資料2 第二次まとめ(原案)

第二次まとめ(原案)


1.はじめに
本年1月、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下、「障害者差別解消法」という。)が施行された。これにより、障害者への不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供が、法的に義務ないし努力義務とされ、大学・短期大学・高等専門学校(以下、「大学等」という。)においても一定の取組みが求められることとなった。
このような動きは、平成18年、国連総会で「障害者の権利に関する条約」が採択されたことに端を発する。我が国は、平成19年に同条約に署名し、平成23年の「障害者基本法」の改正や平成25年の障害者差別解消法の策定等、関連の国内法の整備を進めてきた。また、文部科学省においては、平成24年に「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」を開催し、障害のある学生(以下、「障害学生」という。)に対する修学支援のあり方と具体的な方策について検討を行い、「第一次まとめ」として取りまとめた他、障害者差別解消法の施行に備え、平成27年には「文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」(対応指針)の策定等を行ってきた。

一方、障害学生の在籍者数は急激に増加している。多くの大学等の現場においては、求められる修学支援を行うための知見や経験、施設・設備、人員が圧倒的に不足しており、混乱が拡がっている。合理的配慮の内容はどのように決定するのか、どの程度まで行う必要があるのか、内容について不服申し立てがあった場合の対応はどうするのか等、実際の現場においては判断に窮する場面が多々生じている。

基本的には、合理的配慮を含む障害学生への支援は個別の対応が必要である。しかし、そこには基礎となる一定の考え方が必要であり、我々はこれを共有していくことが重要である。この考えは、大学等においては学長や校長(以下、「学長等」という。)等の経営トップを含む教職員全員が理解することが不可欠であり、また、障害のない学生や保護者、自治体等関係機関の理解も得ていく必要がある。そして、このような共有する基礎理解の上で、実際にどのような手立てを講じていくのかが問われている。

本検討会は、以上のような状況に鑑み、共有すべき基本的な考え方と具体的な対応について検討すると共に、大学等の現場において適切な修学支援が行われるために必要な事項について検討すべく、本年4月より開催してきた。検討に当たっては、大学や企業、行政機関からのヒアリングを行うと共に、「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年6月2日閣議決定)や教育再生実行会議「すべての子供たちの能力を伸ばし可能性を開花させる教育へ(第九次提言)」(平成28年5月20日)の趣旨を踏まえ、在学中のみならず、進学時や就労時の支援まで視野に入れた。そして、計●回にわたる検討の結果をまとめたのが、この「第二次まとめ」である。
本まとめは、学長等をはじめとする大学等における全ての教職員が障害学生支援に関する理解を深め、適切な支援を行なうために取り組むべき事項や考え方について参照できるよう、出来る限り具体的かつ体系的に記述するよう努めた。また、障害学生本人及びその関係者(保護者、介助者等)、支援を行なう学生(以下、「支援学生」という。)、障害のない学生、特別支援学校や高等学校等の初等中等教育機関、ハローワーク等の就職支援機関、企業関係者、民間の障害学生支援団体等が参照することも想定した。
この第二次まとめにより、これらの全ての関係者における共通理解と連携が強化され、大学等を始めとする我が国の関係機関における障害学生の修学支援のための取組みが飛躍的に推進されることを強く期待する。


2.大学等における障害学生の現状
(1) 障害学生数・支援障害学生数
独立行政法人日本学生支援機構の調査によれば、平成27年5月1日現在、21,721人の障害学生が在籍しており、これは全学生の0.68%に当たる。平成22年の調査では8,810人、平成17年の調査では5,444人であり、この10年で障害学生数は約4倍と急増している。また、障害学生在籍学校数は880校であり、全学校の74.5%となっている。
特に増加が著しいのは、病弱・虚弱、発達障害、精神障害であり、その要因としては、実際にこれらの障害のある学生が増えていることもあると思われるが、障害についての知見が広まり、大学等における障害学生の把握が進んだことが大きいと推察される。
以下に主な支援の実施状況等について示すが、これらについては別紙●にも詳細を記載する。

(2) 支援の実施状況
1 授業支援
2 授業以外の支援
3 発達障害のある学生への支援

(3) 障害のある生徒の受入に関する配慮及び入学者数

(4) 障害学生の卒業後の進路

(5) 特別支援学校、高等学校からの進学状況

(6) 諸外国の状況


3.第一次まとめで取り組むべきとされた事項の進捗状況
(1) 短期的課題
1 情報公開の状況
2 窓口の設置
3 体制の整備(委員会、支援部署、施設・設備等)
4 拠点校及び大学間ネットワークの形成

