障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第二次まとめ)について

平成29年4月
文部科学省

文部科学省では、「障害のある学生の修学支援に関する検討会(座長:竹田一則 筑波大学人間系教授)」を開催し、このたびその検討結果を「第二次まとめ」として取りまとめましたので、お知らせいたします。


1.趣旨・経緯


  ・平成28年4月に施行された「障害者差別解消法」において、障害者への不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供が義務ないし努力義務とされました。
  ・そのため、文部科学省は平成27年度、私立大学等の事業者のための対応指針を策定・告示し、また、国立大学等は国等職員対応要領の策定・公表を行うなどの対応を進めてきました。
  ・また、大学等では、障害のある学生の在籍者数が増加しており、今まで以上に、これらの学生の修学支援体制の整備が急務となっています。
・こうした状況を踏まえ、高等教育段階における障害のある学生の修学支援の在り方について検討を行うため、「障害のある学生の修学支援に関する検討会」を開催し、検討結果を「第二次まとめ」として取りまとめました。

 
2.検討会報告(第二次まとめ)の主な内容


  ・障害者差別解消法で示された「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮」についての大学等における基本的考え方と対処
  ・教育方法や進学、就職等、主要課題において各大学が取り組むべき内容や留意点
・平成29年度新規事業「社会で活躍する障害学生支援センター形成事業(仮称)」で取り組むべきこと


障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第二次まとめ)

平成29年3月

1.はじめに


 平成28年4月,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(※1) (以下,「障害者差別解消法」という。)が施行された。これにより,障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供が,法的に義務ないし努力義務とされ,大学(※2)・短期大学・高等専門学校(以下,「大学等(※3)」という。)においても一定の取組が求められることとなった。 
 このような動きは,平成18年,国連総会で「障害者の権利に関する条約」(以下,「障害者権利条約」という。)が採択されたことに端を発する。我が国は,平成19年に同条約に署名し,平成23年の「障害者基本法」の改正や平成25年の障害者差別解消法の策定等,関連の国内法の整備を進めてきた。また,文部科学省においては,平成24年に「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」を開催し,障害のある学生に対する修学支援の在り方と具体的な方策について検討を行い,「第一次まとめ」として取りまとめた。同時に,平成28年の障害者差別解消法の施行に備え,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(平成27年2月24日閣議決定)(以下,「基本方針」という。)を踏まえ,平成27年に「文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」(以下,「文部科学省対応指針」という。)を策定する等の対応を行ってきた。
 一方,障害のある学生の在籍者数は急激に増加している。多くの大学等の現場においては,求められる修学支援を行うための知見や経験,施設・設備,人員が極めて不足している。そのため,合理的配慮の内容をどのように決定するのか,どの程度まで行う必要があるのか,内容について不服申立てがあった場合の対応はどうするのかなど,判断に窮する場面が多々生じている。
 合理的配慮を含む障害のある学生への支援は,個別の対応が必要である。しかし,そのためには基盤となる一定の考え方が必要であり,障害のある学生への支援に関わる全ての関係者はこれを共有していくことが重要である。特に,大学等においては学長や校長(以下,「学長等」という。)等の経営トップを含む教職員全員がこの考え方を理解することが不可欠であり,また,障害のない学生や保護者,自治体等関係機関の理解も得ていく必要がある。そして,このような基礎理解を共有した上で,実際にどのような手立てを講じていくのかが問われている。
 本検討会(※4)は,以上のような状況に鑑み,共有すべき基本的な考え方と具体的な対応について議論するとともに,大学等の現場において適切な修学支援が行われるために必要な事項について検討すべく,平成28年4月から開催してきた。検討に当たっては,大学や企業,行政機関からのヒアリングを行うとともに,「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年6月2日閣議決定)や教育再生実行会議「すべての子供たちの能力を伸ばし可能性を開花させる教育へ(第九次提言)」(平成28年5月20日)の趣旨を踏まえ,在学中のみならず,進学時や就労時の支援までを視野に入れた。そして,計9回(※5)にわたる検討の結果をまとめたのが,この「第二次まとめ」である。
 本まとめでは,学長等をはじめとする大学等における全ての教職員が障害のある学生の支援に関する理解を深め,適切な支援を行うために取り組むべき事項や考え方について参照できるよう,できる限り具体的かつ体系的に記述するよう努めた。また,障害のある学生本人及びその関係者(保護者,介助者等),大学等が行う支援を補助する学生(以下,「支援補助学生」という。),障害のない学生,高等学校や特別支援学校等の初等中等教育機関関係者,専修学校関係者,ハローワーク等の就職支援機関関係者,企業関係者,民間の障害学生支援団体関係者等が参照することも想定した。
 第一次まとめ及び文部科学省対応指針と合わせて,この第二次まとめにより,これらの全ての関係者における共通理解と連携が強化され,大学等を始めとする我が国の関係機関における障害のある学生への修学支援のための取組が飛躍的に進展することを強く期待する。

2.大学等における障害のある学生の現状(※6)


(1)障害のある学生(※7)数・大学等が支援を行っている障害のある学生(※8)数

     独立行政法人日本学生支援機構(以下,「機構」という。)の調査によれば,平成27年5月1日現在,21,721人の障害のある学生が大学等に在籍しており,これは全学生の0.68%に当たる。平成22年の調査では8,810人,平成17年の調査では5,444人であり,この10年で障害のある学生数は約4倍と急増している。特に増加が著しいのは,病弱・虚弱,発達障害,精神障害である。これらの急増の要因の一つとしては,障害についての知見が広まり,大学等における障害のある学生の把握が進んだことが大きいと推察される。大学等が支援を行っている障害のある学生は11,507人で,全体の学生数の0.36%に当たり,障害のある学生のうち53.0%が何らかの支援を受けている。
     なお,障害のある学生が在籍する学校数は880校であり,これは全学校数の74.5%に当たる。
     以下に主な支援の実施状況等について示す。これらの詳細は別紙1に記載する。

