日本学生支援機構の在り方に関する有識者検討会 第1ワーキンググループ報告書

目次

1.独立行政法人日本学生支援機構の奨学金事業について

(1)奨学金事業の概要
 ○制度の趣旨及び性質
 ○現行の奨学金事業

(2)これまでの行政改革等の議論における指摘と対応
 ○奨学金事業運営の在り方に対する有識者による検証意見まとめ

(3)検討の経緯
 ○直近の独立行政法人改革に関する指摘事項
 ○本有識者検討会の設置の経緯など

2.学生の経済的支援における課題と機構の奨学金事業の今後の方向性について

(1)奨学金事業に関する課題
 1奨学金事業の課題
  ○奨学金の在り方について
 2奨学金貸与段階の指導について(学校との連携)
  ○適格認定の一層の充実
  ○奨学金制度に関する理解の促進
 3返還金の回収について
  ○債権回収の状況
  ○返還金回収促進の取組状況
 4奨学金事業の中核的機関としての機能について
  ○調査・分析機能
  ○関係機関との連携

(2)課題を踏まえた今後の方向性
 1今後の奨学金貸与事業の在り方
 2奨学金貸与段階の指導の在り方について(学校との連携)
  ○適格認定の在り方
  ○奨学金制度に関する理解の促進
 3返還金の回収の在り方について
  ○民間の手法の一層の活用
  ○長期にわたる債権管理の在り方
  ○返還者の状況に応じたきめ細やかな回収促進のための返還者の実態把握
 4奨学金事業の中核的機関としての機能について
  ○調査・分析機能
  ○大学等関係機関との連携

3.機構の奨学金事業に係る組織の在り方について

(1)奨学金事業の実施体制と機構の役割
 ○奨学金事業の実施体制の在り方
 ○民間への主体への移管について
 ○奨学金事業を安定的かつ持続可能なものとする組織の在り方
 ○奨学金事業の中核的機関としての機能の整備

(2)奨学金事業の実施主体の在り方
 ○「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」における機構に係る指摘事項
 ○「統合後の法人」への移管の可否
 ○機構における三事業の在り方


1.独立行政法人日本学生支援機構の奨学金事業について

(1)奨学金事業の概要

(制度の趣旨及び性質)

 奨学金事業は、学ぶ意欲と能力のある学生等が経済的理由により大学等への進学や修学を断念することなく、安心して勉学に励むことができる環境を整え、もって次代の社会を支える人材の育成に資することを目的として実施するものであり、憲法第二十六条第一項(「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」)及び同条を具体化した教育基本法第四条第三項(「国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない」)をその根拠としている。
 このように奨学金事業は、政府が責任をもって確実に取り組むべき重要な教育施策であり、以下のとおり、貸与から返還まできめ細かな教育的な配慮の下で事業を実施している。

  • 所得の低い家庭を優先的に、無収入の学生本人に対し、無担保(※)、将来の返済能力を審査することなく、無利子又は低利子(在学中は無利子)かつ長期(約20年間)にわたって貸与
    (※)奨学金貸与を受けるに当たっては、連帯保証人と保証人の選任(ただし、原則として資力は問われない)か、機関保証への加入かのいずれかを選択する必要がある。
  • 家計所得のみならず、学業成績や人物を見て貸与対象を判断
  • 在学中の学生等に対しては、大学等と連携して、学修状況、単位取得状況等の確認を行い、必要に応じて教育指導を実施(特に大学院段階においては、優れた業績を挙げた者に対する返還免除制度を用意)
  • 返還に当たっては、奨学金の返還を通じて学生等の自立心や自己責任、社会への貢献・還元の意識の涵養等の観点から、可能な限り返還させるよう本人の経済状況等に応じた「返還期限猶予」や「減額返還」等の仕組みを用意

 少子化が進み、人口が減少する中で我が国が持続的発展を遂げるためには、幅広い教養と専門的な素養を備え、多様化・複雑化する課題に対処し得る若者が社会の各方面で活躍することが不可欠である。学ぶ意欲と能力のある者が進学を断念することは社会にとっても大きな損失であり、高等教育を受ける機会を保障することの重要性はこれまで以上に高まっている。

