資料4 冨山委員提出資料

平成27年2月16日 委員 冨山 和彦 (株式会社経営共創基盤代表取締役CEO)

実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関のあり方 要旨

1. 本検討の背景・目的

• 日本は、人類史上空前の急激な少子高齢化により、出生率が大幅に改善しない限り、今後は構造的に需要よりも供給サイド(=生産労働人口)が先行して減少し続け、労働力が慢性的に逼迫する人手不足時代を迎える。
• また、大企業の正社員という立場で働く人の比率は長期的に減少トレンドにある。今や日本の雇用の約8割を占めるのは、サービス業を中心としたローカル経済圏で活躍する中小企業であり、そこではジョブ型雇用で流動性が高いのが特徴である。これはアメリカやドイツも含めた世界的な趨勢である。
• こうした産業構造・労働力市場の劇的変化を踏まえ、労働力不足が深刻化する中で、サービス産業を中心とするジョブ型雇用の領域において労働生産性(≒賃金)をいかに高めていくのかが、今後の日本経済を考える上での長期的な最重要課題である。
• 他方、高等教育機関に目を転じると、一部の大学・短大や、専門学校においては極めて高度な職業教育を行い、生産性向上に寄与する人材を排出している機関がある一方で、受益者(=学生と産業界)のニーズにマッチしない大学等が多数存在しているのが現状である。
• かかる状況下、今後の産業構造・労働力市場の劇的なパラダイムシフトを見据えた労働生産性と労働参加率の向上の観点からも、また、大学進学率が50%を超えた大学全入時代、すなわち非常に多くの日本の若者が高等教育を受ける時代における多様で幅広い学生ニーズに応えるためにも、高等教育機関のあり方について抜本的に見直し、国家レベルで異次元の取組みを推進していく必要がある。 

2. 本有識者会議において答えるべき問い

• 上記背景、すなわち我が国の社会と経済の大きな変化に起因する根本的かつ重大な課題を踏まえ、これからの日本の高等教育機関のあり方について大学も含めて根本から問い直し、その答えとしての「新たな高等教育機関」のあり方を検討すべきである。

3. 新たな高等教育機関のあり方に関する基本思想:高等教育を二つ山の「ツインピークス構造」へ大転換せよ!

1 新たな高等教育機関は、日本経済の発展を実現するための重要機関であることから、従来の大学の下に位置づけるのではなく、既存の大学と同等レベルの高度な高等教育機関と位置づける。即ち、高等教育機関の基本体系として、現状のアカデミアを重視した東大を頂点とする一つ山構造から、二つ目の高くて大きい山を形成する⇒高等教育における「学術的な一般教養」至上主義からの根本的転換(ネット時代、大学全入時代において、真の「一般教養」、すなわち生きて行くための「知の技法」は博士課程修了者を中心とする既存の大学教員の独占物ではない)を行う。
2 新たな高等教育機関では、企業での実習や演習を通じた実践力を身に着けるとともに、職業大学型教養科目として「汎用性の高い職業人としてのベーススキル」(例:ロジカルシンキング・コミュニケーションスキル・ITスキル・プログラミングスキル・簿記等)や職業資格の習得を目的としたトレーニングを行う。
3 現状の設置基準の中で、職業教育との関連が薄い項目は緩和または撤廃し、経営の自由度を担保する一方で、成果(卒業生の就職状況等)の情報開示を義務付け、市場原理による退出圧力が厳しくかかるようにし、「高い山」を形成しうる高等教育機関のみが生き残る仕組みにすることで、質の担保を図る。
4 本課題は、高等教育機関の「数」ではなく、「質・中身」の問題であることから、単なる補助金対象校の拡大による「補助金のバラマキ政策」となってはならない。 

4. 新たな高等教育機関の骨子:「四流の大学もどき」には絶対にならない制度設計を!

1 位置づけ(特に大学との関係)

実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関は、日本経済の発展を実現するための重要機関であること、また、学位の国内・国際通用性の観点から「大学体系の中に」位置づける。
既存の大学や短大からも、下記に指摘するような「新たな高等教育機関」大学制度に魅力を感じて転換が出ることを想定した制度とする。

2 修業年限

• 各職業分野に必要な知識・技能・ノウハウ習得に要する期間に応じて、2~4年の間で設定する。

3 教育内容・・・あくまでも「高度」な職業訓練を!

