「全国学生調査」に関する有識者会議(第1回)議事録

1.日時

令和2年9月16日(水曜日)10時~12時

2.場所

 文部科学省東館3階1特別会議室(※Web会議)

3.出席者

委員

 河田 梯一座長,奥 明子委員,岸本 強委員,小林 浩委員,小林 雅之委員,清水 一彦委員,高橋 哲也委員,
 田中 愛治委員,千葉 吉裕委員,服部 泰直委員,本山 和夫委員,両角 亜希子委員,山田 礼子委員
 

文部科学省

 淵上高等教育企画課長,奥井高等教育企画課課長補佐ほか

オブザーバー

 濱中  義隆氏

 

4.議事録

 1.座長の選任等について

 委員の互選により河田委員が座長に選任された。また,事務局から,資料2「全国学生調査」に関する有識者会議運営規則 
 (案)について説明があり,原案のとおり決定された。また,運営規則に基づき,この時点から会議が公開された。

 2.「全国学生調査」に関する意見交換

 【河田座長】それでは,運営規則の第2条に基づいて,ただいまから会議を公開したいと思います。
 まず,今回は第1回の会議ですので,第一に,これまでの検討の経緯,第二に,昨年実施した試行調査の結果について,第三に,その試行調査から見えてきた諸課題,いろいろ課題が出てきたということですので,それについて奥井課長補佐の方から御説明ください。資料3,4,5でございます。どうぞ。

 【奥井高等教育企画課課長補佐】 失礼いたします。高等教育企画課の奥井でございます。私の方からは,資料3,4,5を使って御説明いたします。
 まず資料3をお手元に御用意をお願いいたします。本資料は,「全国学生調査」の検討経緯をまとめたものでございます。
 検討の背景といたしましては,大学における教育の質保証,情報公表が非常に重要視されている。その中で,学生がどのような力を身に付けたか,あるいは,どういう学修成果を得ているのか,そういったものをしっかりと社会に発信していくことの重要性が指摘されています。
 参考資料2に平成30年11月の中央教育審議会答申「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」での学生調査に関する内容の抜粋を付けてございます。
 その中でも,各大学が教育成果や教学に係る取組状況等,大学教育の質に関する情報を把握・ 公表していくことの重要性とともに,社会が理解しやすいよう,国は,全国的な学生調査や大学調査を通じて整理し,比較できる よう一覧化して公表すべきと提言されております。
 昨年度の試行実施につきましては,本提言を受けて試行的に実施したという経緯がございます。
 また,その後,本年1月には,中央教育審議会大学分科会で「教学マネジメント指針」を策定し,公表しております。既に各大学 の皆さん,この指針を御覧になって,教育の取組を進められているかと思いますが,その中では,「学修成果・教育成果の把握・可視化」,あるいは,「情報公表」の関係に関しまして,学生へのアンケート調査を通じて「学生の成長実感・満足度」に関する情報を収集し,学生がどういう力をつけているのか,そういった学生の主観的な評価を明らかにする必要があること,そして,それらを公表していくということの重要性について触れられているところでございます。それでは,学生調査,諸外国ではどうなっているかということを下に書かせていただいております。
 まず,学生調査は,いわゆる「間接評価」というものに分類されると承知しておりまして,学生の期待度や満足度,そういった教育の過程を評価する「プロセス評価」という形で整理されていると理解しております。
 また,諸外国では,これは参考資料4に諸外国の状況を簡単に載せてございますけれども,イギリス,アメリカでも,かなり大規模な学生調査が行われております。
 得られたエビデンスデータをアクレディテーションに利用することや,あるいは,イギリスでは学位プログラムごとにその結果が公表されているといった状況もございます。
 我が国では,昨年,本調査を全国的に試行的に実施しておりますが,高橋委員が主催されております大学IRコンソーシアムでの学生調査,あるいは各種団体,また各大学独自でいろいろな学生調査が行われております。このような学生調査につきましては,参考資料3に,学修成果の可視化のアンケート調査の状況についてデータを載せておりますが,
 一般的な学生アンケート調査は7割ぐらいの大学で導入されておりますが,例えば学修意欲を問うもの,あるいは学修経験等を問うようなアンケートは,それぞれ全大学の6割,2割ぐらいの大学で実施されているというような結果も出ているところでございます。
 こういった中で,どう網羅的に全国の学生の皆さんの学びの状況について確認していくことが必要かということで,裏面,2ページ目を御覧いただきまして,国が実施する学生調査ということを整理しているところでございます。
 国が実施する目的といたしましては,ここに丸を二つ書かせていただいております。
 各大学それぞれ独自でされているもの,それは各大学の特色に応じた取組がされているかと思います。調査目的,方法等についても多様であります。
 その中で,社会が理解しやすいような形で,網羅的あるいは共通的な項目で調査をすること,また,その結果を各大学がベンチマークをすることで,自大学の改善につなげていくということを目的としています。
 また,それとともに,学生の目線から教育の成果にどう反映していくかというものは,国としても是非考えていくべきでありますし,また,今後進学するような高校生,あるいは大学へ入学を希望するような方々に対して,各大学で学ぶ学生の皆さんがどういう力をつけているのか,どう感じているのかといったものを是非積極的に伝えていきたいという目的がございます。
 これらを踏まえまして,昨年度試行実施した際の検討経緯が下に書かれております。
 昨年,学生調査の専門家の先生方に御意見等頂きながら,これまでのいろいろな調査項目,あるいは調査方法も参考にして,適切な調査方法や質問項目などを整理・検証するということを目的に,試行的に実施させていただいたところでございます。
 続きまして,資料4を御覧ください。こちらは昨年度の調査の結果についてでございます。
 1ページ目の2ポツ,調査内容のところに書いております。今回は試行調査ということで,全大学に参加に御協力いただけるかどうかの意向確認を行ったところ,515大学の学生の皆さん,約41万人の3年生に御協力いただけるということで,お願いをしたところでございます。
 2ページ目を御覧いただきますと,回答状況から入って大変恐縮ですけれども,結果としては,約11万人の学生の皆さんから御回答いただきました。回答率としては27%でありました。
 ただ,基準合致学部と下に書いてあります。ある程度有効回答が得られる学部を見てみますと,その回答は約10万人となっています。
 下の大学規模別等々を見ていただきますと,やはり大きな学部は回答率が少し低く,小さな学部,大学ほど回答率が高かったという結果も出ております。
 3ページ目を御覧いただきますと,先ほど言った一定の有効回答率,数として,1学部で例えば30以上,かつ,その在籍学生の10%以上が回答したものを言っておりますが,ここで回答率を見ていただきますと,20%未満,これは10%とはちょっと違いますけれども,かなり多くの大学で回答率が低かったという結果も出てございます。
 4ページ目から11ページ目につきましては,調査の結果を集計したものでございますので,後ほど御覧いただければと思います。
 飛びまして,資料の12ページ目を御覧ください。昨年試行的に実施した際の課題ということを整理させていただいております。
 (1)の調査方法・対象について。全体の総数としては約11万人ということで,一定の回答数は得られておりますが,ある一定の基準を満たすような回答があった学部につきましては7割ということで,3割はその基準を満たしていなかった。回答率をどうやって上げたらいいのかというのが,一つ大きな課題です。
 二点目,回答方法について。これは,インターネット調査として,ほぼスマートフォンでの回答でございました。紙による調査ですとか,あるいは,個人を特定しない形の調査などに比べて非常に回答しやすい,自由な意見が言えたという学生の皆さんからの声も頂いたところでございます。
 3番目の質問項目,これは後ほど少し御説明させていただきますが,試行調査の場合は回答負担の観点から質問項目を厳選して,質問数36問でございました。回答の負担を見ると,6分程度の回答ということで,学生さんは比較的容易に回答いただいたかと思うんですが,質問項目については,答えづらい質問項目があるというような御意見も頂いております。
 最後に,13ページ目の(4)調査結果の取扱い。先ほど前のページで集計結果を載せておりますが,そのほかに,学部分野別ですとか,あるいは学部分野別と規模別を組み合わせたような集計結果も併せて集計しております。こちらは参考資料1につけているものでございます。
 この集計結果につきまして,今回の試行調査では全体の集計等を工夫しながら出しておりますが,今後どういった形で公表していくことが考えられるのかが,一つの課題であります。
 資料,少し飛んでいただきまして,16ページ目を御覧ください。こちらは昨年度の実施体制でございます。文部科学省と国立教育政策研究所が共同で実施ということで,各大学に通知等をさせていただき,各大学から学生の皆さんに周知をしていただいて,回答を集めるという形式を取ってございました。
 17ページ目を御覧ください。これは質問項目で,大きくは大問5問ということで,小問で36問。例えば,問い4で,「次の知識や能力を身に付けるために,あなたが受けた大学教育は役に立っていると思いますか」について,役に立っているというところの考え方が少し分かりづらいという学生の皆さんからの声も頂いているところでございます。
 また,問い5,授業の形態。ここは覚えていないとか,分からないという意見が多かったところでございます。今後どういった設問を考えていくかの一つの参考にさせていただければと思っております。
 18ページ目と19ページ目は,学生の自由記述でございます。概要だけですけれども,たくさんの意見を頂いているところでございます。
 続きまして,20ページ目を御覧ください。これは試行調査に参加いただいた大学にアンケート調査をさせていただいております。
 例えば,(1)で,対象学年としてどれが妥当かということで,3年生が比較的多かったですが,2年生,4年生も2割ぐらいやってほしいという声も頂いております。
 また,調査の実施時期も,11月が一番多いのですが,10月,11月,12月がほぼ同じような割合になっております。
 21ページ目を御覧ください。(5)で,学生への周知方法も聞いてございます。講義やゼミの前後でチラシ配布して学生に周知いただく,あるいは,メール等で一斉周知をしているというのが,ケースとしては多かったです。
 回答率が高かった大学の状況を確認したところ,教職員の方々が周知を徹底的にやっていただいて,回答を頂いたというものです。このように,教職員,あるいは大学の非常に積極的な協力で回答率が高かったという状況もございます。ただ,学生の個人情報を入れないものですから,学生が回答したかどうか分からないと,そこが回答を促すときには非常に不都合で
 あったという声も頂いております。
 最後に,22ページ目でございますが,集計結果の公表内容につきましては,分野別で利用したいと。また,他大学との比較をしたいという声も一定数ございました。
 最後,資料5を御覧ください。こういった課題を含めて,論点を少し整理させていただいております。本委員会では,この論点にとらわれず,大所高所から御意見を頂戴できればと思っております。
 事務局で整理した論点1としては,まず全国学生調査の目的,少し広すぎるという御意見も頂いております。国が実施するものとして,どういう調査の目的にしていくのが必要か。また,昨今の新型コロナウイルス感染症の影響によって大学が新しい在り方,あるいは,学生の学びも変化していく中で,どういうふうな形で実施していくことが望ましいのか,そういった観点があるのかなと考えております。
 論点2としては,本格実施の場合は全大学の参加を原則とするのか,あるいは,試行のような意向確認を行って実施するのがいいのか。又は,対象を3年生にしておりますが,4年生だとどうなのか,1,2年生は見なくていいのか,対象の考え方も論点としております。
 また,実施時期について,11月から12月は,学生の皆さんは実習でいないですとか,あるいは,大学がいろいろな調査をその時期にやっているという状況もございますので,全国的にやる場合のタイミングにも留意が必要であろうと考えております。
 また,今回の試行実施では学部生を対象にしておりますが,短期大学の学生の皆さん,あるいは通信教育課程の学生の皆さんについて対象とすることをどう考えるかも検討が必要と考えております。
 論点3としては,回答方法は,匿名で実施して,スマホで回答いただくという方式にしました。データの信頼性みたいなものも御意見としてございますが,どういう方法が望ましいのかも検討が必要かと考えております。
 2ページ目を御覧ください。
 論点4としては,質問項目は,もう少し増やしても学生の皆さんから回答いただけるのかなと思いますけれども,質問の項目数ですとか,あるいは,もっとこういった内容を共通的に聞くことが必要ではないか,そういう効果的な質問内容についても御意見を頂戴できればと考えております。
 論点5としては,公表方法として,今回はいろいろな組合せの全体の集計を公表しておりますが,まず集計の基準,学部単位で「有効回答数30以上かつ有効回答率が10%以上」の考え方でよいのか。一方で,これを満たさなかった学部が3割程度あったという事実もございますので,この回答率を高めるとともに,この基準についてどう考えていくのかも検討が必要となります。
 また,公表単位につきましては,グランドデザイン答申では,比較できるよう一覧化して公表すべきという提言も頂いておりますが,例えば大学別,あるいは学部別に公表することをどう考えるかについても検討が必要かと考えております。
 論点6としては,これも少し大きな課題になるかと思いますが,大学独自の学生調査,あるいは,大学IRコンソーシアムなどの団体が実施する学生調査との関係について,いわゆる連携をどう考えていくのか。また,学生の皆さんが負担だという意見もありますので,その効率化みたいなものも併せて考えていく必要があるのではないかと考えております。
 最後に,調査の実施主体でして,今回の試行調査としては文部科学省と国立教育政策研究所が共同で実施しておりますが,今後,長期的に見たときに,実施主体をどういうふうに考えたらいいのか。
 こういった大きな七つに分けた論点整理をしておりますが,そのほか,いろいろな御意見あるかと思いますので,これからの委員会で是非忌憚(きたん)のない御意見を頂戴できればなと思ってお ります。説明は以上でございます。

