第1章 はじめに |
第2章 機構に求められる役割について |
第3章 機構の行う各事業の現状 |
第4章 機構の機能の整理 |
第5章 機構の組織の在り方について |
第6章 おわりに |
第1章 はじめに |
独立行政法人日本学生支援機構(以下「機構」という。)は、我が国の大学等(脚注1)において学ぶ学生に対する適切な修学の環境を整備し、もって次代の社会を担う豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に資するとともに、国際相互理解の増進に寄与することを目的として設立された独立行政法人である。
このような目的を実現するため、平成16年4月に、国、特殊法人日本育英会及び留学生関係公益法人(財団法人日本国際教育協会、財団法人内外学生センター、財団法人国際学友会及び財団法人関西国際学友会)の業務が再編統合され、我が国における学生支援の中核的機関(ナショナルセンター)として、現在の機構が設立された。
機構は、学生の修学環境を整備し、我が国を支える人材育成を図るため、日本人学生及び外国人留学生等に対し、経済的支援及び修学上・生活上の支援を総合的に実施するため、1.教育の機会均等を実現するための奨学金事業、2.留学生交流の推進を図るための留学生交流支援事業、3.大学等が学生に対して行う修学、進路選択その他の事項に関する相談及び指導について支援を行う学生生活支援事業の3つの事業を行っている。
これらの事業にかかる予算規模は急速に拡大しており、平成24年度は1兆1,981億円(脚注2)(平成16年度7,213億円)と、平成16年度の1.7倍に達している。一方、一般事務費等として交付されている運営費交付金は151億円(平成16年度230億円)であり、機構創設以来、年々削減されている。
また、これらの事業を支える機構の常勤職員数(実員)は平成24年479人(平成16年度499人)であり、減少傾向にある。
(脚注1)別に注記のない限り、「大学等」は大学(短期大学を含む。以下同じ。)、高等専門学校及び専門課程を置く専修学校をいう。また「学生」、「日本人学生」及び「外国人留学生」は大学及び高等専門学校の学生並びに専修学校の専門課程の生徒をいう。
(脚注2)このうち一般会計からの支出は1,471億円。
機構については、独立行政法人改革の一環として、これまで「事業仕分け(脚注3)」などを通じて、事務・事業の見直し等の検証が行われた上で、平成23年秋からは、独立行政法人改革の第二弾である組織・制度の見直しの議論において、その検証が行われた。
具体的には、内閣府行政刷新会議に設置された「独立行政法人改革に関する分科会」において、機構は、大学の支援を行う類型の法人の一つとして整理され(脚注4)、組織の見直しに係る議論が展開された。この議論においては、主に、
等の指摘がなされた。
このような議論を経て決定された「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」(平成24年1月20日閣議決定)において、機構は、「その機能を整理した上で、統合後の法人(脚注5)への統合、事務・事業の他の主体への一部移管等、その具体的な在り方について平成24年夏までに結論を得る」こととされた。
これを踏まえ、機構について、「その機能を整理」し、「統合後の法人への統合、事務・事業の他の主体への一部移管等、その具体的な在り方について」の検討を行うため、平成24年4月に「独立行政法人日本学生支援機構の在り方に関する有識者検討会」が文部科学省高等教育局に設置され、検討が行われた。
(脚注3) 「事業仕分け」第2弾では、平成22年4月23日から28日にかけ、独立行政法人の仕分けが行われた。
(脚注4)機構は当初、「主に金融業務を行っている法人」に分類され検討がスタートしたが、その後、大学入試センター等と共に、大学の支援を行う類型の法人の一つとして整理され、組織の見直しに係る議論が展開された。
(脚注5)同閣議決定においては、大学入試センター及び大学評価・学位授与機構については統合するとともに、国立大学財務・経営センターを廃止し、その業務のうち当面継続されるものについて「統合後の法人」に移管することとされており、この「統合後の法人」を指している。
第2章 機構に求められる役割について |
閣議決定にしたがって機構の「機能を整理」するに当たり、まず機構の果たすべき役割を確認する。
若者は学習を通じて自らの個性や能力を見出し、自らの生き方、在り方について考え、夢や希望に向かって自己実現を図る。このように人生をより豊かなものにする「学び」を支える重要性は、いつの時代にも変わるものではない。
