大学入学者選抜における多面的な評価の在り方に関する協力者会議(第6回)議事録

1.日時

令和2年7月17日(金曜日)15時~17時40分

2.場所

文部科学省5階1会議室

3.議題

  1. 委員からの意見発表
  2. 自由討議
  3. その他

4.出席者

委員

(有識者委員)圓月主査、川嶋委員、髙井委員、田中委員、垂見委員、長塚委員、井上委員、石崎委員、明比委員、西郡委員、星野委員、牧田委員、巳波委員、柴原委員、柴田委員
 

文部科学省

森田文部科学戦略官、角田文部科学戦略官、西田大学振興課長、前田大学入試室長 他

5.議事録

【圓月主査】
 それでは,ただいまより第6回大学入学者選抜における多面的な評価の在り方に関する協力者会議を開催いたします。
 それでは,本日の運営形態及び出席者等につきまして,事務局から御報告をお願いいたします。
【小川大学振興課専門官】
 本日の会議は,新型コロナウイルスの感染拡大の状況を踏まえまして,前回と同様にウェブ会議の形で開催させていただきます。委員の皆様におかれましては,御多忙の中,遠隔での出席をいただき,誠にありがとうございます。
 この協力者会議は,原則として公開で行うこととしております。当初はライブ配信での公開とする予定でしたが,業者の都合によりまして,今回はライブ配信ではなくて,一般の傍聴者に対しては,録画した動画を編集せずに後日,一定期間,文科省ホームページに掲載することとします。
 また,報道関係者に対しては,省内の別の会議室で音声のみ傍聴を認めております。
 議事録につきましては,後日,ホームページに掲載することといたします。そういう形でよろしいでしょうか。
 本日の欠席者は髙田委員でございます。また,牧田委員が御都合により,途中で退席をされます。
 議事に入る前に連絡事項がございます。議事の録画配信等を円滑に行う観点から,発言に当たりましては,はっきりゆっくり発言をいただくようお願いいたします。発言の都度,お名前をおっしゃっていただくようお願いいたします。資料を参照する際は,資料番号,ページ番号等を示していただくようお願いいたします。御発言に当たっては,「手を挙げる」ボタン,「手を降ろす」ボタンなど,配慮を頂けるとありがたく存じます。細かいことで恐縮ですが,よろしくお願いいたします。
 以上でございます。
【圓月主査】
 それでは,私からも改めまして,本日もまたよろしくお願い申し上げます。
 それでは,議事に入ります。まず議題1ですが,本協力者会議の前身として,電子調査書ワーキンググループがございましたが,本協力者会議から新たに参加いただいた4名の委員より意見発表をしていただきます。
 本日は,先ほど事務局から御紹介もありましたとおり,牧田委員が所用で途中退席なされるということですので,まず牧田委員からお願いしたいと思っております。
 それでは,牧田委員,よろしくお願い申し上げます。
【牧田委員】
 牧田です。よろしくお願いいたします。すみません。わがままを言いまして,途中で退席するものですから,1番に発表させていただきます。
 お手元の資料に従いまして発表してまいりますけれども,私は,それこそ大学の先生でも,教育の専門家でも何でもありません。企業経営者,並びに,あとはPTA活動と経済団体活動に関わっている者でありまして,一般的な社会人としての感覚を基に,エビデンスを求められると大変困るのでありますけれど,私はこれまで経験してきたことを踏まえ,幾つか,協力者会議で話題になっているキーワードについて所見を述べさせていただいて,最後にまとめを発表したいと思っております。
 それでは,まず,学力の3要素ということで,1つ目のキーワードを取り上げました。御存じのとおり3要素があるわけですけれども,とりわけ「主体性・多様性・協働性」,いわゆる「主体性」等という部分でありますけれども,これは本当に具体的にどういうことを指すのか,定義できるのかというふうに,実は疑問を持っております。
 そもそも何々性,主体性とか多様性と言われる人間の性質というのは,ある意味,両面から捉えられ,評価されることが多くて,例えば,議論で発言が多い人を見て,ああ,この人は積極的だという人もいれば,自分のことばかり発言して自己中心的だというふうに,他者への配慮のない人だなと捉えられるわけでありまして,事ほどさように,こういう表面的といいますか,正反対に結果を導かれてしまうことがあるわけであります。ということは,これを具体的に定義ができないということは,イコール評価もできないということにつながっていくわけでありまして,非常に主体性等という扱いは難しいのではないかと思っています。
 それから2つ目ですけれども,いわゆる大学入学者選抜,入試であります。これはもとより大学に入学しようとする者を選抜するためのものでありまして,これは本来,大学の個性,独自性を尊重していくということであれば,大学が個別に試験を実施するということが大原則なのではないかと思っております。
 続いて,学位授与の方針,ディプロマ・ポリシーでありますけれども,これに関わって思うことは,我々は経済活動をしておりますし,就職戦線もはたから見ております。どういう傾向があるかといいますと,企業は,もちろん大学卒業生から採用したいわけでありますけれども,大学を選定といいますか,どこの大学から採ろうということを考えたら,なぜか入試の段階での偏差値の高い大学から学生を採ろうという傾向があります。それを裏返して分解していくと,企業が果たして大学の,いわゆるディプロマ・ポリシーと,そこから輩出される卒業生の資質とか能力の相関というものをどのように捉えているのかということが課題になっているのではないかと思っています。
 加えて企業が,大学入学前の子供たちの資質や能力,いわゆる偏差値に頼ってしまうのはなぜなのか。それから,大学は学位に値する卒業生をちゃんと輩出しているのかというような問題が浮かんできます。
 これは大学に進学する目的が,少なくとも私たちが大学に行った時代は,大学というのは学究機関だったんですね。勉強したい,更に学問を深めたいという者が行くところと認識していたわけでありますけれども,現在においては,これはいいことか悪いことか分かりませんけども,就職するための準備期間になってきているような気がいたします。
 そうであれば,高大接続最終報告にも,「社会で良き人生を歩む」ための潜在力をアドミッション・ポリシーで見つけなさいと書いてあるんですけれども,そうなると,このディプロマ・ポリシーにも,「社会で良き人生を歩む」ための力というものがどこかに本来表れてこなければならないのではないかと思っています。ところが,本当にこんな力を定義できるのかなというふうに思ってもいるわけであります。突き詰めるところ,では,学位授与方針,ディプロマ・ポリシーというのは,ある意味,企業から評価される大学というものの存在価値を示さなければならないのではないかと考えています。
 続きまして,カリキュラム・ポリシーでありますけれども,これはディプロマ・ポリシーにも関連していくわけですけれども,大学入試で今,学力の3要素と言っているんですけれども,果たして大学教育でこの3要素がブラッシュアップできているのだろうかと感じます。それが次に書いてあります,「社会で良き人生を歩む」ための力をつけているのかということであります。そこから浮かんでくるのは,高大接続改革等の問題もありますけれども,まずは大学教育改革こそ,実は最優先の課題にあるのではないかと思っております。したがって,大学入学者選抜というのは,その関係線上にあるのであって,大学入学者選抜があって大学教育改革があるのではなくて,大学教育改革があって,大学入学者選抜があるのではないかとの認識を持っております。
 続いて,アドミッション・ポリシーですけれども,これも2つのポリシーに関連していくことでありますけれども,大学が独自に,今申し上げた学力の3要素の評価方法をちゃんと独自のものを考案し,実施することができるという前提でなければ定義ができないわけでありまして,それがどんどん進んできて,最終的には教育課程に耐え得るもの,学位授与に耐え得るものじゃなければ入学させてはいけないというのが,本来,アドミッションポリシーの根幹を貫くものではないかと思っております。
 それから,多面的・総合的な選抜方法についてでありますけれども,これも大学が独自にお考えになっていただくことではないかと思いますけれども,2段目に書いてありますが,そもそも多面的・総合的とはどういうことなのか。そして,それを具体化することができるのかということであります。当然その裏側には,先ほど言ったポリシーが明確化されていないと,それを評価できないわけであります。加えて,我々,人間社会というところに生きておりますけれども,ここにおいて多面的・総合的な評価手法というのはどういうことなんだろうかということであります。
 人と人との間で成り立っている社会において,その間をつないでいるものはコミュニケーションなんですね。そういうことから考えると,人間社会において,コミュニケーションの理想というのは,双方向で話をすることであると言えるのではないかと思っています。これは実は面接が人を知る上で大事だよということの前提につながっていくわけであります。
 続いて,調査書についての所見になりますけれども,一般入試ではほとんど活用されていないという現実があります。加えて,調査書の中に活用されていないのであれば,恐らく入学者選抜に必要な内容が記載されているのかどうかということも課題ではないかと思っております。
 そして,ここが一番大事なポイントだと思うんですけれども,これは受験生本人が書くんじゃないんですね。高等学校の先生方が記載されます。そうすると,その受験生以外の人が調査書を記載することによる差が生まれてくると思うんですけれども,その差をどう評価するのか。それから,調査書の中に評定平均値という,いわゆる学力の成績が書かれてあるわけですけれども,Aという高校とBという高校と,例えば3がついていたら,本当に同じ3なのかということなのであります。ここにも当然差が出てくるわけであります。
 これは,ちょっと皮肉っぽく書きましたけれども,調査書というのは結局,受験生が所属している高校と,その記載する先生方の入試になっているのであって,受験をする子供たちの入試にはなっていないのではないかというようなことを考えたりもいたします。
 続いて,大学進学率についてです。現在,大学進学率は,短大を含めて約58%の高校生が大学に進学します。4年制に限れば約54%であります。これは当然のことながら,全ての高校生が大学へ進学するわけではありません。それから,1・2年生のときには大学進学しないと決めていた子供が,3年生になって,急に大学に進学したいと思うこともあるわけなのであります。ここから少しポートフォリオへの考察になるわけですけれども,日々の活動とか,学習の進捗を記録していくポートフォリオは,私は大事な学習ツールではあるとは思いますけれども,これが受験への活用になるということになると,1・2年生は大学に進む気がなかったのに,急にこれを利用するということになると,その子供たちにとっては不利に働くといいますか,不利になるのではないかと思っております。それから,もっと大きな問題は,これがポートフォリオや調査書が大学受験に使うんだということになると,そのポートフォリオをよく見せるために,その子の高校生活が始まってしまうということであります。
 それに合わせて,当然のことですけれども,それを手助けする受験産業というところが当然現れてきて,この結果どうなるかというと,そういう塾で指導を受けることができない子供たちは,ますます大学に行けなくなるという,いわゆる経済格差と学力格差の相関を高めることにつながっていくのではないかと感じているわけであります。
 続きまして,3つの入試制度についての考察ですけれども,一般入試です。一般入試は,そこに書いてあるとおりなので,これも大学が独自にやるべきことだろうと思っています。ただ,今回,多面的に評価しなければならないということがテーマですので,この一般入試の特徴として受験生の数が多いんですね。となると,いろいろ入試方法をいじるといいますか,複雑にすればするほど手間がかかっていきますし,手間がかかるということになると,大学側もそこへ割くリソースが増えて,時間的な制約も受けることになるわけであります。したがって,結論から言いますと,やっぱり多面的・総合的に評価することというのが大変困難になっていくのではないかと思っています。
 ただ,これをAIが手助けするということは,将来的には十分考えられるのではないかというふうには思っていますけれども,そうであれば,次は,このAIに耐え得るだけのアドミッション・ポリシーというものをきちんと作らないと,AIが混乱してしまいますので,そういった問題が起きるのではないかと思っています。
 続いて,AOですけれども,AO入試については,これはまさに大学が本当に独自の方法で選考される,選抜されるべきことだろうと思っておりますし,この入試の特徴は,学力の3要素をバランスよく評価できるいいものだろうと私は思っています。ただ,知識・技能,思考力・判断力・表現力ということと,先ほど申し上げました主体性等というのは,実は違う概念でありますので,その知識とか思考力というのはやっぱり筆記試験で問うことが必須になってくるだろうと思っています。
 それから,主体性等については,先ほど申し上げたとおり,定義ができないとなかなか難しいという話であります。それから,推薦入試。これは学校推薦でありまして,推薦枠がない高校というのが実はあるわけであります。じゃ,その推薦枠のある高校と,ない高校の生徒は,実はもう高校に入った段階で,その差がついてしまっているというような現実があるということを申し上げたかったわけであります。
 3枚目に行きます。履修主義と修得主義ということで若干触れさせていただきますけれども,大学に入学しようという高校生。本当に高校の卒業要件というのは満たされているのかということも,私は問題なのではないかと思っています。つまり,年月さえ過ごせばいい。授業さえ取ればいいという中での履修主義では,これは確認できないのであります。ここは提案でありますけれども,もし可能であれば,やっぱり大学に行こうとする子供たちは,センター試験とは言いませんけど,共通テストみたいなもので修得度を確認するようなテストを実施すればいいのではないかと思っています。そのテストのスコアに応じて,それぞれの大学の入学者は足切りするというようなこともありなのかなと思っています。これは恐らく賛否両論あるんだろうと思いますけれども,現段階ではそういうようなことを思っています。
 以上を踏まえまして,協力者会議で検討しなければいけない3つの事項についての私の考察といいますか,所見を述べさせていただきます。
 これはざっとお読みいただければすぐ分かるんですけれども,学力の3要素を多面的に評価するに当たり,知能,思考力等を評価するには筆記試験が最適であるということを申し上げました。加えて,ここは面接をやって,直接ディスカッションすることによって,深くそれらの力を評価できるのではないかと。加えて,主体性等についても,先ほど申し上げましたとおり,評価基準によっては正反対の結果が出てしまうので,これはポートフォリオや調査書というものに頼らずに,直接,話をする面接というものに頼るしかないのではないかと思っております。
 面接において,ただ面接に出てこいと言ってもいけませんので,我々企業が求めるような履歴書とか,あとは,何で大学の入学を希望しているのかという理由ですね。そういったものを本人に書いてもらうというのがよいのではないかと思っております。
