大学入試のあり方に関する検討会議(第8回)議事録

1.日時

令和2年6月5日(金曜日)15時~17時

2.場所

文部科学省3階第2特別会議室

3.議題

  1. 令和3年度大学入学者選抜について
  2. 外部有識者・団体からのヒアリング  1吉田研作(上智大学言語教育センター長) 2中村高康(東京大学大学院教育学研究科教授) 3‐1高宮敏郎(学校法人高宮学園(代々木ゼミナール)副理事長 3‐2永瀬昭幸(株式会社ナガセ(東進ハイスクール)社長 3‐3石井塁(株式会社旺文社教育情報センター蛍雪情報グループ)

4.出席者

委員

(有識者委員)川嶋座長代理、益戸座長代理、荒瀬委員、斎木委員、宍戸委員、島田委員、清水委員、末冨委員、両角委員、渡部委員
(団体代表委員)岡委員、小林委員、芝井委員、柴田委員、萩原委員、吉田委員、牧田委員
(オブザーバー)山本大学入試センター理事長

文部科学省

萩生田文部科学大臣、伯井高等教育局長、森田文部科学戦略官 他

5.議事録

【川嶋座長代理】
 それでは,定刻となりましたので,ただいまより第8回大学入試のあり方に関する検討会議を開催したいと思います。
 本日は三島座長が私用で欠席のため,大学入試のあり方に関する検討会議運営要領第1条に基づきまして,座長代理である,私,川嶋が進行を務めさせていただきます。皆様の御協力をお願いしたいと思います。
 また,今回も新型コロナウイルスの感染拡大防止のため,ウェブ会議方式での開催となっております。音声などに不都合はございませんでしょうか。私の声は聞こえておりますでしょうか。ありがとうございます。
 それでは,本日は前回に引き続きまして,本検討会の議論に多様な意見を反映するために,外部有識者の方からの御発表と意見交換を行うこととしております。本日のヒアリングに参加いただきます有識者の皆様には,お忙しい中,本検討会に御参加いただきまして誠にありがとうございます。
 本日も傍聴者,報道関係者の入室は認めず,ライブ配信での公開として,後日議事録をホームページに掲載することとしたいと思いますが,よろしいでしょうか。御異議ありませんでしょうか。ありがとうございました。それでは,本日もよろしくお願いしたいと思います。
 まず,最初に事務局から何か報告,連絡等ございますでしょうか。
【武藤高等教育局企画官】
 本日も外部ヒアリングとなりますけれども,意見発表者の方々も含めて何点かお願いがございます。まず,御発言は聞き取りやすいようお願いいたします。また,発言の都度,お名前をおっしゃっていただきますようお願いします。それから,資料参照のときは,該当箇所など分かりやすくお示しいただければと思っております。それからハウリングを避けるために,発言時以外はマイクをミュートにしていただくとともに,御発言の際,手を挙げるボタンを押していただくようお願いいたします。
 以上です。
【川嶋座長代理】
 ありがとうございました。よろしいでしょうか。
 それでは,議事に入りたいと思いますが,まずは議事1,令和3年度大学入学者選抜について,現時点での状況を西田課長から御報告いただきたいと思います。お願いします。
【西田大学振興課長】
 御報告いたします。令和3年度大学入学者選抜における対応状況についてでございます。
 新型コロナウイルスの影響により,大学入試に不安を感じている高校3年生が少なくないというふうに認識をしておりまして,入試日程等の早期の公表が必要だと感じております。令和3年度大学入学者選抜については,高等学校等の臨時休業が長期化したことや,新型コロナウイルス感染症の収束の見通しが不透明であることを踏まえ,文部科学省としては,現場の教員や高校生等の意向を十分に把握した上で,高校・大学関係者等との協議を経て,令和3年度大学入学者選抜への対応を決定することが重要であると考えております。
 このため,全国の高校の事情,意向を把握させていただくことを目的として,入試日程,出題範囲,受験機会の工夫などに関するアンケート調査の実施を,全国高等学校長協会に対して依頼させていただいたところでございます。文部科学省といたしましては,こうしたアンケート調査の結果も踏まえ,高校・大学関係者等の協議の場において,感染症の専門家の方々も交えて議論を行い,入試の日程や方法などを定めた大学入学者選抜実施要項を,6月中できる限り早く策定,公表したいと考えています。併せて感染症の専門家の御意見を踏まえ,感染拡大防止に係る試験実施のガイドラインも策定し,併せて公表したいと考えております。
 なお,コロナウイルスの第2波,第3波の到来により,状況の様々な変化も起こり得ることから,あらゆる事態を想定し,それらに応じて入学志願者の受験機会の確保が図られるよう,関係者と緊密に連携させていただき,準備を進めてまいりたいというふうに考えております。
 私からは以上です。
【川嶋座長代理】
 御説明ありがとうございました。ただいまの御説明について,何か御質問等ございましたら挙手をお願いします。芝井委員,どうぞ。
【芝井委員】
 関西大学の芝井です。先ほどのお話の中で,入試日程の早期の公表ですが,昨年の場合には実施要項を確認しますと,6月4日の時点で公表されていたと思うんですけれども,本日はもう5日ですが,先ほどのお話だと6月末にならないと公表されない。さらに入試日程であるとか出題の範囲とおっしゃいましたが,現実に既に出題活動を始めている大学がほとんどだと思うんですけれども,変わるんでしょうか。これは大問題だと思います。2年前ルールに関しても,あるいは受験生,浪人も含めて,今から変えるというのはあり得ないと思っていますがいかがですか。
【川嶋座長代理】
 では,課長,いかがでしょうか。
【西田大学振興課長】
 例年,例えば去年ですと6月4日に要項を発表させていただいています。これは高校関係者,大学関係者の方々の協議を経た上で,策定,発表させていただいているものでございます。今年度に関しましても,例年6月に発表しておりますので,去年よりは遅くなる形になりますけれども,できるだけ早い時期に協議をしていただいた上で,できるだけ6月の早い時期に発表させていただきたいと考えているところでございます。
【芝井委員】
 すみません,いいでしょうか。先ほど申し上げましたように,各大学は自分たちの入試の日程であるとか,当然出題の範囲であるとか,あるいは地方試験の試験会場を押さえることまで,当然早くから動き出して,ほぼ確定しながら最終的な決定を待っている状況です。何かそれが変わるような話というのはかなり大きなことでして,全ての大学に対して大きな影響を与える可能性のあることですけど,それが6月末でいいというお考えでしょうか。かなりこれはクリティカルな問題で,簡単には,ああ,そうですかという形で聞き逃すわけにいかないことだと思います。
【川嶋座長代理】
 課長,いかがですか。
【西田大学振興課長】
 要項につきましては,6月中のできるだけ早い時期に,高校の関係者,それから大学の関係者の方々に協議をいただいた上で,その結果を踏まえて通知をさせていただきたいというふうに考えております。今年に関しましては,新型コロナウイルスで高校長期臨時休業ということがございましたので,それを踏まえた対応ということも含めて,高校・大学関係の皆様方に協議をいただいて決めていくことを考えさせていただいておるところでございます。
【川嶋座長代理】
 よろしいでしょうか。ありがとうございました。では,議事の2に入りたいと思います。外部有識者・団体からのヒアリングでございます。本日は,英語4技能及び格差問題についてそれぞれお一人ずつ,また受験産業の3者からヒアリングを実施したいと思っております。
 まず,お一方目は,英語4技能についてお詳しい上智大学言語教育センター長,吉田研作教授から,15分程度で御発表いただき,その後15分程度の意見交換を行いたいと思っております。吉田教授,それではよろしくお願いします。
【吉田氏】
 よろしくお願いいたします。正直言ってもう,私の仕事は去年で終わったんだと思っていましたので,今回はこういう形でまた意見をというふうに言われて,逆にちょっとびっくりしたというところもございました。ただ,先ほどの入試の問題なんかを含めて考えると,今いろんな問題が起こっているので,もう一回整理した方がいいかなというのは,自分でもそう思っております。
 御覧いただけますでしょうか。出ていますか。まず,最初に大学入試ということを考えたときに,我々が考えなきゃいけないのは,小中高校における学習指導要領の中で,どのような授業が行われて,どういう目標が設定されているかということです。ですからそれをきちんと把握した上で,高校を3年で出たとき,卒業したときに,それまで学ぶべき内容がきちんと身に付いているかどうか,それをまず把握しなければいけないだろうと。
 1ページ目のところにありますけれども,少なくとも今の学習指導要領を見る限り,5つの領域の言語活動及び複数の領域を結び付けた統合的な言語活動を通して,総合的に英語を身に付けさせましょうと書いてあるわけですから,単純に知識,技能だけではなくて,それを活用するということが大きな目標になっているわけです。
 その次の表のところを見ていただきますと,英語教育の教育課程実施状況調査の結果,これは2年ほど前かなと思いますけれども,それを見てみると,目標としては,中学校は卒業生としてはCEFRのA1レベル,大体3級程度,高校生の場合はCEFRでA2というわけですから,準2級程度と言われています。そういう生徒が多い学校はどういう学校かというと,基本的にそこにあるように,先生が授業の大半を英語で行っているとか,生徒自身が授業の中で言語活動をたくさんやっているとか,あるいはいわゆるパフォーマンステストなどが実際実施されているというような中学校,高校の生徒さんたちが,結構目標の3級とか準2級に到達しているということが分かるわけです。
 さらにその下を見ていただきますと,これも2年ほど前に行われた中学校の学力試験で,初めて英語で4技能のテストが行われました。個別に見ると色々出ていますけれども,結果的にどれを見てもその解説を読む限り,やはり学習指導要領に書かれているような,きちんとした言語活動を中心として行っていた,そういう学校で学んだ生徒の成績は高いという結果が出ているわけです。ですから学習指導要領に書かれている能力というか,そこで目標とされていることをきちんとした形でやっていると,生徒たちの力は付いていくということです。
 その次のページにあるように,そうしますとやはり私たちとしては大学入試においても,この4技能・5領域をきちんと評価できるような,そういうテスト,入試体制というものを作る必要があるんじゃないかと思うわけです。これはずっと今までも議論されてきたことなわけです。一番いいのは,本当は国が大学入試センターを中心にこういうテストができればいいわけですけれども,いろんな現実的な難しい問題がたくさんあるのも分かりますので,なかなかそういかないところはあります。
 問題の一つは,現状では共通テストについてもそうですし,センターのテストというのは,1月の第3週目に一斉に行われるわけですけれども,この4技能を入れた場合,50万人のスピーキングとライティングテストをやるとなると,果たして1日でできるのか,あるいはその結果についてはどれぐらい経たないと出てこないのだろうかと,いろんな問題を考えていくと,今のように1日とか2日という形で設定されている入試体制の中では,不可能に近いと考えていいと思うんです。
 それから,先ほどもちょっとお話がございましたけれども,今のコロナ問題です。いろんな話を聞いていると,今年の秋冬はインフルエンザもかなりひどくなる可能性があるという話もあり,もちろんコロナの第2波,第3波ということ以外にですが,こういう状況になってくると,次に何かまた感染病が起こるんじゃないかという不安さえあるわけです。
