令和元年度国立大学法人会計基準等検討会議(第7回) 議事要旨

1.日時

令和2年12月25日(金曜日)13時30分~15時30分

2.場所

文部科学省 中央合同庁舎7号館東館13階 13F3会議室 ※WEB会議

3.議題

  1. 国立大学法人会計基準の見直しについて
  2. その他

4.出席者

委員

樫谷隆夫主査、植草茂樹委員、江戸川泰路委員、加用利彦委員、椎名弘委員、野々村愼一委員、水田健輔委員、森公高委員
(有識者)木村彰吾名古屋大学理事・副学長

文部科学省

   川中大臣官房審議官、堀野国立大学法人支援課長、生田高等教育局視学官、上野国立大学法人支援課課長補佐、川辺国立大学法人支援課専門官
 

オブザーバー

   日本公認会計士協会
 

5.議事要旨

<議題 国立大学法人会計基準の見直し>

(事務局)
資料1~資料5に基づき説明。
このほか、財務諸表組替案として、損益外コストを経常費用である教育経費や研究経費に含めることで、フルコストを踏まえた経常損益を表示し、国の責任部分である損益外コストはその後にマイナス調整することで、最下段に当期総損益を表示する方法(以下「案1」という。)及び経常損益及び当期総損益はこれまでと同様に損益計算書として表示し、国の責任部分である損益外コストは別途、包括利益計算書(仮称)として表示する方法(以下「案2」という。)を説明。

(主査)
本日は、1.損益外情報の表示方法、2.損益計算書の表示区分、3.科研費の損益計算書上の表示の3つのテーマを主に議論いただきたいと考えており、議事もこのテーマに沿って一つずつ進めていきたい。

1.損益外情報の表示方法について

(委員)
財務諸表組替案について、案1が、全ての費用が含まれた形で表示されており、IPSASにも準拠している形になるのでよいのではないか。
一方、案2は、まず包括利益という用語が企業会計の場合と違う使われ方がされており、混乱を招くのではないか。名称の問題を置くとしても、経常費用に費用の全てが含まれていないという点に問題があるのではないかと感じる。

(有識者)
案1にしても案2にしても、減価償却費が明示的にPLに出てこないのは少し違和感がある。損益外の減価償却費がもしPLに反映されるのであれば、教育経費、研究経費に按分せずに独立した勘定科目で表示していただきたい。
また、大学では、減価償却の基となる固定資産が、通常の教育研究、産学連携等の対価として得た収入で整備されきるものではないことから、案2の方が大学の実態に合っているのではと考える。

(委員)
案1を採用した場合、経常利益の意味がわからなくなってしまうのではないかという点が懸念される。通常、経常利益が赤字となった場合、法人のマネジメントとしていかに改善していくかという観点からスタートするものだが、案1で経常利益が赤字となった場合に、大学としてどのように説明することになるのか。

(委員)
経常利益は一義的には経常収益から経常費用を引いたものであり、マイナスとなるということは、経常収益の方が少ないということだと考える。案1では出資を受けて自己の資産になった後減価償却も費用として発生し、経常損益が赤字になることとなるが、補助金や運営費交付金等を増やしていただくことでそこを中長期にわたって解消していくのか、それとも追加の出資を受けることで、貸借対照表の中では債務超過にならずに賄われるという形にするのか。それはこの数字を見た後の政策なり判断、経営判断の問題ではないかと考える。

(委員)
これは文科省と大学との交渉という意味での経営判断であって、大学のみでの経営判断は恐らくできない。フルコストという趣旨には賛成であるが、経常損失が常に出てくるという構造について、国民がこれを見てどのように考えるのかという点が気になる。案2は、出資に相当するものは、国が基本的に責任を持つという制度設計に基づいており、経常損益あるいは臨時損益という項目を見たときに、企業の経営者や一般の方も含めて誤解がないように収まるのではないか。
逆に、案1の方は、通常、経営者の責任そのものである経常損益の部分をどのように説明すればよいのか。国の資金提供不足だというふうに考えるのか、もしくは、経営マネジメントの努力不足だと考えるのか。

(委員)
案1については、経常利益はあくまでフルコスト情報の開示であって、いわゆる経営努力については、最後の当期総利益と理解すればよいのではないか。

(有識者)
経常利益、経常損失の考え方として、経常費用に対して経常収益の過不足ということが基本にあるが、大学の本質的な使命は教育、研究であって、その研究成果に対して収益が対価として発生していないというビジネスモデルが根本にある。この大学のビジネスモデルに合った収益、あるいはその費用と対応の構造ができるとよいが、少なくとも現行の損益計算書の枠組みではそうはなっていないので、やはり統合報告書なりそういうものを早く作るということが必要である。

