日本学生支援機構の在り方に関する有識者検討会 第2ワーキンググループ報告書

目次

第1章 留学生支援事業

1.独立行政法人日本学生支援機構の留学生支援事業について
(1)留学生支援事業の概要
 ○学生の双方向交流(派遣及び受入れ)の意義 
 ○政府等の取組の方針と現状
 ○独立行政法人日本学生支援機構の行う業務
(2)これまでの行政改革の議論における指摘と対応
 ○指摘の内容
 ○機構における対応

2.学生の双方向交流の推進における課題と機構の留学生支援事業の今後の方向性について
(1)留学生支援全般について
 ○学生の双方向交流の戦略的な促進
 ○ナショナルセンターとしての機能の強化
(2)日本人学生の派遣
 ○グローバル人材の育成
 ○海外留学の障壁の解消
 ○学生の双方向交流の質の確保や効果の検証
(3)外国人留学生の受入れ
 ○留学生の戦略的な受入れ
 ○受入れ段階等における窓口機能の強化
 ○滞在中の環境の充実
 ○卒業(修了)・帰国後のフォローアップの強化

3.機構の留学生支援事業に係る組織の在り方について
(1)学生の双方向交流の推進体制の在り方
(2)各主体の担う役割の分担と連携
 ○国と機構の役割分担
 ○大学等と機構の役割分担
(3)諸課題に適切に対応するための組織の在り方
 ○国内における国際交流の中核的拠点の整備
 ○国際交流会館の廃止の在り方
 ○奨学金支給事務の実施体制の在り方
 ○日本語教育の実施体制の在り方
 ○海外拠点間の連携
 ○ナショナルセンターとしての機能の整備
(4)留学生支援事業の実施主体の在り方
 ○「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」における機構に係る指摘事項
 ○「統合後の法人」への移管の可否
 ○機構における三事業の在り方

第2章 学生生活支援事業

1.機構の学生生活支援事業について
(1)学生生活支援事業の概要
(2)これまでの行政改革の議論における指摘と対応
 ○指摘の内容
 ○機構における対応

2.学生生活支援の推進における課題と機構の学生生活支援事業の今後の方向性について
(1)学生生活支援に係る現状と課題
 ○学生生活を取り巻く状況
 ○各大学等の置かれた状況
(2)今後の方向性
 ○総合的な視点の必要性
 ○連携の必要性
 ○調査・分析機能の充実

3.機構の学生生活支援事業に係る組織の在り方について
(1)学生生活支援の推進体制の在り方
(2)諸課題に適切に対応するための組織の在り方
 ○重点的な支援
 ○固有のニーズのある学生への支援
 ○役割の検証
(3)学生生活支援事業の実施主体の在り方
 ○「統合後の法人」への移管の可否
 ○機構における三事業の在り方


第1章 留学生支援事業

1.独立行政法人日本学生支援機構の留学生支援事業について

(1)留学生支援事業の概要

(学生の双方向交流(派遣及び受入れ)の意義)

 学生(※)の双方向交流は、グローバル化する社会で活躍できる人材の育成を図り、また我が国を世界により開かれた国とし、大学等(※)の国際化を進める上で重要な意義を有するとともに、我が国と諸外国との間の人的ネットワークの形成や、相互理解と友好関係の深化に資する事業である。
 世界のグローバル化が急速に進展し、新興国の台頭による国際競争が激化する中で、天然資源の乏しい我が国が持続的な発展を維持するためには、留学生政策の推進を通じたグローバル人材の育成が不可欠である。学生の双方向交流の推進は、我が国の将来を支える基盤ともいうべき重要な政策の柱である。
(※)機構の行う留学生支援事業は、大学(短期大学を含む。以下同じ。)、高等専門学校及び専門課程を置く専修学校を対象としており、以下本章においては、別に注記のない限り、「大学等」は大学、高等専門学校及び専門課程を置く専修学校をいい、「学生」、「日本人学生」及び「外国人留学生」は大学及び高等専門学校の学生並びに専修学校の専門課程の生徒をいう。

(政府等の取組の方針と現状)

