学生への経済的支援の在り方に関する検討会(第9回) 議事録

1.日時

平成26年3月25日(火曜日)10時~12時

2.場所

5F文化庁特別会議室(文部科学省旧庁舎)

3.議題

  1. 所得連動返還型奨学金について
  2. ヒアリングでの意見の整理と今後の検討の方向性について

4.出席者

委員

奥舎委員、小林委員、中村委員、濱田委員、樋口委員、前原委員、松本委員

月岡理事(日本学生支援機構)、石矢奨学事業本部長(日本学生支援機構)

文部科学省

吉田高等教育局長、渡辺学生・留学生課長、田中学生・留学生課長補佐、渕村学生・留学生課長補佐

5.議事録

学生への経済的支援の在り方に関する検討会(第9回)
平成26年3月25日


【小林主査】  ただいまから学生への経済的支援の在り方に関する検討会,第9回を開催いたします。
 本日も日本学生支援機構の関係者の方が陪席されております。御了承ください。
 また,本日は,文部科学省から,吉田高等教育局長が出席されております。局長,どうぞ,一言お願いいたします。


【吉田局長】  1月17日付で高等教育局長を拝命いたしました。この会議はこれまで欠席させていただいていて,初めての出席でございます。学生への経済的支援の在り方につきましては,国会などでも大変論議を呼んでいるところでございまして,これからどういった政策を出していくか,非常に重要な時期になっていくと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。


【小林主査】  ありがとうございました。それでは,議事を始めるに当たり,配付資料の確認を,事務局よりお願いいたします。


【田中課長補佐】  失礼いたします。それでは,配付資料の確認をさせていただきます。お手元に本日お配りさせていただいている資料でございますが,まず議事次第でございます。その下に資料1として,A4横置きのパワーポイントで,後ほど小林先生から御説明を頂く所得連動返還型の奨学金に関しての資料でございます。それから,資料2といたしまして,事務局提出でございますが,同じく所得連動返還型奨学金の主な論点についてという資料。それから,資料3といたしまして,今後の議論を行うに当たっての視点という資料。それから,資料4ということで,これまで3回にわたって行ってまいりましたヒアリングでの主な意見をまとめたもの。それから,資料5といたしまして,今後の日程。それから,参考資料ということで,これまで今期の通常国会におきまして,奨学金関連の質問がどれぐらい出たかを簡単にまとめておきました資料。
 以上でございます。


