法改正をしていただいて,臨床実習をしやすくする医師法の改正をやっていただいていると思っております。
 一方で,11ページでございます。実際に臨床実習の中でやられている医行為は非常に少なくて,最も多いもので「皮膚消毒」でございますが,皮膚の消毒でさえ,「自信を持って行える」と答えた医学生は3割しかおらず,診療参加型臨床実習があまり進んでいない状況にございます。これをいかに進めていくのかというのが臨床実習の大きな課題として今,残っているものでございます。
 2枚おめくりいただきまして,そのために今年,臨床実習にも使用できる医療機器を各大学で,補正予算で確保しているところでございます。次のスライド,また,研究だけでなく,右下の部分でございますけれども,教育支援者についても,今般,当初予算で21億という要求をしておりまして,今年度,高度医療人材養成拠点事業として,大学病院の教育支援者も含めた人件費などの補助もしていって,負担の軽減などもしていこうと考えております。
 また,臨床実習の一層の理解を深めるためということで16ページ,700万円という,少し少額ではございますけれども,臨床実習指導医のような制度設計をする調査費として,700万円を文科省としても予算を計上させていただいております。
 また,最後のページで,医学教育のDXというと,なかなかイメージがわかないと思いますけれども,名古屋大学での取組などを紹介したスライドを載せさせていただいております。
 最後,教員の評価に関しまして,東京医科歯科大学ですばらしい取組をされているというお話をお聞きさせていただきましたので,資料1-2を東京医科歯科大学から提出していただいております。大変恐縮ですが,田中委員から御説明いただけると幸いでございます。よろしくお願いします。
【田中(雄)委員】  資料1-2の3枚目から説明したほうが分かりやすいと思うので,3枚目を先に御説明します。これは全教員が,教育に関する調査票というものを作成しなければならなくて,授業をどれぐらい担当したとか,そういった活動の状況が全部出てくるのです。授業を何コマ担当したかというのは,データベースから自動的に入るのですけれども,この例で言うと,医科歯科花子さんという人は若手の助教という設定になっていまして,211点を取っているのです。実は,若手の平均点は140点ぐらいなので,この人は平均よりは上なのです。平均より上の理由の1つは,ここに「クラークシップ・チューター」というものがあると思うのですけれども,これをやっているので60点もらっているわけです。これがないと140点ですので,評価で言うと「3」という評価になるのですけれども,これをやっているので,60点増えて211点になっているのです。「クラークシップ・チューター」とは何かというのですけれども,診療科の推薦で各科1名選ばれ,若手の人たち,若手の教員たちが臨床実習ローテート中の学生への指導,評価,助言をするということなのです。このようなことをやると,1枚目になりますけれども,教育はじめ各領域のウェイトは自分と教授の話し合いで決めるのですが,大体各科推薦でクラークシップ・チューターになる人は1名なので,教授から熱心に教育に取り組んでくれと言われたような人が多いわけです。そのような人は自分のウェイトを,例えば,教育だったら教育のウェイトを,助教の場合0.5まで上げることができるのです。それで,研究をどれぐらいにするか,診療をどれぐらいにするかというのは,その人と教授の話し合いで決まる。結局,さっきの医科歯科花子さんは,教育の評価結果が,クラークシップ・チューターをやっているので「4」だったと思いますけれども,やっていなければ「3」ということで,これに教育を重視するウェイトが加われば総合評価の結果も連動して変わるわけです。それが結局のところは,翌年度の勤勉手当の成績率とか,昇給に連動しますので,経済的なインセンティブにもなり得る。そのような仕組みをもう10年ぐらい前から導入していてやっているというのが現状です。
 以上です。
【堀岡企画官】  ありがとうございます。
 もう一つ,田中純子先生から広島大学での取組も口頭で御紹介いただけると聞いております。よろしくお願いします。
【田中(純)委員】  田中純子です。広島大学は文科系の学部も含む総合大学ですけれども,全学の取組として,大学のアクティビティがどのようなものかということをモニターするために,今,医科歯科のほうで御説明があった教育,研究,診療,管理・運営,社会貢献,産学連携,あと国際性を含めた点数付けというか,モニタリングをしています。これは医科歯科のように給与とかに直接反映するものではないのですけれども,個人が何を頑張ったか,学部ごとに,研究科ごとに,国際性を頑張っているのか,研究を頑張っているのか,教育を頑張っているのかをモニターするためのシステムで,全学教職,教員1700人の数字が全部入ってモニタリングをもう10年ぐらいしています。
 その中で,医系だったら,先ほどクラークシップ・チューターに当たるような,教務委員会,診療科ごとに教務委員というのを決めて,その委員会の委員だということで加点される。あるいはIP教育をしている人もIP委員会というものを医学部の中でわざわざ作って,委員会を作ることで委員会への参加ということで加点をする。あるいは,講義,合同早期体験みたいなものを全部講義系に,講義の単位にしてしまって,講義をしていることで講義に参加しているということで加点することで,研究だったら論文,診療だったら個人の経験ということで,割と評価されやすいのです。教育というのは,いくらやってもなかなか他人からは評価してもらえないというのでは,なかなかお願いしにくいということなので,広島大学の医学系ではそのような委員会を作ったり,講義系にすることによって,そのようなことに教育をしているということで加点をするシステムをつくっているということで,医科歯科と同じような教員評価ということで,臨床教育への評価を見ている。本人はこれで給与が上がるわけではないのですけれども,皆さん,カードを持っていたらポイントを貯めたくなるのと同じように,何かで見てもらっているという客観的な気持ちで,気持ちよくでもないかもしれませんが,臨床教育に参加してもらっていると思っています。
【堀岡企画官】  ありがとうございます。以上です。
【永井座長】  ありがとうございました。
 本日は議題1について,名古屋大学大学院医学系研究科 総合医学教育学 教授,錦織宏先生から御意見を伺いたいと思います。
 錦織先生,よろしくお願いします。
【錦織氏】  よろしくお願いします。名古屋大学の錦織でございます。
 私からは医学教育の幾つかの話題としまして,診療参加型臨床実習の推進,それから,今,話題に出ました教員の教育業績評価,そして,コアカリの電子化とe-learning用教材のプラットフォームについて,情報提供させていただきます。
 まずは,診療参加型臨床実習の推進について,です。最初に映像を2つ御覧いただきます。これらはいずれも30年前に放映された米国のテレビ番組“ER”の一場面です。なお,著作権の関係でYouTubeの配信はできませんので御容赦いただきますよう,お願いいたします。担当の方,YouTube配信を一旦停止していただきますよう,お願いいたします。
(配信一時停止)
【錦織氏】  はい。最初の場面は医学部3年生のジョン・カーター君が外科の臨床実習で病院にやってきた初日の場面です。
(動画上映)
【錦織氏】  この動画から分かることを幾つか整理してみます。
 まず,外科研修医のベントン先生が医学生のカーターくんを指導していることが分かります。これはいわゆる屋根瓦方式と言われる教育手法であり,大学病院の教員が多忙な我が国にとっても参考になるモデルです。
 また,学生の臨床実習のオリエンテーションは,チームの一員として働くことが前提となっており,このようなオリエンテーションこそが診療参加型臨床実習に求められていると言えます。このように30年以上も前から米国では積極的に診療参加型臨床実習を実施していることが分かります。
 一方で,当時,シミュレーション教育はそれほど発達しておらず,特に手技などについての教育は,今の時代に合ったやり方があることも分かります。
 次は,医学生のジョン・カーター君が,胸痛を訴えてERに来院した患者さんの様子を見に行く場面です。続き,いきます。
(動画上映)
【錦織氏】  この動画から分かることは,人手が足りない診療現場では,学生が戦力になるということでしょうか。医学生の医行為が法的に認められた今日,大学の教員が忙しいから,学生を戦力として活用するという考え方は,診療参加型臨床実習の推進につながると言えます。
