国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議(第5回)議事録

1.日時

令和2年6月19日(金曜日)14時00分~17時00分

2.場所

文部科学省3階 3F1特別会議室 ※WEB会議

3.議題

  1. 1.戦略的な国立大学法人経営に求められるガバナンスについて
  2. 2.ニューノーマル社会における国立大学の国際化について
  3. その他

4.出席者

委員

金丸座長、濵口委員、上山委員、大野委員、五神委員、小林委員、篠原委員、曄道委員、星委員、松尾委員、松本委員、柳川委員、山極委員

文部科学省

伯井高等教育局長、川中審議官(高等教育及び高大接続担当)、森審議官(高等教育及び科学技術政策連携担当)、淵上国立大学法人支援課長、生田高等教育局視学官、他

5.議事録

【生田高等教育局視学官】 そろそろ定刻になりましたので,ただいまから第5回国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議を開催したいと思います。
委員の皆様はお忙しいところ御参加いただき誠にありがとうございます。本日もこのように,前回に続きまして,新型コロナウイルスの感染拡大防止のために,ウェブ会議方式での開催とさせていただいております。今時点で音声など不都合ございませんでしょうか。よろしいでしょうか。
本日の議題としましては2つ用意をさせていただいております。議事次第にございますように,ガバナンスの件,そして国際化の件でございます。
本日は,傍聴者,報道関係者のこの会議室への入室は認めておらず,後日,ウェブ会議場の動画をホームページにおきまして配信するという形でさせていただいております。
毎度のことでございますが,事務局からのお願いでございます。ウェブ会議を円滑に行う観点から,御発言に当たりましては,インターネットでも聞き取りやすいよう,はっきり御発言いただきたいと思います。また,御発言の都度,大丈夫だと思うのですが,お名前も念のためおっしゃっていただけると助かると思います。そして,発言以外のときにはマイクをミュートにしていただく,逆に発言のときにはミュートを解除していただく。そして,御発言をされたい場合には「手を挙げる」ボタンを押していただく,若しくは,カメラに写りやすいように手を挙げていただくなどしていただければと思います。
そして,資料ですが,事務局の方で資料を画面上に参照していきますので,資料番号,ページ番号,ページ内の該当箇所などを分かりやすくお示しいただけると助かります。
最後に,できるだけ多くの委員から御発言を頂きたいと思っておりますので,本日は3時間ですので,いつもよりは大丈夫かと思いますが,1回当たりの発言はできるだけ短く,二,三分程度にとどめていただければと思っております。御理解のほどよろしくお願いいたします。
そして,本日1点,事務局の方から,この検討会議の成果として,1つ御報告がございますので,局長の伯井の方から報告させていただきます。
【伯井高等教育局長】 高等教育局長の伯井でございます。本日も御参加いただきましてありがとうございます。
本日,国立大学法人法施行令の一部改正政令が閣議決定されました。この改正は,国立大学法人が行うことができる長期借入,あるいは大学債の発行の要件を緩和いたしまして,先端的な教育研究の施設設備等のためのものを可能とするということを内容とするものでございまして,この件は,この検討会議におきまして,国立大学がより個性的かつ戦略的な経営を行うことを可能とするための規制緩和策として御提言頂いたものでございます。御提言を受けて,文部科学省として迅速な施策の実現を図らせていただいたというものでございます。
この改正によりまして,我が国の科学技術イノベーション創出の中核としての国立大学におきまして,先端的な教育研究活動が更に展開されるものと考えておりますし,今後も,引き続き様々な御審議,御提言を頂きますれば,こういった形で,実施可能なものについては迅速に施策化に取り組んでいきたいと思っておりますので,引き続き活発な御審議をお願いしたいと思います。
取りあえず御報告でございます。
【生田高等教育局視学官】 ありがとうございました。それでは,ここからの議事進行は金丸座長の方でよろしくお願いいたします。
【金丸座長】 皆さん,こんにちは。お忙しい中,また当会議に御出席を賜りましてありがとうございます。また,今,伯井局長から御報告いただきましたが,文科省におかれては迅速な対応をしてくださいましてありがとうございました。
それでは,会議に移らせていただきます。本日の会議は,冨山委員,宮内委員から欠席の御連絡を頂きましたので,委員15名中13名の御出席で開催いたします。
また今回,委員以外の有識者として,国立大学法人東海国立大学機構機構長及び名古屋大学総長である松尾清一様,並びに,同機構大学総括理事・副機構長及び岐阜大学長である森脇久隆様に御出席いただきますので,御紹介させていただきます。御両名には,後ほど議題1の中で御説明を頂くこととしています。
それでは,議事に入ります。今回の議題1では,「戦略的な国立大学法人経営に求められるガバナンスについて」と題して,本検討会議の名称にも冠している,大学の戦略的経営の実現に向けて,そのためのガバナンスの在り方について議論をしたいと思います。
2019年度の国立大学法人法の改正によって,1つの法人による複数大学の設置が可能となったことを受けて,初めて複数大学を擁する国立大学法人となった東海国立大学機構の松尾様から,その新たなガバナンスの在り方や課題,さらには1法人に統合した効果や新たな挑戦等について御説明を頂き,その後,質疑の時間を設けたいと思います。
次に,事務局から戦略的な国立大学経営に求められるガバナンスの検討に向けて,考えられる論点を説明していただいた上で,東北大学,東京大学,京都大学の各総長である大野委員,五神委員,山極委員から,指定国立大学法人として理想とするガバナンスの在り方について御説明頂いた上で,自由討論を行いたいと思います。
なお,次の議題2では,ニューノーマル社会における国立大学の国際化について議論する予定としており,議事進行上,それぞれ御説明に際しては,議題2に関する大学からの御提案等についても併せて御説明いただくようお願いいたします。
その上で,討論の時間については,議題ごとに分けて進めていくという形とさせていただきたいと思いますので,御協力のほどよろしくお願いいたします。
それでは松尾様,森脇様から御説明を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。
【松尾東海国立大学機構機構長】 皆様,こんにちは。東海国立大学機構長兼名古屋大学総長の松尾清一でございます。本日は機構の総括理事である岐阜大学長の森脇先生と,一法人複数大学制度による東海国立大学機構,以降は「東海機構」と言いますが,ガバナンスと国際戦略についてお話をさせていただきます。
右下,ページ番号の1ページ目を御覧ください。最初に,東海国立大学機構のビジョンについて簡潔にお話をいたします。
我が国が持続可能でレジリエントな社会となるために,一極集中型から地域分散型社会に移行する必要があり,今回のコロナ禍はそのよいチャンスであります。
地域分散型社会を考える際に,スライドに示すような4つの視点が必要です。第1は地域の捉え方ですが,地域とは政治・経済・文化・地形などで共通の特徴を持った一まとまりの土地であり,県境を越えた大きな広がりと考えています。第2に,地域では様々なステークホルダーが連携して自律的に取り組むことが必須であり,地域共創という概念が重要です。なお,ステークホルダーとしては,地域のみに限らず,国やグローバル企業など広い概念で考えています。
第3に,地域と世界との関係ですが,IoTやデジタル化の急速な進展によって,今や地域と世界はダイレクトにつながっています。地域は世界に通じ,世界は地域に通じているということで,これが東海機構の基本的なコンセプトの1つであります。そして最後に,国立大学が地域共創の重要な構成要素として,その役割を果たす必要があります。また,国立大学が存在する地域特性によって,ミッションやビジョン,そしてそれを実現するための方策は多様であるべきであります。その上で,地域間の自由なつながりを,我が国の強みでもあるSINET5などのインフラを通じて実現することが重要です。
東海機構におきましては,「世界と地域は通じ合っている」というコンセプトの下,地域への貢献力と,そして国際競争力と同時に伸ばす新しい類型,すなわち第Ⅳ類型の国立大学法人として,大学改革の1つのモデルを提示したいと思っており,今回の法人統合のゴールとしています。
地域共創の観点から,私どもが提唱しているのが「TOKAI-PRACTISS」という構想です。これは,世界有数の産業集積地である中部地域の産業構造を未来型へ転換し,世界有数のテック・イノベーション・スマート・ソサエティにしようとする構想で,アカデミアは知の源泉として地域の核となり,未来社会づくりを牽引することが重要なミッションであるという共通の認識の下で,東海機構はスタートしております。
東海機構では,次のスライドで,執行部のみならず,両大学の様々なレベルでお互いが議論を深め,大学改革を加速する取組を進めています。
左にありますように,今回,新型コロナ感染症対策におきましても,両大学の一体化意識促進の好機とするように,様々な連携をしております。
また,右にありますように,今回のコロナ禍は,世界を大きく変え,もうコロナ以前には戻りません。したがって両大学の構成員が危機感を持って,東海機構の将来ビジョンや目標をより深く共有する好機であると捉えて,企画段階から両大学の担当者が協議をしながら,8週間連続で,現在ポストコロナウェビナーを開催しています。
ここからガバナンスの話に入ります。
経営と教学は,国立大学において車の両輪であります。スライドの左側を御覧ください。
改正国立大学法人法では,1法人複数大学制における法人の長と学長の立てつけは3つのパターンが可能でありまして,機構長選考会議はそれを決める権限を有しています。
私自身は,機構長選考会議の推薦を受けて初代機構長に就任し,同時に名古屋大学総長も兼ねております。大学総括理事兼岐阜大学長である森脇先生とタッグを組んで,この第3期中目・中計期間,あと2年弱の期間ですが,機構の基礎固めをせよというのが,選考会議から私と森脇先生に与えられたミッションであります。
さて,改めて機構のガバナンスを考えてみますと,法人の長,東海機構の場合には機構長ですが,経営に関する権限と責任を有しています。機構長が学長を兼ねない場合,すなわち東海機構の場合には岐阜大学の場合ですが,機構長は選考会議の意見を聞き,文科大臣の承認を得てから,大学総括理事を任命し,学長の権限と責任を分担できる仕組みになっています。
右側の図を御覧いただきますと,大学運営において,経営と教学は完全に分離できるものではなく,機構長及び大学総括理事,学長が一段の重みを持って,この中では機構の役員会,そして経営協議会,それから各大学の教育研究評議会に参画していること,このことは大変重要であります。このことによって,役員会と各大学との意思疎通や,各大学における戦略的な教育研究活動の円滑な実施が可能になります。
この絵は少しビジーな絵なのですが,まず上段を御覧ください。
1法人複数大学では,大学ごとではなく,機構に経営協議会と監事が置かれます。このうち,特に経営協議会は多様な外部委員が参画をし,外部の意見を大学の経営に反映させ,機構の運営をチェックする役割を担います。そしてまた,機構長選考会議の外部委員ですが,これは経営協議会の外部委員から選出されますので,経営協議会というのは機構長選考に非常に大きな影響力を持っています。
したがって,この経営協議会の外部委員は,大学の状況を深く理解することが重要であり,また大学側も,そのような環境づくりをすることが必要だと思っております。
下の段ですが,各大学,これは岐阜大学,名古屋大学と出ておりますが,同じような絵なので名古屋大学の方を御覧ください。
各大学においては,学長をトップにした運営会議が,その大学の事業の運営に権限と責任を持ちます。また,主に部局長等から成る教育研究評議会は,教学に関する事項を審議して,学長に意見を具申します。評議会はまた,学長選考会議の内部委員を選出する権限を持っています。選考会議においては,外部の委員と内部の委員の数が同数で,選考のルールは,大学ではなく選考会議が合議によって決定します。
部局長の位置づけについては,教員代表としての位置づけと執行部としての位置づけの2面性があると考えています。まず教育研究評議会では,教員代表としての立場から,教学に関する重要事項の審議を行い,大学執行部とチェックアンドバランスの関係を形成します。
一方で,決定事項の執行に当たっては,部局長は執行部の一員として機能します。このように二重性を持っていると思っています。このことは,学長は部局の意見を聞いた上で部局長を任命するという今のプロセスと整合性を持っています。
さて,指定国立大学法人構想で,名古屋大学はシェアドガバナンスを掲げました。シェアドガバナンスは,教員と執行部の健全なチェックアンドバランスの関係性を構築することにより,大学の持てる力を最大化しようというものであります。そして,大学のミッションを円滑に進めることができます。
名古屋大学で取り組んだ事項を紹介します。第1に,重要事項の決定や遂行に当たり,部局や教員との協議・調整を行うプロボスト職を設置しました。そして第2に,構成員の2割を女性にするなど,重要事項を審議する教育研究協議会の多様化と活性化を図りました。
そしてまた第3に,教授選考におきましては,これはプロボストが委員長を務める全学人事プロセス委員会,ここには全学から選ばれた教員の代表が入りますが,全学的視点から選考を行う仕組みを導入しました。
そして第4に,部局と執行部の協働による部局中長期ビジョン策定と共有を行っています。この部局の中長期ビジョンについては,岐阜大学でも本年度から同様の取組を進めていくことになります。
当課機構では,以上のように,1法人複数大学のガバナンスを確立するため,機構長が経営責任を持ち,学長が教学の責任を持つという基本的なミッションを押さえた上で,両者が具体的な役割分担と相互チェックを行いつつ,最終的には一体的に機能すること,これが望ましいと考えています。
このことによりまして,現在は2大学ですが,今後,機構参加の大学や機関が,その数が増えた場合でも,法人としての有効なガバナンスが発揮できるのではないかと思っています。今からそのような将来を見据えた進め方をすることが必要です。