 【河田座長】 明快な御説明をありがとうございました。
 極めて資料をきちっと作っていただき,特に資料5などで,事務局の案として論点をきちっと分けていただいており,分かりやすくなっているかと思います。
 資料3のところで,グランドデザイン,それから,教学マネジメントの指針というのがありましたが,私どもが中央教育審議会でまとめ上げた中では,「三つのポリシー」という政策がございました。そうした「三つのポリシー」を各大学がアドミッション,カリキュラム,ディプロマポリシーの三つを,どう実施しているのか。「三つのポリシー」は,2017年4月から法令化されていますので,それに基づいた教育が各大学できちんと行われているかということも,私などは知りたいと思います。
 また,先ほど申しましたように,新型コロナで授業の形式が変わって,それに対して学生がどういうふうに思っているのか。試行調査は36問だったということですが,50問ぐらいは是非聞いてあげたらいかがなのか。しかしながら,この調査が大学の序列化にならないようにする必要がある。ほかの大学と比較してどうだ,ということになりますと,やっぱり大学によっては,それに対して,それだったら調査表を出さないということもあるかと思いますので,序列化にならないような形でお話を進めていかなければと考えております。 
 ここからは,まだ1時間15分ほどございますので,各先生方の,昨年から委員をなさっている先生方もおられますので,忌憚(きたん)のない,そして建設的な御意見をお願いしたいと思います。
 どうぞよろしくお願いいたします。では,田中愛治先生からまずお願いいたします。

