不登校に関する調査研究協力者会議(令和3年第1回)議事要旨

1.日時

令和3年10月6日(水曜日)15時00分~17時00分

2.場所

Web会議(Webex)

3.議題

  1. 不登校児童生徒の支援の現状について
  2. 教育委員会からのヒアリングについて
  3. その他

4.出席者

委員

石川委員,伊藤委員,江川委員,沖山委員,小林委員,斎藤(環)委員,斎藤(眞)委員,笹森委員,佐藤(博)委員,白井委員,野田座長,原委員,笛木委員,三橋委員,安田委員,渡邉委員

文部科学省

伯井初等中等教育局長、江口児童生徒課長、鈴木生徒指導室長、大野児童生徒課課長補佐

5.議事要旨

【事務局】 不登校に関する調査研究協力者会議の令和3年度第1回を開催する。開催に当たり、初等中等教育局長より御挨拶を申し上げる。
【局長】 不登校児童生徒への支援については、平成28年12月に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(以下、「確保法」という。)が成立し、同法に基づく基本指針の作成や法の趣旨の周知徹底を行った。
また、令和2年度からは、教育委員会における取組の充実を図るため、不登校児童生徒に対する支援推進事業を創設した。
他方、小・中学校における不登校児童生徒は、平成24年度以降、現在まで増加を続けている。未然防止を含め、不登校児童生徒へのさらなる支援の充実が必要である。近年の不登校児童生徒の実態や教育現場への支援の実績を踏まえ、さらなる不登校児童生徒への支援充実に向けて、積極的な御議論を賜りたいと考えている。
【事務局】 それでは、ここから座長に進行をお願いしたい。
【座長】 平成4年に文部科学省で、初めて公的に不登校という言葉を使って以来、ちょうど30年くらいである。昭和の末期、非行が全国で吹き荒れたが、今、警察の検挙した非行件数は当時の約10分の1になっている。ちょうどそれと入れ替わるように、平成になると、この不登校が非常に増加した。平成4年、15年、28年と、不登校に関する会議がもたれたが、不登校と言っても、意味合いがこの30年で大分変わってきているという印象であり、対応も複雑化、難しくなっていると思う。
そんな中で、今回の会議は何とか年度内で一定のゴールをという、かなりスピードアップして行うことになるが、合計17名の、不登校の各領域で専門性の高い方々にお集まりいただいているので、遠慮なく積極的に、情報共有を密にしながら、濃密な会議にし、成果を上げていきたい。
【事務局】 それでは、委員の先生方の紹介をする。
【委員】 不登校に関しては、2002年「不登校問題に関する調査研究協力者会議」から参加した。不登校には色んな社会の問題が反映されるというのを感じ、難しい問題であると思う。
【委員】 20年ぐらい、フリースクールをしているが、コロナ禍において、不登校の子どもは若干増えているというのが我々の実感であり、今回の会議でもそのような点を皆さんとお話ししたい。
【委員】 東京都立高等学校の中で不登校生徒を主に受け入れる学校として、チャレンジスクールが5校ある。不登校生徒が増える中で、来年度以降も増える可能性がある。
私が勤務している学校には600名あまりの生徒が在籍しているが、そのうち7割から8割に不登校経験があり、卒業できる生徒はそのうちの半数である。不登校である子どもたちを卒業に結びつけて、社会につなげていくというところが大きな役割と思っているが、なかなか困難な状況がたくさんある。
【委員】 養護教諭の立場から、日々子どもたちの心の健康問題と関わっているので、この不登校問題について、一緒に考えていきたい。
【委員】 社会精神保健学という分野を担当している。私は主にひきこもりとの関連から不登校に関わりを持っているが、もう一方で、通信制高校のアドバイザリーボードに名を連ねている。ここ3年は毎年2万ずつ不登校が増加するという異常事態。恐らく令和2年度は、20万人を超えるだろうというこの非常事態に対して何ができるかということを一緒に考えていきたい。
【委員】 私が勤務している学校は大変希有な学校で、全日制、単位制、普通科の学校だが、全校生徒の7、8割が不登校経験者、さらに特別支援教育の対象となるような生徒がほぼ全校生徒を占める。大変皮肉なことに定員を超える生徒が通ってきている。不登校を解消する学校という期待が高まっているが、私たちは、不登校の子どもたちが安心して不登校のままでいられるような学校を目指す、という大変大きな理想を掲げている。
【委員】 発達障害は、二次的な問題として不登校と関連が深いので、前回から会議に参加し、不登校だった生徒の5年後の状況等についての追跡調査も委員として参加した。
【委員】 小・中学生の不登校の子どもを持つ家庭に対する復学支援と、子どもの自立を家庭で育む家庭教育支援という2つの支援を柱に活動を展開している。不登校に陥った子どもと保護者との関わり方についてアセスメントを行い、保護者に対してカウンセリングをして、復学を目指す。場合によってはアウトリーチによる支援を行い、家庭に介入するような支援を行っている。今回は不登校問題に対して、家庭教育の観点から会議に参加できればと思っている。
【委員】 日々情報共有等をしながら子どもたちの支援に当たっている。昨年度来のコロナ禍において、様々な制約を受けながら、その中でどのような支援をしたらいいのかということを、全国の仲間と情報を共有しながら、日々研究をしている。
【委員】 中学生の不登校生徒の数がどんどん増えてしまっており、緊急事態と言っていいほどの状態と思っている。実は私が勤めている学校では、前年度の不登校率が約7.5%、東京都の平均の約2倍の出現率があり、様々な手を打っても4%を切らなかった。研究校を引き受けることとなり、様々な条件整備をし、地域の方の力を借りて学校の中の体制の整備をしたところ、研究発表をした令和元年度には1%台まで不登校の出現率が落ちた。今、様々な考え方があるので、不登校ゼロが必ずしも良いことだとは思わないが、学校の教員の力だけではなく、地域の方の力や、子どもを取り巻く大人の力を結集して何とか頑張っていかないと、なかなか良い状態には向かっていかない。