(現行の奨学金事業)

 機構の奨学金は、無利子の第一種奨学金と利子付(財投金利に連動(上限3%)、但し在学中は無利子)の第二種奨学金で構成され、大学院、大学、短期大学、高等専門学校、専修学校(専門課程)(以下「大学等」という。)に在学する学生・生徒(以下「生徒等」という。)を対象としている。
 高等教育機関への進学率の向上、高水準の学費、雇用環境の悪化などを背景として、奨学金の貸与規模は、主に第二種奨学金の飛躍的拡大に支えられる形で、近年急速に拡大してきており、平成24年度には、第一種奨学金が2,767億円(平成10年度 2,005億円)、第二種奨学金が8,496億円(平成10年度 650億円)、貸与人員は総計133万9千人(平成10年度 49万9千人)となっている。
 これと相俟って、要回収額、返還人員も増加しており、平成23年度末には要回収額4,738億円(前年度比354億円増)、要返還者についても301万人(前年度比19.4万人増)となっており、貸与人員の増加に伴い、今後とも回収規模の増大が継続すると見込まれる。

(2)これまでの行政改革等の議論における指摘と対応

(奨学金事業運営の在り方に関する有識者による検証意見まとめ)

 財務省理財局など外部からの指摘事項への対応状況及び機構の奨学金業務の実施状況や運営体制を検証するため、文部科学省において、外部有識者からの意見聴取等による検証を行った(「独立行政法人日本学生支援機構の奨学金事業運営の在り方に関する有識者による検証意見まとめ」(平成22年9月2日)。以下「検証意見まとめ」という。)。
 この中で、奨学金事業の各プロセスにおける業務の迅速化等の工夫改善を始めとする6つの重点的課題を明らかにし、機構が取り組むべき改善策等を提言した。上記のほか、機構の行う奨学金事業については、これまでの行政改革等の議論において、

  • 回収の強化、給付型奨学金の創設、経済状況への柔軟な対応
  • 減額返還制度の導入

等の指摘を受けている。
 機構においてはこれらの指摘を踏まえ、外部委託を積極的に進めるなど返還金の回収強化を進めており、着実に成果をあげているところである。

(3)検討の経緯

(直近の独立行政法人改革に関する指摘事項)

 内閣府行政刷新会議に設置された「独立行政法人改革に関する分科会」における議論を経て、「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」(平成24年1月20日閣議決定)において、機構は、「その機能を整理した上で、統合後の法人(※)への統合、事務・事業の他の主体への一部移管等、その具体的な在り方について平成24年夏までに結論を得る」こととされた。
(※)同閣議決定においては、大学入試センター及び大学評価・学位授与機構については統合するとともに、国立大学財務・経営センターを廃止し、その業務のうち当面継続されるものについて「統合後の法人」に移管することとされており、この「統合後の法人」を指している。
(参考)機構は当初、「主に金融業務を行っている法人」に分類され検討がスタートしたが、その後、大学入試センター等と共に、大学の支援を行う類型の法人の一つとして整理され、組織の見直しに係る議論が展開された。同分科会における検討の途中過程では、

  • 奨学金事業について、金融事業としての側面に着目した抜本的な見直しと効率化を図るべき
  • 大学の支援を行う法人全体の組織統合をすべき

等の指摘がなされた。

(本有識者検討会の設置の経緯など)

 独立行政法人の制度及び組織の見直しに関する議論等を踏まえ、機構について、その機能を整理した上で統合後の法人への統合、事務・事業の他の主体への一部移管等、その具体的な在り方について検討を行うため、「独立行政法人日本学生支援機構の在り方に関する有識者検討会」が文部科学省高等教育局に設置された。

2.学生の経済的支援における課題と機構の奨学金事業の今後の方向性について

(1)奨学金事業に関する課題

1奨学金事業の課題

(奨学金の在り方について)