 【田中委員】 ありがとうございます。早稲田大学総長の田中でございます。
 日本私立大学連盟の常務理事会の方でも,昨年御説明いただいたときに,大分懸念の声もございました。実際には調査していただいて良かったと思っておりますけれども,日本私立大学連盟で何を議論していたかについてちょっと御紹介させていただきます。また,世論調査の専門の見地からのコメントもちょっと申し上げたいと思います。
 今,河田委員長もおっしゃっていたとおりですが,私大連の各学長の先生方の懸念は,社会の人々に分かりやすいように公表するということが指摘されていますが,学生の授業満足度であると か,効果的な教育があるとかいうような質問項目をパーセントで各大学別に公表すると,偏差値のように大学ごとに序列が付けられてしまうという懸念が表明されました。例えば,リクルートさんなどの雑誌で大学を一斉に並べて,偏差値のように並べると,どことどこが競争するみたいな話になるのは本来の趣旨に合わないという意見が非常に強く表明されて,懸念がございました。
 多くの大学の学長の先生が,自分たちの教育を良くするためにこういう調査は大変有り難いと思うけれども,A大学がB大学よりも0.5点高いとか,C大学はB大学よりも3.2点低いとかいうようなことをするためにやるのであれば,それはまた別の偏差値競争を導入するようなもので,学生の入試のときの受験者数にも関係するようなことになるのではないかという懸念が多く出されました。
 今回頂いているのを拝見しますと,全体の数値,設置形態別,学部規模別,学部分野別,設置者と学部規模別の組合せなど,かなり意味のあるカテゴリーで分けて公表されるということで,非常に配慮していただいていると思います。
 中央教育審議会で最初にお考えになったところが,社会にとって分かりやすいように公表するということが何をイメージされていたかは正確に分かっていませんが,例えば,大学の中で,自分の大学の学生や教職員に向けて,本学ではこういう満足度はこの程度であるが,平均値はこうであるということを見ることは大事かもしれないと思うのですが,全ての大学を上位から順に並べてそれを比べるのはやはり難しいのではないかと思っております。
 もちろん,設置形態であるとか,学生数別に分けて,何万人以上のところとか,何千人から何万人までところとかというふうに分けてみたとしても,その中で競争みたいなことになるのは余り好ましくないという意見が出て,そこについては御配慮いただければと思っております。ただ,各大学が,自分たちの教育はここがまだ足りないとか,ここをもっと良くできるということに関しては,大変に役に立つと思います。
 全国で統一していただいてということは,全国の平均に比べてうちは低いとか,同じ設置形態の他大学に比べてうちは弱いとか強いとかということは見えるので,こういう一貫した調査票で調査していただくことの意味はあるかと思っています。
 もう一点,私が世論調査でやってきた観点から,昨年の担当者の方に申し上げたんですが,一つの懸念は調査方法でありまして,学内で学内一斉メールやチラシなどを配って,そこにQRコードなどがあると,スマートフォンを掲げれば,そこで回答用紙に行けるので,オンライン上でWEB上の調査に入れるという。それはコンピュータの場合でも,スマートフォンでもできるということですが,これは非常にいいと思います。
 問題は,全員にチラシを配って,見た人がこれに答えようというときに起こるのは,セルフ・セレクション・バイアスと言われているものです。自己選択ということで,つまり,関心が高い者ばかりが答える。ですから,大学に教育上の不満がある人は,是非答えようと思って答える。それから,ものすごいファンがいて,うちの大学はすばらしいと思っている学生は答えるかもしれませんが,普通に考えている学生は余り答えない。
 できれば,全学生へメールを出せるようになっている,ラーニングマネジメントシステムなどでメールが出せるようになっていれば,全学生の中からランダムに選んで,QRコードを送るなり,ウェブサイトのURLを送るなりして,そこであなたは無作為に選ばれたので答えてくださいと言って答えてもらう方が良いと思います。それでは回答率は下がるのですけれども,その方が本来の社会調査,いわゆるサーベイリサーチ,世論調査に近いと思います。
 全員になったら,大抵の学生が答えて,やはりセルフ・セレクション・バイアスが出るので,先ほども御指摘ありましたが,学内でやる調査よりも厳しい回答が多いということは,恐らくそのセルフ・セレクション・バイアスが働いていると思います。つまり,文句がある人が答えているという可能性が高い。そうしなければもっと良くなるとは限りませんので,意図的に数字を良くするという気は全くないのですけれども,やっぱりそこのところはちょっと御検討いただければと思います。
 実際に各大学のラーニングマネジメントシステムによっては難しい場合もあるかと思うのですけれども,今のままではやはり問題は若干あろうという気はしております。
 これは私の専門の分野からの指摘でございます。以上でございます。

 【河田座長】 ありがとうございました。田中先生は,元世界政治学会会長として特に選挙の効用とか,そういう調査もよくなさっておられるので,すばらしい御意見かと思います。
 その辺のことも,今後4回,会議を行いますので,最終的にどのようにしていくのかを答えを出していきたいと思っております。
 ほかの先生方,どうでしょうか。昨年から委員をなさっている同志社大学の山田礼子先生,いかがでしょうか。

 【山田委員】 御指名ございましたから,幾つかお聞きしたい点も含めて,ちょっとお伺いしたいと思います。
 今,田中先生がおっしゃった無作為という点ですけれども,例えば,諸外国で,国が行っているイギリスなどの例では,比較的回収率といいますか,回答率が高いかと思いますが,
 どのような仕掛けがあるのかなというところをまずお伺いしたいなと思います。
 アメリカなどのジェイサープとかネッシーなどは,これは決して国が行っているものではございませんから,参加したいという大学が参加して,それでお金を払ってというようなことですけれども。
 基本的には,いろいろ大学が工夫しているのは,景品を付けるとか,何かそういうことでインセンティブを付けるというようなことをしているはずなのです。
 といえど,これを日本の全ての大学がそんな何か景品を付けるとかいうことが難しいので,どのようにして回収率が上げられるのかなというところがちょっと聞きたいところで,イギリスの例などをお聞きしたいなというところです。
 無作為は田中先生が御指摘のとおりだと思うのですが,ただ,無作為でラーニングシステムで学生をピックアップしたとしても,その無作為の中から本当に答えてくれるかというところも,確証がないところもあるかと思いますので,そのあたりもどのようにしたらいいのかなという感じがいたします。
 それから,私,全部で三つほど申し上げたいと思うのですけれども。先ほどの質問票を見たときに,学生からの評価といいますか,コメントを見てなるほどと思いましたし,自分が今やっている国際比較の調査なんかでも,同じようなことが出ておりますが。問い4で,「あなたが受けた大学教育は役に立っていると思いますか」という,ここは答えにくいという学生さんのコメントだったと思います。
 これ,試行調査のときは,具体的にした方がいいということで,「役に立っていると思いますか」というような聞き方をしたのですが,ただ,現役の3年生,4年生,つまり,現役の学生にとっては,この役に立つということが,一体何にとって役に立つかということがイメージしづらいというようなことは実際あるのだろうと思います。
 私どもがやっている国際比較では,10年,卒業してから現職の職業人に同じような項目を聞いておりますので,大学教育の貢献とか,大学教育が役に立っているというのは,やはり職業上,あるいは,研究者になった場合に,それがどういうように役に立っているかというように,具体的にイメージができるのですけれども,現役の学生さんというのは,これはやっぱり難しいなという感じを,改めて今回学生さんのコメントを聞いて思ったところです。
 もう一点は,これは令和3年度に実施するからということで,まだ時間があるのですが,それこそCOVID-19の影響というのは非常に大きくて,この質問票そのものは,それがなかった時代,つまり,対面式を前提として全て設計されているかと思います。ですから,対面式でこの項目というものが成り立っているために,令和3年に行ったとしても,本日の新聞にも出ておりましたように,やはりしばらく大学はオンラインと対面式を併用していくであるでしょうし,また,オンラインという形での教育が広がる可能性というのはかなり大きいわけだと思っています。そうすると,そこをどう反映するかということで,分けてするのか,対面式でどうなのかとか,そのあたりの設計もやっぱり考えていかなければいけないのかなというようなところが感じた次第です。
 そんなところです。三点でした。

 【河田座長】 ありがとうございます。田中先生,それについて,簡単に何かお答えがありますればお願いいたします。

 【田中委員】 山田先生,ありがとうございました。御指摘のとおりだと思います。私どもがやっておりまして,一般の世論調査のような無作為抽出をしても,やはり答えたい人が答えるということなので,セルフ・セレクション・バイアスがそこでも起きますから,確かにおっしゃるとおりかと思います。
 そうすると,全数調査にして,全学生になるべく答えてもらうときにどうするかということになりますが,授業評価の,いわゆる授業のアンケートの場合にやっぱり回収率が上がっているのは,授業中にスマートフォンで授業評価をしてもらうと回収率は高いのですね。本人の成績は全く関係なく,それは匿名化されているということが保証されているので,皆さん,安心して,
 この授業は分かりにくいとか言えるわけです。
 全国学生調査でも同じようなことが起こるかと思います。授業を終わって,ここに答えておいてねとか,君のメールを見ればURLがあるからとか,QRコードがあるから答えてねと言うと,やっぱり回収率は授業評価でもすごく低いようなのです。授業中の調査の回答ではない場合は。
 逆に,全学生に各授業の中で,「今その時間10分間設けるから答えてください」と言うと,皆さん,そこでスマートフォンを開いて答えるということになるかと思います。今,スマートフォンを持っていない学生さんはものすごく少ないと思いますので,大体90%以上は対象になると思いますので,そこで答えていただくと回収率は上がるかなと思います。御指摘のように,何か景品を
 付けるというのは,もうほとんど不可能だと思っております。
 それから,私の方からもちょっと伺いたいことがございまして。リクルート「カレッジマネジメント」編集長の小林様にお教えいただければと思うのですが,日本私立大学連盟でも,かなり他大学と比較されることを恐れるという懸念が出されていました。私もそうは思いましたが。やはり外から大学を分析されている小林様のような目から見たときに,そういう姿勢自体が
 問題だというようにお見えになるかどうかということもありまして,ご意見をうかがいたい。ベンチマークとしたものに自分たちがそれより低いとか高いということはしっかり分析する必要があると思うのですが,他大学と比べられたくないというところが強くございましたけれど,そういうことに関してどういうふうにお考えか,ちょっと教えていただければと思います。
 これも自大学に持って帰ってでも,自分たちも反省することになりますので,よろしくお願いします。