(2) 中長期的課題
1 大学入試の改善
2 高等学校及び特別支援学校と大学等との接続の円滑化
3 通学上の困難の改善
4 教材の確保
5 通信教育の活用
6 就職支援
7 専門的人材の要請
8 調査研究、情報提供、研修等の充実
9 財政支援


4.本検討会における検討の対象範囲
第一次まとめの記載事項との継続性を考慮し、基本的にはその対象範囲を踏襲するが、これに加え、第一次まとめでは十分に議論できなかった「教育とは直接に関与しない学生の活動や生活面への配慮」についても検討の対象とした。また、大学等において参考になると考えられる進んだ取組みや支援・配慮事例(例:通学や学内介助(食事、トイレ等)に関するもの)をまとめることとした。以上を踏まえ、検討の対象範囲は以下とした。

(検討対象とする「学生」の範囲)
我が国における、大学等に入学を希望する者及び在籍する学生とし、学生には、科目等履修生・聴講生等、研究生、留学生及び交流校からの交流に基づいて学ぶ学生等も含む(第一次まとめと同じ取扱い)

(検討対象とする「障害のある学生」の範囲)
障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある学生(第一次まとめと同じ取扱い)

(検討対象とする学生の活動の範囲)
入学、学級編成、転学、除籍、復学、卒業に加え、授業、課外授業、学校行事への参加等、教育に関する全ての事項
上記とは直接に関係しない学生の活動や生活面への配慮(通学、学内介助(食事、トイレ等)等)に関する事項

(その他)
学生に関係する保護者や、介助者(支援学生を含む)等への配慮に関する事項

なお、障害者差別解消法等において、大学等に不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮等の提供が求められている障害者の範囲は、例えば、障害学生以外の、大学等が主催するシンポジウムや学会への参加者、附属学校に在籍する児童生徒、病院等の附属施設への訪問者等も含まれ、本検討会の対象範囲よりも広くなっている。このため、実際には本まとめの内容よりも広い範囲での対応が求められることに十分留意することが必要である。


5.障害者差別解消法を踏まえた「不当な差別的扱い」や「合理的配慮」に関する考え方
(1) 基本的な考え方
まず、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供は、大学等において、組織として当然に行わなければならないことと位置づけられていることを強く認識することが必要である。したがって、これらのことはコンプライアンスの観点からも非常に重要であり、対外的な説明も求められるものである。このため、関連の取組みを進めるにあたって、学長等のイニシアティブの発揮と特定の教職員任せにならない組織としての取組みが強く求められる。
その上で、「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮」の基本的な考え方を以下に示す。
1 不当な差別的取扱い
正当な理由なく、障害を理由として各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害のない学生に対しては付さない条件を付すこと。
正当な理由に相当するか否かについては、個別の事案ごとに、障害学生、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、教育の目的・内容・評価の維持、損害発生の防止等)の観点から、判断することが必要である。抽象的に事故の危惧がある、危険が想定されるなどの一般的・抽象的な理由に基づいての対応は適当ではない。
これらの不当な差別的取扱いは、入学前の相談から、入試、授業・ゼミ・研究室の選択、試験、評価、単位認定、実習・留学・インターンシップ・課外活動への参加等まで、大学等が関係するあらゆる場面で発生しうるという認識が不可欠である。
2 合理的配慮
第一次まとめにおいては、「大学等における合理的配慮とは、「障害のある者が、他の者と平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、大学等が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある学生に対し、その状況に応じて、大学等において教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、かつ「大学等に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」とした。
また、障害者差別解消法においては、障害者が受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁(社会的障壁)と相対することによって生ずるものという、いわゆる「社会モデル」の考え方を取り入れており、この社会的障壁を除去するために合理的配慮が行われるとしている。
大学等においては、これらの考え方を理解し、障害学生への合理的配慮の提供のための取組みを進めることが不可欠である。

(2) 大学等における実施体制
不当な差別的取扱いを防ぎ、必要な合理的配慮をできる限り円滑かつ迅速・適切に決定・提供するためには、それぞれの大学等の状況を踏まえた体制整備が不可欠である。これらの体制整備に必要な観点や定めておくべき手順を以下に示す。なお、これらの整備に当たっては、それぞれの大学等の規模や特色、取組みの状況を踏まえると共に、単独の大学等での整備が困難な場合は、複数の大学等による資源の共有を図るなどの工夫が重要である。