 一方で,患者安全上の問題はあります。さっきの動画と同じ課題になりますが,臨床実習開始前,または臨床実習中にも学生にシミュレーション教育で十分に経験をさせておく必要があると考えます。
 以上で動画のパートは終わります。担当の方,YouTube配信を再開してくださるよう,お願いいたします。
(配信再開)
【錦織氏】  続けます。さて,ここで診療参加型臨床実習について改めて整理しておきます。診療参加型臨床実習では,学生が診療チームに参加し,その一員として診療業務を分担しながら,医師の職業的な知識・思考法・技能・態度の基本的な部分を学んでいきます。
 そして,実際の患者を相手にした診療業務を通じて,医療現場に立ったときに必要とされる診断及び治療などに関する思考・対応力を養うものです。
 臨床実習にまつわる近年の大きな変化として,以下の2点が挙げられます。
 1つは,患者安全に対する意識の高まりとシミュレーション教育の充実化です。今や患者さんを対象に,初めての手技を行う時代ではなくなり,まずはシミュレーションで経験を積むことが求められるようになりました。
 また,もう一つは,医師法の一部改正です。臨床実習開始前の共用試験に合格した医学生は,臨床実習において医師の指導監督の下,医業を行うことができるよう,医師法上明確化されました。
 診療参加型臨床実習を推進するには,このような状況を加味しながら,以下のステップを進めていく必要があります。
 すなわち,経験のない状態から,まずは見学し,そして,シミュレーターで実演する。さらに教員等の直接の監督下でできる状態。そして,教員等がすぐに対応できる状況下でできる状態へと進めていきます。
 そして,学生を信頼し任せられる役割,すなわちEPAを明らかにする。別の言い方をすれば,それぞれの大学のそれぞれの診療科で,どのような場面で,学生に具体的にどのような役割を与えるのか,について明確にしていくことが求められます。
 そして,臨床実習において学生を評価する際には,その役割を果たせたかどうかを観察によって評価するWorkplace-based assessmentが求められます。
 これらを一言でまとめますと,診療参加型臨床実習においては,診療現場のセッティングで教え,そして,診療現場のセッティングで評価を行うということになります。
 このように診療参加型臨床実習を推進していくためには,臨床実習で実際に教育に関わる指導医の意識改革が必要です。そして,今日の臨床実習指導医に求められるものは何かという点について考えてみると,少なくとも診療参加型臨床実習実施ガイドラインの内容は知っておいてもらいたいと思います。
 また,医学生に適切に診療所の役割を与えること。そして,診療現場で医学生を適切に評価することも求められます。こういった内容について,文部科学省で現在検討中の臨床実習指導医制度に盛り込んでいき,指導医,臨床実習の質を保証していくことが1つのやり方として考えられます。
 一方で,2024年4月より,医師の働き方改革に関する新制度が稼働します。現実問題として,診療・研究・教育に多忙な大学病院の教員が臨床実習の指導にエフォートをどのくらい割けるかという課題はあります。教育に関心はあるが,業績として評価されないので,どうしてもエフォートは少なくなってしまうという声もよく聞きますが,このような課題にどのように対応していけばよいのでしょうか。一案として,教員の教育行政評価をより実質化することが考えられ,そのことを2つ目の話題として採り上げたいと思います。
 今日はアメリカの話が多いのですが,教育業績評価についても先進な取組であるアメリカ及びカナダのClinician Educator Trackを紹介させていただきます。
 2005年のJAMA.にも紹介されていますが,世界的にも医学部の臨床系の教員が,診療・教育・研究の業務の全てを担うことは難しくなってきています。
 一方で,一般的にアカデミアの世界では,研究業績で主に評価されますが,その状況だと診療及び教育を担う人材が不足するという危機感から,診療と教育に主なエフォートを割く医師のキャリアをClinician Educatorと称しました。そして,このClinician Educatorは,教育業績が正当に評価され,大学で昇進の道が開かれているという特徴があります。
 私が以前勤めていた東京大学医学教育国際研究センターには,かつて客員教授を招聘する制度がありました。そして,その客員教授の選抜にあたって,Educator’s Portfolioの提出を求め,Clinician Educatorとしてどの程度能力が高いかについて評価を行っていました。このEducator’s Portfolioが教育業績評価のツールになりますが,これには直接の指導・教育,学習者評価・試験,カリキュラム開発,メンタリング,教育におけるリーダーシップといった領域ごとに,教育活動の記録と学術的な分析,振り返りを記した記録を提出することが求められます。
 現在,私が責任者を務めております名古屋大学卒後臨床研修センターにおいても,これらを参考にして教育業績評価を行っています。一例として,卒後臨床研修センターに所属する臨床系の兼任教員が病院助教から病院講師に昇任する際には,医学生・研修医への直接の指導や学習者評価といった内容に関する教育ポートフォリオを提出すること。学術雑誌に医学教育に関する論文を5年間で5報以上著者として発表すること。系統的に医学教育学プログラムを修了していること,などを求めています。
 このような教育業績評価を展開するにあたって考慮すべき事項について,幾つか私見を述べさせていただきます。
 まず,Clinician Educatorのような役割を担う教員を雇用するにあたって,臨床・教育・研究・管理業務に関するエフォート率を明確にしていくことが重要です。このことにより,臨床と教育により従事するポストなのだということが組織全体に認知されます。
 また,教育業績の評価にあたっては,何時間授業を行ったかなどといった量的データだけでなく,学生のアンケートの自由記載の内容などといった質的データも評価対象とする必要があります。
 また,教育に対する熱心さだけを評価するのではなく,教育に関する論文などの学術活動も評価対象とすることが重要です。
 そして,これは国公立大学に限っての話かもしれませんが,昨今の運営費交付金削減の流れに鑑みますと,医学部の教員よりは大学病院の教員として昇進の道を作っていくほうが現実的ではないかと考えます。
 これはまた私見になりますが,昨今の日本において,教育に関心を持ち,医学教育者としてキャリアを積もうとする若手医師は増えてきている印象があります。そのことは例えば,医学教育振興財団による教育研究助成への応募件数の増加などにも表れているように感じます。
 そして,2022年の医学教育モデル・コア・カリキュラム改訂作業においては,そのような若手医師が大いに活躍してくれました。その一つが,コアカリの電子化とe-learning用教材のプラットフォームの作成であり,今日の3つ目の話題として,そのコアカリの電子化とe-learning用教材のプラットフォームを採り上げたいと思います。
 これは先日行われました,令和5年度文部科学省大学における医療人養成の在り方に関する調査研究委託事業の成果報告シンポジウムのスライドからの抜粋です。令和4年度に改訂されたコアカリについては,令和5年度の委託事業で,その電子化を進めました。具体的には,「コアカリナビ」というサイトを開発し,そこからいろいろなことができるようになっています。これがコアカリナビの実際のサイトの画面で,ここからコアカリ全体にアクセスできます。また,検索機能を充実させ,Q&Aのセクションも作成しました。
 今回のコアカリ改訂では,10の資質・能力ごとに全ての学習目標が整理されましたので,その10の資質・能力についての解説動画をコアカリナビに掲載しています。
 また,社会の変化に対応すべく新設された下記の領域,情報・科学技術の先端知識,ジェンダーと医療,気候変動と医療,哲学と医療,医療経済については,各大学に教える教員がいない可能性があることから動画教材を作成し,コアカリナビにアップロードしています。
 スライドに示しているのは気候変動と医療の講義動画の1場面です。このテーマでは,6分から15分の動画を全部で6本,コアカリナビにアップロードし,学生がいつでも学べるように,また,教員がいつでも教材として使えるようにしています。