また、天然資源の乏しい我が国が持続的な発展を遂げるためには、人材の育成が政策の重要な柱である。経済社会の発展に伴い、社会の複雑化や知識基盤型社会の到来を迎え、大学等における高度な教育を受け、グローバル化する社会で活躍できる人材の育成の重要性は高まっている。
高等教育段階への進学率が約80%(脚注6)に達する今日、大学等においては多様な学生が学んでいる。このような大学等における学生の学びを支え、我が国社会の発展を牽引する創造性に富む人材を育成することは、極めて重要課題であり、このような学生への経済的及び生活面での総合的な支援は我が国が取り組まねばならない課題である。
(脚注6)大学・短期大学の進学率は56.7%であり、高等専門学校(4年次)及び専門学校も含めた進学率は79.5%である(平成23年)。
このような要請に応えるため、機構は、学生の修学環境の整備を図り、もって我が国の人材育成を支えることを担う機関として設立された。
急速な少子高齢化や財政状況の悪化などの困難な課題の山積する中、グローバル化の進展する世界の中で我が国が今後も成長を続けるためには、このように学生の学びを支え、我が国の未来への活路を見出す有為な人材の育成を支えるという機構の役割及び業務の重要性は増している。
一方で、時代や社会状況の変化により、機構に期待される業務の広がりや重点の所在に変化が生じることも必然である。
したがって、機構の役割を考えるに際しては、学生の学びを支え、創造的な人材を育成するという要請に応えることと、時代や社会状況の変化に即して、その事務・事業の在り方を見直しつつ議論を進めることという、双方の観点が必要である。
第3章 機構の行う各事業の現状 |
機構は、前章で述べたように、学生の修学環境の整備を通じて人材の育成に資するよう、日本人学生及び外国人留学生に対し、経済的支援及び修学上・生活上の支援を総合的に実施するため、1.教育の機会均等を実現するための奨学金事業、2.留学生交流の推進を図るための留学生支援事業、3.大学等が学生に対して行う修学、進路選択その他の事項に関する相談及び指導について支援を行う学生生活支援事業の3つの事業を総合的に実施している。
近年の厳しい経済状況や格差の拡大、グローバル化の進展、就業構造の変化等の社会環境の変化により、学生の修学環境において生じる問題も複雑なものとなっている。すなわち、学生の経済上の問題と様々な心の問題などの諸課題の相互の連関に加え、大学進学率の向上や国際化の進展に伴う学生の多様化もあいまって、学生が修学上直面する困難には、いくつもの要因が重なり合うことが増えている。
このような学生の抱える複雑な困難に的確に対応するためには、個別の課題毎の対応にとどまらず、学生の学び全体を通じた視点から問題状況をとらえることが必要となっている。
各事業のねらいとその現状は以下のとおりである。
機構は奨学金事業を通じて、学ぶ意欲と能力のある学生が経済的理由により大学等への進学や修学を断念することなく、安心して勉学に励むことができる環境を整えることを目指している。
奨学金事業は、我が国における大学学部段階の授業料の上昇(脚注7)や近年の厳しい経済状況を背景に、学生の経済的支援の必要性の高まりに応えるべく、貸与規模を急速に拡大(脚注8)してきた。特に我が国は高等教育への公的支出のGDPに占める比率がOECD諸国中最低レベルであり、教育費の家計負担が重い中にあって、奨学金事業は重要な役割を果たしてきたものといえる。
しかし、将来の返済にかかる経済的・心理的負担感(脚注9)の大きさを考えると、貸与という方式のみでは、学生が安心して進学・修学できるようにというニーズに十分に応えきれていない面があり、このため給付型の支援を望む声も高い。また将来にわたり安定的に事業を継続する観点からは、貸与した奨学金の回収をより効果的・効率的に行う必要があること等も指摘されている。
(脚注7)我が国の勤労者(40歳~49歳)の平均年間給与額に対する授業料の割合
平成2年11.5% → 平成18年14.2%
(出典:「高等教育統計データ集」(広島大学高等教育研究開発センター)、「賃金構造基本統計調査」(厚生労働省))
(脚注8)平成24年度には、第一種奨学金が2,767億円(平成10年度
2,005億円)、第二種奨学金が8,496億円(平成10年度 650億円)、貸与人員は総計133万9千人(平成10年度
49万9千人)となっている。
(脚注9)例えば大学学部から大学院博士課程まで奨学金を借りた場合、1千万円を超える債務となる場合もある。