【小林主査】  ありがとうございました。
 それでは議事に入ります。本日は,今,御説明がありましたように,議題1として,所得連動返還型の奨学金について,特に諸外国の例を私から説明させていただきます。それから,その後に,ヒアリングでの意見の整理と今後について検討していきたいと思います。最初に,私から資料1に基づき,高等教育改革と所得連動型のローンということで,イギリスを中心として少し御説明したいと思います。
 たまたま日本学生支援機構と,それから,私が受託している文部科学省の先導的大学改革推進委託事業でイギリスを調査する機会がありまして,また,所得連動型ローンといいましても,各国によって相当違いがありますので,そのあたりのことを少し委員の皆さんにも理解を共有していただければと思い,資料を用意いたしました。
 ただ,所得連動型ローンというのは非常に重要な仕組みですけれど,全体としてそもそも授業料と奨学金というのはどういうふうに考えられているのかということも重要だと思いますので,前半,それについて少し御報告いたします。内容的には,かなり多岐にわたっております。限られた時間で全部説明できないと思いますので,また御質問等あれば,後ほどお寄せいただければと思います。
 早速ですが,2ページ目から簡単に御覧ください。各国で,授業料とか奨学金の制度の改革が非常に大きな焦点になっていることは,御承知だと思います。これは今,どうしても高等教育の財政というのが,先進国は,一部の国を除いてはかなり苦しい状況になっておりますので,その中で授業料と奨学金をどうするかというのは非常に大きな問題になっております。これまで授業料が無償であった国も,授業料を徴収するようになり,あるいは授業料が非常に低額であった国も,それが非常に高くなっているということが大きな問題でありまして,それに対応する形で奨学金制度を作っていくという,授業料と奨学金をセットにして改革を進めていくというのが各国の基本的なスタンスであります。これは言い換えますと,教育費を誰がどのように負担するかという問題でもあります。特にアメリカ,イギリスのような国では,こういった授業料の高騰が教育の機会均等を脅かすのではないか,とりわけ低所得層の教育機会を脅かすのではないかということが大きな問題となっております。
 それからもう一点は,これもこの会議で何回も出てきましたけど,情報のギャップというような問題が相当あるということが広く知られるようになりまして,これをどのように解消していくかということです。特にこれはアメリカとかイギリスのような国では大きな改革の一つのテーマになっております。
 ということが前提でありまして,3ページ目に,それでは,具体的に授業料がどのように徴収されて値上げされているかということですけれど,授業料が徴収された例として,所得連動型が初めに導入された国の一つであるオーストラリアについて言いますと,1988年までは,公立大学の授業料は無償だったわけです。89年から授業料を徴収することになりましたが,オーストラリアでは,授業料という言い方は絶対にしない。公的には授業料ではなくて,高等教育に貢献するためにお金を学生が出すというような意味で,高等教育に対する貢献の拠出金制度,通称HECSという仕組みを作ったわけです。これは実質的には授業料の後払い制度です。
 イギリスでは,1998年より授業料を徴収いたしまして,それまではイギリスの大学も無償でしたが,当初1,000ポンドで,これは所得に応じて変わるという非常に独自の仕組みです。所得が低い場合にはゼロ,最高で1,000ポンドというような形でした。
 ドイツの場合にも,一部の州で一部の長期在学学生などから授業料を徴収しております。
 それに対して,そもそも授業料があった国で申しますと,アメリカの私立大学とかアメリカの公立の旗艦大学というようなところで非常に授業料が高騰しまして,現在では,アメリカの私立大学では,定価の授業料で5万ドルというところも珍しくないというような状況になっております。
 イギリスについて言いますと,1998年に1,000ポンドであったのが,2006年で3倍に値上げされまして,3,000ポンド,それから,2012年から9,000ポンドに上がりました。
 中国の場合も非常に授業料が高騰いたしまして,現在6,000元の上限が引かれております。ただ,これもいろいろな例外があります。
 それから,韓国の場合にも,高騰が社会問題化しまして,特にソウル地区の国公私立大学の授業料が高いということが非常に大きな社会問題になっております。ソウルの市長選挙で,ソウル市立大学の授業料を半分にするということを選挙公約にした方が当選されて,授業料を半額にしました。ほかの大学にもそういったことが今広がっているというような,逆の動きもあります。
 背景といたしましては,先ほど申しましたように,公財政が逼迫(ひっぱく)しているというのが一番大きいわけですけれど,高等教育の進学率が上がりますと,どうしてもその負担分が大きくなる。それから,学生一人当たりの教育コストが上昇するというようなことが挙げられます。
 次に,ではなぜ,そもそもこのデフレ下で授業料が上がるのかということですけれども,これはいろんなことが言われているわけですが,教育の大部分というのは人件費でありまして,大学というのは非常に労働集約的なので,効率化が難しく,施設整備費など,特にコンピューター等含め,常に増加する傾向があります。それから,大学の質の向上には上限がないので,教育の費用には上限がないということで,これは費用病とか,費用の収入理論というようなことが言われております。つまり,大学をよくしようと思ったら,やはり金をたくさん掛けなければいけないということがあります。
 それから,もう一つ大きな問題としてよく言われるのは,なぜ定価の授業料を下げないのかということで,これはシーバス・リーガル効果というような言い方をされるわけですけれど,つまり,ブランドであるということ。高いほど有り難いということ。情報の非対称性がありまして,大学の教育というのはなかなか中身が分からない。分からない場合にはやはり定価が,例えば先ほどアメリカの私立大学のように,5万ドルと言われますと非常にいい教育をしているのだというように思われるわけです。そういうような問題があると言われております。
 次の5ページは,それを非常に大ざっぱに書いたものですけれど,授業料と奨学金,この場合は給付奨学金ですけれど,それを組み合わせた政策というのが各国でとられていることを示しているものです。近代の大学というのは,大体左の上から始まっているわけで,非常に授業料が低い,あるいは無償でありまして,奨学金が非常に多いという,学生にとっては非常に恵まれた環境からスタートしているわけです。現在でもスウェーデンとか北欧の国はこういった形を続けております。
 イギリスも先ほど申しました授業料を徴収するまでは,最初は生活費も全部給付奨学金,後には,半額が給付奨学金で半額がローンというふうに変わってきますけれど,1980年代まではそういう形でした。
 それから中国も,御存じだと思いますけれど,中国の学生というのは,大学の中の寮に住んでいて,授業料,生活費も全く掛からないという,丸抱えだったというようなことが,1980年代まではあったわけです。
 ところが,それに対しまして,ヨーロッパの国立大学は,無償ではあるのですけれど,給付奨学金というのはそれほど多くは出していないということがあります。日本の国立大学も御存じのように1972年に3倍値上げされましたけど,それまでは非常に低額だったわけですね。それから,アメリカの公立旗艦大学についても,かつては非常に安かったわけです。
 それに対しまして,給付奨学金が少なくて授業料が高いということになりますと,これは私立大学で,特に日本とか中国,韓国もここに入るかと思います。それから,給付奨学金が多くて授業料も高い,いわゆる高授業料・高奨学金政策と言われるものを,アメリカの私立大学がとっていますが,これが今,アメリカの大学では非常に広がっておりまして,実はイギリスの大学も全部この方式をとっております。これについてはもう少し詳しく説明したいと思います。
 6ページ目になりますが,今のことをもう少し別の観点から見ていきます。なぜ学生にとって一番恵まれた形である,授業料がないとか,授業料が低くて奨学金が多いような形をとっているのかというと,これは端的に言えば,エリートを養成するためであります。ですから,数が少ないうちはこういう形でやっていけるわけですが,次第に人材の養成が一般化していきます。例えば一番古いエリートでいいますと,法律,医学,中世ヨーロッパでいうと神学というところですけれど,それに対して,経済とか商学であるとか,新しい形での人材の養成が必要になってまいりますと,その奨学金を出すことは難しくなっていくわけです。それから,教育を求める声が非常に高くなってまいりますので,大学の進学率が上がってまいりますと,教育費について,生活費分についてはもう私的に賄ってくださいという形に変化すると。これが左の下の状態です。
 さらに,その授業料も私的に負担していいから大学教育を受けたいという層の需要が非常に拡大してまいりますと,私立大学がその需要に応える形で供給をしていくという形で,図の右下に移るわけです。それに対して,高授業料・高奨学金については後でまた御紹介いたしますが,こういう形で動いていくと考えられるわけです。
 これを費用負担の面でいいますと,左の上は,教育費は全く公的に負担で,私的負担がない,あるいは少ない。左の下にいきますと,公私の分担で,私的負担が多くなる。右の下になりますと,教育の私的負担で,日本は典型的にこれに近いわけですが,私的負担が非常に重たい国になるということになります。
 それに対して,高授業料・高奨学金とは費用負担を分化するというふうに言われております。これは少し分かりにくい概念なので,丁寧に御説明いたします。7ページを御覧ください。大学が望む学生を獲得する,そして,学生にとっても非常に恵まれているのは,言うまでもなく,授業料が低額あるいは無償で奨学金がたくさんあるという,左の上のパターンですね。それに対して,大学にとって収入が一番増えるのは,授業料を高く取って奨学金が少ないという形でありますから,右の下になるわけです。この二つを組み合わせたものが高授業料・高奨学金というふうに言われております。これは学生一人一人によって出す奨学金の金額を変えることによって,大学が望む学生も獲得できますし,大学にとっては収入も増加できるということで,非常に一挙両得であるということで,アメリカの私立大学から始まりまして,だんだん広がっていったということになるわけです。
 8ページに参りますが,こういった形の,授業料と奨学金がセットになって,高授業料・高奨学金政策。最近はハーバードなどではローンフリーという言い方をしていますけれど,ローンがない,給付奨学金で賄えるのだということで,定価の授業料は5万ドルですけれども,実質的には平均8,000ドルというふうにも言われております。これは,5万ドル,フルに払う学生もいれば,全く払わない学生もいて,その平均が8,000ドル程度だという意味でありまして,さらにはマイナスの授業料,つまり,給付奨学金の方が授業料よりも多い学生もいるということであります。給付奨学金の受給率は6割程度と言われております。
 こういう形で,教育費の分担がシフトしていっているわけですけれど,大きく見れば,もともとは高等教育には公的負担の比重が高かったのが,公的負担から私的負担に移っていく。授業料負担がそれだけ重くなっているということ。それから,グラント,給付奨学金からローンの比重が拡大していくということが挙げられます。これは言い換えれば,親負担から子負担に移るということになるわけです。学生が将来返すという意味です。ただ,こういったことが大きなトレンドですけれど,では,全くローンだけでうまくいくかというと,それがいろんな問題を引き起こしております。これはローン負担とかデット,負債の負担問題と言われておりますし,それらを回避する問題,つまり,進学を選択しないというようなことになるというような問題が生じまして,オバマ政権では特にグラントを重視するという政策に切り換わっております。イギリスについても,こういった動きが一部で見られております。
 以上が大きく各国が授業料と奨学金をどのように考えているかということの動向ですけれど,これから所得連動型について少し御説明したいと思います。
 所得連動型ローンというのはどういうものかと申しますと,ローンの負担を軽減させて回収率を上げる仕組みであります。卒業後の所得に応じて返済し,低所得ほど負担が少ないという仕組みですね。6つの要素があります。
 所得に応じた返済額。所得の一定の割合という場合が多いです。これがもともとの意味です。
 一定所得以下での返済の猶予。これはスレッシュホールド,しきい値というふうに言われております。
 それから,一定の期間あるいは年齢で帳消しするルール。これはずっと猶予なり,返済額の少ない場合は返済が終わらないわけですので,それを帳消しするルールがある国もあります。
 それから,利子の補給をする場合があります。これは返済期間が当然長くなりますので,利子の負担がかえって多くなるので,低所得ほど返済総額が大きくなるという問題があります。ですから,逆に利子を補給する場合もあります。
 その他の考慮すべき要因として,家族の人数でありますとか,様々な要因を考慮する場合もあります。
 それから,もう一つ,これは所得連動型に必須ではないのですが,多くの国でとられているのは源泉徴収あるいは類似の方法であります。
 こういった6つの要素を各国は様々に組み合わせて,独自の所得連動型ローンというものを作っているというふうにお考えください。
 この要素を変えることによりまして,当然のことながら,返済額は変化いたしますし,返済期間も変わっていくということになります。
 もう一つ重要な問題は,所得の把握と,それから,源泉徴収をする場合には,国税当局の協力というのが,これはもう必ず不可欠であります。これが各国とも非常に難しい問題だと言われております。
 10ページ目に参りますが,具体的に各国について見ますと,所得連動型はいろいろな国で今とられているのですが,先ほど申しましたオーストラリアのHECSや,イギリスや,アメリカの一部のもので,採用されております。卒業後,所得に応じて支払うという点では共通しているわけであります。イギリスの場合でいいますと,授業料だけではなくて,生活費を含めて全てローンで賄うということに今,原則はなっております。
 返済額については,イギリスの場合で,大体所得の0~3.6%程度。これはイギリスの場合には,その次にありますように,所得から2.1万ポンドを引いた額の9%を支払うという,そういう方式になっております。したがって,2.1万ポンドまでは,返済が猶予されるということになるわけです。
 それに対しまして,オーストラリアのHECSの場合には,所得の0~8%でありまして,これはしきい値を超えた場合に,少しずつ利率が高くなっていくという,そういう仕組みであります。返済額は所得が高いほど非常に大きくなります。したがって,所得が高い人は非常に早く返せるし,所得が低い人はなかなか返せないという,累進性が非常に強い仕組みになっています。先ほど言いましたスレッシュホールド,しきい値は,今,円が安いので,なかなかこのあたり高く感じるかもしれませんが,イギリスでは360万円ぐらい。オーストラリアの場合,470万円ぐらいであります。アメリカの場合には,家族の人数に応じて1万ドルから5万ドルが猶予に当たるか当たらないかのスレッシュホールドです。
 先ほども言いました一定期間や一定年齢で返済を免除する仕組みを持っているのは,イギリスとアメリカの場合で,オーストラリアとイギリスの場合には,個人の所得のみが返済の基準になっておりまして,配偶者の所得は考慮されません。配偶者がいかに高所得であっても,本人の所得だけが考慮されるという意味です。アメリカの場合には家族人数が考慮されます。それから,両方がローンを持っている場合には,世帯として合算することもできます。
 それから,先ほど言いましたように,所得から源泉徴収される場合が多いのですが,アメリカはこの仕組みはありません。それから,イギリスは,インフレスライド分のみで,実質的には無利子だったのですが,このたびの2012年の改革で,所得に応じて有利子化ということにしております。つまり,所得が高いほど利子が高いという仕組みを導入しております。アメリカの制度というのは非常に複雑なので,少し説明が要るのですが,所得連動型というのは,返済のプランの一つです。全てのローンに適用されるわけでもない。そういう仕組みです。返済プランは全体で7種類ぐらいあるのですけれど,そのうちの一つとして所得連動型があるという,そのように考えていただきたいと思います。
 ただ,では,その所得連動型返済プランを選ぶ学生がどれぐらいいるかというと,1割以下で非常に少ないわけです。それはどうしてかというと,利子が高いので,返済総額が非常に高くなる。現在では大体6.8%から7.9%と非常に高い利子であります。オバマ政権の特例として,3.4%というのを一部のローンについて導入しておりますが,それにしても高いわけですから,返済総額が高い。それから,アメリカでよく言われているのは,周知不足であって,この仕組みをよく知らない。また,デフォルトの返済プランが標準で10年返済という形になっていますので,何もしないと10年返済型のプランを選ぶことになってしまうと,そういう問題があります。
 今のことをもう一回まとめたものが11ページであります。
 先ほど説明していなかった分だけ簡単に触れますと,オーストラリアの場合には,前払でもこの授業料相当額を払うことはできまして,この場合,10%の割引が受けられます。これが利子相当分というふうに考えられるわけです。アメリカの場合には,先ほど申しましたように,所得から1万ドルから5万ドルの間で家族人数によってしきい値が変わるわけですけれど,それを引いた額に,0から10%を掛けた金額が大体返済額になります。これは非常に複雑な表になっていますが,家族人数と所得に応じています。徴収について言いますと,先ほど言いましたように,アメリカは源泉徴収がありませんので,小切手等で支払うということになります。
 それから,アメリカの場合には利子補給というものが,在学中しかなく,それも一部のローンにしかありませんので,有利子ということになります。ただ,アメリカの一部のローンの場合ですけれど,20年間,返済を所得連動型で続けて,残額がある場合には帳消しになるというルールがあります。もう一つ大きな特徴は,公的サービスを10年間すると,返済の残額があっても帳消しになるというルールがあります。この公的サービスというのは非常に広くとられておりまして,法律的に明確な規定があるのですが,公務員はもちろん,NGOでありますとか,幅広い意味での公的なサービスをしている人については,10年間の返済で残額を免除されるという仕組みを持っております。
 少し長くなりましたが,あと少しだけイギリスについてお話ししておきます。この仕組みもかなり複雑でややこしいのですが,先ほど申しましたように,2006年度に授業料を3倍に上げました。その代わりに各大学は大学の独自の給付奨学金を必ず導入するということが義務化されております。Office for Fair Accessという新設された機関と大学が協議して,授業料を設定して,それに対してどの程度の給付奨学金を出すかということについて,協定を結ぶ必要があるわけです。こういう形で,授業料を3倍に値上げすることのショックを低くしようという政策がとられたわけです。ところが,2010年にブラウン・レポートというものが出まして,これは授業料を7,000ポンドぐらいまで上げていいのではないかということを提唱したわけです。実際それを受けまして,2011年に教育白書が出まして,Student at the Heart of the Systemという名前のとおり,学生中心主義ということを打ち出しました。これは一種の市場化政策です。学生の選択権を拡大することによって,大学選び,大学間の競争を促そうという政策ですが,ここでは授業料を大幅に値上げするということになりまして,これで9,000ポンドということになってきたわけです。
 その代わりに,給付型の奨学金を拡充いたしまして,National Scholarship Programmeというものを新しく創設いたしました。ただし,学士課程については2015年度にもう廃止されるということが公表されております。
 13ページにいきます。2012年に政権交代により大幅に改定されたこと。先ほど言いましたブラウン・レポートを受けて,それに対して,政権交代を受けて,さらに改革されたということですけれど,一つの大きな改革は,先ほど申しましたしきい値です。猶予が適用される収入の最高額を1.5万ポンドから2.1万ポンドに引き上げた。現在でいいますと370万円ぐらいまで引き上げたわけです。それから,先ほど申しました実質無利子だったものを可処分所得に応じて0~3%の利子率を導入するということにいたしまして,帳消しする前の返済期間も25年から30年に長くしたわけです。
 こういった形で,かなり改革をしたわけですけれど,問題は,こういった措置によって,未返済プラス利子補給による政府負担がローン総額に占める比率,これはdefault rateというふうにイギリスで言っていますけれど,これが大体,従来は30%ぐらいだと言われていたのが,40%から48%になるというふうに言われておりまして,要するに,公的負担がローンの半分必要だという試算が出されているわけです。これが非常に今,イギリスで大きな問題になっております。
 14ページ目は,これによってイギリスの学生の費用負担がどのように変化したかを見たものですが,もともとは親が若干負担して,給付奨学金がかなりあって,学生のアルバイト等は少しであったわけですが,次第にローンが増え,親の負担というのは減ってきます。給付奨学金が次第に減らされておりましてローンが増えていくということがお分かりだと思います。2007年と2012年については,学生のローンと給付奨学金が分けて公表されていませんので分かりませんが,かなりの部分がローンに移行しているのではないかというふうに考えられます。
 もう一つだけ御紹介しておきたいことは,オーストラリアのHECSというのはもう一つ独自の考え方がありまして,これは15ページになりますが,普通は授業料というのは費用に応じて当然価格設定されるわけですけれど,費用だけではなくて,将来の期待所得に基づいて返済額が決められているという独自の仕組みであります。これは先ほど言いましたように,高等教育を受けたことに対して貢献をしてもらうということが思想ですので,費用だけではなくて,所得の高い人はそれだけ貢献してくださいという意味で出されているわけです。
 バンド3を御覧になって分かりますように,普通,コストが高い医学,獣医学,歯学というようなところだけではなくて,法律とか会計学,商学,経営学,経済学というようなものも,将来の所得が高いとみなされて,かなり高い価格設定になっているわけです。これが0~92万円というように可変になっているのは,これは大学によってかなり変えられることになっています。これも非常にややこしい仕組みですので,簡単には説明できないのですけれど,可変型の授業料相当分であると考えてください。
 逆に,バンド1は教育学とか看護学,あるいは数学とか理科の教員ですが,こういったものについては非常に低く設定されておりまして,ここにある以外にもボーナスといいまして,様々な減免の措置がとられています。
 最後になりますが,16ページに返済の免除という制度が各国ともあるわけです。時間の関係で詳しく説明はいたしませんが,3番目のところが先ほど申しましたオーストラリアの制度であります。アメリカについては,御説明したとおりであります。こうした仕組みが日本の場合,学士課程については,1997年まで,教員,研究者にはあったわけですが,これがなくなったと。2004年の日本学生支援機構設立のときに,研究者についても大学院の業績優秀者を返還免除するという形に変わったというのは御存じのとおりです。ただ,こういう意味で,日本では,学士課程の学生についてはこういった返還免除がなくなっているというのが,私は一つの問題ではないかというふうに思っております。
 以上です。
 少し急ぎましたので,説明不足の点もあったかと思います。また後で御質問等あればお受けしたいと思います。
 それでは,資料2の説明を事務局よりお願いいたします。


