私立大学等の振興に関する検討会議「議論のまとめ」(本文)

平成29年5月15日
私立大学等の振興に関する検討会議

私立大学等の振興に関する検討会議「議論のまとめ」


1.議論のまとめの位置付け

○私立大学(私立大学及び短期大学をいう。以下同じ。)は、独自の建学の精神に基づく個性豊かな教育研究を行う機関として発展し、全大学の約8割を占めるなど、 我が国の学校教育において大きな役割を果たしてきたところであり、今後とも、その振興を図っていくことが求められる。

○一方、私立大学の現状をめぐっては、全学生の約7割を抱える私立大学の教育等の一層の充実の必要性と同時に、18歳人口の減少等による経営困難校の顕在化や一部私立大学における管理運営上の不適切事例など、諸課題が指摘されている。

○このため、これら私立大学に係る諸課題も鑑みつつ、私立大学の振興に関する総合的な検討を行うため、「私立大学等の振興に関する検討会議」(以下「検討会議」という。)を設置し、平成28年4月より約1年間、(1)私立大学の果たすべき役割、(2)私立大学のガバナンスの在り方、(3)私立大学への経営支援、(4)経営困難な状況への対応、(5)私立大学の財政基盤の在り方などをはじめとする私立大学の振興に関して検討を行ってきた。

○本議論のまとめは、これまでの検討会議の議論を整理し、私立大学の振興の方向性と今後の推進方策を明らかにすることを目的として取りまとめたものである。

○我が国の高等教育を支えてきた私立大学が、18歳人口の急激な減少期において、産業構造や経済社会の高度化・変化、グローバル化の進展に対応し、今後ともその役割を果たし続けるためには、国内の18歳人口の規模の拡大を前提としたモデルから、環境の変化に即したモデルへの転換が強く求められる。

○私立大学の多様性・機動性を最大限に活かし、社会的な要請にいち早く対応するとともに、進学率の上昇による高等教育の「ユニバーサル化」の進展の中においても高等教育にふさわしい教育の質を確保し、学生の学びを徹底的にサポートするきめ細かな教育など、私学のダイナミズムを活かした特色ある取組が求められる。
また、こうした取組と併せて、引き続き高等教育へのアクセス機会の確保に大きな役割を果たしていくことも重要である。

○これらの改革のためには、自らの強みが発揮できる分野に選択と集中を進め、大学間や自治体・産業との連携・協力を強化するとともに、教職協働等の改革を進めるための学内体制を整え、社会から信頼され支援を受けるにふさわしいガバナンスの強化に取り組むなど、より強固な経営基盤に支えられた大学づくりを進めていくことが必要である。
また、それに伴い、国等の支援や制度の在り方も見直していくことが求められる。

○今後、本議論のまとめを踏まえ、それぞれの事項についてより具体的な検討が進められ、我が国の高等教育に欠くことのできない、私立大学の一層の振興が図られることを期待する。


2.私立大学がこれまで果たしてきた役割

○我が国の私立大学は、戦後の高等教育の普及、先端的・独創的な研究の進展、高等教育機関の社会貢献の促進の面でそれぞれ大きな役割を果たし、社会の発展にとって重要な貢献をしてきた。
とりわけ、各大学の建学の精神を生かした独自の校風による教育・研究の実施は、女子教育を含め、多様性に富んだ個性豊かな人材の育成や、多様な知的価値の創造等を通して、我が国のあらゆる面での発展を支えてきている。

○高等教育機会の確保についてみれば、高等教育段階では私立学校に在学する者の割合が約7割を占めており、特に学部教育を中心に我が国の高等教育の発展に大きく寄与するとともに、社会の発展と安定に不可欠な極めて厚い中間層の形成にも寄与しており、高等教育の進学率の上昇により、今後もその役割はますます大きくなっていくと言える

○また、地方に所在する私立大学は、その多くが、地域で活躍する人材の育成の拠点となっているとともに、地域における生涯学習の拠点として、また、地域におけるイノベーションの中心として、地域の知的基盤として様々な役割を果たしてきている。

○とりわけ、私立短期大学は、短期間で学位が取得できる高等教育機関であり、自県内の入学率や就職率が高く、在学者に占める女性の割合が高いといった特徴を持ち、女性の社会進出、地域の発展と教育の機会均等に大きく貢献している。


