障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)について

文部科学省では、「障害のある学生の修学支援に関する検討会(座長:竹田一則 筑波大学人間系教授)」を開催し、この度その検討結果を取りまとめましたので、お知らせいたします。

〇障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)(概要)(PDF:252KB)
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〇障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)(テキスト:本文)(Text:115KB)

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障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)

令和6年3月
障害のある学生の修学支援に関する検討会

はじめに

 令和3年5月に障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、「障害者差別解消法」という。)が改正・公布され、令和6年4月より施行される。これにより、我が国の大学・短期大学・高等専門学校(以下、「大学等」という。)では、従来禁止されていた障害者に対する不当な差別的取扱いに加え、合理的配慮の提供も全ての大学等において法的に義務付けられることとなった。
 我が国における近年の障害者施策は、平成18年の国連総会における障害者の権利に関する条約(以下、「障害者権利条約」という。)の採択と平成19年の我が国の同条約への署名に始まり、平成23年の「障害者基本法」の改正や平成28年の障害者差別解消法の施行及び令和3年の同法の改正、その他関係法令を整備するとともに、政府として「障害者基本計画」を策定し、その推進に取り組んできた。
 また、文部科学省においては、平成24年度及び平成28年度に「障害のある学生の修学支援に関する検討会」を開催し、「第一次まとめ」として障害のある学生に対する修学支援の在り方と具体的な方策等について、「第二次まとめ」として障害者差別解消法を踏まえた不当な差別的扱いや合理的配慮の考え方等について取りまとめた。さらに、令和6年4月の改正障害者差別解消法の施行に備えた「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」の改正(令和5年3月14日閣議決定)(以下、「基本方針」という。)を踏まえ、令和5年12月に「文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」(以下、「文部科学省対応指針」という。)を改正する等の対応を行ってきた。
 この間、大学等における障害のある学生の在籍者数は日本学生支援機構(以下、「JASSO」という。)の調査によると増加しており、それに併せて合理的配慮の提供を受けている学生数も増加している。平成28年に施行された障害者差別解消法や、自治体の条例に基づき合理的配慮の提供が義務化された大学等、あるいは先進的に障害学生支援を行っている一部の私立大学等において取組が進められているものの、その過程において様々な課題が生じているほか、国公私立の大学等や地域によって障害学生支援の取組における格差が広がっているとの指摘もなされている。
 本検討会では以上のような状況に鑑み、令和5年5月より、各大学等におけるこれまでの取組を通じて浮かび上がってきた課題を整理するとともに、共有すべき基本的な考え方と具体的な対応について議論し、大学等の現場において適切な修学支援を行うために必要な事項について検討してきた。この「第三次まとめ」は、大学関係者、独立行政法人、企業、障害学生支援団体及び障害のある学生からのヒアリングを含む、計10回にわたる検討の結果をまとめたものである。
 なお、障害者差別解消法の改正により、合理的配慮の提供が新たに義務付けられる私立大学等は、多様な規模や教育の特性を備えていることに加え、通信教育課程や短期大学等、様々な設置形態がある。第三次まとめの作成に当たっては、このような私立大学等の特徴も勘案しつつ、可能な限り普遍的な内容について取りまとめ、全ての大学等が取り組むべき基本的な考え方を示すことを心掛けている。
 また、第三次まとめでは、学長をはじめとする大学等の役員のほか、全ての教職員が障害のある学生の支援に関する理解を深め、適切な支援を行うために取り組むべき事項や考え方について参照できるよう、できる限り具体的かつ体系的な記述に努めた。このほかにも、障害のある学生本人及びその家族や介助者、大学等が行う支援を補助する者、大学等に所属する全ての学生、学協会関係者、高等学校や特別支援学校等の初等中等教育機関関係者、専修学校関係者、国や自治体等の行政関係者、ハローワーク等の就職支援機関関係者、企業関係者、民間の障害学生支援団体関係者等が参照することも想定している。
 大学等が学生を第一に考え、障害のある学生が他の学生と平等に「教育を受ける権利」等を享有・行使することができる環境を構築することは、コンプライアンスの観点からはもちろんのこと、開かれた大学等として価値や魅力を高めるための重要な要素となる。各大学等の役員や管理職はこのことを強く認識し、障害学生支援への理解を深めるとともに、自大学等の運営方針の一つとして位置付け、取組を推進していくことが望まれる。
 この第三次まとめにより、第一次まとめ、第二次まとめ及び改正された文部科学省対応指針と併せて、全ての関係者における共通理解と連携が強化され、全ての大学等において障害のある学生への修学支援のための取組がより一層進展し、「障害者基本計画」に掲げる障害学生支援の推進に資することを強く期待する。

第1章 大学等における障害のある学生の現状

1.障害のある学生の在籍状況及び入学・卒業の状況

(1)障害のある学生の在籍状況及び大学等が支援を行っている障害のある学生数
 JASSOの調査によれば、令和4年5月1日現在、49,672人の障害のある学生が大学等に在籍しており、これは全学生の1.53%に当たる。10年前の平成25年の調査では13,449人、障害者差別解消法の施行により国公立大学等における合理的配慮の提供が義務化された平成28年の調査では27,256人であり、この10年で障害のある学生数は約4倍に増加している。大学等が支援を行っている障害のある学生は27,121人で、全体の学生数の0.84%に当たり、障害のある学生のうち54.6%が何らかの支援を受けている。なお、障害のある学生が在籍する大学等数は970校であり、これは全大学等数の82.6%に当たる。

(2)障害種別の学生数の状況
 障害種別ごとの学生数の内訳は、視覚障害823人、聴覚・言語障害2,005人、肢体不自由1,983人、病弱・虚弱13,529人、重複478人、発達障害10,288人、精神障害15,787人、その他の障害4,779人であり、特に増加が著しいのは、精神障害、発達障害、病弱・虚弱である。なお、精神障害及びその他の障害の学生数には、知的障害と判断された学生174人が含まれている。

(3)障害のある志願者・入学者の状況
 大学等の令和4年度入学者選抜において障害のある志願者はのべ9,639人、受験上の配慮を実施した受験者数はのべ5,263人、入学者数は5,154人となっている。また、障害種別ごとの入学者の内訳は、視覚障害122人、聴覚・言語障害412人、肢体不自由285人、病弱・虚弱1,445人、重複57人、発達障害879人、精神障害1,112人、その他の障害842人である。

(4)障害のある学生の卒業者数及び卒業後の進路
 全大学等のうち令和3年5月1日現在、通学制の最高年次に在籍していた障害のある学生は9,171人で、令和3年度卒業者数は6,929人となっている。
 卒業生の進路状況は、進学が808人(卒業者数の11.7%)で就職が3,834人(55.3%)、進学者のうち、既に就職している者26人を加えた全就職者数は3,860人(55.7%)となっている。

2.配慮・支援の実施状況

 以下に主な支援の実施状況等について示す。これらの詳細は別紙1に記載する。

(1)受験上の配慮
 令和4年度入学者選抜において大学等が実施可能とした配慮は、「別室を設定」970校(82.6%)、「車椅子等の持参使用」964校(82.1%)、「松葉杖の持参使用」962校(81.9%)、「トイレに近接する試験室に指定」916校(78.0%)、「試験場への車での入構許可」913校(77.8%)である。
 一方、令和4年度入学者選抜において大学等が実施した配慮の内容は、「別室を設定」324校(27.6%)、「補聴器の持参使用」225校(19.2%)、「トイレに近接する試験室に指定」204校(17.4%)、「文書による伝達」192校(16.4%)、「試験時間の延長」189校(16.1%)である。

 (2)授業支援
 障害のある学生への授業支援実施校数は852校(全体の72.6%)であり、最も多くの大学等で実施されているのは「教室内座席配慮」607校(51.7%)、次いで「配慮依頼文書の配付」600校(51.1%)、「出席に関する配慮」584校(49.7%)、「授業内容の代替、提出期限延長等」479校(40.8%)、「講義に関する配慮」446校(38.0%)となっている。

 (3)授業以外の支援
 授業以外の支援実施校数は701校(59.7%)であり、最も多くの大学等で実施されているのは「専門家によるカウンセリング」483校(41.1%)、次いで「休憩室・治療室の確保等」306校(26.1%)、「自己管理指導」303校(25.8%)、「医療機関との連携」282校(24.0%)、「就職支援情報の提供、支援機関の紹介」267校(22.7%)となっている。

 (4)精神障害のある学生への支援状況
 精神障害のある学生に授業支援を行っている大学等数は663校(56.5%)である。授業支援で最も多いのは「配慮依頼文書の配付」485校(41.3%)、次いで「出席に関する配慮」448校(38.2%)、「授業内容の代替、提出期限延長等」346校(29.5%)、「教室内座席配慮」342校(29.1%)、「試験時間延長・別室受験」199校(17.0%)となっている。
 また、授業以外の支援を行っている大学等数は523校(44.5%)であり、最も多いのは「専門家によるカウンセリング」390校(33.2%)、次いで「医療機関との連携」200校(17.0%)、「休憩室・治療室の確保等」148校(12.6%)、「自己管理指導」及び「対人関係配慮」がそれぞれ139校(11.8%)である。