【田中課長補佐】  失礼いたします。資料2について説明させていただきます。柔軟な「所得連動返還型奨学金制度」の主な論点についてということで,資料を一つお出しさせていただいております。
 そもそも,この所得連動返還型奨学金制度については,昨年の4月から検討を始めておりましたが,余り時間をとって集中的に議論をしていくという時間がありませんでしたことと,今回以降,次回,次々回と,個別の論点を議論していく中でも重要な課題ではないかということで,このタイミングで改めて説明の機会を設けさせていただきました。もともとこの検討会には検討事項の3本の柱がありましたけれども,その一つとしてこの所得連動返還型も挙げられているというところであります。
 前置きが長くなりましたが,ペーパーについて説明をさせていただきます。この資料自体は,そもそも社会保障・税番号制度,いわゆるマイナンバー制度の導入を前提として,現行の「所得連動返還型無利子奨学金制度」から,より柔軟な所得連動返還型奨学金制度を導入するに際して勘案すべき論点をまとめたというものです。
 おさらいではありますけれども,現行,平成24年度から無利子の奨学金については,柔軟ではない形ではありますが,年収が300万円以下の場合には,返還期限の猶予が行われ,逆に,所得が300万円を超えた場合には,通常の月額の返還を行っていただくという,オンかオフかというような形で,制度が運用されています。
 マイナンバー制度は,昨年の5月に関連の法が成立・公布されて,今後のスケジュールとしては,平成29年から本格運用ということになっているというのは,既に皆様方御案内のとおりでございますけれども,この柔軟な所得連動返還型奨学金制度の開始については,新たな制度自体への適合等々の時間も含めて考えますと,大体平成30年度以降が予定されるのではないかと。次年度が平成26年度になりますので,あと実質4年間ぐらいというところです。
 具体的な主な論点ということですが,本日お示しさせていただいた資料では,テーマ1からテーマ4,プラスその他のテーマということで大まかにくくってございます。ざっと見ますと,テーマ1として,対象となる奨学金はいかにするべきか。テーマ2として,対象者はどのようにすべきか。おめくりいただきまして,テーマ3として,先ほど先生からもお話がありましたけど,返還開始のしきい値をどうするか。テーマ4といたしましては,継続返還した者に対する免除をどうするか。その他のテーマというような大まかなくくりになろうかと考えております。
 これら大まかなテーマではございますが,これらの中にかなりテクニカルな話などもあると我々としては思っておりますので,次回,次々回に向けて,事務局で議論を整理した上で,先生方に御議論がいただけるようにもう少し資料をブラッシュアップしようと考えていますが,本日はまず全体像としてはこんな形の論点があるということを御理解いただければということで,この資料をお出しさせていただいているところでございます。
 個別の論点でございますが,まずテーマ1ということで,対象となる奨学金。具体的には,有利子奨学金を対象とすることはどうなのか。ありか,なしかという話でございます。冒頭申し上げましたように,現行の「所得連動返還型無利子奨学金制度」については,無利子の第一種奨学金のみが対象となっているということでございます。これをより柔軟な形の所得連動返還型奨学金制度を運用する際は,有利子の第二種奨学金まで対象とするのか否かという話であります。
 簡単にメリット,デメリットを記載させていただいておりますが,まず一つ目,メリットは,非常にシンプルな話でございますが,有利子でも無利子でも奨学金の貸与を受けている学生全員がこれを受けられるということになりますので,奨学金の種別によった不公平感はまずはなくなるだろうという話がまず一つございます。
 デメリットは,具体的にはお金の面での話ということでございますが,御案内のとおり,有利子奨学金の原資は財政融資資金ということで,民間から広くお金を集めてというスキームになってございます。逆に,無利子奨学金については,政府の一般会計と復興特別会計からの貸付金ということで,そういった財源の違いというものがあるということであります。財政融資資金というものは,マーケットから借りているのでマーケットにしっかりと返さなければいけないということ。償還確実性というふうに財務省等は言っておりますけれども,これとの両立が求められるということがあります。有利子の奨学金に対しても所得連動返還型を適用した上で,マーケットにしっかりとお金を返していくことができるのかということは検討しなければいけないという話でございます。
 もう一つ,本人の所得が少ない場合,毎月の元金の減り方が少なくなるということであります。有利子の場合は,返還金が,元金と利息と両方に充当されるということになりますけれども,利息の分だけ元金の減りが少なくなるということになりますので,非常に長期間にわたって返還が必要になるというようなことも考えられるということであります。これがテーマの1であります。
 続きまして,テーマ2,対象者でございます。具体的には,テーマ1と若干重なるところもありますけれども,このより柔軟な所得連動返還型について,全員への適用を必須とするのかということであります。このメリットでございますが,返還制度は一つであるので,利用者にとって分かりやすいと。不公平感がなくなるというのとかなり近いところでありますが,そういったものがあると。
 続きまして,デメリットでございますが,仮に新制度を全員に適用するということで,新しく借りている人だけでなく,もう既に返還段階に入っている人にまでこれを対象とするとなると,既に返還段階に入っている人のマイナンバーの把握をどうやっていくのかが問題になるかと考えております。
 続きまして,テーマ2の論点2でございます。これも論点1と重なりますが,新規の返還開始者だけではなく,既に返還のサイクルに入っている対象者まで入れるかどうかという点でございます。
 メリットといたしましては,奨学金の返還に困っている者についても,新制度での恩恵を受けられるということがありますけれども,要は,不公平感なく,すべからく全員この新しいスキームに乗ることができるということはあるかと思います。
 また,デメリットでございますけれども,既に返還段階にある者については,契約の変更が必要になるかと思います。金銭消費貸借契約の条件の変更ということになりますので,これが必要となると,約300万人分という,かなりの事務処理作業が発生するのではないかということが考えられるというところでございます。
 続きまして,論点2-2でございますが,制度導入後の新規貸与者から適用すること。これは論点2-1と裏腹の関係にありますけれども,新しく貸与を始めた人からのみ適用するということでございますが,新制度の対象者全員のマイナンバーを確実に把握できます。新制度導入時点で返還段階にあれば新制度を適用しないため,これは論点2-1の裏腹の話でございます。
 デメリットといたしましても,裏腹な話でございますけれども,新制度導入時点でもう既に返還のサイクルに入っている人については,恩恵が受けられないと。経済的にやはり厳しい返還者の方々については,新しい制度に乗れないと,返還の延滞の状況が改善されない可能性があるということは考えられるかと思われます。
 以上がテーマ2についてです。
 続きまして,テーマ3,返還開始のしきい値でございます。冒頭申し上げましたように,現行の返還期限猶予の制度であれば,しきい値については,本人の年収が300万円を割るか否かというところであります。論点は,返還開始の所得金額の設定と書いておりますけれども,これはメリット,デメリット,双方あるというところであります。
 先ほど小林先生の資料の中でもありましたように,実際にどのようなレベルの額の設定をするのかということで,制度の設定が相当変わってくるというところであります。メリットとしては,一定金額以下の所得であれば,返還期限が猶予をされると。返還しなくてよくなるわけではないですが,返還期限が猶予されるということ,あるいは毎月の返還の額が少なくて済むということがありますので,将来の返還への不安が払拭されるという点があります。
 一方で,デメリットといたしましては,先ほど申し上げましたように,しきい値の設定次第ではという点であります。しきい値の設定次第では返還額がゼロとなると。要は,ずっと猶予の状況が続き,実際の返還額がゼロとなる奨学生が多く発生して,奨学金の事業全体の存続が危ぶまれると。返ってくるはずのお金が返ってこないというようなことになりますので,返還金を利用し原資としている奨学金事業としてはなかなか厳しい状況になるのかなというのがあるかと思われます。
 もう一つ,これはマインドの問題ですけれども,しきい値以下の所得であれば奨学金を返さなくてもいいということから,奨学金はもう返さなくていいのだというふうに誤解をされるおそれがあると考えています。返さなくてもいいのではなくて,所得が上がったらちゃんと返していただきますが,それまでの間は当面猶予しますという制度でございますので,返さなくてもいいというわけではないというところがあるかと思います。
 以上がテーマ3についてでございます。
 続きまして,テーマ4としてでございますけれども,継続返還したものに対する免除と書いています。先ほどの小林先生の資料の中にもありましたが,諸外国では20~25年間返還した者に対しては,残債務の返還を免除しています。要は,どこかのタイミングでもう返還しなくていいですよということで,徳政令を出すというような考え方になるかと思います。こういった継続返還期間の設定をどうするのかという点でございます。
 どの程度のスパンをとるのかということに関わる話ではございますけれども,事実上返還できない者に対して必要以上の回収コストを掛ける必要がないということもあるかと思います。スパンを長くとってしまうと,それだけ債権管理のコスト等も掛かってくるということになります。費用対効果の関係で,そこはもうある程度見切りを付けて設定をするということはあり得るのかなというところであります。
 また,きちんと返還を継続した者に対して免除することで返還のインセンティブとするという,一種の報奨金ということでありますけど,そういった考え方はあるのかと思います。返さないのではなくて,年収に応じた額の設定をしますので,それをしっかりと返していただくと。今までのように返さないのではなくて,少ない額でも,収入に応じた額を返していただくということは少なくともできるのではないかなと。返還額ゼロではなくて,真面目に,所得に応じた額できちんと返還を続けていれば,残りの残債については免除するということもありますよということにより,返還のインセンティブを与えるということがあろうかと思います。
 デメリットの方でございますけれども,「きちんと継続して返還しているか」の見極めが難しく,運用次第で返還しない者によるモラルハザードを生ずるおそれがあると書いておりますけれども,これもあくまで経済的理由等で返還が困難ということで,見定めをするということでございますので,返せるのに返さないというようなことに対しては,あくまでもそこはしっかりと返していただく必要があると考えています。しかし,運用次第ではここのところがうまく働かなければモラルハザードが生じてしまうおそれがあるということはあろうかというふうに考えております。
 もう一つは,継続返還年数の設定次第では,返還免除となる返還者が多く発生し,奨学金事業全体の存続が危ぶまれるということで,財政的な面での話でございます。やはり債務免除が多くなると,それだけ国費によって穴埋めをしなければいけないということが生じますので,国費による穴埋めをなるべく少なくする一方で,ある程度のところで打切りをしなければいけないのではないかといった,そのバランスをとって,これをどういうふうに考えるのかというのが重要な視点だというところです。
 また,高収入が見込まれる高年齢者の残債務を免除することになる可能性があるということです。通常であれば,若いうちというのは,基本的にサラリーはそんなに高くありません。大体40代,50代で高く,60を過ぎてまた一気に役職定年で下がると予測はしております。年功賃金と考えると,高齢者の人の方がより余裕を持って返せるのではないかというような考え方もあり,高くなった段階で,そこを打ち切ってしまっていいのかということは考えなければいけないということがあろうかと考えております。
 また,その他のテーマということで,実際の返還月額の設定,いわゆる現行で言うところの毎月の割賦金を幾らに設定するのかということでございますが,こういったところも検討しなければいけません。また,当然家族の状況なども考えなければいけません。子供二人が高校に通って,あと二人が大学に通っています。あるいは家族の中に障害者がいます。そういった家族の状況をどこまで控除等,配慮するのか,そういったところが論点となろうかと思います。少し細かいところだったので,今回の資料からは捨象しておりますが,全体像としては以上のものが考えられるかと思いますので,本日お示しをさせていただきました。
 以上でございます。


