今後の医学教育の在り方に関する検討会(第2回)議事録

1.日時

令和5年6月23日(金曜日)15時00分~17時30分

2.場所

文部科学省  ※対面・WEB会議の併用

3.議題

  1. 医学部及び大学病院における 教育・研究の現状と課題について
  2. 大学病院における 診療・経営の現状と課題 について
  3. その他

4.出席者

委員

  永井座長、大井川委員(代理:茨城県保健医療部 砂押次長)、岡部委員、小川委員、金井委員、釜萢委員、北澤委員、熊ノ郷委員、田中(純)委員、田中(雄)委員、宮地委員、銘苅委員、山口委員、横手委員、和田委員

文部科学省

  池田高等教育局長、西條審議官、俵医学教育課長、堀岡企画官、永田大学病院支援室長 他

オブザーバー

  厚生労働省医政局 山本医事課長、文部科学省研究振興局 奥ライフサイエンス課長(代理:廣瀨課長補佐)

5.議事要旨

【永井座長】  それでは時間となりましたので、ただいまから第2回今後の医学教育の在り方に関する検討会を開会いたします。
 委員の皆様方には、お忙しいところお集まりいただきましてありがとうございます。
 まず事務局から、本日の委員の出欠状況、配付資料の確認、オンライン会議での発言方法について、御説明をお願いいたします。
【相原課長補佐】  事務局の医学教育課課長補佐の相原でございます。
 まず、前回欠席の委員の御紹介をさせていただきます。
 東京大学大学院医学系研究科神経細胞生物学教授・副学長、岡部繁男委員でございます。
【岡部委員】  よろしくお願いいたします。
【相原課長補佐】  認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長、山口育子委員でございます。
【山口委員】  山口でございます。よろしくお願いいたします。
【相原課長補佐】  続きまして、本日の委員の出欠状況でございますけれども、本日は、今村委員、諸岡委員から御欠席の連絡をいただいております。
 また、大井川委員に代わりまして、茨城県保健医療部、砂押次長に代理出席いただいております。
 なお、熊ノ郷委員は17時頃に御退席の予定でございます。
 次に、配付資料の確認をさせていただきます。
 配付資料は会議次第に記載のとおりでございますが、お手元にございますでしょうか。
 なお、資料につきましては、文部科学省のホームページでも公表しております。
 続きまして、オンラインによる会議の進行に当たってのお願いがございます。御発言される場合には、Zoomの挙手ボタンを押していただくようお願いいたします。その後、座長から発言者を順に御指名いただきますので、御発言いただく際には、マイクがミュートになっていないことを御確認の上、御発言をお願いいたします。
 以上でございます。
【永井座長】  ありがとうございます。
 では、会議次第に沿いまして、まず、医学部及び大学病院における教育・研究の現状と課題について、次に、大学病院における診療・経営の現状と課題について、3番目に、その他ということで議事を進めてまいります。
 最初に議題の1、医学部及び大学病院における教育・研究の現状と課題について、事務局より説明をお願いいたします。
【堀岡企画官】  ありがとうございます。医学教育課の堀岡でございます。資料の御説明をさせていただきたいと思います。
 それと、ちょっと資料がばらばらするんですが、資料1と参考資料2、3、4を少し事務局のほうで触れさせていただいて、これからするヒアリングの御参考にさせていただければと思います。
 まず、参考資料3でございますけれども、前回はフリートーク的な会議とさせていただいたんですが、大学の医学部時点から基礎研究などに研究マインドを醸成するための取組の例というものが御紹介いただけないかというようなお話がありましたので、幾つか我々でまとめております。
 幅広い、いろんな大学でやっていると思われますけれども、ここで千葉と名古屋の例を出しております。例えば千葉大学だと、最初の1年生の一般教養のときから、研究室のどこかに配属して、3年間は必ずその研究室に入る。希望者によっては6年次まで研究成果を続けて、基礎の研究室の方もいるし臨床の研究室の方もいるそうですけれども、人によっては、インパクトファクターが高い論文を書く方もいるというようなことを聞いております。
 またもう一つ、アスパイア・プロジェクトとこれは書いてありますけれども、個人ごとに、高学年のときに8週間臨床実習から外れて、何らかの研究をして発表するような機会を設けているという例がございます。
 また、裏側、名古屋大学でございますけれども、名古屋大学は3年生の後期に半年間、何らかの研究室に所属して、ポスターもしくは口頭での演題発表をするというようなこととか、正課外でも学生の自発的な研究活動を最大限サポートするような取組をやっているという例がございました。
 特に幅広い大学でやっていると思いますけれども、このような例があるということをちょっと御紹介だけさせていただければと思います。
 次に、全然観点は違うんですけれども、政府部内の資料をちょっと御紹介させていただければと思っています。参考資料4でございます。今後の医学教育の在り方、政府文書における関係の記載についてという資料でございますけれども、政府は予算の方針を定めるために、骨太の方針という、非常に重要な文書を閣議決定しております。
 その中で、これは上の経済財政運営と改革の基本方針2023、中長期の経済財政運営と書いてあるところの持続可能な社会保障制度の構築、いわゆる社会保障パートと言われる部分でございますけれども、そこに下線のとおり、実効性のある医師偏在対策、医療専門職のタスク・シフト、シェア、また、医師が不足する地域への大学病院からの医師の派遣の継続を推進するということを、今回明記させていただいております。
 また後ろが、いわゆる研究の質を高める仕組みの構築というところで、文教パートと言われるところでございますが、そこでも大学病院の教育・研究・診療機能の質の担保を含む勤務する医師の働き方改革の推進等を図るという文言がはっきり入っておりまして、大学病院という言葉、これは今回初めてというふうに言われておりますけれども、2か所入っておりまして、政府としても非常に重要な課題だと考えているということを御紹介させていただければと思っております。
 それでは、次に、参考資料2と資料1でございますけれども、前回、第1回、様々な御意見いただいたものを、参考資料2でまとめております。この参考資料2でまとめたものを、論点別に再整理したものが資料1でございますので、資料1のほうを御説明させていただければと思います。
 前回、4つの大きな論点を出させていただいておりますけれども、それをまとめて、真ん中のところですが、それぞれ第1回において出された意見ということを列記しております。
 例えば1回目ですと、国立病院の診療は非常にすごい勢いで大きくなっているというデータを示しますけれども、ある程度診療のボリュームを減らす議論が必要なのではないか、研究・教育を守るためには、診療のボリュームを減らす議論が必要なのではないか。1.5倍忙しくなり、むしろ収益性が悪くなっているという構造的な問題があるんじゃないか。また3つ目は、一方で、重症患者だけに特化すると、教育上必要な症例を学ぶ機会も失うし、採算としても非常に悪くなる可能性もある。なので、重症患者を中心的に診過ぎるだけではなく、教育に必要な症例を診ることも必要なのではないかといった意見もいただいております。
 それをまとめて、我々のほうで論点提示させていただいております。下の矢印のところですが、大学病院が、個々に異なる実状に応じてそれぞれの役割・機能を果たしていくために、業務効率化や経営改善のさらなる取組とともに、自治体や地域の病院とも連携して、教育・研究・診療・地域貢献の取組を再整理して、働き方改革を推進していく必要があるのではないかという論点を提示させていただいております。
 2つ目でございますが、これも前回さんざんお示ししたデータですが、研究時間が著しく短くなってしまっている若手医師をはじめとした大学病院で勤務する医師の研究時間をどのように確保すべきか。教育・研究機能を維持するためにどのような方策が考えられるかということでございます。
 これは3つ目の課題とも大分かぶってくるんですけれども、医師やメディカルスタッフの人材を確保する必要、また、医師の総数は大幅にはどうやっても変わりようがないので、タスク・シフトとかシェア、また医師以外の人材を活用することが重要であること、また、後半の丸の課題の多くがそのことですけれども、医学以外の分野における研究者の参画、そういったものをより推進することが重要であるというような御意見を、様々な方からいただいております。
 3つ目、これは宮地先生だと思いますけれども、臨床業務、臨床実習を大学病院から地域の教育病院へ移すことなども重要なのではないか、教育の負担なども、ある程度効率化で減らすことも必要なのではないかというような御意見をいただいております。
 論点は2つ、事務局のほうでまとめてあります。当たり前の論点でございますけれども、大学病院を核とする研究をどのように活性化すべきか、診療参加型臨床実習の充実のために、どのような方策が考えられるかという2つを出していただいております。
 3つ目でございます。2つ目の論点とかなりかぶりますけれども、医師が中核業務に傾注できる環境の構築に向けて、ICT、医療DX、また医師以外の関係職種に対するタスク・シフト、シェアはどのようなことが考えられるかということでございます。
 もう人材確保、タスク・シフト、シェアの重要性を、様々な先生から御意見いただきましたけれども、下にも3つの論点としてまとめておりますが、医療DXや業務効率化をどのように進めるべきか。特定行為ナースや医師事務作業補助者の確保のためにどのような方策が考えられるか。研究支援人材としてどのような人材が求められているのか。CRC、生物統計専門家、こういったものはどのような人材を支援するべきかといった論点を出していただいております。
 最後は経営改善の話題でございます。もう1つ目の課題と非常にリンクしておりますけれども、経費削減を含めた収支改善に向けてどんな方策が考えられるかといった論点を出させていただいております。
 今、資料1で御説明した論点は、今からヒアリングで、様々な先生、様々な方々に御意見をいただくものと密接に関係している論点をちょっと出させていただいておりますので、もし先生方のイメージと合えば、これを頭に入れてヒアリングをやってはどうかという形で、資料1としてまとめさせていただいております。
 事務局からの説明としては以上でございます。よろしくお願いします。
【永井座長】  ありがとうございます。
 本日は、医学部及び大学病院における教育・研究の現状と課題について、若手医師、大学生の方から現状と課題について御発表いただいて、その上で、意見交換をしたいと思います。3名の方にお越しいただいております。
 それでは、東京大学の太田礼美さんより、順次、御発表をお願いいたします。
【太田氏】  よろしくお願いいたします。東京大学医学部6年生の太田と申します。私は、東京大学は医学研究が盛んで、支援も豊富ですので、2年生の冬から基礎医学系の免疫学教室に所属して、自由に研究をさせていただいております。
 私からは、現役の医学部生から見た現状ということで、研究と学業の両立の上での苦労という点と、今後のキャリアパスを考えたときの課題点、そして大学病院の魅力という3点についてお話しできればと思っています。
 まず私の意見からです。
 まず、1点目、研究と学業の両立の上での苦労ということですが、一番大きな点としては、まとまった時間の捻出が難しいということが挙げられるかなと思っています。また医学部学生の全体として見たときには、学年が上がるほど臨床医学のほうが忙しくなってしまいますので、多くの学生にとっては基礎研究との関わりが乏しくなることが問題点ではないかと考えています。
 次に、今後のキャリアパスへの課題についてです。将来、できたら臨床と研究と両方に携わりたいと考えてはいるのですが、臨床診療と基礎研究との両立というのはなかなか大変そうだなということは、実習中、先生方を見ていると感じています。
 また、その臨床診療をしていると、基礎研究への興味というのがどうしても薄れていってしまっていて、基礎医学研究室の先輩でも、臨床のほうに進んだまま戻ってこない先輩も多くいらっしゃいました。
 また、その一方で基礎医学研究に邁進したい先輩ですと、ここ一、二年の東大の先輩方を見ていると、大学卒業後、臨床に出ることなく、直接海外の大学院に進学される方もいて、多様なキャリアパスがあるなという認識をしております。
 こういった点を踏まえまして、改善点としては、そもそも臨床と研究を両立したいという点ですと、臨床の医師の業務量がとても多いのが現状かなと思っていますので、その業務量の負担軽減が必要なのかなと思っています。その上で、医学部の高学年ですとか研修医の先生方にとって、より研究が身近になるようにするために、プログラムを何かしら策定する必要があるのかなと思っています。
 次、3点目、大学病院の魅力についてです。研究ができたりですとか、珍しい症例を経験できたりといったメリットもありますが、その一方で、医学に関係のない雑務が多くて忙しいことや、給与が安いといった問題点もあるかなと思っています。
 ここまで私個人の意見でしたので、医学部の同期にアンケートを取ってみました。
 こちらがその結果ですが、まず医学部生の現状についてです。過半数の医学部生が研究活動を経験したことがないという結果でした。その理由としては、やはり一番多かったのが時間がないということで、さらにほかの理由として、敷居が高いこと、イメージが湧かないといった理由も挙げられました。またこれとは別に、研究室配属の期間というのが大学の3年生の冬にあるのですが、そちらについてはおおむね好評でした。
 その一方で、問題点として、研究室ごとに指導の熱意にばらつきがあることが指摘されました。この研究室配属の期間というのは、学生が研究に興味を持って研究室に通い始めるきっかけともなるような期間ですので、そちらに興味を持つためにどうしたらいいかということを皆さんに聞いてみましたところ、一言でまとめますと、学生と先生方とのディスカッションの時間をもっと多く取れるといいという要望でした。
 次に、キャリアについて聞いてみました。そうしたところ、東大というバイアスがかかっているためか、大学院に進学したいという方は多く、研究に携わりたい方も多数いらっしゃいました。
 とはいえ、やはりデメリットの指摘もされておりまして、研究については、研究者の待遇の悪さや研究費が少ないことが問題点として挙げられ、大学病院につきましては、医学的知識を必要としない雑務が多いことや意思決定に時間を要すること、特殊な症例が多いことや給与が安いことが指摘されました。
 ここまでの点を踏まえて、ぜひ先生方に検討していただきたいこととしては、まず1点目、学部生への研究指導についてです。現状のカリキュラムですと、医学部の高学年になるにしたがって臨床ばかりになってしまっています。なので、先ほどの千葉大学の例ではありませんけれども、医学部の高学年において、研究室配属を再度カリキュラムに投入できればいいのではないかと考えています。
 また、先生方とのディスカッションの時間が大切だと考えておりますので、テクニシャンの方を増員するなどの支援をぜひしていただいて、先生方がより時間を確保できるような対策を練っていただけたらうれしいです。
 2点目として、大学院については国内の大学院進学をより魅力的にするために、設備面の充実はもちろんのこと、ほかの研究室や企業との交流ですとか、あるいは海外との交流を今よりもさらに推進していただけると、より魅力的になるのではないかと考えています。
 大学病院につきましては、医学部生の私から見ていても、先生方の業務が大変大きいということがよく分かります。ですので、その負担軽減のために、こちらにも書きましたが、アシスタントさんを雇用するなり、電子カルテの音声入力などを導入するようにして、臨床の業務を減らして、教育であったり研究であったり、先生方がよりフレキシブルに関われるようにしていただけたらうれしいと思っています。
 また、海外でのレジデンシーのように、研修をしながら研究の枠も確保できるようにしていただけるとうれしいと思っています。
 以上です。
【永井座長】  それでは、原先生、お願いいたします。
【原氏】  よろしくお願いいたします。徳島大学の内分泌代謝内科の原倫世と申します。本日はこのような機会をいただき、深く感謝申し上げます。
 私は徳島県出身で、研究医を志して徳島大学に入学いたしました。この春、大学院を卒業して、現在は、主に糖尿病合併症のバイオマーカーに関する臨床研究や肥満とマクロファージ、腫瘍関連といった研究を行っております。