3.私立大学を取り巻く状況の変化と課題

○近年の社会経済の変化として、高等教育の在り方に大きく関わるものとしては、例えば、以下のものが挙げられる。
・人口の減少(18歳人口、生産年齢人口、地方における人口の急速な減少など)
・大学等への進学率、学生数の変化、経済状況や地域間での進学機会の格差拡大
・経済社会のグローバル化の進展
・産業構造の変化(AI、IoT、ビッグデータ、セキュリティ分野の急速な進展などの影響(第4次産業革命を含む)を含む)
・就業構造の変化(専門性、創造性の高い高付加価値型の職業への需要増、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へのシフト、雇用の流動化など)
・経済的格差の拡大、貧困問題の顕在化
・地方創生の必要性の高まり
・世界的な学術研究の進展

○こうした中で、高等教育においては、知識・技能を学んで修得する能力だけでなく、学んだ知識・技能を実践・応用する力、さらには自ら問題の発見・解決に取り組み、新たなモノやサービスを生み出し社会に新たな価値を創造する力を育成することが不可欠である。

○我が国の18歳人口は平成4年の205万人から急減した後、平成21年から32年頃までは120万人程度でほぼ横ばいで推移する(平成28年は約119万人)が、平成33年頃から再び減少する見込みであり、平成28年の出生数は100万人を下回る98万人となっていることから、平成40年代には18歳人口が100万人を下回る見込みである。

○私立大学の多くはこうした18歳人口の減少の影響を受けており、特にその総数の約半数を占める地方所在の中小規模の私立大学においては、事業活動収支差額(帰属収支差額)がマイナスとなっている割合は4割を超えるなど、とりわけ大きな影響を受けている。

○私立大学の役割、とりわけ地域における高等教育機会の確保等に果たす役割の重要性に鑑みれば、18歳人口の急減期を迎えるに当たり、厳しい環境に備え、各大学の経営力を強化するとともに、教育と研究の質を不断に向上させる取り組みを通じ、学生・保護者はもとより地域・社会の信頼と支援を得ていくことが重要である。


○特に、社会からの信頼と理解を得ていくためには、学校法人の運営についてこれまで以上の適正と透明性を確保するとともに、財務情報を含めた情報公開を一層進め、積極的に私立大学の役割と活動を発信していくことにより、社会に対する説明責任を果たしていく必要がある。

○これら求められる取組は、高等教育への進学率が50%を超え「ユニバーサル化」が進展する一方で、経済社会が急激に変化をする現代において、建学の精神に基づく多様な教育・研究活動を行うことを特徴とする私立大学が直面する大きな課題であると同時に、変化を見据えた改革を成し遂げることで、今後の私立大学の一層の振興ひいては我が国の高等教育のさらなる発展につながる契機にもなり得るものである。


4.今後の私立大学振興の方向性

○私立大学は、国公立大学とともに公教育としての高等教育の重要な一翼を担っており、高い公共性を有し、社会的責任を負っている。
こうした観点から、各私立大学は、未来社会の創造に向けての様々な要請に応えつつ、活力ある多様な人材の育成、基礎から応用にわたる多様な先端的・独創的研究、地域社会から国際社会にわたる未来社会の発展に資する多様な活動等の諸機能の強化に努める中で、例えば、世界的研究・教育拠点の形成や高度専門職業人の養成に力点を置くもの、総合的教養教育や芸術・体育等の専門的分野に軸足を置くもの、地域貢献や国際交流等に力を注ぐものなど、全体として多様な発展を遂げることが期待される。

○今後の私立大学振興については、私立大学の強みである経営のダイナミズムを活かしながら、我が国の知的基盤としての存在感をこれまで以上に発揮し、激しく変動する社会のニーズに的確に対応して教育・研究の質の向上を図るとともに、様々な分野において未来を切り開く取組に果敢に挑戦していくことができるものとする必要がある。

○加えて、高等教育へのアクセスの機会均等を果たす上で、短期大学を含め、私立大学が地域における高等教育機会の確保等に引き続き大きな役割を果たしていくことが重要であるが、同時に、高等教育の「ユニバーサル化」に際しては、大学が行う教育活動の価値や、地域社会や産業への貢献についての社会的な認知も重要となる。

○このため、各大学は、建学の精神に基づく教育によって高等教育にふさわしい教育の成果を示せているのか、経済社会の変化・ニーズ等も踏まえてどのような人材の育成を目指し、どの程度まで身に付けるべき力を備えさせたか、またそうした人材を社会に送り出すことができているか等について、自ら検証し、改善を図るとともに、学生や保護者、地域、企業等のステークホルダーに対して十分に説明できることが重要である。今後、各大学の教育を通じて学生及び社会へもたらす付加価値の明確化のための方策や、PDCAサイクルを含めた質保証を行うための方策について検討を進めることが求められる。
また、国や自治体から様々な税制優遇や助成金を受ける以上、一般企業にもまして、しっかりとした内部管理体制の構築が必要であり、支援を受けるにふさわしい運営の適正と透明性を確保することが求められる。ガバナンスの改革は、改革を進めるための学内体制を整える「攻めのガバナンス」の観点からも重要である。