【委員】 いじめ・不登校に特化した部署で3年間、教育相談体制の充実など、様々な取組をしてきた。この時、不登校に関する施策を行うために読み込んだのが、この協力者会議で協議された「不登校児童生徒の支援の在り方について」という通知である。今は、義務教育担当課で、夜間中学の設置を進めている。不登校であった子どもたちの社会的自立をどうサポートしていけばいいか、学びの保障をしていけばいいかを検討しているところである。
【委員】 所謂田舎の学校だが、やはり不登校児童生徒は全国と同じように増えてきている。ここ5年で徳島県内の小学校の不登校は約2.5倍、中学校も約1.5倍に増えている。
【委員】 不登校児童生徒への支援を行っていて、先生方の苦悩がなかなか報われないと思う。その中で専門職としてどのように関わることで不登校児童生徒への支援を行っていくと良いかということをこの場で勉強したい。
【委員】 確保法ができた当時は画期的な法律ができた、と非常に喜んでいたが、残念ながら、まだその周知徹底が現場にされているとは言い難い状況である。ただ、世の中は、きちんと多様な教育機会を確保しようという流れに来ていると思う。私自身、23年、フリースクールの現場にいたが、このまま一校一校作っていても、なかなか教育機会の確保ができないと感じた。色んな教育機関と関われる子どもと、そうでない子どもとの格差が広がるばかりであることに危機感を持ち、政策提言や、色んな実績を出している団体を参考にしながらシステム化に取り組んでいる。
【座長】 それでは、早速議事に入る。今日のところは大きく3つ、不登校児童生徒の支援施策についてと、先般行われた「不登校児童生徒の実態把握に関する調査」について、事務局から説明いただき、その後、横浜市で取り組んでいる不登校児童生徒への支援施策を共有し、全体でフリートーキングを行う。
【事務局】 資料1。令和元年度、小・中学校における不登校児童生徒は18万1,272人、1,000人当たりの不登校児童生徒数は18.8人であった。1,000人当たりの不登校児童生徒数は、平成10年以降最多である。90日以上欠席した者が不登校児童生徒全体の半数以上を占めており、一度不登校になってしまうと、長期に及ぶ場合が多いということを示している。 高等学校も、不登校生徒数は高止まりの状況で、憂慮すべき状態である。90日以上欠席した者は、不登校生徒の19.0%、不登校生徒のうち、中途退学に至った者は22.4%いる。
そのような中、平成28年12月、確保法が成立した。不登校児童生徒に対する教育機会の確保を目的とした法律で、初めて体系的に規定されたものである。全ての児童生徒が豊かな学校生活を送り、安心して教育を受けられるような環境の確保をしていくこと、不登校児童生徒が行う多様な学習活動の実情を踏まえて、個々の状況に応じた必要な支援が必要であること、国、地方公共団体、民間団体等が密接な連携を図っていくということ等を基本理念として掲げている。第7条、文部科学大臣は、基本指針を定め、公表することになっている。第8条から第13条に、不登校児童生徒に対する教育機会の確保に関する国または各地方公共団体の責務が書かれている。
基本的な考え方は、不登校児童生徒に対する教育機会の確保として、魅力ある誰もが行きたいと思うような学校作りを目指すこと、不登校というだけで問題行動であると受け取られないように配慮すること、殊さらに登校することのみを目的とするのではなく、不登校児童生徒の社会的自立を目指すべきであること、不登校児童生徒の意思を十分に尊重しつつ、画一的な指導ではなく、個々の児童生徒の状況に応じた支援を行うことなどである。また、 国、地方公共団体、フリースクールや親の会等の民間団体、その他の関係者の相互の密接な連携の下で施策を実施することも基本的な考え方として盛り込まれている。魅力ある学校作りについては、いじめ、暴力行為、教員との関係等が原因で不登校になってしまう子どももいるので、そのようなことを毅然とした態度で許さないような学校作りを目指すこと、不登校の児童生徒の学習状況が多様であるので、個々に応じた指導または配慮を実施していくことが重要である。個々の不登校児童生徒の状況に応じた効率的な支援の推進としては、児童生徒や保護者の意思を尊重しつつ、情報把握及び関係機関との情報共有などの継続した組織的・計画的な支援が必要である。多様で適切な教育機会の確保として、不登校特例校や教育支援センターの設置促進、さらには教育委員会・学校、民間団体の連携による支援の推進、また、多様で適切な学習活動の重要性や、不登校児童生徒にとって休養が必要であるという考え方を踏まえた支援が必要である。 教育相談体制の充実として、教員またはスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーといった専門家、関係機関が連携した体制構築を推進していくことを基本指針の中で定めている。
先ほどの確保法・基本指針の内容を分かりやすいように書き下し、平成元年10月25日に「不登校児童生徒への支援の在り方について」という通知を発出した。学校以外の場での不登校児童生徒の教育の状況を評価して出席扱いすること、または自宅においてICTを活用した学習活動をした時に、指導要録上の出席の取扱いができることついても再度整理をして、通知をしている。
確保法の成立後、施行後3年以内に、この法律の施行状況について検討を行った。1つ目、全ての教職員が不登校というだけで問題行動であると受け取らないような配慮、児童生徒の最善の利益を最優先するといったことを踏まえて支援を行うことができるように、この法や基本指針の理解をより一層深めていくべきであること。2つ目、引き続き不登校特例校の設置を推進すること。文部科学省においても不登校特例校の手引きなどを作成して周知をしている。3つ目、教育支援センターが設置されていない自治体への設置を推進すること。教育委員会だけでは難しいところについては、広域連携や公設民営の活用を検討する。4つ目、ICTを活用した学習機会の確保や、訪問型支援を行うこと。さらに、保護者や学校の教職員へのコンサルテーションなど、教育支援センターが不登校児童生徒の支援の中核となるような機能強化を行う。5つ目、教育委員会等と民間団体、施設の連携推進に向けた方策を検討すること。6つ目、不登校児童生徒の実態や要因に関する調査研究について検討すること。7つ目、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーなどの配置を推進すること。8つ目、経済的支援の方策についても引き続き検討すること。これらを踏まえ、文部科学省としても、令和2年に不登校児童生徒に対する支援推進事業を創設し、国が3分の1の補助をすることで取り組みを推進している。さらには、令和3年に中央教育審議会で取りまとめられた、「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)」においても、これまで説明したような事項を盛り込んでいる。