 このように令和4年度改訂版コアカリにおいては電子化を進め,また,e-learning用教材のプラットフォームも構築いたしました。
 最後に,今後のe-learning用教材の発展に向けて,また私見を述べさせていただきます。
 まず,現存する動画教材がかなりある点について,です。分野ごとに状況は様々でしょうが,整理は必要ではないかと考えます。
 また,動画教材に関するニーズがどの程度あるのかについても調査する必要があるかもしれません。対面授業を好む教員は一定数いますし,教育が負担だという声がある一方で,講義のコマが少ないと不平が出ることもあるのが教育現場です。この辺りは慎重に進める必要がありそうです。
 また,動画の内容のアップデートをどのように行うかも課題になります。いずれにせよ,現場の教員に実際に使ってもらえるシステムを構築するためにはいろいろな工夫が必要だと考えます。
 以上,本日はお時間をいただきまして,私からは3点,診療参加型臨床実習の推進,教員の教育業績評価,そして,コアカリの電子化とe-learning教材のプラットフォームについて,話題提供をさせていただきました。御質問等あればお受けしたいと思います。御清聴どうもありがとうございました。
【永井座長】  ありがとうございます。
 それでは,有識者からの御発表に対しまして,御質問等あれば御発言をお願いいたします。
 はい,山口委員,どうぞ。
【山口委員】  御発表,ありがとうございました。まず,錦織委員に質問があります。コアカリナビは非常にすばらしいなと思ってお聞きしていたのですけれども,これは資料を拝見すると2024年1月26日のシンポジウムで成果報告をされたということは,まだ成果報告をされてほとんど日にちがたっていないということで運用はこれからなのかなと思います。今後の展開として,例えば,医学部の教員の方あるいは医学生にどのようにこれが普及されていく流れになっているのかということを教えていただきたいというのが1つです。
 それから,東京医科歯科大学の田中委員に教員の評価制度ということで御説明いただいたのですけれども,資料1-2の6領域において6段階で評価されているということで,これは教員の方たちが,この6領域に対しての価値というか,本当は並列でないといけないと思うのですが,人によってやはり価値がとても異なると思うのです。これはどのように東京医科歯科大学では教員の方が受け止めているのかということと,教授と相談しながら,どこにどのような役割を果たすかということを決めているという話があったのですけれども,それは教員の方の自発的な希望なのか,あるいは教授の方が適材適所で選ばれているのか。例えば,自分は教育に取り組みたいと思っていても,なかなかそれに抜擢されないということがあったり,いや,教育なんかしたくないのに押し付けられたという思いを持つ方がいたりするのかどうか。どちらかというと,今までは,教育はあまりやりたくないという方のほうが多かったように私は思っているのですけれども,その辺りの工夫をどのようにされているのかということをお尋ねしたいと思いました。よろしくお願いします。
【永井座長】  いかがですか。まず,錦織先生からお願いします。
【錦織氏】  山口先生,御質問ありがとうございました。コアカリのシンポジウム以降の普及の展開の今後についてという御質問だと理解しています。
 まず,コアカリの改訂が行われたのが1年以上前,2022年の11月でしたので,そこからこの1年間の授業を通して,コアカリナビに掲載していますが,各資質,能力ごとの解説動画を作ることや,大学によってはなかなか教員がいないような分野に関しての動画を作成すること。これは先ほどお示ししたとおりです。それから,論文化を進めることも含めて,今年度幾つか事業を進めてまいりました。その中の1つに,全国の大学の,これは半分ぐらいまでしかいかなかったのですけれども,先生方との対話の場を持つことをやってきています。それぞれの大学の関係者の先生方と1時間ほど,このコアカリをどのように学内に展開するのかということについて,こちらからも情報提供を行ったり,先方の大学からもいろいろと情報を聞いてニーズ調査を行ったりもいたしました。そのような形で今後の展開としてはそれぞれの大学でコアカリを展開していただくということになろうかと思っております。
 来年度については,この事業は1年間の事業でしたものですから,医学教育学会が一部事業を引き継ぐ形で事業を継続する予定でございます。
 以上です。
【山口委員】  ありがとうございます。
【永井座長】  田中委員,お願いいたします。
【田中(雄)委員】  御質問にお答えさせていただきます。ウェイトをどれくらいどこにかけるかというのは,基本的には,例えば,教員一人一人が提出するものなのです。ただ,そこに所属している教授の「同意している」というサインが必要になる形なのです。その間で,山口委員がおっしゃった,どれぐらい本人の希望がかなっているかというのは,正直なところ,アウトプットしか見ていないので,分からないです。ただ,もともとは山口委員がおっしゃったように,あまり教育にウェイトをかけてくれないというところが出発点にあったので,例えば,さっきお話ししたように,特に若手の人たちが臨床実習にコミットしたときは点数が上がるような配点に一応なっていて,だから,ポイントが上がればお給料も上がりますので,ぜひ積極的に関与してくださいと。
 それで,クラークシップ・チューターは,各科1名出してもらわないといけないのですけれども,これが出ることで何か苦労したという話は聞かないので,やはりポイント60点というのは結構効いているのではないかなと思っています。以上です。
【山口委員】  これ,いつ頃から行われていて,もうある程度年数が経っているのだとしたら,成果は表れているのでしょうか。
【田中(雄)委員】  みんな逃げて回るということはなくなったという意味では,成果はあると思いますけれども,定量的に何か解析しているということはないので,何とも言えないです。
【永井座長】  永井ですけれど,今の点,皆教育したくないということはないと思います。問題は,教育の根底に入門者の勧誘という気持ちがあるのです。本当に一生懸命教育して,自分の研究室に入っていただくといった勧誘目的を潜在意識として教育が行われているのです。しかし,それは統一性や全体のバランスを取るなどの点で問題があるのです。実際,教育の講義のコマが減るとクレームが出ます。もうウェイトを減らしてもよい講義が延々と行われるというのは,そのようなことなのです。
 ほかに。今村委員。
【今村委員】  今村です。今回,働き方改革と,この診療参加型実習の両立に苦慮しているのですけれども,先生が御指摘のように,忙しいから学生に手伝ってもらえるようなほど訓練をするということは,全くそのとおりなのです。そうすると3か月ぐらいいてもらわなければいけない。でも,20科以上のところに回るので,まんべんなく回らなければいけない。これを両立させるとまんべんなく回るほうが優先するので,1か月ずつとか,短期間ずつで教えるほうで終わってしまって,手伝ってもらうほうに至らないということのジレンマにあって,診療参加型実習だと,私自身は働き方改革にさらに重しになっているように,我々の感覚としてはあるのですけれど,先生の今までの取組の中でそういった点はどのように解決策を見出しておられるのでしょうか。
【永井座長】  錦織先生,いかがでしょうか。
【錦織氏】  ありがとうございます。大学によって様々かなと思いますけれども,まず1つ,今村委員がおっしゃられたように,あと永井座長もおっしゃられましたように,リクルート,勧誘目的ということを考えますと,全科回らないと文句が出るというのは共通かなと思います。そうすると,選択の臨床実習のところで,まず,参加型にしっかりやっていく。臨床実習を必修と選択の2段階でやっているところ,大学も幾つかあると思いますけれども,その必修のところはまずはシミュレーション教育を充実化させる。そして,まずは選択実習のところをしっかり参加型にしていくというのが現実的かなと思っています。
 以上です。
【今村委員】  ありがとうございます。実際,医学教育の評価などを受けると,まんべんなくしているのはおかしいのではないかという指摘のほうが多くて,でも,先生御指摘のように全部回らなければいけないし,症例もまんべんなくまたがっているので,どうしてもそれなりの長い期間まんべんなくということと深くやることとのジレンマがあると思います。コメントとして聞いていただければと思います。
