【参考1】「インターンシップの導入と運用のための手引き(~インターンシップ・リファレンス~)」(平成21年7月文部科学省高等教育局専門教育課)(参考資料2)

インターンシップの推進に当たっての基本的考え方

平成9年9月18日
文部省
通商産業省
労働省

1 インターンシップ推進の背景及び趣旨
 国際化・情報化の進展、産業構造の変化など、日本の社会経済の変化に伴って、企業内での能力主義の徹底など雇用慣行を取り巻く環境が急速に変わりつつあるとともに、求められる人材についても大きく変わってきている。
 こうした状況の中、人材育成の核となる大学等においては、産業界のニーズに応える人材育成の観点も踏まえ、創造的人材の育成を目指して教育機能の強化に努めているが、その一環として、産学連携による人材育成の一形態であるインターンシップが注目されている。
 政府においても、インターンシップが、高等教育における創造的人材育成に大きな意義を有するとともに、新規産業の創出等を通じた経済構造の改革にもつながるという観点から、「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月16日閣議決定)及び「教育改革プログラム」(平成9年1月24日文部省)において、インターンシップを総合的に推進することとしている。
 我が国においても、既にいくつかの大学等や企業等においてインターンシップを実施しており、また、今後、新たに導入を検討しているところもある。
 インターンシップについては、個々の大学等や企業等の独自性を活かしつつ、多様な形態のものを推進していくことが基本であるが、今後様々な取り組みが広がるに伴って、その在り方が大学等、企業等、学生それぞれに大きな影響を与えるものであり、望ましい推進の方向について、早急に政府としての基本的な考え方を明らかにすることが求められている。
 インターンシップに関しては、文部省、通商産業省、労働省が連携して施策の推進に努めているところであるが、インターンシップのより一層の推進を図るため、インターンシップに関する共通した基本的認識及び今後の推進方策の在り方をとりまとめたものである。

 

2 インターンシップとは何か
 インターンシップとは、一般的には、学生が企業等において実習・研修的な就業体験をする制度のことであるが、インターンシップが活発に行われているアメリカにおいては、大学のイニシアチブの有無、実施期間、実施形態等によってインターンシップと称するかどうかを区別する場合もあるとされている。
 一方、我が国においては、インターンシップについて、関係者間で共通した認識・定義が確立しているわけではなく、「経済構造の変革と創造のための行動計画」及び「教育改革プログラム」においては、インターンシップを「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」として幅広くとらえることとしている。

 

3 インターンシップの意義
 インターンシップは、大学等の教育サイド、これを体験する学生、学生を受け入れる企業等のサイドそれぞれにとって、様々な意義を有するものであり、それぞれの側において積極的に対応していくことが望まれる。

1)大学等の教育サイド及び学生にとっての意義
○教育内容・方法の改善・充実
 アカデミックな教育研究と社会での実地の体験を結び付けることが可能となり、大学等における教育内容・方法の改善・充実につながる。
 また、学生の新たな学習意欲を喚起する契機となることも期待できる。
○高い職業意識の育成
 学生が自己の職業適性や将来設計について考える機会となり、主体的な職業選択や高い職業意識の育成が図られる。また、これにより、就職後の職場への適応力や定着率の向上にもつながる。
○自主性・独創性のある人材の育成
 企業等の現場において就業体験を積み、専門分野における高度な知識・技術に触れながら実務能力を高めることは、自主的に考え行動できる人材の育成にもつながる。
 また、企業等の現場において独創的な技術やノウハウ等がもたらすダイナミズムを目の当たりにすることにより、21世紀に向けた新規産業の担い手となる独創性と未知の分野に挑戦する意欲を持った人材の育成にも資する。

