国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議(第10回)議事録

1.日時

令和2年11月27日(金曜日)9時00分~11時00分

2.場所

文部科学省3階 3F2特別会議室 ※WEB会議

3.議題

  1. エンゲージメントの実効性を担保するガバナンスの在り方について
  2. 経営体の人事給与マネジメントの在り方について
  3. その他

4.出席者

委員

金丸座長、濵口委員、上山委員、大野委員、五神委員、小林委員、冨山委員、星委員、松尾委員、松本委員、湊委員、柳川委員

文部科学省

伯井高等教育局長、川中審議官(高等教育及び高大接続担当)、堀野国立大学法人支援課長、生田高等教育局視学官、他

5.議事録

【生田高等教育局視学官】 定刻になりましたので,ただいまより第10回国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議を開催させていただきたいと思います。
本日も前回に引き続き,このようなウェブ会議の方式での開催となっております。皆様方には,お忙しい中,本日も御参加いただき,誠にありがとうございます。現時点で,音声等,不具合ございませんでしょうか。
本日の議事は,議事次第にございますとおり,2つのアジェンダを用意しております。ガバナンスと人事給与マネジメント改革ということでございます。
本日は,傍聴者,報道関係者の入室は認めておりませんけれども,この会議の模様につきましては,前回同様,YouTubeにてライブ配信させていただいております。
事務局からいつものお願いでございますけれども,ウェブ上による会議を円滑に行う観点から,御発言に当たりましては,聞き取りやすいようにはっきり御発言いただきたいと思います。また,発言時以外はマイクをミュートにしていただくとともに,御発言に当たりましては,カメラに映りやすいように,このように手を挙げていただきたいと思っております。また,資料を参照する場合は,資料番号,ページ番号,ページ内の該当箇所などを分かりやすくお示しいただければ大変助かるかと思います。
最後になりますが,いつも時間がなかなか足りなくなってしまうところ,毎回の御発言に当たりましては,1回当たり,できるだけ二,三分程度に留めていただけますよう,何とぞ御配慮のほど,よろしくお願いいたします。
それでは,金丸座長,よろしくお願いいたします。
【金丸座長】 ありがとうございます。本日も皆様よろしくお願いいたします。
本日の会議は,篠原委員,曄道委員,宮内委員から欠席の御連絡をいただきましたので,委員15名中12名の御出席で開催いたします。濵口委員は1時間弱遅れての参加予定になってございます。
それでは,早速議事に入ります。
前回の会議では,多様なステークホルダーとのエンゲージメントの具体化に向けて,それぞれのステークホルダーの特性に応じた責任ある互恵的協働関係をどのように構築していくべきか。特に,学生との間におけるエンゲージメントの有り様や,その際の国の関与の役割など,多岐にわたる様々な論点について御議論いただきました。
今回は,前回の議論の続きで,こうした多様なステークホルダーと相互に責任を持つ互恵的関係を構築していくに当たって求められる国立大学法人の内部のガバナンスの在り方について焦点を絞って議論させていただきたいと存じます。
なお,本検討会議は,このような会議形式での開催は残すところ,本日を含め,2回を残すのみの予定となりました。
次回に本検討会議としての報告書(案)の提示をしていくためにも,本検討会議の集大成となる実りある議論が本日できればと思います。よろしくお願いいたします。
それでは,まず事務局から説明をお願いいたします。
【生田高等教育局視学官】 失礼いたします。事務局から,本日の議題に直接関連するというわけではありませんが,一つ,御参考ということで,本日の資料,参考1で,「第4期中期目標期間へ向けた国立大学法人の在り方にかかる検討課題」を配付させていただいております。こちらは令和2年11月に国立大学協会から発表されたものでございまして,ある意味,こちらの検討会議での検討内容とも連動してくるような話として,これは主体になる大学側が自らこのような形で検討して,中間段階の取りまとめをまとめて発表されたというものでございます。
メンバーの中には,本検討会議の大野委員も入られていて,こちらでの中間取りまとめの内容とも似たような内容も書かれておりますし,また,そうでない部分も含まれておりますので,是非委員の方にも御参考にいただければと思いまして,本日配付させていただきました。
それでは,早速,議題1の資料の説明に入らせていただきます。資料1-1に基づきまして,事務局から少し時間を頂戴いたしまして,説明申し上げます。
1-1,戦略的な経営実現に向けたガバナンスの在り方についてでございます。さきに座長からもお話ありましたように,前回,多様なステークホルダーとエンゲージメントをどう構築していくのかといったことを御議論いただきましたが,本日はこの中の1ページ目の赤いところ「本日の議論」と矢印を書かせていただいておりますけれども,法人の内部のガバナンスについて御議論いただきたいと思ってございます。
続いて,2ページ目でございますけれども,こちらは前回の検討会議におきまして,委員の方からいただいた意見を幾つか引用したものでございます。ステークホルダーへの責任を果たすガバナンスとしては,やはりそのステークホルダーが参画するガバナンスが必要。そういった大前提をベースとして,教員によるガバナンスをどのように融合させるのかといった観点ですとか,最終意思決定組織がどこなのかという観点から,様々な会議体の権能を整理する必要があるのではないか,そのような御意見ですとか,最終意思決定の委員を選ぶ際には,やはり中長期的な成長,これに正しく貢献できる人を,透明性のあるプロセスで選ぶことが重要ではないかといった観点。
さらに,最後の2つは,前回御欠席でございましたが,冨山委員,小林委員から紙面でいただいていた意見を少し抜粋させていただいております。指名委員会等設置会社におけるコーポレートガバナンス体制を参考に検討することが生産的ではないかといった御意見ですとか,理事会をステークホルダーボードとして強化すべく,大学経営上の最高意思決定組織として,選考会議もその中の指名委員会的な位置づけにしてはどうか。このような御意見を頂戴しておりました。
続いて3ページ目でございますが,先に資料の一部修正を申し上げます。絵の中の真ん中辺りに,「役員会」と赤字で書いてあるところがあると思いますが,今,掲載しているものはもう既に直っておりますが,事前に送付させていただいた資料ではここは「理事会」になっておりましたが,これは「役員会」の誤りでございます。ここで訂正させていただきます。
国立大学法人のガバナンス体制,これは現行のものでございます。大分前の本検討会議でも,この資料は配付させていただいておりますので,詳細な説明は割愛しますが,ここで申し上げたかったのは,一つは,国立大学法人につきましては,基本的に,先ほど少し話のあった最終的な意思決定組織があるということよりは,学長に,ある意味,全ての権限が集約されている。学長のリーダーシップの下でという形になっておりますので,会議体はあくまでもアドバイザリーボードという位置づけでございます。ですので,議決権は,例えば役員会,経営協議会,教育研究評議会ともに,ない状態という形になってございます。
もちろん学長選考会議は,学長を選考するという意味においては,議決権はございますが,そのメンバー,構成員のところでございますが,経営協議会の外部委員と,教育研究評議会の内部の委員がもちろん同数でということになっておりますが,そもそもこのメンバーというのは,もともと学長が任命なり,学長が指名するものが学長選考会議の構成員となっているのが特徴と言えるかと思います。
続いて,4ページ目,5ページ目,これは2つとも続く資料でございますけれども,こちらは2019年の国立大学法人法改正のときにこのような形が可能となったというものを示した資料でございます。
一言で申し上げると,教学と経営を分けて分担することを可能としたというものが2019年の法改正の内容でございまして,理事長が経営を見て,その理事長が任命する者,大学の長が教学を担当すると。ただし,現行では,このA,B,C,D,Eと5つあるうちのDですね。それがほぼ全てでございまして,国立東海大学機構は,この中のBに該当します。ですので,法人の長と大学の長が分かれているケースというのは現状ではまだないといった状況でございます。
続いて,5ページ目は飛ばしていただいて,6ページ目に行っていただきますと,こちらは公立大学法人のガバナンスの仕組みでございます。こちらについても,一番上に書いてございますように,法人の長である理事長が大学の学長を兼ねることが原則とされてはおりますが,両者を分離することも可能でございます。国立大学法人と同様でございます。
ただ,公立大学法人,このガバナンスの体制,左のところに図式とありますけれども,ある意味,国立大学法人と似たような形になっておりますが,1点,やはりこれは議会の議決を経て定款が定められて,総務大臣,文科大臣が認可してつくられている法人でございますので,その設立団体の長との関係,そして,議会との関係が強いというところが一つ特徴と言えると思います。
続いて,7ページ目に行っていただきますと,こちらは学校法人,私学ですね。そのガバナンスの仕組みでございます。こちらについては,一番上のところにありますように,業務に関する最終的な意思決定機関は,合議制の機関である理事会となっています。理事長は,寄附行為の定めるところにより選任されるということで,学校法人の場合も理事長と学長が一緒のケース,もしくは分かれているケース,様々ございますが,これはあくまで私学ですので,その設立の生い立ち等によって,様々な形態があってしかるべきと考えてございます。
続いて,8ページ目に行っていただきますと,こちらはアメリカにおける州立大学のガバナンスの仕組みということで,第3回の検討会議におきまして,東大の福留教授に御発表いただいたときの資料を再掲させていただいております。このとき,福留教授からの御説明としては,州立大の場合は州政府との関係がやはり強く,州の知事が理事会のボードメンバー,これを任命して,それを議会が承認するという形になっているという意味で,知事と理事会がかなり強い結びつきを持っていると。あと,当然ながら理事会というのは,右上にありますような州民や社会からの信託を受けた存在として,かなり上位に位置されていて,そこがトップとなりながら,左側の執行部の経営と,右側の全学の教員組織のセネットが共同で統治するシェアード・ガバナンス,コー・ガバナンスという話もありましたけれども,このような形態が州立大のガバナンスの仕組みということで御説明があったかと思います。
続いて,9ページ目でございます。9ページ目は,これはアカデミアというわけではないですが,NHKのガバナンスの仕組みでございます。NHKは,放送法に基づいて設立された特殊法人でございまして,総務省の所管ではございますが,これがいい,悪いというよりは,一つの参考モデルとして,本日,ここに掲載させていただいております。
NHKのガバナンスの仕組みとしての特徴は,ある意味,経営委員会が経営を,監督機能を持っていて,そこの指示に基づいて,執行部による理事会で具体の執行を行うという形が特徴かと思いますし,その経営委員会のメンバーにつきましては,国会同意人事を経て,内閣総理大臣が任命するという形態になってございます。また,この経営委員会の委員の中には,いわゆるNHKの内部の会長ですとか副会長等々は含まれない。ある意味,外部のメンバーだけで構成されていて,その経営委員会の委員の中から,監査委員会の委員が任命されるという形態になってございます。そういった意味で,経営委員会に対する国の関与はかなり強く,かつ,その経営委員会という監督機能と執行部が明確に分離されているというのが一つの特徴と言えるかと思っております。
続いて,10ページ目でございます。こちらはコーポレートガバナンスの仕組みでございます。こちらは毎度,産業界の小林委員ですとか,篠原委員からも御説明がございましたので,改めてという話になりますが,会社法に基づいて,もともと日本の会社の場合は一番右側ですね。監査役会設置会社というものが主流でございましたけれども,海外の投資家から見たときに,監査役の権限が弱いのではないか。監査役のメンバーが取締役ではないということもありますし,その辺が少し弱いのではないかという観点。それと,その執行と監督の分離が,ある意味,不明瞭であるといったような指摘があったことを踏まえて,会社法の中で一番左側の指名委員会等設置会社というものが新たに生まれてきたという歴史をたどっております。