機構は留学生支援事業を通じて、学生の双方向交流を増加させることにより、グローバル化する社会で活躍できる人材の育成を図り、また我が国を世界により開かれた国とし、大学等の国際化を進め、ひいては我が国と諸外国との間の人的ネットワークの形成や、相互理解と友好関係の深化に資することを目指している。
しかしながら、海外へ留学する日本人学生の数は平成16年の82,945人をピークに減少に転じ、平成21年には59,923人となっている。また、日本で学ぶ外国人留学生は増加傾向にあるものの、平成23年は東日本大震災の影響もありやや減少し138,075人となっており、より積極的・戦略的な留学生交流の活性化のための方策が求められている。
機構は学生生活支援事業を通じて、学生の抱える様々な学生生活上の課題に対して大学等において適切に対応することにより、大学等における豊かな実りある学生生活を実現させることを目指している。
今日、高校卒業者の半数以上が大学等に進学するようになり、また国際化の進展による留学生の増加などもあいまって、大学等に在籍する学生は多様化し、これに伴い学生の必要とする支援も多様なものとなっている。また、「障害者の権利に関する条約(脚注10)」の署名や障害者基本法改正(脚注11)などを背景に、障害のある学生の修学支援など、社会から各大学等に寄せられる期待も高まる一方である。しかしながら、学生の抱える様々な課題に対処するためのノウハウを各大学等が十分に持ち合わせているとは限らず、手探りの状況にあるのが現状である。
これらの各事業を実施するに当たっては、学びの支援や人材育成という俯瞰的な視点から、現行の事業の枠を超えて、各種の支援策を有機的に体系付けて行うことが求められている。したがって、機構はその事業の実施に当たって、各事業を有機的に連携させるとともに、外部機関とも十分に連携しながら実施している。
(脚注10)我が国は平成19年に署名。同条約は締約国に対し、高等教育においても「合理的配慮」が障害者に提供されることを求めている(第24条第5項)
(脚注11)平成23年8月5日公布・施行。
第4章 機構の機能の整理 |
機構の機能の検証に当たっては、社会状況の変化に即し、学生の学びの支援や、我が国の将来を支える人材の育成という機構の責務を前提として検証し、整理する必要がある。その際には、行政改革の観点から、各事務・事業の見直しを行い、厳選・集中を図るとともに、社会全体の効率化等を考慮しつつ、他の主体との関係を整理し、機構の業務の目的である日本人学生及び外国人留学生の経済的支援及び生活支援との親和性にも配意しながら、移管や連携を進めることが必要である。
機構は、独立行政法人として、公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務のうち、国が自ら直接実施することになじまない執行事務で、民間にゆだねた場合に必ずしも適切に実施されない事務を実施することとされている(独立行政法人通則法第2条)。
例えば奨学金事業について見れば、教育の機会均等は、憲法(脚注12)及び教育基本法(脚注13)上、国及び地方公共団体の責務とされていることから、奨学金制度の基本的な制度設計は国において定めるが、機構は、国が直接実施することになじまない制度運営事務であって、民間委託によっては必ずしも適切に実施されない事務を、民間の手法等を活用しつつ、実施することとなる。
また、大学等との関係においては、学生の修学環境の整備や人材育成は、そもそも大学等の本来業務である。
しかし、各大学等において適切で効果的な取組を進める際には、大学等全体を通じた問題状況の把握・分析や、先進的な取組の共有が有用である。また、大学等の直面する課題の中には、専門的な知識やノウハウの蓄積が必要とされる問題など、個別の大学等毎の取組のみでは必ずしも十分な対応が図られない課題も存在する。
機構においては、他の機関に委ねられる業務は可能な限り外部に委ねつつも、調査・分析や先進的な取組の収集・共有、専門的な知見の提供等を通じて、大学等の主体的な取組の促進を図ることが求められる。
機構と他の主体との役割分担を考える際には、社会全体としての業務の効率化の視点も必要である。
すなわち、国の責務や、大学等の業務についても、一連の業務や関連する業務を一元的に実施することにより、合理化・効率化を図ることが可能となるものもあり、社会的コストと機構における行政コストの最小化を図り、社会全体の業務の効率化を図る視点が必要である。