(委員)
大学としてどうやって正常な経営努力を示すことができるのかということを考えたときに、外部資金や病院など正常な収益力がある活動も行っており、損益計算書本体でこうした活動区分別の表示をある程度行って、分かりやすい形で表現をするということも一つの考え方としてあり得るのではないか。

(委員)
この2案でどちらを採るのかというのは、経常利益をどう説明するかに尽きると思う。これまで国が最も重要なステークホルダーで、国しか意識していないような会計制度だったところを、企業等も非常に重要なステークホルダーであるということで、損益外減価償却費も含めて大学は相当の赤字を抱えているのだということから交渉をスタートしたいという考えに基づくのであれば、経常利益の段階で損益外減価償却費が利益インパクトとしてマイナスに出ているほうが、交渉しやすい面はあると思う。一方で、経営者の運営責任という観点から、大幅な赤字の状態が継続的に続くという状況の中で、運営責任をどう評価していくかという問題が今回のポイントであると考えている。
減価償却費を外出しするという案に関しては、これをまとめて外に出せるとなると、会計上の負担も減る。財源も変わっていくということもあり得るので、そういう意味では一つの案としていいアイデアではないかと思う。

(オブザーバー)
減価償却費だが、現行の財務諸表においても附属明細書の中で損益計算書のそれぞれの教育経費等の明細を出しているはずで、その中で既に教育経費の中の減価償却費であるとか、研究経費の減価償却費という金額は既に開示されていたのではないか。
減価償却費の外出しについては、例えば本表の中で見せたいというのであれば、今出ている教育経費や研究経費の中に小項目を設けて出すとか、それは既に出している情報を本表にするぐらいであり、それは十分対応できるのではないか。

(有識者)
大学の現場にいるとお金がないというのは非常に切実な問題だが、一方で現行の損益計算書では利益が何十億円も出ていて、この乖離を何とか解消できるような方向性が見られないか、というのが現場にいる者としての問題意識。学内の経営協議会でやはりこのPLで説明するため、例えば現金の裏付けのない利益などで大学の財務の経営の実態に踏み込んだ議論が難しいところがあるので、そういったところの解消が図れればと思っている。

(委員)
例えば、銀行が融資するときに、表面の財務諸表だけで判断をするということはしておらず、プラス将来どうなっていくのか、あるいはその会社、大学がどういう方向になっていくのかというところも見ながら、総合的に判断している。国立大学の格付けの判断においても、日本政府の拠り所があるから信用リスクがないという意味で高い信用格付けを取得しているのが実態であり、財務諸表の表示と信用リスクの判断は、直接的には紐づいていない。
今までの議論で思うのは、大学の実態は赤字なのか黒字なのかというときに、ビジネスモデルでいうと、交付金が前提としてあるわけなので、それを考慮するなら均衡という立場と、それがなければ赤字であるという両極の立場があって、そのどちらかに立ってしまうと、全く違う答えが出てくる。だから、そこが今ディスクローズ、あるいは説明責任や自助努力というもので方向付けをしようとするときに、まとまらない根本の原因と感じている。会計基準を変更すると赤字になるがいいのかという議論ではなく、本来説明したい姿を適切に表現できる会計基準は何かという観点が重要だと思う。

(有識者)
大学の実態として運営費交付金は財源として大きな割合を占めており、その考え方としては、運営費交付金対象事業費というのがあり、そこから学生納付金と自己収入を引いて、足りない部分が運営費交付金で措置されるというつくりになっている。
基本的には運営費交付金の対象事業のところは収支均衡になる。ただ、そこはあくまでも単年度の現金収入ベースになっているため、そこにゴーイングコンサーンとしての立場で人為的に期間を区切って決算していったときに、その固定資産の減価償却費が入ってくると、構造的にはそれに対する収益がないので赤字になると受け止めている。

(事務局)
戦略的経営実現に向けた検討会議の最終報告での議論を踏まえると、まず、国と国立大学法人とが自律的な契約関係だとすると、国、法人のそれぞれ責任を持つというのが大前提となっている。その責任を持ってお互いがお互いを律するのが自律であるとした上で、さらに国立大学法人も国だけを見るのではなくて多様なステークホルダーとエンゲージメントを結んでいく。そういう流れで議論というのがなされたというのが背景。
国立大学法人は、運営費交付金としてかなりの資金が国から交付されており、公共財である。もちろん経営体になるという方向性は志向するが、公共財としての経営体という、ある意味特殊な組織体である法人として、どういう会計基準を採っていくべきかという議論をいただければと思っている。そういった観点から、経常利益のところが大幅な赤字になる原因の大本が政府出資の資産による減価償却であるということが、法人側に経営努力、経営体となれと言っているにもかかわらず、国の責任における部分がピックアップされてしまうというのはどうなのかと考えているところである。
多用なステークホルダーに対する説明責任として、案1の方が分かりやすいという考えもあるが、公共財であるという国立大学法人の特殊性などを勘案すると、事務局としては案2が良いかと考えている。