 【河田座長】 それでは,リクルート進学総研所長をなさっている小林浩先生,どうぞお願いいたします。
 
 【小林(浩)委員】 ありがとうございます。大学でいくと,そういったランキングとか,記事を出したりとか,書いたりとか,読む人というのは,大体保護者世代です。
 保護者世代が大体大学に行っていたのが1990年頃になります。その頃の大学の数は500で,今800近くありました。学部の名称も,29だったものが,設置基準の大綱化によって緩和された結果,今700以上あります。大学進学率も,25%から5割を超えるようになってきて,その世代から見ると,今,大学ってどうなっているのだということが根底にあると思います。
 その当時は,塾とか,予備校とか,模試会社が偏差値のランキングを作って,それが絶対的な価値だと思っていたら,今,私立大学では半数以上がAO・推薦型で入学しており状況が大分変わってきています。そうしたなか,大学は,うちは悪い教育をやっている大学ですと言う大学は一校もないわけですよね。そうすると,どうやっていい大学を見たらいいのかとか,
 自分の子供たちに合った大学をどう探したらいいのかというのを血眼になって探している状況だと思います。そして,大学のランキングを市販誌が特集をすると,かなり売れるらしいのです。
 つまり,それだけ社会的ニーズがあるのではないかと思います。
 なので,ランキングをするということだけが目的ではないのだと思います。今,いわゆる大学といっても,全ての大学を一つで表すことができなくなっている中で,特に文系と理系とか,資格が取れる学部と取れない学部とか,大規模大学と小規模大学とか,地方の大学と都市部の大学とか,いろいろなセグメントによって見方が違ってくると思います。
 そして,なかなか学生視点での情報がないということになりますので,教学マネジメント,私も委員をさせていただいておりましたが,今後の大きな方針の一つは,学修者本位の教育の実現ということになりますので,その学修者本位の教育ができているかどうかというのをどのように見せていくかというところがすごく重要になってくるのではないかと思います。
 ランキングするということは目的ではなくて,それくらい,大学の外の人から見ると,大学の中身が分かっていない状況なのではないかというふうに御理解いただければいいのではないかと思います。よろしいでしょうか。

 【河田座長】 ありがとうございます。
 確かに,学生視点,学修者本位という,ただ単に何か比較して並べてランキングをするというのではない,そういうことが大事かと思いますので,是非そうした方向性を考えていきたいと思います。
 手を挙げていただいている山梨県立大学の清水一彦先生,どうぞよろしくお願いします。

 【清水委員】 先ほど河田委員長がおっしゃいましたけれど,日本の大学は,各大学が教育の質保証とか,学修成果の可視化とか取り組んで,先般,教学マネジメントの指針も出ました。
 だから,各大学が教育改善とか教育の質向上に向けて,いろいろな知恵を出してやっています。また,学生の調査は,どこの大学でもいろいろな形でこれまで実施されてきたところです。
 ですから,各大学の教育改善とか教育の向上とは別に,全国学生調査によって新しく明らかにすればいいわけですから,各大学がやっているようなことまでやる必要はないと思っています。
 それは何かと考えたら,日本人というか,農耕民族は米文化で,比較したがる民族でもあります。ですから,他の大学とか,他の分野とか,そうやって横の比較をしたがる。という意味では,比較のためにこれが活用されるとすれば,分野ごとの比較ですね。学内における学部間の比較なんて余り意味はなくて,他の大学との学部とか分野の比較,これに資するような調査で
 あるべきだというのが一点。
 もう一点は,国がやる調査によって,世界に日本の教育の何を発信したらいいのか。つまり,世界に日本の高等教育はこうでありますよという,そこに資するような調査がいいと思います。
 私が考えているのは,山田先生中心にいろいろな国際比較もやっていますけれど,これまで日本の学生は勉強しない。勉強しないから,そこにはお金を出さないというようなことが言われます。
 よくよく考えると,日本の高等教育は三密なのです。つまり,履修科目が多いとか,履修単位が多いとか,履修時間が多いといった三密です。いわゆる授業時間が多いのです。
 今回の試行でも,週に16時間。3年生でもそうですから,1・2年生だったらもっとです。これは,よく勉強している証拠です。ただ,授業以外の学修となると,アメリカの3分の1とか,4分の1とかで,そこがクローズアップされて,日本の学生は勉強していないとなる。
 そういうことで,日本の学生は世界的に勉強しないという,そうした発信をやっぱり変えなければいけないです。日本の学生はよく勉強している。授業を受けて,勉強して,成長していると。
 そういう発信,世界への発信のために,この調査を活(い)かす。比較の視点と国際発信と,その視点から,この全国調査の中身を決めていけばいいと考えています。
 もう一つ,成長実感とか満足度という質問項目に関してです。満足度というのは,リクルートがもうかなり前にやっていますので,そこは難しいと思いますが。成長実感というのは非常に重要な視点なので,ここを何か数値化できるような質問というか,これこそを中心に置くべきではないかと思います。以上です。

 【河田座長】 ありがとうございました。
 日本の大学の長所をということでしたけれど,本当に日本の大学の良さを世界に発信できることがいいでしょうし,ただ,学生諸君がそういう成長体験を実感している,あるいは満足しているということを証明することは大切でしょう。私も,日本の大学は履修科目が多すぎる。キャップ制で,もっと少なくするべきであるということを常々申しておりますけれど,本当に先生の
 おっしゃるとおりだと思います。
 それでは,東京理科大学理事長の本山和夫先生,お願いいたします。

 【本山委員】 本山でございます。
 今日,皆さん方のお話をお聞きして,なるほどなと思う部分はあるのですけれども。ただ,アンケートの目的というのが,私は二つあると思います。
 これは日本私立大学協会の議論も含めてなんですけれども,調査する目的というのは,大学なり教学の世界で,何かの手を打って,その結果がどうだったかということをチェックするために調査をやるのではないかと思います。
 それと,もう一つは,フェイスシートを作って,アンケートの結果と解析をしてね。そうしないと,打ち手が分からないわけですよ。
 これは早稲田大学のイチムラ先生といって,工業系,私も経営工学ですけれども,一緒に議論したときに,調査研究,調査というのはどうあるべきかということを議論したときに,この二つが調査の目的だろうと。
 フェイスシートがない結果がこうだったといって,どういう手を打つのかなと思います。そうすると,先ほど小林さんがおっしゃったように,それぞれの比較対照しかないですよね。目的は。
 目的は,どこよりどうだったかというだけの話であって,誰がどういうふうな,どういう階層がこういう答えをしているかというのもさっぱり分からない。打ち手が全然取れない調査をやって何なのですかと。目的は,それは大学間で比較するだけの話であって,じゃ,比較されたって,下の方は何が悪いか分からないですよね。どういう手を打っていいか分からないじゃないですか。
 それには,もっと調査の仕方を,アカデミアというか,相談しながら,先ほど層別をしてというお話も田中先生からもありましたけど,サンプリングしてというお話もありましたけれども,やはりどういう人がどういう答え方をしているかと分かった中で結果を出して,解析をして,打ち手を明確にしていくということをやっていく調査に帰った方がよろしいのではないかなと思います。
 これが出てどうだったか。低かった。じゃ,低かったら何なのですか,これ。どういう手を打つのですか,それ。というふうに私は思います。これは私大協としても,こういう意見が非常に多かったものですから,お話をしているということですけどね。

 【河田座長】 ありがとうございます。
 実際に実業の領域において先生は御活躍なさってこられましたから,そういう意味で,まだまだ大学の側(がわ)に問題があるかもしれません。ありがとうございます。
 それでは,大阪府立大学副学長の高橋哲也先生,お願いいたします。