現在の機構においては、近年の経済状況に起因する奨学金のニーズの増加に応えるため、また行政改革等の指摘を踏まえ返還金の回収を強化する必要性から、奨学金事業が非常に大きなものとなっている(脚注14)。
奨学金事業の貸与規模は引き続き拡大を続けている一方で、留学生支援事業についても、現在政府をあげて、日本人学生等の海外交流及び外国人学生の受入れを30万人とする目標に向けて推進しているところであり、機構においても必要な取組を進めることが求められている。
このような全体状況もよく踏まえつつ、機構においては、例えば、現在検討されている社会保障・税番号法案の状況等も見ながら、事業の設計や業務システムを抜本的に検証するとともに、機構内の適切な資源配分にも努めることが必要である。
(脚注12)憲法第26条第1項は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と規定。
(脚注13)教育基本法第4条第3項は「国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない」と規定。
(脚注14)例えば予算面においては平成24年度の事業予算1兆1,981億円のうち奨学金事業が1兆1,790億円を占める(留学生支援事業133億円、学生生活支援事業0.8億円)。また職員数においては、平成24年度の常勤職員(実員)479人のうち奨学金事業関係部門(支部を含む)が251人を占める(留学生支援事業部門(日本語教育センターを含む)82人、学生生活支援事業部門28人、その他(管理部門等)118人)。
1.事業の特性
奨学金事業は、憲法及び教育基本法の保障する教育の機会均等を実現するため、国が責任をもって確実に取り組むべき重要な教育施策であり、以下のとおり、貸与から返還まで、きめ細かな教育的な配慮の下で実施されている。
2.奨学金事業の今後の在り方
近年の厳しい経済状況や家計所得の状況、また大学等への公的支出の状況(国立大学の運営費交付金は毎年削減されており、私学助成も額は微増ながら経常費に占める割合は減少し続けている状況にある)等に鑑みれば、経済的支援を必要とする学生は引き続き増加していくものと考えられる。
経済的理由により修学等を断念することなく安心して勉学に励む環境を整えるという制度の目的が果たされるよう、給付型奨学金や返還免除の拡大等を望む声も高く、学生への経済的支援の在り方について検討される必要がある。諸外国の施策も参考に、返還者の所得額に連動して返済額が設定される所得連動返済型の奨学金制度(脚注18)の導入についても前向きに検討が進められるべきである。
また、安定的に事業を継続できる仕組みづくりも不可欠である。事業費が飛躍的に拡大しているにもかかわらず、その業務体制を支える運営費交付金が減少する中で、事業を将来にわたって適切に運営するためには、適切で効果的な債権回収に向けたガバナンスを確保することはもちろん、年々拡大する貸与規模に見合った業務体制の確保(脚注19)や事業の仕組みの工夫も必要である。
さらに、大学進学率が50%を超える今日、大卒者も含め若年雇用は極めて厳しい状況にある。雇用環境の変化や経済情勢もあいまって、貸与から返還までのサイクルの安定的な循環が必要であり、このような社会構造の下での奨学金事業の在るべき姿について、常に長期的視点を持って検証・検討する必要がある
3.これまでの取組状況
奨学金事業を安定的に継続するための返還金の回収強化に関しては、行政改革の議論等を踏まえ、これまでも文部科学省や機構自身による検証(脚注20)を行い、業務の改善に取り組んできた。
具体的には、早期における督促の集中的実施や、個人信用情報機関の活用、法的措置の強化、回収業務の民間委託(債権回収会社(サービサー)の活用)等を進めてきた。このような機構の返還金回収手法については、民間金融機関からみても相応な程度に民間的な手法が取り入れられているものと評価される。
これらの取組により、平成23年度の総回収率(脚注21)は年度毎の目標値を上回る81.5%、特に新規返還開始者に係る回収率は96.7%まで上昇させている。
機構においては引き続き、専門的・効率的実施の観点から業務の外部委託を進めるなど、民間の視点も取り入れると同時に、近年の就職・雇用等の状況も踏まえれば、返還能力の有無を見極め、返還できる者には確実に返還させるとともに、諸事情で返還が困難な者には必要な指導を行うことが必要である。
4.奨学金事業の推進体制(他の主体との関係)
(様々な主体の実施する奨学金事業との関係)