 以上です。
【永井座長】  永井です。アメリカの医学教育を見ても,まんべんなくは行っていません。科目数はかなり少ないですし,科によっては,外来だけの臨床実習,手術室まで入る臨床実習など,いろいろなコースを作って,ひと月ごとに15か月ぐらい回るというスタイルが多かったように思います。ですから,アメリカの医学教育の中では,勧誘目的というのはかなり排除されているはずです。本来の医学教育の在り方を前提として,医学教育の担当者が権限を持って整理していく。恐らく日本でそれができていません。もう一つ,アメリカでは卒業試験の期間がありません。実習中に評価して,国家試験対策のための期間をとっていない。そうすると,かなり長期間にわたって卒業する前日まで実習できるわけです。日本は早めにカリキュラムを終えてしまうので,いろいろな制約が起こっている。その2点がかなり大きな違いになっていると思います。本当は実力がある学生を育てていければ,卒業式の前日,それこそ3月30日まで実習をすればよいのです。日本は教育機関が短く窮屈になっていると思います。
【堀岡企画官】  先生,事務局からいいですか。アメリカにもUSMLEのステップ2がありますよね。それは結構,診療参加型臨床実習をやって,そのままその試験をガチンコで受けるということですか。
【永井座長】  そうです。その実習期間中に受けるわけです。もう一つ,全科は回らないということがあるわけです。私が見た大学では,15か月の3年生,4年生の実習期間中に12か月は1か月単位で回っています。中には休みの月とか,あるいはReading monthといって,本を読んで勉強する実習期間というのもありました。日本は全てを教える。これによってかなり制約が生まれていると思います。これはもう日本とアメリカの医学教育の決定的な違いで,それを全部統括しているのがカリキュラム委員長でした。40歳くらいのアソシエイトプロフェッサークラスが全部仕切っていました。日本は機会均等。機会均等というのは,学生にとって勉強する機会だけではなくて,教員側の勧誘のための機会均等を保証しているところが,いろいろな問題を生んでいると思います。
 アメリカの学生たちは自立していて,講義の出席率はほとんど100%でした。そんなことはkindergartenではないのだと言われましたけれども。講義時間が非常に少なくて,多くても毎日4時間,午前中だけ講義。あるいは,講義をなくしたという医学校もありました。実習で診療参加型臨床実習を徹底的にやっていく。いきなりそこまでは無理でしょうけれども,講義枠や実習枠の割当は,改革しないといけないと私は思います。
 錦織先生,いかがでしょうか。私が調査したのは随分前なので,もっと進化しているように思いますが。
【錦織氏】  永井先生,御質問ありがとうございます。おっしゃるとおり,アメリカは全科を回っていないのは現在も同じで,このERでもそのような場面が描写されていました。私の知る範囲では,大阪大学さんは全部の診療科を回っていなくて,やっぱり学生から文句は出るということは聞いておりますが,一定の期間,4週間なら4週間回ることが診療参加型臨床実習の推進に必要だという哲学でやっておられて,それは先ほど今村委員がおっしゃられたJACMEの印象評価などで指摘されることとも重なるのではないかなと思います。
 以上です。
【永井座長】  例えば,日本の内科は科が多いですから,そこに全部機会均等になるようにするのですね。ですから,医学部の講座制も枠がそのまま診療参加型臨床実習に持ち込まれる。どうしても短冊形になります。これを変えようとすると非常に多くのクレームが出る。アメリカでは教育担当者が権限を持って統合・整理します。それから,毎年医学教育学会があって,そこで全体方針を決めて,それを各大学が持ち帰って,そうした方向性を実際に実施する。そのような仕組みになっているわけです。これはもう決定的な違いなのです。日本では特に研究が熱心な大学ほど臨床実習は細切れになります。そこをどう統合するかは,まさに医学教育カリキュラムの在り方が非常に重要です。
【田中(純)委員】  先生,アメリカでは,講義はあまりない,実習が重視されているというのは,やっぱりWEBとかe-learningなどで用意されているからということなのですかね。錦織先生の発表でも,基本的な,なかなか教えにくい科目についてe-learningの教材を拡大というのは非常にいいことかなと思ったし,堀岡さんが最初に説明されたがんに関する授業をオンデマンドでがんの学会が用意されているというのは,そのような方向で共通の授業のところはみんなで共有して,各大学の特徴的な臨床の講義はアドオンでやるといった方向性で実習に時間を割く,実習に取る時間を取るという方向性になるというお話でしょう。
【永井座長】  ただ,私が調査したのは1999年です。WEBもe-learningもほとんどない時代ですから。
【田中(純)委員】  ない。なのに講義が少ない。
【永井座長】  そうですね。恐らく今はもっとそれが進んでいると思います。
【田中(雄)委員】  錦織先生にお伺いしたいのですけれども,錦織先生のスライドの20枚目にある「私見」というところで,Clinician Educatorという役割を担う教員というのは,錦織先生のお考えでは教員のうちのどれぐらいのパーセンテージが理想なのでしょうか。
【錦織氏】  御質問ありがとうございます。完全に直感になりますけれども,少なくとも10%から20%ぐらいは,いたほうがいいかなと思っています。これは大学によって様々かもしれません。まず,教員の数が違いますし,研究大学と言われるような大学は,より研究を重視していくことになると思いますし,臨床医を育てることに一生懸命やってくださっている大学では,よりこういったClinician Educatorの割合が多いほうがいいかもしれません。
【田中(雄)委員】  このようなClinician Educatorは,中央の教育部門,例えば,先生の研修センターのようなところに所属しているのがいいのか,各科に分散しているのがいいのか。そこはどうなのでしょう。
【錦織氏】  教育センターと関りは持っておいたほうがいいと思います。ただ,教育センター専任である必要はないというか,むしろ専任にならないほうがいいというのが私の考えです。1990年代の論文にもあるのですが,医学教育センターのあり方として,診療科に軸を置いて,エフォートを,70%を診療科,30%ぐらいを教育センターといった,教員がClinician Educatorをうまく機能させ,彼らが昇進していく際の手続き,またどのようにキャリアを積んでいけばいいのかというサポートを教育センターで行う。そして教育に関する研究を行っていくときのサポートを教育センターが行うとか,そういった役割分担かなという印象です。
【田中(雄)委員】  そうすると,キャリアパスというのはどのように捉えておられますか。
【錦織氏】  キャリアパスは,先ほど目指していただいたとおり,臨床と教育と研究と管理の割合をきちんと明確にしておいた上で,臨床は臨床の評価が行われる。研究評価に関しては,これまでのものを踏襲したらいいと思うのです。教育の評価に関しては,Educator’s Portfolioを提出してもらって,その評価を診療科の教員と教育センターの教員とが,例えば,合同で行って、プロモーションを考えていくことになろうと思うのです。そのプロモーションを考えるときに,どこの予算を使ってどのように人事を動かしていくということが多分難しいところで,そこが最後の私見に書かせていただきましたが,昨今の状況ですと,大学病院のほうがむしろ病院教員,病院教授であったり,病院准教授であったり,それぞれの大学で呼称は違うと思うのですけれども,そのほうが,裁量があってClinician Educatorとして機能する可能性があるのではないかなというのが私の意見です。
【永井座長】  今の点,どこで教育するかということだと思います。今の錦織先生のお話ですと大学の直轄の病院で教育をするということなのでしょうか。私が見たのは,大学病院といっても,広い概念で,いわゆる関連病院が大学病院なのですね。ですから,15か月間回るとしても,ほとんど各地のaffiliated hospitalの教育担当のクリニカルプロフェッサーがいて,その人の指導を受ける。ですから,大学病院で完結して教育するのか,あるいは関連病院を含めて教育するのかで随分違います。錦織先生,いかがでしょうか。