【小林主査】  ありがとうございました。以上,二つ報告ありましたけど,これについて,御質問,御意見があればよろしくお願いいたします。どんな点でも結構です。


【樋口委員】  主査,よろしいでしょうか。


【小林主査】  どうぞ。


【樋口委員】  今の資料2の柔軟な所得連動返還型奨学金制度の方ですが,ここで想定している所得というのは,個人の実現した所得に応じてこういったものを適用するというような趣旨かというふうに思いますが,先ほどの小林先生の例示の中には,むしろ期待所得ですか。要は,実現していない,例えば職種によって,その所得というのが予想されるであろう所得に応じてというようなこともあるわけですね。実現した個人所得というふうにした場合,一つの論点になるのは,全員が働いているわけではないというようなことから,特に無業者になってしまう,あるいは専業主婦になるというような人たちに対して免除するのかどうかというようなことです。今,言われているのは,税制における配偶者控除の見直しの問題や年金の第3号被保険者についての改正というような働くことが損にならないというようなもの。かつては,実現した所得に応じて,支払能力があるかどうかというようなことを議論してきたわけですが,今はむしろ実現したということへの限界ですか。かなり所得というものも個人によって選択できるというようなことが出てきているわけでありまして,ここでの所得連動型を考えたときに,その問題をどうクリアするのかということです。


【小林主査】  これは私の方から少しお答えしますと,先ほど田中補佐から,最後に考慮すべき要因として家族のことがあるとありましたけど,このあたりのことをどうするかというのは,まさしく所得連動型の一番の重要な論点だと思います。先ほどの説明では,もう少し整理してということでしたが,こういったことを考慮するということも是非入れて,検討する必要があると思います。
 特に現在の所得連動型でも専業主婦は対象外です。これは日本の家族観といいますか,教育観といいますか,そういうものからするとやはり専業主婦が,無収入だからといって免除されるというのはおかしいのではないかというような考え方に立っていると思うのですが,そのあたりもう一回整理して考える必要があるということです。
 ただ,逆に言いますと,これはイギリスとかアメリカなど個人主義の国では,この考え方が,家族が単位になっているというのがなかなか理解できないのです。今回もイギリスに行って,質問すると,向こうが質問の意図が分からないのです。何でそんな質問をするのかというようなことを言われます。ですから,イギリスの場合には,本人が無収入であれば,配偶者がどんなに高収入であってもそれは無収入という扱いになると。全く個人主義ですけれども,果たして日本はこういうやり方がなじむのかというと,余りなじまないのではないかと思います。このあたりのことは是非きちんと議論していく必要があると思います。


【樋口委員】  おっしゃるとおりだと思いますが,ここのところ,アメリカはもう昔から二分二乗課税の,夫婦単位での課税を選択という形ですね。個人でやるのか,夫婦単位での納税をするのかということ。イギリスにつきましても,たしか3年前ぐらいから二分二乗課税が導入されてというような,個人からむしろ夫婦単位というか,家族単位のという方向が打ち出されているのかなというふうに思います。
 もう一つは,例えばアメリカの奨学金制度ですが,各大学がやるときにはクォータ制を導入していると思いますね。特に男女比については,男女の適用者を半分ずつにしなければいけないといったクォータ制です。日本は全くそれなしで今はやってきているわけですが,何かそういう配慮をしないと,どうしてもある意味では女性が不利になってしまうとか,あるいは逆に特定の人たちが有利になってしまうとかという問題が起こってくる可能性があるというふうに思います。


【小林主査】  これも少し補足ですけど,その点についても様々な推計が出されております。当然,将来所得を推計すれば,どの程度支払うかということが分かりますので,そうすると,最も支払が少ないのはやはり低所得の女性なのですね。こういった方はデフォルトになる可能性が非常に高いということで,ただし,それをいいとするかどうかということは,それぞれまさしく政策的な判断になるわけです。
 ほかにいかがでしょうか。
 もう一つ,すみません。私の方から補足いたしますと,最後のページに,「高収入が見込まれる高年齢者の残債務を免除することになる可能性がある」という御説明ありましたけど,これは確かに一つの問題でありまして,もう少し言いますと,社会人学生や留学生をどういうふうに考えるかという問題になるわけです。つまり,イギリスでいいますと,60歳までしか払わないわけですから,例えば50歳から学生になりたいという場合,この制度をどこまで適用するかという問題が残るわけです。そうしますと,これは現在進めている社会人の学び直しについては,むしろ社会人学生を増やしたいという施策になるわけですから,そのあたりとの整合性をどうとるかという問題が出てきます。
 それから,留学生について適用するかどうかということも非常に大きな問題でありまして,留学生の場合には,源泉徴収ができない。帰国してしまえばできないわけですね。これは自国民の海外居住者をどうするかという問題と同じですけれど,源泉徴収ができない人が残りますので,それをどうするかということも大きな論点になります。日本ではまだ,日本人学生で海外に居住する方というのは少ないと思いますけれども,今後増えていくことも予想できますから,その点も制度設計の中では考えておく必要があるのではないかというふうに思います。
 いかがでしょうか。どうぞ。


【前原委員】  今お聞きして,私はあんまりこういうことの知識がなかったのですが,頭が整理できて,ありがとうございました。一つ質問ですが,私はずっとこの数年見ていて,デフレの経済というのがこういう奨学金制度にとっては非常にアゲインストだったと思うのですが,少しインフレ傾向になってきて,それから,就職状況が急速に好転している。それから,ベアも大分行われるようになってきたという中で,これから先はどういうふうな見通しになるのかなということをちょっとお聞きしたいです。もう一つ素朴な質問ですが,就職によっては免除するというのが,昔,教員になったりするとありましたよね。その制度を何でなくしてしまったか,教えていただけたら有り難いのですが。


【小林主査】  一つ目の方につきましては,今までの制度というのは,終身雇用が大体前提にあって,安定した収入があって,それをきちんと返していくという思想でできたと思うのですが,現在のように非正規雇用が多くなっているとか,収入が安定しないような状況ですと,やはり所得連動型のようなことを考えなければいけないというようなことだと思います。ですから,おっしゃっていたように,就職状況が好転すればもちろんいいことでありますし,それだけ回収もよくなるとは思いますが,ただ,今までの制度でやっていく限りはちょっと限界がある。ですから,やはり新しい制度を考える必要があるのではないかというのが趣旨だと思います。
 それから,後者に関して事務局の方から。


【田中課長補佐】  先生がおっしゃっていたのは,職による返還免除があったという話でありまして,昭和28年度から平成15年度まで,新しく独立行政法人,JASSOになる前までは,御指摘のとおりありました。教育職に就いている,あるいは研究職に就いている方は返還が免除になっていました。これがなぜなくなったかという話でございますが,特殊法人から独立行政法人になる際に,あわせて制度が変更になったんですけれども,平たく申しますと,職によって区別するのは公平かという話があったというのがまず一つ。
 それから,当時の大学院を重点化していこうと。これから大学院に進む人に対してなるべくインセンティブを与えましょうという二つの理由がありまして,職の返還免除はなくなりましたけれども,大学院に進学した者に対しての優秀な人に対しては返還の免除をしましょうという新たな仕組みを入れ換えで作ったということがあります。大きな理屈としてはその二つが挙げられるかというふうに思います。


【小林主査】  私の方から補足として,98年の教員についてですが,当時の総務庁の方で,今で言う「事業仕分け」ですね。行政監査が入りまして,その報告が出ております。これは1995年に出ているものですが,教員がまず非常に当時人気があったということがあります。それから,人材確保法によりまして教員の給与が高い。人気もあり,給与も高い。それに対してさらに返還免除をするということは,先ほど補佐からありましたように,特定の職だけ優遇しているのでないかという指摘がありました。それに対して,改善するという意味で,文部省の中で検討会議が作られまして,廃止されたという経緯があります。


【前原委員】  なるほど。しかし,ここの委員会でも,大学院まで行くと負担が重くてという声がとてもあったように思いますが,それは免除されていない人が非常に増えたということですかね。


【小林主査】  現在は,大学院の3割ということに。第一種の3割ですね。全額が1割,半額が2割だと思います。ただ,一つの問題点は,学士課程について免除されていないのです。大学院のみの免除ですから。


【前原委員】  なるほど。そうすると,学士課程のときにもらった分は返還が始まってしまうと。


【小林主査】  ええ。在学中は返還猶予になりますけれど,返還はしなければいけないということになります。
 ほかにいかがでしょうか。
 それでは,またこの点に戻っていただいても結構ですので,次の議事に進めさせていただきます。次は,ヒアリングでの意見の整理と,それから,今後の検討の方向性ということであります。これについてもまず事務局より御説明をよろしくお願いいたします。