○さらに、社会人の学び直しや、グローバル化への対応も重要である。
社会人の学び直しについては、産業構造や経済社会の急速な変化に対応した正規の課程における実践的な教育の充実はもとより、履修証明制度のような社会人等の学生以外の者を対象とした一定のまとまりのある学習プログラムの提供が、これまでの公開講座等の社会貢献的な枠組みにとどまらず、18歳人口に依拠してきた私立大学の経営からの質的な転換を考える上で極めて重要な観点となる。
企業内の研修や自治体におけるサービスを大学が提供するなど、大学の強みを生かせる潜在的な社会的ニーズをどのように的確に拾い上げ、マーケティングしていくかも問われることとなる。
また、グローバル化への対応については、各私立大学において、その特色や沿革を基に、海外大学との交流協定の締結や国際バカロレアを活用した入学者選抜など特色ある多様な取組を行っている。
一方、近年の状況をみると、日本人の海外留学者数は平成16年をピークに減少傾向にあり、海外大学と単位互換協定を新規に結ぶ大学数についても伸び悩んでいる状況にある。
このため、例えば、海外からの留学生の受け入れ、国内の学生の送り出し等について、海外大学と連携したICTの利活用による授業の提供や教育プログラムの開発、サテライトオフィス等の海外拠点や海外留学生のための学生寮の整備等、これまで多くの留学生を送り出してきた東アジア諸国において少子化が進む中、これまでの取組からさらに進んだ積極的な取組とそれらに対する支援の充実や制度の改善が求められる。

(1)私立大学のガバナンスの在り方について
○我が国の学校教育の中で重要な位置を占める私立大学が今後とも健全な発展を続けていくためには、その設置主体である学校法人において時代の変化に対応した必要なガバナンスを確保することが必要である。
高い公共性を有する学校の運営主体としての社会的責任を十分に果たすことができるよう、新たな公益法人制度や社会福祉法人制度等、他の法人制度の改革の状況も踏まえ、これらの公益的な法人と同等以上の運営の適正と透明性を確保し、社会から信頼され、支えられるに足りる、これまで以上に公益性を備えた存在であり続ける必要がある。

○また、学校法人は、学生・保護者・教職員はもとより、卒業生や地域・社会などの多様な主体に支えられる存在であることから、幅広く学内外の声に耳を傾けながら責務を全うすることを通じて、高い公益性を追求していく必要がある。
その際には、各法人の様々な成り立ちや沿革の中で各法人の拠って立つところが形成されてきているということに十分に配慮することが求められる。

○学校法人の活動については、寄附行為の認可、解散命令など所轄庁である文部科学省に所要の役割が位置づけられているものの、学校法人の自主性・自律性が最大限に尊重される原則となっており、その点に鑑みても、各学校法人における自律的なガバナンスの確保は重要である。

<学校法人の管理運営制度の改善について>
○平成16年の私立学校法の改正では、理事会の設置等をはじめとして、理事・監事・評議員会の権限・役割分担を明確にすることによって、学校法人における管理運営制度の改善が図られた。
一方で、各学校法人の現状を見ると様々な工夫を行っている学校法人も見られるものの、制度が想定している機能を十分には活用できているとは言えない状況も見られる。

○学校法人制度の根幹である理事会・評議員会・監事制度については、上記を踏まえ、まずは本来期待されているそれぞれの役割が十分に果たされるよう、その機能の活性化を図ることが必要である。
その上で、他法人制度に係る改革の状況や考え方も参考としながら、各機能の強化や情報公開の推進により、透明性あるガバナンスが担保されるよう、主に以下の改善を図っていくことが必要である。

(理事・理事会、評議員・評議員会)
・学校法人全体の運営に、すべての理事が責任を持って参画し、各理事が適切に職務を遂行するため、理事会機能の実質化・実効性を確保することが必要
(理事会における議決事項の明確化、理事会への業務執行者の報告事項の明確化、適時・適切な実効性ある理事会の開催、学内理事及び外部理事の役割の明確化、研修の強化等)

・スピード感を持って改革を進めるため、経営サイドと教学サイドが連携し、経営情報について十分に教職員と共有することが必要

・理事等の経営陣の資質の確保と十分な研修機会の提供が必要

・評議員会は、理事会の意思決定に対してチェックを行うとともに、幅広い意見を総合的に学校運営に反映させる諮問機関として重要な役割を担い、それらの機能は基本的に維持。
その上で、制度に期待される機能が十分に果たされるよう評議員会機能の実質化及びチェック機能を充実する。
また、評議員の適切な人選についても改善を図る。
(評議員に対する十分な情報提供、中長期的計画に対しての意見聴取、計画策定・実施段階における評議員会の積極的な関わり、理事と評議員の兼務に関する引き続きの検討、監事の選任や理事・監事の報酬基準の策定プロセスへの評議員会の関与の深化等)