(2)支援の実施状況

    1 授業支援
       障害のある学生への授業支援実施校数は686校(全体の58.0%)であり,最も多くの大学等で実施されているのは「教室内座席配慮」416校(35.2%),次いで「配慮依頼文書の配付」390校(33.0%),「実技・実習配慮」306校(25.9%)となっている。
    2 授業以外の支援
       授業以外の支援実施校数は619校(52.4%)であり,最も多くの学校で実施されているのは「専門家によるカウンセリング」386校(32.7%),次いで「休憩室・治療室の確保等」253校(21.4%),「対人関係配慮」237校(20.1%)となっている。
    3 発達障害のある学生への支援状況
       発達障害のある学生又は発達障害のあることが推察される学生に支援を行っている学校数は602校(50.9%)である。授業支援で最も多いのは「配慮依頼文書の配付」246校(20.8%),次いで「学習指導」181校(15.3%),「履修支援」180校(15.2%)となっている。授業以外の支援で最も多いのは「専門家によるカウンセリング」392校(33.2%),次いで「対人関係配慮」270校(22.8%),「自己管理指導」231校(19.5%),「居場所の確保」198校(16.8%)である。

(3)障害のある生徒の受入れに関する配慮及び入学者数

     平成27年度入学者選抜において障害のある入学者数は1,658人,受験上の配慮を実施した受験者数は3,072人となっている。また,受験上の配慮のうち「車椅子の持参使用」(79.3%),「松葉づえの持参使用」(79.3%),「別室を設定」(76.0%),「試験場への車での入構許可」(75.2%),「トイレに近接する試験室に指定」(72.4%),「窓側の明るい席の指定」(71.7%),「補聴器の持参使用」(71.4%)について全体の70%以上の大学等が実施可能と回答している。

(4)特別支援学校高等部(※9)からの進学状況

     特別支援学校高等部の平成28年3月卒業者20,882人のうち,大学への進学者が207人,短期大学への進学者が11名,大学・短期大学の通信教育部への進学者が8名(計226名(1.1%))となっている。226人の内訳は,視覚障害39人(17.3%),聴覚障害114人(50.4%),知的障害2人(0.9%),肢体不自由47人(20.8%),病弱・身体虚弱24人(10.6%)となっている。

(5)障害のある学生の卒業後の進路

     全大学等のうち平成26年5月1日現在,通学制の最高年次に在籍していた障害のある学生は4,608人で,平成26年度卒業者数は2,930人となっている。卒業生の進路状況は,進学が349人(卒業者数の11.9%)で就職が1,470人(50.2%),進学者の内,既に就職している者7人を加えた全就職者数は1,477人(50.4%)となっている。

(6)諸外国の状況

    1 米国
       米国では,1973年に成立した「リハビリテーション法(Rehabilitation Act of 1973)」504条で,政府の資金提供を受けている教育機関における障害者差別が禁止された。また,1990年に成立した「障害のあるアメリカ人法(Americans with Disabilities Act of 1990, ADA)」では,更に広範に,州及び地方公共団体の資金提供を受ける教育機関及び私立教育機関においても障害者差別が禁止されるようになった。
       米国内の高等教育機関に在籍する障害のある学部生数(※10)は,約256万人で学部生全体の11.1%となっている(2011-2012年)。
    2 英国
       1995年に成立した「障害者差別禁止法(Disability Discrimination Act,DDA)」は,高等教育での差別禁止を対象範囲としていなかった。しかし,2001年の「特別な教育的ニーズと障害法(Special Educational Needs and Disability Act)」成立により,高等教育機関に合理的調整(Reasonable adjustment)が義務づけられた。さらに,2005年DDA改正では,高等教育機関を含む公的機関に障害平等義務が課せられ,これらの規定内容はすべて,「2010年平等法(Equality Act 2010)」の中に組み込まれた。また,2010年平等法はDDAと比べて,より強力な障害者差別の禁止規定を設け,障害者が法的保護をより受けやすくなっている。
       英国内の高等教育機関の1年次に在籍する障害のある学生(※11) は,約8万3000人で,1年次の学生全体の11.0%となっている(2014-2015年)。

3.第一次まとめで取り組むべきとされた事項の進捗状況

  以下に示すとおり,短期的課題・中長期的課題ともに,すべての課題において,一定の進捗が見られる。しかし,障害者にとって非常に重要である情報アクセシビリティに関し,ホームページで支援情報を公開する大学等は3割に満たず,支援の相談窓口を設置する学校が6割弱であるなど,いまだ不十分な状況であると言わざるを得ない。また,9割以上の大学等が支援を組織的に実施する体制にあるが,専門の部署を置いている大学等は11.7%にとどまるとともに,専任スタッフを配置する大学等も12.5%であるなど,一層の体制整備や専門人材の養成が必要な状況である。これらの状況把握については機構の調査をもとにしているが,さらに,実態や課題を正確に把握するため,追加や見直しが必要と思われる項目がある。また,各大学や学協会等においても,これらの事項を踏まえた状況把握が望まれる。
(1)短期的課題

    1 情報公開の状況
       平成27年度にホームページで障害のある学生への修学支援情報を公開している学校数は308校(26.1%)で,平成24年度(113校(9.4%))より195校16.7ポイント増加している。また,平成27年度入学者選抜において,障害を理由とする配慮について入試要項及びホームページに記載した大学等は636校(53.8%)で,平成24年度(499校(41.7%))より137校12.1ポイント増加している。
    2 窓口の設置
       平成27年度に障害のある学生による支援の申出等の相談を受け付ける窓口を設置している大学等は700校(59.2%)で,平成26年度(650校(54.9%))より50校4.3ポイント増加している。
    3 体制の整備(委員会,支援部署,施設・設備等)
       平成27年度に障害のある学生の支援に関する専門委員会を設置している大学等は250校(21.2%)で,他の委員会が対応している大学等685校(58.0%)を合わせた935校(79.2%)で組織的な対応をしており,平成24年度の783校(65.4%)より13.8ポイント増加している。障害のある学生への支援担当部署では,専門部署・機関を設置している大学等が138校(11.7%)で,他の部署・機関が対応している大学等948校(80.2%)を合わせた1,086校(91.9%)で組織的な対応をしており,平成24年度の995校(83.1%)より8.8ポイント増加している。
    4 拠点校及び大学間ネットワークの形成
       第一次まとめに記載の拠点校に求められた機能のうち,各大学等の支援事例の集約・蓄積と,それらの大学等への還元については,平成26年度に機構が「大学等における障害のある学生への支援・配慮事例」を作成・公表している他,下記(2)8に記載しているような調査研究,情報提供,研修を行っている。また,平成18年度から実施している機構の「障害学生修学支援ネットワーク事業」において,大学等からの障害のある学生への支援に関する相談を受け付けている。文部科学省及び機構においては,これらの取組をとおして,拠点校の整備により期待される効果が実現されるよう努めている。