 このような意義に鑑み、学生の双方向交流については政府の重要な政策として位置付けられている。政府は平成20年7月に「留学生30万人計画」を、平成22年6月には日本人学生等の海外交流30万人、外国人学生の受入れ30万人を2020(平成32)年までの目標として掲げる「新成長戦略」(平成22年6月18日閣議決定)を決定した。同内容は、平成24年7月の「日本再生戦略」(平成24年7月31日閣議決定)にも盛り込まれている。また同年6月には「グローバル人材育成戦略」を策定するとともに、同年5月に産学官の連携による「産学協働人財育成円卓会議」において「アクションプラン」をとりまとめるなど、我が国が一体となって学生の双方向交流の推進に取り組んでいるところである。大学においても、秋期入学移行の是非や課題等をめぐる議論が活発化するなど、学生の双方向交流促進の気運が高まっている。
 しかしながら、海外へ留学する日本人学生の数は平成16年の82,945人をピークに減少に転じ、平成21年には59,923人となっている。また、日本で学ぶ外国人留学生は増加傾向にあるものの、平成23年は東日本大震災の影響もありやや減少し138,075人となっている。このような現状から、より積極的・戦略的な留学生交流の活性化のための方策が求められている。
(注)派遣についてはOECD、IIE、ユネスコ文化統計年鑑等調べ、受入れについては文部科学省及び日本学生支援機構調べ。なお、「海外へ留学する日本人学生」は、海外の高等教育機関に在籍する日本人数をいう。

(独立行政法人日本学生支援機構の行う事業)

 このような学生の双方向交流を支援する組織として、平成16年に、財団法人日本国際教育協会、財団法人内外学生センター、財団法人国際学友会及び財団法人関西国際学友会を合わせた専門的な支援機関として、独立行政法人日本学生支援機構(以下「機構」という。)が創設された。
 機構は、具体的な留学生支援事業として、

  1. 留学前の段階では、国内及び海外での留学フェアの実施、ウェブサイトや海外向けのポータルサイトの開設、海外事務所等を通じた情報提供や相談サービスの実施
  2. 外国人留学生の留学先の決定に際しては、学習到達度を判定するために国内及び海外で「日本留学試験」を実施
  3. 留学中には、奨学金の支給、特に外国人留学生に関しては日本語予備教育の提供、交流活動の支援、宿舎の支援
  4. 卒業(修了)・帰国後には、外国人留学生への就職活動の支援、帰国した元外国人留学生の招聘、メールマガジンの発行などを通じたコミュニケーションの維持

等に取り組んでいる。
 このように、日本人学生と外国人留学生の双方に対し、留学前のプロモーションから卒業(修了)・帰国後のフォローまで、一連の支援業務を総合的に実施する中核的な支援機関として、機構は、学生の双方向交流の一層の促進を図ることが期待される。

(2)これまでの行政改革の議論における指摘と対応

(指摘の内容)

 一方で、機構の行う留学生支援事業については、これまでの行政改革の議論において、個別の事業について、コスト削減の観点から、

  • 留学生宿舎(国際交流会館等)の設置・運営の廃止(※)
    (※)「大学・民間等への売却を進め、平成23年度末までに廃止する」こととされた。
  • 留学情報センター(東京・神戸)の運営事業の廃止
  • 私費外国人留学生学習奨励費の見直し(※)
    (※)「成果検証を厳しく行うとともに、渡日前の予約採用の拡充を図る。さらに、留学生借り上げ宿舎支援事業等を統合し、奨学金を中心とした私費外国人留学生等奨励費給付事業として運営する」こととされた。
  • 海外事務所の見直し(※)
    (※)「バンコク事務所を日本学術振興会と共用化するなど、海外事務所の廃止又は他機関事務所との共用化を進めるための検討を行い、具体的な結論を得る」こととされた。

等の指摘を受けている(※)。
(※)行政刷新会議「事業仕分け(第2弾)」(平成22年4月28日)、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月7日閣議決定)における指摘

(機構における対応)

機構においては、これらの指摘を受けて、

  • 国際交流会館等については、全13館の一般競争入札を実施し、平成23年度末までに7館を売却(※)
    (※)一般競争入札によっても買い手のつかなかった6館に関しては、「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針(平成24年1月20日閣議決定)」において「やむを得ない事情により売却が困難なものについては廃止の進め方について現行中期目標期間終了時までに結論を得る」こととされている。
  • 留学情報センターについては、平成22年度までに廃止
  • 私費外国人留学生学習奨励費については、受給者の進路状況や学習奨励費の活用状況の調査を実施し、その結果を平成23年度に有識者からなる委員会において検証するとともに、渡日前の予約に資する新たな制度を創設し(平成23年4月入学者から対象)、渡日前の予約採用の割合を増加
  • 留学生借り上げ宿舎支援事業においても、私費外国人留学生学習奨励費の支給対象者を優先して支援する方法に平成23年度から改め、学習奨励費の推薦時期に合わせて募集を実施
  • 海外事務所については、平成23年度中に、バンコク事務所の独立行政法人日本学術振興会との共用化を開始