 そういうことを考えていくと,この時期に一斉に一回のテストで全て決めるよということ自体が,不可能になってきているんじゃないか。しかも今は高校生自身,先ほどございましたけれども,2か月間,3か月間ほとんど何もできない状態できているわけですから,高校3年生にしてみても,この短い期間で1月までに大学入試の準備が全部できるかというと,これは塾に通っている生徒などと比べると,いろんな不公平が生まれるんじゃないかという気がしてしようがないんです。そういうことを考えると,1月に全てを今までどおりやるということ自体,ちょっと厳しいのかなと思います。
 それ以外にも,先ほどもちょっとございましたけれども,もし入試がずれた場合,日程が変わる,もし1月が2月に変わった場合も,各大学,私たちの大学もそうですけど,大学の個別の入試はやれなくなる可能性があります。全てもう予定が決まっていますので。
 そういうことを考えると,もし延ばすのであれば9月入学の形で,半年はセンター試験を延ばす。そうすると今からでも高校3年生は1年間の準備ができる。そういう余裕ができると思うんです。それぐらいの気持ちでやらない限り,1週間延ばすとか,2週間延ばすとか,1か月延ばすというような形の日程の設定は,私は絶対うまくいかないと思っています。
 もう一つは,夏になったからと言って,気候の急変だとかいろんなことがあり,最近は何が起こるか分からないという状況もあります。ですからそういうことを考えると,夏にしても年に1回というテストの実施の体制自体が,今後は難しいと考えた方がいいんじゃないかという気がするんです。やはり年に複数回テストができるような体制を作るしかないんじゃないかと。私としては,最低でも春夏秋冬1回ずつはテストが受けられるような体制を取るというように,学生,高校生にとって,1年の中でいつのテストを受けてもいいという,それぐらいの気持ちでやらない限りは,非常に難しいのではないかかという気がします。
 そうしたときに,果たしてセンターでそのようなテストが作れるかということです。これは非常に難しい問題だと思います。実際にいろいろ考えてみて,テストをやる場合,この4回やった場合に人を派遣できるかどうか,これは非常に難しいしお金が掛かるので,逆にCBT化をする必要があるんじゃないかと思います。CBT化をすることによって費用も抑えることもできるだろうし,分散受験ができるような体制をつくることができる。
 テストセンターということを一応書いてありますけれども,国が設けられれば一番いいと思います。学校は難しいと思うんです。上智大学にしても,学生はキャンパスに入れないような状態が続いたりしていますし,なかなか学生が普段集まっているところで試験をやるというのは難しくなるかもしれない。だったらもうそれ専用のちゃんとそういう対策を取っているようなテストセンターなどが設けられれば,まだしも安心度が高くなるのかなと思います。
 オンラインのテストということも考えられるかと思うんです。今年,私たちの場合は,普段TEAPの2技能テストでプレースメントテストを行っていたんですけれども,そのためには学生をみんな集めなければできませんし,これはもう不可能だったので,CASECのオンライン,CBTのオンラインのテストを,各個人,新入生全員に受けてもらって,その結果が全て上智の方に来るようにしてやりました。
 テスト間の相関が大体.94以上あるということでしたので,それだけの信頼性があれば,6つのレベルに分けるだけですので,1点刻みで生徒を分けるわけじゃありませんから,充分使えるのだろうということで,今回はプレースメントテストをCASECを使ってやりました。ほとんどの学生,ほぼ100%近い新入生がちゃんと受けてくれましたし,それに基づいて今現在,オンラインの授業をやっていますけれども,クラス分け,レベル分けが全てできています。
 このような可能性というのも今後どんどん増えてくると思うし,それをやらなきゃいけなくなるんじゃないかと思うんです。そういう新しい時代に向けた試験体制というものを考えていく必要があるのではないかと思います。
 現状から考えると,センターの今の体制で,テストをやったらすぐ公開するという形でやっていくと,なかなかこういう複数回やるのは難しい。これはよく分かります。そうすると,去年もいろいろ問題になりましたけれども,やはり民間の4技能テストをいかに使っていくかということがポイントになってくると思うんです。
 4技能テストといってもいろいろありますけれども,主に例えば英検とかGTECというテストは,元々入試のために作られたものではありません。元々は学習の進度を測るためのテストとして開発されていたわけですから,そういう意味で言うと,それぞれの学年ごとに何が足りる,足りないという診断的要素も含めて,次のステップへの指導につなげていっている。そして高校3年になったときに,少なくとも高校までで学ぶべき力を示せるテストだということで,その結果を利用することが可能かなと思います。しかもこういうテストは年複数行われていますので,使うことができると私は思います。
 それからもう一つ,TOEFLとかIELTSとかTEAPというようなテストは,英検とかGTECのような目標,目的で作られたものではなく,もっと限定されたアカデミックな英語力がどれだけあるかというものを試すもので,結果として,大学に入ってからどれだけその英語力を使って勉強に付いていけるかというのを見るプロフィシエンシー・テストなわけです。そういうテストですから,英検とかGTECとはまた目的が多少違う。
 英検,GTECの場合は,どういう領域のトピックが扱われるかというと,一般的領域ですから,ある意味では本当に日常会話から結構難しい内容のものまで全て入っています。ところがTOEFL,IELTS,TEAPなどの場合は,日常会話はほとんど入ってこない,買物の会話なんか全くないわけです。ほとんど全てがアカデミックな状況の中で英語がどれだけ使えるかというのを見るわけです。ですから大学はそれぞれ自分たちのいわゆるアドミッションポリシーの中で,どういうような目的でテストを選ぶかということさえきちんとやっていれば,この中で幾つかのテストを選定するということは十分可能かと私は思います。
 ただ,昨年もいろいろ問題はありましたけれども,CEFRという一つの共通の枠組みを使って,それでそれぞれのテストの整合性を図っていこうとしたんですけど,一番多かった問題は何かというと,それぞれの団体に,独自にCEFRと整合しながら自分たちで,その妥当性などの検証をやってくださいという形でやったことです。我々の委員会の中では,その結果を見てそれに対していろいろ注文を付けたり,意見を言わせていただいて,また修正をしてもらうという形を取ったわけですけど,基本はそれぞれの団体を信用するという形でやったわけです。もしそれがよくないというのであれば,第三者の機関にそれをお任せするということも,私は十分できると思います。
 元々バンドという考え方ですが,語学力というのはバンドなんです。どんなレベルを見たって1点刻みで,この人は英語ができる,できないと判断しているような現場はどこにもないわけで,一点刻みは入試以外には絶対あり得ない状況です。ですから,初級であったり,中級であったり,上級であるという,その一つの幅の中で,こういうことができれば初級である,こういうことができれば中級,こういうことができれば上級という決め方をされているわけですから,CEFRをベースにした形でそれぞれのテストで,ちゃんと点数がその枠の中に入っているかどうかを検証するということは十分できると思いますし,それで十分だと私は思います。ですからどっちかというと,受験のための足切り,これ以上のレベルがあれば受験できますよという,受験資格のレベルで使うのが一番適しているのはないかと思います。
 もう一つ,最初の頃,二,三年前,もっと前ですか,7つぐらいテストがあって,本当にこれは妥当性があるんだろうか,あるいは信頼性があるかどうかという話が出たときに,1人の人が7つのテストを全部受けて,それで相関を取るというやり方はできないのかという話が出たことあるんですけど,それはほとんど不可能です。可能であれば,テストを作るときもアンカー問題というのがありますよね。アンカー問題があって,それとの相関を取って,問題のよしあしというのを決めていくわけですけれども,同じようにアンカー試験というのは作れないのかなと。
 例えばTOEFLというのが一番信頼性があるんであれば,TOEFLと例えばIELTSを受ける人,TOEFLと英検を受ける人,TOEFLとTEAPを受ける人,TOEFLと例えばGTECだとかケンブリッジを受ける人,TOEFLという一つのアンカーとの相関を取ることによって,各テスト間の整合性というんですか,信頼性をそれによって図るという方法は考えられるかどうかです。そこのところをもうちょっと考えられたらいいかなと思っています。
 それから最後ですけれども,先ほどもちょっと言いましたが,もし入試の日程その他が変わるんであれば,1月までの間に高校3年生は詰め込みをしなきゃいけないという状況ですが,先ほど芝井先生もおっしゃっていましたけれども,大学ではもう入試問題を作っているので,とてもじゃないけれども,そういうことを考えると,今さらその範囲を変えるとかいうのは非常に難しい状況だと思うんです。
 だとしたらもう9月入学ということで,オリンピックがあるかどうか分かりませんけど,例えば6月頃にセンター試験に代わるような,そこまで延ばすとかすることができないか。少なくとも3月が終わった時点からそのテストまでの間,足りないところを補習できるような,そういう期間をきちんと作ってあげて,そこでテストをやれば,今,大学で作っている入試問題もそのときに活用できるんじゃないかという気がしています。
 元々うちの大学もそうですけれども,4月入学もあれば9月入学も一応やっています。ということを考えれば,大学が一番変えやすいんじゃないかと思うんです。今まで小学校,中学校というのでいろいろ言っていますけれども,私も基本的に最終的に9月入学になればいいと個人的には思っていますが,ただ,そこまで一気に持っていくのが難しいことも分かりますので。一番できやすいところって大学じゃないかという気がしてしようがないんです。そこのところをもう少しうまく持っていけないかなということを考えます。
 そうすると,テストも別に6月に一発勝負でやる必要もなく,それまでに年に数回,今から,例えば秋から英検だとかほかのいろんなテスト団体がこういう日程でやりますという日程を公表してくれれば,来年6月までの間に何回か,学生,生徒たちはテストを受けられる。インフルエンザがあったり,いろいろあっても,その間,自分たちで健康状態を見ながら受けられるときに受けるということが可能になるんじゃないかと思うんです。つまり複数回やるということがまず前提になっていかないと,今後は難しいのではないか。
 それから英語以外に関しては,どうしても現段階ではセンターテストで1回しかできないので,これは一つの問題として残りますけれども,一つのアイデアですが,例えばIBのような,バカロレア的な考え方をほかの教科に関して考えてみて,何か別の形の評価の仕方というものも取り入れられれば,今の現状を多少変えることも可能かなと思っています。
 ということで,ちょっと長くなったかもしれませんが,私の話は終わりたいと思います。
【川嶋座長代理】
 吉田先生,ありがとうございました。
 それでは意見交換をしたいと思いますが,時間も限られておりますので,御発言される場合には簡潔にお願いしたいと思います。また,冒頭にも御説明がありましたけれども,御発言のある場合は手を挙げるボタンを押ししていただければと思います。いかがでしょうか。末冨委員,どうぞ。
【末冨委員】