2.損益計算書の表示区分について

(委員)
国と大学の責任もそうであるが、経営努力を見せる仕組みが必要でないかと考えている。損益計算書で統一的に大学の自助努力をきちんと示したいと思っているが、大学が一つの経営体として経営者の責任、経営者が評価できるような財務諸表を目指すためには、ある程度区分をしていくということが大事であると考えている。

(委員)
表示区分の方法として、経常活動と外部資金活動に分けたものが提出されているが、この損益の金額だけ見ると、経常活動の赤字を外部資金活動で埋めるという構造になっている。これは外部資金活動のほうの費用には直接経費だけが入っていて、結果的に間接経費相当額が利益になっているという理解で良いか。また、間接経費をその他の予算の財源として運営費交付金とかと一緒に予算化されているため、必ずこういう構造になるというか、あたかも経常活動の赤字を埋めるために外部資金が使われているかのような表れ方として出てしまうため、それがミスリードする面があるのではないか。

(委員)
これは2つ原因があり、間接経費の収入は外部資金に入っていて、間接経費の執行したものは経常活動に入っている。もう一つは寄付金についての執行も寄付金収入は外部資金に入っていて、経常活動に費用が入っている。この2つの要因によって、ミスリードしやすい形になっているが、間接経費についても執行は外部資金活動に入れる、あるいは寄付金の執行も外部資金活動に入れるという形で、外部資金活動については、少なくともとんとんから若干プラスになるような構造になると思うが、そこを安定的に見せるということが必要でないかと思う。やはり外部資金については安定的に同じルールに従って、実になる努力が見えるような形になる。大学の自助努力部分というのをきちんと根拠を表してあげたいと思っている。

(有識者)
経常収益と経常費用のオーバーオールで見せてしまうと、どういう活動で費用がかかっていて、どういう活動でその対価が得られているのか見にくいと思っており、区分表示することは有用だと考えている。大学のアクティビティーとしては、科研費、共同研究であるとか、さまざまな形でお金を得ながら活動しているので、トータルバジェットで見ると、運営費交付金の対象事業経費の外のところの活動についての損益も計算できるのだろうと思っている。基本的に、運営費交付金がある以上、その運営費交付金対象事業とそうでない事業という分け方で整理できればいいのではと思っている。

(委員)
表示区分について、大学全体として統一すべきという意見と、やはり同じ大学といってもそれぞれの大学で違うので、それぞれの大学でやっている説明責任を個別で果たすという資料を作っていく必要はあるのではないか。どこまで区分すべきという議論になると思う。

(事務局)
現状、財務情報の表示区分の仕方については、様々な大学が統合報告書などの媒体を通じて、それぞれ工夫を凝らしながら試みられていると認識している。
事務局としては、総合大学や単科大学、小さな大学など各大学によって財務状況はだいぶ違うのではないかと考えており、現時点においては、会計基準上で統一をするよりは、これまでの損益計算書に準じた表示方式にした上で、大学の独自のさまざまな工夫というものを促していくという形、例えば、通知等で様々なプラクティスを展開していくのが良いのではないかと考えている。

(委員)
会計基準とは別の概念だと思うが、一つの経営努力を横で比較できることの仕組みというのは、大事であると思っている。全てを自主開示とする考え方は確かにあるが、損益計算書で統一して開示することが難しいのであれば、決算報告書については少なくとも統一する基準を作ってはどうか。事務局からも話があったが、大学がどんなことをやっても赤字になるという損益構造は、非常に経営者の努力を削ぐところであると思う。