資料2。「不登校児童生徒の実態把握に関する調査」の結果の概要である。この調査は、不登校児童生徒の実態把握に関する調査企画分析会議を設置し、有識者の先生方に御検討いただきながら実施をした。調査対象期間は、令和2年12月1日から令和2年12月28日。調査時点において、事前にどの学校がこの調査に協力できるか教育委員会を通じて聴取し、協力できると回答があった学校に通う小学6年生または中学2年生で、令和元年度に不登校であった者のうち、調査対象期間に学校に登校または教育支援センターに通所の実績がある者を調査対象としている。調査票の受渡しの負担を減らすことや、家から出られないような不登校児童生徒への負担に配慮すべき等の意見がありこのような調査方法となった。したがって、全ての不児童生徒の状況を網羅的に反映したものではないということに御留意いただきたい。調査方法は、調査対象校から調査対象児童生徒または保護者へ調査票を配布し、回収は児童生徒、保護者から直接、調査実施事業者へ匿名で送付された。回収状況は、小学校6年生の児童が713件、回収率11.7%であり、保護者が754件、回収率12.4%である。中学校2年生の生徒が1,303件、回収率8.2%であり、保護者が1,374件、回収率8.6%である。
調査結果のポイントは、1つ目、不登校児童生徒の個々の状況、2つ目、児童生徒の状況に応じた多様な支援の必要性、3つ目、不登校の初期段階からの早期の支援の重要性と3本柱でまとめている。
1点目、不登校児童生徒の個々の状況について、「最初に学校に行きづらいと感じ始めたきっかけ」は、「先生のこと」「身体の不調」「生活リズムの乱れ」などが約3割というように、特定のきっかけに偏らずに、きっかけは多様で多岐にわたる。また、自由記述から、児童生徒と教師との信頼関係が築けなかったことや、発達障害など障害のある児童生徒への理解を求めるような声もあった。「学校を休んでいる間の気持ち」は、「ほっとした・楽な気持ちだった」が約7割を占めている。また、「自由な時間が増えて嬉しかった」も約7割である。一方で、「勉強の遅れに対する不安があった」「進路・進学に対する不安があった」が特に中学生では高く、不登校児童生徒が抱える様々な不安が明らかとなった。また、「学校を多く休んだことに対する感想」も多様であり、「もっと登校すればよかった」と後悔している児童生徒は約3割。「しかたがなかったと思う」は約2割、「登校しなかったことは自分にとって良かった」と前向きに捉えている児童生徒が約1割おり、欠席していた期間の意義の捉え方もそれぞれで異なる。また、保護者から見た「欠席時の子どもの状況」は、約半数に「極度に落ち込んだり悩んだりしていた」「原因がはっきりしない腹痛、頭痛、発熱などがあった」などが見られ、精神・身体面の不安な状況がうかがえる。保護者による「子どもとの関わり」は、大方9割の保護者の方が「日常会話や外出など、子どもとの普段の接触を増やした」「子どもの気持ちを理解するよう努力した」と回答している一方で、「子どもの進路や将来について不安が大きかった」「子どもにどのように対応したら良いか分からなかった」という回答が多く、保護者が抱える不安や困難が明らかとなった。
2点目、児童生徒の状況に応じた多様な支援の必要性について。「相談しやすい方法」の中で「直接会って話す」は約5割、「メールやSNS」は3割から4割であり、いずれの手段も高い割合であった。複数回答可だったが、重複して選択した割合が低かったので、状況に応じて、児童生徒自身が自分に合った相談方法を選択できることが有効なのではないか。「最初のきっかけとは別の学校に行きづらくなる理由」に「ある」と回答した児童生徒のうち、「勉強が分からない」という理由の割合が高かった。学校に戻っても勉強が分からないとまた不登校に戻ってしまうということもあるので、学習支援の重要性がここで示唆されるのではないか。「休みたいと感じ始めてから実際に休み始めるまでの間に、どのようなことがあれば休まなかったと思うか」ということについて、約6割が「特になし」という回答だった。特に長期に欠席した児童生徒でそのような傾向が高まることが顕著だった。また、保護者からの支援機関の対応への評価について、教育支援センター(適応指導教室)などの公的支援機関について、「利用できる環境であるが、利用していない」との回答が約3割であった。このようなことから、子ども自身が支援の必要性を認識していないことや、相談先が分からないといったことが原因で、支援に繋がっていないこともあると考えられ、児童生徒や保護者への相談窓口の周知や、アウトリーチ型の支援が必要であるということが示唆される。
3つ目、不登校の初期段階からの早期支援の重要性について。「休みたいと感じ始めてから実際に休み始めるまでの期間」は、約5割が1か月から半年程度という結果になった。不登校になる前の未然防止という意味で、この期間に何ができるのかということについても先生方の御知見をいただきたい。また、学校に行きづらいことについて相談した相手は、やはり家族が一番多い。さらに、約4割が「誰にも相談しなかった」という回答であり、早期に家族以外に相談できている割合は低いということが明らかになった。児童生徒が最初に30日以上の欠席をした時期によって、低学年群、中学年群、高学年群に分類し、休みたいと感じ始めてから、実際に休み始めるまでの期間に相談した相手をクロス集計すると、「誰にも相談しなかった」割合は、低学年群が4割から5割と高くなっており、低学年の段階で不登校になってしまった児童生徒への積極的な支援が必要であることが示唆される。