 我が国の高等教育においては、大学学部段階の授業料の上昇や、近年の厳しい経済状況の下で家計所得の伸び悩む中、平均年収に対する授業料の割合が年々増加し、経済的支援の必要性が高まっている。
 (参考)我が国の勤労者(40歳~49歳)の平均年間給与額に対する授業料の割合
  平成2年 11.5% → 平成18年 14.2%
  出典:「高等教育統計データ集」(広島大学高等教育研究開発センター)、「賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)
 このような奨学金への需要の高まりに応えるため、財源の問題もあり第二種奨学金の規模が大きく拡充されてきたが、経済的不安を抱えることなく学業に専念させるという奨学金制度の趣旨に鑑みれば、利子のない第一種奨学金も併せて拡充することが望ましい。
 また、現状の貸与型奨学金は、貸与を受けた学生等の返還金が次代の学生等への奨学金の原資となる循環モデルだが、卒業時までに負う債務が、経済的に厳しい状況に置かれた学生等にとって、心理的にも経済的にも大きな負担となる。
 (参考)大学学部から大学院博士課程まで奨学金を借りた場合、1千万円を超える債務となる場合もある。
 給付的効果のある支援としては、各大学等の実施する授業料減免や、大学等や民間団体による独自の奨学金の提供も行われているが、授業料のみならず生活費の支援の必要性、経済的負担の軽減等から、海外の動向も踏まえつつ、国費による給付型奨学金の実施を望む声が高い。
 さらに、奨学金の返還免除に関しては、現在、大学院段階の第一種奨学金のみに業績優秀者に対する免除の制度があるが、奨学金がより勉学のインセンティブにつながるよう、学部の段階にも広げるなど、国においても返還免除の在り方について検討が必要ではないか。

2奨学金貸与段階の指導について(学校との連携)

(適格認定の一層の充実)

 適格認定制度は、奨学金事業の教育施策としての本質を支える重要な仕組みである。大学等の負担は小さくないが、今後、学生等への経済的支援の更なる充実を図る上でも、奨学金事業が社会の一層の理解を得ていくことが重要であり、大学等における教育的指導の一層の充実が求められる。大学等によっては、適格認定を学生等の学習指導や、生活支援等の修学指導の機会として積極的に活用する例も見られるなど、多面的に利用されている。

(奨学金制度に関する理解の促進)

 奨学金制度の意義や返還の義務に関する理解が十分でないとの指摘がある。現状では、大学等において説明会等の機会を設けているが、大学等に進学する前の高等学校等の段階ではその機会が少ないことが課題である。なお、「奨学金=スカラーシップ」という言葉は、海外では給付型奨学金を指すのが通例であり、学生等の理解を促進する観点からは、名称の使用方法を含め、説明の仕方についても工夫の余地がある旨の指摘もある。

3返還金の回収について

(債権回収の状況)

 中期目標に期間中の年度ごとの総回収率(当年度分回収額と前年度末までの延滞額のみに対する回収額の率)の数値目標を設け計画的に取り組み、総回収率は目標を上回る81.5%(平成23年度末実績)、特に新規返還開始者に係る回収率は96.7%(平成23年度末実績)まで上昇している。
 近年の就職・雇用等の厳しい経済環境も踏まえれば、返還能力の有無を見極め、返還できる人には確実に返還してもらうとともに、諸事情で返還が困難な人には必要な指導を行う必要がある。
 また、当年度分の回収率は95.2%(特に年度当初に無延滞であったものに限れば99.1%)である一方、延滞分は14.5%(いずれも平成23年度実績)と、両者の回収率は大きく異なり、延滞分の回収率はこの数年14%程度にとどまっている。総回収率のみならず、延滞債権の性質に応じた分析や回収促進策が不可欠である。

(返還金回収促進の取組状況)