 【高橋委員】 最初に,山田先生のイギリスの調査の話,昔,少し前ですけど,調査に行ったので,まずその話をさせていただきます。
 イギリス,National Student Surveyという,国がやっている大学生の調査,これは全体でやって,回答率が70%以上,全てのイギリスの学生で70%以上の回答率があります。
 基本はWEBベースですけれども,当時,2015年,私,HEFCEというところに行って調査したのですけど,郵送や電話も併用して,それから,あと,イギリスの場合は,スチューデントユニオンが基本一緒に協力してやっています。スチューデントユニオンに対する満足度みたいな項目もあるんですけど,そういう形で,学生団体も一緒になって協力してやっているということで,調査会社に
 委託して,お金もかけていますが,そういう形で全数調査という形をやっていて,非常に高い回答率になっています。
 それから,ランキングの話ですけど,私,今,大学IRコンソーシアムで,今60大学が加盟していますが。もちろん比較はしたいのですが,ランキングではなくて,やはりベンチマーク,それぞれの専門分野との比較,例えば,社会科学系の学部全体を見たときに,自分の学部との比較というようなことは,なかなかふだん見えないので,そういったものがコンソーシアムで
 学生調査 をやっていくと分かるということが,結構大きな理由として加盟していただいているかなと思っております。
 それと,経年比較ですね。これ,単年度だけやっていても分からないのですが,毎年何年か続けていくと,その中で自大学のデータ,この学部のデータが変化して上がっていくといったことは見ていけるので,そのあたりは,これは今回も文部科学省にもお考えをお聞きしたいのですが,この後どう続けて,一回やって終わりでは,恐らく余り意味がないかなと。ただ,毎年やるのも大変かと思いますが,それをどのような形である程度継続していくおつもりなのかということは,ちょっとお聞きしたいかと思います。
 あと,IRコンソーシアムでは,学籍番号とひも付けて,GPA等も一緒に連結させています。学籍番号の方は暗号化して全体の集計のシステムの方には上げる形にしているので,個人情報は学内しかない形ですけれど,そういったデータともひも付けをしているので,先ほど本山先生の話にあったように,どういう人がどう書いているかというのがないと,なかなか大学としては改善に結びつけるというのは難しいかなというのはあるかと思うのですが,これを国の調査でやるのはなかなか厳しいのかなという部分は,昨年試行した中でも感じています。以上です。

 【河田座長】 ありがとうございました。
 やはり日本では初めての公式の学生調査で,昨年は試行ということですから,毎年は無理でも,2年に1度とか,そういう形での経年比較を行って,どういうふうに良くなってきた,どういうふうに変わってきたというのが示されないと調査としては駄目だと思いますし,先に本山先生が求められるような形がすぐにはとても出るようには思いませんけれど,それぞれの先生方の貴重な
 御意見かと思います。
 あと,誰かございませんでしょうか。島根大学長の服部泰直先生,いかがでしょうか。国立大学の立場から是非御発言をお願い申します。

 【服部委員】服部です。国立大学協会の代表としての発言ということは難しいので,飽くまでも個人的な意見ということで聞いていただければと思います。
 まず,調査の目的ですが,三つ挙げていただいておりまして,各大学の教育改善に活(い)かすこと,これは皆さん,是非活(い)かしたいと考えておられると思います。
 それから,2番目は社会の理解を深める一助ということですが,この社会というのは何を指しているのか。もしかしたら皆さんそれぞれがイメージする社会というものが異なるかもしれない。
 ここでの社会は何を指しているのかを明確にした方が良いように思いました。
 3番目は,国の政策立案に対しての基礎資料ということで,2番と3番は似た方向性と思います。1番目の各大学の教育改善については,実際に調査結果を見させていただいた上で本学個別のデータと比較しながら,国立大学,そして,私立大学含めて全体の中でどのような状況にあるかを考えることができました。今まで気が付かなかったこともあり助かりました。
 その上で,この調査で全国の大学の状況を大まかに把握した上で,各大学が調査結果を教育改善に活(い)かすためには,各大学で個別の学生アンケート調査等を実施する必要もあるように感じました。
 その意味で,この調査項目,この結果のみで各大学の教育改善が図られなければいけないとまでは考えない方が良いように思います。この調査結果については,大枠を把握する方向性で活用すれば良いと思っています。
 それから,社会の理解を深めることは非常に大切で,今,国立大学に対しては種々の方面から大学の取組みについての説明が求められております。社会の理解を深めるために,国立大学では意識的に発信しているつもりですが,まだ不十分なところもあるように感じています。
 その一つの原因として大学側が説明していることと,社会が説明を求めていることとがミスマッチをしているような印象があり,改善の必要性を感じています。これは私の全く個人的な感想です。
 この観点から,この調査で社会に理解を求めるのであれば,産業界や経済界の方たちが求める学生像を理解して,それに対して大学がどのような教育を実践して,成果があって,その教育を受けた学生がどのように育っているかを伝えることが重要と思っています。
 本調査において調査項目を非常によく考えていただいたことは,本当に大変だったかと思い感謝します。しかし,私の感想としては,少し大学側の視点が強すぎて,社会に理解していただけるかどうか心配です。本調査では,社会が求めている学生像をフィードバックしていただいて,調査項目をしっかり精査して,それに対する学生の考え・思いを調査して,社会に説明できればいいのかなと考えています。
 それから,先ほどありましたように,経年調査は必要だと思います。同一の調査項目で毎年ではないにしても,何年かは経年して比較していくことが,各大学の教育改善につながると思っています。 以上です。失礼します。

 【河田座長】 ありがとうございました。
 先生は国立大学を非常に謙遜して言っておられますけれど,地域への貢献度というのを見てみますと,日本経済新聞の調査(2017年11月)だと,大阪大学が1位で,信州大学は2位,3位が鹿児島大学と,国立が1,2,3を占めているのですね。そのほか,同じく日経新聞の本年6月3日の企業の人事担当者から見た大学イメージのランキングでは,北海道大学が1位で,
 横浜国立大学が2位で,名古屋大学が3位で,京都大学,東北大学,広島大学,東京工業大学,九州大学,筑波大学,大阪大学,一橋大学,そして,12番目にようやく早稲田大学が出てくる。
 僕は,これは本当かなと疑問を抱きながら,私立大学に長年勤めた者として読んだのですが……。
 だから,いろいろな側面が学生調査には必要だろうと考えます。本山先生のような産業界,経済界におられる方から見てどういう人材が求められているか,そういうことも将来的には考慮しながらやっていければ良いと思います。
 だけど,最初の年ですから,まず新型コロナ禍によってどういうふうに大学が変わってきたのかとか,そういうことも是非必要でしょうし,設問を36から50ぐらいに増やして,そういうことにも考慮しながら,最終的な案を作っていければと考えております。
 まだ時間もありますので,御自由に先生方から御意見をお出しください。貞静学園理事長で短期大学長の奥明子先生,どうぞよろしくお願いします。

 【奥委員】 私も短期大学の方からですので,今のお話の路線に沿っているかどうか,その辺のところは,申し訳ございません,もしかしてちょっとそれているのであれば,御容赦いただきたいのですが。
 そもそもこの全国学生調査というのは,先ほど本山先生がおっしゃったように,いいとか悪いとかということではなくて,どういうふうに改善していくのがいいのかということを目標として,学生調査というのはするものではないかと,私は本山先生の御意見に賛成なのですが。いろいろとこの項目を見ると,全然役に立たなかったとか,分からなかったとか,そういうところの
 人たちのパーセンテージも結構多いのですね。それが私は一番の問題ではないかと思うのですけれども。
 もし全く役に立たなかったということであれば,それは全否定につながっていきますので,そこをどういうふうに改善したらいいのか。ほんのちょっとのコメントでもつける欄を設けて,それを公表するかどうかは別として,その欄を設けて,またそれについていろいろと検討していく必要もあるのではないかなと思いました。
 特に外国語を使う力というのがほとんど役に立っていないというのが,かなりパーセンテージが多かったのですけれども,この辺のところをどういうふうにして各大学にお願いしていくかとか,いろいろ派生的に考えていくことができるのではないかと思うのですね。
 そのためにも,1行ぐらいコメントの欄を,例えば,役に立っていない人は,どういうところが役に立っていないですかというところを,コメントの欄を1行ずつ,大変かもしれませんけど,そういうことを設けてやることも,一つの調査ではないかなと思いました。
 それから,経年の方の比較も大事だという件ですけれども,日本私立短期大学協会の方でも,4年に1度ずつ学生生活調査をしておりまして,昨年,4年間どういうふうに学生たちが変化,気持ちの変化とか,その学生の状況が変化したかということを行ったのですけれども,やはり経年で,毎年は大変だとしても,3年とか4年に1度調査をすると,昨年度は学生たちの趣味の時間が
 減って,アルバイトの時間が増えているとか,これはどういうふうにして改善していく方向に持っていくことが可能かとか,そういうこともやはり少しずつ検討していく必要があるのではないかと思います。
 経年の比較というのは非常に大事だと思いますので,私は1回目の方の作成にも関わっていないので,勝手なことをお話ししているかもしれませんけれども,今後に向けて,分からなかったとか,役に立っていなかったという全否定するようなところに関しては,やはりコメントの欄を設けるということが必要だと思います。
 ほかにもいろいろいろいろあるのですが,時間の関係で,またもし時間がありましたらお話しさせていただきます。以上です。