【田中課長補佐】  失礼いたします。それでは,議題2ということで,御説明させていただく資料は,資料3と資料4になります。
 資料3については,「今後の議論を行うに当たっての視点」,資料4は「ヒアリングでの主な意見」でありますが,まず資料4の方で,これまで前回まで3回にわたって行われたヒアリングの主な意見を,少し整理をさせていただきました。
 区分の仕方といたしましては,少々前になりますけど,昨年の11月に今後の検討の方向性ということでペーパーをお示しさせていただいた割り振り,要は,宿題になっている事項を列記した割り振りに従って,それに関連する発言ということで整理をさせていただいております。
 まず「貸与型支援の在り方に関連して」ということでございます。まず一つ目ということで,「真に必要な学生等や,優先的に支援すべき層についての不断の見直しと貸与基準の検証」ということで,おおむね4つほど意見を頂いているところでございますが,簡単に書いてございますけれども,主なものといたしましては,例えば3番,丸の上から3つ目でございますが,「学力基準を緩和し経済的に特に困窮している学生への救済措置を検討いただきたい」といった話や,あるいは家計基準の厳格化については慎重に対応すべきというようなお話を頂いております。
 また,二重丸のもう一つ目,無利子奨学金の拡充についてということでございますが,もうこれは皆さん,声は同じでございますが,無利子の奨学金をさらに拡充すべきという話でございます。
 また,3つ目でございますが,「社会人への奨学金充実など,多様な学びのニーズへ」ということであります。これについても,3つほど意見が出ております。一つありますのが,社会人に対する学生支援を考えるべきといった話。それから,社会人学生であれば厚生労働省の教育訓練給付金といった他の支援を踏まえた上で奨学金の在り方について検討すべきであるとか,あるいは,地方大学の学生に対しての配慮も必要ではないかといったお話がございました。
 これが貸与型支援の在り方に関してという点でございます。
 続きまして,「返還者の経済状況に応じた返還方法に関連して」ということでございます。まず二重丸の一つ目でございますが,既にこれは来年度予算において措置する予定の事項でございますけれども,延滞金の賦課率の見直し。賦課率の引下げや,段階的な賦課方式の導入などでございます。
 まずこれについては,意見が3つほどということで区分けさせていただきました。「4月から発生する延滞金のみならず現在生じている延滞金についても賦課率を引き下げるべきではないか」という話。あるいは,支払の充当順位ということがございますが,延滞金から充当するのではなく,まず元本から充当すべきではないかといったような話がございました。また二つ目,これは一つ目とちょっと相反する意見ではございます。裏腹な意見ではございますけれども,過去に生じた延滞金を遡って賦課率を下げるというのはさすがに難しいのではないかという話。それから,JASSOが個々の事例について,その延滞者の状況をまずは細かく分析することが重要ではないかといったような御意見を頂いております。
 一枚おめくりいただきまして,二重丸の二つ目でございます。減額返還制度や返還期限猶予の柔軟な運用ということでございます。これも26年度予算で措置させていただいた事項ではございますが,おおむねこれに関連して5つほどの御意見を頂いております。主なものといたしましては,より一層の制限年数の延長や賦課率の更なる見直しなどが必要ではないかという話。それと,二つ目といたしましては,まずは延滞者の属性の調査。先ほどの意見にもありましたけど,個々の延滞の事例をまずは聞いてみるべきではないかといったような話。それから,二つ飛ばしまして,5つ目の丸でございます。延滞者及び返還猶予の増加というのは,JASSOに原因があるものだけではなくて,その就職のミスマッチといった,そういった社会情勢が主な問題になるというのではないかと。JASSOだけに責めを帰すのは余りに酷ではないかというような御意見もありました。
 二重丸の3つ目でございます。今ほどお話をさせていただきました,より柔軟な所得連動返還型奨学金導入に向けた準備ということでございます。丸の一つ目は,皆様方,共通の御意見でありますけれども,より柔軟な所得連動返還型奨学金を導入すべきという話。二つ目でございますが,今ほどの論点の中にもありましたが,有利子奨学金にもという話でございます。3つ目でございますが,個人の所得について,生涯を通じて変動するということは,喫緊の状況を見ても大きくあり得るということでありますので,家計が急変した場合への対応というのも考えなければならないということ。4番目にございますけれども,割賦金の話,月々の返還額を変えるということもあり得るのではないかというような話がございました。
 以上が「返還者の経済状況に応じた返還方法に関連して」というところでございます。
 続いて,「給付的な支援に関連して」というところでございますが,一つ目の二重丸といたしまして,給付的な支援における各種の論点ということであります。これはこれから資料3の方でまた御説明をいたしますが,それに関する意見としてということであります。
 まず「給付型奨学金を導入すべき」ということ。これは各団体さんからも異口同音に同じようなことを言われているというところであります。
 また二つ目といたしまして,給付型奨学金について,災害など突発的な家計急変に対応するものをまずは導入すべきではないかというような話がございました。
 また,給付的な支援ということに関連してでありますけれども,TA・RA,すなわちティーチングアシスタント・リサーチアシスタントについて。これは拡充すべきではあるけれども,あくまで労働の対価でありサラリーとして渡しているものであるので,それはやはり奨学金の趣旨と異なるということは留意しなければいけないのではないかという御意見を頂いております。
 続きまして,二重丸の二つ目でございます。将来的課題としてということでありますが,「授業料減免制度も含めた給付的な支援策全体の制度設計について」です。まず授業料減免については,国公私で差があるということは御指摘のとおりで,その上で,そもそもその設置の形態が異なっているので,それぞれの在り方については慎重な検討が必要ではないかというようなこと,御意見を頂いております。
 また一方で,やはり私立大学の授業料減免については国立大学と比べて大きな差があるので,これは差を設けるべきではないといった御意見もあるといったところでございます。
 あわせて,専修学校については,そもそも授業料減免制度がないと,早期に導入すべきというような御意見を頂いているところでございます。
 また,少し飛ばしますけれども,丸の7つ目,8つ目のところでございます。支援の公平性あるいは教育機関ごとの趣旨を両立させるのはやはり大変難しくて複雑な議論になるのではないかと。まずは卒業後のフォローアップを行うことで,今後の検討に資するというのではないかというような御意見。
 8番目ですが,諸外国においては,国が一律の基準で支援する奨学金と,それに加える形で,地方独自や大学独自の奨学金があり,これは両方あって,車の両輪として行われていると。それぞれの別の形で行われて,こういった多様な形での支援というのはあり得るのではないかという御意見を頂いております。
 続きまして,二重丸の3つ目でございますが,「奨学金を含めたその他の経済的支援について」です。おおむね3つほど御意見を頂いております。先ほど出ました返還免除に関して,大学の学部段階までこれを広げるべきではないかといったお話。それから,職業といった話が先ほど出ましたけれども,資格を取得した場合には返還免除ができないのかと。あるいは有利子については利息の返還免除をすることはできないのかといったような御意見。あるいは,返還免除の基準設定に当たっては,学業成績だけではなくて,もう少し多様なスタンダードを持って判断するべきではないか。そういった形での制度設計をすべきではないかといったような御議論,御意見を頂いております。
 また,「そのほかの論点として」ということで,まず,奨学金制度についての情報提供という点について,4点ほど御議論いただいております。やはり金融教育が重要ということを一つ目で御意見として頂いております。また,二つ目で,やはり大学等も返還についての指導において重要な位置を占めているものであると。大学も教育機関としての役割を果たすというような自覚が必要ではないかというような御意見を頂いております。また,一つ飛ばしますけれども,貸与を受けるという自覚を育むため早期からの,高校生段階での情報提供や指導が必要ではないかというようなことを頂いております。
 また,一つ,二重丸を飛ばしまして,大学院生への経済的支援ということでありますけれども,社会の高度化,グローバル化に対応して社会をリードするのは大学院の修了者であると。やはり大学院生の経済的支援を充実させるべきであり,新しい支援というよりも既存の施策をより手厚いものにしていただきたいというような御意見を頂いております。
 また,日本人の海外留学支援について,日本の大学と海外の大学の学生との取扱いに差を設けずに支援をしていくべきではないかという御意見。また,その下でございますが,機構の運営体制について。JASSOの延滞金の扱いが過去に比べて格段に厳しくなっていることから,内部基準で運用されているのではないかという御意見。従前からの運用と異なっているところをJASSOとしてオープンにできないかというようなことを御意見として頂いています。また,保証制度の面についてでございますが,個人保証の制度は撤廃すべきという御意見。現在,民法の方でも,個人保証の制度はなるべく撤廃するという方向性になっているという御説明もありましたけれども,個人保証制度からなるべく機関保証の方へシフトするべきではないのかというような御意見を頂いているというところであります。
 雑駁(ざっぱく)で,非常に駆け足になってしまいましたが,ヒアリングでの発言を少々整理した資料としては以上でございます。
 引き続きまして,資料の順番が逆になってしまいましたけれども,今後の議論を行うに当たっての視点ということで,少々説明をさせていただきたいと思います。
 大きく分けてプロットといたしましては,ローマ数字の1から6でということで資料をお示しさせていただきました。まず一つ目としては,「今後の議論の大まかな方向性として」。あとは,個別の各論に入りますけれども,「学生への経済的支援の制度それぞれの在り方について」。それから,「所得連動返還型奨学金について」,「一層の返還困難者対策について」,「奨学金についての情報提供と理解増進について」,「その他」ということでございます。
 今回お示しさせていただいているペーパーは,これから今後恐らく2回程度になるかと思いますが,個別の論点を議論していくに当たって,こういった論点を議論していただく必要があるのではないかと事務局として考えて,たたき台としてお示しさせていただいたものと御理解いただければと思います。
 まだまだほかにも議論すべきことがあるのではないか,これも議論すべきではないか,あれも議論すべきではないか,これは要らないのではないかなど,様々な御意見を,先生方はお持ちかと思いますので,そういった観点からこの資料を見た上で,御議論を頂ければというふうに考えております。
 資料に入ります。まず一つ目でございます。「今後の議論の大まかな方向性として」ということで,総論的なものということで書かせていただいております。大きく二つでございます。「中間まとめにおいても」と書いておりますけれども,給付的な支援策全体の制度設計についての整理は,将来的な課題であると記述しております。先ほどの小林先生のお話の中でも,奨学金と授業料は,表裏一体というようなお話がありました。将来的にはそういったところも検討していかなければいけないと考えておりますけれども,まずその前提として,個別の支援策について,以下,ローマ数字の2以下で各論として掲げております。個別の支援策について議論を行って,議論の蓄積をした上で,将来的には全体的な課題につなげていくべきではないかというのが大まかな方向性として一つあります。
 また二つ目に,各団体からのヒアリングにおいても,給付型奨学金の創設に向けた議論は非常に強いものがあると記載しております。給付型奨学金あるいは給付的な支援というものを今後どういうふうに進めていくのか,どのようなプロセスでこれをやっていくのかということについても念頭に置きながら御議論を進めていただければと考えております。
 以上が総論的なものでございます。
 以下,各論的なものでございます。「学生への経済的支援の制度それぞれの在り方について」は丸を二つ置かせていただいておりますが,現在の学生への経済的支援は様々な形で行われております。JASSOが行っている奨学金は,返還免除は給付的な支援という側面もありますけれども,貸与型の奨学金です。また,民間の奨学団体が中心になって給付型の奨学金を行っています。各学校においては,授業料の減免や,大学院生のTA・RAなど,複数のメニューによって行われています。丸の二つ目ですが,こういった複数のメニューで成り立っている学生支援を,それぞれの制度自体に着目したときに,それがどのような理念で,どのような役割を持って行われるべきかという,かなり原点に戻ったような話でありますけれども,こういったことについて,個別の支援策の議論を行うべきに当たっては,もう一度共通の理解,整理をするべきではないかと考えています。
 個別の点としては,チェックマークが付いている3つがあります。そもそも学生支援の制度については,現在,複数のメニューにおいて行われているけれども,これは今後もう少し収斂(しゅうれん)していって,シンプルな形でなされていくべきなのか。あるいはこれまでどおりのように,こういった複数の手法をマッチングさせることできめ細かく行っていくのか。その分,考え方は非常に複雑になりますけれども。それとも,単純明快で,かつシンプルな形でやっていくのか。いろいろコストが掛かって複雑だけれども,多様な手段という方向性でやっていくべきなのかという点。
 また,各個別の学生支援メニューは,どのような観点でなされるべきかということで,少しここは漠と書いております。学生支援のメニューを考えるに当たって,よく言われる話としては,例えば育英的な観点を重視してやるのか。これは既に中間まとめの中にも記述はありますけれども,そういった優秀な人材を育てるという育英的な観点のこと。あるいは教育の機会均等を重視するという形の奨学的な観点を重視して行っていくのかという話。お金を渡すので,しっかりと大学,専門学校,高等教育機関で勉強してくださいというようなインセンティブを重視するのか。あるいは,社会に飛び立っていくときに,これを借金として負わなければいけないのかどうかということを,お金を手にする段階で分かる予見可能性の担保をどういうふうにとっていくのか。このインセンティブと予見可能性,このバランスをどのようにとるべきなのか。
 高授業料・高奨学金であるとか,先ほどのオーストラリアの高等教育貢献制度というような話がありますけれども,受益者負担を重視していくのか,あるいは高等教育の仕組みの中でも所得の再配分みたいなものを重視していくのか。そういった観点で,こういった要素をどのように踏まえて考えていくのかという,バランスを議論しなければならない。このようなものが観点としてあるのではないかというふうに考えております。
 3つの最後,こういった給付的な支援の充実というのはどのような順で行って,どのようなプロセスで行っていくかという話でございます。先ほど申し上げましたけれども,どのようなターゲットから,あるいはどのような規模感を持って,あるいはどのようなスパンで行っていくべきなのかと。これは考えておく必要があるのではないかということで,ここでお示しさせていただきました。
 続きまして,3番の所得連動返還型についてでございます。ここについては,具体の論点としては先ほどお示ししたものがあるので割愛させていただきますが,我が国において,この所得連動返還型を導入するに際しては,どのような点に留意して行うべきであるのかということです。
 ローマ数字の4でございます。「一層の奨学金返還困難者対策について」でございますけれども,先日成立いたしました平成26年度の予算においては,「真に困窮している返還者の救済」ということで,この席でも御紹介させていただきましたが,返還猶予制度の制限年数を5年から10年に延長している。また,延滞金の賦課率については,本年の4月以降に生じる延滞金から適用になりますけれども,10%から5%に賦課率を引き下げます。こういった対策はとってきたというところであります。
 ヒアリングでも一層の返還困難者対策は進めていくべきという意見も述べられていますように,今回措置しました返還猶予制度の制限年数の延長や延滞金賦課率の引下げに加えて,更なる改善の余地があるのかどうかという点について,もう少し議論をしていく必要があるかということ。また,加えて,返還者等への情報提供という視点でございます。本当に困っている人,本当に必要な人に対して,本当に必要な情報が行き渡っているのか否かというようなこと。そういった視点から,どのように広く周知を図っていくのかというようなこと。いくら対策を打っても,知らなければ意味がないので,どういう形でしっかりと情報を届けるのかというようなことを考えていく必要があるかと考えております。
 ローマ数字の5「奨学金についての情報提供と理解増進について」でございます。これもヒアリングの中で様々な方から御意見を頂いておりますけれども,やはり奨学金を受給するに当たって,金融リテラシーというのが足りていないのではないかという御意見がありました。お金を借りるという意味合いについてどれだけ皆さんが理解しているのか不安なところがあるということでございます。
 具体的には,実際に借りている大学生をはじめ,これから借りるだろうと思われる高校生,その保護者の方々に対してどういうような方策を持ってしっかりと周知を図っていくのか。あるいは何をそもそも伝えるべきなのかというようなことがあると考えてございます。
 具体的にはどのような形で情報提供を行うのが最も効果的なのか。誰にどのような場所で,どういったツールをもってやっていくのがよろしいのか。あるいはそもそもどういった点について,しっかりと理解をさせる必要があるのか。こういったことについて,もう少し御議論を頂ければと考えております。
 最後でございます。6番目,「その他について」でございますが,これはヒアリングの中で特に御意見など頂いたというものではございませんけれども,中間まとめや,様々な方と意見交換する中で,やはり考えるべきではないかということとして,民間の力をなるべく奨学の事業に対しても活用していただく,御協力を頂くという話でございます。ただいま海外留学の支援制度で,国と民間でマッチングして事業を行っているということもありますけれども,そういった形で民間の力を活用して,奨学の事業をもっと盛り上げていく必要があるのではないか,民間奨学団体等々のお力をどのようにかりて,どうやって連携していくかというようなことを少し御議論していただいてもいいのかと考えてございます。
 その他,冒頭申し上げましたけれども,こんな論点はやはりもう少し議論が要る,あるいはここはもう少し慎重な議論が必要なのではないか等々,先生方に御議論を頂ければというふうに考えてございます。
 説明は以上でございます。