・理事の善管注意義務や法人・第三者に対する損害賠償責任を明確化する(評議員もその権限に応じて明確化)

(監事)
・理事及び理事会並びに理事長等の業務執行者への牽制機能の実効性を確保する
(監事監査基準・同規則等の作成、重点監査項目等を盛り込んだ具体的な監査計画の作成、充実した監査報告書の作成、重要会議への出席のルール化、監事の業務の支援体制の充実、違法行為差止請求権の付与、職務対象の明確化、職責に応じた適切な報酬の支給や常勤化に向けた検討等)

・監事の善管注意義務や法人・第三者に対する損害賠償責任を明確化する

(会計監査人)
・会計監査人による監査について、学校法人の公益性の向上や、他法人制度においても助成制度ではなく法人制度に立脚して定められている状況等を踏まえて、私立学校振興助成法から私立学校法への根拠の変更(学校法人会計基準についても同旨)


<教学ガバナンスについて>
○私立大学における学長、学部長その他人事については、理事会が最終決定を行うものであり、学長の選考については、平成26年の学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律に係る施行通知において示されているとおり、私立大学においても、建学の精神を踏まえ、求めるべき学長像を具体化し、候補者のビジョンを確認した上で決定することは重要であり、学校法人自らが学長選考方法を再点検し、学校法人の主体的な判断により見直していくことが求められる。

○また、教授会についても、施行通知に示されているとおり、教授会の判断が直ちに大学の判断となり、学長が異なる判断を行う余地が無いような形で権限を委譲することは、学長が(学校教育法で定める教学面に関する)最終的な決定権を有すると規定している法律の趣旨に反するものであり、「権限と責任」が一致する適切なガバナンスを目指す必要がある。

<情報公開の推進について>
○学校法人制度自体に関するガバナンスの強化に加え、法人内のみならず、社会への説明責任を果たし、健全なガバナンスに資するよう、学校法人に関して、分かりやすく開かれた情報の公開を推進する必要がある。
また、国公私共通の仕組みである、教学面を中心とした認証評価制度、学校教育法に基づく情報公開、大学ポートレート等の学校制度に特有の仕組みの活用と合わせて、総合的に学校法人の公益性の確保を図ることが必要である。
その際、在学する学生と保護者、進学を希望する高校段階の関係者に対して、正確で十分な情報の提供を行うとともに、広く一般国民に対しても必要な情報を提供することが、特に教育機関として求められる。

○特に大学を設置する学校法人については、多くの情報が既に自主的に公開されている状況にはあるが、他の公益法人制度のみならず一般企業を含め改革が進められ、公益性を有する法人としての社会に対する説明責任の在り方が大きく変化している状況を踏まえ、学校法人にふさわしい公益性・透明性を確立するため、他法人制度も参考に、財産目録、貸借対照表、収支計算書、事業報告書、監事の監査報告書について、制度上も利害関係人への閲覧開示の対象から広く一般国民への公開の対象とするとともに、公開内容の充実についても検討すべきである。
また、寄附行為、役員名簿、役員報酬基準等についても公開の対象とすることについて検討すべきである。

<大学の自主的なガバナンスの一層の向上に向けて>
○法令の規定によるものだけではなく、上場企業における「コーポレートガバナンス・コード」のように、私学団体や文部科学省等が協力して、私立大学が公共性と公益性を確保し、社会的責任を果たすためのガバナンスの在り方のガイドラインや留意すべき点等を示し、各学校法人における自主的な取組を促進することもきわめて有効であると考えられる。

(2)私立大学の経営力の強化について
○多くの私立大学は、18歳人口の減少の影響を受けつつも、教育・研究の様々な面で強みを有している。
今後の各大学等の経営に当たっては、こうした強みをより伸ばす方向で選択と集中を行い、有望分野への展開を進めるなど、社会の変化に柔軟に対応した取組が必要である。

○文部科学省や日本私立学校振興・共済事業団(以下、「私学事業団」という。)は、学校法人に対する経営相談や法人の運営状況の調査、経営指導を行ってきている。
これらとともに、私学助成における私立大学等経営強化集中支援事業や私立大学等改革総合支援事業を通じ、各大学の経営力強化の取組を促す支援を行ってきたが、今後、以下の点を踏まえた各大学の取組の一層の強化とそれを支える支援の充実が求められる。