 【河田座長】 ありがとうございます。
 現在私は,文部科学省の事業で,日本学術振興会が審査・評価をしている,「大学教育再生加速プログラム(AP)」という取り組みにずっと関わらせていただいているのですが,その中でも,「アクティブラーニング」というテーマで,すばらしい取り組みが,実施されています。これは良い例ですから大学名を挙げてもいいと思いますが,京都光華女子大学とその短期大学部です。
 特に,短期大学の方がすばらしい。短大は2年間で卒業ですが,非常に内容の充実した教育を,アクティブラーニングを利用して実践しておられました。その授業を,委員の皆さん,そして文部科学省の方々も一緒に伺って見せていただいたのですが,非常に活発な授業をして,それが実際に卒業後の仕事,実生活にも生きているという例がありました。
 ですから,4年制大学だけでなく,短期大学においても,様々な教育改革が実施されていて,それが結実している大学もかなり多くあると思いますので,そういう長所,いいところが見えるような形で,先生の申されたような全否定があるならば,コメント欄も必要かと思います。ありがとうございます。東京大学の両角亜希子先生,何かございませんか。

 【両角委員】 ありがとうございます。
 私もいろいろ感じることがありまして。多分,一番の論点は,この論点1の学生調査の目的をどう考えるかということではないかなと思って聞いておりました。
 いろいろな大学個々で調査されたり,IRコンソーシアムだったり,いろいろありますけれど,国がやるということで,大学は今こうなっているのだと社会に発信していくことや横,つまり大学同士で比べられる点がまず大事なのかと思います。大学の中だけで調査して,うちの大学の特徴はこうですと言うのは自由ですが,学生が本当にそうなのかということは,比べないと分からないので,
 そこが大事だというのがまずあると思います。ただ,せっかく労力をかけてやるので,大学の教育改善にも活(い)かす形にしないと,学生が協力するメリットが何もないですよね。
 そういうところの問題があるのかなと思って聞いていました。
 社会に大学,学部別のデータを出すことの懸念があるということも,私はすごく理解はできます。それぞれの回答が何を意味するかということもそうですし,やはり大学によって,ほとんど全員の学生が答えたところであれば,それは大学の数値であるとは思いますが,なかなか大きい大学で,例えば,必修の授業で授業中にやったりしても,それでも限界があるというのは,
 今まで学生調査,いろいろな大学に協力してもらう中で,かなり難しさも感じているところはあります。
 そういう意味では,出したい大学は,どんどん自分のいいところを出していけばいいと思います。あと,今回は全国平均値が出ていますが,やはり分野別ですとか,もう少し細かい単位での全国比較のものがないと,全国一般と大学を比較しても余り意味はないかなと。なかなか文部科学省のやる調査で,例えば偏差値なんて難しいですけれど,全国調査との比較ですよと言って,
 例えば東京大学の中で結果を出しても,全く興味を示されずに,どこの大学ではなくて,例えば京都大学と比べてくれとか,あるいは国立の中のどこかとだったら分かるけどと言って,先生たちがまともに聞いてくれないということもあって,本当に比較対象となるようなグループ群の何かデータと比べられるような形で,その大学の特徴がまず相対化されていき,自分の大学はここが強いなと思ったら,そういったところを自ら大学が出していく。そういう大学が増えていくと,何でうちの大学は出さないのだ,うちの大学どうなっているのだという声が社会とか学生から上がって,だったら,もうちょっと協力してみんなで答えようというような動きも出てくるように思います。調査を一回やって何とかなるというよりは,何回か継続的に行っていく中で,そういうふうに育てていくような発想も大事かなというような印象を感じています。
 また,先ほどどなただったかがおっしゃったかと思うのですが,この調査で全部をやってしまうというところはかなり無理があるという気がしていまして,やはり調査項目も多少増やしたとしても,それぞれの大学に見合った内容までやるのは結構難しいので,ここで出てきた項目で大学なりの特徴や課題や強みが分かったら,やはりその大学独自の調査とか,それ以外のものと組み合わせてしっかり分析をしてみることは不可欠だと思います。アンケートだけではなく,学生を集めて声を聞くのだって十分意味があると思います。小さい大学でアンケートなんかしょっちゅうできないという話もよく聞くのですが,アンケートしなくても,学生を集めて声を拾えば,重要な論点は出てくるものだとも思います。そういう形で,学内でこれをステップに,次のものとつなげてもらって,この分析だけで全ての目的をというところは難しいのではないか。逆に,いろいろな目的を期待しすぎると,この調査をする意味が曖昧になるのかなというようなことを感じました。
 取りあえずは以上です。ありがとうございます。

 【河田座長】 そうですね。本当に,国が本質的に初めて実施する調査,9月14日から始まった国勢調査のようなものですから,先生のおっしゃるとおり,どういう形で社会へ発信していくのかということに注意し,また大学の改革に役立つような形で行うことを希望いたします。何度も申しますが,コロナの時代の日本の大学はどうだった,どう変わったのか。そういう意味で,この学生調査は一つの歴史的資料にもなると考えます。あと,いかがでしょうか。島根県立大学・短期大学の岸本強副学長,お願いいたします。

 【岸本委員】 まずは,この調査の回答率を上げるためには,学生に目的を明確に示すことが大切ですよね。授業内での紙ベース調査と比較し,Web調査ですと回答率が下がりがちになってしまうので,試行実施でも回答率が上がっていない。
 公立短期大学協会に加盟しておりまして,公立短期大学協会としてもぜひ調査対象に加えていただきたい。対象学年は2年生,時期は秋ごろが良いと思います。
 今回の試行について見てみますと,四短で項目内容を変更する点や項目数を大きく変更すべきところはないのかなと思いますが,一点,問い2の海外留学(3か月以上に限る)項目は短期大学では期間を短くしないと回答できないのではと思います。
 
 【河田座長】 どうもありがとうございました。田中愛治先生,どうぞお願いいたします。

 【田中委員】 ありがとうございます。田中でございます。2度目の発言で恐縮ですが。 
 今まで御議論を伺っていて,両角先生の,この調査の目的がやはり一番大事な論点だという御意見いただいて,その中に,河田先生の御指摘のとおり,新型コロナウイルス感染症の影響ということがございます。先ほど山田礼子先生も既に御指摘になっていますが,オンライン授業をどうするかということで,今年の春はもう全面的にオンライン教育をせざるを得なかった大学が多かったと思うのですが,この後,この秋,また来年の春に,いわゆるハイブリッドといいますか,オンラインの教育と対面教育を併せるということになるのですね。そうすると,その後の令和3年度の調査も続けていただくとすれば,そういう項目も必要になると思います。
 例えば,私どもも予想外であったのは,早稲田大学でオンライン教育を行ったところ,もちろん教員によって相当差が出ています。ものすごく熱心にシラバスの書き直し,レジュメもふだんよりも丁寧にやった方に対して,学生の反応は非常に良かったですし,ものすごく悪い授業評価も出ています。
 今年の7月の半ばから春学期の終わりにかけて,8月10日ぐらいまで,約3週間の期間で学生に調査いたしました。全数調査をいたしまして,回収率が1万5,000ぐらい。5万人の学生のうち1万5,000ぐらいの回収だったのです。
 その中で,今後どう考えるかというときに,コロナが完全に収束して,密になるとか,教室に行くことが問題ない場合にどういうふうに考えるかといったときに,平均値で一番多かったのは,7割は対面の授業で3割はオンラインがいいと思うという学生の数が一番多かった。平均値はそこに来ていました。
 やはりある意味では,ポストコロナというのは,恐らく,反転授業などもありますし,様々な組合せがあると思います。ジグソー方式とかの教授法もあると思いますが。やはりオンラインの教育は効果があるということはかなり分かってきております。もう皆さんの御指摘のとおり,例えば,300人教室で対面ですと,まずほとんど質問の手が挙がらないですが,オンライン画面ですと,学生さんは余り怖がらずに質問もどんどんいたしますので。
 そういった意味も出てきていますし,それから,統計などのオンデマンドであらかじめ収録した授業に関しては,この調査の自由回答にあったのは,自分が分かっていると思う内容であれば1.5倍速で聞ける,難しい,新しいなと思ったところで,丁寧にスピードを落として,3回繰り返して聞けるので,オンラインの方が勉強になるというコメントも出ているのですね。そういうできる学生は速く,また必要なところはゆっくり,あの授業はもうついていくのが大変だというものは3回聞いたというようなこともあります。
 オンラインというものが,ちまたでも,それから,文部科学省もときどきオンラインに頼って困る大学があるということをおっしゃっている。懸念もあることは分かりますが,性悪説だけではなくて,しっかりとしたオンライン教育というものの意味があるということを社会一般にも理解していただく,保護者の方にも理解していただく必要はあると思うんですね。そういうような調査項目も,今後は入れていただく必要があろうかと思っております。以上です。どうもありがとうございます。