 それともう一つは浪人生への。私が先ほど申し上げました,AO入試というのは非常にいいシステムだと思っています。これを浪人生にも開放する道をやっぱり開いてあげることも大事なのではないかと思っていまして,そうなると,ポートフォリオが受験必須アイテムになってしまうと,じゃ,浪人生の1年間をどう評価するのかというような問題が出てくるので,その辺も考えることが必要なのではないかなと思っています。
 選抜区分については,では,どんな試験をやったらいいかと。今,申し上げましたとおり,一般入試とAO入試については,やっぱり筆記試験と面接試験,それとあと,一般入試については,とはいうものの,受験者数が多いので,面接試験をやることは実質不可能であります。ということであれば,そのAIが活用できればよいのですけれども,できない場合は,これも就職試験で用いられている適性検査のような類いのものを導入することで,多少は何々性という主体性というものを評価することができるのではないかと思っております。
 それから,推薦入試については,先ほど申し上げたとおり,推薦枠がある学校とない学校がありますので,私は,これはもう役割を終えているので,もう廃止したほうがよいのではないかと思っております。
 最後ですけれども,多面的というのはどういうふうに捉えるかということでありまして,これは受験生が受験しようとした時点の力を多面的に評価することが,私は多面的の本来の意義だろうと思っていまして,過去,その子供がどんなことをやってきたとか,どういう勉強をしてきた。勉強のやり方をしてきたというのは,そこまで踏み込んでいくことが果たしてそれはその子供にとっての多面的な評価になり得るのかなという疑問を持っております。それを申し上げたいということであります。
 それから,調査書の在り方とか,いわゆる電子化,それから,志願者本人記載資料についての考え方でありますけれども,原則,先ほど申し上げましたとおり,入試というのは大学独自のものであって,大学の自助努力において実施されるべきものだと思っております。そこで,調査書が本当に必要かといったら,るる申し上げましたとおり,私は調査書は必要ではないと思っていまして,高等学校がその子に対して発する書類としては,私は卒業(見込)証明書だけでよいと思っております。
 それにAO入試等が充実してきて,筆記試験と面接試験が十分に行われれば,まさに調査書というのは,その役割を果たさないわけでありまして,そういう意味からいっても,調査書の存在というのはどんどん不要になっていくのではないかと私は思いますし,先ほども申し上げました記載者の能力差というのがそこに表れてくるのではないかと思っております。
 そして,ポートフォリオの入試への活用についてですけれども,これも今まで申し上げましたとおり,いろいろな面で弊害があると思っております。一番大きいのは,高校生がポートフォリオのために高校生活を送ってしまうようなことになってはいけないというのが一番大きなポイントだと思っております。
 加えて,例えば全部の子供が大学へ進学するならいいんですけれども,クラスの中に進学する子としない子がいて,それで同じ活動か何かやっていて,片方は,大学進学しなければいけないからこう書かなきゃいけない,こんなふうにやらなきゃいけない。片方は,本当にその活動の目的を果たそうと思ってやっているというようなことで,ずれが生じたりします。これはまた子供たちのトラブルの原因になっていくのではないかなと思っております。
 これは突き詰めていくと,ある意味,高大接続改革の名の下で,高校の活動を大学入試につなげよう,大学の活動につなげようということの負の弊害だろうと私は感じています。
 最後ですけれども,いずれにしましても,大学においては,高等学校で作成する調査書に頼ることなく,受験生本人が記載するポートフォリオなどにも頼ることなく,自己責任,自助努力において,入学者選抜の多面的評価を実施されればよいと考えます。それがひいては大学独自の評価となり,企業から求められる多くの卒業生を輩出できる基盤になるのではないかと考えております。
 以上で発表を終わらせていただきます。すみません。時間をオーバーしました。
【圓月主査】
 牧田委員,どうもありがとうございました。
 時間はそれほどオーバーもしておりませんので,あと15分程度,質疑応答を考えております。非常に御見識のある,時には辛口のコメントもあったかと思います。どなたからでも結構ですので,いろいろと御意見いただければと思います。よろしくお願い申し上げます。
 それでは,柴田委員,よろしくお願い申し上げます。
【柴田委員】
 牧田委員,大変貴重な御意見ありがとうございました。我々が日頃気がつかないような視点でいろいろ御指摘いただいていると思います。
 1点,大学のほうで,多様性・多面的なものができるんじゃないかということ。確かにそれはそうなんでしょうけども,やはり一般入試において選抜するということ,特に日本の受験風土では,公平公正ということは必ずついて回りますから,これを客観的にやるということになりますと非常に,面接だけでは手が負えないところがあるというのは事実というのは御承知のことだと思います。
 ということで,1点刻みの学力検査ということで今までやってきていたわけでございますけれども,それが高校も多様化し,いろんな高校がありますので,トップクラスならそれでもいいんでしょうけども,そこが底抜けしているところもあって,いろいろな多様な選抜を開発されていることだと私は承知しているんですけども,1点,大変参考になったのは,推薦入試というのが本当にこれから有効なのかということを御指摘いただいて,私も以前から推薦入試というのはどうも日本独自の制度じゃないかなと思っていまして,こういうのが導入されたのは明治時代の,初めのうちは芥川龍之介とか何とかが入ったという,日本独自のものということで,一定程度の評価を得ているわけですよね。
 ちょっと話が長くなるので,もうそろそろ畳まなきゃいけないんですが,私のいた大学では,いろいろ経緯がございまして,高校の先生も推薦書を出すのに非常に苦労して生徒を選ばなきゃいけないんですよね。そこでいろいろトラブルがあって,それが大学に入学後にいろいろ訴えとか投書とか来ているという事例もあったものですから,私が前に勤めていた大学では,全て推薦入試をAO入試に変えた経緯がございまして,AO入試というのは割と有効だなというのが実感なんですけども,これも結構,手間暇かかるんですよね。
 ということで,PTAの代表の方が,推薦入試は要らないんじゃないかというような,大変思い切った御判断だと思うんですけども,これは御父兄の方々,総じてそういう御意見なんでしょうかというところで閉じさせていただきます。
【牧田委員】
 柴田先生,ありがとうございます。すみません。私は,全国高等学校PTA連合会を代表はしておりますけれども,私の発言を機関決定して,ここで申し上げているわけではございません。ただ,推薦入試について,今,柴田先生がおっしゃったトラブルが実は全国で散見されていることは事実であります。
 ですから,高校の先生方もなかなかここは非常にデリケートな問題ですので,ある学校によっては,推薦がどこから来ているかも公表しない学校もあります。そういうような現実があるということであります。
【柴田委員】
 どうもありがとうございます。AO入試というか,今,総合選抜というのに変わりましたけども,これをもうちょっと活用してといいますかね。これが発展するというのは一つの道だと思うんですけど,これは大学関係には非常に評判が悪いんですよね。学力不問だとか,手間暇かかるとかですね。だから,その辺りのギャップがあるというのも悩ましいところではございます。どうもありがとうございました。
【牧田委員】
 今の点につきまして,私が提案しているのは,AO入試でもやっぱり筆記試験をちゃんと実施すべきだろうということであります。
【圓月主査】
 どうもありがとうございました。よろしいでしょうか。
 それでは,田中委員が手を挙げてくださっておりますので,田中委員からよろしくお願い申し上げます。
【田中委員】
 帯広大谷の田中でございます。牧田委員,どうも御丁寧な御説明,ありがとうございました。非常に参考になりました。牧田委員,今日,せっかくお話しいただいたので,私は常日頃,ずっと思っていることをお伺いしたいなと思っておりましたので,お答えいただければありがたいと思います。
 よく思うのが,最近,学生たちは,本来この会議では高大接続の件が検討されることになりますので,ちょっと視点がずれてしまって恐縮なんですけども,大学教育ということで言うと,大学の学生たち,私は特に短大なものですから,即戦力にはなかなかなり得ない。その根底には,どうしてもコミュニケーション能力が弱い。足りない,不足しているということはもうよく言われることかなと思うんですけれども,どうも学生たちを見ていると,コミュニケーション能力が弱いとは言えないんじゃないかというふうに常日頃,実は思っております。つまり,企業あるいは職場におけるコミュニケーション能力と,大学が教育している,あるいは,こうあらねばいけないというコミュニケーション能力というのは多分どこかでずれてしまっているんじゃないかなということをいつも実は考えているところなんです。
 特に,具体的には今の学生たち,私が見ているだけですから,そんなに多くの学生を見ているわけじゃありませんけれども,昔に比べてとても繊細になって,相手のことに非常に気を使って,特に父親,母親のこともよく気を使って,そういう中で自分を殺しながらというか,調整を取りながら,他者とのコミュニケーションを取っていると。ところが,なかなかそれを上手く表現することができないみたいなことが多々あるのかなと1点思います。また,もう一つは,先ほど学究期間であるべきものが就職予備期間というか,そういうものになってしまったというお話ありました。我々が学生だった時代というのは,どちらかというと,授業が全く面白くない先生がいたとして,実はその先生がとてつもない,すばらしい業績を発揮されている先生だったり,そういうことは往々にしてあったと思います。
 そういうことを考えていくと,学究機関であるということは,要するに,言葉だとか話をすることが論理的に明晰じゃなくても構わない。話しながら何か自分の思いみたいなものが変わっていくということを大学がよしとしたという時代があったはずだろうと思っているんですけれども,結局それらが就職したり,したときに,どこかで齟齬というか,溝というか,ずれているとか,そういうものをきたしていっているんじゃないかなといつも思って,どちらがいい,悪いということではないんですけれども,そんなふうに思っておりましたので,もし牧田委員のほうで何か御見解があれば教えていただければと思って手を挙げさせていただきました。よろしくお願いいたします。
【圓月主査】
 牧田委員,よろしくお願いします。
【牧田委員】
 田中先生,ありがとうございます。はっきり言って,私は答えは持ち合わせておりませんが,ただ,今のといいますか,社会に出てくる大学生の皆さんを見ていて思うことは,おっしゃるとおり,コミュニケーション能力が欠けているのではないのでありまして,実は感性といいますか,物の見方ですね。これは個人的な見解ですけれども,その感性というのは,実は非常に心のベースとしての哲学的なものに関係をしていると思っていまして,その辺の知識といいますか,知見といいますか,今の子供たちとか若い人たちを見ていて,どうもそこは我々の世代とは若干弱いような気がしています。
 ですから,恐らく小中学校,小学校ですか。小学校で道徳の授業が復活するとか何とかというのは,私はその一つの表れではないかなと思っていますけど,やっぱり人間に対する洞察力がどんどん弱くなっているといいますか,薄れているような気がしています。
 すみません。お答えになっていませんけれども,以上です。
【圓月主査】
 ありがとうございます。田中委員,よろしいでしょうか。
【田中委員】
 どうもありがとうございました。勉強になりました。
【圓月主査】
 ほかには何か御質問ございますでしょうか。
 それでは,星野委員が手を挙げてくださいました。星野委員からよろしくお願い申し上げます。
【星野委員】
 星野でございます。牧田委員,非常に示唆に富むお話をいただき,ありがとうございました。私たち,大学での教育をするに当たって,日々考えなければいけないなということで御指摘いただいたかと思っています。
 1つ,もし間違っていなければということなんですけれども,事務局も含めて,事実関係の確認をさせていただければと思いますけど,「検討事項に対する所見」の初めの丸の1段落目の終わりのほうに,AO入試の門戸を浪人生にも広げるという文字がございましたけれども,恐らく現在でも,制度的には浪人生もAO入試を受験することができると思います。本学でもそのようなAO入試を行っている学部もございます。いわゆる大学に対しての御意見かと思いますが,制度的には取組をやっているということかと思います。
 それから,私が非常に牧田委員にシンパシーを感じたところが,最後のほうにありましたポートフォリオの活用についてでございます。ここは私も会議で,以前も発表させていただいたことがあったんですけれども,高校生活の充実のためにぜひポートフォリオは活用していただきたいなと思っています。
 過去,自分がどういうことの活動を行ってきたかという振り返りをするといったときに,参考になるようにということで活用ができればと思っていますけれども,入試の段階では,確かに牧田委員がおっしゃるように,受験する時点での学生の資質能力を私どもも評価したいと考えています。その際,やはり過去の自分の活動を振り返るときに,どういう視点で振り返っているんだろうか。どういう問題意識を振り返るときに持っているんだろうかというようなことについて,実は私ども評価をしたいと考えておりまして,単純に,ただ振り返るということだけをもって評価しているわけではない,そういうつもりではないというところを御理解いただければと思っております。
 以上です。
【圓月主査】
 牧田委員から何かコメントございますでしょうか。
【牧田委員】
 星野先生,ありがとうございます。浪人生の門戸の部分ですけれども,これはポートフォリオの存在が邪魔になるのではないかということを実は申し上げたかったわけであります。それから,私の知人の姪っこがアメリカに住んでいるんですけれども,彼女は非常に美しいブロンズの長い髪の毛を持っていたんですね。それが大学に行くために切っちゃったんです。「えっ,何で切ったの?」と言ったら,私,この髪をかつらにして,要するに,髪の毛のないというか,障害等で髪の毛のない慈善団体に,これを寄附するのと言ったんですね。そんなに大事にしていた髪の毛を何でそんなことをするのと言ったら,いわゆる今のポートフォリオの活動につながっていくようなことが起きるのです。実はこういったことが起きているということを私は目の当たりにしているものですから,ポートフォリオに対するアレルギーが強いのかもしれませんが,そういう背景があるということだけ御理解をいただければと思います。
【圓月主査】
 よろしいでしょうか。非常に興味深いエピソードも紹介していただきまして,ありがとうございました。
 ほかにもいろいろ御質問あるかと思いますけれども,あと,3人の先生方もおられますので,この辺りで牧田委員の発表は終わらせていただくということでよろしいでしょうか。
 牧田委員,お忙しいところ,どうもありがとうございました。いろいろと勉強させていただきました。
【牧田委員】
 ありがとうございました。すみません。今日は中座させていただきますのでお許しください。
【圓月主査】
 どうもありがとうございます。
 それでは,引き続き井上委員から御発表をお願いしたいと思います。井上委員,よろしくお願い申し上げます。