ただし,指名委員会等設置会社というものに移行するにはかなりハードルがあったということもあって,2015年の改正で,真ん中の監査等委員会設置会社というものが新たに形態として生まれてきたと。この場合,社外取締役について非常勤もオーケーしたような,ある意味,折衷案みたいな形にはなってございますが,業務執行の一部を実際に下の部分ですね,執行部隊に委託できるということで,監督と執行の分離というものが確保されているというものではないかと思っております。
様々な組織のガバナンスを幾つか取り上げて説明申し上げましたが,ラストの2ページ,11ページ目と12ページ目が本日の御議論に対しての論点をひとつ整理させていただいております。
それで,論点,11ページ目のところ,まず最初については,そもそもこちらはガバナンスの在り方を変えることを前提という意味ではなくて,なぜこのような議論をしているのかというのを押さえております。それは国から付託される役割に加えて,これまでの議論でもありましたように,多様なステークホルダーとのエンゲージメントを通じて機能を大幅に拡張する。そして,社会変革の原動力となることが期待される。そういった意味合いにおいて,国立大学法人にふさわしいガバナンスというのはどういうものだろう。そのように論点をまず置かせていただいております。
そして,3つに分けている1つ目は,先ほど少し御説明させていただいたように,現行法でも,いわゆる経営に責任を持つ理事長と,教学に責任を持つ学長とを明確に分けて責任分担させることは可能でございます。これについてどう考えるかというのをあえて論点として出させていただいております。
括弧で小さく法律等の施行についての通知を書かせていただいております。先ほどの法改正のときに,文部科学省からそれぞれの国立大学法人に対して,このような通知を出しております。学長選考会議においては,理事長及び大学総括理事を置くこととするかどうかなど,法人が最も経営力を発揮できる体制の在り方について,十分に検討する必要があるという通知です。
なお,本日,御欠席の篠原委員から資料1-4ということで配付させていただいておりますが,御意見として,法人の長と大学の長を兼務すること自体を排除するべきではないと。ただ,両者の責任,もしくは権限分離がガバナンスの実効性向上に資するかどうかについては,ちゃんと大学で慎重に検討すべき,そのような御意見を頂戴しているところでございます。
続いて,2点目の論点につきましては,先ほど,これも少し言及させていただいたとおり,国立大学法人は,組織が最終意思決定権限を持っているというよりは,学長にそれが集約されていると申し上げました。この2つ目の論点は,あえてその点について論じておりますけれども,経営面の最高意思決定権限,これを組織に持たせる。そういった組織を設置する,いわゆる会社で言うとボードみたいなものですね。そういったものを設置するということをどう考えるか。その場合,組織の委員を任命する際に,国の関与の在り方というものについて,どう考えるか。
さらには,そのボードメンバーの学内外の在り方として,全部が外部,もしくは過半数以上とか,様々いろんな考え方があると思いますが,その委員の構成についてどうあるべきかというのを2つ目の論点として上げさせていただいております。
最後の3つ目につきましては,これは今までもこの検討会議で出ていた話ですけれども,そもそも現状において最高意思決定権限を持つ理事長,ないし学長を選考する仕組みがどうあるべきかといったところでございます。これもこれまでの委員の御意見でよくありましたのは,そもそも選考する会議の選考委員の選び方でございます。これも先ほど少し紹介させていただいた資料1-4。御欠席でございますけれども,篠原委員からも,大学経営に必要なスキルマトリックスを考慮して,選考委員は選考するべきではないかといった御意見。
さらに,篠原委員からは,選考委員の選び方というよりは,その選んだ方に対して事前に研修などを通じて,大学経営のミニマムな知識というものを習得していただく必要がやはりあるのではないか。そのような御意見もいただいております。資料に戻りまして,理事長に求める資質能力とは何か。
さらには,これもよく出てくる話でございますけれども,現行,学長選考会議といったものと経営に関する重要事項を審議する,アドバイザリーボードである経営協議会,この2つが存在しており,両者の外部の委員が,ある意味,一致しているというところもありまして,この2つの役割分担をどう考えていくべきか。このようなことも論点として上げさせていただいております。
最後のページ,12ページ目に行かせていただきます。こちらの論点は,今までの論点と違って,少し上位の概念の論点にさせていただいております。
1つ目は,そもそも国立大学法人が,知識集約型のニーズに時宜を捉えて応えていく。そのためには,組織の新陳代謝をタイムリーに進めていく,そういった必要があるのではないかと。「特に」と書かせていただいているのは,学部ももちろんそうですが,やはり国立大学は大学院といったところにもかなり期待がされているということもございますが,いずれにしましても,その戦略的なリソース再配分,これを促すためには,例えばガバナンスでどういった工夫があるだろうかといったことを論点として挙げさせていただいております。
真ん中の四角でございますけれども,ここについては,先ほどコーポレートガバナンスの例,3つ御紹介申し上げましたけれども,このように選択肢が定められていると言ったことも参考にした上で,そもそも全ての国立大学法人が一律に同じガバナンスである必然性や,もしくは,ふさわしいガバナンスの在り方を選択できるようにする,そういったことについて,どう考えるべきかといった論点を出させていただいております。
なお,篠原委員からは,これについては,やはり選択制であるべきで,さらに,硬直的ではなくて,実効性を高めるための柔軟性も必要ではないかといった御意見を頂戴しております。
最後の論点,こちらについては少し異なる軸でございますけれども,時間軸の話でございまして,社会変革の原動力として期待される法人が公共的な役割を果たすとともに,経営体として機能拡張の実効性を高めるために必要とされるガバナンスの将来像。今までいろんな論点ございますが,これについてはかなり法律的な観点も出てくると思いますので,法律の専門家等の協力も得て,また,独立行政法人通則法との関係も踏まえつつ,今後検討していくことが必要ではないかといった形で,あえて時間軸の論点も書かせていただいたところでございます。
事務局からの説明は以上でございます。
【金丸座長】 ありがとうございました。
それでは,続きまして,まずは,前回御欠席だった小林委員から,今回,御意見を資料として提出いただいておりますので,御発言,お願いできますでしょうか。
【小林委員】 必ずしも本日の論点に直截的にお答えするものではないんですが,今まで申し上げてきたことを含め,資料1-3にまとめました。基本的に,大学のガバナンスは当然,資本主義の中の会社のガバナンスとは違うわけですけれども,一部共通点や非常に参考になる部分もあると思いますので,意見を述べさせていただきます。
もともと日本におけるコーポレートガバナンスと,欧米のそれとは大幅に違っていたわけですが,日本の場合は,「三方よし」とか,マルチステークホルダータイプで,比較的資本効率というか,もうけの部分を一部ないがしろにしているきらいがあった。一方,欧米はもうひたすらシェアホールダーズキャピタリズムと言いますか,株主を中心にしてこの50年間やってきたわけです。
しかし,去年の中頃,米国の大手企業を中心に構成されるビジネスラウンドテーブルが,もうシェアホルダー至上主義では世界が分断され,格差が拡大するばかりだろう。よって,やはりステークホルダーズ全体を見ながら経営する,そういうステークホルダーズキャピタリズムの方向に移るべきだろうという姿勢を表明しました。いわば,日本が左から右に移るように,逆に欧米は右から左に移って,どこか最適点にたどり着こうとしている状況かと思います。
そのような中,いずれにしましても,第4次産業革命,AI,DX,2050年カーボンニュートラル,そういった課題に対して,国立大学というのは当然不可欠な存在です。最先端の研究,文理融合による総合知の探究,イノベーションを通じた社会へのソリューションの提供,あるいは地域に求められる人材の育成,雇用創出等々,非常に様々な役割を担っているので,国立大学のステークホルダーはエンゲージメントレベルを含めて,企業に比べてはるかに多元的であることは間違いないわけです。しかし,コーポレートガバナンス・コードを中心にした我が国のコーポレートガバナンス改革を参考にして,国立大学の教育・研究におけるある意味生産性向上のアップのてこにするというアプローチもやはり有効だと思います。
この検討会議の中間まとめにもありますように,国から委託された業務を確実に遂行すること以外に,国立大学法人の機能の拡張が当然求められているわけですが,学生,卒業生,研究者,学会,産業界,地方自治体,国,こういう様々なステークホルダーと積極的に関わり合って,社会変革の機動力として成長し続ける,そういう戦略的な大学,文字どおり真の経営体という方向に転換することが急務です。そういう意味で,とりわけ,ステークホルダーズへの説明責任,結果責任の果たし方,これがガバナンスシステムの要諦になるかと思います。
先行している日本のコーポレートガバナンス改革は,今ようやく単なる形式を超えて真の実質を議論できる段階になってきたと認識しているわけですが,最初は,残念ながら民主導で始動したわけではなくて,あくまで国主導によって形式の整備が進んでいきました。ハードローである会社法の改正をベースにして,それからコーポレートガバナンス・コードを作って,それから各種の実務的なガイドラインを充実させていったわけです。正に国が階層的にルールを配置して,国が企業へ形式の整備を要請していったというのがここ五,六年の流れでございまして,その結果,先ほどのお話にありましたように,役員のスキルマトリックスを示せとか,取締役の3分の1は少なくとも社外にしようじゃないかとか,そういう方向になってきたわけです。
企業経営における裁量とは本質的に一体何なのかと考えますと,ただ自由にやるというのではなくて,やっぱりマーケットの評価や株主からの監視に常にさらされながら,当然法律上の枠の中で,最適の選択肢を選び続けて,自分の会社の企業価値を持続的に向上させるという作業かと思います。先ほど生田さんから示された日本の株式会社の3つのカテゴリーの中で,ある意味では最もガバナンスがきれいに整理されている指名委員会等設置会社は,実はまだ3%程度の会社しか採用していないんですが,国立大学ガバナンス改革に当たっては,正に先進的なコーポレートガバナンス体制であります指名委員会等設置会社をやはり参考にして,こういった形の制度を国主導で,国大協を含めて整備していくことが重要かと考えます。
ポイントは,やはり世界トップレベルの研究大学と,地方創生をメインにする地方ハブの大学とでは,当然,経営システムも,国との関係性も異なるので,ガバナンス体制を同一化するのは全く不効率であろうということです。それぞれの個性や,最低限,国立大学の3類型,あるいは指定国立大学法人制度を踏まえて,各大学の使命,位置づけにふさわしい個々の状況に合ったガバナンス体制が持てる,そういう機関設計のフレキシビリティーを備えた制度,さらには,今後のデジタル時代あるいはリモート教育も踏まえた,そういう制度設計が要るのではないかと思います。
あと,かなり具体的な話ですが,大学のガバナンス改革の実効性の確保のためには,企業と同一ではないけれども,やはりある程度企業同等の会計制度の整備とか,財務のみならず,非財務の情報,インタンジブルな情報も盛り込んだ統合報告書,今,民間企業500社以上が発行するようになっていますが,こういうものを大学に義務づけることも不可欠かと思います。
トップの研究大学では戦略的な経営システムが特に重要かと思いますけれども,外部資金の大幅な拡大を含めた財政基盤の確保,あるいは特に優秀な研究者が不可欠であるわけなので,人材の流動化,一貫性のある経営戦略の下でこういった施策を実現できる学長の選考方法,あるいは執行のチェックの仕方。経営陣のスキルマトリックス,学外と学内の関係性や比率,あるいは国家公務員ではない形の給与体系,定員とか授業料の自由化,会計基準の新しい形,国による管理と法人評価の仕組み等々,非常に幅広いポイントで法的枠組みそのものを検討していく必要があるのではないかと思います。
また,世界に伍する規模の大学等ファンドの創設に向けて,政府において,今,検討が進められていると聞いておりますけれども,長期スパンでまとまった財政支援をする仕組みや研究基盤の強化としてのみならず,大学の大幅な機能拡張という観点からでも大いに期待できると思います。こういったファンド資金は,先ほど来述べましたような新たな法的枠組みの下で,戦略的な経営を行える大学に対して重点的に支援し,組織や予算等の大胆な見直しを実行可能なガバナンスの下で,有効にお金を使うべきではないかと思います。