 先ほど太田さんが示してくださったアンケート結果にもあったように、入学時から低学年は研究に興味を持っていても、高学年になり、国家試験や研修先を考えるようになると、研究への興味が臨床へと移っていく傾向については、自身の経験や、現在学生教育に携わるようになってからも、同様の傾向を感じております。卒前から卒後の臨床に邁進する期間も研究マインドを維持するためにはどうすべきか、私自身の経験も踏まえてまとめてまいりましたので、提示させていただきます。
 私の経験から、研究へのモチベーションを維持できたエピソードとして、主に3つありますので、簡単に紹介させていただきます。
 まず最初ですが、学部3年生の際に徳島大学では、1日、午後から半日、1年間の研究室配属の期間がございます。その際、私は脳神経外科の研究室に配属されまして、グリオブラストーマの研究をしている先生の下で学びました。この際に、治療法のない疾患に対して新しい治療法を探索するという研究に関わらせていただき、Bedside to Bench、 Bench to Bedsideを実践する臨床研究医の在り方を目の当たりにしたことが、その後の進路選択において重要な経験となっております。
 その後、卒業後は、初期研修先として徳島大学病院を選択しております。その理由としましては、私が、いわゆるマイナー内科、血液内科や脳神経内科、内分泌内科を志望していたことや、臨床研究医の働き方を実際に見たかったという、2つの理由から、初期研修先として大学病院を選択しております。
 その間、徳島大学病院はローテート先の選択度がかなり自由であるという特徴がございますが、ここにお示ししていますとおり、脳卒中センターや超音波センターといったローテーション先がございます。こうしたセンターでは、複数の診療科がまたがって診療を行っておりまして、その中で治験や臨床研究を多職種の方が行っているという現場を目にしたことも、その後の研究マインドにおいて重要なポイントだったというふうに考えております。
 その後、内分泌代謝内科に入局いたしまして、大学で1年勤務した後、大学院に入学しております。ほぼ同時期に、徳島の県南の中核病院への異動が決まっておりましたので、この市中病院のほうに異動してからは、日々臨床業務に追われて、ほとんど研究からは遠ざかっているような状況でした。
 ただあるとき、その市中病院の指導医から、大学院生らしいね、基礎研究は設備がないから難しいが、臨床研究ならできるけどどうかなというお声がけをいただいて、その先生から統計の解析手法を学んで、日々の臨床業務から得たクリニカルクエッションを、データを収集して論文投稿するという、一連の過程を経験いたしました。こうした経験を市中病院で勤務中に詰めたということも、その後の研究マインドへのモチベーションの維持につながったというふうに考えております。
 3年ほど前に基礎研究がしたいという念願がかないまして、大学病院のほうに異動させていただいております。ただ、大学病院に帰ってきてからの勤務のスケジュールの一例をお示ししておりますが、黄色が診療、青が教育、赤が研究に充てている時間となっております。
 昨年度と今年度の2つをお示ししていますが、昨年度に関しては、日中の時間はほぼ診療と教育業務に充てておりまして、研究ができるのは、毎日、日中の業務が終わった19時以降というような状況でありました。なかなか研究が思うように進まないということがありまして、今年度に関しては上司や同僚に相談し、研究日、赤枠でお示しした部分を設けていただいております。
 診療科内で非常勤の先生方とのワークシェアやエフォートの再配分、教育と研究を手分けしてやろうという同僚との分担によって、この時間を捻出しておりますが、年次が上がるとともに、その他の業務というものも増えてしまっておりまして、ワーク・ライフ・バランスという点では課題が残っている状況です。
 最後に現状と課題についてまとめておりますが、地方国立大学の医学部生の多くが県外出身であります。卒業後は県外での研修を選択する者が大多数で、入局者は年々減少しております。
 一方で、大学病院として地域医療の支援という役割がありますので、少ない入局者を多くの地域中核病院に派遣し、大学病院内の医師数というものは減少しており、診療・教育・研究を少人数でカバーするというような状況です。昨今の働き方改革も受け、ワークシェアや業務効率化の努力をしておりますが、そもそもワークをシェアする人員が不足しているという状況に陥っております。
 先ほどのスケジュールでもお示ししたように、日勤帯は診療と教育、研究は業務時間外に行い、診療業務に追われて教育に分配できる時間が不十分というような状況であり、この結果、学生実習の満足度が低く、初期研修先に大学病院を選ぶ研修医も減少しているという一因につながっていると考えております。また、研究に興味を持ってもらう機会が減少し、大学院進学者や研究者の減少というようなことにもつながっているのではと考えております。
 こうした課題の解決策として考えてまいりましたのが、まず卒前に関しては、学部の1年生から3年生で基礎医学は終了し、学年が上がるにつれて研究への興味を失うケースが多いという点に関して、先ほど太田さんからもありましたが、6年間継続的にこの基礎医学に触れる機会を設けるというのがどうかと思っております。
 一例としては、高学年ではAdvancedな内容として、治験や社会実装例など夢のあるテーマを講義で扱うなどすることによって、将来の進路に、研究ということも候補に挙がってくるのではと考えております。
 また人員面の問題ですが、現在徳島大学では、4年生の系統別講義の資料作成、講義、試験監督、4年生のチュートリアルのシナリオ作成、チューター、OSCEやAdvancedつきの指導・評価、模擬患者ボランティアの指導、臨床実習のスケジュール指導、レクチャーなど、全学年の教育を医師が担っており、多くは診療と研究を兼務しております。
 このような現状から、例えば講義資料の作成のアップデートが滞ってしまったり、臨床実習では学生さんと接する時間が短くなって満足度の低下につながったりと、教育の質の低下が懸念されております。
 こうした問題に対して、医学教育専任の人材の増員による教育の質の向上や、先ほどもありましたように、薬剤師さんや臨床検査技師さん、看護師さんに医学教育に加わっていただくことで、教育の質の向上のみならず、卒後の多職種連携の重要性を早期から意識づける、診療参加型実習の実現にもつながるのではと考えております。
 また卒後に関しては、子育てや介護など時短勤務を要する場合、キャリアがストップしがちです。こうしたことに関しては、ワークシェアやチーム診療などのソフト面、保育園拡充など、ハード面の両者の強化が必要と考えております。
 最後ですが、これは実際に現在我々が直面している課題ですが、時間・人員の余裕がなく、個人ごとのニーズに対応することが難しいことや、中長期的なキャリアプランの見通しが立たないといった問題に直面しております。こうしたことに関して、デジタルトランスフォーメーションによる診療時間の短縮やメディカルクラークの増員、タスク・シフトなどへの取組が必要と考えております。
 以上です。ありがとうございました。
【永井座長】  ありがとうございます。
 続いて、順天堂大学整形外科の本間先生、いらっしゃいますか。
【本間氏】  よろしくお願いします。順天堂大学の整形外科の本間と申します。今日は現地で参加できずに申し訳ありません。このような機会をいただきまして非常に光栄に思います。心から感謝申し上げます。また、未来をよりよいものにするために御尽力していただいております皆様に、心からの敬意と感謝の念をお示しいたします。正直少し緊張しておりますが、今後の医学教育がよりよいものになるために、個人的な見解になりますが発表させていただきたいと思います。
 まず私は外科医でして、整形外科、特に股関節に対する手術を専門としております。今までの医師としてのキャリアにおいては、6か月だけ、いわゆる市中病院と言われるところに勤務しておりましたが、それ以外は全て大学病院で勤務をしておりました。また珍しいとよく言われるんですが、30歳から3年の間、フランスのパリ大学のほうに留学していまして、その間の1年半は、外国人研修医として向こうの臨床を経験する機会をいただきました。現在、研究代表者として、科研費の基盤BやAMEDから御支援をいただきまして、再生医療や医工連携の研究をさせていただいております。
 次に、研究に関して私の個人的な現状と振り返りになりますが、丸1として、もう少しやはり研究に割く時間があるといいなと思っております。
 私は今、週2回の手術日で、病院での診療日も含めると、週2.5日、外来をやっております。週5だとすると残すは半日で、私は学生担当もやっておりますので、ほぼその半日は学生教育をやっておりますので、実質的に研究に占める時間はなくて、実際はやっぱり手術の合間であったりとか、あと、私はちょっと早起きという特徴がありますので、そういう早起きして、朝時間を特別につくって、いろいろ研究を進めているのが現状です。
 また、丸2として、必ずしもみんなが研究に対して同じ熱量でないということも、これは仕方ないことですがありまして、時にはやはり手術をちょっと手伝いできなくて研究することもあって、少し申し訳ないなという思いで過ごすこともあります。
 そんな私ですが、よかったことを振り返ってみると、丸3になりますが、工学系の方々との医工連携の研究協力体制を進めることが最近できまして、非常に研究が進んで目に見える結果が出て、さらにその結果、やはり研究費を頂くことができまして、雇用もできるようになって、体制も充実して、非常に加速したことがよかったと思っております。
 また、フランスに行っていた時期が早めにありましたので、海外で見た上司というか、仲間が、臨床や研究、そしてプライベートにおいても、非常に格好いいな、こういうふうになりたいなと思える機会を若いうちに得て、それが今も、恐らくは自分自身のモチベーションにつながっているんじゃないかなというふうに感じております。
 最後のスライドになりますが、今後の大学医師のキャリアパスのためにどういったことをしなきゃいけないかと、自分なりに考えました。端的に言うと、大学に勤務している医師が、診療と研究・教育をやりながら、きらきらかっこよく、憧れられるような存在になること、そういう人が増えること、これがやっぱり非常に大事だと思っています。
 例えば、野球で今すごく活躍している大谷選手とかは、恐らくみんな世界中の子供が憧れていると思います。もちろん、彼の野球の実力やその性格みたいなのが一番の理由だと思いますが、彼をきらきらかっこよくさせる野球界の仕組みみたいなものも、非常に彼がみんなに憧れられるようなことにつながっているんじゃないかなというふうに僕は考えていまして、そうすると我々医療界、医学界も、いろんな仕組みを恐らくは変えて、医者がきらきらもっとかっこよく、そんな感じにしていかなきゃいけないんじゃないかなと感じております。
 具体的な現状と今後ということで、一般的に大学に勤務するイメージとして、大学では診療の量も増えることに加えて、やはり時間外での研究・教育をする。だけど収入は激減するというイメージがあって、研究をやりたいなと思っていても、なかなかそのような理由で、大学の選択をしないという医者も多いかと思います。また、研究はしたいんだけど、実際具体的な方法が分からないし、大学に行っても自分が頑張らなきゃいけないから、なかなかハードルが高いなんていうことで、大学を選択しないという人も多いかと思っております。
 なので、やはり適切なエフォート配分や市中病院等との遜色ない待遇が必要になるかなと思っていて、いろいろな方法を多分検討しなきゃいけないかと思っているんですが、僕が外科医として思っているのはやはり、難治例や特殊例というものに対するプラスのことがもう少しあってもいいのかなと。
 あとは、研究成果が、例えば論文という形が、しっかりした評価基準に乗っかって、何らかの形でポジティブなバックがあるということも、いい循環を生むためには必要なんじゃないかなというふうに考えております。
 あとは、自分の今までの科研費等の経緯で、周りの医者も見て思うんですが、やはり比較的少額のお金を頂ける枠が非常に多いんですが、パートでもいいんですが、人を1人雇用できるような枠というのは非常に限られて、結構周りを見ていると、パソコンとかそういう備品とか試薬とかは買えるけど、実際なかなか進めるのができないという人も多くて、一方で、ある程度、人をパートでも雇えるぐらいの研究体制を増やせるような研究枠がもっと増えると、より現実的に研究が進んでいくんじゃないかなというのを見ていると、そういう研究資金の配分も、もう少し検討してもいいのかなというふうに思っております。
 あと、右下に書いてあるような、やっぱり世界に勝てる日本の研究力で、特に私は最近、異分野、工学系の研究者にいろいろ教えてもらうことで、すごく研究がより面白くなりましたし、成果も出てきているので、そういったようなものをより推進するような仕組みがあってもいいかなと思っております。
 右下、最後になりますが、そのような研究者の環境が改善しても、結局世界と戦っていかなきゃいけないので、そうするとやっぱり質の問題になってきて、そうすると小学生、中学生といったようなちっちゃいときから意見を言うことであったりとか、議論することであったりとか、受験勉強だけじゃなくて、研究の素因を伸ばす、素地を広げるような義務教育課程というか、そういったものも必要になってくるんじゃないかなというふうに感じております。
 以上になります。御清聴どうもありがとうございました。
【永井座長】  ありがとうございます。
 それでは、ただいまから30分ほど、御質問、御意見をお聞きしたいと思います。どなたからでも結構ですので、よろしくお願いいたします。
 先に熊ノ郷委員、どうぞ。
【熊ノ郷委員】  阪大の熊ノ郷です。本当に3人の先生方、ありがとうございました。本当に大変参考になりましたし、いや、すばらしいなと思いながら、しかも、本当に我々……。
(音声中断)
【熊ノ郷委員】  原さんに質問させていただきたいんですけど、この出された週間スケジュールのワークシートなんですが、これは昨年度は、大学院在籍中のワークシートになるんでしょうか。あるいは、大学院の在籍中もこんな感じで、診療とか外来業務とかがあったんでしょうか。その辺り、教えていただけたらと思います。
【原氏】  熊ノ郷先生、ありがとうございます。御指摘のとおりで、昨年度はまだ大学院生でありました。本来であれば、もう少し研究に時間をいただけるような体制だったのですが、医局入局者の不足と、地域枠入学者が臨床に出る学年と重なりましたので、中核病院への派遣という点で人員が不足して、このようなスケジュールとなりました。
【熊ノ郷委員】  ありがとうございます。
【永井座長】  山口委員、どうぞ。
【山口委員】  山口でございます。今日はどうもありがとうございました。
 3人の方に少しずつ質問させていただきたいんですが、まず太田さん、学部生の研究指導ということで、学生と先生方とのディスカッションの時間があるといいのではというお話があったんですけれども、例えば多くの先生とディスカッションということなのか、1人の先生と深めていきたいということなのか、どのようなディスカッションがあればプラスに転じると思われているかをお尋ねしたいと思います。
 お一人お一人のほうがいいですか。
【永井座長】  はい。どうぞ。
【太田氏】  ありがとうございます。今回先生方とのディスカッションという点につきましては、可能でしたら、研究室配属の期間中に、1人の指導教員の先生とディスカッションの時間をもっとたくさん取っていただきたいということが挙げられます。どうしても先生方と学生との間ですと、知識の差というのも大きいですし、学生から寄せられた意見として、研究と実現象とのつながりが分からないといった点や、研究の面白さをもっと伝えてほしいという意見がありましたので、そういった点につきましては、1人の先生と、より深くディスカッションできるとよいのかなと思っています。
【山口委員】  せっかく配属されているのに、そこでディスカッションする時間があまり取れなかったということですか。
【太田氏】  そうですね。研究室にもよるみたいですけれども、やはり学生としては、もっとたくさん時間を取ってほしいという意見があります。
【山口委員】  ありがとうございました。
 そうしましたら原さんにお尋ねしたいんですけれども、幾つかあるんですが、脳神経外科の研究室に配属されたとあるんですけど、これは御自身で選ばれたのか、大学からここに行きなさいという形になっているのかということをお聞きしたいことと、それから2つ目に継続できたところに、多職種による臨床研究ということが挙げられたんですけれども、多職種の例えば何に魅力を感じることができたことで、研究に対しての関心、思いが継続できたののでしょうか。そして先ほどの御質問にもあったんですけれども、昨年度と今年度でワークシェアとエフォートの配分の見直しをしたことで、研究の時間がある程度確保できたということですけれども、これはワークシェアとエフォートによって、ほかの方の研究の時間も同じように確保できたのかどうか。