(5)発達障害のある学生への支援状況
 発達障害のある学生に授業支援を行っている大学等数は629校(53.6%)であり、最も多いのは「配慮依頼文書の配付」476校(40.5%)、次いで「授業内容の代替、提出期限延長等」344校(29.3%)、「出席に関する配慮」331校(28.2%)、「講義に関する配慮」320校(27.3%)、「教室内座席配慮」264校(22.5%)となっている。
 また、授業以外の支援を行っている大学等数は530校(45.1%)であり、最も多いのは「専門家によるカウンセリング」387校(33.0%)、次いで「自己管理指導」266校(22.7%)、「対人関係配慮」220校(18.7%)、「就職支援情報の提供、支援機関の紹介」199校(17.0%)、「医療機関との連携」154校(13.1%)である。

3.特別支援学校高等部及び高等学校からの大学等への進学状況

(1)特別支援学校高等部からの大学等への進学状況
 特別支援学校高等部の令和4年3月卒業者21,191人のうち、大学への進学者が188人、短期大学への進学者が14人、大学・短期大学の通信教育部への進学者が16人、大学・短期大学の別科への進学者が1人、(計219人(1.0%))となっている。219人の内訳は、視覚障害49人(22.4%)、聴覚障害101人(46.1%)、知的障害5人(2.3%)、肢体不自由47人(21.5%)、病弱・身体虚弱17人(7.8%)となっている。

(2)高等学校からの大学等への進学状況
 高等学校に在籍する障害のある者のうち、大学等へ進学する者に関する調査は国やJASSOにおいて実施していないが、JASSOの調査によると大学等へ入学した障害のある学生数は、令和4年度は5,154人(再掲)であり、学校基本調査によると令和4年3月卒業者のうち特別支援学校高等部からの大学等への進学者数は(1)に示したとおり219人である。調査主体が異なるため比較はできないが、これらを踏まえると高等学校から進学した障害のある学生が一定数存在すると考えられる。

4.諸外国の状況

(1)米国
 米国では、1973年に成立した「リハビリテーション法(Rehabilitation Act of 1973)」504条で、政府の資金提供を受けている教育機関における障害者差別が禁止された。また、1990年に成立した「障害のあるアメリカ人法(Americans with Disabilities Act of 1990, ADA)」では、更に広範に、州及び地方公共団体の資金提供を受ける教育機関及び私立教育機関においても障害者差別が禁止されるようになった。
 なお、米国内の高等教育機関に在籍する障害のある学部生数は約347.8 万人で、学生全体の20.5%となっている(2019-2020 年)。

(2)英国
 1995年に成立した「障害者差別禁止法(Disability Discrimination Act,DDA)」は、高等教育での差別禁止を対象範囲としていなかった。しかし、2001年の「特別な教育的ニーズと障害法(Special Educational Needs and Disability Act)」成立により、高等教育機関に合理的調整(Reasonable adjustment)が義務づけられた。さらに、2005年DDA改正では、高等教育機関を含む公的機関に障害平等義務が課せられ、これらの規定内容はすべて、「2010年平等法(Equality Act 2010)」の中に組み込まれた。また、2010年平等法はDDAと比べて、より強力な障害者差別の禁止規定を設け、障害者が法的保護をより受けやすくなっている。
 なお、英国内の高等教育機関の1年次に在籍する障害のある学生数は約33.2万人で、学生全体の17.3%となっている(2019-2020年)。

第2章 これまでに取り組むべきとされた事項の進捗状況

1.「第一次まとめ」において取り組むべきとされた事項の進捗状況

 第一次まとめにおいて取り組むべきとされた短期的課題・中長期的課題について、第二次まとめにおいて、平成24年度の各大学等の取組状況と平成27年度の取組状況を比較し、進捗の確認を行った。今回は第二次まとめ以降の取組状況の確認のため、平成27年度の各大学等の取組状況と令和4年度の取組状況を比較した。以下に示すとおり、短期的課題・中長期的課題ともに、取組を実施する大学等は引き続き増加が認められているが、一部の項目において実施大学等が減少しており、その理由の分析や状況把握が望まれる。

(1)短期的課題
1. 情報公開の状況
 令和4年度にホームページで障害のある学生への修学支援情報を公開している大学等数は772校(65.8%)で、平成27年度から464校増加している。また、令和4年度入学者選抜において、障害を理由とする配慮について入試要項及びホームページに記載した大学等は917校(78.1%)で、平成27年度から278校増加している。
2. 窓口の設置
 令和4年度に障害のある学生による支援の申出等の相談を受け付ける窓口を設置している大学等は989校(84.2%)で、平成27年度から287校増加している。
3. 体制の整備(委員会、支援部署、施設・設備等)
 令和4年度に障害のある学生の支援に関する専門委員会を設置している大学等は533校(45.4%)で、他の委員会が対応している大学等555校(47.3%)を合わせた1,088校(92.7%)で組織的な対応をしており、平成27年度から153校増加している。
 また、障害のある学生への支援担当部署では、専門部署・機関を設置している大学等が306校(26.1%)で、他の部署・機関が対応している大学等835校(71.1%)を合わせた1,141校(97.2%)で組織的な対応をしており、平成27年度から55校増加している。
4. 拠点校及び大学間ネットワークの形成
 第一次まとめで示された拠点校や大学間ネットワーク、第二次まとめで示された社会で活躍する障害学生支援センターの形成について、文部科学省において、平成29年度から令和元年度までの3年間、「社会で活躍する障害学生支援プラットフォーム形成事業」を、令和2年度から「障害のある学生の修学・就職支援促進事業」を実施し、障害学生支援に関する先進的な取組や知見を持つ大学等が中心となり、各大学等が参画できるプラットフォームを形成し、組織的なアプローチによって高等教育機関全体の障害学生支援を促進する取組を支援している。

(2)中長期的課題
1. 大学入試の改善
 令和4年度入学者選抜において、大学等が受験上の配慮を行った受験者数はのべ5,263人(再掲)で、平成27年度からのべ2,242人増加している。
2. 高校及び特別支援学校と大学等との接続の円滑化
 令和4年度に出身校や家族と連携し、必要な支援や大学等入学以前に受けていた支援に関する情報の収集を行った大学等は150校(12.8%)で、平成27年度から12校減少している。
3. 通学上の困難の改善
 令和4年度に通学支援(自動車通学の許可、専用駐車場の確保等)を行った大学等は215校(18.3%)で、平成27年度から7校増加している。
4. 教材の確保
 令和4年度に実施した授業支援のうち、点訳・墨訳は33校(2.8%)、教材のテキストデータ化は149校(12.7%)、教材の拡大は197校(16.8%)、ビデオ教材字幕付け・文字起こしは129校(11.0%)となっている。平成27年度と比較すると、点訳・墨訳が15校減少、教材のテキストデータ化が65校増加、教材の拡大が80校増加、ビデオ教材字幕付け・文字起こしが60校増加となっている。
5. 通信教育の活用
 令和4年度に大学等の通信教育課程に在籍する障害のある学生数は2,694人(障害のある学生全体の5.4%)で、大学(大学院を含む)が2,666人(障害のある大学生全体の6.0%)、短期大学が28人(障害のある短期大学生全体の1.2%)となっている。平成27年度と比較すると770人の増加となっている。
6. 就職支援
 令和4年度における障害学生に対する就職支援やキャリア教育支援(障害のある学生向けの就職ガイダンスやセミナーの実施、ハローワーク等の学外機関との連携等)の実施校数は798校で全体の68.0%となっている。平成27年度と比較すると231校の増加となっている。
7. 専門的人材の養成
 令和4年度に学内における教員向けの各種研修(FD等)を実施した大学等は429校(36.5%)で平成27年度から167校増加、学内における職員向けの各種研修(SD等)を実施した大学等は358校(30.5%)で、平成27年度から142校増加している。一方、学外における各種研修等への教職員の派遣は448校(38.2%)で、平成27年度から129校減少している。
8. 調査研究、情報提供、研修等の充実
 ○ 調査研究について
  JASSOにおいて、平成17年度から「大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」(令和4年度調査の対象校は1,174校(回収率100%))を毎年度実施するとともに、その結果を公開している。
 ○ 情報提供について
  平成28年度から令和4年度の間、毎年度、障害者差別解消法の下での紛争の防止・解決に関して、各大学等が適切な対応を行うために、参考にできる具体例を収集・分析・公表・普及することを目的とした「障害学生に関する紛争の防止・解決等事例集」を公開したほか、平成29年度には従来の「教職員のための障害学生修学支援ガイド」を刷新し、新たに「合理的配慮ハンドブック~障害のある学生を支援する教職員のために~」として公表した。
 ○ 研修等について
  JASSOにおいて、オンライン配信も活用し、「障害学生支援理解・啓発セミナー」、「障害学生支援専門テーマ別セミナー」等を開催するとともに、大学等においても、例えば「全国高等教育障害学生支援協議会(AHEAD JAPAN)」や「日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)」、「DO-IT Japan」、「筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局(BHE)発達障害学生支援プロジェクト(RADD)」、「東京大学障害と高等教育に関するプラットフォーム事業(PHED)」、「京都大学高等教育アクセシビリティプラットフォーム(HEAP)」等、が活動を行っている。
 この他にも、様々な政府機関、団体、大学等が調査研究、情報提供、研修等を実施し、障害のある学生支援に関する最新の動向や事例の紹介等を行うなど、大学等における関係者の理解促進・啓発を進めている。
9. 財政支援
 令和4年度から、国立大学法人運営費交付金において「ミッション実現加速化経費」として、障害のある学生の受入れに係る体制整備に必要な経費を計上するととともに、私立大学等経常費補助金においては、障害のある学生の受入れ環境整備等に取り組む私立大学等に対する財政支援を行うなど、支援の充実を図っている。こうした支援や第7章に記載する大学等連携プラットフォームの枠組みを効果的に活用しつつ、中小規模を含めた各大学等における取組の充実が望まれる。