 御発表ありがとうございました。英語の4技能の話とは違うんですけれども,おっしゃられている御提案が,今まで示されていた入試のルール自体をまたさらに大きく変えるような御提案でもあり,私はちょっと聞いておりまして,受験生であればかなり不安になるのではないかと思ったんです。短期的に対処可能なやり方というのは,やはり今まで蓄積されてきたものしかないとは思うんですけれども,先生の御提案というのは,中長期的な試験の在り方を示されたものとして受け止めていいのかどうかです。その場合には大変興味深いですし,重要であるというふうにも思うんですが,その辺りはいかがでしょうか。
【吉田氏】
 ありがとうございます。私としては,今でもやっていいと思ってお話しさせていただきました。来年,今の高校3年生をどうするかという問題で,大学でも受験というか,問題作りをやっていて,しかも日程を変えるのはほとんど不可能に近い。少なくとも,うちの場合ですと2月に全学部の入試をやっていますけれども,一応センターに入っていますので,その結果が遅れたらうまくいかないんです。ですからそういうことを考えると入試が今の形でできなければ,1月の第3週にできなければ,4月入学自体が非常に難しくなるのではないでしょうか。でなければ,今から急遽センターのスキームから外れる。
 ただ外れた場合,今度は,社会の問題は誰が作るんだとか,また英語の問題は誰が作るんだとか,今はセンター試験でそれを代替できるために,上智なんかそうですけど,先生たちに,問題を作らなくてもいい,と言ってしまっていますから。それを作ってくださいというのはまた大変だと思うんです。ですからそういうことを考えたときに,私としては中長期的というよりも,もちろんそれもそうなんですけど,現実的には来年からでもそれぐらいのつもりでやる必要があるんじゃないかなと思っています。それが私の正直な気持ちです。
【川嶋座長代理】
 ほかに御質問がある方,おみえではありませんか。よろしいですか。なければ,吉田先生,最後に一,二分付け加えることがあれば。
【吉田氏】
 そうですね。本当にここ半年近くこういう会議に出ていませんでしたので,大体どういうような話になっているかもよく分からないまま,今日こういう話をさせていただきました。私も子供が何人もいて,特に孫が小学校に行ったりしているのを見ていて,どうすれば良いのかとかやっぱり思っちゃうんです。そうするとやはり,全体的な入試体制そのものを考えると同時に,現実の問題を解決するためにどういう形でやればいいのかというところも,一緒に考えていかなきゃいけないのかなと思います。
 2年後,3年後のことを考えるのはいいんですけど,目の前にいろんな問題が起こっていることも事実なので,それと関連付けて何かできないのかなと。私が言っていることが全部できるとは思っていませんけど,ただある程度極端なことを言わないと,何も前に動かないような気がするので,今日のような発言をさせていただきました。
【川嶋座長代理】
 吉田先生,ありがとうございました。
 それでは,次の意見発表に移りたいと思いますが,事務局,よろしいですか。分かりました。
 それでは,次に教育社会学のお立場から,選抜に係る問題を研究されております,東京大学大学院教育学研究科,中村高康教授から15分程度で御発表いただき,また,今と同じく,その後15分ぐらいで意見交換をお願いしたいと思います。中村教授,よろしくお願いします。
【中村氏】
 よろしくお願いいたします。では,資料の方のページをお願いいたします。
 東京大学の中村と申します。よろしくお願いします。今御紹介がありましたように,私は専門は教育社会学という分野でやっておりまして,教育を社会学的見地から研究するという分野なんですけれども,その中で,特に教育選抜,大学入試が中心でしたが,その選抜の仕組みと社会システムの関係などを扱ってきました。今日はそういった専門研究者としての観点から,今般の高大接続改革がどんなふうに見えるのかというところをお話しさせていただきたいと思って準備してまいりました。
 冒頭ちょっと川嶋先生は格差というふうにおっしゃいましたけれども,特に格差というテーマに絞って御依頼いただいていなかったので,今日はそれにあまり触れていませんので,ちょっと御了承いただければと思います。今申し上げたような趣旨で御発表させていただきます。
 では,次の資料のスライドを入れてください。すみません,私の方にはちょっと画面が見えておりませんけれども,時間の関係もあるので続けさせていただいてよろしいでしょうか。まず,最初のスライド,2ページになりますけれども,高大接続の前提というページになります。私は高大接続の問題を考える上で,2つ基本的なことを押さえておく必要があるといつも思っておりまして,1つは2番目に書いておりますけど,専門教育と普通教育の違い。高等学校までの基礎教育的な部分と高等教育の専門的な部分,ここがそもそも質の違うものであって,これは大学入試制度研究の荒井克弘先生がよくおっしゃっていることですけれども,質が違うので,そこをつないでいくというのが基本的な命題としてあると理解しています。
 それからあともう一つ,これは時代的なものなんですけれども,教育拡大と大学入学者層が変容しているということで,もう皆さん御案内のとおりなんですけれども,この数十年の間に大きく大学入学者が増えました。パーセントで言ってもかなりの数になっております。その関係で,どうしても従来の大学入学者層とは違う形で対応せざるを得ない部分が出てきている。これが高大接続の現代的な課題というふうに認識しております。
 そのように考えたときに,現代において入試制度を調整することによって,そのつなぎ目を滑らかにしていくというのはなかなか難しいところがありまして,結局のところは,やっぱり入試をいじっても対応しきれない層というのが出てきてしまうことが現実にありまして,それが現代の多様な大学入学者層なんだと思います。
 ですので,私は別のところでも述べましたけれども,入試とか改革というのももちろんスローガンとしてよく出てきますけれども,個人的にはやっぱり教育を重視する,支援という形でサポートしていくという観点を重視するのが本筋ではないかなといつも思っております。ところが,どうしてもやっぱり改革というふうに勢いでなってしまうのが,現実にいろいろ政策論議ではありまして,そこをちょっと焦り過ぎていたんではないかなというのが率直な感想です。
 焦るとどうなってしまうのかというので,次のスライドに行っていただきたいんですけれども,これは高大接続システム改革会議の最終報告を一部引用しているんですけれども,こちらでは,将来について誰も予見できないというふうに言っているわけです。ところがどういう能力が必要かということに関して,予見できない時代だからこそこういう能力だというふうに,予見しているように見えるような文章になっております。
 これはある種ちょっとアクロバティックに見えるんですけれども,これがなぜ可能なのかといいますと,基本的には,変化の激しい時代においても確実に将来必要になってくる能力というのは結構限られていて,比較的昔から我々がよく理解しているような基礎学力であったりとか,意欲であったりですとか,思考力であったりですとか,そういうもの全て,昔から大事にしようと思って,みんな教育者がやってきたようなこと,その部分を強調せざるを得ないという現状があるんだと思うんです。
 ただそれですと,改革という形でなかなかうまく打ち出せないという現実がありますので,どうしても施策を打ち出していく,あるいは政治的にアピールするという場合には,改革という形で持ってくる。だから少し言葉を変えて,学力の3要素や生きる力ももしかしたらそうかもしれませんけれども,そういうものとして,内容としては昔から大事にしているものを繰り返し主張するような形になっているようなパターンが多いんじゃないかなと思います。
 ですので,個人的にはちょっと改革というのを重視し過ぎると,改革の言葉上のインパクトを競うような形になり過ぎてしまって,どうしても本筋からずれていってしまうということがあるんじゃないかなと,すごく日頃感じております。個人的にはもう改革という言葉は使わないで,制度設計の議論をしていただきたいと思うぐらいであります。
 次のスライドに行っていただいて,これは入試改革に関しても全く同じでありまして,受験競争批判でありますとか,知識詰め込み批判なんていうのは,昔からずっとあった批判でありまして,もう1990年代頃には日本の入試というのは十分に多様化していて,多様化し過ぎていて,もう訳が分からないというような意見も出てくるぐらいの状況が既にあったわけです。ですので,現代の改革も,まだ依然として多様化の路線に乗っかっているような気がするんですけれども,果たしてそういうのでいいのかどうなのか,そういう意味をよく考えていく必要があるんじゃないかなと,個人的には思います。
 それで,この観点から私自身がちょっと気にしているところが1点ありまして,多様な選抜資料を用いて総合的に選抜する,これは改革においてよく主張されていることなんですけれども,それが全ての選抜単位において求められるような改革の方向性になっているということをすごく心配しております。具体的には,一般入試であれば調査書をさらに重視するようにしなさい,あるいは推薦やAOであれば,試験なんかも含めた何らかの知識,技能をちゃんと見るようにしなさいという形で,結局のところ,学力の3要素というようなものをいろんなところでしっかり見ていこうというものなんだと理解しておりますけれども,そういう形で一律に3要素,3要素という形ではめていくと,結局のところ画一的なことになっているんじゃないか,そういうことをすごく思う次第です。
 選抜資料を多様化すると,入試の結果が多様な人材が選抜できる。これも昔からよく言われてきたことなんですけれども,それもちょっと違う部分がある,必ずしも必然ではないんじゃないかというのはいつも思っているところです。今日は時間があまりないので,詳しく御説明できないんですけれども,次のスライドに行っていただいたら,平均値とデータのばらつきのグラフが出ていると思います。
 このグラフは,一番右側のグレーのグラフというのが受験生全体の平均値だと思ってください。これは実は私がシミュレーション的に,50人の架空のデータをランダムな数値を割り当てて作っているグラフなんですけれども,全体の平均が出ています。それから青い線が学力のみで,50人のうち上位20人を選抜した。久しぶりにやったんですけれども。そのときに,合格者の学力の平均が出るか,体力の平均が出るか,性格の平均が出るか,こういうのをやってみました。それからオレンジの方は3つの要素です。ここは学力,体力,性格と付けているのは,勝手にラベルを付けているだけで,実際にはそれを測ったわけではないんですけれども,3つの要素の違うもの,相互に独立の要素の違うものを,データ,得点を貼り付けている。
 こうやってやってみると,例えば学力のみを重視した場合には,その他の青い線のところの体力や性格の平均値やばらつきを見ていただくと分かるんですけれども,全体の受験者の平均,あるいはデータのばらつきと一致する形になっています。つまり学力以外の要素は多様なまま,いろんな人が入ってきているということです。
 一方でこのオレンジの部分を見てもらいますと,それぞれの学力,体力,性格,これは受験者平均よりは合格者が高くなるのは当然なんですけれども,問題はばらつきの方でありまして,こちらが受験者の全体のばらつきよりも大分小さくなっていることが,御覧いただいたら分かるかと思います。つまり多様な選抜資料を使ったはずなのに,結果としては受験者層の多様性に比べて合格者の多様性は小さくなっている,こういうふうに見ることができると思います。
 ちょっとこれは簡単なシミュレーションなので,本当に大したものじゃないんですけれども,そういったことも見ていただくと,多様であるということが一体どういうことなのか,選抜資料を多様化するということはどういうことなのか,やっぱりもう一度ちゃんと考えなきゃいけないんじゃないかなと思っています。