等、指摘を踏まえた対応を順次進めてきたところである。

2.学生の双方向交流の推進における課題と機構の留学生支援事業の今後の方向性について

(1)留学生支援全般について

(学生の双方向交流の戦略的な促進)

 我が国の学生の双方向交流をさらに発展させるためには、留学前のプロモーションから、滞在中の支援、卒業(修了)・帰国後のフォローまで一貫した戦略的な取組を行う必要がある。

(ナショナルセンターとしての機能の強化)

 機構は、日本人学生と外国人留学生の双方に対し、留学前の段階から卒業(修了)・帰国後のフォローまで一連の支援業務を総合的に実施する役割を担う機関である。
 このような留学生支援の総合的な実施機関として、機構は、行政改革の議論における指摘等を踏まえつつ、個別の大学等における対応のみでは十分に促進が図られない事項などについて、ナショナルセンターとしての機能(情報収集・発信、調査分析、専門的知見の提供、コーディネートや連携の支援・促進等)を強化し、もって学生の双方向交流の戦略的な促進に資することが期待される。

(2)日本人学生(※)の派遣

 (※)本報告書における「日本人学生の派遣」の議論に関しては、留学以外の在留資格により我が国に滞在する外国人の学生についても同様の議論が妥当するものである。

(グローバル人材の育成)

 これからの我が国社会を支える人材の育成の観点から、語学力・コミュニケーション能力等を身につけ、国際的に活躍できる「グローバル人材」(※)の裾野を拡げ、厚みのある人材層を形成していくことは、我が国の現下の重要課題である。また、産学官一体となって社会でリーダーシップを発揮する高度な人材を養成するために、国として必要な環境整備を行うことも重要である。
(※) 「グローバル人材育成戦略」においては「グローバル人材」の概念には概ね以下のような要素が含まれるものと整理されている。
  要素1:語学力・コミュニケーション能力
  要素2:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
  要素3:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー

(海外留学の障壁の解消)

 しかるに、海外へ留学する日本人学生の数は、前述のとおり近年減少傾向にある。
 一方で、留学先の多様化や若年雇用をめぐる状況、また大学の秋期入学の議論等も背景に、海外留学時にインターンシップやボランティア等の活動も併せて行うことへの注目度は高まっており、社会の変化を踏まえて海外留学の魅力や意義を考える視点が必要である。
 また、海外留学を見送る理由として、若い世代が海外への魅力や海外留学のメリットを感じていないのではないかとの指摘もある。しかし、経済力や大学の体制、就職、語学力等の問題を挙げる調査結果(※)もあることを踏まえ、彼らの意識の問題に還元するのみではなく、留学の障壁となっている要因を把握・分析し、それを解消するような取組が求められる。
(※)「東京大学国際化白書」(2009年3月)より。なお、国立大学協会国際交流委員会留学制度の改善に関するワーキンググループが実施した、各国立大学に対する留学制度の改善に関するアンケート(平成19年1月)においても同旨の結果が出ている。
 これらの観点から、機構における実態把握や調査・分析の機能が一層重要となる。

(学生の双方向交流の質の確保や効果の検証)

 また、機構の行う学生の双方向交流事業については、平成24年度文部科学省行政事業レビューにおいて公開プロセスによる議論が行われた(※)。ここで行われた議論も踏まえ、大学等における国際化の取組等の他のプログラムとの連携により事務の効率化を図りつつ学生の海外留学派遣を促進していくことが必要である。また、採択時審査の厳格化(特に短期派遣については目的の明確化など)や、3ヶ月未満の短期派遣事業の成果の検証、フォローアップの強化等に取り組むことも必要である。
(※)「留学生短期受入れと日本人学生の海外派遣を一体とした交流事業」として、留学生派遣(長期・短期)及び留学生受入れ(短期)に係る奨学金等の支給事業が対象とされた。

(3)外国人留学生の受入れ

(留学生の戦略的な受入れ)

 グローバル化が進展する世界で、大学等の国際化を促進し我が国社会のグローバル化を進めるためには、外国人留学生の受入れを通じた国際交流の重要性が増している。優秀な留学生の受入れ促進のためには、世界各国の若者が日本で学び、働きたいと思えるような環境づくりを産学官で進めるとともに、今後の成長分野や地域戦略を踏まえた機動的かつ戦略的な学生の双方向交流を推進することが重要である。

(受入れ段階等における窓口機能の強化)