 それから最後に、6年間継続的に基礎医学に触れる機会をつくってほしいというお話があったんですけど、これは全員にそういう機会があったほうがいいのか、あるいは研究に関心がある方に6年間ということがあったほうがいいのか、その辺りのお考えをお聞かせいただきたいと思います。
【原氏】  ありがとうございます。まず1点目ですが、研究室配属に関しましては、私の学部時代は、見学期間というものがありまして、コアタイムに自分が興味がある研究室を訪問して、実際にお話を聞いて選択するという、マッチングのような制度で選んでおりました。ただ現在は、大学のほうから言われた先に配属するという方法になってしまっておりまして、そういう点でも、興味のある分野と実際の配属先が異なってしまうというところで、少し学生さんのモチベーションが低下しているのかなと思っております。
 2点目が多職種ですね。特に超音波センターというところをローテーションした際に、エコー超音波センターなんですけれども、検査技師さんが研究項目の測定などを積極的に行って、どんどん学会発表をしているというような状況がありました。それに対する上級医の指導というものも非常に熱心で、本当にチームプレーとして研究を行っているようなセンターだったというのが、もし自分がそこで働いた場合に、そういう環境で診療しながら研究も同時に行えるというのは、非常に魅力的に映りました。
 3つ目がワークシェアだと思うんですが、これに関しては、私は卒後9年目なんですが、同学年がもう一人おりまして、その者は教育のほうがモチベーションが高いということがあったので、その同期には教育を担当してもらって、私は研究という、2人が診療科のそれぞれの業務をこなしていくような働き方をしましたので、同期に関しては、ほぼ研究の時間は取れていないという状況になってしまっております。
 最後が……。
【山口委員】  6年間継続する。
【原氏】  ありがとうございます。6年間継続すると、私の考えですと、興味のない学生さんにも平等にそういった機会を持ってもらうことで、より伸び代というか、研究に興味を持つ学生さんが増えてくれるのではないかというふうに思っております。
【山口委員】  興味がなくてもどこかの時点で、あっと興味を持つような可能性があるんじゃないかということですか。
【原氏】  そうですね。私自身がもともとは基礎研究に進むんだと思っていたんですが、そういう研究室配属をきっかけに、臨床研究医というものを魅力的に感じたということがありますので、何かきっかけを増やせば、そういう研究者を目指してくれる方も増えるのではないかと思っております。
【山口委員】  ありがとうございました。
 最後に本間さんに1つだけ、異分野(工学系)との研究協力体制の構築ということで、何かとても今までにないものが得られたというお話がございましたけれども、どういう点がこれまで医学の方たちとやっているだけでは得られなかったことで、それがなぜ実現したのかということをお聞きしたいと思います。
【本間氏】  申し訳ありません。電波が少し悪くて途切れてしまったんですが、工学系との研究においてどういう点がよかったかということでよろしいでしょうか。
【山口委員】  これまで医学系だけと一緒にやっていたのではできなかったことで、どんなことができたのかということと、それがなぜ実現できたのかをお聞かせいただきたいと思います。
【本間氏】  ありがとうございます。私は音響工学を活用して、より安全に手術を行うということをちょっと取り組んでいるんですが、音を解析するということに関して、工学系の中でやっぱり専門家がいらっしゃるんです。何とか自分で本を読んだり勉強したりして進めていたんです。で、幾つかの論文は書けていたんですが、そこはやっぱり音響工学の方とディスカッションしたりとか、あとはデータサイエンスの人たちもチームに加わることによって、やはりこの医療系、医学系だけじゃ到底いけない知識の大きな差があったので、そこはサポートいただきました。
 何でそれができるようなったかというと、自分がいろいろな情報収集をして、研究を一緒にやってくださいとお願いしたということも半分あるんですが、1つはJSTのマッチングプランナーという、研究者同士を引き合わせるような、お見合いみたいなシステムを大学として活用させていただいて、そこでつながって共同研究体制がスタートしました。
 ただ、そういうことをするまでは、そんなことがあることも知らなかったので、やはりそういったものがより広くみんなに周知されて、みんながそういうことにアクセスできるようになるといいんじゃないかなというふうには感じております。
 以上です。
【山口委員】  どうもありがとうございました。
【永井座長】  田中委員、どうぞ。
【田中(雄)委員】  太田さんも原先生も本当にありがとうございました。ちょっと私は本間先生に、時間も限られているのでお伺いしたいのですけど、本間先生は科研費を随分一生懸命取っておられて、もう敬服する次第ですが、科研費って御自分の給料に充てることも、一部ですけどできますよね。
 それからバイアウトといって、ほかの人にお金を払って、例えば先生の研究、あるいは教育の部分を手伝ってもらったりすることもできるようになっていると思うのですが、原先生がおっしゃったみたいに、大学によっては人があまりいないところもあって、なかなかそれは難しいかもしれないですけど、順天堂大学は結構潤沢に人がいらっしゃる大学なので、そういうバイアウトとかいうことはやっていらっしゃらないのですか。
【本間氏】  御質問ありがとうございます。バイアウトは、今ちょっとまだ当学では実施していないようで、私もそういうことができないかということを、今いろいろ相談している段階ではありますが、理由はちょっと詳しく私は分からないんですが、現状ではやっていないという状況です。確かにそういった形ができて、多様性が生まれてくると、やはりそういう研究費用を取ってやる体制づくりは、より強固なものになっていくのかなというふうには思っております。ありがとうございます。
【田中(雄)委員】  例えば原先生のような方々が、やっぱり輝いていっていただくことが望ましいと。そうすると、ぜひ本間先生には、診療、研究を両立する大谷選手路線で行っていただきたいと思うので、例えば研究費から先生の給料に入れることは、決して悪いことではないと思うのです。ほかの人たちから見て、こんなに安い給料で本間先生は頑張っているんだというのはかえって好ましくないので、ぜひお考えというか、検討していただければありがたいと思います。
【本間氏】  どうもありがとうございます。
【永井座長】  ほかにいかがでしょうか。
 岡部委員、どうぞ。
【岡部委員】  3人の方、御発表ありがとうございました。大変参考になる御意見だったと思います。
 太田さんの話の中で、先輩が海外の大学院に興味を示すと言われていて、それは私もすごく最近感じているんです。
 医学部の学生が最後の学年に研究の成果を発表する機会があって、そのときに、この人はすごく優秀だなと思う学生さんに聞くと、私は海外に行きますみたいなことを言われることが多くて、だんだん頭脳流出というんでしょうか、日本の一番研究意欲を持って能力もある医学生が、大学院ではもう海外のほうが待遇もいいし、研究環境もいいので、そっちに行ってしまって、一旦行ったら多分あまり戻ってこないんじゃないかなという気もしています。
 だからそれは、その方の能力を生かすという意味では非常にいいことであるという一面もありますけれども、逆に日本の国自体のことを考えると、そういう方が戻ってこないでずっと向こうに行ってしまって、アメリカ、ヨーロッパの科学研究を支える人になってしまうというのは、ちょっともどかしいところもあるので、何とかできればなと思っています。
 あともう一つは、しばらく前に民間の財団のほうで若手の女性の研究者の方に、そういう財団の助成で何をしてほしいですかということを聞いたんです。そうしたらいろんな興味ある答えが返ってきて、ベビーシッターを雇うお金に充てたいというようなことを言われた方も結構多かったんです。
 ちょっと3人の方に、御自分のライフステージみたいなことも考えて、非常にフレキシブルにいろんなお金が使えるんであれば、どういうことを希望するのかということを、もし意見があれば教えていただけますか。どなたでもいいので。
【原氏】  では私から。おっしゃっていただいたライフステージという問題は、まさに私も今直面しておりまして、恐らく家庭を持って子供ができた場合、もう今のスタイルで研究を続けるということはできなくなってしまうなと思っています。まだ研究も診療もしたい学年でありますので、そうした点でどちらを優先するのかというのは、常に葛藤している面でありますので、そうした点にサポートをいただけるのであれば、大変ありがたい支援だなというふうに感じます。
【岡部委員】  ベビーシッターを雇いたいとか、自動皿洗い機を買ってくれとか、何かいろんな御意見をいただいたので、本当にそれは切実な声なのかなと思いました。
【永井座長】  どうぞ。
【銘苅委員】  琉大病院の銘苅と申します。ありがとうございます。
 今の御質問に関連して、やっぱり私も今、女性医師が研究に没頭できる時間というものをどのようにつくっていくかということを、非常に悩みながらやっているんですけど、子供ができたとき、それから子供が病気になったとき、いろんなライフステージにおいて、もう研究をやめる、それからやはり収入が少なくて養っていけないという意味でやめてしまうということに、非常に多く直面しております。
 原先生が今おっしゃっていたように、御自分のバイトを削って、収入の減った状況で研究に没頭するというのは、やはり今後、長期的なサステーナブルな自分のライフであったり研究ということを考えると、非常にもう危うい状況じゃないかと思うんです。
 私は先生方のような研究をしたいという方々に、じゃ、どうやってこの後キャリアパスとして与えてあげられるんだろうかということを考えると、やはりこの給与を上げる、そういった環境を整備するということしかなくて、先生方が御自分のバイトを削って研究時間をつくるということは、本当はあってはならない、もう本当に心が今痛いなと思いながら聞いておりました。なのでやはり、そういった給与という面、待遇を一番大事だと私は思っています。
 先生がもう一つすごくラッキーだったんだろうなと思ったのは、市中病院に出られたときにアカデミックな先生がいらっしゃったと。今、臨床研修制度が始まって20年たちますけれども、市中病院で、そういった大学病院に一度も属さないで上級医として勤められている先生方も、地方においてはやはり増えてきておりまして、そういった先生方の市中病院での出会いも少なくなっているところ、先生の徳島という地域におきまして、同じような状況が起きているんじゃないかなというふうに思うんですが、いかがですか。
【原氏】  ありがとうございます。御指摘いただいたとおりで、確かに中核病院に行くと、現場第一主義でずっとやってこられた先生方が大半ですので、やはり市中病院では臨床メインの業務と指導になってしまうということで、おっしゃっていただいたように、私は大変ラッキーな指導医に巡り会えたなというふうに感謝しております。
 また、バイトを削って研究費に充てた件に関しましては、おっしゃっていただいたように、これは診療科内でも賛否両論ありまして、ほかにいかんともし難い状況でしたので、それを承諾いただいたんですが、私がそういった前例をつくってしまうと、次の大学院生も同じようにしていかないといけないというような風潮ができて……。
【永井座長】  もう少し大きい声でお願いします。
【原氏】  バイト日を削るということに関しては、今後大学院生になる方にとってのデメリットにもなりますので、そこは今回限りにして、今後はもう少し継続可能な体制の見直しが必要というふうに考えております。
【銘苅委員】  ありがとうございます。
【永井座長】  金井委員、お願いします。
【金井委員】  今日、3人の学生さんと若手の先生のお話を聞いて、全く同感で、まさにもう私たちがやらなければいけない方向性だというふうに認識しています。ただ一方で、今、医学部の学生さんや若手の医師の全員がそれを望んでいるかというと、そうではない。実際に、もう大学で研究する人たちというのは、絶滅危惧品種とも言われていて、それを何とかせなあかんというので、今僕たちが委員会をやっているんだと思うんです。
 そんな中で、30%ぐらいの医学生がそういう方向で向かってくれれば、日本は安泰だと思うんですけれども、今もう1%か3%ぐらいの人しか実現できていないのが現状なんじゃないかなと。そんな中で、こういったすごいパッションのある人たちの待遇を、特別によくしない限り、多分今の若い子たちの気質からすると、根性だとかそういったことだけじゃついてこられなくて、やはり生活もあるわけだし、こういった道に行ったほうが得をするんだよ、そして日本のためになるんだよという仕組みをつくらなきゃいけないと思うんです。
 そのときにセレクションが出てくると思うんです。例えばこの特別な大学院に入るには非常に競争が激しくなって、みんなが応募するような、こういったシステムを日本はつくるべきかどうかということについてはいかがですか。もしそこに合格できなかったらその道も選べませんよと、そういうある時期の選択、試験、今の若い人たちはそういうのは容認できますか。なんかみんな右へ倣え、右へ倣えとなっていて、権利はあるけれども、そこにセレクションがあったときに、その競争に今の若い人たちはついてこられるかどうか。それについてお三方にお聞きしたいんですが。
【永井座長】  若い方、いかがでしょうか。
【太田氏】  そうですね。ちょっと私からすると、セレクションがある大学院というのは大変魅力的かなと思って。声が小さいのかな。
【金井委員】  聞こえない。
【太田氏】  私個人の私見から申しますと、そういうセレクションがある、何か特別な恵まれた大学院というのは大変魅力的で、頑張ろうかなと思ってしまうんですけれども、これが医学部生全体を代表して言っていい意見かはちょっと分からないです。すみません。
【金井委員】  そうやったらそうやったで、またみんな不満が出るんじゃないかなと。何か区別していると。
【太田氏】  そうですね。そういう意見は。実際私も入れなかったら文句を言いたくなってしまうと思いますし、セレクションのある特別な大学院をつくるにしても、そのほかの大学院についても何かしらの環境改善が必要なのかなと思います。
【原氏】  そうですね。私からは、そうして最初からふるい分けとか選別を行っていただくことのメリットとしては、やはり最後まで研究マインドを持った方がよい環境で育っていけるという点は、魅力的なのではないかと思います。実際に私も研究したいと思ってやっておりますが、やはり最近ちょっと疲労というか、健康面で懸念が出てまいりまして、この先このまま研究を続けていけるのかというのは非常に不安に思っているところがありますので、環境面の改善という点では非常に魅力的な制度ではないかと思います。
 ただ一方で、やはりキャリアプランを考える途中でそうした方向に進みたいと思う方も、一定数おられるのではないかということと、最近の学生の皆さんを見ていると、一本足打法ではいかないというか、保険を設けたいといったような、リスクマネジメントに重きを置くような学生さんが増えているように感じておりますので、そうした点で、いろいろな選択肢を与えてあげるほうが、今どきの風潮には合うのではないかということも感じております。
【永井座長】  田中委員、どうぞ。
【田中(雄)委員】  金井先生のお話は、私もどうしたものかと思うところがあって、やっぱりお金は限られていると。ただ医科歯科でも、例えば優先的に3年間ベビーシッターと研究支援を配置するという、女性用のプログラムがありますが、予算が限られている。皆さんにそれを提供したいけれど、やっぱり定員3名とかいうと、非常に明暗が出てしまいます。何か暗い雰囲気になるわけです。明るい3人と暗いたくさんみたいな。
 それでどうしたかというと、定員は設定しない。ただ専攻基準は設定しました。基準を超えた人が5人いたら5人オーケーだし、10人いたら10人オーケーだというふうにしました。そうしたら、ある年は3人しか基準を超えなかったけど、その次の年は結構みんな頑張って、10人ぐらい基準を超えて。でもそこで基準を上げたら、それはもう大変なことになるから、今年は10人オーケーしたと、そういうことはやりました。一応参考までです。
【永井座長】  ほかにいかがでしょうか。