 それに関連して,一般入試の方で調査書を重視するということが最近言われて,実際実践に移されている大学もあろうかと思うんですけれども,これは主体性の評価,学力の3要素の3つ目です。「主体的に学ぶ態度」ないしは「学びに向かう力,人間性」という言い方もしていますけれども,これをうまく一般入試のテストに組み込む,そういう政策になっているようなんですが,主体性評価というものを全員に課していくことの危険性に関しては,重々よく考えていただきたいと思っています。
 ここにも挙げておきましたけれども,高校入試の内申書というのはそもそもがそういう形に,ほぼ公立高校の場合,テストだけではなくて調査書の成績も十分加味されているというスタイルになっているんですけれども,その歴史の中で,既にもう公平性の問題でありますとか,内申点が操作されてしまうみたいな問題ですとか,あるいはよい子になるために振る舞う,そういう問題も長年指摘されてきていると思います。
 ですので,大学入試にそういうものを取り入れるときには,同じことが出てくる可能性があるということは,十分に考えていかなければいけない問題だと思っています。とりわけ3番目の問題ですけれども,生活全体を入試に絡めて考えざるを得なくなることの弊害というのは,やはり強調しておいていいポイントではないかなと思います。
 実際に今eポートフォリオなどを使って,入試として組み込んでやりましょうという動きも活発化しているようなんですけれども,そちらはそちらでまたいろいろな問題が指摘されていて,個人情報の漏えいのリスクでありますとか,あるいは民間のシステムに依存し過ぎる問題ですとか,大変学校現場で危惧されている先生方も多いんですけれども,ここでは百歩譲って仮にそうした問題がなかったとしても,やっぱり生じる問題として,生活全体が入試になってしまうという問題は強調しておきたいと思います。
 めくっていただいて,次のスライド7になりますけれども,これは昔のもう絶版になっている参考書なんですけれども,『内申アップ方程式』という高校入試用の参考資料がありまして,ここに書いてあるのがこういうことなんです。ちょっと時間の関係で省きますが,要は,こんな形で不自然にきびきびしようとしたりですとか,あるいは先生の視線を意識して,友達のプレーを見詰めることを装う中学生とか,そういった形が促進されてしまう要素がままあったりする。私たちが育てたい能力というのはこういう能力なんだろうかというようなところも,踏まえておかなければいけないと思います。
 それで,実はこの調査書の問題,主体性評価に絡んだ問題というのはあまり研究が進んでいなくて,私自身も今調査を始めたところであります。それで,ちょっとまだデータを整理し終わったばかりのところなので,詳細な分析はできていないんですけれども,幾つかデータを紹介したいと思います。
 すみません,ページの9に行ってもらっていいでしょうか。先ほど言いましたように,内申書をどの程度意識していたのかというのを高校生に対して聞いております。大体3,000名ぐらいの高校生の全国調査です。それで,これを御覧いただくと分かるとおり,最初の段階では意識している人はそんなに多くないんですけれども,学年が上がるごとにどんどん広がっていって,中3の頃には8割方の生徒たちが,かなり内申書を意識した生活に入っていっていたという実態が示されています。
 それから,次の10ページに行っていただいて,こちらはちょっと字が小さくて恐縮なんですけれども,様々な中学校時代の活動に関して,内申書を意識してやった人の割合なども集計を出しておりますけれども,これも非常に多くの項目において意識した行動につながっているということがあります。ですので,我々はこの辺りのことも理解していく必要があると思います。
 ただ1つ付け加えておくべきなのは,当の生徒たち自身はこういったスタイルをそれなりに受け入れている部分もありまして,抵抗感を持っていない生徒もかなりいるというデータでもあります。ただ内申書を使ってほしくないという人の比率は,比較的学校適応的でない生徒さんにとっては非常に割合が上がってくるんです。つまり,適応的な生徒さんにとってはいい政策かもしれないんですけれども,そうでない生徒さんにとっては非常に厄介な制度,こういうことになっているということも念頭に置いていただければと思います。
 それで4番目,11ページになりますけれども,これからの入試制度を考えるためにということで,3点書いておきました。もう既にこの会議でもいろいろ言われていることと重なる部分もございますけれども,まず入試で教育を変えようとしないというところは,私自身も日頃よく思っているところであります。多少そういう考え方があるのはもちろん分かるところなんですけれども,日本のように,大学入試が非常に大きな分岐点みたいな形になってしまっているようなところではどうしても,どんな理想的な入試制度を入れても,そこでいろいろテクニックが生じたり,抜け道のようなものが生み出されている。それでどうもいじられてしまうというところがあります。非常に難しいところです。
 それから,改革は制度を画一化するというのも,先ほども言いましたけど,改革というふうに銘打ってしまうとかなりトップダウンで,既存の多様な現実を一つのところに向けさせようとするようなドライブはどうしても掛かりがちです。そういうときに思い出していただきたいのは,やっぱり日本の教育は割合画一的だと言われて,これまでずっと批判されてきたにもかかわらず,なぜかまた画一的な方向に改革されていくという現実もあったりして,その辺りはかえって反改革的な感じがすごくしてしまいます。また,画一的であるということは,その施策が失敗したときには全員が失敗してしまうというリスクも負っているわけでありまして,その次の項目に重なりますけれども,その辺りもできればボトムアップで吸い上げていただいて,少しずつ変えていただくというのが本当はいいのかなと思っています。
 その際に,データやエビデンスに基づいた現実的な制度を。私の考えとしては,やっぱり入試を受けて影響を受けるのは,高校生以下の受験者を含めて学んでいる子供たちですので,できるだけそこは大事にしていただきたいというふうに思っております。
 最後に参考データとして,そういうある種のデータやエビデンスの一例ということですけれども,高校生の意識を御紹介したいと思います。これまでの改革についてのデータを取ってみました。
 じゃ,次に行ってください。これは共通テストで導入が見送りになった記述式の問題と英語民間試験の問題です。これについては,ほっとしたという項目に対して当てはまるかどうか聞いたところ,8割方はほっとしたと,こういうふうに答えておりまして,撤退にはいろいろとフリクションがあったと思うんですけれども,それなりの合理性はこういうデータ見るとあったかなと思います。
 次に行ってください。次も,準備していたので見送りは残念だったというのも,もちろん一部生徒さんは大変残念だったと思うんですけれども,トータルに見て政策的なチョイスとしては,大半の高校生は大丈夫だったんじゃないかなというのがここに示されて,これは確認できるデータじゃないかなと思います。
 次をお願いします。ちょっと時間をオーバーしてすみません。これで終わりになります。今,それぞれの入試の改革に関して挙がっている問題を幾つか挙げて尋ねたところ,高校生にとってはさほど積極的に乗っていけないものが多いということを確認していただきたいと思います。それからちょっと意外だったのは,3月の時点での調査だったんですけれども,この時点でも共通テスト延期でも困らないという人が相当数に上っていたというのは,ちょっと自分でも多いなと思って驚いたんですけれども,高校生の感覚としてはこういうものなのかもしれません。
 というようなことですので,改革自体は別に高校の意見で決める必要もないですし,もちろん踏まえる必要はありますけれども,いろいろな現場の先生ですとか予備校関係者の方と,あとで御登壇いただくみたいですけれども,そういった詳しい方々,あるいは学者の意見なんかも踏まえてやっていただきたいなと思います。やっぱり検証だけでなくて,政策立案においても,データを使って積み上げていただきたいというのが私の希望でございます。ちょっとオーバーしまして申し訳ありません。
 以上になります。
【川嶋座長代理】
 中村先生,ありがとうございました。
 ただいま,大臣が御到着されたということですので,大臣から一言御挨拶を頂きたいと思います。大臣,よろしくお願いします。
【萩生田文部科学大臣】
 皆さん,どうもありがとうございます。お忙しい中,第8回になります大学入試のあり方に関する検討会に御出席いただき,感謝を申し上げたいと思います。
 本日は各分野の専門の先生方に加えて,受験産業の皆様からも御発表いただけると聞いております。また,ただいま中村先生,ありがとうございました。発表者の皆様にはもう是非忌憚のない御意見を頂ければと思います。なお,皆様におかれましては,来年の入試の時期について大分御心配をされていると思いますので,この機会にちょっと触れておきたいと思います。
 このトータル約3か月の休校を経て,来年の入試をどうするかということで,今様々なところと相談をしております。受験生が抱える不安を解消し,余裕を持って進学準備に取り組んでいただくためにも,大学入試の日程や方法などを記載した大学入学者選抜実施要項を速やかに周知することが,文科省の大きな責務だと認識をしております。来年の入試をどうするか決めていくためには,高校の現場の実情を,今年に限ってはやっぱりしっかり踏まえることが重要であると考えております。
 このため入試の日程や出題範囲,あるいは受験機会の確保の工夫などについて,全国の高等学校長協会に対し,高校へのアンケート調査の実施をさせていただいております。こうしたアンケート調査の結果も踏まえ,高校・大学関係者等の協議の場において,感染症の専門家も交えて議論を行い,6月中のできるだけ早い時期に大学入学者選抜実施要項を策定,公表したいと考えております。
 併せて,来年のいわゆる受験シーズンに,再び第2波,第3波と言われるような大きな感染拡大があった場合に,あるいは全国的に緊急事態宣言が再び発令されるようなことがあれば,会場となる学校などが使えなくなる可能性があります。そのときにはさらに大きな改革を考えていかなくてはならないんだと思います。改革という言葉は,中村先生があまり使わない方がいいと今おっしゃいましたので,改革じゃなくてしっかり現場対応できるように,様々なシミュレーションをして準備してまいりたいと思いますので,先生の方にも様々お知恵を頂くことがあると思いますので,よろしくお願いしたいと思います。限られた時間ですけれども,どうぞ忌憚のない御意見をよろしくお願いいたします。
【川嶋座長代理】
 吉田委員,両角委員の順番でお願いします。
【吉田委員】
 ありがとうございます。中村先生,ありがとうございました。最初にまず1点お尋ねしてから入っていきたいのですが,先生のゼミの学生さんというのはどのような学生さんで,先生はどうやって選ばれているのでしょうか。
【中村氏】
 東京大学の場合はちょっと特殊かもしれませんけれども。あっ,ゼミというのは私個人のゼミということですね。
【吉田委員】
 はい。
【中村氏】
 それは基本的には,まずコースの方に学生が,点数で東京大学の場合は振り分けられておりますけれども,その後に学生の希望でテーマ等勘案して決めている,そういう形です。
【吉田委員】
 今日お話を伺っていて,先生が主体性評価というものに対して,また内申書等について,非常に否定的というか,そういう形になると,結局選ぶ基準というのは,学力というか,ペーパーで出てきた点数だけ,そして自らをアピールするような子はいい子ではないのだと,お話を今伺っているとそういう受け取り方しか私はできなかったので,先生のゼミの学生さんというか,研究室の方たちというのは,何かそういう人間性というのはあまり感じられない人なのかなと思って,私はお尋ねさせていただいたのです。