こういう方向につきまして,国立大学法人の機能の拡張,あるいは日本の研究力の全体的な底上げといった大きな視点を持って,CSTIとも連携して,制度設計あるいは支援策を検討することが重要ではないかと考えます。
以上でございます。どうもありがとうございました。
【金丸座長】 ありがとうございました。
次に,コーポレートガバナンスに関しまして,牽引役として,ずっと第一人者として活躍されてこられた冨山さんから御意見を頂戴したいと思います。
【冨山委員】 ありがとうございます。紙も用意しているんですけど,この後で読んでいただくとして,今,小林さんが言われたことのほぼ,具体的受けみたいな感じで話をしたいと思います。それで,いろんな背景については,私も全く,今の小林さんの御意見と同じなので,では,そのガバナンス構造の設計理念みたいなところについても,要するに,基本設計のプリンシプルですね。それについて私の意見を申し述べます。
基本的には5点あります。1つ目は,要は,学長の強い経営リーダーシップを名実ともに確立しなきゃいけないという問題があります。現状,御案内のように,ある種の権限は法律上はあるんですけど,生々しい議論で言っちゃうと,学長の選考会,実質的に教員ガバナンスで行われるということになると,当然その教員を入れ替えちゃう的な,要は,学部であるとか学科,物すごい勢いでこれを入れ替えるとか,あるいは経営資源をかなり傾斜的に配分を変えるみたいなことはやっぱりできないわけですよね。要するに,選んでいる人たちが傷つくわけですから。
これは日本の過去,サラリーマン会社でもよくあった構図でありまして,やっぱりこれを排するためには,要は,誰がどう選んでいるかということを考えなきゃいけないということで,この2つ目,要するに,学長の上に重要な意思決定及び学長選解任を行う強力なモニタリングボード,経営上の最高機関としての理事会をこれは明確に設置すべきです。現状の国立大学の理事会というのは,会社で言っちゃうと執行会議なんですよね。要するに,業務執行理事しかいないという構図になっているから,昔の日本の会社の社長と部下の取締役しかいませんという,あの時代の仕組みでありまして,はっきり言って,これはやっぱりおかしいです。
だとすれば,これはむしろ私立大学に近いモデルですけど,あるいは,日本以外は普通,カリフォルニアもそうなっているわけで,要は,州立大学もそうなっているわけですから,やっぱり理事会というのがむしろ経営上の最高機関,かつモニタリングボードになるべきだと思います。これが2つ目。
ですから,仮に,ファカルティガバナンス的な意向を反映するとすれば,モニタリングボードたる理事会が学長の上にあることを大前提として,その中に何らかの形でファカルティの意見も,要するに,聴取するような仕組みがあればいいのであって,それだと思います。
それから,理事会の構成というのは,今日ずっと議論しているステークホルダーガバナンスという理念に立脚することになります。だとすれば,これは裏返して言っちゃうと,私は,本来あるべき姿としては,内部,要するに,教員ですね。内部教員はやっぱりマイノリティーだと思います。やはり過半数は社会の様々な人たちを,かつ,経営的にちゃんとした経営経験を持っている人を置くべきだと思います。
ちなみに,私は選考会議という仕組みはやっぱり無理があると思っていて,これは自分自身,オムロンという会社とパナソニックという会社で,要は,再生的状況じゃなくて,平時の状況において,トップの指名を実質的には指名委員会方式でやるということにする改革を自分で経験しましたが,これをやろうと思うと,ふだんから経営に関わっていないと無理です。要するに,月に1回ぐらいの取締役会に出ていて,2年,3年やっているから,パナソニックだったら楠見さんがいいとか,オムロンだったら山田さんがいいと,こっちも分かるし,我々が,仮に外部の人が判断しても説得力あるんですよね。ふだん全然経営に関わっていない人,ふだん見たことも,その人たちを見たことも聞いたこともない人が急に選考委員会をやりますと言って,それで,そこでAさんだ,Bさんだといっても,これはやっぱり極めて,いくらスキルセットがあったって,それは無理ですよ。そんな神様じゃないので。だから,そこはやっぱり理事会のありようとして,そういったメンバーが理事会に入って,日常的なモニタリングや重要な意思決定に関わるということが大事。それが3つ目です。
4つ目,国との関係においては,これは,私は本来あるべき姿はカリフォルニア大学と同じなんですけど,長期的な契約的概念で運営費交付金と公的ミッション,これをある種,対価性,相関的な形にして,それについて結果管理型でコミットするという関係性をこの裏側で確立すべきだと思います。そのコミットメントは,要は,理事会及び理事会の選んだ学長がするということ。
5つ目,その裏返しとしては,国はもうプロセス管理から手を引くと。今すごく細かい管理をずっとやっていますよね。いろんなもの,いっぱいつくって。あれははっきり言って,私もちょっと関わりましたが,あれは無駄ですよ。申し訳ないけれども,ほとんど,大体AとかEとか,たまにBがつくぐらいで,あのために大学が使っているエネルギーと,あと,我々みたいな人が動員されている。あれははっきり言って,全く生産性ゼロなので,みんな人生の無駄遣いです。だから,あれはやめましょう。
その代わり,5年間だったら5年間ぐらいの長期サイクルで,結果管理を厳しく問うスタイルに転換すべきだと思います。これが私が考えている5つのプリンシプルです。
ちなみに,この5つのプリンシプルなんですが,これをガチで貫徹すると,さっき申し上げたように,例えば過半数,あれですね。ちゃんとした学外理事に入ってもらって,まず月1でちゃんと経営に関わってもらって,選考会議もガチでやるということになると,じゃ,それだけのメンバーをそんなに八十幾つもあって,そろえられるのかという問題がすぐ生じます。これは実はコーポレートガバナンス改革で既に顕在化している問題でありまして,さっき小林さんからありましたけど,なかなか指名委員会等設置会社へ移れない最大の理由はそれなんですよ。
そんなちゃんとした取締役,社外取締役,5人も6人もそろえるのは,それは無理です。二千何百社あって。この問題はやっぱりリアルにあって,だとすると,さっき小林さんが言われたように,やっぱり選択肢は複数用意した方がよくて,直ちに,今申し上げたような形にシフトできる指名委員会等設置会社的なものを選択するという選択肢と,もうちょっとモデレートに,今の形のちょっと改善的延長線上みたいなもので,幅は用意した方がいいと私も思っています。
ただ,今後,さっきの例のエンダウメントファンドの議論とか,あるいは運営費交付金について何らかの傾斜をつけた,いろいろな議論がありますけど,これはやっぱ基本的なインセンティブとしてはやっぱり,よりプリンシプルを貫徹して,より大きな経営自由度,大きな裁量的な経営資源,かつ,その裏側で独立的で厳しい自律的ガバナンス体制を,国との結果管理型のコミットメントを行う大学が優遇されるべきで,この辺,私はそういう部分で,リンケージがあった方がいいと思っていますが,ただ,一方で,そこまで行けない大学もあるので,複数の幅があったらいいんじゃないかと思います。
あと,次に,大きな項目として。ただ,以上の議論,これは結構シリアスな制度設計が必要になります。これはガバナンス改革のときも,小林さんはよく横で見ておられたので,よく御存じでしょうけど,会社法改正のときもすごい大変だったし,ガバナンスコードをつくるのも物すごい大変だったので,これは相当いろんなルールづくり,それもハードローアプローチとソフトロー,これはやっぱり組合せになると思うので,そういったことも含めて,相当大変な作業,法律改正も必要ですよね。なので,それも含めた具体的なガバナンスモデルの制度設計に直ちに私は着手するということを期待しております。
以上です。
【金丸座長】 ありがとうございました。
それでは,続いて自由討論を行いたいと思います。発言を希望される方は,カメラに映りやすいように手を挙げていただくようお願いいたします。発言終了後は,マイクをミュートにしてください。それでは,五神委員,お願いいたします。
【五神委員】 ありがとうございます。大学を真の経営体にするということをかなり本格的に実践した総長期間だったなと自負しているところでありますが,今の冨山さんの4番と5番との関係で,ここでの議論で欠けているのは,いま議論しているのは国立大学のガバナンスなので,その上位にある国を一つの経営体として捉えたときに,国全体を成長させるために,国立大学に何を委ね,国立大学をどう活用するのか。国の関与と責任の在り方をまず明確にすることが必要ということです。
上位の議論がない中で,その下のやり方の話をしているわけで,その根本のところがないというのは,大学を経営体にしようと思っている当事者としては一番困るところです。国家財政は制約が厳しく,国立大学が必要とする全てを国費で賄うことはできません。しかし,一方で,国は国の責任としてしっかり資源投入を維持し,大学は,それぞれの個性を生かす中で,経営体として成長して,自助努力することを促すような仕組みが必要だと考えます。
その中で,国といえども,カバーできるレンジは限界があって,学問はそれを超えている部分があるわけです。例えば学問の普遍性をベースにする国際連携とか,長期の時間軸とかいったものがその例です。そういうものは自助努力の中でもきちんと守っていくということが必要です。今正にコロナ禍への対応,グリーンリカバリー,あるいは日本列島全体をスマートアイランド化するということが喫緊の課題であって,これらはどれも難しいわけですが国として必須の課題です。これらの課題を解決するためには,国立大学群という全ての都道府県にあるものが非常に役に立つはずで,国はそれを意識すべきだということを,この会議でもずっと言い続けてきました。国家を経営体としてどうするかという指導的なビジョンの下に行政が動くという構図がない中で,私の提案が,空振りとまでは言いませんが,なかなかうまく伝わらなかったことについては残念に思っています。
この部分は今までの旧国立大学に対するものとは違う国から国立大学法人への新たな期待がありますので,そこを明確化して,そのための機能拡張をどう促し,国立大学を最大活用するのかという視点が極めて重要です。その中で,当然,大学側は,国からの運営費交付金を受動的に使うだけではすまないので,ステークホルダーの多様化は必然的に進みます。東京大学は債券の発行,そのためのIR活動を実践する中で,そこを実感したわけです。そこで,それに耐え得るガバナンスが必要であることも理解しまたので,それをどうつくっていくかということに関しては既に御指摘いただいたような方法の中から選択していくということだと思います。
大事なことは,このようなガバナンスのモデルは,海外にもないということです。つまり,「社会変革を駆動する大学」と私が言うと,海外の,たとえばスタンフォードのマネジメントをやった人たちでさえ,びっくりするわけです。あるいはそういうことを考える学長は初めてだと感動してくれて,1000万ドルの基金を出資してくれた海外の学術支援財団もあります。モデルがないけれども,日本において,国が貧乏になってしまった中で,公共を担う新たな経営体モデルをまず国立大学からつくっていくという視点が必要なのです。その視点は是非共有して,ここで意味のある結論を出していただきたいと思っています。
1点だけ,やや補足的ではありますが,この会議で一切議論されなかったことで,一つ気になっていることがあります。国立大学に設置されている共同利用・共同研究拠点というものがあります。これは法人化の前後で見ると,明らかに弱体化しています。強い大学をハブとしながら,オールジャパンで強みを発揮していく日本全体のシステムとして極めて重要なのですが,恐らくこの会議の中で,規模感を捉えた上で,この重要性を理解しているのは3学長しかいないと思います。
例えば,東京大学の令和2年度予算で学内の部局に配分している基盤的な物件費の配分額は,総額約300億円ですが,そのうち附置研究所に配分されている資金は120億円です。だから,運営費交付金をどうするかという議論の中で,これは無視できない大きな問題なのです。これに加えて,例えばスーパーカミオカンデのような大型プロジェクト経費が共通政策課題分として,令和2年度では35億円あります。プロジェクトと言っても,実は研究所の基盤的な活動を支える部分になっているものが大半というのが実情で,この部分の経費が平成30年度にいきなり26%減になったとき,東京大学は全学の資金でそれを緊急対応として補充しました。東大の規模であればそういう措置も可能ですが,ほかの大学は多分あのとき相当苦労されたのではないかと思います。
そういうことがあって,オールジャパンの経営を考えたときに,国立大学をどう機能させるかという視点がまだまだ部分的なものにとどまってると言わざるを得ません。それが部分的になってしまっている原因は,国家として経営体として回していくときにどこで勝っていくかという設計がまずないといけないのに,その設計がないということなのです。