奨学金事業は、機構の行う事業のほか、大学等や民間団体等においても様々な趣旨の独自の奨学金制度等が展開されているが、憲法の保障する教育の機会均等は、国の責任において我が国全体を通じて確実に実現されることが必要であり、機構は、その実務面の実施機関の役割を担っている。
なお、公費による奨学金のみならず、寄附金等の民間資金による奨学金の重要性も言うまでもないことであり、税制上の措置等による活性化も重要である。
(公的な奨学金の実施主体)
機構においては、教育の機会均等の実現のため、奨学金事業を実施している。一方で民間金融機関においても教育資金の貸付事業を実施している。その特徴(相違点)を以下に示す。
また、他の主要国においても奨学金事業は国や公的機関が実施していること等を踏まえれば、機構が、教育施策としての目的に沿って確実に事業を実施するためには、債権管理・回収等の個別業務には民間の手法を積極的に取り入れつつ、教育施策の視点から主体的に実施することが必要である。
5.機構の機能の在り方
機構の実施する奨学金事業は、教育の機会均等を実現するための教育施策として行うことに本質がある。このため、債権管理・回収等の業務については業務システムの見直しや専門的・効率的実施の観点から、外部委託を最大限活用しつつ、教育的配慮を踏まえ、機構として確実に実施する必要がある。
そのため、第三者機関である債権回収検証委員会(仮称)を設置し、外部からチェックしながら事業を運営することが必要である。
また、今後、学生への経済的支援の在り方を検討する上では、学生の経済的状況や諸外国の施策の動向等の把握が必要であり、また、返還できる者には確実に返還させ、回収の効果・効率を上げる観点から、返還者の実態を見極めるため、機構はナショナルセンターの機能の一環として調査・分析の機能を充実させることが求められる。
さらに、奨学金事業の実施に当たっては、機構と4千を超える大学等との間で築かれている連携体制が維持され、かつ予約採用(脚注22)の増加に伴う高等学校等(脚注23)との連携強化が図られることが必要である。また、現在機構が長期にわたり保有している延滞債権や多額の債権・債務に組織として十分なガバナンスが図られることにも留意が必要である。
(脚注15)奨学金貸与を受けるに当たっては、連帯保証人と保証人の選任(ただし、原則として資力は問われない)か、機関保証への加入かのいずれかを選択する必要がある。
(脚注16)やむをえない事由により、奨学金を返還することが困難となった者について、本人からの申請に基づき、返還期限を猶予する制度。在学期間中の猶予のほか、災害、傷病、生活保護、外国で研究中、失業中、低所得などの事由による猶予制度がある。
(脚注17)やむをえない事由により、奨学金を返還することが困難となった者について、本人からの申請に基づき、一定期間(最長10年間)は、月々に返済する額を当初の2分の1の額に減額し、返還期限を延長することを認める制度。
(脚注18)我が国では平成24年度から、家計の厳しい学生等(給与所得世帯の年収300万円以下相当)を対象とし、奨学金の貸与を受けた本人が、卒業後に一定の収入(年収300万円)を得るまでの間は返還期限を猶予する「所得連動返還型の無利子奨学金制度」を導入した。諸外国においては、返済額が所得に連動し、一定年齢、一定所得以下、一定期間返済後に残債務が返済免除になる所得連動返済型奨学金の導入例が見られる。我が国にこのような仕組みを導入する場合には、所得の捕捉のための納税等の仕組みとの連動や、所得からの源泉徴収が課題となる。
(脚注19)例えば、奨学金事業に要する経費を安定的に確保するため、学生等に一定の負担を求めること等も含めた検討をすべきとの指摘もある。ただし、検討に当たっては、経済的に困難な学生等が修学を断念する等、制度の趣旨を損なうものとならないよう慎重な検討が必要である。
(脚注20)機構の「日本学生支援機構の奨学金返還促進策について」(平成20年6月10日)
や、文部科学省の「独立行政法人日本学生支援機構の奨学金事業運営の在り方に関する有識者による検証意見まとめ」(平成22年9月2日)。いずれも外部有識者により検討が行われた。
(脚注21)機構は中期目標に期間中の年度ごとの総回収率(当年度分回収額と前年度末までの延滞額のみに対する回収額の率)の数値目標を設け、回収率の改善に計画的に取り組んでいる。
(脚注22)大学等進学希望者を対象に、進学前に奨学金貸与の申込を受け付け、進学後の奨学金を予約する制度。
(脚注23)高等学校のほか、高等専門学校の予約採用者を受け付けるため、中学校とも連携を図っている。
1.事業の特性