 3,000名の調査とおっしゃいますけれども,私はこの調査の生徒がどんな生徒だったのかは分からないのですが,今現実にここまで本当に,この英語4技能試験等についても否定的なのでしょうか。今年実際に3,4,5月とコロナで英語4技能試験がなくなって,何が今高校現場で困っているのかといいますと,受験したいのだけど受けられないという子供たちの悲鳴なのです。それから現実にその4技能試験をそういうふうに子供たちが受け取っているのだとしたら,どうして各大学の推薦入試等で英語4技能入試というのがここまで増えてきているのか。そうするとこの調査と全く話が違うのではないかなと私は思って,あえて質問させていただきました。
【中村氏】
 ありがとうございます。最初の主体性評価の問題は,ちょっと時間がなかったので十分に御説明できなかったんですけど,私は全面否定しているわけではないんです。私自身,自分の大学入試研究の最初は推薦入学の研究です。それが社会の中でいかに機能しているのかというのを,結構私は繰り返し申し上げてきたつもりです。ですので,申し上げたかったのは,学力と主体性,あるいは思考力,表現力みたいなもの,3つを全員が必ずやらなきゃいけないという形が,すごく画一的であるというふうに考えているんです。
 ですので,ある場合は学力だけでもよろしいでしょうし,ある場合はそういう主体性を重視した選抜というのはあってもいいんですけど,選択肢が必要なんではないかなと思うんです。なので,主体性の評価が全然駄目というのではないです。
 それから,もう一つ目は4技能のテストなんですけど,これはもうちょっと詳しく分析してみないと分からないですけど,データとしてはかなり正確かなと思っています。サンプリングの仕方等に関しては,全国にかなり人口比例で配付していますので。ただ幾つか問題はあります。ただ私が思うのは,やっぱり受験生にとっては新しい要素が加わるというのは,それだけで否定的な気持ちになりますので,そこのところはかなり数字には出ているかなとは思います。
 ですので先生がおっしゃるように,潜在的にはもうちょっとやってみてもいいかなという人はいるかもしれません。ですが,現状ではこれぐらいの数字が出てしまうんうんじゃないかなというのが私の感覚です。
【吉田委員】
 ありがとうございます。私が思いますに,実際にこの英語4技能に関しては,今回が新しいことではちっともないと思っています。実際もう20年前の教育課程から,英語は英語で教えるというか,英語4技能,先ほど吉田研作先生のお話にあった,高校卒業時A2レベル,中学卒業時A1レベルという話は,もう20年前の学習指導要領から入っているわけでして,今回初めて新しく出てきただけではないのではないかなと。そういう意味では,子供たちは頑張っているにもう少し評価してあげてくれないのかなという思いが私はあって,お話しさせていただきましたので,すみませんでした。ありがとうございます。
【中村氏】
 もうちょっと高校生は多様だと思いますが。
【川嶋座長代理】
 それでは,両角委員,お願いします。
【両角委員】
 両角です。中村先生,ありがとうございました。2つ聞きたいことがあります。
 1つは,今,吉田委員とのやり取りの中で少し分かったんですが,この3月に実施されたという高校生は,どういう高校生を取られたのかなというところが気になりました。先生がおっしゃるように高校生はかなり多様ですので,どの層に取るかで,この結果をどう解釈してよいのかがちょっと分からなかったので教えてください。
 もう一点目は,最初に話された高大接続改革,バツと書いてありますけど,その前提のところの専門教育と普通教育の違いというところでして,ここを考えたときに,今回の入試のごたごたというか,どう考えたらいいのかなというところを先生はどうお考えかということを聞いてみたいです。例えば先ほどの吉田先生の議論を聞いていますと,学習指導要領をまず把握するのが大事だということをすごく強調された御発表だったと思うんですけれど,私はそれもある程度大事かと思いつつ,一番大事かというと,やはり大学に入ってから,あくまで選ぶ大学側が,その後ちゃんと教育を受けられるかとか,そちらの基準で選ぶことがむしろ大学入試の肝ではないかという気がしているので,中村先生がこの専門教育,普通教育の違いをどうお考えかというところを教えていただけますでしょうか。
【中村氏】
 すみません,忘れないうちに2つ目からお答えしますけれども,これは先ほど言いましたように,荒井克弘先生がよくおっしゃっているんですけれども,やっぱり今回の入試は学力の3要素で全部貫くような形,高校教育,大学教育,入試という形で串刺しのようにやるところが,そもそも設計としては結構矛盾があって,今まさに両角先生がおっしゃったとおり,大学というのは入試で学習指導要領の範囲を逸脱してはいけないんですが,その範囲内で何をやるかというのは,ある程度大学の専門性ですとか,教育の内容ですとか,そういったものから選択されるのが本筋なんだろうと思います。大学の入学者選抜なので。そういう意味で,この専門と普通が違うというのは,今般の改革の方向性に対して,一つちょっと批判的な視点を込めて言っているということです。
 それからデータなんですけれども,これは完全に100%信頼できるデータかと言われると,急いで集めているデータということから,両角先生は御存じかと思うんですけれども,調査会社のモニターを使っている調査です。そのために,私としては先ほども言いましたように,性別と全国都道府県の高校生に比例するような形でサンプルを取るように調査会社に強く言いまして,そういう形でデータは取って,それはもうかなり正確に取れています。そのほか,例えば私立高校の比率ですとか,それから普通科高校の比率なんかは全国の分布とほぼ同じです。やっぱり調査モニターですので,少し性質の違いはあるかもしれないですけれども,全体としてはそこまでのゆがみはちょっと今の段階では見いだせていない,そういうデータですので,私自身としてはそれなりに信頼できると思います。
【両角委員】
 どうもありがとうございました。
【川嶋座長代理】
 ほかに御質問等ございませんでしょうか。それでは末冨委員,お願いします。
【末冨委員】
 御報告ありがとうございました。多様な要素を考慮する改革をすると,画一化するとよろしい,全くそのとおりだとは思うんですけれども,だとすれば,大学に高校生,あるいは受験生を接続させるにあたって,どのような要素が考慮されるんだろうかということは,まず1点お教えいただきたいなと思います。
 併せて先ほどの吉田委員の御指摘なんですが,確かに吉田先生のところのような素晴らしい学園では,きっと一人一人の生徒さんが伸びやかに育っておられるし,自分の力を伸ばしているという実感もおありだと思いますけれども,しばしばやはり主体性ですとか,あるいは内申書ですとか,推薦の合格基準に合致するような振る舞いを生徒に課したり,あるいは生徒の方がそれを読んで行動してしまうということがあるわけです。そうした状況というのは,今の英語や推薦の割合も多くなっている入試ではある程度不可避なんですが,そうした状況をどのように打開できるのかなという点についてのビジョンをお伺いできればと思います。
【中村氏】
 すみません,最初の質問がちょっとよく分からなかったんですが。
【末冨委員】
 要するに,改革を進めれば進めるほど画一的になる話ですよね。なのですが,では高大接続改革若しくは大学入試において,多様性をどのように実現していくかという点についてアイディアを伺いたいということです。
【中村氏】
 分かりました。その問題に関しては,ちょっとどれぐらいの人に御理解いただけるか分からないんですけれども,私は多様性というのを無目的に求めるということにいつも違和感を持っています。ですので,求めるべきは多様性なのかなと思ってしまうんです。多様であることは良いことだとみんな思って,多様性を求めるんですけれども,どういう多様性が必要なのかというのは,多分,専門分野であったり地域であったりとか,置かれている大学の状況によってもかなり状況は変わってくると思うし,一律に定義できないんだと思うんです。だからそれぞれの大学の置かれた立場で,より多様な入学者を求めるというのは当然あり得ると思うんですけれども,それは一律にという感じではないんじゃないかなと思います。
【川嶋座長代理】
 末冨委員,よろしいでしょうか。
【末冨委員】
 はい。ありがとうございます。
【川嶋座長代理】
 ほかに御質問等ございませんか。ありませんでしょうか。
 それでは,中村先生,今日はありがとうございました。
【中村氏】
 ありがとうございました。
【川嶋座長代理】
 これにて中村先生との意見交換は終了したいと思います。
 引き続きまして,これからは大手予備校等からの御発表をお願いしたいと思います。学校法人高宮学園・代々木ゼミナール副理事長,高宮敏郎様,株式会社ナガセ・東進ハイスクール社長,永瀬昭幸様,株式会社旺文社教育情報センター蛍雪情報グループ,石井塁様から,それぞれ7分程度発表いただきます。その後まとめて3名の方の御発表についての意見交換を行いたいと思います。
 なお本日,代々木ゼミナール教育事業推進本部長,佐藤雄太郎さんもZoomで御参加になっていることを御承知おきいただければと思います。
 それではまず,代々木ゼミナール,高宮副理事長,よろしくお願いします。
【高宮氏】
 ただいま御紹介にあずかりましたSAPIX YOZEMI GROUPの高宮敏郎と申します。祖父が起こしました代々木ゼミナールの副理事長,あるいは進学塾のSAPIXを運営する会社などの代表を務めております。大学で経済学を学びまして,3年ほど金融機関に勤めてから代々木ゼミナールに入りまして,その後,アメリカのペンシルバニア大学に留学して,大学経営学の修士号,博士号を取得いたしました。グループで受験指導を中心に,多様化する教育ニーズに応えるために様々な教育サービスを提供してまいりました。
 近年のトレンドは低学年化,そしてグローバル化でございまして,大学進学を見据えて早い時期から学習の準備を進められる御家庭,あるいは海外進学を視野に入れられた御家庭が増えていると実感しております。海外,特にアメリカのトップ大学の入学者選抜は年々激化しておりますので,中学・高校時代からアメリカのボーディングスクールに留学する選択肢も,認知度が上がってきているというふうに実感しております。
 最近は教育とテクノロジーを掛け合わせたEdTechという言葉がよく使われておりますけれども,代々木ゼミナールでは1966年に模擬試験にコンピューターを全面的に導入したり,89年からは衛星放送を使った映像授業をしたり,EdTechの先駆けであるというふうに自負しております。文科省管轄の学校法人と経済産業省管轄の学習塾のハイブリッドなグループですけれども,学校教育を補完することがレゾンデートル,存在意義というふうに思っております。特に浪人予備校は受験生のセーフティーネットと認識しております。現在,新型コロナウイルスによって多くのお子様の学びに影響が出ていますが,映像配信あるいはオンライン授業のノウハウで,少しでもお役に立てればなと思っております。
 次のスライドをお願いいたします。今日は受験産業,そして大学経営学を学んだ立場からお話をさせていただければと思います。改革には,それによって得られるメリットと,その実現に掛かるコストというものがあって,この効果と費用のバランスを取る必要があると考えています。教育にコストという考え方はそぐわないという御意見もあろうかと思いますが,残念ながら今の日本の財政事情を考えれば,教育も例外ではないはずです。
 大学入試改革によって得られるメリットとしては,教育的効果と入学者選抜に有益な情報の獲得があると思います。大学入試が変わることによって高校での学びが良くなるという効果と,大学側が入学者を選抜するに当たって,これまでより有益な情報が得られるという利点です。この点については,教育学の専門家の皆様がこれまでも議論されておると思いますので,そちらに譲りたいなと思います。