2)企業等における意義
○実践的な人材の育成
 インターンシップによって学生が得る成果は、就職後の企業等において実践的な能力として発揮されるものであり、インターンシップの普及は実社会への適応能力のより高い実践的な人材の育成につながる。
○大学等の教育への産業界等のニーズの反映
 インターンシップの実施を通じて大学等と連携を図ることにより、大学等に新たな産業分野の動向を踏まえた産業界等のニーズを伝えることができ、大学等の教育にこれを反映させていくことにつながる。
○企業等に対する理解の促進
 大学等と企業等の接点が増えることにより、相互の情報の発進・受信の促進につながり、企業等の実態について学生の理解を促す一つの契機になる。これについては、特に中小企業やベンチャー企業等にとって意義が大きいものと思われる。

 

4 インターンシップ推進の望ましい在り方
インターンシップの形態としては、概ね次の3つに類型される。

イ 大学等における正規の教育課程として位置付け、現場実習などの授業科目とする場合。

ロ 大学等の授業科目ではないが、学校行事や課外活動等大学等における活動の一環として位置付ける場合。

ハ 大学等と無関係に企業等が実施するインターンシップのプログラムに学生が個人的に参加する場合。

 いずれの類型のものについても、インターンシップの効果が発揮されるよう、個々の大学等や企業等が独自性を発揮しつつ、多様な形態で行われることが望ましい。
 なお、インターンシップと称して就職・採用活動そのものが行われることにより、インターンシップ全体に対する信頼性を失わせるようなことにならないよう、インターンシップに関わる者それぞれが留意することが、今後のインターンシップの推進に当たって重要である。

(1)大学等における留意事項

1)大学等におけるインターンシップの位置付け
 上述の3つの類型は、インターンシップを大学等における単位として認めるか否かに関係し、イの場合には、大学等の教育課程に位置付けられたものとして単位が認定されるが、ロやハの場合には単位として認定されないということになる。
 一方、ロやハの形態のものであっても、広い意味でインターンシップとしての効果は認められるものも多いと思われる。このため、人材育成の観点から有益と判断されるものについては、大学等の教育課程の中には位置付けていくことを含め、その積極的な評価について検討することが必要である。

2)インターンシップの実施体制の整備
 企業等との連携を適切に図り、インターンシップを円滑に実施するため、インターンシップの窓口を設けるなど、実施体制の整備が不可欠である。

3)インターンシップの教育目的の明確化
 インターンシップの実施に際しては、インターンシップの教育目標を明確化し、これに基づき、必修か選択か、何年生で実施するか、授業期間中に行うか休業期間中に行うか、期間をどれくらいにするかなど様々な点について、どのように行うのが最も効果的かという観点から検討する必要がある。
 また、インターンシップは企業等にとっても大きな負担を伴うものであり、こうした点からも、インターンシップの効果が最大のものとなるよう努力していくことが重要である。

4)インターンシップによる学習成果の評価等
 インターンシップは大学等の外の場所における学習であり、こうした学習成果について企業等と連携した適切な評価方法について検討し、インターンシップの目的を踏まえながら適切な評価を行っていく必要がある。

5)インターンシップの実施時期、期間等
 インターンシップの実施期間については、インターンシップの教育目的、全体の教育課程との関係、企業等の受け入れ可能時期との関係等を検討した上で、適切な時期を選択する必要がある。また、採用・就職活動の秩序の維持にも配慮する必要がある。
 さらに、大学院における実施など、多様な時期に実施することについても積極的に検討していくことが望まれる。
 インターンシップの実施時期については、現状においては様々であるが、インターンシップの教育目的や効果などを踏まえながら、企業等の意見を十分に聞き適切な期間を定める必要がある。

6)インターンシップの場の多様化
 インターンシップの場としては、一般的には企業が考えられるが、インターンシップの目的に応じて、行政機関や公益法人等の団体なども考えられる。また、受け入れ先の企業を選ぶ場合、特定の業種や大企業に偏ることなく、中小企業やベンチャー企業等を含めバランスが保たれるよう配慮する必要がある。
 さらに、職業意識を高める観点からは、必ずしも学生の専攻に関連する分野だけでなく、幅広い分野を対象にしたり、また一つの分野にだけ行くのではなく、複数の分野を体験することも有意義であると考えられる。

 