2.「第二次まとめ」において取り組むべきとされた事項の進捗状況

 第二次まとめにおいて取り組むべきとされた事項について、平成27年度の各大学等の取組状況と、令和4年度の取組状況を比較すると、以下に示すとおり、全ての事項において一定の進捗が見られるものの、更なる取組の推進が望まれる。

(1)教育環境の調整
1. アクセシビリティの確保
 令和4年度に授業における支援を実施している大学等は、852校(72.6%)である。このうち、アクセシビリティ確保の取組として、教材のテキストデータ化(再掲)は149校(12.7%)、リーディングサービスは19校(1.6%)、手話通訳は55校(4.7%)、ノートテイクは143校(12.2%)、パソコンテイクは113校(9.6%)、ビデオ教材字幕付・文字起こし(再掲)は129校(11.0%)、チューター又はティーチング・アシスタントの活用は90校(7.7%)、読み上げソフト・音声認識ソフト使用は150校(12.8%)となっている。
 平成27年度と比較すると、授業における支援を実施している大学等は165校増加、教材のテキストデータ化(再掲)が65校増加、リーディングサービスが12校減少、手話通訳が1校減少、ノートテイクが31校減少、パソコンテイクが1校減少、ビデオ教材への字幕付け(再掲)が60校増加、チューター又はティーチング・アシスタントの活用が6校減少、読み上げソフト・音声認識ソフト使用が87校増加となっている。
2. 学外実習時の配慮
 学外実習時の配慮状況については、令和4年度に学外実習・フィールドワークにおける配慮に取り組んでいる大学等は270校(23.0%)となっており、平成27年度と比較すると96校の増加となっている。
3. 入試や単位認定等のための試験における配慮
 入試における配慮について、令和4年度入試において実施可能と回答した合理的配慮のうち、試験時間の延長を認めている大学等は711校(60.6%)、別室を設定している大学等は970校(82.6%)(再掲)、支援技術の利用等による情報保障として、補聴器の持参使用を認めている大学等は892校(76.0%)、パソコン等の持参使用を認めている大学等は218校(18.6%)、解答方法の変更として、チェック解答を認めている大学等は220校(18.7%)、マークシートに替えて文字で解答することを認めている大学等は172校(14.7%)、点字問題を点字で解答することを認めている大学等は146校(12.4%)となっている。
 平成27年度と比較すると、試験時間の延長が123校増加、別室を設定が67校増加、補聴器の持参使用が47校増加、パソコン等の持参使用が50校増加、チェック解答が66校増加、マークシートに替えて文字で解答が48校増加、点字問題を点字で解答が13校増加となっている。
 また、単位認定等のための試験における配慮の取組について、令和4年度に実施した取組のうち、試験時間延長・別室受験を認めている大学等は376校(32.0%)、障害の状況に応じ、試験時の解答方法の変更を認めている大学等は249校(21.2%)、注意事項等文書伝達(定期試験の際、通常は口頭で受験者に伝達する注意事項を文書にして配付あるいは板書)を行っている大学等は358校(30.5%)となっている。
 平成27年度と比較すると、試験時間延長・別室受験が155校増加、解答方法配慮が113校増加、注意事項等文書伝達が165校増加となっている。

(2)初等中等教育段階から大学等への移行
1. 入学者選抜における配慮情報の公表及び相談窓口等の整備
 令和4年度入学者選抜において、入学者選抜における受験上の配慮に関する記載を入試要項(紙)及びホームページに記載している大学等は917校(78.1%)、入学者選抜における受験上の配慮についての事前相談を「随時受け付けている」「全学共通のルールで期間を設けている」としている大学等は988校(84.2%)となっている。
 平成27年度と比較すると、入試要項(紙)及びホームページに記載が278校増加、事前相談を「随時受け付けている」「全学共通のルールで期間を設けている」は164校の増加となっている。
2. 入学後に受けられる支援情報の公開
 入学後に受けられる支援について、ホームページで修学支援情報を公開している大学等は1.(1)①に記載のとおりだが、その内訳について、令和4年度に支援の申出方法を公開している大学等は521校(44.4%)、支援内容決定のプロセスを公開している大学等は339校(28.9%)、具体的な授業支援等の支援内容の説明を公開している大学等は257校(21.9%)、キャンパスのバリアフリーマップ等を公開している大学等は184校(15.7%)となっている。
 平成29年度と比較すると、支援の申出方法を公開している大学等は236校増加、支援内容決定のプロセスを公開している大学等は196校増加、平成27年度と比較すると、具体的な授業支援等の支援内容の説明を公開している大学等は150校増加、キャンパスのバリアフリーマップ等を公開している大学等は107校の増加となっている。

(3)大学等から就労への移行
 障害のある学生に対する進路指導・就職支援を実施している大学等のうち、令和4年度に学外機関と連携を実施している大学等は690校(58.8%)、インターンシップ先、就職先の開拓、企業との連携を実施している大学等は355校(30.2%)、一般就職ガイダンス、セミナー等における配慮を実施している大学等は300校(25.6%)、障害学生向け就職ガイダンス、セミナー等を実施している大学等は191校(16.3%)となっている。
 平成27年度と比較すると、学外機関と連携を実施している大学等は265校増加、インターンシップ先、就職先の開拓、企業との連携を実施している大学等は144校増加、一般就職ガイダンス、セミナー等における配慮を実施している大学等は105校増加、障害学生向け就職ガイダンス、セミナー等を実施している大学等は115校の増加となっている。

(4)大学間連携を含む関係機関との連携
1. 他大学等及び学外機関との連携
 令和4年度に他大学等との連携を実施している大学等は294校(25.0%)、学外機関との連携を実施している大学等は508校(43.3%)となっており、平成29年度と比較すると他大学等との連携を実施している大学等は108校増加、学外機関との連携を実施している大学等は71校の増加となっている。
2. 学外の介助者の学内への入構・入室許可
 令和4年度に学外の介助者の学内への入構・入室を許可している大学等は129校(11.0%)となっており、平成27年度と比較すると24校の増加となっている。

(5)障害のある学生への支援を行う人材の配置
1. 専任の障害学生支援担当者の配置
 令和4年度の大学等における専任の障害学生支援担当者の職種別配置状況は、コーディネーターを配置している大学等は134校(11.4%)、カウンセラーを配置している大学等は41校(3.5%)、支援技術を持つ教職員を配置している大学等は9校(0.8%)、職員を配置している大学等は118校(10.1%)、教員を配置している大学等は64校(5.5%)であり、平成27年度と比較すると、コーディネーターを配置している大学等は83校増加、カウンセラーを配置している大学等は13校増加、支援技術を持つ教職員を配置している大学等は1校減少、職員を配置している大学等は37校増加、教員を配置している大学等は17校の増加となっている。
2. 兼任の障害学生支援担当者の配置
 令和4年度の大学等における兼任の障害学生支援担当者の職種別配置状況は、コーディネーターを配置している大学等は123校(10.5%)、カウンセラーを配置している大学等は400校(34.1%)、支援技術を持つ教職員を配置している大学等は15校(1.3%)、職員を配置している大学等は992校(84.5%)、教員を配置している大学等は681校(58.0%)であり、平成27年度と比較すると、コーディネーターを配置している大学等は25校増加、カウンセラーを配置している大学等は9校増加、支援技術を持つ教職員を配置している大学等は14校減少、職員を配置している大学等は66校増加、教員を配置している大学等は118校の増加となっている。

(6)研修・理解促進
1. 教職員及び学生に対する研修会等の実施状況
 令和4年度に不当な差別的取扱いや、障害を理由とするハラスメントを防止するための取組を実施している大学等は766校(65.2%)、うち教職員向け研修会等を実施している大学等は514校(43.8%)、学生向けの研修会等を実施している大学等は132校(11.2%)であり、平成29年度と比較すると、取組を実施している大学等は198校増加、うち教職員向け研修会等を実施している大学等は133校増加、学生向けの研修会等を実施している大学等は22校の増加となっている。
 また、令和4年度に社会的障壁について理解し、合理的配慮の提供を推進するための取組を実施している大学等は673校(57.3%)、うち教職員向け研修会等を実施している大学等は493校(42.0%)、学生向けの研修会等を実施している大学等は104校(8.9%)であり、平成29年度と比較すると、取組を実施している大学等は192校増加、うち教職員向け研修会等を実施している大学等は128校増加、学生向けの研修会等を実施している大学等は28校の増加となっている。
2. 障害学生支援に関する学生向け研修の実施状況
 令和4年度に障害学生支援に関する学生向け研修(ノートテイカー養成等)を実施している大学等は186校(15.8%)であり、平成27年度と比較すると、取組を実施している大学等は8校の増加となっている。

第3章 本検討会における検討の対象範囲

 本検討会では、第三次まとめの検討に当たって、第二次まとめの記載事項との継続性を考慮し、基本的にはその対象範囲を踏襲しつつ、第二次まとめにおいて明確にされていなかった、「大学等に入学を希望する者」及び「交流校からの交流に基づいて学ぶ学生」をより具体的に定義するとともに、「学生」に大学院生や通信教育課程の学生を含むことを明示し、本検討会における検討の対象範囲とすることを委員間で共有した。
 また、自治体等との連携やキャリア・就職支援、交換留学生の受入れ等、今後の参考となるような特色ある取組や支援事例を参考資料として別紙2にまとめることとした。
 以上のことを前提としながら、今回の検討の対象範囲は、次のとおりとした。

