令和元年度国立大学法人会計基準等検討会議(第5回) 議事要旨

1.日時

令和2年9月7日(月曜日)13時00分~15時00分

2.場所

文部科学省 中央合同庁舎7号館東館16階 16F2会議室 ※WEB会議

3.議題

  1. 国立大学法人会計基準検討の改訂の方向性
  2. その他

4.出席者

委員

樫谷隆夫主査、植草茂樹委員、江戸川泰路委員、加用利彦委員、佐藤誠二委員、椎名弘委員、野々村愼一委員
(有識者)木村彰吾名古屋大学理事・副学長

文部科学省

   川中大臣官房審議官、堀野国立大学法人支援課長、生田高等教育局視学官、上野国立大学法人支援課課長補佐、川辺国立大学法人支援課専門官
 

オブザーバー

   日本公認会計士協会
 

5.議事要旨

<議題(1)国立大学法人会計基準検討の改訂の方向性>

(委員)
運営費交付金や補助金などの会計処理の在り方について、企業会計の方で収益認識に関する会計基準が導入されたことや、国際公会計基準でその部分を見直していることから、これを検討するには絶好のタイミングではないか。今の国立大学法人の会計処理がわかりにくいという部分があるという点についてはその通りであるが、懸念点もある。
損益外処理については、廃止すると多くの法人で赤字となることが想定されるが、収益が設備の更新をするための自己資金を内部留保できるような水準まで足りていないということなので、実態をより明確に表す財務諸表になると考える。
補助金等に関する会計処理は、何ら義務を負わない場合は収益計上すべきだが、何か義務を負っている間は負債とし、その義務を履行した際に収益に振替計上するという現在の処理が適切であると考える。ただし、運営費交付金のような渡し切りの資金について、大学として任意に固定資産の購入等に充てる場合、現在の会計基準では負債や資本剰余金に振り替えているが、本来は即時に収益計上すべきではないか。
一方、財務諸表を国からの付託部分と大学の自助努力部分に区分するという点については、まずは区分の明確な基準ができるのかという懸念がある。また仮に明確な基準ができたとしても、利用者としては法人全体の決算に関心があると思われるので、労力に比べて便益が少ないのではないか。
次に国が責任を持つべき債務の可視化、償却資産の減価償却費相当分の未収計上だが、国に対してそれを強いるだけの法的な権利や契約上の権利がない限り、資産計上の要件を満たさないので、会計理論上無理ではないか。
最後に科学研究費補助金の全額収益計上について、これは個人に対する補助金であることを考えると、大学の収益として総額を計上するのは難しいのではないか。管理費のような、大学として申請をお手伝いする手数料の部分が純額で収益に計上されるのであり、現状の会計処理が適切ではないか。

(委員)
先ほどの委員の意見には、基本的に全面的に賛成する。国が持つべき債務として未収計上することは無理だと思うが、法人化時点において本来国の責任だった引当金の積立不足部分について、額の確定をすべきではないか。将来国が負担することになっていた額を確定し可視化することによって、その部分は将来、減価償却費や退職給付引当金相当額の運営費交付金として区分して追加的に措置されるという保証を大学に与えられないか。

(委員)
寄附金や大学債など様々な財源に対して、使途の特定を外して自由に対応できるとなった場合に、従来だと繰越しする場合は目的積立金しかなかったが、それに含まれない第2の目的積立金のようなものを作るのか、純資産の部で資本剰余金的なものを作るのか。また、従前の会計基準を変えていくことも想定しながら対応していくのか。

(事務局)
中期目標期間を超えた長期的な目的積立金といったことと思うが、現時点では第2期から第3期に繰越した際のメルクマールの内容をもう少し分かりやすくするか、範囲を広げるといった形で対応できるか検討している。
期を跨いだ目的積立金の繰越について、現状は中期計画に定める目的のために使用するということしか法律上の定めはない。中期計画に長期的な計画を立てれば中期以降の建物更新に使えるのかという点については、今後関係省庁と調整をしていきたい。会計基準の改訂などが必要となる場合もあるが、まずは現状の法の中でどういった対応が可能か検討したいと考えている。
最後に、減価償却相当額の特定資産化だが、すでに減価償却費として費用が計上され、利益から控除されている部分になるので、貸方側の剰余金や積立金を減らすといった会計処理は考えていない。