(2)中長期的課題

    1 大学入試の改善
       平成27年度入学者選抜において,大学等が受験上の配慮を行った受験者数は3,072人で,平成24年度(2,748人)より324人増加している。
    2 高校及び特別支援学校と大学等との接続の円滑化
       平成26年度に出身高校及び特別支援学校高等部との連携を行った大学等は180校(15.2%)で,平成24年度の116校(9.7%)から64校5.5ポイント増加している。
    3 通学上の困難の改善
       平成27年度に通学支援(自動車通学の許可,専用駐車場の確保等)を行った大学等は207校(17.5%)で,平成25年度の180校(15.1%)から27校2.4ポイント増加している。
    4 教材の確保
       平成27年度に実施した授業支援のうち,点訳・墨訳は48校(4.1%),教材のテキストデータ化は84校(7.1%),教材の拡大は117校(9.9%),ビデオ教材への字幕付けは69校(5.8%)となっている。平成24年度と比較すると,点訳・墨訳が46校(3.8%)で2校0.3ポイント増加,教材のテキストデータ化が66校(5.5%)で18校1.6ポイントの増加,教材の拡大が106校(8.8%)で11校1.1ポイントの増加,ビデオ教材への字幕付けが60校(5.0%)で9校0.8ポイントの増加となっている。
    5 通信教育の活用
       平成27年度に大学等の通信教育課程に在籍する障害のある学生数は1,932人(全体の障害のある学生数の8.9%)で,大学が1,905人(大学全体の9.7%),短期大学が27人(短期大学全体の2.2%)となっている。平成24年度(1,541人(13.1%))と比較するとおよそ人数は1.3倍の増加,割合では4.2ポイントの減少となっている。
    6 就職支援
       平成27年度における進路指導・就職支援(障害のある学生向けの就職ガイダンスやセミナーの実施,ハローワーク等の学外機関との連携等)の実施校数は567校で全体の48.0%となっている。平成25年度の443校(37.2%)と比較すると124校,10.8ポイントの増加となっている。
    7 専門的人材の養成
       平成27年度に障害のある学生支援に関する研修・啓発活動を実施した大学等は930校(78.7%)で,平成24年度の702校(58.6%)から228校20.1ポイント増加している。このうち,学内における教職員向けの各種研修(FD,SD(※12)研修等)を実施した大学等は296校(25.0%)で,平成24年度の162校(13.4%)から134校11.6ポイントの増加,学外における各種研修等への教職員の派遣は573校(48.5%)で,平成24年度の258校(21.6%)から315校26.9ポイント増加している。
       また,平成27年度に障害のある学生への支援に関するコーディネーター,カウンセラー,点訳,手話通訳等の支援技術を持つ教職員等の専任スタッフを配置している大学等は148校(12.5%),兼任スタッフを配置している大学等は1,050校(60.3%)となっている。平成24年度の配置状況と比較すると,専任スタッフ配置校は90校(7.5%)から58校5.0ポイント増加しており,兼任スタッフ配置校は791校(66.0%)から78校5.7ポイント減少している。
    8 調査研究,情報提供,研修等の充実
       調査研究については,平成27年度より文部科学省の支援(※13)により,筑波大学が「発達障害学生支援プロジェクト」を開始し,今後の増加が見込まれる発達障害のある学生の支援モデルの構築を目指し,研究・実践活動を行っている。また,東京大学においても,平成19年度から,多様な障害のある児童生徒の高等教育への進学と,その後の障害のある学生の就労への移行を支援する「DO-IT Japanプロジェクト」を実施しており,第1次まとめも踏まえた支援の実践を通じて得られた知見を蓄積している。
       機構において,平成17年度から「大学,短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」(平成27年度調査の対象校は1,182校(回収率100%))を毎年度実施するとともに,平成26年度においては,それまでの調査(平成17年度~平成25年度)の内容を障害種別や学校種別等で分析し,その結果を公開した。また,平成26年度には,近年増加が顕著な精神障害について新たな章立てを行うなどの改訂を行った「教職員のための障害学生修学支援ガイド」を公表した。
       さらに,機構において,各地の大学の協力を得て,「全国障害学生支援セミナー」を開催する(平成28年度は全国9会場で実施)とともに,大学等においても例えば「全国高等教育障害学生支援協議会(AHEAD JAPAN)」や「日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)」,「DO-IT Japan」,「関西障害学生支援担当者懇談会(KSSK)」などが様々な会合・研修会を実施し,障害のある学生支援に関する最新の動きや事例の紹介等を行うなど,大学等における関係者の理解促進・啓発を進めている。なお,これらを含む関連するネットワークや機関については別紙2に記載する。
    9 財政支援
       平成25年度より,国立大学法人運営費交付金において「障害者向け情報発信促進等経費」として,障害のある学生への支援を専門的に担当する部署を設置し,専属の教職員を配置している大学に対する教員経費を計上するととともに,私立大学等経常費補助金においては,障害のある学生の受入れ等に積極的に取り組んでいる私立大学等に対する支援を拡充するなど,財政支援の充実を図っている。

4.本検討会における検討の対象範囲

 第一次まとめの記載事項との継続性を考慮し,基本的にはその対象範囲を踏襲するが,これに加え,第一次まとめでは十分に議論できなかった「教育とは直接に関与しない学生の活動や生活面への配慮」についても,障害のある学生への支援にとって重要かつ大学等において考えるべき課題であることを委員間で共有した。
 ただし,「3.(2)」で示したデータでは,これらの教育以外の部分について,実態の把握が必ずしも十分でない状況にあり,また,対応の在り方について様々な考え方に基づき模索が始まったばかりというのが現状である。このことを踏まえ,教育以外の部分については,我が国全体での検討・対応が加速されることを目指し,今後の参考になると考えられる特色ある取組や支援・配慮事例(※14)(例:通学や学内介助(食事,トイレ等)に関するもの)をまとめる(別紙3参照)こととした。
  以上のことを前提とし,今回の検討の対象範囲は以下のとおりとした。

(検討対象とする「学生」の範囲)
 我が国における,大学等に入学を希望する者及び在籍する学生とし,学生には,科目等履修生・聴講生等,研究生,留学生及び交流校からの交流に基づいて学ぶ学生等も含む(第一次まとめと同じ取扱い)

(検討対象とする「障害のある学生」の範囲)
 障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある学生(第一次まとめと同じ取扱い)

(検討対象とする学生の活動の範囲)
 入学,学級編成,転学,除籍,復学,卒業に加え,授業,課外授業,学校行事,課外活動(サークル活動等を含む)への参加,就職活動等,教育に関する全ての事項
 上記とは直接に関係しない学生の活動や生活面への配慮(通学,学内介助(食事,トイレ等),寮生活等)に関する事項