----------
(検討対象とする「学生」の範囲)
 我が国における、大学等に入学を希望する者及び在籍する学生とする。なお、大学等に入学を希望する者には、入学試験を受験する者のみならず、大学等が開催するオープンキャンパス・進学説明会等に参加する者を含む。また、学生には、大学院生及び通信教育課程で学ぶ学生のほか、国内の協定校との協定に基づいて学ぶ学生、留学生(海外の交流校との交流に基づいて学ぶ留学生等を含む。)、科目等履修生、聴講生、研究生を含むこととする(第二次まとめの対象範囲をより具体的に記載)

(検討対象とする「障害のある学生」の範囲)
 障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある学生(第二次まとめと同じ取扱い)

(検討対象とする学生の活動の範囲)
 入学(入学前のオープンキャンパス・進学説明会等、入学試験を含む)、学級編成、転学、除籍、復学、卒業・修了に加え、授業、課外授業、学校行事、課外活動(サークル活動等を含む。)への参加、就職活動等、教育研究に関する全ての事項(検討の対象範囲に大学院生が含まれることを明記したため、「教育」を「教育研究」に変更)
 上記とは直接に関係しない学生の活動や生活面への支援(通学、学内介助(食事、トイレ等)、寮生活等)に関する事項

(その他)
 学生に関係する家族や介助者(大学等が行う支援を補助する者を含む)等への配慮に関する事項(第二次まとめと同じ取扱い)
----------

 各大学等は、上記の範囲に係る障害学生支援を、合理的配慮や学内全ての学生を対象に実施している各種学生支援等を通じて適切に実施することが求められる。なお、合理的配慮は障害のある学生の社会的障壁の除去のために行われるものであり、その内容は障害のある学生個別の事情により異なるため、大学等が提供する合理的配慮は、ここで挙げた検討の対象範囲にとどまるものではない。

第4章 第三次まとめにおける用語の定義

 第三次まとめでは、障害学生支援に係る用語について以下のとおり定義する。

1.「合理的配慮」

 障害者権利条約及び障害のある学生の修学支援に関する検討会第一次まとめの定義に基づく。

(障害者権利条約 第2条)
 「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。

(障害のある学生の修学支援に関する検討会 第一次まとめ)
 大学等における合理的配慮とは、「障害のある者が、他の者と平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、大学等が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある学生に対し、その状況に応じて、大学等において教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、かつ「大学等に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」

2.「事前的改善措置」

 施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等、環境の整備を行うこと。

3.「建設的対話」

 障害のある学生本人の意思を尊重しながら、本人と大学等が互いの現状を共有・認識し、双方でより適切な合理的配慮の内容を決定するための話合いのこと。

第5章 障害学生支援に関する基本的な考え方

1.大学等における障害学生支援の在り方

 大学等には多様な学生が在籍しており、そのこと自体が大学等の価値のひとつでもある。そして、多様な学生の中には障害のある学生も含まれており、大学等はそれら全ての学生に対し、等しく教育を行う責任を負っている。こうした観点から考えると、大学等における障害学生支援は、学生に対する教育の保障という、大学等の責務を果たすために欠かすことのできないものとも言える。よって、各大学等は、自らの価値を高め、学生に対する責務を果たすため、事前的改善措置により教育環境の整備を図るとともに、障害学生支援を、障害のある学生が他の学生と平等に学ぶことができる権利を保障するための手段であるという認識の下で、着実に実施する必要がある。
 また、大学等における障害学生支援は、合理的配慮の提供に限定されるものではなく、各大学等において、障害の有無によらず、学内全ての学生を対象に実施している各種学生支援と併せて行われるものであり、合理的配慮の提供以外の学内の学生支援リソースも総合的に活用しながら行うことが望ましい。

2.「障害の社会モデル」の理解に関すること

 障害者基本法及び障害者差別解消法では、障害者を「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。」と定義し、社会的障壁については「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」としている。
 また、障害者差別解消法に基づき閣議決定された基本方針では、同法に定義する障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、「障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとする、いわゆる『社会モデル』の考え方」を踏まえており、「したがって、法が対象とする障害者の該当性は、当該者の状況等に応じて個別に判断されることとなり、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない。」とされている。
 本来大学等は、全ての学生が平等に「教育を受ける権利」等を享有・行使できる場である。しかしながら、「障害の社会モデル」の考え方に基づくと、障害のない学生を前提として構築された大学等の仕組みや構造が、障害のある学生にとっての社会的障壁となっている場合がある点に留意が必要である。
 よって、各大学等では、障害学生支援の現場に関わる教職員のみならず、大学等の構成員全てがこのことを理解し、事前的改善措置や合理的配慮の提供により社会的障壁を除去するとともに、各種学生支援リソースも総合的に活用しながら、平等な学びが得られる教育環境の実現に向けて取り組むことが必要である。

3.障害者差別解消法上の大学等の義務と努力義務

 障害学生支援の根拠となる法は、障害者権利条約、障害者差別解消法、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(以下、「読書バリアフリー法」という。)、身体障害者補助犬法を含め多数存在する。これらの法の遵守が大学等に求められていることを改めて確認した上で、ここでは障害者差別解消法が大学等に課す義務として、不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供を取り上げるとともに、同法が大学等に課す努力義務として環境の整備について説明する。なお、これらは、障害のある学生の授業等を担当する教員個人や障害学生支援部署のみの責任として行うものではなく、組織全体の責任として、責任体制を明確にして行うものである。

(1)不当な差別的取扱いと合理的配慮の考え方
 不当な差別的取扱いとは、障害のある学生に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害がない学生に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害のある学生の権利利益を侵害することを意味する。車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等を理由として行われる不当な差別的取扱いも、障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当する。正当な理由に相当するのは、障害のある学生に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合である。事故の危惧がある、危険が想定されるなどの一般的・抽象的な理由は正当な理由に当たらない。
 合理的配慮とは、大学等が、個々の場面において、障害のある学生から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮を行うことを意味する。言い換えると合理的配慮は、「障害の社会モデル」の考え方を踏まえたものであり、障害のある学生の個々の必要に応じ、過重な負担を伴わず、社会的障壁を除去し、障害のある学生の意向を十分に尊重し、大学等の本来の業務に付随し、障害のある学生の機会を平等にするもので、事柄の本質を変更しないものをいう。
 そして、不当な差別的取扱いと合理的配慮の不提供は、第3章に記載した検討対象とする学生の活動の範囲のすべて、すなわち大学等が関係するあらゆる場面で発生しうるという認識が不可欠である。

(2)不当な差別的取扱いと合理的配慮との関係
 不当な差別的取扱いと合理的配慮は、どちらもルール(規則、規程、細則、規定、基準、方針、慣習、慣行等)に例外を設ける機能をもつことがある。そのため、大学等がルールに例外を設けるという行為が、不当な差別的取扱いと合理的配慮のどちらになるかが問題となることがある。例えば、授業において学生全員から発言を求めるという慣行がある場合に、教員が合理的配慮のつもりで授業中に障害のある学生を指名しなかったが、障害のある学生としては障害ゆえに指名されなかったので不当な差別的取扱いを受けたと考えた、ということがある。建設的対話を怠り、障害のある学生の意向を十分に尊重せずにルールに例外を設けると、このような事態が生じうる。また、大学等がルールに例外を設けないという行為が不当な差別的取扱いと合理的配慮の不提供のどちらにも当たることがある。例えば、大学等が動物の帯同を認めないという従来のルールに例外を設けず、障害のある学生に補助犬の帯同を認めない場合は、障害のある学生への合理的配慮の不提供となりうるとともに、不当な差別的取扱いにもなりうる。
 表面上中立的なルールは、基本的に不当な差別的取扱いに当たらない。ただし、当該ルールは合理的配慮の対象となりうる。例えば、自家用車による参加の禁止というルール(表面上中立的なルール)は、障害を直接理由とするものではなく、障害のある学生のみに関連する事柄である補助犬や車椅子などを直接理由とするものでもないため、それ自体は不当な差別的取扱い(直接差別)に当たらない。もっとも、当該ルールは合理的配慮の対象(例外設定の対象)となりうる。また、当該ルールが客観的にみて真に必要である場合ではないにもかかわらず、障害のある学生を排除するためにあえて当該ルールを設けている場合は、不当な差別的取扱いに該当する。
 大学等が障害のある学生に合理的配慮を提供したことを理由として不利益な取扱いをすることは、合理的配慮に付随して禁止されるものであり、不当な差別的取扱いにもなりうる。例えば、授業において障害のある学生に合理的配慮を提供したことにより当該学生の成績評価を下げることは禁止されるうえ、不当な差別的取扱いにもなりうる。また、合理的配慮の提供過程において、大学等が障害のある学生に対し、ハラスメント行為をすることも合理的配慮に付随して禁止されるものであり、不当な差別的取扱いにもなりうる。
 なお、実習を伴う授業において、実習に必要な作業の遂行上具体的な危険の発生が見込まれる障害特性のある障害のある学生に対し、当該実習とは別の実習を設定することは、障害のある学生本人の安全確保の観点から正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる。ただし、この場合、少なくとも障害のある学生に対する合理的配慮を尽くしておかなければ、正当な理由は認められない。