【委員】 私が気になったのは、従来、学校基本調査や「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(以下「問題行動等調査」という。)では、不登校の原因について、家庭の問題という回答が多かったが、子どもたち自身の回答によると、「身体の不調」や「生活リズムの乱れ」が随分多い。休んでほっとするという気持ちと、一方で不安というアンビバレントな状況があるので、そこについても支援をしないといけない。それは保護者も同じで、精神的な面や子どもの様子を気にしながら、一生懸命会話や外出の機会を増やして、面倒を見ている、その保護者を支える力というのもこれからさらに必要になる。 ただその一方で、どんなことがあったら休まなかったかという支援ニーズ、これはこの調査をする大きな目的だったが、その中で「特になし」と答えた児童生徒が、小・中学校共に半数以上いたことをどう解釈したらいいのか。本当に必要な支援がないわけではないが、具体的に思い浮かばないのか等、この答えの中身をさらに見ていかないといけない。余力があれば、児童生徒と親がマッチングできるとても貴重なデータなので、どのような児童生徒の保護者がどのように困っていて、何を望んでいるのかということを突き合わせて考えることができれば、また今までとは違う新たな支援が見えてくるかもしれないと期待している。
【座長】 こういう調査で難しいと思うのは、アンケートに答えてくださる方々は、全体の中でごく一部であり、それが全体のどういう部分を表現しているか不明であり、この回答が不登校児童生徒の全体の状況だという話にはならない。今回も各項目、本当にばらけている。不登校対応は、これをやればいいという一本調子ではなく、本当に多様な方法を選び出しながら、どれが良いか的確にマッチングを図っていく。その前提としてアセスメントは、精度を高くする必要がある。
それでは、横浜市教育委員会から不登校支援の現状について御説明をお願いしたい。
【委員】 横浜市の調査を踏まえると、不登校の背景要因が複雑に絡み合っている現状があること、不登校という状況が児童生徒の様々なニーズの表出としての不登校であるということが分かった。その対策として、不登校については専門的なアセスメントに基づく支援、専門性に基づくチーム体制の構築が求められている。そして、児童生徒の様々なニーズに対応する学校環境の整備が求められていることから、学校風土を作っていくということが大切である。この学校風土を作るという点について、一つ、横浜市の中学校の例を紹介する。この学校は、全生徒がかけがえのない存在であると捉えて、一人の生徒を全教職員で育てるという取組をした。
この学校は大体600人ぐらいの規模で、そのうち30人ぐらいが不登校になっており、学校が努力を重ねても減らないという状況にあった。また、この学校では、反社会的な問題行動も頻発していたため、そちらの対応に手を焼いてしまって、何となく静かに隠れてしまう不登校生徒については、なかなか手が回らないという現状にあった。中学校では、不登校生徒の対応には学年があたるのが基本である。どんなに先生方が大変な思いをされていても、自分の学年の生徒だから自分たちが走り回るのは当たり前であるとされ、他の学年の先生方にSOSが出せない。そのようなことが続くと、職員がは疲れてしまい、「この学校、大変だから転勤したい。」という先生方が多くなる。そうすると、学校の中が何となく落ち着かなくなり、次の問題行動を誘発しやすくなるという負の循環に陥っていく。私には、「この学校の先生方はかなり疲弊している。」という印象があった。
ある日、支援のために訪問した際、校長から「職員の美しい心が寄り添う中で、この中学校の文化を生み育てるという方向性を出し、かけがえのない一人一人の子どもたちを全教職員で育てる体制を作りたい。」との話があった。学校配置のスクールソーシャルワーカーではなかった私にもそんなお話をしてくださったということは、恐らくこの問題に、「教職員だけではなく専門職も使いながら取り組もう。」という思いがあったからだろう。
まずは、
① スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを活用したアセスメントを実施し、不登校生徒一人一人の現状を把握した。
② そのアセスメントに基づいて、支援の方向性の確認を一人ずつ行った。
③ その上で、校長からは先ほどの思いを教職員へ伝え、具体的にどう取り組むのかについては、横浜市独自の生徒指導専任教諭が、特別支援教育コーディネーターとともに指導計画、支援計画を通して説明をした。
④ その次に、校長は「不登校生徒だけでなく、不登校生徒を支援する先生方も居心地のよい職場作りをしていこう。そのため、全職員が互いに支えあい魅力ある職場の雰囲気を作り、生徒にも“支え合い”を伝えていこう。職員に語りかけた。
これらの取組で先生方の緊張感が少しずつ緩んでいくところがあり、学校の雰囲気が徐々に変わっていった。
不登校対策のためのスクリーニングシートには、不登校生徒の名前だけでなく、今後不登校になりそうな生徒の名前も全て掲載された。それぞれについて、生徒指導専任教諭を中心に、小学校からの経過を聞きながら、どのようなリスクがあるのかというリスクアセスメントと同時に、この生徒は何が得意なのかという長所のアセスメントも行った。このスクリーニングシートは一覧形式であるためモニタリングに有効で、私が学校に呼ばれる度に、生徒指導専任教諭、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーの3人で、毎回、一人ずつ、“今この子はどうなっているか”の確認をしながら、必要に応じて再アセスメントを行うなどしていった。予防的に、なるべく早めにこの特別支援教室と通常学級との併用を進めるなど早期支援を行っていった。
同時並行に、学校は、特別支援教室の環境整備に取り組んだ。どうしたら特別支援教室に通う生徒が“学校に来ている”という感覚を持てるのか、試行錯誤を重ねた。教室に子どもたちが通うようになれば、そこには教員を配置しなければならないが、当時、教員の加配は無かった。しかし、これまでのように当該生徒の学年の先生だけが対応にあたると、その学年が一気に疲弊してしまうので、この学校では全教員が、持っている授業数に応じて、この特別支援教室を担当することとした。全教員が関わるということは情報の共有が必須になるため、次には“不登校の見える化”に取り組んだ。先ほどのリストに基づいて、子ども一人ひとりの情報を共有する。ここで大切なのは予備軍の把握である。教員が予備軍を把握して、定期的にその生徒たちの状態を見つめていくことによってわずかな変化に早期に対応する支援が可能となった。