(その他)
 学生に関係する保護者や介助者(支援補助学生を含む)等への配慮に関する事項

 なお,障害者差別解消法等において,大学等に不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮等の提供が求められている障害者の範囲は,障害のある学生以外の,例えば,大学等が主催するシンポジウムや学会への参加者,附属学校に在籍する児童生徒,病院等の附属施設への訪問者等,大学等が提供する事業に参加するすべての者が含まれ,本検討会の対象範囲よりも広くなっている。このため,実際には本まとめの内容よりも広い範囲での対応が求められることに十分留意することが必要である。

5.障害者差別解消法を踏まえた「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮」に関する考え方と対処

(1)基本的な考え方

     まず,不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供は,大学等において,組織として当然に行わなければならないことと位置づけられていることを強く認識することが必要である。これらのことはコンプライアンスの観点からも非常に重要であり,対外的な説明も求められるものである。このため,関連の取組を進めるに当たって,学長等のイニシアティブの発揮と特定の教職員任せにならない組織としての取組が強く求められる。
     その上で,「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮」の基本的な考え方を以下に示す。
     なお,障害のある学生への支援は,これらの不当な差別的取扱いと合理的配慮の観点からのみ行われるものではなく,障害の有無に関わらず,大学等として学生に対して当然行うべき様々な支援が不可欠である。
    1 不当な差別的取扱い
       文部科学省対応指針を踏まえると,障害のある学生への不当な差別的取扱いとは,正当な理由なく,障害を理由として各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯を制限するなど,障害のない学生に対しては付さない条件を付すことと位置付けられる。
       正当な理由に相当するか否かについては,個別の事案ごとに,障害のある学生及び第三者の権利利益(例:安全の確保,財産の保全,事業の目的・内容・機能の維持,損害発生の防止等)の観点から,判断することが必要である。事故の危惧がある,危険が想定されるなどの一般的・抽象的な理由に基づいての対応は適当ではない。
       これらの不当な差別的取扱いは,入学前の相談から,入試,授業(講義,実習,演習,実技,実験),研究室の選択,試験,評価,単位認定,留学,インターンシップ,課外活動への参加等まで,大学等が関係するあらゆる場面で発生しうるという認識が不可欠である。
       また,これらの不当な差別的取扱いに関連して,障害を理由としたハラスメントが発生することがあるので,このことを防止するための取組の徹底も重要である。
  2 合理的配慮
       第一次まとめにおいては,「大学等における合理的配慮とは,「障害のある者が,他の者と平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために,大学等が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり,障害のある学生に対し,その状況に応じて,大学等において教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり,かつ「大学等に対して,体制面,財政面において,均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」とした」と定義されている。
       また,障害者差別解消法においては,障害者が受ける制限は,障害のみに起因するものではなく,社会における様々な障壁(社会的障壁)と相対することによって生ずるものという,いわゆる「社会モデル」の考え方を取り入れており,この社会的障壁を除去するために合理的配慮が行われるとしている。
       大学等においては,これらの考え方を理解し,障害のある学生への合理的配慮の提供のための取組を進めることが不可欠である。

(2)大学等における実施体制

     不当な差別的取扱いを防ぎ,必要な合理的配慮をできる限り円滑かつ迅速・適切に決定・提供するためには,それぞれの大学等の状況を踏まえた体制整備が不可欠である。これらの体制整備に必要な観点や手順を以下に示す。なお,体制整備に当たっては,それぞれの大学等の規模や特色,取組の状況を踏まえるとともに,単独の大学等での整備が困難な場合は,複数の大学等で資源の共有を図るなどの工夫が重要である。
    1 事前的改善措置
       不特定多数の障害者のニーズを念頭に,あらかじめ,施設・設備のバリアフリー化や,以下の学内規程,組織等を含むハード面・ソフト面での環境の整備(事前的改善措置)を行うことが有効である。これらの環境整備は,障害のある学生の心理的負担に加え,合理的配慮等,個別の支援の申出や問合せに対応する負担を軽減することが期待される。また,必要なコストの削減・効率化にもつながる可能性があることから積極的な推進が望まれる。特に,施設の整備については,中長期的な計画・取組が重要である。
    2 学内規程
       全ての国立の大学や高等専門学校においては,障害者差別解消法に基づき,平成27年度までに国等職員対応要領が策定・公表されている。これらの要領の作成・公表は公立大学等においても努力義務となっており,私立大学等においても,公的な性格を持つ教育機関という位置づけに鑑み,国立大学等と同様の対応が望まれる。また,これらの職員対応要領は所属の職員が遵守すべき服務規律の一環として定められるものであるが,これに限らず,障害のある学生への支援についての姿勢・方針,関連する様々なルールの作成・公表が望まれる。
    3 組織
     1 委員会
         大学等における障害のある学生への支援に関する意思決定を行う機関。

     2 障害学生支援室等の専門部署・相談窓口
         支援の申出や問合せに一元的に対応する部署・窓口。これらの部署が中心となり,学内の専門部署や障害のある学生の所属部局・担当教員が連携して支援を行う。
         障害のある学生への支援を主な職務とする教職員(コーディネーターやカウンセラー,手話通訳等の専門知識や技術を有する者)を配置することが望ましい(6.(5)参照)。
     3 紛争解決のための第三者組織
         障害のある学生と大学等の間で提供する支援の内容の決定が困難な場合に,第三者的視点に立ち調整を行う組織。類似の組織としてはハラスメント防止委員会等が挙げられる(5.(4)参照)。