それではここで,森脇先生からも御発言を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。
【森脇東海国立大学機構総括理事・副機構長】 東海機構総括理事兼岐阜大学長の森脇でございます。まず最初に,教員評価制度についてお話を申し上げます。
岐阜大学においては,毎年度の評価と,5年ごとの関門評価を組み合わせた教員評価システムを確立しており,名古屋大学においても来年度からこの評価システムを導入することを決め,機構で統一することになりました。ただし,評価項目や,その重みづけなどにつきましては,両大学の特性もございますので,それに配慮しながら検討を進めているところでございます。
次に,岐阜大学の実績と,東海機構への展開をお示しします。
国,地方自治体,様々な企業の支援を得ながら,各分野の強みを立ち上げ,東海機構の形成に至りました。東海機構では,法人統合の最初の取組として,機構直轄事業を推進しています。これは,東海機構の当面の事業計画を定めたスタートアップビジョンの中でも明確に記載しております。例えば,地域の関係機関とも連携することにより,糖鎖化学,航空宇宙生産技術,医療情報,農学の4つの研究教育拠点の整備・発展に取り組み,邁進しているところでございます。
次,直轄事項のうちでも,特に教育に関するアカデミックセントラル構想――以下「AC」の取組をお話しします。
組織立ては,このスライドにあるとおりです。共通教育部分の改革から始めますが,専門教育のうち基礎的な部分についてもACが担当することとしたことは,当初の構想にはなかった重要な進展です。
今後は,大学においてもデジタルトランスフォーメーションの加速が必要との認識の下,教育においてサイバー空間とフィジカル空間の融合の中で,最も効果的なサイバー・フィジカル・ラーニングを目指します。
具体的には,時空間を共有する対面授業と,地理的・時間的制約を受けない遠隔授業のベストミックスを探求するとともに,ラーニング・アナリティクスによる教育改善システムを構築し,教育の質保証を前提に,留学や国際共同学位プログラム,リカレント教育も含めて,新たな学びの形を創る試みです。
将来的には,このACを地域に開かれた教育プラットフォームとし,更にSINET5を通じて,全国あるいは世界のプラットフォームと結んでネットワークを構成し,先進的な教育システムに発展させたいと考えております。
また,機構からの要望はここにお示しするとおりですが,特に1番,定員に関する規制緩和要望を述べさせていただきます。
東海機構におきましては,将来の組織再編において,大学ごとの定員が変化することも予想されます。すなわち,機構全体の定員が変わらなくても,一方の大学から他方の大学に定員を移した場合,その大学の定員は定められた数をオーバーしますので,現在は運用上認められておりません。
大学そのものの定員の自由化がなされれば何の問題もありませんが,それまでの間は,機構内での定員の移動の自由化をお願いしたいと思います。
国際戦略につきましては,また松尾総長からお願いいたします。
【松尾東海国立大学機構機構長】 それでは,松尾が再びお話しさせていただきます。東海機構の国際戦略です。
今日,大国間の覇権争いや保護主義の台頭と,その対極にある全地球的課題解決のためのSDGsや,あるいはESG投資の動きは,国立大学の国際戦略を考える上で極めて重要です。また,世界の留学生の動向は,コロナ禍により大きく変化することは間違いありません。その中で,ニューノーマルの時代の高等教育の確立等,国際通用性が求められています。
実現には多くの課題がありますが,今正に,これらをスピード感を持って解決することが必要です。
簡潔に,名古屋大学の取組を紹介したいと思います。名古屋大学では,国際化の流れが,2014年度から始まった国のスーパーグローバル大学創成支援事業等によって,明らかに加速されました。インバウンド,アウトバウンドともに大幅に増加していますが,真ん中,それから右端の交換留学も順調に伸びていますが,こちらは英語圏からの留学生が大半を占めています。
これらを支えている取組の一部を,このスライドに示しておりますが,時間の関係で,今日はこの説明は省かせていただきます。
留学生のうち,秋入学で,かつ全授業が英語で行われるG30プログラムは,年々希望者が増えまして,この真ん中のグラフにありますように,ブルーが応募者,下が合格若しくは実際に入学した学生ですが,昨年は学部で入試倍率6倍以上,そして卒業生の4分の1は,右の円グラフにありますように,世界の超難関校に進学していますし,3割の学生は日本の大学に進学,そして4分の1は主に日本で就職しております。
今後,少子化が進む中で,産学官を挙げてこのようなプログラムを拡大することは,我が国の人材基盤を強靱化し,国際交流を進める上で極めて重要です。
現在,学部定員には厳しい縛りがあるため,本日の会議でも議論がこれまでされていますように,優秀な留学生を1人でも確保できるよう,入学定員の緩和・外枠化をお願いしたいと思います。
我が国にとってアジア地域は,北米,EUと同等あるいはそれ以上に重要な地域であると私は考えており,信頼と互助の精神で連携を深めるべきであります。
アジアサテライトキャンパス学院(ASCI)は,政府中枢人材育成プログラムであり,現地で教育を行い,博士号を取得させる制度です。10年間で50名以上の大臣・局長級人材の輩出を目指しています。これまで54人が在籍しており,そのうち17人が博士号取得しました。
名古屋大学ではこのほか,日本法教育研究センター(CALE),医療行政修士を育成するヤング・リーダーズ・プログラム(YLP),国際開発学などなど,アジアをターゲットにした多様なプログラムを通して,多くの人材を育ててきました。
このスライドにはその一部を示しておりますが,名古屋大学で学位を取得した人材が数多く国家中枢の要職に就いているということを示しています。
国際基準の質を伴った共同学位プログラム,ジョイント・ディグリープログラム(JDP)は,このスライドに示すように,多くのメリットを持っています。JDPの標準プログラムでは,パートナー大学への長期留学を含む単一共同カリキュラムにより,両大学名で学位が取得できます。名古屋大学と岐阜大学は現在,諸外国の有力大学と10個のJDPを展開しており,東海機構においてはこれを一層拡充したいと考えています。
課題としましては,研究科であっても新しいプログラムを創ろうとすると,設置基準においてプログラムの数だけ専任教員を置いた専攻を新たに立ち上げる必要があるなど,大学側には極めて大きな負担がかかるシステムとなっています。また学費も,学費は相互援助されますが,パートナー大学での滞在費用など,経済支援も課題であります。規制緩和要望として,設置基準の緩和や留学生定員の外枠化,これを強く求めたいと思います。
それから,この会議でこれまで検討されています様々な規制緩和については,名古屋大学も全く同様の考えでありまして,本日あえてリストアップすることはしておりません。
私どもの方からは以上でございます。どうもありがとうございました。
【金丸座長】 ありがとうございました。それでは,まず今の御発表についての質疑応答の時間を少し設けたいと思います。なお,議論につきましては,意見交換につきましては,全ての大学からの御発表が終わった後にまとめて時間を取りたいと考えておりますので,まずは松尾機構長,森脇機構長に御質問がある方は,「手を挙げる」ボタンを押していただくか,カメラに写りやすいように手を振っていただけますでしょうか。また,発言終了後はマイクをミュートにするとともに,「手を下ろす」ボタンを押してくださいますようお願いいたします。
それでは,御質問のある方はいらっしゃいますでしょうか。
松本美奈委員,お願いいたします。
【松本委員】 御説明ありがとうございます。1点確認させてください。資料の6枚目です。機構長は文科大臣が任命とあって,そして岐阜大学の学長は機構長が任命というふうに書いてあります。
国立大学法人法の12条に,学長を任命するのは大臣と書いてあります。ということは,この学長の任命権者は大臣ではなくて機構長になっているということですか。
というのが1点と,それからもう1つ,左上の監事なのですが,監事は誰が任命しているのでしょうか。
【金丸座長】 では松尾機構長,お願いできますでしょうか。
【松尾東海国立大学機構機構長】 これは,文科大臣が任命できるのは法人の長だというふうに理解をしておりまして,ただ,私どもの方で,この大学総括理事,これは学長に当たります。これについては,先ほど言いましたように,やっぱり機構長選考会議の意見を聞き,そして文科大臣の承認を経てから,機構長が任命するということになりますので,普通の理事を任命するようなのとは違って,これはしっかりした手続が取られているという意味で,先ほど申し上げたように,普通の理事とは違う重みを持った役であるということです。
法律上そういうふうになっておりますので,私どもはそういうふうにさせていただいています。
それから,もし法人の長と学長を違う人間が行う場合には,この機構の一体的な運用という観点からは,全く関係ない人がやられる場合には,様々な科大学あると思っています。
それから,監事は大学から推薦はしますが,監事を任命するのは文科大臣だというふうに考えています。もし私の解釈で間違いがございましたら,どなたか指摘していただければと思います。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは小林委員,お願いいたします。
【小林委員】 非常に斬新というか,アクティブなガバナンスのトライアルで,大いに応援したいなと思うのですが,民間でもこのホールディング制度,持株会社制度という形でのガバナンスが非常に増えてきていて,ひとつの考え方として相当主流になりつつあります。民間の場合,持株会社は,ブランドの認知向上とか,事業ポートフォリオマネジメントとか,あるいはコンプライアンス,内部統制とか,そういう機能をメインにしていて,傘下の各事業会社は,ここで言う機構傘下の各大学が機構と一定程度分離して自ら教学のエグゼキューションに当たるのと同様に,ある意味では独立した形で事業経営を行うものとして制度設計されています。そこで質問なのですが,岐阜大学と名古屋大学がこういう形でハイブリッド化するに当たって,機構の役員構成数の割り振りは何をベースにやっておられるのでしょうか。学生数なのか教員数なのか,予算規模なのか,あるいは学問の実力なのか,非常にまとめるのが大変な論点だったと思うのですが,その辺りがどんな感じだったのかお聞きしたいと思います。
【松尾東海国立大学機構機構長】 これは端的に申し上げまして,大学の規模も教員数も学生数も違うのですが,このスタートに当たっては,ほぼ同数にしております。名古屋大学からの理事の数は1人多い形になっております。経営協議会等の委員の推薦等については,今回は同数にさせていただきました。
【小林委員】 大変な知恵ですね。分かりました。ありがとうございます。
【金丸座長】 ありがとうございました。それでは,どなたかいらっしゃいますでしょうか。
篠原委員,お願いいたします。
【篠原委員】 松尾先生,どうもありがとうございました。簡単な質問なのですが,今回,日本で初めてこういう機構を創られたことに対して,さっき地方ではなくて地域というお話もあったのですが,具体的なその地域の産業界とか,若しくは学生の方とか,そういうステークホルダーの方々から,具体的な期待やコメントのようなものは,もうお耳に入っていらっしゃるのでしょうか。
【松尾東海国立大学機構機構長】 まず経済界は,既に中部経済連合会とか名古屋商工会議所等は,県境を越えて,大分広い地域でやっているんです。ですから,例えば中部経済連合会などは,遅過ぎると。何でもっと早くやらんのだという,むしろお叱りというか,応援するので頑張れということです。
それから,まだ変わった実感がないのが,学生だと思います。従いまして,私どもがこのアカデミックセントラルをつくって,まず共通教育からやっていくのですが,今までの岐阜大学や名古屋大学とは随分変わったという実感を早く持ってもらうように,相当突っ込んで両大学で議論をし,やれることは始めていくということです。
例えば夏のサマーキャンプ,これは全部英語でやるのですが,こちらには名古屋大学だけではなくて岐阜大学の学生も加わって,これは機構成立前から既にやっていますし,幾つかの同じようなプロジェクトを一緒に既に進めています。
ただし,学生に聞いてみると,それほど大きな意識改革はまだないと。教員の方は最近大分出てきました。
森脇先生,地元の反応などをお願いします。
【森脇東海国立大学機構総括理事・副機構長】 岐阜大学の森脇でございます。まず地元の経済界,それから県をはじめとした官界の反応でございますが,先ほど松尾機構長がおっしゃいましたように,応援する,もともとこのような構造の東海地域であったかなという理解で,非常にバックアップをしていただいております。
それから学生については,岐阜大学側の事情を申し上げますと,実は岐阜大学に入学する学生の3割が岐阜県出身,5割5分が愛知県出身で,両方合わせると8割強です。出口の方を見ましても,同程度の人数が,もちろんひもづいているわけではありませんが,この東海2県,両県に就職していくということで,そもそもこの地域の大学であるという認識を持っている人も大分増えてきております。
そういう点で,愛知県と岐阜県の,名古屋大学と岐阜大学の機構というものが,更に根づいていくものではないかと思います。
直近で一番評判がよかったのは,図書館の共用が可能になるという,そこのところの情報で,大変喜んでくれたということも,今,実感として持っております。
以上です。
【金丸座長】 ありがとうございます。
山極委員,お願いいたします。
【山極委員】 京都大学の山極です。松尾先生,森脇先生,大変御苦労だったと思いますが,私の質問は,入学試験はどうするのかということです。
学部と大学院,これはそのまま踏襲するとものすごくたくさんの試験をやらなくちゃいけないし,その試験問題を標準化するのに,両大学でどういうふうに取り組むのか,大変だと思うのですが,その辺りはどうなんでしょう。お考えをお聞かせ願えればと思うのですが。
【松尾東海国立大学機構機構長】 これは単一の入学試験でやるということはまだなく。別々に入学試験をやるのですが,先ほど森脇先生が説明されたアカデミックセントラルにおいて,両大学の教育推進部,教育関連の教員,それから事務の担当者が,連携の構想について精力的に相談をしています。
そういう中で,今,山極先生がおっしゃった,入試について共同できるところがないかということを,作問も含めて検討中ではあるのですが,拙速になってはいけないなと考えています。ただ,議論はしております。