 コストにつきましては,新しい試験の運営費,システム開発費,具体的には記述式問題の採点費用や英語成績提供システム開発など,数値化できる経費と,逆に数値化しづらい間接的なコストがあると思います。具体的には試験会場へのアクセス,運営トラブル・採点ミスなど,いろいろ挙げられるのではないかなと思います。
 次のページをお願いいたします。昨年11月,英語成績提供システムの導入が見送られた際に,萩生田文部科学大臣から英語4技能評価について,それを入試でどう評価していくのか,できるだけ公平でアクセスしやすい仕組みはどのようなものか検討するというお話がございました。アクセスについては,現在のセンター試験でも完全に公平なわけではないというふうに考えています。
 例えば私の祖父が北海道生まれということもあって,代々木ゼミナールには北海道出身者が非常に多いんですが,今日出席させていただいている佐藤は根室出身ですが,彼のセンター試験の会場は釧路,それから広報の責任者は稚内出身なんですが,その試験会場は旭川ということで,それぞれ特急に乗ってかなり時間を掛けて移動するということで,いずれもセンター試験にあたっては前泊,後泊して,3泊4日でセンター試験を受験したと聞いています。
 資料はセンター試験の本会場の数でございます。2009年と2020年を比較すると,センター試験の受験者数そのものは増えているんですが,試験会場数は7%ほど減っています。この点について大きな不満の声が聞こえてきていないところを見ると,個別にはいろいろ御苦労がおありかとは思いますけれども,現状がある程度受け入れられているんではないでしょうか。今後英語4技能評価について外部試験を活用するという場合には,最低限現状のセンター試験と同程度のアクセスを確保することが必要になってくるんではないかなと考えています。
 次のページをお願いできますでしょうか。この資料は,2006年にセンター試験で導入された英語リスニング試験における個別音源プレーヤーの不具合のデータです。初年度400件を超えるトラブルが起きて大々的に報道されたことは記憶に新しいところです。しかし約50万人が受験する試験ですので,事故率で言えば0.1%以下,模擬試験を運営する事業者から見ると,初年度としてはそれほど悪い数字ではなかったのかなと思います。
 その後様々な工夫があって事故率は下がり続けて,15年間の通算では0.03%を下回っています。それでも毎年,率ではなくて事故の件数だけが報道されているというのは,大変お気の毒なことかなと思いますが,出題ミス,採点ミスも含めて,限りなくパーフェクトを求める日本の受験文化を象徴する数字かなと思います。
 先ほども吉田先生からお話がありましたけれども,多くの受験生の英語4技能を評価することになると,対面での試験は試験官の制約があって,タブレット端末やコンピューターに音声を吹き込むことが想定されます。我々のグループでもタブレットを使ったスピーキングテストを行っていますし,あるいは代ゼミの校舎のコンピュータールームを4技能試験の実施団体に御利用いただいておりますが,残念ながら事故率0.03%を下回るのは大変難しいのかなと思います。
 コンピューターを使った試験では,ICプレーヤー以上に一定程度のトラブルが起こることを前提にしないと,非常に運営コストが膨大になってしまいます。4技能を評価することによるメリットだけではなくて,その間接的なコストについても,受験生,あるいは学校側の理解が必要になろうかなと思います。
 次のスライドをお願いいたします。費用対効果という言葉に抵抗をお感じになるかもしれませんけれども,大学入試改革を進めるに当たって,これまで以上にそのメリットとコストについての分析,説明が必要だというふうに思います。繰り返しになりますけれども,日本の入試におけるミスに対する許容度は極めて低い。改革に伴って採点ミス,あるいは機器のトラブルで一定程度事故が起こるということに対して,コンセンサスが重要だと思います。こういった有益な情報を得るためには,多少そういったところが犠牲になるという共通理解です。
 間接的なコストの観点で言えば,今の受験生は既に新しいテストに移行するということで,変化に対して心理的な負担を感じていると思います。この点については移行期のやむを得ないコストですけれども,今の受験生にとっては,既に英語成績提供システムや記述式問題の導入が決まっていたことが覆った,そして1月の入試日程がどうなるのかがなかなか見えてこないということで,大きなストレスになっているんではないかなと思います。是非受験生に寄り添った解決を図っていただきたいということと,学習の努力が相応に報われる入試を改革の前提にしていただきたいということをお願い申し上げたいなと思います。
 1点冒頭に,大学の入試日程を動かすお話があって,このプレゼンからはちょっとそれるんですが,実は代々木ゼミナールは駅前に校舎があることもあって,非常に多くの大学に試験会場として御利用いただいております。例えば今年の1月から3月に掛けては,代々木の本部の校舎だけで延べ32大学,試験をやらせていただいております。現在,来年に向けていろいろな調整をしているんですが,新型コロナウイルスの感染対策ということで,椅子の数をどうする,机の配置をどうするということで,非常に調整に手間が掛かっております。
 全国の試験会場を使っていただいている分なんですけれども,非常に各大学の地方試験会場として使っていただいて,これを今から再調整を掛けるというのはちょっと現実的ではないのかなと感じております。今ある日程でやれることを最注力してもらった上で,それができなかった場合のバックアップというのを考えるのが,今は受験生にとってはトータルではプラスになるんではないかなと思いますので,最後にその点を付け加えさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
【川嶋座長代理】
 高宮様,ありがとうございました。
 それでは引き続きまして,東進ハイスクールの永瀬社長より御発表をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
【永瀬氏】
 永瀬でございます。私どもは東進ハイスクール,東進衛星予備校を経営しております。それから早稲田塾というのはAO推薦で,非常にそれなりの実績を上げています。それから四谷大塚,これは御存じだと思いますが,首都圏での中学教育の受験の名門と言われているところであります。それからイトマンスイミングスクール,これもちょうど入江陵介君とか,あるいは大橋悠依さんとか,今度のオリンピックで金メダルを期待している,そういった方々のスイミングスクールです。
 だから私が言いたいのは,これは心・知・体ということを考えた教育を目指しているグループだと,こういうふうに御認識いただければと思います。大体受験ということで言うと,現役の高校生だけで毎年5万人以上の生徒が大学にチャレンジしておりますので,そういった意味では大学の先生方とも極めて密接な関係が,お互い顔は知りませんけれども,あるんだなと思いました。
 次をお願いいたします。いろいろと今有識者の先生方がお話しになっていて,非常に参考にはなるんですが,やっぱり一番肝腎なのは,教育というのはそもそも次の国家を作るためにどういう人材を育てていくかという,国家20年・30年,場合によっては百年の計を考えたことが必要なのではないかなと。
 そうすると,もう一方でこれからの世界を考えますと,今度5Gとか6Gとかいう時代に入っていって,言ってしまえば極めてデジタル技術の発達,こちらはもう一つの流れとしてある。またもう一方では今回のコロナのようなことで,世界中がお互い孤立しているのではなくて,もう否応無しにこれはつながっている,こういうことになっておるわけでありますので,したがってどのような人間を今度は育てていくべきなのか,そしてこの日本の国家の将来をどうやって引っ張っていかせるのか,これが一番肝腎なことだろうと思うんです。
 国家とは言いませんけど,会社なんかからいくと,社長がよかったらその会社は伸びますから。社長がそれほどでもなかったら,それほどでもない会社になるだけの話なんです。ですから,一番決定的に大事なのは,やっぱりどのぐらいの素質を持ったリーダーを育てるか,こういうことだと思いますので,まずその点を私は非常に強調したいなと思います。
 今日御提案したいことは実は多々あるんですけれども,しかしながら,やっぱりこれだけの時間ですので,1つだけに絞ってお話をさせていただきたいと思います。
 次をお願いします。英語の4技能ということで,国家の先行きを考えると,英語でばんばん安倍首相なんかも非常に立派だと思いますけれども,国際的な場においても非常にしっかりとした発言をなさっているということからすれば,やっぱり英語が使いこなせるということは非常に大事なことだろうと思います。しかしながら,ずっとそれが必要だと言われながら何回も頓挫してきた。そしてそういった面で言えば,今回も実現一歩手前まで行きましたけれども,残念ながらまた見送り,こういうことになる。
 いろいろ考えますとやっぱり,信頼に足るテストが実行されるのかどうかというのが一番の問題点であって,それについて言うと,一つ一つのテストはおのおの異なる目標を持っておるわけでありますから,したがってそういった面では,日本のスタンダードな大学入試の語学力の4技能の測定機能とはどうにもならないなと。こういうのがやっぱりそもそもあって,国民の信頼感というのが,今ある民間テストについては,入試という観点から見たら,いまいちちょっと外れるのかなということがあったんだろうと思うんです。
 では,次をお願いいたします。共通一次,あるいはセンター試験をずっとやってこられて,私は思うんですけれども,やっぱりスタートの時には難問奇問を廃止する等,いろいろなこともありましたけれども,非常に年々精度が上がってきて,良問といったものが非常に多くなってきた。そういった意味で言うと,それだけ先生方も努力されたんでしょうし,中にはこれでもいいじゃないかという議論も出るぐらい,問題の質は上がってきたと思います。
 ただ,やっぱり世の中というのはデジタル技術の発達とか国際化の進行であるとかと同じように,バックグラウンドは変わってまいりますから,したがって必要とする能力は,知識をどれだけ習得したかということから,今度はだんだん知識をどのように利用するか,活用するか,思考するか,発想するかというところに変わってきた。そうすると,今度のセンターの共通テストの,言ってしまえば試行テスト等を拝見すると,なるほど今までのセンターとはまたいささかこれは変わってきたなということで,そういった面では非常にいいチャレンジをされていると思います。
 ですから逆に言うと,生徒諸君,あるいは大学の入試というのは,事実上,日本のある種の高校,中学,小学校に至るまでの目標になっているわけでありますから,極めて大きな影響を持っておるし,なかんずく,これからの共通テストはやっぱり決定的な影響力を持っていると考えざるを得ないと思います。
 次,お願いいたします。これまでいろいろと改善されてきて,センター試験でもICプレーヤーを入れる等のこともございました。そして4技能ということを申し上げた場合,先ほど吉田先生もおっしゃっていましたけど,やっぱり大事なことは,これからの未来を生きる生徒たちが,何を今度は機能として,力として身に付けるかが問題であって,彼らがアンケート調査をしたら,どのぐらいやりたいと思っているかと言われたら,試験科目が増えて努力しなきゃいけないとなってきたら,生徒はそれは嫌だと言うに決まっとるわけですよ,こんなものは。ということからすると,子供たちにもそうだと思いますが,やっぱり必要なことであれば子供が嫌がってもやらせなきゃ駄目だ,そういう姿勢をやっぱり持っておくべきだろうと思いますし,この4技能もしたがって何としてでも推進しなきゃならないことではないかなと思います。