 私の意見を申し上げさせていただくと、研究にしても臨床にしても、本当に道を極めていくためには、あまり同じところにいないほうがよいです。同じ場所にずっといて伸びる人もいますけど、それは極めて少ない。むしろ若いときはいろいろな経験をして、あるところで方向を決めて、専念する。それは育ったところではないところで、発展するのが基本と考えています。旅に出ながら勉強を重ねるのが、世界的には普通です。
 日本はそれがなかなか行われていない。今、海外へ出る留学生も減ってしまっています。若い人もそういう意欲が低下しています。また、大学も外で立派に発展した人を迎えているかというと、迎えていないですね。できる人は個性も強いし、業績があると敬遠されるという風土があります。ですから、細かい足元の問題を解決しつつ、もっと本当に大学に求められる、世界的な基準で求められる要件、すなわち自由にテーマを決めて学ぶ空気や、流動性のある人事などを、きちんとこの際提案すべきだろうと思います。
 そうした意味で、日本の大学の運営が必ずしも国際基準になっていないというのは事実だと思います。そうした状況を知らない若い人たちが、多くの悩みを抱えているように思います。ぜひ若い方々からも声を上げていただきたいし、自分たちも旅に出て学ぶという気構えを持っていただきたいと思います。
【小川委員】  そもそも論なんですけれども、大学を6年間やって、そしてついせんだって、全国医学部長病院長会議のアンケートで、助手の5%でしたっけ、15%でしたっけ、全く研究をしていないのがそのぐらいいるわけです。
 そもそも大学で、この間法制化されて、そして臨床実習、スチューデントドクターも認められ、大学における臨床実習をする医行為がちゃんと定められたわけですけれども、それで大学を6年間やって、そして今度卒業したら2年間、臨床研修に出る。そしてさらにその2年間が終わると、今度は専門医を取らなくちゃいけないといって、専門医の勉強を6年間やるわけです。
 じゃ、そういう状況の中で、人生のどこで研究ができるんですか?やっぱりそこの基本的なところを、例えば臨床研修は大学の臨床実習で似たようなことやってしまっているわけだから、もうやめるとか、どこかで時間をつくらなければ、決して研究の時間なんかできません。
【永井座長】  両方したければ、あるときは研究を集中的に行う、あるときは臨床に集中するという時間の切り分けが必要です。若い方は、臨床であれ、研究であれ一度はフロントに達しないといけないと思います。しかし臨床と研究の両立は、1人ではできません。そこで自らは若い時に研究や臨床の力をつけて、チームをつくる。若い人を集めて研究の指導をすることです。そうしたこと見据えて研究すべきだと。
【小川委員】  例えばそこの指導的な立場に立っている方々であれば、先生のおっしゃっているのはそのとおりだと思いますが。
【永井座長】  若い人はまずそれを目指すべきです。、研究をやりたければ。
【小川委員】  だけど、要するに大学を卒業して、そして学位を取る。これはどちらかというと、指導者の指導の下で時間を取って研究しなければできないわけで、そこのところの全体の時間的な問題があります。医学はそもそも生涯教育なんですけれども、生涯教育の中で、どの部分で、研究するのか、どの部分で診療技術を習練するのかということを整理しないとちょっと駄目だと思います。
【永井座長】  1つは大学院の環境を改善して、研究の最前線に立てるよう指導を受ける。そこからより研究を中心にしていくのか、臨床と研究の両立でいくのか、より臨床でいくのか、それぞれの人が自分のキャリア形成をデザインしないといけないと思います。そうした覚悟をもって旅に出る。それを奨励するように大学はコースを用意してあげるし、旅をして研鑽している若手や中堅、さらに優れたリーダーを迎え入れることです。それぞれの狭い徒弟制度の中で、貢献した人だけを採用していたら、外に出た人は戻れません。そうした仕組みは大学側が考えないといけないと思います。もっと流動性を持たせるということです。それでそれぞれに合ったところで仕事をしていく。
 みんなが全部、臨床と研究をするということはあり得ないと思います。それぞれに合った重点配分で、自分に合ったところで仕事をする。それは必ずしも育った場所ではないと思います。そういうふうに日本の大学、とくに医学部や大学病院の在り方の根本を考えないといけない。
 この点については、いろいろ御議論があろうかと思いますので、先へ行きたいと思います。
 それでは、次が大学病院における診療・経営の現状と課題について、3名の方から御意見を伺います。
 最初に、国立大学病院長会議事務局長の塩﨑英司様からお願いいたします。
【塩﨑氏】  ありがとうございます。病院長会議から参りました塩﨑と申します。長年国立大学病院の会計実務に携わってまいりました。うち、この19年ほどは、全国の財務データを見てきまして、その現状の危機感を今日はお伝えしたいというところでございます。
 では早速でございますけど、P2のグラフからです。これは法人化後の国立大学病院の病院収益です。病院運営交付金を除いた額でございます。この棒グラフが年々伸びてきているわけです。法人化直後は6,245億円、全国で病院収益がございました。そのとき法人化の際の借入金の残額が1兆円ぐらいございました。令和3年までの18年間で病院収益は1兆2,445億円になり、増加率は199%ということで、約2倍となっております。これは、法人化のメリットを活かした上で、先生方と医療者の皆様の頑張りによるのかなと思っています。一方、大変多くの借金がありましたので、もう頑張らざるを得なかったというのが実情かなと思っています。
 次のP3のデータでございますけど、前のグラフは病院の売上げだけでございましたが、病院収益から費用を除いた、つまり収支のグラフでございます。これを見ていただくと分かりますけど、平成16年から平成22年、これは実質赤字から何とか7年間で黒字になり、増収増益によって、借入金返済が、頑張って働くことで可能となった時期でございました。
 その後平成23年から令和元年の9年間の部分のグラフを見ていただきますと分かりますが、右肩が下がっております。売上げは上がっておりますけれども、この9年間は医療費率という、医薬品と材料の病院収益に対する比率、それが非常に上昇しまして、増収しても手元に残るキャッシュというのは減っていきました。増収減益となっております。こういう状況の中で令和2年のコロナに対応したわけでございます。
 また今後何が起こるかについて御説明しますと、機器更新の我慢も限界に近づいておりまして、かつ人件費率が上昇するということがこれから働き方改革で予想されますので、国立大学病院の場合は、事業継続性の危機にあると考えております。
 次のP4のグラフでございます。これは全国の国立大学病院の増収減益の原因の一つであります医療費率の変化のグラフでございます。一本一本が各大学の推移になっております。それぞれ見ていただくと分かりますけど、平成24年から令和3年の間、ほぼ全病院が右肩が上がっているのは分かると思います。多少各大学病院間でばらつきはあるんですけれども、コロナ対応にても、さらに上がっていくという状況でございました。これは本検討会の前回の資料からも、国立大学だけではなくて、この傾向というのは公立、私立でも同じだと思っています。
 この原因の一つでございますけれども、これは皆さんも御承知のとおり、医薬品の使用金額が増えているというところでございます。次のP5のグラフは国立大学病院の医薬品を全国集計したものでございまして、1本または1単位が10万円以上するような高額の薬品というのが、このオレンジ色の部分でございます。これが年々比率も金額も増加しております。この事が医療費率が上がっている原因であると考えております。なお、このデータにおける薬品日は請求額ベースですので、購入額における値引きは影響しておりません。
 この医療費率の増加と反比例する形で、全国の国立大学病院の機器資産の減価償却後の価値(残存価値)がどんどん落ちている。つまり資産の現在価値が落ちている事が次のP6のグラフで確認できます。これも全大学病院のデータを重ねております。病院の再開発の時期に入った病院というのは、それまで辛抱してきた資産を新たな借入れによって整備しておりますので、一時的に上昇しておりますけれども、全体として機器の更新が遅れて価値がどんどん落ちているということが、このグラフで分かるところでございます。
 次のP7のグラフは、全国42大学の資産台帳を集計したものです。機器資産の取得価格、つまり買ったときの価格帯別に、耐用年数をどの程度超過しているのかをグラフにしております。
 赤い棒グラフが1億円以上で購入した資産、紫の棒グラフが5,000万から1億円の資産です、左から5つのグループに分かれています。その機器を買ったときの値段が、耐用年数プラス3年未満、例えば5、6年の耐用年数の医療機器だとすると、プラス3年ですから、8年から9年ぐらい使っているものが左端5本の棒グラフのグループ、その右の次のグループはさらに3年から5年、5年から7年というふうに、耐用年数をどれぐらい超過しているかというのが、それぞれのグループになっております。
 ちなみに耐用年数5年以上のところというのは、大体医療機器の耐用年数は5年から6年でございますので、耐用年数の約倍使っているという事になりますが、倍以上使っているグループを合計しますと、右上に集計していますけれども、3グループで2,945億円となっております。
 次のP8このような機器が取得価格帯別にどのぐらいの価値が残っているかを価格帯別に表しているのが、左上のグラフでございます。取得価格帯別の価値の残存率でございます。これを見ていただくと分かりますように、一番価値が残っているというのは、1億円以上の資産となっております。それ以下の資産はかなり低くなっております。少額になるほど低くなっているのが確認できます。高額機器が多少老朽化していないのは借入れによる機器更新ができますので、少し価値が残っているかなと考えます。このように、少額な機器をなかなか更新できていないという状況が確認できます。
 なお、同じP8の下のグラフは、これは資産ではないんですけれども、少額備品と言われるような、シリンジポンプとか輸液ポンプの老朽化状況でございます。これは平成30年の8月に調査いたしました。大体13年以上たっているような、次に故障すると修理不能の状態になっているシリンジポンプ、輸液力ポンプというのが、全国の大学病院の中では6.8%、5.6%あるということです。台数が多いので、それぞれ壊れたら更新する傾向になっているようです。全体としては非常に老朽化しておりまして、メーカーも機器の安全性を非常に心配しているところでございます。
 次のP9のグラフは、この様な状況の中、平成24年から令和3年の10年間、この青い棒グラフのところが取得価格、つまり買ったときの値段でございますけれども、それに対してオレンジが減価償却累計額、つまりどれだけ資産が老朽化しているか、この差分が、残存価値として資産計上されているわけです。
 各大学病院とも法人化以降に病院機能を増強し、かつ在院日数を短縮して、非常に高回転で運営するために、ICUとかオペ室を増室してまいりました。結果として、資産取得価格全体は増加しておりますけれども、インフラとして整備すべき機器の更新自体は追いつかないという状況が確認できます。このように一部の機能強化を図りつつも全体として機器の老朽化が進行しておりますので、機器資産全体の残存価値が低下しているところでございます。
 今後の予測として単純計算ではありますが、この状況が10年ぐらい続きますと、現状24%ぐらいしか資産価値が残っていないものが、19%にまで低下すると考えられます。こうなってしまうと病院の安全な運営は困難になると考えますが、現在一部の大学では、既に19%になっております。
 さて、P10はこのような財政状況を、分かりやすくイラストにしてみました。家計に例えると、左上にありますとおり、法人化前病院の建物の借入金は借入金で購入した家のローンに例えています。また大型医療機器の借入金。これは借入金で購入した車のローンを払っていることになります。この大きなローンをハードワークで先生たちに頑張っていただいて払っていただいてきました。先ほど若手の先生たちのお話にもありましたけれども、診療のハードワークの中の少ない時間で研究、研さんを続けてきてくださったというのが、まさに平成16年から平成22年の売上げ拡大による借金返済が可能だった時期でございます。
 その次のP11もまたイラストですが、平成23年からは、医療費率が上昇した状況で、家計に例えますと生活費が大きく膨れ上がってしまって、結果として、増収減益になっています。収入は増えますが、それ以上に生活費(医療費率)が増えるため手元にお金が残らないという状況が続いております。
 家のローンと車のローンはかなり減ってまいりましたけれども、あ新しく増えた借金も残っておりますので、イラストにありますような現金一括で買ったはずの大型家電(借入金以外の医療機器)、こういったものを更新するために用意しておいた貯金の減価償却費、この内部留保のお金である貯金を切り崩すことによって、更新を先送りして、家と車のローンの支払いに充てているという状況です。以上のように、機器の更新を遅らせながら借金を払っているという状況が平成23年度から現在まで続いております。
 さてこのような中で、各国立大学病院も自助努力をしてきております。次のP12は42大学の各大学病院において、統一的な共通ルールに基づく原価計算システムを導入しております。(HOMAS2)このシステムを平成28年から共同利用のサーバー上に構築しまして、各大学病院間の比較を行う事で各病院が収支を改善してまいりました。この結果44億円の収支の改善はできたところでございます。
 また次のP13は、費用の削減として、医療用の消耗品と少額機器の共同調達を進めてまいりまして、これも両方で18億円は削減したところでございます。
 このような国立大学病院の共同調達活動を、パブリックのほかの機関も一緒にやりたいというお話をいただきまして、P14のように令和5年からは、独立行政法人の地域医療機能推進機構(JCHO)と、東京都立病院の皆さんと一緒になって、3団体、111病院で一緒に取り組もうじゃないかというところまで、今来ているところでございます。
 次のP15の図はベッドについてですが、ベッドのような少額機材でも台数が多いので、一台一台は非常に安いですけれども、更新が遅れておりました。ベッドについてはリサイクル事業をしておりまして、中古部品のリサイクルをやっております。それプラス、ベッドの機種も限定しまして、4機種ぐらいに絞って経済的に更新をしてまいりました。
 しかし、残念ながら各大学病院の状経営況がいろいろ違いますので、次のP16のグラフは青いところが新しいベッド、それから赤いところが古いベッドでございまして、かなり全国的にばらつきがあるところでございます。こんな中で各大学病院が努力をしてきたところでございます。
 ほかにもP17のようにクラウド上でAIレセチェッカーを動かしています。これは例えば、医事請求の一部などは各大学共通でできますので、AIクラウド化したシステムの共同運用を始めているところでございます。
 このような形で色々努力をしてきましたけれども、経営は厳しい状況です。次のP18のグラフは、他の医療機関と国立大学病院の費用が病院全体の収益に対してどれぐらいの比率になっているかを比較したものでございます。この元データは医療経済実態調査から引用していますが、医療経済実態調査との違いは、病院収益に対してではなくその他収益も加えた病院全体の収益を分母にした比率です。左端のグラフが医療法人、そして次が国立系、次が公立系、そして右端が国立大学病院でございます。
 濃いオレンジのところを見ていただくと分かりますけれども、ほかの機関に比べ国立大学病院の人件費の比率が非常に低いところです。人件費が低いので、材料費と医薬品費である薄いオレンジの部分がそれぞれ12.9%、22.1%ということで、ほかの期間よりも多く使っているというところでございます。人件費が低かったので、こういう医療費率でも耐えられたところでございます。このデータが示すとおり他機関に比べると人件費が低かったので医療費率が高くても運営できたのですが、いよいよ働き方改革で人件費の上昇が見込まれこれからの経営は極めて厳しい局面に差し掛かかると思っています。
 次のP19も簡単なイラストにまとめましたけれども、上半分のように今まで大学病院の医療者の皆さんに献身的に頑張っていただきまして、教育・研究と高難度医療の実践で、大学病院に人が集まっている状況はまだ残っていると考えます。その結果、地域中核病院と医師不足の医療機関などに、医師派遣を行ってきました。