1 事前的改善措置
不特定多数の障害者のニーズを念頭に、予め、施設・設備のバリアフリーや、以下の学内規程、組織等を含むハード面・ソフト面での環境の整備を行なうことは、障害学生の心理的負担を軽減すると共に、合理的配慮等、個別の障害者のニーズに対応する機会や負担の軽減に資するものであり、また、必要なコストの削減・効率化にもつながる可能性があることから極めて有効である。
2 学内規程
国立の大学や高等専門学校においては、障害者差別解消法に基づき、平成27年度までに国等職員対応要領が策定・公表されているが、公私立大学等においても、同様の要領の作成・公表が望まれる。また、これらの職員対応要領は所属の職員が遵守すべき服務規律の一環として定められるものであるが、これに限らず、障害学生の受入れ姿勢・方針を始めとする障害学生支援に関する様々なルールの作成・公表が望まれる。
3 組織
障害学生支援に関して整備すべき主な組織を以下に記載する。
【1】 委員会
大学等における障害学生支援に関する意思決定を行なう機関。
【2】 障害学生支援室等の専門部署・相談窓口
支援の申し出や問合せに一元的に対応する部署・窓口。これらの部署が学内の専門部署や障害学生の所属部局・担当教員と連携して支援を行なう。
【3】 専任の教職員
障害学生支援を主な職務とする専門性のある教職員やコーディネーター、カウンセラー、手話通訳等の専門技術を有する支援者等。
【4】 第三者組織
障害学生と大学等の間で提供する支援の内容の決定が困難な場合に、第三者的視点に立ち調整を行なう組織。類似の組織としてはハラスメント防止委員会 等が挙げられる。

(3) 合理的配慮の内容の決定の手順
合理的配慮の内容の決定についての主な手順を以下に記載する。これらの手順は一方向のものではなく、障害の状況の変化や学年進行、不断の建設的対話・モニタリングの内容を踏まえて、その都度繰り返されるものである。
1 障害学生からの申出
【1】 原則として、障害学生から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、大
学等は社会的障壁の除去の実施についての合理的配慮を行なう。
【2】 障害学生からの申出がない場合においても、当該学生が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には、法の趣旨に鑑み、当該学生に対して適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働きかけることや、日頃から学生個々の(障害)特性やニーズに応じた適切な配慮を自主的に行なうことが望ましい。
【3】 原則として、学生から障害に関する根拠資料の提出があることが必要である。ただし、障害の内容によっては、これらの資料の提出が困難な場合があることに留意し、必要に応じて以下の建設的対話を行なうことが望ましい。
2 障害学生と大学等による建設的対話
障害学生と大学等(担当教員、障害学生支援室)による建設対話を行ない、合理的配慮の内容を決定する。建設的対話は必要に応じて保護者等も交えて行う。
3 内容の決定の際の留意事項
申し出の内容が教育に関わるものの場合、教育の目的・内容・評価の本質部分の確認が必要であり、これらの本質を変えず、また、過重な負担にならない範囲において、教育の提供の方法を変更する。
4 決定された内容のモニタリング
合理的配慮の内容の妥当性や、その後の状況を把握するために、モニタリングを行ない、必要がある場合には内容の調整を行う。
5 決定された内容に不服がある場合の第三者組織での調整
決定された内容やその過程に不服がある場合、第三者的視点に立つ組織が調整を行う。

(4) 研修・理解促進
1 障害学生支援を進めるにあたり、最も重要なのは、全ての関係者の「心のバリアフリー」の推進である。障害学生へのハラスメントは障害や関連の制度への理解不足から生じるということの意識の徹底が不可欠であり、そのための研修や理解促進のための取組みが必要である。なお、これらの研修等は日本学生支援機構や様々な大学等が実施しているため、学内のものに留まらず、外部の研修等の機会を積極的に活用すること。
2 合理的配慮の提供を含む正当な権利を障害学生自ら主張ができるようにするための障害学生への関連の情報提供や機会の提供を行なうこと。
3 また、支援学生への研修や、障害のない学生を含めた学生全体の障害への理解促進のための取組みを実施すること。

(5) 情報公開
1 学内規程や相談窓口の整備に留まらず、個人情報に配慮した範囲内で、支援に関する大学の考え方や取組みを積極的に公開することが望ましい。
2 情報公開に当たっては、アクセシビリティに配慮することが重要である。