【井上委員】
 JMCの井上でございます。よろしくお願いいたします。
 使いますのは資料の2番目でございますね。井上の資料でございます。ページ数は,シートの右上のところに書いてありますので,そちらを御覧ください。
 私なんですけれども,先ほどの牧田先生はPTAの肩書がありまして,学校関係者だということがありますが,私だけが企業名の所属になっておりまして,位置づけとしては,皆さん方とは違うというのがありますので,私の自己紹介,私のここにいる位置づけみたいなことを少し考えてみましたので,御紹介しておきたいと思います。
 ここ数年,文科省さんの仕事を幾つかずっとやらせていただいておりまして,1つ目が校務におけるICT活用促進事業。「学校ICT環境整備促進実証事業」,要は校務を小中高の学校に広めましょうという,それの推進委員をずっと続けております。これは2年ずつやっているので,もうここ4年,ずっとこれを続けてやっております。
 これは資料は先に行きますが,2ページ目の資料を見ていただくと,学校におけるICT環境整備についてということで,これは文部科学省さんの環境整備5か年計画です。小中高の環境を今後こうしていきましょうというのがここに書かれています。ここの下のところに,赤赤枠で囲わせていただきましたところですけれども,統合型校務支援システムを100%普及させましょうというのが,これは22年度までの目標になっています。
 ですから,文科省さんの目標どおりに行けば,22年には統合型校務支援システムが全ての高校に入るという形になります。この統合型というのは何だという,普通の校務支援とはどう違うのかということを御紹介しておかなきゃいけないんですが,例えば成績処理とか保健管理とか学籍管理,出欠管理というのも全部,校務支援システムです。ですけども,統合型校務支援システムはそれが全部一つになったものです。ということは,名簿をひとつ登録すると,成績処理でも保健でも全部使えるという。再入力だとか転記の必要がないという,そういうようなシステムです。それがつながっていますので,そちらを広げていきましょうというのがここの大きな目的になっております。
 それでまた1ページ目に戻りますけれども,それで,私どもが一番最初にやったのは,APPLICという団体,全国地域情報化推進協会という団体なんですけれども,そこで教育情報アプリケーションユニットの標準仕様というのを作りました。文部科学省さんが出されているものの中で,標準というのは実はほとんどなくて,指導要録などは,学籍に関する様式1は20年保存,それ以外は5年保存というのがあるんですけども,そういう法律で定められたものでさえ,あくまで参考様式であって,標準ではないんですね。標準にしないと,実はシステム化,コンピューターにするのはすごく面倒くさいというか,不便なものですから,やっぱり標準を何か作らなきゃいけないということで,実は標準化作業をさせていただきました。
 最初に小中学校版を作って,文部科学省さんのほうから,高校はもうぜひ作ってほしいと言われて,高等学校版も作りました。今,高等学校版は新しい学習指導要領に向けての改版を今している最中でございます。
 私ども,ここのプロジェクトの位置づけとしては,下の矢印のところですが,統合型校務支援システムでの調査書の標準化の推進,これをやっていかなきゃいけないと。これをやらないと普及しませんので,これをやるべきだろうと。できれば調査書に関しては,完全自動化したいと。指導要録を作れば自動的に調査書が出せると,そういう方向に持っていきたいと個人的には思っております。
 これは少し後でまた触れたいと思いますが,電子調査書授受システム,今回のシステムと校務支援システムとの連携の部分ですね。そこのところをちゃんとしておかなきゃいけないなというのが私の大きなミッションになるかなというふうに個人的に思っているところです。
 3ページ目に行かせていただきますが,実際に標準化を進めていく上で,いろいろなこと,問題が見えてきたところがありますので,そこをちょっと,調査書を電子化するのに当たって参考になるかと思いますので,少し触れておきたいと思います。
 指導要録に関しては,参考様式で,あくまで標準ではないんですが,設置者が決定するということがなっていますので,いろんな様式が,あるいは,例えば47都道府県で行くと,多分45パターン以上あると思います。これに政令市も入れると60パターンぐらいがあるかなと。それを標準化するのがすごく難しい。なんですけども,よく見てみますと,自治体独自で項目を追加しているところはあまりないんですね。基本は,参考様式をベースにして少し変えているという,そういう形になっています。中身を確認しましたら,実は95%以上は一緒なんです。どういうことかといいますと,例えば,住所,氏名,生年月日,性別というものがあるところは,氏名,住所,生年月日,性別,もう一つは,住所,氏名,性別,生年月日というように,実は順番と位置が違うんです。
 順番と位置が違うと,例えばエクセル形式だとかCSVでデータを送っても,違ったデータで入りますから,全然整合性が取れないということになります。また,例えばコメント欄,書式のところが,あるところは線が引いてあって,4行,あるところは3行,こういうようなところが違っていて,本当に細かいところなんですけども,それが違うために,なかなかきっちりとしたデータの標準化ができていないということになっておりました。
 我々のほうで考えたのは,書式の標準化は無理という。完全な統一は無理だということで,調べてみますと,参考様式に書かれているものは全ての自治体さん,全ての学校の要録の中には入っていました。
 ですから,最低限,参考様式にある項目だけはデータのやり取りできるようにしましょうということで,標準化というのはあくまでデータ連携の標準化です。子供が転校したときに,指導要録ですとか,健康診断票はやり取りする,送らなきゃいけないわけですけども,それを電子データでやり取りできるようにしようというのが実はこの標準化,アプリックでやっている標準化でございます。
 文部科学省さんが幸いにも,ちょうど我々が始めた頃と同じように,電子化してもいいですよという通知を出していただきました。それでよかったんですけれども,ただ,認められたのは電子化することだけだったんです。どういうことが起こったかというと,文書規程の改定が伴わないものですから,実は押印を廃止するとかということはない。指導要録を今でも見ていただきますと,1ページ目には,学校長の印と担任の印が必要になります。文書規程の多くは,指導要録は大事な書類ですので,訂正するときには,二重線を引いて訂正印を押すことというものがあります。それがそのまま電子化に持ち込まれると,システムを作るときはすごい面倒くさいわけですよね。そういうことがあって,なかなかうまくいかない。
 もう一つは原本の考え方です。電子化がオーケーとなったんですが,電子データを原本としていいかということに関しては,文部科学省さんは触れていません。それで,各自治体さんだとか学校さんによって考え方が異なります。結局,紙で保存していたり,紙を原本とする。校務支援システムを入れても,校務支援システムから打ち出されたものを原本とするというような,そういうような規程になっていたりして,これは本来であれば,電子データを認めるのであれば,電子データを原本とすべきだと私は考えております。
 ただ,電子データで保存すべきだと言ったとしても,電子データを原本とするという自治体さんも結構あることはあるんですが,その多くが実はPDFでの保存なんです。PDFで保存してしまうと,これは多分,押印の問題とかいろいろあるので,そうなってしまうんですが,PDFで保存しますと,データの利活用が実はできません。そうすると,例えば卒業生に対して,新しい調査書を作るときに電子データからは作れないんですね。なかなか難しいことが起こって,ここは考えなきゃいけない。私の考えとしては,データの利活用の観点で,生データでの保存の管理をぜひやっていただきたいなと考えております。
 その次のページです。4ページ目,調査書のことに入りますが,学校で保存すべき表簿というのが法律で決められているんですけれども,その中に調査書が含まれていません。ですから,調査書は保存しなくていいんですね。ですけども,もし大学入試で失敗した子供さんとかが裁判に訴えて,開示要求とかあったときに,今,指導要録も開示するようになっていますから,当然,調査書も開示対象になるかと思います。そのときに説明責任を果たすことを考えれば,ある程度保存すべきかなと考えますが,今のままだと,実は大学ごとの要望に対応したら,1人の生徒に対して複数の調査書が存在することになります。これはかなり面倒な保存方法になります。
 調査書の保存に関しての規定が今ないので,そこら辺は作る必要があるのではないかなと考えております。それと,卒業生の調査書をどうしていくのか。また,卒業生が新しく大学を受験したいというときにどうやって対応するのかという運用を少し考えておかなきゃいけないのかなと考えております。
 私の個人的な意見でございますけれども,大学以外の進路でも,電子化は標準化をするべきだと思っていますので,せっかく今回,こういう電子調査書の話が出ましたので,この電子調査書が全てに使えると。専門学校であっても,どこでも使えるように,もし持っていっていただければ,学校側はありがたいなと考えております。
 先ほどのお話に関わってくることなんですけども,我々は校務支援システムといって,校務という言葉。最初,教務支援システムがいいんじゃないかとか,いろんな意見がありまして,この問題でちょっともめたこともあります。法律を調べました。そうしたら,校務というのは,法律に1か所だけ書かれていました。これは学校教育法の中に,「校長は,校務をつかさどり」という表現で書かれていました。ですから,学校でやっていることは校務なんですね。学校でやっていないことは校務ではありません。
 それを考えたときに,今回の調査書の問題点としては,学校外の活動の取扱いが入ってくるので,そこはどうしても考えなきゃいけないということです。学校外での活動に関して,「校務をつかさどり」と考えたときに,校長は承認できないはずなんです。そこら辺をどう判断するのかということです。ですから,私個人的には,学校外の活動とか資格取得みたいなものを調査書以外の文書で,例えば推薦書とか生徒の自己アピール文書,そちらのほうに任せてしまって,調査書では扱わないというのが一番無難な選択ではないかなというふうに感じております。
 ちょっと余計な話なんですが,前回のときにお話をさせていただいて,もう既に校務支援システムを高校で入れていただいていることは,来年の調査書をすぐに作らなきゃいけませんので,ですから,システムの改修が始まっています。実際にもう運用試験が始まっています。そこで出てきた問題として,様式の2枚目以降に氏名の表示がないものですから,今回,調査書はページが決まっていなくて,何ページでも書けるような調査書になっちゃいましたので,そうすると,あえて打ち出して確認するときに,もしばらばらにしちゃったときにどうだったかというのが非常に見つけにくいというのがありますので,2枚目以降にもどこかの欄外に名前を入れるとか,何ページ目のという形の基準が必要じゃないかというのは,実際の開発現場から聞きましたので,ここに書かせていただきました。
 それと,ぜひ決めていただきたい問題がここにあります。外字です。外字は自治体さんだとか学校によって違います。これは国としてはまだ統一されておりませんので,外字の問題が結構大きな問題です。外字をつけたものでやり取りしてしまいますと,違うところが,違う外字コードが表示されてしまいますので,間違った表記になりますから,ここのところに関してはぜひ考えていただきたい。自治体間ですとか,それから,我々が作っている個別のシステムの中では,基本的にデータをやり取りするときは外字を扱わない。ですから,システム上では,外字と内字,2つ持っていて,表示は内字で表示して,送ってという,そういうような形でのやり取りをするようにしておりますが,そういうようなルールをぜひ調査書の中でも検討いただけたらありがたいなと思っております。
 それで,次は5ページ目です。電子調査書システムの絵として,この絵が提示されました。これは関西学院大学さんのほうから少し出された図だったかと思いますが,ここでこの絵がありました。
 ここで高校教員がe-ポートフォリオデータのところで承認というのがありました。私は企業にいるからかもしれませんが,承認行為というのは,基本的に管理職がするものという認識がありました。これはここの高校教員というのは,管理職なのか,担任の先生なのか,分からないんですけれども,もし普通の先生であれば承認はしにくいのではないかなと個人的に思っております。
 ここで承認するのは,指導要録レベル,校外活動は除外という形に書かれています。これは当然だと思うんですが,そこのデータが実は校務支援システムに下りてくる矢印があります。そして,指導要録を作成して,電子調査書という形で線が引かれていました。ここでは,担任が承認しなかったデータも落ちてくる形なんでしょうか。承認されたものだけが落ちてくる形なんでしょうか。でも,今の電子調査書の中身に関しては,ボランティア活動みたいなことも書くことになっていますから,そうすると,承認できないようなものを,これは指導要録を通るラインになっていますので,そこら辺は少し明確にしたほうがいいのかなというのは個人的には思っております。
 次が6ページ目です。6ページ目のところでも,これは第1回の会議で示された高大接続ポータルサイト,e-ポートフォリオの図でございますが,ここで私が気になったのは,真ん中のe-ポートフォリオの一番下にあります生徒基本情報の登録というところです。これは大学入試の前に登録する形になるわけですね。ここで見たら,保証人と書かれていました。保証人を大学入試前に入力する必要があるのだろうか。もちろん聞いたら,求める大学もあるということで,入れているということだったんですけども,それは求められたら入力すればいいだけの話であって,最初からここに入れる必要があるのか,非常に疑問に思いました。
 ここで,住所,氏名も入れますが,普通,願書だとかそういうところに書けばいい話で,最初からこういうところに登録する必要はないんじゃないかなと個人的に思っております。あと,文科省さんに確認しましたら,ここには緊急連絡先も入っているという話です。緊急連絡先も,必要であれば願書のときに緊急連絡先と書けば,それで済むんじゃないかなと個人的に思ったので,大事な個人情報をいろんなところに置くことはあんまり賛成できませんので,必要ないのではないかなと考えております。これが次の7ページ目に書かせていただいております。
 必要に応じて記入すれば済む個人情報を登録させる必要があるのかどうかと。身元保証人であろうと。身元保証人は保護者でいいはずですので,保護者の情報は指導要録にあります。緊急連絡先は,願書に記入で済めばいいので,基本的にここに登録しなくても,ほかから持ってくる方法がいっぱいあるので,そういう個人情報をいろんなところに入れるのはあんまり賛成できないなと考えておりました。そのことを文科省さんにぶつけました。この黒の矢印は文部科学省さんの回答なんですけれども,紙の調査書の提出プラスインターネット出願を導入していない大学では,JePから生徒基本情報を受け取ることで,入力作業を省略できることになるという形になっていました。
 もし,ここから,JePから基本情報を取れるのであれば,電子調査書を受け取ってくださいというのが私の考え方です。電子調査書からデータを抜き取ってもらえれば,そこにデータは入っているはずですので,それで逃げられるのではないかなと。わざわざここに情報を入れて取り込む必要はないんじゃないかなと,個人的に思っているところです。