 民間の手法も活用した回収促進策については、機構が外部有識者からなる会議によりとりまとめた「日本学生支援機構の奨学金返還促進策について」(平成20年6月10日)や文部科学省の「検証意見まとめ」等を踏まえ、早期における督促の集中的実施、個人信用情報機関の活用、法的措置の強化等を実施している。また、業務の民間委託に関しては、延滞が続いている債権の回収業務に債権回収会社(サービサー)を活用する策を講じている。引き続き、コスト面も含めた効果的な外部委託の在り方についての検討が必要である。
 長期にわたる債権管理という機構特有の業務については、長期延滞に陥るほど、延滞金の負担により延滞の解消が難しくなる場合が生じることに加え、長期延滞債権は、機構における債権管理の負担も重い(回収コストに見合わない債権が存在する)という課題がある。

4奨学金事業の中核的機関としての機能について

(調査・分析機能)

 奨学金貸与事業を行う上で必要な情報の中には、例えば延滞者の属性や詳細な状況等、把握が困難なものもあるが、奨学金事業の運営においては、基礎的情報を十分に把握し、また効果的に活用していくことが課題である。

(関係機関との連携)

 大学等における学生等の修学を支援する本事業においては、大学等は重要なパートナーであり、本事業を実施する上で、これら関係機関との連携や協働は不可欠である。機構においては、例えば各大学等が独自に実施する経済的支援に係る情報を集約するなど、中核的機関としての機能を通じて、適切かつ効果的な経済的支援の充実の実現を図ることが期待される。

(2)課題を踏まえた今後の方向性

1今後の奨学金貸与事業の在り方

 近年の厳しい経済状況や家計所得の状況等に鑑みれば、奨学金をはじめとする経済的支援を必要とする学生等は引き続き増加していくものと考えられる。経済的理由により修学等を断念することなく安心して勉学に励む環境を整えるという制度の目的が果たされるよう、諸外国の施策の動向等も踏まえつつ、以下のような観点なども含め、必要な見直しを行っていくことが求められる。

  • 奨学金の貸与に際しては、進学の際の予見性を高める観点から、予約採用(※)の割合を増やしていくことなども重要である。
    (※)大学等進学希望者を対象に、進学前に奨学金貸与の申込を受け付け、進学後の奨学金を予約する制度。
  • 給付型奨学金の導入や返還免除の拡大には大きな財政負担を伴うが、奨学金は我が国の将来を担う人材育成のための先行投資であることを踏まえ、国民の意見を踏まえながら、国はその在り方について検討を進めるべきである。その際には、成績や経済状況等の様々な要素を考慮する必要がある。また、支給基準、支給対象、支給額などについても、他の経済的支援との関係等も踏まえ議論を進めることが求められる。
     また、我が国の奨学金において、「民」による奨学金、すなわち寄附等による大学等や民間団体等の奨学金の占める割合はごく一部であり、「公」すなわち国費による奨学金が大部分を支えていることにも留意すべきである。例えば税制上の措置等により寄附を促進し、「民」による奨学金の充実を図るなどの観点も重要であろう。
  • 諸外国の奨学金制度においては、給付型奨学金の他にも、返済額が所得に連動し、一定年齢、一定所得以下、一定期間返済後に残債務が返済免除になる所得連動返済型奨学金や、将来に期待される所得に応じた授業料設定等、高所得者が多く費用負担することにより奨学金の返還が困難な者等のカバーをするという共助の側面の強い施策も見られる。我が国においては、平成24年度から新たに「所得連動返還型無利子奨学金制度(※)」が創設されたが、今後、返済額が所得に連動するような仕組みを構築する場合には、所得の捕捉のための納税等の仕組みとの連動や、所得からの源泉徴収が課題となる。
    (※)全ての意志ある学生等が安心して教育を受けられる環境を整備するため、家計の厳しい世帯(給与所得世帯の年収300万円以下相当)の学生等に対し、奨学金の貸与を受けた本人が、卒業後に一定の収入(年収300万円)を得るまでの間は返還期限を猶予するもの。