6.支援を進めるに当たっての主要課題と取り組むべき観点
(1) 教育方法
1 3つの方針(アドミッションポリシー、カリキュラムポリシー、ディプロマポリシー)やシラバス等の明確化・公開による、教育(の目標・内容・評価)の本質の可視化。
2 ICTの活用を含むアクセシビリティに配慮した教材の開発・使用の共有化、利用方法の共同研修。
3 障害があることをもって参加を妨げるようなことがないようにするため、実習や留学、インターンシップ等における教育目標を踏まえた適正な能力要件の設定。
4 アクセシビリティに配慮されたデータや講義の映像の共有、一般教養科目における単位互換の活用。

(2) 初等中等教育段階から大学等への移行(進学)
1 個別の支援情報に関する資料等を活用した特別支援学校高等部や高校等からの教育支援内容の引継ぎの円滑化。
2 特別支援学校高等部、高等学校等の生徒、教職員、保護者等への発信強化。
【1】 入試時や入学後に受けられる支援内容、相談窓口等の情報について、予め幅広に公開しておくことに加え、入学後の支援を円滑にするため、問い合わせがあった際の受験前、入学前における丁寧な相談対応が重要。
【2】 入学後には、自己選択・決定、コミュニケーション等の機会が増加し、障害による困難・不適応が顕在化する可能性があることへの対応が必要。

(3) 大学等から就労への移行(就職)
1 以下のような関係部署・機関間の連携強化が必要。
【1】 学内における修学支援と就職支援を担当する部署間の連携。
【2】 個別の支援情報に関する資料等を活用した大学等と企業の連携。
【3】 ハローワークと連携した就職・定着支援の強化、大学等におけるガイダンスや説明会、出張相談等の共同実施等、大学等と地域の様々な労働行政機関との連携。
2 職業観の涵養や自らの障害特性、適性の理解に資するインターンシップやアルバイトを行なうための支援、キャリア教育の実施。

(4) 大学間連携を含む関係機関との連携
1 地域単位・課題単位での多層的なノウハウ、人的・物的資源の柔軟な共有。
2 地域の福祉行政・事業者等との連携による通学や学内介助等の生活面への配慮。
3 「心のバリアフリー」促進のための大学等の垣根を越えた障害学生、支援学生、障害のない学生の交流推進。

(5) 障害学生支援人材の育成・配置
1 支援人材(コーディネーターやカウンセラー、手話通訳等の専門技術を有するもの等)の育成・配置。
2 担当教職員の専門性の向上や相談窓口としての位置づけの確立、学内外におけるキャリアパスの構築
3 常勤の支援人材が不在であることが多い小規模の大学や高等専門学校における支援の後ろ盾となる専門的人材の確保
4 支援学生の育成・研修等の推進、支援学生の活動をバックアップするための仕組みの充実


7.社会で活躍する障害学生支援センター(仮称)の形成
(1) 国と大学等は、各地域の障害学生支援の中核となる「社会で活躍する障害学生支援センター(仮称)」(以下、「障害学生支援センター」という。)を形成し、大学等、行政機関、障害当事者団体、企業等の連携体制を構築する。

(2) 障害学生支援センターは、大学等におけるノウハウの蓄積・共有や支援人材の養成、上記の主要課題に対応するための調査・研究の取組みを推進する。


8.おわりに
本まとめは、大学等における全ての教職員が障害学生支援に関する理解を深め、適切な支援を行なうために取り組むべき事項や考え方について参照できるよう取りまとめたものである。国においても、大学等の取組みを推進するため、社会で活躍する障害学生支援センター(仮称)の形成を始めとする大学等への財政支援や、障害学生支援に積極的な大学等の評価の在り方についての検討、本まとめを踏まえた「障害者基本計画(第3次)」の実施状況の監視並びにこれから関連の作業が開始される「障害者基本計画(第4次)」の策定への対応を進める必要がある。
(以下、項目のみ)
障害学生支援をとおした大学等の在り方や求められる役割・課題
○ 大学等における多様な学びの推進(障害のある留学生の交流推進(派遣・受入れ)や、障害者の学び直しの促進、知的障害のある学生の受け入れについてなど)
○ 我が国における「障害学生支援スタンダード」を確立し、世界に誇れる豊かな多様性を備えた大学等の姿を示していくことへの期待


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文部科学省高等教育局学生・留学生課