【錦織氏】  ありがとうございます。今,永井先生の御意見に個人的には賛成でして,大学病院の患者層が非常に特殊であることに鑑みても,臨床実習の場合より臨床教育病院に展開していくべきであると考えます。そのことに関しては,医学教育課さんのほうでこれまでにもいろいろ取組を行っておられますし,この教育業績評価についても教育病院,臨床研修病院等の部長の先生を,例えば,臨床教授にするとか,臨床准教授にするといった形で進めていくことは可能かと思います。
 以上です。
【永井座長】  ですから,今の日本の大学病院が教育に忙しくて研究できないというのは,全部自前主義で背負いこむからなのです。その辺りの機能分担をどうするかということも大きなテーマです。アメリカでは関連病院にたくさんのスタッフを抱えて教育を標準化,統一化しているのだと思います。大体二人で1か月間,病院を回ります。大きなシステムの中で医学教育を進めているということです。そのような意味でも,アメリカだけではなくてヨーロッパやアジアの大学も調査してみる必要があると思います。いかがでしょうか。
 和田先生,どうぞ。
【和田委員】  ありがとうございます。途中参加していますので,もしかしたら聞き逃したかもしれません。先ほどの,若手が医学教育にキャリアを積もうとして増えている。これは私も実感しております。また,先ほど永井先生がおっしゃっていたように,関連病院との関連で教育をしていくという姿,1つの姿だろうと思います。その際に,この私見で書かれておられる,「大学病院の教員としての昇進の道」とお書きになっておられます。そうすると,大学病院だけではなくて,関連病院などの,たしかに臨床教授などはいらっしゃいますので,それらの先生方の評価に関して,全体的な教育という視点から何かグッドプラクティスの仕組みはあるのでしょうか。ちょっと教えていただくと幸いです。
【永井座長】  錦織先生,どうぞ。
【錦織氏】  御質問ありがとうございました。今,スライドに出ております,最後の「大学病院の教員としての昇進の道」というところです。関連病院も含めた一般病院,教育病院,臨床研修病院でのキャリアも考えていく必要があるのではないかという御質問だと理解しました。おっしゃるとおりでして,先ほど永井先生がおっしゃられたことともつながるのですけれども,臨床研修はもう既に大学病院では全然完結しておりませんが,臨床実習も今後は大学病院で完結することなく,市中病院,臨床研修病院で展開していく方向になってきますと,そこで働く,もしくは学生の指導を行う先生方のキャリアパスも考えていく必要があると思っています。
 一方で,先ほどちょっと申し上げました,田中委員からの質問もありましたが,教育センターみたいなところがないと,具体的に教育の業績評価の仕組みを作っていくという役割を担う人間がなかなかいなくて,結構ここは丁寧にやらないと,先ほど申し上げましたように,教育に熱心なだけでいいのかと私も疑問に思っています。その設計に手間暇がかかるかなという意味で,大学が一定のイニシアティブを取ってやっていくほうがうまく回るのではないのかなというのが私見でございます。
 以上です。
【和田委員】  ありがとうございます。やはり大学病院だけではなく,関連病院も含めた大きなシステムとして学生を育てていく。そういった仕組みがあると,もちろん勧誘も含めて様々な点でメリットがあるのではないかと感じました。
 以上です。ありがとうございます。
【永井座長】  ありがとうございます。多分,ヨーロッパの大学もそうしているのではないかと思います。ゲッティンゲン大学の話では,1学年200人の学生がいるのです。大学病院だけでなく地域の病院でも実習していると思います。ぜひこの辺りも世界の医学教育を調査されたらよいと思うのです。アジアでは韓国,台湾が重要です。いかがでしょうか。どうぞ。
【釜萢委員】  日本医師会の釜萢です。先日の1月26日のシンポジウムに参加させていただいて,e-learningの教材がいかにすばらしいものがたくさん用意されているかということに非常にびっくりいたしました。これを利用しやすい形のプラットフォームがぜひ必要だろうと思いますが,大学によってこれらのソースをうまく使えているところと使えていないところと多分あるのではないかと思います。全体として優れた教材をいかにうまく利用して効率的に実習前の段階での準備を整えるかといった辺りについて,錦織先生からもう少し御示唆をいただけると有り難いと思いますが,いかがでしょうか。
【錦織氏】  釜萢先生,御質問ありがとうございます。また,先日のシンポジウムに御参加いただいて,ありがとうございました。おっしゃるとおり,プラットフォームをつくっただけでは,そこにあるよということだけですので,具体的に使っていくのは各科目の担当の教員であったり,もしくは該当の科がない場合は教育センターの担当の教員がこれをどこかでやっていこうという動きになっていくのかと思います。
 先ほど申し上げました今年度の事業では,そういったことも含めて各大学と個別に対応することをやってきたのですけれども,それが1年間で終わってしまいまして,来年度以降はそういった予定はないのですが,今後,日本医学教育学会なども含めて,e-learningのコミュニティの場をつくって継続してもっていって,そこで情報交換をしていくことになろうかと思っています。
 すみません,お答えになっていますでしょうか。
【釜萢委員】  どうもありがとうございました。私の願いとしては,その辺りの取組は今後も非常に大事でしっかりやるべきだと思うので,ぜひ文部科学省におかれましては,そちらの方面にまた力を注いでいただいて,この取組が継続できるようにお願いをしたいと私からは意見を申し述べます。
 以上です。
【永井座長】  ありがとうございます。
 それでは,銘苅委員,宮地委員,諸岡委員の順でお願いします。
【銘苅委員】  琉球大学の銘苅と申します。よろしくお願いいたします。
 錦織先生と永井先生に御意見をいただきたいのですけれども,先ほどから御指摘がありますように,やはり臨床実習,クリニカルクラークシップが4年生,5年生の時に2週間ずつ全部回るということで,本当にお客様状態になっているということ。その後,選択をしている学生さん,私たちは産婦人科ですけれども,そこを回っている方に関しては1か月しっかり回っているということで,教える側もお客さんに対する熱意があまりわかない。私たちは本当に人不足なので熱心に教えはしますけれども,科によってはばらつきがあってお客様状態になっていることがあるということ。学生側の視点で見ると,どうしても国家試験の予備校状態になっていて,各科をまんべんなく回って国家試験の対策になってしまう,大学病院の対策になってしまっているという側面もあるので,どうしても手技を獲得するというよりも試験対策のほうに重点を置いているのかなというところもあるのかなと以前より思っております。そこを今,永井先生がおっしゃったように,外国式に臨床研修制度ですね。研修医1年目,2年目でやっていることを,大学病院だけでなく研修施設,研修病院で全てを回してあげて,一般的な大学病院ではあまりいないジェネラルな方々をしっかりと経験していただいて,一般病院で研修していただく,教育をしていただくというシステムを使う。国家試験をどうにか別の試験のタイプにするというか,やっぱり試験があってそれに合格しなければ学生さんはそこを重要視してしまうので,試験の形式自体も変えるという大胆な,極端な方針になれば,教育も変わってくるのではないかと思うのですけれど,いかがでしょうか。
【永井座長】  ありがとうございます。恐らく日本の国家試験のほうが科目数が多く,全科を試験していると思います。昔は必ずしも全科ではありませんでした。厚労省も,何でも試験しないといけないのか。
【林課長】  医事課長の林でございます。まさに非常に重要な問題だと思います。要するに,試験で評価できる内容が,本当に評価するべき内容なのかということが非常に重要なポイントだと思います。あとは試験を作ることができる技術として,今のペーパーテストよりもいいものを,ということはもちろん誰でも思うのだと思いますけれども,それを継続的に,また単に記憶に頼らずに能力を評価するという試験を実際に作り得るのかということもあると思います。私どもは決して知識を,どんどん重箱の隅をつついて問いていくのがよいと思っているわけではなくて,いかに問うべきことを問うという試験ができるかと試行錯誤を続けているわけでございますけれども,結果として今のような医学教育をつくっている1つの要素にはなっていると思いますので,いろいろな御指導をいただきながら不断に検討していきたいと思っています。