 それから,その次のところなんですけど,私の個人的なイメージとしては,運用開始時は,全ての高校・大学が電子調査書を活用すべきだと思います。紙を認めると,やっぱり紙に頼ってしまうところもあったりして,運用がうまく進まないし,学校現場からしても,ここの学校は紙で,ここの学校は電子でというようなことが起こってしまって,非常に不便なことになりますので,できれば一括で始めていただければありがたいなと思っております。
 次が8ページ目です。これは第1回目のときでしょうか。調査書が電子化されたときのイメージとして示された絵です。ここで電子調査書は,上にエクセルのようにアップロード,ポートフォリオショーケースからCSVでダウンロードという形で書かれていました。今はこれはエクセルでもできるとなっているようですけれども,このような絵が描かれていました。
 その次のページに行かせていただきますが,9ページです。9ページで,セキュリティ確保のために,できるだけクラウド活用がいいんじゃないかなということで,校務支援システムでデータ管理というのもクラウドで推奨する。これは学校情報セキュリティガイドラインでも推奨されております。ですから,これを考えたときに,このシステム自体をクラウドに上げるようなことも併せて考えたらいいんじゃないかなと個人的には思っております。
 ここで,ポートフォリオショーケースから校務支援システムのほうにダウンロードで,CSVがありました。ほかのところがXMLなのに,なぜここだけCSVなのかと思いまして,文部科学省さんに問合せをしました。これは黒の矢印の回答ですね。高校の教員が学びのデータをダウンロードする際は,エクセルなどの加工しやすさと,実証事業における現行機能からの流用のしやすさを考慮し,CSVファイルのダウンロード。実際の運用のときにはなくなるかもしれませんが,セキュリティの観点からも,教員個人のところに個人情報を送るというのはぜひ避けたほうがいいと思います。基本的には校務支援システムに置いて,そこから自治体さん,学校さんのポリシーに応じて,先生のところに落として作業させる。そういう形にしないと,最初から個人情報を先生のところに落とすというのは,セキュリティ上,あまり好ましくないのではないかなと思っております。ここのやり取りをするところに関しても,セキュアなネットワークが必要であろうと考えております。
 最後です。10ページ目,その他のことで考えなきゃいけないというのがあるんですけれども,これを用意するに当たって,やっぱりユニークな生徒番号があったほうがいいだろう。学籍番号があったほうがいいだろうというふうに考えて,学習者番号があったほうがいいと考えております。これはできれば小学校入学時から運用していただきたいなと思っています。なぜかというと,このポートフォリオ,実は大学入試だけじゃなくて,小学校から社会人になっても活用できる個人のポートフォリオにしていくのが,本当のいい方向性じゃないかなと個人的には思っておりますので,それをもし実現するとしたらやっぱりユニークな学習者番号があるといいなと考えております。
 今,初等中等教育企画課の学びの先端技術活用推進室では,ユニークな制度番号を検討されていると伺っております。できればそれを活用できるようになればいいかなと思っております。コメ印で,「マイナンバーの活用も要検討」と書かせていただきましたが,その下のところで,「経済財政運営と改革の基本方針」,要は,骨太の方針ですね。ここのところで,昨年6月のところにはこういうふうに出ました。「生まれてから学校,職場など生涯にわたる健診・検診情報の予防等への分析・活用を進めるため,マイナポータルを活用するpHRとの関係も含めて対応を整理し,健診・検診情報を2022年度を目途に標準化された形でデジタル化し蓄積する方策をも含め,2020年夏までに行程化する」というのがありました。
 実際,私どもは,校務支援システム,学校の保健情報を扱っておりますので,健康情報を扱っておりますので,厚生労働省さんと話をして,スムーズなやり取りは可能ですという話はしておりますが,学校はマイナンバーを扱っていないので,そこのところが問題ですという回答に今なっています。
 ですけれども,これが進めば,何らかの形で,マイナンバーとつながる形になるわけですね。これは文部科学省さんの健康教育・食育課さんで今進められている話です。ここで一つ前に移って,「マイナンバーの活用も要検討」とありましたが,今日の午前中にあった閣議で,世界最先端IT国家宣言の中で,実は教育でもマイナンバーの活用を検討したらどうだというのが書かれておりました。
 ですから,これはぜひ検討していただければありがたいなというふうに思って,いろいろ反対意見もあると思いますけれども,問題もあるかと思いますが,ぜひ検討いただけたらありがたいなと思っております。
 学校番号につきましてですが,今,学校名を記入することになっております。これができれば便利だなというふうに,後で集計するときも楽だなと思っておりまして,これが国指定の学校番号は今検討されておりまして,これは総合教育政策局の調査企画課,要は,学校基本調査とかやっていらっしゃるところですけれども,そこで国指定の学校番号を固定で作りたいということで今進められています。もちろん新設だとか統廃合がありますので,改定があるんですけども,確定時期がうかがっているお話の中では遅いので,若干問題はありますけれども,もしこれがうまくいけば,ぜひこの学校番号を使っていただけたらありがたいなと思っております。
 それと認証です。先ほど先生が承認するというのがありましたが,それプラス,この電子調査書をやり取りするときに,この電子調査書,本物なんですよねという確証が絶対必要だと思うんです。そのためにはやっぱり,ある程度,認証局みたいなのを立ち上げて,それで認証すると。これは大学入試出願システムに構築するのか,文科省さんが別に作るのか分かりませんが,どこかで作らないとうまくいかないのではないかなということがあります。
 それと,クラウドに関してですが,今日,先ほど言いました世界最先端のIT国家宣言の中に,やっぱり教育も全てをクラウドで活用すべきだというのが書かれていましたので,ぜひシステム自体をクラウドに持っていって,安全かつ安価に運用できるような方向で進めていただけたらありがたいなと思っております。
 私の発表は以上でございます。ありがとうございました。
【圓月主査】
 井上委員,どうもありがとうございました。専門家ならではの非常に鋭い論点と,また御提案もあったかと思います。御質問があれば,よろしくお願い申し上げます。
 それでは,巳波委員,よろしくお願いいたします。
【巳波委員】
 関西学院大学の巳波です。井上先生,貴重なお話,どうもありがとうございました。途中で,JAPAN e-Portfolioや電子調査書につきまして言及されておりましたので,幾つかお答えさせていただくと同時に,コメントもさせていただきます。
 XMLじゃなくて,CSVはなぜかというのがありましたけれども,検討を進めるに当たって,これらの資料はバージョンアップしておりまして,当初は仕方なく,やむを得ずCSVを使っているところ,使わざるを得ないかなというところもあったんですけれども,やはりXMLで統一したほうがいいだろうということで,資料の5ページ,これが最新バージョンではありますけれども,ここではもう全てXMLで統一するのがよろしいのではないかと考えております。それ以前の資料では,古いまま残っているのもございます。
 あと,細々したところはありますけれども,テクニカルなところは御意見をいただきながら改善させていただきたいと思っておりますので,またよろしくお願いいたします。
 それから,最初のほうに標準化のことについて述べられておりました。全くそこは私も同感というところでございます。複数の組織がデータを扱うと,データのフォーマットがばらばらになってしまう。そうなると,それらに合わせるためのシステムをそれぞれで構築しないといけないので,そこでコストがかかってしまう。例えばアメリカであったら,年間,各大学1,000万ぐらいがそのシステム,ばらばらのフォーマットに対応するために使っている経費だということを聞いたことがございます。
 そのように,フォーマットがばらばらにあるというだけで,かなり大きな負担増,コスト増につながるというところはございますが,そのために標準化しておくことで,全体の稼働コストを大きく減らすことができるかと思っております。
 JAPAN e-Portfolioや電子調査書システムというのは,実はこの標準化,フォーマットの標準化ということでもやってきたわけですけれども,これは一旦事業が終わった後で,データフォーマットの標準化が引き続き維持されることを期待しております。
 私からのコメントは以上です。ありがとうございます。
【圓月主査】
 巳波委員,どうもありがとうございました。井上委員から何かコメントございますでしょうか。
【井上委員】
 いや,特にございません。ありがとうございました。
【圓月主査】
 どうもありがとうございます。
 それでは,長塚委員からも手が挙がっておりますので,長塚委員,よろしくお願い申し上げます。
【長塚委員】
 長塚です。井上先生,ありがとうございました。統合型校務支援システム,これはよく公立学校といいましょうか,各自治体で導入されているような話は聞くんですが,国として,この統合型校務支援システムというのは,先ほど来の標準化と言うんでしょうか。言わば高等学校の標準的なシステムがもうできているというふうに考えていいんでしょうか。自治体ごとに,このシステムの中身がアレンジされて,違っているというようなこともあるのかなと思えたものですから,その点をお聞きできればなと。
 また,これは全ての自治体で,設置者がこれを導入して,もう既に利用しているというふうに考えていいのか。あるいはまだ部分的なのか。その点で,特に私立学校は,各設置者が,言わば学校ごとに違っていますので,そのときに課題になることもあるのかなと思えたものですから,その辺の状況について,教えていただければありがたいと思います。よろしくお願いします。
【井上委員】
 ありがとうございます。まず校務支援システム自体を標準化しているかというと,それはしておりません。この統合型校務支援システムの標準化を始めたときには,既に製品がいっぱい,もう世に出ておりまして,その後で機能を統一するのは不可能に近かったんですね。それをやると,実は製品が一つになってしまって,各企業,小さい企業を潰してしまうことになってしまったので,それはとてもできないということで,それで妥協点として考えたのが実はデータ連携ということで,子供が転校したときだとか,情報,データをやり取りするときに問題なくやり取り,運用できるようにしましょうといったのが標準化のシステムになっております。
 それと,参考様式しか提出されていない要録みたいに,ほかの書式も,各自治体さん,各学校さんでばらばらな様式ですので,それを全部統一するのはなかなか難しいので,取りあえずデータだけは何とか使えるようにしましょうという形で進めておりますので,標準的な校務支援システムというのは実はありません。
 ただ,基本的なデータだけはやり取りできるようにしてあるのが今の標準化の仕組みです。それと,都道府県単位での導入の状況ですけれども,自治体さんによって,また,市立高校だとか,都道府県立ではないような公立学校もございますし,私学さんもあるので,一律ではないんですけども,都道府県単位で言いますと,ほぼ決着ついたのはもう43府県に関しましては,ほぼ県内で同一の校務支援システムを入れましょうというような方向性になっております。
 残っておりますのが,まだ決まっていない東京都ですとか,新潟県とか富山県とかありますけれども,それぐらいで,それ以外のところはほぼ県内は同じ高校のシステムでやりましょうと進んでおりますので,大体,都道府県レベルの話においては,数年のうちに決着がつくかなと思っております。
 先ほどお話があった都道府県ごとで違うというのはやっぱり,都道府県ごとで様式だとか,それからあと,事務手続の手順だとかというのがやっぱり違いますので,実はそれに合わせてカスタマイズが発生しております。ですから,A社の校務システムが幾つかの都道府県に入っていたとしても,実は中身が少しずつ違います。それは都道府県単位で使いやすいように,また,現場の先生方の御要望に合わせて,また,その運用ルールに合わせて,カスタマイズしておりますので,違ったものが,違った機能が追加されていたりとか多々ありますので,必ずしも一緒ではありません。
 ですから,同じメーカーが入っているからといって,同じ機能かというと,必ずしもそうじゃないというのが現状でございます。ただ,違った県であったとしても,基本的なデータ,指導要録の様式1,2,それから,健康診断表と,基本的なものはやり取りできますので,名簿の再入力だとかそういうことはしなくてもいいような状況にはなっている。そういう状況でございます。
 そういう説明でよろしいでしょうか。
【長塚委員】
 よく分かりました。ありがとうございます。
【圓月主査】
 どうもありがとうございました。
 ほかには何か御質問等ございますでしょうか。もうお1人ぐらいからいただく時間はございますけれども,よろしいでしょうか。
 それでは,私のほうから1件よろしいでしょうか。指導要録の電子化のことなどについて触れられたとき,電子化だけが認められていて,その他の点があまりまだ決められていないようだという御指摘がありました。特に原本をどのように考えるかというご指摘がありました。この原本性については,昨年度,ワーキンググループでも一応論点としては上がったんですけれども,実際どのように保存していくかということについて,具体的なところまでは議論が進んでいなかったと記憶しています。電子データを原本として認めるという考え方は有効なのか。その場合にはまた保存方法なども難しくなると思うんですけれども,井上委員から,どういうふうな解決策があるか,お考えがありましたら,教えていただけるでしょうか。
【井上委員】
 実は我々のAPPLICの業界団体の仲間の中でも検討はしていまして,電子化の指針みたいなものは作ろうかという話をしております。自治体さんごとでばらばらであったり,また,今,保存だけの話でしたが,実は保存期間がありますので,保存期間が終わった後,どう処理するんだという話です。パソコンの中に入っているデータですと,ある程度,処分も何となく分かったりもするんですが,クラウドに置いてしまったようなデータが本当に削除されているかどうかと誰が保証するんだというような話になったりとか,いろいろまだ見えない部分とかいっぱいありますので,少なくとも電子データで保存する場合の運用基準については,こういうことがいいのではないでしょうか。こういうことが推奨されますというような案をAPPLICのほうでも提案したいということで,今,検討を始めているところです。
 ですから,まだ明確な答えはないんですけれども,どこかがそういうのを出さないと,多分,前に進まないなというのがあるので,我々のほうで推奨案というような形で出させていただき,それが今回の電子調査書に当てはまるかどうかは分かりませんが,少なくとも学校の中での原本の保存に関してはこうすべきではないでしょうかという提案はさせていただきたいなと今,思っているところです。
【圓月主査】
 貴重な御意見ありがとうございました。もし何か成案のようなものがまとまり,いろいろ有効な案がありましたら,またこちらでも教えていただきたいと思っております。
【井上委員】