(委員)
寄附金について、一度寄附金収益として収益化するときに拘束純資産として純資産の部で表現することにすれば、目的積立金の認定をしなくとも繰越が可能となるのではないか。
また、メルクマール判定について、前回は運営費交付金債務についてはプロジェクトごとに繰越が可能という表現になっているが、一方で自己収入財源については大型プロジェクトの支出といった限定した理由でしか繰越しできないという風に読める。自己財源も運営費交付金と同じ要件での繰越ができるようにならないのか。

(事務局)
まず、寄附金を収益化した場合の処理について、目的積立金とするのではなく純資産の部で対応するというやり方も想定しているが、今までそのような議論をしていなかったので、今回の資料には記載していない。
また、メルクマールに記載しているのは、あくまでも主な例であって、この他にも認めている例はある。現行においてもかなり広く認めているところではあるが、具体的な記載については、今後検討していきたい。

(委員)
元々国立大学法人会計は企業会計をベースに業績評価や運営・経営責任という点に着目し、きちんと運営していると利益がゼロになるように補正された会計基準であると理解している。それに対して、一つ一つの論点を議論して修正してしまうと、最終的にポリシーのない会計制度になってしまうのではないかという点を危惧している。
運営費交付金や寄附金の負債計上をやめた場合に、目的積立金を繰り越ししやすくして経営努力認定なしに自由に使えるような制度にするという選択肢と、会計的な取り扱いで債務として繰り越すか、純資産の部で何らかの工夫をするという選択肢しかないと考える。目的積立金の制度がどうなるかという問題もあるが、文科省が今考えている対応で解決できるのかというのが議論の前提になるのではないか。
もう一つ大きな影響として、承継資産や損益外として処理されている財産的基礎を構成する固定資産の取替更新財源をどうするかという話がある。国から財源が措置されないのであれば損益外ではなく損益内で処理をして、その分の財源を自ら確保したいというのが大学の意図だと思うが、今の大学の実態を表現するために損益内で表示するという改正も必要なのではないか。

(有識者)
いくつか大学の現場としての論点をお話ししたい。まず目的積立金について、先ほどメルクマールの話があったが、国立大学でもいろいろな事情があるので、例示だけではなく「これは認められない」といったネガティブな表現があってもいいのではないか。
次に減価償却について、これは主に施設や建物の老朽化部分の建替更新費用として必要になるが、一方で情報システムなど民間企業では当然投資すべきものへの財源がない。施設に関しては文科省の文教施設部において一元的に管理されているが、それ以外の大型研究装置などへの設備投資のやり方をどうするのかというのは、会計基準には拠らないが、現場では考えるべきことである。
三点目として、様々な財源の話が出ているが、財源ごとに使用できる用途が非常に複雑になっており、簡素化できるところは簡素化してほしい。
企業経営者の目線から見ると国立大学の財務諸表が分かりにくいというのはその通りだと思う。その一方で大学にとって最大のステークホルダーは文部科学省あるいは国であり、実際に運営費交付金の依存率が非常に高い国立大学はどうしても国の方を見てしまうところもあるので、民間企業の人に分かる財務諸表を作るというインセンティブを付与しないと変わらないのではないか。また運営費交付金は成果による再配分が増えており、大学の努力で増加した運営費交付金というのは経営努力認定ではないのか。この点も、会計基準には拠らないがどこかで整理する必要があると思う。

(オブザーバー)
退職給付に関しては、今の会計基準の財務諸表において、運営費交付金で充当するものについては注記で毎年出すべき退職給付の金額を開示している。その他にも、企業会計とは異なる処理を行っているものは補足として注記や附属明細を作成しているが、それが分かりにくいということであれば、それを前提としてどのような財務諸表、会計処理にしていくのか検討していく必要がある。一方で、やはり主要な財源である運営費交付金の配分元である国や文科省といったステークホルダーから見た財務諸表というものも念頭に置かなければいけないので、一律に損益均衡が良い悪いということではなく、一つ一つの論点を整理しながら検討していかなければいけない。
経営努力認定に関しては、会計基準ではなく制度の話なのではないか。会計基準でどうこうするのではなく、制度の部分でまずは決めて、それに沿ってどう会計処理をしていくかを基準で決めていくことになると思う。