 優れた留学生の受入れを促進するためには、日本留学の魅力についてのアピールを効果的に行うとともに、情報提供や相談サービスを行う窓口機能(相談機能)を強化することが重要である。
 その際、海外政府機関や大学団体等から我が国との留学生交流(大学間交流)の希望があるにも関わらず、我が国の大学等に関する連絡や情報提供を包括的に行う代表的窓口機関が現状では存在しない。このような実態を踏まえ、機構は国と緊密な連携の下、海外の大学等との学生の双方向交流を促進するための情報提供等の窓口機能を担うことが期待される。

(滞在中の環境の充実)

 来日した留学生が、滞在中に安心して勉学に励み、十分に留学の効果を上げるためには、大学等における教育環境の整備のみならず、奨学金等の経済的支援、住居の確保、日本語のサポート、交流活動の推進等の生活面の様々な整備も必要であり(※)、さらに、機構が担うべき主な課題として以下の点が挙げられる。
(※)私費外国人留学生を対象とする機構の調査によれば、

  • 「留学後の苦労」への回答(複数回答可)として、「物価が高い」が80.0%、「日本語の習得」が36.2%、「日常生活における母国の習慣との違い」が28.7%、「宿舎等を探すこと」が25.0%であった。
  • 宿舎の形態については、「民間アパート・マンション等」に居住する者が76.4%、大学・学校の寮や宿舎が13.6%であった。
  • また、アルバイト従事率は75.5%であり、その職種(複数回答可)は「飲食業」の51.8%、「営業・販売」の25.5% が多く、続いて「ホテル受付・ホール係」の6.9%、「語学教師」の6.6%となっている。
    (出典:「私費外国人留学生生活実態調査」(平成21年度)、いずれも回答の多い順に紹介)

○経済的支援について
 近年、民間による留学生向け奨学金も拡充されつつあるが、留学生が日本への渡航前に奨学金受給を確保できる予約型奨学金は未だ極めて限られているのが実情である。優秀な留学生に日本留学を志向させるためには公の資金による予約型奨学金の拡充が不可欠である。

○留学生との交流の活性化について
 我が国においては、来日した留学生と日本人学生等との交流の機会が十分でないと言われる。留学生が日本留学の効果を十分に上げ、また我が国の内なる国際化やグローバル人材の育成に寄与する観点から、留学生と日本人学生、他の留学生、若手企業人、また地域住民等との交流の活性化を積極的に進める必要がある。その際、国や機構においては、留学生との、大学等の枠を超えた幅広い交流の中核的な機能を担うことが重要である。

○宿舎面の支援について
 海外の留学生が安心して来日し、また来日した留学生が充実した留学生生活を送れるよう、住居にかかる経済的負担や保証人制度等の我が国独自の慣行による障壁を軽減することが必要であり、機構は大学等における宿舎提供への支援等を行う必要がある。
 宿舎の提供への支援等に当たっては、宿舎の経済的支援という側面のみならず、留学生と日本人学生等が混住する環境を整えることによって異文化交流が促進されるなどの側面にも、十分な留意が必要である。また、そのような混住環境は、留学生が日本に対する理解を深めることにより卒業後日本で就職する等、優秀な留学生の日本社会への定着に資することも期待される。例えば、企業等の提供する留学生寮に入居した留学生は、卒業(修了)後に我が国企業へ就職した者の割合が高いこと(※)などは注目すべき事実であろう。
(※)外国人留学生のうち日本国内に就職する者の割合は25.1%(平成22年度)である(機構が実施した「外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果」より、大学の学部、修士課程及び博士課程の状況)。
   一方、財団法人留学生支援企業協力推進協会の実施する「社員寮への留学生受入れプログラム」に参加し、卒業・修了により社員寮を退寮した留学生のうち、日本で就職した者の割合は59.1%(平成23年度卒業・修了者)である。

(卒業(修了)・帰国後のフォローアップの強化)

 かつて日本へ留学していた元留学生は、国を超えた人的ネットワークを形成し相互理解と友好関係を構築していく上で、我が国の財産とも言うべき存在であるが、現状では帰国後の関係の維持が十分とは言い難い状況である。
 元留学生へのきめ細かなフォローアップやネットワークの充実・継続は次の優秀な留学生の獲得にもつながり、各大学等においても自主的に取り組まれるべきものであるが、特に我が国が国費を投じて受け入れた留学生等について、帰国後の我が国との良好な関係維持のための充実した取組が課題である。機構においても、国と密接な連携を図りつつ、元留学生の帰国後の動向の把握・集約や、元留学生による同窓会等の活動への支援をはじめ、諸外国の取組も参考にしながら(※)、効果的な取組を進めることが必要である。
(※)例えば近年では、Facebook等の既存のSNSを活用した元留学生のネットワーキング化(英国の例)や、元留学生向けの独自のオンライン・コミュニティの運営(米国、ドイツの例)といった取組も見られる。
 なお、我が国にとどまり就職や研究を継続する元留学生も同様に重要な存在であり、大学等や地方公共団体、産業界等とも連携し、我が国社会で活躍できるよう取り組むことも重要な課題である。