 はい。
【圓月主査】
 ほかには何かございますでしょうか。長塚委員は,手が挙がったままになっていますけど,よろしいですね。
【長塚委員】
 失礼しました。
【圓月主査】
 それでは,ほぼ予定の時間になりましたので,井上委員の意見発表はこれで終わりにさせていただくということにさせていただきます。貴重な御意見を聞かせていただき,ありがとうございました。
 それでは,引き続きまして,川嶋委員から御発表をお願いしたいと思います。よろしくお願い申し上げます。
【川嶋委員】
 大阪大学の川嶋です。小川さん,今いただいたメールだったら提示していただいて結構です。
【小川大学振興課専門官】
 承知しました。
【川嶋委員】
 私は,大阪大学の高等教育・入試研究開発センターというところに勤めているんですが,今日お話しするのは,ここで,ここ数年間進めてきた多面的・総合的評価に向けての様々な取組,まだ研究開発段階のものもありますし,一定程度,実装できたものもあるんですが,それを中心にお話しさせていただきたいと思います。
 画面を共有させていただいておりますけれども,次,アウトラインをお願いします。
 アウトラインとしては,最初に3つの学力とは何かということ。これは釈迦に説法かと思いますが,それを振り返った上で,それでは,多面的・総合的に入学者選抜を行うことはどうなのかというと,非常に難しい。結論から言えば,今のところは難しい。後半は,今お話ししたように,大阪大学で行っている研究開発と,特に調査書,今いろいろ御意見出ておりましたけれども,調査書から何が分かるのか,分からないということについてお話しさせていただきたいと思います。
 3ページ目,お願いします。これも釈迦に説法ですけれども,いわゆる学力の3要素というものの大元は,学校教育法の小学校の目的のところに,基礎的な知識及び技能,これらを活用していく課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力,そして,主体的に学習に取り組む態度を養うことという定めがあって,これが中学校,高等学校にも準用されているということです。
 次,お願いします。次が新しい学習指導要領の答申に,更に具体的に書かれているもので,この赤い枠で囲んだところが、いわゆる探究活動に相当するものでありまして,新しい大学入学共通テストでも,この探究活動のプロセスと成果をいかに測るかということを基にして,作問方針が作られていると理解しております。
 次,お願いします。次がいわゆる主体性等というところですけれども,この赤囲いしたところなんですが,次,お願いします。実はここに書かれていることは非常に多種多様な能力であったり,態度であったり,資質であったり,経験であって,そういうものがいろいろ書かれているわけです。ですから,主体性を問うといっても,非常に多様なものが含まれているため,先ほど牧田委員からも報告があったとおり,これをどう評価するのかということは,基本的には各大学のアドミッション・ポリシーでどういう能力を評価したいかを明確にすることとに関わってくるんだろうと思います。
 次,お願いします。これは非常に図式的なものなんですけれども,主体性等評価といったときに,学習指導要領で書かれていた探究活動における主体的な活動を評価するという大学もあれば,課外活動である部活とか様々なスポーツ大会等での主体的な取組を評価しようという大学もあると思います。
 ただ,それぞれについても,本当に一人一人の生徒が自律的・主体的に自らやっている活動もありますが,もう随分昔になりますが,私の学んだ高等学校は,1年生は全員,何らかの部活をしなければいけないということになっていました。そうなると,こういう部活をやってきましたといっても,必ずしもそれが主体的な活動だったかどうかは分からないことになります。
 そういう意味で,どういう高校であったかという背景情報がどうしても主体性等を評価する場合には必要になってくる。普通の高校なのか,SSH,SGHで指定された高校なのか,あるいは甲子園常連校なのか。そういう情報がないと,本当に公平公正には評価できないと思います。
 次,お願いします。それで,改めて言うまでもなく,入学者選抜の原則というのは,大学のミッションが基になって,先ほどの牧田委員の御発表にあったように,3つのポリシーが作られていて,入学者選抜については,それぞれの大学のミッションを実現するためにどういう学生を採るのかというところに集約され,どういう評価基準で,どういう方法で,選抜を行うのかということになってくるかと思います。
 ですから,大学入試の出発点は,各大学のミッション,つまり,私学であれば,建学の精神といったものがまずは出発点になるということです。
 次,お願いします。ただ,一般選抜も含めて,多面的・総合的にどうやって評価するのかについては,現実にはやはりボリュームの点もあるし,評価の方法の難しさもあって,なかなか難しいだろうと思います。
 次の図をお願いします。これは左下に書いてあるような本から参考にさせていただいたんですが,コンピテンシーとか能力というのは,一つの氷山にたとえられます海面上に出ている能力は,客観的に評価が可能です。例えば3つの学力でいえば,知識・技能や,思考力・判断力・表現力の一部が教科学力としてテスト等で評価できるわけですが,海面下に沈んでいる非認知的な特性,たとえば,3つの学力で言えば,主体性等というのが見えにくい。そのため,客観的評価が非常に困難であるので,ここは工夫が必要だということになります。
 次,お願いします。この氷山モデルを現行の入試制度にあてはめてみると,一般入試というのは,主として,海面上の見える能力を個別学力試験やセンター試験で測定している。推薦入試やAO入試は,海面上の知識・技能だけでなく,海面下の能力も,小論文とか志望理由書とか面接等を活用して,できるだけ評価しようとしている入試方法になるわけです。
 次,お願いします。来年度の入試からは,全ての選抜方式で,水面上に見える能力も,水面下に沈んでいる能力も,多面的・総合的に評価するということになります。これは結局,先ほどの繰り返しになりますけれども,どの部分を評価するかは,大学のミッションとそれに基づくアドミッション・ポリシーによるということになります。
 次,お願いします。これはアメリカのアドミッションの専門家の方がおっしゃっていることですけれども,入試における評価のサイエンスとアートということで,左側は,氷山の上に,海面上に見えるもので,こういうものは,ある意味,テストとか,調査書の評定平均とかいったもの。つまり,いわゆる客観的な数字で評価できますので,数字を読めばいい。客観的な評価になるけれども,右側の氷山の水面下にあるような能力や資質というものはなかなか評価しにくいので,ここに書いてあるように,志望理由書とか推薦書とか面接で志願者の声を聞くということになる。
 これは非常に主観的な評価になりますので,芸術的な,つまり,フィギュアスケートの技術点と芸術点みたいな感じで,結局,芸術的な点を評価するというのは人それぞれ価値観が違うので,後でお話しするように,評価する人の訓練,研修というのは非常に重要になるということになります。
 次,お願いします。これは文部科学省が委託事業で行った調査で,新しい入試に向けて,どういうふうに評価しますかということを調べたものです。一番下にありますように,一般選抜の評価方法では,一番多いのはやっぱりテストで,それに次いで,まだどう評価したらいいか分からないという答える大学も半数近くあった。調査書も活用したいというのも,なぜか半数近くある。
 次,お願いします。では,一般選抜でどうやって主体性を評価するかという質問に対して,やはり決まっていないというのが半数以上の大学。あと,多いのが調査書で3割,面接が4分の1,志願者本人の記載資料,14%という形になっています。
 次,お願いします。ここから大阪大学で何をやっているかということの御紹介になります。
 次のスライドをお願いします。それで,大阪大学では,第3期中期目標期間の機能強化経費をいただいて,6年間の事業を今行っています。今年,5年目に入って,あとは残り1年半ぐらいです。ここの上に4つの枠がありますけれども,日本の入試の現状の課題を順にあげますと,例えばアドミッション・ポリシーについては,3ポリシーの整合性が欠けているとか,入試の結果をうまく入試の改善,教育の改善につなげるまでの具体性がないとか,高校教育については非常に多様化が進んでいるとか,個別入試では,多面的・総合的評価のほうがまだ十分整備されていないとか,あるいは入試においても二極化している。それから,調査書もそうですが,大学の出願についてはまだ紙ベースで,さらに大学によって出願様式が多様であるなどの課題がある。それを解決するために,右側に記したように,多面的・総合的評価の方法を開発したり,それを担う専門職を養成したり,あるいは高校教育の多様性を補正するための高校ポートレート,高校データベースを構築したり,Web出願システムを構築するということを順次進めてまいりました。
 次,お願いします。その一つが入試で評価を担う専門職の育成ということで,Handai Admission Officer育成プログラム,HAOプログラムと言っておりますけれども,これを過去3回,夏休みに実施してきました。今年も予定していましたけれども,コロナで集合しての研修は無理なので,オンラインで考えております。これまで大体100名ぐらいの大学関係者,あるいは高校関係者の方々が,この2日間の研修プログラムを終えられております。
 次,お願いします。その中で,ここに書いてあるように,入試を支える情報基盤システムの設計ということで,Web出願システムとか,今申しましたように,高校のデータベースとか,それから,スライドの真ん中にあります出願者の評価をウェブ上でする評価システム。そして,入試の結果や在学中の学務データを統合して,入試から卒業までの学生を追いかける,入学者追跡データベースというものを構築して,その結果を分析して,入試方法の改善や教育の改善に活用することとなっております。
 次,お願いします。例えばどういうふうにやっているかというと,ここにありますように,これはあくまでも例ですけれども,入学者選抜の評価の観点として基礎学力,適性として,教養,デザイン力,国際性。それから,学習意欲,この5つの観点・基準で評価するとします。評価の際にどういう観点で見るのかということが具体的に,ルーブリックとして表示されるようになっています。
 次,お願いします。これがWeb出願と,評価システムの一部ですけれども,例えば志願理由書を,PDF化して,それを評価者が読みながら,右にありますような,ルーブリックを参考にして評価している。それを保存する。
 次,お願いします。これが一人一人の評価者の画面で,こういうウェブで評価していくと,点数処理が非常に効率的に瞬時にできるということになります。
 次,お願いします。高校データベースですが,先ほど申したように,高校は非常に多様です。例えば,今,大体2,000校分ぐらいを公表された情報からデータベース化しております。これはあくまでもダミーサンプルですけど,例えば,ある高校の過去の,ここには難関大学合格状況と書いてありますけれども,こういうふうに,どの大学で何名合格しているかということが分かれば,ある高校からの志願者の学年順位が10位である。この高校は,過去,ここにあるような大学に50名,毎年,合格者を出していたとすれば,例えば大阪大学に入学しても,うまく卒業までこぎ着けられるだろうと判断できるわけです。
 次,お願いします。それから,調査書には評定値が書かれています。ところが,評定値は,高校ごとの達成基準に基づいていますので,評定値意味は様々です。そこで,例えば,その高校の志願者のセンター試験の成績と相関させると,例えばこの高校の国語の評定が4.0だとセンター試験の国語では140点ぐらい取るだろうなということが分かるわけです。
 ただ,注意しなければいけないのは,例えば評定が同じ4でも,センター試験では110点ぐらいから180点近くまでばらつきがあるということで,これもあくまで参考値です。
 次,お願いします。調査書から分かることです。ずっと次へ行ってください。一つは,これはアメリカなどでも言われているんですけれど,この評定の学年ごとの変化,国語なら国語の評定の変化からでも,学習意欲などが評価できるというふうに言われています。要するに,1年,2年,3年と,どんどん成績が上がっているのか,1年,2年,3年と下がっているのか。1年から2年にかけては下がって,2年から3年で上がるのか。2年で下がったときは何か原因があるのではないかということで,志望理由書とか高校からの推薦書を見て,親が亡くなったとか,病気だった。そういう情報も併せて評価するわけです。
 一番下に赤枠で囲ったのは概評というところで,ここには,その高校でA,B,C,D,E,何名いますかという数字が書かれております。
 次,お願いします。これは大阪大学の志願者。調査書については,我々は志願者に入試で使うだけではなくて,教育の改善にも使わせてもらいますということの許諾を得ていますので,こういう形で分析しているんですけれども,県によって,A,B,Cと分布している県もあれば,BとCしか分布していない高校の県もあれば,右側の私立のように,L県,下から5番目のように,もう概評の分布はAしかないという高校もあります。調査書における評価も高校だけでなく,都道府県によっても非常に多様だということです。
 次,お願いします。これが新しい,左が現行で,右が新しいもので,細かく書くようになっています。
 次,お願いします。これは先ほど牧田委員の御指摘どおり,調査書の各所見欄に書かれているのは教員による評価なんです。渡部先生の本によると,こういう教員による評価というのは,生徒と教師という関係性における評価なので,客観的ではないということになります。これをいかに公平公正に評価するかというところが非常に難しい。例えばウェブ評価システムにすれば,右にありますように,こういう評価の軸を作って,1であったり,0であったりということもできますけれども,あくまでも教員による生徒の行動等に関する主観的な評価だということを念頭に置いて評価しています。
 次,お願いします。ここも同じですね。最後の大学からの要望について高校側が書いている欄も同じことです。
 次,お願いします。同じ調査書で実際何がそれぞれの欄に書かれているかということも調べてみました。そうすると,ほぼどの欄も100%書かれております。7の「指導上の参考となる諸事項」の(1.2)の特徴というところは100%記入されておりました。ただし,下へ行っていただくと,文字数は平均が229文字で,最大766文字,最小1文字ということで,非常に多様で,書かれている内容の量も質も多様です。
 次,お願いします。どういう文字,キーワードが書かれているかということを調べたところ,例えば一番左の「特別活動の記録」ですと,「クラス」という単語が一番多く出てきます。これは多分,クラス委員とかクラス委員長をやったというような文章になる。それから,次の「特記事項」というのは,これは「特記事項なし」という形で書かれていると推測できます。このように,単純に単語や語数だけを調べてみても,調査書の内容はいろいろあるな,多様だなというのが分かります。
 次,お願いします。多面的・総合的評価ですけれども,次の34枚目をお願いします。漫画があるところです。これはよく出てくるんですけれども,「FOR A FAIR SELECTION EVERYBODY HAS TO TAKE THE SAME EXAM:PLEASE CLIMB THAT TREE」,公平な公正な選抜をするために,みんな木に登ってくれと言います。でも,それぞれ得意,不得意があるわけで,一つの尺度だけで選抜すると,やはり不公平,不公正。そして,大学が採りたい人材が採れなくなるということを表しています。