【小林主査】  どうもありがとうございました。今の資料3と4につきまして御意見はありますか。はい,どうぞ。


【前原委員】  今の資料3ですが,ローマ数字の2に,どういうふうにするか,シンプルにするかと書いてありますけど,私が,自分で学校を経営しているときは,多様化しなきゃいけないということで,いろんな奨学金を作っていったんですが,JASSOの奨学金はシンプルでいいですけど,社会はいろんな多様な奨学金がある方がいいので,それはここで議論することではないのではないかと私は思います。各学校に任せておけばいい。
 それから,4の一層の返還困難者対策。これは前も申し上げましたけれども,就職氷河期に100万人ぐらい,うまくいかなかった人がたまっているという現実がありますので,これはJASSOだけの問題というよりも,文部科学省と厚生労働省がそういう就職がちゃんとできていなくて,奨学金を返せないという情報があるのであれば,再訓練,再就職に導いていくという施策をきちんとやるべきだと思います。ここに書いてあることはこれでいいんですが,是非ここの課だけの仕事ではなくて,文科省全体,それから,厚生労働省の本来の仕事ですので,そこを一緒になって考えて,意欲のある人がちゃんと就職できるように導いてあげてほしいと,切にお願いしたいと思います。


【小林主査】  ありがとうございました。全体としては,もちろん民間のものが多様であるべきだし,それはここで話すことではなくて,民間に任せることだというのはおっしゃるとおりだと思いますが,問題は,今のままでいくと,JASSOの方はかなり複雑になりかねないということです。ですから,そのあたりをどう考えるかというのは少し考えないと。


【前原委員】  やはりできるだけシンプルな方がいいでしょうね。


【小林主査】  ええ。先ほど少し申し上げましたけれど,アメリカは連邦の奨学金だけで相当複雑な仕組みを作っていまして,これが情報の混乱を生んでいる大きな理由です。JASSOも例えば所得連動型を入れるとなると,既存の制度との関係とか,先ほどの家計急変に対応するとかいろんな問題がありますので,そのあたりをどうするかというのは少し議論しておく必要があるのかなと思います。


【前原委員】  そうですね。


【小林主査】  ありがとうございました。
 ほかの委員の皆さん,いかがでしょうか。どうぞ。


【奥舎委員】  少し,詳細になるかも分かりませんが。私は,学生への経済的支援の制度の中に,ずっと頭にあったんですが,諸外国と比べた場合に,奨学金の上限額といいますか,それは,日本はどのような状況なのでしょうか。
 私は,今の奨学金に,部門によっては上限額の設定をした方がいいと思っております。上限額の設定を学生や各家庭に任せるとすると,本当に厳重な厳しい,いわゆる教育ローンに対する返還額のことをきちっと周知しないと,なかなか返還の徹底ができないのではないかと思っております。並行で進めるのもいいかと思いますが,それよりはいわゆる貸付けの上限額の設定を議論したらどうかと思います。
 それからもう一点は,やはり無理かも分かりませんけど,いわゆる元利均等払いの支払方法の見直し。1年間に元金がこれだけ減ったら,2年目は元金がこれだけになって,利子はこれだけですというようなローンの返済方法は,奨学金という制度に名をかりるなら,根本的に元金均等で支払うという方法を考えていただければと思います。


【小林主査】  ありがとうございました。いろんな御意見が入っていたと思いますが,諸外国の例でいいますと,イギリスの場合をまず説明いたします。先ほど申しましたように,授業料も生活費も全部後払いになってしまっていて,9,000ポンド,日本円で直すと今は150万円ぐらいで,イギリスは学士課程が3年ですから,450万円です。それに生活費を加えますから,相当な額です。もちろん全部借りなくても生活費の方はいいのですが,それにしても相当な額だということは大きな問題になっています。 さらに利子が導入されましたので,これが大きな問題になっているわけですけれど,かなり額が大きいということは事実です。それから,もう一つ大きな問題になっているのは,アメリカの専門職大学院の場合です。これは学費が非常に高いので,それを全額借りるとなると相当な金額になります。何千万円となる場合もありますので,それが返済できない場合に大きな問題になっているということもあります。ですが,考慮しなくてはいけないのは,これらの国の場合には,ほかの奨学金や支援の制度もありますので,それらとの関係で決まってくるのですね。ですから,金額だけでなかなか言えないところがあるということが一つです。これが諸外国のことについて。
 私は今,専門学校の調査とか幾つか委託事業で行っていますが,大体授業料は奨学金で賄うという学生が非常に多いです。そうなると,上限の12万円でも今は足りないぐらいなので,かなりの割合が12万円まで借りてしまっていると。後になって返済に困るということがありますので,そういう意味で上限額をどうするかということは,これから検討していっていいかと思いますけれど,そのような状況があるということです。
 それから,2番目の議論は,私は専門ではないのでちょっと分からないのですけれど,所得連動型の場合にどういう返還になっていくのか。この辺はもう金融の専門家の方でないとちょっと答えられないのですが,いずれにしても,考えなくてはいけない問題だろうと思っております。
 事務局の方から,今の奥舎先生の意見に対して,何かありますでしょうか。


【渡辺課長】  後者ですか。


【小林主査】  いえ,どちらの議論についてでも結構ですが。


【渡辺課長】  お答えになっていないかもしれませんが,特にこれからは所得連動型で返還していくような仕組みを導入することが,将来的にはやはり延滞状態を少しでもなくしていくということに当然つながっていくと思っていまして,そうすると,先ほどの資料2でもお示しさせていただいていますその他のテーマというところに書いてある,返還月額の設定というところに一番大きく効いてくるはずだと思います。例えばオーストラリアとイギリスの場合は,所得に応じて毎月の返還額がきまりますが,もう比率が決まっていて,例えば日本円で所得が600万円だったら,600万円では4.5%だと,その金額に応じた元金と金利の比率というのが設定されているはずです。特に有利子の第二種奨学金についても我々は導入したいと考えていますが,第二種奨学金に導入しようとすると,そこの元金と金利をどのようにして返済していただくかを決めることは,そもそもの償還確実性をどう担保していくのかという議論にはなってくるはずです。細かい金額の設定については,これはかなり詰めた議論が必要だという意味で,論点としてはここに挙げさせていただきましたが,具体的な数字等についてお示しすることはなかなかすぐにはできないので,まずは問題点ということで示させていただきました。


【奥舎委員】  毎月の返済額は,元利均等が少なくなるのではないかと思いますが,元利均等の場合,いわゆる住宅ローンでも何でもそうですけれど,1,000万借りて,金利が仮に5%として20年償還とした場合は,元金と利子をひとまとめにして,これを年払いするわけですね。半年賦でも,年賦でも。そうした場合,貸付けの方は利子ばかりを払う。借りた方は利子ばかり最初に払っていくわけです。それで元金は残るわけですね。元金が担保されて,利子ばかり払っていくようになるわけです。まあ,樋口先生の御専門で。


【小林主査】  いや,もう全くそのとおりです。


【奥舎委員】  そうした場合,借りた者は何年たっても利子ばかり払って,借りた元金が減っていかないので,貸し付けた方はもう元金をきちっと担保してしまうわけです。先に利子ばかり払っていくという形になるわけです。そうした場合,学生が借りた場合に,その利子ばかり払っていったら,まだこんなに元金が残っているのかと感じて,いわゆる払う意欲がわかないというか,これだけ払ったのに利子ばかり払っているだけで元金が少しも減ってないじゃないかということで,払う意欲がそがれるという感じを私は持っております。だから,今までやってきた元利均等の方式は見直して,どこかの時点で元金均等で奨学金を払うのが返還に対する意欲がわくと私は思っておりますので,是非検討していただきたいと思います。