 また、現行の奨学金制度は、これまで右肩上がりの経済に支えられ、高就職率、終身雇用や年功序列に象徴される日本型雇用慣行、インフレ基調による債務負担減などを背景に、奨学生にとって比較的「返還しやすい」社会経済状況に置かれていたといえる。しかしながら、大学進学率が50%を超える中、1990年代以降の長期の経済停滞を背景とした正規雇用の抑制や非正規雇用の増により、大卒者も含め若年雇用が極めて厳しい状況にあることに加え、長期のデフレの進行により、貸与から返還までのサイクルのこれまでのような安定的な循環はもはや期待できない。このような社会構造の下での奨学金事業の在るべき姿について、長期的視点を持って検討する必要がある。
 その際、中長期的な奨学金制度の在り方に係る議論や政策立案に資するよう、機構は諸外国の多様な奨学金制度の動向について適切に情報収集・分析を行っていくことも求められる。

2奨学金貸与段階の指導の在り方について(学校との連携)

(適格認定の在り方)

 適格認定は、奨学金の必要性を自ら判断させ、奨学金の貸与を受けて勉学に励む者(奨学生)としての自覚を促すとともに、成績低迷者等への指導により学生生活を有意義なものとし、また将来の返還額等についても確認をさせるものであり、重要な教育的指導の手段となっている。奨学生に対する学業面の指導や奨学金の必要性のチェックが厳格に行われることは、今後、学生等への経済的支援の充実を目指す場合に、社会の理解を得る上で不可欠と考えられることから、引き続き、大学等との連携により、一層の充実を図ることが重要である。
 民間団体奨学金においては、貸与している学生等の勉学の成果を評価し、優れた学生等には返還の減免を実施する等により、学生等の向学に寄与するとともに、大学等が奨学金事業に関与する上での一層のインセンティブを付与している例もある。

(奨学金制度に関する理解の促進)

 奨学金制度に関する情報を的確かつ効果的に周知するための取組を進め、高等学校等における進路指導の機会等を活用し、奨学生となりうる層が早い段階から、将来の返還負担等も含めた制度への理解を深められるよう取り組むことが肝要である。その際には、教育委員会等への情報提供も積極的を進めることが必要である。

3返還金の回収の在り方について

(民間の手法の一層の活用)

 返還金回収促進の手法に関しては、個人信用情報機関の活用やサービサーへの業務委託等の状況を踏まえれば、機構の業務には、民間金融機関からみても相応な程度に、民間的な手法が取り入れられているものと評価される。引き続き、更に専門的・効率的実施が見込める場合には業務の外部委託を進めるなど、民間の視点も取り入れながら不断の見直しを行う必要がある。
 また、債権回収の状況についても、奨学金事業についての国民の理解を得る観点から、分かりやすい情報公開に努め、透明性の確保を図ることが重要である。

(長期にわたる債権管理の在り方)

 延滞金(※)の趣旨は、次代の学生等への奨学金貸与の原資となる返還金の回収促進や、返還期日までに返還している者との公平性の確保にある。長期延滞に陥った場合等の延滞金の賦課に関しては、例えば、延滞状態にはあるものの、返還を継続し、その意思のある者に対しては、制度の趣旨を損ねない範囲で延滞金の減免措置を講ずる等、返還を継続しやすくする方策についての検討が必要である。
 債権の償却に関しては、従前より、一定以上の長期延滞債権は回収コストに見合わない旨の指摘がなされ、償却基準の見直しにも一定程度取り組んでいるところである。
 引き続き、事業全体の健全かつ安定的な運営や、モラルハザード喚起の可能性にも留意しつつも、限られた回収業務資金の効果的な投入について十分な議論が必要である。
 (※)返還期日までに返還されない場合に、延滞している割賦金の額に対し年10%の割合で課されるもの。

(返還者の状況に応じたきめ細やかな回収促進のための返還者の実態把握)

 個人の返還能力の有無や延滞期間を踏まえた回収等、延滞債権の性質に応じたきめ細かな対応を行うためには、返還者の実態把握の強化が必要である。その際、機構は、金融機関や債権回収会社等のノウハウを参考にし、回収促進に活用できる情報の精査、追加を検討し、その把握に一層努める。
 現在、政府において、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」(マイナンバー法案)による「社会保障・税番号」の導入に向けた検討が進められている。その導入を見据えつつ、返還者の経済状況に応じた債権回収や、制度を通じて得られた情報の適切な管理など、具体的対応策を検討していく必要がある。その際には、機構の業務管理システムを含めた業務運営方法を抜本的に見直し、合理化を図ることが不可欠である。