【永井座長】  今村先生,どうぞ。
【今村委員】  たしかに昔は整形外科と皮膚科とかということで,もし永井先生がおっしゃるように,臨床実習を例えば,個々の診療科とかに回れば,恐らく深いことができると思います。でも,恐らく国試は落ちると思うのです。すると,どうしても国試の勉強期間が,優先順位が高くなって,まんべんなくやってほしいという学生からの要望があって,学生から要望があると大学側は弱いので,全部回そうということになっていく。2週間回って1か月というのが標準ですけれども,1週間だけ全部回って3か月という形も試行錯誤としてはあるとは思うのです。それが本当にいいかというと,両立させることにすごく矛盾があって,最後に国試という大きな,それも物すごく難しい試験があるというのが大きな重しになっていると思います。優秀な学校を優秀な成績で出て,難しい医学部に入って6年間勉強しても1割落ちるという強烈な試験だと思いますので,それだけ優秀な人がそれだけ勉強しなければいけないということと,いいお医者さんをつくるというところの間に難しさがあるのではないかと思います。
【永井座長】  これは長期的な検討が必要だと思いますし,海外の状況も調べてみる必要があります。
 宮地委員,どうぞ。
【宮地委員】  ありがとうございます。名古屋大学の宮地です。先ほど話題になった教育ツールの共有化についての情報提供ですが,既に開発された各大学で使っている教材などで教育者や学習者が自由かつ合法的に共有してもよいものをデジタルプラットフォーム上で蓄積して共有するシステムは既に海外で実例が幾つかございます。これはOpen Educational Resources,“OER”あるいはFree Open Access Medical Education,“FOAM”として知られています。このようなシステムを日本国内で,かつ,できれば国際的に共有できるようなシステムとして構築していくことが重要だと思います。
 以上です。
【永井座長】  ありがとうございます。
 諸岡委員,どうぞ。
【諸岡委員】  ありがとうございます。熊本大学の諸岡と申します。
 まず,錦織先生,御講演ありがとうございます。私は科学者の立場として申し上げますと,Clinician Educatorのような,要するに教育に重きを置いた教職員,教員の評価というのは,実は医学部だけではなくてほかの学部でもそういった話も出てきつつありまして,医学部の場合は臨床と教育と研究という三本柱ですけれども,ほかの学部だと研究と大体教育というバランスを取っていくかと思います。どちらかと言うと,例えば,研究よりも教育に熱心な先生もいらっしゃったりして,そういった先生が例えば,教育あるいは講義とかで評価を受けることによって大学の中で昇進していくといった仕組みが,この日本の大学でもあっていいのではないかと考えております。実際アメリカでは,教育に特化した専任の先生という形でいらっしゃいますし,そういった形で教育に対しての評価は,研究と教育の評価だけではなくて教育というものを評価できるような形でできればと思っております。
 また,コンテンツの共有化も,例えば工学系だと,数学とか物理といった理科の関係の教育などは,ほとんど基本的なところはほぼどこの大学でもされていて,あとは各大学で特徴的なところはそれぞれの大学の教員で例えば教育するとか,そういった仕組みは医学部だけに関わらず,どの学部でもそういった話はできるのではないかと思います。こういった取組を大学全体でやるというのもなかなか大変なことかと思いますけれども,これをきっかけにできればと個人的な希望ですが,申し上げさせていただきます。ありがとうございます。
【永井座長】  ありがとうございます。ほかに御意見はいかがでしょうか。
 田中委員,どうぞ。
【田中(雄)委員】  今出たお話ですけれども,医科歯科大学も10年ぐらい前から全科を回るというのはやめているのです。それができている理由が,学生から第1希望,第2希望,第3希望でどこを回りたいかというのを全部取って,それをある程度学生が,納得感ができるような振り分けをするような教育部門はあるからできているのですね。その部門というのが,例えば各大学に本当に実働するものとしてあれば,いろいろな改革が進むのだろうと思います。
【永井座長】  ありがとうございます。そこは大事な点で,教育担当者に権限がないという大学も結構あると思います。
【田中(雄)委員】  よろしいですか。
【永井座長】  どうぞ。
【田中(雄)委員】  それは多分私なのですけれども,私は結構大きな権限を持っていたまま,なぜかと言うと,私がその時から学長だったわけではなくて,要するにその時の学長が,医学教育が大事なのだと言っていたのですね。それで,学部長も応援してくれて,私は教育委員長だったのですけれど,できたということなのです。だから,後ろにバックボーンになる人がいないと,なかなか現状では難しい。そうでないとすると,やっぱり今度のガイドラインもそうなのですけれども,ある程度文科省がリードするような形あるいはこの会議でもいいのですが,何か出していかないとなかなかそっちのほうに動いていかないのではないかなと思います。
 以上です。
【永井座長】  どうぞ。
【田中(純)委員】  田中純子です。医科歯科でも医学教育センターみたいなところがあって,教育についての評価をして,給料とか昇進に反映するようなことをされているということで,多分力を入れていらっしゃると思うのです。各大学で医学部があるところはそのような医学教育を担う専門の教授なり,准教授なりを置いて,そこでのある程度の評価をするということが行われないと,なかなか教育系をやっても報われるのかとか,評価されているのかということをやっているほうも思いますし,そのような仕組みは各大学で形上はあるのか,実質動いているのかということも含めて調査する必要があるのではないかと思います。
【永井座長】  研究が盛んであればあるほど,入局勧誘が,教育動機が強い。しかも臓器別講座にしたがって,カリキュラムを細切れにして全科を回っています。そのようなことを調整するのが医学教育者委員会の役割のはずです。そこまで多分,学部長は権限を与えていないだろうと思います。
【田中(純)委員】  多分,医科歯科のほうはやっていて,広島大学も医学教育センターというのがあって,すごく権限があるので,各科の皆さん,勧誘されたい,授業単位を取りたい,履修数増やしたいというのは,調整する機能があるというところは,そのようなところをつくらないといけないのかなと。
【永井座長】  山口委員,どうぞ。
【山口委員】  先ほどからアメリカとかいろいろなところを調べるというお話でしたが,まさしくアメリカのカリフォルニア大学のサンフランシスコを参考にしてということで,2020年度から昭和大学が新しいカリキュラムを作られて,抜本的な改革をされたのです。昭和大学は1年生の時は全寮制で,富士山麓で医・薬・看で学ぶわけですけれども,その時から学生同士で臨床実習が始まるということで,病院はありませんので,学生同士で例えばバイタルを取るとか,模擬患者を相手にして医療面接をやるということで,1年生の最後には4年生の段階のオスキーがもうできるようになっている。今度2年生になると,まず看護実習と他職種実習というのをやって,その後2年生の後半から週に1回,必ず毎週実習があるのだそうです。それはどのようにやっているかと言うと,昭和大学は6病院持たれているので,その6病院の中で108科ある。そこに2周回るぐらいのペースで,例えば,毎週金曜日は実習の日ということで,一人で病棟に臨床実習に行くのだそうです。1巡目の時はシャドウイングということでドクターの後ろにずっとついている。今度2周目になってくると患者さんの病気とか,患者さんの思いとか,患者さんに深く関わることをされているということとか,それから,学生同士がチームを作ってジャーナルを作る。例えば,新型コロナウイルスということになると,そこに仮説を立てて論文を作ってプレゼンで発表するということで,講義は全てオンデマンドなのだそうです。なので,カリキュラムを見ると自由時間が結構あって,そこをうまく調整して自主的に座学についてはオンデマンドで学習する。あとはジャーナルにしても,アクティブラーニングにしても,シミュレーターなどを使っているので,自分たちが何を学びたいかということを学生たちが自発的にやっているので,見ているととても生き生きしているのです。なので,1つの例として,2020年ですからまだ4年目だと思いますけれども,どのような成果が上がってきているのかということも含めて,一例として何らかの形でお調べになってみるといいのかなと思いました。ここまで臨床実習を早くからやっているというのは,私は初めて聞きましたので,一例かなと思っております。