また、特別支援教室の運用の取組としては、
① 中学校の職員室の一番目立つ出入り口付近に掲示板を設けた。この掲示場には、今日、特別支援教室に登校する予定の生徒の名前、実際に来た生徒の名前、どの時間は誰が担当するのかという教員の名前が記載されており、教室の状況が一目瞭然なので、先生方は自分に関わりのある生徒が来ていると、「ちょっと顔出していこうかな。」とか、「この先生が今日担当されているのなら、その後の様子を聞きにいってみよう。」など、教職員間の情報共有がかなり活発になった。
② しかし、入れ替わり立ち替わり先生が入るということは、先生によって指導方針が変わってしまうという大きなデメリットがある。特に発達障害の生徒は、いろんな指導が入ると混乱してしまうので、この教室には個別の日誌が設けられた。生徒は登校したら、自身の個別の日誌に今日の計画を記入し、どういう取組をするのかということを確認してスタートする。ここが生徒の主体性の尊重という点で大きな支援ポイントだと思う。「今日は調子が良さそうだから予定していた時間を超えて頑張ろうか!」と先生から言われると、子どもは頑張るのだが、疲れてしまって、次の日は来ないということが学校現場ではよく見られる。これを防ぐために教員と子どもが合意形成をしてその日をスタートするというものになっている。取り組む内容が既に決まっているので、先生によって指導方法が変わるということが防げた。
生徒が教室に登校して取り組む最初の作業は、自分の日誌に、今日は何時に登校したから下校を何時にするか、1時間目、2時間目、3時間目、4時間目を特別支援教室で過ごすのか、それとも自分の在籍教室で過ごすのかということを自ら選んで記述していく。最後に自分の感想を書いて一日が終わる。その後が私は重要だと思っているが、この日誌には教員のコメント欄があり、その記載は特別支援教室を担当した教員ではなく、その生徒の担任が書くこととなっている。特別支援教室の担当者の記録票には、入れ替わり立ち替わりで入っていく先生方が何を指導したのかということを記録できる。不登校生徒や特別支援教室に通う生徒は、自分の成績がどうなるのかとても心配になる。この学校では、それぞれの教科に評価評定の目安をつくり、ここまで頑張ればこの点数がつくということを予め示すことで、生徒と納得しながら進めていく。行事への参加についても、いきなり“行くか・行かないか”という話になるのではなく、あらかじめどうしようかと相談した上で、最終的に生徒自身が決めるということができる。これが生徒にとっての安心の場、つまり見通しが立って、自分が納得できるところで頑張れるという場の形成になる。
この取組によって、様々な変化が起きた。教職員の子どもを見る目が育った。また、職員室の雰囲気が大きく変わった。学年を超えフォローに入れるようになった。この特別支援教室の卒業生が、「自分はこの特別支援教室の出身です。」と胸を張って宣言したことに、私たちも心が熱くなる思いがあった。卒業証書を壇上でしっかり受け取って卒業していく子もいた。今は、毎年、特別支援教室を4月に開くときには通室予定者「ゼロ」からスタートできるという学校に変わっている。この取組がとても素晴らしかったので、横浜市がこの学校をモデルに特別支援教室の活用を進めている。
この中学校の取組は、文科省が言っているチームとしての学校の取組そのものであった。専門職であるスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーが不登校の取組の中にしっかり位置づけられており、定期的なモニタリングについて、必ずスクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーが関わることができた。学校のマネジメント機能の強化については、校長先生の強いリーダーシップはあったが、教員も校長と様々な話し合いをしながら作り続けるという取組だった。学校の教育目標をしっかり立っており、その学校のやり方に合っていたことも大きい。教職員一人一人が力を発揮できる環境の整備について、仲間を大事にしながら支え合うというのがまさにこの学校はできていた。
私がこの取組を見て思うのは、不登校生徒に関しての研修はよくあるが、先生方の意識を変えるためには、研修だけではなく仕組みが必要なのではないかということである。一人一人に役割があって責任があると、参加する者は自分の責任を果たそうと思ってあれこれトライをする。そのようなものが積み重なって、この中学校の取組は色々と進化できたのではないか。研修を何本か実施するのと並行して、こういった参加の仕組み作りに取組みをし、みんなが参加の機会を得て、その仕組みを自らが考え変えていくことで学んでいくことはとても多いのではないか。
現在の横浜市の不登校生徒への支援の事業内訳はスライドの通りである。本市では、学校が全ての基地である、ハブであると考えている。例えばフリースクール、フリースペースに行く生徒はいるが、行ったから良いということではなくて、学校がその生徒をしっかりと責任持って見つめながら、フリースクールの利用を見守っていく。もちろん学校が全てにおいて前に出るわけではなくて、ある時はフリースペースを前に出しながら、学校が後ろに控えていたり、フリースクールから切れそうになった場合は学校が前に出たり、全ての責任は生徒の籍がある学校が取っていくという考え方が良いのではないか。