この附置研の問題がなぜここで登場しにくいかというと,国立大学法人は高等教育局が所管しているわけですが,附置研の部分は研究振興局の所管になります。そのために,球の押しつけあいのような状況がしばしば起こるのですが,この問題は国立大学の大事な機能の一部として議論しなければいけません。国立情報学研究所が運営しているSINETなどを活用する上でも,この部分をクリアしないと全然話にならないということなので,今まで議論がなかったので補足させていただきました。
以上です。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは,大野委員,お願いします。その後,湊委員に行って,松本委員に行きます。
【大野委員】 大野です。どうもありがとうございます。何となくまないたの上のコイがしゃべるような雰囲気になってきておりますが,資料を用意いたしましたので,御覧いただければと思います。まず3ページをお願いします。
皆様のお手元にある資料の3ページですけれども,今後の国立大学法人において,外部ステークホルダーの視点を経営に入れるということは非常に重要だと考えています。(機能拡張した)経営体としてのガバナンスの形態,特に理事長と学長を分離するなど,最も経営力が発揮できるガバナンス体制の構築というのは,今,冨山委員からも御発言がありましたように,検討し実行していく必要があります。
ただ,現在は喫緊の課題を様々な形で,理事長と学長が一体となった体制の中で進めていますので,そのトランジションの間は,今の体制で推進するというのが合理的かと思います。また,その間であっても外部ステークホルダーの経営参加という観点からは,例えば外部理事を加えたいときに,現在の理事数に関する規制緩和が必要ですし,あるいは監事の監査権というものをより実質的にするのであれば,議決権付与なども考えられると思います。また,ガバナンス体制を考える上で,将来の大学経営を担う人材育成も重要だと考えています。
5ページを御覧ください。総長選考会議の在り方の難しさについては,そのとおりだと思います。(学長・総長に)適格な人を選んでいただくためには,常に経営に関与していただかなければいけません。今の体制がいいかどうかということは別ですが,我々の場合は,学外者の選考も可能にして,総長選考会議に大きな自由度を持っていただいています。これはある種,指名委員会の役割を果たしているのではないかと思います。
次,7ページをお願いします。これは現在の本学のガバナンス体制です。先ほどお話がありましたように,役員というのは執行委員なので,監督と執行の分離はできていません。このままの組織や形態でいいかは別に(議論が必要ですが,この体制にさらに)外部の目を入れていくのであれば,現在,国立大学法人法の別表で定められている総長を含め9人の役員というところを増やしていただいて,学外執行役員を増やすのだと思います。
また,監事は役員会に出席していますけれども,議決権がありません。直接そのチェックを強化するという意味では,監事を議決権のある役員に入れることにより,役員会の議を経て学長が決めるという現在の体制のもとでも,外部のチェックがさらに行き届くようにすることができます。ステークホルダーである国の関与をどう整えるかも重要です。監事は現在,文部科学大臣の任命ですので,外部役員の形で役員会に入れることによりクリアできるのではないかと思います。
いずれにせよ,ガバナンス改革では何を解決し,どういう意図を持って,あるいは,何を目指すのかを関係者が共有することが極めて重要だと思います。そういう意味で,これからの皆様のガバナンス改革の議論に期待したいと思います。
以上です。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは,湊委員,お願いいたします。
【湊委員】 ありがとうございます。今日のお二人の委員のお話,随分参考にさせていただきましたが,幾つか質問ということも兼ねてお話しさせていただきます。
最初の小林委員のところのお話も随分参考になったんですけど,まず,上場企業における筆頭株主が,執行していく方からは主たるステークホルダーであって云々というのは,それは非常に自己完結的で分かりやすい話で,それはそれでいいんでしょうけれども,じゃ,国立大学のステークホルダーとは誰かという議論が多分,私が出る前の会議で議論になったと思うんですけども,これはブレークダウンしていくと,もうほとんどの国民が関与してくる。これは何を言っているかというと,一言で言えば,結局,国立大学のステークホルダーというのは,公共性という言葉で言い尽くされるということだろうと思うんですね。
それはブレークダウンすれば,いろんなステークホルダーに行くんだろうと思うんですけれども,そうなると,企業においては株主へ報いるというお話がありましたけど,そういう自己完結的なガバナンスのスタイルと,公共性という,ある種,もうほとんどの国民やタックスペイヤーが全て関係するような公共の利益に資するというような我々国立大学のミッションを考えたときに,例えば教育と基礎研究ということ一つを考えても,これはもう時間軸が随分一般的な配当云々とは違うルールで動くわけで,かなり異なる側面を含んでいるのではないかということがあるんですね。
そういうことをベースに,今の企業ガバナンスの先進的なプロトタイプをある種横滑りさせるということの利点と問題点というのは,やっぱり整理されるべきではないかという気がするんです。それから,そのコンテクストと言ったらいいんでしょうか,おっしゃったような経営,教務系の上に立つ経営の,専任の組織のようなものを国立大学につくるとして,じゃ,そういう公共性,公共の利益に資するようなミッションを前提としたガバナンスのための経営体を担いうる人材が,今の日本にいるんでしょうか。我々は誰を探したらいいのか,全く僕はイメージがわかない。そういうところがまずリアリティの問題として議論されるべきではないかという気がするんです。これはもし御意見があれば,後で伺いたい。
細かいことはいろいろあるんですが,もう一つ,小林委員がおっしゃった,大学ごとに機能的な個別化があって,各々に対するガバナンスの形態とかミッションも当然違ってくるという話で,私は本当にそのとおりだと思うんです。ただ日本の現実を見ると,お話に出た,いわゆる3分類,機能的3分類ですね,あるいは最近の指定国立大学法人,こういうものが大学の機能分類であるかのように言われているんだけど,私には,今のところそういうふうには見えない。というのは,恐らく何十年,ずっと日本の国立大学は,画一的な,全く同じような国家支援体制でやってこられたわけですね。そうすると,大学の規模の大きさによって当然それに相応して業績とか実績の差というのが出てくるわけです。あたかも,その結果として出てきた,ある種規模感というものをただ追認するような形でしか,今は語られていない。少なくとも,今日に至るまで,こういうミッションに対してこういう施策を打つ,あるいは3分類の各々はこういうミッションであるのでこういう施策を打つというようなことは,国策としてはやってこられたというふうに私には思えない。そうすれば,まずそういう議論が並行して進まないと,つまり機能別にどういうガバナンスの形態が望ましいかという議論もないと,これは宙に浮いてしまうんじゃないかという懸念を私は持っています。
それから,これは最後になりますけれども,世界のトップ大学に伍していくということでは,どういうところをベンチマークにするかということ。アメリカのアイビーリーグの私大,これは我々から見たらやっぱり巨大企業ですよ,それから例えばミシガンやUCグループのように州政府と密接に動きながらやっているところ,またヨーロッパの主要大学,これらはかなり経営体制も違うし,ガバナンスとか運営形態も違うんじゃないかというふうに私は考えています。
その辺のところで,日本の大学のトップ大学というものを,どういう大学をイメージしたトップ大学に導くのか。よく,例えば文科省の資料として,京大,東大,東北大に並んで横にハーバード大学を出されて,突然そういう経営的なあるいは指標的なものを比較されても,なかなか現実味がないと思います。
それから,機能拡大ということでは,そうですね,外部資金の拡大とか産学連携という話がありますけれども,一方で,現実として,日本の公的研究資金のことがありますね。その質と量を考えたときに,それはアメリカや欧州に比べてどうであるか。例えば,DFG,NIH,NSFの予算額のここ5~6年の変化を見ても,日本だけはやっぱり特殊で,ほとんど増えていないんです。そういう環境の中で大学はやってきているということです。それから,産学連携についても,これは企業の方もよく御存じであると思うけど,かなり大きい障壁が日本ではあります。大学の側にも理由はあるし,私が見ても一部は企業の開発戦略にもある種の理由はあると思います。日本では,どちらかといえば,いわゆる企業の研究開発が国内の中で空洞化してきているという,私の感じではそういう印象が非常に強いんです。
そういうことを考えると,国立大学を取り巻く環境といいますか,それは研究資金であったり,公的資金であったり,体制であったり,企業との連携の在り方だったりですが,そういうものとのバランスの中で,各々の進展段階でどういうガバナンスがいいかという議論でないと,そういうものは今までのままでやられるとすれば難しい。科研費,特に文科省の公的科研費が2,300億円くらいで止まっているのに対し,DFGもNIHももう1.5倍から3倍になっている。日本の科学研究費は相対的に落ちてきているのではないか。そういう環境の中でガバナンスの問題だけが独り歩きすると,かえって無理が来るのではないか。できればそういう大学が置かれている環境に対する国の施策というものとの関係の中で,ガバナンスというものをある程度議論させていただかないと,バランスの上でひずみが来るのではないかという,何となしの懸念があるというのは現場の感覚です。
これはコメントと御質問だけですけれども,もしいい御考えがあれば聞かせていただきたいと思います。
【金丸座長】 では,小林委員から御回答を。御回答というか,返信をお願いします。
【小林委員】 回答というより,正に湊先生の言われるお気持ちはよく分かるんですが,そうは言っても,やっぱりそこはクリアに整理しながら進んでいくということだと思うんです。コーポレートとアカデミアではガバナンスが非常に違うというのは当然ごもっともなんですが,企業といえども単に財務一辺倒というか,単にもうければいいという時代はもう終わりまして,ESGとかSDGsとか,そういったファクターがもう2,3割ぐらいのウェイトになっている感覚なんですね。
一方で,大学でも環境問題とかデジタル化とかの分野で,コモンズというか,公共財としての役割をかなり果たそうとすると,相当オープンイノベーティブに,企業などと一緒にやらなければいけない時代に入ってきたと思うんです。僕の考えだと,企業における財務というか,もうけの軸は7割ぐらいで,テクノロジーの開発,イノベーションを社会に創出する軸が1割,公共性というか,SDGs,ESG的なものをしっかり見据えて社会性のある企業行動をとるという軸が2割ぐらいだと思うんですね。これに対して,大学には,教学,研究という軸が4割ぐらいあって,これは概ねテクノロジーの軸に近いのではないでしょうか。財務の軸は1か2割。むしろ公共性というか,先ほど申し上げましたESGとかSDGsとか,Society5.0的なものが4か5割を占めると思うんです。とはいえ,それはあくまで比率の違いに過ぎないわけであって,比率の違いが直截的に両者のガバナンスを相当異質なものにしなければならないという結論に至るべきかどうかというのは,僕はもうちょっと議論が必要ではないかなと感じています。
機関設計についても,先ほど冨山さんも言われたように,日本には経営人材が非常に乏しいですから,そんなきれいに理想的な構造は実現できない。民間の株式会社でも,先進的な指名委員会等設置会社はたった3%で,相変わらず従来型の監査役会設置会社が六,七割を占めているというのが現実なので,そういう意味で,主導的な指定国立大学法人からまず始めていくという順番になることはやむを得ないのかなと思います。単なる感想ですが。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは,松本委員,お待たせしました。お願いします。
【松本委員】 松本です。御説明,御発言ありがとうございます。今,湊先生がおっしゃっていたこととも関連します。今日の議論というのは,一体どこの大学のガバナンスの話なのか,そこを整理していただけませんか。
つまり,今,湊先生がおっしゃったように,国が作った機能別,3分類のどれかについてなのか,指定国立大学法人についてなのか。それからもう一つ,規模という話で言えば,東大は800億円超,それから,鹿屋体育大学や小樽商科大学,総研大の3つの大学が10億円台です。そうした大学と東大を同列に並べてガバナンスの話をすることに意味があるのか。私にはどうも理解ができません。