4奨学金事業の中核的機関としての機能について

(調査・分析機能)

 機構においては、奨学金事業運営に必要な基礎的情報のみならず、奨学金を含む学生等の経済的支援に係る政策立案に資するような各種データや海外の施策の情報等についても、収集・分析機能を充実・強化していくことが求められる。その際には、「学生生活調査」等の既存の調査と併せて、奨学金事業の社会的意義やその効果の検証、奨学金貸与事業を含めた学生等の経済的支援のニーズを的確に把握するための調査など、その時々の状況も踏まえつつ、戦略的に調査・分析を実施することが期待される。

(大学等関係機関との連携)

 奨学金事業の実施においては、学校等を含めたパートナーとの連携・協働が必要であることは言うまでもないが、一方で、大学等において現に様々な事務を実施していることや、また今後予約採用の割合を高めることを目指していく場合には高等学校等における事務負担の増加も必要となること等を踏まえつつ、関係機関との連携や機構の中核的機関としての機能の在り方を絶えず検証することが必要である。
 また、関連する業務を一層効率的かつ一体的に行うことや関係者等を含めた全体の負担軽減の観点から、各種業務の見直しや意見交換等を実施し、関係者との調整や意見の集約を行っていくことが重要である。

 3.機構の奨学金事業に係る組織の在り方について

(1)奨学金事業の実施体制と機構の役割

(奨学金事業の実施体制の在り方)

 奨学金事業は、憲法及び教育基本法の保障する教育の機会均等を実現するために政府として責任を持って確実に取り組まねばならない重要施策であり、貸与から返還までを通じた教育的配慮が制度の根底にある。奨学金事業はこのような事業の趣旨・目的を踏まえ、確実に実施される体制で行われる必要がある。

(民間の主体への移管について)

 教育費のための金銭の貸し付けという面をとらえて、回収率の向上を図るために民間の主体で行うべきとの指摘がある。
 しかし、以下に示すような、

  • 民間金融機関の教育ローン等の貸付事業では、主に貸付時の審査(与信判断)により債権回収のリスクを管理しているため、真に必要な者に経済的支援がなされない可能性があること。また、機構の奨学金事業のように、無担保で、将来の返済能力を審査することなく、収入のない学生本人に対して貸し付けを行う事業においては教育ローンのノウハウを活かせる部分が必ずしも多くないこと
  • 学校と連携して適格性の維持・向上に努めるという教育的配慮の実施や、返還を通じた学生等の自立心や自己責任、社会への貢献・還元の意識の涵養等の観点から「返還期限猶予」や「減額返還」等の仕組みを設け、債権を長期にわたって保有し管理し続ける点も、民間の貸付事業には見られない特徴であること。また、仮に奨学金制度の根底にある教育的配慮を行うことを条件に民間の主体に移管したとしても、そのような配慮が適切になされているかどうかの検証は困難であること
  • 経済的に困難な者への修学機会の確保という制度の趣旨からは、本事業の大きな部分を占める第二種奨学金について、低利で安定的に行うことが重要であるところ、独立行政法人である機構においては財政融資資金の活用により、低コストでの安定的な資金調達が可能であること
  • 他の主要国においても奨学金事業は国や公的機関が実施していること。なお、民間機関の提供する教育ローンに対し政府が利子補給を行う形の奨学金制度を実施したものの政府保証コストの高さ等から廃止された例(米国のスタフォード奨学金)や、奨学金の取扱いを住宅金融事業を実施する機関(韓国住宅金融公社(KHFC))に委託したものの、奨学金貸与と住宅ローンの業務の性質の違い等から分離し、再び公的機関(韓国奨学財団)が奨学金事業を実施することとなった例(韓国のKHFCローン)等もあること
  • 民間金融機関においては、無担保、無審査といったリスクを伴う貸与奨学金(教育ローン)を行うためには、相当の利子を課すことが必要となるため、現行の日本学生支援機構奨学金と同等の貸与奨学金事業を民間で実施するためには、相当の公的補助金が必要とされ、効率性の面からもかえって非効率になる可能性が高いこと