先ほどの中学校では、特別支援教室に配置されている不登校児童生徒支援員を中心に、子どもたちの情報共有があった。家庭訪問による学習支援事業等様々なメニューを学校がしっかりとアセスメントしながら、保護者と一緒に考えながら選択をしていく。その時にスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーが入っていくというスタイルが、私たちにとっては一番良い役割分担だと考える。今、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーについては、なかなか専門性が発揮できず、役割を十分に果たせていないという批判をたくさん浴びている。スクールソーシャルワーカーは役割が明確であればあるほど、その力を発揮できる。その役割に基づいて専門性が発揮できればできるほど、教員の助けになる。特に、子どもや保護者、学校が相互に葛藤を抱えている場合、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの介入がとても有効である。専門職については、是非、明確な位置づけをしてほしい。
今後の不登校事業の課題については、支援する人手不足であったり、複雑化する不登校の背景要因であったり、先生方を多忙化させる業務であったりたくさんある。本市は、中学校の生徒指導専任教諭に倣って、小学校にも児童支援専任教諭を置いた。この児童支援専任教諭、生徒指導支援専任教諭が学校の要になっていることは間違いない。本市としては、この専任教諭を中心に、今後も不登校支援事業を組み立てていきたい。
【座長】 御意見、御質問あれば発言をお願いする。
【委員】 不登校当事者の声が直接このような形で上がってきていることと、学校の在り方に目を向けざるを得ないような項目が幾つも上がってきていることは非常に画期的である。学校の在り方を問い正していくべきではないか。高圧的な生徒指導が当たり前という文化の中で、これは不登校になっても仕方がないと思うようなきつい指導がいまだに学校現場で強く根づいている。日常指導の在り方、教員の感覚をもっと柔らかい学校、おおらかな学校とすることに一つ焦点を当ててほしい。今回の発表では、先生方が職員室の雰囲気から醸成していく中で、子どもたちに温かい視点が注がれていくというところが、一番肝になっていた。同調圧力、協調圧力からも脱皮するということに気がついていくきっかけの会議になってほしい。不登校という状況に逃げることができた子どもたちよりも、今日も笑顔で、歯を食いしばって耐え忍んでいる子供たち、泣くに泣けない子供どもたちの存在にも是非目を向けていくべき。
【委員】 横浜市の中学校の実践の中に出てくる特別支援教室というのは、不登校の生徒が別室登校するための場所という認識で良いか。
もう一つ、例えば私の勤務する学校では、全体で情報共有をするのが週に1回、教職員の中で支援委員会という会議を開いて、地域の主任児童委員、民生委員、区に配置されているスクールソーシャルワーカー等で、地域の情報も併せて情報共有をしているのが月に1回ある。先ほどの中学校で情報共有をする場合、どれくらいの頻度でされているか。人的な措置というのは、どれくらい措置をされているのか。
【委員】 1点目については、もともと特別支援のための教室なので情緒障害も含めるが、本市では特別支援について、単に障害の有無だけではないと考えている。その教室を使うことによってその生徒の支援ニーズが満たされるならば使っていく。そのため、結果的に障害のある生徒も不登校生徒もいるような、特別支援という考え方を大きく捉えた教室になっている。
2点目、情報共有の頻度について。既存の学年会、生徒指導委員会を中心に行っている。ただ、その学年会に色んな人が出入りする。民生委員、児童委員については月に何回かしか学校にいないので、その方々が来たときに専任教諭がしっかりと繋がって、その情報を学年会に落としていく。
不登校児童生徒支援員の加配ついて、2年目までは加配はなく、本当に先生方が総力戦で実施していた。3年目には別の理由で加配をされた養護教諭をハブにした。4年目は、この特別支援教室に加配された人を当て込んで、現在これが特別支援教室の活用モデルになっている。本市としては、不登校児童生徒支援員という名前をつけて、学校に配置をしている。不登校児童生徒支援員について、昨年度は8名、今年度20名、と増やしているが、徐々に146中学校全てに配置をしていきたい。こちらは会計年度任用職員なので週5日、週29時間の勤務となっている。スクールカウンセラーについては、週に1回、1日7時間の配置。スクールソーシャルワーカーについては、3つの中学校ブロックがあり、1人が大体10校近くを持っているが、最低月に1回は学校に顔を出す。ただし、平均的に見ると大体月に2回ぐらい顔を出している。
【委員】 校長先生レベルでは確保法についての周知はある程度徹底されている。まだ、現場の担任レベルの先生では、確保法について十分理解がされていない。先ほどの調査の中にもあったが、フリースクール、あるいは教育支援センター(適応指導教室)に通うことで出席の扱いをされることについて、なかなか現場の担任の先生が理解していない。教育現場では、民間団体の側も含めて学び合う機会を増やしていきたいので、文科省・都道府県教育委員会等を通じて、先生方との学び合いの機会を増やしてほしい。
10代の自死が減らない。これは不登校の子どもたち、もしくはいじめに遭っている子供たちが全てそういう状況に追い詰められるわけではないが、不登校の問題とこの10代の自死の問題、いじめの問題を同時に考えていかないと、この不登校の問題を学校に通うか、通えないかという一側面だけを、取り扱うことにしかならないのではないか。つまり不登校の問題は、「命の問題」であるという取扱いを我々はしっかりするべきではないだろうか。確保法の中にある大事な項目として、私が一番いいなと思っているのは、「子どもたちが休む」という権利も認めているところである。子どもたちは学校に行かなくなってすぐに、特別支援の部屋に入れたり、教育支援センター(適応指導教室)に行けるのかというとそうでもない。そういう時に休んで考えるという視点をしっかり取り入れていかないと、家族と本人を追い詰めることにはなるのではないか。
コロナ禍で問題視しているのは、不登校かつ経済困難な層。つまりフリースクールや教育支援センター(適応指導教室)に通うなど様々な支援を受けることができる子どもたちと、支援を受けることが困難な子どもたちがいる。保護者も先生方や周りのスクールソーシャルワーカーとコミュニケーションが十分に取れないケースもある。このようなケースが割と経済的困難な層に偏っていることもある。経済的にも困難な不登校層に対する支援について、今後考えていかないと、多重な困難を抱えた層がどうしても放っておかれるのではないかと危惧される。