(委員)
引当外の退職給付引当金については注記で記載されているが、承継職員の退職金相当額は支出時点で運営費交付金に加算するという仕組みが前提となっている。法人化時点での引当金相当額を毎年度運営費交付金に加算するとともに、本来の積立不足分を国が運営費交付金で追加的に積み立てていくという方式に切り替えていけば、大学側は承継職員かどうかによらず教員の流動化を図ることができるのではないか。
目的積立金について、平成16年度では運営費交付金の残余は教育研究のために使うという精神ですべて目的積立金になっていると思うが、平成27年度では使途が抑制的になっている。原則教育研究のために使用でき、中期計画に具体な施設整備の計画などがなくても複数期繰越して使えるという前提に方針変更をしないと、メルクマールの書き方の議論をしていても仕方ないのではないか。

(事務局)
基本的には国立大学の利益については通知に基づき関係省庁と協議を行うことで、目的積立金として認められている。中期を跨ぐときに厳しくなるのは、過去の経緯もあるので、今後関係省庁と議論をしていきたい。ただ、基本的に実質すべて繰越は認められている。

(委員)
結果的に全額繰り越せるということではなく、能動的に貯めてフローからストックの経営に移行するような行動を促すメッセージを大学へ出してほしい。

(委員)
目的積立金に関して、中期を跨ぐときではなく、年度を跨ぐときも、承認までの時間をなるべく短くしていただきたい。

(委員)
実態として、目的積立金の承認までどのくらいかかっているのか。

(事務局)
6月末に財務諸表の提出があって、決算上の利益が固まってから関係省庁との協議となるため、かなり早期化に努めて9月に承認という状況である。

(委員)
目的積立金が会計基準ではなく制度論という話について異存はないが、経営努力認定や目的積立金の話が、結果的に会計基準への要請に繋がってきているということはある。会計基準の議論をする前提として、制度がどうなるのかが整理されないと会計基準をどうするかという議論ができないのではないか。

(事務局)
間接経費を貯める話については、間接経費の制度改正があった場合には、必要に応じて会計基準の検討を行いたいと考えている。
本来、目的積立金は制度の話であるのは承知しているが、大学が今回の会計基準改正をどう考えるかということと連動している部分だと思うので、今回の会議でも取り上げた。制度の件については、すぐに結論として出ない部分もある。次回会議のときには財源別の話を整理した上で議論いただきたい。

(委員)
承継資産や損益外で処理している固定資産と減価償却費が損益内に入ってくると、間接経費の受入額をはるかに超える減価償却費が出て大きな赤字となり、経営努力認定とか目的積立金といった、間接経費を貯める議論が必要なくなるといったこともありえる。従って全体のシナリオを踏まえて議論を進めなければならない。

(有識者)
損益計算書について、現行の損益均衡の会計処理では利益が計上される傾向が非常に強い。様々なところで大学はお金がないと言っているが、PL上では利益がでているので、民間の人にとっては分かりにくいところだと思う。大学の財務の実態から見ると、黒字倒産の危険に常にさらされているという危機感がある。もう少し大学の実態に近い形にする工夫があると、大学としてもPLを作る意味がよく分かるし、民間の人とも議論がしやすいのではないか。少なくとも資金がないという実態が見えるような計算書にすると大学としてはやりやすいと思う。

(委員)
戦略的経営実現会議において非常にアグレッシブな意見が出ているが、文科省として、制度改正ではなくできる範囲で何とかしようとしているように見えるので、そこは少し懸念している。個別の論点それぞれの落としどころを見つけるのも必要だが、まずは大きな目線で方向性や目的を決めていけば、それに従って個別の議論も進めることができるのではないか。

(事務局)
法人化から15年経ち、当時より国立大学の事業費全体が増大し、国以外からの資金の割合が着実に増えている状況の中で、法人化当初に作られた会計の見え方についても変わっていかなければいけないと考えている。その中でも今回紹介した戦略的経営実現会議に参加している大学は、世界と戦うために外部資金を獲得していきたいという思いがあり、今の制度では活動がしにくいということでアグレッシブな意見が多く出されている。
しかし、結果として目的積立金の認定が厳しくなってしまうというような結論では、一部の大学にとっては良いがほとんどの大学が困るということになってしまう。現状よりは企業会計に近づけるような改革をしていかなければいけないとは思うが、不利益を被る大学が多く出ることのないように配慮しながら、基本線をどこに置くのかということをまた次回以降議論したい。