 次,お願いします。これもよく学習心理学で言われているんですが,人間がどうやって理解するかというのにはいろんな学習スタイルがあるわけです。目で見て理解が高まる人もいれば,音で聞いて理解できる人もいれば,文字で理解できる人もいれば,感覚,体で動かして理解できる人もいる。これ以外にもいろいろ分類の仕方はあるんですが,そうすると,筆記試験というのは本当に公平公正な評価方法なのかという疑問も出てきます。
 次,お願いします。多面的・総合的評価にはいろんなアプローチがあるんですが,一つのやり方は,例えばテストの得点とか,調査書のGPAで,まず一段階の選抜をして,そこから残った者を推薦書や志望理由書や面接で本当に丁寧に評価を行うというやり方もあるかもしれません。
 次,お願いします。もう一つは,志願者について,面接とか調査書とか多様な資料を使って,先ほど紹介したようにそれぞれに比重をかけて,それで評価して,最終的に100点満点に換算して合否を決めるというやり方もあるかと思います。これは多様な資料を使っているので,ある意味,多面的な評価ということになります。
 3番目,次,お願いします。3番目はもう,「えいや」,で合否を決めるアプローチです。つまり,面接したり,志望理由書を読んだり,テストの得点を見たり,推薦書を読んだりして,うちの大学にこの志願者は向いているか,向いていないかを,つまり,合格か,不合格かということを「えいや」で決めてしまう。これがアメリカの専門家に言わせると,真のホリスティックな評価だというふうに言います。ただ,これは結局,人が人を評価するということを皆さんが受け入れられるかということになります。
 最後ですかね。次,お願いします。今お話ししたような大阪大学の取組や,この4年間の取組をこの報告書にまとめて,大阪大学高等教育・入試研究開発センターのホームページにアップしておりますので,関心のある方は御覧いただければと思います。
 少しだけオーバーしたかもしれませんが,これで私の発表を終わらせていただきます。ありがとうございました。
【圓月主査】
 川嶋委員,どうもありがとうございました。
 それでは,専門の御研究の成果の一端を御発表いただいたものと思っております。何か御質問等がありましたら,皆様よろしくお願い申し上げます。
 まず石崎委員に手を挙げていただきました。石崎委員,よろしくお願い申し上げます。
【石崎委員】
 川嶋先生,ありがとうございました。2つ教えていただきたいんですけれど,7ページのところでお話しされていた主体性とか探究活動を評価されるときに,背景情報が必要だというお話は全くそのとおりだと思います。あとのところでも,高校のデータベースを作ってみたいなところもそういうのにつながっていることなのかなと思うんですけども,具体的にその背景情報というのをどのように使おうとされているのかというところがもうちょっと具体的に分かれば,教えていただきたいのが第1点です。
 それから,それに付け加えて,2点目として,背景情報とおっしゃられていた部分に必要な要素として,どういう高校で学んだかというようなところは分かるんですけれども,それ以外の要素として,例えばどういう家庭なのかとか,どういう地域なのかとか,そんなような要素はお考えになっていないのか。例えば家庭の経済状況だとか,親の学歴だとか,いろんな要素はあると思うんですけれども,そういうようなことが何か配慮に使えるようなお考えはないのか,その辺を教えていただければと思います。お願いします。
【川嶋委員】
 ありがとうございます。まず2点目は,家庭とか地域の情報というのは必要かと思います。これについては,またこの後,垂見委員が御報告されると思うんですが,これについてはなかなか,日本で一人一人の志願者の家庭,例えば親の学歴であるとか職業のデータを集めるというのは非常に難しい。日本ではほぼできない状況だと思います。ですから,どうしても背景情報としては,そういう点を必ず考慮しなきゃいけないと思うんですが,なかなかそこは日本の現状では難しい。
 1番目の高等学校の情報については,我々が考えているのはもちろん,例えば高校のホームページにアクセスして,その高校の教育理念とか,あるいは教育活動の特色とかカリキュラム,こういうものをホームページや出版されたもので集めておりまして,先ほどお話しした,例えばその学校の特色というのはどういうところにあるのかというようなことを,背景情報として,志願者を評価する際には活用したいなと考えています。
 まだ実際に活用しているわけではなくて,つまり,大阪大学だけで集められる情報は限度があります。近隣の高校は非常によく分かるんだけれども,例えば北海道にある高校の情報というのは本当に公開情報でしか分からないということもあって,まだ開発段階だとしかお話しできません。
 できれば各大学と連携して,それぞれの地域,それぞれの大学がお持ちの高等学校の情報をぜひ共同で共有したいなというお話はしているんですけど,なかなかそういうところの連携は取れておりません。ちなみにアメリカでは,家庭や地域の情報も含めて,アメリカではジップコード,つまり郵便番号で大体その地域の社会経済的背景は分かるんですね。それで,カレッジボードが今年から「ランドスケープ」というデータベースを作りまして,地域や家庭の情報をアドミッションオフィサーがそれを見ながら評価するということを始めています。試行の段階では,その情報を活用することによって,マイノリティの入学者が増えた大学もあったということです。あとはやはり大学の関係者が各高校を丹念に回って,高校の情報を集めるということも重要かなと思います。
 以上です。
【石崎委員】
 ありがとうございました。
【圓月主査】
 ありがとうございました。
 それでは,垂見委員も手を挙げていただいております。今のやり取りにうなずいてくださっておりましたので,また関係があるかも分かりません。よろしくお願いします。
【垂見委員】
 川嶋先生,ありがとうございました。大変興味深く聞かせていただきました。あと,アドミッションオフィサー,100人体制というのはとても羨ましく聞かせていただきました。
 質問は2点あったんですが,1点目は,主体性の多元性というお話があったんですが,このようにいろいろデータを実際集めてみて,特に測りにくい,あるいは特に割れてしまう。そのアドミッションオフィサーの中でも評価が割れる主体性はあるのかなというのが素朴な疑問です。最初に多元性というのでいろいろ挙げられていた後に,もう少しメイトリクスの中で,例えば教養,デザイン力,国際性,学習意欲という分け方もあったかと思うのですが,特に評価が割れる,つまり信頼性が低い要素というのはどういうところなのかというのが1点目の質問です。
 あと2点目は,背景情報に関しては先ほど質問があり,データがとれないということだったのですが,追跡する上で,特にどういったものを重要視し測っているのか。GPAなどありましたが,他にアウトカムとしてどのような要素を測っているのかというところをもう少しお尋ねしたいと思いました。お願いいたします。
【川嶋委員】
 ありがとうございます。1つ目の御質問ですが,その前にアドミッションオフィサー100名というのは全国から来られていて,大阪大学で100名というわけではないんです。全国の大学や高校関係者の方が参加されていて,全国に100名ぐらい散らばっている。そういう方が各大学でぜひ活躍していただきたいというふうに思っているわけですね。
 最初の御質問ですが,これは最初の牧田委員の御発表にもあったんですが,やはり主体性とは何かという定義を明確にするというのが,評価が割れないためのまず第一段階で,評価が割れた場合には,第三者が評価に入ることもあります。さらに,ノーミングといって,本番前の評価者の訓練のときに,評価が難しい観点については何回も,評価の結果が合うまで,繰り返し突き合わせを行います。それによって,評価が割れるというか,評価が食い違うということをできるだけなくすように努めるんです。ですから,まずどの要素で主体性の評価が割れるかというのをまずきちんと確認する。その上で,事前研修時に評価者の評価軸のすり合わせを,何回も行い,評価軸の調整を行う。評価が全員一致というのもまた怖い話なんですけれども,できるだけ評価が食い違わないような形で研修を繰り返し行うということが重要です。主体性のどの要素の評価が難しいかというご質問には,すぐに答えられないんですけど,そういうステップを我々は踏んで,研修者の評価能力を高めることをやっております。
 それから,2つ目のトラッキングについては,ほかの大学でもされていると思うんですが,まず入学の目的,将来の進路,興味や関心,そして各種の能力の自己評価等の入学者のアンケートを取っています。分析の軸としては,AO・推薦で入った学生か,一般入試で入った学生かという入試区分。そして,入試の成績,そのアンケートの結果などを独立変数として,あとは,今御指摘あったGPAと大阪大学が特に重視しているのは,大学院に進学してくれるかということ。特に博士課程に進学してくれるかどうかということがアウトカムというか,従属変数として非常に重視して,追跡調査を行っております。よろしいでしょうか。
【圓月主査】
 よろしいでしょうか。ありがとうございました。
 それではあと,長塚委員と柴田委員から手が挙がっておりますので,お二人から御質問をいただいて,最後の垂見委員の御意見発表に移りたいと思っております。よろしくお願いします。
 まず長塚委員からよろしくお願いします。
【長塚委員】
 川嶋先生,ありがとうございました。2つお聞きしたいんですが,まずは9ページで拝見しますと,入試を支える情報基盤システムの全体像が載っておりまして,e-ポートフォリオ型のWeb出願システムというのがあって,入試判定まで行くわけですが,Web出願から始まる受験生というのは,大阪大学では全体なのか,どの程度の割合なのかということがお聞きしたいことです。志望理由書なども電子的に判定して,書類審査もするということでしたけども,このWeb出願の割合,あるいは多面的評価をする,このシステムの対象者というのは,一般入試を含めた全体となると,これは相当大変な対象者数になるだろうと思ったものですから,その辺のことをお聞きしたいというのが1つ。
 もう1つは,大阪大学のアドミッションオフィサー育成プログラムの御紹介などもございましたけども,ちなみにアメリカのアドミッションオフィサーというのは,単に教員とか,あるいは事務職という意味ではなくて,これは言わば専門職として相当な知見を持った上でないとできないものとして位置づけられているのではないかということについて,改めてお聞きできればと思っております。よろしくお願いいたします。
【川嶋委員】
 ありがとうございました。まず1番目の御質問で,Web出願はもう既に一般入試,AO入試,推薦入試で全部,Web出願に切り替えております。その上で,ウェブで評価する仕組みについては,今のところ,去年の時点では,4学部と留学生入試でウェブを使って評価して,合否を決めているという現状で,我々としては,4学部だけじゃなくて,大学院とかほかの学部にもぜひこのウェブでの評価システムを導入していただこうという働きかけを学内でしているところでございます。
 先ほどから井上委員の発表にもあったんですけど,この際,調査書をぜひ電子化していただくと,このウェブ評価システムももう少し使い勝手がよくなると思います。
 それから,2番目の御質問については,アメリカでは御指摘のとおりで,我々としても,日本においては,URAとIRに続いて,ぜひアドミッションオフィサーを正式な専門職として大学で位置づけたいなという思いで,今,様々な取組を続けているところであります。
【圓月主査】
 よろしいでしょうか。
【長塚委員】
 ありがとうございました。
【圓月主査】
 それでは,最後になりましたけど,柴田委員からよろしくお願いします。
【柴田委員】
 柴田でございます。川嶋先生,大変貴重なお話をありがとうございます。改めて先生に聞くのもお恥ずかしいんですけども,最初の辺りで,先生,主体性等という表現で言っておられまして,これに関連して,いろんな方から既にもう御質問等あったんですけども,この主体性。我々は,学力とか判断力,表現力等と違う学力として,主体性というのを一般的に使っていたんですけども,何かいろいろとこれは含意しているところがどうも多様だなというのに,遅まきながら気がつきまして,先生のこの主体性等というのは,学力の3つの中の残りの部分という,広い概念でお使いになっておられて,厳密な意味でのアクティブというか,能動的というか,そういう意味での主体性とは違う使い方という具合に理解しておいていいんでしょうかね。
 と申しますのは,もともと日本の選抜,20年ぐらい前から学力一辺倒じゃ困るというので,AOとか導入されたときには,人間性も見なきゃと言っていた時代があったんですよね。ところが,それでは通らなかった人は人間性に欠けるのかという話になるので,これは言葉として使えないなということで,その次の段階として,意欲とか創造力とかそういう言葉を使っていたのが,最近の高大連携になって,よく一般的に使われるようになったのが,この主体性ということになっているんだなと思うので。
 第3回のこの会議で,高校の先生方は2通りの使い方があるというお話がございまして,学力の第3番目の要素として,幅広いいろいろな活動ですね。クラブ活動とか。先生も,主体的にやるクラブ活動とそうでないのがあるという御指摘もあったんですけれども,そういう全てを含んだような包括的な名称として,主体性という使い方をしているのと,我々大学で今まで考えていたのは,学習に主体的に取り組んで,先生も御指摘のように,やがてはアカデミックなほうで活躍できるような人間を見たいというところもあるわけでして,その辺り,先生,主体性等というところでお逃げになっておられると理解していいんでしょうか。ちょっと微妙な話で,お答えは難しいと思いますけども,この辺りの合意があった上で,これからの議論を突き詰めていくというのがプロダクティブじゃないかと思うので,あえて聞かせていただきます。よろしくお願いいたします。
【川嶋委員】
 ありがとうございます。これは主体性等とずっと高大接続改革で,3つの学力として,3番目に言われてきたことで,それをそのままここで使っているんですけど,要は,私が言いたいのは,スライド番号で10かな。要するに,非認知的な側面の評価のことです。思考力は認知的な側面に入ると思うんですが,今いろんな国で重要だと言われているのは,むしろ非認知的な要素で,これからの時代を生きていくには非常に重要だというふうに言われています。今ここで言われている主体的に多様な人々と協働しながら学ぶ態度と言われているようなことは,恐らく認知的な側面よりも態度とか意欲とか関心という,非認知的な要素だろうと私は理解していて,入試で評価するのであれば,認知的な部分と非認知的な部分,両方を評価しなければいけない。それが多面的で総合的な評価になるんだろうなというふうに私は理解しています。
 その認知的なところも非認知的なところも,先ほど何回も繰り返し言っていますけど,結局は各大学が採りたい人材として,どういう要素を持った人を求めるのかということを明確にすることが一番重要で,それを主体性と呼ぶのか,意欲と呼ぶのか,人間性と呼ぶのかは別にして,やはり原点は各大学,柴田先生のところでしたら福岡県立大学でどういう人を求めているのかということを出発点として,それぞれの大学が各要素を丁寧に評価すればいい。ここはあくまでも主体性等と言っているのは,共通項として今,流通している言葉を使っただけで,やはり最後は各大学の御判断だろうと私は思いますが,逃げていますでしょうか。