世界のグローバル化が急速に進展し、国際競争が激化する中で、天然資源の乏しい我が国が持続的な発展を維持するために、グローバル人材を育成するための学生の双方向交流の推進は、我が国の将来を支える基盤ともいうべき重要な政策の柱である。
このような意義に鑑み、学生の双方向交流については政府の重要な政策として位置付けられている。政府は関係省庁による「留学生30万人計画」(平成20年7月)のとりまとめに続き、「新成長戦略」(平成22年6月18日閣議決定)や「日本再生戦略」(平成24年7月31日閣議決定)には「日本人学生等の海外交流30万人」及び「外国人学生の受入れ30万人」を2020(平成32)年までの目標として位置付けている。
2.留学生支援事業の今後の在り方
我が国の学生の双方向交流をさらに発展させるためには、留学前のプロモーションから、滞在中の支援、卒業(修了)・帰国後のフォローまで一貫した戦略的な取組を進める必要がある。
日本人学生の派遣を促進するためには、留学の障壁となっている要因を把握・分析するとともに、大学等における国際化の取組等の他のプログラムとの連携により事務の効率化を図りつつ学生の海外留学派遣を促進していくことが必要である。
優れた留学生の受入れを促進するためには、日本留学の魅力についてのアピールを効果的に行うとともに、他の機関との連携等により、情報提供や相談サービスを行う窓口機能を強化することが重要である。
また、来日した留学生が、滞在中に安心して勉学に励めるよう、奨学金等の経済的支援や、住居や日本語、地域交流などの生活面のサポートも必要である。同時に、我が国の内なるグローバル化にも資するよう、留学生と日本人学生等との幅広い交流も充実すべきであり、その推進に当たっては、日本人学生と留学生が互いに生活を共にしつつ交流できる場の設定も必要である。
さらに、かつて日本へ留学していた元留学生は、国を超えた人的ネットワークを形成し相互理解と友好関係を構築していく上で、我が国の財産とも言うべき存在であり、元留学生へのきめ細かなフォローアップやネットワークの充実・継続が必要である。これはさらに次の優秀な留学生の獲得にもつながるものである。
3.これまでの取組状況
機構の行う留学生支援事業は、独立行政法人改革(事務・事業の見直し)の議論等を踏まえ、事務の合理化の観点から、国内の留学情報センターの廃止や海外事務所の他機関との共用化(脚注24)を行うとともに、戦略的な取組の推進の観点から私費外国人留学生学習奨励費について検証を行い、渡日前予約採用の割合の拡大等の改善等を図ってきた。
また、国際交流会館等について、大学・民間等への売却を進め、平成23年度中に廃止すべきとの指摘を受けて、全ての会館について一般競争入札を実施し、全13館中7館を売却した(脚注25)。一般競争入札によっても買い手のなかった6館は、すべて国際交流会館等の建物とその敷地の所有者が異なり(脚注26)、このうち3館は建物についても区分所有である。このように直ちに売却等を進めることが困難な状況にあることに鑑み、「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針(平成24年1月20日閣議決定)」においては「やむを得ない事情により売却が困難なものについては、廃止の進め方について現行中期目標期間終了時までに結論を得る」こととされ、現在、売却に向けた努力を行っているところである。
4.留学生支援事業の推進体制(他の主体との関係)
グローバル人材の育成の観点からは、国や地方公共団体、大学等、企業、民間団体等が一丸となって学生の双方向交流の促進に取り組むことが必要である。
学生の双方向交流は各大学等において主体的に推進されるべきものであるが、学生の双方向交流を一層促進するためには、大学等が行う修学上の環境整備に加え、留学前から卒業(修了)・帰国までを通して、生活面も含めた総合的な支援を充実させる必要があり、機構にはこのような観点からの支援の役割が求められる。また、例えば我が国の内なるグローバル化に資する幅広い留学生交流など、大学等の枠を超えた取組の推進も機構に期待される。さらに、学生の双方向交流を戦略的に促進するために、俯瞰的な視点から課題を把握し我が国としての戦略を立てることができるよう、機構はナショナルセンターの機能の一環として実態調査や分析を行うことが求められる。
この他、地方公共団体や企業、公益法人やNPO等の支援団体や学生団体等の民間団体も、留学情報の発信、奨学金支給、交流活動等の様々な役割を果たしており、これらが一体となって学生の双方向交流の促進が図られるよう、機構には、コーディネーションや連携促進等の機能が期待される。