(3)合理的配慮の内容の決定の手順

     合理的配慮の内容を決定する際の主な手順を以下に記載する。これらの手順は一方向のものではなく,障害の状況の変化や学年進行,不断の建設的対話(障害のある学生本人の意思を尊重しながら,本人と大学等が互いの現状を共有・認識し,双方でより適切な合理的配慮の内容を決定するための話合い)・モニタリングの内容を踏まえて,その都度繰り返されるものである。
     なお,これらの手順は障害学生支援室等が組織として正式に提供する合理的配慮について示したものであるが,実際にはこれらの専門部署が関与せず,学内の様々な場面・手順で,合理的配慮の提供が求められる場合があることに留意する。
    1 障害のある学生からの申出
     1 原則として,障害のある学生本人から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において,その実施に伴う負担が過重でないときは,大学等は社会的障壁の除去の実施についての合理的配慮を行う。
     2 本人からの申出ができない場合においても,当該学生が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には,法の趣旨に鑑み,大学等側から当該学生に対して働きかけることが望ましい。例えば,適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働きかけることや,日頃から学生個々の(障害)特性やニーズの把握に努めること,障害のある学生自ら社会的障壁を認識して正当な権利を主張し,意思決定や必要な申出ができるように,必要な情報や自己選択・決定の機会を提供することなどに取り組むことが望ましい。
     3 原則として,障害のある学生の申出に際しては,個々の学生の障害の状況を適切に把握するため,学生から障害の状況に関する根拠資料の提出があることが必要である。根拠資料としては,障害者手帳の種別・等級・区分認定,適切な医学的診断基準に基づいた診断書,標準化された心理検査等の結果,学内外の専門家の所見,高等学校・特別支援学校等の大学等入学前の支援状況に関する資料等が挙げられる。また,適切な配慮内容決定のためには,本人が自らの障害の状況を客観的に把握・分析した説明資料等も有効である。これらのうち,利用できる根拠資料を複合的に勘案して,個々の学生の障害の状況を適切に把握する必要がある。
     4 ただし,障害の内容によっては,これらの資料の提出が困難な場合があることに留意し,障害のある学生が根拠資料を取得する上での支援を行うことや,下記の建設的対話等を通じて,本人に社会的障壁の除去の必要性が明白であることが現認できる場合には,資料の有無に関わらず,合理的配慮の提供について検討することが重要である。
    2 障害のある学生と大学等による建設的対話
     1 障害のある学生本人と大学等(担当教員,所属学部・研究科,障害学生支援室等)による建設的対話を行い,合理的配慮の内容を決定する。
     2 建設的対話においては,本人の意思決定を重視し,この意思確認が不在のまま,一方的に合理的配慮の内容の決定が行われることは避けなければならない。
     3 なお,この際,本人が自ら求める支援内容の説明や,意思決定を行うことが困難である場合等は,必要に応じて本人が保護者や支援者の援助を受けることができるようにすることが重要である。
    3 内容決定の際の留意事項
     1 合理的配慮の申出の内容が教育に関わるものの場合,まず,当該場面における教育の目的・内容・評価の本質(カリキュラムで習得を求めている能力や授業の受講,入学に必要とされる要件)に不当な差別的取扱いに当たるものや社会的障壁が存在し,それらが障害のある学生を排除するものになっていないかを個別かつ客観的に確認する必要がある。その上で,この本質を変えずに,過重な負担にならない範囲において,教育の提供方法を柔軟に調整する。
     2 合理的配慮の検討過程において,大学等が過重な負担に当たると判断した場合,障害のある学生にその理由を説明し,理解を得るように努めるとともに,他の実現可能な措置を提案する。

4 決定された内容のモニタリング

合理的配慮の内容の妥当性や,その後の状況を把握するために,提供した支援についてのモニタリングを行い,必要がある場合には内容の調整を行う。

(4)紛争解決のための第三者組織
     障害のある学生が,大学等から不当な差別的取扱いを受けていると考えた場合,また合理的配慮を含む障害のある学生への支援の内容やその決定過程に対して不服がある場合に備え,大学等は,本人からの不服申立てを受理し,紛争解決のための調整を行う学内組織を整備することが望ましい。その際に留意すべき観点を以下に示す。
    1 障害のある学生への支援を行う部署や委員会等に対して,中立的な立場で調停ができる組織とすること。これらの委員会には障害者が参加していることが望ましい。
    2 学内に第三者組織が整備されていない場合や,第三者組織で調停ができなかった場合でも,障害者差別解消法に基づいて,障害のある学生は学外の相談・調停窓口(文部科学省高等教育局学生・留学生課(※15),法務省人権擁護局,障害者差別に関する条例を制定する地方公共団体,障害者差別解消支援地域協議会(※16)等)に,紛争解決のための相談を行うことができる。そのため,大学等は,学内の紛争解決のための学内組織の存在に加えて,こうした権利保障に関する学外の相談窓口の存在を,障害のある学生に周知し,必要に応じて連携を図ることが重要である。


6.各大学等が取り組むべき主要課題とその内容

(1)教育環境の調整

     障害のある学生に提供する教育については,4.(3)3 1 に記載した内容と同様,まず,その変えることのできない本質の確認が必要である。その上で,この本質は変えることなく,提供方法を調整するとともに,授業内容や教科書,資料等へのアクセシビリティを確保することで,全ての学生が同等の条件で学べるようにすることが重要である。また,(卒業後の)資格取得や就職に関するものなど,教育の本質とは異なる付随的要件を理由に評価されることは避けなければならない。
     この際,合理的配慮の提供等により,障害のある学生に様々な教育活動への参加が保障されるのであれば,このことについての積極的な検討が重要である。これらのために留意すべき観点を以下に示す。
    1 3つの方針(アドミッションポリシー,カリキュラムポリシー,ディプロマポリシー)やシラバス等の明確化・公開により,教育の本質を可視化することで,大学等の選択に必要な情報を入学希望者等に提供するとともに,合理的配慮の提供において変更可能な点と変更できない点を明確にする。特に,シラバスに授業の目標,内容,評価方法を明記することは,授業選択の手掛かりとなるばかりでなく,障害のある学生が大学等からの支援が必要かどうかを事前に検討する上でも重要な情報となる。
    2 授業においては,講義,演習等その形態を問わず,障害のある学生が障害のない学生と平等に参加できるようにアクセシビリティを確保することが重要である。その際の手段として,例えば,言葉の聞き取りや理解・発声・発語等に困難を示す学生のために,必要な情報保障を行う,コミュニケーション上の支援を行うなどがあげられる。
    3 教科書・教材,学術論文等研究活動に必要な資料は,障害のある学生が利用することを考慮してアクセシビリティを確保することが重要である。また,教員が作成する配布資料等も,障害のある学生が必要な準備をできるよう,アクセシビリティを確保し,事前に提供することが望ましい。これらのための手段として,点字や音声変換が可能なテキストデータで提供することがあげられる。
    4 授業において,何らかの参加要件を設定する場合は,障害を理由に参加を妨げることがないような要件にすること,また,当該授業の受講に必要な能力要件や習得が求められる知識・技術等がある場合には,その具体的な内容を公開することなどが重要である。
   5 学外実習や留学,海外研修等,学外の複数の機関が関与する場合には,支援の主体が不明確になりがちである。この際,受入れ機関においても一定の支援が必要になる(国内の機関であれば障害者差別解消法による合理的配慮の提供義務等が発生)と考えられるが,この調整が困難になる場合もあることが予想される。そのため,大学等は障害のある学生が不利のない環境で実習等を行うことができるよう十分な事前準備を行う必要がある。その際,学外実習であれば受入れ機関の利用者の権利利益を損なわないよう留意しつつ,実習等の目的・内容・機能の本質を満たす支援の在り方を検討するため,大学等はこれらの機関と密接に情報交換を行うことが重要である。
    6 入試(※17)や単位認定等のための試験においては,障害のある学生の能力・適性,学修の成果等を適切に評価することを前提としつつ,障害の特性に応じて,試験時間の延長や別室受験,支援技術の利用等による情報保障,解答方法の変更等を行う。その際,支援の在り方について事前に検討できるよう,試験の形式や,評価基準について,シラバス等に明記する。
    7 レポートや発表等,試験以外の課題においても,その目的や評価基準を明確に示すことが望ましい。また,目的を損なわないようにしながら,障害のある学生の学修成果を適切に評価できるよう,提出や発表の形式については柔軟に変更できるようにする。
    8 成績評価においては,教育目標や公平性を損なうような評価基準の変更や,合格基準を下げることなどは行わないよう留意する。
    9 障害により教育課程の履修に時間を要すると考えられる場合は,当該学生と相談の上,その状況に応じた履修計画を策定するように努める。この際,障害のある学生の負担軽減の観点から,長期履修制度の活用も検討することが望ましい。