3.科研費の損益計算上の表示について

(委員)
この論点は、収益認識会計基準上の典型的な本人、代理人の論点であると考えている。本人であることを示す要素と、代理人であることを示す要素が混在している場合には、複数の要素を総合的に考慮することになるが、科研費補助金もそのような印象を受ける。第一義的には研究者個人に支給されるものであるということと、他の大学に移籍した場合のポータビリティー、一方で、不正があった場合に研究機関が返還義務を負うとか、知的財産権の帰属とか、複数の相反する考慮要素があると思っており、これらを総合的に判断するほかないが、こうした矛盾を解消するような制度改正を検討するのも一つの手ではないか。例えば、不正があったときに、研究者本人が受給し、不正を犯したのならば、第一義的な返還義務は、本来は当該研究者本人が負うべきものである。弁済資力の観点から研究機関に連帯債務を負わせたいとか、研究機関にも管理監督責任があるはずということであれば、そういう規定の仕方にすれば良い。
国立大学法人だけではなく、公立大学の場合も会計基準のQ&Aに研究者に渡すべき一時的な預り金という意味で負債に計上することとしており、私立大学も私学事業団の実務問答集に預り金の処理ということが定められている。もし、国立大学法人で損益処理のほうに転換した場合、公立大学や私立大学がそれに倣って足並みをそろえてどういう変更をするのか、設立主体の違いによって会計処理が違うこととなると合理的な説明が難しくなるため、慎重な検討が必要だと思っている。
印象としては会計的には預り金処理が正しいのではないかということで、収支の総額を示したいということであれば、損益計算書の本表の中でなく、事業報告書や、別途注記などの形で示すということにしてはどうかと考える。

(委員)
これは国立大学法人特有の問題ではなく、私立大学や企業、独法もそうであるが、企業の場合、科研費はどういった整理をされているのか。

(オブザーバー)
すべての例ではないという前提で、民間企業の監査をしている中で間接的に話を聞くこともあったが、売上や収益にあげているところは聞いたことはなかった。これは金額的重要性という観点で、大学と異なる部分があるかもしれない。私学や公立大学だけでなく、独法も多額の科研費を受け取っている法人があったのではないか、同じ制度でありながら、機関によって処理が大きく異なる結果になることは極めて不安なところがある。
また、科学研究費補助金は文部科学省だけではなくて、例えば厚生労働省も出している部分もあると思う。いろんなレベルの話がある中で、大学関係者としても思いは非常によくわかるし、財務諸表の本表の中で開示するということに関しては、諸々の状況を勘案した上で、総合的に決めていく方がいいのではないかと感じている。

(事務局)
大学でどれだけ研究費を使っているのかという点を説明するにあたって、科研費というのは非常に重要なパーツであろうと思っており、科研費抜きの数字だけで説明や議論を行うことに疑問があるという大学側の考え方は十分理解できるものと考えている。
科研費は個人補助であり、預かり金という扱いはそのままでよいと考えているが、不正があった場合に機関も責任を負っている部分があるといったことを踏まえて、少し取り扱いを考えてもいいのではないか。また、そういうことを前提に、損益計算書の中でどんな姿が見せられるか、何らかの表示を行う方法を考えたほうがよいのではないかと思っている。

(委員)
国大会計基準は一定の強制が働くため、そこで規定してしまえばよいという考え方もあるかもしれない。また、その一方で会計的にどうなのかという両方の議論があるだろう。

(有識者)
会計的にどうなのかという話は理解できるが、経営努力という中身で申し上げると、大学は決して経常利益をプラスにするために費用を抑制するということはしておらず、むしろ優れた研究者を採用してくるとか、人材を育成するとかという活動があり、まさにそれが結果として科研費を獲得したりということに繋がってくるので、そういうところをこの財務諸表で見られないのであれば、それこそ変えていく必要があると思う。経営努力というのはPL上だけではない話であり、大学の現場としてはそういう思いがあるということをお伝えしたい。

(委員)
会計理論的には預り金なので、損益に入れるというのは難しいと思うが、一方でこれを入れるという判断もあり得るだろうということで申し上げると、損益計算書の中に研究経費として普通に表示してしまうとミスリードとなってしまうので、せめて預り金の収入、支出であるということが明らかであるような科目名にする必要はあると思う。

(オブザーバー)
会計的にどうかという話の中で、明らかに1つ懸念するとすれば、仮に会計理論的にも損益があり得るとした場合でも、少なくとも今まで預かり処理をしていたことが決して間違っていたわけではないという前提に立った議論をしないといけないだろうと思う。
現状において、国立大学法人として検討するのであれば、固有の会計処理の一つとして対応できるかどうかを整理するのは一つのアプローチとしてあり得るのではないか。

(主査)
今回の議論を踏まえて、最初の議題である損益外情報の表示方法については、事務局と相談をして趣旨に沿ったような案を出していきたい。2番目の表示区分については会計基準で統一するよりもこれまでの損益計算書に準じた表示方法にした上で、大学独自の工夫を促していくこととして、各大学の事例等を周知する。3番目の議題である科研費については、預り処理とした上で、損益計算書上で支出と収入を両建てするという方向で検討するということとしたい。

本日の議事は以上である。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課

(高等教育局国立大学法人支援課)