【森脇東海国立大学機構総括理事・副機構長】 お返事は松尾機構長と同じなのですが,アカデミックセントラルの立ち上げにおいて,まず全科が共通教育で入っていって,今,専門基礎教育の共通化という議論が進んでおりますが,そこまで行きますと当然,一部についてから始まるのでしょうが,入学試験についても共同化,共通化というものが議題になって上がってくるかと思います。
今日,私が要望事項の中で述べました1番で,学部定員の流動性といったことも含めまして,それも両方絡める格好で,更に議論が進んでいくのだと理解しています。
以上です。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは曄道委員,お願いいたします。
【曄道委員】 上智大学の曄道でございます。この機構という組織を運営するために,やはり人事的な,あるいは財政面での増というものも,当然発生するのではないかなと思うのですが,その辺について,どういう面でというところ,あるいはどの程度のというところを簡単に教えていただければと思いますし,反対に,2つの組織が機構の下でというところでの効率化という面も多分出てくると思いますので,その辺の差引きというか,教えていただければと思います。よろしくお願いいたします。
【松尾東海国立大学機構機構長】 簡潔に述べたいと思いますが,新たに機構をつくると,例えば事務を別途置いたりすると,普通は増えてしまいます。
そういうことはありますので,現在は,どちらかの大学の,例えば教育担当の事務の部長は,機構の部長も兼ねるという形で,それを隅から隅まで徹底して,少なくとも人は増やさないようにしています。
それから2つ目は,ちょうどコロナが起こったので,事務部門で検討していることは,徹底的な事務作業のデジタル化,テレワークを推進し,これで浮かせた人員を,機構で行う新しい事業につぎ込むことを検討しています。
これについては,補助金等は一定期間出るものもあるのですが,将来的には大学で全部賄っていかないといけない中で,外部資金を取ってくるのと同時に,こういう効率化が必要です。
計算はしたのですが,こうやってやるとこれだけ浮くよと,構成員には示しているのですが,必ずしもそううまくはいっていないというところで,これから進めたいと考えています。
森脇先生,理事会のことなど。
【森脇東海国立大学機構総括理事・副機構長】 今の御質問に対する答えの一例として,非常に分かりやすい数字をお示ししたいと思いますが,統合前の両大学の学長プラス理事の数というのは,名古屋大学が8,岐阜大学が6だったんです。それが,東海機構になると,単純に足しますと14になるわけですが,実際には機構長,副機構長,理事,それから外部理事を全部合わせて7で済んでいるわけで,そこで人数の大変な削減を実際にしております。
その分を,人も財源という考え方をして振り分けて,機構で先ほどの拠点だとか,あるいはアカデミックセントラルだとか,そういう業務に振り分けるという計算と,今,実施に取りかかっているところです。
これが,そろばんをはじいた場合にどういう出方がしてくるかという結果が出るまでは,もうちょっとお待ちいただきたいと思います。
以上です。
【松尾東海国立大学機構機構長】 追加をさせていただきますと,名古屋大学でも8名で本当は理事が足りなくて,副総長を追加して10名以上になっていて,それで執行部をやっていたんです。ですから,7名でやれるわけはないので,これは両大学の副学長や副総長を置いておりますから,これで密接に連携をしていただいて,それを機構の理事が幾つかの部門を統括する形としています。
【曄道委員】 どうもありがとうございます。
【金丸座長】 ありがとうございました。それでは,議事を進行させていただきます。次に移らせていただきます。
それでは,事務局から,まず議題1に関する論点資料の説明をお願いいたします。
【生田高等教育局視学官】 ありがとうございます。資料1-2に基づきまして,事務局の方から,ガバナンスの関係の論点を少し御説明させていただければと思います。
まず,今回このガバナンスを議論するに当たりまして,当然,文科省としましては,国立大学の,これから機能を拡張して,社会変革の原動力にならなければいけないと。そのためには,やはり経営体に進んでいかなければいけない。そうすると,そのためには当然,裁量拡大で資金調達ということが必要ですし,当然それを使いこなす経営体制というものが必要になってくるのではないかと。
その経営体制は,もちろん,この会議の命題であります自律的契約関係とのリンクになってくると思いますが,いずれにしても,社会からの信頼・対話ですとか,マルチステークホルダーという意味合いにおいて,国立大学法人がどのようなガバナンスであることが期待されるのか,そういった観点から,今日は御議論を頂ければと思っております。
最初に2ページ目でございますが,こちらは国立大学法人の現行のガバナンス体制を提示しております。これは1回目の資料でも,このページを使わせていただいておりますので,簡単に振り返らせていただきますと,学長のリーダーシップの強化,これについても法改正等々で様々な制度改正が行われてきております。
例えば真ん中のところ,「法律改正により」というところでございますが,副学長の職務内容の明確化ですとか,教授会が決定機関ではない旨の明確化,そして学部長は学長の定めるところにより任命されることが明確化されると同時に,意向投票の結果をそのまま学長の選考結果に反映させることは不適切であることを,通知において明確化をしております。
そして,先ほど東海機構から御説明がありました,法人の長と大学の長の分離が可能になったのが,今般の法改正でございました。
そして,この2つ目の,意思決定システムの透明化・明確化,ここも,2015年法律改正によりまして,学長選考の基準の策定・公表ですとか,経営協議会の委員の過半数を学外委員とするといったことが定められ,今回の1法人複数大学の法改正と同時に,学外の理事の複数化も義務づけがなされたところでございます。
最後の機能強化の促進支援策,様々な指定校制度ですとか,一部人複数大学制といったものに加えまして,ちょうど2020年3月30日付で国立大学法人ガバナンス・コードといったものが作られております。こちらについては,法的な拘束力はございませんが,いわゆる基本原則となる規範,ソフト的なローとして,コンプライ・オア・エクスプレインの考え方を基礎としたものとして,本日のガバナンスに関連するようなことも,かなりこの中でも書き込まれている状況でございます。
続いて3ページ目に行っていただきますと,こちらは,話は変わりまして,本検討会議で,ガバナンスについて,なかなか時間的にもまだ御議論いただいていないと思うのですが,今まで委員の方々から頂いた内容を少し整理しております。
1点目としましては,まずは民のガバナンススタイルを基本とした上で,やはり国立大学の特殊性といったものを踏まえて,制約上の条件を課していくという発想が必要ではないかですとか,経営協議会の実効性を持たせることが重要ではないか。そして,やはりポートフォリオを柔軟に転換できるような戦略的自由度の高いガバナンス体制といったものが必要ではないか。そして最後,コガバナンス,シェアドガバナンスを屋台骨として,日本型のガバナンスの在り方というものが必要ではないか,このような御意見が出ていたかと思います。
4ページ目以降が,少し事務局から,論点,御提案,このような考え方で本日御議論を頂ければということで,少し話題提供をさせていただいております。
まず1点目,ここで主眼と置いておりますのは,様々な組織がございまして,学長選考会議,役員会,経営協議会,教育研究評議会がございます。当然,経営協議会,教育研究評議会が共同統治をするという形になってございますが,一方で,学長選考会議について少しフォーカスを当てさせていただいております。
こちらの構成員,先ほどの東海機構の説明の中にも少しございましたが,経営協議会の外部の委員と,それから教育研究評議会の中の人間が同数で構成されております。また,その経営協議会の外部の人間も,ある意味,学長が任命をする学外者という形で設定されているところでございます。
ここに加えて,表の下の方に書いてございますように,定めにより学長又は理事を加えることが可能と。当然,その総数としては,全体の3分の1を超えてはならないというふうに規定されておりますが,結果的に,本来,外部と内部が同数だったところに,学長ですとか理事が加わることで,中の人間の方が多くなってしまうといったケースもあり得る,今の仕組みになってございます。このことについてどう考えるのかというのが1点目でございます。
2点目につきましては,今申し上げましたように,そもそも学長を決める学長選考会議,議長は委員の互選でございますが,そこに現学長が構成員になり得ると。このことについてどう考えていくのがいいかということを,ここでは論点として出させていただいております。
この学長選考会議につきましては,ここでは選考という名前では書いているのですが,少し飛んでいただいて6ページ目の下のところに,牽制機能の在り方として,一番下,学長選考会議の役割,これは牽制機能も持っております。選考のみならず,学長の経営状況をチェックする機能を持っているのですが,ただ,これについては現状,法律に書いてあるということではなくて,26年の法改正の施行通知の中で,業務執行の状況の恒常的確認といったことが,学長選考会議の役割として書かれているにとどまっている状況でございます。
ある意味,学長選考会議というのが,どちらかというと,先ほど御紹介したガバナンス・コードの中でも,国立大学法人のガバナンスの中心を担う,極めて重要な機能だというふうに書かれておりまして,ここの構成及び……。
【金丸座長】 すみません,画面に資料が出ていません。
【生田高等教育局視学官】 すみません。学長選考会議につきまして申し上げたかったのは,構成員の在り方,そしてその役割,機能の在り方という点について,今回論点として1つ目に提示をさせていただいております。
続いて,5ページ目に移らせていただきます。ここが論点の2つ目でございまして,法人執行部の体制の在り方でございます。
先ほども東海機構の理事の人数,2つが一緒になってかなり減らしたという話もございましたが,実はその理事の数につきましては,国立大学法人法上で規定されているところでございます。5ページ目の上半分のところでございます。
この理事の数が,それぞれの大学の規模などに応じまして,法律で規定されておりまして,これをある意味柔軟化するということについて,どう考えていったらいいのかということを,少しこちらで提案をさせていただいております。
イメージとしては,事前規制から事後チェックへという流れが,こちらの会議の主眼かと思いますので,ある意味,ここら辺の柔軟性を大学側に委ねる,ただしその場合,不必要な肥大化を防ぐ観点,この仕組みなり事後チェックの在り方といったところもどうあるべきかといったような観点を,論点として挙げさせていただいているところでございます。
5ページの下半分は,先ほど東海機構の方から詳しい御説明がありましたので,説明は省略いたしますが,正に今回,法改正で経営と教学が分離できるようになった,これを,どういったときにこういったものを活用すると,より効果的な経営が行われるか,そういった観点も,論点としては挙げさせていただいております。
続いて6ページ目に移らせていただきます。6ページ目の上,これはガバナンスにおける外部性の確保でございます。
ここは,外部性という意味では,経営協議会は過半数,そして学外理事の数も複数ということで法律は示されておりますが,今回議論したいのは,人数もそうなのですが,学外の方々の役割の明確化ですとか実効性の担保,ここら辺について,論点として挙げさせていただいております。
なお,当然,この括弧書きで書いているような適切な課題設定,審議を活性化させるための運営方法の工夫といったことは,先ほどの繰り返しになるのですが,ガバナンス・コードにおいても少し言及をさせていただいているところではございます。
同様に,その下の監事についても同じことが言えまして,要は,外の方がある意味,中のことを知るために,どのような体制整備,そして例えば常勤化の模索,いろいろな実質化に向けたやり方が,論点としてはあり得るのかなという形で書かせていただいております。
最後の論点,7ページ目に移らせていただきます。こちらは,経営者であるべき学長候補者若しくは執行部といったところの人材育成確保を論点として挙げさせていただきました。
これから,国立大学が運営ではなく経営だといったときに,やはり学長に必要な資質・能力,そしてそれをある意味育成していくような仕組み,養成していく,若しくはキャリアパスを形成していく,そのようなことをどのように考えていったらいいのか。
もちろん,その大学に任せるというのもあるかもしれませんが,いろいろなプールをする仕組みとか,様々な工夫があるのかということを論点として挙げさせていただいております。
そして,学長の任期,選考の在り方でございます。任期についても,当然,今は各大学ごとに決められておりまして,それを何かしようというわけではございませんが,学長任期と中期目標の期間との関係をどう捉えていったらいいのかということを,論点としては挙げさせていただいております。
次の意向投票,これは,冒頭申し上げました学長選考会議の実質化,その機能強化といったものと連動する話ではないかと思っておりますが,プロセスにおける意向投票をどう考えていったらいいのかということを論点にしております。
そして最後に執行部のダイバーシティ,こちらも,女性ですとか国際性といった観点の確保策,こちらもガバナンスの論点の1つとして挙げさせていただいております。
事務局の説明は以上でございます。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは引き続き,大野委員,五神委員,山極委員から御説明を頂きます。御発表については,議題2の内容も併せてお願いいたします。
初めに大野委員から御説明を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。
【大野委員】 ありがとうございます。東北大学の大野です。それでは,私の提出いたしました資料に基づいて御説明をさせていただきます。資料1-3でございます。まずは,時間も限られていますのでお話をさせていただきたいと思います。
ガバナンス改革という意味では,私たちの大学としては,今までの中期目標を管理するやり方から,エンゲージメント型,多くの多様なステークホルダーとのエンゲージメントで変わっていきたい,そのための大学経営を心がけたいということで,今の枠の中でも様々なことを行っているということをお話ししたいと思います。
3ページに,現在の東北大学の体制がございます。これは後からお話を幾つかさせていただきますが,意向投票というのは,総長選考会議では今,行ってございません。また,プロボストを導入し,かつ経営協議会,非常に活発に今,議論をしていただいています。そういうところをお話ししたいと思います。
3ページの右の監事は,そこにありますように監査室6名体制で専任者を配置して,監事の役割をサポートできるように,体制を作ってございます。
4ページ目をお願いします。これは総長選考会議ですが,2005年以降,意向投票というのは,総長選考会議では行っていません。左下の方にA・B・Cとございますが,様々なボディーから候補者を推薦することができます。また,上の四角のところにありますが,総長選考会議自身も,独自に推薦することができます。委員構成は学外・学内,6名・6名で,私ども,学長,理事はここには入ってございません。
次のスライドお願いいたします。これは経営協議会でございます。東京駅の至近で開催しております。毎回,非常に戦略性の高い議題を選定していることもあって,自主的な審議というか,2時間で年4回ですが,審議を時間内に収めていただくのに非常に苦労しているという,活発な会議を今,行っております。
その中で,経営協議会は経営だというお話ですが,先ほどの松尾機構長のお話にもありましたように,経営と教学は必ずしも分けられるわけではなく,また多様なステークホルダーという意味では,経営協議会の皆さんが教学に関しても様々な御意見をくださいまして,東北大学が強化すべき研究領域はできるだけ絞って,まずは進めたらいいのではないかなどなど,非常に有益な御意見を頂いて,それを反映してございます。
6ページをお願いいたします。これは,役員における多彩な,多様な人材を登用しているということですが,震災復興に対してだけではなくて,社会課題に対応する理事を1名置いているのに加えて,ここにありますように理事と副学長も含め,学外者を4割,そして女性は3割という体制になってございます。
次お願いします。7ページにはプロボスト制度,どうしても大学は,これまでの運営の仕方から縦割りになりやすい。それではよろしくないということで,横串機能をプロボストに持たせております。
下の四角に幾つかございますが,ビジョンの策定であったり,全学の人事戦略会議であったり,総額65億円の総長裁量経費の戦略的執行,データ駆動型研究,あるいはエビデンス・ベースド・マネジメントなどなどを,ここでやっております。
こういった取組みや,そして先ほどの理事,副学長の人材は,例えば大学トップマネジメント研修,これは上山先生が主催されている研修ですが,実は本学は5人,そこで面倒を見ていただいて,様々な知見をそこで得,また人材を登用しているということでございます。
8ページをお願いします。これは,ガバナンスとしての目標設定です。2018年11月に「東北大学ビジョン2030」を設定して,2030年には我々はこういう大学になっていたいんだと,そこまでの工程表も含めて出したわけですが,コロナで随分様相が変わり,様々な部分の加速が必要になりました。この7月に発表することになっていますが,ニューノーマルを見据えた社会変革を先導する大学ということで,コネクテッドユニバーシティ戦略というものを出していきます。
9ページをお願いします。コネクテッドユニバーシティの1つは,緊急事態宣言の中で,我々,例えば約7割の事務職員の在宅勤務を実現したり,現在4,000科目の授業の完全オンライン化を提供していますが,そこから見えてきたのは,ここにあるように学生あるいは卒業生が常に窓口に行かなければいけないというのをやめにしよう,印鑑をやめよう,働き場所も自由にしようということです。印鑑をやめるだけで年間8万時間の作業時間が削減されると計算しています。