(3)合理的配慮と環境の整備との関係
 合理的配慮は、障害のある学生本人の意向を尊重しつつ、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で柔軟に対応がなされる必要がある。建設的対話に当たっては、障害のある学生にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を当該学生と大学等が共に考えていくために、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要である。例えば、障害のある学生本人が社会的障壁の除去のために普段講じている対策や、大学等が対応可能な取組等を対話の中で共有する等、建設的対話を通じて相互理解を深め、様々な対応策を柔軟に検討していくことが円滑な対応に資すると考えられる。また、障害のある学生が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には、大学等が当該学生に対してより適切と思われる合理的配慮を提案するために建設的対話を働きかけるなど、自主的な取組に努めることが望ましい。
 環境の整備とは、大学等が個別の場面において個々の障害のある学生に対して行われる合理的配慮を的確に行うための不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置を講じることを意味する。環境の整備においては、新しい技術開発が投資負担の軽減をもたらすこともあることから、技術進歩の動向を踏まえた取組が期待される。また、ハード面のみならず、教職員に対する研修や、規程の整備等の対応も含まれることが重要である。さらに、学生が利用する学内のオンラインシステム(履修登録システムや学習管理システム(ラーニング・マネジメント・システム)等)のアクセシビリティの確保・向上についても対応が求められる。
 障害を理由とする差別の解消のための取組は、障害者差別解消法や高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律等不特定多数の障害者を対象とした事前的な措置を規定する法令に基づく環境の整備に係る施策や取組を着実に進め、環境の整備と合理的配慮の提供を両輪として進めることが重要である。合理的配慮と環境の整備は、社会的障壁を除去するものである点では同じであるが、以下の点などで異なる。合理的配慮は基本的には個々の障害のある学生から意思が表明された後に建設的対話を経て大学等が提供する過程をとるため、個別的・事後的な性格を有する。これに対して、環境の整備は、個々の障害のある学生から意向が表明される前に不特定の障害のある学生を念頭に置いてあらかじめ行われる過程をとるため、一般的・事前的な性格を有する。
 合理的配慮の提供時には障害のある学生の意向を十分に尊重することなどのため建設的対話が重要となるが、環境の整備においても障害のある学生などの意向やニーズを反映させるための建設的対話が求められる。その上で、合理的配慮の提供と環境の整備との関係については以下の例が挙げられる。
 ○ 障害のある学生から申込書類への代筆を求められた場合に円滑に対応できるよう、あらかじめ申込手続における適切な代筆の仕方について教職員研修を行う(環境の整備)とともに、障害のある学生から代筆を求められた場合には、研修内容を踏まえ、本人の意向を確認しながら教職員が代筆する(合理的配慮の提供)。
 ○ オンラインでの申込手続が必要な場合に、手続を行うためのウェブサイトが障害のある学生にとって利用しづらいものとなっていることから、手続に際しての支援を求める申出があった場合に、求めに応じて電話や電子メールでの対応を行う(合理的配慮の提供)とともに、以後、障害のある学生がオンライン申込みの際に不便を感じることのないよう、ウェブサイトの改良を行う(環境の整備)。
 なお、多数の障害のある学生が直面し得る社会的障壁をあらかじめ除去するという観点から、他の障害のある学生等への波及効果についても考慮した環境の整備を行うことや、相談・紛争事案を事前に防止する観点からは合理的配慮の提供に関する相談対応等を契機に、大学等の内部規則やマニュアル等の制度改正等の環境の整備を図ることは有効である。また環境の整備は、障害のある学生との関係が長期にわたる場合においても、その都度の合理的配慮の提供が不要となるという点で、中・長期的なコストの削減・効率化にも資することとなる。

4.障害の根拠資料に関する考え方

 第二次まとめにおいて示したとおり、障害のある学生から社会的障壁の除去を必要としている旨の申出を受けた際には、大学等は個々の状況を適切に把握するため、学生から障害の状況に関する根拠資料の提出を求めることが適当である。根拠資料は、大学等が学生の障害の状況を把握し、合理的配慮を適切に提供するために確認するものとして有効である。
 しかし、障害の内容によっては、資料の取得に時間を要する場合や、根拠資料の提出自体が困難な場合があるため、個々の状況に応じた柔軟な対応も求められる。よって大学等は、そのような状況を考慮することなく、一律に「根拠資料がなければ合理的配慮を一切提供しない」といった、形式的な対応をとらないよう留意する必要がある。
 このため、障害のある学生が根拠資料を取得する上で支援を行うことや、建設的対話等を通じて、本人の社会的障壁の除去の必要性及び障害の状況が明確に現認できる場合には、根拠資料の有無にかかわらず、合理的配慮の提供について検討することが重要であることは改めて強調したい。

5.学内の教職員向け対応要領・ガイドライン等

 障害者差別解消法では、国立大学等に対して教職員向け対応要領の作成を義務付けているが、公立大学等は努力義務であり、私立大学等には作成を義務付けていない。しかしながら、大学等やその設置者が、組織として責任の所在を明確にし、障害学生支援に取り組むためには、教職員の共通認識が不可欠であり、その手段として、公立大学等や私立大学等においても教職員向けの対応要領・ガイドライン等を作成することが有効である。
 また、既に教職員向け対応要領・ガイドライン等を作成済みの場合においても、今回の障害者差別解消法や文部科学省対応指針等の改正を踏まえ、既存の対応要領・ガイドライン等の見直しを行うことが重要である。なお、その際は、あらかじめ障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講じることが、国立大学等は義務付け、公立大学等は努力義務とされていることに留意する必要がある。
 特に公立大学等においては、設置者である自治体の対応要領のみを参照して職員対応要領を作成したことにより、教育機関としての責任体制等の記載が不十分な事例があるとの指摘もあるため、その特性を踏まえた対応要領への見直しを行う必要がある。
 なお、附属学校や附属病院等の施設を有する大学等やその設置者においては、対応要領・ガイドライン等において当該施設の性質も勘案した内容を盛り込むことも、障害学生支援を適切に実施するに当たり有効である。

6.障害のある学生の意思表明を促す取組

 障害のある学生本人の意向を正確に把握し、合理的配慮の提供に結びつけるためには、大学等においても、学生自身が適切に意思表明できるよう工夫することが重要である。こうした工夫として、学生自身が自己理解を深め、セルフアドボカシー(自己権利擁護)の力を身に付けられるようなプログラムや機会を提供し、自身が大学等で学ぶに当たり、真に必要となる合理的配慮は何であるかを、学生が自分自身で決定し、表明できるよう導くといった取組なども考えられる。
 また、学生自身のセルフアドボカシーの能力向上だけではなく、障害のある学生の支援を行う者(以下、「支援担当者」という。)等を通じ、自身に必要な支援の利用の仕方について学ぶことも重要である。ただし、意思表明及びセルフアドボカシーの能力の状態や程度等が、合理的配慮の提供の可否に直結するものとならないよう留意しておく必要がある。

第6章 障害学生支援における諸課題への考え方と具体的な対処の取組

1.学内の体制整備

(1)支援体制の構築と学内での浸透
 大学等の役員や管理職は、法的義務となる障害学生支援の重要性を適切に認識することが極めて重要である。その上で率先して学内に支援体制を構築するとともに、教職員のFD・SD等を通じて障害学生支援の重要性を浸透させる取組が必要である。そして、このような理解・啓発の取組を一過性のものとせず、定期的な研修のひとつに位置付けること、さらに、新採用の教職員の研修プログラム等において入職時に基本的な理解を促すなどの取組が重要である。また、非常勤教員等に対しても同様に、障害学生支援の必要性や学内の支援体制等を伝えて、障害のある学生に対する合理的配慮等について理解を促し、担当する授業等における具体的対応について確認することが重要である。
 特に、第5章2.に記載した「障害の社会モデル」は、障害学生支援の基本的な理解に関わるものであり、支援に携わる教職員のみならず、大学等の構成員一人一人が理解することが必要である。また、全ての構成員の各業務において、ステークホルダーとなる学生の権利を意識し、他の学生と同様にその権利が保障されることを確保する必要がある。このような理解及び具体的な対応の必要性を全学的に共有し、障害学生支援を大学等の基盤的な機能として根付かせる必要がある。

(2)学内における支援人材の配置・育成
 支援担当者は、多くの大学等に配置されているが、その内訳としては、職員や教員を兼任として配置している場合が多い(第3章2.(5)参照)。コーディネーター、カウンセラー、支援技術を持つ教職員等、専門的知識を有する支援担当者の配置は、専任・兼任ともに低い状況である。
 支援担当者の養成・配置に関する考え方は第二次まとめにおいて示しているが、障害のある学生への支援は長期間にわたり継続的かつ安定的に行うことが求められることに加え、支援担当者は関係する教職員との間で障害のある学生への合理的配慮の提供のために必要な調整を行うことが求められる。また、障害学生支援が教育の責務を果たすために必要であるという観点から、大学等は、支援担当者が、全ての教職員が適切に障害のある学生と関わることをサポートするために必要な「機能」であることを認識する必要がある。
 各大学等においては、専門的知識を有する支援担当者を配置し、大学等の規模や学生の状況等を勘案しながら、長期的に支援を担えるための体制を、大学等が責任をもって構築することが必要であり、更なる専門性の向上やキャリアパスの構築を推進することが重要である点は改めて強調したい。