【委員】 学校に行くということが当たり前だという前提の時代が長く続いた中で、本当に大人社会ですら許されないような人権侵害が指導という名の下に続けられてきた。今、一生懸命学校側でも改善の方に動き始めているが、子どもにとってはそういう意識が残った先生に一人でも出会ってしまったら、それだけで地獄のような状況が続くので、研修は大事である。研修をして周知徹底することも大事であり、どういうシステムにすると良いのか真剣に考えたい。
その中で、確保法の理念をまず知っていただくということが大事である。法治国家なので、学校の先生がそれを知らないというのは由々しき問題である。子どもたちが学校を休む権利があることや、行けなくなった時にこういう相談機関があるということを、プリント1枚で良いから出してほしいということをお願いしているが、何一つ来ない。学校はセーフティーネットになる存在だと思っているので、是非ともそのような周知を早期にしてほしい。なぜ確保法が5年経っても伝わらないか、浸透しないかについてはやはり予算化されていないからである。どうしても理念法になってしまって、特に地方行政は予算化されてないとなかなか動かない。学校に行けなくなってしまったという時に、そのセーフティーネットを全国津々浦々に作ること、多様な教育機会を確保することに対して、どうやってその予算を出していくか。手挙げ方式でやる気がある自治体だけがそういう場所を作っていくということではなく、どこでも義務的予算できちんとそういう場所を持たなければいけないという形にしていくにはどうしたらいいかということを、ぜひ論点の中に入れていただきたい。
【委員】 名古屋市は非常に恵まれた環境の中にあって、現在私の勤めている名古屋市の教育支援センター(適応指導教室)においては、660人を超える子どもたちが在籍をしている。恐らく全国の教育支援センター(適応指導教室)の中で、最大規模ではないかと思う。ただ、財政的な支援に関しては非常に厳しいところがある。全国の教育支援センター(適応指導教室)から話を聞いていると、さらに厳しい状況にあるところもある。
今、全国適応指導教室・教育支援センター等連絡協議会は参加している会員に年会費を納めてもらいながら運用しているが、昨今その会費が捻出できず、この協議会から抜けざるを得ない自治体もある。その中で、教育支援センター(適応指導教室)に求められるものというのは年々大きくなってきており、様々な教育の機会確保ということで、フリースクールや不登校特例校、公的施設である教育支援センター(適応指導教室)等があるが、これらがバランスの取れた、子どもたちや保護者がきちんと選択できるような環境整備が必要である。やはりこれは国が中心となって進めていかないと、なかなか各自治体では、思うように進まない。
【委員】 実際学校に戻りたいという子どもたちも中にはいる。就労支援のように鬱病で少し仕事を離れた後、復帰するような、リワーク支援は結構確立されてきているが、再び学校に戻るためのプロセスはあまり確立されていない。実際、スモールステップで段階を踏みながら復学を目指す子もいれば、一気に教室に戻った方が良いという子もいるだろうし、もちろんフリースクール等、他の居場所作りが必要な子どももいる。ただ、学校に戻って、生活したいという子どももいるので、この方法をもう少し拡充できるといい。
家庭に対しての支援や、保護者に対して、子どもにどう接すれば良いか、不登校という状態、さらに不登校になる前、予防という観点からどういった形で子どもに接していけば良いか、コミュニケーションを取れば良いかという支援が必要である。社会性を子どもが身につけるために家庭教育が必要だということを、家庭で認知していただくことも必要である。
支援をしていて確保法の話は1件も聞いたことがなく、そういう法律があるということを私たちが説明している。復学は難しいという場合、違う居場所でも良いという話を知らないということも結構あるので、周知が必要。
【委員】 明らかに学校の制度的疲労が来ている。まず一つ、この会議に不登校経験者がいないのは非常に不可解である。今、当事者研究という風潮が盛んになりつつある現状で、この不登校の大事な会議に、当事者の声が反映されないことは非常に残念。
文科省が実施している問題行動等調査の結果の中で、不登校の原因として一番多いものが毎年、「無気力」となっている。恐らく選択肢の中に「無気力」と入っているからだと思うが、学校が何となく選択してしまっているのではないか。今回公表した「不登校児童生徒の実態把握に関する調査」には、主要原因の一つに生徒間のいじめや人間関係、教師との関係が入っているがこのような状況が全然反映されてない結果を毎年出してもあまり意味がない。問題行動等調査の選択肢から是非「無気力」を除いてほしい。
【座長】 そもそも不登校という概念自体が30年前に定義されたが、先ほどもあったように不登校かつ経済的に困窮している子どももいる一方で、問題行動等調査の中の不登校の定義では、「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくてもできない状況にある者(ただし、「病気」や「経済的理由」による者を除く)」となっている。そこの経済的理由というのをどのように考えるか。確保法だけでなく、子どもの貧困対策の推進に関する法律も成立していることから、統計が持っている統一性に関しての検討も必要だと感じている。もっとも、統計をいじるかどうかということ自体は文科省を超える仕組みの中で動いているものとも理解している。むしろ、今私たちが不登校と呼んでいるものの本質をどのように見極めて、どのようなアプローチを考えていくかが必要である。
【委員】 今回の調査結果と問題行動等調査との違いがあったのは、当事者本人の意見が見えてきたということ。学校はこれまでの学校文化の中で、こうあるべきだという当たり前を大事にし、先生方も指導をしている。結果その指導や環境に辛さを感じる子どもたちが多くいたことを改めて感じた。先生方も、一生懸命子どものために指導していると思う中、自分を振り返ることがなかなか難しいのも実態である。大事な子どもたちの気持ちが全く置き去りになってしまっている場面もあるように思う。特に小学校は学級担任制であるため、一人の先生だけでなく、なるべく多くの先生が子どもたちと関わっていけるシステムを入れていく必要があるように感じる。