【圓月主査】
 柴田先生,いかがでしょうか。
【柴田委員】
 そういう共通認識で今後進めていっていただければと思います。だから,ある意味では,主体性を含めた多面的な評価ということと同じような言葉遣いということで理解して,進めていけばいいということでしょうね。どうもありがとうございました。
【圓月主査】
 どうもありがとうございました。この会議の核心に関わる問題でもありますので,本来でしたら,これだけでもっといろいろな御意見をいただきたいところですけれども,時間の制約もございます。
 最後になってしまいまして,長いことお待たせしましたけども,垂見委員から御意見の発表をいただきたいと思います。よろしくお願いします。
【垂見委員】
 垂見です。よろしくお願いいたします。資料は資料4になります。私の専門領域は,教育社会学,比較社会学,そして,研究テーマが学力格差であるため,今日の発表では,この視点からお話をさせていただきます。
 お話ししたいことは大きく3点ありまして,まずは家庭背景と学力,いわゆる認知のほうですね。学力がどの程度関連があるのか。次に,多面的評価に関係してくるであろう,例えば子供の習い事の経験であったり,親の意識であったり,生徒の意欲といったものが家庭背景とどの程度,関連があるのか。そして,最後に,これらの実態を踏まえて,家庭背景による格差というのを多面的評価の中でどのように配慮していくのかという点について,考察したいと思っています。
 スライド3になりますが,今日の発表では,学力格差を狭義に,個人が変えることのできない要因である家庭背景による結果としての学力,ここもテストスコアと狭義に出てきていますが,差異と定義いたします。
 スライド4ですが,今日の発表でお示しするデータは,私が専門家会議やワーキンググループの委員として長く関わってきました全国学力・学習状況調査のデータになります。こちらの調査は,毎年,小6・中3を対象に悉皆調査で行われており,学力テストだけではなく,生徒質問紙や学校質問紙などが実施されています。また,この調査は,一番特筆すべき事項としては,平成25年から4年ごとに併せて保護者調査を抽出で実施しています。
 ここで,先ほど話が上がりました,日本ではなかなか生徒の家庭背景という情報がデータとして収集できないんですが,このデータに関しては,初めて生徒の保護者の社会経済的背景であったり,親の教育関与などに関するデータが一緒に抽出されるようになっています。
 抽出調査ですが,ウェイトづけにより全国レベルの推定が可能となっています。今回は2回目の平成29年度のデータの結果を用いますが,回収率は,小学校で約90%,中学校で約85%となっています。
 ここから少したくさんのグラフを見ていただくんですが,まずスライド5です。こちらは,家庭背景の一つの尺度である家庭の所得と子供の学力の関連を見ていきます。こちらは小6のデータになります。X軸に所得,Y軸に生徒の学力,いわゆるテストスコアが来ています。
 青い棒のほうが,国語Aという基礎問題のテストスコアですが,家庭所得が高いほど,つまり,右に行けば行くほど子供の学力が高くなるという傾向がデータから見て取れます。そして,赤の棒,こちらは国語Bという活用問題。もう少し発展的な問題のテストスコアですが,同様の傾向が見て取れます。
 スライド6は,同じように中3のデータです。こちらでも同様の傾向が見て取れます。
 次にスライド7に移りますが,こちらは家庭背景のもう一つの尺度である親の学歴と子供の学力の関連を併せたものです。スライド7が小6のデータ,スライド8が中3のデータで,今度は算数,数学のスコアを用いています。
 当然,一番左側あるいは一番右側のグループというのは,ケース数は小さくなっているんですが,グラフから親の学歴が高くなるほど,子供の学力が高くなる傾向。そして,これは基本的な基礎問題でも発展的な問題でも同様の傾向が見て取れます。
 では,スライド9を見ていただきたいんですが,これ以降,グラフを少し簡素化するために,SESという尺度を用いて説明していきたいと思います。
 SES,Socio-Economic Statusというのは,社会学の分野では,あるいはは海外の学力調査などの分析ではよく使われる変数です。家庭の社会経済的状況を総体的に示す指標となっております。このデータでは,家庭の所得,父親学歴,母親学歴という3つの変数が取れていますので,こちらを合成,合体させて得点化した指標となっています。その上で,これを4等分,4つのグループに分けて,一番下の25%をLowest SESのグループとしています。少しイメージが湧きにくいと思いますので,このスライド9の下の記述統計を見ますと,Lowest SESと,例えばHighest SES,平均所得が大きく600万ほど違ったり,あるいは親の教育年数も11年と16年と大きく異なってくるのが見て取れると思います。
 これ以降は,家庭背景による格差を見る際には,この4つのグループ,いわゆるSESのグループ別に生徒を比較しています。
 スライド10が,このSES尺度を用いた小6のデータです。
 少し今までの復習となりますが,家庭背景,すなわち親の学歴と所得を総合したものと,学力の関連を見てみますと,国語においても算数においても,あるいは基礎問題においても,発展問題においても,児童がどのような家庭背景で育つかにより,学力が異なる。つまり,生徒が自分で変えることのできない要因による学力,認知能力の差異が見られます。
 スライド11が中3のデータで,小6とほぼ同様の結果となっています。
 さて,これまで多くのグラフを用いて,学力,認知能力が家庭背景によって異なるということを示しました。ここからは学力ではなく,本会議の主題である主体性等や多面的な評価に着目していきたいと思います。
 ただし,最初にお断りしておかなければいけないのが,主体性は,先ほどの川嶋先生の発表にありましたように,そもそも多元性のものですし,先ほど主体性として例として挙げられていた能力や態度,そのものを測る尺度がこのデータにはないことから,主体性の育成に少しでも影響を及ぼすと言われている,例えば習い事の経験,あるいは現在,多面的な評価の活動案として入っている様々な活動,留学であったり,検定であったり,そういったものに影響を及ぼすであろう親の意識に着目していきたいと思います。
 こういった子供の体験活動や親の意識に格差,すなわち家庭背景による差異があるのか。もしあるとすれば,それらが入試で評価されることにより,教育機会の差異につながると言えるのではないかという観点からデータを見ていきたいと思います。
 スライド13以降は,中3の生徒が回答したデータのみをお見せする形になります。
 スライド13は,スポーツの習い事をいつ頃習っていましたかという質問に対する回答の割合です。黄色の棒がLowest,SES,そして青の棒がHighest SESの中でイエスと答えた割合となっています。SESによる違いというのが幼少期から見て取れるかと思います。
 例えばこのスライド13の一番左側,就学前を見てみますと,Lowest SESでスポーツ系の習い事をしている割合が13%ですが,Highest SESでは37%となっています。どの発達段階でもそのような傾向が見られ,例外は中学校では有意な差が見られなくなりますが,これは主に部活動に変わっていく。また,高校入試を控えて,習い事を辞めていくなどの理由が考えられます。
 残念ながら,この調査では,部活動に関する質問項目が限られているため,データとしてはお見せすることができません。ただ,このグラフから言えることは,Highest SESの子供が早くからスポーツなどに接し,そして,長く続ける傾向にあるので,体験の差異が蓄積しているということが言えるかと思います。
 スライド13の一番右側は,この15年間で全く習っていないと回答した割合です。こちらもLowest SESの中では38%,約3人に1人となっているのが,Highest SESでは15%,約7人に1人と差異が見られます。
 スライド14は,芸術系の習い事,ピアノであったり絵画であったり,そういったことを,今までしていたか否かという質問に対する回答になっています。就学前を見てみますと,Lowest SESでは7%,15人に1人ですが,Highest SES28%,約4人に1人という差異が見られます。また,一番右側の中3時点で,一度も,あるいは一つも習ったことがないという割合を見ても,Lowest SESが顕著に違う傾向が見て取れます。
 スライド15が英語に関する習い事です。全体的に割合が低いですが,どのような家庭背景に育つかによって,学校外で英語に接する機会が幼少期から異なり,それが幼小中と続いていくことがデータから見て取れます。
 スライド16からは,親の教育に対する意識というものを見ていきたいと思います。スライド16の質問項目は,お子さんが外国語や外国の文化に触れるよう意識しているか。つまり,習い事という構造化された場だけではなく,意図的に様々な場で子供に英語に触れる機会を親が意識しているかに着目したものです。
 一番上の棒がHighest SES,一番下がLowest SESの回答となっています。一番上のHighest SESの中では肯定的に答えた割合が51%,一番下のLowest SESでは27%と差異が見られます。
 スライド17は,留学の経験。親が,子供が中3の時点で留学してほしいと思っているかに対する回答です。こちらも一番上のHighest SESを見ますと,51%が肯定的に答えているのに対して,一番下のLowest SESでは23%にとどまっています。
 スライド18は,お子さんにどの段階の学校まで進んでほしいと思っているかという親の教育期待をSESの関連を見たグラフです。ここで赤でくくった部分が大学進学を子どもが中3時点で,してほしいと思っているかというものですが,SESにより,かなり分断されていることが確認できます。これは私がアジア諸国の研究者と比較研究しても一番驚かれる点なんですが,青の棒のHighest SESでは,81%が大学まで進学してほしいと思っているのに対して,黄色の棒のLowest SESでは,大学まで進学してほしいというのが29%という違いが見られます。
 今日は,データの制約から,体験活動として習い事というものしか見れなかったのですが,それ以外に部活動であったり,地域の運動チームであったり,学校外の様々な体験,長期休暇の自然体験などというのも,家庭背景が豊かな層では機会が多くあり,厳しい家庭では,機会が乏しいということが分かっています。
 スライド19になりますが,アメリカの教育社会学者のLareauが,あくまでアメリカの事例なんですが,インタビューや観察を通して,SESの高い家庭で行われる営みを「意図的な養育」と命名しています。もともとの英語では,「Concerted Cultivation」という言葉を使っており,つまり,指揮者がオーケストラをまとめるように,親が様々な力を結集して調整して,子供の日常生活や成長を構造化している様子を描き出しました。
 SESの高い親が幼少期から子供の才能だけではなく,態度,技能を常に積極的に育成,評価している。その要素を特に3つの側面から描き出しています。一つが,放課後時間の構造化。多種多様な習い事や活動を次々にスケジュールして管理する。そして,2つ目が,子供の言語活動・コミュニケーション能力。子供が論理的に説得力を持って話す力を幼少期から重視している様子。そして,3つ目が,制度や組織,例えば子供のために学校に介入し,それを見せることにより,子供にそのような積極性,権利といったものを意識づける,そういった様子が描き出されています。
 この概念を適用するのであれば,今まで見た早い段階からの多種多様な習い事の経験の有無というのは,単に技能の向上の機会があるかないかだけの指標ではなく,そういった機会があることにより,子供に様々な態度,例えばやり抜く力であったり,発表会や試合などで達成感を得ることによって自己肯定感を高めることであったり,あるいは,もっと上を目指そうとする意欲,あるいは,ほかの大人やチームメイトとの協力を通して,コミュニケーション能力,そういった様々な能力を育成する機会があったか,なかったかの指標でもあると言えるかと思います。
 スライド20からは,OECDが3年に1回実施しています国際比較教育調査であるPISAのデータを少し用います。日本の場合は,高校1年生が対象となっています。ここで重要なことは,この調査でも,やはりSESの尺度が測定されているということです。先ほどの全国学力調査とは少し違う尺度ですが,保護者の学歴,保護者の職業の地位,家庭の所有物,家財の数,本の冊数,こういったものを合体させて,SESの尺度を作っていること。また,ナショナルサンプルであるということが重要かと思います。
 21ページのグラフは,家庭背景と生徒の意欲の関連を示したものです。PISA調査では,達成することに対する意欲を測るために,ここにある3つの質問をしています。左側のグラフは,最初の質問項目,全力で取り組むことに満足を覚えるかの回答傾向をSES別に見たものです。Highest SESでは34%が,「まったくその通りだ」と答えているのに対して,Lowest SESでは24%という差異が見られます。
 右側に示しているグラフを見て頂くと,上の3つの質問項目の回答を合成して,OECDが作成した意欲のスコアが,家庭背景によって違うということが見て取れるかと思います。これまで多くのグラフを見ていただきましたが,総括しますと,まず生徒の学力,認知能力のみならず,習い事の経験や,親の意識や,生徒の意欲が家庭背景によって差異があるということがデータからは言えます。
 先ほど申し上げたように,多種多様な習い事というのは,技能の向上だけではなく,経験を通して様々な態度や意識の変化,コミュニケーション能力の変化を育むと言えるかと思います。つまり,家庭の社会経済的背景が厳しい生徒は,そのような機会が幼少期から少ないことによって,主体性を育成する機会・環境が少ないと推測できるかと思います。
 なお,1点注意すべきこととしては,今日お示ししたデータからは,学力においても主体性,あるいは非認知能力などにおいても,家庭背景による格差があるということは言えますが,主体性等のほうが学力よりも,家庭背景による格差が大きいということは言えません。ただし,評価基準が多角的になると,準備への負荷が高まるということは言えるかと思います。つまり,学力であれば,生徒が試験当日,テストを受ければいいということになりますが,多面的な評価では,どのように自分の体験活動や学習活動を積み上げていくか,何をどう頑張り,そして,それをどのように言語化していくのかというプロセスが評価されるからこそ,先ほど「意図的な養育」で描かれたように,準備の期間や負荷が大きくなるということが考えられます。
 今日のデータからもう一つ明らかだったのは,親の教育に対する意識や期待といったものが,家庭背景による差異が大きいということです。そのような親の意識の違いを考慮すると,評価基準が多角的になり,準備への負荷が高まると,もともと大学進学が当たり前の高いHigh SES層には有利,逆に,大学に行くこと自体をちゅうちょしている層にとっては,更にハードルが高くなることが推測されます。このようなことから,主体性を評価する際には,家庭の社会経済的背景が厳しい層が排除されない仕組み,工夫が必要かと考えます。