次のスライドお願いします。こういうことを我々としてはやっていきたい。つまり,エンゲージメント型に大学経営を変えていきたいと考えています。これは毎回申し上げていて,またこの話かと言われるかもしれませんし,評価を否定するわけではありませんけれど,今,評価の業務にものすごい時間と人を割いています。ですから,ここの例えば半分,あるいは3分の2をエンゲージメントという方向に振り向けることができると,私たちとしては,経営が加速的に変えられるのではないかと考えています。
次のページをお願いします。ここからは国際協働です。直近の課題としては,ここにありますニューノーマル時代の人材獲得戦略,それから国際ネットワークの強化ということです。
次のページをお願いいたします。私どもの特徴といたしまして,学位プログラム,分野横断的なプログラムを展開しています。これは全てドクターコースに対するプログラムですが,その中でも,国際共同大学院プログラム,今9件進めていますが,13ページをよろしくお願いいたします。
このプログラムは,6か月の研究留学を必須にしている一方,参加する学生諸君には,生活費を,自立できるだけの生活費を援助する形のプログラムです。ですので,少しお金がかかり過ぎるのが悩みの種なのですが,今年の時点で230人,留学生34名が参加しています。
ここのアイデアは,我々の強い研究分野と,海外のその研究分野に強いところと,共同で,我々の学生,あるいは先方の学生を指導しようというものです。
我々はそれをJointly Supervised Degreeとして,共同で指導するという体制にしています。現在あるジョイント・ディグリーのような形にしていないのは,やはり様々な規制があって,分野横断型にしようとするとものすごくコストがかかるので,我々はこういう形でやろうと,こちらに舵を切っているところでございます。
次のスライドをお願いします。大学として戦略的なパートナーシップというのは非常に重要でして,研究でも国際共同大学院プログラムと同様に―教育と研究を掛け合わせた形で強化しようとしています。さらに,こちらは研究に特化したパートナーシップです。右側にありますのはマッチングファンドで,我々の資金と先方の資金を出し合います。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン,あるいは清華大学,ロレーヌ大学が資金を双方出し合って,一緒に研究をしようと最近始めたものですが,非常に大きな成果が期待できる,活発な活動になっています。
次のページをお願いいたします。
国際協業として博士学生のことを中心にお話ししてきました。博士学生に関しては,現在授業料を実質無料としています。平均130万円を,留学生も含めて支給してございます。
時間がございませんので,次に進ませていただきます。16ページをお願いします。
このコロナの時代に,学部学生,つまり高校生の人材獲得競争が世界で非常に激化しています。
これまでも,松尾機構長のお話にもありましたが,学部学士コースには非常にいい学生が私どものところにも来ております。SATスコアでも非常に高い,これ以上は取れない,満点を取ってくる者もたくさんいます。
こういうところを広げていきたい。しかもこれまでにオンラインの入試,AO入試なども進めていますので,そういうノウハウの蓄積もあります。
17ページをお願いいたします。ということで,これも繰り返しになりますが,先ほどのお話にもあったように,今は厳格な定員管理が影響していて,学部学生の留学生比率は2%にとどまっています。大学院生も入れますと18%ぐらいです。ドクターの学生の4人に1人が留学生です。
大学院レベルではかなり国際化がされていて,かつ人材獲得もうまくいっているのですが,学部段階では,我々はこういう力もあり,非常にいい学生も採れているにもかかわらず,それを拡大するという道が,今は塞がれているということでございます。
18ページ,最後のページです。この最後のページで申し上げたいことは,やはり国立大学,特に今,100年以上の歴史のある国立大学は,多くの留学生を世界に輩出してきました。私たちも毎年1,600名ぐらいの留学生が巣立っていきます。そういう留学生をネットワーク化し,我が国のサポーターになってもらうような仕組みをどんどんつくらなければいけないと考えています。
今日の夜に,オンラインで留学生同窓会をするということで,アジア地区だけで百何十名が集まってくれます。そういう試みを,大きな人材の頭脳循環という形で実現していきたい。それには,一番下に,繰り返しですが,やはり定員であったり授業料であったり教育プログラムなども含めて,今ある制約を抜本的に見直して,柔軟で機動的な大学の力を発揮できるやり方に,是非,環境を整えていっていただきたいと願うところでございます。
私からは以上でございます。どうもありがとうございました。
【金丸座長】 ありがとうございました。
続けて五神委員から御説明を頂きたいと思います。
【五神委員】 五神です。まず,先ほど局長からアナウンスがありましたように,大学債発行のための政令改正が閣議決定されました。このことは,大学の財務経営にとって画期的なことになるだろうと思っています。今後は大学債発行と連動した形でガバナンスの問題を考える必要があり,この会議の初回から議論していたことが実践できたということは,この会議のガバナンス論に実態を持たせるためという意味でも,非常にタイムリーだと思います。大変御苦労を頂いた文科省の方々に感謝したいと思います。
このように状況が劇的に変わることを体験したことも踏まえて,これから私たちの考えを述べたいと思います。
次のページをお願いします。ポストコロナの時代には,大学経営の旧来のビジネスモデルはリセットされることになります。現在のウィズコロナの状況においても既に,世界中の大学のビジネスモデルは転換を迫られています。
この会議でも何回か紹介しました,世界の11大学からなる国際研究型大学連合(IARU)において,私はこのタイミングで議長を引き受けています。IARUでは,各学長が必ず年1度,顔を合わせて,2泊3日ほどかけて議論をするのが活動の特徴です。今年はケープタウン大学がホストとなり,4月の下旬に南アフリカのケープタウンにてその会議の開催が予定されていましたが,コロナの影響で中止となってしまいました。しかし,このような時期だからこそ,各大学とも議論すべきことがたくさんあることを私は議長として認識していたので,代わりとなる会議をオンラインで開催することを決定しました。
しかし,世界各国から参加するオンライン会議は時差の問題のために日程調整が難航しました。結局,3回に分けて開催し,私は議長として3回全てに参加しました。そのこともあって,各国の大学の状況をよく理解することができました。
スライドにありますように,オーストラリア国立大学(ANU),オックスフォード大学,シンガポール国立大学,それぞれ全ての大学にコロナの影響が直撃しています。特にレジデンシャル・カレッジという,全寮制できめ細かな教育を行うことで高付加価値を生む,オックスフォード大学の学長がhighly personalized educationと称していた形態で経営をしてきた大学が特に大きな影響を受けています。
アメリカでは,大学の収入を支えていた大学スポーツが直撃を受けています。例えば,カリフォルニア大学バークレー校などでは,億単位の年収を得ていた大学スポーツの指導者の雇用がペンディングになっている状況と聞きます。
英語圏は,こうした収入減に直面したことで,オンライン教育を高付加価値化して世界の学生に提供するビジネスモデルを,既に本気で始めています。ですから,これと同じ英語を用いたオンライン教育モデルを日本が追いかけることは,母国語ではない日本の大学にとっては本質的に不利だと考えられます。
しかしながら,世界の感染拡大の状況からすると,第2波への対応次第ではありますが,日本は比較的安全であるとみなされています。オックスフォード大学では,キャンパスへの立ち入り再開を検討する際に,自身が感染することに強い恐怖を感じている学生にどのように対応するかが問題だと言っていました。これは,世界中から学生を集めることができていた大学の経営モデルがリセットを迫られているということの一つです。その点,国際化について日本は後発だからこそ有利であるという見方ができます。しかし,どこにチャンスがあるのかという判断を間違いますと,当然,ポストコロナで日本の大学だけが一層立ち遅れることになります。欧米トップ大学とも繋がるハイレベルな教育を廉価に提供している日本は,日本語,日本文化を付加価値とすれば勝機はあると考えます。
次のページをお願いします。以上のことから,ニューノーマルの大学モデルの構築はとても重要です。後ろに参考資料として添付しましたが,6月16日に行われた未来投資会議では,金丸座長と私の意見として,知識集約型社会として日本を変革するためには,大学の役割を拡張していくということが正に必要である,というものが取り上げられました。今回,大学による長期債券の発行が可能になったことで見えてきたのは,“大学ニューノーマル”を公共財として,学問・教育を担う中で公共的なサービスを行うことで,民営化ではない,経営体としての,日本発のグローバル大学が創れるのかもしれないなということです。
そのためには次の3点を一体として実現させることが必須と考え,これまで東京大学は取り組んできました。第一に,日本独自の教学ビジョンと,それを支える経営モデルを構築することが重要です。大学の強みというのは様々ですが,国際的に求心力があるものが必要です。梶田隆章先生によるハイパーカミオカンデプロジェクトはその典型例です。しかし何よりも強みとして重要なのは,話者人口が世界の言語の中でもかなりの上位に入る日本語を用いて,きちんと教育ができるのは日本だということです。それに加えて,日本語を話さない研究者や留学生も集められるような対応をすることで,日本の文化をきちんとつなぎ広めていくことも重要です。
第二に,自由裁量が可能な経営資源の調達は極めて重要です。東京大学は100億,200億円という規模の産学協創を幾つも進めてきましたし,台湾の半導体大手のTSMCや量子コンピューターを開発するIBMといった海外企業と,日本の産業界をつなぐゲートウェイとなる新しい収益モデルを構築してきました。
第三に,こういった大学の役割拡張によって,多様なステークホルダーとの対話を重視する,新たなガバナンス体制を構築する必要性が生じることを痛感しています。
次のページをお願いします。ちょうど最近,日経ビジネス6月8日号に,「東大の力~日本を救えるか」という特集号が出て,東大の様々な新しい取組をビジネス誌の立場から見ていただきました。
次のページをお願いいたします。旧来の大学の枠を超えた取組については,先ほども少し触れましたが,改めて紹介します。UTokyo Gatewaysは,東京大学がゲートウェイとなることで,日本の産業界が海外の先端半導体企業とつながり,例えば3ナノメーターとかそういった超微細な半導体のデバイス設計・試作製造の道を開くことを考えました。量子コンピューターにおいても同様です。
組織対組織連携による産学協創も,旧来の大学の役割を超えた取り組みといえます。また,やはり学問というものを世界に伝える,特に日本の市民に伝えることはとても重要ですので,フランスのコレージュ・ド・フランスとも連携を進めながら,その日本版を創るべく,“東京カレッジ”を立ち上げました。
さらには,未来ビジョンを世界の産学と創るために,日韓関係の緊張状態が続く中,去年の12月に,韓国SKグループの崔泰源会長が設立した財団のフルサポートで,東京フォーラムを10年事業としてスタートしました。今後もフォーラムは毎年,東京で開催される予定です。去年の12月は,特に日韓の経済の緊張が高まっていた頃でしたが,日韓の重鎮,例えば経団連の中西宏明会長や,日本商工会議所の三村明夫会頭,そしてみずほフィナンシャルグループの佐藤康博会長らが,韓国の財界トップの方々とともに登壇し,本音で語り合うセッションもありました。こちらも,大学のニュートラリティが国際的な難しい問題へのアプローチに貢献するという意味で,大学の機能の拡張であると考えています。
次のページをお願いいたします。大学の経営力強化のためには,国の役割は極めて重要であります。大学が経営裁量を発揮するだけの財源,資源がなければ,ガバナンスの議論は意味をなしません。
その裁量の基になるようなものがないままガバナンスの議論をしても,大学の機能は縮小の道しかありません。順番を間違えると,国と大学どちらにとっても不幸になります。大学が裁量を発揮できる環境を国が用意して初めて,優秀な経営者が力を発揮できるだろうと思います。
既存の議論の延長線上の,運営費交付金をどうするかといったことも重要なのですが,その発想だけでガバナンスや評価について議論してしまうと,むしろ意味のある大学変革の妨げになってしまうということを,是非伝えたいと思います。
真の経営体になるためには,やはり先行投資資金が必要です。松尾先生のお話を聞いて,あれだけの大変革を先行資金なしでやるというのは,よほど大変だろうなと思いました。理事の数も減っているわけですから,普通の企業だとしたら相当苦しい状態だと思います。
やはり改革のためにはリフォーム資金は絶対必要で,先行投資財源は確保すべきです。東京大学の今回の長期の大学債発行は,30年債や40年債を想定していますので,先行投資のための大きな起爆剤になることは,まず間違いありません。
そういう意味で,機能拡張した国立大学が経営力を強化して真の経営体となるために,国には国の果たすべき役割があります。まず,大学が真の経営体となることを前提としていない制度を,必要に応じて改正することです。
まず経営裁量の拡大が必要です。また,先行投資資金の確保方策は,債券発行によって何とか道筋は見えてきましたが,更に拡大する必要があります。そして,拡大する中で,ステークホルダーも多様になっていくので,それを意識した会計,評価制度の見直しが必要です。説明用の表を新たにつくる準備をしています。
今回,債券発行を現実的に検討するにあたって,大学の経営状態について,財務諸表などでどう表現できるか考えたところ,現在,法人法とその会計基準で定められている財務諸表は,市場に対する説明資料としては十分に機能しないということが分かりました。
次のページをお願いします。7ページです。経営裁量権の拡大という意味で一番大事なことは,機能拡張によって,それぞれの国立大学が特徴を生かしていく中で必然的に多様化するということです。すなわち,経営の幅が広くなっていくのです。それをハードローで一律に規定することは,すべきではありません。各法人の責任によって,その法人のルールを決めていくという「枠組み法」に作り直すべきです。例えば公立大学法人の場合は,定められた枠組みの中で,詳細は各法人に委ねられ,適切な形で設計できるようになっています。
各大学が最も優れていると考える経営体制を自ら選択し,多様なステークホルダーに対する説明責任を直接的に果たすとともに,国にもきちんと届け出るという形を検討すべきです。設置審行政による事前チェックから,自律的契約関係に基づいた事後チェックの形に変えるというところが,この会議で検討すべきポイントとしては極めて重要です。
次のページをお願いいたします。この検討会議のイニシアチブで,こうした大学の経営裁量拡大のための極めて重要な起爆剤となる,大学債の発行のための政令改正が実現しました。
東京大学では現在,経営体となるための実行プランをきちんと作るために,私が総長就任時に策定した「東大ビジョン2020」の次を見据えた未来構想を策定しています。私の総長任期最終年にあたる今年に,部局の計画をきちんと吸い上げながら,全学プランを作ろうというものです。提出期限はまだ先であるにもかかわらず,既に部局からは相談や提案がたくさん上がってきています。このような方向に全学が向いたという状況は,画期的な変革だと思っています。
この大学債を通じて調達した資金を,公共の使命を持つ東京大学が社会のために維持発展させるべき教育研究に戦略的に投資しつつ,同時に大学が自立した経営体になるための枠組みを構築するということを,先導して示していきたいと思っています。
そこで,大学債発行に関連した方策について,更に提案があります。現在,大学債の発行対象は,国立大学法人法で「土地の取得,施設の設置若しくは整備又は設備の設置」に限られていますが,是非,その使途を自由化するように変えるべきです。この会議を通じて,是非実現していただきたいと思います。また年限も更に自由にしておくべきと思っています。
加えて,自律的に資金を調達するために,プランド・ギビング型の制度の創設なども進めていきたいと考えています。これも,どちらの省庁にお願いしたらいいのかよく分からず,なかなか突破口が見えない中で,是非この場で,議論していただきたいことです。
今回,債券発行について,この会議の議論では指定国立に限定した提案から始まったのですが,政令改正の段階で幸いにも全大学に適用できるようになりました。これはよいことです。ただしいろいろな大学が大学債の発行を進めるためには,いろいろな大学が特徴を生かして,その償還財源を生むことができるような自由化をきめ細かく行う必要があると思います。
9ページをお願いします。国が国立大学に求める役割への確実な支援を行うことは,やはり重要です。国立大学法人ですから,国がきちんと担うべきである社会の基盤インフラとしての基礎部分の支援については,安定的に各大学が経営できるように,ルール化して確保されるようにすべきだと思います。
何より重要なことは,2番目の項目で,国が限られた国費を,国として推進すべき最先端の研究や,国が維持すべき固有の文化や言語,国家的なインフラ,優れた若手研究者の確保・支援などに使うべきだということを,6月16日の未来投資会議でも発言しました。そこでは,オールジャパンの研究員の雇用制度の私案を紹介しました。この制度は数学や理論物理といった分野の天才的な研究者を国として雇用するというばかりでなく,国の学術文化として何より重要である言語や文化についても,国が支える意志を持って研究者を継続的に確保しなければ,学問分野が途絶えてしまうことは間違いないということも,併せて発言しました。
国立大学の経営で一番困るのは,長期的な予算計画が立たないことです。第4期の中期目標・中期計画期間においては,第3期のようなことが起こらないように,運営費交付金の枠組みの安定化というのは最重要であると思います。
先ほども言いましたが,経営体になるためには,今の会計制度の作り替えが必要です。債券発行に向け,どうすれば経営状態を正しく表示できるものになるか,項目の組み替えなどを進めているところです。
10ページにあるように,機能拡張した国立大学は,2つの面から評価を受けます。国が国立大学に求める役割を適切に果たしているかという国からの評価と,投資先として市場のニーズに応えているかという市場からの評価です。これらをバランスよく受け入れるような形に変えるべきです。