(委員)
損益均衡というのは、ニュートラルをベースに、そこから努力をしていかないと結果が見えないという面があるが、その論点から、損益外処理について現状ではやむを得ないという認識でよろしいか。

(委員)
結論としては、取替更新費用を国が財源措置するというところに損益外の根拠が紐づいているので、今それが約束できる状況ではないことを考えると、損益内に入れるという形の方が、会計上も正しいと言えるのではないか。ただ、それを純粋に表してしまうと大幅な赤字の状態になり、多少の経営努力や自己収入の増加がほとんど分からないようになってしまうので、例えば何か新しい利益の概念を導入するなど、損益区分を工夫することで従来の数字もきちんと出てくるというような仕組みができるとよいのではないか。

(オブザーバー)
損益外処理に関して、特に現物出資についてはその更新にあたって元々の出資者である国から必要な措置が取られることを前提として認めているものであり、かつ文科省で資産を特定した上で損益外処理できるということになっている。従って、取替更新に対して国が必要な措置を講じるという前提が崩れるのであれば損益外処理は難しいのではないか。言い方を変えると、会計基準がこのままであっても、文科省による特定を行わなければ損益外処理はできないので、大学によって損益外に計上するかしないか分けられるという考え方もある。

(委員)
戦略的経営実現会議では、指定国立大学の議論が中心となっているが、損益内処理に移行した場合に、中小規模の大学については財務内容が相当悪化することが考えられる。その辺りを整理して、指定国大の状況の会計処理を考えたときには、基本的には純資産の位置づけの議論になってくると思うが、難しい問題である。
法人化当初のステークホルダーは国民であり、説明責任は国にあるという方針だったが、これだけ財源が多様化すると変わってくる。多様なステークホルダーのニーズに合わせた会計基準をどう作っていくかとうのがこれからの課題になってくるのではないか。

(委員)
損益外の減価償却の扱いについて、業務実施コスト計算書において損益外のものが見えることは見えるし、損益計算書の欄外で表示するといった方法もあるが、やはり附属明細や注記ではなく損益計算書の中で表示されるという重みというものもある。これを機に損益外処理を見直して、損益計算書の中で費用として計上するということを検討するべきではないか。

(委員)
PLに損益外を入れると大幅な赤字になるが、大学としてその赤字の説明をすることになるが、問題ないか。

(委員)
赤字については、中長期的にどう補っていくのか、収益が足りないままだとして、資本としての補填がないとすればどうするのかということを意思決定させるツールにもなる。

(委員)
今回ここで議論しているのは、いわゆる一般目的の財務諸表であるが、一般目的の財務諸表にもそういう見せ方が必要なのか。

(委員)
多様なステークホルダーの中でも一般のサービス受領者や国以外の資源提供者というのは、情報を得る手段が確保されておらず、普遍的に役立つ情報をどう提供するかという点も重要ではないか。

(委員)
例えば、民間企業等へ大学の施設を使用した時のコストをどう積算するかという議論があるが、大学の施設を損益外とすると、その減価償却相当分について企業に負担を求めることが難しくなってしまう。損益外の中で議論をするよりは、損益内に入れてコストとしてきちんと認識した上で、誰にどう負担してもらうかというのを議論するべきだと思う。
また、損益外の中でも承継資産と法人化後に施設費で購入した資産とは色分けして考えるべきではないか。アメリカの州立大学の損益計算書を参考に組み替えた損益計算書において、損益外部分を当期純利益と2段階で組み立てているが、こういったところも含めて、本表の中で何らかの表現をするべきではないか。

(委員)
時間となったので、残りの議論については次回へ持ち越したい。

<議題(2)その他(実務指針改訂案についての報告)>
(事務局)
参考資料1について、会計士協会と実務指針の改訂について打ち合わせを行った後の資料である。この後の会計士協会の役員会で微調整が入る可能性があるのでご了承いただきたい。基本的には第1回・第2回の検討会議の内容で打ち合わせを行っている。1点大きく変更した箇所としては、附属明細書で受入額を開示する際に、同じ表の中で小計を示し合計を出すということを想定していたが、様式を作成したときに膨大な量になるということが分かったので、大学ごとと法人合計といった形で、それぞれ表を分けることとした。

(委員)
昨年度の検討会議でセグメント情報に関して全大学に共通する課題とされた事項については、今後改めて検討することとする。
本日の議事は以上である。

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高等教育局国立大学法人支援課

(高等教育局国立大学法人支援課)