3.機構の留学生支援事業に係る組織の在り方について

(1)学生の双方向交流の推進体制の在り方

 グローバル人材の育成の観点からは、国や地方公共団体、大学等、企業、民間団体等が一丸となって学生の双方向交流の促進に取り組むことが必要である。
 すなわち、学生の双方向交流は各大学等においてそのミッションに照らし主体的に推進されるべきものであるが、国は高等教育政策や国際交流に係る政策の一環として留学生政策の在り方や基本方針を定め、また全ての大学等を通じた課題を把握し、取り組むべき政策の立案を行うこと、機構は国の政策に基づき学生の双方向交流を支援・推進するとともに、政策立案に資するための実態調査・分析を行うことが求められる。この他、地方公共団体や企業、公益法人やNPO等の支援団体や学生団体等の民間団体も、留学情報の発信、奨学金支給、交流活動、日本語教育等の様々な役割を果たしており、これらが一体となって学生の双方向交流の促進が図られることとなる。
 その際、機構は、日本人学生と外国人留学生の双方に対し、留学前の段階から卒業(修了)・帰国後のフォローまでの一連の支援業務を総合的に実施する機関として、情報収集・発信や調査分析、コーディネーションや連携促進等のナショナルセンターとしての機能が期待される。

(2)各主体の担う役割の分担と連携

(国と機構の役割分担)

 国は留学生政策の企画立案や外国政府との窓口の役割を担う。機構は国の定める方針に基づき、また国と密接な連携の下、国が自ら主体となって直接に実施することになじまない執行事務を総合的に実施する。
(参考)独立行政法人とは
「公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的」とする法人(独立行政法人通則法第2条より)

(大学等と機構の役割分担)

 各大学等は自らが設定するミッションを踏まえ主体的に学生の双方向交流を推進し、機構は各大学等の主体的な取組を支援する。

(3)諸課題に適切に対応するための組織の在り方

(国内における国際交流の中核的拠点の整備)

 留学の効果を十分に発揮できるよう、留学生を受け入れる各大学等は留学生と日本人学生等との交流の活性化に取り組むべきであり、また民間団体や学生団体等においても様々な交流の取組が行われているが、国や機構においては、留学生同士の交流も含め、大学等の枠を超えた交流の中核的役割を果たす場を「中核的な留学生交流の場」として構築し、大学等や民間団体、地域社会等とも連携・協力しながら、若手人材の国際交流拠点のモデルとして活用すべきである。
 その際には、中核的拠点として、交流の活性化の鍵となる留学生交流の質の向上に係る機能等を担うことも有効と考えられる。

(国際交流会館等の廃止の在り方)

 国際交流会館等については引き続き売却をめざす。ただし、留学生交流の効果を十分に発揮させる上で必要な交流拠点の中核的役割を果たすにふさわしい条件を備えた施設があれば、「中核的な留学生交流の場」としての再構築も視野に入れるべきである。

(奨学金支給事務の実施体制の在り方)

 国費外国人留学生制度(現在、募集・選考は国で実施)について、採用段階から卒業(修了)・帰国後のフォローまで一貫した実施体制による効果的な実施や、私費外国人留学生学習奨励費制度(現在、機構で実施)との事務一元化による合理化が望まれる。

(日本語教育の実施体制の在り方)

 機構の日本語教育センターは、これまでの教育研究の蓄積に裏打ちされた質の高い教育の提供や、高等専門学校入学予定者等の多様な学生のニーズに応じたきめ細かな指導により、現在、国として責任を持って受け入れるべき国費外国人留学生や外国政府派遣留学生の受入れ・教育において重要な一翼を担っている。もっとも、将来的には、日本語教育を行う他の機関との関係の整理や、民間の日本語教育機関の動向等も踏まえ、機構による教育実施の必要性や求められる機能等につき引き続き見直しを図ることが望ましい。 

(海外拠点間の連携)