(3)学内の学生支援部署の連携
 大学等における障害学生支援の在り方については第5章1.で示したとおりだが、その実施に当たり合理的配慮の提供以外の学内の学生支援に関するリソースも総合的に活用しながら行うことが望ましい。
 このため、学生の窓口となる事務担当部署、障害学生支援の担当部署、及び他の学生支援を担当する学生相談センターや保健管理センター、学修支援センター、キャリアセンター等が有機的に連携し、それぞれの観点から障害学生支援を行うことが必要である。
 特に、学生相談センターや保健管理センター等は、障害のある学生が利用する場合もあり、障害学生支援担当部署との重複的な利用も想定される。従って、これらの部署の連携に当たっては、事前に双方の機能について十分に理解し、障害のある学生に対してどのような関わりが可能かについて共通認識を持つことが重要である。
 また、キャリアセンター等においては、障害のある学生のキャリア教育・キャリア支援についても能動的な取組を実施する必要があるため、障害学生支援担当部署との連携・協働が求められる。これらの取組は就職活動の時期に限らず、低年次の頃から働きかけることで、障害のある学生の社会進出の選択肢が増加するとともに、スムーズな就職活動の開始につなげることが期待できる。
 ただし、個人情報の取扱いについては十分に留意する必要がある。組織内の合意形成や各部署における個人情報保護に関する理解啓発に加え、障害のある学生本人の意向を確認し、情報共有が必要な場合には事前の説明と承諾を得ること等のプロセスが不可欠である。

(4)3つのポリシーやシラバス
 大学等における教育の実施主体である学部、学科、研究科等(以下、「学部等」という。)では、学部等の責任の下、「障害の社会モデル」の観点から、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーに、障害のある学生にとって社会的障壁となるような項目が含まれていないか確認するとともに、教育の提供方法を調整することで教育の目的・内容・評価の本質を変えずに社会的障壁の除去が可能であるかといった合理的配慮の妥当性が判断しやすくなるよう、必要に応じて見直しを行うことが望ましい。例えば、3つのポリシーに示される各能力について、なぜ・どのような能力を求めるのかを具体的に記載し教育の本質を明確化することなどが考えられる。
 また、シラバスについても、障害のある学生の受講や合理的配慮の提供を想定しないまま作成したことによって、意図せず障害のある学生の参加を妨げる記載になってしまうことがある点に留意が必要である。このような記載は、間接差別につながってしまう可能性もあるため、学部等が主体的に見直しを行うことが重要である。その際、第5章6.に記載した学生の意思表明を促す教育環境の整備の観点からも、各大学等における合理的配慮の申請方法や障害のある学生に対する各教員の対応方針など、各授業での合理的配慮に結びつくような文言をシラバスに入れることが推奨される。

2.合理的配慮の提供における諸課題

 平成28年の障害者差別解消法の施行に伴い、各大学等では様々な合理的配慮が実施されてきているが、一方で、幾つかの課題も発生していると指摘されている。ここでは具体例を挙げ、その適切な対応の在り方をまとめる。

(1)大学等が提供する合理的配慮と本人の意向との齟齬
 第二次まとめでは、合理的配慮の提供について「原則として、障害のある学生本人から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合」に行うとされており、本人からの申出を前提としていることから、合理的配慮を希望する障害のある
学生本人の意向を最大限尊重した上で、その内容を決定しなければならない。しかしながら、
 ○ ゼミの割当て等の場面で、実験系より理論系のゼミの方が向いているだろう、当該学生の障害のことを一番よく理解している教員が担当した方がよいだろうといった推測に基づき、希望とは異なるゼミに割り当てる。
 ○ 本人の意向を確認せずに、所属学部等の判断で実習やフィールドワークの授業において、実習を免除したり、レポートに代替したりする。あるいは、体育の実技科目を見学に変更する、希望と異なる種目にする。
 ○ ずっと周りに支援学生がいるよりは、一人で授業に参加できた方がよいだろうとの推測から、自動音声認識等の支援ツールを用いて授業に参加するよう求める。
など、本人の意向を確認・尊重せずに対応を決める、あるいはルールの例外を設ける等、合理的配慮のつもりで実施した行動が、結果的に差別的取扱いと受け取られてしまうことも考えられる。
 このような事態を避ける観点からも、建設的対話を通じて、本人の意向を丁寧に確認した上で合理的配慮の内容を決定する必要があることに留意しなければならない。

(2)合理的配慮の内容決定の長期化
合理的配慮の内容決定においては、障害のある学生から意思表明を受けた後、
 ○ 学内での協議や、そのための委員会の開催、決裁手続等に時間を要してしまい、その間、合理的配慮が提供されないまま時間が過ぎてしまう。
 ○ 根拠資料の必要性を重視する余り、診断書等の提出を厳格に求め、それらの資料がそろうまでの間、合理的配慮を提供しない。
 ○ 障害のある学生の所属学部等と障害学生支援室の連携不足により、合理的配慮が提供されるまでに時間を要してしまう。
等により、合理的配慮の内容の決定に数か月かかる場合があるなど、障害のある学生が入学当初から合理的配慮を適切に受けられない事例や、休学中の学生が希望の時期からの復学ができない事例などが発生しているとの指摘がある。
 より適切な合理的配慮を実施するために慎重な判断が必要となるなどやむを得ない場合もあるが、決定の長期化は、障害のある学生にとって修学意欲の減退や大学等に対する不信感となり、休学・退学につながることも考えられる。
 このため、大学等は合理的配慮に関する情報発信や情報公開を積極的に行い、障害のある学生が支援部署にアクセスしやすい環境を整備するとともに、障害のある学生との建設的対話を早い段階から行うことにより、当面必要となる合理的配慮を決定の上、順次、その内容を更新していくことが重要である。また、対話開始後、円滑に支援内容の決定につなげていけるよう、これを阻害している要因を取り除くとともに、学内体制や手続の見直しを行っていくことも必要である。
 なお、合理的配慮の内容の決定に当たっては、例えば当該学生の許可を得て、出身校や家族等からも大学等入学以前に受けていた支援に関する情報を収集することなども考えられる。

(3)合理的配慮に係る対応の固定化
 一部の大学等では、
 ○ 障害のある学生のニーズを固定的なものとして捉えており、一度、合理的配慮の内容を決定したら、簡単には変更ができない。
 ○ 大学等が提供する合理的配慮の内容を固定していて、障害のある学生が個別の事情により、それ以外の合理的配慮を求めても、柔軟な対応を行わない。
 ○ 合理的配慮の内容を決定する委員会等が、授業の本質の変更を伴うような配慮内容を担当教員不在のまま決定したことにより、障害のある学生と授業担当教員との間でトラブルが発生する。
 ○ 入学時や大学等が指定した時期に合理的配慮の申請を行わなかったことを理由に、一律に合理的配慮の申請を受け付けない。
 ○ 合理的配慮の申請や回答を、障害のある学生の個別の状況を考慮せずに一律に文書で行うこととし、学生が相談を申し出ても建設的対話に応じない。
などの場合があることが指摘されている。
 特に入学時における合理的配慮の申請の段階では、学生は、大学等の設備や、大学等の授業形態(大規模教室での授業、少人数のゼミ形式の授業、実験・実習等)を十分に理解しているわけではない。加えて、学修内容や環境の変化に伴い求められる能力や対応力が変わることや、障害の進行等により、入学時には学生自身も想定していなかった新たな社会的障壁が発生する場合もある。このため、入学時に合理的配慮の申請を行わなかった学生が、合理的配慮を新たに申請することなども考えられる。
 第二次まとめにおいても、「提供した支援についてのモニタリングを行い、必要がある場合には内容の調整を行う」とされており、学生との建設的対話を継続して行い、より適切な合理的配慮に結びつけることが重要である。したがって、大学等は、障害のある学生が相談しやすい環境の整備に努め、常に合理的配慮の内容を柔軟に変更することができる体制を構築することが必要である。

(4)大学院での研究指導における合理的配慮
 障害のある大学院生の数は、令和4年度においては2,574人であり、10年前の平成25年度の735人から年々増加している。大学院生に対する合理的配慮は、授業において提供されるものにとどまらず、研究指導においてもより重要となる。例えば、研究室における合理的配慮の提供や、研究の礎となる資料等のアクセスを保障するため、読書バリアフリー法に基づく視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等の提供等は、障害のある大学院生が研究指導を受ける上で、特に重要である。

(5)通信教育課程における合理的配慮
 障害者差別解消法の改正に伴い、通信教育課程においても例外なく合理的配慮の提供が義務づけられることとなる。しかし本章で取り上げている事例に加え、学費が安価であること等を理由に合理的配慮の提供が困難であるとする場合があるなどの指摘もある。合理的配慮の提供は建設的対話を通じて判断されるものであることから、通信教育課程においても、障害学生支援の担当者(コーディネーター等)を配置することや、通学課程の障害学生支援担当部署と連携して対応に当たること、通学課程に有する人材や機器等のリソースを通信教育課程とも共有していくこと等、必要に応じて体制面での見直しを行うことが重要である。
 また、通信教育課程の特性に鑑み、あらかじめ映像教材に字幕を付与したり、教材のテキストデータを配布したりするなど、合理的配慮と併せて環境の整備に取り組んでいくことも有効である。