 残念ながら、もしもこの大学病院の魅力が失われていくと、下半分のように当然大学病院に戻ってくる医師たちが減ってきます。その方々の一部が自由診療等に経済的な動機から、動いてしまうのではないかと心配しています。また、さらにそういう医師の転職のエージェントの方々も非常に多く活動されていますので、それは結果としまして、地域の中核病院などの医師確保経費の負担増につながるのではないかと心配しています。そういう意味で、大学病院が元気で頑張っていくことが、実は地域医療を守ることに繋がるのではないか思っております。
 さて、具体として、どういうふうにすれば大学病院が魅力ある存在になるかという事を財務的に幾つか御提案させていただければと思っています。
 まず、P20の第1点目でございます。このように国立大学病院が事業継続性の危機があったにもかかわらず、それがこれまで見えてこないというところが、一つ大きな問題だと思っています。国立大学病院の事業継続性を検証する財務データが今はありません。現在、国立大学病院は単年度の損益だけが決算に出ています。複数年の経営の結果が確認できる指標がないため、現在の経営状況が確認できません。病院の資産と負債だけは現在も決算に計上されていますので、資金と純資産の病院分の区分ができれば、実は病院のBS情報は見える化が可能だと思っています。BS情報が確認できることで複数年の損益の結果現在がどうなっているかが確認できます。
 では実際にどうやって進めるかということでございますけれども、P21のように、これも3つのステップに分ければ実現できると思っています。
 まず第1番目に、今、国立大学法人の決算資料であります事業報告書に、監査対象外として、大学病院のセグメントにおける収支の状況というのが開示されております。これはあくまでも監査対象外ではございますけれども、損益だけではなくて、キャッシュフローが分かるようになっています。これと同じような形で計上するために、病院の資金と純資産を区分できれば、事業報告書の一部に、監査対象外として、BS的な情報が見える化できるのではないかと思っています。
 本検討会の下部、または別途ワーキングをぜひ設けていただきまして、検討することを御提案したいと思っています。検討メンバーとしては大学病院の実務者と、公会計の会計士の皆様、文部科学省の担当者の皆様、そして大学改革支援・学位授与機構、これはお金を貸している側ですから、一緒になって考えていけば、合理的な基準を作り区分もできるのではないかと考えています。
 P22の第2ステップでは、事業報告書を基に、各大学病院が本当に事業継続性を担保できているかを指標化してはどうかと考えます。この指標を確認できるようになれば、次のステップは、現在の国立大学法人の決算書の中にセグメント情報という病院の情報がございますけれども、その中に病院のキャッシュフローとBSを追記するということができると考えています。
 最終の第3ステップでございますけれども、大学病院が本当に財務的に自立して運営できているかどうか、このことを大学の全体の中に別項目として表示する事を御提案したい。結局大学病院の財務的自立性が高まるということは、健全な大学病院経営ができますので、それはかえって全学にとってもいい結果になると考えます。
 続いてP23の2つ目の提案でございますけれども、今までの大学運営の延長では、このままではどうにもならないと考えています。今後の大学病院経営は抜本的な改革が必要だと考えます。本検討会において、経営手法の改革に係る指針を、ぜひご検討いただきたいと考えます。
 アカデミックなポストの制約や、診療と教育研究を評価できる新しい給与制度とか、新しい多様な職種に対する対応とか色々とございますけれども、ぜひそういうことも御検討いただいて、社会に発信していただければありがたいと思っています。
 最後P24でございます。まずは今直面している危機についてです。
 働き方改革と機器更新の財政措置をどうするかということが喫緊の課題と考えております。医師の働き方改革スタート直後に、制度としてはスタートできても、財源的につまずくのではないかということを、我々は非常に危険視しております。医師の派遣機能というのは働き方改革の準備の中で定量化できるようになりましたので、ぜひ財政措置はしっかり考えて頂きたいと考えています。
 それともう一つ、魅力ある大学病院のためにも、老朽化している機器の更新をぜひ支援する仕組みをつくっていただければと思っています。
 以上、私からの御報告でございます。ぜひ大学病院の発展のために、この検討会で、御議論していただければと思っています。
 以上でございます。ありがとうございました。
【永井座長】  ありがとうございました。
 では続いて、熊本大学病院長、馬場秀夫先生からお願いいたします。
【馬場氏】  それでは、私は熊本大学の診療と経営の現状、並びに課題について説明させていただきます。まずこのような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
 まず大学病院の概要について御説明いたします。病床数845床、診療科33診療科、職員が2,130名、年間の外来延べ患者数35万3,000人、入院が24万6,000人といった構成になっております。
 今日お話ししますのは、この4項目、1番目は地域連携、2番目が医療計画、地域医療構想、3番目が病院経営の課題、収支改善に向けた取組、4番目に大学病院としての魅力を高める取組、この4点でございます。
 まず地域連携であります。熊本の医療事情を申しますと、やはり少子高齢化。65歳以上の高齢化率はもう32%でありまして、全国平均を3%上回っております。熊本の人口171万人、そのうち熊本市に住む人口が74万人で、かなりの部分が熊本市に住んでいるということになります。
 熊本大学病院の周辺には、国立病院機構、済生会、日赤、市民病院等の中規模の病院が密集しておりまして、県内の急性期入院の約46%、これが熊本市等に入院しているという状況であります。
 熊本大学病院に、県内のどのような地区から入院、あるいは外来患者が来ているかということでありますが、熊本市等から来る入院・外来患者が約半数でありまして、あとは県内全域からほぼいろんな患者さんが来るという状況になっております。
 熊本市の医療事情を見ますと、人口10万人当たり、熊本市内が428名、熊本市外が199名、いわゆる2倍の開きがありまして、地域へ医師を派遣しないと地域医療が維持できないという状況にあります。地域から医師を派遣してほしいという申請が284機関ありまして、約600名の医師を派遣しているという状況でありまして、例えば熊本市から3時間かかるような牛深市民病院、こういうところにも兼業先として医師が派遣されている状況であります。
 このままでは、10年後の地域医療を支える若手・中堅医師の確保が困難であるということから、熊本県が地域医療連携ネットワーク実践学寄附講座という寄附講座をつくってくれまして、そこに特任教員を24名配置し、このような方々が地域医療拠点病院へネットワーク推進医として派遣されることで、地域医療を守っているという状況であります。
 医師派遣の実情でございますが、この地域医療連携ネットワーク実践学寄附講座に配属されている教員が、このような県内のいろんな医療機関に派遣されているという実情を示しております。
 地域の病院と協力して診療の調整等を行っている、その具体例についてということでしたので、私どもはくまもとメディカルネットワークというのを推進しております。これは熊本県、熊本県医師会、大学病院が中心となりまして、様々な画像診断、あるいは診療情報提供を共有化するというシステムであります。病院、かかりつけ医、あるいは在宅担当医、薬局、介護施設、訪問看護ステーション等をネットワークでつなぎまして、情報を共有するシステムが確立しております。県内のKMNに参加するということを同意していただいた患者さんが、もう既に10万人を超えております。
 その一例を示しますと、ある病院から大学病院に救急患者が搬送される。そうしますと、その患者さんの画像、あるいは診療情報がKMNを通じて送られてきますので、患者さんが到着する前に情報共有できて、到着されましたらすぐに治療ができるという体制を確立しております。
 また脳卒中・心臓病等総合支援センターを設置しております。これは令和4年度に厚生労働省のモデル事業の認定を受けた12施設の一つとして、大学病院にこのようなセンターを設置しております。
 また神経難病センターも設置して、診断、教育、情報共有ということで、地域の様々な施設と連携しております。
 また、がんゲノム医療拠点として体制整備を進めておりまして、ゲノム医療が推進できる体制を構築しております。
 続きまして、医療計画、地域医療構想を踏まえた取組について御説明いたします。
 第8次医療計画で検討されている内容を示しておりますが、5疾病・6事業の感染症のこととか、働き方改革、あるいは外来医療計画について御説明いたします。
 まず、医師の働き方改革を達成するためにこれまで行ってきた取組をここに示しております。
 丸1、働き方改革の理解を促進し、意識改革をするということであります。トップマネジメント研修によって管理者の意識改革をする、あるいは制度概要、自己研さん等について、各種会議体、あるいは全職員向けのビデオメッセージによって情報を発信し、教育・啓発をしている。院内外のホームページで働き方改革に関する情報を掲載している。
 2番目、労務管理の徹底でございます。兼業も含めた時間外労働時間の把握、宿日直許可に向けた進捗の確認。特に兼業先には宿日直許可を取ってもらうように働きかけております。また、Dr.JOYを用いた医師用の勤怠管理システムを導入して実践しているということであります。
 労働時間短縮に向けた取組でありますが、主治医制からチーム制に変える。Microsoft Teamsを用いた情報共有システムを確立しております。患者説明の勤務時間内の実施を、ポスター、あるいはホームページで公開して進めております。タスク・シフトシェアを推進する。AIを活用して読影時間などの効率化を図る。女性医師がさらに参画しやすい支援体制を構築する。検査・治療に関する説明用の資材をつくって説明時間を短縮する。医師事務作業補助者を増員し、また看護補助者の増員のために、大幅な処遇改善を行いました。各種の手当を創設しております。
 医師の労働時間短縮計画でありますが、令和5年1月には、令和6年度の医師労働時間短縮計画を策定しております。3月には、医療機関勤務環境評価センターに、連携B等の評価の申請をしております。4月にその資料を提出しているということで、今後県からそれが認定されるのを待っている状況であります。
 給与問題が1つございまして、例えばこれは当院の初期臨床研修医、あるいは医員の給与であります。年額であります。ところが同じ県内でも、某自治体の病院ではこれぐらい給与が違いまして、200万以上の格差がある。さらに上級医ではこの格差が大きくなるというところが問題でありまして、今後、医師の働き方改革が始まったときに、どこまでこの給与格差を是正できるか、これも大学に医師が残ってもらうために取り組むべき課題と考えております。
 働き方改革に向けた処遇改善でありますが、緊急手術等の手当を新設しております。特定行為看護師には月5,000円等を新設しております。看護補助者の単価を上げまして、またフルタイム化を進めております。医師事務作業補助者も手当を支給するようにいたしました。
 また働き方改革に向けて、各職種の増員を図っております。
 来年4月以降の働き方改革が実践されましたときの課題を幾つかリストアップしております。
 まず働き方改革の理解推進ということで、勤務間インターバル確保、面接指導などを確実に実施するために、管理者及び異動者を含む構成員への継続的な理解促進、意識改革が必要と思っております。
 医師の派遣の継続でありますが、宿日直許可を取得していない医療機関への派遣が困難になってくる可能性が懸念されます。
 地域医療への影響。地域への医師派遣が減少しますと、安定した医療体制が組めない地域が出てくる可能性があります。
 医師の収入が減少するということで、大学を離れる医師が一定数出てくる可能性もある。
 大学病院の医師の確保。限られた時間でハードな業務を行っておりますが、やはり民間、あるいは国立病院との賃金格差が広がって、大学離れが懸念されるというところであります。
 研究・教育の時間の確保も、労働時間の上限規制によりまして、研究・教育に割くことのできる時間が減少することが懸念されるということであります。
 続きまして、病院経営の課題及び収支改善に向けた取組であります。
 ここに病院経営上の課題がどういうものがあるかということをまとめております。人口減少、地域医療再編、地域貢献・社会貢献、医療の高度化、働き方改革、政府予算の抑制、社会保障費の抑制、それによる影響、改善指標、そして具体的にどういう戦略を立てるかということでまとめておりますが、医療連携体制の強化、2番目、県や市と医療政策の連携をする、それから医療人育成機能の強化を図る、効率的な業務改革をする、財務活動も改善するということで、具体的な戦略を立てております。
 大学病院における経営指標を見てみますと、先ほど説明がありましたように、増収でありますが減益でありまして、その理由は医療費率が年々上がっております。現在、私どものところで44.1%に対して、人件費比率は38.8%に減少しております。医療費率が増加し、増収減益というのは、これは全国の大学病院が抱えている問題かと思っております。
 ここで医業収益(稼働額)の内訳を見ますと、医療費、これは医薬品費と診療材料費が含まれます。これを引いた残りを粗利として出しますと、年々増収でありますが、この粗利の率がどんどん低下してきている。粗利が減少することによりまして人件費が賄えず、新たな設備投資もできないというところであります。
 稼働率増加に向けた取組として、職員の意識改革です。これは病院長からのメッセージを動画で全職員に配信しております。病院長から診療科長へ直接メールを送付して、いろんな情報を伝えております。経営改善の必要性を説いております。
 目標設定をしておりまして、病床稼働率、通年で90%、日曜は80%。年度初めや長期休暇、特にゴールデンウイークなどのときの具体的な目標設定をしております。
 仕組みづくりとして、地域の連携、それからインセンティブを効果的に設定しております。病床の効率的な運用もしております。
 これが職員の意識改革で、病院長からのメッセージということで、様々なメッセージを定期的に出しているところであります。
 私はこの時点で病院長に就任しておりますが、全国平均の稼働率、そして当院の稼働率の経年的な推移を示しております。稼働率が上がってきているということを示しております。
 それからゴールデンウイークとかは稼働率が下がりますが、どれぐらいを保つと年間の目標値に到達するかを、日ごとに追ってシミュレーションしております。目標のイメージが青いラインでありまして、実際の稼働率を赤で示しておりますが、ほぼほぼ目標達成ができているという状況であります。
 経営改善に対して様々なインセンティブを設定しております。診療実績に対するインセンティブ、これは各診療科の新規入院患者数、あるいは1日当たりの入院延べ患者数、DPC2期以内の退院率、クリニカルパス利用率、粗利額等を評価しまして、順位を1位からつけまして、上位10診療科には額を変えながら手当てをしております。
 それからICU、救急外来の医師を配置してくれた診療科にも予算をつけております。
 それから病棟の看護師です。これもそれぞれの病棟ごとに、稼働率ですとか、DPC2期の割合とか、重症度、医療・看護必要度、空床利用による受入れとか、他科への応援実績等を評価しまして、一定額の予算をつけております。
 さらに、各部署における業務効率化による生産性の改善、あるいは勤務環境の改善のために、外部コンサルタントを導入いたしまして、客観的な評価をしていただいております。
 まず最初にリハビリテーション部にコンサルを導入いたしました。そうしますと、療法士1人1日当たりの単位が上がってきております。これは額はあまり大したことはありませんが、1、620万ぐらいの増収見込み。現在、中央検査部、中央放射線部、外来診療業務にコンサルを導入しまして、より効率的な診療ができる体制を構築するようにしております。
 さらにスマートフォン受付を導入しまして、待ち時間を少なくするという取組をしております。スマホで受付しまして、時間が来たら真っすぐ診察室に行く。そして診療が終わったら、支払いをせずに真っすぐ帰る。待ち時間を大幅に縮減するという取組を進めるようにしております。
 ここは非常に強調したいところでありますが、債務償還費、それから施設の更新費用、医療機器の更新費用と、3つに分けて熊本大学の現状を御紹介いたします。
 建物に対する債務償還がまだたくさんありまして、現在約26億円ずつ払っておりますが、経年的にこれは減少していきますけど、向こう10年、平均しますと年間15億円の支払いが出てまいります。それから空調設備などの更新費用。これは向こう10年で毎年5億円が必要であります。それから医療機器の更新、これは向こう10年で年平均21億円必要。そうしますと、単年度当たり41億円の費用が必要ということで、エネルギー高騰の影響もありまして、今後も厳しい経営環境が続くということから、この予算確保が非常に大きな課題でございます。