この場合の法人評価は,国からの評価は簡素化し,市場からの評価は直接対話の中で受ける形に見直すことで,作業を大幅に軽減しつつ,評価を実質化できるだろうと考えています。
11ページが最後のスライドです。ポストコロナ時代の「大学ニューノーマル」の国際戦略は,先ほど言いましたように,後発の日本にとっては明らかに今がチャンスです。オンラインを活用していくことはまず間違いありませんが,オンキャンパスでのリアルな価値提供のバリューがむしろ非常に高まっていくはずです。そこで,日本の特徴を生かして,高付加価値化をすべきです。
例えばオンライン活用によって,国外の教員が必ずしも日本に滞在せずに教育ができるとなれば,リモート・クロス・アポイントメントのような形で契約を結んで東京大学の教育に参加したいという世界中の一流の教員はたくさんいるでしょう。そのようなことが実現すれば,東京大学やほかの日本の教員と組み合わせて,世界トップ水準のカリキュラムを創ることができるはずで,今は明らかにチャンスです。
それと同時に,人の移動を前提としている留学の概念も大きく変わってくるはずです。前回も議論があったように,大学通信教育設置基準のみならず,単位の考え方自体もがらっと変わることになります。そのような大きな視点をもって今の制度を変えなければ,ウィズコロナ,ポストコロナ時代の戦いに勝つことはできないでしょう。
後ろの参考資料は,事前にお配りしたものから若干修正してあるので,新しいものを後で配付します。ここでは簡単に紹介するにとどめます。13ページは6月16日の未来投資会議で,議員からの意見という形で紹介されたものから私の名前がついているものを抜粋したものです。一部,金丸座長と連名になっている意見も含まれています。
14ページです。正に今,ウィズコロナにおいては感染データをリアルタイムで取りながら,第二波に対して備えなければなりません。その備えをする上で,個人データの活用についても様々な整備が進み,いろいろな場面でスマート化が一気に進むでしょう。その際に,全国を100GbpsでつなぐSINETの活用は必須です。
15ページをお願いします。未来投資会議で,総務大臣より,今回の第2次補正で500億円規模の光ファイバーネットワーク網の整備を予算づけしたという報告がありました。それがこのGIGAスクール構想とどのように関連しているのか,残念ながら私のところには情報が入っていなかったので確認したところ,GIGAスクール関係の予算も含まれていると聞いて安心しました。
しかし,大事なことは,SINETとGIGAスクールがきちんと,クローズドでセキュアな光ファイバーでつながることによって,日本列島全体がスマート化するということです。加えて5G,6Gの基地局から得た情報が全て,その基幹網に流れる形で拡充できると,スマート・アイランドとしてものすごく強力なインフラになります。
この成果を2025年の大阪・関西万博で出すべきです。それを実現するには,全国にある大学をフル活用する以外にありません。これは大学の役割拡張の一番分かりやすい例であり,しかもウィズコロナで一番必要なところなので,これからまず真っ先に取り組む必要があるというのが,私の意見です。
後は資料をつけていますので,適宜御参照ください。
以上です。どうもありがとうございました。
【金丸座長】 ありがとうございました。
それでは,続けて山極議員から御説明を頂きたいと思います。
【山極委員】 山極です。資料,よろしいでしょうか。私が6年前に総長になったときにまずやったのが,教員組織の改革です。学部や研究科から独立させて,教員組織を4つの学域と40の学系に編成し直しました。
そのときびっくりしたのが,人文社会学領域,学域ですね,これは6学系あって,教員全体の12%しかいなかったということです。学部の半分が人文社会系であるにもかかわらず,教員の数が12%ですよ。
同時に,その頃,文部科学大臣から,国立大学の人文社会系の学部・研究科をもっと生産性の高い学部・研究科に編成し直した方がいいですよというような通達が来ました。私は猛反発したんですが,実際,自分の大学がこれほど危機であるということは,そのとき本当に自覚しました。
指定国立大学の指定を受けましてから,まずやったのがプロボスト制です。これは,毎年,僅かな運営費交付金しか与えられなくて,総長の権限が増加したからといって,学部や研究科に属する教員たちに相当な抑制を強いるには,やはり信頼というのが非常に重要です。この信頼を得るためには,やはりボトムアップ的な意見の吸収が必要です。これは,松尾先生も大野先生も五神先生もおっしゃっていますが。
このプロボストというのは,アメリカにあるプロボストとはちょっと違いまして,総長の代わりをやるのではなくて,部局長ではない50代の若い教員をいろいろな部局から集めまして,将来計画を立てて,それをまず先回りして,皆さんの了解を得るという仕組みです。ですから,戦略調整会議というふうに言っています。
これは結構成功しているんです。例えば最近ですと,約100人40歳以下の教員のポストを用意して,それを承継教員ポストにするという,かなりドラスティックな改革をしましたが,これも,各部局でポストを吐き出してもらわなくては困るわけで,これが実現できたのは,やはりこの調整会議のおかげです。それから,先ほど学域・学系制と言いましたが,その中で研究所やセンター,京都大学はたくさんこれがあるわけですが,その統合や合併というのが幾つか完成しました。そういうのが全部,トップダウンではなくてボトムアップの提案でできていくというのが,京都大学のいいところだと私は思っております。
戦略調整会議,プロボスト制というのは,2つの両翼から成っておりまして,1つはIR,それからもう1つはURAです。IRは,いろいろなデータを世界から集めてきて,京都大学の立ち位置というのを常に示してくれ,そして同時に戦略をつけてくれる組織です。データだけあってもしようがないといつも私は言っているのですが,必ずデータと同時に,どうしたら京都大学がよくなるかという意見を付けてくれています。
それを実行に移すのがURAでして,ただいま43人ぐらいですが,何とか50人ぐらい確保したい。これは私が総長になってから,各部局に散らばっていたURAを一元化して,様々なミッションを与えて,やってもらうようにしました。その2つの組織が100%働かないと,将来計画というのは実行できません。
それが2ページ目なのですが,3ページ目に,評価というのが重要だと思っています。
これは再三申し上げているのですが,毎年の評価,法人評価,認証評価,これはやっていても,指定国立大学として与えられた利点を生かせないと思います。
やっぱりアメリカの大学のように大きな資金があって,理事会や学長がそれを使って相当な将来計画を立てられるというような状況にはないわけで,だとすれば,少なくとも評価は3年あるいは5年,6年に一度にしていただいて,毎年,細かな評価指標を立てて,それが達成できなければB評価とかC評価とかいうことに膨大な資料を積み上げるのではなくて,やはりもう少し楽に,将来計画を淡々と実施しながら,その成果を数年後にきちんと出すということにした方が,せっかく指定国立大学に指定されたんですから,やりがいがあるだろうと思いますし,特に,現場の教員のモチベーションが上がると思います。毎年の評価で,B評価でした,あるいはA評価でも全然お金はついていませんとかいうことを総長の口から言うのはつら過ぎる。全く現場のモチベーションは上がっていません。そういうことは是非,改善していただきたいと思います。
それから,国際化の点ですが,京都大学は従来からたくさんの海外拠点を持っていたという利点を生かしまして,特にアジア・アフリカ地域には拠点がたくさんあります。部局中心の拠点が59,それから本部が持っている拠点が4つあります。合計して63あるのですが,これをどうやって活用するかということが,京都大学のこれからの成果に大きく関わってくると思っております。
特にアジア,これは大野先生もおっしゃいましたが,今,日本の大学が目を向けるべきはアジアだと思います。アジアの人口はどんどん伸びていますし,そして高校生の実力がどんどん上がっています。こういう高校生をいかにリクルートするかというのが重要でして,京都大学はASEAN拠点をバンコクに持っておりまして,ここは日本の大学もたくさんの拠点を出しておりますが,うちは,タイ政府から公式に認められましたので,かなり自由な活動ができるようになっております。
こういったところを利用して,数年前から,Kyoto iUPという,優秀な高校生をリクルートして京都大学に入学させる。これは,日本人の学生と同じ資格で入っていただくようにしています。日本語の能力は,入学するときには求めません。ただし,日本に来てから日本語教育を半年受けて,大学を卒業するときには日本人と同じように日本語がしゃべれると。そして大学在学中に,少なくとも3年,4年の段階では,日本人と同じ講義を日本語で受けることができる能力を涵養する。そういうことを目標としています。そのために,生活費もある程度,京都大学の基金から供与しているということです。
私はいつも言っているのですが,日本で,国費を使ってたくさんの留学生を日本に呼び寄せ,そして,その方々を自国にお帰ししています。最近,文科省の戦略が変わってきて,それまでは,日本に来て学んだ知識や技術を自国に帰って生かしてくださいというのが国費留学生の目標だったのですが,最近はそうではなくて,日本の企業や日本に滞在して,その知識や能力を生かしてくださいという方針に変わったと聞いています。
であれば,せっかく日本で国費を使って,あるいは自費でも,日本人の学生と同じ学費で平等に学んでいただいた学生たちですから,日本ファンであることは当然です。そういう方々をフォローアップして,これから大学が国際化をする上で協力をしていただきたい。
京都大学は先駆けて海外同窓会をたくさんつくりまして,アフリカにも同窓会をつくりまして,そういう方々とネットワークを今つくっています。そういう方々が,これからの教育研究に大きな力になるということは,自信を持って言えます。
京都大学は,先ほど言いましたように指定国立大学の指定を受けてから,人文社会学を牽引してほしいというミッションを受けましたので,拠点の1つであるドイツのハイデルベルク大学と連携しまして,ジョイント・ディグリーをつくりました。これは人文学としては,日本で最初のジョイント・ディグリーです。
こういうことを国際的にどんどんやっていかないといけないと思っておりまして,そのための人材と資金づくりをどんどんやろうと思っています。URAというのは,そういう意味では非常に重要な資産であると思います。
それから6ページ目に,京都大学の国際ネットワークをお示しいたしました。赤丸で書いてあるのが本部が持っている拠点でして,協定校が青印であります。海外拠点も合わせますと,世界に相当散らばっているということがお分かりいただけると思うのですが,これを,つまり学術のプラットフォームとして生かしていくことが重要だろう。しかも,これは,先ほど言いましたように欧米の大学,とりわけイギリスやアメリカの大学と違って,ビジネスを目的に呼び寄せた留学生の関連組織ではありません。
ですから,あくまで日本の大学に来て,日本人と平等な立場で学問を修了して,そしてそれを研究に生かして,日本や自国のために貢献してくれるための拠点であり,そういうことを日本が国際化として推し進めていけば,五神さんがおっしゃったように,欧米とは違う形の,日本の教育のよさというものが発揮できるのではないかと思っております。
それから,最後になりますが7ページ目,産学連携の新しい京大モデルというふうに銘打ちました。これまで,投資会社と,それから知財の会社を持っていて,それに加えて去年,京大オリジナルというコンサル会社をつくりました。この3つを合わせて,ホールディングカンパニーをつくりたいということを文科省に申請しているのですが,なかなか認めてもらっていません。これをやるのが非常に重要なんです。
今,指定国立大学の構想で,オンサイトラボラトリーのを海外に11,つくりました。これは,海外の非常に先端的な研究所や,あるいは大学と共同研究をして,オンサイトラボという言葉が表すように,京都大学に来てもらって連携するのではなくて,向こうでも,こちらから研究者が行って連携研究をするということを目指しています。
それは,海外でも新たに起業をして,それを京大オリジナルの子会社化して,現地で法人格を取ったり,あるいは産業を興したりということに役立てようと思っています。既にサンディエゴには,CAMPHOR TREE LLCという法人をつくりました。
そういうことを国際的にどんどん増やしていくことによって,大学が実際に研究をきちんと産業へ移行させるという形を,国際的につくろうというふうに思っています。そのプラットフォームづくりを国立大学が率先してやっていけば,今,国際的には,なかなか大学が資金を呼び込めていませんが,そういう時代が来るのではないかと思っております。そのためにも,ホールディングカンパニーの設置が重要だと思っています。
8ページ目は,先ほど言いましたKYOTO UNIVERSITY International Undergraduate Programで,これは大野先生がおっしゃったように,今,京都大学でも学部の留学生は2%ぐらいにとどまっているんです。これはやはり外枠化していただいて,学部の外国人留学生を,各大学の方針に従って育てるということを,是非させていただきたい。そのためには,やはり定員枠を自由化するということが重要ではないかと思っております。
それから,時間もありますから,もう詳しくは言いません。11ページに,国立大学のさらなる発展に向けてということで,京都大学が申し上げる4つの課題を述べさせていただきました。
3番目ですが,財務基盤を確立するためには,やはり運営費交付金,間接経費を拡大するということで,このたび京都大学は,産業界と連携,委託研究をする際に,30%の間接経費を頂くということに向けて動き出しました。これはもちろん,ほかの大学も既にそういうことを産業界と契約していると思いますが,大学の運営費を,産学連携を通して増やすということがこれから重要になってくる。そのための制度改正や,産業界の意識改革というのを,是非していただきたいと,重ねてお願いする次第でございます。
以上でございます。
【金丸座長】 ありがとうございました。それでは,議題1,戦略的な国立大学法人経営に求められるガバナンスに関する自由討論を行いたいと思います。
先ほど事務局から説明のあった論点,資料1-2の4ページから7ページを念頭に置いていただきながら御議論いただければ幸いでございます。御発言を希望される方は,「手を挙げる」ボタンを押していただくか,カメラに写りやすいように手を挙げていただきますようお願い申し上げます。
それでは小林委員,お願いいたします。
【小林委員】 国立大学のガバナンス・コードは,僕の記憶が正しければ,もともと国大協,内閣府,文科省の3者連名で出すことが決まっていて, CSTIなり内閣府で相当議論を深めている段階かと思うのですが,今日のこういう会議体と,ほかでいろいろ議論されているものと,どういう方向で最終的には一致させていくのか,考え方をまず整理,確認していただきたいと思います。
そういう中で,先ほど文科省の方から話題にしたいとおっしゃっていた,学長選考において現学長がその会議体に入るべきかどうかという論点について。民間企業で言えば,監査役会設置会社,監査等委員会設置会社,指名委員会等設置会社という3つのカテゴリーがあるのですが,指名委員会等設置会社では,やはり次の人を選ぶ場合は,現職の社長が指名委員会に入るのは基本的にやめた方がいいとされています。この辺はかなり重要なポイントだと思うのですが,国立大学ではどういう方向で検討されているのでしょうか。東京大学では確か入っていなかったと記憶していますが,私自身もやはり,基本的には入れるべきではなかろうと考えています。
それから,先ほど五神先生がおっしゃっていた,多様なステークホルダーに対する明快な説明が必要なのに,先行投資がどうなっているのかとか,長期の予算計画だとか,そういったことがどうにも分からない会計制度になっているという件。非常にイノベーティブなものを志向するとなれば最低でも5年はかかる訳で,どう見たってイノベーションは単年度予算でできるはずがありません。一応,国立大学法人の制度としては6年間という中期目標期間を定めてはいるのですが,やはり会計制度と絡めて,どういった時間軸を設定するのか検討する必要があると思います。また,民間で言うCFO,最高財務責任者に匹敵するような専門家が大学にも是非要るのではなかろうかと考えます。
最後にもう1つ。ポストコロナでますます激しくなる米中の経済戦争,デカップリングの中で,経済安全保障の動きが非常に強まってきていて,日本の民間企業においては,改正外為法の下,10%どころか,1%の株式比率を持とうとする海外投資家にも事前届出を義務づける制度になって,500社に余る企業が戦略的に重要なコア業種として名指しでリストアップされるまでになっています。そういう中で,大学のキャンパスにおける大学人による研究も,中国からの委託研究を含めて,本当にこのまま野放図に続けていっていいのか。やっぱり一定のクライテリアが必要で,明確な定義づけは難しいですが,例えば環境とか健康とかそういったテーマなら国際共同研究もいいけれど,サイバーセキュリティやナショナルセキュリティに絡んだ共同研究には深入りしないという方向で行くのか,この辺をよく考える必要があると思います。
以上4点,質問やら意見やらでございますが,よろしくお願いします。
【金丸座長】 ありがとうございました。
【山極委員】 いいですか。私の方からちょっとお答えしたいのですが,最初の質問ですが,京都大学は,総長選考会議には総長も理事も入っていません。私が総長になってすぐにやったのが,それまで総長のリコール制度がなかったので,リコール制度を内規で決めました。
要するに,私がやりたいようにやるためには,いつでも総長を解任できるということを教員が思っていないとできないということで,それを明確に内規に定めました。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは,一番最初の小林委員の御質問の,ガバナンス・コードと,今回,我々の会議体で議論するガバナンスと関係性について,文科省の方から補足説明をお願いします。
【淵上国立大学法人支援課長】 国立大学法人支援課の淵上でございます。先ほどお話のありました大学のガバナンス・コードにつきましては,国大協とCSTIと文科省の3者で協議を,昨年度中,協議を重ねまして,今年の3月30日付で公表いたしております。