3.紛争の防止・解決

(1)紛争の防止・解決のスキーム
 障害のある学生と大学等との間で相互に要求と拒絶が行われているプロセスを「紛争」というが、この紛争の防止・解決のための第三者組織については、第二次まとめにおいて考え方が示されている。
 令和4年度現在、紛争の防止・解決等に対応する機関がある大学等は52.3%、そのうち、第三者視点で調整を行う専門機関を設置している大学等は7.4%、ハラスメント委員会等の他の機関で対応している大学等は44.9%となっており、依然として、半数近くの大学等で必要な組織が設置されていない状況である。
 紛争が長期化すれば、配慮内容の決定の長期化につながるだけでなく、学生本人及び大学等の双方にとって多大な負担が生じ、本来学生本人が享受するはずであった修学の機会を逸する可能性がある。このため、各大学等が、障害の社会モデルに基づき、紛争を未然に防ぐ、あるいは迅速に解決するための体制づくりを進めることは極めて重要である。
 なお、障害のある学生には、学内の紛争解決のための組織に加えて、障害者差別解消法に基づく紛争解決のための学外の相談窓口の存在を周知するとともに、必要に応じてこれらの組織の連携を図ることが重要である。
 また、紛争防止・解決のプロセスやフローを作成・公表することは、手続の透明化につながり、大学等と障害のある学生との信頼関係の構築手段として有効である。

(2)入試における合理的配慮の提供に関する紛争の防止・解決
1. オープンキャンパス・進学説明会における課題と対応
 障害のある受験生が、オープンキャンパス・進学説明会において、
 ○ 障害学生支援組織や学部等の検討を経ず、その場で対応した担当者の判断で合理的配慮の提供を断る、あるいは相談窓口への取次ぎを行わない。
 ○ 障害のある入学希望者からの問合せに対して、「前例がない」ことを理由に合理的配慮の提供を断る。
 ○ 授業や実習等のカリキュラムや、卒業後の進路選択における困難性を一方的に説明し、それに耐えることができないことを理由に受験生自らが入学を断念するようにする。
等の対応を受けている事例が指摘されており、これらは、障害者差別解消法によって禁止されている不当な差別的扱いに該当すると考えられる場合がある。
 各大学等は、オープンキャンパス・進学説明会等において、障害のある受験生から入試や学修面における合理的配慮の相談を受けた場合には、障害学生支援部署と連携して対応に当たるなど、丁寧な対応を心掛ける必要がある。
 具体的には、入試や授業内容・カリキュラムについて説明しながら受験生が感じている不安や要望を聞き取り、本人のニーズを把握するとともに、社会的障壁を取り除くために大学等として何ができるかを共に考え、現段階で提供しうる情報を伝えていく必要がある。加えて、入学決定後、速やかに合理的配慮の提供体制について検討に入れるよう、障害学生支援部署等とも情報共有を行い、必要な準備を行っていくことが求められる。
2. 入学試験における課題と対応
 入学試験は、全ての受験生にとって公平公正でなければならないが、そのため の方法を十分に模索することなく、
 ○ 他の受験生への影響が大きいことを理由に、障害のある受験生が必要とする合理的配慮の提供を拒む。
 ○ 不正の可能性があることを理由に、本人が使い慣れたパソコンやタブレット 端末等の機器の利用を一律に拒む。
 ○ 過剰な負担か否かではなく、今後人数が増えたら対応できないという漠然とした問題を理由に、合理的配慮の要望を受け付けない。
等の対応が行われている事例が指摘されている。
 現在、大学等では多様な選抜方法が導入されているが、どのような選抜方法であるかにかかわらず、合理的配慮を適切に実施することが重要である。その際、受験生側も自身に必要な合理的配慮を全て把握しているわけではないことや、受験大学等の設備や試験形態を十分に理解していない可能性があることから、受験生との建設的対話を通じ、より適切な配慮に結びつけることが重要である。また、合理的配慮を決定するまでのプロセスや配慮決定までの期間を伝えるなど、申請手続を明確に示しておくことや、評価方法を明確化しておくことが望ましい。
 なお、合理的配慮を行っていることを理由に入学試験の結果を減点することや、特定の科目が免除されているにもかかわらず、そのことを考慮せずに一律に合計点を比較することによって、合理的配慮を受けた受験生に対して不利な扱いをすることは、不当な差別的取扱いに該当することに留意が必要である。

4.オンライン学修における合理的配慮の在り方

 オンラインでの学修機会の提供(以下、「オンライン学修」という。)による授業への参加は、様々な障害のある学生にとって、通学等にかかる移動の負担等を軽減することで、授業に参加する上での障壁を解消する可能性がある変更・調整方法の一つである。
 また、オンライン学修を行う際は、当該科目を一律にオンライン学修としなければならないものではなく、科目を構成する授業ごとの特色を踏まえ、対面による実施とオンライン学修による実施を組み合わせたブレンディッド型授業とすることも考えられる。
 一方で、個別のニーズに応じたオンライン学修の実施は、本来、対面で参加すべき授業における教育内容の本質を変更してしまう可能性や、本来対面で実施するように計画された授業を、オンライン又はブレンディッド型授業でも参加できるように授業の環境を個別に整えることが担当教員に過重な負担を生じさせることも想定される。すなわち、障害のある学生への合理的配慮として、画一的にオンライン参加を認めることは極めて困難である。そのため、障害のある学生の個別の状況と当該授業の個別の状況を総合的に考慮して、オンライン参加の可否を個別に判断しなければならない点に留意する必要がある。
 しかしながら、オンライン学修による授業への参加は障害や疾患をはじめとする多様なニーズのある学生にとって、効果的な支援方法の一つでもある。このことから、教育内容の本質を変更しなくともオンライン学修に変更可能であると担当教員が判断できる授業では、学生のオンラインでの参加を受け入れる上で、教職員等に過重な負担を生じないよう、大学等がオンライン学修を実施しやすくするよう事前的改善措置を講ずるとともに、ユニバーサルデザインの観点の必要性について理解啓発を図ることも期待される。
 なお、例えば、学部等として一律に「オンラインへの代替希望には対応しない」と決定することや、シラバス等において「当該科目は、オンラインによる提供はいかなる理由にかかわらず実施しない」といった記載をすることは、必要な調整を行うことなく一律に対応を断るものと解されるため、合理的配慮の提供義務違反に該当することとなる点に留意する必要がある。加えて、提供が容易であるなど、大学等の事情によって、本人の意向の尊重及び教育の質の担保の観点を踏まえずにオンライン学修の措置を行うことは適切ではない。

5.合理的配慮とテクノロジーの活用

 近年、障害者を支援する機器やアプリケーション等(以下、「機器等」という。)が、著しく発達している。テクノロジーを活用した支援は、大学等での授業、試験、学内のオンラインシステム及び図書や資料等のアクセシビリティの保障に留まらず、自宅や学外、オンライン学修等においても一貫して、学生本人の学修活動への参加におけるアクセシビリティの保障につながるため、大学等は学内にテクノロジーを活用した支援ができる体制を整えることが期待される。
 特に、機器やソフトウェアについては学生ごとに使い方に習熟しているものや習熟の度合いが異なることが想定されるため、大学等は、これらを活用する知識や実務に習熟した教職員を配置・育成するほか、受験上の合理的配慮の事前相談のプロセス等で、学生本人と十分に合意形成のための相談を実施しておくことが望ましい。
 また、大学等において支援実績のない機器等を、入学以前の教育段階等より活用している障害のある学生から、これらの機器を活用した合理的配慮を求められることも考えられる。各大学等においては、連続性のある合理的配慮の提供に当たり、建設的対話を通じて、過重な負担とならない範囲でこれらの機器等についても、積極的な活用を検討することが望ましい。
 一方で、音声や文字認識機能を有するアプリケーション等、何らかの機器等を利用して障害学生の合理的配慮を実施する場合、場面や利用方法によっては、合理的配慮として十分な機能を果たしていないにもかかわらず、そのことが検証されないまま利用が続けられている例があるとの指摘もある。このような状態は、教育の質的低下にもつながりかねないため、テクノロジーを利用する場合には、障害のある学生に対して適宜モニタリングを行うなど、十分な質的評価を実施するとともに、人的支援と組み合わせて利用するなど、機器等のみに依存しない支援体制を構築していく必要がある。
 なお、文部科学省対応指針等において、「車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等の社会的障壁を解消するための手段の利用等を理由として行われる不当な差別的取扱いも、障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当する」と新たに規定されたところであり、各大学等においても、障害に伴う社会的障壁を解消するために支援機器等を利用することを正当な理由なく禁止することや、機器を利用したことを理由として当該科目の成績評価において不利な扱いをすることは、不当な差別的取扱いに該当することに留意する必要がある。

6.障害のある学生の就職等の支援

 我が国には、障害のある学生が卒業した後の進路として、福祉的支援も含めて多様な選択肢が存在する。このため、障害のある学生の就職においては、通常のキャリア・就職支援に加えて、これらを考慮した支援が必要である。
 しかしながら、障害のある学生自身は、そうした選択肢や支援の存在について、十分な情報を得ているとは限らない状況がある点に留意が必要である。また、それらの選択肢や支援は決して画一的なものではなく、個々の企業等や就労を希望する地域の経済状況、福祉に関する社会的資源の状況等によって、雇用の環境や業務の内容、企業等が行う障害に関する支援の内容、利用できる福祉的な支援の内容が大きく異なる点に留意が必要である。
 いずれにしても、大学等は、全ての学生に対して学内外のキャリア・就職支援に関する情報を提供する必要がある。加えて、障害のある学生に対しては、就職における多数の選択肢の存在や福祉的支援等の社会的資源について適切な情報を収集し、それらについて理解を深めた上で、障害のある学生本人に効果的に情報提供することが期待される。