もう一つ,規模という意味で言えば,今日,御参加くださっている京都大学,東京大学,それから,東北大学にしても全然規模が違います。果たして,この3大学も同じガバナンスである必要がどこにあるのかも,わかりません。そうした整理もなしに議論を進めていくことに危機感を持っています。成り立ちも違う,それから,規模も,それぞれ持っている力も違う。それが同じ仕組みで,同じガバナンスでいいのか。
今日,御出席の皆さんの中でガバナンスの対象とする大学,国との関係について全然違うんじゃないかということを考えております。例えば小林さんの資料の中には,「世界と伍するトップの研究大学」という言葉がありました。世界と伍するトップの研究大学ということで言えば,湊先生がおっしゃったように,世界ってどこ? トップってどこ? という話にもなります。国との関係という点では,五神先生は,国全体を経営体として,それで国が指導的な立場をとおっしゃっていました。それは冨山さんがおっしゃる,国は今までの「プロセス管理型」ではなく,「結果管理型」に移行するということと同じことを意味しているのかどうか。よく分かりません。
私は冨山さんの「国はプロセス管理から結果管理型へ」という御意見はとてもよく分かります。それだけにこれからの議論はどこの大学のガバナンスの話なのか明確にしていただきたいです。それとも,手挙げ方式にするか。私の大学はこれになりますと手を挙げた大学と契約するという話なのか。その辺りも整理しないと,これからの1時間,有効に使えないのではないかと考えます。
以上です。
【金丸座長】 冨山委員,お願いします。
【冨山委員】 はい。では,シンプルに。私,すごくベタな言い方をしますけど,文科省に日常的にごちゃごちゃ言われたくないんだったら,要するに,自律的なガバナンス構造に手を挙げて,自律的にやってくださいと。その代わり自己責任ですよという選択をするタイプの。さっきの湊先生のおっしゃることはそのとおりで,要は,これは私の感覚で言っちゃうと,株主的な話だからガバナンスがすごく変わるというんじゃなくて,要は,自律性の問題だと思います。ですから,文科省にグジャグジャ言われたくないんだったら,とにかく,より自律的な,自分に厳しいガバナンス体制をつくってくださいと。
ただ,それができるところはきっと限られているし,例えば京都大学の理事会の議長,私は五神先生がやっているイメージなんですね。例えばで言っちゃうと。そういう方は,そういうふうに広げれば,むしろ小林喜光先生もそうだと思いますし,そういった人たちは,私は,正直言って,そこで手を挙げられる大学はそんなたくさんないと思っています。きっと数校だと思います。そういった大学はそっちにどんどんシフトしていくし,そこまでの自信がないし,能力もないと思うところは,今の現状のガバナンスの中で,その代わり文科省に細かく,手かせ足かせされながらという,そういうことなのかなと,私の理解はそんな感じです。雑駁ではありますが。
【金丸座長】 それでは,柳川委員,お願いします。
【柳川委員】 柳川でございます。松本委員からお話があった,どういう大学をターゲットにするかという話は非常に重要だと思うんですけれども,私も冨山委員がおっしゃったように,ここは手挙げというか,そういう自律性を目指す大学がこういうガバナンスを実行するという方向で考えるしかないんだろうと思います。これは湊委員からもお話があった,多くの方も御指摘になったように,国立大学という一言で言っても,もうかなり多様なものがあるということは事実でございますので,それを全て統一の形でやるということには無理があるし,そもそも現実の民間企業のガバナンス自体も,先ほどからお話があったように,多様なものがあって,いろんなレベルがあるので,ここは一律にガバナンスといっても,一くくりにはできないということはもうコーポレートガバナンス改革をやってきたときからのそういう前提だと思うんですね。
なので,やはりここは,ある意味で,この検討会議は,いろんな目的があったんだと思いますけど,少なくとも今日の議論は,そういう意味で先端を走ろうという,自律的にやって,先端を走ろうと考える大学,そこは規模は様々かもしれないですけど,そういう大学をターゲットにして,そのときに,じゃあ,どんな内部ガバナンスが必要かという議論だというふうに私は理解しております。そういうふうにやっていかないと,もう議論は進まないんだと思うんですね。
そのときの内部ガバナンスの基本的な構造は,小林委員からお話があったように,これは今の先端の民間の普通の企業のコーポレートガバナンスの仕組みをできるだけ採用するということだと思います。その理由は,前から申し上げているように2点で,1つは民間の企業もかなり,いわゆる株主第一主義のガバナンスでは全くなくて,様々なステークホルダーや社会的に責任を担っていくにはどうしたらいいかという形でガバナンス改革が進んできたからというのが1点目です。
それから2点目は,外部資金を導入していくという方向でかじを切っていくんだとすれば,外部資金の提供者は,やはりそれぞれの企業体の経営実態を横をにらみながら比較ができないとお金の出しようがない。全く違うガバナンスで,全く違うルールで,企業体を経営していると,そこにどういう形でどれだけお金を出していいか分からないという形になりますので,そこは同じようにしていかなきゃいけない。
その意味では,小林委員がお話になったような会計ルール等々も併せていかないといけないんだろうと。もちろん普通の企業と同じであるわけではないので,個別性はあってもいいと思います。その点では,民間企業だっていろいろ個別性があって,ほかの産業であっても様々な規制がかかっていたり,あるいは公共性を要求されている企業はいくらでもあるわけですね。
それは程度の問題に応じて,それぞれの企業は違うルールの下でやっています。でも,ガバナンスの構造だとか会計の構造自体は,ある種の統一性を持ってやるということで全体を回しているので,繰り返しですけど,全部の大学とは言いませんけれども,ここで考えていく手挙げの大学は,そのレベルで考えられるコーポレートガバナンスということを議論するべきであろうと思います。
【金丸座長】 ありがとうございます。
五神委員,お願いします。
【五神委員】 先ほど松本美奈委員が私の発言を引用されましたが,誤解があるといけないと思ったので補足します。私の発言の趣旨は,国主導で全部やるべきということではありません。大学が自律的に未来の公共財として育っていかなければいけないということです。それは,国の現在の行政の中だけでやれることではありません。ですから,大学の経営における自律性は極めて重要です。一方,戦後の学制改革の中で,国が47都道府県すべてに国立大学群を整備したわけです。この国立大学群を,現在の日本の国を成長に転換させるために非常に役に立つアセットとしてどのように活用するかというときに,現在の国立大学の活動の大半が税金で行われていることは現実の事実なので,そこについて,国全体を経営体として成長させるという意思をどこかに入れないと,議論の前提が整わないという話なのです。
インクルーシブネスを追求する成長というのは,例えばステークホルダー型のガバナンスになっていくという産業モデルの転換ともリンクしています。その前提で見たときに,戦後,47都道府県に大学をつくったという先行投資の価値が実は今すごく出てきているわけです。様々な大学がある中で,大学群を全体としてどうハーモナイズしてやっていくかという設定は,個別の大学に委ねるべきところではなく,その意思を誰かが出す必要があります。それはやはり文科省なり,行政の側がきちんと出していく必要があるでしょう。その中で個々の大学が自由な発想で個性を生かして,全体のパイを拡張していくことにそれぞれどのように貢献していくかという中で,ガバナンスを最適化していくという議論にしてほしいと,そういう話をしているので,対立するような議論ではないということを補足させていただきます。
【金丸座長】 ありがとうございます。
では,上山委員,お願いいたします。
【上山委員】 私は今,議論されている基本的な方向性はほぼ同意です。冨山議員もそうでしたし,あるいはそれを受けての大学側の発言も,それから,柳川先生のお話もほぼ同じ方向性だと認識しています。すなわち,今後の国立大学の中で,やはり世界に伍していくような大きな成長を目指さなければいけない大学ということをどのように特定するのか。それについては,相当程度このガバナンスの在り方ということを別枠で考える必要があるということもほぼ同意ですね。
しかし,この話をしているときにいつも違和感があるのは,文科省は大学に対して様々な形でKPIでぎりぎり,ぎりぎり締めているという,そういうようなイメージが先行するんですが,私の知っている限り,文科省のやっていることは,締めているより,むしろいっぱいいろんな課題を自分たちで引き受けてマネジメントをやっているというのが現状だと思うんですよ。例えば入試問題で何か起こったというと,全部文科省の方に来るわけですね。あるいは,大学の中における労働問題が起こったときには,それは全部を実は文科省が引き受けないといけなくなってきている。あるいは,学長選考の在り方もそうですし,これは学長がいないときには一体何をしているんだという批判も文科省は受けなければいけないわけです。研究不正が起こった瞬間に,これは大学が一応,前に出てきて,皆さん,頭を下げてはいますが,その背後には文科省の役人たちがもう駆けずり回ってやっているわけですよね。
ということは,文科省というもの,あるいは国と言ってもいいですが,それが全ての大学を牛耳って動かしているというより,むしろ一生懸命マネジメントのサイドをやっているというのが現状なんですよね。だとすると,そのような国の在り方から自立していこうとする大学に関しては,その一つ一つについて,マネジメントサイドから責務を負わなければいけないということなんですよ。その部分を今まで文科省におんぶに抱っこでやってきたんですよねということの反省を,そういう大学はしなきゃいけない。
一方で,これは公共性の問題ですから,86大学全部の大学がそんなことができるはずがないわけですね。地方の大学を含めて。そのところで言うと,冨山さん,柳川先生も今おっしゃいましたように,地方が相当程度,マネジメントサイドの面でも国に依存していかざるを得ないんですね。そのような大学が全部,細かないろんな大学の中で,内部で起こっていることを自分たちで全部やりなさいよというような姿が起こり得るとは私には思えないですね。
だとすると,やはりきちんとした分類を行い,出て行くところは出ていく,出ていかないところは出ていかない。出ていった限りは,これは全く別の経営体になるということを自ら宣言することであるということですね。そこにおいては,ここで議論されているような民間で行われているガバナンスの在り方を相当取り入れながら,独自の大学のガバナンスの在り方を考えていかないといけない。
だから,国立大学の法人法の趣旨から離れるという決意は,極めて大きな決意だということですよ。もう極めて大きな決意をするということを,どの大学がどれぐらいの決断力を持ってやるのか。それを国としてどのようにサポートするのかということであって,この問題と,それらの大学を含めた全ての大学に対する国の財政的な支援の問題とは全く別の問題です。
私は,個人的には国がもっと支援していくべきだとは思います。取りわけセカンドティア,サードティア,そして,ローカルユニバーシティも含めたところに国は資金的にもっと関与しなければいけない。その問題と,国立大学法人法から離れるということを,その一体として全部の国立大学ということはあり得ないですね。やった限りは大学に相当大きな混乱が生まれる。なぜかというと,この問題は,全部を文科省がやってきたわけですから。それはなぜかといえば,あまりにも多くのステークホルダーがいるために,公共性を担保しようとすると,個別の大学ではできないから,全体の公共性をマネージする存在として文科省というのが存在したということだと思いますよね。
ですから,こういうことを議論しているときには,まず,国立大学法人法から抜ける大学はどこなのか。その大学にはどのような条件を付すべきなのか。どのような決意表明をさせるべきなのか。どのようなマネジメント体制を取っていくべきかということをきちんと策定した上で,それの決断を迫るということであり,そうじゃないところにおいては,セカンドティア,サードティア,そして,地方大学も含めたところで,文科省,あるいは文科省でなくても構いませんが,どのような形で国がその公共性を担保していくかという議論をしなければいけないということだと思います。
ですから,ここから以降,この議論以降はかなり細かな,微に細に入った制度設計をしていかなければいけない段階に来ていると私は思います。
以上です。
【金丸座長】 ありがとうございます。