既にこのガバナンス・コードに従いまして,各大学で経営が行われているという状況になっておりまして,今年度中には,それぞれの大学のガバナンス・コードに関する履行の状況を確認するということにしてございます。
この会議では,各大学,国立大学全体としてどういう経営の仕組みがあるべきかというのを御議論頂くわけですが,その上で,それを国立大学法人法というハードローでいくのか,あるいはまた,今回作っておりますソフトなガバナンス・コードというふうなことで考えていっていただくのか,その辺はまた御議論頂いて,必要があればガバナンス・コードなどにも反映させていくということでお願いできればと思っております。
以上でございます。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは星委員,お願いいたします。
【星委員】 ありがとうございます。先ほど五神先生がおっしゃっていたのですが,既存の延長線上でのガバナンスや評価というのは変化の妨げになるだけだというのは,そのとおりだと思います。これ,よく見ると第1回提出資料からと書いてあるので,ちょっと僕がそこをよく読んでいなくて,覚えていなかったことなのですが,そのとおりの指摘です。この会議というのは,もともと,世界の先進大学並みの,独立した個性的かつ戦略的大学経営を可能とする大胆な改革を可及的速やかに断行するために,法令の改正とかも含めて検討を行うということでした。そこから考えると,今出てきているガバナンスの議論というのは余りにも細か過ぎる議論が多い。五神先生の言っている,既存の延長線上でのガバナンスの議論に近いところになっているのではないかと危惧しております。
今日の議題だと,「戦略的な大学経営の実現に求められるガバナンス」となっていて,この検討会議の最初の課題にあった「世界の先進大学並みの独立した」というのと「個性的」というのが完全に抜けている。したがって,今始めようとしているガバナンスの議論は,この検討会議の最初の方針から外れると思っております。
今,大野先生,五神先生,それから山極先生から発表していただいたように,そして最初の東海国立大学機構についての松尾先生の発表からも読み取れるように,トップの大学では,それぞれガバナンスをきちんと考えていて,独自のガバナンスをつくっている。これが望ましい方向だと思う。
全体でこういったガバナンスの体制が望ましいというのをつくってそれを強制するという方向ではなくて,ソフトローよりももっと緩い関係かも知れませんが,大学としてはガバナンスをきちんとやっていく。きちんとやっていくところは成果が出る。そして独立で個性的なものを創っていくという方向に議論を持っていくべきではないかと思います。
もう1つだけ付け加えると,それでもガバナンスの議論が必要だという場合には,今の資料の中で2つ問題だと思うところがある。1つは,ガバナンスと言った場合に,経営体をどうつくるかという議論と,それからステークホルダーと経営陣の間の問題をどう解決するかというものが2つあるが,どっちの議論をしているのか,判別できない状態にある。
経営体をどうつくるかという議論がかなり強くなっていて,普通コーポレートガバナンスの議論というときに思い浮かぶボード・オブ・ディレクターズをどうするかというような話はあまり出てこない。
それから,細かいところになりますが,例えば外部から経営協議会に何人入れるとか,そういう議論をしてほしいということですが,その場合,どうしたらいいかというのはエビデンスに基づくべきだと思う。今までどういうエビデンスがあるのかというのを資料に入れてもらわないと,ちょっと話ができないとも思っています。
長くなってすみません。以上です。
【金丸座長】 ありがとうございます。重要な御指摘を頂戴いたしました。
それでは松本委員,お願いいたします。
【松本委員】 ありがとうございます。今,星先生が御指摘されたことは,私も全く同感です。この会議体は,個性豊かで戦略的な大学を創るはずだったのに,細かい話がいっぱい出てきたので,一つ一つ潰さなくちゃいけないんだろうかと,さっきから考えていました。
例えば,学長選考会議に学長に対するチェック機能を持たせるであるとか,監事にチェック機能を持たせる,理事の人数が云々という話もありました。
まず,学長選考会議に学長に対するチェック機能を持たせるということについて,全く意味がないというふうに考えています。選考会議の機能を強化しても,学長の任命権者が大臣です。先ほど松尾先生に質問したのはそのためです。大臣には任免権があります。任命して,解任を認めるのも大臣です。幾ら選考会議がリコールしても,大臣がオーケーと言わなかったら首にはできません。
何度もこの会議で申し上げています。1年前に,北大の学長選考会議は,学長の解任の決議を出していて,マスコミにも何度も報じられているにもかかわらず,解任されていません。
この決定の是非は私には分かりません。ですが,学長選考会議がノーと言ってもクビにできない。それが,この法律の中での学長選考会議の権能です。
それから,監事にチェック機能を持たせる。監事の任命権者は大臣です。
こういったことも含めて,どんどん大臣の権能を増やしていくようにしか見えない。それは,戦略的で個性豊かな大学を創ることにつながるのかどうか,やはり私には疑問が拭えません。
定員の話が,山極先生,大野先生,五神先生から出されました。この後の国際化の議論とも重なってくると考えられますが,どんどん外枠にしていったとき,何が残るのか。そこが疑問なんです。
おっしゃっていたように,定員は誰が決めるのか。文科省が決めるという形でいいのか疑問が拭えないんです。定員を文科省が管理するのはなぜかということ,これに対して,まだ一回もきちんとした回答を頂いていない。それから,定員を文科省が管理することでどのような成果があったのかということについてもエビデンスがない。にもかかわらず,管理するという,その形だけが残っていることについて,是非御説明を頂きたいと考えています。
個性豊かで戦略的な大学を作るために,文科省は手を引かなくちゃいけないときに来ているのに,まだ縛っている。86の国立大学,例えば指定国立大学の中の一番小さいのが一橋大学で,運営費交付金の額で言えば東大の10分の1以下になります。その一橋が東大となぜ同じ組織を持たなくちゃいけないのか。運営費交付金が一番小さいのは,小樽商科大学か,鹿屋体育大学か,忘れてしまったんですが,10億円程度です。そこと東大がなぜ同じ組織を持たなくちゃいけないのか。
もう限界に来ているということをそろそろ認めて,大学に様々な権能を譲ったらいいんじゃないか。そして,それができないのは,やはり国立大学は信用ならないというのが社会の声だということを文科省は意識されているんじゃないかなとも考えます。
それは大学側も,松尾先生も,五神先生も,大野先生も,山極先生も,社会の中で国立大学はそんなに信頼されていないかもしれないというのは薄々お気づきになっているのかもしれない。ならば検討会議の我々の方からすると,どうしたら国立大学は,信頼に足る,やっぱり私たちの大事なパートナーなんだと社会に思ってもらえるのか。その仕組みを各大学が作ればいいという話なのではないでしょうか。
以上です。ありがとうございました。
【金丸座長】 ありがとうございます。私の認識としては,国にも課題があって,それから,大学にも課題があって,それを受け入れる企業にもそれぞれ課題はあるんだと思っておりまして,そういう課題を今回,議論を通じてポジティブに解決に向かって,競争力のある教育分野に変身ができればいいのではないかと思っております。ありがとうございました。
それでは,上山委員,お願いいたします。
【上山委員】 ありがとうございます。まず,最初にガバナンス・コードについてですけれども,これは我々CSTIがそれを作るべきだと提案したわけではなくて,むしろ外の方から,一般の社会の声として出てきました。このガバナンス・コードというものをなぜ作らないといけないのかということについての理解は少し錯綜しているように見えると思います。というのは,大学に個性的かつ自由な経営を与えること,これは恐らく世界的な流れなんだと思うんですね。
そのときに,大学も一つ一つが組織体ですから,様々な,社会的にみて容認できないような行動をする大学も出てくるわけです。アメリカでしたら,それは完全に市場原理で排除してしまえばいい。そういう考え方を取っている国もありますけれども,一方で,公的な資金を相当投入しているような国においては,ちょうど金融庁が金融システム全体を見ているのと同じように,それが果たしてうまくいっているかどうかをどこかがチェックする必要があるというのが通常の考え方です。これはイギリスでも同じような考え方を持っていて,そのときに例えばイギリスのガバナンス・コードというのは,コード・フォー・ハイヤー・エデュケーション,つまり,高等教育の質をきちんと担保するためには,これこれのガバナンスに従わなければ,いろんな不都合なことが組織として起こりますよということを,各大学の,日本で言うところの学外協議会のメンバーの人たちが集まって,自主的に作り,それを各大学が従っているかどうかというのを見ているというものであります。
ですから,自由な戦略的な経営,どうぞやってください。どんどん規制を除去していきますよ。しかし,一方で,それは全体として日本の高等教育のレベルを下げていくことにならないのか。学生たちやステークホルダーに対する責任を果たしていることになるのかということを,ある種,外部の目でチェックするための機能として,ガバナンス・コードを作ってきたという気がします。
ですから,我々が言い出したことではないですけども,それは一つの指針として必要かもしれないと思って,CSTIの方でも関わり,文科省と一緒に作らせていただいた。これは国大協も一緒に作りましたから,国立大学の方でもこのガバナンス・コードの内容で大体いいんじゃないだろうかということで御納得いただいたという,そういう経緯がございます。
もう一つは,私は個人的には,できる限り自由で,いろんな意味での規制を取っ払っていく必要があるとは思っております。例えば学長選考会議の在り方も多種多様でしょうし,経営協議会の在り方も多種多様でしょう。私の知る限りの現実の経営協議会というのは,最近,随分変わってきて,よくなってきましたけども,このレイメンバー,つまり,素人が大学に入っていくことのハードルはなかなか高いものですね。ですから,それがうまくいく方に持っていくためには,かなり大変な作業が必要でしょう。いまは,ある種の過渡期なんだろうとは思っております。
ですから,個々の大学がそれについての試行錯誤を重ねて,そのようなシステムを作っていく。そのときに文科省が改めて口を出す必要がないと思っております。やっぱり重要なことは,この大学の経営については,五神先生もおっしゃいましたし,他の方もおっしゃっていますが,基本的に評価の問題です。これは運営費交付金に反映するような形の評価で,現在のところは毎年,財務省のチェックが入るわけですね。毎年,運交金がきちんと使われているか。それが根拠のあるものかということをチェックする。その結果としての運営費交付金の配分は実質的にはほとんど変わらないんです。変わらないけれども,チェックが入り,そのことに対して評価を受けるための準備として,各大学が膨大な作業をしていかれるということなんだと思いますね。
ですから,2年ぐらい前ですか。運交金1,000億円の評価軸が出たときに,すぐにCSTIで議論しました。財務省と交渉して,これは中期目標の間は,毎年の運交金の増減には手をつけないでほしいと。しかしながら,透明で,誰にも分かりやすく,各ステークホルダーが納得できるような評価軸を作っていきたいと。その評価軸に基づいて,数年後には運交金が動くかもしれない。しかし,そのことを各大学主体は予想することができる。そうやって自らチェックを重ねていくという方向性が重要なのだろうと考えてやってきました。
もう一つは会計基準の問題です。これも私はこのCSTIで4年になりますけれども,CSTIに入って最初に議論したのが会計基準でした。国立大学会計基準というものが,いかに古めかしく,経営体としての組織の手足を縛っているかということは明らかでした。この問題をCSTIのワーキングで取り上げたときに,大学からは随分,あるいは文科省からも随分大きな反発がありました。
そのとき一旦諦めましたけど,今,「知識社会におけるアカデミアの進展」と称するPEAKSと言われているところで,この大学会計基準を徹底的に洗い直している真っ最中であります。主立った大学の会計基準をずっと見させていただいております。いつかここでもその分析を御紹介したいと思いますけれども,これを見ると明らかに財務経営上,多くの国立大学が傷んでいるということが分かります。更に言うと,外部の目を入れてチェックすべきだと言っているにもかかわらず,この国立大学会計基準では,大学内の経営の問題が全く外部の目には分からないということです。ですから,これを是非とも変えてほしいと思って考えておりまして,我々CSTIのところの統合イノベーション戦略,これは閣議決定されますが,その中には評価の問題をきちんとやりますということを書いていき,更に言うと,会計基準の問題もきちんとやりますということも書いております。
これは改めて,せっかく金丸座長おられますから,我々の方でもいろいろなことで働きかけていますが,骨太の方針の中に是非これを入れていただきたいということのお願いをしております。両方とも閣議決定に至りますから,その意味では,大きなある種の変革の力になるだろうと思っております。
最後に申し上げたいのは,私はCSTIに来てからずっと大学改革もやってきましたけども,国にお金がない。国が貧乏だからこれができないという前提の下で議論してきました。ですから,民間の資金をどんどん投入すべきだということも,今でもその考えは変わりませんが,ポストコロナを経て,国と高等教育に関する資金的な関係は変化をするかもしれないなという予想を持っております。第6期の基本計画では,できましたら未来への投資として,高等教育並びに戦略的な経営をやっている大学,あるいは研究,種々の開発に対して,より先行的な資金を入れるべきだと。そうしなければ,先ほど小林会長のお話からありましたけれども,中国とアメリカを2軸とする大きな国家的な変動の中で,我が国の研究力を中心とする知識社会というのは生きていけないだろうという強い危機感を持っていて,そのような議論をCSTIの中ではさせていただいております。
その意味では,新しいフェーズに来ているということが言えるかもしれないというのは私のコメントでございます。ありがとうございました。
【金丸座長】 ありがとうございました。それでは,今,挙手が柳川委員,篠原委員,松尾委員が挙げていただいておりますので,3人の意見をもって議題1を取りあえず終了させていただきたいと思います。
それでは,柳川委員お願いいたします。
【柳川委員】 柳川でございます。もう既にやるべきことはかなり明確なんじゃないかと思います。松尾機構長のお話,それから,3人の学長,総長の先生方のお話でもう明らかでございまして,これをしっかり実行していく。それは星委員からもお話ありましたけども,やっぱり自由度を持って多様性を発揮できるような経営体にしていくと。これをこの会議体でしっかり実行していくというところがほぼ全てなんじゃないかと思います。自立的契約関係で,細かい事前チェックではなくて,事後的なチェックをすると。大野先生のお話で行くと,エンゲージメントという話がありましたけど,そういう大きな枠組みの中で,それがしっかり実行できたかどうかを事後的にチェックするということは,私,一部局員としても強く思うところでございまして,やはりそこが変わると,みんな時間に相当余裕ができて,生産性も上がるだろうという気がいたします。
それから,やはり会計基準のお話は,これも今,上山先生のお話があったように,明らかに大事なことでございますので,ここもしっかり実行していくことが全てなのではないかと思います。
それから,ある意味で専門家ですね。民間も含めて,それぞれ専門人材をしっかり学内に入れていくというのも,これも各大学が自由度を持ってやればいいことなので,結局そういうことではないかと思います。ただ,もう一点,こっち側の側面としては,では,ガバナンスの話は何も考えなくていいのかというと,これは皆さん御承知のとおり,民間の企業においても,今,ガバナンスというのはかなり大きなイシューで,ガバナンスの改革というのはいろいろ進んできていて,そこでやっぱり外部人材が必要だと。外部の社外取締役がチェックする仕組みが必要だとか,それから,後継者をしっかり選んでいく指名委員会等設置会社のようなところが後継者を,外部の人材も含めた委員会で選んでいくと,こういう仕組みが民間企業の側でも随分進んできたというものがありますので,こういうところをしっかり大学において自由度を持ってやるんだけれども,ある意味で,民間企業にあるガバナンスと同じような,場合によっては,公共性等の目的が追加でかかるとすれば,そういうものを含めたガバナンスということを考えていくということは,こちら側で必要なことかと思います。
その点でいくと,やはり私は少し課題が幾つかあると思っていまして,民間の社外取締役ですと,経営に相当関与するわけですね。関与するし,日々の経営で何が起こっているか。細かい執行の部分は分かりませんけれども,やっぱり取締役会に出席して,あるいは人材を選んでいく。後継者を選んでいくのであれば,かなり長期的な視点で何年かかけて,プロセスを経て,候補者を選び出していくという作業をやっています。その観点からすると,現状の外部有識者が,例えば学長選考会議の中で果たしている役割というのは,それよりも少し軽い形になっているんじゃないか,実際に大学の中で何が起こっているかということがそんなに分からないことになっている。やっぱりこの辺りの外部人材の関わり方は,民間で行われているガバナンス改革,社外取締役の役割の検討と歩調を合わせる形で,ある意味で近代化していくといいますか,バージョンアップさせていく必要があるんじゃないか。
もう一つは,民間の企業よりも難しいのは,何の目的で,何が成果かということがあまり明確ではないということですね。民間企業で,営利企業であればやっぱり利益が出ているかどうかということが目的であって,社外取締役であれば,その結果,少数株主の保護がしっかり図られているかどうかというのが大きなミッションとして明確になっているわけですけれども,では,この国立大学の場合に何が本当の成果であるかというのは,ある意味で,先ほどエンゲージメントというお話がありましたけど,ある意味で大学の側がしっかり提示して,その提示したエンゲージメントのミッションがしっかり実現されていくかということを社外の人間がチェックしていく。やっぱりこういう仕組みに変えていく必要があるのだと思うので,今日お話が出ていたような,何人かの委員の方からお話がありましたけど,細かいプロセスのところで縛っていくよりは,今のような大きな枠組みの中で,特に社外の方々を含めて,大学の運営,経営のガバナンスをどうやってやっていくかと。大きな枠組みを考えた方が建設的ではないかと思っております。