<中長期的なビジョンの策定と実現に必要な取組について>
○各私立大学が困難な時代においても安定した経営を行うためには、中長期的な見通しを持った経営が必要であるが、私学事業団の調査によれば中長期計画を策定する法人は、大学法人で約6割、短期大学法人で5割強に留まっている。各法人の強み・弱みを踏まえ、中長期的な学内外の環境の変化の予測に基づく、適切な将来ビジョンの検討・策定が必要である。

○また財政的な裏付けのある中長期的なビジョンの実現のためには、理事長ら一部の経営陣だけではなく、外部理事を含めた経営陣全体や、経営陣を支えるスタッフの経営能力を高めていくことが必要である。
特に小規模の学校法人などでは、事務の人材が不足することがあるが、改革のためには教職協働の観点から職員の人材養成・確保など職員の役割を一層重視することが重要である。
また、経営陣と教職員がビジョンを共有し、教職員からも改革の実現に際して積極的な提案を受けるなど、法人全体の取組となることが求められる。

<大学間連携等の促進について>
○私立大学が、限られた資源の中で強みを生かし・弱みを補いながら、求められる役割を最大限果たしていくためには、大学コンソーシアム等の大学間連携の一層の推進が必要である。
大学教育再生加速プログラムにおける幹事校を中心とした成果の普及・発信の積極的な取組や、大学コンソーシアムの取組など、全国で多様な連携の取組が進んでいるが、大学間連携が単位互換等の緩やかな連携にとどまっている地域も見られる。

○各私立大学の特色化・強みのある分野への資源集中を本格的に促していくため、複数大学が協力した授業や学生の募集、施設設備・調達・事務処理等の共同化や教育研究資源の有効活用のための連携など、支出の効率化を含め、さらに進んだ連携を促進し、効果的・効率的な学校運営を可能としていくことが必要である。

○特に地方の大学において、都道府県等の地元自治体や産業界等と大学がプラットフォームを形成し、地域の高等教育に関する中長期計画の策定や地域政策と連動した産学連携を行うなど、地域と大学が密接に連携する取組を支援し、地域に大学が貢献すると同時に、大学が地域から支援を得るなど、大学を取り巻く各種主体と幅広い連携を進めていくことが重要である。

○また、例えば各法人の成り立ちや独自性を活かし一定の独立性を保ちつつ緩やかに連携し、規模のメリットを活かすことができる経営の幅広い連携・統合の在り方、国公私の設置者の枠を超えた連携・協力の在り方、事業譲渡的な承継方法など、各私立大学の建学の精神の継承に留意しつつ、より多様な連携・統合の方策について検討していく必要がある。

<文部科学省・私学事業団等の支援の充実について>
○私立大学が上記の点を含め、経営強化の取組を進めるためには、まずは各大学自身が、自らの強み・弱みを適切に把握することが重要である。
各大学のこうした分析やそれに基づくビジョンの策定に関して、私学事業団や文部科学省などにおいては、十分なアドバイスを行う体制の充実が求められる。

(3)経営困難な状況への対応について
○18歳人口の大幅な減少期を迎え、前述の経営力の強化に最大限の取組を行うこととした場合においてもなお、経営困難な状況に陥る学校法人が生ずることは避けられないものと考えられる。

○私立大学の自主性・自律性に配慮しつつも、国民が安心して高等教育を受けるためには、学校法人が経営破綻に陥らないよう、経営悪化傾向にある学校法人に対し、経営状況をよりきめ細かく分析した上で、早期の適切な経営判断が行われるよう支援し、状況に応じてさらに踏み込んだ指導・助言を行うことが必要である。

○文部科学省では、私学事業団との緊密な連携により、各学校法人の経営状況を把握し、学校法人運営調査等を実施した上で、経営状況の特に厳しい学校法人に対して個別に継続的な経営指導を行い、経営改善に向けた取組を促している。また、平成27年度より私立大学等経営強化集中支援事業として、経営改善計画の策定を条件に、経営改善に意欲的な地方の中小規模私立大学に対して、集中的支援を実施している。
また、当該事業の採択における評価項目では、学校法人の合併・分離、設置者変更、大学統合等についても加点要素としている。

○また、私学事業団においては、学校法人の理事長・学長等を対象に、経営面・教学面の知識を深め、経営情報や問題意識を共有化し、改革に向けた意欲形成を図る「私学リーダーズセミナー」の開催、学校経営の中核を担う若手職員を対象とした「私学スタッフセミナー」の開催、私学経営に関する専門知識を有する弁護士・公認会計士等の人材を登録し、学校法人からの求めに応じて活用できるようにする「専門家人材バンク」、経営分析・経営基盤強化・戦略的連携・自主的な撤退等に資する「私立学校運営の手引き」等の作成を行ってきた。さらに、私学団体においても、学校法人の役職員を対象とした研修の充実に努めている。