 大学本部との連携について示しますと、大学本部に対して病院側の経営状況を随時報告しまして、情報共有を図っております。
 そして資金の相互有効活用ということで、大学本部の目的積立金から貸付けを受けることで、利息なしで様々な機器の導入等をしております。
 それから雇用条件の制限、これが課題でありまして、病院経営に必要な人員を確保するために、雇用条件が大学で職種ごとに共通なため、病院独自の条件で求人することができない。これが大きな課題と考えております。
 大学病院の魅力を高めるための当院の取組について、最後、御説明させていただきます。
 1つは、働き方改革が始まりますと、特に教育・研究力が落ちるということで、私は病院長になりまして、熊本大学病院研究活性化プロジェクトというのを始めました。このプロジェクトには約3年間で3億の予算を確保しております。臨床・基礎・異分野融合共同研究を活性化するということで、昨年度は9課題を支援しました。今年はまた9課題。単年度1,000万ぐらいですから、基盤A相当の費用を連続3年ぐらい、まず予算をつけるということにしております。
 それから若手研究者活性化事業。これは40歳未満の方に対して、年間、昨年度は100万、今年度は150万、大体基盤C相当を20課題ぐらい採択するということで審査を行いました。昨年は16課題、現在、令和5年度は審査中であります。
 それから若手研究者科研費再挑戦支援事業。科研費に申請したけれども惜しくも落ちてしまったという方には、次の科研費を取ってもらうために、単年度50万円を上限に研究費を支援している。
 それから教育支援事業として、臨床実習、あるいは初期臨床研修の教育にもお金がかかりますので、これも申請していただいた方に対してはお金をつけるということで臨んでおります。
 こういうことをしながら論文を増やし、インパクトファクターの高いジャーナルへの投稿、異分野融合の共同研究を推進する、そして外部資金を獲得するということにつなげていきたいと考えております。
 昨年7月からバイオバンクセンターを設置しまして、様々な検体を確保しております。こういうことによって、学内外の異分野統合共同研究を増加させる、企業との共同研究を増加させる、研究者主導の多施設共同研究を推進するという取組を行っております。
 それから低侵襲、遠隔医療トレーニングセンターというのを設置いたしました。高齢化に伴う低侵襲医療ニーズの増加への対応、あるいは、地域間医療格差のない高い医療水準の確保を目指して、将来的なAIを活用した遠隔医療及び低侵襲医療の充実を図ることを目的として、環境整備をしまして、そこに人をつけるということで、教育システムを構築しているところであります。
 さらに感染症対応としまして、熊本県、熊本市からそれぞれ1つずつ寄附講座をつくってもらいまして、感染症に対応できる医師を育成しているという取組をしております。
 これは最後のスライドになりますが、これまで文科省にもいろいろ御協力いただきまして、病院の再開発事業が終了いたしました。この間お世話になりましたことにお礼申し上げまして、私の発表とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。
【永井座長】  どうもありがとうございました。
 それでは最後に、東邦大学名誉教授、小山信彌先生、よろしくお願いいたします。
【小山氏】  日本私立医科大学協会の小山と申します。よろしくお願いします。本日はこのような機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。今のお二人の発表は、非常に上品な発表だというふうに私は考えておりまして、ちょっとこれからは、私の意に反するところなんですけれども、品のない、あらあらな数字をお見せして、大学病院がいかに苦労しているかということのお話をさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。
 まず、私の出身である東邦大学医学部の現状と課題についてお話をさせていただき、その後、私立医科大学全体の現状と課題についてお話をさせていただきます。
 まず、東邦大学医療センター大森病院でありますけれども、総ベッド数916、医師数は497名ということでもって、3次救急センターを持っている病院で、COVID-19、あるいは妊婦・透析などの特殊な症例をやっております。さらに地域医療機関への医師の派遣とか、あるいは病理のこととかいろいろやっております。さらにCOVID-19に関しましては、PCRセンターをつくったり、あるいはワクチン業務の地域派遣をしたり、酸素ステーションへの医師派遣等をしております。そして教育とすると、医薬理看の4つのオプションに対する教育を行っております。
 このような外部評価を受けまして、病院の中をすっきりさせているわけですけれども、これを取る目的は何かというと、1つは病院としての質を担保するということ、もう一つは、これを取ることによって、職員同士の横のつながりが出てくることになりますので、そういった意味でも非常に有意義であるというふうに思っております。
 これが大変生々しい数字でありますけれども、これは皆さんの手元には資料としてちょっと配っておりませんが、スライドだけで示させていただきたいと思います。
 まず収入で、外来診療のところでありますけれども、1日の外来患者数は大体2,000人前後、診療単価が大体2万1,000円ぐらい、紹介割合が87.3%で、逆紹介率が、いわゆる新しい計算方法で48.2‰ということであります。
 コロナ患者は約650から700人ぐらいの患者を診ております。入院診療のほうは916ベッドが稼働しておりまして、病床の稼働率は81.2%でもって、平均在院日数11.3日、診療単価は8万7,000円ということなので、ちょっと9万円には届いていないところであります。手術件数は1万1,000件でありますけれども、このうち大体6,000件から7,000件くらいは全身麻酔の手術であります。救急車のほうは、救急患者を救急車で大体5,000台前後引き受けております。
 それに対して医業収入でありますけれども、375億5,500万ということであります。それに対して支出は361億3,800万ということでもって、その差は14億1,700万、パーセンテージで3.77%というような数値でありました。この中には当然、その横にありますコロナでの包括支援金が入っておりますけど、約11億円がこの中に入っております。
 来年困るのは、その下にあります光熱費でありますけれども、光熱費は恐らく、今年でもう4割近く上がっているんですが、来年はさらに5割以上の値上げになってくるということでもって、病院に対する運営上の非常に大きな問題になってくるんだというふうに考えております。
 外来診療の変化ですけど、ここ5年間ぐらい見てみますと、やはりコロナでぽんと10%ぐらい落ちたんですけれども、ようやくこの2年、2022年、2023年にかけて、5%ぐらい回復してきているという状況であります。
 平均単価、これが上がってきている理由は、軽症例の受診控えでもって、軽症例の患者さんが減ってきて、化学療法を外来でやっていますので、そのために上がってきているような状況であります。
 それから1日の入院患者数は、やはりコロナ前に比べるとかなり落ちております。これがまだ2022年、23年になっても戻ってきておりません。それから診療単価のほうは、今お話ししたような理由で患者数が減っておりますが、軽症例の患者さんがいなくなりましたので、診療単価とすれば上がっております。稼働率も1回下がって、ちょっと持ち直したんですけど、まだ完全に元へ戻っていない。平均在院日数は少し下降傾向というような結果でありました。
 コロナ後の回復しない救急車の受け入れでありますけれども、一番多いときはやっぱり7,000台近く受けていたんですが、今は大体5,000台ちょっと割るぐらいの状況にあります。
 紹介率・逆紹介率は回復傾向で今動いております。
 それから手術数は、やっぱりコロナでちょっと減少したんですけれども、元へ戻ってきつつあるというのが現状であります。
 しかしながら、心血管カテーテル検査だけは、今回コロナの影響は全くなかったというような現状でありました。
 それからそんなような状況の中で、東邦大学医療センター大森病院での収益改善のための工夫をお話しさせていただきます。
 経営改善のための会議、会議でとても大変なんですけれども、まず1つ目は医学部運営会議というのがありまして、毎月、医学部主体で医学教育の現状と3病院の経営状況について議論がなされて報告され、理事長からいろいろ指示されます。
 それから、これは各病院ごとですけど、3病院ごとに診療部長会議、あるいは医局長会議がありまして、ここでは具体的に収支分析を行って、課題と改善点について、毎月これを周知徹底いたします。
 さらに、この病院で行ったものを、今度は3病院合同で、年4回経営会議が開かれます。これは外部講師を招きまして、他医療機関との比較分析を行い、改善点の検証をいたします。
 それから年に1回、3病院合同運営会議がありまして、これは上半期の状況が把握されたところでもって、下半期に向けてどういう改善を行うのかというところを議論する場所として、この会議が開かれております。
 具体的に収入増加のためにどんなことやっているかというと、入院単価を上げるということはもちろんなんですけれども、必ずDPCですので出来高との比較を検討しまして、どのぐらいの差があるのかということをDPCごとに検討して、いろいろな改善をしようとしております。
 それから収入底上げの施策としては、フォームラリーを導入したり、後発医薬品導入、あるいは救急体制の改善でもって謝絶率をなるべく減らす、なるべく来た患者さんは全部引き受けるというような形でもって動いております。もちろん連携強化で紹介率、逆紹介率の増加を図っております。
 新入院患者確保のためには地域連携室の拡充とホームページの工夫をしております。病床利用の強化・査定率・査定額については、非常にシビアな会議の中でもって議論が行われます。
 それから支出のほう、これはとても大きなプロジェクトだったんですけれども、経費節減プロジェクトというのを幾つか立ち上げました。
 具体的には、業務効率化による時間外業務削減でありますけれども、一応法人全体として、月の時間外労働は8時間を目標として動いていまして、毎月、どの部署がどのぐらいの時間外を取っているかというのが一目瞭然に分かるような形でもって、いろいろ検討しております。
 あと、3病院の機器・備品購入の適正化ということでもって、3病院で一緒に購入できるようなものは、3病院でなるべく一緒に購入していくということになりました。
 法人全体として、委託費、消耗品費、印刷費の適正化を行っております。
 3病院における経費節減プロジェクトが開始しまして、これは結構大きく動いておりまして、医薬品の共同購入ということでもって、これは簡単なガウンだとか手袋だとかというのを全部共同購入するのと、医薬品も全部共同購入で、1か所で3病院分の交渉をするというようなことをやっております。
 診療材料、特に医療材料の統一化については、適正化というんですか。これはかなり医師の協力がないとなかなか難しいんですけれども、特殊な材料、例えばペースメーカーなんかについても、3病院ばらばらだったのを、何とか種類を減らすとかいう工夫をしながら努力をしております。
 人件費、管理経費等については前年と比較し検証し、状況を常に確認しながら前に進んでいるという状況であります。
 今の経費節減プロジェクトで、8年間でありますけど、大体21億の経費節減ができております。1年間で2億5,000万ぐらいですか。2億の収入を病院が上げるためには、粗利益10%としても、20億の収益を上げなきゃならないので、そういう意味では大変大きなインパクトになったというふうに考えております。
 それから、医療計画・地域医療構想を踏まえた取組としましては、地域医療構想に伴って病床数を適正化ということでもって、1,021床あったんですけれども、最終的には2割ぐらい減らす方向で、今大学は動いております。
 それから地域病院との連携では、大田区子ども平日夜間救急室が約20年、2003年から始まっておりますけれども、これは医師会から医師が来ていただいて、夕方の6時から夜の11時まで診察していただく。その後は大学のほうの小児科が引き受けるという形になっております。地域への医師派遣は250名の医師を地域に派遣しております。
 日勤の派遣が543病院、当直が128病院、出向派遣が49病院で、ここに書いてあるように250名の医師を出しておりますけれども、北は宮城県から南は九州、沖縄まで人を出しているという状況で地域貢献をしております。
 医師の働き方の取組でありますけれども、我々のところは2003年からもうICカードによる出退勤管理が開始されておりまして、現在では90から95%の在院時間は完全に把握しておりまして、そういう意味では、働き方改革の取組は非常に取り組みやすかったと思います。現在は時間外の在院時間、つまり9時前、あるいは5時以降の在院時間のうち、労働とするか、労働としないか把握をする仕組みが出来上がったところであります。
 2021年に勤務実態調査を行いましたけれども、何とかなりそうだという方向であります。
 6月までには勤務環境評価センター申請の予定で、一応、B、連携B、C1の申請予定で今動いております。
 これは労働時間調査結果でありますけれども、令和4年に調査したところでもって、A水準が94.7%、Bはなくて、連携Bで5.3%という結果が出ました。このぐらいですので、当然のことながら令和6年度には恐らく、ほぼ100%はA水準でいけるだろうというふうに病院は踏んでおります。
 これは全国医学部長病院長会議の調査結果でありますけれども、これを見ますとA水準が約50%、B、連B、C1でもって約30%、裁量労働制を使っているところが20%ぐらいありますので、大体こんなような比率であります。
 下のほうを見ていただきますと、(1)のところは、令和4年11月1日の時点では、約4万4,000人が960時間を超えるという計算でありますけれども、令和6年度までには1万5,000人、全体の34%まで減るだろうと。もちろん1,860時間を超えるという人は14人、0.03%ですけど、まだいるという結果でありますが、これは当然なくなってくるというふうに思っております。
 やっぱり大学を魅力的にするための取組も幾つかやっておりますけれども、大きいのは海外35大学と協定を結びまして、海外との交流を行っております。6年生の約5か月間から6か月間ぐらい、もちろん試験があるわけですけれども、試験に合格しますと、海外留学制度でもって海外で実習ができるという制度があります。ただ、今はちょっとコロナのために中断しております。
 あとは海外学会発表の旅費の補助、それから留学費の補助、あるいは英文の校閲経費の支援制度も行っています。
 今力を入れているのは、ダイバーシティに伴い女性支援中心から男性支援への対応ということでもって、男性の職員、男性の医師に、子供のための休暇が取れやすいような方策を、今一生懸命仕組んでいるんですけど、なかなかうまくいきませんが、まず女性にだけ子育てを任せるんじゃなくて、男性もやりなさいということでもって、今動いております。
 前回のときに、大学院生の話がちょっと出ておりましたけれども、私のところもやはり、研修制度が始まって、大学に残る医師数が卒業生の6割ぐらいになっちゃったものですから、ずっと下がってきたんですけれども、これじゃまずいということでもって、平成25年に社会人大学院生の制度を物すごく拡充しまして、入りやすくするようにしまして、人数がぽーんと増えたんですけれども、でもやっぱり長い目で見ると下降傾向であります。
 これはどうしてかというと、やっぱり話を聞きますと、学位を取ってどうするのと。それよりも専門医を取ったほうがこれから有利じゃないかというような考え方が出ているので、これを何とかひっくり返したいなというふうに思っております。
 それから投稿論文でありますけれども、これも前回話が出ておりましたが、全体とすると決してそんなに減ってきているという雰囲気じゃなくて、増えてきてはいませんけれども、横ばいで頑張っているのかなというような感じであります。
 ということでもって、病院経営の現状でありますけれども、COVID-19感染症の患者が、一応レベルは落ちましたけれども、現在でも多くの患者さん、二、三十名の患者さんがまだ入院しております。そのために医療従事者も感染し、欠勤者が多く出ておりますし、そのために病院が一部の病棟を閉鎖しなきゃならない状況が、今でもまだ起きております。