【永井座長】  状況はどんどん変わっています。いかがですか。少し文科省として調査をなさってみるというのは。国内外ですね。特にIT,ネットワークが発達してから随分様変わりしているように思います。でも,基本にあるのはどのような教育をするか,どのような人材を育てるかという理念です。いくら熱心でも別の思惑で教育するのは,よくないと思います。
【俵課長】  他国であったり,国内どのように,確認しながら進めているかとか,考えていきたいと思います。
【永井座長】  錦織先生,どうぞ。
【錦織氏】  山口委員の御発言に対するレスなのですけれども,今年の7月に医学教育振興財団が実施します指導者フォーラムの中で,まさにUCSFの取組と昭和大学の取組を採り上げる予定ですので,そこで情報共有ができるかなと思いました。その情報提供と,あとは先ほどから永井座長がおっしゃっておられますけれども,特に私は個人的にはClinician Educatorのことについてアメリカの状況を調べるのは結構重要かなと思っていまして,いいことばかりではないとは思うのですね。だから,彼らがどのようにやっていて,うまくいっているところは何で,うまくいっていないところはどこなのかということも含めて調べて,それで日本に合った形で導入することを提案したいと思います。
 以上です。
【永井座長】  ありがとうございます。よろしいでしょうか。
 和田先生,どうぞ。
【和田委員】  ありがとうございます。恐れ入ります,金沢大学の和田でございます。
 先ほどの権限の委譲というのは非常に重要だと私も思っています。遅ればせながら本学,金沢大学でも医学教育研究センターに教授職をお迎えいたしました。そこで医学部長が,私たちのところで医学類長と言いますが,その連携で権限を譲渡する,それによって熱意と合わせて随分改革が進んできているなという印象は持っています。
 また,海外の例ですと,ちょうどコロナ禍の前にハノイ医科大学に私は視察に行ってまいりました。その時に1学年の正確な人数は分かりませんが,かなり多くの1学年の人数を抱えています。各関連病院との連携を取りながらEducationをする中で,その病院の中のいわゆる臨床教育にあたる方の権限が非常に大きくて,そこで大学医学部との連携を取っていた,ある意味では海外のグッドプラクティスなのかなと思って見せていただきました。情報提供と合わせて発言させていただきます。ありがとうございます。
【永井座長】  ぜひアジアの大学も調査してください。
 それでは,議題2に参ります。「大学病院改革ガイドライン(案)」を事務局から説明お願いいたします。
【堀岡企画官】  ありがとうございます。医学教育課の堀岡でございます。
 今,大学病院改革ガイドライン,資料3-2に今回の改訂の,前回も出させていただいて,今回修正した内容を出させていただいております。もう皆様方,目は通していただいていると思いますので,修正した部分のみ御紹介させていただきます。
 まず,4ページでございます。前回,何月末までを目途として策定するというものを明示しておりませんでしたが,もう大学のほうには様々な場で情報提供しておりますけれども,6月末までを目途として策定するものとさせていただきたいと思っております。
 また,前回,茨城県の森川部長から御意見をいただいたところで,都道府県,自治体との意見交換について記載が弱いのではないかという御意見をいただきましたので,4ページ,5ページの修正で,「望ましい」というところを削除いたしまして,きちんと「意見交換をする」という方向に修正しております。
 また,山口先生,北澤先生から個室ベッド代,様々な厳しい意見をいただきましたので,14ページを御覧いただきたいのですけれども,注のところでございますが,きちんと保険の算定のルールに沿って,患者又は患者の家族に対して,適切な説明及び同意書による意思確認を行ったものでないと個室ベッド代は取っていけないということは明確にさせていただいたところでございます。
 また,前回,ガイドライン関連の御意見といたしましていろいろいただいたところで,宮地先生や山口先生からガイドラインの良好例とか,先駆的な取組をしている大学の好事例などを分かりやすくできないかということで,我々は御意見を検討いたしまして,文科省のホームページ内に,例えば,検討会のホームページともリンクするような形で,各大学のプランをまとめていろいろな大学がよい取組を見やすくするような取組を文科省でやっていきたいと思っております。
 また,北澤先生からタスクシフトとか,シェアとか,きちんとやっていくべきだという御意見をいただいておりますが,正直申し上げてこのガイドラインは様々なところでタスクシフトとシェアは重要だということが記載させていただいておりますので,まさにその趣旨どおりで,我々としてもその点を強調しながら御説明していきたいと思っております。
 また,先ほど御説明いたしましたけれども,今年度,当初予算案の中で教育支援者の人件費などを支援することなどででき得る限り負担軽減の一助とすることを検討しておりますし,今,看護のモデル・コア・カリキュラムについても検討中でございます。その中でも高度な座学の内容,また看護実践の内容などもできるだけ含むような形で変更できないかということは検討していただいているところでございますので,できる限り基礎教育で,効きが将来にわたるかもしれませんけれども,様々な施策で文科省としてもタスクシフト,シェアをしていきたいという方向性を出すつもりでございます。
 以上でございます。
【永井座長】  ありがとうございます。
 それでは,ただいまの説明に御意見,御質問,いかがでしょうか。
【今村委員】  大学の運営のことについてもかなり加筆もあったので,ありがとうございます。1点,私,厚労省の会議にも出ている関係で御指摘したい点がありまして,医師需給の問題を考えていくと,今,日本で一番医師が不足しているのは法医学なのです。その次が病理だと思うのです。今これをどう増員するかということを厚労省でも検討していただいていると思うのですが,今回の働き方改革は臨床系に力を入れるという,実際,各病院では増員や予算増がそちらに振られるということを考えると,そちらの臨床以外を増やしてくださいというところがかえって圧迫されるのではないかということを危惧しています。ですから,今逼迫している部分には手を出さないでくださいと,もしくはそれの増員要求があったら,それは通してくださいということが読み取れるように,ぜひ加筆していただきたいと思っています。働き方改革の中で優先順位としてここには出てこない話なので,ぜひお願いしたいと思います。
【堀岡企画官】  ありがとうございます。特に法医学や正確な診断に帰するための病理学など,非常に医師不足が懸念されているところについては,この中でも運営の効率化のところで運営の効率化だけれども,そういったものは守るべきということは記載させていただいております。さらに御意見を踏まえまして,例えば9ページ,人材の確保などの場面で,そういったところをよりちゃんと注意して大学病院の改革ということがそういった誤解を招かないように明確化していきたいと思います。ありがとうございます。
【今村委員】  お願いします。
【永井座長】  田中委員,お願いいたします。
【田中(雄)委員】  財務のところで,収入のところで記載すべきかどうか分かりませんけれども,例えば,臨床研究とか外部資金を導入するというのも収入を増やす道だと思うのです。それはどこかに書いてあるのでしたっけ。以上が質問なのですけれども,どうしょう。もしなければ,そのような記載を入れていただいたほうがいいかなというのが1つ思うところです。
 それから,削減のところで過剰な設備投資はしないように,それは当たり前なのですけれども,大学病院というのは高度な医療を求められますので,そうするとやっぱり必要となる設備はあります。要するに標準に対して過剰というのであれば,そのようなものではないと思います。高度な医療を実現するためには,例えば,ハイブリッド手術室とか,そういったものは必要になりますので,そこを制限するような書き方はよくないですね。
 以上です。
【永井座長】  いかがですか。