星委員,お願いします。
【星委員】 どうもありがとうございます。いろいろもう議論が出てきたところですが,僕も基本的に小林さんがおっしゃったこと,それから,冨山さんがおっしゃったこと,特に冨山さんの5つのプリンシプルというのに賛成です。少なくともトップの研究大学だと自分たちが思っているところについては,こういったプリンシプルを貫徹するということでいいのだと思います。上山先生がおっしゃったように,そういう大学にはどれぐらいの決意が必要なのかというところをこれから細かく制度設計していくことも必要だというのも賛成です。
ビジネス界のガバナンスと大学のガバナンスがそれほど違わないということを小林さんがおっしゃって,僕も基本的には正しいと思います。一つ違うところがあるとすれば,シェアード・ガバナンスということです。教員の代表がガバナンスに加わって,経営側といろいろ分け合ってガバナンスをやっていくという,そこのところが,大学で理想的とされるガバナンスとコーポレートガバナンスの現状とちょっと違っているところかなと思います。ただ,コーポレートガバナンスの方も,特に最近増えてきたヒューマンキャピタルが重要な企業では,昔のような労働者とは違った高いヒューマンキャピタルをもつ人達の意見を経営に反映していくというのが重要になってきているということで,大学に近づいているところもあって,そこではシェアード・ガバナンスというものに近い仕組みが出来上がってきていると思います。
これも小林さんがおっしゃったことで,コーポレートガバナンスの改革というのは,欧米は左から右,日本は右から左という,そういう方向で変わってきているということですが,大学についてもそういったことが言えると思います。アメリカの大学で,少なくとも僕が知る限りでは,一部ガバナンスの問題が起こっているのは,ボードが強過ぎるとか,教員の声があまり届かないとか,そういったところが大きい。逆に日本の方では,冨山さんがおっしゃったように,現在は教員の力が強過ぎるということで,学長=経営の方の権限を強力にするということが必要なんだろうと思います。ただ,コーポレートガバナンスと同じで,行き過ぎないようにするのは重要だと思います。
事務局の資料を見ていて一つ気がついたのは,ガバナンスに関する最初の資料の1についてですけれども,いろんな会議が大学にあって,その議長というのが全部学長になっている。特に教員組織の方の議長というのも,教育評議会でしたっけ。その会議の議長も学長になっている。シェアード・ガバナンスだと,そこのところは教員の組織の代表ということで,学長とは違った人が議長で,学長を含む経営陣と一緒にガバナンスに参加するということになるのではないかと思います。
この教員の代表というのは,意向選挙で選んでもいいのではないかと思います。今,すべての学長が議長になっているということで,逆に全体のガバナンスがうまくいっていないという可能性ができてきているのかもしれません。
今のところ,以上です。
【金丸座長】 濵口さん,よろしいでしょうか。
【濵口委員】 途中から加わっているものですから,短く,ちょっと違う視点を提起したいと思います。戦後の国立大学の歴史を見ると2つ特徴があって,一つは高度成長期に学生がすごく増えたときに,ほとんどその学生を受け入れるところを民間の私立大学に任せたこと。これは国の予算がなかったからですね。ですから,日本の大学制度というのはそれで複雑になりました。
第2点としては,昭和50年代ぐらいから,1県1医大の話があって,各県に大学をつくるということで,小さな国立大学がたくさんできましたよね。先ほど松本さんが言っておられたけど,全体として見ても,運営費交付金100億以下の大学が6割です。例えばミシガンだとかUCLAとか,ここら辺を見ると,アメリカの主な州立大学は,全体予算は1兆円規模で動いていますから,サイズが小さ過ぎるんですよ。世界と伍して戦うと言ったって,10億,20億のところが1兆円のところとどうやって戦うんですかと。これは戦争中の竹やりだと思うんですが,竹やりを抱えて,戦車へ突っ込んでいこうということと全く同じですね。ですから,そこはどうするかというので,2階層があると思うんです。やっぱりトップレベルをどうとがらせていくかというところと,それから,資金のキャッシュフローのないところをどう強化するかというのは,これは全く別の理論,理屈で議論しないと,混乱してくると思います。
それから,地方大学というか,地域の大学が,もう一つは,国からの要請だけじゃなく,地域の要請がある。この場合,公共性というのは,地域の公共性があるんですよね。この地域の公共性をどういうふうにしてマネジメント,あるいはキャッシュフローのところを改善していくかというところが,設計がないんですよ。言われるままやっているだけなんですね。資金はほとんど国から来た状態で,物すごい細い資金でやっている。これでは構造的に不完全ですね。そこの設計がもう一つ要ると思います。
以上でございます。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは,この辺で議事をまとめさせていただきます。本日は,多様なステークホルダーへの責任を果たす国立大学法人のガバナンスの在り方に関連して,監督と執行の責任分担の在り方,経営面の最高意思決定を担うボード組織を実質化することの重要性,さらには,大学の特色にふさわしいガバナンスの選択制の在り方など,多岐にわたる様々な論点について御議論いただき,様々な視点をお示しいただいたと思います。
まだまだ議論が足りていない部分もあると思いますけれども,本検討会議としては,本日御議論いただいた方向性を踏まえ,ガバナンス改革そのものを目的化するのではなく,あくまでも,社会変革の原動力として期待される国立大学法人が,公共的な役割を果たすことに加えて,経営体として機能を拡張し,世界トップレベルの大学に比肩する人材や成果を創出していくためには,どのようなガバナンスの枠組みがふさわしいかという観点から,小林会長からの御発言にもあった,世界と伍する規模の大学ファンドの創設に向けた検討や,その実現状況も見つつ,多様なステークホルダーを巻き込んだ大学経営モデルへの転換で,より高い社会性を持ち,相当規模の資金投入がされる法人にふさわしい説明責任や透明性を担保するべく,研究大学としての特性をさらに伸長させた国立大学法人制度の新たな枠組みの在り方について,法律専門家等の協力も得ながら,引き続き議論を含めていくことが必要ではないか。
また,国立大学,地方に86あるわけですけども,それをネットワークとして捉えたような戦略的活用も上位概念のデザインとして必要ではないかというような問題提起をして申し送りしたいと思いますが,いかがでございましょうか。
星さん,お願いします。
【星委員】 非常に細かい点なんですが,1点だけ気になったことがあったので。今,大学が公共的な役割を果たす「のに加えて」,経営体としてもやっていくためにこういった改革が必要だと,そういう文章だったと思うんですが,そうではなくて,公共的な役割を果たす「ために」こういった経営体にならなきゃいけない,そういう話なんじゃないでしょうか。
【金丸座長】 はい。そこはちょっと考えさせてください。今日の公共的というお話も,最後に濵口委員がおっしゃった地方の公共性とかもあって,その公共性が何かという,細部に入らないような,おっしゃっていただいたことは理解しましたので,この取りまとめの文章は御一任していただけますでしょうか。
                            (「異議なし」の声あり)
【金丸座長】 はい。ありがとうございます。
それでは,御了承していただいたということで,先に進めさせていただきます。
それでは,議事2に移ります。2つ目の議題は,経営体の人事給与マネジメントの在り方についてでございます。戦略的な大学経営の実現に向けては,最大の資本である人的資源を最大限に活用するため,マネジメントが求められているところでございます。
本検討会議の検討事項の一つとして挙げられていた世界標準の能力,業績評価,報酬体系の確立にも関連するテーマでもあります。
それでは,まず事務局から本議題に関する論点整理の説明をお願いいたします。
【生田高等教育局視学官】 事務局から,資料2-1,資料2-2ということで,2つ,本日お配りしておりますが,基本的に2-1を用いて説明させていただきたいと思います。ちょっと時間も押しておりますので,なるべく端的な説明で対応させていただきます。
2-1の最初の1ページ目でございますけれども,こちらの方は,法人化した後からの国立大学法人の人事給与マネジメント改革の流れでございます。ここでは,当初から,赤字で書いてございますように,能力主義,業績主義に立った新しい人事システムの導入,そういった理念の下で法人化がなされ,その後,第1期,第2期,第3期,いずれの期におきましても,この人事給与マネジメントというものは,課題なり,期待として挙げられてきていたものでございます。
続いて,2ページ目でございます。こちらはいろいろ書いてございますが,ガイドラインを策定したということを申し上げたいと思っております。下の今後のスケジュールのところに,2019年2月,ガイドライン策定でございますが,これは文部科学省から国立大学法人等の人事給与マネジメント改革のガイドラインというものを策定して,発表しております。
この内容は,改革の方向性の左上に書いてございますように,大体4つに分かれておりまして,まず全学的なマネジメントシステムを構築することが重要であると。その上で,右側,業績評価,処遇への反映をしっかりし,また,左下,年俸制というものを,もともと年俸制があったものを新年俸制ということに見直し,そして右下のテニュアトラックやクロアポなどをうまく活用していく。これを全体として,真ん中,総合的・複合的に取組を推進することが重要である,こういったガイドラインを策定したところでございます。
スケジュールにございますように,このガイドラインを踏まえて,様々,国立大学法人の現場においては改革を進めていただいておりまして,そのインセンティブという意味でも,真ん中,「運営費交付金への反映」というものを行ってきております。
本日,実は資料2-2は一番下にございます「改革の効果を検証」ということで,各大学におきまして,マネジメント改革がどれぐらい進捗してきているのか,その調査結果をまとめたものを本日,資料2-2として配付させていただいております。そちらのデータが2-1の資料の各所に出てまいりますので,資料の説明という意味では,2-1で全て対応させていただきたいと思います。
続いて,3ページ目でございます。こちらは人事マネジメントの改革の成果と課題ということでございます。言うまでもなく,法人化の狙いで,このような能力主義,そういったものを導入することが可能であるということで,真ん中のところにございますのは,正に,先ほど申し上げました資料2-2で御提供しておりますデータでございます。業績評価の実施は,今,全ての大学等で行っていただいておりますし,その評価の結果を様々,これは給与,賞与のみならず,ほかの処遇への反映ということもやっていただいているところでございます。
また,若手教員への環境の確保等々,様々な工夫はしていただいているところでございまして,当然成果は幾つか出てきております。ただ,まだ課題は残るところはたくさんございます。
右下,課題として3つに分けております。これはこちらの会議で申し上げるまでもなく,総合科学技術・イノベーション会議でも言われておりますけれども,若手研究者の安定的なポストがまだまだ足りていなくて,研究職の道に進む若手が少なくなってしまうのではないか。そのような課題ですとか,あと外部資金,この会議で正に真の経営体としては,外部資金をもっとうまく活用していくべきではないかといった課題,そして,能力主義の徹底。この3つを課題として,この資料上は整理させていただいております。
以後,これらの課題認識,及び,これらの課題にどのような方向性で対応していくべきかといったことを以降では整理させていただいております。
なお,4ページ,5ページ目,6ページ目,ここは今までの成果を少しかいつまんで書かせていただいております。
4ページ目は,年俸制・クロアポにつきましては,4年間で7倍以上,年俸制につきましても5年間で2倍以上,このような形で大学の現場では本当に様々な改革を進めていただいていると承知しております。
5ページ目,これは取組事例でございます。クロアポも研究系のみならず,愛知教育大という教育系でも行われていたり,また,電通大の例は,今,まだ,なお少ないと言われているクロスアポイントメント,大学から民間への事例ですとか,新潟大学は,これは研究費,お金だけではない形でのインセンティブづけの面白い事例。北陸先端大では,新たな年俸制の導入ということで,メリハリのある業績給の設定。