 一方で、本来の大学病院の役割を果たすべくいろんなことをやっているんですけど、なかなか苦労しているところであります。コロナの補助金がなければ病院は完全に赤字になってしまうような状況であり、とても残念に思っております。先ほども出ておりましたけれども、やはり耐久年数を超過した高額医療機器の更新がままならない状況であります。
 大学病院は通常の病院と異なって、医療・教育・研究を担っていますが、今後デジタル化や医師の働き方改革が進めば、費用負担がさらに増加して、様々な支障が起きてくるんじゃないかというふうに考えております。
 ここからは私立医科大学の現状と課題をお示しします。
 これをあまり出すと文科省に怒られちゃうかもしれませんけれども、この一番端っこが経常費補助金であります。大体2%から、多くても3%前後。その隣の赤っぽい色のところ、いわゆるこれがその他の補助金ですけれども、令和2年、3年度が増えているのは、コロナのために増えております。大学全体の収入の65%前後が病院の収入に頼っている現状であります。授業料はどのぐらいかというと17%ということなんです。ですので病院経営が傾いてしまうと、大学そのものが傾いてしまうというような状況が、これでよく見て取れるかと思います。経常費補助金はなぜかどんどん下がってきて、なかなか苦しいという状況であります。
 新型コロナの状況の中では、大学で受けているうちの6割ぐらいが私立大学で受けているんですけれども、その結果どうなったかというと、令和元年度と2年度で比べますと、収支がマイナスになっている。令和2年度と3年度の差を見ても、2兆円ぐらい稼いでいるんですけど、残っているのは235億円、1.2%ぐらいしか残らない、利益率はこのくらいだということで苦労しております。
 全国医学部長病院長会議でも、病院の運営に関していろいろ検討しておりますけれども、DPCと大学病院の運営に関する委員会がありまして、合同で年2回、病院の運営情報の共有、あるいは運営状況の課題、こういうことをやっておりまして、先週の木、金に新潟で委員会を開催いたしまして、ここで15病院の大学病院長が集まりまして、いろいろなデータを出しました。そのときのデータを御紹介させていただきます。
 これはAからOまでありますけれども、国公私立、全部入っております。ベッド数等とありますけれども、医療利益を見ていただきますと、15病院中、コロナの補助金を入れても3病院が赤字であります。コロナの補助金を引きますと、15病院中10病院が赤字ということになっております。
 一番最後の数字のところが薬剤費なんですけれども、大体1,500から2,000種類ぐらいの薬品を扱っておりますが、トップ10で大体全体の3割ぐらいを支出してしまうという、このところが非常に病院の経営を圧迫しているのかなと思います。
 論点は、診療収入の増加が強く求められており、教員は研究よりも診療にどうしても時間を割かれる。働き方改革で人員不足になる。地域への医師派遣の継続が困難となる可能性がある。診療報酬上の評価もなされていない。大学病院本来の診療ができなくなっているのが現状なのかな、何とかこれを戻したいというふうに思っております。
 そのためには、やっぱり医師の処遇改善、施設・設備拡充の補助、国立大学病院並みの運営費補助金ということ、それから、これは厚労省の問題ですけど、医療法上、大学病院の評価をちゃんとしていただきたいというふうに考えております。
 以上、雑駁にお話ししましたが、この資料提供は東邦大学の法人本部、医療センター大森病院、それから私立医科大学協会、全国医学部長病院長会議からいただきましたことを報告しまして、御礼を申し上げようと思います。
 以上、私からのプレゼンテーションを終わります。御清聴ありがとうございました。
【永井座長】  ありがとうございました。
 それでは、ただいまの御発表に対して御質問、御意見をいただきたいと思います。いかがでしょうか。
 山口委員、どうぞ。
【山口委員】  3人の方、どうもありがとうございました。
 熊本大学病院の馬場病院長にお尋ねしたいことが2点ございます。最後にお話いただいた、大学の魅力を高める工夫、とても個性的なお取組で、すばらしいと思いました。
 質問したいことといたしまして、21ページのところに、大学病院の医師と、それから自治体病院の給与差のことがあって、初期臨床研修医のほうが専攻医よりも保障されている分、少し高くて、専攻医になったらむしろお給料が下がる。ここでこれだけ差がついているというお話がございましたけれども、大学病院はやはりそもそもお給料が少ないということで、私もいろんな委員で関わっている大学病院で、医師の働き方改革が始まると、もともと少ない上に、アルバイトで何とか賄っていたお給料が、それも賄えなくなって、例えば子供の教育にかけるお金などが捻出できないということで、既にもう大学病院を去っていく医師たちが結構いらっしゃるという話を、危機感を持って聞いております。
 こういった魅力的なプロジェクトをすることによって、そういう立ち去る医師が熊本大学病院では抑えられているのかどうかをお尋ねしたいということが1つです。
 もう一つが32ページのところで、経営改善に対するインセンティブの設定ということで、頑張っているところに予算措置をつけていらっしゃるというお話がございました。この診療実績に対するインセンティブのところを見ていますと、かなり科によって特徴の差があるるように感じます。こういったことが達成しやすい科とそうじゃないところというのが、例えばクリニカルパスの利用率にしてもそうですし、こういったことを見ますと、職員の間に、ここに配属されている職員だからということで、不公平感が生じないのかということが少し気になったものですから、その2点、教えていただければと思います。
【馬場氏】  御質問ありがとうございます。それではまず、21ページの資料に基づきまして少し御説明いたしますが、この初期臨床研修医と医員(専攻医)は、もともとほぼ同じぐらいの額だったんですが、初期臨床研修医で、全国でも大学院で研修される方はもう、30%ちょっとぐらいになってきているんじゃないかと思います。
 それで私どもの大学でも初期臨床研修医が極めて減少しているということがありまして、アンケートを取りますと、やはり処遇が悪いと。例えば住居手当とかそういうものがないということでしたので、今回、初期臨床研修医には住居手当とかを出すようにした結果、専攻医と少し逆転現象が出ております。医員(専攻医)までそこを全部広げるというと財源の問題がありまして、医員(専攻医)はそれができておりません。ただ専攻医の場合は外勤に行きますので、プラスアルファの収入があるということですので、そこは少し、今後改善の余地はありますが、現状はそういうことです。
 そしてこれは初期臨床研修医、あるいは専攻医レベルの費用を比較しておりますが、上級医になるともっと差がつくということは、既に分かっております。例えば大学病院の教授クラスと国立病院機構の部長クラス、これは文科省管轄下、厚労省管轄下で、大体600万ほどの年収格差があると言われております。
 それで、やはり実はこれは現実に起こっている問題でありますが、医師の働き方改革を見据えて、民間病院が医師数をある程度そろえないといけないということで、民間病院から大学病院に、教授の給与の3倍から5倍出すからうちに来てくれということで、准教授クラスとかが引き抜きに、もう既に遭っている診療科がございます。そういうことを考えますと、今後のこの給与格差というのはある程度考えていかないと、診療研究・教育を担う大学の医師が減少していく可能性があるというところであります。
 続きまして、インセンティブの件についてお話しさせていただきます。このインセンティブについては、確かに御指摘のように、評価項目をどう設定するかというところは非常に難しいところです。ただ毎年そこを見直しておりまして、ある程度フェアに手当がつけられるようにしております。大体上位1位から10位まで、各診療科に序列をつけまして、上位1位、2位の診療科は、2人分ぐらいの助教の給与手当をするぐらいの予算措置ということで、少しずつそれを落としていきますが、そこそこの費用をつけております。
 さらにこの病棟看護師というのは、医師ばかりインセンティブをつけるということで不満の声が聞かれましたので、それぞれの病棟の看護師にも一定の評価項目で評価して、上位10の病棟にそれぞれそれなりの、一番上で100万弱ぐらいの予算をつけるということで、一番少ないところは30万程度でありますが、それぞれの病棟にもお金つけるということで頑張っていただいているのが実情でございます。
 不満は全くないわけじゃありませんが、一応今のところは、ある程度頑張ればそういう予算が取れるということで、頑張っていただける状況になっているというふうに理解しております。
 以上です。
【山口委員】  どうもありがとうございました。
【永井座長】  田中委員、どうぞ。
【田中(雄)委員】  よろしいですか。和田先生より後でしたけど。じゃ、ちょっとお先に。
 塩﨑さんの説明についてちょっと御質問したいのですが、あまり人件費のことをお触れになりませんでしたが、人件費は大学病院によってルールは違うのかもしれないですけれども、エフォート率で、例えば大学が負担する部分と病院が負担する部分というのは分かれていると理解しています。そこはどういうエフォート管理になっているところが多いのか、ちょっと全体的な傾向を教えていただけますでしょうか。
【塩﨑氏】  お答えいたします。今、全国的な調査をしておりますけれど、人件費は病院収益に対しては大体四十四、五%ぐらいの比率になっています。ただ、先生の御質問がありましたとおり、ドクターに対してはかなり差があるかなと思っています。総額としては大体それぐらいの比率になっているというところでございます。
 問題は、各大学病院によりまして、教育・研究部分相当と、それから診療分相当というのは、それぞれのエフォートを違うようにしていますので、そこの部分というのは結構差があるかなと思っています。
 今、働き方改革の中で、診療と教育・研究というのは明らかになってきますので、ここの部分で新しいそれぞれのエフォートとして、どこのお金をどれだけ使っているかというようなところも含めて、今後検討ができるんではないかというふうには期待しております。
 以上です。
【田中(雄)委員】  ありがとうございました。
 永井先生、馬場先生にもお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか。
【永井座長】  はい。どうぞ。
【田中(雄)委員】  馬場先生のところでは、じゃ、その今の教員のエフォート率というのは、例えば大学本部から年収の半分を払ってもらい、それから病院が半分負担するとか、そういうルールを使っていらっしゃるのかどうかということと、もう一つ、魅力ある大学病院にするという、非常に魅力的なチャレンジングなことをされていらっしゃるのですが、寄附講座を除くと、1から3まで、それはただではできないことなんですが、それは総額幾らぐらいかけていらっしゃるんでしょうか。
【馬場氏】  前半は病院で勤務する医師の給与ですか。本部負担と病院負担。
【田中(雄)委員】  はい。そうです。
【馬場氏】  これは研究部所属の教授、准教授、それから助教、病院所属の講師、助教というのがありまして、病院所属と研究所所属で給与の支払いは違って、そういう教授、准教授、助教クラスは大学本部からの給与支払いになっていると思います。あと、病院に所属する医師は病院が出しているということになっていると思っています。ちょっと細かい数値は把握していないところがありますが、そういうところです。
 それから後半は、すみません、ちょっと質問をもう一度言っていただければ。
【田中(雄)委員】  魅力的ないろんな助成金を出したりとか、いろいろな試みを(1)から(4)までしておられましたけど、(4)は寄附講座なので費用は県が払ってくれていると思うのですが、(1)から(3)までは恐らく病院の持ち出しだと思うんです。それが病院で持ち出しだとすれば、幾らぐらいお金をかけていらしたのでしょう。
【馬場氏】  先ほど言ったことに対して、各診療科につけるインセンティブに対しては1億弱、それからここの教育・研究の活性化プロジェクトも単年度1億ぐらいはつけていると思います。ですから総額にすると2億前後をつけていると思います。
【田中(雄)委員】  バイオバンクはどれぐらいのお金が投入される。
【馬場氏】  これは今の予算に入っておりませんで、バイオバンクで年間五、六千万かけていると思います。これはまた別枠です。
【田中(雄)委員】  ありがとうございました。
【永井座長】  和田委員、どうぞ。
【和田委員】  ありがとうございます。金沢大学の和田と申します。
 6名の皆様には、大変すばらしい取組をお話しいただきましてありがとうございます。いずれもそのとおりだなというふうに思って伺っていました。共通して言えますのは、やはり時間をどのように確保するのかとか、あるいは財源をどのように確保していくのかというところが大きなポイントだということもよく分かりました。
 その中で、時間と、それから財源も制約されている中で、やはり途中、永井先生もおっしゃいました、どのようなあるべき姿があるのかという大きな議論も必要かなというふうに、議論を聞いていて思いました。その中でバックキャストして、現在のできる最大公約数的なところに落とし込んでいくという指標も必要なのかなと思って伺っていました。
 その上で、御質問をさせていただきたいと思います。馬場先生と小山先生にお伺いしたいと思います。先生方の非常にすばらしい取組、ありがとうございます。その中で、時間も、それからいろんな経費もかけている中で、臨床研究というところ、それから臨床教育というところで少しお伺いします。
 特に今回医学教育の在り方ですので、そういった教育と関連した研究、あるいは臨床教育において、どのような対策、どのような経費のかけ方、これが一番現時点でフィットしているのか、などどのようにお考えなのか、成功事例などありましたら教えていただきたいと思います。
 以上でございます。
【永井座長】  いかがでしょうか。
【馬場氏】  じゃ、私、馬場のほうからよろしいでしょうか。
 これは文科省の調査をAJMCで受託しまして、全国の調査結果がもう既に出ているとおりでありまして、特に助教とかでも、もう研究する時間が少ない、研究・教育に充てる時間も限られている、多くは診療に従事せざるを得ないということでありますので、教育の質を落とさず、どうやって教育の質と時間を確保するかは、非常に大きな問題だと思っております。
 そういう中で教育にどれぐらい予算措置をしているかということですが、先ほど熊本大学の取組事例を出しましたけれども、教育する上で費用がどうしてもかかるということに関しましては、そういう申請をしていただいたところには、1診療科当たり100万程度の予算をつけるということにいたしました。
 そして、これは今計画しているところでありますが、来年の4月からの医師の働き方改革に向けて、様々な教育、あるいは研究にかける時間を確保する上で、人的、あるいは資金面での補助が必要だろうということで、全診療科に一定額、大体200万ずつ程度、あるいは中央診療部門とかにもそのような予算をつけて、その予算で人を雇用したりということで、サポートしていただける体制を構築したいというふうに考えております。十分なお答えではありませんが、病院側として支援できることに関しては取り組んでいるということを御理解いただければと思います。
 以上です。
【永井座長】  小山先生。
【小山氏】  私どもは、私立大学全体の掌握はしておりませんけれども、私どもの大学で言うと、教育部門、あるいは研究部門、それぞれ独立した組織をつくって、そこに専従の医師を置いて、いろんな取組をしております。
 熊本大学みたいにお金がないので、そこに100万だ、200万だというお金は、とてもじゃないけど私立では置ける状況ではないので、お金がない状況の中で叱咤激励して、褒めることぐらいしか御褒美はありませんけれども、そういった形で何とかやっておりますが、やはり特に教育に関してはとても人が足りない。ましてや、今回実習が1.5倍ぐらいになったわけですけれども、それに対しての人材を補塡できない状況の中で、本当に今四苦八苦しているのが現状であります。
 ちょっとお答えになっているか分かりませんけど、私からは以上です。
【和田委員】  ありがとうございます。大変参考になりました。
【小川委員】  よろしいですか。
【永井座長】  はい。