以上でございます。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは,篠原委員お願いいたします。
【篠原委員】 ありがとうございます。今日は,いろいろな学長,総長の先生方から承りましたけれども,基本的にはやはりもっと自主性に任せてほしいということだと思っています。代表的な言葉で言うと,大野先生がおっしゃる,管理型からエンゲージメント型という話で,私もそれに関しては大賛成でございます。
ただ,そこの中でやはり並行して必要なのは,「全ての」ステークホルダーとのコミュニケーション。「全ての」というのは,人数が全てということではなくて,いろんなタイプのステークホルダーとのコミュニケーションが本当にできているのかということは,もう1回見直してみる必要があるのではないかと思っております。
あと,もう一方は,大学側に任せるということは確かにそのとおりですけれども,やはりある程度の連続性,例えば執行部が変わったとしても,ある程度守るべき連続性はあると思います。それを文科省で決めてほしいということではなくて,守るべき連続性とは何かということを学校側で少し意識していただきたいと。
具体的に言うと,例えば企業の場合ですと,どういう機関設計をするかという話もありますけれども,執行部が変わるたびに機関設計も変えていましたら全く回っていかないという部分がございますので,その守るべき連続性のようなことは是非やっていただきたいと思っています。
また,評価については,前に申し上げましたけれども,財務がしっかりしているかどうかについては,内部評価でも構わないと思いますけれども,業務については,絶対に中長期で評価すべきだと思っております。あとは,今日も大野先生から何万ページの紙と別に威張っているのではないと思いますけども,何万ページの紙があること自体,大学側も,文科省側も恥ずべきことだと思います。ですから,逆に言うと,文科省側から見ると,100ページ以内にしなさいぐらいではないと,誰も読んでいないですよね。読んでいないものを作るために人をかけるというのは本当にばかげているので,これはすぐやめた方がいいと思っております。
せっかく文科省から論点が示されていますので,それについてお話しいたしますと,今日,外部委員の割合,数の話がありました。数も大事ですけれども,外部委員の多様性をどう考えるかということが大事だと思っています。多様性というのは,女性とか外国人ということではなくて,いわゆるスキルマトリックス,これは小林さんの会社がすごくここに詳しいですけれども,いわゆる外部委員として,どういうスキルを持った人間を集めたらバランスよい議論ができるのだろうか。単に外部委員が集まっているだけではなくて,本当にそのスキルマトリックスを見たときに,自分たちの大学にとってふさわしい議論ができるような集まりになっているのかどうかということが1点と,あとは,さっきもお話ししたとおり,様々なステークホルダーがいますので,そういう様々なステークホルダーの意見が反映できるような外部委員の構成になっているのかというのは見直してみる必要があるのではないかと思っております。
あと,学長の後継者の話ですけども,日本の企業の場合も大体,外からヘッドハントするよりも内部昇格が多いです。多分,日本の大学の場合も同様だと思いますけれども,内部昇格が多いことを考えると,単に後継者を選ぶだけではなくて,後継者をどう育てていくかということもやはり本当は経営陣の責任ではないかと思っております。
今日お話を伺っていますとどうも,どう選ぶかばかりの議論ですけれども,どう育てていくかという議論も必要なのではないかと思いました。あと,論点4の中で学長任期と中期目標期間の話がございましたけども,前にお話ししたとおり,私はこれも合わせるべきだと思っております。やはり学長に新しいポストに就かれて,1年間ぐらいゆっくり考えて,2年目に新しい中期目標をしっかり掲げていくということが大事ではないかなと思っています。
最後に,山極先生から間接費の間接経費の拡大の話がございました。我々経済界としても理解していますけれども,では,そのお金はどこに行ったのか? と見ようと思うと,よく分からないので,いや,ちょっと待ってくださいという話になっています。ですから,間接経費の拡大と並行して,産業界から見たときに分かりやすい構造にしていただくということがその条件になってくるのではないかなと思いました。
以上でございます。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは,松尾委員お願いいたします。
【松尾委員】 東京大学の松尾です。私自身は,現場の一教員という立場から議論を聞いていると,違和感がありまして,それを少しお話ししたいと思います。私自身は多分,東大の中でも相当,社会連携をやっている方じゃないかと思っていまして,それから,社外取締役等もやらせていただいていて,産業界とアカデミアと,それなりに見ているかなと思っています。現場目線から言うと,ガバナンスとおっしゃいますけども,やっぱり裁量がないと,意味がない。そこの裁量がどのぐらいあるのかというときに,基本的にやっぱり部局が強いんですよね。教授会が強いんですよね,そこの投票で決まりますから。教授会も新しい考え方の先生ばかりだといいんですけども,古い先生もいっぱいおられて,昔ながらの研究をやられているとか,今,特に少子高齢化で,年齢の分布も偏ってきていますから,そうすると,もう部局が動かないんですよね。動かないというか,言い方は難しいですけど。結局,経営というのは,人と金の資源をどう割り向けるかという話であって,この人事権を,じゃあ,学長,総長が行使できるかというと,これはすごい難しいんですよね。金の方も予算も,じゃあ,総長の一存でどこまでできるかというと,ほとんどがもう部局の予算になっているわけです。私から見るとそう見える。
恐らく産業界の皆さんがガバナンスとおっしゃっているときに,総長,学長がどのぐらい動かせるかというと,恐らく普通の会社だと,社長,取締役が本気を出せば,組織も変えられるし,首も切れるし,8割,9割方,自分が言ったことをやらせられるという感覚だと思うんですけども,大学の場合は,どんなに頑張っても1割とか2割ぐらいしか動かせないという感じです。その中でガバナンスを効かせると言われても,ほとんどできるところはない中で非常にいろいろ工夫して,少しずつ変えていこうとしている。やっぱりこの話をするのであれば,実質的な人事権,予算権,これをもっと執行部というか,学長に集めて,本当に動かせるようにしてから,それをどうやって社外の人も含めて,学外の人も含めて,ガバナンスを効かせていくのかということを考えないと意味がないんじゃないと思います。そのアカデミアの感覚とインダストリーの感覚の違い,裁量権に対しての常識というか,合意が相当違っているんじゃないのかなと感じました。
以上です。
【金丸座長】 ありがとうございました。改革の成果は,やっぱり現場が活性化するかどうかだと思っておりますので,貴重な御意見を賜りました。
それでは,時間になってしまいましたので,次の議題に移らなきゃいけないんですけれども,議題1のところに関しましては,皆様から様々な御意見を頂戴いたしました。ありがとうございました。
事務局から提示いただいた主な論点,学術という選考会議の在り方であるとか,あるいは法人,執行部の理事の人数の柔軟化であるとか,ガバナンスにおける外部性の確保,幹事の機能の実質化,学長や執行部の育成確保,ダイバーシティ確保等については,皆さんの御意見を承りまして,一定の方向性が示されつつあるんじゃないかと思っています。
また,それに加えまして,皆様からは定員管理の在り方,そして,評価の在り方,そして,最後の方,後段では会計基準の在り方そのものについても御議論いただいたと思っております。
文科省におかれては是非必要な制度改正も見据えて,本日の議論を踏まえた取りまとめに向けて準備を進めていただきたいと思います。
それでは,次の議題2に入ります。本日,2つ目のテーマとして,「ニューノーマル社会における国立大学の国際化」について議論いただきたいと思います。
それでは,事務局から資料の説明をお願いいたします。
【生田高等教育局視学官】 失礼いたします。資料2に基づきまして,事務局から簡単にまず論点を説明させていただきたいと思います。
資料2ページ目でございます。国立大学の国際化ということで,今回大きなテーマを議題とさせていただいております。残り時間も僅かですので,説明はなるべく短くしたいと思います。そもそも国際化というテーマ自体がかなり大きいとは感じておりまして,2ページ目,教員自身の国際化ですとか,あとは留学生,先ほど大学の現場からの御説明資料にもありましたが,留学生の関係,若しくは日本人の学生の海外への派遣。そして,カリキュラムの国際化,いろんなものが一体となって進めて,国際化というものは当然成り立ってくるだろうとは考えてございます。
今回,具体的な御提案という意味では,カリキュラムの国際化,ここに少しフォーカスしたジョイント・ディグリー,こちらについて,まず文科省側として制度の改善の方向性を少し御提案したいと思っております。
3ページ目に進みますと,外国大学とのジョイント・ディグリー。これは現行の制度の説明資料でなってございます。少しビジーなポンチ絵になってございますが,平成26年のガイドラインが策定されて,それに基づき設置基準も改正されて進めてきている内容でございます。こちらについては,日本の大学と外国の大学が連携して教育課程を編成し,両大学が連名で学位記を出せる。こういった制度になっておりまして,現状,教育課程を編成する学科・専攻を設置して,ですので,設置認可の対象という形が前提となっております。
この赤字で書いてあるところ,卒業要件につきましては,日本の大学で修得すべき単位の半分以上がまず日本側,そして,相手の外国大学で4分の1以上。こちらは学部の場合の例でございますけれども,修得することが卒業要件として決められているといったような制度になってございます。
下に模式図が書いてあるんですが,その下を見ていただきますと,実はこちらについて,ジョイント・ディグリー・プログラムの収容定員。こちらも制約条件がかかっておりまして,このプログラムを設置する母体となる学部ですとか研究科。この収容定員の内数の上限2割というような制限がかかっております。こちらは当然,制度を立ち上げたときに,このような形で,まずは質保証を見ていこうという観点から進めてきたものだと思いますけれども,平成26年度が始まってから六,七年たってきておりますので,今回,そろそろこの辺を少し柔軟化できないかという御提案をしたいと思っております。
なお,4ページ目,こちらが現行,ジョイント・ディグリー・プログラムの開設状況の一覧でございます。
全体として,私学も含めますと,11大学の24件,このようなジョイント・ディグリー・プログラムが走っております。
ちなみに,国立大学の場合は,全てが大学院のプログラムというものが,現行としてはなってございます。こちらについて,先に少し論点を提示させていただきたいんですけれど,11ページ目に資料を飛んでいただけますでしょうか。
先ほど少し申し上げましたように,このジョイント・ディグリー・プログラム,ある意味,学生に外国大学の優れた教育を受ける機会を与えるとともに,日本の大学にとっても教育課程の在り方ですとか授業の方法,こういったものを見直すチャンスもなり得ると。当然,国際の例えば共著論文が増えたり,ネットワークが構築されたり,大学自身,国際化に非常に効果があるであろうと。ただ,今申し上げたようないろんな制約があることから,先ほど申し上げましたように,件数自身も大学自身も多く増えてはいない。広がりが限定的ですと。ここら辺を少し改善したいという御提案をさせていただきたいと思います。
まず1つ目が設置審の審査の簡素化でございます。これは冒頭申し上げましたように,このジョイント・ディグリー・プログラムを作るためには,プログラムごとに学科・専攻を設置する。そのため,学位の分野変更がなくても,必ず設置審の審査を行うという状況になってございます。こちらについて簡素化という方向にしてはどうかという御提案が1点目でございます。
2点目が先ほど申し上げましたように,卒業要件,取得の単位数,こちらが国内2分の1,海外が4分の1となっております。現行,今,3大学のジョイント・ディグリー・プログラムが一つございますが,4大学以上,例えばこれをやろうとした場合には,かなりの要件の単位数が増えてしまうということから,この単位数についても,ある意味,もう少し軽減してもいいのではないか。これが2つ目の御提案でございます。
3つ目でございますが,ジョイント・ディグリー・プログラムを設置する場合,設置する学部・研究科の定員の上限2割となっていると申し上げましたが,このことによって,まずプログラム自身の規模が小さくなってしまう。そして,先ほど来,大学の先生からお話ありましたように,実は留学生の定員,これが中に入ってきてしまうことによって,国内の学生の定員が実質的に減るということで,ある意味,大きなプログラムを作りにくいと,そんなようなことにもなっているのではないかと思っております。
ですので,一番最後の3つ目,連携先の大学が主となって管理する学生,留学生の定員を外枠化する。これは当然,ジョイント・ディグリー・プログラムだけの話じゃないかもしれませんが,留学生定員の外枠化をしてはどうかというのが,JDに関する柔軟化に向けた御提案をさせていただきたいと思う内容でございます。
そして,国際化というテーマで,ジョイント・ディグリー・プログラムだけではなくて,もう少し広げた御議論をと思いまして,6ページ目,7ページ目,この辺が英語による教育の実施状況の現状のデータを出させていただいております。
6ページ目は,英語による事業を実施している大学の数を棒グラフで並べているものでございますけれども,国立大学の場合,このブルーのところが国立になっておりまして,ある意味,学部段階では76%,大学院段階では既に88%の実績となってございます。
7ページ目に行っていただきますと,今度は,英語による授業のみで卒業・修了できる課程。こちらのデータになっておりますが,先ほど英語による授業はやっているものの,英語だけで卒業できる,そういったところはまだまだごく少数にとどまっているということを表したデータが7ページ目でございます。
なお,8ページ目には,これは少し古いデータで恐縮でございますが,29年度の調査の時点。その時点で,英語による授業のみで卒業できる大学というもので,この8大学16学部,こちらが調査段階では英語による授業のみで卒業できる大学となってございました。このボーダレス社会において,日常的な英語による教育研究の実現について,ある意味,制度上の問題,運用上の課題,そういったことについてどのように考えていくべきか。また,これを広げていく場合,どのような方策が考えられるのか,こういったことも御議論いただければと思ってございます。
そして,次,9ページ目でございますけれども,ここからは,学事歴の多様化の観点でございます。
9ページ目の資料は,この4月以外の入学時期を設定している大学,こちらを棒グラフで数を表したものでございまして,先ほどと同様,国立はブルーのところでございますが,学部段階で45ということは,約半数。大学院段階では77になっておりますが,9割ぐらいが大体4月以外の入学時期を設定しているという状況でございます。そして,10ページ目,今度は学期制,学期のところがどうなっているかというデータでございまして,基本的に2学期制,セメスター制がやはり多いと。学部の段階も,研究科の段階もそうなっておりますが,ただ,一方で,その他の学期,ポーター制ですとか通年制,そういったものも広がってきているというようなデータが10ページ目でございます。
そこで,最後の12ページ目に飛んでいただきまして,ニューノーマル社会におけるグローバル化といったことに対しまして,いろんな論点はあるかと思いますが,先ほどの英語による教育研究,そして,学事歴の多様化に向けて様々な課題があるかと思います。そして,それだけにとどまらず,やはりWITHコロナの時代におきまして,ある意味,遠隔が当たり前になってくる中,新たな国際交流の在り方として,オンラインとリアルをどのようにベストミックスでハイブリッドさせていくことが望ましいか。このようなところも含めて,短い時間になってしまいますが,御議論いただければと思います。
以上でございます。
【金丸座長】 ありがとうございました。
それでは,早速,皆様から御意見を頂戴したいと思います。よろしくお願いします。曄道委員,お願いします。
【曄道委員】 ありがとうございます。今,生田様から御説明があった学事歴の問題に関しては,本学では,昨年度からクオーター制を入れて,これを始めました。また,英語だけで学位が取れる学部も,これから更に4つ増えることになっていますが,やはり英語だけで学位が取れるという,海外からの学生をやはり求心力を持たせるというプログラムを組む場合には,このクオーターとか,少し学事歴に関しては工夫をすると,海外での学生向けのフェアを開いたときに,非常に大きな関心を呼ぶということに関しては,大きな効果があったということを御報告しておきたいと思います。
それからもう1点は,五神先生の作られた資料についてお聞きしたいと思っているんですけれども,1つは,これから欧米の大学が徹底的にオンラインに付加価値をつけていくと,そういう教育に移行するというところで,一方で,日本型の今度は,いわゆるオンキャンパスの付加価値をというそういう御提案というか,方針,方向性が示されたわけですけれども,その欧米型のオンライン教育に付加価値をどんどん機能化していくことに関しては,一方で,それがある種,世界標準的に認知される可能性も非常に高いわけで,五神先生がおっしゃった日本型のオンキャンパスの付加価値をというところは,更にそれに加えてという形が当然求められていくのかなという気がするんですけれども,そのときに,日本の通信のインフラであるとか,あるいは制度の障害であるとか,そういったことについてどのようにお考えになっているかということをお聞きできればなと思います。
ケンブリッジが来年の夏学期まで全てオンラインでやるという宣言を出したのは,イギリスの伝統的なカレッジ制を敷いている大学として,あのコメントが出たのは非常に私もショッキングでしたので,やはり日本の立ち位置について御見解を伺えればと思います。よろしくお願いいたします。