といった点を踏まえれば、教育政策としての目的や機能を果たしつつ確実に事業を実施していくためには、債権管理・回収等の個別業務には民間の手法を積極的に取り入れつつ、教育政策の視点から機構が主体的に実施すべきである。

(奨学金事業を安定的かつ持続可能なものとする組織の在り方)

 奨学金への需要の高まりに応えていくためにも、円滑な事業実施の基盤となる事務体制の確保が不可欠であることから、学生等に一定の負担を求めること等も含めた検討をすべきとの指摘がある。ただし、検討に当たっては、経済的に困難な学生等が修学を断念する等、制度の趣旨を損なうものとならないよう慎重な検討が必要である。
 奨学金事業の実施に当たっては、学生等の修学を支えるパートナーである大学等との一層の連携・協働・共有を進めることで、業務全体の安定性と持続性を高めていくことが重要である。
 事業の推進にあたっては、事業への国民の理解を得ていくことが不可欠であることから、適切な情報公開やわかりやすい説明に一層努め、事業の透明性の確保に組織をあげて取り組むべきである。
 事業をより安定的かつ持続可能なものとする組織へと改善するために、事業の検証と改善のシステム(PDCAサイクル)を充実することが有効である。例えば、理事長直下の第三者機関(債権回収検証委員会(仮称))を設置することが考えられる。

(奨学金事業の中核的機関としての機能の整備)

 奨学金事業は、我が国として将来にわたって確実に取り組むべき重要な教育施策であり、奨学金事業の中核的機関である機構の機能を強化していくためには、政府としても必要な措置を講ずるとともに、機構においては関係機関との連携等による機能の強化やメリハリのある資源配分が行われるよう業務の不断の見直しを行うことが必要である。

(2)奨学金事業の実施主体の在り方

(「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」における機構に係る指摘事項)

 機構は、「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」(平成24年1月20日閣議決定)において、「その機能を整理した上で、統合後の法人(※)への統合、事務・事業の他の主体への一部移管等、その具体的な在り方について平成24年夏までに結論を得る。」こととされた。
 (※)1(3)参照。

(「統合後の法人」への移管の可否)

 「統合後の法人」は、現在、その検討が進められているところであり、奨学金事業の「統合後の法人」への移管については、当該法人が発足した後に、業務の体制とその状況を踏まえて検討していくことが必要であろう。
 その際には、奨学金事業実施に当たり機構と4千を超える大学等(※1)との間で築かれている連携体制の存在や、予約採用の増加に伴う高等学校等(※2)との連携強化の必要性に加え、現在機構が長期に保有している延滞債権の管理や、奨学金貸与事業における多額の債権・債務の取扱いには、十分なガバナンスや配慮を要すること等に留意が必要である。
 (※1)大学院・大学(学部)・短期大学・高等専門学校・専修学校(専門課程)に在学する学生・生徒が奨学金の対象である。
 (※2)高等学校のほか、高等専門学校の予約採用者を受け付けるため中学校とも連携を図っている。

(機構における三事業の在り方)

 機構は、我が国唯一の学生支援のナショナルセンターとして、奨学金事業、留学生支援事業及び学生生活支援事業の三事業を総合的に実施しており、窓口の一元化により、業務運営が効果的かつ効率的に実施される必要がある。
 奨学金事業部の実施する海外留学奨学金(有利子奨学金)は、留学生事業部の実施する日本人学生の派遣に関する給付型奨学金との役割分担等も踏まえ、連動させて推進することが効果的であり、留学生事業部と連携して行う必要がある。
 また、学生生活上直面する困難は経済面に起因するものも多く、奨学金貸与事業と学生生活事業の連携した事業実施が有効である。

お問合せ先

高等教育局学生・留学生課