• 企業での実習・インターンや演習を通じ、各職業分野に従事するために必要な実践的知識・技能・ノウハウを養うためのトレーニングを行う。
一定レベル以上の職業資格については、その受験準備学習と資格取得自体を単位と認定する。
• 教養教育に関しては、アカデミックスクールが歴史や自然科学・人文科学や体育等、非常に広範な領域を扱うのに対し、職業教育型大学においては、「職業人として必要とされる汎用性の高いベーススキル・ナレッジ」を重点的に養う。(具体例:ロジカルシンキング・コミュニケーションスキル・リーダーシップ、PCスキル(エクセル・パワーポイント等)、簿記会計・ビジネス文書作成等)
「一般教養」についても、「学術的な一般教養」に拘泥することなく、本来の教養、すなわち現代の実社会において生きて行くための基礎的な「知の技法」を教える(その意味で、経済原論でサミュエルソンを読むことよりも、経営戦略論でマイケル・ポーターを読むよりも、簿記会計の基礎をしっかり身に付けることが真の「一般教養」であることは当然の結論)

4 質保障の考え方・・・安易な参入を認めて乱立状態に陥った法科大学院の失敗を繰り返すな!

【前提となる考え方】
• 大学院ではあるが、同じく職業教育型の高等教育機関である法科大学院の失敗を踏まえ、制度スタート時点における形式的なハードル設定ではなく、教育内容の実態と実質的な成果(≒卒業生の就職状況や資格取得状況等)を、参入と退出のいずれにおいても評価の中心に据える。
• 職業教育型大学には、成果と関連する指標の公開を義務付け、市場原理による退出圧力が厳しくかかるようにし、「高い山」を形成しうる大学のみが生き残る仕組みにすることで「質」を担保する。

A) 設置基準

- 設置基準については、以下の点を考慮する。
1. 具体的な成果である卒業生の資格取得状況、就職状況・初任給、就職先企業からの評価等を重視する。
2. 職業教育型大学の産業界に対する貢献状況等(ローカル経済圏における労働生産性向上に資する分析・技術革新等)、産業界からの評価も重視する。
3. 教員資格は、産業界からみた評価・経験をベースとし、何よりも「教える力」「鍛える力」を最重要視する。現状、実質的な要件となっている博士号(≒「研究する力」らしきものを表象?)については一切問わない。(「形式」ではなく、実際に実践力の高い学生を育成できるか否かを重視する・・・博士号が「職業型」高等教育機関、特に文科系のそれにおいていかに役に立たないかは、先行して制度化されている専門職大学院で既に実証済みであり、より基礎的な実技訓練を行う大学レベルでは、なおさら役に立たないことは明白

4. その他、現状の大学設置基準に定められている、職業教育とは関係が薄い設備関連項目(図書館・運動場の設置等)についても問わない。

※ 上記については、「3・4」の基準に含めない項目も含め全て情報公開を義務付け、学生は公開された情報を基に大学を選択する。

B) ガバナンス

- 職業型大学のガバナンスを確立するため、第三者機関の設置を行い、大学経営の継続、永続的な発展を担保する。

C) 退出基準

- 職業型大学の具体的な成果である卒業生の就職状況や、産業界に対する貢献状況等を詳細に情報公開することを義務付け、これを基に定期的に補助金の再分配(経営の苦しいところではなく、成果を上げているところにより多くの分配)を行う。
- また、成果に連動した廃止基準を定め、これに抵触した場合は市場から退出させ、成果を残している大学のみが生き残る仕組みにすることで、質の担保を図る。

D) 退出時の学生の保護

- 廃校となる大学に属する学生の編入先の手当てや、編入に伴う引っ越し・通学費等のコスト負担を支援するための制度・機関を整備し、本制度によって学生が不利益を被らないようにする。

専門学校からの参入の考え方・・・当初の数年間は転換は10校程度に絞る!

• 職業型大学は、日本経済の発展を実現するための重要機関であり、制度スタート時点において門戸を広く開けることで実を伴わない大学が乱立し、その結果、補助金だけが増加し、それが低レベルの教育機関にばらまかれ、「高く・大きな山」ではなく、「低く・広い丘」ができることは絶対に避けなければならない。
• 上記を踏まえ、スタート時点においては、専門学校から移行できるところは10校程度に限定し、その後、「新たな高等教育機関」としてのパフォーマンス状況を検証しつつ、実力に応じて入れ替えを行う。

6 補助金(助成金)の考え方・・・成果主義、信賞必罰型の補助金配分を!

「新たな高等教育機関」大学の「質・内容」を高めるため、そして目的上、この教育機関は成果が測定しやすい事から、補助金対象校の拡大による補助金のバラマキは行わず、より成果を出している教育機関により多くの補助金を集中配分し、成果の出ないところからはどんどん補助金を削減してさっさと退出を促す。

7 本制度における受益者(=産業界)の責任

• 本制度は、産業界の積極的関与抜きでは成立しないため、その規模や地域社会への影響度等に応じて、本制度への関与を促進するための仕組みを整備する。
• 具体的には、講師派遣・カリキュラム作成支援・各大学の卒業生(新入社員)評価等を通じて、実践的な職業教育を実現するための一翼を担う。

以上

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(生涯学習政策局参事官(連携推進・地域政策担当)付、高等教育局高等教育企画課)