(2)初等中等教育段階から大学等への移行(進学)

     高等学校や特別支援学校高等部等(以下,「高校等」という。)に在籍する障害のある生徒が大学等への進学を希望するに当たって,これらの学校で提供されてきた支援内容・方法を大学等へ円滑に引き継げるように留意するとともに,これらの学校に対して大学等から支援体制や制度,取組について情報発信を強化していくことが重要である。このため,大学等は,以下の点に留意して関連の取組を進めることが必要である。
    1 高校等が作成している個別の教育支援計画等の支援情報に関する資料(※18)等を活用し,教育支援内容の効率的な引継ぎを図る。
    2 支援の連続性の観点から,個別の支援情報を外部の機関と共有することが求められる場合が多いが,これらの共有・引継ぎに当たっては,障害のある生徒・学生本人の意向を最大限尊重するとともに,個人情報保護の観点からも,本人(必要に応じて保護者も)の同意を得た上で行う。
    3 障害のある入学希望者等からの問合せを受け付ける相談窓口等を整備するとともに,これらの相談窓口や,入試時・入学後に受けられる支援内容について,オープンキャンパスや入学説明会等の機会を利用し,生徒や保護者,高校等の教職員に幅広く発信するよう努める。
    4 必要な支援を適切に提供することによって,能力を発揮することが可能となったケース,目標を達成したモデルケースについて,障害のある学生本人の同意を得た上で大学等が積極的に発信する。それにより,障害のある生徒の大学等進学への意欲を喚起するとともに,高校等における進路指導での活用につながると考えられる。
    5 入学後の環境の変化や,障害の状態の変化,自己選択・決定,コミュニケーション等の機会の増加により,高校等在籍時に比べ教育活動や生活上の困難・不適応が顕著になるケースもある。そのため,高校等在籍時の支援状況いかんに関わらず,支援の在り方については大学等入学後にも検討する。

(3)大学等から就労への移行(就職)

     障害のある学生の就職においては,一般的な採用方式と障害者雇用促進に関する諸制度に基づく採用方式があること,卒業後の就労支援機関や就労系障害福祉サービスの利用も視野に入れる必要があることなど,一般の学生に比べて就職活動が複雑になる。これに加え,モデルケースを周辺に見つけづらい状況に置かれていることにより,就職後のイメージを確立しながら,自分に合った就職活動を円滑に行うことが難しい。また,学内において担当教員,障害学生支援室,就職課等の関係者が多岐にわたることに加えて,学外の支援機関や受入れ企業との連携が必要になる場合もある。このため,大学等においては,対話の中で障害のある学生の意向をつかみながら,早い段階から多様な職業観に関する情報や機会の提供を行うとともに,以下のような就職支援のための取組や関係機関間でのネットワークづくりを促進することが重要である。
    1 職業観の涵養(かんよう)や自らの障害特性,適性の理解,対処法の習得,権利擁護の知識と理解に資するプログラムの提供,障害に配慮したインターンシップやアルバイトを行うための支援。
    2 障害のある学生には,一般の学生と異なる多様な就業・就労形態があることや,一般的な採用方式で雇用された場合においても,雇用主に合理的配慮等を求めることができる(※19)ことなどを伝える。また,大学等在籍時から相談できる地域の関係機関や,障害者雇用促進に関する諸制度,それらの活用方法についての情報提供を行う。
    3 これらの支援や情報提供を行うことは,障害のある学生への支援担当部署,あるいは単独の大学等のみでは困難であると考えられることから,以下のような関係部署・機関間の連携を強化する。
     1 学内における,修学支援担当部署と就職支援担当部署,障害のある学生への支援を行う部署等との間の連携。
     2 学外における,ハローワークや地域の労働・福祉機関等就職・定着支援を行う機関,インターンの実施等を含む就職先となる企業・団体との連携。
     3 障害のある学生の就職のノウハウの共有のため,大学等におけるガイダンスや説明会,出張相談を共同で実施するなどの大学等の間での連携。
    4 高校や大学等が作成・引き継いでいる個別の教育支援計画等の支援情報に関する資料等を活用し,支援内容の効率的な引継ぎを図る(6.(2)1参照)。
    5 支援の連続性の観点から,個別の支援情報を外部の機関と共有することが求められる場合が多いが,これらの共有・引継ぎに当たっては,障害のある学生本人の意向を最大限尊重するとともに,個人情報保護の観点からも,本人の同意を得た上で行う。

(4)大学間連携を含む関係機関との連携

    1 地域単位・課題単位での多層的なノウハウ,人的・物的資源の柔軟な共有(他大学等への支援者や支援補助学生の派遣,ICTの活用を含むアクセシビリティに配慮した教材やデータ,講義の映像の蓄積・共有,これらの教材等の利用方法の研修,一般教養科目における単位互換の活用等),支援担当者間の情報交換を行うネットワークの構築等,支援の量的・質的拡大に資する活動の促進が望まれる。
    2 障害のある学生から生活面への配慮(通学,学内介助(食事,トイレ等),寮生活等)を要する相談がある場合には,必要に応じて地域の福祉行政・事業者等と連携し,公的サービス・業務委託・ボランティア派遣を含めた幅広い支援の提供について検討することが望まれる。