(2)学生を受け入れる企業等における留意事項

1)インターンシップに対する基本認識
 インターンシップについては、産学連携による人材育成の観点から推進するものであり、自社の人材確保にとらわれない広い見地からの取り組みが必要である。また、こうした観点から、長期的な視野に立って継続的にインターンシップを受け入れていくことが望ましい。
 インターンシップの学生を受け入れる企業等において、こうした趣旨を十分理解して対応することが、今後のインターンシップの推進において極めて重要である。

2)インターンシップ実施体制の整備
 インターンシップは、企業等の場における学生に対する教育活動であり、十分な教育効果をあげるためには、企業等における実施体制の整備が必要である。また、実際の教育・訓練の目的・方法を明確化するとともに、大学等と連携しながら効果的なプログラムを開発することが重要である。

3)経費に関する問題
 インターンシップに関しては、これに要する経費負担や学生に対する報酬支給の扱いなど経費に関する問題である。
 現状においては、こうした経費の扱いに関しては多様な例が見られるとともに、インターンシップの形態には様々なものがあるため、基本的には、個別に大学等と企業等が協議して決定することが適切であると考えられる。

4)安全、災害補償等の確保
 インターンシップ中の学生の事故等への対応については、大学等、企業等の双方において十分に留意する必要があるが、インターンシップの現場における安全の確保に関しては、企業等において責任をもった対応が必要である。
 また、万一の災害補償の確保に関しても、大学等と事前に十分協議し、責任範囲を明確にした上で、それぞれの責任範囲における補償の確保を図ることが重要である。
 なお、インターンシップ中の学生について、労働関係法令が適用される場合もあることに留意する必要がある。

5)適切な運用のためのルールづくり
 インターンシップにより、企業等と大学等や学生との結びつきが強くなり、採用の早期化、指定校制などにつながるのではないかといった懸念も指摘されている。
 このため、インターンシップの実施に当たっては、学生の受け入れの公正性、透明性を確保するための適切な運用のためのルールづくりが必要である。

 

5 インターンシップの推進方策の在り方
 インターンシップの円滑な推進のため、文部省、通商産業省、労働省が連携しつつ、大学等、企業等の協力を得ながら、以下の施策を積極的に展開することが必要であると考える。

1)インターンシップに関する調査研究及び情報提供
 インターンシップに関しては、いくつかの実態調査があるものの、我が国における大学等、企業等におけるインターンシップの全般的な状況については必ずしも十分に把握されていないのが現状である。また、大学等や企業等においてインターンシップに関心がありながら、実際の実施にまで至りにくい大きな原因として、インターンシップの実施について検討するために必要な具体的な情報が不足していることが指摘されている。
 このため、インターンシップに関する実態など全般的な状況の把握に努めるとともに、インターンシップに関するニーズ調査、事例の収集、効果的なプログラムの開発などについて調査研究を行い、その成果の大学等や企業等への適切な情報提供を図る。
 また、インターンシップそのものについてまだなじみが薄いことから、その意義、メリットなどが十分理解されるよう、広報パンフレットの作成やシンポジウムの開催などにより、インターンシップの普及啓発を図る。
 さらに、このようなインターンシップの推進のための各種施策の実施や指導・助言等を行うための体制整備を図る。

2)インターンシップ推進のための仕組みの整備
 上記の情報提供に加え、実際に大学等の側のニーズと企業等のニーズとを効果的に結び付けるため、マッチングが円滑に行われるような仕組みを整備することが必要である。このため、例えば、各地域毎に企業等、大学等、関係する諸々の行政機関からなる産官学による協議会等の場を活用するなどし、インターンシップに関する情報交換等を図る。

3)大学等及び受け入れ企業等に対する支援
 インターンシップの実態は、大学等、企業等にとって、新たな負担が伴うものであり、インターンシップの推進のため、これに積極的に取り組む大学等や企業等に対する適切な支援を図る。特に、資金力や情報力等が十分でない中小企業やベンチャー企業等にもインターンシップが普及するよう適切な支援を図る。

 

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