○一方、上述のとおり、今後、経営困難な状況に陥る学校法人が増加することが懸念される。こうした中、このような法人には他法人との合併や撤退の選択肢も考えられるが、国民が安心して高等教育を受ける環境を維持する観点から、このような選択の判断を各学校法人の自主性に任せるだけでなく、経営状況をよりきめ細かく分析した上で、早期の適切な経営判断が行われるよう支援し、状況に応じてさらに踏み込んだ指導・助言を行う必要がある。
その主体としては、所轄庁である国のほか、国と私立学校の中間団体的な性質を持つ、私学事業団の活用も考えられるが、それぞれの体制の充実とともに、私学事業団の特殊法人としての制約(特に現行業務との関係)や国との役割分担といった諸課題を含め、今後、さらに検討が必要である。こうした点も踏まえ、大学間の相互扶助の仕組みなども含め、多様な手法の検討を進めることが必要である。

○学校法人の経営破綻に際しては、学生の修学の継続をどのように保障するかが最も重要な点であり、私立大学があらかじめ相互に連携し、緊急時に学生を受け入れる相互扶助の仕組みや、払い込んだ授業料に関して学生に優先して返還される仕組み、転学支援の在り方等についても早急な検討と具体化が必要である。

○また、学校法人が解散等した後の学籍簿の扱いについて、学生等の生涯にわたるキャリア形成を図るうえで適切に管理されることが重要である。
国所轄法人の破綻時において、上述の相互扶助の仕組みや国以外の団体の活用を含めて、適切な在り方について検討を進めるべきである。

○さらに、学校法人の破綻の際の処理手続きに関する法制や運用全般についても、より適切な方策がないか検討すべきである。
例えば、民事再生や破産手続における申立ての円滑化に向けた課題や解散命令が発出された場合における不適切な清算人の就任に関する課題その他、学校法人が経営破綻状態となった場合の、学校法人の運営の適正化や財産の保全のための方策についても、上述の学生のセーフティーネットの確立とともに、文部科学省や私学事業団、私学団体等が協力して、その具体化に向けて検討を進めるべきである。

(4)私立大学の財政基盤の在り方について
○先に述べたとおり、我が国の私立大学は、多様性に富んだ個性豊かな人材の育成や多様な知的価値の創造等を通して、我が国のあらゆる面での発展に大きく貢献する役割を果たしてきたが、今後、国内の18歳人口の減少やグローバル化の進展など、急速に変化する社会経済の状況等を踏まえ、自ら問題を発見し解決することで新たな価値を創造する高度人材の育成や高度化する先端的・学際的研究の実践、地域・産業の多様な要請を踏まえた実践的な教育研究など、従来以上により高度で多様な機能の強化が求められている。
特に、私立大学に対しては、その強みである経営のダイナミズムを活かした多様で特色ある教育研究の実践が期待されている。

○こうした急激な環境変化の中で、私立大学が、その強みである経営のダイナミズムを活かし、我が国の知的基盤としての存在感をこれまで以上に発揮し、社会の変化に適切に対応していくためには、私立大学の経営力を強化し、安定的・継続的に質の高い教育・研究を行うことのできる財政基盤に転換することが必要である。
また、各年度で必要となる教育研究費の確保を図ることはもとより、ICTへの対応など、目まぐるしく変わる環境に適切に対応しながら、長期的・安定的に教育研究活動を行うためには、必要な施設・設備を整備する財源を計画的に確保していく必要がある。
このため、多元的で安定的な財政基盤を強化・確立していくとともに、私立大学の教育研究活動の基盤を支える私学助成の確保・充実を図ることが必要である。
その際、支出面においても、教育研究の質の向上を図ることを前提として、施設設備・調達等の共同化などを通じて効率化を図るなどの工夫と併せて行う必要がある。

<財政基盤の現状について>
○私立大学の財政基盤の特徴として、増加する教育研究経費を現役の学生の負担に大きく依存するという構造であることが挙げられる。

○国からの私立大学に対する経常費助成については、厳しい財政状況の中で抑制されており、経常的経費に占める私学助成の割合が昭和55年以降低下傾向にあり、平成27年度には10パーセントを切るなど厳しい状況にある。
奨学金や授業料減免等を含めても、国公立大学と比較すると、私立大学生の経済的負担は重い状況にある。
また、公的な研究資金については増加しているものの、国全体の研究資金の配分状況(平成23年度)において、私立大学に対しては総額の1割程度に留まっている。