 機構の有する海外拠点、すなわち海外事務所は、日本留学に興味を持った海外の若者等が気軽にアクセスし情報を集められる場であることはもちろんのこと、出身国で活躍する元留学生の状況を把握し、日本留学の成果を次代の学生達に紹介するなど、元留学生のフォローアップから次代の学生への日本留学のアピールまでを通じて、優秀な留学生の獲得の好循環の確立において積極的な役割を担いうる存在である。
 このような拠点の機能を充実・強化するためには、海外に展開されている他機関や大学等の海外拠点とのより柔軟で積極的な連携を図ることが極めて重要である。
(※)機構は現在4カ国4都市に海外事務所を展開している。なお、米国のエデュケーションUSAは173カ国400都市以上、英国のブリティッシュ・カウンシルは111カ国197都市、ドイツのDAADは14カ国14都市(及び情報センター47カ国50都市)、フランスのキャンパスフランスは97カ国155都市に海外拠点を展開。(出所:Education USA (2011)、HESA(2011)、DAAD(2010b)、Campus France(2011))

(ナショナルセンターとしての機能の整備)

 日本人学生等の海外交流及び外国人学生の受入れを、2020年までにそれぞれ30万人とする目標に向けて、学生の双方向交流の戦略的な促進を支えるナショナルセンターとしての機構の機能を強化していく必要がある。このため、政府としても我が国の学生の双方向交流の促進のため必要な措置を講ずるとともに、機構においては関係機関との連携等による機能の強化や、適切でメリハリのある資源配分が行われるよう業務の不断の見直しを行うことが必要である。

(4)留学生支援事業の実施主体の在り方

(「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」における機構に係る指摘事項)

 機構は、「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」(平成24年1月20日閣議決定)(以下「平成24年閣議決定」という。)において、「その機能を整理した上で、統合後の法人(※)への統合、事務・事業の他の主体への一部移管等、その具体的な在り方について平成24年夏までに結論を得る」こととされた。
(※)「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」(平成24年1月20日閣議決定)において、大学入試センター及び大学評価・学位授与機構については統合するとともに、国立大学財務・経営センターを廃止し、その業務のうち当面継続されるものについて統合後の法人に移管することとされている。

(「統合後の法人」への移管の可否)

 「統合後の法人」については、現在、その検討が進められているところであり、留学生支援事業の「統合後の法人」への移管については、当該法人が発足した後に、業務の体制とその状況を踏まえて検討していくことが必要であろう。

(機構における三事業の在り方)

 機構は、我が国唯一の学生支援のナショナルセンターとして、奨学金事業、留学生支援事業及び学生生活支援事業の三事業を総合的に実施しており、窓口の一元化により、業務運営が効果的かつ効率的に実施される必要がある。
 特に日本人学生の派遣に関しては、留学生事業部の実施する奨学金支援は、奨学金事業部の実施する貸与型奨学金(海外留学第二種奨学金)とも連動させて推進することが効果的であり、奨学金事業と連携して行う必要がある。
 加えて、機構の留学生交流支援機関としての国際的な認知も踏まえ、海外におけるプレゼンスの観点にも留意が必要である。

第2章 学生生活支援事業

1.機構の学生生活支援事業について

(1)学生生活支援事業の概要

 大学等(※)における豊かな実りある学生生活を実現するために、今日の大学等には、多様化する学生(※)に対するきめ細かな教育・指導が求められている。機構は、大学等が行うこれらの様々な学生生活への支援機能をサポートするため、

  1. 大学等の教職員を対象とした研修事業の実施(学生相談・メンタルヘルス、就職・キャリア支援、障害学生支援の各分野)
  2. 「障害学生修学支援ネットワーク」(先進的な取組を行う大学及び研究機関等により構成)の構築を通じた、大学等からの相談への対応や理解啓発、研究促進
  3. 学生生活支援に関する調査・分析、情報収集及び大学等への情報提供

等に取り組んでいる。
(※)機構の行う学生生活支援事業は、大学(短期大学を含む。以下同じ。)及び高等専門学校を対象としており、以下本章においては、別に注記のない限り、「大学等」は大学及び高等専門学校を、「学生」は大学及び高等専門学校の学生をいうものとする。

(2)これまでの行政改革の議論における指摘と対応

(指摘の内容)

機構の行う学生生活支援事業については、これまでの行政改革の議論において、

  • 大学情報提供事業(学生支援情報データベース等)を廃止し、ゼロベースで厳しく見直し
  • 研修事業の重点化、有料化
  • 各種調査の重点化

等の指摘を受けている(※)。
(※)行政刷新会議「事業仕分け(第2弾)」(平成22年4月28日)及び「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月7日閣議決定)における指摘

(機構における対応)

機構においては、これらの指摘を受けて、

  • 大学情報提供事業については、「学生支援情報データベース」及び冊子「大学と学生」を、平成22年度をもって廃止
  • 研修事業については、各大学等における取組が十分でなく公共上の見地から必要な事業内容に厳選するとともに、平成24年度から研修の一部を試行的に有料化
  • 各種調査については、平成23年度に見直しの方向性を定め、重点化に向けた作業を実施