 2つの例を挙げたいと思います。1つは,評価の際に,家庭背景に関する質問項目を入れること。日本では確かにかなりセンシティブなことなので難しいとは思うんですが,例えば就学支援金の受給の有無,就学支援金のランク,あるいは一人親か否かといった項目を入れ,積極的な是正措置,いわゆるアファーマティブ・アクションを導入するというのも一案かと思います。あるいは,もう1つの例として,今,例えばe-ポートフォリオなどに入っている留学であったり,経験,大会などのように,お金がかかったり,親の支援が必要なものばかりではなく,家庭の社会経済的背景が厳しい層の生徒にも確実に書けるような項目。例えば,アルバイト,あるいは家庭への貢献,こういったものを通して,どのようなコミュニケーション能力,あるいは継続性,協働することを学んだのか,こういったところを書かせるというのも一つの案かと思います。
 最後に1点だけ付け加えさせていただきたいと思います。スライド24になるんですが,多面的な評価においては,多様な人々と協働して学ぶ態度という側面があるかと思いますが,こちらは多様性という観点から,日本の高校システムを表したグラフです。こちらはPISAのデータ,高校1年生のデータですが,X軸に各学校のSESの平均値,Y軸に各学校の学力平均値を持ってきています。つまり,それぞれの点は,学校,高校を示しています。このグラフから,日本の高校システムにおいてはどのような家庭背景の子供が通うかというのが,どのような学力の子供が通っているのかというのに非常に関連が強い。回帰線に点が集まっている様子が見て取れるかと思います。
 今の関連を国際比較したのがグラフ25になります。学校レベルでのSESと学力の関連。高い国が右に来ております。高校という段階に着目する限り,日本は右から2番目というシステムになっています。つまり,高校の選抜を通して,学力別に分けているのみならず,それが家庭背景による分離を伴っているということを示しているかと思います。
 最後のスライド26になりますが,つまり,学校段階が上がるにつれ,学校内の類似性が高い,あるいは学校内の多様性が低いというのがこのようなデータから見て取れるかと思います。「多様な人々と協働して学ぶ態度」を評価するからには,大学における多様性を確保する必要があるかと思います。ゆえに,家庭背景が厳しい生徒にも開かれた入試,あるいはそういった生徒が排除されない,あるいは諦めてしまうような入試とならないような工夫が必要かと考えます。
 すみません。長くなりました。御清聴ありがとうございました。
【圓月主査】
 垂見委員,どうもありがとうございました。
 それでは,御質問等がございましたらよろしくお願い申し上げます。
 そうしたら,西郡委員がすぐに手を挙げていただきました。よろしくお願いいたします。
【西郡委員】
 垂見先生,どうもありがとうございました。非常に興味深いデータで,なるほどと,こんなにきれいに分かれるのかと思った次第です。ちょっと気になったというか,今,議論しているのが大学入試における主体性等の評価,多面的な評価という中で,先生も最後のほうに言われていましたけれども,高校入試によって選抜されて,類似性が高くなっていると。そうなると,大学を受験する層もある程度類似性が高くなっていると考えると,大学を受験する人たちに限って見た場合に,データの最初のほうで見ていた学力調査で見た場合に,あれほどきれいな差が出るのかというところはどうなのかという点と,もう一つ,スライドの24ページの先ほどのプロットですね。これだけ見ると,物すごい,高校と学力の相関ですね。高校のSESの高低と学力の相関が高いように見えるんですけれども,仮に大学進学する人の高校がこのSESの学校平均のゼロよりも上のほうだとすると,そこで切断されるとするならば,そこで切断効果によって,そこまでの相関は出ないような気もします。ここら辺をどのように解釈するのかというところを,先生の御意見をお聞かせいただければと思います。
【垂見委員】
 ありがとうございます。まさに私も問題意識としてはあるんですが,いかんせん,大学に関してはまず標準的な学力や能力を測るようなテストや調査がないので,データ上,これが大学になるとどうなるのかというのは全く言えないのが正直なところです。ただ,おっしゃるとおり,先ほどスライド24でお見せしたのは,全国の高校になりますので,この中で進学しない人たちを抜く,そして,そういった子供も学校によって相当固まっていますので,かなり右側寄りになることによって,見え方は違うということは言えるかと思います。
【西郡委員】
 ありがとうございました。もしデータの性質上,最初の学力調査で,大学まで行く人,親の判断ですね。どこまで進学してほしいと思っているかと,物すごく,ほかの国と比べても傾向があると言われているところがあるんですけれども,そこのところ,大学まで行かせたいかというところと,さっきのいろんな学力のスコアであるとか,習い事とかというものをクロスでかけ合わせた際に,そういったときに傾向がこのまま引き継がれて,この状態になるのか,今よりも傾向が違ってくるのかという分析ができるのであれば,また何かの機会に教えていただければと思います。
【垂見委員】
 はい。ありがとうございます。
【圓月主査】
 どうもありがとうございました。ほかには御質問ございますでしょうか。
 それでは,柴田委員が手を挙げてくださいました。柴田委員,よろしくお願い申し上げます。
【柴田委員】
 大変貴重なデータと状況を教えていただき,ありがとうございます。2つ程お聞きしたいと思うんですけども,さて,これを多面的な評価にどういう具合に入れる手だてが今の日本の社会状況にあるのかなというところが一つあります。と申しますのは,本校の立地というのがかなり厳しい地域にございまして,その中で,我々は福祉系の学部が主体なものですから,やはり何とか貢献できないかなというので,地域の小学校,中学校,高校に様々努力しているんですけども,そういうファクターというのは,入試の際には全部消去されて,出しちゃいけないと申しますか,そういうところがございますので,それをどう今後入れることができるのかどうかというところですね。これが日本の平等という意味の,ある意味での反面なんじゃないかなと思うんですけれども,そういう気がいたします。
 それに現実的にもう一つ,御承知だと思いますけど,面接の際に,そういう社会的背景は聞いてはいけないという面接のガイドラインというのがございますし,私も記憶するところでは,受験生の方からそういうことを言われて,大変当惑したことがございまして,なかなか今の日本の社会状況では,こういうのをこれからどういう具合に多面的な選抜というところに入れていくのか,非常に悩ましい問題じゃないかなと日頃から思っていましたので,先生のお考えがございましたらお教えいただければと思います。よろしくお願いします。
【垂見委員】
 ありがとうございます。まさに,日本の学校では生徒を平等に扱うということがすごくトッププライオリティになるためにそういったことが問題になるかと思います。私たちも調査するときはなかなかそういった質問項目は入れれないという現状があります。大学入試でどう取り扱うかなんですが,まず,教育の中において,格差,家庭背景によってこれだけ様々な結果の違いが出てきているという実態を私たちが認識する。それが放置されれば,どんどん固定化して,あるいは拡大していく。その実態をどう最小限にするか。まずはそこの認識,問題意識が必要なのかなと思います。
 実は学力調査のほうでも,保護者の所得などを聞くというのはかなり時間がかかって,反対もあった中,今,導入されて,2回目になっています。なので,まずはなぜそもそもそれを問題視しなければいけないのかという,もっと共通認識が政策レベルでも大学レベルでも必要なのかなと思います。
 今日具体的な例として挙げさせていただいた,実際に家庭背景に関する項目を入試で聞いて,それを基にアファーマティブ・アクションを導入するということでも,生徒が家庭背景について聞かれることをどう受け止めるかということを問題視する人も多くいると思います。ただ,実態としては,高校生の場合は,やはり貧困家庭やひとり親の子どもで大学に行くという場合,学費の相談を親としていたり,あるいは,小中と違って,どうやって生活を,居住をどうするのか,そういった話も親としている。あるいはアルバイトの申請や収入認定のためにそれまでも自分の家庭背景を示さなければいけなかったりするわけなので,就学支援金を受けているかなどを聞くことは問題ないのではないかと思います。私は貧困家庭やひとり親家庭の子どもに学習支援をしているNPOの人などとよく仕事をするのですが,そのあたりは,大学進学を希望する高校生の場合は問題ない,当事者は,むしろ,それでアファーマティブアクションなど何か利益につながるのであれば良いのではないかという意見をききます。
 ただ気をつけなければいけないのは,やはりそれが差別にならない。つまり,これを聞くのは家庭の経済状況などを考慮して経済的に不利な受験生に配慮を行うためであるといった,そういった文言は当然必要になってくるかと思います。ただ,現在の日本の状況として,家庭背景に関することを入試で聞くのがなかなか厳しいということは本当にそうかと思います。
【柴田委員】
 ありがとうございました。
【圓月主査】
 ほかには何かございますでしょうか。
 本会議においても,この学力格差の問題をみんなでできるだけ正確に理解し,共有するということは非常に重要なことだと思っております。また,垂見委員が指摘してくださったことは,この主体性評価は非常にいいものでもあるんですけれども,その仕組み作り自体を間違うと,排除の論理にもなりかねないところもあるということだったと理解しています。ですから,やっぱりその点も注意した上で制度を設計していく必要があるということを確認してくださって,非常に貴重な御意見発表だったと理解しております。
 垂見委員,どうもありがとうございました。
【垂見委員】
 ありがとうございました。
【圓月主査】
 それでは,予定の時間を少し過ぎておりますけれども,本日の4人の委員の方の貴重な御発表を聞いて,ぜひ最後に一言,これを言っておきたいという御意見がありましたら,できるだけ簡潔によろしくお願い申し上げます。
 柴原委員,よろしくお願いします。
【柴原委員】
 柴原でございます。どなたに御意見を求めるというわけじゃなくて,今日の感想を述べさせてもらいますけども,第3回の会議がありまして,4回,5回と審査があり,今日はまた6回目。ですから,3回目と6回目で飛んで会議が行われました。そのとき,先ほど柴田委員から御指摘ございましたように,主体性等という言葉についての理解が,第3回目と今回で随分違っている感じがしているんです。
 そういう中で,私たちの協力者会議としてどんなふうに,最終的に議論をまとめるのか。自分は何も答えは出ないんですけれども,私たちの中でも理解がもう3回と6回で違ってしまうと。そういう違う難しさを痛感したというのが今日の感じでございます。
 以上,感想であります。失礼します。
【圓月主査】
 貴重な御意見ありがとうございました。先ほども申し上げましたけれども,本会議の核心にある問題であり,主体性というものについて私たち自身が明確な共通理解を作っていく必要があると思っております。今後の課題として承らせていただきます。
 ほかには何かございますでしょうか。柴田委員。また手を挙げてくださいましたか。ありがとうございます。
【柴田委員】
 すみません。前々から入試の平等性とか公平性という議論の中で,いつも引っかかっている絵があるんですけども,これは御承知の方,見えますでしょうかね。私のでは見えないんですかね。こういう絵が見えますか。
【圓月主査】
 見えないですね。
【柴田委員】
 見えないでしょう。ちょっと待ってください。すみません。私の技術が無理みたいなので,ちょっと機会をあれしてまた御紹介します。なかなかこれは難しい問題なんですよね。どなたか。
【川嶋委員】
 柴田先生,バーチャル背景を消せば多分映ると思います。金門橋を消してください。
【柴田委員】
 ああ,そうですか,金門橋を消すんですね。
【川嶋委員】
 ズームの左上の設定のところから。
【柴田委員】
 じゃあ,もうテクニシャンが帰っているので,次回にでも御覧いただくことにして。
【川嶋委員】
 その図はよく知っています。アメリカで。
【柴田委員】
 これは難しい絵ですよね。平等なのか否かといいますとですね。
【川嶋委員】
 はい。エクイティとイコールと。
【柴田委員】
 だから,皆さんも御承知なんだと思うんだけど,なかなか悩ましくて,入試の平等性,公平性とどう考えればいいのかということですよね。どうも失礼しました。
【圓月主査】
 どうもありがとうございました。その御意見と,絵とかありましたら,また次の機会に共有させていただきます。事務局まで御連絡いただければと思っております。
 ほかには何かございますでしょうか。
 それでは,予定の時間も少し過ぎておりますので,本日の第6回協力者会議はここで閉会とさせていただきます。
【石崎委員】
 すみません。それ以外の件でお伺いしたいことがあるんですけど,このタイミングでいいですか。
【圓月主査】
 はい,どうぞ。
【石崎委員】
 前回の会議から今日までの間に幾つか報道で,JePの件が報道されていて,取消しの方向で調整されているとか,検討されているとかということが報道されていて,高校現場は困っているんですけれども,その辺りはどのタイミングで,どういうことが説明されるのかということを教えていただければと思って。
【圓月主査】
 分かりました。事務局のほうから何か御存じの点というか,差し障りのない範囲で,その辺りについて,情報をお持ちでしょうか。
【小川大学振興課専門官】
 事務局でございます。前回,前々回の審査を踏まえまして,文部科学省のほうで今後の取扱いについて決定することとしています。その中で,例えばデータの取扱いについて,高校関係者と相談をしないといけないと思っておりますし,あとは,仮にその機構による運営がが停止になった場合に,どういうような業務,取扱いをするかといったことについて,調整が必要で,そういった調整が済んだ後に,正式に発表,決定通知をするということになろうかと思います。
 以上でございます。
【圓月主査】
 どうもありがとうございました。石崎委員,なかなか完全な答えというのは難しいと思うので。
【石崎委員】
 そうですね。ここでどういうふうに言っていいのか分からないんですけども,現状,今,不確かな報道がされていて,現場が混乱しているという状況だけを何とか解消してほしいと思うんですけど。
【圓月主査】
 分かりました。混乱を100%解消できるのかどうかは確言できませんが,現場にできるだけ悪い影響を与えないようにと最善の努力をさせていただきます。またそのことを確認したいと思っております。その程度でよろしいでしょうか。
【石崎委員】
 はい。
【圓月主査】
 ほか,何かよろしいでしょうか。
 それでは,先ほども申した第6回大学入学者選抜における多面的評価の協力者会議はここで閉会とさせていただきたいと思います。
 最後に事務局から連絡をさせていただきます。
【小川大学振興課専門官】
 事務局でございます。次回,第7回目は,また委員の先生方の日程を調整いたしまして,決まり次第,御連絡させていただきます。
 本日,時間の関係で言い足りないことなどございましたら,またメール等で御連絡をいただければと思います。皆様,本日はお忙しいところ,誠にありがとうございました。
 以上でございます。
【圓月主査】
 どうもありがとうございました。少し予定の時間をオーバーしてしまいましたけども,非常に有益な御意見発表を4本いただきまして,非常に勉強になりました。今後ともよろしくお願い申し上げます。
 

―― 了 ――











 

お問合せ先

高等教育局大学振興課
 電話番号:03-5253-4111(内線4902)