 次のページをお願いいたします。そうしますと,いろいろ問題があったわけでありますけれども,ただこれは現状で言うと,費用とか,人員と場所とか,評価をどうするか,こういうことがあったわけであります。
 次,お願いいたします。もう一方で,日本人のスピーキング力,このTOEFLのスピーキングの点数を見ると,世界各国の中で166番目,要するに30点満点の17点で,トーゴとかコートジボワールと同点だった,こういうことが出ております。うちは東大に現役で800以上の人間が受かっていますから,即,次の週の日曜日に集めて,そして今度はTOEFLのテストを受験させたり,TOEICの試験を受けさせたりというようなことをやっています。
 それで見てみますと,これが1週間前に受かった連中ですから,その受かった連中のスピーキング能力は15.7。日本全体で17.0,それよりもまた下に来るんです。だから逆に考えると,TOEFLを受けている外国の方々も,これはそれなりに知識のある,学力のある方々がお受けになっているだろうと思うんです。ただ,ほかの教科,例えばリーディングであるとか,リスニングであるとか,ライティングに比べますといかにも低過ぎる,こういうふうに思わざるを得ないわけでございますので,やっぱり4技能の方向性というのは,しっかりと教育していかなきゃいけないなと思うわけであります。
 次のページをお願いいたします。今までそういうことで,要はほとんど英語を話す力を使ったことがないから,したがって残念ながら東大の生徒でもできない。私どもは清華大学さんと交換といいますか,清華大学の日本語学科の生徒を毎年受け入れていたわけですけれども,その人たちと東大の人たちと一緒に交流会をやると,まず最初に日本語でやるんですけど,日本語でやるとさすがに彼ら,清華大の方も非常に厳しいと見えて,では英語でやろうということになって,そうすると英語でやると,もう日本の東大生はたじたじなんです。
 ということは,やっぱり使う場があまりにもなかった,そしてそれを訓練する場がなかったということが,そういうことの原因の一つだろうと思います。いろんな国際会議で,それこそ日本人はほとんどしゃべらない,スピーキングがない,サイレンスと言われるのは,そういったことが元々の原因だろうと思います。
 2021年から共通テストがスタートするわけですけれども,それについて申し上げますと,次お願いいたします。ちょうど2025年からまた新しい形式をやっていこうというふうに,もともとあったわけでありますので,ですから2025年からは4技能,場合によっては,そうは言ったってスピーキングの採点は極めて難しいよということであれば,まずライティング,4技能のうち2技能はやっているわけですから,今度は3技能にする。そして4技能にする。これは永遠に,締切りを設けないと,いつまで経っても英語の4技能を測れない。もう20年前からやっているんですから。20年前からやっても全然入試の中に入ってこない。そして日本人の英語のスピーキング能力は全然伸びてこない。コミュニケーション能力が極めて低い。こういうふうになっているわけなので,こうしていったらどうかなと思うわけであります。
 次のページをお願いいたします。最近私どもはいろいろとインターネットの調査をすると,91.5%の高校生がスマホを持っておりますし,まだ持っていない生徒もいるじゃないかという平等論はあると思いますが,ほとんどそういったものが平等になりつつある。あるいは今度は全生徒にコンピューターを配布するというような計画もあるようでございますから,したがってそういった面では,環境の差,若しくは所得による格差といったものを反映して英語力が違うという議論について言えば,少なくとも10年前,20年前よりははるかに平等化が進んできたと思いますので,4技能に対してやっていこうという意味においては,かなり環境は整備されつつあるのではないのかなと思います。
 インターネットの世界へ行けば,幾らでも無料で英語のダイレクトなコミュニケーションもできますし,そういった意味では,非常にそういった面での壁というのは低くなってきているのかなと思います。
 最後をお願いいたします。したがって,もう一回繰り返しますけど,将来日本を誰がどのようにして引っ張っていくのか,そしてそれをどうやって我々が育てていくのかというのは,これこそが国家の百年の計であり,やはりこういう先生方みたいな有識者の方々がリードされるべきことであろうと思います。そういった観点から申し上げますと,今度のコロナの問題にしましても,どうやるかという問題はそれは確かに大問題かもしれませんが,百年の計から見たらそのうちの1年にしか過ぎないです。
 あるいは感染症との付き合いということで言えば,今年は確かに初めてこれだけ日本全体でなりましたから,大変なことかもしれないけれども,しかしながら,これはうまく付き合っていくしかないわけですから,そういった面で言うと,小学校の頃からもうずっと入試の日を想定して勉強してきた連中も,もう一方ではたくさんいます。そして学校が休みの間も一生懸命それを目指して,家の中で勉強を重ねてきたという生徒もたくさんいることは事実でございますので,そういった努力する人間の努力が無にならないような政策をお願いしたいと思います。
 以上でございます。ありがとうございました。
【川嶋座長代理】
 永瀬様,ありがとうございました。
 最後になりましたが,旺文社,石井様に引き続き御報告お願いしたいと思います。よろしくお願いします。
【石井氏】
 旺文社教育情報センターの石井でございます。本日はよろしくお願いいたします。私ども旺文社という会社は,90年近くにわたりまして,『蛍雪時代』という進学情報誌を出してまいりました。本日は,進学情報を扱う教育出版社という立場で御報告をさせていただきたいと存じます。
 それでは,まず,1ページ目を御覧ください。本日は時間が短いので,外部検定に限ってお話をさせていただきます。また資料中,民間の外部検定のことを「外検」というふうに略させていただきます。
 次のページをお願いします。2ページ目を御覧ください。外検入試というのは,大きくこの3つに分けることができます。重要なのは,ある大学が外検入試を始めたからといって,いきなり全学的に導入するわけではないということです。例えば出願資格で言えば,基本的にどの大学も小人数枠で実施をしています。あくまで中心は,外検を持っていなくても受けられる,従来どおりの入試ということになります。
 一方受験生にとって外検入試はメリットがあります。加点や得点換算のメリットはお分かりいただけるかと思いますが,出願資格についても同様です。出願資格で外検を課すところは,大抵当日の試験は英語は免除になります。例えばMARCHクラスでも出願資格が英検2級,当日の試験は国語の現代文のみというところもあります。ちなみにこの大学は毎年志願倍率が100倍を超えます。
 次のページを御覧ください。3ページ目です。こちらは実施大学数の推移になります。実施大学は毎年増えています。増えた理由は下に3つ挙げておきましたが,特に御注目いただきたいのが,志願者が増えるからという点です。先ほど前のページで受験生にメリットがあると申し上げましたけれども,受験生にメリットがある,だから志願者が集まる,だから実施大学が増えるという構図になっています。
 次のページを御覧ください。4ページ目です。こちらのグラフは,前のページでグラフをお示したものについて国公私立大別に分けたものになります。外検入試の拡大を牽引してきたのは私立大学であり,国公立大は動きが鈍いというのが御覧いただけるかと思います。
 次のページを御覧ください。5ページ目です。こちらのグラフは,各外検がどのくらいの入試で利用されているのか,利用可とされているのかの割合になります。受験生としては,当然汎用性の高い外検に流れるわけです。それと,これは大学へのお願いなのですが,利用できる外検とそれからレベルの発表,これは入試要項では遅いということです。つまり高3の6月,7月では遅いということです。例えばこの入試要項よりも前に早く発表されたとしても,出願資格でA2とだけ言われても受験生は動きようがないわけです。どの外検でA2なのか,ここまで発表していただくことが必要です。これをできれば高2の頭までに発表していただくことが重要なのではないかと思います。
 次のページを御覧ください。6ページ目です。こちらは各外検入試で利用できるレベルを集計したものです。ここ数年で利用できるレベルというのは下に広がってまいりました。その理由は2点あります。まず1つが,外検入試というものは私立大の有名大学から火がついたものだったんですけれども,これが地方の中堅私立大へ広がっていった。その過程の中で,併せて利用できるレベルも下に広がっていったということがございます。
 もう一点が,受験生が利用しやすいように入試が工夫されていったことが挙げられます。例えば,今まで得点換算で英検準1級,みなし満点のみというだけだった大学も,例えば2級で90点とみなすよ,準2級で80点とみなすよというふうに,利用できる外部検定が下に広がっていったということが挙げられようかと思います。
 次のページを御覧ください。7ページ目です。こちらは各外検の利用方法になります。御覧いただけますとおり,一般選抜では得点換算が最多,推薦・AOでは出願資格が最多ということになっている。
 以上が,第1部,外検入試の現状になります。
 次のページを御覧ください。第2部は,以上の点を踏まえまして,新カリキュラム下の入試へ向けた私の私見を述べさせていただきます。
 次のページを御覧ください。9ページ目は,私が普段この会議を傍聴していて違和感がある部分です。最初の3つの黒丸を御覧いただければと思うのですが,「共通テストでの民間試験の活用」というフレーズ,これは実態がない。受験生に誤解を与えてしまうというふうに思っています。
 このページと,それからその次のページは,今申し上げた点に関することなんですけれども,9ページ,10ページについては時間がないので割愛させていただきます。
 続きまして,11ページ目を御覧ください。いずれにしましても,今後もまた共通テストでの4技能評価を検討していこうというのであればなんですけれども,2つ可能性が考えられると思います。まず1つ目が,共通テストで外部検定を全面利用する。可能性2つ目が,入試センターが4技能試験を開発する。この2つのルートが考えられると思うんですが,私はこれはいずれも実現は非常に困難だというふうに思っています。
 特に入試センターが4技能試験を開発していこうとする場合,ここに書いてございますとおり,共通テストを3日間に設定されるつもりでしょうか。あるいは検定料はこのままでしょうか。あるいは年内実施にするのでしょうかという疑問がそれだけで出てきます。またいずれにしても,赤字で書いておきましたが,採点ブレ,あとは自己採点の問題が出てきます。これはもう記述式の比ではないはずです。可能性マル1,マル2ともに,共通テストで全面的に4技能評価をしていくというのは非常に難しいと思います。
 それではどうするか。次のページを御覧ください。極めて基本的なことなんですけれども,私は必要な学科が必要な定員枠で,従来どおり外検利用すればいいといいふうに考えています。外検を受けられない受験生にも配慮しましょう,4技能を勉強してきた受験生にも配慮しましょう,両者に配慮しつつ,つまり非利用枠を残しつつ,適切な利用枠を各大学が判断すればいいと思っています。特に国公立大に関しましては,成績提供システムの構想があったときに,全学的にやるかやらないか,全面利用するかしないかに分かれたわけなんですけれども,私はこの2択である必要はないと思います。
 とはいえ大学任せにしてしまうと,導入が進まないのではないか,ある程度国の後押しが必要なのではないかと思うわけなんですが,やはり各大学に任せてしまうとそもそもあった課題,日本がグローバル化への対応から取り残されてしまう可能性も出てくるわけです。そうなってくると,今申し上げた何らかの国の支援が必要だろうと。じゃ,国の支援はどうあるべきなのかというのが次のページになります。