【小川委員】  ありがとうございます。先ほど、国立大学病院長会議と、それから熊本大学、そして私立大学病院のほうからもお話がありましたけれども、現在はもう病院は増収減益なんです。それで、何のために研究時間を削って、教育の時間を削って、そして診療に一生懸命頑張って、それでもマイナスになっているかというのは、高度医療を行っている大学は高額な薬代を払わなければならない。それから診断機器にしても治療機器にしても、高額な診断・治療機器を駆使してやらなければならないということで、結局何のために大学で一生懸命働いているのかというと、働いても減収になっているわけですから、お金がもうかっていないというような状況なんです。
 これは実はどういうことかといいますと、今、病院の類型というのが医療法上決められていますけれども、これらは一般病院、特定機能病院、地域医療支援病院、精神病院、結核病院です。その中で、大学病院だけが非常に特殊な働きをしているのにもかかわらず、物すごく高額な薬代を払わなければならない。
 ついせんだってうちで、1人の難病の患者さんに5回注射をするのに、薬代としてお支払いをしたのが、1億6,000万円です。そのほかに、がんの高いお金なんて、何百万円というものを払っているわけで、この1億6,000万円の定価ですと、1,600万円が消費税で消えていくんです。
 ですから、要するに大学病院というのは、ほかの類型の病院とは全く違った働き方をしているわけだから、やはり控除対象外の消費税にしてもらわないと、例えば、今10%ですから、1億6,000万円の薬を買って1,600万円の消費税で済んでいますけれども、これが15%になったらば、もう大学病院も大学もやっていけません。もう潰れるしかありません。
 ですから、こういうところからやっぱりちょっと手をつけていかないと駄目なんじゃないかなというふうに感じておりますので、ぜひこの辺も議論のポイントに入れていただきたいなと思っております。
【永井座長】  ありがとうございます。私も全く同感で、法人化以降、大学病院の収入は2倍近くになっています。しかし収益が減ってしまう、あるいはマイナスになるということだと、研究時間が減るのは当然ですよね。臨床現場は頑張ってもフィードバックしてこないから、環境も悪化していく。立ち去っていくということです。もうこれは完全に大学病院に伴う構造的問題です。
 もちろん内部の改革の余地はまだあるかもしれないんですが、基本的には大学病院が置かれた大きな構造的な問題だと思います。現在、1億6,000万円の薬で、薬価差益は微々たるものですから、人件費までまかなえない。
【小山氏】  薬価差益はない。
【永井座長】  ほとんどないのですね。
【小山氏】  ないです。
【永井座長】  それで消費税を負担している。そういう患者さんは大学でないと診てもらえないということになれば、頑張れば頑張るほど自分の首を絞めていくわけです。それがもう積もり積もってきた、そういう状況です。
 それで私、塩﨑さんにお聞きしたいんですけど、23ページ。大学としてもやることと、それから、外的ないろんな制約のことをちょっとお書きになっていらっしゃるんですが、例えば大学病院に特化した人事と給与制度、それから経営における制約の整理について、具体的にどんなイメージか、個人的御意見でも結構ですので、お話しいただけるとありがたいんですが。
【塩﨑氏】  ありがとうございます。今までどうしても大学病院は、各大学の運営の延長線上で経営されてきたと思っています。そういう意味では、制度的には本来できるところも、実際の大学運営の中で実現できなかったというところがあります。実際にはアカデミックなポストの増設とかも、大学の中での様々な力学で、簡単に増やすことはできないというところもございました。
 またもう一つ、給与制度のところでございますけれども、お話にありましたように、臨床をされている教授准教授等の皆様も、実は研究者としての給与は支給されているが、医師としての給与ではない。一方、今回働き方改革の中でも明らかになったように、診療相当分はあるわけですから、その診療相当分をどのように評価するかというのは、教育研究と診療の別の2つの給与体系を持つということを、やろうとすれば十分できるんではないかと思っています。
 例えばそういう体制を病院だけつくるというのは、多分全学の中では簡単にできないと考えます。ですので、やっぱり大学病院経営自体が大学の運営の延長線上ではなかなか難しいので、かなり違ったものをつくっていかないと難しいと思っています。これから本当に事業が継続できるような仕組みにするためには、抜本的な検討は必要かなと思っています。
 もう1点、業務の共同実施組織と書いてございますけれども、今、大学病院間で協力関係はございますが、共同調達と申しましてもそれぞれが別法人でございますので、一緒になって行動するという形でございます。今後、一緒になって購入の組織を別につくることは十分可能だと思っています。そのようなことまで踏み込んでよいというお話になれば、これもまた実現の可能性はあると思っています。
 現行の会計制度の中でできる範囲と、それからできないところはあろうかと思いますけれども、今後やっぱり大学病院が元気になるためには、その辺りもぜひ改善していただければありがたいなと思っています。
 以上です。
【永井座長】  小山先生。
【小山氏】  先ほどの薬剤の話ですけど、ちょっと具体的にお話ししますと、スピンラザ静注は、1か月入院しますと9,955万5,320円かかるんです。そのうちの薬剤費が9,331万2,280円で、ほぼ全部、入院費のうちの注射剤なんです。病院に入るのは62万円、0.6%なんです。もう1億に近い薬を使うわけですから、物すごく神経を使うわけです。そういう患者さんがとても多いんです。それにもかかわらず、そこら辺を使うことの評価は全くないというのが、一つ問題だと思います。
 それから、大体大学病院だって、ほかの病院が一生懸命やって収益が上がっているのに、なぜ低いんだということになるんですけれども、ちょうど熊本だったんですけど、熊本の病院に、赤字の病院を黒字にしたといってすごく褒められた病院がありましたけれども、あれはどうやってやったかというと、基本的には非採算部分を全部切っているわけです。小児科やりません。産科やりません。精神科やりません。内科でも、消化器と循環器はやりますけれども、膠原病はやりません、血液病やりませんです。
 ところが大学病院はそれは外せないんです。外せないからこそ収益率が悪くなるというのはもう仕方のないことなんです。だからここはどう責められても何ともしようがない。
 先ほど15大学のをお見せしましたけれども、いいところでは10%近く行っているところがありますが、平均でせいぜい3%、2%の収益では、その次の投資は一切できない。特に私立の場合は自分で稼いだ金しかありませんので、そこら辺はぜひ考えていただいて。
 なぜこんなことを言うかというと、病院がまともに経営していかなければ、先ほど見た、6割、7割が病院の収入で動いているのが医学部ですので、そこのところをぜひ考慮して、何かよろしい案をいただければと思います。
 以上です。
【永井座長】  先ほどの高価薬も、私も見聞きしているところでは、近隣の病院では使っていません。みんな大学病院で治療してもらっています。それでは経営の差が出てきますね。頑張っても収益が上がらなければ、先ほど若い人たちが言われた、ポストが欲しい、研究助手が欲しいといっても、その人件費が出ないんです。病院経営の健全化と研究の推進はセットになっているのです。
 私は科学技術振興機構のCRDSというところで上席フェローをしていて、2017年に世界の大学病院の研究体制というのを調査したことがあります(科学技術振興機構研究開発戦略センター報告書、医療研究開発プラットフォーム—大学病院における研究システムの海外事例比較— https://www.jst.go.jp/crds/report/CRDS-FY2017-RR-01.html)。
アメリカ、ドイツ、オランダ、イギリス、それから韓国。大学病院の運営は、日本より合理的ですし、圧倒的なパワーの差です。先ほど、熊本大学が845床で2,130名のスタッフっておっしゃっていましたけど、ドイツのゲッチンゲン大学では、1,500床で7,700人です。大体1ベッド当たり2倍違います。それからスタンフォード大学が、教授だけで1,000人です。それからクリニカルな医師が1,200人です。ベッド数はよく分かりませんが、もう桁が違うんです。
 そういう中で研究推進しているということですから、日本の大学病院は、いまだに明治以来の体制を続けています。法人化で随分改善しました。私も当時病院長でしたが、法人化前は、東大病院の看護師さんは、1,300床で740人でした。国家公務員定員法の制約によりスタッフを増やせなかったのです。だから、そんなよい医療はできない。できないからまた経営も悪くなる。無理して頑張ると医療事故が起こる。そういう状況でした。
 その中で法人化後、国立大学病院はみんな頑張ったわけだけれども、頑張ったけど収益が減り、研究の時間も減って、何をしているかわからないという話になってきたわけです。人材が育たないのも当然です。これはもうぜひ文科省としても抜本的にこの際、国際的な基準に照らして医学部や大学病院の在り方を考えないといけないだろうと思います。
 臨床場は、この20年間、本当に頑張ったんです。かつて無理な体制で頑張って起こったのが医学部紛争でした。今は、ゲバ棒で殴り合う紛争は起こらないかもしれませんけど、若い人たちが立ち去っているわけです。もはや大学病院は構造的な矛盾に陥っていると思います。いかがでしょうか。どなたか御発言ありませんでしょうか。
 田中委員、どうぞ。
【田中(雄)委員】  太田さんとか原先生が絶望しないように、ちょっとお話をさせていただきたいのですが、大学病院というのは、診療としても高度なものが求められている。研究としてももちろん高度なものが求められている。教育としてもそうなので、クリニカルセグメントとアカデミックセグメントを分けるべきだと思うんです。クリニカルセグメントは診療報酬でやる。でも、アカデミックセグメントはもう診療報酬で事実上カバーされていないので、これはもう大学から払ってもらう。何かそういう仕組みを考えないと無理だと思います。
 それで、大学が払うといったって、どこから金が出てくるんだという話になりますけれど、例えば産学連携とか、それは今微々たるものですけれども、それを拡大していったときに、その収入は病院のアカデミックセグメントに入るんだと。それからあと、臨床実習とかそういうのに貢献しているわけなので、それはやっぱりアカデミックセグメントとして、大学本部から補塡するというような仕組みは、ある程度目安をつくらないと、今の状況は改善しないのではないかなというふうに思います。
 以上です。
【小川委員】  小川ですけれどもよろしいですか。
【永井座長】  手短にお願いします。
【小川委員】  要するに、診療報酬で収入は決められているわけです。それを大学病院のように高額な薬や診断・治療機器が必要な非常に特殊な病院と、それから、そんなにお金のかからない病院と、同じ診療報酬でやっているからこういうことになるわけで、ですから診療報酬のところからやっぱり見直しをかけていかないとまずいんじゃないかなと、私は思います。
【田中(純)委員】  委員長が言われたのは本当にアグリーするんですけど、ここずっと高度医療、高度な治療薬で収入がどんどん増えて、その見返りがあるかと思うと全然収益が増えていない。増えた分で、その見返りで人件費なりいろんな環境を整備しようと思っても全くできていない。これは医療だけの問題じゃなくて、やっぱりそこで学ぶ医学教育、学生。先ほど原さんが言われましたけど、学生教育、臨床実習に力が入らない、そこに時間が回せないということは、次世代の医学教育に非常に影響を与えているというところなので、結局悪い循環に入っているので、早くどこかで断ち切って、抜本的な改革がやっぱり必要だというふうに思います。
【永井座長】  横手委員。
【横手委員】  ありがとうございます。もうどこから発言していいか、どの角度から発言していいか、非常に悩んでしまい、困ってしまう、今日の話題だと思うんですけれども、やっぱり根本にはこの日本の大学で行っている医療とか研究の内容に対して、お金の流れが小さ過ぎるんじゃないか。
 キャッシュフローと言っていいのかどうか分かりませんけれども、非常に投資がされていない中で、アメリカなんかに比べて、安くいろいろ上げている限界が来ているのかなと。国も大学に対して、生かさぬように殺さぬようにじゃないですけれども、ずっと来ていた。その中で一生懸命頑張っていますが、大学の中で改善できる、何か限界に近づいているんだろうと。
 そういう意味では、大学でやっぱり人材育成もしなきゃいけない、次の高度な医療を担う人も、診療とリンクした中でやらなきゃいけないというふうにするならば、単なる診療でないプラスアルファのインセンティブが、その診療報酬の中に上乗せされてしかるべきだろうというふうに一つは思いますし、あとは田中先生の御発言、非常に目からうろこだったんですけれども、この意義というのを、社会で、あるいは国で、大学病院がどうあるべきかというのを、ぜひ大学の外からも考えていただいて、そういうところに企業の投資を入れて、またそれが大学から研究という形でフィードバックできるような流れ、そういうものをつくっていかないと、何かこれは解決できないんだろうなというふうに、答えになっていないんですけれども、今日の話を聞いて、自分としても改めて考えなきゃいけないと思いました。
 以上でございます。ありがとうございました。
【永井座長】  金井委員、どうぞ。
【金井委員】  ありがとうございます。この委員で仲間割れするつもりは毛頭なくて、誤解を生じたら、そんなつもりはないということを前提にお話しさせていただきますが、田中先生の、クリニックとアカデミックを分離して独立な財政でやるという、これは僕も、アメリカのハーバードとかスウェーデンの方式のような方法として、一案だなと思ったんですけれども、もしそれをすると、恐らく私立大学の医学部は崩壊するんじゃないかなというふうに思っています。
 何ていったって、大学を今知財で全部やる時代ではまだないので、それだけの体力がまだ私立大学にはないので、もしそういう発想でいくとなると、かなり私立大学に手当てをしていただかないと厳しいんじゃないかなということを述べさせていただきます。
 以上です。
【永井座長】  砂押委員、どうぞ。
【大井川委員代理(砂押次長)】  茨城県でございます。本日は大井川知事が公務により出席できませんで、大変申し訳ありません。事前に知事からコメントを預かっておりますので、発言させていただきたいと思います。
 医師の働き方改革等が進む中で、大学病院の教育力とか研究力をどのように強化していくか、大変重要なテーマであると認識しております。大学病院が担っている教育・研究、そしてまた診療のそういった役割をバランスよく果たしていっていただくためには、医師の総数を増やすことが有効と考えて、前回、第1回のときに発言をさせていただきました。
 また、医療資源が潤沢な大都市部であればまた違うのかもしれないんですが、本県のような医師少数の県においては、大学病院が非常に大きな地域医療を支えていただいている部分がございます。
 そういった中で本検討会では、医師総数についての検討はしない方針ということは、前回お伺いいたしましたので理解いたしましたが、今いろいろお話をお聞きしましたけれども、そういった論点とされている課題を解決していく方法については、大学病院の中だけでやっぱり完結するものではなくて、地域の医療提供体制にも非常に影響のあるところでございますので、ぜひ地域の医療提供体制の維持という観点はしっかりと踏まえた上で、今後の検討を進めていただきたいというふうに考えてございます。
 以上、大井川知事からのコメントでございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【永井座長】  ありがとうございます。まだ議論はあろうかと思いますが、予定の時間になりましたので、ここで終了したいと思います。
 事務局においては、第1回の検討会における御意見をまとめた資料1及び本日の意見交換を踏まえ、次回以降、具体的な政策について御提案いただければと思います。
 先ほど私が申し上げた、医療研究開発プラットフォームの海外事例比較という調査報告書がございます。よろしければ事務局から委員の皆様にお送りしていただければと思います。海外と日本の違いに関する、非常に詳しい調査報告でございます。
 それでは、最後に事務局から、今後の開催スケジュールについて御説明をお願いいたします。
【相原課長補佐】  事務局でございます。資料4でございますけれども、次回、第3回の日程は、7月12日、12時30分から14時30分を予定しております。よろしくお願いいたします。
【永井座長】  ありがとうございます。
 それでは、本日はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。
 
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