5.機構の機能の在り方
機構は4.で述べた観点に基づき、行うべき事務・事業の範囲について不断に検証を行うことが必要である。特に、事務の効率化の観点からは、当面、例えば次のような取組を進めることが必要である。
(国際交流会館)
国際交流会館については、引き続き売却に向けた努力を行う。現在売却が困難な会館については、土地所有者である地方公共団体との調整を図りつつ、例えば1.特に土地所有者である地方公共団体等への売却に向けた調整、2.運営に関しての大学等の関与の拡大、3.日本人学生や研究者等も含めた利用者の対象拡大、4.他用途(例:民間による活用、国際交流拠点としての活用など)への転用等、事業仕分けの趣旨を踏まえ、様々な手段を講じることとし、売却までの間は、大学等の関与を深めるなどにより運営の効率化を図りつつ有効活用すべきである。
(日本語教育の実施体制の在り方)
機構の日本語教育センターは、これまでの教育研究の蓄積に裏打ちされた質の高い教育の提供や、高等専門学校入学予定者等の多様な学生のニーズに応じたきめ細かな指導により、国として責任を持って受け入れるべき国費外国人留学生や外国政府派遣留学生の受入れ・教育において重要な一翼を担ってきた。
今後、日本語教育を行う他の機関との関係の整理や、民間の日本語教育機関の動向等も踏まえ、機構による教育実施の必要性や求められる機能等につき引き続き見直しを図ることが望ましい。
(脚注24)タイ事務所について、独立行政法人日本学術振興会との共用化を平成23年度中に開始した。
(脚注25)仙台(第一、第二)、駒場、祖師谷、大阪(第一、第二)、広島の7館は平成23年度中に売却済み。札幌、東京、金沢、兵庫、福岡、大分の6館は未売却。
(脚注26)いずれも地方公共団体が土地所有者である。また、いずれも土地所有者による土地の利用制限がある。
1.事業の特性
社会における急速な少子高齢化、グローバル化によるボーダレス化、産業・就業構造の変化、地域のつながりの希薄化等の状況を反映し、学生生活において生じる諸問題は多様化し、またそれらが絡み合い、複雑な事例も増加している。
2.学生生活支援事業の今後の在り方
このような現代の学生生活の支援においては、社会や地域の関与がこれまで以上に重要となっている。このような現状を踏まえ、機構は、大学等や、関係機関、地域社会、NPO等の連携により、総合的な見地から的確に学生の支援に取り組むことが必要である。
また、現在大学等の直面する、様々な課題の輻輳した困難状況に対しては、個別の課題毎への対応というアプローチにもはや限界が生じつつある。例えば学生生活全体を、学生の一つの成長過程としてとらえた学生生活支援のアプローチなど、新たな視点から総合的な学生生活支援の在り方を模索することが求められており、機構には、その手かがりとなる事例の収集等の役割が期待される。
このような積極的な役割を果たすことができるよう、機構は、その行うべき事務・事業をよく精選することが必要である。
3.これまでの取組状況
機構の行う学生生活支援事業は、独立行政法人改革(事務・事業の見直し)の議論等を踏まえ、事務の合理化やコスト削減の観点から、研修事業や各種調査を重点化・厳選し、特に研修事業については一部有料化するともに、「学生支援情報データベース」や冊子「大学と学生」の事業の廃止等に取り組んできた。
4.学生生活支援事業の推進体制(他の主体との関係)
学生生活をめぐる多様で複雑な諸課題に適切に対応するには、大学等のみならず、関係機関や地域社会などがそれぞれの立場から学生生活支援に参画し、社会全体で学生を支えていくことが必要である。
このうち、個別の大学等における学生生活支援は、各大学等においてその本来業務として取り組まれるべきものである。その際、例えば専門的な知識やノウハウの知識が必要となる業務など、大学等毎の取組には限界のある課題などについて、機構において専門的知見の提供などの支援を行う。
一方、大学等全体を通した学生生活の状況や課題を踏まえて我が国として取り組むべき政策の立案は、国において行うが、機構はこれに資するよう、実態把握や情報収集、調査・分析を行い、さらに各大学等における学生生活支援の先進的な事例を収集・提供するなどの役割が求められる。
5.機構の機能の在り方
機構は、各大学等の参考となる事例を収集し、分析するとともに、これらを各大学等にきめ細かく提供することを通じて、各大学等における効果的な取組の実施や望ましい支援体制の整備を促し、底上げを図る。