○地方公共団体からの補助金受入れ額は法人全体としては年々増加し、平成26年度には2,800億円を超えているが、そのほとんどは高校以下を対象とするものであり、大学に対する補助は120億円程度(5%程度)と横ばいで推移している。

○補助金以外の事業収入について、共同研究や受託研究などの企業等からの民間研究資金は増加傾向にあるが、1件当たりの金額は200万円程度と小規模である。
共同研究については国公私立大学全体では総額は大きく伸びており、私立大学が占める割合も増加傾向にあるが総額の2割弱に留まっている。

○寄付金に関しては、寄付税制の拡充の効果等により学校法人に対する寄付は近年増加傾向あり、平成26年度で約200億円となっている。

○資産運用による収入については、近年減少傾向であったが、平成23年度以降、大学法人・短大法人ともに増加傾向にある。
ただし、30年前と比較すると、現在は低金利の影響もあり、資産運用収入の一部である受取利息・配当金収入は3分の2程度と大幅に減少している。

<財政基盤の多元化による強化の在り方について>
○上記の現状や課題を克服し、私立大学が自らの特色を活かした時代に応じた教育研究活動を行うためには、増加する教育研究経費を現役の学生の負担に大きく依存するという構造から、効率的な運営を基本として、大学間連携を含め広く学内外の資源を活用しつつ、社会全体で大学という学びの場を支える構造への転換が必要である。
さらに、これらに加えて、安定的・継続的な教育のためには、基盤的経費である私学助成の総額の確保、充実が必要である。

○私立大学の資源を活用しつつ、社会全体のイノベーションを加速するためには、私立大学に対する研究資金の充実も必要である。
科学技術研究費補助金について、私立大学の占める割合は上昇するなど、外部資金の獲得に向けた各大学の取組は進みつつあるが、研究支援体制の強化を含めてさらなる全学的な取組の強化が求められる。

○多元的な財政基盤を確立するためには、同窓のネットワークの強みを生かした寄付金募集の促進や資産の有効活用が必要である。
理事長・学長の下で、同窓会の積極的な振興や卒業後の状況の把握、寄付イベントの開催、大学ホームページの活用等を通じ、組織として戦略的に寄付募集の取組を行っている大学の取組も見られるところであり、こうした取組をより多くの大学が実践し、在校生やその保護者だけでなく、多くの人や団体に支えられる大学を作り上げていくとともに、寄せられた寄付金についても、米国のコモンファンドなど他国の制度や事例も参考としながら、リスクへ十分に配慮しつつ、資産運用等により効果的に活用していくことが重要である。

○産学連携については、私学としての自由度を最大限発揮し、共同研究・受託研究等において、研究者個人対組織(企業)の関係から、組織対組織への発展を図り、産業界からの一層の支援を獲得していくことが必要である。
学生の教育の観点においても、企業のインターンシップの長期受け入れや社会人の学び直し、留学生受入れなど、非財政面を含め、努力する私立大学に対して社会全体で支援していくことが重要である。

○地域における自治体との連携を強化し、都道府県等の地元自治体や産業界等と私立大学がプラットフォームを形成した上で、地域の高等教育に関する中長期計画の策定や地域政策と連動した産学連携を行うなど、地域と私立大学が密接に連携する取組を支援することが重要である。
また、現在一部の自治体で私立大学の取組に対する支援が行われはじめており、地域に貢献する私立大学に対し、今後、地域の自治体からの支援が強化されることが期待される。

(5)私学助成の充実、仕組み等の再構築について
○財源の多元化を図る一方で、私立大学が安定的・継続的に教育を行うためには、引き続き国が私学助成で支えていくことは重要である。
私立学校振興助成法の理念や今日的に私立大学が果たすべき役割を踏まえ、私学助成の総額の確保・充実とともに、その助成の在り方を見直していくことが必要である。
その際、私学助成の一般補助は私立大学の経常的経費を支え、特別補助は学術の振興又は特別の分野、課程等に係る教育の振興を目的とするものであることに留意するとともに、教育条件の維持向上や学生の修学上の経済的負担軽減など私学助成の基本的性格に鑑みながら、各私立大学の授業料へ与える影響についても考慮が必要である。

○特に、私立大学の役割の重要性に関する社会の理解を深め、信頼を獲得していくためには、教育研究活動の成果の見える化を促していくことは重要である。
また、その役割を十全に果たすためには、より高度で質の高い教育研究活動を行うための環境整備を機関補助で支えることが重要である。
その上で、各私立大学の建学の精神を踏まえた教育研究の特色化・機能強化を促していくための学内資源の集中化の促進や、教育研究活動の共同実施、施設設備・調達等の共同化など、各大学が機能を補完しやすくなるための方策を検討していくことが必要である。