子どもは環境が変われば、これまで見えなかったところが出て、周りに認められ、自分を認めることができるというケースもある。何が違うから、子どもたちはそのように素直になっていけるのかを子どもの立場になって大人が意識することで、実際に学校の中でどういうことをしていかないといけないかということが見えてくるのではないか。
【委員】 学校の教員は、疲弊している部分がある。人が増えない状況がある中で、システム化はとても大事である。実は9月から文科省からの委託を県が受けて、スクールソーシャルワーカーとスクールカウンセラーが週1回4時間、学校へ来てくれるようになった。スクールロイヤーも来た。中学校のスクールカウンセラーに相談に行くことは、これまでも保護者にも案内を出していたが、あまり多くなかった。学校にいるとなると、相談の要望が保護者からもたくさん入っている。それから、スクールソーシャルワーカーにも相談が入っており、スクールソーシャルワーカーが教室を見て回って子どもの様子を見て、助言してくれるようになった。専門家が、ある程度学校に関われるシステムができると良い。
【委員】 文科省が行った保護者への調査とは別の調査をする機会があって、その中に、確保法ができたが、保護者としてどう受け止めているかということを、ずばり聞く項目を最後に自由記述でつけた。その答えを見ると不登校というだけで問題ではないということを国がはっきりと言うことによって、安心したとか、ほっとしたとか、学校からもそういう言葉をもらえて良かったという答えもある。確保法を理解して広めていこうとしている、実践している学校もあるということが分かる一方で、まだまだ登校ありきで考えられ、苦しい思いをしている保護者も多く、十分には浸透してない。一方で、問題ではないということを言われて安心したが、それだけで完全に不安は払拭されないということもある。勉強や将来についての不安があるので、その次に何をするべきかが必要とされている。不登校が問題ではないという点を問題ではないから何もしなくて良いとか、そのままで良いとマイナスの形で解釈されて、今までしてもらった支援も無くなったとの答えもあり、法律の意味が曲解されていたり、正しく浸透してない現状も見えてきている。学校復帰が目的ではない、では、その先にある答えを教えてほしいという保護者の言葉もあったので、そういったことも含めてここで色んな議論ができると良いし、先行的に優れた実践例からも学びたい。
【委員】 不登校の場合には前提として学校に行かなければいけないというところからスタートしている感じがする。そうではなく、休んでも良いということを認めていくという流れの中で、本人のニーズをどう拾っていくかが大事。千差万別だが、恐らく本人のニーズなくして周りが固める話ではない。
そして、ほっとした、楽な気持ちだったという回答が小・中学校共に約7割あったが、その裏にある気持ち、取りあえずそう表現しているが、でも、という部分があったり、一方で誰にも相談しなかったという回答や、何があったら休まなかったと思うかということに、特になしという回答があることについて、発信をする機会がないのか、相手に受け止めてもらえないのか、そのような環境が整っていないところも大きいと思う。不登校の対策の中では未然防止と、不登校になってからの対応と、再登校になってからの対応という長いプロセスで見ていかないといけない。単なる居場所ではなくて、学習支援という話が出た。本人のニーズがそこにあるとするならば、社会的自立に向けた学習支援というのをどのように保障していくか。あまり勉強、勉強になってしまうと、今度は辛い場所になってしまうという点についてバランスを考える必要がある。
先生方のモチベーションをどう保っていくかというところも大事である。孤軍奮闘していたところをチームでやっていくには、話し合いの機会や、自分が何に貢献できてくるかという貢献意欲みたいなものがとても大事である。特別支援教育ではよく個人因子と環境因子と言って、個人と環境の両面から見ていく。合理的配慮は、自身がカミングアウトして、発信をすることで、環境を整えていくという動きがある。特別支援教育とか不登校とかで分けて考えるのではなくて、支援ニーズのある子どもたちがどう動きたいかという気持ちを拾いつつ、色んなことを整備していけるといい。
【委員】 校内のハラスメント問題などが不登校の大きな背景になっているが、そのような学校の現実が残念ながらあるので、学校に来られないという生徒を、何が何でも学校に来させることが不登校の解決ではない。しかし高等学校では、学校に来なくても学びが保障されることや、色々な機関に助けてもらって学んでいることがきちんと卒業、必要な単位に結びつくような制度になっていない。校長の裁量だけではどうにもならないところがある。進路に繋げていかなくてはいけないということもあるので、そういう点に本当に苦しんでいる。保護者からよく小・中学校はまだ良いと言われる。小・中学校の段階にはまだ色々と関わる人もいて、関わる機関もある。しかし高等学校に来るといきなり何も無くなってしまい、学校以外はどこにも結びつくことができないと言われた。学校に来られないならば来られなくて構わないが、学校の教室以外で学んだことを認めてあげて成果として、その次の社会に繋げていけるような、そういう仕組みをしっかり作らなければならない。
私の勤務する高等学校は600名あまりの生徒が在籍しており、うち100人が深刻な不登校の状態にある。さらにもうこの時点で、単位の修得が見通せないような状況になっている生徒がいるという現実がある。高等学校には選抜を経て入学をしているので、適格化主義みたいなものがあり、教室に来られないものはどうしようもないという発想がまだまだ多くの学校にある。このようなことをどう乗り越えていくかをいつも考えている。もう一つは、教職員に笑顔がないと感じる。私たち教職員に笑顔がなければ、子どもたちも笑顔になれないことは改めて考えさせられた。
【事務局】 多くの貴重なご意見をいただいた。幾つか御提案もあるため、座長等とも検討する。
本日はこれで終了する。

―― 了 ――

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初等中等教育局児童生徒課