続いて,6ページ目。こちらも続いて,様々な取組事例でございます。岐阜大学,これは以前,こちらの検討会議でもお越しいただいたときに御説明あったかと思いますが,関門評価の実施ですとか,右側の名古屋の業績給の割合をさらに増加させるですとか,金沢大学,そして,信州大学,この事例の紹介は割愛させていただきます。
そして,7ページ目,こちらは,先ほど課題が3つあると申し上げました。そのうちの1つ目,若手のポストに関する部分でございます。このデータも皆様方はもう既に一度は見られているかもしれませんが,左側は,いわゆる40歳未満の任期付きが,平成21年から令和元年に向けて,どんどん増えてしまっているというようなグラフでございます。そして,右側は,任期付き,なしにかかわらず,そもそも若年層,39歳以下の年齢層の比率が減ってきているというグラフになってございます。
そして,こういった課題への対応ということで,8ページ目,9ページ目でございます。
まず8ページ目のところ,これももう改めて言うまでもございませんが,やはり若手の方に対するポストという意味では,任期制そのものが悪いものではないと思っておりますので,任期制をうまく使いながら,組織全体で若手研究者のポスト確保,そして,若手の育成・活躍促進をマネジメントしながら,全体としてやる必要があるというのが1点。そして,そのためには,当然原資も必要ですので,外部資金等々をうまく活用しながら,若手へポストを提供するですとか,もしくはシニアの方に対しては管理業務を免除することで,給与を一定程度減額するなど,ある意味,雇用環境に配慮しつつ,さらなる活躍の機会に挑戦する。その意味で,流動性の促進,こういったことが必要ではないかと書かせていただいております。
なお,こういったことについては,左下,これはCSTIの方でも御議論されておりますし,また,右下,これは先ほど御紹介した調査の結果ですけれども,各大学において若手が減ってきている要因は何だと御質問したところ,まずは,真っ先に年次進行というのが大きく,その次に出てくるのが,なかなか予算が増えていかない中において,後任数員の採用抑制というものもまだまだ起こっているという現状がかいま見られるところでございます。
続いて,9ページ目,こちらもまた続きでございます。よく若手にちゃんとポストを提供すべきといったときに,大学全体で中長期的な人事戦略,人事計画,こういったものをつくるべきではないか。このような声が聞こえてまいります。
これにつきましては,真ん中の円グラフ2つあるんですけれども,そもそも人事計画自体は,大学現場で,平成28年度に比べると令和2年ではかなりの,ほぼ9割の大学がこういったものを策定していただくようになっております。ただし,まだその中身を,詳細をのぞいていくと,目標実現に向けたマイルストーンの設定ですとか,または,年齢層別のシミュレーション,そういったものはまだまだ4割弱にとどまっているということで,さらにこの辺は戦略性に基づいて続けていくことが必要ではないかと考えてございます。
また,右側にございますように,定年退職の後の空きポストを若手に採用する,このようなことが約6割で行われてはおります。こういったことをどんどん進めていくに当たっては,やはりポスト管理から人件費管理にシフトしていくことが重要ではないかという形で取りまとめております。
続いて,10ページ目,こちらは若手の支援に限った取組事例でございます。この内容は,先ほど冒頭に紹介したガイドラインの中で同じ内容を書いてございますので,説明は割愛させていただきます。
続いて,11ページ目,こちらは,先ほどの3つの課題のうちの2つ目,3つ目でございます。外部資金を活用していく,そして,それによって能力主義を徹底する,その観点についての課題を整理したものでございます。
最初,クロスアポイントメントを少し出させていただいておりますけれども,全体として,クロスアポイントメントは,先ほど申し上げましたように,4年間で約7倍と増えております。ただし,なかなかインセンティブとして適用された教員への高額給与の支給,これをやっているところは4割にとどまっていたり,また,特によく言われるのは,民間企業とのクロアポがまだまだ少ない。その中でも,民間に行くパターンがまだまだ少ない。全体の約1割にすぎないと。90機関,これは大学共同利用機関法人も加えて90のうち12の大学しか対応されていないということで,まだまだここら辺が弱いと見受けられます。
なお,クロアポについては,2020年に,クロスアポイントメント制度の基本的枠組みと留意点の追補版というものを経産省と文科省で出しておりまして,正に,その出した背景は,民間への派遣事例が少ない。これはやはり労務管理ですとかインセンティブ,そういったことについて調整するのが大変だという声があったので,そのガイドラインの追補版を出しておりますので,こちらも参考にしながら,大学の現場ではさらに増やしていっていただきたいと思っております。
2つ目,任期なしの大学教員の雇用財源。外部資金をどれだけ活用するかという意味においては,全体の6割に達しておりました。ただ,やはり標準を上回る高額給与,これをやっているところが全体の4割。それから,若手ポストの増設や事務部門,環境改善に有効活用しているのは全体の3割ということで,まだまだ増える余地はあるのかなと。さらに言うと,法人の長の報酬を超える高額給与,そういったところにおきますと,たった8大学,約1割にはとどまると。
なお,この8大学につきましては,特別な招聘教授として海外からのトップスターを招聘されたり,そういったことをするに当たっては,業績給を幅を持たせ,さらに,そこに外部資金を上乗せする,そのような工夫がなされている実態が判明したところでございます。
続いて,12ページ目,こういった外部資金をうまく活用し,能力主義の徹底という観点におきまして,こちらについて,対応として,教員と事務職員,2つに分けております。
まず1点目,教員のところ,これは申すまでもなく,そういった外部資金をうまく使うことで,教員コストを再配分して新陳代謝を促す。そして,内外から優れた教員をうまく招聘してくる。そういう取組をもっとやるべきではないかと。それと,少し話がずれるんですけれども,実は今日,御欠席の篠原委員からも問題提起されておりますが,エンジニアやURAですね。こういった方々の高度な専門人材,このキャリアパスの育成ですとか,もしくは適切な評価,そして,処遇改善,こういったことも課題となってくるのではないかという御指摘もいただいております。
さらに,事務職員につきましては,今,申し上げた教員のみならず,法人を経営するという観点においては,職員も重要なスキルが必要だということで,高度な専門スキルや能力に応じた専門職を配置するですとか,公務員準拠等々によらない給与制度が重要ではないかと。
さらには,やはり事務職員のスキルアップという意味では,他大学との人事交流ですとか相互研修,そういったことを通じてスキルアップができる。そして,文部科学省など,国や自治体への執行の在り方ですとか,または文部科学省からの現役出向の受け止めについてどのように考えるか。こういったことも論点として,ここでは上げさせていただいております。
この下のところは,高額給与の事例ですとか,海外の大学の高額所得者の事例。こういったものを少し載せさせていただいておりますし,続いて,13ページ目につきましては,これは必ずしも,例えば講師については,日本とアメリカでは解釈が違うので,横並びをさせるのがいいのかどうかというのもありますけれども,ある意味,一つの参考として,このようなデータもございましたので,本日,参考に配付させていただいた次第でございます。
事務局からの説明は以上でございます。
【金丸座長】 ありがとうございました。
それでは,続いて自由討論を行いたいと思います。最初に,国立大学の現場の3総長から,大学の取組状況や御意見を簡潔にお伺いしたいと思います。お1人3分程度でお願いいたします。
まず大野委員からお願いします。
【大野委員】 大野です。ありがとうございます。資料を用意しておりますので,私の資料の9ページを御覧いただければと思います。
人事制度の改革については,競争力の源です。今,文科省から御説明があった意味だけではなくて,我々がいかに強い組織として世界に伍していけるかという観点から,真剣に取り組んでいます。おかげさまで,クロスアポイントメントも全学的に実施しやすくして,右上のグラフにありますように,非常に大きな伸びがあります。これは大学にとっては,外部の様々な力を活用し,あるいは外部に我々の力を使っていただいて,大学の境界をにじませて,力を発揮するということであります。
9ページの中段に特別加算額とありますけれども,これについては多くの大学が実施されていることと思います。
左下の若手研究者の雇用推進ですが,これはシニア教員(64・65歳)に対して,先ほど文科省からの御紹介にもありましたけれども,管理運営業務を免除することで,給与を減額し,これを財源に毎年,若手50人相当の給与に充てています。
10ページ目ですが,本学には39歳以下の若手研究者が,30%以上在籍していますけれども,その中で常に50名は,学際科学フロンティア研究所というところで雇用し,独立して研究する環境を用意しています。これは公募していますけれども,非常に倍率が高く,また,実際に雇用された若手研究者は,様々な研究指標で測っても,学内の平均を超える成果を上げていて,私たちとしては,これをさらに拡大しようと,今,計画をしているところでございます。
以上でございます。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは,五神委員,お願いいたします。
【五神委員】 ありがとうございます。資料2-3を提出していますので,それに沿って,2ページから6ページまでのところで説明したいと思います。
私は総長任期中,人事給与マネジメント改革をかなり進めてきましたので,それを紹介したいと思います。2ページ目を御覧ください。先ほどの文科省の資料にもありましたように,東京大学では,ポスト管理から人件費管理への移行を進めてきました。
それから,若手の安定雇用を拡大するということで,文部科学省の卓越研究員制度だけでは足りないということで,東京大学独自の卓越研究員制度も導入しました。3番目が非常に重要なところで,承継の事務職員のポストに毎年,東大独自の採用と,関東甲信越地区の国立大学法人等職員採用試験での採用という形で新規採用を行っているわけですが,そういった人たちをプロ化することが重要だと考え,事務職員の人事給与マネジメントの改革も行いました。
3ページを御覧ください。ガバナンス改革の話とも関係しますが,国から退職金が特殊要因運営費交付金で措置される,いわゆる承継教職員の退職金相当額の算定方法が,法人化直前の待遇を引き継いだ国家公務員準拠となっています。この承継教職員の枠の存在が,国の時代から踏襲しているポスト管理につながっていることは明らかです。
それから,もう一つ,職員の給与水準が国家公務員の水準未満となっています。国立大学法人の役職員の給与について,文科大臣が毎年検証というのを行っているわけですけれども,「給与水準の比較指標では国家公務員の水準未満になっていること等から給与水準は適正であると考える」ということになっているわけです。東京大学の活動はかなり多岐にわたっていて,事務職員として採用される方にも,修士卒,博士卒が増えていて,あるいは東大出身者も3割ぐらいいる中で,公務員の水準以下であることが人件費の設定として適正であるという評価は,非常にずれていると思います。経営において,人事管理は物すごく重要な経営資源ですが,この「検証」においては公務員としての管理というものがベースとして続いているわけです。重要な経営資源についての経営者の裁量権が制限されているとも言えるので,見直すべきです。
4ページを御覧ください。そういう意味で,私たちは,教員については,ポスト管理から人件費管理ということで,既存の部局の中での人事を変えていくというのはなかなかスピーディーには難しい中で,部局の財源を使って,安定なポストを充てることができるようにするということをかなり加速しました。
それからもう一つ重要なことは,優秀な職員が採れていることはよいわけですけれども,その人たちの待遇が公務員二種の時代の延長線上のままでは,皆さん,やる気を失ってしまうということで,昇格のタイミングなどを大胆に変えられるような制度を導入しました。
ここで問題になるのは,上位職のポストは,東大の中だけでは限りがあります。一方で,上位職の育成に苦慮している大学も少なくありません。そこで,近隣大学とのアライアンスを組んで人事交流するという制度をつくりまして,幹部として,周辺大学含めて活用できるようにするということで活性化するという職員側の改革を進めました。
5ページが,今進めている「Beyond 2020」という構想で,次期総長候補者とともに進めているものですけれども,まず人的資源を全体として増強するということは,経営体としての先行投資を考えたときは,これは必須です。ところが,今まで,それを増やしてはいけないということが大前提のようなマインドセットが相当はびこっていました。