【金丸座長】 それでは,五神委員,よろしいでしょうか。
【五神委員】 ありがとうございます。つい最近行ったIARUの学長のオンライン会議には,欧米からはケンブリッジ大学,オックスフォード大学,エール大学,カリフォルニア大学バークレー校,コペンハーゲン大学,スイス連邦工科大学チューリッヒ校が参加しましたが,そこで欧米の大学の窮状や,戦略変更の切実さについて知ることができました。
イギリスは既にサッチャー政権のときに,国から大学への支援は大きく減っており,それから大学がビジネス化され,教育そのものがGDPのかなりの部分を支える大きなビジネスになったのです。英語圏において,オックスフォード大学,ケンブリッジ大学発のコンテンツは競争力があるので,それが圧倒的な強みになっています。コンテンツがオンライン化されれば,オンサイトよりも更に世界中に広がることになるでしょう。したがって,日本の大学はそれを買う立場になるのだと思います。英語で同じものを独自にい開発して負けるのではなくて,買えるものは買うべきです。
しかしながら,大学にはオンキャンパスでないとできない教育がたくさんあって,ケンブリッジ大学や,オックスフォード大学も現在そこで苦慮しているわけです。そのときに,日本にあえて来て学びたいと思う留学生をどうやって増やしていくかというところに,日本の大学のチャンスがあるだろうと思います。つまり,キャンパスの安全面であるとか,それから,人種の問題についての扱いなどが欧米と日本では大分違うので,強みにできる可能性はあります。新型コロナ感染対策で言えば,感染のリスクなく安全にオンキャンパスで教育・研究が実施できるという環境をどう作るかが鍵です。ところが,文科省の大学設置基準は当然コロナ以前に策定されていますから,3密が起きる仕様になってしまっています。ですから,その基準で縛ることのナンセンスさを前回の検討会議で説明したわけです。今はそんなことをやっている余裕はありません。
英語での教育については,例えば全ての講義を英語化して,英語を母語としない教員によるクオリティの低い英語コンテンツが,高く売れるはずがありません。
一方で,言語に関する障壁は下がってきています。東京大学では,IARUの会議は英語で開催しましたが,北京大学とバイのホットライン会議は,それぞれ中国語と日本語で発言しても,同時通訳を交えてリアルタイムのコミュニケーションがストレスなくできました。AIなどの進歩も凄まじく,言語に関しては相当バリアフリーになってきています。日本人が英語圏で活動するためには英語のスキルは大事で,日本のエリートの人たちが英語力を上げなければならないのは間違いありませんが,外国から日本へ受け入れるときには覚悟を決めて,日本に来たい人たちに,日本語を使うということを前提として付加価値を与えることは可能だと思います。
今は,アメリカ,ヨーロッパでは従来のオンキャンパスでのhighly personalized educationができなくなっている状況です。だからこそ日本にはチャンスがあります。これはプレコロナのときには検討しえない国際戦略です。国際化拠点整備事業(G30)の募集要項にはそのようなことは一切書いてありません。新たに生じたチャンスを逃してはいけないというのが私の意見です。戦略は様々なものがありますが,本日議論するのは時間的制約もあり難しいので,もし機会があれば,オンライン会議で是非御議論したいと思います。よろしくお願いします。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは,星委員,お願いします。
【星委員】 11ページの国立大学の国際化の提案というところで,これは当然,自由度を上げるということでいいと思うんですけれども,一つ質問したいことがあります。それは今の状態だと3大学までのジョイント・ディグリー・プログラムを実施することができるということですよね。ジョイント・ディグリー・プログラム,これも現場から見ると作るのは大変だと思います。一つのプログラムを作るだけでも大変なので,ジョイント・ディグリーというのはそれ以上に大変です。3つになるともっと大変になると思うので,4大学以上で作りたいというところは本当にあるんですか?
もう一つ,国際化といったときに,いろいろな議論はあると思うけども,一つ関係するのは多様化だと思う。いろんな人,今の日本の大学に来ないような人材を採れるようになるということが国際化でやることができるというのは重要なところだと思う。その辺の多様化と国際化の関係というのは,これは誰に質問しているか分からないんですけれども,どう考えられているんでしょうか?
多様化というと,日本の国内でも多様化はこれから必要なところだと思います。先ほど大野先生と,それから,山極先生もおっしゃったと思うんですけども,海外から学生を採るときに,SATの高い人,成績のいい学生を採るという方針を出されているようですが,それは必ずしもいいことではないのではないでしょうか。せっかく今の受験とは違う形で人を採れるというのに,SATの高い人を採るということになると,日本の学生とそんなに変わらないのではないでしょうか。もう少し違ったやり方の方が,多様化も国際化も進めることができるのではないかと思いました。
【金丸座長】 ありがとうございます。
文科省,コメントありますか。
【佐藤国際企画室長】 文部科学省国際企画室の佐藤です。最初の御質問だけ。4大学以上のジョイント・ディグリーが世界にあるのかというお話でしたけれども,ヨーロッパでは,日本大学,5大学,6大学といった形でのジョイント・ディグリーがあると承知しております。
【金丸座長】 ありがとうございます。
それでは,松本委員,お願いします。
【松本委員】 松本です。同じ11ページの資料のことで教えてください。「連携先大学が主となって管理する学生(留学生)定員の外枠化」と書いてあります。外枠化して,今後どうするのかということを伺いたいんです。留学生だけを外枠化するのか。生涯学習で懸案事項になっている社会人学生も外枠化する。そうすると,どんどん広がっていって,定員はどこを外枠で,どこが中なのか。どうやって決めていくのか。誰がどうやって決めるのか。その辺の方針が決まっていたら教えてください。それが1点目です。もう1点。「設置審の審査の簡素化」とありますが,設置審の審査の簡素化,つまり,学生という定義を変えていくのか。それとも,そもそも定員というものを管理するという発想もやめるのか。これからどうしたい,どうするのかということも含めてお話しいただけると有り難いです。
【金丸座長】 文科省,どなたか。回答ありますか。
【生田高等教育局視学官】 はい。取りあえずここで……。
【山極委員】 山極ですけど,いいですか。
【金丸座長】 どうぞ。
【山極委員】 先ほどのお二人の質問に答えますけども,今,うちは3大学のジョイント・ディグリーを進めているんですが,これは実はバルセロナ,グラスゴーで,将来的には4大学,5大学と増やしていこうと思っています。
それから,いわゆるSATみたいな標準的な試験に受かる学生だけを求めているわけではなくて,例えばASEAN諸国の学生の様々な調査資料を持ち寄って,これは学部が選べます。特色入試の留学生版だということなんですけど,学部が欲しい学生を選ぶということでやっていますから,それなりに特色ある学生を海外から選んでいると思います。ですから,一律ではありません。
それから,外枠化ですけども,我々が主張しているのは定員の自由化であって,既に大学院は外枠化しているんです。大学院の定員も学部よりは自由度が高いわけですね。少なくとも大学院程度に学部も定員も自由化させてほしいということを言っているわけです。ある年は採用する学生が少なくても,次の年は増やすという形で,6年間を見て,どういう学生をどういう数で選んだかということを大学のそれぞれの基準でやらせてほしいということを言っているわけです。外枠化にこだわるわけではありません。
【濵口委員】 金丸さん,濵口ですけど,いいですか。
【金丸座長】 はい。今日,御発言がなかった。どうぞ。
【濵口委員】 さっきもちょっと発言したかったので。この問題で一番大事なことは,一つは,日本が少子化するということですね。2点目は,日本人のドクターコースの人がどんどん減っているということ。つまり,将来の,特に国立大学の大学院が理系の高度専門人材を育てているんですけど,これは日本人の専門人材はどんどん減っているということなんですよね。これをどうするかということがあるわけなんですよ。
もう一方で,ストレートに言うと,留学生と言っていますけど,留学生の6割が中国なんですよ。3点目としては,米中対立の中で非常に厳しい状況がこれから生まれてくると思います。これをどう解決していくかというところにいろんな思いが今入っていると思うんですね。外枠化するということによって,ある程度,多様化し,幅広い人材を採るということを自由にやる必要があります。その一方で,AI,IoTを使うという方法が実は効果的な,教育・指導体制が作れます。私はアジアにサテライトキャンパスを作ってきましたが,これはドクターコースなんですよ。このコースは,現地に教室を作り,教員を配置しながら,ITでアジアの各地と名古屋大学をつないで,実際の授業,週1回のセミナーなど,全部現地の教室から参加してもらうんです。さらに,夏には日本に来ていただいて,名古屋で数週間,きちっとしたフェース・トゥ・フェースの教育をやると,コストも下げられるし,高度な人材が確保できるんです。これは一つのアジアの展開のやり方ですね。
それから,もう一つは,ジョイント・ディグリーがなぜ必要なのかというのをもうちょっときちっと整理した方がいいと思います。ジョイント・ディグリーを導入することは基本的に大学院の質の担保なんです。日本の大学院の質の担保を,ジョイント・ディグリーを組んだ海外の大学がそれなりに担保してくれるわけですよ。おまえのところの博士号を与えた学生には,うちの博士号をやってもいいんだよという,こういう話ですね。更にこれは2番目の利点として,国際的に日本の大学が認知されるプロセスでもあります。
更に3点目としては,特に認知される相手の大学が,欧米であることがポイントです。名古屋の例を見ていただければ分かりますけど,戦略的に,今の中国依存からどうやって抜け出すのか。これはジョイント・ディグリーが非常にキーポイントになってくると思います。ですから,これはとても大事で,もう少し条件を緩和していただくことが大学の活性化につながる。特にトップ大学の活性化につながると思いますので,是非文科省の提案,3点は認めていただきたいと思います。
以上でございます。
【金丸座長】 ありがとうございます。それでは,大野委員,お願いします。
【大野委員】 時間がありませんので簡単に。国際化は絶対に重要だと思います。日本人の学生にとっても,早めに多様な海外の仲間とつき合うというのはとても重要で,そういう環境を整えたいと思います。ですから,国際化は絶対進めるべきだと思います。
ジョイント・ディグリーというのは国際化のための一つの手段であって,今お話が出ているのは,ある種,質保証のためのテクニカルなところをどうしようかということなのですが,それとは別に大きな流れとして,国際化を進める仕組みを作るのが一番いいんじゃないかなと考えています。
もちろんトップ大学だけなのか,全大学なのかというところは若干考える必要があるかもしれませんけれども,例えば,今,少子化なので,定員というのがなかなかいじりにくいという様々な環境がある中で,留学生は外枠化する。そこが例えば経営のある種,柱にもなり得るような収入をもたらす。そういう仕組みにすると,やはり経営として,是非そこを自ら強化して,留学生にとっても,今いる日本人の学生にとってもいい取り組みにしたいと大学が思うわけです。しかも,その収入で教員を新たに雇いたいというふうに動くわけです。そうすると,そこの教員のある数は,外国人教員であるでしょうし,そこでなされる教育のある割合,全部かもしれませんし,ある割合でとどまるかもしれませんけど,英語での教育になるはずです。いまある国立大学の仕組みはそれとしても,その中に少し市場原理を入れて,国際化を進めたくなる部分をつくる。そうすると自然に今まで課題となっていたものが進むのではないかと考えています。
以上です。
【金丸座長】 ありがとうございます。
柳川委員,お願いいたします。
【柳川委員】 手短にやりたいと思います。11ページの提案は,もう大賛成というか,必ずこれは実行すべきだと思います。言い換えると,これだけでは寂しいと。ここは最低限のところであって,やはり大きく世界の大学の在り方が今,変わろうとしているんだと思います。これは何人かの先生が強調されたように,コロナによって,オンラインでの教育が相当できるということが分かったと。これがどこまで続くか分からないので,全部オンラインというのは恐らく続かないんだと思いますけど,オンラインとオフラインの新たな組合せによって,全く違う教育が可能になることが分かってきたというところをしっかり見据えて,やっぱり日本の大学も考えた方がいいのではないかと。そうすると,皆さんも御指摘になったことですけど,定員というのはそもそも何かということですね。
オンラインで参加している人を定員と数えるのか。それから,留学生の定義も,これもやっぱりオンラインである科目だけ取りに来ていて,外国にいるのを留学生として捉えるのか。実はこういうオンラインとオフラインをうまく混ぜた,そういう意味での自由度の高い独自性のある教育をやろうとしたときに,根幹となる定義が足かせになると。古い仕組みで定義されているところはしっかり見直していかないと,新しいやり方ができないということを,今回のこの国際化の紙は示しているんだと思いますので,そこを,当然実態は変わっているんだとすれば,定義はすぐに変えていかなきゃいけないんですけど,なかなかこれを変えていくのは,大変なことはよく分かっているので,早めにこういう定義を変えて,自由度を確保していく。独自性を確保していくことが重要かと思います。
以上でございます。
【金丸座長】 ありがとうございます。
五神委員,お願いします。
【五神委員】 ありがとうございます。先ほどは紹介しませんでしたが,戦略的な経営実現についてもう少し具体的な話をしたいと思います。日本のリーディング大学を国際化するために,今,ウィズコロナ,ポストコロナで極めて重要なのは,やはり“世界の分断”の問題です。日本において,脱中国という方向の戦略は,私は正しくないと思います。なぜかというと,日本の政治経済はやはり米中関係の中にどっぷり巻き込まれざるを得ませんが,唯一ニュートラリティを保てるのはアカデミアです。アカデミアセクターが,責任をもって長期的な戦略を立てることができるとしたら,先ほど小林委員からあったエマージング・テクノロジーについても,しっかり取り組むことができるわけです。例えば東京大学では,量子技術や半導体について戦略的に取り組んでいます。
問題は,米国,中国の情報を的確に捉えながらマネージできるかどうかです。例えば貿易管理については,東京大学はもう何年も前から,ハーバード大学と連携して,ハーバードが取得している情報を共有しながらマネージしています。そうしたベースがあるので半導体も量子も取り組むことができるのです。それができるのは,やはりアカデミアとしての信頼が構築されているからです。そのようなチャンネルは,現在のウィズコロナ,ポストコロナにおいては極めて重要です。そういう活動も,それと全然関係ないことによって思わぬ制約を受けることもたくさんあります。
だからこそ,しっかりマネージしていくことは重要です。日本の産業界の利害とも絡むことなので,産業界との信頼関係を保ちながら丁寧に進めているというのが現在の状況です。貿易管理ですから当然,経産省ともきちんと議論しながら進めています。それ以外に道はないと思います。
以上です。
【金丸座長】 ありがとうございました。
それでは,松尾機構長,お願いします。
【松尾東海国立大学機構機構長】 今の点に関連して,我々は1法人複数大学でやっているからというわけじゃないんですけれども,確かに東大はできているんだけど,大部分の大学はできていないという現実があるんじゃないかと思うんですね。そうすると,私はやっぱりこれは一定の固まりの中でそういったことを保証していかないと,一つ一つの大学がやるのは非常に難しいし,やらないとまた宝の持ち腐れになるというところがあるので,そういう意味で言うと,言い方は誤解があるかもしれませんけど,そういったことができる大学が周りの大学と一緒になってやっているという,こういう地域のプラットフォームを作って,それが保証していくという,こういう考え方が必要なのではないかと思います。
以上です。
【金丸座長】 ありがとうございました。
3時間,あっという間に時間が過ぎてまいりました。本日も様々な論点について御議論いただきました。ありがとうございました。この議題2の事務局から具体的な提案のあった,我が国の大学と外国の大学間におけるジョイント・ディグリー・プログラムの設置認可手続の簡素化につきましては,大学教育のグローバル化の進展を加速化するためにも是非ともいち早く御提案の運用改善を行っていただきたいと考えます。
これについては,委員の皆さん,御異議はないんじゃないかと思いますが,よろしゅうございますか。はい。ありがとうございました。
また,本日は,委員の方々から,WITHコロナ時代に日本の国立大学が海外大学と伍していくため,国際化に向けた新たなビジネスモデルやゲームチェンジのビッグチャンスともなり得るアイデアなども御披露いただきました。
対面とICTとのハイブリット教育の在り方なども含めまして,日本のポテンシャルを生かした新たな国際交流の展開に向け,必要な制度的,運用的な課題について,文部科学省として引き続き検討を深化させていっていただきたいと思います。
それでは,時間が参りましたので,本日の議論は以上とさせていただきます。
今後の日程等につきまして,事務局から説明をお願いいたします。
【生田高等教育局視学官】 本日は長時間にわたり,大変活発な御議論,どうもありがとうございました。本日のこのウェブ会議の議事の状況につきましては,後日,早々に動画をホームページに掲載させていただきます。恐らく週明け早々になるかと思いますが,改めて掲載の際には,事務局から委員の皆様方にも連絡をさせていただきたいと思います。
また,次回,来月第6回につきましては,7月28日,今度は火曜日でございますけれども,16時からの予定をしております。
以上でございます。
【金丸座長】 それでは,第5回会議を終了いたします。皆様,本日は御多忙のところ,長時間にわたってどうもありがとうございました。また,次回よろしくお願いいたします。

―― 了 ――

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