(5)障害のある学生への支援を行う人材の養成・配置
     組織的な支援を適切に行うためには,支援全体の調整を図るコーディネーターや,個別の場面において支援を行うカウンセラー,手話通訳者,アクセシビリティの確保に精通した技術者等の専門知識や技術を有する障害のある学生への支援を行う人材(以下,「支援人材」という。)の養成・配置が不可欠である。これらの支援人材は,障害のある学生の権利主張,意思決定,支援要請の相談に乗ることができる最も身近な存在である。同時に,障害のある学生との対話を通じてニーズを確認し,学内外の様々な関係者と部署や職種を越えて連携し,支援を実質的に進めていく役割を担う。これらの支援人材の養成・確保について重要な点を以下に示す。
    1 大学等において支援人材の組織的な位置づけや専門職としての立場を明確にする。
    2 支援人材の更なる専門性の向上やキャリアパスの構築を推進する。特に,継続的な関わりが重要となる障害のある学生への支援の性質に鑑み,支援人材が長期的に支援を担うための身分的位置づけを確保する。
    3 支援人材が業務を円滑に遂行できるよう,サポート体制の整備や相談できる仕組みを構築する。
    4 支援人材の養成・研修等と,そのためのノウハウの蓄積・共有を推進する。なお,これらのことについては,支援補助学生にも同様の措置を進めることが有効である。

(6)研修・理解促進
    1 障害のある学生への支援を進めるに当たっては,全ての関係者の障害者差別の解消に向けた意識の向上(※20)が重要である。障害のある学生へのハラスメントは,障害や関連の制度への理解不足から生じるということの意識の徹底,そのための研修や理解促進のための取組が必要である。なお,これらの研修等は機構,大学等,関連の学協会等が実施しているものも活用し,多くの教職員に受講の機会を積極的に提供することが重要である。
    2 また,支援補助学生への研修や,障害のない学生を含めた学生全体の障害への理解促進のための取組を実施することが望ましい。

(7)情報公開
    1 学内規程や相談窓口の整備にとどまらず,大学等全体としての支援に関する姿勢・方針や取組を積極的に公開する。
    2 これらのことを含む大学等に関するあらゆる情報の発信においては,全ての人がアクセス可能な形で提供することが重要である。

7.社会で活躍する障害学生支援センター(仮称)の形成

   我が国の大学等における障害のある学生への支援は,現場における個別の対応によるところが大きく,これらの積み重ねにより手法やノウハウが蓄積されてきた。一方,平成18年の障害者権利条約の国連における採択以降,我が国における国内法令の整備が進んだこともあり,大学等関係者の間で障害のある学生への支援に関する意識が高まってきている。そのような中,これらの関係者間では,各大学等の現場に個別に蓄積されてきた知見や経験を共有するためのネットワークが形成され,共通の課題も浮き彫りになってきた。
   これらの課題は,6.に主要なものをまとめたが,いずれもその達成には多くの関係者の共通理解と努力が不可欠であり,また,そのための手法に関する調査・研究・開発・蓄積が必要と考えられる。このため,これまでの取組を格段に飛躍させる大学等組織間,関係者間の協力により,障害のある学生への支援の手法の開発・調査やルールの検討等が行われるとともに,成果の現場への普及・共有化が図られる必要がある。このためには,現状を正しく認識し,問題を共有するネットワークの構築と,課題を適切に設定し解決していくための組織的アプローチが必要である。この取組は,状況の変化を踏まえながら不断の見直しを行いつつ,永続的に行っていくべきものであり,まずは,このためのプラットフォーム(組織的アプローチの土台)を形成することが必要である。このため,「社会で活躍する障害学生支援センター(仮称)」(以下,「センター」という。)の形成を以下のとおり提案する。
(1)センター形成の趣旨
     我が国において,将来にわたり障害のある学生への支援を支えていくプラットフォームとしてセンターを形成し,今後3年間を目途に将来的な活動の基礎固めを行う。
     センターにおいては,関係者のコミュニティを形成するとともに,関係機関間のネットワークを構築する。また,障害のある学生への支援における課題の設定と解決に向けた調査や研究開発を先導し,関係する機関や研究者の糾合を図りつつこれを推進する。さらに,得られた知見等の成果を集約し,研修会等を通して全国の大学等に普及・展開を行う。

(2)センターの体制イメージ
     センターは,活動を推進する中核となる幹事校と複数の連携校(大学等),連携機関(福祉や労働行政機関,障害当事者団体,企業等)から構成される。
     センターの運営は,幹事校及び連携校の代表者,連携機関代表者,文部科学省担当者からなる運営委員会を中心に行う。また,運営が適切に行われているかについて,評価する仕組みも導入する。

(3)センターにおける取組例 
     センターで実施される取組例として,以下のようなものが考えられる。
    1 大学等(在籍する障害のある学生等を含む)からの相談(支援体制の整備,合理的配慮の妥当性判断・内容のモニタリング,必要な根拠資料についてなど)に対しての専門的な助言の実施。
    2 専門的な知見・技術を有する支援人材の養成・派遣。
    3 支援補助学生の養成・組織化の促進,研修の実施,他大学への派遣。
    4 点字やテキストデータ,字幕等の各種メディア変換教材等の作成・共有。
    5 障害のある学生を主な対象にしたインターンシッププログラムの開発・実施。
    6 様々な分野で活躍する障害者を講師としたキャリア教育講座の開発・実施。
    7 個別の支援情報に関する資料を活用した進学・就職の際の移行支援(6.(1)2参照)。
    8 これらの大学等からの相談対応を踏まえた支援の手法や,人材や教材等の共有,障害のある学生のためのプログラム・講座の開発・実施等をとおして蓄積されたノウハウを基にした,障害のある学生の支援スタンダード(※21)の構築。