【小林主査】  どうぞ。


【渡辺課長】  実は今,繰上げ返還されている方がかなりいらっしゃいます。繰上げ返還をされる方のインセンティブは,恐らく少しでも繰り上げて返すことにより,利子を払うのを少しでも減らして,元金を減らすためにということだと思います。多分,元利均等の場合は,少しでも早く返すというインセンティブがわくという側面も多分あるのだと思います。詳細な議論は別としてです。元金均等にする場合というのは,通常の住宅ローンなどの場合ですと,どうしても最初は返済する額が大きくなってしまいます。元金に加えて利子分というのは,先取りして払っていくことになるので,そうなると思います。通常,元金均等ですと,どうしても利子分というのは,やはり元金の残額が大きい最初に多く掛かってくるので,利子分が高く設定されてしまうのですけれど,それをそうではないような仕組みを検討すべきという,そういう御意見でしょうか。


【奥舎委員】  元金均等と元利均等では,元金均等にしないとローンはどうしても利子ばかり払うようになるんです。必ずそうです。御存じでしょうけど。


【渡辺課長】  それは毎月の支払額を一定にするためにどうしても元利均等の考え方になります。


【奥舎委員】  例えば1,000万借りて,100万払ったと。初年度に100万払って,利子を払いますね。それから,2年目は900万に対する利子を払うわけです。3年目は800万に対する利子を払うと。いわゆる残った元金に対する利子を年額で払うようになりますからね。年で割って。だから,ローンそのものはみんな元利均等なんですよ。住宅ローンも,いわゆる民間の金融機関は。そうした場合,仕組みとしてはどうしても元金均等の支払よりは全体の支払額が多くなるのは事実なんです。多くなりますし,利子ばかりを最初に払っていきます。元金が残りますから。例えば8万円の利子に元金が2万円,次は7万円で3万円という形になるわけですね。ですから元金均等にすべきだと思うのです。


【月岡理事】  今の仕組みについてですが,元利均等で払ってもらっていますけれども,毎回毎回の割賦金の内訳というのがあります。例えば,月額5万円,4年間,総額240万円を借りて,利率固定方式で年利率1.17%だとした場合,1回目は,割賦金は1万4,620円で,基本的に最終回まで同じ金額です。したがって,最初の段階の割賦金の額が元金均等と比べて小さくなっていると思います。内訳は,元金が1万2,204円で,利息が2,340円,据置期間利息が76円となります。1回目を返還してもらいますと,元金は240万円から1万2,204円減りまして,238万7,796円となります。この減った元金がベースになって,2回目の利息を計算していくということをずっと繰り返していって,元利均等になるように計算をしております。


【奥舎委員】  全体的な総額の支払は,計算してみると,元利均等の方が多いはずですよ。


【月岡理事】  それは,そう思います。


【渡辺課長】  それは元金均等の場合は,元金をより多く返還していくので,そうすると,その元金に加えて利息分がどうしても上乗せされてしまうので,負担は増えますが。


【奥舎委員】  しかし,元金は減っていくわけで。


【渡辺課長】  どうしても最初に支払う返還額というのが,通常の元金均等の考えですと,増えてしまいます。例えば今の話ですと,1万4,000円ぐらい,元利均等の場合はずっと固定で,1万4,000円が最後まで行くのですけれども,元金均等にすると,最初に元金で1万3,000円設定したら,その1回目に払う利息分というのがどうしても3,000円とか高い額になって,それが最後の方に来ると,元金はずっと1万3,000円に並行していって,最後は利息はもう10円とか20円というふうに減っていく。そうすると,どうしても最初に割賦して返還する額というのが,通常のルールですと,元金プラス利息になって,高くなってしまうわけです。なので,それも含めて,元金均等の新しい仕組みを検討せよという,そういう御理解でよろしいですか。


【奥舎委員】  いや,私は元金が先になされるような仕組みになったら,借りた元金が減っていき,その分だけ学生が支払う気持ちがわくんではないかと思うわけです。


【渡辺課長】  ええ。しかし,どうしてもそこには利息分という上乗せを,プラスアルファで払わないといけないことになるので。


【奥舎委員】  全体的には総額では元金均等の方が少ないわけです。


【渡辺課長】  ええ。少ないです。


【奥舎委員】  はい。そのこともPRしないといけない。


【渡辺課長】  少ないですけれども,最初からお金がある人は多分それでたくさん返せると思うんですけれども,なかなか収入が上がってこないと,返還開始当初に1万8,000円とか比較的大きな金額を返していくというのは,もしかしたら厳しい場合もあるのではないかと思いますが,そういうことも含めて検討するという理解でよろしいでしょうか。


【奥舎委員】  私はその方がいいと思いますけど。


【渡辺課長】  分かりました。


【小林主査】  この返済の方法というのは非常にややこしくて,各国とも非常にいろんな形を取り入れているので,先ほど申しましたように,所得連動型になるとまた違うのですよね。これは十分研究しなければいけないと思いますが,論点としてあるのは,ここに入れておけば良かったのかもしれないですが,当然ながら教育費負担の軽減です。返済の負担の軽減ということが入りますので,そうすると,今の議論のように,負担の軽減という観点からすると,返済額は少ない方がいいという形になります。ただ,そうしますと,利子が入っている場合には,返済総額は多くなるという問題がどうしても出てきます。ですから,そこをどういうふうに設計するかという,そういう問題だろうと思います。
 実はアメリカの所得連動型の場合には,先ほど言いましたように高利子ですので,かなり利子分が多いです。そうしますと,実は所得連動型にすると,利子分も払えないということが起き得ます。今,言われましたように,元金は全く減らないということが起きてしまうわけです。ですから,その場合には所得連動型は使えないということにアメリカではなっています。イギリスとオーストラリアは実質無利子なので,この問題は起きなかったのですが,イギリスは今回利子を導入しましたので,高所得者の場合には,その利子の問題というのが付いてきます。ですから,そのあたり,非常に複雑になっていますので,どう設計するかというのは,これは日本でも十分考えていかなければならないと思っております。ありがとうございました。
 どうぞ。


【樋口委員】  よろしいでしょうか。資料3の今後の議論のところで,1あるいは2の大きな時計文字のところとの関連で,きょう,小林先生から海外におけるいろんな制度について御説明いただいて,よく分かりましたが,その中で一つポイントになってくるのは,やはり日本の場合,学生の収入面での親からのカバーが非常に大きいと。例えばイギリスの場合,先ほどの数字を見ても,2012年に親が負担している部分というのは10%ちょっとしかなくて,残りは全部本人が何らかの形で収入といったものを得て,そこから授業料なり,いろんなもの,生活費を出しているというようなところがあるわけですね。
 そうすると,その学生の経済的支援という問題を考えるときに,教育の機会均等というと,親の所得により機会の均等が奪われているのではないかというような問題が,やはり日本の問題としてあるのではないかというように思うんですね。それによって,奨学金とか,あるいは授業料減免というようなことも議論していく必要があって,この問題というのはやはり重要な問題であって,是非今後考えていくべきことがあるのではないかというふうに思います。
 例えば授業料減免との関連でいうと,授業料の高さ。授業料が低い大学もあれば,そうではない大学もあるわけですね。これも,国庫助成や国からの支援という形で,授業料が必ずしも必要とする費用を全部カバーしているわけではないということになりますと,そこについては税金によって補われている部分というのがあるわけで,それも含めて議論しないと,この奨学金と授業料減免というだけでは議論できないところがあるのではないかというように思います。
 先ほどのお話でも,授業料の高いところでは奨学金をたくさん出していますよというようなお話がありましたけど,日本は,現状は必ずしもそうなっていないのですね。授業料の低いところでも奨学金がたくさん出ているというようなことがあったりするということを考えていくと,そこでの機会の均等の問題というのをどう考えるのか。特に親の所得と機会均等の問題がかなり連動してきているというような実態を考えたときの問題ですね。これを考えていかないと,個別に奨学金は奨学金,あるいはその返還のところだけを取り出して議論すると,往々にして,思わぬ方向に行ってしまう可能性があるのではないかというふうに思いますので,その点についてもよろしくお願いしたいというふうに思います。


【小林主査】  どうもありがとうございました。本来は,これは私の方が言うべきところを,樋口先生に言っていただきましたが,教育の機会均等のことは非常にやはり重要な問題でありまして,日本の場合にどうなっているかということは,私たちの方でずっと継続的に調査を重ねております。やはり私立大学には相当な所得との関係が出てきてしまっていて,国公立大学はそれほど出てきていません。これは今,御説明があったように,授業料が低くて,かなり授業料減免とか様々な制度的な措置がされているので,国公立大学は比較的所得階層との関係は出てこないけれども,私立大学は非常に大きな格差があることは事実です。
 それから,専門学校については,逆に所得の低い階層が非常に多いというようなこともあります。このあたり,機会均等というのはもうこの学生支援を考える場合の一番基本の一つですので,やはりこれは視点として入れていかなければいけないというのはおっしゃるとおりだと思います。
 それから,授業料と絡めて,もっと言いますと,国の教育費負担の在り方とか,授業料の在り方とか全部を含めて議論しないと,確かに,一部だけ取り出しても余り意味がないというのはおっしゃるとおりです。ただ,これはここで議論できるかどうかということがあります。もっと実は大きな問題で,本来なら中教審とかそういう場で議論するような問題だろうと思いますけれど,これはまた事務局とも相談させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
 はい,どうぞ。


【濱田委員】  ちょっと細かくなるかもしれませんが,最初の資料2の2ページ目,テーマ3「返還開始のしきい値」のところです。300万円以下というのは承知していますけれども,様々な年収確認の仕方というのがあり得るのではないかと思います。私が少し個人的に心配しますのは,細かいことではありますが,専門領域によっては,卒業後,家業を継ぐのではなく,自らのベンチャーといいますか,起業するというケースがあって,収入の不確定さの問題というのは今後,増えていくのではないかと私は考えているんですけれども,何かその辺のところの確認の措置というのが,既にもうできているのかどうか,お聞かせ願えれば有り難いなと思うのですが。何らかの形のものに。