【堀岡企画官】  ありがとうございます。一応,外部資金は寄付金の収入という形で14ページに書いたつもりなのですが,多分,先生御指摘は治験収入とか,そういったものも含めてということだと思いますので,記載ぶりを考えさせていただきたいと思います。
 もう一点のポイントは,我々は全くそういったつもりではなくて,たしかに高度なものが必要だということは十分承知しておりますが,14ページの下から3行目のところがポイントでして,人口減少とか少子高齢化に伴って医療需要が変化していくことを踏まえた上できちんと設備投資をしてほしいということのつもりだったので,そのような誤解を招かないように検討したいと思います。ありがとうございます。
【永井座長】  これは返済のあてのない巨額な投資はやめなさいという,当たり前のことです。それが行われていない例があるために注意を促したということです。いかがでしょうか。
【堀岡企画官】  申し訳ございません。追加で発言してもよろしいでしょうか。田中先生,申し訳ない。私が財務改革のところに書けばよかったのですけれども,10ページの教育研究改革のところで,お金のことに特化せずに,「企業等や他分野との共同研究等の推進」という意味では書いたのです。なので,お金のほうでも書くかどうかなのですけれども,その辺りは座長や田中委員の御意見次第でどのように書くか考えさせていただきます。
【永井座長】  田中先生,いかがでしょうか。
【田中(雄)委員】  ある程度リダンダントにはなりますけれども,外部資金は寄付金ばかりではないので,1行ぐらい増えますが,書いていただいたほうがいいと思います。
【堀岡企画官】  分かりました。ありがとうございます。
【永井座長】  ほかにいかがでしょうか。どうぞ。
【横手委員】  それでは横手から一言よろしいでしょうか。少し遅れて参加いたしまして,この議論から加わらせていただいております。今の設備投資などのところですけれども,私が4年弱前に病院長になりましたとき,国立大学病院長会議におけるセミナーなどでも,大学改革支援・学位授与機構から長期的な計画に基づいて,どちらかというと長期借入金を奨励するような雰囲気が強かったように思っています。お金を借りて,それで建てて,返していく。国立大学の運営費交付金が減らされていく中,そのサイクルが必要不可欠という雰囲気を強く感じるから,それぞれの病院,千葉大も含めていろいろな施設を建ててきたわけです。結果的に今,特に光熱費や物価の高騰等も含め,様々に経営が難しくなり,借入金の返済がものすごく大きな重しになっているわけでございます。すなわち,我々の当初の予測を超えて外部環境の変化が起きてきたときに様々な困難が出てきますので,先ほどの「今後,人口減少や少子高齢化に伴って」という辺りに「外部環境の変化にも十分配慮しつつ」など,そのような言葉を入れておいていいただくと,今後のいろいろな変化にもう少し対応する心構えができるのではないかと思い,コメントさせていただきます。
 以上でございます。
【永井座長】  ありがとうございます。それはよろしいですね。
【堀岡企画官】  はい。
【永井座長】  ほかにいかがでしょうか。
 今村委員,どうぞ。
【今村委員】  今の大学病院の借入金のことですけれども,自分の経験の中で,借入金って実際には財政投融資,ゆうちょからもらっていた借入金が多いのです。これは借換えも難しいし,当時は非常に高い金利で固定されたものであったので,周りの金利が安くなってもそれを借り換えることもできなかったし,国の直接な借入金ならば割り引いてもらうこともできると思うのですが,財政投融資はそのような訳にはいかないので,なかなか重たいものを借りてしまったという経緯があります。当時は利回りとしては一番安かったのですけれども,結果的にはマイナス金利になっていった時代にも金利は残ってしまったので,借入させてもらうお金のこともぜひ今後工夫してほしいと思います。
【永井座長】  いかがでしょうか。財政投融資は国立大学法人しか借りられないのですか。私学はなぜ借りられないのですか。
【永田室長】  私学のほうは事業団などのほうで……正式名称が私学事業団,そちらでも借りられるような形になっていたかと思います。
【俵課長】  最近はどうも民間のほうも大分金利が安くなっているので,民間から借りるところも多くなっているという状況もあります。これも外部状況によってすごく変化していると思いますけれども,そのようなことですね。
【堀岡企画官】  付け加えさせていただくと,WAMとかも私立は借りられるので,国立より私立のほうがそういった意味では多様かもしれません。
【永井座長】  あと公立大学も加えてもらえますか。
【今村委員】  公立は県立とかの場合は,市債や県債という形で出して,これは地方交付税がある程度裏打ちされるので,地債の分はある程度割り引いてもらえるような制度があるのですけれども,財政投融資は非常にかたくて,そのような割引や裏打ち制度がない借入金なので,それを中心に借りることになる場合,国立大学にとっては重たい負荷だと思います。
【永井座長】  そのほかいかがでしょうか。よろしいでしょうか。まだ時間があるのですが。
【今村委員】  借入金とか,起債とかのことは,どうしても病院を運営している先生方は不慣れでして,どのようなものかということも多分知らずに借りていると思うのです。私も東大病院にいたときには知らずに借りてきて,奈良医大に来たら,起債なんてものがあるのだということとか,そのような会計のことについてもう少し医学教育課からも支援をしてほしいし,医学教育課自身もぜひ公立大学などの借入金とかもすぐに答えられるようにしてほしいなと思いました。
【堀岡企画官】  申し訳ないです。
【永井座長】  ありがとうございます。
 田中委員,その後,宮地委員,どうぞ。
【田中(雄)委員】  今の今村委員の御指摘ですけれども,今は制度が変わっていて,借換えもできるようになっているのです。それから,10%はもともと国が借金を負担しているので,それを上げた利率が今,民間よりも下だと思います。ですから,現状を確認していただいたほうがいいと思います。
【永井座長】  宮地委員,どうぞ。
【宮地委員】  ありがとうございます。ほかにガイドラインの件で御発言される方がおられないようでしたら,先ほどの教育業務の評価について1点発言させていただきたいと思ったのですが,よろしいでしょうか。重要なのは教育力や評価力の担保のために必要な学びをしっかり行いつつも,教育評価のためだけに教員が新たにやらなければならないことを可能な限り減らすこと。そして,現在,大学間でいろいろな取組が既にされていることを今日学ばせていただきましたけれども,そのバラバラなシステム,業務評価システムからいかに効率的,効果的に教育業績を見える化できるという知見を集積して,全国的に共通の業績評価システムを作るということではないかと思っています。この全国共通の教育業績として,共用試験OSCEやPost Clinical Clerkship OSCEの評価者の業務や課題責任者の業務を含めることを御提案したいと思います。学生の研修医への教育に割く時間がますます逼迫する中で,これらの評価者業務が実際に今いる大学のみならず,将来異動した先の大学でのキャリアアップにも結びつくような仕組みがあることはモチベーションの向上になりますし,生涯にわたる継続的な教員教育という観点でも有効かと思います。評価者を多く出している診療科に予算やポストといった形で教育のインセンティブがつけられる仕組みにも活用できる可能性があるかと思います。また,教える側に医学生を含めるという屋根瓦方式の強化が今回議論の視野に入っていることを鑑みますと,この業績評価システムが少なくとも臨床研修医以降に従事した学生教育や院内の教育研修の参画歴など,いろいろな教育が蓄積されていくようにできるとよいかと思いました。
 以上です。
【永井座長】  ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 それでは,少し時間が早めですけれども,本日の意見交換はここまでとしたいと思います。事務局から今後のスケジュールについてお願いいたします。
【海老課長補佐】  事務局でございます。今後の開催スケジュールですけれども,次回第8回は令和6年3月18日に開催予定でございます。
 以上でございます。
【永井座長】  ありがとうございました。
 それでは,これで終了いたします。お忙しいところ,ありがとうございました。
 
―― 了 ――

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