具体的な取組として,新しいところとしては,教員については,このコロナ禍の中で,リモートクロスアポイントメント,つまり,日本に物理的にいなくても,教育,研究を同じようにできるということが明らかになっていますので,そこをいろいろな手法で拡大しようとしています。
職員については,労働契約法の改正により,有期雇用を繰り返していた方の無期転換権が発生しており,東大にも対象者が1000人規模でいるわけです。その人たちを法律に従って仕方なく無期化するというような受け身の話ではなくて,優秀な人がたくさんいますので,前向きに正規化を進めています。特に目立つところでは,フルタイムではなくて,短時間の職員も正規職員として認めるという制度改正をしました。これは週30時間以上の方に限定していますけれども,長年,東京大学にかなり高度な貢献をしてくださっている方々をきちんと正規職員にするということで,これも先進的な取組になっています。
6ページ目,先ほど少し言及がありましたけれども,文部科学省との人事交流についてです。この人事交流は,法人化後,随分構造が変わったことは明らかでありまして,法人化前は国立大学採用の人たちが文部科学省の本省に移っていくというパスがありましたが,それが止まってしまっている状況の中で,やはり現場との交流が非常に効果的であると考えています。文部科学省が強制するのではなくて,大学自らで必要な経営判断を行うときに必要なものは使っていくということが大事です。
そういう意味で,国立大学法人と国,あるいは民間企業などとの人事交流は,単なる研修というのではなくて,対等な人事交流が必要です。つまり,文部科学省に人事交流している間は,国会議員対応のような,シビアなところも経験するような立場で交流できるようにすることによって,お互いに鍛えていくことが求められます。本省採用の方が大学に来る場合もそういったような視点が重要であるということで,真に修行となる機会と裁量を与えるべきだというところをどう実装していくかが重要です。流れを止めるという方向ありきということではなくて,むしろ,どう新しい形で使っていくかという視点で議論することが建設的であろうと考えています。
以上です。
【金丸座長】 ありがとうございます。
では,湊委員,お願いいたします。
【湊委員】 ありがとうございます。私は特に今日は資料を用意しておりませんが,要点だけ,私どもが今やっていることを簡単に御紹介いたします。
人事給与マネジメントと並行して必要なのは,いわゆる業績評価でありまして,この2つを今並行してやっているところであります。業績評価については,基本的には,今まで1年ごとにかなり細かいアイテムでやっていたんですけど,これは原則3年にする,基本給に反映される業績評価は3年にするということを考えています。理由はいろいろあるんですけれども,一つは,定期的な業績評価のほかに,企業はどうか分かりませんが,教員には非常にシビアな評価が既に入っています。一つは採用時です。少なくとも我々の大学では,採用時の業績評価は非常にシビアです。教授選考などで,ときには2年近くかけて徹底的に調査するというようなことまでやっています。
それからもう一つは,昇任ですね。職階が上がるときの評価も結構シビアです。つまり,大体3~5年で,そういう非常にシビアな評価が入りますので,あまりそれ以上の評価をこまめにやる必要というのは,かえってこれは研究の邪魔になるので,3年に改めるということを考えております。ただし,エポックで,非常に特筆すべき評価があった場合,うちの場合時々ノーベル賞が出たりしますので,そういう場合は特別に対応するということであります。
そういうことをベースに,評価を反映した形で新しい給与制度をどうするかということですけども,一つ問題になったのは,この新年俸制という国の考え方が随分ぐらついてきたわけですね。かつての年俸制は,退職金というのは,これは常に公務員,準公務員の場合問題になってきていたわけですけれども,退職金というものを想定しないで,テニュア制などの中でやっていこうという純粋な年俸制で,京都大学は実はかなりこの方向で動きました。
動いてきて,いずれこれで統一するつもりで考えていたんですが,途中から新年俸制というのが出て来て,退職金という制度は残ります,ポストの承継制は残り月給制です,ということを言われたものですから,人事の財源の出し方に随分困難が生じたというのは事実です。国の方針,基本的な給与制度というのは,何年かごとに変えられたらえらい迷惑なので,本当にこの新年俸制で行くなら,ずっとそれを施行していただきたいとは思っています。
それで進むということを前提に,先ほど評価のことも絡めて,原則,幾つかの点を議論しております。一つは,これまでの給与制度で,年齢と階層の給与を全部プロットしてみますと,助教,講師,准教授,教授と階層があり,これは評価によってかなり明確に我々は区別しているのですが,それと給与の関係を見てみますと,物すごく入り乱れているんですね。その要素は明確で,階層以外にどれぐらいの期間働いたかということが,大きく反映されている。
なので,少なくとも原則的に一定の階層の人はどれほど長く在職しようとも,上の階層の人の給与を超えることはないというのを原則にしたいということです。それをまず原則にしたいということです。つまり,職階の基本給がありますけど,それは上位職階の基本給を勤務期間にかかわらず,超えることはないということであります。
それから,これは同じような意味合いですけども,同一職階内での昇給幅というのは,つまり勤務期間で上がる程度は,なるべく抑える。場合によっては,一定期間を超えた場合はもう上げないというようなことも,今はプランニングをしております。最終的に幾つかのシミュレーションをした上で,次年度から,前もって周知しないといけないので,遅くとも次々年度からはこの体制を合意を取った上で進めたいと思っております。ただ移行期というのは非常に難しく,常に我々は法的な対応を迫られる可能性の中でこれをやらないといけないので,一定のトラブルは覚悟しておりますけれども。やはりこうなりますと,今の,国が教員のポストに応じて退職金をその都度精算していくというようなシステムを,どこまでやれるのかが問題になる。その問題さえなければ,我々はもっと自由な,定員ではなく財源に基づく人事ができるんですけれども,それとの兼ね合いが非常にテクニカルに難しくて悩んでいます。実はそれを一部やっていますが,それはもう自己資金で持ち出すことしかやりようがないわけですね。
だから,国の,何というか,いわゆる退職金を含むような今の新年俸制度というものについて,本当にこれでずっと行くのかというようなことは少しどこかで確認をいただかないと,給与制度の議論などとても簡単にはできないので,慎重にお願いしたいと思っております。
それから,多分労働法的には,給与制度が変わったときに直ちに全員に強制するわけにはいかないので,ある期間移行期が出ます。そういったときに,もしこれをゼロサムでやったとすれば,必ず給与が下がる人が出てくるので多分これは法的に耐えられない。訴えられたらもう耐えられない。ですから,そういうことを考えると,基本給として今のボトムラインは維持されますというレベルでの給与体制をつくっていかないといけないということで,これについてはかなり自己資金の投入が必要な局面かなと思って悩んでいるところが現状です。
以上です。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは,ほかの委員の皆様,御意見をお願いいたします。松本委員,お願いいたします。
【松本委員】 御説明ありがとうございます。一つ確認させてください。これからの議論は,先ほどのガバナンス同様,今までとは違う大学になると手を挙げた大学についての人事給与マネジメントの在り方を検討すると受け止めていいのでしょうか。それとも,一般的な国立大学の人事給与マネジメントをこれからどうしていきましょうかという話でしょうか。
【金丸座長】 生田さん,いかがでしょうか。
【生田高等教育局視学官】 今回御提供させていただいたデータは,あくまで,全ての国立大学法人から調査して得られた結果をベースに問題提起はさせていただいております。ただ,もちろん,例えば外部資金の獲得とかそういった観点については,大学によって全然違ってくるというのは確かだと思いますので,この手段というのは様々あり得るのかなというふうには思っております。
【金丸座長】 松本委員,よろしいですか。
【松本委員】 だとすると,限られた時間で,86の全ての大学の人事マネジメントの在り方を検討するというのは,ガバナンスの話と同様,全く時間的には難しいんじゃないでしょうか。
以上です。ありがとうございます。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは,松尾委員,御意見ございますでしょうか。
【松尾委員】 ありがとうございます。全般を含めて少しお話しさせていただきますと,議論,方法は全く違和感なくて,そのとおりだと思うんですけれども,例えば地方の国立大学の立場として,一体何ができるんだろうということをずっと考えておりました。それで,やっぱり地方の特色に合わせてとがっていく,それで,グローバルに活用するものにしていくということだと思うんですけども,仮に,じゃあ,AIでとがろうといったときに,僕がそこの地方の大学に移ってと言われて,移るかなということを。今,東大で,いい環境で研究させてもらって,なかなかこれは難しいだろうなと。ただ,クロアポとかだったら可能性はあるかなと。さらに,AIに特化した教育を提供しますと。それもオンラインで広くとか,そういうのもあり得るかなと思うんですが,一方で,常にやっている研究なり,教育なりがありますから,そこをどうするのかというのがあって,やっぱりとがるということは,逆に何かをしているということなので,今の大学で,その捨てるというのがどこまでできるのかなという,そこが一番難しいところだなと思っております。
それで,今の論点にも,人事の話にも関係してくるんですけれども,今,やっぱり年齢分布が大きく従来とは違ってきている状況において,当然若手を雇用して,そこで活躍してもらうというのは非常に大事なことだと思うんですけども,やっぱり年配の先生方もたくさんおられて,そこを,要するに,今までにない状態なので,それをどういうふうにしていくのかというのは非常に大きな問題だなと思います。そこでモデルケースみたいなのはやっぱりしっかりつくっていくべきだなと思います。
と同時に,事務の方というのはやっぱり大学の力を引き出していく上で非常に重要だと思いますし,ここは全然人が足りないところですし,もっと株式会社的な仕組みで,多額の給与を出してもいいと思いますし,社会に大学が貢献するという意味でのミッションを持ってもらって,そこと連動させるということも十分できると思うので,そこをどうやって追求していくかというのが重要なポイントかなと思いました。
以上になります。
【金丸座長】 ありがとうございます。
そのほかの委員の方,御意見ございますでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは,取りまとめをさせていただきます。本日は,文部科学省が行った直近の調査結果も含めて,大学現場における人事給与マネジメント改革の進捗状況の御説明をお伺いするとともに,現場で抱える様々な課題も認識させていただきました。
人事マネジメントは,企業でも同じですけれども,なかなか一朝一夕で変えることが難しいテーマでございます。中長期的に戦略的に改革を進めていくことが求められるものだと思います。
引き続き大学現場におかれては,真の経営体として,外部資金もうまく活用しながら,法人全体の人的資源の有効活用に向けた人事給与マネジメント改革を精力的に進めていっていただきたいと思います。
最後に,全体として,本日の第10回検討会議では,戦略的な経営実現に向けたガバナンスの在り方,経営体の人事給与マネジメントの在り方について,多岐にわたる様々な論点について精力的に御議論いただき,様々な視点をお示ししていただいたと思います。文部科学省におかれては,本日も含めた中間取りまとめ以降の議論を踏まえて,来月の検討会議に向けて,最終取りまとめの準備を進めていただきたいと思います。
それでは,時間も参りましたので,本日の議論は以上とさせていただきたいと思います。
今後の日程等について,事務局から説明をお願いいたします。
【生田高等教育局視学官】 本日は,活発な御議論,いつものとおり,ありがとうございました。次回,第11回の会議,ラストとなりますが,12月23日の水曜日15時からの予定としております。
以上でございます。
【金丸座長】 それでは,第10回会議を終了いたします。皆様,本日は御多忙のところ,長時間にわたりまして,どうもありがとうございました。
 

―― 了 ――

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