 【河田座長】 ありがとうございました。
 現在,オンライン教育が既に90%以上の大学で行われている状況ですので,是非そうした問題を上手に質問していけば,今後の日本の大学教育の在り方について考えることができるかと思います。
 春学期のオンライン授業導入をいち早く決めた,秋田県の公立大学法人国際教養大学の鈴木学長は,いわゆるハイブリッド留学みたいなものを行うのではなく「原則,時間通りに,授業内容とレベルは
 落とさない」授業を実施すると書いておられましたが,国公私立,そして短期大学で,コロナによって様々な取り組みが出現しているので,そうした事実が明らかになれば有意義であると思います。
 あと,どうでしょうか。桜美林大学の小林雅之先生は,前職の東京大学教授として昨年の学生調査にも参加なさっていますが,いかがでしょうか。

 【小林(雅)委員】 ありがとうございます。ちょっと回線の調子が悪くて,何人かの先生の意見がよく聞こえなかったということがありまして,発言を控えていたのですけれど。
 それと,もう一つの理由は,やはり前回の試行調査をやりましたので,言わば今回はまないたの上の鯉(こい)みたいな存在になっていますので,議論を聞いていまして非常にデジャブ感というのもありまして,こういう議論はそういえばしたことがあるというのがたくさんあります。
 例えば,田中先生の言われたサンプルセレクションバイアスの問題ですけど,これも相当議論しましたけれど,今回はこの方法しかないかなというようなことでやらせていただいたわけです。
 ただ,田中先生のおっしゃった,授業中にやると回収率が高いというのは,東京大学の達成度調査というのも卒業時の提出書類と一緒にやるので,9割以上の回収率を持っています。
 ですから,そういう工夫も少しできるかもしれません。
 景品を付けることについては,アメリカのNCESの調査などは景品とか謝金を付けるんですが,そうしますと,今度は逆のサンプルセレクションバイアス,つまり,景品や謝金が欲しいからやるという学生が出てきますので,なかなか難しいということで,いろいろ議論しました。それが一点目です。
 次に,今問題になった調査項目の修正ですけれど,これは絶対必要なことだろうと思っております。特に,今ありましたように,オンラインの授業をどうするかということですね。私も実は今年,早稲田の大学院のゼミをやっているのですけれど,非常に活発にやっていただいています。ですから,大学院のゼミみたいなのはいいのですけれど,学部でやるときには,また違う問題もあるでしょうし, 
 そのあたり,これから絶対に必要な調査項目だと思っていますので,そこは調査項目をこれから是非修正したいと思っています。
 それから,河田先生がよくおっしゃっている単位履修の制限の問題ですけれど,これ,実は,今一番学生が困っていることの一つです。というのは,今までの調子で10コマ,15コマとか学生が取っていますと,教員の方が課題をがんがん出しますので,それに対して学生が悲鳴を上げているというのが現状です。これ,学生も問題ですけれど,課題を出しっぱなしでフィードバックしない教員も結構多くて,全国大学生活協同組合連合会の調査なんかですと,そういう傾向が出ています。ですから,そのあたりも是非これから聞く必要があるのではないかなと思います。
 履修単位数を聞こうというのは前も出たのですけど,結局,前回のときには断念しました。まじめにやれば,河田先生は,キャップ50単位とおっしゃいましたけど,学生,50も取ったら,本当は予習・復習をやったら,とても寝ている時間はないはずですね。ですから,そのあたりのことは,今,中央教育審議会の教育質保証システム部会でやっていると思いますけど,そういうこともありますので,そのあたりのことは是非これから聞いていきたいと思っています。
 それから,本山先生の言われたのは,一番もっともなお話ですが,この調査は非常にフェイスシート部分というのは抑えているのです。これは調査項目数の制限ということもありましたし,最初の大学別のベンチマーキングに使うという目的でやりましたので,調査していません。
 その点に関して,もう一つだけ申し上げたいのは,これも何人からの先生から提案が出ていましたが,共通部分と大学独自部分と分けるというのは,ずっとアイデアは出ていまして,特に高橋先生のところで大学IRコンソーシアムで独自調査をやっていますから,そことうまくブレンドしたような調査ができないかなということでずっと議論していましたので,これは是非これからやっていかなければいけないと思います。
 これは事務局の説明にもありましたけど,11月頃に大体同じような調査を三つぐらい学生はやらなければいけないということになりまして,非常に学生の負担も大きいという,そっちの問題もありますので,少し時間はかかるとは思いますけれど,この共通部分の全国学生調査と大学独自の調査を合わせ,大学独自の調査は大学の方で分析していただくという,そういうやり方に変えていければと思っています。
 最後に,公表の問題ですけれど,これは試行ということで,参加する大学は,大学・学部別に公表するということを前提にして自由参加ということでやってわけですけれど,これはもし,最初に事務局から
 提案があったように,全大学が参加ということになると,相当いろいろ問題がありますので,これは改めて議論する必要があります。私としては,今回の試行のように,公表を前提に参加するか,それと
 も,全大学で実施し,公表については改めて考えると,そういうやり方を議論する必要があるかと思っています。以上です。

 【河田座長】 ありがとうございます。非常に貴重な御意見を聞かせていただきました。
 それでは,公益社団法人日本進路指導協会の千葉吉裕先生,先生は長く高校の現場にもおられたということですので,そういう目線を加えながら,是非御意見を頂ければ幸いでございます。

 【千葉委員】 これまで大学は自己評価・自己点検をずっと実施していますから,この調査と自己評価・自己点検の違いを明確にする必要があると思います。単に,大学の改善につなげるだけなら,
 今までの自己評価・自己点検で十分だと思います。全国の学生に対してやる意義を明確にする必要があると思いました。
 それから,田中先生から話がありました受験者数への影響ですが,この調査ではそれほど影響しないと私は思います。際だって満足度が低い結果でない限りは,受験生が志願先を変えようとはしないでしょう。逆に言うと,入学試験の偏差値ランキングの序列で志願先を決めている受験生が多いように感じています。大学設置基準の大綱化以来,大学の個性化が進んでいるのに,多くの高校生は大学の特徴を比較検討していないように思います。
 だから,「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」で強調されている「学修者本位の教育への転換」と言っても,高校生が「何を学びたいのか,学んだことを将来にどう役に立てようか」といった
 主体を持っていなければ,大学や学部学科,講座を選択することはできません。この実態を変えないと,大学改革も,本調査の活用もうまくいかないだろうと思います。
 また,今回の新型コロナウイルス感染症の予防対応で,経済的に進学を諦めなければならない家庭や,新型コロナウイルス感染症が流行しているように思われている首都圏の大学への志願者は激減
 するのではないか不安になります。これは大学の死活問題につながる可能性があり,大学の淘汰が進むことだって起こるかも知れません。
 保護者が子供を進学させる上で,重要と考えるポイントは,コストパフォーマンスだと思います。多額の学費を払って4年間,もしくは6年間大学に在籍し,それで得られる成果は何か。成果が得られないのであれば行く必要ないと考えるのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染症によって大卒就職が厳しくなってしまえば,大学選びの指標は,偏差値ではなくて,就職率と今年度の退学率と予想しています。今秋,各大学の4年生就職率が公表されれば,就職率によって大学に志願者が集まらない状況が起こるかもしれません。
 適切に受験生や保護者が大学の教育をしっかり理解できるような指標を作らなければ,広告力によって志願者が集まることになります。受験料収入が多く,広告費用を出せる大学だけが生き残り,小規模で努力しているけど広告力のない大学が潰れるような状況を作ってはいけないと思います。調査では,教育を適切に評価するようなアンケート項目になることを期待しています。
 大学の講義がオンラインになったことで,講義の質が厳しく問われることになります。ただ画面を通しての講義ならば,放送大学やMOOCsの方が良いということにもなりかねません。オンラインによって通学という壁がなくなれば,日本の大学である必要もなくなり,高度で専門的なことを学びたいと希望すれば,世界の大学の中から選ぶこともできます。Society5.0で,専門的な知識,高度な技術が求められるようになり,大学の教育の質の向上を突き詰めていかないと,大変な事態になるのではないかと危惧しております。自己評価・自己点検のレベルではなくて,日本の大学全体の質の向上と,保護者や受験生への説明責任という視点で,どういうアンケート項目を作るかを国として考えていかないといけないと思っています。以上です。