7.障害のある学生の災害時対策

 各大学等においては、いつ何時、何らかの災害に見舞われる可能性を想定し、あらかじめ障害のある学生の災害時の避難行動や避難場所などを確認するとともに、避難に当たり直面する社会的障壁に対して事前的改善措置を講じておくことは、障害のある学生が適切に避難行動を取るために有効な手立てとなる。また、このような災害時対策や、障害のある学生の存在を念頭に置いた防災訓練を実施することは、支援部署や支援担当者をはじめ、周囲の教職員等とも共通認識を持つことが重要である。また、障害のある学生の災害時の対応は複数想定しておくことも必要である。

8.大学等と国・地域・企業・民間団体等との連携

 障害学生支援は、各大学等が能動的に組織内の支援体制を構築し、合理的配慮等の具体的な対応を実施する責任があるが、一方で大学等が単独で対応することが難しい場合もある。そのような場合は、第2章1.(2)⑧に示した、JASSOや様々な団体・大学の取組への参加に加え、国や自治体の支援の活用や地域内の大学等との連携、障害のある学生や大学等のサポートを行う企業や民間団体と連携することも有効である。

(1)自治体や地域の支援機関等との連携
 障害のある学生の地域生活については、自治体の福祉サービスの利用や医療的な地域資源の活用などが重要になる場合がある。そのため、各大学等が所在している地域において、大学生等でも活用できる福祉サービス等を理解し、必要に応じて障害のある学生に促すような関わりも大切となる。また、そのような関わりを想定して、自治体や地域の支援機関等とのネットワークを構築しておくことも重要な要素である。
 特に、障害のある学生が学生生活を送るための移動介助(通学等)や生活介助(パーソナルな身辺介助等)については、学生本人の居住している自治体や大学等が所在している自治体等との連携が重要な要素となるため、そのことについて学生本人との共通認識をもとに対話的・段階的に課題解決を図るようなプロセスが重要である。

(2)地域の障害学生支援ネットワークや、大学等のサポートを行う企業や民間団体の活用
 障害のある学生の支援においては、学内外での授業における合理的配慮、その際 の環境の整備やテクノロジーの活用、学内の他部署等との連携、身体介助や医療等の社会的資源の活用、就労への移行など、実務の範囲は多岐にわたるため、自大学等の学内の関係者のみでは知識や経験がなく、時宜を得た対応が難しい課題に直面することは珍しくない。そのため、大学等は、学外の多様な障害学生支援ネットワークを積極的に活用して、学内の支援の質を高めていくことが求められる。
 大学等からの相談に応じる窓口を持つJASSOの拠点校や、障害学生支援に関する全国プラットフォーム等の全国的なネットワークのほか、地域によっては、近隣の大学等が集まり、障害学生支援をテーマとした地域独自のネットワークを構築している例もある。また、その際、自治体や地域の既存の大学ネットワーク等が地域内の大学等での障害学生支援に関するネットワーク構築をバックアップしている例もある。その地域独自の課題を共有しつつ、障害学生支援に関する多岐にわたる知識や経験を共有し、相互に支え合う取組の発展が期待される。
 また、一般社団法人企業アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE)や一般社団法人全国障害学生支援センター等、障害のある学生や大学等のサポートを行う企業及び民間団体も存在している。各大学等は、必要に応じてこうした学外の組織と連携し、障害学生支援の充実に取り組むことが望ましい。

第7章 大学等連携プラットフォームの枠組みの更なる活用

 我が国の大学等における障害のある学生の在籍者数はJASSOの調査によると増加しており、求められる支援も多様化している。このような状況の中、令和6年4月には改正障害者差別解消法が施行され、全ての大学等において合理的配慮の提供が義務化されることとなる。
 一方、各大学等においては、障害学生支援の専門部署の設置状況、紛争の防止や解決等に関する調整を行う機関の設置状況、専門的知識を有する障害学生支援担当者を配置している割合は依然として低い状況である。各大学等が障害学生支援を適切に実施するためには、体制の整備や支援人材の育成等を一層推進することが必要である。
 しかしながら、特に中・小規模の大学等が単独で障害学生支援や障害学生支援担当者の育成に取り組むことには限界がある。このため、文部科学省では、令和2年度より、障害学生支援に関する先進的な取組や知見を持つ大学等が中心となり、各大学等が参画できるプラットフォームを形成し、組織的なアプローチによって高等教育機関全体の障害学生支援を促進する取組を行っている。引き続き、プラットフォームによる各大学等の連携を通じて、次のような取組を継続的に行う体制を構築することが重要である。

1.障害学生支援ネットワークの形成支援及び連携の推進

 大学等の連携に加え、各地域の行政機関や労働・福祉機関、民間企業等の社会資源を含めた地域ごとのネットワークの形成を支援するほか、既存の機関・障害学生支援ネットワーク等との連携を促進する。

2.専門的知識を有する障害学生支援人材の育成

 プラットフォーム参加大学等に向け、障害学生支援に関する基本的な考え方である「障害の社会モデル」、「不当な差別的取扱い」、「合理的配慮の提供」、「紛争の防止・解決」等の理解・啓発から高度な専門的プログラムまで、幅広く障害学生支援に関する研修を実施し、中・小規模の大学等も含めた高等教育機関全体における体制整備の促進や、専門的知識を有する障害学生支援人材の育成を図る。

3.大学等や学生等からの相談への対応

 障害学生支援体制の整備や支援方法、合理的配慮の考え方や紛争防止・解決等について、大学等において障害学生支援を行う担当者や合理的配慮の提供や支援内容等に関して困りごとを抱える学生等が、直接相談できる窓口を設置し、効果的な支援や具体策の提示など専門的な助言や提案を行う。加えて、大学等に対する支援機器の貸出しを含めた支援を実施する。

4.全ての大学等が活用できる障害学生支援の好事例の収集・発信

 障害のある学生に向けた就職支援の取組や、障害学生支援の手続等に関する規程等のガイダンスでの周知など、各大学等で取組が進んでいないものや、合理的配慮の提供事例、紛争解決事例、「心のバリアフリー」促進に向けた、ピア・サポートの効果的な実施方法等について好事例を収集し、全ての大学等が参照できるデータベースを構築。さらに、低年次の障害のある学生に向けた卒後進路への意識付けや、中・小規模大学等における体制整備等のロールモデル事例等を収集し、大学等へ発信する。

おわりに

 我が国の大学等には多様な学生が在籍しており、その中には障害のある学生も含まれている。大学等はそれら全ての学生に対し、等しく教育を行う責任を負っていることから、障害のある学生が障害を理由に修学を断念することがないよう、体制や環境を整えていくことが必要である。
 この第三次まとめは、令和6年4月の改正障害者差別解消法の施行により、全ての大学等において合理的配慮の提供が義務化されることを踏まえ、学長をはじめとする大学等の役員のほか、全ての教職員が障害のある学生の支援に関する理解を深め、適切な支援を行うために取り組むべき事項や考え方について参照できるよう取りまとめた。
 一方で、第三次まとめは、平成24年度の第一次まとめ、平成28年度の第二次まとめを踏まえて取りまとめたものである。このため、新たに障害学生支援に取り組む大学等においては、過去のまとめや文部科学省対応指針、JASSOが作成・公表している資料等も参照するとともに、第7章に記載した大学等連携プラットフォームの枠組みを活用しつつ、障害学生支援体制を構築していくことが望ましい。
 さらに、大学等を取り巻く状況の変化を踏まえ、学内全ての学生を対象に実施している各種学生支援体制の不断の見直しを図りつつ、障害学生支援体制を構築していくことが必要である。
 なお、通信教育課程は、障害のある学生にとっても重要な修学の場になり得る一方で、第6章2.(5)で述べたような課題等も指摘されている。このことから、今後、通信教育課程の大学に在籍する障害のある学生を含む支援の在り方について改めて検討を行うことも考えられる。
 また、第三次まとめは、障害のある学生の修学支援の在り方について考えをまとめたものである。このため、大学等の構成員である教職員や、ポスドク・研究員で障害のある者に対する合理的配慮については具体的に触れていないが、被用者である構成員については、障害者雇用促進法に基づき、合理的配慮の提供が既に全ての大学等において義務付けられているため、各大学等において遺漏なく対応することが必要である。
 加えて、大学等が開催する公開講座やオープンカレッジ、リスキリング教育等、所属学生以外を対象として学外に開かれた講座等に参加する障害者に対する合理的配慮の提供も、今回の障害者差別解消法の改正により、全ての大学等において義務付けられるため、各大学等では、これらの実施に際し、合理的配慮の申請・相談に関する情報を公開することが望ましい。
 国においても、障害学生支援に関する先進的な取組や知見を持つ大学等が中心となり、各大学等が参画できるプラットフォームの形成をはじめとする大学等への財政支援や、障害のある学生への支援を一体的に行うための行政機関間やJASSOとの更なる連携強化を進め、「障害者基本計画」に掲げる障害学生支援を推進する必要がある。
 大学等が学生を第一に考え、障害のある学生が、他の学生と平等に「教育を受ける権利」等を享有・行使することができる環境を実現することは、コンプライアンスの観点からはもちろんのこと、開かれた大学等として価値や魅力を高めるための重要な要素となる。各大学等においては、役員や管理職を含めた全ての教職員がこのことを認識し、障害学生支援の取組を一層推進していくことを期待する。