等、指摘を踏まえた対応を順次進めてきたところである。

2.学生生活支援の推進における課題と機構の学生生活支援事業の今後の方向性について

(1)学生生活支援に係る現状と課題

(学生生活を取り巻く状況)

 今日、大学進学率(※)は50%を超え、また国際化の進展により我が国大学等に在籍する留学生も増加し、大学等には資質や能力、知識、興味・関心に加え、生活習慣や文化的背景も大きく異なる学生が在籍するようになっている。これに伴い、学生が必要とする支援のニーズも多様化している。
(※)大学・短期大学の進学率は56.7%(平成23年)
 また、学生を取り巻く社会環境の変化をみても、経済が長く停滞し経済的格差の拡大する中で、急激な少子化の進展、地域コミュニティの衰退に加え、グローバル化や情報化の進展、労働市場や就業構造の流動化等の様々な要因が絡み合い、社会に生ずる問題も多様で複雑なものとなっている。そして、このような社会の状況は学生に閉塞感を与え、そこに新たな支援ニーズを生じさせているという構造も見られる。

(各大学等の置かれた状況)

 近年、大学等における学生の相談件数は増加を続けている(※)。そして、大学等のユニバーサル化に伴い、学生の求める支援ニーズが増加・多様化するばかりでなく、キャリア支援やグローバル人材の育成など社会が大学等に求める役割も幅広いものとなっている。
(※)平成19年度 481,828件、平成20年度 527,969件、平成21年度 558,199件
     (出典:機構「大学、短期大学、高等専門学校における学生支援の取組状況に関する調査」(平成22年度)
 また、障害のある学生をめぐっては、国連の「障害者の権利に関する条約」(※)が平成20年に発効し、国内においても平成19年に発達障害者支援法成立、昨年は障害者基本法の改正が行われるなどの背景を踏まえ、高等教育段階における障害のある学生の修学環境の充実に期待が高まっている。
(※)我が国は平成19年に署名。同条約は締約国に対し、高等教育においても「合理的配慮」が障害者に提供されることを求めている(第24条第5項)。
 しかし、大学等の実情を見れば、格差の拡大や少子化の進展、地域のつながりの弱体化等を背景に、様々な心の問題を抱える学生が増えている。現在各大学等において取り組まれている大学教育改革においても学生の主体性の育成が鍵とされる一方で、経済成長期を経験したことのない現代の学生は、人間関係が希薄化する中、出口を見れば厳しい若年雇用環境が待ち受けており、将来への希望を見出しづらいとされるなど、各大学等が向き合わねばならない課題は拡大する一方である。しかしながら、学生の抱える様々な課題に対処するためのノウハウを各大学等が十分に持ち合わせているとは限らず、手探りの状況にある。

(2)今後の方向性

(総合的な視点の必要性)

 先に述べたように学生生活において生じる諸問題は多様化し、またそれらが絡み合ってより複雑なものとなっている。また困難に直面しても周囲に支援を求めることができずに学生本人が抱え込んでしまうケースの増加など困難な事例の増加も指摘されている(※)。
 このような状況においては、各課題への支援体制を充実させることも前提としつつ、これに加え、上記のように個別の大学毎の対応のみでは取組やノウハウの蓄積が十分ではなく適切な対応が図られない課題について、機構がその解決に向けた手がかりとなる情報や知見を提供することが必要となる。
 さらに言えば、現在大学等の直面する、様々な課題の輻輳した困難状況に対しては、個別の課題毎への対応というアプローチにもはや限界が生じつつある。例えば学生生活全体を、学生の一つの成長過程としてとらえた学生生活支援のアプローチなど、新たな視点から総合的な学生生活支援の在り方を模索することが求められており、機構には、その手かがりとなるモデルを提示する等の役割が期待される。
(※)機構の調査においても、「学生相談に関する今後の課題として、特に必要性が高いと思われる事項」(複数回答可)について、92%の大学が「悩みを抱えていながら相談に来ない学生への対応」を挙げている(最多回答)。(出典:「大学、短期大学、高等専門学校における学生支援取組状況に関する調査」(平成22年度))

(連携の必要性)

 また、社会で生ずる問題が複雑化している中、その縮図である学生生活上の課題への対応においても、これまで以上に社会や地域の関与が重要となっている。このような現状を踏まえ、機構においては、大学等や、関係機関、地域社会、NPO等の連携により、総合的な見地から的確に学生の支援に取り組むことが必要である。

(調査・分析機能の充実)