 【河田座長】 率直な御意見を頂きました。日本の大学の質の向上,そのためにこそ,この調査を活(い)かすべきだということを先生はおっしゃいました。 
 あともう少し時間がありますので,日本私立短期大学協会の奥明子先生,何か言い残したことがおありのようでしたので,いかがでしょうか。

 【奥委員】 皆さんが御意見をおっしゃってくださいましたので,私の方からは,今日はこれで大丈夫でございます。 
 ただ,先ほども申し上げましたように,このアンケート調査を,ただ現状がいいとか悪いとか,役に立つとか役に立たないという項目だけではなくて,改善に向けて,例えば,改善してほしいところとか,そういう項目も設けていくとか,あと,オンラインと対面とどういうミックスをしてやるのがいいかとか,そういう項目も今後考えていただければと思います。以上です。

 【河田座長】 自分の大学の改善してほしいところがどういうところにあるのか。確かに,そういうことも入れて,コメントの欄も作る必要がある。
 いかがでございましょうか。リクルートの小林浩先生,どうぞ。

 【小林(浩)委員】 先ほどは質問に答える形の発言でしたので,ちょっと発言をさせていただきたいと思います。
 この調査を見ていて,やはり先ほど申し上げたとおり,今の大学は昔と比べて質が低いのではないかとか,ほかの国に比べて低いのではないかみたいなことを社会から見て思われている節があるとは思います。なので,やはり個々の大学もあるのですけれども,それよりも,日本として,他国と比較して日本の学生はどうなのかという視点が重要になると思います。
 それから,二つ目に調査をする場合に,やはり目標とか計画に対してどの程度行っているのかという,仮設に対しての達成度を見ていく必要があると思いますので,この調査で各項目はどれくらいを大体ベンチマークしていっているのかという点も必要だと思います。
 それから,三つ目が,今回初めてなのであれなのですけど,皆さんおっしゃっている過去とも比較して,昔から比べてどうなのか,あるいは,この調査を起点にして,何年後かと比べてどうなのかというようなことが必要です。他国との比較,それから,目標・計画・仮説に対しての達成状況,それから,過去との比較というのを見ていく必要があるのではないかなと思います。
 それから,先ほど質保証のところの議論もあったのですが,私も質保証システム部会の委員をさせていただいておりまして,今,設置基準の見直しも検討されています。その中で,やはり単位の実質化とか,その質の中で,今年度末ですか,論点整理をして,来年度にはもう多分答申が出るような形になると思いますので,この調査をいつやって,そうした議論の中にどのように反映していくかというようなこともスケジュール的に考えながら進めていって,きちんと国の政策に資するような形の調査設計になるといいのではないかなと思います。

 【河田座長】 ありがとうございました。様々な御意見が出て,かなり問題点も明らかになってきたのではないかなと思います。
 あと5分ほどありますが,何か先生方の方から更に御意見をお願いいたします。国立教育政策研究所の濱中義隆先生,どうぞ御発言ください。

 【濱中オブザーバー】 今の小林先生の御意見,かなり大事だと思います。
 国際比較の面でいくと,そもそも調査票は,我々の調査,その前の金子先生の東京大学調査の頃からずっと継続的にやってきて,ある程度国際比較を念頭に置いたような調査設計になっているので,かなりの項目について比較が可能だと思います。その上で,やっぱり日本の数値が外国に比べてかなり低い。意識に関するものは,文化的な背景があるというのは,山田先生がいつもおっしゃっていることですけど,具体的な学修時間みたいなものを比べても,やっぱりかなり差があるということは,これはもう明らかだと思います。
 調査に関して,結局,去年の調査票が分析に適さないというのは,それはやっぱり目的があったからで,検討の経緯のところに書かれているように,ある程度の段階まで大学・学部別に公表するということが前提で調査票を作っていたので,大学・学部間の比較を意図した項目だけが残っているということは明らかだと思います。それが途中でなくなってしまったので,普通の社会調査として見ると,かなりサンプリングとかもめちゃくちゃだし,おかしいのではないかという意見は当然出てくると思います。もともとは大学・学部別公表を予定していたので,各大学において一定のサンプルサイズを要求されるので,悉皆(しっかい),つまり3年生全員を対象とするというようなことがあって。実際ふたを開けてみたら,大学によっては8割という何百人も答えてくれる大学から,結構大きい大学なのに4人ですかみたいな大学まであって,全体の集計についてはどう解釈するかというのはかなり難しいです。
 しかも,今回は参加希望大学だけやったので,実を言うと,我々が国研でやっているような調査に比べて,基本的には大学教育に対する評価は高めです。学修時間とかは全然変わらないのですが,どちらかというと,熱心に教育改革をやっている大学が参加して,それによって10ポイントぐらいずつ学生の評価が高めに出ています。そういう意味で,全体の集計は母集団の状況とは別もので,本来想定されているような社会調査とは元々ちょっと違うものだということも御理解いただければよいかなと思います。
 その上で,結局,それは目的に関わってくるのですが,公表の仕方によって,何を聞くか,質問項目をどうするか,調査のやり方自体どうなるかというのは変わってくるので,その辺から議論するのが必要かなと思っております。以上でございます。

 【河田座長】 ありがとうございました。最後に,清水一彦先生,簡単に短くお願いします。

 【清水委員】 実施方法について,短期大学を含めるかどうかというのはありますけれど,是非少人数教育で質の高い教育を行っていますので,短期大学も含める,あるいは,高等専門学校も世界に誇れる教育機関ですので,高専の4年次,5年次あたりも含められないかということです。これによって,日本の高等教育における学生像というのを経年的にやっていきますと,そういうものが浮かび上がってきます。それによって,日本人といいますか,日本の大学生像とか,高等教育で学ぶ学生像というのが蓄積されていくので,非常に重要な調査になると思っています。以上です。

 【河田座長】 ありがとうございました。先ほどの「大学教育再生加速プログラム(AP)」では,短期大学,高等専門学校も入っていますから,是非短期大学も入れた学生調査にした方が良いのではないでしょうか。

 【奥委員】 ありがとうございます。是非お願いいたします。

 【河田座長】 様々な御意見,建設的な御見解を披露してくださり,ありがとうございました。以上で一応,本日の話合いは終了ということにいたします。次回の開催日,日程について,奥井補佐からお願いいたします。

 【奥井高等教育企画課課長補佐】 失礼いたします。本日は,活発な御議論,御意見いただきまして,誠にありがとうございました。
 次回の会議は,10月21日水曜日,10時から12時を予定しております。開催方法等につきましては,また追って御連絡をさせていただきます。
 また,本日,時間の都合上,御発言できなかった御意見ですとか,例えば,もう少しこういう論点を考えた方がいいですとか,また質問項目の御提案もたくさん頂きました。
 こういった質問内容がいいのではないか,そういった御提案もございましたら,事務局の方までお寄せいただければと思います。よろしくお願いいたします。ありがとうございました。

 【河田座長】 ありがとうございました。それでは,次回は10月21日の水曜日ですが,本日と同じく午前10時から12時ということで,コロナの状況を見ながら,いかにするかということを御相談いたしたいと思います。御意見も,簡単なものでも結構ですので,言い残したこと,お気づきの点をメールで送っていただければ幸いに存じ上げます。2時間ではありましたが,密度の濃い討論ができて良かったと思います。本当にありがとうございました。それでは,終了させていただきます。

―― 了 ――
 

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)