その際には国の政策と連携し、政策上特に重要性の高い課題や、各大学等における取組には限界がある課題など、各大学等の自主的な取組を促す必要のある課題に重点的に支援する。
例えば、就職支援等は、昨今の厳しい就職状況に鑑み、機構においても支援に取り組んできたが、民間における支援状況や、大学等における支援体制の整備状況・ノウハウの蓄積の状況を踏まえれば、今後は大学等における主体的な取組に移行させる方向で見直しを進めるべきである。他方、障害のある学生や心理的な課題を抱える学生への支援には、専門的な知識や支援実績に基づくノウハウが不可欠であり、現時点では各大学等における取組には限界があることから、機構において、先進的な事例の収集・共有や、専門的な知見の提供、調査・分析等を行うことにより、各大学等の取組を支援することが求められる。
このような考え方に基づき、学生生活支援事業を見直し、就職支援等は大学等における主体的な取組に任せるよう移行し、障害のある学生など固有のニーズのある学生の支援に重点化・集中化した上で、奨学金事業の延長や、留学生支援事業の一環として行う方向で、あるいは国の業務として実施することも含め、見直しを進めるべきである。
第5章 機構の組織の在り方について |
前章で論じた機構の「機能の整理」を踏まえ、以下、機構の「統合後の法人への統合、事務・事業の他の主体への一部移管等、その具体的な在り方」について検討する。
「統合後の法人」の在り方については、平成26年4月の統合を目指して、現在、その検討が進められているところである。機構の「統合後の法人」への統合については、最終的には、当該法人の業務の体制やその状況を踏まえて検討し、判断することが必要である。
また、機構の行う事務・事業の他の主体への移管に関しては、これまでも独法改革の議論において、「事務・事業の見直し」として、機構の行うべき業務か否かの精査が行われてきた。これらの議論や各方面からの指摘も踏まえ、前章の2で述べたとおり、各業務の見直し及び業務の民間への外部委託等を進めてきているが、さらに効果的・効率的な事業実施の観点から、引き続き業務の他の主体への移管等を含め見直しを進めるべきである。
各事業の見直しについては、前章に記載したが、主なポイントを以下に記載する。
1.奨学金事業
2.留学生支援事業
3.学生生活支援事業
上述のような、組織や事務・事業の主体の見直しに加え、機構のガバナンスについても、以下のような観点から改善が図られることが望ましい。
今日、学生の抱える多様で複雑な課題に的確に対応し、また限りのある資源の中で効果的に学生を支えていくためには、個別の課題毎の対応にとどまらず、学生の学び全体を通じた視点から問題をとらえ、総合的な見地から支援を行うことが有効である。
このためには、関係機関が連携・協力して総合的な支援を実現することが必要である。機構においては、機構の各事業の枠を超えて有機的に体系づけるとともに、他の機関との各種支援策を俯瞰的にとらえ、的確で効果的な支援を行うことが必要である。
このため、機構の組織運営においても、このような観点から各事業の有機的な連携を図ることが求められる。例えば、調査・分析についても、各事業の枠を超えて総合的な観点から実施するような工夫が必要である。
機構の事業は、我が国を支える人材の育成という点で、いわば「将来への投資」としての性格を有するものであり、事業の推進に当たっては、将来への投資の負担者である国民の理解を得ていくことが不可欠である。このため、機構は適切な情報公開や分かりやすい説明に一層努め、事業運営の透明性の確保に組織をあげて取り組むことが必要である。
このためのシステムとして、外部有識者による審議機関を新たに設置し機構内の重要事項を審議することにより適切な事業運営を確保するとともに、例えば奨学金事業の債権回収業務における第三者による検証機関の設置など、外部からの視点を取り入れた事業の検証と改善の仕組み(PDCAサイクル)を充実強化させること等について、直ちに取り組むべきである。
第6章 おわりに |
以上論じてきたとおり、機構がその役割を効果的・効率的に果たすためには、政府としても必要な措置を講ずるとともに、機構と関係機関との連携等による機能の強化や、適切でメリハリのある資源配分が行われることが重要である。
機構においては、高等教育段階における豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を支えるという使命を原点として、今後も組織や業務の在り方について、不断に見直しを続けていくことが望まれる。
高等教育局学生・留学生課