8.おわりに

 少子・高齢化や社会・経済状況の変化,あるいはグローバル化の急速な進展等に伴い,大学等が置かれている環境は大きく変化している,そのような中で,様々な考え方の学生や,様々な人種,国籍・宗教を持つ外国人留学生,学び直しのための様々な年齢層の学生等,これまでになく多様な学生が大学等に在籍するようになってきている。そして,障害のある学生もこの多様な学生の一つの形として位置づけられる。
  大学等は,これら多様な学生一人一人の特性や希望,状況を踏まえたきめ細やかな学生支援に日々取り組んでおり,障害のある学生に対しても,学生一人一人の障害特性に応じた対応によりその修学を支援するべく努力している。
  本まとめは,大学等における全ての教職員が,障害のある学生への支援に関する理解を深め,より適切で効率的な支援を行えるようになることを目的に,取り組むべき事項や考え方について参照できるよう取りまとめたものである。本まとめでは基本的な考え方を示すとともに,できるだけ取組の具体例を示すことに努めたが,全ての課題に対応できているとはいいにくい。大学等の現場においては,本まとめを参考に取組を推進していただくとともに,一層の創意・工夫を図っていただきたい。また,本まとめに記載した対応は,全ての大学等において直ちに実施できることばかりではない。しかし,そうだとしても,一つ一つの大学等が,目指すべき姿に向けて少しずつ努力と工夫を積み重ねていくことが重要であり,これにより我が国における障害のある学生への支援は大きく進んでいくことであろう。
  なお,障害のある留学生(※22)への支援や障害のある学生への支援に積極的な大学等の評価,障害のある学生がいることを前提にした災害対策,障害のある教職員(※23)への支援の在り方(※24)等,今回の検討会で議論できなかった課題もある。これらについては,今後の議論が望まれる。
  国においても,大学等の取組を推進するため,社会で活躍する障害学生支援センター(仮称)の形成を始めとする大学等への財政支援や,本まとめを踏まえた「障害者基本計画(第3次)」(※25)の実施状況の監視並びに「障害者基本計画(第4次)」の策定への対応,障害のある学生への支援を一体的に行うための行政機関間の連携強化を進める必要がある。
 今後,全ての大学等において障害のある学生への支援の取組を更に充実させていくことにより,障害のある学生への支援が大学等における基本的役割として定着し,当たり前に推進しなくはいけないものとして社会に浸透していくことを期待する。
 今後,全ての大学等において障害のある学生への支援の取組を更に充実させていくことにより,障害のある学生への支援が大学等における基本的役割として定着し,当たり前に推進しなくはいけないものとして社会に浸透していくことを期待する。


    (※1)参考資料3に関連する法律等についてのHPの情報を記載。
   (※2)大学院を含む。
   (※3)通信教育課程を含む。
   (※4)開催要領や委員名簿は参考資料1を参照。
   (※5)開催状況は参考資料2を参照。
   (※6)別に注記のない限り、本文及び別紙のデータは独立行政法人日本学生支援機構が平成17年度から実施する「障害のある学生の修学支援に関する実態調査」から引用。同調査は毎年5月1日を基準とし、国公私立の大学及び短期大学、高等専門学校、約1,200校を対象とした悉皆調査。回答率は平成19年度調査以降、100%となっている。
   (※7)身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳及び療育手帳を有している学生又は健康診断等において障害があることが明らかになった学生。
   (※8)大学等に支援の申し出があり、それに対して大学等が何らかの支援を行なっている(当該年度内の支援予定を含む)障害のある学生。
   (※9)特別支援学校高等部卒業者は、学校教育法第90条第1項に規定する「大学に入学することのできる者」のうち、「通常の課程による十二年の学校教育を修了した者」に該当し、大学入学資格を有する。
   (※10)U.S. Department of Education, National Center for Education Statistics. (2016). Digest of Education Statistics, 2014 (2016-006), Chapter 3.
   (※11)Higher Education Statistics Agency, 2016
   (※12)FD(Faculty Development):大学の教育の内容及び方法の改善を図るための教員の組織的な研修等
        SD(Staff Development):管理運営や教育・研究支援までを含めた、教職員の資質向上のための組織的な取組
    (※13)国立大学法人運営費交付金の特別経費による。
   (※14)これらはあくまでも実際に行われた特色ある事例であり、今後の取組を検討する際の参考資料として提供するもの。実際の取組の実施に当たっては、各大学等と障害のある学生、個々の状況に応じた対応が必要である。また、個人情報等に配慮して、記載内容は一般化している。
   (※15)基本方針に、国の行政機関(主務大臣)における相談窓口を対応指針に記載することとなっており、これを受けて文部科学省対応指針に、文部科学省の高等教育分野における相談窓口を記載。なお、障害者差別解消法第12条の規定により、文部科学大臣は、特に必要があると認められるときは、関係事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができることとされている。
   (※16)障害者差別解消法第17条第1項の規定により、国及び地方公共団体の機関であって、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野の事務に従事するものは、障害者に対する支援が効果的かつ円滑に実施されるよう、関係機関により構成される障害者差別解消支援地域協議会を組織することができることとされている。
    (※17)独立行政法人大学入試センターにおいては、第一次まとめ等を踏まえ、障害のある受験生のための取組を進めている。具体例として、平成25年度大学入試センター試験から受験上の配慮に係る申請期間の前倒しを行うとともに、一般の問題冊子(10ポイント)と比べて文字を拡大して配付していた14ポイントの問題冊子に加え、平成28年度試験からは新たに22ポイントの問題冊子を作成・準備するなどを行なった。
   (※18)教育再生実行会議「すべての子供たちの能力を伸ばし可能性を開花させる教育へ(第九次提言)」に当該資料の作成・活用について記載。
   (※19)雇用主は平成28年4月に施行された「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」(改正障害者雇用促進法)等に基づく対応が必要。
   (※20)障害者差別の解消に向けた意識の向上のため、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を前に、政府において「ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議」を開催。当該会議「ユニバーサルデザイン2020行動計画」において「心のバリアフリー」とは、様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うことであり、一人一人が具体的な行動を起こし継続することが必要であるとし、そのためには「障害の社会モデル」の理解等がポイントであるとされた。
    (※21)障害のある学生への支援を実践するに当たっての関連法の解釈や考え方、留意事項、有効な体制整備や取組等を一定程度網羅的に標準化してまとめたものを想定。具体的な在り方は、センターの実施に合わせて検討予定。
   (※22)障害及び社会的障壁によるものに加えて、日本と出身国との言葉や法、生活・宗教上の習慣の違い等による困難があるため、これらも考慮した対応・取組が必要。
   (※23)外国から招聘した障害のある研究者等も含む。
   (※24)関連法については脚注19参照。本検討会は障害のある学生が検討対象であるため、障害のある教職員についての議論は行なっていない。
   (※25)障害者基本法に基づき、障害者施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、国が定める基本計画。現在、平成25年度から平成29年度までの概ね5年間に講ずべき障害者施策の基本的方向について定めた第3次計画が策定されている。


お問合せ先

高等教育局学生・留学生課

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