 13ページをお願いします。業務ラクラクシステムのようなものがやはり必要なのではないかと思います。ただし,ここで言っている業務ラクラクシステムは,成績提供システムのことではございません。成績提供システムは,大学さんはよかったかもしれませんが,先生も高校生も,あれはもう本当にとても大変でした。なので,私がここで言う業務ラクラクシステムというのは,各検定団体が独自に開発すればよいのではないかと思っています。
 もしかしたら各検定団体間で緩い統一は必要なのかもしれませんが,統一性を求めすぎるとどんどん成績提供システムに近付いていってしまうので,注意が必要なのではないかと思います。この成績提供システムにあてがうはずだった御予算は,経済的困窮者の受験支援,あるいは検定団体が,離島,僻地で学外試験会場を設けようとする会場設置の支援に使っていただくのがよいのではないかと思います。
 以上が私からの発表の大枠でございます。
 最後にもう一枚付け加えさせていただきましたので,最後にこちらだけ御説明させてください。入試を変えずに高校教育を変えることができるのかという議論,私は強く否と思っています。とは言いましても,もちろんこれは英語の4技能評価に限っての話とお聞きいただければと思います。この入試を変えずに高校教育を変えることができるのかということについては,私はこの議論が今まだ出るのかというもどかしささえ感じてしまいます。
 なぜもどかしく感じているのかというのが,このマル1,マル2になるわけなんですけれども,今までこの英語4技能というのをやってきたけれどもうまくいかなかった。もうこれは結果が出ていることなのではないでしょうか。今までやってうまくいかなかったから,入試を変えようという段階まで来ているのではないでしょうか。それでまたこの話をするのかというもどかしさを感じています。
 それと,マル3番,こちらは授業で早くから4技能対策を取り組んでいる高校の先生に,4技能対策への課題はなんですかと聞くことが多いんですけれども,割と言われるのが,保護者の方,あるいは生徒さん本人に,この4技能対策の重要性を理解してもらうことが大変だと,よくお話を伺います。要は,入試で使わないのにという保護者の方の意見があるということなんです。こうした保護者の方の意見,生徒さんの言うことをどう調整していくか。私は,この対応を高校の先生に丸投げしてしまうのは無理だと思います。やはり英語の4技能については,入試を変えていくことで教育もスムーズに変えることができるのではないかと考えております。
 私からは以上でございます。どうもありがとうございました。
【川嶋座長代理】
 石井様,ありがとうございました。
 ここで大臣が公務のため御退席されるということですので,これまでの有識者の皆様からの御発表を踏まえて,一言御感想等をお願いしたいと思います。大臣,よろしくお願いします。
【萩生田文部科学大臣】
 川嶋先生,ありがとうございます。本日は,吉田先生,中村先生,また高宮副理事長,永瀬社長,また,石井様からも様々な観点から御発表いただきました。大変興味深く,また非常に様々な角度からの御意見を頂いたと思っています。お忙しい中,本検討会議に御参加いただいたことを改めて感謝申し上げたいと思います。また,委員の皆様におかれましても活発な意見交換をいただき,本当にありがとうございます。
 なかなかコロナで一堂に会して,お顔を見ながらお話をする機会がないんですけれども,新しい生活様式の中で,これからの教育はどうあるべきかということも一緒に考えていかなきゃならない,そういう時代に入ってきたんだと思います。当面はウェブ会議での開催になるかと思いますけれども,どうぞ委員の皆さんの引き続きの御協力をお願いしたいと思います。
 私もできる限り御一緒に参加して,皆さんのリアルな声を聞きたいと思っております。公務の関係で出たり入ったりしますが,後ほど議事録などはしっかり読み込みをさせていただいておりますので,どうぞ御意見がありましたら,また忌憚なく申していただきたいなと,そんなふうに思っております。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 (萩生田文部科学大臣退席)
【川嶋座長代理】
 大臣,御挨拶どうもありがとうございました。
 それでは意見交換に戻りたいと思いますが,また手を挙げるボタンでお知らせください。また時間も限られておりますので,御質問は簡潔にお願いしたいと 思います。どなたに対する御質問かということを明確にした上で御質問をお願いしたいと思います。
 それでは,まず芝井委員,引き続きまして岡委員の順番で御質問をお願いしたいと思います。
【芝井委員】
 それでは芝井です。幾つか質問があるんですけど,時間がないということですので,一番聞きたいのはまず1つ,石井さんの最後の発表なんですが,書いておられる幾つかのアイデアとプランについては,ほぼ私個人としては同意をさせていただきたいんですが,1つすごく気になるのは,英語の4技能が導入されないのであれば,日本がグローバル化への対応から取り残される可能性があるというふうに書いておられて,私は,そこはもう少し多元的な形で物を考えるべきではないかと思っています。
 つまり,日本語がしっかりできることは,別にグローバルで引けを取らないことだし,英語ではなくてスペイン語であるとか,タイ語であるとか,ベトナム語で話すことができたり,生活をしたり,コミュニケートする力を持っていることこそが,グローバルな人材ということではないのでしょうか。ですから,英語をきちっとやることが戦後の日本の一つの理念,理想であって,それができていないことを何とかしなきゃいけないというのは,分からないではないと言いながらも,これは私はちょっと承服し難いところですが,いかがでしょう。
【川嶋座長代理】
 石井様,いかがでしょうか。
【石井氏】
 御質問ありがとうございます。御指摘のとおりだと思います。私自身もここで述べたことについて,英語だけというふうに思っているつもりはございません。ここにこのように書かせていただきましたのは,恐らくそもそも論,最終報告,あるいは実施方針の中で英語の4技能を導入する目的として,それがこのように書かれていたと記憶しておりましたので,このように書かせていただいたということでございます。よろしいでしょうか。
【芝井委員】
 ありがとうございます。先ほど少し申し上げましたけれども,この解として,従来どおり外部検定試験を利用すればいいというのは,現実的に方向として進めていきながら,でも一定の合理的な判断をするという意味では,私は一つのアイデアとしては賛成です。ただそのときにはここに書いておられるように,現実問題として,あと幾つか問題があって,それが今まで努力をされてきたり議論をしてきて,あるいは方向付けをしてきたのに対してマイナスに働くようでは,やっぱり意味がないんだろうと思っているんです。
 ですから,是非それがいわゆる4技能の習得ということにつながるような回路をしっかりと確保できること,それからもう一つは,すごく大事なことなんですけれども,一番具体的に言うと,現在センターは英語の試験は併用していますけれど,その英語の試験として併用している部分についてどうするのかというのも,制度設計としてはちゃんと持っておくべきだ,その2つの点がありますが,それ以外に関しては従来どおり,外部検定試験を様々な形で大学が責任を持って利用するのが一つの方向だと思っています。
 以上です。
【川嶋座長代理】
 ありがとうございました。それでは,岡委員,引き続き御質問をお願いします。
【岡委員】
 国立大学協会入試委員長の岡です。皆様,ありがとうございました。大変参考になりました。今,大学は遠隔講義をたくさんしているんですが,意外と学生がその遠隔に対して非常に適応が速いということが非常に印象的で,先ほど永瀬様が言われましたように,遠隔,スマホの利用は非常にすごい勢いだなというのを感じております。
 石井様に質問ですが,スライドの10及びスライドの12におきまして,国公立大学の導入の鈍さとか,一般選抜の全学生に課すということで,不安が拡大したと書いてあるわけですが,私ども国立大学協会としては,全ての大学と言っていいと思いますが,この4技能は非常に重要だと考えています。この4技能を測るための様々な議論をして,その問題点も述べながら導入に至ったわけですが,一体どういうところがそういう問題点として映っているかというのを,是非ともお聞きしたいと思いますが,いかがでしょうか。
【石井氏】
 ありがとうございます。私としては,先ほどの12ページで申し上げましたとおり,全学的にやるかやらないかの2択である必要はないと思っていて,非利用枠を残すということは非常に重要だと思うんです。
 今回の件につきましては,出願資格を全学的に課す国公立大学が続出したわけです。外検を持っていないと,国の大学である国立大学を受けることができないという事態が続出してしまったわけです。私はこの部分が,非常に受験生に対して大きな不安を与えてしまったのではないかと思います。
 これが強いアドミッションポリシーに裏付けられた一部の大学であれば,私はいいと思うんです。実際,国立だと東京海洋大,ここはもう全面外検です。ここはもう2016年から全面外検を出願資格で課している。ただ東京海洋大の場合は,とても強いアドミッションポリシー,うちにはこういう学生が必要なんだよということでやっているので,私はいいと思います。
 ただ,これが国立大学の中で次から次へと出てしまう。もう一大学の問題ではなくて,外検を持っていなければ,あそこもここも受けられない国立大学が出てきてしまうというのは,受験生にとって非常に不安が大きかったのではないかと思います。よろしいでしょうか。
【岡委員】
 国立大学としては,全学生に対して英語の4技能に対する教育をしています。最初からスタートラインをいい学生から始めたいなという気持ちが非常に強くありまして,一方で出願資格を受ければ良しとする大学もあったわけです。A2とする大学や受験すれば良しとする大学まで出て,その国立大学の各大学の考え方を尊重したわけですが,ほかの方法で4技能を広めていく方法があるのかというのは,我々にとってはなかなかいい解が見付けられなかったということも事実だと思います。
 ただ,いろんな問題を真剣に考えて実施を検討した。もう一つ忘れてはいけないのは,共通テストの中で英語を残したのは,高校,それから受験生の立場,意見を聞いて,デュアルユースにしたというのは,私たちがそれがいいと,いろんな意見を聞いて決定したということを言っておきたいと思います。
 以上です。
【川嶋座長代理】
 ありがとうございました。ほかの委員の方々,御意見,御質問はございますでしょうか。もう残り5分ほどになってしまったのですが,今日の有識者の御発表に限らず,本会議について御意見等がございましたら,挙手ボタンを上げていただければと思いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 それでは,本日の第8回の会議はこれにて終わりにしたいと思います。本日は長時間にわたり,意見交換をありがとうございました。また有識者の方々,貴重な御発表いただきましてありがとうございました。
 それでは,最後に事務局の方から御連絡があればお願いしたいと思います。
【武藤高等教育局企画官】
 委員の皆様,今日はありがとうございました。第9回,次回の会議は6月16日の火曜日に行いたいと思います。ちょっと日程が近接していて恐縮でございます。具体的な時間は,ヒアリング対象者との調整の結果を踏まえて,また御連絡をしたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
【川嶋座長代理】
 本日はどうもありがとうございました。
 

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