○これらの観点から、経営基盤の充実した私立大学を形成するとともに教育研究の質の向上や高等教育へのアクセス格差を是正するため、私学助成において、私立大学の多様性・重層性が一層発揮されるよう、今後以下のような見直しの方向性を中心に検討する必要がある。

1 教育研究の質の向上に向けた取組の一層の強化・促進
各大学における教育条件や研究環境の向上に向けた取組を促進する方策の検討。
また、各大学においては、入学者の受入れ、教育課程の編成・実施、卒業の認定や修了後の学生の活動状況など、学生の学びのアウトカムを含めた教育活動の全般にわたる改革を促すような支援の在り方の検討。

2 教育研究の成果の可視化
各大学においては、教育研究の成果を指標等に用いてわかりやすく示すことなど、成果の可視化を促す支援を検討。
また、これらの成果をはじめ、様々な大学の教育研究活動等の状況の情報を公表することについての取組をさらに促進する方策の検討。

3 社会の多様なニーズを踏まえた大胆かつ機動的な改革の促進
私立大学等改革総合支援事業などのこれまでの取組・成果を踏まえつつ、各大学の建学の精神や私立大学の特色・強みであるダイナミズム、スピード感を生かし、
改革意欲の高い私立大学の多様な取組をさらに加速化させる支援方策を検討。

4 自らの強みや特色の重点化に向けた支援
各大学が自らの建学の精神に基づき、その教育研究に関して、地域との連携や産業界との連携、グローバルな展開、生涯学習の推進など、それぞれの強みや特色に応じて学内資源を集中し、自らの特色をより組織的に強化していくための取組を促す方策を検討。

5 各大学や関係機関等との連携の促進
各地域における他の大学や自治体、産業界、初等中等教育機関等との連携活動を促すためのプラットフォーム形成の促進やプラットフォームにおける連携活動の支援の検討。
また、これらの取組をより効果的に進めるための経営の幅広い連携・統合の促進、取組支援についても併せて検討。

6 地域に貢献する私立大学の支援
私立大学が地域に貢献する役割等を踏まえ、地域社会への貢献に応じた支援の観点から、自治体等からの私立大学の教育研究活動に対する評価や資金等の支援に応じた国からの支援方策(マッチングファンド含む)を検討。

7 学生の経済的負担の軽減
どのような地域、家庭でも高等教育にアクセスする機会を保障することは重要である。このため、経済的負担軽減の方策を検討。
その際、経営基盤の充実した私立大学を形成するとともに教育研究の質の向上の取組を併せて行うことが重要であり、私学助成の総額を確保・充実していくことが必要。
また、大学の経営戦略・自主性に委ねる機関補助を通じた支援と、奨学金による個人補助とを組み合わせ、国公私立によらず学生の学ぶ機会を保障する方策を検討。

○これらに加えて、安全・安心な環境の実現のため、耐震化の推進や大規模災害時の支援の充実に向けた取組が必要である。


5.今後の検討及び方策の推進

○本審議のまとめは、私立大学の現状を踏まえつつ、人口減少期における振興方策を現時点においてとりまとめたものであるが、私立大学に固有の事項であって法改正を伴うため詳細にわたるさらなる検討を要するもの、私立学校全般に関わる事項であり広く関係者を含めたさらなる検討を要するもの、国公私立大学全体にわたる検討を要するもの、地方創生の観点からの検討を要するものなどが含まれている。
これらは以下のように整理されると考えられるが、それぞれの事項は相互に関連しているものであり、検討に当たっては十分な連携が図られ、私立大学の振興が総合的に図られることを期待する。

○私立学校法等の改正を含む検討が必要な私立大学のガバナンスや経営困難な状況への対応は、大学設置・学校法人審議会の学校法人分科会その他の検討の場で、学校法人制度全体として整合性が得られるよう引き続き検討を行う。
その際、高等学校以下の学校のみを設置する都道府県知事所轄法人を含めた制度改正を行う場合には、関係者を含め幅広く意見を徴しながら検討を行っていく必要がある。

○今後の各高等教育機関の役割・機能の強化に関する論点整理等も踏まえ、中央教育審議会における国公私の設置者別の役割分担の在り方等を含め、高等教育全体を見通した高等教育の将来像の検討や、内閣官房の「地方大学の振興及び若年雇用等に関する有識者会議」での検討において、本検討会議で示された私立大学の振興の方向性を勘案した検討が行われることを期待する。

○上記会議等に関連して、私立大学に関する有識者の提言がさらに求められる場合には、必要に応じて本検討会議においてさらに検討を行う。


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高等教育局私学部私学行政課

(高等教育局私学部私学行政課)