【月岡理事】  返還期限の猶予の場合には,市区町村役場が発行する所得証明によって確認をしています。


【濱田委員】  そこに入ってしまうということですか。はい。ありがとうございます。


【小林主査】  基本的には番号制度が導入されれば,自営業の方も所得が把握できますので,それはそういう形になると思いますけれど。


【濱田委員】  ですから,心配されるのはかなり不安定であるという方についてです。


【小林主査】  まあ,そうですね。それはおっしゃるとおりです。
 ほかにいかがでしょうか。どうぞ。


【松本委員】  今後の論点みたいな御説明いただきまして,ほとんど今までの検討の延長線にあることでございますし,網羅されていると思いますが,私は非常に関心を持っておりますのが,2番でも指摘されております給付型支援の在り方。これは必要性については,どなたにお聞きしても,要るねというようなところまでは行くのですが,具体的な制度設計ということになりますと非常にハードルが高いといいますか,税金を使ってここまでやっていいのかみたいなところも含めていろいろあると思います。先ほどから出ておりますが,やはりこの奨学金制度の育英という観点からも,人材への投資という観点からしても,やはり日本において給付型支援の制度を立ち上げるということは必要なんじゃないかなと私は思います。
 私どもの民間奨学金団体においても,そういうことからして,やはり給付型へ全部切り替えたのですが,そのときも相当いろんな論議をして,奨学金というのは返すものだから,渡したきりのものはいかんとかいろんな意見がありましたけれども,やはり踏み切ってみて,もう4年目を迎えましたけれども,良かったと思います。
 テーマの中にも出ておりますけれども,JASSOさんと民間のもののコラボレーション。これをどう民間団体として対応できるのか。私は最近この検討会の報告をする形で,民間の奨学金団体の理事長さんともいろんなお話をさせていただいているのですが,皆さん,それなりにそういう意識もちゃんと持っています。ただ,やはり民間ですから,金銭的にも限度があり,なかなか網羅的なものというとまたそこはそこでいろいろ問題あると思います。やはり給付的支援につきましては,試行といいますか。なかなか公の制度として試みに行うというのは許されないことなのかもしれませんけども,そのぐらい思い切って大胆に踏み込んでいただきたいと思います。例えば全体の奨学金の3万円の部分だけでもいいから給付にするであるとか,こういう条件でこういう選考方法で,こういう人たちを選ぼうと,そういう観点で是非この検討会で何らかの方向付けを出していただきたいなということでございます。テーマに入っておりますので,そういう議論もこれから行われると思いますが,よろしくお願いをしたいと思います。


【小林主査】  ありがとうございます。すみません。少しお伺いしたいのですが。民間のそういった育英会の理事長と,お話をされているということですが,そういった連絡会とか協議会のようなものがあるのでしょうか。


【松本委員】  何とか連絡会とか協議会という形では存在していません。ただ,やはりいろいろな情報交換ですとか,交流はあります。大きな流通グループ,食品メーカー,銀行のグループ,あるいは,中小企業がおやりになっている技術関係の奨学金であるとかいろいろありますけれども,そういったところとは日頃から話し合う機会もあり,専務理事さんとか事務局長さん同士の交流もあります。


【小林主査】  そのあたりも,民間の育英会の中間団体がないといいますか,業界団体というのがないというのがやはり問題だと思います。


【松本委員】  そうですね。先日のお話でも出ておりましたよね。


【小林主査】  ええ。是非それは議論したいと思っています。


【松本委員】  ええ。そう思いますね。


【小林主査】  ありがとうございました。


【松本委員】  はい。


【小林主査】  中村委員,いかがでしょうか。


【中村委員】  たくさんあるのですが,二,三に絞らせていただきます。まず一つ目でございますけれども,この検討会が開催されるときの一番緊急の問題として何があったかといいますと,返還困窮者に対する救済としてどういう手があるかというところからまず始まってきたと思います。まずこの平成26年度に向けての予算付けの中で,5年の年数制限を10年に延長することと,延滞金賦課率を10%から5%へ軽減するということで御対応いただきました。これを数値的にシミュレートした場合にどのくらい困窮者の救済になっていくのかというところを知りたいんですけれども。もしこれがまず,とりあえずのところであるというならば,平成29年度施行のマイナンバー制を前提としたこの所得連動返還型奨学金制度は,今後これを考えていきましょうということですけれども,29年度まで待っていてよいのかということだと思うのです。このあたりまず一点。
 それから,もう一点が,学び直しのところで,前にも少しお話しさせていただきましたけれども,同一学校種に再入学した場合,両方でこの奨学金の貸与が受けられるということも,是非御対応いただきたいと思います。
 あと,もう一点。育英というところも大事かもしれませんけれども,やはり,発達段階における進路決定をしていく中で,先ほど小林主査のお話もございましたように,同じ日本国民として教育を受ける権利の均等,また安心を前提として,進路決定がされていくための手段として提供する。それからもう一つは,やはり教育という場における奨学金制度でございますので,社会に対する「感謝の気持ち」を教育の一環として,奨学金についての情報の提供,理解を深めるという意味もあわせて,是非募集要項等に明文化を図っていただきたい内容かと思います。
 以上です。


【小林主査】  ありがとうございました。最初のことについて,これがどの程度効果があるということについては,また事務局の方で,具体的な数とか,あるいはざっくりとした数字を出せますか。


【田中課長補佐】  シミュレーションですか。


【小林主査】  何かありますか。きょうなければまた宿題ということで。


【渡辺課長】  そうですね。その部分については,概算要求の段階で,シミュレーションしていますので。


【中村委員】  と思いますが,その資料はないのでしょうか。


【渡辺課長】  今すぐには出せません。


【石矢奨学事業本部長】  猶予期間を,今は5年,60か月に制限していますけれども,60か月を取得して,それでもなお,今延滞している人というのが1万2,000人ぐらいいらっしゃいます。そういった方に対して,今回の措置は有効な措置になるのではないかなと思います。実際その方が再度猶予申請を出してくるかというのはまた別な話でありまして,それは概算要求のときに試算しております。


【渡辺課長】  今手元に資料が見つかりましたので御説明します。制限年数を倍に,前提として,まず今,延滞状態になる方は33万人いらっしゃいます。そのうち返還猶予制度の制限年数を倍に延長することで救われる方というのが7,000人ぐらい。それから,返還猶予制度の適用基準。今,一律に300万円以下としていますけれども,家族構成などを考慮し少し柔軟に適用するということで救われる方がおおむね3万人。それからあと,これまでの返還猶予制度を適用する際には,猶予が適用できる期間の前に少しでも延滞が残っていると猶予しませんという扱いをしていたのですが,そこも柔軟に,本当に困っている方で取得制限以下の方に対しては柔軟に運用していくということで,これで5万人ぐらいの方が救われるというようなシミュレーションがございます。
 それから,学び直しの点についての御指摘もありましたけれども,これも4月から,例えば学部からまた学部に入る方に対しても,第一種の奨学金が再貸与できるような運用改善を行います。所得連動返還型奨学金は,マイナンバー制が平成29年度に導入されて,JASSOでは最も早くて30年度から導入できるように,今,準備を進めつつありますけれども,その前の間の対応については,これはやはり5年から10年に返還猶予期間を延ばしたということが効いてきます。5年間の猶予がさらに追加されますので,本当に困っている方についてはその5年分の猶予の期間の間に新しい所得連動の仕組みを導入されまして,その後は収入に応じてより柔軟な返還ができるような対応を我々は考えております。


【中村委員】  よろしいですか。国会の予算委員会ではないのですが,この33万人に対して8万7,000人という数は,これはある程度予測できた数なのですか。


【渡辺課長】  予測というかシミュレーションの結果です。


【中村委員】  少ないかなと思うのですが。


【渡辺課長】  今,さっき申し上げた33万人のうち,19万人が3か月以上の延滞状態にある方です。


【中村委員】  19万人。


【渡辺課長】  ええ。3か月以上。ですから,その中には,もう10年以上延滞状態という方もいらっしゃいます。それで,やはり返還されない方もいます。JASSOのアンケート結果の中でも,そもそも返すものと思っていなかったというような方も一定数いらっしゃいます。あるいは,もちろん年収ベースで見ると,実際に返している方よりも延滞している方の方が平均所得水準はより低いですけれど,ただ,そういう中にあっても300万円を超えている収入があるにもかかわらず,私は別のローンがあって,奨学金は後回しになっていますとか,そういう方々もいらっしゃいます。今回講じた救済措置でも,全ての方は救えない状態ではございます。ただ,我々としては,本当に困っている方については少しでも救えるようにということで,救済措置を充実させましたが,さらにプラスアルファでもっと救えるような措置がないかということについて,もちろん御議論いただければと思います。


【樋口委員】  今の定義で言うと,一層の返還困難者の定義というのは,先ほど出ました本人年収が300万円以下ということで定義しているのですか。


【田中課長補佐】  すみません。これは日本語の問題として,返還がより一層な困難な人ではなくて,返還困難者対策として,今やったものに加えて,オンして,まだほかにできるものがあるかという,そういう意味です。


【樋口委員】  「一層」というのは「対策」に掛かるのですか。


【田中課長補佐】  そうです。


【樋口委員】  「返還困難」じゃなくて。


【田中課長補佐】  はい。


【樋口委員】  では,それはそうとして。


【渡辺課長】  加えて,実際,今,300万円以下の年収の方でも,返している方はかなりいらっしゃいます。


【樋口委員】  いますよね。それで,これは年収というふうになっていますけど,課税所得。


【渡辺課長】  ですね。はい。


【月岡理事】  これは額面でのお給料全部ということです。


【渡辺課長】  税込み年収です。


【石矢奨学事業本部長】  税込みです。


【樋口委員】  ということは,税引き前ということは,自営業についてはどのように判断していますか。


【石矢奨学事業本部長】  自営業については,必要経費を差し引いた上で所得が200万円という基準で判断しています。給与所得者の場合は税込み年収で300万円です。


【樋口委員】  その根拠というのは何ですか。300万とか200万という。何で300万円にセットしているのかなとかですね。


【石矢奨学事業本部長】  平成16年度の生活保護制度における生活扶助基準,当時の初任給,そして当時の国民生活基礎調査を参考にその300万円の基準を設定しています。


【樋口委員】  いや,課税前所得で300万ということは,課税所得にすると200万円切りますよね。


【石矢奨学事業本部長】  はい。


【樋口委員】  百何万だろうというふうに思いますが,何かこれは定義,そういった返還困難者についての定義というものも今後議論の中でしていく必要があるのではないでしょうか。誰をもって返還困難者と言うのかということですね。先ほどのような問題もありますし。


【小林主査】  これは少し違いますが,しきい値の設定が非常に重要だというのは先ほど申し上げたと思うのですけれども,これは国によって考え方が違います。アメリカは,貧困ラインの150%。それぐらいないと返せないだろうという発想です。ですから,これはそれぞれ国によっていろんな考え方で決めていきますから,日本に一番いいしきい値は何かというのは,これは非常に重要な問題だと思います。それ以外の今の,返せないだろうというラインをどう見るかというのは別の議論としてもやらなければいけないと思っています。ありがとうございました。
 すみません。時間がもうなくなってしまいました。本日はいろんな御意見を頂きましたので,またもう少しきちんと整理して,次回以降,具体的な制度設計と,それから,やはり大きな議論もしておく必要があるということもよく分かりますので,そのあたりのことを含めて,4月以降やっていきたいと思っております。ありがとうございました。
 それでは,最後に事務局から,今後の予定について御説明をお願いいたします。


【田中課長補佐】  失礼いたします。今後のスケジュールでございますが,4月中に次回の検討会を開催しようというようには考えています。もう少し先の話を申し上げますと,4月,それから,5月で個別の論点を少し整理させていただくという会を設けたいと思っております。それを踏まえて,最終的な報告書に向けて,素案の質疑あるいは報告案の質疑といった段取りを踏まえて議論を進めていきたいと。おおむね夏ぐらい,概算要求の前までには何らかの形で報告書にまとめたいと,今のところそういった算段で考えております。具体の日程は,調整をさせていただければと存じます。以上でございます。
 それから,先ほど中村先生からお話のあった返還困難者の実績値の話でございますが,ここのところも,本日はお配りできる資料はございませんでしたので,改めてまた出した上で,御説明させていただきたいと思います。
 以上でございます。


【小林主査】  ありがとうございました。それでは,以上をもちまして,学生への経済的支援の在り方に関する検討会,第9回を閉会させていただきます。委員の皆様,どうもありがとうございました。


―― 了 ――

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