 多様化・複雑化する学生生活上の課題や取組状況を把握し、適切な支援を実施するためには、その前提として全大学等を通じた学生生活の実態把握や分析が不可欠である。
 しかしながら、現在、学生生活をめぐる諸課題に係る基礎データは十分に把握されているとはいえず、機構が継続的に学生生活支援に関する調査・分析を実施することが求められる。

3.機構の学生生活支援事業に係る組織の在り方について

(1)学生生活支援の推進体制の在り方

 前述のとおり高校卒業者の半数以上の者が大学等に進学する今日にあっては、学生の抱える問題はもはや一部の層に特有のものではなく、社会の多くの者にも共通するものとなっている。このことを踏まえれば、学生生活をめぐる多様で複雑な諸課題に適切に対応するには、大学等のみならず、関係機関や地域社会などがそれぞれの立場から学生生活支援に参画し、社会全体で学生を支えていくことが必要である。
 このうち、個別の大学等における学生生活支援は、各大学等においてその本来業務として取り組まれるべきものである。国においては大学全体を通した学生生活上の課題を把握・認識し、高等教育政策の一環として学生生活支援のあるべき姿に向けた政策立案を行う一方、機構においては、政策立案に資する情報収集や調査・分析を行うとともに、各大学等における学生生活支援の先導的なモデルを提示する役割が求められる。これに加え、地域の保健・福祉や就職等に係る関係機関や民間団体、NPO等の支援団体、そして当事者である学生も一体となって、学生生活を支えていくこととなる。

(2)諸課題に適切に対応するための組織の在り方

(重点的な支援)

 機構は、先導的なモデルの提示の一環として、各大学等の参考となる事例の収集・提供や、大学等の職員に向けた研修などの支援を行い、これを通じて各大学等における効果的な取組の実施や望ましい支援体制の整備を促し、底上げを図る。
 その際、機構は、国の政策と連携し、喫緊の課題や政策上特に重要性の高い課題、各大学等の自主的な取組を促す必要のある課題への対応について、重点的に支援する。
 例えば、学生の就職・キャリア支援は、各大学等においても取り組まれているが、厳しい経済状況下での政策上の重要課題であることを踏まえ、機構は大学等・経済界・国のコーディネートの機能等を通じて、大学等の取組を支援している。

(固有のニーズのある学生への支援)

 障害のある学生や心理的な課題を抱える学生等の、固有のニーズのある学生に対する支援については、支援のニーズが増加する一方である。中には、自殺の問題を抱える学生や中退の危機にある学生など、緊急の対応が求められる課題も少なくない。これらに対して的確な支援を行うためには、専門的な知識や支援実績に基づくノウハウが求められることから、各大学等における取組には限界があり、関係機関の支援が不可欠である。機構は、先進的な事例の収集・共有や、専門的な知見の提供等により、各大学等の取組を積極的に支援することが求められる。

(役割の検証)

 機構の行うこれらの支援に関しては、大学等をめぐる社会状況や学生像の変容に応じて、また各大学等における知見やノウハウの蓄積の状況等も踏まえ、各主体の担うべき役割や機構が重点を置くべき分野について、必要に応じて見直しを行うことが必要である。その際には、新たなニーズにも積極的に対応していくことも重要である。例えば複雑化したニーズに的確に対応できるよう、管理職クラスを対象とした、組織的・総合的な学生生活支援のモデルを共有する研修の提供など、目的に適した対象や分野の設定・見直しを柔軟に行い、より効果の高いものとしていくよう絶えざる工夫が望まれる。

(3)学生生活支援事業の実施主体の在り方

(「統合後の法人」への移管の可否)

 第1章で述べたとおり、機構は平成24年閣議決定において、「その機能を整理した上で、統合後の法人への統合、事務・事業の他の主体への一部移管等、その具体的な在り方について平成24年夏までに結論を得る」こととされている。
 「統合後の法人」については、現在、その検討が進められているところであり、学生生活支援事業の「統合後の法人」への移管については、当該法人が発足した後に、業務の体制とその状況を踏まえて検討していくことが必要であろう。

(機構における三事業の在り方)

 機構は、我が国唯一の学生支援のナショナルセンターとして、奨学金事業、留学生支援事業及び学生生活支援事業の三事業を総合的に実施しており、窓口の一元化による業務運営が効果的かつ効率的である。
 特に、学生生活上直面する困難は、経済面に起因するものも多く、奨学金事業との連携した事業実施が求められる。また、大学等の国際化の進展により、留学生も学生生活支援の対象となりつつあり、留学生支援事業との連携もますます重要となっている。

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高等教育局学生・留学生課